説明

電界効果トランジスタ

【課題】電界効果移動度およびオン/オフ比に優れた電界効果トランジスタを提供する。
【解決手段】少なくともp型有機半導体、ソース電極、ドレイン電極およびゲート電極を備える電界効果トランジスタにおいて、該p型有機半導体成分が、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する重量平均分子量3,000〜50,000の高分子化合物を含む。


[式中、Arは置換若しくは無置換の炭素数6〜60のアリール基である。RおよびRは各々独立して水素原子、炭素数1〜18のアルキル基若しくはアルコキシ基、または炭素数6〜18のアリール基であり、隣り合う炭素原子と縮合環を形成しても良い。mは0〜5の整数、aは0〜4の整数、bは0≦b≦2m+4の整数である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界効果型有機薄膜トランジスタ(以下、電界効果トランジスタという)に関し、より詳しくは、特定の高分子化合物を含んでなるp型有機半導体部を備えた電界効果トランジスタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機半導体を半導体層に用いた電界効果トランジスタの研究開発が活発に行われている。電界効果トランジスタは、有機材料の持つ多様性、機械的フレキシビリティ、また軽量化と言う観点からシートディスプレイ、電子ペーパー、ICカード、情報タグ等への応用が期待されている。
【0003】
一般に現在使用されているトランジスタでは、主にa−Si(アモルファスシリコン)、p−Si(ポリシリコン)などの半導体を用いて作られている。しかし、その製造工程は、シリコン単結晶基板を用い、露光、不純物添加、成膜、エッチング等の複雑かつ精密な工程や高温プロセスを要する点からクリーンルームや真空装置等の装置コストやランニングコストが非常に膨大なものとなっている。
【0004】
一方、電界効果トランジスタでは、比較的低い温度での真空蒸着プロセスや、溶媒に可溶な有機半導体を用いる場合には、その溶液からインクジェット方式等の塗布プロセスによって有機半導体層を形成することが可能であるため、シリコンベースのトランジスタに比べ安価に製造することが可能となる。特に後者においては、印刷法やロールトゥーロール方式を用いると大量生産が可能となるため、製造コストの大幅なダウンや大面積化等が期待される。
【0005】
このような電界効果トランジスタ素子を実現するための半導体材料としては、例えば、低分子材料ではペンタセンやテトラセンと言ったアセン類(例えば、特許文献1、非特許文献1参照。)、フタロシアニン(例えば、非特許文献2参照。)、フラーレン(例えば、非特許文献3参照)、ビスジチエノチオフェン(例えば、非特許文献4参照)、アントラジチオフェン(例えば、非特許文献5参照)、チオフェンオリゴマー(例えば、特許文献2、非特許文献6参照)などが、また高分子材料ではポリチオフェン(例えば、非特許文献7参照)、ポリチエニレンビニレン(例えば、非特許文献8参照)、ポリ−p−フェニレンビニレン(例えば、非特許文献9参照)などの幾つかの材料が提案されている。
【0006】
特に、ペンタセンは約1cm/Vsの移動度を有すると報告されている。しかし、ペンタセンは溶媒に難溶性であり、ペンタセンの薄膜を溶液から形成することは困難である。また、ペンタセンは、酸素を含有する雰囲気下では経時酸化する傾向があり、酸化に対して不安定である。また、高い立体規則性および電界効果移動度(以下、移動度という)を有することで知られるポリ(3−ヘキシルチオフェン)においても、空気中の酸素がドーパントとして作用し、導電率が増大し、素子のオフ電流が大きくなる結果、オン/オフ比が低下するといった課題がある。また、ポリアリールアミン系材料(例えば、特許文献3参照)なども提案されているが、さらなる高移動度化が求められている。
【0007】
以上のように、幾つかの材料が有機半導体材料として提案されているものの、全ての特性を満足させる有機半導体材料は未だに得られていないのが現状である。好ましい有機半導体材料においては、移動度、オン/オフ比などの良好なトランジスタ特性に加え、湿式プロセスにより作製され得るような溶媒への溶解性を示し、加えて耐酸化性をはじめとする保存安定性が求められる。
【非特許文献1】アドバンスド・マテリアルズ、2002年、第14巻、99ページ
【非特許文献2】Appl.Phys.Lett.,69,3066,1996.
【非特許文献3】Appl.Phys.Lett.,67,121,1995.
【非特許文献4】Appl.Phys.Lett.,71,3871,1997.
【非特許文献5】J.Am.Chem.Soc.,120,664,1998.
【非特許文献6】Chem.Mater.,10,457,1998.
【非特許文献7】Appl.Phys.Lett.,62,1794,1993.
【非特許文献8】Appl.Phys.Lett.,63,1372,1993.
【非特許文献9】J.Appl.Phys.,77,3523,1995.
【特許文献1】特開平5−55568号公報
【特許文献2】特許第3145294号公報
【特許文献3】特表2004−525501公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、塗布や印刷等の容易なプロセスで半導体層を作製することができる有機系材料であって、キャリア移動度が高く、高い安定性を持つ有機半導体材料、これを用いた電界効果トランジスタを提供することにある。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものである。即ち、本発明は、製造の容易な有機系の材料からなるp型半導体部を備えた電界効果トランジスタであって、移動度およびオン/オフ比に優れた電界効果トランジスタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、p−フェニレン構造を繰り返し単位として有するアリールアミンポリマーは、特定の繰返し単位長を有するフェニレン骨格において、優れたp型の半導体特性を示すとの知見を得た。また、このアリールアミンポリマーを電界効果トランジスタのp型半導体部の材料として用いることにより、得られる電界効果トランジスタが優れた移動度およびオン/オフ比を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、少なくともp型有機半導体、ソース電極、ドレイン電極およびゲート電極を備える電界効果トランジスタにおいて、該p型有機半導体成分が、下記一般式(1)
【0012】
【化1】

