説明

電球形ランプ用ガラス管、およびその製造方法

【課題】耐傷性および表面の汚れの付着が抑制されうる電球形ランプ用ガラス管を提供することを目的とする。
【解決手段】電球形ランプ用ガラス管10において、10〜25重量%のNaO、および0.1〜5重量%のKOを含むガラスで作られた電球状のガラスバルブ12と、HLB値が8以上のノニオン系界面活性剤を含み、ガラスバルブ12の外表面の一部または全部を覆うように設けられた保護膜14と、を備え、滑り角度が25°以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電球形ランプ用ガラス管、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般家庭などの照明として、外囲器であるガラスバルブの中にフィラメントを含む発光体を備えた白熱電球が主流として用いられている。ところが、最近では、この白熱電球に替わって、省エネルギー化とCOの排出量の低減とを両立し、地球温暖化を防止できるという観点から、蛍光灯およびLEDのような発光体を内蔵する電球形蛍光灯、電球形LEDなどの電球形ランプの需要が増大している。
【0003】
ところで、電球形ランプの外管として用いられるガラス管(単に、「電球形ガラス管」とも称する)は、一般の蛍光灯用ガラス管と比べて肉厚が薄いために、製造、保管、運搬中などにおいて、ガラス管同士が接触したり、ほかの部材と接触したりすることによって、その表面に小さなキズがつきやすい。このような小さなキズが電球形ガラス管の表面に存在すると、ランプを製造する過程において電球形ガラス管が割れたり、完成したランプの外観品質を低下させるおそれがある。また、ランプの外観品質の低下は、その製造過程においてガラス管の表面に付着しうる汚れによっても引き起こされる。そのため、電球形ガラス管の製造分野においては、表面にキズおよび汚れが付きにくい、すなわち表面の耐傷性および外観が良好な電球形ガラス管を提供しうる技術の確立が望まれている。
【0004】
今までに、板ガラス、瓶ガラス、管ガラス、電子部品用ガラスのような各種ガラス製品の表面における損傷や、汚れによる汚染を防止しうるガラス製品として、例えば、ガラス製品の表面の一部または全部に、陰イオン界面活性剤を含む水溶性の保護膜が形成されたガラス製品が開示されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−211947号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されている技術を、外観形状が複雑な電球形ガラス管に応用すると、良好な耐傷性および汚れの付着を十分に抑制することが難しかった。
【0006】
そこで、上記課題に鑑みて、本発明は、表面の耐傷性および外観が良好な電球形ランプ用ガラス管、およびその電球形ランプ用ガラス管の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、特定の界面活性剤を含む保護膜によって電球形ガラス管の表面を覆うことにより、上記課題が解決できることを見出した。すなわち、上記課題は、以下の本発明により解決される。
【0008】
本発明の電球形ランプ用ガラス管は、以下の構成を有する。
【0009】
[1] 10〜25重量%のNaO、および0.1〜5重量%のKOを含むガラス組成物で作られた電球用のガラスバルブと、HLB値が8以上のノニオン系界面活性剤を含み、かつ前記ガラスバルブの外表面の一部または全部を覆うように設けられた保護膜と、を備え、滑り角度が25°以下である、ことを特徴とする電球形ランプ用ガラス管。
【0010】
[2] 前記ノニオン系界面活性剤が下記の式(1)で表される物質である、ことを特徴とする[1]に記載の電球形ランプ用ガラス管。
【0011】
R-O-(EO)-H ・・・・(1)
式中、Rは炭素数12〜18の直鎖状アルキル基を表し;nは平均付加モル数であって、かつ4以上の整数を表し;EOはエチレンオキシ基(CHCHO)を表す。
【0012】
また、本発明の電球形ランプ用ガラス管の製造方法は、以下の構成を有する。
