説明

電源装置およびそれを備える電動車両

【課題】負荷装置への入力電圧を可変する電圧変換部を備えた電源装置において、負荷装置への入力電圧制限を遵守する。
【解決手段】昇降圧コンバータ12は、電圧指令値に従った直流電圧への変換動作のために制御装置30からのスイッチング制御信号S1,S2に従ってスイッチングされるスイッチング素子Q1,Q2と、電源線6および直流電源B間の電流経路上に接続されて、スイッチング素子によってスイッチングされた電圧が両端に印加されるリアクトルL1とを含む。制御装置30は、交流モータM1に要求される駆動力に応じて、電圧指令値を生成する電圧指令生成部と、交流モータM1のパワーの変動周波数と電源装置10♯の共振周波数との関係に基づき、システム電圧VHがインバータ14への入力電圧制限値を超えないように、交流モータM1のパワー変動周波数に応じて電圧指令値を降下させる電圧指令補正部とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電源装置およびそれを備える電動車両に関し、より特定的には、負荷装置への入力電圧を可変する電圧変換部を備えた電源装置およびそれを備える電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
負荷装置に電力を供給する電源装置においては、直流電源からの直流電圧を電圧変換部によって昇圧し、その昇圧した直流電圧を負荷装置に供給する構成が広く用いられている。かかる構成では、電圧変換部をチョッパ回路により構成するとともに、負荷装置へ供給される直流電圧の所定の電圧目標値に対する偏差に応じて当該チョッパ回路のスイッチング素子のデューティ比を調整することにより、電圧変換比を制御するのが一般的である。
【0003】
たとえば特開2008−17682号公報(特許文献1)には、出力電圧を可変制御可能に構成された昇圧コンバータと、昇圧コンバータからの直流電圧を交流電圧に変換して交流モータを駆動制御するインバータと、昇圧コンバータを制御する制御装置とを備えた負荷駆動装置が開示される。これによれば、インバータは、6個のスイッチング素子が3相ブリッジ接続された電圧型インバータの構成を有しており、当該スイッチング素子は、素子温度の低下に伴なって素子耐圧が低下するという温度依存性を有している。そのため、制御装置は、スイッチング素子の温度に応じてインバータへの入力電圧の上限値を設定するとともに、電圧変換部からの出力電圧が当該上限値を超えないように昇圧コンバータを制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−17682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特開2008−17682号公報(特許文献1)に記載の負荷駆動装置では、昇圧コンバータの周波数特性に起因してインバータへの入力電圧がスイッチング素子の素子耐圧を超えてしまう可能性がある。
【0006】
すなわち、昇圧コンバータとインバータとの間には、昇圧コンバータの出力電圧を平滑するためのコンデンサが設けられており、このコンデンサと昇圧コンバータのリアクトルとは共振点を持つ。そして、その共振周波数に近い周波数で交流モータに供給されるパワー(電力)が変動した場合には、インバータへの入力電圧に大きな電圧変動が発生する。その結果、スイッチング素子の素子耐圧を超える電圧がスイッチング素子に印加されることにより、スイッチング素子が破壊する可能性がある。
【0007】
それゆえ、この発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、その目的は、負荷装置への入力電圧を可変する電圧変換部を備えた電源装置において、負荷装置への入力電圧制限を遵守することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明のある局面に従えば、負荷装置に電力を供給する電源装置であって、直流電源と、直流電源の出力電圧を電圧指令値に従った直流電圧に変換して第1および第2の電源線間に出力する電圧変換部と、第1および第2の電源線間に接続された充放電可能な電荷蓄積部と、電圧変換部による電圧変換動作を制御する制御装置とを備える。電圧変換部は、電圧指令値に従った直流電圧への変換動作のために制御装置からの制御信号に従ってスイッチングされるスイッチング素子と、第1の電源線および直流電源間の電流経路上に接続されて、スイッチング素子によってスイッチングされた電圧が両端に印加されるリアクトルとを含む。制御装置は、負荷装置に要求される駆動力に応じて、電圧指令値を生成する電圧指令生成部と、負荷装置が発生する駆動力の変動周波数と電源装置の共振周波数との関係に基づき、第1および第2の電源線間の直流電圧が負荷装置への入力電圧制限値を超えないように、駆動力の変動周波数に応じて電圧指令値を降下させる電圧指令補正部とを含む。
【0009】
好ましくは、負荷装置は、車両の駆動力を発生するように構成された電動機と、第1および第2の電源線間の直流電圧を、電動機を駆動制御する電力に変換する電力変換部とを含む。電圧指令生成部は、電動機の回転数および要求される駆動力に応じて、電圧指令値を生成する。電圧指令補正部は、電動機の回転数と電源装置の共振周波数との関係に基づき、第1および第2の電源線間の直流電圧が電力変換部への入力電圧制限値を超えないように、電動機の回転数に応じて電圧指令値を降下させる。
【0010】
好ましくは、制御装置は、直流電源の内部抵抗を推定する内部抵抗推定部をさらに含む。電圧指令補正部は、電源装置の減衰比と直流電源の内部抵抗との関係に基づき、推定された直流電源の内部抵抗に応じて、電圧指令値の降下量を調整する。
【0011】
好ましくは、制御装置は、第1および第2の電源線間の直流電圧の電圧指令値に対する偏差に応じて制御信号のデューティ比を調整することにより、電圧変換比を制御する電圧変換制御部をさらに含む。電圧指令補正部は、電源装置の減衰比と制御信号のデューティ比との関係に基づき、制御信号のデューティ比に応じて、電圧指令値の降下量を調整する。
【0012】
好ましくは、制御装置は、電動機を流れる駆動電流を取得する駆動電流取得部をさらに含む。電圧指令補正部は、取得された駆動電流に応じて、電圧指令値の降下量を調整する。
【0013】
好ましくは、制御装置は、第1および第2の電源線間の直流電圧の電圧指令値に対する偏差に応じて制御信号のデューティ比を調整することにより、電圧変換比を制御する電圧変換制御部と、直流電源の内部抵抗を推定する内部抵抗推定部と、電動機を流れる駆動電流を取得する駆動電流取得部とをさらに含む。電圧指令補正部は、取得された直流電源の内部抵抗、制御信号のデューティ比および駆動電流の少なくとも1つに応じて、電圧指令値の降下量を調整する。
【0014】
この発明の別の局面に従えば、上記のいずれかの電源装置と、電源装置から供給される電力を受けて駆動力を発生する電動機とを備える電動車両である。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、負荷装置への入力電圧を可変する電圧変換部を備えた電源装置において、負荷装置への入力電圧制限を遵守することができる。その結果、負荷装置の破壊を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態1に従う電源装置を備えるモータ駆動制御システムの全体構成図である。
【図2】昇降圧コンバータの回路構成を示す図である。
【図3】スイッチング素子のオン期間における昇降圧コンバータの回路構成を示す図である。
【図4】スイッチング素子のオフ期間における昇降圧コンバータの回路構成を示す図である。
【図5】交流モータのパワー変動周波数と昇降圧コンバータの周波数特性との関係を示す図である。
【図6】本実施の形態1に従う制御装置による電圧指令値の設定動作を概念的に示す図である。
【図7】本実施の形態1に従う制御装置のブロック図である。
【図8】本発明の実施の形態1に従う制御装置により実現される電圧指令値の設定動作を説明するフローチャートである。
【図9】昇降圧コンバータの減衰比と直流電源の内部抵抗との関係を示す図である。
【図10】直流電源の内部抵抗と交流モータのパワー変動量との関係を示す図である。
【図11】本実施の形態2に従う制御装置のブロック図である。
【図12】直流電源の内部抵抗と電圧指令値の降下量との関係を示す図である。
【図13】本実施の形態2に従う制御装置により実現される電圧指令値の設定動作を説明するフローチャートである。
【図14】昇降圧コンバータのデューティ比と交流モータのパワー変動量との関係を示す図である。
【図15】本実施の形態3に従う制御装置のブロック図である。
【図16】昇降圧コンバータのデューティ比と電圧指令値を補正を実行するモータ回転数範囲との関係を示す図である。
【図17】昇降圧コンバータのデューティ比と電圧指令値の降下量との関係を示す図である。
【図18】本実施の形態3に従う制御装置により実現される電圧指令値の設定動作を説明するフローチャートである。
【図19】負荷電流と交流モータのパワー変動量との関係を示す図である。
【図20】本実施の形態4に従う制御装置のブロック図である。
【図21】モータ電流と電圧指令値の降下量との関係を示す図である。
【図22】本実施の形態4に従う制御装置により実現される電圧指令値の設定動作を説明するフローチャートである。
【図23】本実施の形態5に従う制御装置により実現される電圧指令値の設定動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0018】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1に従う電源装置10♯を備えるモータ駆動制御システム100の全体構成図である。なお、本実施の形態においては、車両駆動力を発生する交流モータM1およびインバータ14を「負荷装置」とする場合について例示する。
【0019】
図1を参照して、モータ駆動制御システム100は、電源装置10と、インバータ14と、交流モータM1と、制御装置30とを備える。
【0020】
交流モータM1は、たとえば、電動車両(ハイブリッド自動車、電気自動車や燃料電池車等の電気エネルギによって車両駆動力を発生する自動車をいうものとする)の駆動輪を駆動するためのトルクを発生するための駆動用電動機である。あるいは、この交流モータM1は、エンジンにて駆動される発電機の機能を持つように構成されてもよく、電動機および発電機の機能を併せ持つように構成されてもよい。さらに、交流モータM1は、エンジンに対して電動機として動作し、たとえば、エンジン始動を行ない得るようなものとしてハイブリッド自動車に組み込まれるようにしてもよい。
【0021】
インバータ14は、電源線7およびアース線5を介して、電源装置10との間で電力の授受を行なう。すなわち、インバータ14は、電源線7およびアース線5を介して受ける直流電力を交流電力に変換して交流モータM1へ供給する一方、交流モータM1が発電する交流電力を直流電力に変換して回生電力として電源装置10♯へ供給する。
【0022】
なお、インバータ14は、一例として、電源線7およびアース線5の間に並列に設けられる、U相上下アーム15と、V相上下アーム16と、W相上下アーム17とから成る。各相上下アームは、電源線7およびアース線5の間に直列接続された電力用半導体スイッチング素子(以下、単に「スイッチング素子」と称する)から構成される。たとえば、U相上下アーム15は、スイッチング素子Q3,Q4から成り、V相上下アーム16は、スイッチング素子Q5,Q6から成り、W相上下アーム17は、スイッチング素子Q7,Q8から成る。また、スイッチング素子Q3〜Q8に対して、逆並列ダイオードD3〜D8がそれぞれ接続されている。スイッチング素子Q3〜Q8のオン・オフは、制御装置30からのスイッチング制御信号S3〜S8によって制御される。
【0023】
