説明

電界発光素子、電界発光素子の製造方法、及び電界発光素子による発光方法

【課題】低い電圧供給により高い電界を発生させることができる低出力の電界発光素子を実現する。
【解決手段】本発明の電界発光素子は、下部電極102と上部電極108とからなる一対の電極を有し、下部電極102と上部電極108との間に蛍光体を含むシリコン蛍光体層106が設けられた電界発光素子であって、下部電極102には、ナノメートルオーダーの微小突起104が複数設けられたナノ構造を有し、シリコン蛍光体層106は、微小突起104を覆うように設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界発光素子、電界発光素子の製造方法、及び電界発光素子による発光方法に関するものであり、より詳しくは、集積回路(IC)に適した電界発光素子、電界発光素子の製造方法、及び電界発光素子による発光方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体材料のバンドギャップが直接遷移型あるいは間接遷移型であるかに関わらず、半導体素子(デバイス:device)から発光させることが可能である。高領域の逆バイアスpn接合により、ホットキャリア群が生成される。このホットキャリアは、遊離光量子と再結合する。シリコン素子においては、発光効率が悪い事が知られており、光量子のエネルギーが約2eVであるものがほとんどである。電気エネルギーを可視光エネルギーへ変換することは、電界発光(EL)と呼ばれている。室温で、少ない電気信号で動作可能な効率的な電界発光素子が製造されてきている。しかしながら、これらの素子は、シリコンと相性が悪い材料(例えば、InGaN、AlGaAs、GaAsP、GaN、及びGaPといったIII−V族の材料)の上に加工される。これら材料のうち1つの基板上に設けられた電界発光素子は、使用される特定の材料に応じて、可視領域を含む狭波長帯域の光を効率的に出射することが可能である。さらに、ZnSeといったII−VI族の材料が使用されている。また、ZnSやZnOといった他のII−VI族の材料は、交流バイアス(ac bias)条件下で電界発光を示すことが知られている。これらの素子は、発光素子として利用するために、シリコン上に堆積可能である。ただし、これは特定(従来とは異なる)のCMOS工程が実行される場合に限られる。発光装置の他の分類としては、有機発光ダイオード(OLEDs)、ナノ結晶性シリコン(nc−Si)、及び重合体LEDが挙げられる。
【0003】
光学素子(発光素子及び光検出素子)が必要とされる用途において、シリコンと相性が良く、直流電圧(dc voltage)により出力可能な、簡易でかつ効率的な発光素子が要望されている。電界発光素子のための有効なシリコン基板は、従来の金属処理と比較して、より迅速でありかつ信頼性がある、単結合の手段を可能にする。大きなシステムオンチップ型(system-on-chip)の装置のチップ間接続(intra-chip connection)においては、光学手段による信号の経路設定(routing)が要望されている。チップ間通信(inter-chip communication)においては、導波路、または離間したシリコン部材間の光学的な結合により、チップ間の電気的接続がない状態での実装が可能になる。小型ディスプレイにおいては、可視光の小さな点光源を生成する方法により、簡単でかつ安価なディスプレイが形成可能になる。
【0004】
J.Ruanらは、ナノシリコン超格子発光素子の構造を提案している。この発光素子は、ナノシリコン層/酸化物層の重層からなる。この照射中心(radiation center)は、Si=O結合になっている。
【0005】
Polmanらは、ドーピングシリコンベースのエルビウム(Er)含有材料(Er密度が1019/cmオーダーである)を提案している。このシリコンベースの材料は、純ケイ素(pure Si)、シリコン酸化物、ドープシリコン酸化物、またはガラスであってもよい。上述のEr密度は、Siに対するErの固体溶解度を増加させるために、酸化物との共ドープを必要とする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の技術では、以下の問題を生じる。
【0007】
具体的には、J.Ruanらにより提案された技術では、電子−正孔対(electron-hole pairs)を生成するために、高い交差極性を有する電圧パルスが必要になる。
【0008】
また、Polmanらにより提案された技術では、Erの照射中心が発光するためには、高エネルギーの電子及び正孔を生成し、Erドープ材料へ注入させる必要がある。
【0009】
低出力、高密度、及び大スケールのICの用途に適した電界発光素子が製造されれば、好都合である。
【0010】
また、従来のSiのCMOSプロセスを用いて、実用的に電界発光素子が製造されれば、好都合である。また、大きな交差極性、及び高エネルギーの電子注入を必要とせずに、電界発光素子を動作させることができれば、好都合である。
【0011】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、低い電圧供給により高い電界を発生させることができる低出力の電界発光素子、電界発光素子の製造方法、及び電界発光素子による発光方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の電界発光素子は、上記の課題を解決するために、下部電極と上部電極とからなる一対の電極を有し、下部電極と上部電極との間に蛍光体を含む蛍光体層が設けられた電界発光素子であって、上記下部電極は、ナノメートルオーダーの微小突起が下部電極表面に複数設けられたナノ構造を有し、上記蛍光体層は、上記微小突起を覆うように設けられていることを特徴としている。また、上記微小突起は、下部電極表面に対し垂直に形成されていることが好ましい。
【0013】