【0013】
[式中、Arは置換若しくは無置換の炭素数6〜60のアリール基である。RおよびRは各々独立して水素原子、炭素数1〜18のアルキル基若しくはアルコキシ基、または炭素数6〜18のアリール基であり、隣り合う炭素原子と縮合環を形成しても良い。mは0〜5の整数、aは0〜4の整数、bは0≦b≦2m+4の整数である。]
で表される繰り返し単位を有する重量平均分子量3,000〜50,000の高分子化合物を含んでなる電界効果トランジスタを提供することにある。
【発明の効果】
【0014】
本発明に用いる有機半導体材料は、高純度であり、電荷輸送材料としてキャリア移動度が高いため、有機薄膜トランジスタに用いた場合、オン/オフ比が大きく、しかも応答速度が高速化されており、高いトランジスタ性能を有するものである。よって、本発明の特定の高分子化合物を含有する電界効果トランジスタは、移動度およびオン/オフ比に優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
前記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する本発明のアリールアミンポリマーの分子量は、重量平均分子量で3,000〜50,000、好ましくは5,000〜30,000である。重量平均分子量が5,000〜30,000の範囲にあるアリールアミンポリマーは有機トランジスタの移動度を高めることができる。
【0016】
前記一般式(1)で表される構造単位中において、Arは置換若しくは無置換の炭素数6〜60のアリール基を表すが、具体的には下記一般式(2)または(3)で表される構造が特に好ましい。
【0017】
【化2】

【0018】
[式中、R、RおよびRは各々独立して水素原子、炭素数1〜18のアルキル基若しくはアルコキシ基、または炭素数6〜18のアリール基である。cは0〜4の整数である。]
【0019】
前記一般式(1)において、RおよびRは前記の定義に該当すれば特に限定されるものではないが、具体的には水素原子の他、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、2−エチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、4−メチル−シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、n−オクチル基、tert−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ドデシル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、2−エチルブトキシ基、3,3−ジメチルブトキシ基、シクロヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、シクロヘキシルメチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、n−ノニルオキシ基、n−デシルオキシ基、n−ドデシルオキシ基等のアルコキシ基、フェニル基、2−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2−ヒドロキシフェニル基、3−ヒドロキシフェニル基、4−ヒドロキシフェニル基、2−トリフルオロメチルフェニル基、3−トリフルオロメチルフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、3,6−ジメチルフェニル基、2,3−ジメチルフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、3−(トリフルオロメトキシ)フェニル基、4−(トリフルオロメトキシ)フェニル基、3,4−(メチレンジオキシ)フェニル基、4−n−ブチルフェニル基、4−sec−ブチルフェニル基、4−tert−ブチルフェニル基、4−n−ヘキシルフェニル基、4−n−オクチルフェニル基、4−(2’−エチルヘキシルオキシ)フェニル基、2−ビフェニル基、3−ビフェニル基、4−ビフェニル基、4−ターフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、2−メチルナフチル基、4−メチルナフチル基、9−アントラセニル基、9,9−二置換−2−フルオレニル基等のアリール基を挙げることができる。より好ましくは水素原子、アルキル基またはアリール基のいずれかである。
【0020】
前記一般式(2)および(3)において、R、RおよびRは前記の定義に該当すれば特に限定されるものではないが、具体的にはRおよびRと同じ置換基が挙げられる。
【0021】
本発明の前記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するアリールアミンポリマーは、前記の定義に該当すれば特に限定されるものではないが、下記一般式(4)〜(8)の構造の繰り返し単位を有するトリアリールアミンポリマーが好ましい。
【0022】
【化3】

【0023】
[式中、R、R、R、R、R10およびR11は各々独立して炭素数4〜18の直鎖、分鎖若しくは環状のアルキル基、または炭素数6〜60のアリール基である。]
本発明の一般式(1)で表される繰り返し単位を有するアリールアミンポリマーの製造方法としては特に制限はなく、様々な方法を用いることができるが、例えば、以下のように容易に合成することができる。代表的な合成経路を示す。
【0024】
【化4】

【0025】
[式中、Arは置換若しくは無置換の炭素数6〜60のアリール基である。RおよびRは各々独立して水素原子、炭素数1〜18のアルキル基若しくはアルコキシ基、または炭素数6〜18のアリール基であり、隣り合う炭素原子と縮合環を形成しても良い。nは1以上の整数、mは0〜5の整数、aは0〜4の整数、bは0≦b≦2m+4の整数である。]
【0026】
反応後のポリマー末端は、原料の仕込比によってハロゲン原子であったり、第二級アミンであったりするため、反応性部位を残したくない場合には、末端がハロゲン原子の場合には第二級アミン、第二級アミンの場合には芳香族ハライドで末端処理を実施することが好ましい。
【0027】
また、アリールボロン酸を使用することで同等の繰返し単位構造を有するポリマーを合成することも可能である。
【0028】
【化5】

