説明

電界発光素子

【課題】
ホスト材料に対してゲスト材料を少量添加した発光層を適用したドープ型素子において、駆動電圧を低減することを課題とする。特に、電子吸引基を有する赤色発光材料をゲスト材料として添加したドープ型素子において、駆動電圧を低減することを課題とする。また、ドープ型素子において、駆動電圧を低減すると共に、色純度も向上させることを課題とする。特に、電子吸引基を有する赤色発光材料をゲスト材料として添加したドープ型素子において、駆動電圧を低減すると共に、色純度も向上させることを課題とする。
【解決手段】
ホスト材料521および電子吸引基を有するゲスト材料522を含む発光層513を有する電界発光素子において、ホスト材料521としてホール輸送性を有する有機化合物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽極と、陰極と、電界を加えることで発光が得られる有機化合物を含む層(
以下、「電界発光層」と記す)と、を有する電界発光素子に関する。特に、赤色発光を示
す電界発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機化合物を発光体とする電界発光素子は、電界を加えて電流を流すことにより発光す
る素子である。その発光機構は、電極間に電界発光層を挟んで電圧を印加することにより
、陰極から注入された電子および陽極から注入されたホールが電界発光層中で再結合して
励起状態の分子(以下、「励起分子」と記す)を形成し、その励起分子が基底状態に戻る
際にエネルギーを放出して発光すると言われている。励起状態には一重項励起状態と三重
項励起状態が知られているが、発光はどちらの励起状態を経ても可能であると考えられて
いる。
【0003】
このような電界発光素子において、通常、電界発光層は100〜200nm程度の薄膜
で形成される。また、電界発光素子は、電界発光層そのものから光が放出される自発光型
の素子であるため、従来の液晶ディスプレイに用いられているようなバックライトも必要
ない。したがって、極めて薄型軽量に作製できることが大きな利点である。
【0004】
また、例えば100nm程度の電界発光層において、キャリアを注入してから再結合に
至るまでの時間は、キャリア移動度を考えると数十ナノ秒程度であり、キャリアの再結合
から発光までの過程を含めてもマイクロ秒以内のオーダーで発光に至る。したがって、非
常に応答速度が速いことも特長の一つである。
【0005】
さらに、有機化合物を発光体とする電界発光素子はキャリア注入型の素子であるため、
無機EL素子のような高電圧の交流電圧を印加する必要がなく、数ボルト〜十数ボルト程
度の低い直流電圧で駆動が可能である。
【0006】
このように、有機化合物を発光体とする電界発光素子は、薄型軽量・高速応答性・直流
低電圧駆動などの特性を有しており、次世代のフラットパネルディスプレイ素子として注
目されている。特に、このような電界発光素子をマトリクス状に配置した発光装置は、従
来の液晶表示装置と比較して、視野角が広く視認性が優れるという点においても優位性が
ある。
【0007】
ところで、これらの電界発光素子をフラットパネルディスプレイ等に応用する場合、そ
の発光色を所望の色に制御する必要が生じる。電界発光素子の発光色を制御する手法とし
ては、近年では特に、ホスト材料に対してゲスト材料(ドーパント材料ともいう)を少量
添加した発光層を適用することにより、ゲスト材料に由来する所望の発光色を得るという
手法(以下、「ドーピング法」と記す)が盛んに用いられている(例えば、特許文献1参
照)。
【0008】
特許文献1に代表されるドーピング法では、発光分子の濃度消光を抑制し、高輝度・高
効率を得ることができるので、特に濃度消光しやすい赤色発光材料を発光させる際には有
効な手法である。例えば、下記非特許文献1では、赤色発光材料である種々の4−ジシア
ノメチレン−4H−ピラン誘導体を合成し、それをゲスト材料として使用している。
【0009】
しかしながら、このようなドーピング法を適用した電界発光素子(以下、「ドープ型素
子」と記す)の多くは、駆動電圧が上昇してしまうというデメリットも存在する。特に、
赤色発光材料をゲスト材料として添加したドープ型素子においては、その傾向が顕著であ
ることが知られている(例えば、非特許文献2参照)。
【0010】
また、ドープ型素子においては、しばしばゲスト材料のみならずホスト材料も発光して
しまうために発光色がうまく制御できず、結果として発光の色純度が悪くなる場合がある
。これは、ホスト材料の励起エネルギーとゲスト材料の励起エネルギーとの間に大きな差
がある場合に生じる現象と考えられており、赤色発光材料をゲスト材料として添加したド
ープ型素子においてよく見られる現象である。この現象は、ホスト材料とゲスト材料の中
間に位置する励起エネルギーを持つアシストドーパント材料をさらに添加することによっ
て、解消されるとされている(例えば、非特許文献3参照)。
【0011】
しかしながら、上記非特許文献3の手法では、ホスト材料やゲスト材料に加え、アシス
トドーパント材料をさらに添加しなくてはならない。したがって、真空蒸着法による素子
の作製であれば、3つの蒸着源を使った3元共蒸着が必要となり、素子の作製プロセスが
複雑になってしまう。そのため、素子の再現性などにも問題が生じる。
【0012】
以上のように、ドープ型素子においては、駆動電圧が上昇してしまう、あるいは発光色
の制御ができず色純度が悪くなるなどの問題が生じており、その対策が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許2814435号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】C.H.チェン、外3名、マクロモルキュラー シンポジア、No.125、49−58(1997)
【非特許文献2】佐藤佳晴、応用物理学会 有機分子・バイオエレクトロニクス分科会 会誌、Vol.11、No.1(2000)、86−99
【非特許文献3】ユウジ ハマダ、外4名、アプライド フィジクス レターズ、Vol.75、No.12、1682−1684(1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明では、ドープ型素子において、駆動電圧を低減することを課題とする。特に、赤
色発光材料をゲスト材料として添加したドープ型素子において、駆動電圧を低減すること
を課題とする。
【0016】
また本発明では、ドープ型素子において、駆動電圧を低減すると共に、色純度も向上さ
せることを課題とする。特に、赤色発光材料をゲスト材料として添加したドープ型素子に
おいて、駆動電圧を低減すると共に、色純度も向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記特許文献1でも用いられている4−ジシアノメチレン−4H−ピラ
ン誘導体をゲスト材料として添加した電界発光素子において、特に駆動電圧の上昇が大き
いという点に着目した。そして、その駆動電圧上昇の原因が、4−ジシアノメチレン−4
H−ピラン誘導体に含まれる電子吸引基にあると考えた。
【0018】
この考察を元に、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、電子吸引基を有するゲスト材料
を添加した電界発光素子において、以下のような構成とすることで、駆動電圧を低減でき
ることを見出した。
【0019】
すなわち本発明では、ホスト材料および電子吸引基を有するゲスト材料を含む発光層と