上記の構成によれば、下部電極は、ナノメートルオーダーの微小突起が下部電極表面に複数設けられたナノ構造を有し、蛍光体層は、上記微小突起を覆うように設けられているので、上部電極と下部電極との間に電圧が印加されると、微小突起の端部で、非常に高い電界強度の電界が発生する。そして、高エネルギーの電子及び正孔が、微小突起から蛍光体へ注入される。これにより、蛍光体層中の局所でインパクトイオン化が生じる。そして、活性化した電子及び正孔は、発光中心を介して再結合するようになる。このように、上部電極と下部電極との間に電圧が印加されることにより、光が励起する。この電圧印加により、微小突起と上部電極との間に、高い電界が発生する。そして、上記の構成によれば、電子及び正孔が蛍光体へ移動し、光が出射されるようになる。
【0014】
したがって、上記の構成によれば、低い電圧供給により高い電界を発生させることができる低出力の電界発光素子を実現することができる。
【0015】
なお、「蛍光体層が上記微小突起を覆うように設けられている」構成とは、微小突起の上部電極側に蛍光体層が配された構成であり、蛍光体層が微小突起の表面と直接接するように設けられた構成であっても、蛍光体層が微小突起の表面と直接接していない構成であってもよい。
【0016】
それゆえ、本発明の電界発光素子は、上記微小突起表面に、上記蛍光体が堆積され、蛍光体層が形成されている構成であっても、同様の効果を奏する。
【0017】
さらに、本発明の電界発光素子は、上記蛍光体層が、上記ナノ構造の形状に沿った形状で設けられている構成であってもよい。
【0018】
本発明の電界発光素子では、上記下部電極の蛍光体層と反対側に基板を備え、その基板と下部電極との間に高融点金属膜が配されたことが好ましい。
【0019】
上記の構成によれば、基板と下部電極との間に高融点金属膜が配されていることにより、微小突起の成長を促進させるなど、デバイス製作工程の効率向上を図ることが可能になる。その結果、上記の構成によれば、デバイスの作製期間短縮およびコストダウンを実現することができる。
【0020】
また、上記微小突起は、イリジウム酸化物からなっていてもよい。
【0021】
上記蛍光体層が、シリコンリッチのシリコン酸化物からなる層であってもよい。
【0022】
また、本発明の電界発光素子では、上記蛍光体層には、エルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、及びテルビウム(Tb)の含む集団から選択された希土類元素がドープされていることが好ましい。
【0023】
上記の構成の場合、蛍光体層中のインパクトイオン化により活性化した電子及び正孔が、ドープされた希土類元素を介して再結合するようになる。すなわち、上記の構成によれば、発光中心がドープされた希土類元素となっているので、上部電極と下部電極との間に電圧が印加されると光が励起する。
【0024】
それゆえ、上記の構成でも、低い電圧供給により高い電界を発生させることができる低出力の電界発光素子を実現することができる。
【0025】
上記上部電極は、インジウムすず酸化物(ITO)、オキシフッ化亜鉛、及び導電性プラスチックの含む集団から選択された材料からなっていてもよい。
【0026】
また、本発明の電界発光素子の製造方法は、上記の課題を解決するために、下部電極と上部電極とからなる一対の電極を有し、下部電極と上部電極との間に蛍光体を含む蛍光体層が設けられた電界発光素子の製造方法であって、ナノメートルオーダーの微小突起が複数設けられたナノ構造を有する下部電極を形成する下部電極形成工程と、上記微小突起に近接させて蛍光体層を形成する蛍光体層形成工程と、蛍光体層に近接させて上部電極を形成する上部電極形成工程とを含むことを特徴としている。
【0027】
上記の構成によれば、下部電極形成工程にてナノメートルオーダーの微小突起が複数設けられたナノ構造を有する下部電極を形成するので、低い電圧供給により高い電界を発生させることができる低出力の電界発光素子の製造方法を実現することができる。
【0028】
本発明の電界発光素子の製造方法では、基板を準備する基板準備工程を含み、上記下部電極形成工程は、上記基板に下部電極原料を供給する原料供給段階と、有機金属気相成長法を用いて、基板上に下部電極原料を堆積させる堆積段階と、堆積させた下部電極原料から、微小突起を成長させる成長段階とを含むことが好ましい。特に、上記原料供給段階にて、下部電極原料として(メチルシクロペンタジエニル)(1,5シクロオクタジエン)イリジウムを供給することが好ましい。
【0029】
本発明の電界発光素子による発光方法は、上記の課題を解決するために、上述の電界発光素子を準備する電界発光素子準備工程と、上部電極と下部電極との間に、交差極性の電圧パルスを印加する電圧パルス印加工程と、蛍光体層に電界を発生させ、微小突起近傍で電界を発生させる電界発生工程とを含むことを特徴としている。
【0030】
上記の構成によれば、低い電圧供給により高い電界を発生させることができる低出力の電界発光素子による発光方法を実現することができる。
【0031】
具体的には、本発明の電界発光素子による発光方法では、上記電圧パルス印加工程にて印加する電圧パルスの最大振幅が10ボルトよりも小さい場合であっても、電界発光を実現することが可能である。
【発明の効果】
【0032】
本発明の電界発光素子は、以上のように、上記下部電極には、ナノメートルオーダーの微小突起が複数設けられたナノ構造を有し、上記蛍光体層は、上記微小突起を覆うように設けられている構成である。
【0033】
また、本発明の電界発光素子の製造方法は、以上のように、ナノメートルオーダーの微小突起が複数設けられたナノ構造を有する下部電極を形成する下部電極形成工程と、上記微小突起に近接させて蛍光体層を形成する蛍光体層形成工程と、蛍光体層に近接させて上部電極を形成する上部電極形成工程とを含む構成である。
【0034】
また、本発明の電界発光素子による発光方法は、以上のように、上述の電界発光素子を準備する電界発光素子準備工程と、上部電極と下部電極との間に、交差極性の電圧パルスを印加する電圧パルス印加工程と、蛍光体層に電界を発生させ、微小突起近傍で電界を発生させる電界発生工程とを含む構成である。
【0035】
