説明

電界印加型触媒デバイス、及びろ過フィルタ

【課題】本発明は、(1)光照射の代わりに交流電界印加で酸化チタンの触媒効果を発現させる、(2)触媒効果が発現するための閾値電界を低下させる、(3)キャリア(電子と正孔)の再結合を抑制して触媒効果を向上させる、ことができる電界印加型触媒デバイスを提供することを目的とする。
【解決手段】 酸化チタンとその内部に存在する導電相からなる複合粒子を含む多孔質触媒機能体と、該多孔質触媒機能体に交流電界を印加するための電極とを具備していることを特徴とする電界印加型触媒デバイス。導電相が針状、または/およびラメラ状であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化チタンを用いた電界印加型触媒デバイス、及びろ過フィルタ等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の環境問題から、有害物質や細菌・ウィルスなどを分解、殺菌する光触媒材料が注目されている。代表的な光触媒はTiO2であるが、これは一般には波長が400nm以下の紫外線により光触媒機能を発揮する材料であるため、紫外線の含有量が少ない太陽光線ではほとんど触媒効果を発揮することができない。波長が400nmを超える可視光線でも作用する光触媒材料も開発されている。これは、結晶系がアナターゼ型のTiO2にN、S、Mn、Fe、Co、Zn、Cu等をドーピングしたもので、可視光線の吸収を高くしたものである。これらの材料は、アナターゼ型TiO2と比べて性能は若干低下するものの、可視光線でも光触媒機能が作用するようになる。
【0003】
しかしながら、いずれにしてもこれらの光触媒を作用させるには、別途水銀ランプなどの外部光源を使用する必要があり、反応容器のコンパクト化を阻害し、かつ有害物質である水銀を使う必要があった。最近では、水銀ランプの代わりに、紫外線を発光する発光ダイオード(LED)を光源にする場合も出てきているが、これらの外部光源を用いる場合には、下記の課題があった。
【0004】
光触媒反応は、粒子の表面でのみ生じる反応であるため、粒子表面に均一に紫外線を照射する必要がある。しかし、
(1)対象物が気体の場合、光触媒であるTiO2粒子を反応容器内に浮遊させる必要があるので特別な装置が必要になる。液体の場合、液体内に分散させる必要があるが、この場合、光触媒粒子の交換時に回収することにコストがかかる。
(2)紫外線は大気中で吸収されやすく、また水銀ランプやLEDなどの点光源では、光源からの距離に反比例して光強度が低下してしまうため、光源の発光強度を非常に高くするか、または光源を近づける必要がある。発光強度を高くすると多量の熱が発生し、放熱のための付加装置が必要になり、コストアップするのに加え、反応容器が大きくなる。光源を近づける場合は照射面積が限られてしまい、光触媒を有効に使えない。さらには、対
象物が濁った液体の場合は紫外線の減衰が激しい。
(3)セラミックス多孔体などに光触媒を担持する場合、光触媒の表面積を大きくするためには、セラミックス多孔体の細孔径を小さくする必要があるが、この場合、光はセラミックス多孔体の極表面近傍にまでしか到達しないので、結果として光触媒の極一部しか励起できず実質的な光触媒効果は小さい。
【0005】
これらの課題のため、外部光源方式を用いる限り、光触媒システムは高コストになってしまうし、かつ、例え光源の位置を工夫したとしても、光触媒と被処理物質が接触しないという大きな課題が解決できなかった。
【0006】
上述した光触媒の問題点を解決するために、特許文献1に開示されているように、通常光触媒として使用されている酸化チタン触媒に、光照射の代わりに直接、交流または直流電界を印加して励起させ、炭素系の微粒子の分解作用を生じさせる試みがなされている。しかしながら、このような方式のデバイスには以下の大きな課題がある。
【0007】
(1)酸化チタンに触媒作用を生じさせるためには、酸化チタンを励起し、電子と正孔を生成させなければならない。しかし、直流電界や交流電界を印加して十分な量の電子と正孔を生成させるために必要な閾値電界は非常に高い。
