説明

電界発光装置

【課題】視認方向の変化による発光色の色ずれを抑制することができる電界発光装置を提供する。
【解決手段】この電界発光装置21は、赤、緑、青の各色に個別に対応する第1ないし第3の光出力部51r,51g,51bを備え、その各光出力部51r,51g,51bの有機層33が発光する各色の発光スペクトルの半値幅Wr,Wg,Wbの大小関係について、Wr<Wg<Wbに設定されている。また、各色の光出力部51r,51g,51bに生じる共振器構造9の透過スペクトルのピーク波長が、各光出力部51r,51g,51bにおける発光スペクトルのピーク波長と略等しい値、あるいはその略等しい値以下に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多色発光を行う電界発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電界発光装置では発光材料を挟み込んだ電極間等で共振器構造が生じ、この共振器構造の共振波長が発光装置から出射する光の出射角により変化し、これによって、発光装置から出射する光の強度が光の出射角によって変化することが知られている(この詳細な原理等については実施の形態にて説明する)。
【0003】
多色発光を行う電界発光装置において、各色画素を形成する各色の光出力部から出射する光の強度比が、光の出射角によって変動すると、出射角(視認方向)によって発光色が変化する色ずれの原因となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の電界発光装置では、上記のような色ずれに対する対策が十分ではなく、色ずれの防止が依然として課題となっている。
【0005】
また、人の目の感度(視感度)は波長によって異なっているため、その視感度も考慮して色ずれ防止を図る必要がある。
【0006】
そこで、本発明の解決すべき課題は、視認方向の変化による発光色の色ずれを抑制することができる電界発光装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、請求項1の発明では、互いに異なる波長の光を発光する発光層と、該発光層の光を共振する共振器構造とを有する複数の光出力部が設けられ、多色発光を行う電界発光装置において、前記各光出力部の発光層が発する光の発光スペクトルの幅は、該発光スペクトルの強度が最大値となる発光ピーク波長における視感度スペクトル曲線の傾きの値が小さい光出力部よりも、発光ピーク波長における視感度スペクトル曲線の傾きの値が大きい光出力部の方で広く設定されている。
【0008】
請求項2の発明では、請求項1に記載の電界発光装置において、前記発光層の主面に直交する方向に前記共振器構造を透過する各色の光の透過スペクトルが最大値を示し、且つ可視光領域に存在する共振ピーク波長が、前記発光ピーク波長と略等しい値に設定されている。
【0009】
請求項3の発明では、請求項2に記載の電界発光装置において、前記発光層の主面に直交する方向に前記共振器構造を透過する各色の光の透過スペクトルの最大値の95%以上となる波長の範囲内に、前記各色の前記発光ピーク波長をそれぞれ位置させている。
【0010】
請求項4の発明では、請求項1ないし3のいずれかに記載の電界発光装置において、前記各発光スペクトルの前記幅は、その発光スペクトルの強度が最大値の半分となる位置におけるその発光スペクトルの幅である。
【0011】
<用語に関する記載>
本明細書において「感受強度」とは、目に入った光に対して実際に人が感じる光の強さを示し、単純に光の強度を指すのではなく、人の目の感度である視感度の影響を反映させたものである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に記載の発明によれば、視認方向の正面方向に対する傾きが拡大されて各光出力部の共振器構造を透過した光の透過スペクトルが短波長側にずれてゆくときに、その透過スペクトルのずれの影響により生じる各光出力部から実際に出射する光の出射強度の低下度合いを、波長が低波長側にずれた場合に視認度の低下度合いが大きい光出力部ほど抑制することができる。その結果、視認方向の変化による各色の感受強度に関する比率のバラツキを低減し、発光色の色ずれを抑制することができる。
