説明

電界効果発光素子及びその製造方法

【課題】 集積回路基体や可撓性基体と一体化されたカラー表示が可能な電界効果発光素子及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 信号処理回路や駆動回路が集積化されたp形Si基体10やこのp形Si基体10を薄膜化して可撓性を持たせた基体上に形成した層間絶縁体膜20の上面に、IV族半導体元素を高濃度にドーピングしたSi元素を主要構成要素とする発光用絶縁性膜22と第1の電極21及び第2の23で構成された電界効果発光素子を形成し、必要に応じてカラーフィルタや蛍光体膜を用いてカラー表示を可能とした交流駆動の電界効果発光素子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界効果発光素子(以下、EL(ElectroLuminescence)素子と称する)及びその製造方法に関する。特に、シリコン(以下、元素記号のSiと称する)系材料を主要構成要素とするEL素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Siは間接遷移型半導体であるために発光素子として用いた場合の発光効率が低く、更には、エネルギー・バンドギャップが約1.1 eVであるために期待される発光波長は約900nmの赤外領域にあり、可視光の電界発光素子の実現は困難であると考えられていた。しかし、1990年に多孔質Siで形成されるnmサイズのSi微粒子からのフォトルミネセンス効果による赤色発光が報告されて以来、Si微粒子を用いた可視光発光素子、特にEL素子の開発が活発になった。その後、1996年の特許文献1に、シリコン酸化膜(SiO2)にシリコンを高濃度にイオン注入し、アニールして形成したシリコンのナノ結晶からのフォトルミネセンス効果が開示されている。また、同年の特許文献2には、Si基板上に熱酸化法又はCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長)法で形成されたSiO2中にSiイオン等を注入して形成したEL素子が開示されている。更に、1996年から1997年にかけて、非特許文献1及び2に開示されているように、Si基体上に形成されたSiをイオン注入したゲート酸化膜を有するMOS(Metal-Oxide-Semiconductor)型素子に直流電圧を印加することにより可視光を発光することが、高感度の分光装置を用いて確認された。更に、1998年の非特許文献3に開示されているように,上記のMOS型素子に交流電圧を印加することにより、直流電圧印加の場合に比べて発光強度の増大とその経時変化の大幅な改善効果が確認され、Si系電界効果可視発光EL素子の実現可能性が高まった。その後、2001年に発表された非特許文献4に開示されているように、多結晶Si電極を有するMOS型素子からの白色光発光が、2003年に発表された非特許文献5に開示されているように、金薄膜の透明電極を有するMOS型素子からの青色光発光が顕微鏡写真に撮影され、Si系電界効果可視・紫外発光素子の実現性の可能性が一層高まった。
【0003】
従来のEL素子の代表的な断面構造図を図18及び図19に示す。図18の例は、p形Si基体100の上面に形成されたnチャネル形MOSFETにおいて、Siをイオン注入したシリコン酸化膜110を発光用絶縁性膜として用いている。このシリコン酸化膜はp形Si基体100を熱酸化して形成される。EL素子の一方の電極となるゲート電極120は高濃度のn形不純物を含むn+多結晶Si膜で形成されている。EL素子の他方の電極はp形Si基体100であり、その裏面に形成されているアルミニウム膜130から引き出される。Siイオン注入シリコン酸化膜110の両端に接するSi基体表面に形成されている高濃度のn形不純物を含むn+領域はMOSFETのソース・ドレイン領域140である。GND電位をアルミニウム膜130とソース・ドレイン領域140に印加し、ゲート電極120に直流電圧又は交流電圧を印加すると、Siイオン注入シリコン酸化膜110からEL発光を放射する。図18に示す例では、交流電圧を印加した場合を示す。なお、シリコン酸化膜150は、EL素子の素子分離領域を形成している。
【0004】
図19に示すもう一つの従来例は、図18に示すMOSFET構造におけるソース・ドレイン領域140を形成していない簡略化したMOS構造によるEL素子である。p形Si基体101の表面に熱酸化工程によって形成したシリコン酸化膜にSiをイオン注入することによりSiイオン注入シリコン酸化膜111を形成し、発光用絶縁性膜とする。EL素子の一方の電極としてのゲート電極121は、短波長のEL光を透過せしめるために、10〜20 nm厚の金薄膜で形成している。また、EL素子の他方の電極はp形Si基体101の裏面に形成したアルミニウム膜131から引き出される。ゲート電極121に直流電圧を印加するとSiイオン注入シリコン酸化膜111からEL発光が放射される。しかし、図19に示す構造では、ゲート電極121にはp形Si基体101の表面に蓄積層が形成される極性の直流電圧(この従来例の場合には負の電圧)を印加した場合にのみEL発光が観測される。p形Si基体101の表面に空乏層が形成される正の直流電圧を印加した場合には、その空乏層にも電圧が加わって、Siイオン注入シリコン酸化膜111に加わる電圧が著しく低下するためにEL発光は観測されない。しかし、特許文献2に例示されているように、高濃度の不純物を含むSi基体を用いれば交流駆動も可能であるが、高濃度Si基体上への半導体集積回路の形成は困難であり、集積回路と一体化したEL素子を形成することはできない。従って、図19に示す構造のEL素子は実用性に欠ける。
【0005】
以上に述べた従来のEL素子の有する課題をまとめると、以下の5項目が挙げられる。
【0006】
第1として、従来のEL素子は、Si基体上に熱酸化法又はCVD法で形成されたシリコン酸化膜中にSiをイオン注入してMOS構造を形成しているのでSi基体の表面をEL素子自体が占有し、EL素子の駆動回路等を同一のSi基体上に効率よく集積化することができない課題を示すことができる。また、従来のEL素子は200〜300Vの高電圧の交流駆動電圧を必要とするので、現在の集積回路の主流となっているCMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor:相補形MOS)回路で直接駆動することができないために、高耐圧のMOSFETを必要とし、その製造コストが上昇する課題を示すことができる。