、前記発光層に接して設けられた電子輸送層と、を有する電界発光素子において、前記ホ
スト材料は、ホール輸送性を有する有機化合物であることを特徴とする。なお、ホスト材
料としては、ホール輸送性を有する有機化合物であれば何であってもよいが、特に芳香族
アミン骨格を有する有機化合物であることが好ましい。
【0020】
また、上述した構成は、種々の電子吸引基を有するゲスト材料に対して有効であるが、
特にシアノ基、ハロゲノ基、カルボニル基を導入したゲスト材料に対して有効である。例
えば、4−ジシアノメチレン−4H−ピラン骨格を有するゲスト材料に対して有効である

【0021】
さらに、電子吸引基を有するゲスト材料の多くは、その置換基の効果により、黄色〜赤
色の領域で発光するものが多い。したがって、本発明では特に、上述したゲスト材料の発
光スペクトルのピーク波長が560nm以上700nm以下であることを特徴とする。
【0022】
ところで、上述の構成は駆動電圧の低減に極めて効果的であるが、それだけではなく、
発光層に接して設けられた電子輸送層が発光してしまう現象を抑制し、より色純度を高め
る構成をとることも可能である。
【0023】
すなわち本発明の他の構成は、上述の構成において、ホスト材料のイオン化ポテンシャ
ルが、電子輸送層を構成する電子輸送性材料のイオン化ポテンシャルに比べて0.3eV
以上大きいことを特徴とする。この時、ホスト材料のイオン化ポテンシャルが5.1eV
以下であることが好ましい。あるいは、電子輸送性材料のイオン化ポテンシャルが5.6
eV以上であることが好ましい。
【0024】
また、本発明の他の構成は、上述の構成において、発光層と電子輸送層との間に、ホー
ルをトラップすることができ、なおかつ、前記電子輸送層を構成する電子輸送性材料より
もエネルギーギャップの値が小さいホールトラップ材料からなるホールトラップ領域が設
けられていることを特徴とする。ホールトラップ材料は、ホールをより効果的にトラップ
するために、ホスト材料および電子輸送性材料よりも小さいイオン化ポテンシャルを有す
ることが好ましい。また、ホールトラップ領域を厚くしてしまうと電流が流れにくくなっ
てしまう場合もあるため、ホールトラップ領域は5nm以下の層状であるか、または島状
であることが好ましい。
【0025】
なお、ホールトラップ材料としては、テトラセン、ペリレン、ルブレン等に代表される
炭素数が18以上の芳香族炭化水素化合物や、フラーレン(C60)に代表される炭素同素
体が好ましい。
【0026】
ところで、電子吸引基を有するゲスト材料をホスト材料に添加して発光層を形成した場
合、素子の発光スペクトルのピーク波長が、ホスト材料の分子の双極子モーメントによっ
て変化することを本発明者らは見出した。具体的には、ホスト材料の分子の双極子モーメ
ントが小さいほど、発光スペクトルのピーク波長がブルーシフトする現象である。したが
って、電子吸引基を有し、なおかつ赤色発光を示すゲスト材料を用いて赤色発光素子を作
製する場合、双極子モーメントの小さいホスト材料を使うと橙色や黄色の発光となってし
まうこともあるため、そのようなホスト材料は好適ではない場合がある。
【0027】
したがって本発明では、上述した構成の電界発光素子において、ゲスト材料の発光スペ
クトルのピーク波長が600nm以上700nm以下の赤色領域に存在し、かつ、ホスト
材料の分子の双極子モーメントが4デバイ以上であることを特徴とする。
【0028】
以上で述べたような電界発光素子は、駆動電圧が低く、また構成によっては色純度もよ
いという特徴を有するため、これらの電界発光素子を用いれば、消費電力が低く、色純度
のよい発光装置を作製することができる。したがって、本発明の電界発光素子を有する発
光装置も本発明に含むものとする。
【0029】
なお、本明細書中における発光装置とは、発光素子として電界発光素子を用いた画像表
示デバイスもしくは発光デバイスを指す。また、電界発光素子にコネクター、例えば異方
導電性フィルムもしくはTAB(Tape Automated Bonding)テー
プもしくはTCP(Tape Carrier Package)が取り付けられたモジ
ュール、TABテープやTCPの先にプリント配線板が設けられたモジュール、または電
界発光素子にCOG(Chip On Glass)方式によりIC(集積回路)が直接
実装されたモジュールも全て発光装置に含むものとする。
【発明の効果】
【0030】
本発明を実施することで、ドープ型素子において駆動電圧を低減することができる。特
に、赤色発光材料をゲスト材料として添加したドープ型素子において、駆動電圧を低減す
ることができる。
【0031】
また本発明を実施することで、ドープ型素子において、駆動電圧を低減すると共に色純
度も向上させることができる。特に、赤色発光材料をゲスト材料として添加したドープ型
素子において、駆動電圧を低減すると共に色純度も向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】従来の電界発光素子のバンドダイアグラムを示す図。
【図2】本発明の電界発光素子のバンドダイアグラムを示す図。
【図3】本発明の電界発光素子のバンドダイアグラムを示す図。
【図4】本発明の電界発光素子のバンドダイアグラムを示す図。
【図5】本発明の電界発光素子の素子構成を示す図。
【図6】本発明の電界発光素子の素子構成を示す図。
【図7】従来の電界発光素子の素子構成を示す図。
【図8】本発明の電界発光素子を用いた発光装置について説明する図。
【図9】本発明の発光装置を用いた電気器具について説明する図。
【図10】実施例1および比較例1の電流−電圧特性を示す図。
【図11】実施例2および比較例2の電流−電圧特性を示す図。
【図12】実施例5および比較例3の電流−電圧特性を示す図。
【図13】実施例6および比較例4の電流−電圧特性を示す図。
【図14】実施例7および比較例5の電流−電圧特性を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
まず、電界発光素子でよく用いられている積層構造、すなわち、ホール輸送層と電子輸
送層を積層した構造のバンドダイアグラムを図1(a)に示す。図1(a)のように、ホ
ール輸送層101におけるホール輸送性材料のHOMO準位を伝わってホールが、電子輸
送層102における電子輸送性材料のLUMO準位を伝わって電子が、それぞれ潤滑に輸
送されるため、それらキャリアの再結合領域103aはホール輸送層101と電子輸送層
102との界面近傍である。
【0034】
従来では、図1(a)の構成をベースに、電子吸引基を有するゲスト材料を電子輸送層
102に添加していた。その場合のバンドダイアグラムを図1(b)に示す。電子吸引基
を有するゲスト材料は、その強い電子吸引性の影響により非常に大きな電子親和力を有し
ているため、図1(b)のようにLUMO準位104が低い位置にあり、非常に深い電子
トラップ準位を形成する。
【0035】
この場合、電子吸引基を有するゲスト材料がドープされた領域105では、その深い電
子トラップ準位のために電子が移動しにくく、キャリアの再結合領域103bが積層構造
の界面近傍から離れて電子輸送層102側に広がってしまうことが予想される。そうする
と、電子輸送性材料で構成されている電子輸送層がホールを運ばなければならない状態(
図中の破線矢印)になるため、結果として電流が流れにくくなり、キャリアが再結合に至
って発光するための電圧(すなわち駆動電圧)が上昇しているのではないかと本発明者ら
は考えた。
【0036】
実際、ホール輸送層にホール輸送性材料である4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)