代表的には、交流モータM1は、3相の永久磁石型同期電動機であり、U,V,W相の3つのコイルの一端が中性点に共通接続されて構成される。さらに、各相コイルの他端は、各相上下アーム15〜17のスイッチング素子の中間点と接続されている。
【0024】
(電源装置の構成)
電源装置10♯は、直流電源Bと、システムリレーSR1,SR2と、平滑コンデンサC1,C0と、昇降圧コンバータ12とを備える。
【0025】
直流電源Bは、代表的には、ニッケル水素またはリチウムイオン等の二次電池や電気二重層キャパシタ等の蓄電装置により構成される。直流電源Bが出力する直流電圧Vおよび入出力される直流電流Iは、電圧センサ10および電流センサ11によってそれぞれ検知される。
【0026】
システムリレーSR1は、直流電源Bの正極端子および電源線6の間に接続され、システムリレーSR2は、直流電源Bの負極端子およびアース線5の間に接続される。システムリレーSR1,SR2は、制御装置30からの信号SEによりオン/オフされる。平滑コンデンサC1は、直流電源Bの端子間電圧を平滑化する。
【0027】
昇降圧コンバータ12は、直流電源Bと負荷装置(インバータ14および交流モータM1)との間で電圧変換動作を行なうように構成された「電圧変換部」である。具体的には、昇降圧コンバータ12は、リアクトルL1と、スイッチング素子Q1,Q2と、ダイオードD1,D2とを含む。スイッチング素子Q1およびQ2は、電源線7およびアース線5の間に直列に接続される。スイッチング素子Q1およびQ2のオン・オフは、制御装置30からのスイッチング制御信号S1およびS2によって制御される。
【0028】
この発明の実施の形態において、スイッチング素子としては、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、電力用MOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタあるいは、電力用バイポーラトランジスタ等を用いることができる。スイッチング素子Q1,Q2に対しては、逆並列ダイオードD1,D2が配置されている。リアクトルL1は、スイッチング素子Q1およびQ2の接続ノードと電源線6の間に接続される。また、平滑コンデンサC0は、電源線7およびアース線5の間に接続される。
【0029】
昇降圧コンバータ12は、昇圧動作時には、直流電源Bから供給された直流電圧Vを昇圧した直流電圧V(インバータ14への入力電圧に相当するこの直流電圧を、以下、「システム電圧」とも称する)をインバータ14へ供給する。より具体的には、制御装置30からのスイッチング制御信号S1,S2に応答して、スイッチング素子Q1のオン期間およびスイッチング素子のQ2のオン期間(または、スイッチング素子Q1,Q2の両方がオフする期間)が交互に設けられ、昇圧比は、これらのオン期間の比に応じたものとなる。あるいは、スイッチング素子Q1およびQ2をオンおよびオフにそれぞれ固定すれば、V=V(昇圧比=1.0)とすることもできる。
【0030】
また、昇降圧コンバータ12は、降圧動作時には、平滑コンデンサC0を介してインバータ14から供給された直流電圧V(システム電圧)を降圧して直流電源Bを充電する。より具体的には、制御装置30からのスイッチング制御信号S1,S2に応答して、スイッチング素子Q1のみがオンする期間と、スイッチング素子Q1,Q2の両方がオフする期間(または、スイッチング素子のQ2のオン期間)とが交互に設けられ、降圧比は上記オン期間のデューティ比に応じたものとなる。
【0031】
平滑コンデンサC0は、昇降圧コンバータ12からの直流電圧を平滑化し、その平滑化した直流電圧をインバータ14へ供給する。電圧センサ13は、平滑コンデンサC0の両端の電圧、すなわち、システム電圧Vを検出し、その検出値を制御装置30へ出力する。
【0032】
インバータ14は、交流モータM1のトルク指令値が正(Trqcom>0)の場合には、平滑コンデンサC0から直流電圧が供給されると制御装置30からのスイッチング制御信号S3〜S8に応答した、スイッチング素子Q3〜Q8のスイッチング動作により直流電圧を交流電圧に変換して正のトルクを出力するように交流モータM1を駆動する。また、インバータ14は、交流モータM1のトルク指令値が零の場合(Trqcom=0)には、スイッチング制御信号S3〜S8に応答したスイッチング動作により、直流電圧を交流電圧に変換してトルクが零になるように交流モータM1を駆動する。これにより、交流モータM1は、トルク指令値Trqcomによって指定された零または正のトルクを発生するように駆動される。
【0033】
さらに、モータ駆動制御システム100が搭載された電動車両の回生制動時には、交流モータM1のトルク指令値Trqcomは負に設定される(Trqcom<0)。この場合には、インバータ14は、スイッチング制御信号S3〜S8に応答したスイッチング動作により、交流モータM1が発電した交流電圧を直流電圧に変換し、その変換した直流電圧(システム電圧)を平滑コンデンサC0を介して昇降圧コンバータ12へ供給する。なお、ここで言う回生制動とは、電動車両を運転するドライバーによるフットブレーキ操作があった場合の回生発電を伴う制動や、フットブレーキを操作しないものの、走行中にアクセルペダルをオフすることで回生発電をさせながら車両を減速(または加速の中止)させることを含む。
【0034】
電流センサ24は、交流モータM1に流れるモータ電流MCRTを検出し、その検出したモータ電流を制御装置30へ出力する。なお、三相電流iu,iv,iwの瞬時値の和は零であるので、図1に示すように電流センサ24は2相分のモータ電流(たとえば、V相電流ivおよびW相電流iw)を検出するように配置すれば足りる。
【0035】
回転角センサ(レゾルバ)25は、交流モータM1のロータ回転角θを検出し、その検出したロータ回転角θを制御装置30へ送出する。制御装置30では、ロータ回転角θに基づき交流モータM1の回転数(回転速度)Nmtおよび角速度ω(rad/s)を算出できる。なお、回転角センサ25については、ロータ回転角θを制御装置30にてモータ電圧や電流から直接演算することによって、配置を省略してもよい。
【0036】
制御装置30は、電子制御ユニット(ECU)により構成され、予め記憶されたプログラムを図示しないCPUで実行することによるソフトウェア処理および/または専用の電子回路によるハードウェア処理により、モータ駆動制御システム100の動作を制御する。
【0037】
代表的な機能として、制御装置30は、入力されたトルク指令値Trqcom、電圧センサ10によって検出された直流電圧V、電流センサ11によって検出された直流電流I、電圧センサ13によって検出されたシステム電圧V、電流センサ24からのモータ電流iv,iwおよび回転角センサ25からのロータ回転角θ等に基づいて、交流モータM1がトルク指令値Trqcomに従ったトルクを出力するように、昇降圧コンバータ12およびインバータ14の動作を制御する。すなわち、昇降圧コンバータ12およびインバータ14を上記のように制御するためのスイッチング制御信号S1〜S8を生成して、昇降圧コンバータ12およびインバータ14へ出力する。
【0038】
具体的には、昇降圧コンバータ12の昇圧動作時には、制御装置30は、システム電圧Vをフィードバック制御し、システム電圧Vが電圧指令値に一致するようにスイッチング制御信号S1,S2を生成する。
【0039】
また、制御装置30は、電動車両が回生制動モードに入ったことを示す信号RGEを外部ECUから受けると、交流モータM1で発電された交流電圧を直流電圧に変換するようにスイッチング制御信号S3〜S8を生成してインバータ14へ出力する。これにより、インバータ14は、交流モータM1で発電された交流電圧を直流電圧に変換して昇降圧コンバータ12へ供給する。
【0040】
さらに、制御装置30は、電動車両が回生制動モードに入ったことを示す信号RGEを外部ECUから受けると、インバータ14から供給された直流電圧を降圧するようにスイッチング制御信号S1,S2を生成し、昇降圧コンバータ12へ出力する。これにより、交流モータM1が発電した交流電圧は、直流電圧に変換され、降圧されて直流電源Bに供給される。
【0041】
(一般的な制御構造における問題点)
以上に述べたようなモータ駆動制御システム100の動作の制御を行なうことにより、交流モータM1は、トルク指令値Trqcomに従ったトルクを出力する。具体的には、たとえばインバータ14の制御にパルス幅変調(PWM)制御が適用されている場合には、制御装置30は、トルク指令値Trqcomに応じた電流指令値を生成すると、電流センサ24によって検出されたモータ電流を電流指令値に一致させるためのフィードバック制御を実行する。
【0042】
しかしながら、この電流フィードバック制御において、電流センサ24により検出されるモータ電流iv,iwに周期的な誤差が重畳されている場合には、交流モータM1に供給される各相電圧が変動する。そのため、交流モータM1に供給されるパワー(電力)には周期的な変動が発生する。
【0043】
このとき、電流センサ24のセンサ値に重畳される周期的な誤差は、交流モータM1の電気周期(電気角360度の変化に要する時間)、すなわちモータ回転数に同期したものである。したがって、交流モータM1に供給されるパワーの変動もモータ回転数に同期したものとなる。さらに、昇降圧コンバータ12においては、交流モータM1のパワー変動が生じたことによって昇圧制御が追従できなくなる。その結果、システム電圧Vにおいてもモータ回転数に同期した、周期的な変動が発生する。
【0044】
なお、このような交流モータM1のパワーおよびシステム電圧Vの周期的な変動は、回転角センサ25により検出されるロータ回転角θに周期的な誤差が重畳している場合にも発生する。この場合においても、交流モータM1のパワー変動およびシステム電圧Vの変動周波数は、モータ回転数に同期したものとなる。
【0045】
ここで、昇降圧コンバータ12には、その前後に平滑のためのコンデンサが設けられるが、この平滑コンデンサと昇降圧コンバータ12のリアクトルL1とは共振点を有している。そして、上述した交流モータM1のパワー変動周波数がその共振周波数に近づくと、システム電圧Vには大きな電圧変動が発生する。その結果、インバータ14を構成するスイッチング素子Q3〜Q8のコレクタ−エミッタ間には素子耐圧を超える過大な電圧が入力されるため、スイッチング素子の破壊を起こす可能性がある。
【0046】
以下に、交流モータM1のパワー変動と昇降圧コンバータ12の共振周波数との関係について詳細に説明する。
【0047】
最初に、図2から図4を用いて、昇降圧コンバータ12の周波数特性について説明する。なお、昇降圧コンバータ12は、昇圧動作および降圧動作のいずれもを実行可能とするが、理解を容易にするため、以下の説明では、昇圧動作を行なう場合を例示して説明する。
【0048】
図2は、昇降圧コンバータ12の回路構成を示す図である。図2において、図1のリアクトルL1および平滑コンデンサC0の値はそれぞれ、L,Cで表わされ、負荷装置(交流モータM1およびインバータ14)は負荷抵抗Rで表わされる。なお、平滑コンデンサC1の値はこれらの値よりも十分小さいため、省略することができる。直流電源Bは、電源電圧Vに直列に接続された内部抵抗Rを有している。
【0049】
そして、図2の回路構成は、スイッチング素子Q2のオン期間とスイッチング素子Q2のオフ期間とで、それぞれ図3および図4に示す回路構成に置き換えられる。
【0050】
まず、スイッチング素子Q2のオン期間では、電源電圧Vは内部抵抗RおよびリアクトルLを通じて短絡される。そのため、昇降圧コンバータ12は、図3に示すような2つの回路に分離される。これら2つの回路において、リアクトルLを流れる電流(以下、リアクトル電流とも称する)をiとし、負荷抵抗Rを流れる電流(以下、負荷電流とも称する)をiとすると、リアクトル電流iとシステム電圧Vとの間には以下のような関係が成立する。
【0051】
詳細には、直流電源B側の回路では、内部抵抗Rの電圧VRb,リアクトルLの電圧VReは、リアクトル電流iを用いることにより、式(1)で表わされる。
【0052】
【数1】