例えば、交流電界を印加する場合、閾値電界は酸化チタンの単位厚さ当たり、1×106V/cmが目安となる。高い触媒機能を発揮させるためには、酸化チタン粒子からなる触媒層の厚さを少なくとも数十〜数百μmにする必要があり、そのためには数千ボルトの電界を印加しなければならず、コスト等を考慮すると、これは実質的に不可能である。
【0008】
(2)触媒効果が発現するためには、酸化チタンを励起して生成した電子と正孔が再結合せず、分離されて酸化チタンの表面に到達する必要がある。表面に到達した電子と正孔は水分子と反応してOHラジカルやO2-等の活性種を生成する。触媒反応はこれらの活性種が有機成分と反応することで起こる。しかし、実際は電子と正孔の大部分が再結合して熱に変化してしまう。とりわけ、特許文献1においては、酸化チタンを主体とし酸化チタン以外の触媒物質が副成分として添加された触媒膜の抵抗率を小さくして電界を印加しているために、生成した電子や正孔は酸化チタン結晶中に新たに形成された不純物による準位に捕捉され、その後再結合してしまうため、触媒活性は極めて低い。
【特許文献1】特開2000−271490号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明はかかる問題点を解決するためになされたもので、(1)光照射の代わりに交流電界印加で酸化チタンの触媒効果を発現させる、(2)触媒効果が発現するための閾値電界を低下させる、(3)キャリア(電子と正孔)の再結合を抑制して触媒効果を向上させる、ことができる電界印加型触媒デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために発明者は鋭意探求の結果、以下の発明に至った。
すなわち、
(1)酸化チタンの内部に導電相を形成せしめることでキャリアが発生する閾値電界を大幅に低下させる、
(2)酸化チタンの表面にキャリアを捕捉することができる粒子を担持させることで、電子と正孔を分離して酸化チタンの表面に到達せしめる、
ことを目的としたもので、以下の構成よりなる。
【0011】
[1] 酸化チタンとその内部に存在する導電相からなる複合粒子を含む多孔質触媒機能体と、該多孔質触媒機能体に交流電界を印加するための電極とを具備していることを特徴とする電界印加型触媒デバイス。
[2] 導電相が針状、または/およびラメラ状である前記[1]記載の電界印加型触媒デバイス。
[3] 導電相がCuおよびAgの少なくとも一種を含む前記[1]記載の電界印加型触媒デバイス。
[4]導電相がCuもしくはCuとSの化合物又はこれらの複合材料からなる前記[1]記載の電界印加型触媒デバイス。
[5] 酸化チタンの平均一次粒径が10nm以下である前記[1]記載の電界印加型触媒デバイス。
[6] 酸化チタンがアナターゼ型である前記[1]記載の電界印加型触媒デバイス。
[7] 複合粒子表面に電子捕捉材料または/および正孔捕捉材料が担持されている前記[1]〜[6]のいずれかに記載の電界印加型触媒デバイス。
[8] 電子捕捉材料がPtである前記[7]記載の電界印加型触媒デバイス。
[9] 正孔捕捉材料がRuO2である前記[7]記載の電界印加型触媒デバイス。
[10] 複合粒子が高誘電率を持つセラミックスまたはガラスの少なくとも一種を含む結合相を介して互いに結合している前記[1]〜[9]のいずれかに記載の電界印加型触媒デバイス。
【0012】
[11] 前記[1]〜[10]のいずれかに記載の電界印加型触媒デバイスからなるろ過フィルタ。
[12] 前記[1]〜[10]のいずれかに記載の電界印加型触媒デバイスを用いた廃ガス・廃水処理装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、光触媒機能を持つ酸化チタンを、光の代わりに交流電界で励起することで、紫外線ランプ等の外部光源を用いなくても、光触媒反応と同等の触媒反応を起こすことができるものである。酸化チタン中に導電相を形成することで、触媒効果が発現する閾値電界を実用レベルまで低下させることができる。さらに、酸化チタン表面に電子や正孔を捕捉できる粒子を担持することにより、電子と正孔を分離し、触媒効果を向上させることができる。本発明では、被処理流体を強制的に触媒層を通過させることもできるため、被処理物と触媒が常に接触するため、触媒反応は最も効率よく起こる。