【0013】
請求項2または請求項3に記載の発明によれば、視認方向の正面方向に対する傾きが拡大されて各光出力部の共振器構造の透過スペクトルが短波長側にずれてゆくときに、各光出力部から実際に出射する光の出射強度の減衰バラツキを抑えることができ、視認方向の変化による発光色の色ずれを良好に抑制できる。
【0014】
請求項4に記載の発明によれば、各発光スペクトルの幅を、半値幅を用いて設定することにより、各発光スペクトルの形状を十分に反映させた形で各発光スペクトルの幅同士の関係を設定することができる。例えば、発光色に影響を及ぼすようなセカンドピークを有するような発光スペクトルについても、そのセカンドピークの影響を含めて発光スペクトルの幅を規定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
<色ずれの発生原理>
本実施形態の構成について説明する前に、まず色ずれの発生原理について説明する。
【0016】
図1(A)及び図1(B)は、電界発光装置に含まれる共振器構造の特性と光の出射方向との関係を説明するための図である。図1(A)及び図1(B)に示すように、電界発光装置1の光出力部10には、電界発光を行う発光層を含む有機層3の両側に電極等による反射面5,7が形成され、この反射面5,7により共振器構造9が形成されるようになっている。このため、この電界発光装置1から視認者側に出射される光は、有機層3で発光されて反射面5,7で反射されることなく一方の反射面5を透過した光と、有機層3で発光されて反射面5,7で1又は複数回反射されて一方の反射面5を透過した光との重ね合わせたものになっている。ここで、反射面5,7は、屈折率が大きく変化する種々の境界面などにより形成される。反射面5,7として機能するものとしては、例えば、電極、光透過特性調整用の調整層の表面、有機層3を封止するための封止膜の表面、及びガラス基板(透明基板)の表面等が挙げられる。また、光出力部10とは、発光を行う有機層3と、その有機層3が発光した光の経路上に形成される共振器構造9とを含めた構成をいう。
【0017】
このような共振器構造9の特性として、図1(A)及び図2(B)に示すように、重ね合わされて出射する光の経路が電界発光装置1から出射する光の出射方向D1によって異なり、これによって共振波長が変化するようになっている。すなわち、図1(A)及び図1(B)は、出射方向D1が変化したときの反射回数がゼロの光の経路A及び反射回数が1回の光の経路Bを示しており、図1(A)は光の出射方向D1が電界発光装置1の発光面に垂直な正面方向D2と平行なときに対応しており、図1(B)は光の出射方向D1が正面方向D2に対して傾いているときに対応している。そして、この光の経路A,Bの光路差が出射角θの増大に伴って縮小し、これによって、出射角θの増大に伴い共振波長が短波長側に変化するようになっている。このため、有機層3で発光された光が共振器構造9を透過するときの透過スペクトルが、出射角θの増大に伴って図2の実線で示す状態から破線で示す状態に変化するようになっている。なお、出射角θとは、出射方向D1の正面方向D2に対する傾き角である。
【0018】
一方、有機層3が発光する光のスペクトルは、有機層3の材料特性により決定され、例えば図3に示すようなパターンを有している。この発光スペクトルは、光の出射方向D1の出射角θに依らずに一定である。なお、図3中の符号λ1は、発光スペクトルの最大値に対応する発光波長のピーク波長(発光ピーク波長)を示している。
【0019】
図4は、有機層3が発光する光の発光スペクトル、有機層3にて発生した光のうち共振器構造9を介してEL装置の外部に出射された光の割合を示す透過スペクトル、及び電界発光装置1から実際に出射する光の出射スペクトルの関係を示す図であり、曲線L1が発光スペクトルを示し、曲線L2が透過スペクトルを示し、曲線L3が出射スペクトルを示している。このときの透過スペクトル(L2)及び出射スペクトル(L3)は、光出射方向D1の出射角θが0°であるときを示している。図4に示すように、出射スペクトル(L3)は、発光スペクトル(L1)と透過スペクトル(L2)との積により与えられる。