−N−フェニル−アミノ]−ビフェニル(略称:α−NPD)を、電子輸送層に電子輸送
性材料であるトリス(8−キノリノラト)アルミニウム(略称:Alq3)を、電子吸引
基であるシアノ基を有するゲスト材料として4−ジシアノメチレン−2,6−ビス[p−
(N−カルバゾリル)スチリル]−4H−ピラン(略称:BisDCCz)を用いた場合
、図1(c)のようなバンドダイアグラムとなるため、非常に深い電子トラップ準位(−
3.3eV)に由来する駆動電圧の上昇が予想される。
【0037】
なお、図1(c)で示したHOMO準位の値(負の値であり、その絶対値がイオン化ポ
テンシャルに相当する)は、光電子分光装置AC−2(理研計器社製)を用いて各材料の
薄膜状態におけるイオン化ポテンシャルの値を測定し、その値を負の値に変換することに
よって算出した。また、LUMO準位の値は、紫外・可視分光光度計(日本分光社製)を
用いて各材料の薄膜の吸収スペクトルを計測し、その吸収端からエネルギーギャップの値
を求め、HOMO準位の値に加えることによって算出した。
【0038】
一方、本発明の基本的なコンセプトは、上述した現象を回避するために、ホール輸送層
に電子吸引基を有するゲスト材料を添加し、発光層を形成した構成である。その場合のバ
ンドダイアグラムを図2に示す。201はホール輸送層、202は電子輸送層、205は
ホール輸送層に電子吸引基を有するゲスト材料が添加された領域、すなわち発光層である

【0039】
図2のような構成の場合、電子は電子輸送層202を通過し、その後発光層205中に
おける電子輸送層202との界面近傍203において、ゲスト材料のLUMO準位204
にトラップされる。しかしながら、この構成の場合は、発光層205におけるホスト材料
がホール輸送層201に用いられているホール輸送性材料であるため、図1の場合と異な
り、ホールの輸送は容易である。すなわち、電子が界面近傍203でトラップされて動け
なくても、ホールがその界面近傍203まで輸送されやすいため、キャリアの再結合が容
易になると考えられる。その結果、図1の場合に比べて電流は流れやすくなり、駆動電圧
を低減することができる。
【0040】
なお、図2ではホール輸送層201と発光層205の両方で同じホール輸送性材料を用
いた構成となっているが、異なるホール輸送性材料を用いてもよい。
【0041】
ここで、発光層205のホスト材料として用いることができるホール輸送性材料として
は、芳香族アミン骨格を有する有機化合物が好適であり、上述したα−NPDの他、4,
4’−ビス[N−(3−メチルフェニル)−N−フェニル−アミノ]−ビフェニル(略称
:TPD)、4,4’,4’’−トリス(N,N−ジフェニル−アミノ)−トリフェニル
アミン(略称:TDATA)、4,4’,4’’−トリス[N−(3−メチルフェニル)
−N−フェニル−アミノ]−トリフェニルアミン(略称:MTDATA)、4,4’,4
’’−トリス[N−(1−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]−トリフェニルアミン(
略称:1−TNATA)などが挙げられる。また、芳香族アミン骨格を有する金属錯体で
あるトリス(5−ジフェニルアミノ−8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(略称:
Al(daq)3)、ビス(5−ジフェニルアミノ−8−ヒドロキシキノリナト)亜鉛(
略称:Zn(daq)3)や、有機金属錯体の一種であるトリス(1−フェニルピラゾー
ル)コバルト(III)(略称:Co(PPZ)3)、トリス(1−(4−メチルフェニ
ル)ピラゾール)コバルト(III)(略称:Co(m−PPZ)3)などもホール輸送
性を示す。
【0042】
一方、発光層205における電子吸引基を有するゲスト材料としては、シアノ基、ハロ
ゲノ基、カルボニル基などの電子吸引基を有する発光材料を用いることができる。シアノ
基を有する発光材料としては、例えばクマリン337の他、4−(ジシアノメチレン)−
2−[p−(ジメチルアミノ)スチリル]−6−メチル−4H−ピラン(略称:DCM1
)、4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6−(9−ジュロリジル)エチニル−4H
−ピラン(略称:DCM2)、4−(ジシアノメチレン)−2,6−ビス[p−(ジメチ
ルアミノ)スチリル]−4H−ピラン(略称:BisDCM)、先に述べたBisDCC
zなどの4−ジシアノメチレン−4H−ピラン骨格を有する発光材料が挙げられる。ハロ
ゲノ基を有する発光材料としては、クマリン152、クマリン153などのハロアルキル
基を有する発光材料が代表的である。カルボニル基を有する発光材料としては、クマリン
314のようにエステル基を有する発光材料、クマリン334のようにアシル基を有する
発光材料、クマリン343やクマリン−3−カルボン酸のようにカルボキシル基を有する
発光材料が挙げられる。
【0043】
電子輸送層202を形成する電子輸送性材料としては、先に述べたAlq3、トリス(
5−メチル−8−キノリノラト)アルミニウム(略称:Almq3)、ビス(2−メチル
−8−キノリノラト)−4−フェニルフェノラト−アルミニウム(略称:BAlq)、ト
リス(8−キノリノラト)ガリウム(略称:Gaq3)、ビス(2−メチル−8−キノリ
ノラト)−4−フェニルフェノラト−ガリウム(略称:BGaq)、ビス(10−ヒドロ
キシベンゾ[h]−キノリナト)ベリリウム略称:BeBq2)、ビス[2−(2−ヒド
ロキシフェニル)ベンゾオキサゾラト]亜鉛(略称:Zn(BOX)2)、ビス[2−(
2−ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾラト]亜鉛(略称:Zn(BTZ)2)などの金
属錯体が挙げられる。さらに、金属錯体以外にも、2−(4−ビフェニリル)−5−(4
−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(略称:PBD)や、1
,3−ビス[5−(p−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール−
2−イル]ベンゼン(略称:OXD−7)、3−(4−tert−ブチルフェニル)−4
−フェニル−5−(4−ビフェニリル)−1,2,4−トリアゾール(略称:TAZ)、
3−(4−tert−ブチルフェニル)−4−(4−エチルフェニル)−5−(4−ビフ
ェニリル)−1,2,4−トリアゾール(略称:p−EtTAZ)、バソフェナントロリ
ン(略称:BPhen)、バソキュプロイン(略称:BCP)等を用いることができる。
【0044】
ところで、図2のような構成の場合、材料の組み合わせによっては電子輸送層202が
発光してしまう可能性がある。これは、再結合領域が界面近傍203であるため、部分的
にはホールが電子輸送層202に進入してしまい、電子輸送層202の材料が励起されて
しまうためである。この現象が起こってしまうと、本来発光させたいゲスト材料のみなら
ず、電子輸送層202の材料も発光してしまうため、色純度の低下を招く。
【0045】
そこで本発明のより好ましい構成の1つとして、図3のような構成が考えられる。すな
わち、発光層205のホスト材料(ホール輸送性材料)のイオン化ポテンシャルと、電子
輸送層202の電子輸送性材料のイオン化ポテンシャルとの差(障壁206)を大きくす
ればよいのである。具体的には、障壁206を0.3eV以上とすればよい。このような