本発明の電界印加型触媒デバイスは、触媒反応を利用した廃ガス・廃水処理装置や触媒機能を兼ね備えたろ過フィルタのみならず、水の電気分解にも用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明の電界印加型触媒デバイスは、一般の交流電界印加型無機ELデバイスと似た原理を用いている。無機ELデバイスは、半導体粒子に種々の元素をドーピングした蛍光体粒子と誘電体からなる発光層と絶縁層を有するもので、電極を介して誘電体へ交流電圧を印加することによって、発光層中の蛍光体にかかる電界値が105V/cmを超えると、極めてエネルギー状態の高い電子と正孔(ホットキャリアと呼ばれる)が絶縁体から蛍光体粒子に注入され、これらが再結合するか、または、これらのエネルギーが蛍光体粒子中に添加された特定のイオンに伝達することにより発光が生じる。
【0015】
このとき、蛍光体粒子内部に導電性物質が存在すると、発光が起こる閾値電界を104V/cm程度まで約2桁低下させることができる。よって、例えば、発光層の厚さが100μmの場合、100V程度の電界でも発光が起こる。一般的に用いられているZnS系蛍光体粒子の場合、導電性物質としてCu2Sを内在させることで閾値電界低下が起こる。閾値電界が低下するのは、導電性物質が内在すると、導電性物質と蛍光体の界面に局部的に大きな電界が印加されるためとされている。さらには、電界が印加されると、これらの導電性物質から電子や正孔が放出され、これらは蛍光体中のドナー準位やアクセプタ準位に一旦捕捉された後、再結合して発光が生じる。
【0016】
本発明では、酸化チタン内部に導電相を形成することで、酸化チタンに触媒機能を生じさせるために必要な閾値電界を低下させる効果が現れることを見出した。導電相は粒子状でもかまわないが、針状またはラメラ状であると好ましい。針状の場合、先端が尖っているために局部的な電界増大効果が最大になるためと考えられる。ラメラ状の場合も、針状と似て先端がある程度尖っているために同様の効果がある。これらの導電相は、光学顕微鏡又は透過型電子顕微鏡等で観察することができる。
【0017】
導電相の材質は問わないが、電気伝導率が102〜103Ω-1cm-1以上が目安となる。CuやAgなどの金属、こららの合金は導電性が高いために好ましい。CuもしくはCuとSの化合物またはこれらの複合材料が好ましく、とりわけ好ましいのはCu2Sである。この材料は、導電性はAgやCuほど高くはないが、p型半導体の一種であるために、n型半導体である酸化チタン中に存在すると一種の擬似pn接合が形成されることになり、電子や正孔を酸化チタン中に放出しやすい。従って電界増大効果は金属ほどではないが、光触媒機能を発現させるのに必須である電子、正孔の供給量が金属導電相の場合よりも多くなる。CuとSは化学量論組成からずれる場合もあるが、その場合でも構わない。
【0018】
導電相を内在する酸化チタンは、例えば以下のようにして作製できる。
酸化チタンとCuの粉末を高加速度で粉砕すると、延性に富むCuは粒子の粉砕を繰り返す過程で酸化チタン内部で針状や層状(ラメラ状)に変化する。ラメラ状(層状)とは、板状の構造単位が集合してとる構造を言う。
針状になるかラメラ状になるかは酸化チタンに対するCuの添加量や粉砕条件等により変化する。一般的には添加量が多いほどCu相が連結してラメラ状になりやすい。粉砕加速度が小さいと粒子状になる場合もある。粒子状になると電界増大効果がやや低下する。
閾値電界を低下させるには、導電相は酸化チタンに対して数体積%もあれば十分である。好ましくは5体積%程度が上限である。これを超えると、導電相が酸化チタンの表面に生成する場合があり、導電相の効果が飽和する。また、0.01体積%未満では導電相の効果がない。
また、同じ含有率でも導電相が微細であるほど先鋭部が増加するので好ましい。
【0019】
粉砕後の酸化チタンは結晶構造が乱れたアモルフアス成分がそのほとんどを占め、このままでは触媒機能は低いので、適度な温度で熱処理して酸化チタンを結晶化する事が好ましい。最も好ましいのは酸化チタンが、触媒効果が最も高いアナターゼ型に転移することである。ルチル型でもブロツカイト型でも触媒機能は若干低下するが構わない。