【0020】
なお、図4のグラフの縦軸は、曲線L2(透過スペクトル)については光の透過率を示し、曲線L1(発光スペクトル)及び曲線L3(出射スペクトル)については光の強度を示す。図5、図11についても同様である。
【0021】
上述のように、発光スペクトル(L1)は出射角θに依存しないが、透過スペクトル(L2)が出射角θに依存するため、発光スペクトル(L1)と透過スペクトル(L2)との関係が出射角θにより変化し、これによって出射スペクトル(L3)が変化する。図5は、出射方向D1が傾きを有しているときの発光スペクトル、透過スペクトル及び出射スペクトルの関係を示す図である。図4と図5のスペクトルを比較すると、出射方向D1が傾くに従って透過スペクトル(L2)が短波長側にずれ、これに伴って光出力部10から実際に出力される光の出射スペクトル(L3)が全体的に小さくなりながら短波長側にずれていることが分かる。
【0022】
また、人の目の感度(視感度)は目に入る光の波長によって変化するため、特に、カラー発光を行う電界発光装置1の場合は、視感度の影響も考慮する必要がある。図6は視感度のスペクトルを示す図である。図6の視感度スペクトルの曲線より、人の目の感度は550nm付近の緑色(以下、実施例を除く本実施形態において「緑色」と表現する)の波長の光が最も高く、620nm付近の赤色(以下、実施例を除く本実施形態において「赤色」と表現する)及び450nm付近の青色(以下、実施例を除く本実施形態において「青色」と表現する)の波長の光に対しては急激に低下することが分かる。このため、波長が変化した時の視感度の変化度合いは、緑色の波長の付近よりも赤色及び青色の波長付近の方が大きくなっており、視感度スペクトルの曲線の傾きは、緑色付近の波長で略ゼロ、青色付近の波長で正、赤色付近の波長で負の値となっている。
【0023】
このため、図4に示すように、赤、緑、青の各光出力部10に関して、透過スペクトルの最大値となる共振ピーク波長と、対応する各色の発光ピーク波長とが共振器構造9の正面方向D2(出射角θ=0°)の時に略一致していても、出射角θが増大すると、透過スペクトルが短波長側にずれることに起因して出射スペクトルが短波長側にずれる。その結果、図6の視感度スペクトルより、赤色の光の出射スペクトルは視感度が増大する方向にずれ、緑色及び青色の光の出射スペクトルは視感度が低下する方向にずれるようになっている。その結果、出射角θの増大に伴う赤、緑、青の光の出射スペクトルの低下度合いが仮に同程度であったとしても、実際に人の目が感じる光の強さである感受強度を基準とすると、出射角θの増大に伴う各色の光の感受強度の低下度合いは、赤色よりも緑色が大きく、緑色よりも青色が大きくなっている。
【0024】
図7は、出射角θが変化したときの各色の光の感受強度の変化度合いを示す図である。図7中の細い曲線L4r,L4g,L4bは、出射角θ=0°のときの赤、緑、青の各色の感受強度スペクトルを規格化して示している。感受強度スペクトルとは、出射スペクトルと視感度スペクトルとの積により与えられる。感受強度スペクトルの規格化の手法としては、例えば各色の感受強度についてその最大値の値が1になるようにスペクトルを規格化している。また、図7中の太い曲線L4r’,L4g’,L4b’は出射角θ=30°のときの感受強度スペクトルであり、出射角θ=0°のときの感受強度のスペクトル(L4r,L4g,L4b)の強度を基準にして示している。また、図8は、出射角θと各色の感受強度(感受強度スペクトルの最大値)の関係を示す図である。図8中の曲線L5r,L5g,L5bは、各色の光出力部10から実際に出射される光の感受強度と出射角θとの関係を示している。
【0025】
図7及び図8から分かるように、出射角θの値が増大するにつれて、その各色の光の感受強度の比が大きく変化していることが分かる。このため、仮に出射角θ=0°を基準にして電界発光装置の発光色を設定していても、出射角θが増大するとその発光色がずれてゆくようになっている。具体的には、仮に出射角θ=0°のときを基準に各色の光出力部10から出射される光の感受強度の比率を白色に設定していても、出射角θの増大に伴って、相対的に青色よりも緑色、さらには緑色よりも赤色の感受強度の比率が高くなり、赤みがかった白色になることが分かる。