下部電極は、ナノメートルオーダーの微小突起が下部電極表面に複数設けられたナノ構造を有し、蛍光体層は、上記微小突起を覆うように設けられているので、上部電極と下部電極との間に電圧が印加されると、微小突起と上部電極との間に高い電界が発生する。そして、電子及び正孔が蛍光体へ移動し、光が出射されるようになる。それゆえ、本発明によれば、低い電圧供給により高い電界を発生させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明は、シリコン蛍光体及び微小突起を有する電極を用いた電界発光素子、電界発光素子の製造方法、及び電界発光素子による発光方法に関するものである。
【0037】
本発明の一実施形態について図1ないし図12に基づいて説明すると以下の通りである。図1は、本発明の電界発光(EL)素子の部分断面図である。
【0038】
電界発光素子(以下、EL素子と記す)100は、微小突起104を有する下部電極102を備えている。この下部電極102は、微小突起104が下部電極102表面に複数設けられたナノ構造を有している。シリコン(Si)蛍光体層(蛍光体層)106は、微小突起104に近接している。透明上部電極108は、シリコン蛍光体層106を覆うように設けられている。シリコン蛍光体層106は、上部電極108と下部電極102との間に設けられている。
【0039】
ここでいう「微小突起」とは、「ナノメートルオーダーの微小突起」のことを意味するものであり、一般的には「nanotip」として知られている。そして、この微小突起は、ある特定の物理的性質、形状、または寸法に限定されるものではない。微小突起は、ナノロッド、ナノチューブ、またはナノワイヤーとして知られているものであってもよい。また、ここでは示さないが、微小突起は、中空構造を形成していてもよい。さらに、ここでは示さないが、微小突起は、複数のチップ端から形成されていてもよい。微小突起104は、略鉛直、すなわち下部電極102の(水平)面に対し垂直に形成されている。しかしながら、微小突起の下部電極に対する配向(orientation)は、これに限定されるものではない。
【0040】
図2は、図1の電界発光素子における、いくつかの微小突起の詳細を示す部分断面図である。下部電極の微小突起104は、突起基底幅(tip base size)200を有している。突起基底幅200は、約50ナノメーター以下である。また、下部電極の微小突起104は、チップ高さ202を有している。この突起高さ202は、5nmから50nmまでの範囲内である。一般的に、微小突起の密度は、1平方マイクロメーター当たり100(個の)微小突起よりも多い。すなわち、一般的に、下部電極(第1の電極)102の1平方マイクロメーターの領域から成長している微小突起の数は、100よりも大きい。
【0041】
一例としては、微小突起104は、イリジウム酸化物(IrO)からなっている。なお、Irが完全に酸化されている場合、「x」の値は2であってもよい。また、Irが完全に酸化されていない場合には、「x」の値はゼロに近い値であってもよい。IrOの微小突起は本発明に示されるように使用される。しかしながら、微小突起は、同様に、導電性の金属酸化物または金属から形成されていてもよいことが期待される。また、換言すれば、本発明のナノチップ電極(ナノ構造を有する電極)を有するEL素子の背景技術思想は、ナノ構造を形成することが可能な他の電極材料に対しても適用可能である。
【0042】
再び図1に戻って、EL素子100は、さらに、基板110を備えている。基板110は、シリコン、シリコン酸化物、シリコン窒化物、または非腐食性金属といった材料からなっている。下部電極102は、基板110に近接して(基板110を覆うように)形成されている。
【0043】
図3は、図1の電界発光素子の第1の構成例を示す部分断面図である。図3の構成例では、EL素子100は、基板110を備え、基板110と下部電極102との間に高融点金属膜(refractory metal film)300が設けられている。
【0044】
半導体プロセスにおける「高融点金属」とは、Si(シリコン)の融点との比較により決められる。シリコンの融点は約1400℃であるため、半導体プロセスでは、一部の低温工程を除き、一般に各工程では、700℃〜1200℃の温度で処理が行われる。その際、Al(アルミニウム)などの金属では、その融点が600℃程度であるため、一度Alを堆積させると、それ以降の工程において600℃以上にすることができない(Alが溶けてしまう)。このため、Al(アルミニウム)などの金属を堆積させた場合、デバイスの製造上の障害・制限となる。
【0045】
これに対し、Ti、Wなどの金属は、融点がシリコンよりも高いため、それらを堆積した後の工程でも通常のシリコンに用いるのと同じ温度まで上昇させることができ、デバイス製造上の制限とならない。
【0046】
本発明においては、上記のような理由から、以降のデバイス製造の支障となることがないように高融点金属を用いる。
【0047】
再び図1に戻って、シリコン蛍光体層106は、シリコンが豊富に含まれた(シリコンリッチの)シリコン酸化物(silicon-rich silicon oxide)(SRSO)層である。また、このSRSO層は、1nmから10nmまでの範囲の幅(直径)を有するナノ結晶構造を有している。別の構成として、SRSO層には、エルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、またはテルビウム(Tb)といった希土類元素がドープされている。しかしながら、ナノチップ電極を有するEL素子においては、シリコン蛍光体層は、特定のシリコン蛍光結晶、あるいはドーピングに限定されるものではない。
【0048】
図1に示すように、シリコン蛍光体層106は、上部に平坦面107を有しており、平坦面107は、上部電極108の底面109と近接している。すなわち、シリコン蛍光体層上部の平坦面107は、化学機械研磨(CMP)といった平坦化処理により形成されたものである。さらに、下部電極は、微小突起の形状(nanotip profile)を有する上面を有するともいえる。そして、シリコン蛍光体層106は、不揃いな形状の底面を有しており、この底面が、下部電極上面の微小突起の形状と嵌め合うような形状であると理解される。下部電極の微小突起104はそれぞれ、端部112を有している。図1に示すように、シリコン蛍光体層106は、膜厚114を有したものである。膜厚114は、第1の電極の微小突起基底部(下部電極の上面)と上部電極の底面109との間を規定し、20nmから200nmまでの範囲である。