構成とすることで、ホールが電子輸送層202に進入する現象を防ぐことができるため、
電子輸送層202の電子輸送性材料が励起されて発光してしまうという現象を抑制できる

【0046】
障壁206を大きくするためには、発光層205のホスト材料(ホール輸送性材料)の
イオン化ポテンシャルを小さくするか、あるいは電子輸送層202の電子輸送性材料のイ
オン化ポテンシャルを大きくすればよい。
【0047】
通常、多くの電子輸送性材料は5.4eV程度か、それ以上のイオン化ポテンシャルを
有する(例えば、代表的な電子輸送性材料であるAlq3が5.4eVである)。したが
って、ホスト材料(ホール輸送性材料)のイオン化ポテンシャルは、5.1eV以下であ
れば十分である。具体的には、上述したTDATA、MTDATA、1−TNATA、A
l(daq)3)、Zn(daq)3などである。例えば、1−TNATAのイオン化ポテ
ンシャルは5.0eVである。
【0048】
また逆に、多くのホール輸送性材料は5.3eV程度か、それ以下のイオン化ポテンシ
ャルを有する(例えば、代表的なホール輸送性材料であるα−NPDが5.3eVである
)。したがって、電子輸送性材料のイオン化ポテンシャルは、5.6eV以上であれば十
分である。具体的には、上述したBAlq、BGaq、PBD、OXD−7、TAZ、p
−EtTAZ、BPhen、BCPなどである。例えば、BAlqのイオン化ポテンシャ
ルは5.6eVである。
【0049】
また、本発明のより好ましい他の構成として、図4のような構成も考えられる。すなわ
ち、発光層205と電子輸送層202との間に、ホールをトラップすることができ、なお
かつ、電子輸送層202を構成する電子輸送性材料よりもエネルギーギャップの値が小さ
いホールトラップ材料からなるホールトラップ領域207を設ける構成である。このよう
な構成とすることで、ホールが電子輸送層202に進入する現象を防ぐことができ、しか
もホールトラップ材料が励起されたとしても、その励起エネルギーが電子輸送層202の
電子輸送性材料へ移動してしまう現象を防ぐことができる。したがって、電子輸送層20
2の電子輸送性材料が励起されて発光してしまうという現象を抑制できる。
【0050】
ホールトラップ材料としては、発光層205のホスト材料および電子輸送層202の電
子輸送性材料よりも小さいイオン化ポテンシャルを有するものを用いれば、図4中の矢印
で示したように効果的にホールをトラップすることができる。ただし、必ずしもこのよう
な構成になっていなくても、ホールが電子輸送層202に進入するのを防ぎ、電子輸送層
202の電子輸送性材料が発光するのを抑制できる材料であれば、ホールトラップ材料と
なり得る。ホールトラップ材料の具体的な例としては、テトラセン、ペンタセン、ペリレ
ン、コロネン、ルブレン等に代表される炭素数が18以上の芳香族炭化水素化合物が、イ
オン化ポテンシャルが小さく好適である。また、フラーレン(C60)やカーボンナノチュ
ーブ、ダイヤモンドライクカーボン(略称:DLC)などの炭素同素体は、エネルギーギ
ャップが小さく好適である。
【0051】
また、ホールトラップ領域があまりに厚い場合は、ホールトラップ材料の材質によって
は電子の流れを妨げたり、あるいはホールトラップ材料自体が励起されて発光してしまう
などの弊害が生じやすくなる。特に、ホールトラップ材料が発光してしまう弊害を避ける
ためには、ホールトラップ材料からゲスト材料へのフェルスター型のエネルギー移動が十
分に可能な距離を考慮し、ホールトラップ領域が5nm以下の層状であることが好ましい

【0052】
また、5nm以下という観点から、ホールトラップ領域は層状ではなく島状に形成され
ていてもよい。島状の構造の形成法としては公知の手法を用いればよく、例えば特開20
01−267077に開示されているように、膜厚モニター上の平均膜厚が単分子膜の膜
厚より薄くなるように材料を真空蒸着する手法が挙げられる。
【0053】
ところで、先に述べたとおり、電子吸引基を有する赤色発光のゲスト材料をホスト材料
に添加して発光層を形成し、赤色発光素子を作製する際に、双極子モーメントの小さいホ
スト材料を使うと、双極子モーメントの大きいホスト材料を使う場合に比べて発光がブル
ーシフトしてしまい、場合によっては色純度のよい赤色が達成できないこともある。これ
は溶媒効果の一種であると考えられる。
【0054】
従来ホスト材料として用いられているAlq3には2種類の構造異性体があり、通常は
fac型と言われている。そして、その双極子モーメントを市販の分子軌道計算プログラ
ムWinMOPAC3.5(富士通株式会社製)を用いて計算したところ、9.398デ
バイであった(ちなみに、もう一つの構造異性体であるmer型の双極子モーメントは、
5.788デバイである)。Alq3をホスト材料として電子吸引基を有する赤色発光の
ゲスト材料を添加した素子は、駆動電圧は上昇するが、双極子モーメントのより小さい材
料(具体的には4デバイよりも小さい材料)をホスト材料として用いた素子に比べ、発光
色としては良好な赤色発光を示すことが実験的にわかっている。
【0055】
このことから、色純度のよい赤色発光を達成するためには、ホスト材料の双極子モーメ
ントの大きさが重要であることがわかる。しかしながら、Alq3は電子輸送性材料であ
るため、本発明におけるホスト材料としては適さない。
【0056】
したがって、本発明を用いて赤色発光素子を作製する場合には、Alq3のように双極
子モーメントが大きく、なおかつホール輸送性を示す材料を用いることが好ましい。通常
の芳香族アミン骨格を有する有機化合物の多くは双極子モーメントが小さいが、上述した
Al(daq)3、Zn(daq)3、Co(PPZ)3、Co(m−PPZ)3のようなホ
ール輸送性を示す金属錯体であれば、双極子モーメントが大きく好適である。例えば、A
l(daq)3の双極子モーメントを計算したところ、fac型では9.221デバイで
あった(ちなみに、もう一つの構造異性体であるmer型の双極子モーメントは、4.6
39デバイである)。
【0057】
したがって本発明では、上述した構成の電界発光素子において、ゲスト材料の発光スペ
クトルのピーク波長が600nm以上700nm以下の赤色領域に存在する時には、ホス
ト材料の分子の双極子モーメントが4デバイ以上であることが好ましい。
【0058】
次に、以下では、本発明の電界発光素子の実施形態について詳細に説明する。本発明の
電界発光素子の電界発光層は、少なくとも上述した発光層と電子輸送層とを含めばよい。
すなわち、従来の電界発光素子で知られているような、発光以外の機能を示す層(ホール
注入層、ホール輸送層、電子輸送層、電子注入層)を適宜組み合わせてもよい。
【0059】
[実施の形態1]
本実施の形態1では、ホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層および電子注
入層を有する電界発光素子の素子構成について、図5を用いて説明する。図5は、基板5
00上に第1の電極501が形成され、第1の電極501上に電界発光層502が形成さ
れ、その上に第2の電極503が形成された電界発光素子である。
【0060】
なお、ここで基板500に用いる材料としては、従来の電界発光素子に用いられている
ものであればよく、例えば、ガラス、石英、透明プラスチックなどからなるものを用いる
ことができる。
【0061】
また、本実施の形態1における第1の電極501は陽極として機能し、第2の電極50
3は陰極として機能する。
【0062】
すなわち第1の電極501は陽極材料で形成され、仕事関数の大きい(具体的には4.