【0026】
そこで、本願発明者らは、人の目の視感度の特性を考慮して、電界発光装置における各色の光出力部10の発光スペクトル(L1r,L1g,L1b)の関係等を調節することにより、上記のような色ずれの課題を解決することを創出した。
【0027】
<電界発光装置の構成>
図9は、本発明の一実施形態に係る電界発光装置の構成を概略的に示す断面図である。この電界発光装置21は、トップエミッションタイプであり、図9に示すように、透明基板であるガラス基板23と、そのガラス基板23上に形成された素子部25と、その素子部25の上に形成された調整層27と、その調整層27の上から素子部25全体を覆うように形成された封止膜29とを備えている。素子部25は、基板23側から順に、第1の電極31、有機層33及び第2の電極35を備えている。有機層33が第1及び第2の電極31,35によって挟み込まれている。
【0028】
また、この電界発光装置21では、カラー発光を行うため、図10に示すように、赤、緑、青の各色に対応して第1ないし第3の3種類の光出力部51r,51g,51bが複数個ずつ配設されている。ここで、光出力部51r,51g,51bとは、発光を行う有機層33と、その有機層33が発光した光の経路上に形成される上述の共振器構造9(図1(A)及び図1(B)参照)とを含めた構成をいう。共振器構造9の具体例及びその特性等については、上述の通りである。なお、図10では、図示の便宜上、封止膜29が省略されている。
【0029】
第1ないし第3の光出力部51r,51g,51bの有機層33には、後述のように、赤、緑、青の各波長の光を発光するのに適した材料が用いられている。
【0030】
調整層27は、第1ないし第3の光出力部51r,51g,51bの光透過特性を調整するためのものであり、光出力部51r,51g,51bからの光の取り出し効率が大きくなるように、その光学膜厚(nd、n:屈折率、d:膜厚)が光出力部51r,51g,51bごとに個別に設定されている。なお、調整層27は、第1ないし第3の光出力部51r,51g,51bごとに省略されることがある。調整層27の成膜手法としては、例えば蒸着法が用いられる。このため、調整層27は、メタルマスク等を用いることにより、各光出力部51r,51g,51bによって塗分を行うことができる。調整層27の好適な材料としては、スチリルアリーレン、ポリシラン等の透明有機材料、酸化チタン、硫化亜鉛等の透明無機材料等がある。これらの材料の中で、特に有機材料は、蒸着温度を低くできるため、基板23の温度上昇による素子部25へのダメージを小さく抑えることができるとともに、メタルマスクの温度上昇でメタルマスクが変形することに起因するパターンぼけを抑制しやすいという利点がある。さらに、図9に示す構成では、第2の電極35に接して調整層35が形成されるため、有機層33、第2の電極35の成膜を行うときの同一のチャンバ又は同一の真空度で調整層27の成膜を行うことができる。このため、製造装置の規模がコンパクトになり、かつ製造工程の高タクト化が図れる。
【0031】
封止膜29は、有機層33及び第2の電極35等を封止するためのものであり、電界発光装置21の素子部25が形成される領域を完全に覆うようにして形成されている。封止膜29は、光透過性を有する絶縁材料、例えばSiNx等により形成される。
【0032】
素子部25の構成について説明する。第1の電極31は、有機層33が発光した光の少なくとも一部を有機層33側に反射するようになっており、透明、半透明、不透明のいずれの電極材料を用いて形成してもよい。但し、光の反射率を高めるためには、第1の電極31を半透明電極又は不透明光電極とするのがよい。第2の電極35は、光と透過する導電材料であればいずれの材料を用いて形成してもよい。但し、光の透過率を高めるためには、第2の電極35を半透明電極又は透明電極とするのがよい。さらに好ましくは第1の電極は、Al等の反射電極とするのが良い。なお、不透明電極の場合は、可視光の殆どを遮蔽する光学特性と大きな電気伝導性とを備えた材料で形成される。また、透明電極の場合は、可視光の多くを透過させるような光学特性と比較的大きな電気伝導性とを備えた材料で形成される。また、半透明電極の場合は、透明電極と不透明電極との中間的な特性を有するものであり、可視光を透過させるような光学特性を有している必要がるため、電極の膜厚を薄くすることでそのような光学特性を実現している。