【0013】
[3] 外表面に保護膜が形成された電球形ランプ用ガラス管の製造方法であって、10〜25重量%のNaO、および0.1〜5重量%のKOを含むガラス組成物で作られた電球用のガラスバルブを準備する工程と、前記ガラスバルブの外表面の一部または全部に、HLB値が8以上のノニオン系界面活性剤の塗布量が0.002μg/cm以上となるように水溶液を塗布する工程と、前記塗布により得られた湿潤膜を乾燥させて保護膜を形成する工程と、を含む、ことを特徴とする電球形ランプ用ガラス管の製造方法。
【0014】
[4] 前記ノニオン系界面活性剤の塗布量が0.3μg/cm以下である、ことを特徴とする[3]に記載の電球形ランプ用ガラス管の製造方法。
【0015】
[5] 前記ガラスバルブの外表面に水溶液を塗布する工程が、加熱された前記ガラスバルブの外表面に、前記ノニオン系界面活性剤を含む水溶液を吹き付けることによって前記湿潤膜を形成する工程である、ことを特徴とする[3]または[4]に記載の電球形ランプ用ガラス管の製造方法。
【0016】
[6] 前記ノニオン系界面活性剤が下記の式(2)で表される物質である、ことを特徴とする[3]〜[5]のいずれかひとつに記載の電球形ランプ用ガラス管の製造方法。
【0017】
R-O-(EO)−H ・・・・(2)
式中、Rは炭素数12〜18の直鎖状アルキル基を表し;nは平均付加モル数であって、かつ4以上の整数を表し;EOはエチレンオキシ基(CHCHO)を表す。
【0018】
[7] 前記保護膜を形成する工程が、加熱された前記ガラスバルブが有する熱により前記湿潤膜を乾燥させる工程である、ことを特徴とする[5]に記載の電球形ランプ用ガラス管の製造方法。
【0019】
[8] 溶融したガラス組成物を原料として成形され、成形時の熱が残る前記ガラスバルブの外表面に前記水溶液を塗布し、前記ガラスバルブに残る熱によって前記湿潤膜を乾燥させる、ことを特徴とする[7]に記載の電球形ランプ用ガラス管の製造方法。
【0020】
[9] 前記水溶液が塗布される直前の前記ガラスバルブの外表面の温度が、100〜450℃である、ことを特徴とする[7]または[8]に記載の電球形ランプ用ガラス管の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、表面の耐傷性および外観が良好な電球形ランプ用ガラス管、およびその電球形ランプ用ガラス管の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の電球形ランプ用ガラス管、およびその製造方法について説明する。ただし、本発明はここに示す形態に限定されるものではなく、本発明の効果が得られる範囲であれば、その形態は問わない。
【0023】
1.電球形ランプ用ガラス管
図1に示すように、本発明の電球形ランプ用ガラス管10は、ランプの外囲器となる電球状のガラスバルブ12と、このガラスバルブ12の外表面を覆うようにして設けられた保護膜14と、を備える。
【0024】
[ガラス管]
ガラスバルブ12は、ネック部12aと、非直線形状で形作られた膨張部12bとを含む。本発明のガラスバルブ12の形状は、電球用として利用されるものであれば特に限定されず、例えば、B形、BA形、BT形、C形、G形、T形、およびR形のような電球用のバルブとして公知の形状が含まれる。また、このガラスバルブ12は、NaOを5重量%以上、KOを3重量%以上含むガラス組成物で作られているため、その表面は極性を持ち、高い親水性を呈する。
【0025】
[保護膜]
本発明の保護膜14は、HLB値が8以上のノニオン系界面活性剤を含む膜である。HLB(Hydrophile−Lipophile Balance)値とは、界面活性剤の水に対する親和性の程度を表す値であり、グリフィン法に基づいて下記の式(3)より定義される。一般に、HLB値が高い界面活性剤ほど、水に対する親和性が高くなり、親水性を呈する部材の表面に対する付着性が良好である。
【0026】
HLB値=20×(親水部の式量の総和/分子量) ・・・・(3)