【0049】
上部電極108は、インジウムすず酸化物(ITO)、オキシフッ化亜鉛、または導電性プラスチックといった材料からなっていてもよい。しかしながら、上部電極108として、上記の材料以外のものを用いてもよい。例えば、上部電極108として、金といった金属からなる金属層が、透明になるほど(光が透過することが可能になる程度に)薄く形成されていてもよい。また、上部電極108は、50nmから300nmまでの範囲の膜厚を有する。
【0050】
図4は、図1の電界発光素子の第2の構成例を示す部分断面図である。シリコン蛍光体層106は、微小突起に近接する底面40を有している。この底面40は、微小突起104表面、微小突起104周囲、あるいは微小突起104間に沿うように近接している。底面40は、微小突起104表面、微小突起104周囲、及び微小突起104間の全てに沿うように近接することが可能であるが、図4に示された構成例では、シリコン蛍光体層106は、微小突起104「表面」に形成されている。材料400は、シリコン蛍光体層106以外の蛍光体層、あるいは蛍光特性を有さない誘電体の層であってもよい。
【0051】
図5は、図1の電界発光素子の第3の構成例を示す部分断面図である。図5に示された構成例では、シリコン蛍光体層106は、微小突起104間に形成されている。材料500は、シリコン蛍光体層106の材料とは異なる蛍光材料、あるいは蛍光特性を有さない誘電体であってもよい。一例として、材料500は、結晶イリジウム(Ir)である。
【0052】
以下、本発明の電界発光素子の機能について説明する。
【0053】
図6及び図7は、本発明の電界発光素子の製造方法における各工程を示す図である。これらの図に示されるように、下部電極は、イリジウム酸化物からなり、微小突起が形成されている。簡単さのために、図6及び図7では、シリコン蛍光体を「SRSO」として表記している。上部電極は、ITOといった導電性材料からなっている。
【0054】
図8は、図6及び図7の本発明の電界発光素子の完成後の部分断面図である。図8には、金属−絶縁体−金属(MIM)型のナノチップ電界発光ダイオードが示されている。この電界発光ダイオードでは、下部電極がイリジウム酸化物の微小突起を含むものになっている。シリコンが豊富に含まれた酸化物の蛍光体には、波長1.54μmの光出射のためにエルビウム(Er)がドープされていてもよい。
【0055】
透明電極とシリコン基板との間に電圧が印加されると、イリジウム酸化物(IrO)の微小突起の端部で、非常に高い電界強度の電界が発生する。そして、高エネルギーの電子及び正孔が、イリジウム酸化物(IrO)の微小突起から蛍光体へ注入される。これにより、シリコンリッチシリコン酸化物中の局所的なシリコン微結晶でインパクトイオン化が生じる。活性化した電子及び正孔は、Si=O、またはErドーパント(発光中心)を介して、再結合する。透明電極とシリコン基板との間、すなわち上部電極と下部電極との間に、交差極性の電圧パルスが印加されることにより、光が励起する。これらのパルスは、イリジウム酸化物(IrO)の微小突起と透明電極との間に、高い電界を発生させる。これにより、電子及び正孔が蛍光体へ移動し、一般的なMIM装置と同様に光が出射される。
【0056】
イリジウム酸化物(IrO)の微小突起を成長させる方法の一例としては、イリジウム酸化物(IrO)の微小突起の鉛直方向の成長を促進させるために、シリコン基板上にチタン(Ti)薄膜を堆積する方法が挙げられる。MOCVDにより、イリジウム酸化物(IrO)の微小突起を成長させる。このMOCVDでは、原材料として(メチルシクロペンタジエニル)(1,5シクロオクタジエン)イリジウムを使用し、温度350℃、酸素加圧10〜50torr(1torr=0.133322kPa)の環境下で処理する。微小突起の密度及び高さは、サブレイヤーであるチタン層の膜厚、堆積圧、温度、及び時間により制御可能になっている。
【0057】
図9は、微小突起の端部の詳細を示す走査電子顕微鏡(SEM)画像である。イリジウム酸化物(IrO)の微小突起は、数ナノメートルオーダーの直径の先端(pointy end)を有する。それゆえ、電極に印加される電圧パルスの振幅が比較的小さい場合であっても、微小突起先端領域で高電界強度の電界を発生させることができる。また、電流は、各微小突起に均等に流れるものではない。チップのサイズ(直径)は、約50ナノメートルである。なお、このチップのサイズは、微小突起成長工程の設定に応じて制御可能である。イリジウム酸化物(IrO)の微小突起の高さは、100nmにすることが可能であるが、一般的に5nm〜50nmである。イリジウム酸化物(IrO)の微小突起の密度は、一般的に、1平方マイクロメートル当たり100よりも大きい密度である。しかしながら、この密度は、3000/μmよりも大きくすることが可能である。また、装置のサイズをサブミクロンの直径領域にまで小さくすることにより、均一な装置特性を実現することが可能になる。
【0058】
図10Aは、IrOからなる微小突起成長の初期段階を示すSEM画像である。この図では、単離された数個の微小突起のみが見られる。
【0059】
図10Bは、十分に成長したIrOからなる微小突起を示すSEM画像である。この図では、微小突起の高密度の垂直配置構造が示されている。
【0060】
イリジウム酸化物(IrO)の微小突起成長後、微小突起上部にシリコンリッチシリコン酸化物の薄膜が堆積される。そして、CMP加工により、堆積された酸化物が平坦化される。微小突起上部に形成された酸化物層の膜厚は、20〜200nmである。そして、ITO層(膜厚50nm〜300nm)が堆積・パターンニングされ、上部電極が形成される。電界領域における、イリジウム酸化物(IrO)の微小突起及びシリコンリッチのシリコン酸化物層は、エッチングされ、再びシリコン酸化物が補充され、さらにCMPにより平坦化されたものでもよい。パターン化された微小突起を有する電界発光素子は、大面積の光電子放出アレイを形成するのに適したものになる。