【0007】
第2として、可撓性のないSi基体の表面にEL素子が形成されているために、平坦な構造の表示装置しか形成できず、フレキシブルな形状に加工が可能なEL素子を実現することはできない課題を示すことができる。このため、EL素子の用途は限定されたものとなる。特に、フレキシブルな形状のEL素子を可能にすることは、家庭用の光源としての新しい用途開発のためには必須の要件である。
【0008】
第3として、EL素子を照明用光源や表示装置として利用するためには、白色光の発光はもちろんのこと、カラー表示を可能とすることが必須であるが、現在までに、具体的な白色光発光やカラー表示を実現するための方法は提示されていない課題を示すことができる。
【0009】
第4として、EL素子を交流駆動することにより発光強度とその経時変化が大幅に改善されるので、EL素子の実用化には必須の駆動方式と考えられるが、EL素子に効率的に交流電圧を印加する方式は具体的に提案されていない課題を示すことができる。特に、家庭用の光源として利用する場合には、家庭用の商用交流電源を有効に活用する駆動方式を開発することが課題である。
【0010】
第5として、従来のEL素子は、イオン注入法を用いてシリコン酸化膜にSiをドープしていた。しかし、EL発光に必要な1016 cm-2オーダーのSiをドープするためには、高価なイオン注入装置を数時間〜数十時間の長時間にわたり占有することとなり、従って、EL素子の製造コストは著しく高価となる課題を示すことができる。EL素子の低コスト製造には、イオン注入法に代わる低コストなドーピング法の導入が必要である。
【0011】
しかし、上記のSi系のEL素子は、資源的に無尽蔵に存在し、低価格なSi材料を主原料としているので製造における材料の枯渇を心配する必要がない。また、主要な構成材料(基体としてのSi、絶縁膜としてのSiO2、ドーパントとしてのSi、電極としての多結晶Siや金)は、全て人体に無害であり、地球に優しいデバイスでもある。更には、このEL素子の製造工程は極めて単純であり、低コストで製造できる可能性を有し、その実用化が待望されている。
【0012】
【特許文献1】特開平08-017577号公報
【特許文献2】特開平08-017576号公報
【非特許文献1】L.-S. Liao 他, "Visible electroluminescence from Si+-implanted SiO2 films thermally grown on crystalline Si," Solid State Communications, vol. 97, no. 12, pp. 1039-1042, 1996.
【非特許文献2】T. Matsuda 他, "Electroluminescence of MOS capacitors with Si-implanted SiO2," Solid-State Electronics, vol. 41, no. 6, pp. 887-893, 1997.
【非特許文献3】T. Matsuda 他, "Direct-current and alternating-current electroluminescence of MOS capacitors with Si-implanted SiO2," Solid-State Electronics, vol. 42, no. 1, pp. 129-138, 1998.
【非特許文献4】T. Matsuda 他, "Visible electroluminescence from MOS capacitors with Si-implanted SiO2 under dynamic operation ," Technical Digest of International Electron Devices Meeting, pp. 167-170, Dec. 2001.
【非特許文献5】T. Matsuda 他, "Blue electroluminescence of MOS capacitors with Si-implanted SiO2," Proceedings of International Semiconductor Device Research Symposium, pp. 94-95, Dec. 2003.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、従来例のEL素子の有する上記の5つの課題を解決するための具体的な手段を提供することにある。特に、上記EL素子の用途を拡大するための新規な構造と、実用的な交流駆動方式及び低コストで製造可能な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、上記の5つの課題を解決する手段を提案する。
【0015】
上記の第1及び第2の課題を解決するために、半導体集積回路、特にCMOS形集積回路が形成された基体や可撓性の基体の上面にEL素子を形成することを可能にして、半導体集積回路で構成されるEL素子の駆動回路と一体化されたEL素子や可撓性を有するEL素子を実現した。
【0016】
本発明によるEL素子は、基体の上面に形成された第1の電極と、その上面に形成された熱酸化法やCVD法、スパッタ蒸着法等で堆積される絶縁性膜、例えばSiO2やSi3N4等のSi元素を主要構成要素とする絶縁性膜にSiやGe等のIV族半導体元素をドープして形成する発光用絶縁性膜と、更にその上面に第2の電極を有し、上記第1と第2の電極間に交流の電圧を印加してEL発光せしめる。
【0017】
本発明によるEL素子では、EL発光を外部に取り出すために、上記の第1又は第2の電極の少なくとも一方の電極は、EL発光波長の所望の波長領域を透過せしめる透明な電極を用いることが好ましい。更には、前記の第1又は第2の電極としてEL発光を反射せしめる電極を用いて、効率よくEL発光を外部へ取り出すこともできる。
【0018】
発光用絶縁性膜としてシリコン基体を熱酸化して形成したシリコン酸化膜を用い、シリコン基体を一方の電極として用いていた従来のEL素子に比べて、本発明によるEL素子は半導体集積回路の上面に形成可能であるため、EL素子自身がシリコン基体を占有する面積が不要となり、高密度で低コストのEL表示装置が実現できる。
【0019】