このようなHLB値が8以上のノニオン系界面活性剤を含む本発明の保護膜14は、その中に親油基(疎水基)および水に溶けたときにイオン化せずとも親和性を示す親水基が存在し、高い親水性を呈する。よって、当該保護膜14は、同じように親水性を呈するガラスバルブ12の表面に対して、付着しやすい。また、保護膜14とガラスバルブ12表面との界面16付近では、保護膜14に存在する親水基とガラスバルブ12の表面に存在する極性基との化学結合による強固な力が作用する。そのため、ガラスバルブ12の表面が強固な力で保護膜14により覆われた本発明の電球形ランプ用ガラス管10は、耐傷性が良好であり、かつ汚れが付着しにくいという特徴を有する。なお、本発明では、ガラス表面との付着性が高いなどの理由から、HLB値が8以上のノニオン系界面活性剤を用いるが、このHLB値の上限については特に限定はなく、通常は18である。
【0027】
また、この保護膜14のうちガラスバルブ12側の反対側の表面には、親油基が集まっているため、電球形ガラス管10の滑り角度θは25°以下である。滑り角度θとは、傾斜を持たせた測定台の上をガラス管が滑り始めたときの、測定台の基準面に対する傾斜角度をいう。この滑り角度が小さいほど、複数の電球形ランプ用ガラス管が隣り合う場合、ガラス管同士の間に作用する摩擦力が小さいことを意味する。従来の電球形ランプ用ガラス管は、滑り角度θが30〜35°程度であったが、本発明の電球形ランプ用ガラス管は滑り角度θが25°以下と小さく抑えられているので、複数が隣り合うような場合でも、互いに滑り合うため、擦れ合い、またはぶつかり合うことによるキズがつきにくい。なお、本発明において記号「〜」は、その両端の値を含む。
【0028】
[滑り角度の測定方法]
本発明の滑り角度θは、日本ガラス瓶協会規格の規定を参考にした以下の方法に従い容易に測定することができる。具体的には、先ず、図2(b)に示すように、水平に配置された、アクリル樹脂製の冶具20に電球形ランプ用ガラス管10をセットする。このとき、図2(a)に示すように、コの字型の冶具20の切り込み部に、電球形ランプ用ガラス管の口金側の部位を差し込んだ状態で電球形ランプ用ガラス管10をセットする。
【0029】
次に、電球形ランプ用ガラス管10が滑り出すまで、徐々に冶具20を傾斜させる。そして、電球形ランプ用ガラス管10が滑り出したときの傾斜角度θを滑り角度θとして測定する。
【0030】
本発明のHLB値が8以上のノニオン系界面活性剤としては、下記の式(4)で表されるエーテル型ノニオン系界面活性剤であることが好ましい。このようなエーテル型ノニオン系界面活性剤は、界面活性剤の凝集力が大きく、保護膜がガラスバルブの表面から剥がれにくくなるので、優れた耐傷性効果がより長く持続する。
【0031】
R-O-(EO)-H ・・・・(4)
式中の、Rは炭素数12〜18の直鎖状アルキル基を表し、nは平均付加モル数であり、かつ4以上の整数を表し、EOはエチレンオキシ基(CHCHO)を表す。中でも、式中のnは30以上の整数であることが好ましい。
【0032】
このエーテル型ノニオン系界面活性剤の例には、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタンが含まれる。
【0033】
なお、本発明における保護膜は、必ずしもガラスバルブの表面全体を覆うように形成されている必要はなく、特に耐傷性や汚れの付着を防止したい部分にだけ一部形成されていてもよい。
【0034】
[ガラス組成物]
本発明のガラスバルブを形成するガラス組成物(「本発明のガラス組成物」とも称する)は、NaOを10重量%以上、KOを0.1重量%以上含むものであれば、その組成は特に限定されない。ただし、NaOの含有量が25%重量を超えたり、KOの含有量が5重量%を超えたりすると、ガラスバルブからアルカリ成分が溶出し易くなり、染み出したアルカリ成分が汚れとなってガラスバルブの外観品質が低下するおそれがある。よって、ガラスバルブの保護膜による高い隠蔽性と光束が高い蛍光ランプを提供するという観点から、本発明のガラス組成物は、NaOを5〜17重量%、KOを3〜7重量%含むガラス組成物であることが好ましい。
【0035】
本発明のガラス組成物の好ましい例には、下記の組成物が含まれる。