【0061】
図11は、ナノチップ電極を有する電界発光素子の製造方法を示すフローチャートである。なお、当該方法は、明瞭に示すために、番号が振られた工程の順番として示しているが、特に明示されていないかぎり、これらの番号から順番が推断されるものではない。いくつかの工程は、飛ばされたり、平行して行われたり、または、順番を厳密に維持するという条件を満たさずに行われても良いことを理解されたい。この方法のいくつかの詳細は、上記図1〜図8の説明内容から理解される。上記方法は、工程1100から開始される。
【0062】
工程1104(下部電極形成工程)では、微小突起を有する下部電極を形成する。工程1106(蛍光体層形成工程)では、微小突起に近接させてシリコン蛍光体層を形成する。さらに具体的には、工程1106では、微小突起周囲、微小突起上、及び微小突起間にシリコン蛍光体層を形成する。工程1108(上部電極形成工程)では、シリコン蛍光体層に近接させて上部電極を形成する。この工程により、シリコン蛍光体層は、下部電極と上部電極との間に設けられるようになる。
【0063】
工程1104においては、微小突起を、基底幅が50ナノメートル以下、チップ高さが5ナノメートル〜50ナノメートルの範囲、微小突起の密度が1平方マイクロメートル当たり100個の微小突起よりも大きくなるように形成してもよい。また、ナノ構造を有する電極材料として様々な材料を用いるが、一般的には、微小突起の材料としてイリジウム酸化物を用いる。
【0064】
また、一例として、工程1102(基板準備工程)にて基板を準備する。この基板は、シリコン、シリコン酸化物、シリコン窒化物、または非腐食性金属といった材料からなっている。また、工程1104にて、イリジウム酸化物(IrO)からなる微小突起を形成する場合、工程1104は、サブ工程1104a〜1104eを含む。サブ工程1104a(原料供給段階)では、(メチルシクロペンタジエニル)(1,5シクロオクタジエン)前駆体を供給する。サブ工程1104b(堆積段階)では、有機金属気相成長法(MOCVD)を用いて、イリジウム(Ir)を堆積させる。サブ工程1104c(成長段階)では、堆積させたイリジウム(Ir)から、イリジウム酸化物(IrO)からなる微小突起を成長させる。サブ工程1104dでは、温度約350℃でイリジウム(Ir)を堆積させる。サブ工程1104eでは、酸素部分加圧10〜50torrで、イリジウム(Ir)を堆積させる。
【0065】
本発明の方法の他の例として、工程1103にて、基板を覆うように、高融点金属膜を形成する。このとき、MOCVDを用いてイリジウム(Ir)を堆積させるサブ工程1104bでは、高融点金属膜を覆うようにイリジウム(Ir)を堆積させている。
【0066】
また、一例として、シリコン蛍光体層を形成する工程1106では、(シリコン蛍光体層として)シリコンリッチのシリコン酸化物(以下、SRSOと記す)層を形成する。皿の他の例として、工程1104にて形成される下部電極の微小突起が微小突起端を有する場合、工程1106は、サブ工程1106a〜1106cを含む。サブ工程1106aでは、微小突起を有する下部電極を覆うように、一様にSRSOを堆積させる。サブ工程1106bでは、酸素含有雰囲気下で(in ambient content oxygen)SRSOをアニールする。このとき、温度700℃と1100℃との間の範囲で、10分と90分との間の時間アニールする。サブ工程1106cでは、SRSO層を平坦化する。そして、工程1108にて、平坦化されたSRSO層を覆うように、上部電極を形成する。
【0067】
また、微小突起を覆うようにSRSOを一様に堆積させるサブ工程1106aでは、SRSOの膜厚を50〜500nmとしている。そして、サブ工程1106bにて、SRSOを平坦化し、SRSOの膜厚を20nm〜200nmの範囲にする。この平坦化後のSRSOの膜厚が、微小突起基底部と上部電極との間にあるSRSOの膜厚となる。さらに他の例では、SRSOをアニールするサブ工程1106bでは、ナノ結晶構造を有するナノ結晶SRSOを、そのサイズが1〜10nmの範囲になるように、形成する。さらに他の例として、SRSO層を形成する工程1106にて、SRSOに、エルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、またはテルビウム(Tb)といった希土類元素をドープしている。
【0068】
また、一例として、上部電極を形成する工程1108は、サブ工程1108a及び1108bを含んでいる。サブ工程1108aでは、上部電極材料を、膜厚が50〜300nmになるように、一様に堆積させている。サブ工程1108bでは、上部電極材料、SRSO層、及び下部電極を、選択的にエッチングしている。上部電極の材料としては、インジウムすず酸化物(ITO)、オキシフッ化亜鉛、または導電性プラスチックが挙げられる。
【0069】
図12は、電界発光素子からの発光方法を示すフローチャートである。この方法は、工程1200から開始される。工程1202(電界発光素子準備工程)にて、EL素子を準備する。なお、このEL素子は、微小突起を有する下部電極、微小突起に近接したシリコン蛍光体層、及びシリコン蛍光体層を覆うように形成された透明上部電極を備えたものである。工程1204(電圧パルス印加工程)では、上部電極と下部電極との間に、交差極性の電圧パルスを印加する。なお、この電圧パルスの最大振幅(peak-to-peak)は、10ボルトよりも小さくなっている。工程1206(電界発生工程)では、シリコン蛍光体層に電界を発生させ、微小突起近傍で強度1×10V/cmの電界を発生させる。
【0070】
また、一例として、EL素子を準備する工程1202では、サイズ1〜10nmの結晶構造を有するSRSO材料からなるシリコン蛍光体層を備えたEL素子を準備する。そして、工程1208では、SRSOに発生した電界に応答して、光を出射させている。なお、この光の波長は、500nmと750nmとの間の範囲となっている。