【0020】
ここで、粉砕過程および熱処理過程で酸化チタンとCuが反応しないのがポイントである。酸化チタン中でCuは熱力学的に安定であるため、熱処理後もそもまま残存する。Cuの代わりにAgを用いても同じ効果が生じる。
【0021】
酸化チタンと添加した金属が反応すると、酸化チタン中に金属元素がドーピングされることになり、酸化チタンの結晶純度が低下するので好ましくない。これは、後述するように、不純物準位により電子や正孔が捕捉されてしまうからである。従って、原料として用いる酸化チタンやCu等の純度はできるだけ高いことが好ましい。
【0022】
次に、キャリアの分離について説明する。
触媒効果が起こるためにはキャリアが再結合しないで、それぞれがTiO2粒子の表面に移動することが必要である。酸化チタン中に不純物イオンが存在すると、これらは不純物準位を形成し、電子や正孔はこの準位に捕捉されて表面に到達する電子と正孔が少なくなって触媒機能が低下する。
【0023】
一般的に開発されている光触媒の中には、酸化チタン粒子にN、S、Mn、Fe、Co、Zn、Cu等がドーピングされ、紫外線のみならず可視光でも働く、いわゆる可視光感応型光触媒と呼ばれるものもあるが、このような酸化チタンは好ましくない。このように、本発明に用いる酸化チタンとしてはできる限り不純物が少なく、かつ結晶性が高いことが望ましい。
但し、導電相がCu2Sの場合は、この限りでない湯合がある。例えば、酸化チタンとCu2Sの粉末を高加速度で粉砕すると、Cu2Sは粒子の粉砕を繰り返す過程で酸化チタン内部で針状に変化する。この時、酸化チタン中にはS成分の一部が固溶するため、酸化チタンは硫黄がドーピングされたTiO2:Sとなる。発生した電子や正孔はドーピングされたSが生み出す準位に捕捉されやすくなり好ましくはないが、その一方で、Cu2Sから放出される電子や正孔の絶対量が多くなるために、トータルとしての触媒性能は、結晶性が高く不純物がほとんどない酸化チタンに匹敵する性能を示す場合もある。尚、延性のないCu2Sを用いる場合には、導電相を針状またはラメラ状にするためには、CuやAgを用いるときよりも高い粉砕加速度が必要である。
【0024】
また、酸化チタン粒子をできるだけ微粒化することが好ましい。酸化チタン粒径が数ナノメートルまで微粒化すると、結晶性が極めて高くなると共に、酸化チタン内に生成した電子や正孔の表面への拡散距離は小さくなり、再結合せずに表面に到達する確率が非常に高くなって触媒機能が最も高くなる。酸化チタンの一次粒子の好ましい粒径の目安は10nm以下である。
【0025】
また、複合粒子表面に電子捕捉材料または/および正孔捕捉材料が担持されていることが好ましい。
例えば、複合粒子表面に電子捕捉材料が担持されていると、酸化チタン内部で生成した電子は表面に移動した後電子捕捉材料に捕捉されやすくなり、正孔と分離される確率が高くなる。電子捕捉材料としては、Pt、Au等が好ましく、特にPtが好ましい。
複合粒子表面に正孔捕捉材料が担持されていると、酸化チタン内部で生成した正孔は表面に移動した後正孔捕捉材料に捕捉されやすくなり、電子と分離される確率が高くなる。正孔捕捉材料としてはRuO2が好ましい。PtとRuO2の両方が担持されていると最も好ましい。電子捕捉材料、正孔捕捉材料の組み合わせはこの限りでないが、PtとRuO2が現状では最も効果が高い。
【0026】
図1に本発明の電界印加型触媒デバイスの概念構造を示す。
(a)は最も基本的な構造であり、1は下部電極、2は多孔質触媒機能体、3は上部電極である。多孔質触媒機能体は導電相を内在する酸化チタンからなる複合粒子を含み、両電極間に交流電界を印加することにより光触媒機能と同じ触媒機能が生じる。この機構は、無機EL発光デバイスの機構を利用している。
【0027】
多孔質触媒機能体は、複合粒子同士の一部が結合した多孔体でもかまわないし、複合粒子が高誘電率材料を介して結合している構造でもよい。高誘電率材料としてはBaTiO3、SrTiO3、Ta25などのセラミックスやガラスでも構わない。但し、触媒発光は酸化チタン表面での反応であるため、このような結合相を介している場合には、複合粒子表面の少なくとも50%が周囲の雰囲気に暴露されていることが好ましい。