【0036】
SiO:55〜75重量%、B:0〜5重量%、Al:0〜5重量%、LiO:0〜5重量%、NaO:5〜17重量%、KO:3〜7重量%、MgO:0〜5重量%、CaO:0〜10重量%、SrO:0〜10重量%、BaO:0〜10重量%。
【0037】
この中で、SiOは、本発明のガラス組成物の主成分であって、ガラスの基礎構造を造るものとして必須成分である。ただし、SiOが55重量%未満では、ガラスが形成されにくく、また75重量%を超えるとガラスの溶融が難しくなり、さらにはガラスの粘度が上昇したり、成形しづらいなどの問題が生じる。したがって、良質なガラス管を得るという観点からは、ガラス組成物中のSiOを55〜75重量%の範囲とすることが好ましい。
【0038】
アルカリ金属酸化物であるLiOは、ガラスの粘性を低下させ、溶融加工性を向上させるものである。ただし、本発明のガラス組成物の必須成分である、NaO、KOもまたアルカリ金属酸化物であり、LiOと同じくガラスの粘性を低下させたり、溶融加工性を向上させたりする作用も示す。そのため、本発明のガラス組成物においては、LiOは必須成分ではなく、0〜5重量%の範囲で含まれていることが好ましい。なお、NaO、KOの適正な含有量については前述したとおりである。
【0039】
アルカリ土類金属酸化物であるMgOおよびCaOは、ガラスの電気絶縁性および化学的耐久性を向上させるという観点から、本発明のガラス組成物中に含まれていることが好ましい。しかしながら、ガラス組成物において、MgOが0.5重量%未満、またCaOが1重量%未満であると、ガラスの電気絶縁性および化学的耐久性を向上させることが難しくなり、一方で、MgOが5重量%を超えたり、CaOが10重量%を超えたりすると、ガラスの高い透光性を確保することが難しくなるおそれがある。したがって、電気絶縁性、化学的耐久性、および透光性がいずれも良好なガラス製品を得るという観点では、MgOを0.5〜5重量%、CaOを1〜10重量%含むガラス組成物が好ましい。
【0040】
SrOおよびBaOは、ガラスの電気絶縁性を向上させる観点から、本発明のガラス組成物に含まれていることが好ましい。ただし、ガラス組成物において、10重量%を超えてSrOおよびBaOが含まれていると、ガラス製品の透光性が低下するおそれがある。したがって、透光性の高いガラス製品を得るという観点から、ガラス組成物中のSrOおよびBaOの含有量は、それぞれ10重量%以下であることが好ましい。
【0041】
は、ガラスの化学的耐久性を向上させる観点、およびガラスの粘性を低下させ、溶融加工性を向上させるという観点から、本発明のガラス組成物に含まれていると好ましい。ただし、Bが1重量%未満であると、ガラスの溶融加工性が悪くなるおそれがある。そのため、Bの含有量は1重量%以上が好ましい。
【0042】
Alは、ガラスの化学的耐久性を向上させる観点から、本発明のガラス組成物に含まれていることが好ましい。ただし、ガラス組成物に0.5重量%未満のAlが含まれていると、ガラスの化学的耐久性を向上させることが難しく、一方で、Alの含有量が5重量%を超えるとガラスの溶融加工性が低下するおそれがある。したがって、0.5〜5重量%のAlを含むガラス組成物が好ましい。
【0043】
2.電球形ランプ用ガラス管の製造方法
本発明の電球形ランプ用ガラス管は、発明の効果を損なわない範囲で任意に製造できるが、以下に好ましい製造方法を説明する。
【0044】
本発明の電球形ランプ用ガラス管の好ましい製造方法の一例は、
外表面に保護膜が形成された電球形ランプ用ガラス管の製造方法であって、
1)10〜25重量%のNaO、および0.1〜5重量%のKOを含むガラス組成物で作られた電球状のガラスバルブを準備する工程と、
2)前記ガラスバルブの外表面の一部または全部に、HLB値が8以上のノニオン系界面活性剤の塗布量が0.002μg/cm以上となるように水溶液を塗布する工程と、
3)前記塗布により得られた湿潤膜を乾燥させて保護膜を形成する工程と、
を含む、ことを特徴とする。
【0045】