【0053】
この式(1)により、電源電圧Vおよびリアクトル電流iの間には、式(2)の関係が成立している。そして、この式(2)からは、式(3)に示されるリアクトル電流iについての微分方程式が求められる。
【0054】
【数2】

【0055】
その一方で、負荷側の回路では、負荷抵抗Rの負荷電圧VRmが平滑コンデンサCの両端の電圧(システム電圧)Vと等しくなる。
【0056】
【数3】

【0057】
そして、式(5)で表わされる負荷電圧VRmおよび負荷電流iと、式(4)とにより、式(6)のようなシステム電圧Vの微分方程式が導かれる。
【0058】
【数4】

【0059】
【数5】

【0060】
ここで、状態ベクトルを[i,V]とすると、上記式(3),(6)は、式(7)の状態方程式に書き直すことができる。
【0061】
【数6】

【0062】
次に、同様の方法によって、スイッチング素子Q2のオフ期間における状態方程式を算出する。スイッチング素子Q2のオフ期間においては、リアクトルLに発生した電圧が電源電圧Vに加算されてダイオードD1が導通する。そのため、昇降圧コンバータ12は、図4に示すような回路構成となる。
【0063】
この図4の回路構成においても、内部抵抗Rの電圧VRb,リアクトルLの電圧VReは、リアクトル電流iを用いることにより、式(8)で表わされる。
【0064】
【数7】