【0071】
さらに他の例では、工程1202にて、希土類元素がドープされたSRSO材料からなるシリコン蛍光体層を備えたEL素子を準備する。そして、工程1208では、SRSOに発生した電界に応答して、光を出射させている。なお、この光の波長は、0.3μmと1μmとの間の範囲となっている。
【0072】
本発明は、低電圧、低出力の電界発光素子である。このために、本発明では、イリジウム酸化物からなる微小突起を用いている。この微小突起は、低い電圧供給でも高い電界強度を実現する。シリコンリッチのシリコン酸化物(SRSO)は、電界発光のための蛍光材料として用いられている。なお、SRSOには、希土類元素がドープされていてもよいし、ドープされていなくてもよい。Si=O照射中心は、波長範囲500ナノメートル(nm)〜750nmの光(波長ピークが約550nmである)を生成する。一方、エルビウム(Er)がドープされた材料の照射中心は、例えば、波長1.54マイクロメートル(μm)の光を生成する。
【0073】
すなわち本発明の製造方法は、電界発光素子の製造方法であって、微小突起を有する下部電極を形成する下部電極形成工程と、微小突起に近接させてシリコン蛍光体層を形成するシリコン蛍光体層形成工程と、シリコン蛍光体層に近接させて光透過性の上部電極を形成し、下部電極と上部電極との間にシリコン蛍光体層が位置するようにする上部電極形成工程とを含むことを特徴としている。
【0074】
微小突起は、突起基底幅が約50ナノメートル以下であり、チップ高さが5〜50nmであり、微小突起の密度が1平方マイクロメートル当たり100個の微小突起よりも大きい構成あってもよい。一般的には、微小突起は、イリジウム酸化物(IrO)からなる。
【0075】
イリジウムからなる下部電極を堆積させるための有機金属気相成長法(MOCVD)の詳細が提示されている。イリジウム酸化物(IrO)からなる微小突起は、堆積されたイリジウムから成長したものである。一例として、シリコン蛍光体層は、SRSOからなっている。SRSOのアニール工程に対して、1〜10nmのサイズの結晶を有するナノ結晶SRSOが形成される。他の例として、SRSO層には、エルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、またはテルビウム(Tb)といった希土類元素がドープされている。上部電極は、透明であり、インジウムすず酸化物(ITO)、オキシフッ化亜鉛、または導電性プラスチックといった材料からなっていてもよい。
【0076】
以上のことより、本発明は、以下のように言い換えることができる。
【0077】
すなわち、本発明の電界発光素子の製造方法は、微小突起を有する下部電極を形成する下部電極形成工程と、微小突起に近接させてシリコン蛍光体層を形成するシリコン蛍光体層形成工程と、シリコン蛍光体層に近接させて光透過性の上部電極を形成し、下部電極と上部電極との間にシリコン蛍光体層が配するようにする上部電極形成工程とを含む構成であるともいえる。
【0078】
そして、この電界発光素子の製造方法においては、上記下部電極形成工程では、チップ基底幅が約50ナノメートルになるように、微小突起を形成することが好ましいといえる。
【0079】
また、上記下部電極形成工程では、チップ高さが5〜50ナノメートルになるように、微小突起を形成することが好ましいといえる。
【0080】
また、上記下部電極形成工程では、微小突起密度が1平方マイクロメートル当たり100個の微小突起よりも大きくなるように、微小突起を形成することが好ましいといえる。
【0081】
また、上記下部電極形成工程では、イリジウム酸化物からなる微小突起を形成することが好ましいといえる。
【0082】
さらに、本発明の電界発光素子の製造方法においては、シリコン、シリコン酸化物、シリコン窒化物、及び非腐食性金属の含む集団から選択された材料からなる基板を準備する基板準備工程を含み、上記下部電極形成工程は、(メチルシクロペンタジエニル)(1,5シクロオクタジエン)前駆体を供給するサブ工程と、有機金属気相成長法(MOCVD)を用いて、イリジウムを堆積させるサブ工程と、堆積させたイリジウムから、イリジウム酸化物からなる微小突起を成長させるサブ工程とを含むことが好ましいといえる。
【0083】
また、上記下部電極形成工程は、約350℃の温度でイリジウムを堆積させるサブ工程と、酸素部分加圧10〜50torrで、イリジウムを堆積させるサブ工程とを含むことが好ましいといえる。
【0084】
さらに、本発明の電界発光素子の製造方法においては、上記基板を覆うように、高融点金属膜を形成する工程を含み、有機金属気相成長法(MOCVD)を用いて、イリジウムを堆積させるサブ工程にて、高融点金属膜を覆うようにイリジウムを堆積させることが好ましいといえる。
【0085】
さらに、上記シリコン蛍光体層形成工程では、シリコンリッチのシリコン酸化物(SRSO)層を形成することが好ましいといえる。
【0086】
また、上記下部電極形成工程では、微小突起端と微小突起基底とを有する微小突起を形成するとともに、上記シリコン蛍光体層形成工程は、微小突起を有する下部電極を覆うように、一様にSRSOを堆積させるサブ工程と、酸素含有雰囲気下、温度700℃と1100℃との間の範囲、10分と90分との間の時間でSRSOをアニールするサブ工程と、SRSO層を平坦化するサブ工程とを含み、上記上部電極形成工程では、平坦化されたSRSO層を覆うように、上部電極を形成することが好ましいといえる。
【0087】
また、微小突起を覆うようにSRSOを一様に堆積させるサブ工程では、SRSOの膜厚を50〜500nmとしており、SRSO層を平坦化するサブ工程では、SRSOの膜厚を20nm〜200nmの範囲とし、そのSRSOの膜厚が、突起基底部と上部電極との間にあるSRSOの膜厚とすることが好ましいといえる。
【0088】
また、SRSOをアニールするサブ工程では、ナノ結晶構造を有するナノ結晶SRSOを、そのサイズが1〜10nmの範囲になるように、形成することが好ましいといえる。