また、本発明によるEL素子は、駆動回路や信号処理回路等を同一の基体上に一体化して構成できるために、高性能なEL表示装置が実現できる。特に、本発明によるEL素子の交流駆動電圧は50V以下と低電圧化が実現できたので、上記回路をCMOS回路で構成することが可能になり、超低消費電力のEL表示装置が実現できる。
【0020】
なお、上記の半導体集積回路は、Si等の無機半導体材料に限らず、有機半導体材料で製造されてもよいことは言うまでもない。特に、有機半導体材料で製作される場合には、可撓性の基体を用いることが容易なために、自由に変形が可能なEL素子を形成することもできる。
【0021】
本発明によるEL素子は、絶縁体膜上にも形成できる。従って、可撓性があり自由に変形が可能なプラスチック膜等を基体とした絶縁体膜上に第1の電極を、その上面に上記の発光用絶縁性膜と、更にその上面に第2の電極を形成することにより、柔軟で自由に変形が可能なEL素子やEL表示装置ができるので、上記の第2の課題が解決される。更に、本発明のEL素子では、上記の基体としての可撓性の絶縁体膜を必ずしも必要とせず、可撓性のある第1又は第2の電極を基体そのものとして用いることもできる。
【0022】
本発明による上記の如き構造のEL素子により、自在に変形可能なEL発光源が実現できるので、デザイン性の優れた家庭用照明器具や装飾用発光器具等が設計でき、新しい用途が開拓可能である。
【0023】
本発明によるEL素子は、発光用絶縁性膜中の半導体元素のドープ量によって異なる発光波長分布のEL発光を得ることができる。従って、発光用絶縁性膜の平面方向に選択的に異なるドープ量の領域を形成すれば、それぞれの領域に応じて異なる発光波長分布を持つEL素子を形成できる。また、発光用絶縁性膜の厚み方向に複数のIV族半導体元素の異なるドープ量の領域を形成すれば、それぞれの領域から異なる発光波長分布を持つEL発光が混合されたEL発光を得ることもできる。これらの方法を用いて複数の領域から異なる発光波長成分、すなわち異なる色成分を有するEL発光を得ることができるので、カラー表示が可能なことはもちろんのこと、より優れた特性の白色光を得ることができ、上記第3の課題が解決される。
【0024】
また、本発明によるEL素子は、白色光あるいは青色光又は紫外光をEL発光可能である。白色光EL素子の場合には、赤・緑・青の色の3原色に対応するカラーフィルタ膜をこのEL素子の上面に選択的に形成した1組のEL素子をマトリクス状に配置することにより、カラー表示装置を実現できる。また、青色EL素子の場合には、このEL素子の上面に青色のカラーフィルタ膜と、青色を赤色と緑色に変換する蛍光体膜とを選択的に形成した1組のEL素子をマトリクス状に配置すればカラー表示装置ができる。同様に、紫外光を発光するEL素子の場合には、紫外光を赤・緑・青色に変換する蛍光体膜をこのEL素子の上面に選択的に形成した1組のEL素子をマトリクス状に配置すればカラー表示装置ができる。上述の様な本発明の方法を用いることによりカラーEL表示装置が実現できるので、上記第3の課題を解決することができる。
【0025】
更に、本発明によるEL素子は、交流駆動の周波数を変化せしめることによっても、そのEL発光の波長分布を制御可能である。従って、第1の電極を共通電極として用い、複数の第2の電極を選択的に形成して各電極に異なる周波数の交流電圧を印加すれば、それぞれの交流周波数に対応した異なる波長分布、すなわち異なる色のEL発光が得られる。このEL素子をマトリクス状に配置すれば、多色又はカラー化したEL表示装置が実現でき、上記第3の課題も解決される。
【0026】
本発明のEL素子は交流で駆動することを基本とする。しかし、上記の第4の課題を解決するためには、簡便で、CMOS回路での直接駆動を可能とする低電圧振幅電圧による交流駆動方式が必要である。特に、家庭用の照明光源として用いるためには、商用の50Hz又は60Hzの正弦波交流電圧を電源にして効率よくEL素子に電圧を印加する駆動方式が好ましい。このために、本発明では、商用交流電源を直接印加する方法と、第1の電極と第2の電極に互いに180度位相の異なる交流電圧を印加することにより上記EL素子に実効的に正弦波の最大電圧振幅が印加される方法を用いた。また、家庭用の100V電圧がEL素子の印加電圧としては高い場合には、EL素子の要求する所望の電圧振幅に制限した交流電圧を印加する方法と、それ等の位相が互いに180度異なる電圧波形を、それぞれ第1と第2の電極に印加して効率よくEL素子を駆動する方法を用いた。なお、交流駆動の波形は、正弦波に限定されることなく、矩形波や三角波等でもよいことは言うまでもない。また、交流駆動の周波数は、商用周波数に限らず、kHz〜MHzオーダのより高い周波数でもよい。
【0027】
上記の第5の課題であるEL素子の低コスト製造を実現するために、本発明では、大電流でのドーピングが可能で高ドーパント濃度領域の形成が容易なイオンドーピング法(ビームエネルギーは約10keV〜100keV)又はプラズマドーピング法(ビームエネルギーは約10keV以下)を用いることにより、絶縁性膜にIV族半導体元素を短時間で1016〜1017cm-2程度にドーピングすることを可能とし、低コストで発光用絶縁性膜を製造することを可能にした。
【0028】
また、EL発光源を発光用絶縁性膜中にできるだけ均一に分布せしめて効率よく発光させるために、イオンドーピング法等を用いて異なるビームエネルギーで複数回ドーピングする多重ドーピング法を用いることも好ましい。なお、それぞれのビームエネルギーに応じてドーピング濃度を変えることによって、発光用絶縁性膜中に複数のドーパント濃度の異なる領域を形成できるので、それらの領域に応じて異なるEL発光波長分布が重畳したEL発光を得ることも可能である。このことにより、より優れた白色光を得たり、より純度の高い発光色を得ることができる。
【0029】
更に、プラズマドーピング法では、短時間での高濃度のドーピングが可能であるが数keV以上のビームエネルギーでの注入が困難なために、10 nm以上の厚い絶縁性膜の中央付近までドーピングすることは困難である。従って、本発明では、10 nm以下の絶縁性薄膜の形成とその膜中へのプラズマドーピングを何度も繰り返して多層膜構造にすることにより所望の厚みのEL発光用絶縁性膜とこの膜中での均一なEL発光源分布を実現する。この手法を用いれば、異なるドーパント濃度を有する発光用絶縁性膜の多層構造も形成できるので、各層からの異なるEL発光波長分布が重畳したEL発光も得られる。
【発明の効果】
【0030】