上記方法では、まず、1)の工程において、10〜25重量%のNaO、および0.1〜5重量%のKOを含む電球状のガラスバルブを準備する。
【0046】
次に、2)の工程において、ガラスバルブの外表面の一部または全部に、HLB値が8以上のノニオン系界面活性剤の塗布量が0.002μg/cm以上となるように水溶液を塗布し、ガラスバルブの外表面に湿潤膜を形成する。
【0047】
湿潤膜とは、ノニオン系界面活性剤と水分とを含んだ湿潤状態の膜をいう。本発明の湿潤膜は、前述したHLB値が8以上のノニオン系界面活性剤および水を含む水溶液から形成される。この水溶液は、水との相溶性が良好なノニオン系界面活性剤を含むから、塗布時の濡れ性が良好となる。そのため、この水溶液を用いると、複雑な外観形状を有する電球状のガラスバルブの表面を水溶液で均一に覆うことができる。
【0048】
水溶液の調製に用いられる水の例には、超純水、純水、イオン交換水、蒸留水が含まれる。本発明において、純水および超純水とは、水道水を活性炭に通してイオン交換処理した後、さらに蒸留したもの、また必要に応じて所定の紫外線殺菌灯の光を照射しまたはフィルターに通したものをいう。
【0049】
また、本発明において、水溶液に含まれるノニオン系界面活性剤の量は、0.01〜5重量%であることが好ましい。ノニオン系界面活性剤の含有量が0.01重量%未満であると耐傷性を得ることが難しく、5重量%を超えると表面のべたつき、吸着汚れなどを抑えることができないためである。その中でも、高い耐傷性の実現、およびべたつき、吸着汚れの発生を抑制するという観点に加えて、低コストでの処理が可能であるという観点から、水溶液に含まれるノニオン系界面活性剤の量は、0.01〜1重量%であることがより好ましい。
【0050】
水溶液をガラスバルブの表面に塗布する方法は特に限定されず、ガラスバルブの表面に対して水溶液を塗布したり(刷毛塗り法など)、吹き付けたり(スプレー法)、またガラスバルブを水溶液に浸漬させる(浸漬法)など公知の方法が採用される。中でも、ガラスバルブの内周面など余計な箇所に水溶液を付着させずに、ガラス管の外表面だけに水溶液を均一性よく塗布できるという観点からは、スプレー法が好ましい。スプレー法を採用すると、加熱されたガラスバルブに対しても水溶液を容易に塗布することができる。なお、本発明においては、ガラスバルブの表面に対して水溶液を塗布し、湿潤膜を形成する場合を、「塗布作業時」とも称する。
【0051】
良好な耐傷性を実現するという観点からは、ガラスバルブの単位面積当たりのノニオン系界面活性剤の塗布量が0.002μg/cm以上であればよい。ただし、ノニオン系界面活性剤の塗布量が多すぎると、保護膜が形成された電球形ランプ用ガラス管において、べたつき、吸着汚れなどの発生が懸念される。そのような観点から、ノニオン系界面活性剤の塗布量は、0.3μg/cm以下が好ましい。
【0052】
塗布作業時においては、ガラスバルブの表面温度T(℃)に注意しながら作業を行うことが好ましい。ガラスバルブの表面温度Tとは、上記水溶液が塗布される直前のガラス管の外表面の温度であり、後述する実施例に記載された方法によって測定される値をいう。この表面温度Tは、特に制限されないが、スプレー法の場合、塗布された水溶液中の界面活性剤が熱分解されない程度にガラスバルブが加熱されていることが好ましい。具体的には、例えば、上記Tは、450℃以下であることが好ましく、400℃以下であることがより好ましい。また、ノニオン系界面活性剤の活性化を低下させることなく、ガラスバルブの表面へより強固に保護膜を付着させるという観点から、上記Tは、380℃以下であることが好ましく、350℃以下であることがより好ましい。
【0053】
そして、3)の工程において、湿潤膜を乾燥させて保護膜を形成する。湿潤膜の乾燥方法は特に限定されず、公知の方法を用いればよい。乾燥方法の例には、オーブンのような加熱装置を用いたり、熱風を吹き付けたり、自然乾燥させる方法も含まれる。その中でも、生産性の向上、低コスト化、さらにはより均一な保護膜を形成させる観点からは、加熱されたガラスバルブの有する熱によって湿潤膜を乾燥させる方法が好ましい。具体的には、1)の工程において、溶融軟化させたガラス組成物からガラスバルブを製造し、引き続き、冷却過程において、成形時の熱が残るガラスバルブに対し、水溶液を塗布する方法が挙げられる。また、再加熱されたガラスバルブに対して水溶液を塗布し、当該ガラスバルブが有する熱により湿潤膜を乾燥させてもよい。なお、本発明のガラスバルブには、上記冷却最中の成形物も含まれる。