【0029】
[式中、Arは置換若しくは無置換の炭素数6〜60のアリール基である。RおよびRは各々独立して水素原子、炭素数1〜18のアルキル基若しくはアルコキシ基、または炭素数6〜18のアリール基であり、隣り合う炭素原子と縮合環を形成しても良い。nは1以上の整数、mは0〜5の整数、aは0〜4の整数、bは0≦b≦2m+4の整数である。]
【0030】
本発明の有機半導体材料を電界効果トランジスタのp型有機半導体層として使用することで、良好に駆動するトランジスタ装置を提供することができる。
【0031】
電界効果トランジスタは、基板上に有機半導体層(チャネル)で連結されたソース電極とドレイン電極を有し、その上に絶縁層を介してゲート電極を有するトップゲート型と、基板上にまずゲート電極を有し、絶縁層を介して有機半導体層(チャネル)で連結されたソース電極とドレイン電極を有するボトムゲート型に大別される。
【0032】
本発明の高分子化合物を用いて電界効果トランジスタの有機半導体層を形成する方法としては、高分子化合物を可溶な溶剤に溶解し、必要に応じて添加剤を加え調製した溶液をキャスト法、スピンコート法、インクジェット法、印刷法等により基板上に成膜することが好ましい。
【0033】
本発明の有機半導体を溶解するために用いられる溶剤としては、該有機半導体を溶解して適当な濃度の溶液が調製できるものであれば特に限定されるものではないが、具体的にはトルエン、クロロベンゼン等の芳香族系溶剤、ジエチルエーテルやジイソプロピルエーテル等の鎖状エーテル系溶剤、テトラヒドロフランやジオキサン等の環状エーテル系溶剤等を挙げることができる。
【0034】
これら有機半導体からなる薄膜の膜厚としては特に制限はないが、電界効果トランジスタの特性は、有機半導体層の膜厚に左右されることが多く、その膜厚は、有機半導体により異なるが、一般に1μm以下、好ましくは10〜500nm、より好ましくは10〜100nmである。
【0035】
上述の方法によって有機半導体層を形成する際に、該高分子化合物をアニール処理することにより、電界効果トランジスタの特性を大きく改善することができる。これは、アニール処理で一旦高分子膜の分子運動を誘起してから冷却することにより、高分子の再配列により特性や安定性の向上が図られるものと考えられる。
【0036】
本発明のアニール処理の条件としては、移動度の低下を招かない条件であれば特に制限はないが、その有機半導体材料のガラス転移温度付近での加熱が好ましく、その温度以下であっても長時間の処理により同様の効果が得られる。
【0037】
続いて、本発明に係る有機半導体材料、電界効果トランジスタについて説明する。図1に、本発明の有機半導体材料を用いた電界効果トランジスタの主な概略構成例を示すが、いずれも有機半導体層はソース電極およびドレイン電極を連結させるようになっている。
【0038】
本発明の電界効果トランジスタは、通常ガラス、シリコン、プラスチックからなる基板に形成される。特にプラスチックシートを用いることで、素子の軽量化、フレキシビリティを改善することが可能であり、また価格面、耐衝撃面の改善も可能である。
【0039】
また、ゲート絶縁層は、種々の絶縁膜を用いることができるが、好適な絶縁材としては、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタン、窒化アルミニウム等の無機系材料や、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、ポリエステル、ポリエチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリパラキシリレン、ポリアクリロニトリル、シアノエチルプルラン等の高分子系化合物等が挙げられる。
【0040】
これら絶縁層の形成方法としては特に限定されるものではないが、CVD法、真空蒸着法、プラズマ重合法、スプレーコート法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法等が挙げられる。
【0041】
ソース電極、ドレイン電極およびゲート電極を形成する材料は、導電性材料であれば特に限定されるものではないが、例えば、白金、金、銀、ニッケル、クロム、銅、鉄、錫、アンチモン、鉛、タンタル、インジウム、パラジウム、アルミニウム、亜鉛、マグネシウム、およびこれらの合金やインジウム・錫酸化物(ITO)等の導電性金属酸化物等が用いられる。特に、白金、金、銀、銅、インジウム、ITOが好ましい。また、ドーピング等で導電率を向上させた無機および有機半導体、例えば、シリコン単結晶、ポリシリコン、アモルファスシリコン、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール等も用いることができる。ソース電極およびドレイン電極は、上述の物質の中でも有機半導体層との接触面において電気抵抗が少ないものが好ましい。
【0042】
電極の形成方法としては、メタルマスクを介して真空蒸着により金属電極をパターン化する方法、蒸着やスパッタリング等の方法を用いて形成した導電性薄膜を、公知のフォトリソグラフ法やリフトオフ法を用いて電極形成する方法、アルミニウムや銅などの金属箔上に熱転写、インクジェット等によるレジストを用いてエッチングする方法等がある。また、有機半導体の溶液あるいは分散液、導電性微粒子分散液を直接インクジェットによりパターニングしても良いし、塗工膜からリソグラフやレーザーアブレーションなどにより形成しても良い。さらに、有機半導体や導電性微粒子を含むインク、導電性ペーストなどを凸版、凹版、平版、スクリーン印刷などの印刷法でパターニングする方法も用いることができる。
【0043】
(実施例)
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0044】
なお、本実施例で用いた分析機器及び測定方法を以下に列記する。
【0045】
[元素分析]
元素分析計:パーキンエルマー全自動元素分析装置 2400II
酸素フラスコ燃焼−IC測定法:東ソー製 イオンクロマトグラフ IC−2001
[赤外分光分析]
赤外分光分析装置:パーキンエルマー赤外分光分析装置 システム2000
測定方法:ヌジョール法
[GPC測定]
測定方法:東ソー製 HLC−8220;カラム:東ソー製 G5000HXL−G3000HXL
溶媒:THF、濃度:0.5重量%、流速:1.0ml/分
[ガラス転移温度測定]
測定装置:マックサイエンスDSC−3100
測定方法:標準試料=Al5.0mg、昇温速度=10℃/分(窒素雰囲気)
[NMR測定]
NMR測定装置:VARIAN Gemini−200
[質量分析]
質量分析装置:日立製作所製 M−80B
測定方法:FD−MS分析またはGC−MS分析
【0046】
合成例1(化合物10の合成)
冷却管、温度計を装着した100ml四つ口丸底フラスコに、室温下、4,4”−ジヨード−p−ターフェニル 4.34g(10mmol)、4−n−ブチルアニリン 1.79g(12mmol)、ナトリウム−tert−ブトキシド 2.31g(24mmol;臭素原子に対して1.2当量)およびo−キシレン 35mlを仕込んだ。この混合液に、予め窒素雰囲気下で調製したトリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウムクロロホルム錯体22.9mg(0.025mmol;臭素原子に対して0.25mol%)およびトリ−tert−ブチルホスフィン 0.22ml(パラジウム原子に対して4当量)のo−キシレン(5ml)溶液を添加した。その後、窒素雰囲気下、温度を120℃まで昇温し、120℃で加熱攪拌しながら3時間熟成した。反応終了後、この反応混合物を約80℃まで冷却し、90%アセトン水溶液(200ml)の攪拌溶液へゆっくり加えた。ろ過により固体をろ別回収し、アセトン、水、アセトンの順番で洗浄した後、減圧乾燥して淡黄色粉体を得た(収率88%)。得られた粉体を元素分析および赤外分光分析により測定したところ、下記一般式(9)で表されるトリアリールアミンポリマーであることが確認された。
【0047】
【化6】