集積回路と一体化したEL素子又は可撓性の基体上に形成したEL素子を効率のよい交流駆動回路と組み合わせることにより、多色又はカラー表示可能で高機能なEL表示装置や照明装置を実現し、更にそれらのEL装置を低コストで製造可能な製造方法を実現した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
図1に、本発明によるEL素子の1実施例の断面構造図を示す。p形Si基体10にpウェル11とnウェル12を形成し、それぞれのウェル中に高濃度のn形不純物を含むn+領域のソース・ドレイン領域13と高濃度のp形不純物を含むp+領域のソース・ドレイン領域14を形成する。p形Si基体10の表面を熱酸化してゲート絶縁体膜15,16となるシリコン酸化膜を形成し、それぞれの上面にn+多結晶Si膜及びp+多結晶Si膜のゲート電極17,18を形成してn-MOSFETとp-MOSFETよりなるCMOS形集積回路を構成する。p形Si基体10の表面に形成されているシリコン酸化膜19はMOSFETの素子分離領域を形成する。
【0032】
このCMOS形集積回路の上面にシリコン酸化膜等の層間絶縁体膜20を形成し、その上面に多結晶Si膜等の半導体材料、CoSi2やTiSi等のシリサイド材料、MoやW等の高融点金属やAlやCu等の高導電性金属等よりなるEL素子用の第1の電極21を形成する。
【0033】
本実施例の場合には、EL発光を表面側から取り出すことを想定しているので、この第1の電極21としてはEL発光波長を反射せしめる電極材料を用いて、できるだけ多くのEL発光を外部に取り出すことが望ましい。
【0034】
上記第1の電極21の上面に、SiやGe等のIV族半導体元素をドープした発光用絶縁性膜として、SiO2膜やSi3N4膜等のSiを主要構成要素とする発光用絶縁性膜22を形成する。この発光用絶縁性膜22の形成には、上記第1の電極21として多結晶Si膜等の半導体材料、CoSi2やTiSi等のシリサイド材料等を用いた場合には、熱酸化法を用いて電極21の上面にSiO2膜を形成し、このSiO2膜にSiやGe等のIV族半導体元素をドープして発光用絶縁性膜とすることも可能である。その他の材料を用いた電極21を用いる場合には、CVD法、スパッタ蒸着法等で堆積したSiO2やSi3N4等のSi元素を主要構成要素とする絶縁性膜を形成し、この絶縁性膜にSiやGe等のIV族半導体元素をドープして発光用絶縁性膜を形成すればよい。この発光用絶縁性膜の上面に、所望のEL発光波長を通過せしめることが可能な多結晶Si膜等の半導体材料、CoSi2やTiSi等のシリサイド材料、MoやW等の高融点金属やAlやCu等の高導電性金属等よりなる薄膜で形成された発光波長に対して透明又は半透明な第2の電極23を形成する。
【0035】
図1に示す実施例では、EL素子の第1の電極21とCMOSFETのソース・ドレイン領域13,14とを、層間絶縁体膜20に形成した開口部に埋め込んだ相互配線24を介して接続し、CMOS形集積回路で発生した駆動信号をこのEL素子に印加している様子を示したが、通常の集積回路の製造技術を用いれば、同一のSi基体上に形成されている他のCMOS形集積回路から第2の電極23へ駆動信号を印加することは容易である。
【0036】
本発明による別の実施例の断面構造図を図2に示す。基体30の上面に第1の電極21、発光用絶縁性膜22及び第2の電極23を積層することにより、EL素子を一体化して形成したものである。基体30としてプラスチック薄膜等の変形自在な可撓性の絶縁体膜を用い、EL素子を構成する第1の電極21、発光用絶縁性膜22及び第2の電極23として可撓性を有する材料で形成すれば、可撓性を有するEL素子が実現できる。なお、本実施例では、第1の電極21と第2の電極23との間に交流電圧25を印加した例を示しているが、直流電圧を印加してもよいことは言うまでもない。
【0037】
また、図2に示すように、第1の電極21としてEL発光した光に対する反射膜を用いることにより、反射光も外部に取り出すことができるのでEL発光を外部に取り出す効率が大幅に改善される。また、第1の電極21にEL発光波長に対して半透明又は透明な膜を用い、基体30として光に対する反射膜を用いても同様の効果が得られる。
【0038】
図2に示した実施例では、第1の電極21として光を反射する膜を用いて第2の電極23を通過するEL発光を外部に取り出す例を示しているが、第1の電極21にEL発光波長に対して半透明又は透明な電極を用い、第2の電極23にEL発光を反射する膜を用いれば、第1の電極21を通過するEL発光を外部に取り出すことも可能である。ただし、この場合には基体30は取り出したいEL発光波長に対して透明な材質を用いなければならない。
【0039】
本発明による可撓性を有するEL発光素子の別の実施例を図3の斜視図に示す。本実施例では、基体として可撓性がありEL発光波長に対して光を反射する多結晶Si膜等の半導体材料、CoSi2やTiSi等のシリサイド材料、MoやW等の高融点金属やAlやCu等の高導電性金属等よりなる膜で形成された第1の電極21を用いた例を示している。この第1の電極21の上面に可撓性を有する上記発光用絶縁性膜22を形成し、更にその上面にEL発光波長に対して半透明又は透明な可撓性を有する第2の電極23を形成する。電圧を第1の電極21と第2の電極23との間に印加する。図3の実施例では、印加電圧として交流電圧25を印加した例を示しているが、直流電圧を印加することも可能である。
【0040】
更に、図1から図3に示した実施例において、第1と第2の電極21,23が共に光を反射する膜を用いて、EL発光をEL発光用絶縁性膜の側面から取り出すことも可能である。各電極がEL光に対して反射する材料を用いるか又は透過する材料を選択するかの組み合わせは、そのEL素子の用途によって自由に選ぶことができる。
【0041】
また、図1ではp形Si基体10として通常の半導体集積回路の製造に用いられる数100μm以上の厚さのSi基体を想定して説明した。しかし、p形Si基体10を数10μm以下、望ましくは数μm以下に研磨して薄膜化すれば、p形Si基体も可撓性を有するようになるので図1に例示する集積回路と一体化したEL素子も変形可能となり、EL素子の形状を自由に変えることができる。
【0042】
更には、図1ではp形Si基体10を用いた半導体集積回路の上面にEL素子を形成した例を示したが、p形Si基体10に代えて有機半導体を用いた半導体集積回路が形成された基体を用いることも可能である。有機半導体集積回路は可撓性を有する基体上にも容易に形成可能であるために、自由に変形可能な集積回路と一体化された可撓性を有するEL素子が製造できる。