0eV以上)金属、合金、導電性化合物、およびこれらの混合物などを用いることが好ま
しい。具体的には、ITO(indium tin oxide)、酸化インジウムに2
〜20[%]の酸化亜鉛(ZnO)を混合したIZO(indium zinc oxi
de)の他、金(Au)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、クロ
ム(Cr)、モリブデン(Mo)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銅(Cu)、パラジ
ウム(Pd)、または金属材料の窒化物(TiN)等が挙げられる。
【0063】
一方、第2の電極503に用いられる陰極材料としては、仕事関数の小さい(具体的に
は3.8eV以下)金属、合金、導電性化合物、およびこれらの混合物などを用いること
が好ましい。具体的には、元素周期律の1族または2族に属する金属、すなわちLiやC
s等のアルカリ金属、およびMg、Ca、Sr等のアルカリ土類金属、およびこれらを含
む合金(Mg:Ag、Al:Li)、Er、Yb等の希土類金属およびこれらを含む合金
等が挙げられる。ただし、後述する電子注入層を適用することで、Al、Ag、ITO等
の金属・導電性無機化合物により第2の電極503を形成することもできる。
【0064】
なお、第1の電極501及び第2の電極503は、蒸着法、スパッタリング法等で形成
することができる。膜厚は、10〜500nmとするのが好ましい。
【0065】
また、本発明の電界発光素子において、電界発光層502におけるキャリアの再結合に
より生じる光は、第1の電極501または第2の電極503の一方、または両方から外部
に出射される構成となる。すなわち、第1の電極501から光を出射させる場合には、第
1の電極501を透光性の材料で形成することとし、第2の電極503側から光を出射さ
せる場合には、第2の電極503を透光性の材料で形成することとする。
【0066】
電界発光層502は複数の層を積層することにより形成されるが、本実施の形態1では
、ホール注入層511、ホール輸送層512、発光層513、電子輸送層514、電子注
入層515を積層することにより形成される。これらの層は、真空蒸着法や湿式塗布法で
形成することができる。
【0067】
ホール注入層511に用いることができるホール注入性材料としては、有機化合物であ
ればポルフィリン系の化合物が有効であり、フタロシアニン(略称:H2−Pc)、銅フ
タロシアニン(略称:Cu−Pc)等を用いることができる。他にも、有機化合物として
は、4,4’−ビス[N−{4−(N,N−ビス(3−メチルフェニル)アミノ)フェニ
ル}−N−フェニルアミノ]ビフェニル(略称:DNTPD)等を用いることができる。
また、導電性高分子化合物に化学ドーピングを施した材料もあり、ポリスチレンスルホン
酸(略称:PSS)をドープしたポリエチレンジオキシチオフェン(略称:PEDOT)
や、ポリアニリン(略称:PAni)などを用いることもできる。また、VOx、MoOx
のような無機半導体層や、Al23などの無機絶縁体の超薄膜も有効である。
【0068】
ホール輸送層512に用いることができるホール輸送性材料としては、先に述べたα−
NPD、TPD、TDATA、MTDATA、1−TNATA、Al(daq)3、Zn
(daq)3、Co(PPZ)3、Co(m−PPZ)3などが挙げられる。
【0069】
発光層513は、ホール輸送性を示すホスト材料521と電子吸引基を有するゲスト材
料522から構成されている。ホール輸送性を示すホスト材料521としては、上述のホ
ール輸送性材料を適用すればよく、ホール輸送層512のホール輸送性材料と同一であっ
ても異なっていてもよい。電子吸引基を有するゲスト材料としては、先に述べたDCM1
、DCM2、BisDCM、BisDCCz、クマリン337、クマリン152、クマリ
ン153、クマリン314、クマリン334、クマリン343、クマリン−3−カルボン
酸などが挙げられる。
【0070】
電子輸送層514に用いることができる電子輸送性材料としては、先に述べたAlq3
、Almq3、BAlq、Gaq3、BGaq、BeBq2、Zn(BOX)2、Zn(BT
Z)2、PBD、OXD−7、TAZ、p−EtTAZ、BPhen、BCPなどが挙げ
られる。
【0071】
電子注入層515に用いることができる電子注入性材料としては、上述した電子輸送性
材料を用いることができる。その他に、LiF、CsFなどのアルカリ金属ハロゲン化物
や、CaF2のようなアルカリ土類ハロゲン化物、Li2Oなどのアルカリ金属酸化物のよ
うな絶縁体の超薄膜がよく用いられる。また、リチウムアセチルアセトネート(略称:L
i(acac)や8−キノリノラト−リチウム(略称:Liq)などのアルカリ金属錯体
も有効である。さらに、上述した電子輸送性材料と、Mg、Li、Cs等の仕事関数の小
さい金属とを混合した層を電子注入層515として使用することもできる。
【0072】
以上により、ホール輸送性を有するホスト材料521および電子吸引基を有するゲスト
材料522を含む発光層513と、発光層513に接して設けられた電子輸送層514と
を有する本発明の電界発光素子を作製することができる。
【0073】
[実施の形態2]
本実施の形態2では、実施の形態1で開示した素子構成にホールトラップ領域を加えた
構成について、図6を用いて説明する。図6では、図5の符号を引用する。
【0074】
図6に示す通り、本実施の形態2においては、発光層513と電子輸送層514との間
にホールトラップ領域516が設けられている。図6では島状に形成されているが、5n
m以下の層状であってもよい。
【0075】
ホールトラップ領域516を構成するホールトラップ材料523としては、先に述べた
ように、テトラセン、ペンタセン、ペリレン、コロネン、ルブレン、フラーレン(C60
、カーボンナノチューブ、DLCなどを用いることができる。
【0076】
以上により、ホール輸送性を有するホスト材料521および電子吸引基を有するゲスト
材料522を含む発光層513と、発光層513に接して設けられた電子輸送層514と
を有し、かつ、発光層513と電子輸送層514との間にホールトラップ領域516を設
けた本発明の電界発光素子を作製することができる。この構成により、電子輸送層514
の電子輸送性材料が発光してしまう現象を抑制することができる。
【実施例1】
【0077】
本実施例1では、図5で示した本発明の電界発光素子の作製例を、具体的に例示する。
【0078】
まず、絶縁表面を有するガラス基板500上に、第1の電極(陽極)501が形成され
る。材料として透明導電膜であるITOを用い、スパッタリング法により110nmの膜
厚で形成した。陽極501の形状は、2mm×2mmの大きさとした。
【0079】
このように陽極501が形成された基板を洗浄、乾燥した後、陽極501上に電界発光
層502を形成する。まず、陽極501が形成された基板を、真空蒸着装置の基板ホルダ
ーに陽極501が形成された面を下方にして固定し、抵抗加熱法を用いた真空蒸着法によ
りCu−Pcを20nmの膜厚で成膜した。これがホール注入層511となる。次に、ホ
ール輸送性材料であるα−NPDを同様の方法により、25nmの膜厚で形成し、ホール
輸送層512とした。
【0080】
さらに、ホスト材料521としてホール輸送性材料であるα−NPDを、電子吸引基を
有するゲスト材料522としてBisDCMを用い、BisDCMの濃度が2wt%とな
るように共蒸着を行うことで発光層513を形成した。膜厚は15nmとした。
【0081】
次に、電子輸送性材料であるAlq3を真空蒸着法により75nm形成し、電子輸送層
514とした。さらに、電子注入層515として、CaF2を真空蒸着法により1nm形
成した。以上が電界発光層502であり、トータル膜厚は136nmとなる。
【0082】
最後に、第2の電極(陰極)503を形成する。本実施例では、アルミニウム(Al)
を抵抗加熱による真空蒸着法により200nm形成し、陰極503とした。
【0083】
以上のようにして作製した本発明の電界発光素子に10Vの電圧を印加したところ、6
.83mA/cm2の電流密度で電流が流れ、127cd/m2の輝度で発光した。発光ス
ペクトルのピーク波長は642nmであった。
【0084】
[比較例1]
一方、電子輸送性材料に電子吸引基を有するゲスト材料を添加した発光層を有する従来
の電界発光素子を作製し、実施例1と比較した。本比較例の素子構造を図7に示す。
【0085】
上記実施例1と同様に、110nmのITOが陽極701として形成されたガラス基板
700上に、電界発光層702を形成する。まず、基板を洗浄、乾燥した後、真空蒸着装
置の基板ホルダーに陽極701が形成された面を下方にして固定し、抵抗加熱法を用いた
真空蒸着法によりCu−Pcを20nmの膜厚で成膜した。これがホール注入層711と
なる。次に、ホール輸送性材料であるα−NPDを同様の方法により、40nmの膜厚で
形成し、ホール輸送層712とした。
【0086】
さらに、ホスト材料721として電子輸送性材料であるAlq3を、電子吸引基を有す
るゲスト材料722として実施例1と同じBisDCMを用い、BisDCMの濃度が2
wt%となるように共蒸着を行うことで発光層713を形成した。膜厚は15nmとした

【0087】
次に、電子輸送性材料であるAlq3を真空蒸着法により60nm形成し、電子輸送層
714とした。さらに、電子注入層715として、CaF2を真空蒸着法により1nm形
成した。以上が電界発光層702であるが、トータル膜厚は136nmであり、実施例1
と膜厚を揃えてある。
【0088】
最後に、陰極703を形成する。実施例1と同様、アルミニウム(Al)を抵抗加熱に
よる真空蒸着法により200nm形成し、陰極703とした。
【0089】
以上のようにして作製した従来の電界発光素子に10Vの電圧を印加したところ、2.