【0054】
3)の工程において、加熱によりガラスバルブに残る熱を利用して湿潤膜を乾燥させる場合、ガラスバルブの表面温度Tは100℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましい。
【実施例】
【0055】
[実施例1〜8]
所定のノニオン系界面活性剤を含む水溶液を、スプレー塗布により外表面の温度が350〜400℃の電球状のガラス管に塗布し、湿潤膜を乾燥させて、電球形ランプ用ガラス管を得た。各実施例におけるガラス組成物、水溶液中の界面活性剤の濃度、界面活性剤の種類、および単位面積当たりの界面活性剤の塗布量は表1に示すとおりである。また、ガラス管が有する熱により湿潤膜を乾燥させた。
【0056】
また、サーモビューア(株式会社チノー製、CPA−8000)により、水溶液が塗布される直前のガラスバルブの外表面の温度を測定した。その際、放射率はe=0.86とし、測定箇所は、長手方向両端部および中央の3箇所とした。3箇所の温度はいずれも350〜400℃の温度範囲の値であった。
【0057】
本例で得た電球形ランプ用ガラス管について、(1)滑り角度、(2)ガラス強度の低下率、(3)外観・べたつきの3項目について評価を行った。その結果を表1に示す。
【0058】
(1)滑り角度の測定
日本ガラス瓶協会規格の規定を参考にしながら、図2を用いて説明した方法により電球形ランプ用ガラス管の滑り角度を測定した。
【0059】
(2)ガラス強度の測定
電球形ランプ用ガラス管のキズの付き難さ(耐傷性)を評価するため、加傷試験前後の電球状ガラスバルブの球面部におけるガラス強度を測定、評価した。
【0060】
先ず、図3に示すように、電球の球面部の形状に沿った凹部を有する下部冶具30の上に電球形ランプ用ガラス管10の球面部を静置する。次に、静置された電球形ランプ用ガラス管10の球面部の上部に上部冶具32を押し当てて、球面部に対して荷重を負荷した。そして、負荷した荷重によって球面部が破壊したときの強度を破壊強度として測定した。本試験は、強度試験機((株)島津製作所製 オートグラフ)を使用し、荷重速度を1mm/分、各サンプル数をn=20本とした。
【0061】
また、測定された破壊強度の結果をワイブルプロットし、ガラス強度を算出した。このガラス強度とは、ワイブルプロットを行った場合、63.2%破壊確率のときの強度を指す。
【0062】
(3)外観・べたつき
電球形ランプ用ガラス管の外観品質を評価するため、完成した電球形ランプ用ガラス管の外観を目視により確認し、外観のキズの存在や汚れ具合が製品上問題とならないレベルを○、製品上問題となるレベルを×として、2段階で評価した。
【0063】
[比較例1〜7]
比較例1〜7は、表2に示すように、ガラス組成物、HLB値の異なるノニオン系界面活性剤などを変更した以外は、実施例と同様に電球形ランプ用ガラス管を製造し、評価した。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
表1、2から明らかなとおり、本発明の電球形ランプ用ガラス管は、滑り角度が25°以下、またガラス強度の低下率がいずれも20%以下である。加傷試験後の加傷試験前に対するガラスの特性強度の低下率が20%以上であると、電球形ランプ用ガラス管を用いたランプの製造工程での、電球状ガラスバルブの外表面のキズに起因してガラス管が割れる可能性が著しく向上する。その一方で、表2から明らかなとおり、比較例1〜3、6、7の電球形ランプ用ガラス管は、滑り角度が25°以上、また、ガラス強度の低下率が25%以上となる結果となった。この結果から、本発明の電球形ランプ用ガラス管は、表面におけるキズの発生が低く抑えられていることが明らかである。また、本発明の電球形ランプ用ガラス管は、保護膜のべたつきが抑制されており、外観も良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の電球形ランプ用ガラス管は、表面にキズがつきにくく、耐傷性が良好であるとともに、表面に汚れが付着しにくく、優れた外観品質が必要な用途、例えば、白熱電球、電球形蛍光ランプ、および電球形LEDランプのような各種電球形ランプ用ガラス管として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の電球形ランプ用ガラス管の一例における断面図