【0065】
この式(8)により、電源電圧Vおよびリアクトル電流iの間には、式(9)の関係が成立しており、この式(9)からは、式(10)に示されるリアクトル電流iについての微分方程式が求められる。
【0066】
【数8】

【0067】
さらに、システム電圧Vは負荷電圧VRmに等しいことから(式(11))、平滑コンデンサCを流れる電流をiとすると、式(12)のようなシステム電圧Vの微分方程式が導かれる。
【0068】
【数9】

【0069】
【数10】

【0070】
そして、状態ベクトルを[i,V]とすると、式(10),(12)は、式(13)の状態方程式に書き直すことができる。
【0071】
【数11】

【0072】
次に、このようにして導出された、オン期間およびオフ期間の状態方程式(式(7),(13))を、スイッチング素子Q2のオン期間とオフ期間との割合であるデューティ比dを用いて平均化する。これにより、昇降圧コンバータ12を1つの状態方程式で表わすことができる。
【0073】
すなわち、オン期間およびオフ期間の状態方程式をそれぞれ式(14),(15)とし、かつ、デューティ比dを、直流電源Bの電源電圧Vをシステム電圧Vで割り算して算出される昇降圧コンバータ12の昇圧比(式(16))で表わすことにより、
【0074】
【数12】

【0075】
【数13】

【0076】
式(17)の状態方程式が導出される。
【0077】
【数14】

【0078】
そして、この式(17)に、上記の式(7),(13)を適用することによって、最終的には、式(18)に示されるような昇降圧コンバータ12の状態方程式を得ることができる。
【0079】
【数15】

【0080】
ここで、上記式(18)の状態方程式の特性方程式は、ラプラス演算子sを用いるこで式(20)として表わされる。
【0081】
【数16】

【0082】
そして、この特性方程式を解くことにより、昇降圧コンバータ12の共振周波数ωおよび減衰比ζは、次式(21),(22)により表現される。
【0083】
【数17】