84mA/cm2の電流密度で電流が流れ、27.1cd/m2の輝度で発光した。発光ス
ペクトルのピーク波長は666nmであった。
【0090】
上述の結果から、本発明を適用した電界発光素子は、発光スペクトルのピーク波長が若
干ブルーシフトしているものの、駆動電圧を下げることができた。実施例1および比較例
1の電流−電圧特性を図10に示す。図10からわかるように、本発明を適用することで
、狙い通り電流が流れやすくなっていることがわかる。
【実施例2】
【0091】
本実施例2では、実施例1とは異なるホスト材料を用いた素子を具体的に例示する。
【0092】
素子構造は図5に示した構造であり、基板500、陽極501、陰極503は実施例1
と同様の構成とした。電界発光層502は、ホール注入層511としてCuPcを20n
m、ホール輸送層512としてα−NPDを30nm、発光層513として2,3−ビス
(4−ジフェニルアミノフェニル)キノキサリン(略称:TPAQn)に1wt%の割合
でBisDCMを添加した層を30nm、電子輸送層としてAlq3を20nm、電子注
入層としてCaF2を2nm形成した。トータル膜厚は102nmである。なお、TPA
Qnはバイポーラな材料であるため、ホール輸送性を有する。
【0093】
以上のようにして作製した本発明の電界発光素子に10Vの電圧を印加したところ、2
83mA/cm2の電流密度で電流が流れ、1350cd/m2の輝度で発光した。発光ス
ペクトルのピーク波長は616nmであった。
【0094】
[比較例2]
一方、電子輸送性材料に電子吸引基を有するゲスト材料を添加した発光層を有する従来
の電界発光素子を作製し、実施例2と比較した。本比較例の素子構造は図7と同様とした

【0095】
上記実施例2と同様に、基板700、陽極701、陰極703は上述した実施例2と全
く同一とした。電界発光層702は、ホール注入層711としてCuPcを20nm、ホ
ール輸送層712としてα−NPDを30nm、発光層713として電子輸送性材料であ
るBAlに1wt%の割合でBisDCMを添加した層を30nm、電子輸送層としてA
lq3を20nm、電子注入層としてCaF2を2nm形成した。トータル膜厚は102n
mであり、実施例2と同じである。
【0096】
以上のようにして作製した従来の電界発光素子に10Vの電圧を印加したところ、4.
23mA/cm2の電流密度で電流が流れ、30.9cd/m2の輝度で発光した。発光ス
ペクトルのピーク波長は619nmであった。
【0097】
上述の結果から、本発明を適用した電界発光素子は、発光スペクトルのピーク波長が従
来とほぼ同様であり、なおかつ駆動電圧を下げることができた。実施例2および比較例2
の電流−電圧特性を図11に示す。図11からわかるように、本発明を適用することで、
狙い通り電流が流れやすくなっていることがわかる。
【実施例3】
【0098】
本実施例では、画素部に本発明の電界発光素子を有する発光装置について図8を用いて
説明する。なお、図8(A)は、発光装置を示す上面図、図8(B)は図8(A)をA−
A’で切断した断面図である。点線で示された801は駆動回路部(ソース側駆動回路)
、802は画素部、803は駆動回路部(ゲート側駆動回路)である。また、804は封
止基板、805はシール材であり、シール材805で囲まれた内側は、空間807になっ
ている。
【0099】
なお、808はソース側駆動回路801及びゲート側駆動回路803に入力される信号
を伝送するための配線であり、外部入力端子となるFPC(フレキシブルプリントサーキ
ット)809からビデオ信号、クロック信号、スタート信号、リセット信号等を受け取る
。なお、ここではFPCしか図示されていないが、このFPCにはプリント配線基盤(P
WB)が取り付けられていても良い。本明細書における発光装置には、発光装置本体だけ
でなく、それにFPCもしくはPWBが取り付けられた状態をも含むものとする。
【0100】
次に、断面構造について図8(B)を用いて説明する。素子基板810上には駆動回路
部及び画素部が形成されているが、ここでは、駆動回路部であるソース側駆動回路801
と、画素部802が示されている。
【0101】
なお、ソース側駆動回路801はnチャネル型TFT823とpチャネル型TFT82
4とを組み合わせたCMOS回路が形成される。また、駆動回路を形成するTFTは、公
知のCMOS回路、PMOS回路もしくはNMOS回路で形成しても良い。また、本実施
の形態では、基板上に駆動回路を形成したドライバー一体型を示すが、必ずしもその必要
はなく、基板上ではなく外部に形成することもできる。
【0102】
また、画素部802はスイッチング用TFT811と、電流制御用TFT812とその
ドレインに電気的に接続された第1の電極813とを含む複数の画素により形成される。
なお、第1の電極813の端部を覆って絶縁物814が形成されている。ここでは、ポジ
型の感光性アクリル樹脂膜を用いることにより形成する。
【0103】
また、カバレッジを良好なものとするため、絶縁物814の上端部または下端部に曲率
を有する曲面が形成されるようにする。例えば、絶縁物814の材料としてポジ型の感光
性アクリルを用いた場合、絶縁物814の上端部のみに曲率半径(0.2μm〜3μm)
を有する曲面を持たせることが好ましい。また、絶縁物814として、感光性の光によっ
てエッチャントに不溶解性となるネガ型、或いは光によってエッチャントに溶解性となる
ポジ型のいずれも使用することができる。
【0104】
第1の電極813上には、電界発光層816、および第2の電極817がそれぞれ形成
されている。ここで、陽極として機能する第1の電極813に用いる材料としては、仕事
関数の大きい材料を用いることが望ましい。例えば、ITO(インジウムスズ酸化物)膜
、インジウム亜鉛酸化物(IZO)膜、窒化チタン膜、クロム膜、タングステン膜、Zn
膜、Pt膜などの単層膜の他、窒化チタンとアルミニウムを主成分とする膜との積層、窒
化チタン膜とアルミニウムを主成分とする膜と窒化チタン膜との3層構造等を用いること
ができる。なお、積層構造とすると、配線としての抵抗も低く、良好なオーミックコンタ
クトがとれ、さらに陽極として機能させることができる。
【0105】
また、電界発光層816は、蒸着マスクを用いた蒸着法、またはインクジェット法によ
って形成される。電界発光層816の構成は、例えば実施例1や実施例2で示した電界発
光層の構成とすればよい。
【0106】
さらに、電界発光層816上に形成される第2の電極(陰極)817に用いる材料とし
ては、仕事関数の小さい材料(Al、Ag、Li、Ca、またはこれらの合金MgAg、
MgIn、AlLi、CaF2、またはCaN)を用いればよい。なお、電界発光層81
6で生じた光が第2の電極817を透過させる場合には、第2の電極(陰極)817とし
て、例えば、膜厚を薄くした金属薄膜と、透明導電膜(ITO、IZO、酸化亜鉛(Zn
O)等)との積層を用いる方法などがある。
【0107】
さらにシール材805で封止基板804を素子基板810と貼り合わせることにより、
素子基板810、封止基板804、およびシール材805で囲まれた空間807に電界発
光素子818が備えられた構造になっている。なお、空間807には、不活性気体(窒素
やアルゴン等)が充填される場合の他、シール材805で充填される構成も含むものとす
る。
【0108】
なお、シール材805にはエポキシ系樹脂を用いるのが好ましい。また、これらの材料
はできるだけ水分や酸素を透過しない材料であることが望ましい。また、封止基板804
に用いる材料としてガラス基板や石英基板の他、FRP(Fiberglass−Rei
nforced Plastics)、PVF(ポリビニルフロライド)、マイラー、ポ
リエステルまたはアクリル等からなるプラスチック基板を用いることができる。
【0109】
以上のようにして、本発明の電界発光素子を有する発光装置を得ることができる。
【実施例4】
【0110】