【0048】
続いて冷却管、温度計を装着した100ml四つ口丸底フラスコに、室温下、一般式(9)で表されるトリアリールアミンポリマー3.31g、ブロモベンゼン0.4g(2.5mmol)、ナトリウム−tert−ブトキシド 0.3g(3mmol)およびo−キシレン 25mlを仕込んだ。この混合液に、予め窒素雰囲気下で調製したトリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウムクロロホルム錯体9.2mg(0.01mmol)およびトリ−tert−ブチルホスフィン 0.09mlのo−キシレン(5ml)溶液を添加した。その後、窒素雰囲気下、温度を120℃まで昇温し、120℃で加熱攪拌しながら3時間熟成した。この反応混合物を室温まで冷却し、蒸留水(10ml)を加えて水洗した(3回)。溶媒を一部減圧留去した後、90%アセトン水溶液(300ml)の攪拌溶液へゆっくり加えた。ろ過により固体をろ別回収し、アセトン、水、アセトンの順番で洗浄した後、減圧乾燥して淡黄色粉体を得た(収率96%)。得られた粉体を元素分析および赤外分光分析により測定したところ、下記一般式(10)で表されるトリアリールアミンポリマーであることが確認された。元素分析および赤外分光分析の測定結果をそれぞれ表1および図2に示す。
【0049】
【化7】

【0050】
【表1】

【0051】
また、得られたポリマーをTHF系GPC(東ソー(株)製:HLC−8220;カラム:G5000HXL−G3000HXL(いずれも東ソー(株)製))にて分析した結果、ポリスチレン換算で重量平均分子量8,300および数平均分子量4,800(分散度1.7)であった。ガラス転移温度は167℃を示した。
【0052】
実験例1(2−アミノ−9,9−ジ−n−ブチルフルオレン(1−C)の合成)
【0053】
【化8】