【0028】
本発明の電界印加型触媒デバイスは、図1(b)の構造でもよい。1は下部電極、2は多孔質触媒機能体、3は上部電極、4は下部誘電体層、5は上部誘電体層である。上下の誘電体層を導入することで、交流電界が多孔質触媒機能体に均一に付加されデバイスの動作が安定すると共に、酸化チタンの絶縁破壊が防止しやすくなる。このように、上下に誘電体層を配置した湯合は、触媒機能体としては、導電相を内在する酸化チタンからなる複合粒子と誘電体の複合材料以外に、複合粒子単相としてもよい。すなわち、複合粒子層が誘電体層に挟まれた構造となる。
誘電体層としては、BaTiO3、SrTiO3、Ta25、Si34等様々なセラミックス材料を用いることができる。
【0029】
さらには図1(c)のように、基材6が組み合わされた構造でもよい。基材があると、多孔質触媒機能体や誘電体層が薄い場合でも取り扱いの問題なく使用できる。基材は緻密体でもよいが、好ましくは多孔体である。多孔質基材の場合、全ての部位を多孔質とすることができるため、本デバイス内を流体が透過することができ、流体は多孔質触媒機能体中の複合粒子と強制的に接触するため、触媒機能を最も高めることができる。また、多孔質基材そのものがろ過フィルタにもなるため、高濁度の流体を処理する場合など、例えば、浮遊している固形物をまず多孔質基材で前段ろ過しておき、ある程度清澄になった流体を触媒で処理できるため、複合粒子表面への固形物の付着による機能低下を最大限防止することができる。
【0030】
多孔質触媒機能体の作製の方法は種々あるが、その一例として、酸化チタンとその内部に存在する導電相からなる複合粒子が高誘電率を持つセラミックス又はガラスの少なくとも一種を含む結合相を介して互いに結合している多孔質触媒機能体の作製方法を示す。まず、結合相となるセラミックスまたはガラス粉末(絶縁体粉末)と複合粒子を混合、成形して多孔質の成形体とする。結合相としては、誘電率が高いほうが好ましく、BaTiO3、SrTiO3、Ta25、Si34等様々なセラミックス材料が考えられる。窒化物や硫化物等の非酸化物はNやSが拡散によってTiO2にドーピングされやすいので、酸化物が好ましい。成形体を適当な温度で焼成することにより多孔体とすることができる。このとき重要なのは、多孔質触媒機能体中に存在する複合粒子の表面が空間に露出していることである。TiO2を露出させるには、複合粒子と絶縁体粉末の混合時に、絶縁体量を少なくすることや焼成体の気孔率を制御することである程度制御できるが、焼成時に複合粒子と絶縁体粒子の間で原子拡散が起こりすぎると、TiO2内に異種原子がドーピングされてしまうために、拡散が最低限起こるような低温での焼成が好ましい。逆に、温度が低すぎると、粒子間のネッキングが生じなくなり、粒子同士が単に接触しているだけになり、強度が低下するので好ましくない。最も好ましいのは、絶縁体が低温で焼成できるガラスである。ガラスの融点以下で焼成してもよいが、ガラスが溶融する温度まで焼成温度を上げて複合粒子と濡れを起こさせる方法が、原子拡散を防止しつつ、絶縁体と複合粒子を密着させるのに好ましい。ガラス粉末中にBaTiO3などの強誘電体セラミックス粉末を混合しておくと絶縁体の誘電率を増大させることができるので好ましい。
【0031】
溶融ガラスを用いる場合、ガラス成分を分相ガラスとし、酸でエッチングして分相したガラス中の酸に溶解しやすい成分を除去することで、TiO2の露出表面積や多孔質触媒機能体自体の気孔率を飛躍的に増大させることができる。例えば、SiO2−B23−Na2Oガラスは、溶融後に急冷すると、SiO2を主成分とする相とB23−Na2Oを主成分とする相に分相する。酸でエッチングすることで、後者の成分が溶解して多孔質ガラスとなる。このような構造を持つ触媒機能体を形成するための方法として、複合粒子に分相ガラスをコーティングしたコアシェル構造を持つ粉末を成形、焼成後、急冷する方法もある。
【0032】
本発明の電界印加型触媒デバイスは、ろ過フィルタとして用いることができる。
ろ過フィルタとして使用する場合、多孔質触媒機能体、誘電体層、電極、および基材の気孔率は全てが30%以上であることが好ましい。これより小さいと、透過性能が低下す
る。