例えば、本発明の電界発光素子を有する発光装置を表示部として有する様々な電気器具
を提供することができる。
【0111】
本発明の電界発光素子を有する発光装置を用いて作製された電気器具として、ビデオカ
メラ、デジタルカメラ、ゴーグル型ディスプレイ、ナビゲーションシステム、音響再生装
置(カーオーディオ、オーディオコンポ等)、ノート型パーソナルコンピュータ、ゲーム
機器、携帯情報端末(モバイルコンピュータ、携帯電話、携帯型ゲーム機または電子書籍
等)、記録媒体を備えた画像再生装置(具体的にはDigital Versatile
Disc(DVD)等の記録媒体を再生し、その画像を表示しうる表示装置を備えた装
置)などが挙げられる。これらの電気器具の具体例を図9に示す。
【0112】
図9(A)は表示装置であり、筐体9101、支持台9102、表示部9103、スピ
ーカー部9104、ビデオ入力端子9105等を含む。本発明の電界発光素子を有する発
光装置をその表示部9103に用いることにより作製される。なお、表示装置は、コンピ
ュータ用、TV放送受信用、広告表示用などの全ての情報表示用装置が含まれる。
【0113】
図9(B)はノート型パーソナルコンピュータであり、本体9201、筐体9202、
表示部9203、キーボード9204、外部接続ポート9205、ポインティングマウス
9206等を含む。本発明の電界発光素子を有する発光装置をその表示部9203に用い
ることにより作製される。
【0114】
図9(C)はモバイルコンピュータであり、本体9301、表示部9302、スイッチ
9303、操作キー9304、赤外線ポート9305等を含む。本発明の電界発光素子を
有する発光装置をその表示部9302に用いることにより作製される。
【0115】
図9(D)は記録媒体を備えた携帯型の画像再生装置(具体的にはDVD再生装置)で
あり、本体9401、筐体9402、表示部A9403、表示部B9404、記録媒体(
DVD等)読み込み部9405、操作キー9406、スピーカー部9407等を含む。表
示部A9403は主として画像情報を表示し、表示部B9404は主として文字情報を表
示するが、本発明の電界発光素子を有する発光装置をこれら表示部A9403、B940
4に用いることにより作製される。なお、記録媒体を備えた画像再生装置には家庭用ゲー
ム機器なども含まれる。
【0116】
図9(E)はゴーグル型ディスプレイであり、本体9501、表示部9502、アーム
部9503を含む。本発明の電界発光素子を有する発光装置をその表示部9502に用い
ることにより作製される。
【0117】
図9(F)はビデオカメラであり、本体9601、表示部9602、筐体9603、外
部接続ポート9604、リモコン受信部9605、受像部9606、バッテリー9607
、音声入力部9608、操作キー9609、接眼部9610等を含む。本発明の電界発光
素子を有する発光装置をその表示部9602に用いることにより作製される。
【0118】
ここで、図9(G)は携帯電話であり、本体9701、筐体9702、表示部9703
、音声入力部9704、音声出力部9705、操作キー9706、外部接続ポート970
7、アンテナ9708等を含む。本発明の電界発光素子を有する発光装置をその表示部9
703に用いることにより作製される。なお、表示部9703は黒色の背景に白色の文字
を表示することで携帯電話の消費電力を抑えることができる。
【実施例5】
【0119】
本実施例5では、実施例1、2とは異なる電子吸引基を有するゲスト材料を用いた電界
発光素子の作製例を、具体的に例示する。素子構造は図5の通りとした。
【0120】
まず、絶縁表面を有するガラス基板500上に、陽極501が形成される。材料として
酸化ケイ素を添加したインジウム錫酸化物(ITSO)を用い、スパッタリング法により
110nmの膜厚で形成した。陽極501の形状は、2mm×2mmの大きさとした。
【0121】
このように陽極501が形成された基板を洗浄、乾燥した後、陽極501上に電界発光
層502を形成する。まず、陽極501が形成された基板を、真空蒸着装置の基板ホルダ
ーに陽極501が形成された面を下方にして固定し、抵抗加熱法を用いた真空蒸着法によ
り4,4’−ビス[N−[4−{N,N−ビス(3−メチルフェニル)アミノ}フェニル
]−N−フェニルアミノ]ビフェニル(略称:DNTPD)を50nmの膜厚で成膜した
。これがホール注入層511となる。次に、ホール輸送性材料であるα−NPDを同様の
方法により、10nmの膜厚で形成し、ホール輸送層512とした。
【0122】
さらに、ホスト材料521としてホール輸送性材料であるα−NPDを、電子吸引基を
有するゲスト材料522としてクマリン153を用い、クマリン153の濃度が0.5質
量%となるように共蒸着を行うことで発光層513を形成した。膜厚は30nmとした。
なお、クマリン153はハロアルキル基の一種であるトリフルオロメチル基を有している
ため、電子吸引基であるハロゲノ基を含む化合物である。
【0123】
次に、電子輸送性材料であるAlq3を真空蒸着法により30nm形成し、電子輸送層
514とした。さらに、電子注入層515として、CaF2を真空蒸着法により1nm形
成した。以上が電界発光層502であり、トータル膜厚は121nmとなる。
【0124】
最後に、陰極503を形成する。本実施例では、アルミニウム(Al)を抵抗加熱によ
る真空蒸着法により150nm形成し、陰極503とした。
【0125】
以上のようにして作製した本発明の電界発光素子に6.0Vの電圧を印加したところ、
51.3mA/cm2の電流密度で電流が流れ、1590cd/m2の輝度で発光した。発
光スペクトルのピーク波長は518nmであった。
【0126】
[比較例3]
一方、電子輸送性材料に電子吸引基を有するゲスト材料を添加した発光層を有する従来
の電界発光素子を作製し、実施例5と比較した。素子構造は、発光層513を除いて実施
例5と同様の構成とした。
【0127】
本比較例における発光層513は、ホスト材料として電子輸送性材料であるAlq3
、電子吸引基を有するゲスト材料として実施例5と同じクマリン153を用い、クマリン
153の濃度が0.5質量%となるように共蒸着を行うことで形成した。膜厚は30nm
とした。電界発光層502のトータル膜厚は121nmであり、実施例5と同じである。
【0128】
以上のようにして作製した従来の電界発光素子に6.0Vの電圧を印加したところ、1
8.8mA/cm2の電流密度で電流が流れ、1250cd/m2の輝度で発光した。発光
スペクトルのピーク波長は530nmであった。
【0129】
以上の結果から、本発明を適用した電界発光素子は、発光スペクトルのピーク波長が若
干ブルーシフトしているが、駆動電圧を下げることができた。実施例5および比較例3の
電流−電圧特性を図12に示す。図12からわかるように、本発明を適用することで、電
流が流れやすくなっていることがわかる。
【実施例6】
【0130】
本実施例6では、実施例1、2とは異なる電子吸引基を有するゲスト材料を用いた電界
発光素子の作製例を、具体的に例示する。素子構造は図5の通りとした。
【0131】
まず、絶縁表面を有するガラス基板500上に、陽極501が形成される。材料として
ITSOを用い、スパッタリング法により110nmの膜厚で形成した。陽極501の形
状は、2mm×2mmの大きさとした。
【0132】
このように陽極501が形成された基板を洗浄、乾燥した後、陽極501上に電界発光
層502を形成する。まず、陽極501が形成された基板を、真空蒸着装置の基板ホルダ
ーに陽極501が形成された面を下方にして固定し、抵抗加熱法を用いた真空蒸着法によ
りDNTPDを50nmの膜厚で成膜した。これがホール注入層511となる。次に、ホ
ール輸送性材料であるα−NPDを同様の方法により、10nmの膜厚で形成し、ホール
輸送層512とした。
【0133】
さらに、ホスト材料521としてホール輸送性材料であるα−NPDを、電子吸引基を