【0054】
冷却管、温度計を装着した300ml四つ口丸底フラスコに、室温下、フルオレン8.3g(50mmol)、テトラブチルアンモニウムクロリド13.9g(50mmol)、1−ヨードブタン 22.1(120mmol)およびジメチルスルホキシド100mlを仕込んだ。60℃に昇温後、50%水酸化ナトリウム水溶液75mlを加え、24時間攪拌した。反応終了後、この反応混合物を室温まで冷却し、1M塩酸を用いて酸洗した後、トルエンを用いて有機層を抽出した。硫酸マグネシウムで乾燥、溶媒を減圧留去後、シクロヘキサン溶媒によるカラムクロマトグラフィーを実施し、淡黄色油状物として13.0g得た。さらにメタノールを用いた再結晶を実施し、無色結晶として10.1g得た(収率72%)。NMR測定から目的物1−Aであることを確認した。
【0055】
H−NMR(CDCl):7.5−7.8(2H,m),7.2−7.7(6H,m),1.97(4H,m),1.05(4H,m),0.67(6H,t,7.4Hz),0.5−0.7(4H,m)
13C−NMR(CDCl):150.56, 141.02, 126.90, 126.61, 122.78, 119.56, 54.93, 40.23, 25.98, 23.13, 13.86
【0056】
200ml丸底フラスコに、室温下、1−A 13.9g(50mmol)および酢酸150mlを仕込んだ。50℃に昇温後、濃硝酸13.7g(150mmol)をゆっくり滴下した。さらに80℃まで昇温し、3時間熟成した。反応終了後、この反応混合物を室温まで冷却し、1.5lの氷水中へゆっくり添加した。得られた沈殿物をデカンテーションおよびろ過操作により分離した。トルエンで再度溶解させ、純水、飽和食塩水を用いて洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥、溶媒を減圧留去し、黄色油状物として17.4g得た。さらにヘキサン溶媒によるカラムクロマトグラフィーを実施後、メタノールを用いた再結晶を実施し、黄色結晶として13.1g得た(収率81%)。NMR測定およびFD−MSから目的物1−Bであることを確認した。
【0057】
H−NMR(CDCl):8.26(1H,dd,8.0,2.2Hz),8.20(1H,d,2.2Hz),7.80(2H,d,8.4Hz),7.5−7.8(2H,m),7.3−7.5(3H,m),2.03(4H,m),0.9−1.2(4H,m),0.67(6H,t,7.4Hz),0.4−0.7(4H,m)
13C−NMR(CDCl):152.21, 151.84, 138.64, 129.19, 127.32, 123.20, 123.15, 121.11, 119.72, 118.18, 55.61, 39.90, 25.97, 22.98, 13.83
FD−MS=323
【0058】
50ml丸底フラスコに、室温下、1−B 10.97g(32.8mmol)および水硫化ナトリウム13.1g(164mmol)、n−ブタノール 120mlおよび水12mlを仕込み、110℃で24時間熟成した。この反応混合物を室温まで冷却し、濃縮後、トルエンを用いて有機層を抽出した。飽和食塩水を用いて洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥、溶媒を減圧留去し、ヘキサンを用いた再結晶により淡黄色固体として6.1g得た(収率63%)。NMR測定およびFD−MSから目的物1−Cであることを確認した。
【0059】
H−NMR(CDCl):7.54(1H,d,8.8Hz),7.47(1H,d,8.8Hz),7.1−7.3(3H,m),6.6−6.7(2H,m),3.73(2H,br s),1.75−2.05(4H,m),0.95−1.2(4H,m),0.67(6H,t,7.4Hz),0.45−0.8(4H,m)
13C−NMR(CDCl):152.52, 149.68, 145.80, 141.50, 132.45, 126.52, 125.27, 122.53, 120.39, 118.28, 113.88, 109.78, 54.74, 40.53, 25.97, 23.22, 13.94
FD−MS=293
【0060】
合成例2(化合物11の合成)
合成例1において、4−n−ブチルアニリン 1.79g(12mmol)の代わりに1−C 3.23g(11mmol)を用いた以外は、合成例1に記載した方法に従い実施し、淡黄色粉体を得た(収率83%)。得られた粉体を元素分析および赤外分光分析により測定したところ、下記一般式(11)で表されるトリアリールアミンポリマーであることが確認された。また、得られたポリマーは、ポリスチレン換算で重量平均分子量24,200および数平均分子量15,400(分散度1.6)であった。ガラス転移温度は201℃を示した。
【0061】
【化9】