【0043】
図1から図3に示す実施例では、EL素子が基体に対して平行方向に形成されている例を示した。しかし、図4に示すように、本発明によるEL素子は基体に対して垂直な方向に形成することも可能である。すなわち、基体30の上面に、垂直方向に第1の電極21、発光用絶縁性膜22及び第2の電極23の3層膜を形成してEL素子とすることもできる。第1及び第2の電極21,23をEL発光波長に対する反射膜とすれば、強いEL発光を外部に取り出すことができる。
【0044】
また、第1の電極21と第2の電極23は、発光用絶縁性膜に対して必ずしも対向して形成する必要はなく、図5に示すように、発光用絶縁性膜22の一方の面に並べて形成し、第1の電極21と第2の電極23に電圧を印加して、2つの電極の間隙領域からEL発光を外部に取り出すことも可能である。
【0045】
図6に本発明による多色発光用EL素子の断面構造図を示す。第1の電極21と第2の電極23で挟まれた発光用絶縁性膜として、基体31に平行な平面方向に3種類のIV族半導体元素のドーピング量の異なる第1、第2及び第3の発光用絶縁性膜41,42及び43が形成されている例を示す。各領域からは、そのドーピング量に対応して第1、第2及び第3のEL発光が得られるので、異なるEL発光波長成分を有するEL発光が得られることとなり、多色発光のEL素子が実現できる。
【0046】
この多色発光用EL素子を用いてEL発光波長成分を適切に混合することにより、より優れた白色光を発光するEL素子が実現できる。また、各発光領域を適切に配置したEL素子を1画素としてマトリクス状に配置することによりカラーのEL表示装置を実現することも可能である。
【0047】
図7に、本発明による混合色発光用EL素子の断面構造図を示す。図7に示すEL素子では、基体31に対して垂直方向に3種類のIV族半導体元素のドーピング量の異なる第1、第2及び第3の発光用絶縁性膜51,52及び53を積層して形成した発光用絶縁性膜を有する場合を例示している。第1と第2の電極21,23に印加電圧として交流電圧25を印加すれば、各発光用絶縁性膜からそれぞれに異なる3種類のEL発光波長成分を有する第1、第2及び第3のEL発光が混合されて外部に取り出される。これらの異なるEL発光波長成分を適切に混合することにより、所望の白色光や所望の色のカラー表示素子が得られる。
【0048】
本発明によってカラー表示用EL素子を実現した実施例の断面構造図を図8〜図10に示す。
【0049】
図8では、発光用絶縁性膜22から得られる白色のEL発光を、赤色カラーフィルタ膜61、緑色カラーフィルタ膜62及び青色カラーフィルタ膜63を通過せしめて、それぞれから色の3原色に相当する赤色光、緑色光及び青色光を得ることによりカラー表示を可能としている。
【0050】
図9に示す実施例では、青色のEL発光が得られる発光用絶縁性膜22からの光を、青色光を赤色光並びに緑色光に変換する赤色発光蛍光体膜71と緑色発光蛍光体膜72に照射してそれぞれ赤色光と緑色光を得、青色カラーフィルタ膜63を通すことによってより純度の高い青色光を得ることにより、色の3原色である赤色光、緑色光及び青色光を得てカラー表示を可能とする。
【0051】
図10の実施例では、主に紫外光のEL発光が得られるEL発光用絶縁性膜22からの紫外光を、赤色光、緑色光及び青色光に変換する赤色発光蛍光体膜71、緑色発光蛍光体膜72及び青色発光蛍光体膜73に照射して、それぞれ赤色光、緑色光及び青色光を得てカラー表示を可能とする。
【0052】
図11は、発光用絶縁性膜22の上面に形成された第1、第2及び第3の第2電極81,82及び83に選択的に異なる周波数f1,f2,f3の交流信号を印加して、それぞれの電極を通過して外部に取り出される異なったEL発光の波長成分を持つ第1、第2及び第3のEL発光を得ることにより、異なる発光色の多色のEL素子を実現する実施例の断面構造図を示す。各発光色を適当に混合すれば、純度の高い白色光を得ることができる。また、多色光を放射するので、カラー化EL素子としても利用できる。
【0053】
なお、図8〜図11には、1組の多色表示又はカラー表示用のEL素子を示した。しかし、実際のカラー表示用EL装置は、図12に示すように1組のEL素子を1画素90としてマトリクス状に基体32上に配置して実現する。
【0054】
図6〜図12に示した基体31,32として、図1に例示したCMOS形集積回路を形成したp形Si基体10を用いれば、各画素を構成するEL素子の信号処理と駆動回路等を一体化した、高機能なEL表示装置が実現できる。しかし、基体31,32としてはSi等の無機半導体で形成された基体に限定されることなく、有機半導体を用いた集積回路を形成した基体を用いることも可能であり、この場合には、可撓性の基体が容易に実現できるので、形状を自由に変形できるEL表示装置を実現できる。また、基体31,32を図2及び図3に例示した可撓性に優れた基体21又は30を用いれば、変形自在なEL表示装置ができることは言うまでもない。
【0055】
以下に、本発明によるEL素子への交流電圧印加方式について述べる。図13(a)は第1の電極にGND電位V1を印加し、第2の電極に矩形波パルス電圧V2を印加した従来例の交流駆動方式を示す。パルス電圧の振幅をVPPとすれば、発光用絶縁性膜に印加される第1と第2の電極間の実効的な印加電圧差はVPP/2となり、パルス電圧振幅VPPが有効に印加されない。高電圧のパルス電圧発生回路を集積回路で構成するためには、特別のデバイス構造や回路設計及び製造プロセスの導入を必要とするので製造コストの上昇はもちろんのこと消費電力の増大を招くので好ましくない。従って、VPP電圧を実効的にEL素子に印加できる駆動方式が望ましい。
【0056】
一方、本発明によるEL素子の駆動電圧は約50 Vでも駆動可能であることから、家庭用の50 Hz又は60 Hzの商用交流電源をEL素子に直接印加することもできる。その実施例を図13(b)に示す。家庭用交流電源のVPPは約100 Vであるから、第1の電極にGND電位V1を、第2の電極に交流電圧V2を印加すれば、発光用絶縁性膜に実効的に印加される最大電圧はVPP/2の約50 Vとなり、EL素子の直接駆動が可能である。
【0057】