【0084】
【数18】

【0085】
【数19】

【0086】
なお、式(21),(22)の導出には、式(23)に示す近似が用いられている。これは、負荷電流iに相当するモータ電流が実際にはインバータ14によって絞られていることから、負荷抵抗Rが内部抵抗Rよりも十分に大きいとみなせることによる。
【0087】
以上のようにして導出された昇降圧コンバータ12の周波数特性を、上述した交流モータM1のパワー変動に照らすと、交流モータM1のパワー変動周波数および変動量は図5のようになる。図5によれば、交流モータM1のパワー変動周波数が昇降圧コンバータ12の共振周波数ωに一致した場合には、図2の回路における負荷電流iが最大となるため、交流モータM1のパワーの変動量が最大となり、その結果、システム電圧Vの変動量が最大となる。なお、このときのシステム電圧Vの変動量は、式(22)に示す昇降圧コンバータ12の減衰比ζに依存した値となり、減衰比ζが小さくなるほど変動量が増大する。そして、システム電圧Vがインバータ14を構成するスイッチング素子の素子耐圧を超えると、スイッチング素子を破壊する可能性がある。
【0088】
(本実施の形態1による制御装置30の制御構造)
このようなインバータ14の素子破壊を防止するために、本実施の形態1に従う制御装置30は、昇降圧コンバータ12における電圧変換動作の制御において、システム電圧Vの目標値となる電圧指令値Vdccomを、交流モータM1のパワー変動周波数に応じて設定するように構成される。このような構成とすることにより、インバータ14への入力電圧制限を遵守することができる。
【0089】
図6には、制御装置30による電圧指令値の設定動作が概念的に示される。
上述したように、交流モータM1のパワー変動周波数が昇降圧コンバータ12の共振周波数ωに近づくと、システム電圧Vの変動量が急峻に増大する。そのため、図6に示すように、パワー変動周波数が共振周波数ωを中心とする所定の周波数範囲Δωとなる場合には、システム電圧Vがインバータ14のスイッチング素子の素子耐圧を超えるため、スイッチング素子を破壊する可能性がある。
【0090】
ここで、交流モータM1のパワー変動は、上述したように、交流モータM1の電気周期、すなわちモータ回転数に同期したものとなっている。この事実に鑑みて、制御装置30は、図6に示すように、モータ回転数に、所定の周波数範囲Δωに対応する所定の回転数範囲ΔNを予め定めておき、モータ回転数が当該所定の回転数範囲ΔNに属する場合には、トルク指令値Trqcomに基づいて生成した電圧指令値Vdccomを、システム電圧Vの変動量を見込んだ電圧分だけ降下させることにより、電圧指令値Vdccomを補正する。すなわち、所定の回転数範囲ΔNでは、電圧指令値Vdccomからシステム電圧Vの変動量相当分を減じた値が、補正後の電圧指令値Vdccomとなる。
【0091】
なお、電圧指令値Vdccomの補正が行なわれる所定の回転数範囲ΔNについては、モータ駆動制御システム100を搭載した電動車両において減速機の配置が省略され、交流モータM1の出力軸および駆動輪の間が直結されている場合には、上述したモータ回転数Nmtに代えて、車速に対して電圧指令値Vdccomの補正が行なわれる範囲を予め定めておくことができる。
【0092】
また、電圧指令値Vdccomの降下量については、予め実験的に取得されたモータ回転数(または車速)をパラメータとして規定された降下量をマップ形式で格納しておき、回転角センサ25からのロータ回転角θから算出される交流モータM1の回転数Nmtに基づいて降下量を設定することができる。
【0093】
このように交流モータM1のパワー変動周波数に応じて電圧指令値Vdccomを設定する構成とすることにより、交流モータM1に発生するパワー変動は、実質的に、昇降圧コンバータ12から出力される直流電圧(システム電圧V)に吸収されることとなる。これにより、車両に要求される駆動力を確保しつつ、インバータ14における素子破壊を防止することができる。
【0094】
次に、このような電圧指令値の設定動作を実現するための制御構造について説明する。
図7は、本発明の実施の形態1に従う制御装置30のブロック図である。
【0095】
図7を参照して、制御装置30は、モータ制御用相電圧演算部302と、インバータ用PWM信号変換部304と、電圧指令生成部310と、電圧指令補正部312と、コンバータ用デューティ比演算部314と、コンバータ用PWM信号変換部316とを含む。
【0096】
モータ制御用相電圧演算部302は、外部ECUからトルク指令値Trqcomを受け、電圧センサ13からシステム電圧Vを受け、電流センサ24からモータ電流MCRT(iv,iw)を受け、回転角センサ25から回転角θを受ける。そして、モータ制御用相電圧演算部302は、交流モータM1がトルク指令値Trqcomに従ったトルクを発生するための電流指令値(d−q軸の電流指令値Idcom,Iqcom)を生成するとともに、電流センサ24によって検出されたモータ電流MCRT(3相電流)をロータ回転角θを用いて3相−2相変換することによってd軸電流およびq軸電流を求める。さらに、モータ制御用相電圧演算部302は、電流指令値Idcom,Iqcomに対する電流偏差を補償するフィードバック制御を行なうように、たとえば比例積分(PI)制御に基づいて、電圧指令値Vdcom,Vqcomを生成する。そして、モータ制御用相電圧演算部302は、電圧指令値Vdcom,Vqcomを、2相−3相に逆変換することによって、インバータ14の各相電圧指令Vu,Vv,Vwを生成する。電圧指令Vu,Vv,Vwは、インバータ用PWM信号変換部304へ送出される。
【0097】
インバータ用PWM信号変換部304は、モータ制御用相電圧演算部302からの電圧指令Vu,Vv,Vwと搬送波との比較に基づき、インバータ14の各スイッチング素子Q3〜Q8をオン/オフするためのスイッチング制御信号S3〜S8を生成してインバータ14へ出力する。
【0098】
電圧指令生成部310は、外部ECUからのトルク指令値Trqcomおよび回転数目標値MRNに基づいて、システム電圧Vの最適値(目標値)、すなわち、電圧指令値Vdccom♯を演算し、その演算した電圧指令値Vdccom♯を電圧指令補正部312へ出力する。
【0099】
電圧指令補正部312は、電圧指令生成部310から電圧指令値Vdccom♯を受け、回転角センサ25からロータ回転角θを受けると、ロータ回転角θに基づき交流モータM1の回転数Nmtを算出する。そして、電圧指令補正部312は、その算出したモータ回転数Nmtに応じて電圧指令値Vdccom♯を降下させる補正を行なう。
【0100】
具体的には、電圧指令補正部312は、予め実験的に取得されたモータ回転数をパラメータとして規定された降下量をマップ形式で格納しておき、モータ回転数Nmtに基づいて降下量を設定する。そして、電圧指令補正部312は、電圧指令値Vdccom♯から設定した降下量を減じた値を補正後の電圧指令値Vdccomとして、コンバータ用デューティ比演算部314へ出力する。
【0101】
コンバータ用デューティ比演算部314は、電圧指令補正部312から補正後の電圧指令値Vdccomを受け、電圧センサ10から直流電圧Vを受けると、電圧センサ13からのシステム電圧Vを電圧指令値Vdccomに設定するためのデューティ比(指令デューティ比)d1を演算する。なお、指令デューティ比d1は、直流電圧Vを電圧指令値Vdccomで割り算して算出された理論デューティ比(=V/Vdccom)に対して、電圧指令値Vdccomに対するシステム電圧Vの電圧偏差に応じたPI(比例積分)出力を減じることによって求められる。そして、コンバータ用デューティ比演算部314は、その演算した指令デューティ比d1をコンバータ用PWM信号変換部316へ出力する。
【0102】
コンバータ用PWM信号変換部316は、コンバータ用デューティ比演算部314からの指令デューティ比d1に基づいて昇降圧コンバータ12のスイッチング素子Q1,Q2をオン/オフするためのスイッチング制御信号S1,S2を生成して昇降圧コンバータ12へ出力する。
【0103】
このように電圧指令値Vdccomに従ってスイッチング素子Q1,Q2のデューティ比を制御することによって、システム電圧Vは、直流電源Bの出力電圧を下限として、スイッチング素子の素子耐圧などを基に設定された上限値までの任意の電圧に制御可能となる。そして、このような昇降圧コンバータ12の制御において、交流モータM1のパワー変動周波数と昇降圧コンバータ12の共振周波数ωとの関係に基づき、交流モータM1のパワー変動周波数(モータ回転数)に応じて電圧指令値Vdccomを降下させる補正を行なうことにより、システム電圧Vが当該上限値を超えるのを抑制することができる。その結果、インバータ14の素子破壊を防止することができる。
【0104】
以上のような制御構造によって、本実施の形態1に従う電圧指令値の設定動作が実現される。これらの処理は、次のような処理フローにまとめることができる。
【0105】
図8は、本実施の形態1に従う制御装置30により実現される電圧指令値の設定動作を説明するフローチャートである。なお、図8に示すフローチャートは、制御装置30が予め格納したプログラムを実行することで実現できる。
【0106】
図8を参照して、まず、制御装置30は、外部ECUからのトルク指令値Trqcomおよび回転数目標値MRNに基づいて電圧指令値Vdccom♯を演算する(ステップS01)。また、制御装置30は、回転角センサ25からロータ回転角θを受けると、ロータ回転角θに基づき交流モータM1の回転数Nmtを算出する(ステップS02)。
【0107】