【0089】
また、上記上部電極形成工程は、上部電極材料を、膜厚が50〜300nmになるように、一様に堆積させるサブ工程と、上部電極材料、SRSO層、及び下部電極を、選択的にエッチングするサブ工程とを含むことが好ましいといえる。
【0090】
また、SRSO層を形成する工程では、SRSOに、エルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、及びテルビウム(Tb)の含む集団から選択された希土類元素をドープすることが好ましいといえる。
【0091】
また、上記上部電極形成工程では、インジウムすず酸化物(ITO)、オキシフッ化亜鉛、及び導電性プラスチックの含む集団から選択された材料からなる上部電極を形成することが好ましいといえる。
【0092】
また、上記シリコン蛍光体層形成工程では、微小突起周囲、微小突起上、及び微小突起間を含む集団から選択される関係で、微小突起に近接させてシリコン蛍光体層を形成することが好ましいといえる。
【0093】
また、本発明の電界発光素子は、ナノチップ電極を有する電界発光素子であって、微小突起を有する下部電極と、上記微小突起に近接したシリコン蛍光体層と、上記シリコン蛍光体層を覆うように形成された、光透過性の上部電極とを備え、下部電極と上部電極との間にシリコン蛍光体層が配された構成であるともいえる。
【0094】
この電界発光素子では、上記下部電極の微小突起は、突起基底幅が約50ナノメートルであることが好ましいといえる。
【0095】
また、上記下部電極の微小突起は、突起高さが5〜50ナノメートルであることが好ましいといえる。
【0096】
また、上記下部電極の微小突起は、微小突起の密度が1平方マイクロメートル当たり100個よりも大きくなっていることが好ましいといえる。
【0097】
また、上記下部電極の微小突起は、イリジウム酸化物からなっていることが好ましいといえる。
【0098】
また、本発明の電界発光素子は、さらに基板を備え、その基板と下部電極との間に高融点金属膜が配された構成が好ましいといえる。
【0099】
また、本発明の電界発光素子は、さらに、シリコン、シリコン酸化物、シリコン窒化物、及び非腐食性金属の含む集団から選択された材料からなる基板を備え、上記下部電極は、上記基板に近接して形成されている構成が好ましいといえる。
【0100】
そして、上記シリコン蛍光体層が、シリコンリッチのシリコン酸化物(SRSO)層であることが好ましいといえる。
【0101】
また、上記SRSO層は、ナノ結晶構造を有し、そのナノ結晶のサイズが1〜10nmの範囲であることが好ましいといえる。
【0102】
また、上記SRSO層には、エルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、及びテルビウム(Tb)の含む集団から選択された希土類元素がドープされていることが好ましいといえる。
【0103】
また、上記シリコン蛍光体層は、上部電極の下面に近接した上部平坦面を有することが好ましいといえる。
【0104】
また、上記下部電極の微小突起が、微小突起端と微小突起基底とを有するとともに、微小突起基底とシリコン蛍光体層の上面との間での、シリコン蛍光体層の膜厚が20nm〜200nmの範囲であることが好ましいといえる。
【0105】
また、上記シリコン蛍光体層は、微小突起周囲、微小突起上、及び微小突起間を含む集団から選択される関係で、微小突起に近接した底面を有することが好ましいといえる。
【0106】
また、上記上部電極は、インジウムすず酸化物(ITO)、オキシフッ化亜鉛、及び導電性プラスチックの含む集団から選択された材料からなっていることが好ましいといえる。
【0107】
また、上部電極の膜厚が50〜300nmであることが好ましいといえる。
【0108】
本発明の電界発光素子による発光方法は、微小突起を有する下部電極、微小突起に近接したシリコン蛍光体層、及びシリコン蛍光体層を覆うように形成された光透過性の上部電極を備えた電界発光素子を準備する工程と、上部電極と下部電極との間に、最大振幅が10ボルトよりも小さく、かつ交差極性の電圧パルスを印加する工程と、シリコン蛍光体層に電界を発生させ、微小突起近傍で強度1×10V/cmの電界を発生させる工程とを含む構成であるといえる。
【0109】
そして、本発明の電界発光素子による発光方法では、上記電界発光素子は、サイズ1〜10nmの結晶構造を有するシリコンリッチのシリコン酸化物(SRSO)材料からなるシリコン蛍光体層を備えた電界発光素子であって、SRSOに発生した電界に応答して、500nmと750nmとの間の波長範囲の光を出射させる工程を含むことが好ましいといえる。
【0110】
また、本発明の電界発光素子による発光方法では、上記電界発光素子は、希土類元素がドープされたSRSO材料からなるシリコン蛍光体層を備えた電界発光素子であって、SRSOに発生した電界に応答して、0.3μmと1μmとの間の波長範囲の光を出射させる工程を含むことが好ましいといえる。
【0111】
本発明において、ナノチップ電極を備えたEL素子とその製造方法が示された。また、本発明を説明するために、特定の材料及び方法の詳細は、本発明で例示したものとして用いられる。しかしながら、本発明は上記の例に限定されるものではない。当分野に通じた当業者であれば、本発明の変更を加えた形態や、その他の実施例を考え出すことができるであろう。
【0112】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明においては、低い電圧供給により高い電界を発生させる低出力の電界発光素子を実現できるので、集積回路に適したものになる。それゆえ、本発明は、集積回路に関連する半導体産業に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の電界発光素子の部分断面図である。
【図2】図1の電界発光素子における、いくつかの微小突起の詳細を示す部分断面図である。
【図3】図1の電界発光素子の第1の構成例を示す部分断面図である。