本発明による家庭用商用交流電源からの直接印加法を図2又は図3に示したような可撓性のEL素子に適用すれば、コンセントに差し込むだけで、通常の白熱電灯や蛍光灯と同様に家庭用の照明器具として用いることはもちろんのこと、自由に変形・加工ができるので新しい装飾用発光器具としても応用可能である。
【0058】
なお、EL素子への印加電圧は、EL発光用絶縁性膜の膜厚やドープ量によって自由に設定可能であり、駆動電圧を50 V以上に設定することも、それ以下に設定することもできる。EL素子への最適な印加電圧の上限が50 V以下の場合には、図13(c)に示すように、上限電圧をVaに制限する回路を付加して発生せしめた、GNDに対してV2=Va/2を満足する電圧を印加すればよい。上限電圧を制限するためには、例えばツェナーダイオード等を用いれば容易に構成できるので、低コストの回路を付加するのみで実現できる。
【0059】
図14に本発明によるEL素子への電圧印加法の別の実施例を示す。図14(a),(b)及び(c)に示す実施例は、第2の電極に図13(a),(b)及び(c)に対応する矩形パルス波形、正弦波形及び上限電圧を制限した正弦波形V2を印加し、第1の電極にGND電位に変えてそれぞれのV2波形に対して位相を180度ずらした波形のVを印加した例である。本発明の実施例では、発光用絶縁性膜に実効的に印加される電圧差|V-V|は、図14の太い実線で示すように、各波形の振幅VPP又はVaが得られる。従って、図13に示す場合に比べて1/2の電圧振幅の波形を発生させればよいので、駆動回路用のCMOS形集積回路のデバイス設計・回路設計及び製造工程が容易となり低コスト化が可能なばかりでなく消費電力も大幅に低減できる。なお、上記の矩形パルス波形や正弦波形等の印加電圧波形の周波数は、商用交流電源の周波数に限定されることなく、kHz〜MHzオーダ程度のより高い周波数でもよいことは言うまでもない。特に、周波数が高くなると、発光強度が向上する特性を有するEL素子の場合には、高周波での駆動が望ましい。
【0060】
本発明によるEL素子の重要な製造技術となる発光用絶縁性膜の製造方法について以下に述べる。本発明では、EL素子の低コスト製造を実現するために、大電流でのドーピングが可能で高ドーパント濃度領域の形成が容易なイオンドーピング法(ビームエネルギーは約10keV〜100keV)又はプラズマドーピング法(ビームエネルギーは約10keV以下)を用いることにより、絶縁性膜にIV族半導体元素を短時間で1016〜1017cm-2程度にドーピングすることを可能とし、低コストで発光用絶縁性膜を製造することを可能にした。
【0061】
EL発光は、発光用絶縁性膜中にドープされたIV族半導体元素(以下、ドーパントと称する)の濃度に依存することから、ドープされたドーパントは膜厚方向にできるだけ均一に分布していることが好ましい。一般に、イオン注入又はイオンドーピングされたドーパントの分布はガウス分布で表される。従来の1回のイオン注入法では、絶縁性膜の深さ方向の中央付近にピーク濃度があり、 膜の表面と裏面付近はドーパントの濃度が急激に減少する様な分布を示し、発光用絶縁性膜の膜厚方向の全域から均一に効率よくEL発光を得ることが困難である。従って、高効率でEL発光を得るためには、膜厚方向にできるだけ均一にドーパントを分布せしめる必要がある。
【0062】
図15にイオンドーピング法等を用いてドーパント・イオンの注入エネルギーを変化せしめて複数回に分けてドーピングする多重イオンドーピング法を用いた本発明による実施例を示す。まず、第1の電極21の上面に発光用絶縁性膜22を形成すべき絶縁性膜を堆積し、この絶縁性膜にビームエネルギーを変化させて複数回のイオンドーピングを行う。図15の細い実線で示したガウス分布は1回のイオンドーピングで得られる個別のドーパント分布を示す。これらの複数のドーパント分布を積分すれば、太い点線で示すように、発光用絶縁性膜22中にドーパントをほぼ均一に分布せしめることができる。この発光用絶縁性膜22の上面に第2の電極23を形成してEL素子を形成する。第1と第2の電極21,23に電圧を印加すれば、発光用絶縁性膜の膜厚方向にほぼ均一な強度のEL発光を得ることができる。
【0063】
例えば、発光用絶縁性膜22として50 nm厚のSiO2膜を、IV族半導体元素としてSiを用いた場合には、10 keVで1.5×1016 cm-2、25 keVで3×1016 cm-2及び50 keVで5×1016 cm-2の条件で3回の多重イオンドーピングを行えば、Si濃度が約1022 cm-3のほぼ均一な分布が得られる。
【0064】
図16に、図7に示した発光用絶縁性膜の厚さ方向にIV族半導体元素のドーピング量の異なる第1、第2及び第3の発光用絶縁性膜51,52及び53を形成するための本発明による実施例を示す。第1の電極21の上面に厚さtOX1の絶縁性膜を形成し、イオンドーピング法やプラズマドーピング法等を用いて所望のエネルギーと濃度でドーパントを導入する。同様に、厚さtOX2の絶縁性膜を形成して所望の条件でドーパントを導入する。更に、厚さtOX3の絶縁性膜を形成して所望の条件でドーパントを導入すれば図16に例示するような3種類の膜厚と、それぞれにドーピング量の異なる発光用絶縁性膜が積層された発光用絶縁性膜22が形成できる。この発光用絶縁性膜22の上面に第2の電極23を形成してEL素子とする。第1と第2の電極21,23に電圧を印加すれば、積層した3種類の発光用絶縁性膜から異なる発光波長成分を持つ第1、第2及び第3のEL発光が混合したEL発光を外部に取り出すことができる。
【0065】
なお、図16に示した実施例では、絶縁性膜を複数回形成し、その都度にドーピング工程を行っていた。しかし、所望の膜厚の絶縁性膜を1回で形成した後に、所望のエネルギーと濃度でドーパントを複数回に分けて導入すれば、それぞれの注入条件に応じたピーク濃度の異なるガウス分布で近似された複数のドーパント分布が得られて、図16に示した実施例と同様の発光用絶縁性膜が形成できる。また、上述した複数回のドーピング工程において、ドーパントは同一のIV族半導体元素を用いても、異なるIV族半導体元素を組み合わせて注入してもよい。異なる元素を組み合わせて注入した場合には、そのドーパントに応じて異なるEL発光波長成分を持つEL発光が得られる。更には、複数回に分けて積層された絶縁性膜は、同一種類の組み合わせに限定されることなく、異なる種類の絶縁性膜を組み合わせてもよい。
【0066】