次に、制御装置30は、算出したモータ回転数Nmtに応じて電圧指令値Vdccom♯を降下させる補正を行なう(ステップS03)。このとき、制御装置30は、図6に示す関係に基づき、モータ回転数Nmtに応じて降下量を設定する。そして、電圧指令値Vdccom♯から降下量を減じた値を補正後の電圧指令値Vdccomとして算出する。
【0108】
制御装置30は、補正後の電圧指令値Vdccomおよび電圧センサ10からの直流電圧Vにより指令デューティ比d1を演算すると(ステップS04)、その指令デューティ比d1に基づいて昇降圧コンバータ12のスイッチング素子Q1,Q2をオン/オフするためのスイッチング制御信号S1,S2を生成して昇降圧コンバータ12へ出力する(ステップS05)。
【0109】
以上のように、この発明の実施の形態1によれば、センサ誤差等に起因して発生する交流モータのパワー変動における変動周波数と昇降圧コンバータの共振周波数との関係に基づいて、システム電圧がインバータを構成するスイッチング素子の素子耐圧を超えないように、パワー変動周波数に応じて電圧指令値を降下させる補正が行なわれる。この結果、インバータへの入力電圧制限を遵守できるため、インバータの素子破壊を防止することができる。
【0110】
[実施の形態2]
上述した実施の形態1に従う制御構造(図7)において、電圧指令補正部312が、常に、システム電圧Vの変動量を見込んだ電圧だけ電圧指令値Vdccomを降下させることができれば、システム電圧Vの変動量が補正後の電圧指令値Vdccom♯に吸収されることによって、システム電圧Vを、トルク指令値Trqcomに基づき生成された当初の電圧指令値Vdccomと略等しい値に保つことができる。その結果、インバータ14における素子破壊を防止しながら、交流モータM1からは要求された駆動力を安定的に出力させることが可能となる。
【0111】
その一方で、システム電圧Vの変動量は、直流電源Bの使用状態、昇降圧コンバータ12の動作状態および交流モータM1の駆動状態などによって変化する。
【0112】
そこで、以下の実施の形態2〜4では、電圧指令補正部312における電圧指令値の降下量を適正化させるための制御構造について説明する。
【0113】
図9には、昇降圧コンバータ12の減衰比ζと直流電源Bの内部抵抗Rとの関係が示される。図9を参照して、昇降圧コンバータ12の減衰比ζと直流電源Bの内部抵抗Rとの間には、内部抵抗Rが高くなるに従って減衰比ζが大きくなるという関係が成立している。なお、この関係は、上記式(22)からも明らかである。
【0114】
ここで、直流電源Bの内部抵抗Rは、直流電源Bを構成する蓄電装置の充電状態、温度および劣化度合いなどによって変化する。そして、直流電源Bの内部抵抗Rが低い場合には、図9の関係により、減衰比ζは相対的に小さい値を示す。このように減衰比ζが小さくなると、交流モータM1においては、パワー変動量が増大する。図10には、直流電源Bの内部抵抗Rと交流モータM1のパワー変動量(システム電圧Vの変動量)との関係が示される。図10を参照して、内部抵抗Rが低いとき(図中のラインk1に相当)と内部抵抗Rが高いとき(図中のラインk3)とを比較すると、パワー変動量は内部抵抗Rが低いときの方が大きくなっており、特にパワー変動周波数が昇降圧コンバータ12の共振周波数ω付近となる場合には、両者の変動量の差が顕著となる。したがって、内部抵抗Rが低くなるほど電圧指令値の降下量を大きくする、すなわち、内部抵抗Rに応じて電圧指令値の降下量を調整する構成とすれば、直流電源Bの使用状態に影響されることなくインバータ14における素子破壊を安定的に防止することができる。
【0115】
図11は、本実施の形態2に従う制御装置30Aのブロック図である。図11を参照して、制御装置30Aは、図7に示す制御装置30と比較して、電圧指令補正部312に代えて、電圧指令補正部312Aおよび内部抵抗推定部318を含む点で異なる。
【0116】
内部抵抗推定部318は、各種センサから取得される電池状態に基づいて直流電源Bの内部抵抗Rを推定する。具体的には、内部抵抗推定部318は、電圧センサ10から直流電圧Vを受け、電流センサ11から直流電流Iを受け、直流電源Bを構成する電池セルに近接して配置された温度センサ18から電池温度Tを受けると、これらのセンサ値に基づき直流電源Bの充電状態値(SOC:State Of Charge)を算出する。なお、直流電源BのSOCを算出する構成については、様々な周知技術を用いることができる。
【0117】
そして、内部抵抗推定部318は、直流電源BのSOCと電池温度Tとに基づいて、直流電源の内部抵抗Rを推定する。なお、内部抵抗Rの推定には、予め実験的に取得された直流電源BのSOCおよび電池温度Tと内部抵抗Rとの関係が用いられる。
【0118】
電圧指令補正部312Aは、電圧指令生成部310から電圧指令値Vdccom♯を受け、回転角センサ25からロータ回転角θを受け、内部抵抗推定部318から内部抵抗Rを受けると、ロータ回転角θに基づき交流モータM1の回転数Nmtを算出する。そして、電圧指令補正部312は、その算出したモータ回転数Nmtに応じて電圧指令値Vdccom♯を降下させる補正を行なう。
【0119】
当該補正において、電圧指令補正部312Aは、電圧指令値Vdccom♯の降下量を、図12に示す関係に基づいて内部抵抗Rに応じて設定する。そして、電圧指令補正部312Aは、電圧指令値Vdccom♯から設定した降下量を減じた値を補正後の電圧指令値Vdccomとして、コンバータ用デューティ比演算部314へ出力する。
【0120】
図12は、直流電源Bの内部抵抗Rと電圧指令値の降下量との関係を示す図である。図12には、トルク指令値Trqcomに応じて生成された電圧指令値Vdccom♯と、補正後の電圧指令値Vdccomとが併せて示されており、2つの指令値の差が電圧指令値の降下量に相当する。図12から分かるように、降下量は、内部抵抗Rが低くなるに従って大きくなるように設定される。なお、各内部抵抗における降下量は、図10における共振周波数ω付近でのシステム電圧Vがインバータ14のスイッチング素子の素子耐圧を超えないように、予め実験的に取得されている。そして、電圧指令補正部312Aは、予め実験的に取得されたモータ回転数Nmtおよび内部抵抗Rをパラメータとして規定された降下量をマップ形式で格納しておき、モータ回転数Nmtおよび内部抵抗Rに基づいて降下量を設定する。
【0121】
図13は、本実施の形態2に従う制御装置30Aにより実現される電圧指令値の設定動作を説明するフローチャートである。なお、図13のフローチャートは、制御装置30Aにおいて予め格納しておいたプログラムを実行することによって実現できる。
【0122】
図13を参照して、まず、制御装置30Aは、外部ECUからのトルク指令値Trqcomおよび回転数目標値MRNに基づいて電圧指令値Vdccom♯を演算する(ステップS01)。また、制御装置30Aは、回転角センサ25からロータ回転角θを受けると、ロータ回転角θに基づき交流モータM1の回転数Nmtを算出する(ステップS02)。さらに、制御装置30Aは、直流電源Bに配置された電圧センサ10、電流センサ11および温度センサ18からのセンサ値に基づいて直流電源Bの内部抵抗Rを推定する(ステップS021)。
【0123】
次に、制御装置30Aは、算出したモータ回転数Nmtに応じて電圧指令値Vdccom♯を降下させる補正を行なう(ステップS031)。このとき、制御装置30Aは、図12に示す関係に基づき直流電源Bの内部抵抗Rに応じて降下量を調整する。そして、電圧指令値Vdccom♯から降下量を減じた値を補正後の電圧指令値Vdccomとして算出する。
【0124】
制御装置30Aは、補正後の電圧指令値Vdccomおよび電圧センサ10から直流電圧Vにより指令デューティ比d1を演算すると(ステップS04)、その指令デューティ比d1に基づいて昇降圧コンバータ12のスイッチング素子Q1,Q2をオン/オフするためのスイッチング制御信号S1,S2を生成して昇降圧コンバータ12へ出力する(ステップS05)。
【0125】
以上のように、この発明の実施の形態2によれば、交流モータのパワー変動周波数と昇降圧コンバータの共振周波数との関係に基づき、システム電圧がインバータの素子耐圧を超えないように、パワー変動周波数に応じて電圧指令値を降下させる補正を行なう構成において、直流電源の内部抵抗に応じて電圧指令値の降下量が調整される。この結果、直流電源の使用状態の影響を受けることなくインバータの素子破壊を防止することができるとともに、交流モータからは要求された駆動力を安定的に出力させることが可能となる。
【0126】
[実施の形態3]
昇降圧コンバータ12の周波数特性を表わす上記の式(21),(22)から明らかなように、昇降圧コンバータ12の減衰比ζおよび共振周波数ωは、それぞれ昇降圧コンバータ12のデューティ比dによって変化する。そのため、交流モータM1のパワーの変動量が最大となるときの周波数およびそのときの変動量が昇降圧コンバータ12のデューティ比dによって変化する。
【0127】
図14には、昇降圧コンバータ12のデューティ比dと交流モータM1のパワー変動量(システム電圧Vの変動量)との関係が示される。図14を参照して、デューティ比dが小さいとき(図中のラインk4に相当)とデューティ比dが大きいとき(図中のラインk6に相当)とを比較すると、互いに異なるパワー変動周波数で交流モータM1のパワー変動量が最大となっている。これは、デューティ比dが小さいときには昇降圧コンバータ12の共振周波数がω1であるのに対し、デューティ比dが大きいときには共振周波数がω3(>ω1)となることによる。また、両者の間で変動量を比較すると、デューティ比dが大きいほど変動量が大きいことが分かる。これは、デューティ比dが大きくなるに従って減衰比ζが小さくなるためである。