【0062】
実験例2(ナフタレン誘導体(2−B)の合成)
【0063】
【化10】

【0064】
窒素気流下、冷却管、温度計を装着した200ml丸底フラスコに、室温下、2,6−ジヒドロキシナフタレン 4.8g(30mmol)、ピリジン38mlおよびトルエン60mlを仕込んだ。氷浴下で冷却した後、トリフルオロメタンスルホン酸無水物22g(78mmol)をゆっくり加え、終夜攪拌した。純水を加え、反応を停止した後、トルエンで有機層を抽出した。10%塩酸、水、飽和食塩水の順で有機層を洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥、溶媒を減圧留去し、褐色固体として12.9g得た。さらにヘキサンを用いた洗浄を実施し、淡褐色粉体として10.7g得た(収率84%)。NMR測定から目的物2−Aであることを確認した。
【0065】
H−NMR(CDCl):7.99(2H,d,9.2Hz),7.83(2H,d,2.6Hz),7.50(2H,dd,8.8Hz,2.2Hz)
13C−NMR(CDCl):147.78, 132.30, 130.75, 121.46, 119.41, 115.51
【0066】
窒素気流下、冷却管、温度計を装着した200ml丸底フラスコに、2−A 4.33g(10mmol)、4−クロロフェニルボロン酸 3.46g(21mmol)、テトラヒドロフラン80mlおよび20%炭酸水素ナトリウム水溶液42.5g(80mmol)を仕込んだ。その後、窒素雰囲気下、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム462mg(0.4mmol)を加え、65℃で終夜攪拌した。反応終了後、この反応混合物を室温まで冷却し、酢酸エチルで有機層を抽出後、溶媒を減圧留去し、析出した固体をジクロロメタンを用いて洗浄し、淡褐色粉体として2.1g得た(収率61%)。NMR測定およびFD−MSから目的物2−Bであることを確認した。
【0067】
H−NMR(dTHF):8.15(2H,s),8.01(2H,d,8.4Hz),7.82(2H,d,8.0Hz),7.79(4H,d,8.0Hz),7.49(4H,d,8.4Hz)
FD−MS=348
【0068】
合成例3(化合物12の合成)
合成例1において、4,4”−ジヨード−p−ターフェニル 4.34g(10mmol)の代わりに2−B 3.49g(10mmol)、4−n−ブチルアニリン 1.79g(12mmol)の代わりに4−n−オクチルアニリン 2.26g(11mmol)を使用し、反応温度を150℃、熟成時間を16時間とした以外は、合成例1に記載した方法に従い実施し、淡黄色粉体を得た(収率88%)。得られた粉体を元素分析および赤外分光分析により測定したところ、下記一般式(12)で表されるトリアリールアミンポリマーであることが確認された。また、得られたポリマーは、ポリスチレン換算で重量平均分子量20,900および数平均分子量13,500(分散度1.6)であった。ガラス転移温度は119℃を示した。
【0069】
【化11】

【0070】
実験例3(アントラセン誘導体(3−A)の合成)
【0071】
【化12】

【0072】
窒素気流下、冷却管、温度計を装着した200ml丸底フラスコに、9,10−ジブロモアントラセン 5.14g(15mmol)、4−クロロフェニルボロン酸 7.41g(45mmol)、テトラヒドロフラン80mlおよび20%炭酸水素ナトリウム水溶液47.5g(90mmol)を仕込んだ。その後、窒素雰囲気下、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム693mg(0.6mmol)を加え、70℃で30時間攪拌した。反応終了後、この反応混合物を室温まで冷却し、混合物中に析出した固体をろ過し、ヘキサン、純水、エタノールの順に洗浄し、淡黄色粉体として5.15g得た(収率86%)。GC−MSおよびNMR測定から目的物3−Aであることを確認した。
【0073】
H−NMR(dTHF):7.6−7.9(8H,m),7.3−7.5(8H,m)
GC−MS=398
【0074】
合成例4(化合物13の合成)
合成例3において、2−B 3.49g(10mmol)の代わりに3−A 3.99g(10mmol)を用いた以外は、合成例3に記載した方法に従い実施し、黄色粉体を得た(収率91%)。得られた粉体を元素分析および赤外分光分析により測定したところ、下記一般式(13)で表されるトリアリールアミンポリマーであることが確認された。また、得られたポリマーは、ポリスチレン換算で重量平均分子量19,200および数平均分子量12,300(分散度1.6)であった。ガラス転移温度は177℃を示した。
【0075】
【化13】

【0076】
合成例5(化合物15の合成)
合成例3において、2−B 3.49g(10mmol)の代わりに下記式(14)
【0077】
【化14】

【0078】
を4.49g(10mmol)用いた以外は、合成例3に記載した方法に従い実施し、淡黄色粉体を得た(収率88%)。得られた粉体を元素分析および赤外分光分析により測定したところ、下記一般式(15)で表されるトリアリールアミンポリマーであることが確認された。また、得られたポリマーは、ポリスチレン換算で重量平均分子量15,600および数平均分子量9,900(分散度1.6)であった。
【0079】
【化15】

【0080】
比較合成例1(化合物16の合成)
合成例1において、4,4”−ジヨード−p−ターフェニル 4.34g(10mmol)の代わりに1,4−ジブロモ−1,5−ジメチルベンゼン 2.64g(10mmol)および4−n−ブチルアニリン 1.49g(10mmol)を用いた以外は、合成例1に記載した方法に従い実施し、淡黄色粉体を得た(収率87%)。得られた粉体を元素分析および赤外分光分析により測定したところ、下記一般式(16)で表されるトリアリールアミンポリマーであることが確認された。また、得られたポリマーは、ポリスチレン換算で重量平均分子量7,300および数平均分子量4,500(分散度1.6)であった。ガラス転移温度は183℃を示した。
【0081】
【化16】

【0082】
比較合成例2(化合物17の合成)
合成例1において、4,4”−ジヨード−p−ターフェニル 4.34g(10mmol)の代わりに4,4’−ジヨードビフェニル 2.03g(5mmol)を用いた以外は、合成例1に記載した方法に従い実施し、淡黄色粉体を得た(収率90%)。得られた粉体を元素分析および赤外分光分析により測定したところ、下記一般式(17)で表されるトリアリールアミンポリマーであることが確認された。また、得られたポリマーは、ポリスチレン換算で重量平均分子量9,700および数平均分子量6,000(分散度1.6)であった。ガラス転移温度は171℃を示した。
【0083】
【化17】

【0084】
比較実験例1(N,N−ビス{4−(4’,4’,5’,5’−テトラメチル−1’,3’,2’−ジオキサボラニル)フェニル−4−オクチルアニリン(4−C)の合成)
【0085】
【化18】