【図2】(a)本発明の電球形ランプ用ガラス管における滑り角度の測定装置を上部から見た概念図、(b)滑り角度の測定方法を説明する概念図
【図3】電球形ランプ用ガラス管におけるガラス強度の測定方法を説明する概念図
【符号の説明】
【0069】
10 電球形ランプ用ガラス管
12 ガラスバルブ
12a ネック部
12b 膨張部
14 保護膜
16 界面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
10〜25重量%のNaO、および0.1〜5重量%のKOを含むガラス組成物で作られた電球用のガラスバルブと、
HLB値が8以上のノニオン系界面活性剤を含み、かつ前記ガラスバルブの外表面の一部または全部を覆うように設けられた保護膜と、
を備え、滑り角度が25°以下である、ことを特徴とする電球形ランプ用ガラス管。
【請求項2】
前記ノニオン系界面活性剤が下記の式(1)で表される物質である、ことを特徴とする請求項1に記載の電球形ランプ用ガラス管。
R-O-(EO)-H ・・・・(1)
[式中、Rは炭素数12〜18の直鎖状アルキル基を表し;nは平均付加モル数であって、かつ4以上の整数を表し;EOはエチレンオキシ基(CHCHO)を表す]
【請求項3】
外表面に保護膜が形成された電球形ランプ用ガラス管の製造方法であって、
10〜25重量%のNaO、および0.1〜5重量%のKOを含むガラス組成物で作られた電球用のガラスバルブを準備する工程と、
前記ガラスバルブの外表面の一部または全部に、HLB値が8以上のノニオン系界面活性剤の塗布量が0.002μg/cm以上となるように水溶液を塗布する工程と、
前記塗布により得られた湿潤膜を乾燥させて保護膜を形成する工程と、
を含む、ことを特徴とする電球形ランプ用ガラス管の製造方法。
【請求項4】
前記ノニオン系界面活性剤の塗布量が0.3μg/cm以下である、ことを特徴とする請求項3に記載の電球形ランプ用ガラス管の製造方法。
【請求項5】
前記ガラスバルブの外表面に水溶液を塗布する工程が、加熱された前記ガラスバルブの外表面に、前記ノニオン系界面活性剤を含む水溶液を吹き付ける工程である、ことを特徴とする請求項3または4に記載の電球形ランプ用ガラス管の製造方法。
【請求項6】
前記ノニオン系界面活性剤が下記の式(2)で表される物質である、ことを特徴とする請求項3〜5のいずれかひとつに記載の電球形ランプ用ガラス管の製造方法。
R-O-(EO)−H ・・・・(2)
[式中、Rは炭素数12〜18の直鎖状アルキル基を表し;nは平均付加モル数であって、かつ4以上の整数を表し;EOはエチレンオキシ基(CHCHO)を表す]
【請求項7】
前記保護膜を形成する工程が、加熱された前記ガラスバルブが有する熱により前記湿潤膜を乾燥させる工程である、ことを特徴とする請求項5に記載の電球形ランプ用ガラス管の製造方法。
【請求項8】
溶融したガラス組成物を原料として成形され、成形時の熱が残る前記ガラスバルブの外表面に前記水溶液を塗布し、前記ガラスバルブに残る熱によって前記湿潤膜を乾燥させる、ことを特徴とする請求項7に記載の電球形ランプ用ガラス管の製造方法。
【請求項9】
前記水溶液が塗布される直前の前記ガラスバルブの外表面の温度が、100〜450℃である、ことを特徴とする請求項7または8に記載の電球形ランプ用ガラス管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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