図16には、発光用絶縁性膜の厚さ方向に複数の異なるドーパント濃度領域を形成する場合の製造方法について述べたが、図6に示すような発光用絶縁性膜の平行な方向に複数の異なるドーパント濃度領域41,42及び43を形成するためには、フォトリソグラフィ法等を用いて選択的にドーパント濃度の異なる領域を形成すればよい。
【0067】
図17に、プラズマドーピング法等の低エネルギーでの高濃度ドーピングを得意とするドーピング法を用いて発光用絶縁性膜を形成した本発明による実施例を示す。例えば、プラズマドーピング法は、高濃度ドーパントを数分間の極めて短時間にドーピング可能であるが、注入エネルギーは約10keV程度以下に制限されるために数10 nm以上の膜厚の発光用絶縁性膜に均一にドーピングすることは困難である。従って、図17に例示するように、第1の電極21の上面に10 nm厚程度の薄い膜厚tOXの絶縁性膜を形成して、その膜中にプラズマドーピング法を用いてSi等のIV族半導体元素をドーピングする。更にその上にtOXの絶縁性膜を形成して再度プラズマドーピング法を用いてSi等のIV族半導体元素をドーピングする。この手順を複数回繰り返して所望の厚さの発光用絶縁性膜22を形成する。必要に応じて、得られた多層膜よりなる発光用絶縁性膜を熱処理してより均一なドーパント分布を得ることもできる。最後に、第2の電極23を形成すればEL素子が製造できる。なお、上記の積層する各層の絶縁性膜の膜厚及び種類は、ほぼ同じであっても、各層によって異なってもよい。
【0068】
なお、プラズマドーピング法以外にも、ドーピングのエネルギーは低く制限されるが、短時間での高濃度ドーピングを得意とする他のドーピング法(例えば、レーザドーピング法や気相ドーピング法等)を用いることもできる。
【0069】
従来のEL素子は、Si基体を熱酸化して形成したシリコン酸化膜に高濃度のSiをイオン注入することにより発光用絶縁性膜を形成していたためにSi基体自体の面積を占有していた。本発明によるEL素子は、上記の熱酸化シリコン酸化膜に代わってCVD法等で形成した絶縁性膜を用いることも可能としているので、集積回路が形成された基体上にEL素子を形成することが可能となった。このために、EL素子は、実効的にSi基体を占有することなく、かつ本発明によるEL素子は低電圧での駆動が可能であることから、CMOS形集積回路で構成されたEL素子の駆動回路や信号処理回路等とも一体化して形成することができるので、低コストで優れた性能のEL素子やEL表示装置が実現できる。
【0070】
従来のEL素子は、可撓性のない数100μm以上の厚さのSi基体上に形成されていたために、その形状を自由に変形することができなかった。本発明では、金属薄膜やプラスチック薄膜等の可撓性の基体上にEL素子を形成できるので、自由な形状のEL素子やEL表示装置が実現できる。更に、Si基体を用いた集積回路上に形成したEL素子の場合にも、そのSi基体を数μm以下に研磨して可撓性とすれば、自由な形状のEL素子やEL表示装置が実現できるので、その用途が拡大する。また、有機半導体による集積回路を形成した可撓性を持つ基体を用いることにより、可撓性に優れたEL素子やEL表示装置を実現できる。
【0071】
本発明によれば、EL素子の多色化やカラー化ができるので、カラー表示装置の実現が可能となった。また、複数のEL発光波長成分を含むEL素子を形成できるので、カラー表示装置はもちろんのこと、より優れた白色光光源や白色光表示装置の製作が可能となった。更には、集積回路をEL素子やEL表示装置と一体化することにより信号処理回路や駆動回路等も集積化できるので、より高性能で高機能なカラー表示装置が実現できる。
【0072】
従来のEL素子の駆動回路では、発光用絶縁性膜には交流電圧の振幅の1/2しか印加されないので、高い振幅の交流電圧を発生する必要があり、その駆動回路を実現するためのデバイス設計・回路設計や製造工程が特殊で複雑なものとなり、消費電力も増大する。本発明により、第1と第2の電極間に180度位相の異なる交流電圧を印加することにより、実効的に交流電圧の振幅に等しい電圧が印加できることとなり、駆動回路の製作が容易となり、消費電力も大幅に低減される。
【0073】
また、本発明に示した可撓性基体上に形成したEL素子又はEL表示装置に、家庭用の商用交流電圧を直接印加することにより、通常の白熱電灯や蛍光灯と同様に、EL素子点灯用の電源コストが不要になるので、低コストで自由な形状に変形可能な新しい家庭用照明器具や装飾用発光器具が実現できる。特に、CMOS形集積回路での直接駆動が可能となった。
【0074】
従来のEL素子製造の重要技術である発光用絶縁性膜形成のためのIV族半導体元素の高濃度ドーピングには、高コストのイオン注入法を用いていた。本発明では、イオン注入法に加えて、低コストで高濃度ドーピング可能なイオンドーピング法やプラズマドーピング法等を用いた製造方法も用いた。また、EL発光効率を改善することを目的として、発光用絶縁性膜中への均一なドーパント分布を得るために、多重イオンドーピング法やプラズマドーピング法による多層の発光用絶縁性膜の形成法を示した。更には、発光用絶縁性膜の厚み方向や平面方向に複数の異なるドーパント濃度を有する領域の形成法を実現し、優れた特性の白色光やカラー表示を可能とした。
【0075】
以上、本発明により、従来のEL素子では実現が困難であった、低コスト、低消費電力で高性能なEL素子及びそれらを用いた白色又はカラー化EL表示装置が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明によるEL素子の1実施例の断面構造図である。
【図2】本発明によるEL素子の別の実施例の断面構造図である。
【図3】本発明によるEL素子の別の実施例の斜視図である。
【図4】本発明によるEL素子の別の実施例の断面構造図である。
【図5】本発明によるEL素子の別の実施例の断面構造図である。
【図6】本発明による多色発光用EL素子の断面構造図である。
【図7】本発明による混合色発光用EL素子の断面構造図である。
【図8】本発明によるカラー表示用EL素子の断面構造図である。
【図9】本発明によるカラー表示用EL素子の別の実施例の断面構造図である。
【図10】本発明によるカラー表示用EL素子の別の実施例の断面構造図である。
【図11】本発明による多色発光用EL素子の別の実施例の断面構造図である。
【図12】本発明によるカラー表示用EL表示装置の実施例の斜視図である。
【図13】交流駆動波形の例である。(a)は従来の矩形パルス電圧波形である。 (b)及び (c)は本発明による家庭用の商用交流電源を用いた実施例である。