また、多孔質触媒機能体、誘電体層、電極、および基材の平均細孔径は全てが0.01μm以上であることが好ましい。これより小さいと、ろ過フィルタとして使用する場合、透過性能が低下する。
本発明の電界印加型触媒デバイスは、触媒反応を利用した廃ガス・廃水処理装置や触媒機能を兼ね備えたろ過フィルタのみならず、水の電気分解にも用いることができる。
【実施例】
【0033】
次に実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。
実施例1〜16、比較例1〜2
<原料>
酸化チタン:純度99.999%の各種平均粒径のアナターゼ型TiO2粉末を用いた。
導電相 :純度99.99%の平均粒径20μmのCu、またはAg、またはCu2Sを用いた。
結合相 :誘電体粒子として平均粒径0.1μmのBaTiO3を用いた。
【0034】
<複合粒子の作製>
TiO2粉末とCuまたはAg、またはCu2S粉末を表1記載の量で混合し、ポットに充填して真空封入後、遊星ボールミル装置を用い、加速度75G又は150Gで1hr粉砕した(第一粉砕工程)後、ポットにエタノールを注入し、同じく真空中で、加速度10Gで5分間、解砕処理した(第二粉砕工程)。その後、0.1mol/Lの塩酸に室温で1hr浸漬し、粉末表面に存在する余分な成分を溶解除去したあと、水洗して乾燥させ複合粒子とした。
【0035】
得られた複合粒子の一部は以下の処理を行った。
処理1:RuC13のエタノール溶液中に複合粒子を分散させた。これに、60Coγ線を3hr照射した。複合粒子の分散液を大気中、温度700℃で噴霧した。XRD、およびTEM観察の結果、粒径が約4nmのRuO2粒子が平均で2個付着した複合粒子となっていた。
処理2:Au、またはPt、ポリビニルアルコール、2−プロパノールを含む水溶液に、RuO2粒子を担持させた複合粒子を分散させた。これに、60Coγ線を4hr照射した。処理後の粉末を観察した結果、複合粒子の表面にはRuO2粒子と共に、直径が約5nmのAuまたはPt粒子が平均で2個付着した複合粒子となっていた。
【0036】
<触媒デバイスの作製>
直径25mm、厚さ1mm、気孔率50%、平均細孔径0.1μmのSiC多孔体の一
面にスパッタリングで多孔質Alを2μmの厚さでコーティングして多孔質電極とした。
誘電体粉末(BaTiO3)を水中で超音波分散させた後、SiC多孔質基材の電極側からろ過して、誘電体層を50μm形成した。
次に、各種の複合粒子と誘電体粒子を体積比で2:1で水中で超音波混合させた後、誘電体層側からろ過して多孔質触媒機能体を100μm形成した。
さらにその表面に同じく誘電体層を50μm形成した。
試料を、大気圧の窒素中、表1記載の各種温度で1hr焼成した。その後、誘電体層表面に同じく多孔質電極を形成した。
【0037】
<評価>
得られた触媒デバイスを、図2の循環装置内に設置した。ダイオキシンの一種である2,3’,4,4’,5−Pe−CBを空気に加えて、濃度が135pg/Lのガスを3.5リットル調製した。この時、ガスを意図的に着色するために、予め煙を空気の10%添加して濁度の高い気体としたものに調整した。
これを流速0.5L/minで循環させながら、電極間に表1記載の各種電圧、各種周波数の交流電界を印加した。ダイオキシンが完全に分解するまでの時間を最大で200hrまで測定した。
【0038】
比較例3
実施例7で作製した触媒デバイスを図3の装置に設置し、基材と反対側に発光波長360nm、出力が4.5mWの紫外LEDを照射しながら、実施例と同様に評価した。
【0039】
結果を表1に示す。
【表1】

【0040】
本発明の電界印加型触媒デバイスは、外部光源方式よりも分解時間が短かった。これは、外部光源方式では放射された光はTiO2多孔体の極表面しか励起できないのに対して、本発明の電界印加型触媒デバイスでは、酸化チタン全体を均一に励起できるためと考えられる。
導電相を内在しないものは酸化チタンが励起できないため分解しなかった。導電相を内在させると分解が起こった。
酸化チタンをアナターゼ型に転移させると最も触媒効果が高かった。酸化チタン表面に電子や正孔捕捉粒子を担持させると触媒効果が向上した。酸化チタン粒径が小さいほど触媒効果が向上した。印加電圧、印加周波数が高いほど触媒効果が向上した。導電相が針状ではさらに性能が向上した。