【図4】図1の電界発光素子の第2の構成例を示す部分断面図である。
【図5】図1の電界発光素子の第3の構成例を示す部分断面図である。
【図6】本発明の電界発光素子の製造方法における各工程を示す図である。
【図7】本発明の電界発光素子の製造方法における各工程を示す図である。
【図8】図6及び図7の電界発光素子の完成後の部分断面図である。
【図9】微小突起の端部の詳細を示す走査電子顕微鏡(SEM)画像である。
【図10A】IrOからなる微小突起成長の初期段階を示すSEM画像である。
【図10B】十分に成長したIrOからなる微小突起を示すSEM画像である。
【図11】本発明の電界発光素子の製造方法を示すフローチャートである。
【図12】電界発光素子による発光方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0115】
102 下部電極
104 微小突起
106 シリコン蛍光体層(蛍光体層)
108 上部電極
1102 工程(基板準備工程)
1104 工程(下部電極形成工程)
1104a サブ工程(原料供給段階)
1104b サブ工程(堆積段階)
1104c サブ工程(成長段階)
1106 工程(蛍光体層形成工程)
1108 工程(上部電極形成工程)
1202 工程(電界発光素子準備工程)
1204 工程(電圧パルス印加工程)
1206 工程(電界発生工程)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部電極と上部電極とからなる一対の電極を有し、下部電極と上部電極との間に蛍光体を含む蛍光体層が設けられた電界発光素子であって、
上記下部電極は、ナノメートルオーダーの微小突起が下部電極表面に複数設けられたナノ構造を有し、
上記蛍光体層は、上記微小突起を覆うように設けられていることを特徴とする電界発光素子。
【請求項2】
上記微小突起は、下部電極表面に対し垂直に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電界発光素子。
【請求項3】
上記微小突起表面に、上記蛍光体が堆積され、蛍光体層が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電界発光素子。
【請求項4】
上記蛍光体層が、上記ナノ構造の形状に沿った形状で設けられていることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の電界発光素子。
【請求項5】
上記下部電極の蛍光体層と反対側に基板を備え、その基板と下部電極との間に高融点金属膜が配されたことを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の電界発光素子。
【請求項6】
上記微小突起は、イリジウム酸化物からなっていることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の電界発光素子。
【請求項7】
上記蛍光体層が、シリコンリッチのシリコン酸化物からなる層であることを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の電界発光素子。
【請求項8】
上記蛍光体層には、エルビウム(Er)、イッテルビウム(Yb)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、及びテルビウム(Tb)の含む集団から選択された希土類元素がドープされていることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の電界発光素子。
【請求項9】
上記上部電極は、インジウムすず酸化物(ITO)、オキシフッ化亜鉛、及び導電性プラスチックの含む集団から選択された材料からなっていることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の電界発光素子。
【請求項10】
下部電極と上部電極とからなる一対の電極を有し、下部電極と上部電極との間に蛍光体を含む蛍光体層が設けられた電界発光素子の製造方法であって、
ナノメートルオーダーの微小突起が複数設けられたナノ構造を有する下部電極を形成する下部電極形成工程と、
上記微小突起に近接させて蛍光体層を形成する蛍光体層形成工程と、
蛍光体層に近接させて上部電極を形成する上部電極形成工程とを含むことを特徴とする電界発光素子の製造方法。
【請求項11】
基板を準備する基板準備工程を含み、
上記下部電極形成工程は、
上記基板に下部電極原料を供給する原料供給段階と、
有機金属気相成長法を用いて、基板上に下部電極原料を堆積させる堆積段階と、
堆積させた下部電極原料から、微小突起を成長させる成長段階とを含むことを特徴とする請求項10に記載の電界発光素子の製造方法。
【請求項12】
上記原料供給段階にて、下部電極原料として(メチルシクロペンタジエニル)(1,5シクロオクタジエン)イリジウムを供給することを特徴とする請求項11に記載の電界発光素子の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜9の何れか1項に記載の電界発光素子を準備する電界発光素子準備工程と、
上部電極と下部電極との間に、交差極性の電圧パルスを印加する電圧パルス印加工程と、
蛍光体層に電界を発生させ、微小突起近傍で電界を発生させる電界発生工程とを含むことを特徴とする電界発光素子による発光方法。
【請求項14】
上記電圧パルス印加工程にて印加する電圧パルスの最大振幅が10ボルトよりも小さいことを特徴とする請求項13に記載の電界発光素子による発光方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−228722(P2006−228722A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−25117(P2006−25117)
【出願日】平成18年2月1日(2006.2.1)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】