【図14】本発明によるEL素子へ印加する交流駆動波形の例である。(a)は矩形パルス電圧を用いた例である。 (b)及び (c)は家庭用の商用交流電源を用いた実施例である。
【図15】本発明による発光用絶縁性膜の製造方法の実施例である。
【図16】本発明による発光用絶縁性膜の製造方法の別の実施例である。
【図17】本発明による発光用絶縁性膜の製造方法の別の実施例である。
【図18】従来例のEL素子の断面構造図である。
【図19】従来例のEL素子の断面構造図である。
【符号の説明】
【0077】
10 p形Si基体
11 pウェル
12 nウェル
13, 14 ソース・ドレイン領域
15, 16 ゲート絶縁体膜
17, 18 ゲート電極
19 シリコン酸化膜
20 層間絶縁体膜
21 第1の電極
22 発光用絶縁性膜
23 第2の電極
24 相互配線
25 交流電圧
30, 31, 32 基体
41, 42, 43 第1、第2及び第3の発光用絶縁性膜
51, 52, 53 第1、第2及び第3の発光用絶縁性膜
61, 62, 63 赤色、緑色及び青色のカラーフィルタ膜
71, 72, 73 赤色、緑色及び青色の発光蛍光体膜
81, 82, 83 第1、第2及び第3の第2電極
90 1画素
100, 101 p形Si基体
110, 111 Siイオン注入シリコン酸化膜
120, 121 ゲート電極
130, 131 アルミニウム膜
140 ソース・ドレイン領域
150 シリコン酸化膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体集積回路が形成された基体の上面に、IV族半導体元素をドープした発光用絶縁性膜と該発光用絶縁性膜の両面又は片面に形成された第1と第2の電極で構成され、該第1と第2の電極間に交流電圧を印加することにより発光せしめることを特徴とする電界効果発光素子。
【請求項2】
可撓性を有する基体の上面に、IV族半導体元素をドープした可撓性を有する発光用絶縁性膜と該発光用絶縁性膜の両面又は片面に形成された可撓性を有する第1と第2の電極で構成され、該第1と第2の電極間に交流電圧を印加することにより発光せしめることを特徴とする電界効果発光素子。
【請求項3】
IV族半導体元素をドープした可撓性を有する発光用絶縁性膜と該発光用絶縁性膜の両面又は片面に形成された可撓性を有する第1と第2の電極で構成され、該第1と第2の電極間に交流電圧を印加することにより発光せしめることを特徴とする電界効果発光素子。
【請求項4】
前記のIV族半導体元素としてSi又はGeを用いたことを特徴とする請求項1〜3に記載の電界効果発光素子。
【請求項5】
前記の発光用絶縁性膜としてシリコン元素(Si)を主要構成要素とする発光性絶縁性膜を用いたことを特徴とする請求項1〜4に記載の電界効果発光素子。
【請求項6】
前記のシリコン元素(Si)を主要構成要素とする発光性絶縁性膜としてシリコン酸化膜(SiO2)又はシリコン窒化膜(Si3N4)を用いたことを特徴とする請求項1〜5に記載の電界効果発光素子。
【請求項7】
前記の電極の少なくとも一方は、発光波長の所望の波長領域を透過せしめる半導体材料や金属材料で構成される電極を用いたことを特徴とする請求項1〜6に記載の電界効果発光素子。
【請求項8】
前記の電極の少なくとも一方は、発光波長の所望の波長領域を反射せしめる半導体材料や金属材料で構成される電極を用いたことを特徴とする請求項1〜6に記載の電界効果発光素子。
【請求項9】
前記の半導体集積回路が、有機半導体を用いた半導体集積回路で形成された基体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電界効果発光素子。
【請求項10】
上記の電界効果発光素子は、上記半導体集積回路で構成される発光素子用駆動回路によって発光が制御されていることを特徴とする請求項1、2又は9に記載の電界効果発光素子。
【請求項11】
前記の発光用絶縁性膜の平面方向又は厚さ方向に、該絶縁性膜中にドープされたIV族半導体元素の含有量が異なる複数の領域を有することを特徴とする請求項1〜3に記載の電界効果発光素子。
【請求項12】
上記の電界効果発光素子の上面に、カラーフィルタ膜又は蛍光体膜を選択的に形成してカラー表示を可能としたことを特徴とする請求項1〜11に記載の電界効果発光素子。
【請求項13】
前記の第1又は第2の電極が、複数個に分割して形成された電極で構成されていることを特徴とする請求項1〜3に記載の電界効果発光素子。
【請求項14】
上記の複数個に分割して形成された第1又は第2の電極に、2以上の異なる周波数の交流電圧が印加されていることを特徴とする請求項13に記載の電界効果発光素子。
【請求項15】
上記の交流電圧として、50Hz又は60Hzの商用交流電源を電圧源として用いることを特徴とする請求項1〜3に記載の電界効果発光素子。
【請求項16】
上記の電界効果発光素子の電極に印加する交流電圧は、互いに180度異なる位相を有することを特徴とする請求項1〜3、14又は15に記載の電界効果発光素子。
【請求項17】
電界効果発光素子の発光用絶縁性膜へのIV族半導体元素のドーピング法として、イオンドーピング法やプラズマドーピング法等の低エネルギーで高濃度ドーピング可能なドーピング法を用いたことを特徴とする電界効果発光素子の製造方法。
【請求項18】
電界効果発光素子の発光用絶縁性膜へのIV族半導体元素のドーピング法として、複数回のイオンドーピング又はプラズマドーピング工程で多重にドーピングしたことを特徴とする電界効果発光素子の製造方法。
【請求項19】
発光用絶縁性膜の平面方向又は厚さ方向に、複数の異なるドーパント濃度の領域を有する発光用絶縁性膜を形成することを特徴とする請求項17又は18に記載の電界効果発光素子の製造方法。
【請求項20】
発光用絶縁性膜を多層に積層して形成したことを特徴とする請求項17又は18に記載の電界効果発光素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2006−173010(P2006−173010A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−366466(P2004−366466)
【出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【出願人】(591060980)岡山県 (96)
【Fターム(参考)】