【0086】
冷却管、温度計を装着した300ml四つ口丸底フラスコに、室温下、ブロモベンゼン17.3g(110mmol)、4−n−オクチルアニリン 10.3g(50mmol)、ナトリウム−tert−ブトキシド 12.7g(132mmol)およびo−キシレン 170mlを仕込んだ。この混合液に、予め窒素雰囲気下で調製したトリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウムクロロホルム錯体229mg(0.25mmol)およびトリ−tert−ブチルホスフィン 2.2mlのo−キシレン溶液(5ml,0.2mg/ml)を添加した。その後、窒素雰囲気下、温度を120℃まで昇温し、120℃で加熱攪拌しながら4時間熟成した。反応終了後、この反応混合物を室温まで冷却し、トルエンを用いて有機層を抽出した。硫酸マグネシウムで乾燥、溶媒を減圧留去後、ヘキサン溶媒によるカラムクロマトグラフィーを実施し、淡黄色油状物として14.1g得た(収率78%)。
【0087】
300ml四つ口丸底フラスコに、室温下、4−A 14.1g(39mmol)およびN,N−ジメチルホルムアミド 150mlを仕込んだ。この混合液に、N,N−ジメチルホルムアミド 50mlにN−ブロモスクシンイミド 9.8g(55mmol)を溶解させた溶液をゆっくり滴下し、滴下終了後から室温で3時間反応させた。反応終了後、この反応混合物をトルエンを用いて有機層を抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥、溶媒を減圧留去後、ヘキサン溶媒によるカラムクロマトグラフィーを実施し、淡黄色油状物として17.8g得た(収率87%)。NMR測定から目的物4−Bであることを確認した。
【0088】
H−NMR(CDCl):6.8−7.7(12H,m),2.57(2H,t,7.6Hz),1.45−1.70(2H,m),1.15−1.45(10H,m),0.90(3H,t,6.6Hz)
13C−NMR(CDCl):143.63, 144.28, 138.86, 132.14, 129.43, 124.93, 114.91, 35.46, 31.96, 31.52, 29.54, 29.45, 29.32, 22.75, 14.20
【0089】
300ml四つ口丸底フラスコに、室温、窒素雰囲気下、1−B 5.2g(10mmol)およびテトラヒドロフラン100mlを仕込んだ。この混合液を−78℃まで冷却した後、n−ブチルリチウムのヘキサン溶液 8.3ml(122mmol)を約15分かけて滴下し、2時間攪拌した。その後、トリイソプロポキシボラン7.1ml(30mmol)を約15分かけて滴下し、ゆっくり室温まで昇温させながら終夜攪拌した。反応終了後、この反応混合物を0℃に冷却し、純水10mlを加えた後、10%塩酸水溶液20mlをゆっくり加え、さらに30分攪拌した。攪拌終了後、酢酸エチルを用いて有機層を抽出し、硫酸マグネシウムで乾燥した。ここで1,3−プロパンジオール 1.7g(22mmol)を加え、混合物を減圧濃縮し、溶媒を留去した後、トルエン/酢酸エチル(1/1体積%)混合溶媒によるカラムクロマトグラフィーを実施し、白色固体として5.0g得た(収率95%)。NMR測定から目的物4−Cであることを確認した。
【0090】
H−NMR(CDCl):7.61(4H,d,8.4Hz),6.8−7.4(8H,m),4.13(8H,m),2.57(2H,t,7.6Hz),2.03(4H,m),1.45−1.70(2H,m),1.15−1.45(10H,m),0.89(3H,t,6.6Hz)
【0091】
比較合成例3(化合物18の合成)
冷却管、温度計を装着した100ml四つ口丸底フラスコに、室温下、4,4’−ジヨードビフェニル 796mg(1.96mmol)、1−C 1.05g(2mmol)、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド(「Aliquat336」登録商標、ヘンケル社製) 80.8mg(0.2mmol)、炭酸カリウム4.4g(32mmol)、純水16mlおよびトルエン24mlを仕込んだ。この混合液を20分間窒素バブリングした後、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム46mg(0.04mmol)を添加し、温度を85℃まで昇温し、加熱攪拌しながら約1日熟成した。その後、ブロモベンゼンを加え、さらに1日加熱攪拌した。反応終了後、この反応混合物を室温まで冷却した後、90%アセトン水溶液(300ml)の攪拌溶液へゆっくり加えた。ろ過により固体をろ別回収し、アセトン、水、アセトンの順番で洗浄した後、減圧乾燥した。さらにトルエン溶媒によるカラムクロマトグラフィーを実施し、濃縮溶液を再度アセトン中へゆっくり加えて析出させ、乾燥させることで淡黄色粉体を得た。得られた粉体を元素分析および赤外分光分析により測定したところ、下記一般式(18)で表されるトリアリールアミンポリマーであることが確認された。また、得られたポリマーは、ポリスチレン換算で重量平均分子量19,400および数平均分子量11,300(分散度1.7)であった。
【0092】
【化19】