有するゲスト材料522としてクマリン153を用い、クマリン153の濃度が0.5質
量%となるように共蒸着を行うことで発光層513を形成した。膜厚は30nmとした。
なお、クマリン153はハロアルキル基の一種であるトリフルオロメチル基を有している
ため、電子吸引基であるハロゲノ基を含む化合物である。
【0134】
次に、電子輸送性材料であるBAlqを10nm、Alq3を20nm、真空蒸着法に
より形成し、電子輸送層514とした。さらに、電子注入層515として、CaF2を真
空蒸着法により1nm形成した。以上が電界発光層502であり、トータル膜厚は121
nmとなる。
【0135】
最後に、陰極503を形成する。本実施例では、アルミニウム(Al)を抵抗加熱によ
る真空蒸着法により150nm形成し、陰極503とした。
【0136】
以上のようにして作製した本発明の電界発光素子に6.0Vの電圧を印加したところ、
30.3mA/cm2の電流密度で電流が流れ、659cd/m2の輝度で発光した。発光
スペクトルのピーク波長は499nmであった。
【0137】
[比較例4]
一方、電子輸送性材料に電子吸引基を有するゲスト材料を添加した発光層を有する従来
の電界発光素子を作製し、実施例6と比較した。素子構造は、発光層513および電子輸
送層514を除いて実施例6と同様の構成とした。
【0138】
本比較例における発光層513は、ホスト材料として電子輸送性材料であるBAlqを
、電子吸引基を有するゲスト材料として実施例6と同じクマリン153を用い、クマリン
153の濃度が0.5質量%となるように共蒸着を行うことで形成した。膜厚は30nm
とした。また、電子輸送層514は、Alq3を30nm真空蒸着することにより形成し
た。電界発光層502のトータル膜厚は121nmであり、実施例6と同じである。
【0139】
以上のようにして作製した従来の電界発光素子に6.0Vの電圧を印加したところ、0
.262mA/cm2の電流密度で電流が流れ、14.4cd/m2の輝度で発光した。発
光スペクトルのピーク波長は517nmであった。
【0140】
以上の結果から、本発明を適用した電界発光素子は、発光スペクトルのピーク波長が若
干ブルーシフトしているが、駆動電圧を下げることができた。実施例6および比較例4の
電流−電圧特性を図13に示す。図13からわかるように、本発明を適用することで、電
流が流れやすくなっていることがわかる。
【実施例7】
【0141】
本実施例7では、実施例1、2、5、6とは異なる電子吸引基を有するゲスト材料を用
いた電界発光素子の作製例を、具体的に例示する。素子構造は図5の通りとした。
【0142】
まず、絶縁表面を有するガラス基板500上に、陽極501が形成される。材料として
ITSOを用い、スパッタリング法により110nmの膜厚で形成した。陽極501の形
状は、2mm×2mmの大きさとした。
【0143】
このように陽極501が形成された基板を洗浄、乾燥した後、陽極501上に電界発光
層502を形成する。まず、陽極501が形成された基板を、真空蒸着装置の基板ホルダ
ーに陽極501が形成された面を下方にして固定し、抵抗加熱法を用いた真空蒸着法によ
りDNTPDを50nmの膜厚で成膜した。これがホール注入層511となる。次に、ホ
ール輸送性材料であるα−NPDを同様の方法により、10nmの膜厚で形成し、ホール
輸送層512とした。
【0144】
さらに、ホスト材料521としてホール輸送性材料であるα−NPDを、電子吸引基を
有するゲスト材料522としてクマリン334を用い、クマリン334の濃度が0.5質
量%となるように共蒸着を行うことで発光層513を形成した。膜厚は30nmとした。
なお、クマリン334はアシル基の一種であるアセチル基を有しているため、電子吸引基
であるカルボニル基を含む化合物である。
【0145】
次に、電子輸送性材料であるBAlqを10nm、Alq3を20nm、真空蒸着法に
より形成し、電子輸送層514とした。さらに、電子注入層515として、CaF2を真
空蒸着法により1nm形成した。以上が電界発光層502であり、トータル膜厚は121
nmとなる。
【0146】
最後に、陰極503を形成する。本実施例では、アルミニウム(Al)を抵抗加熱によ
る真空蒸着法により150nm形成し、陰極503とした。
【0147】
以上のようにして作製した本発明の電界発光素子に6.0Vの電圧を印加したところ、
11.0mA/cm2の電流密度で電流が流れ、220cd/m2の輝度で発光した。発光
スペクトルのピーク波長は477nmであった。
【0148】
[比較例5]
一方、電子輸送性材料に電子吸引基を有するゲスト材料を添加した発光層を有する従来
の電界発光素子を作製し、実施例7と比較した。素子構造は、発光層513および電子輸
送層514を除いて実施例7と同様の構成とした。
【0149】
本比較例における発光層513は、ホスト材料として電子輸送性材料であるBAlqを
、電子吸引基を有するゲスト材料として実施例7と同じクマリン334を用い、クマリン
334の濃度が0.5質量%となるように共蒸着を行うことで形成した。膜厚は30nm
とした。また、電子輸送層514は、Alq3を30nm真空蒸着することにより形成し
た。電界発光層502のトータル膜厚は121nmであり、実施例7と同じである。
【0150】
以上のようにして作製した従来の電界発光素子に6.0Vの電圧を印加したところ、1
.07mA/cm2の電流密度で電流が流れ、42.5cd/m2の輝度で発光した。発光
スペクトルのピーク波長は485nmであった。
【0151】
以上の結果から、本発明を適用した電界発光素子は、発光スペクトルのピーク波長が若
干ブルーシフトしているが、駆動電圧を下げることができた。実施例7および比較例5の
電流−電圧特性を図14に示す。図14からわかるように、本発明を適用することで、電
流が流れやすくなっていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0152】
以上の様に、本発明の電界発光素子を有する発光装置の適用範囲は極めて広く、この発
光装置をあらゆる分野の電気器具に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0153】
500 基板
501 第1の電極
502 電界発光層
503 第2の電極
511 ホール注入層
512 ホール輸送層
513 発光層
514 電子輸送層
515 電子注入層
521 ホスト材料
522 ゲスト材料



【特許請求の範囲】
【請求項1】
一種類のホスト材料及び電子吸引基を有するゲスト材料を含む発光層と、前記発光層に接して設けられた電子輸送層と、を有する電界発光素子であって、
前記ホスト材料は、バイポーラ性を有する有機化合物であり、
前記電子吸引基は、シアノ基であることを特徴とする電界発光素子。
【請求項2】
請求項1において、前記有機化合物は、キノキサリン誘導体であることを特徴とする電界発光素子。
【請求項3】
請求項1または2において、前記有機化合物は、TPAQnであることを特徴とする電界発光素子。
【請求項4】
請求項1乃至3において、前記ゲスト材料はBisDCMであることを特徴とする電界発光素子。
【請求項5】
請求項1において、前記ホスト材料は、TPAQnであり、前記ゲスト材料はBisDCMであることを特徴とする電界発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−49563(P2012−49563A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245628(P2011−245628)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【分割の表示】特願2004−246119(P2004−246119)の分割
【原出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】