【0128】
したがって、デューティ比dに応じて、電圧指令値を降下させる補正を行なう回転数範囲および電圧指令値の降下量を調整する構成とすれば、昇降圧コンバータ12の動作状態に影響されることなくインバータ14における素子破壊を安定的に防止することができる。
【0129】
図15は、本実施の形態3に従う制御装置30Bのブロック図である。図15を参照して、制御装置30Bは、図7に示す制御装置30と比較して、電圧指令補正部312に代えて、電圧指令補正部312Bを含む点で異なる。
【0130】
電圧指令補正部312Bは、電圧指令生成部310から電圧指令値Vdccom♯を受け、回転角センサ25からロータ回転角θを受け、電圧センサ10から直流電圧Vを受ける。そして、電圧指令補正部312Bは、直流電圧Vbを電圧指令値Vdccom♯で割り算することにより昇降圧コンバータ12でのデューティ比dを算出すると、図16および図17に示す関係に基づいて、デューティ比dに応じて電圧指令値の補正を実行するモータ回転数の範囲および電圧指令値の降下量を設定する。そして、電圧指令補正部312Bは、電圧指令値Vdccom♯から設定した降下量を減じた値を補正後の電圧指令値Vdccomとして、コンバータ用デューティ比演算部314へ出力する。
【0131】
図16は、昇降圧コンバータ12のデューティ比dと電圧指令値の補正を実行するモータ回転数範囲との関係を示す図である。
【0132】
図16を参照して、電圧指令値の補正を実行するモータ回転数の範囲は、デューティ比dの大小によって互いに異なる範囲に設定される。具体的には、デューティ比dが小さいときには、モータ回転数N1を中心とする所定の回転数範囲ΔN1(図中の領域RGN1に相当)が電圧指令値の補正を実行する回転数範囲に設定される。一方、デューティ比dが大きいときには、モータ回転数N2を中心とする所定の回転数範囲ΔN3(図中の領域RGN3に相当)が電圧指令値の補正を実行する回転数範囲に設定される。
【0133】
なお、図16中の回転数範囲ΔN1〜ΔN3におけるモータ回転数N1〜N3は、パワー変動周波数がモータ回転数に同期していることに基づいて、図14に示される昇降圧コンバータ12の共振周波数ω1〜ω3に対応するモータ回転数にそれぞれ設定される。
【0134】
図17は、昇降圧コンバータ12のデューティ比dと電圧指令値の降下量との関係を示す図である。
【0135】
図17には、トルク指令値Trqcomに応じて生成された電圧指令値Vdccom♯と、補正後の電圧指令値Vdccomとが併せて示されており、2つの電圧指令値の差が降下量に相当する。図17から分かるように、降下量は、デューティ比dが大きくなるに従って大きくなるように設定される。なお、各デューティ比dにおける降下量は、図14における共振周波数ω付近でのシステム電圧Vがインバータ14のスイッチング素子の素子耐圧を超えないように、予め実験的に取得されている。そして、電圧指令補正部312Bは、予め実験的に取得されたモータ回転数Nmtおよびデューティ比dをパラメータとして規定された降下量をマップ形式で格納しておき、モータ回転数Nmtおよびデューティ比dに基づいて降下量を設定する。
【0136】
図18は、本実施の形態3に従う制御装置30Bにより実現される電圧指令値の設定動作を説明するフローチャートである。なお、図18のフローチャートは、制御装置30Bにおいて予め格納しておいたプログラムを実行することによって実現できる。
【0137】
図18を参照して、まず、制御装置30Bは、外部ECUからのトルク指令値Trqcomおよび回転数目標値MRNに基づいて電圧指令値Vdccom♯を演算する(ステップS01)。また、制御装置30Bは、回転角センサ25からロータ回転角θを受けると、ロータ回転角θに基づき交流モータM1の回転数Nmtを算出する(ステップS02)。さらに、制御装置30Bは、電圧センサ10からの直流電圧Vおよび電圧指令値Vdccom♯に基づき、昇降圧コンバータ12のデューティ比dを算出する(ステップS022)。
【0138】
次に、制御装置30Bは、算出したモータ回転数Nmtに応じて電圧指令値Vdccom♯を降下させる補正を行なう(ステップS032)。このとき、制御装置30Bは、図16および図17に示す関係に基づき、デューティ比dに応じて電圧指令値の補正を行なう回転数範囲および電圧指令値の降下量をそれぞれ設定する。そして、電圧指令値Vdccom♯から降下量を減じた値を補正後の電圧指令値Vdccomとして算出する。
【0139】
制御装置30Bは、補正後の電圧指令値Vdccomおよび電圧センサ10から直流電圧Vにより指令デューティ比d1を演算すると(ステップS04)、その指令デューティ比d1に基づいて昇降圧コンバータ12のスイッチング素子Q1,Q2をオン/オフするためのスイッチング制御信号S1,S2を生成して昇降圧コンバータ12へ出力する(ステップS05)。
【0140】
以上のように、この発明の実施の形態3によれば、交流モータM1のパワー変動周波数と昇降圧コンバータの共振周波数との関係に基づき、システム電圧がインバータの素子耐圧を超えないように、パワー変動周波数に応じて電圧指令値を降下させる補正を行なう構成において、昇降圧コンバータのデューティ比に応じて電圧指令値の降下量が調整される。この結果、昇降圧コンバータの動作状態の影響を受けることなくインバータの素子破壊を防止することができるとともに、交流モータからは要求された駆動力を安定的に出力させることが可能となる。
【0141】
[実施の形態4]
交流モータM1のパワー変動量(システム電圧Vの変動量)については、昇降圧コンバータ12の減衰比ζに応じて変化するとともに、負荷装置(交流モータM1およびインバータ14)の駆動状態によっても変化する。
【0142】
図19には、負荷装置を流れる電流(負荷電流)と交流モータM1のパワー変動量(システム電圧Vの変動量)との関係が示される。図19を参照して、負荷電流が大きいとき(図中のラインk7に相当)と負荷電流が小さいとき(図中のラインk9に相当)とを比較すると、負過電流が大きいときでは変動量がより大きくなっており、特にパワー変動周波数が昇降圧コンバータ12の共振周波数ω付近となる場合には、両者の変動量の差が顕著となる。したがって、負荷電流が大きくなるほど電圧指令値の降下量を大きくする、すなわち、負荷電流に応じて電圧指令値の降下量を調整する構成とすれば、負荷装置の駆動状態に影響されることなくインバータ14における素子破壊を安定的に防止することができる。
【0143】
図20は、本実施の形態4に従う制御装置30Cのブロック図である。図20を参照して、制御装置30Cは、図7に示す制御装置30と比較して、電圧指令補正部312に代えて、電圧指令補正部312Cを含む点で異なる。
【0144】
電圧指令補正部312Cは、電圧指令生成部310から電圧指令値Vdccom♯を受け、回転角センサ25からロータ回転角θを受け、電流センサ24から負荷電流としてのモータ電流MCRTを受ける。そして、電圧指令補正部312Cは、図21に示す関係に基づいて負荷電流に応じて降下量を設定する。そして、電圧指令補正部312Cは、電圧指令値Vdccom♯から設定した降下量を減じた値を補正後の電圧指令値Vdccomとして、コンバータ用デューティ比演算部314へ出力する。
【0145】
図21は、モータ電流MCRTと電圧指令値の降下量との関係を示す図である。
図21には、トルク指令値Trqcomに応じて生成された電圧指令値Vdccom♯と、補正後の電圧指令値Vdccomとが併せて示されており、2つの指令値の差が電圧指令値の降下量に相当する。図21から分かるように、降下量は、負荷電流が大きくなるに従って大きくなるように設定される。なお、各負荷電流における降下量は、図19における共振周波数ω付近でのシステム電圧Vがインバータ14のスイッチング素子の素子耐圧を超えないように、予め実験的に取得されている。そして、電圧指令補正部312Cは、予め実験的に取得されたモータ回転数Nmtおよびモータ電流MCRTをパラメータとして規定された降下量をマップ形式で格納しておき、モータ回転数Nmtおよびモータ電流MCRTに基づいて降下量を設定する。
【0146】
図22は、本実施の形態4に従う制御装置30Cにより実現される電圧指令値の設定動作を説明するフローチャートである。なお、図22のフローチャートは、制御装置30Cにおいて予め格納しておいたプログラムを実行することによって実現できる。
【0147】
図22を参照して、まず、制御装置30Cは、外部ECUからのトルク指令値Trqcomおよび回転数目標値MRNに基づいて電圧指令値Vdccom♯を演算する(ステップS01)。また、制御装置30Cは、回転角センサ25からロータ回転角θを受けると、ロータ回転角θに基づき交流モータM1の回転数Nmtを算出する(ステップS02)。さらに、制御装置30Cは、交流モータM1に配置された電流センサ24からモータ電流MCRTを取得する(ステップS023)。
【0148】
次に、制御装置30Cは、算出したモータ回転数Nmtに応じて電圧指令値Vdccom♯を降下させる補正を行なう(ステップS033)。このとき、制御装置30Cは、図21に示す関係に基づき、モータ電流MCRTに応じて降下量を調整する。そして、電圧指令値Vdccom♯から降下量を減じた値を補正後の電圧指令値Vdccomとして算出する。
【0149】
制御装置30Cは、補正後の電圧指令値Vdccomおよび電圧センサ10から直流電圧Vにより指令デューティ比d1を演算すると(ステップS04)、その指令デューティ比d1に基づいて昇降圧コンバータ12のスイッチング素子Q1,Q2をオン/オフするためのスイッチング制御信号S1,S2を生成して昇降圧コンバータ12へ出力する(ステップS05)。