【0093】
比較合成例4(化合物19の合成)
合成例2において、4,4’−ジヨードビフェニル 796mg(1.96mmol)の代わりに4,4”−ジヨード−p−ターフェニル 964mg(2mmol)および1−Cを 1.10g(2.1mmol)用いた以外は、合成例2に記載した方法に従い実施し、淡黄色粉体を得た。得られた粉体を元素分析および赤外分光分析により測定したところ、下記一般式(19)で表されるトリアリールアミンポリマーであることが確認された。また、得られたポリマーは、ポリスチレン換算で重量平均分子量7,600および数平均分子量5,300(分散度1.4)であった。
【0094】
【化20】

【0095】
実施例1
以下の手順により、図1(D)に示す構成の電界効果トランジスタを作製した。
【0096】
ガラス基板上に、電極のパターンのマスクを介して金を真空蒸着法により厚さ30nm、5mm幅のゲート金電極を作製した。このガラス基板を化学蒸着装置へ移し、減圧下でキシリレンダイマー(商品名パリレンC、日本パリレン(株)製)を180℃で加熱蒸発させ、680℃に加熱した加熱管を通して熱分解して、ジラジカルモノマーを発生させた。室温に保持した当該基板上へ発生させたジラジカルモノマーを導入し、厚さ860nmのポリパラキシリレン薄膜を作製した。続いてアリールアミンポリマー(10)の0.6wt%トルエン溶液を用い1000rpmでスピンコートすることにより、50nmの膜厚の有機半導体層を形成した。ソース電極とドレイン電極を形成するためのメタルマスクパターンを設けて、真空蒸着により厚さ40nmの金電極を形成した。これにより、チャンネル長が75μmでチャンネル幅が5mmのソース・ドレイン電極が形成された。作製した素子を測定容器に移し、容器を真空にした後、素子特性の測定を行った。素子のソース電極を接地し、ドレイン電極にマイナス電圧、ゲート電極にマイナス電圧を印加して、それぞれの電圧を増加させると、ドレイン電流の増加が観測された。図3にドレイン電流のゲート電圧依存性を示す。飽和電流より求めた正孔移動度は2.4×10−4cm−1−1で、しきい値電圧−54V、オン/オフ電流比は2.1×10であった。測定後の素子を窒素雰囲気グローブボックスで、100℃で12時間アニールを行い、再び測定容器に移し、容器を真空にした後、素子特性の測定を行った。その結果、正孔移動度は1.3×10−3cm−1−1、しきい値電圧−56V、オン/オフ電流比5.6×10となり、トランジスタ特性が向上した。
【0097】
実施例2〜5
実施例1において、有機半導体層として、アリールアミンポリマー(10)の代わりにアリールアミンポリマー(11)〜(13)および(15)をそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様の手順によって電界効果トランジスタを作製した。得られた電界効果トランジスタについて、実施例と同様の手順で素子特性の測定を行った。結果を表2に示す。
【0098】
比較実施例1〜4
実施例1において、有機半導体層として、アリールアミンポリマー(10)の代わりにアリールアミンポリマー(16)〜(19)をそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様の手順によって電界効果トランジスタを作製した。得られた電界効果トランジスタについて、実施例と同様の手順で素子特性の測定を行った。結果を実施例の結果と合わせて表2に示す。
【0099】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明に用いる有機半導体材料は、高純度であり、電荷輸送材料としてキャリア移動度が高いため、有機薄膜トランジスタに用いた場合、オン/オフ比が大きく、しかも応答速度が高速化されており、電界効果トランジスタとして極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】電界効果トランジスタ素子の主な概略構成図を示す。
【図2】合成例1で得られた化合物(10)の赤外分光分析の測定結果を示す。
【図3】実施例1で得られた化合物(10)を用いて作製した電界効果トランジスタ素子のゲート電圧−ドレイン電流曲線を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともp型有機半導体、ソース電極、ドレイン電極およびゲート電極を備える電界効果トランジスタにおいて、該p型有機半導体成分が、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する重量平均分子量3,000〜50,000の高分子化合物を含んでなることを特徴とする電界効果トランジスタ。
【化1】

[式中、Arは置換若しくは無置換の炭素数6〜60のアリール基である。RおよびRは各々独立して水素原子、炭素数1〜18のアルキル基若しくはアルコキシ基、または炭素数6〜18のアリール基であり、隣り合う炭素原子と縮合環を形成しても良い。mは0〜5の整数、aは0〜4の整数、bは0≦b≦2m+4の整数である。]
【請求項2】
一般式(1)において、Arが下記一般式(2)または(3)で表されることを特徴とする請求項1に記載の電界効果トランジスタ。
【化2】

[式中、R、RおよびRは各々独立して水素原子、炭素数1〜18のアルキル基若しくはアルコキシ基、または炭素数6〜18のアリール基である。cは0〜4の整数である。]
【請求項3】
前記一般式(1)が、下記一般式(4)〜(8)のいずれかで表されることを特徴とする請求項1に記載の電界効果トランジスタ。
【化3】

[式中、R、R、R、R、R10およびR11は各々独立して炭素数4〜18の直鎖、分鎖若しくは環状のアルキル基、または炭素数6〜60のアリール基である。]
【請求項4】
p型有機半導体に用いる前記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物をアニール処理することを特徴とする請求項1に記載の電界効果トランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−294321(P2008−294321A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−139959(P2007−139959)
【出願日】平成19年5月28日(2007.5.28)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】