導電相としてCu2Sを用いると、触媒がTiO2:Sでも高い分解性能を示した。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の電界印加型触媒デバイスは、酸化チタン粒子に対して、光の代わりに交流電界を印加することにより触媒機能を発揮させることができるデバイスである。本発明品を汚濁流体中に設置して作動させることにより、紫外線ランプや紫外線LEDなどの外部紫外線光源を用いなくても触媒反応を効率よく起こすことができる。特に、外部光源では処理できない紫外線の吸収が激しい汚濁流体の場合でも効率よく触媒反応を起こすことができるようになる。
【0042】
本発明の電界印加型触媒デバイスを用いた触媒反応容器は、有機物の分解・細菌等の殺菌が可能なため、大気中の汚染物質となるNOx、SOx、COガス、ディーゼルパティキュレート、花粉、挨、ダニ等の分解除去、下水中に含まれる有機化合物の分解除去、一般の細菌、ウイルス等の殺菌光源、化学プラントで発生する有害ガスの分解、臭い成分の分解、超純水製造装置における殺菌光源等、様々な分野に応用できる。また、自動車排ガス処理用ハニカム材、空気清浄機用フィルタ、下水濾過フィルタ、各種浄水器、温泉の殺菌、防虫剤にも応用可能である。
本発明の電界印加型触媒デバイスは、触媒反応を利用した廃ガス・廃水処理装置や触媒
機能を兼ね備えたろ過フィルタのみならず、水の電気分解にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の電界印加型触媒デバイスの構成を示す図である。
【図2】実施例1〜16、及び比較例1〜2において評価に用いた循環装置の概略図である。
【図3】比較例3において評価に用いた循環装置の概略図である。
【符号の説明】
【0044】
1 下部電極
2 多孔質触媒機能体
3 上部電極
4 下部誘電体層
5 上部誘電体層
6 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタンとその内部に存在する導電相からなる複合粒子を含む多孔質触媒機能体と、該多孔質触媒機能体に交流電界を印加するための電極とを具備していることを特徴とする電界印加型触媒デバイス。
【請求項2】
導電相が針状、または/およびラメラ状である請求項1記載の電界印加型触媒デバイス。
【請求項3】
導電相がCuおよびAgの少なくとも一種を含む請求項1記載の電界印加型触媒デバイス。
【請求項4】
導電相がCuもしくはCuとSの化合物又はこれらの複合材料からなる請求項1記載の電界印加型触媒デバイス。
【請求項5】
酸化チタンの平均一次粒径が10nm以下である請求項1記載の電界印加型触媒デバイス。
【請求項6】
酸化チタンがアナターゼ型である請求項1記載の電界印加型触媒デバイス。
【請求項7】
複合粒子表面に電子捕捉材料または/および正孔捕捉材料が担持されている請求項1〜6のいずれかに記載の電界印加型触媒デバイス。
【請求項8】
電子捕捉材料がPtである請求項7記載の電界印加型触媒デバイス。
【請求項9】
正孔捕捉材料がRuO2である請求項7記載の電界印加型触媒デバイス。
【請求項10】
複合粒子が高誘電率を持つセラミックスまたはガラスの少なくとも一種を含む結合相を介して互いに結合している請求項1〜9のいずれかに記載の電界印加型触媒デバイス。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の電界印加型触媒デバイスからなるろ過フィルタ。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載の電界印加型触媒デバイスを用いた廃ガス・廃水処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−754(P2006−754A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−179397(P2004−179397)
【出願日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】