【0150】
以上のように、この発明の実施の形態4によれば、交流モータのパワー変動周波数と昇降圧コンバータの共振周波数との関係に基づき、システム電圧がインバータの素子耐圧を超えないように、パワー変動周波数に応じて電圧指令値を降下させる補正を行なう構成において、負荷電流に応じて電圧指令値の降下量が調整される。この結果、交流モータの駆動状態の影響を受けることなくインバータの素子破壊を防止することができるとともに、交流モータからは要求された駆動力を安定的に出力させることが可能となる。
【0151】
[実施の形態5]
上述した実施の形態2〜4では、モータ回転数に応じて電圧指令値を降下させる補正を行なう制御構造において、電圧指令値の降下量を、直流電源Bの使用状態(内部抵抗Rb)、昇降圧コンバータ12の動作状態(デューティ比d)および交流モータM1の駆動状態(モータ電流MCRT)のいずれかに応じて調整する構成について説明した。
【0152】
しかしながら、本発明は、このような制御構造に限定されることなく、これら3つの状態のうちの2以上の状態の組合せによって電圧指令値の降下量を調整することも可能である。その一例として、本実施の形態5では、これら3つの状態をすべて考慮して電圧指令値の降下量を調整する構成について説明する。
【0153】
図23は、本実施の形態5に従う制御装置30Dにより実現される電圧指令値の設定動作を説明するフローチャートである。
【0154】
図23を参照して、まず、本実施の形態5に従う制御装置30Dは、外部ECUからのトルク指令値Trqcomおよび回転数目標値MRNに基づいて電圧指令値Vdccom♯を演算する(ステップS01)。また、制御装置30Dは、回転角センサ25からロータ回転角θを受けると、ロータ回転角θに基づき交流モータM1の回転数Nmtを算出する(ステップS02)。
【0155】
さらに、制御装置30Dは、直流電源Bに配置された電圧センサ10、電流センサ11および温度センサ18からのセンサ値に基づいて直流電源Bの内部抵抗Rを推定するとともに(ステップS021)、電圧センサ10からの直流電圧Vおよび電圧指令値Vdccom♯に基づき、昇降圧コンバータ12のデューティ比dを算出する(ステップS022)。また、制御装置30Dは、交流モータM1に配置された電流センサ24からモータ電流MCRTを取得する(ステップS023)。
【0156】
次に、制御装置30Dは、算出したモータ回転数Nmtに応じて電圧指令値Vdccom♯を降下させる補正を行なう(ステップS034)。このとき、制御装置30Dは、内部抵抗R、デューティ比dおよびモータ電流MCRTに応じて電圧指令値の降下量を調整する。具体的には、制御装置30Dは、内部抵抗Rに応じた降下量、デューティ比dに応じて降下量およびモータ電流MCRTに応じて降下量を算出し、これらの算出結果を重み付けした値を最終的な降下量に設定する。
【0157】
なお、降下量の調整する方法については、交流モータM1のパワー変動に対する影響度合いに基づいて、上述した3つの降下量の算出結果の中からいずれか1つを選択して最終的な降下量に設定するようにしてもよい。
【0158】
そして、制御装置30Dは、補正後の電圧指令値Vdccomおよび電圧センサ10から直流電圧Vにより指令デューティ比d1を演算すると(ステップS04)、その指令デューティ比d1に基づいて昇降圧コンバータ12のスイッチング素子Q1,Q2をオン/オフするためのスイッチング制御信号S1,S2を生成して昇降圧コンバータ12へ出力する(ステップS05)。
【0159】
以上のように、この発明の実施の形態5によれば、交流モータのパワー変動周波数と昇降圧コンバータの共振周波数との関係に基づき、システム電圧がインバータの素子耐圧を超えないように、パワー変動周波数に応じて電圧指令値を降下させる補正を行なう構成において、直流電源の使用状態、昇降圧コンバータの動作状態および交流モータの駆動状態に応じて電圧指令値の降下量が調整される。この結果、インバータの素子破壊を防止しながら、交流モータからは要求された駆動力を安定的に出力させることが可能となる。
【0160】
なお、上述した実施の形態においては、負荷装置の一例として、1つの交流モータおよびインバータを含む駆動力発生部を用いる構成について説明したが、交流モータおよびインバータの数は限定されない。
【0161】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0162】
5 アース線、6,7 電源線、10,13 電圧センサ、10♯ 電源装置、11,24 電流センサ、12 昇降圧コンバータ、14 インバータ、15 U相上下アーム、16 V相上下アーム、17 W相上下アーム、18 温度センサ、25 回転角センサ、30,30A〜30D 制御装置、100 モータ駆動制御システム、302 モータ制御用相電圧演算部、304 インバータ用PWM信号変換部、310 電圧指令生成部、312,312A〜312C 電圧指令補正部、314 コンバータ用デューティ比演算部、316 コンバータ用PWM信号変換部、318 内部抵抗推定部、C1,C0 平滑コンデンサ、D1〜D8 逆並列ダイオード、L1 リアクトル、M1 交流モータ、Q1〜Q8 スイッチング素子、SR1,SR2 システムリレー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷装置に電力を供給する電源装置であって、
直流電源と、
前記直流電源の出力電圧を電圧指令値に従った直流電圧に変換して第1および第2の電源線間に出力する電圧変換部と、
前記第1および第2の電源線間に接続された充放電可能な電荷蓄積部と、
前記電圧変換部による電圧変換動作を制御する制御装置とを備え、
前記電圧変換部は、
前記電圧指令値に従った直流電圧への変換動作のために前記制御装置からの制御信号に従ってスイッチングされるスイッチング素子と、
前記第1の電源線および前記直流電源間の電流経路上に接続されて、前記スイッチング素子によってスイッチングされた電圧が両端に印加されるリアクトルとを含み、
前記制御装置は、
前記負荷装置に要求される駆動力に応じて、前記電圧指令値を生成する電圧指令生成部と、
前記負荷装置が発生する駆動力の変動周波数と前記電源装置の共振周波数との関係に基づき、前記第1および第2の電源線間の直流電圧が前記負荷装置への入力電圧制限値を超えないように、前記駆動力の変動周波数に応じて前記電圧指令値を降下させる電圧指令補正部とを含む、電源装置。
【請求項2】
前記負荷装置は、
車両の駆動力を発生するように構成された電動機と、
前記第1および第2の電源線間の直流電圧を、前記電動機を駆動制御する電力に変換する電力変換部とを含み、
前記電圧指令生成部は、前記電動機の回転数および要求される駆動力に応じて、前記電圧指令値を生成し、
前記電圧指令補正部は、前記電動機の回転数と前記電源装置の共振周波数との関係に基づき、前記第1および第2の電源線間の直流電圧が前記電力変換部への入力電圧制限値を超えないように、前記電動機の回転数に応じて前記電圧指令値を降下させる、請求項1に記載の電源装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記直流電源の内部抵抗を推定する内部抵抗推定部をさらに含み、
前記電圧指令補正部は、前記電源装置の減衰比と前記直流電源の内部抵抗との関係に基づき、推定された前記直流電源の内部抵抗に応じて、前記電圧指令値の降下量を調整する、請求項2に記載の電源装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記第1および第2の電源線間の直流電圧の前記電圧指令値に対する偏差に応じて前記制御信号のデューティ比を調整することにより、電圧変換比を制御する電圧変換制御部をさらに含み、
前記電圧指令補正部は、前記電源装置の減衰比と前記制御信号のデューティ比との関係に基づき、前記制御信号のデューティ比に応じて、前記電圧指令値の降下量を調整する、請求項2に記載の電源装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記電動機を流れる駆動電流を取得する駆動電流取得部をさらに含み、
前記電圧指令補正部は、取得された前記駆動電流に応じて、前記電圧指令値の降下量を調整する、請求項2に記載の電源装置。
【請求項6】
前記制御装置は、
前記第1および第2の電源線間の直流電圧の前記電圧指令値に対する偏差に応じて前記制御信号のデューティ比を調整することにより、電圧変換比を制御する電圧変換制御部と、
前記直流電源の内部抵抗を推定する内部抵抗推定部と、
前記電動機を流れる駆動電流を取得する駆動電流取得部とをさらに含み、
前記電圧指令補正部は、取得された前記直流電源の内部抵抗、前記制御信号のデューティ比および前記駆動電流の少なくとも1つに応じて、前記電圧指令値の降下量を調整する、請求項2に記載の電源装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の電源装置と、
前記電源装置から供給される電力を受けて駆動力を発生する電動機とを備える、電動車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2010−268626(P2010−268626A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118837(P2009−118837)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】