【0033】
ここで、透明電極に好適な材料としては、例えばITOやIZO等がある。また、透明電極の膜厚は、好ましくは50nm以上であり、より好ましくは100nm〜300nmの範囲にある。また、不透明電極に好適な材料としては、AL等がある。また、その膜厚は、好ましくは50nm以上であり、より好ましくは100nm〜300nmの範囲にある。また、半透明電極に好適な材料としては、Liなどのアルカリ金属、Mg,Ca,Sr,Baなどのアルカリ土類金属、あるいはAl,Si,Ag等がある。その膜厚は、好ましくは100nm以下であり、より好ましくは5nm〜50nmの範囲にある。
【0034】
有機層33は、図10に示すように、基板23側から順に、正孔又は電子の注入を行うための電荷注入層41と、正孔又は電子の輸送を行うための電荷輸送層43と、電界発光を行う発光層45と、電子又は正孔の輸送を行うための電荷輸送層47と、電子又は正孔の注入を行うための電荷注入層49とを備えている。なお、本実施形態では、少なくとも一部に有機材料を用いて有機層33を形成するようにしたが、有機層33中の各層41,43,45,47,49のいずれか、あるいはすべてを無機材料により形成してもよい。
【0035】
また、本実施形態では、有機層33を5層構造で形成したが、種々の条件に応じて2ないし4層構造、発光層45のみの単層構造等、種々の層構造が採用される。例えば、第1及び第2の電極31,35の反射特性(不透明、半透明又は透明)及び極性(いずれを陽極側にするか等)、及び有機層33の発光色の種類(赤色、緑色、青色)等に応じて、有機層33の構成及び材料が決定される。具体例としては、例えば、Alq3(アルミキノリール錯体)などの材料は、緑色の発光を行うとともに電子輸送性にも優れているため、緑色の発光を行う素子部25においては発光層と電子輸送層とがAlq3などの単一材料で構成される場合がある。また、透明電極を用いる場合には、金属の電子注入層を用いる場合が多い。なお、第1電極、第2電極、及び有機層は従来周知の蒸着法等の薄膜形成技術を用いることによって形成される。また封止膜は従来周知のCVD法あるいは蒸着法等の薄膜形成技術を採用することによって形成される。
【0036】
<色ずれ防止について>
上述の色ずれの問題に対する本実施形態に係る電界発光装置21の構成について説明する。図11は、図9の電界発光装置21における各色の発光スペクトル(L1r,L1g,L1b)と透過スペクトル(L2r,L2g,L2b)との関係を示す図である。本実施形態では、図11に示すように、各色の光出力部51r,51g,51bの共振器構造9の透過スペクトル(L2r,L2g,L2b)が最大値となる共振ピーク波長λ2r,λ2g,λ2bが、各光出力部51r,51g,51bにおける発光スペクトル(L1r,L1g,L1b)の強度が最大となる発光ピーク波長λ1r,λ1g,λ1bと略等しい値、あるいはその略等しい値以下に設定されている。
【0037】
ここで、「共振ピーク波長λ2r,λ2g,λ2bが発光ピーク波長λ1r,λ1g,λ1bと略等しい値に設定されている」とは、図11に示すように、各光出力部51r,51g,51bにおける透過スペクトル(L2r,L2g,L2b)の最大値の95%以上となる波長の範囲Br,Bg,Bb内に、各発光ピーク波長λ1r,λ1g,λ1bがそれぞれ位置することをいう。また「共振ピーク波長λ2r,λ2g,λ2bが発光ピーク波長λ1r,λ1g,λ1bと略等しい値以下に設定されている」とは、上記Br,Bg,Bbの範囲内から発光ピーク波長λ1r,λ1g,λ1bが低波長側にずれていることをいう。
【0038】
このように、各色の共振ピーク波長λ2r,λ2g,λ2bと発光ピーク波長λ1r,λ1g,λ1bとを略等しくすることにより、出射角θの値が増大しても、各色の発光スペクトル(L1r,L1g,L1b)と各透過スペクトル(L2r,L2g,L2b)との積である各出射スペクトルの減衰バラツキが低減される。
【0039】
また、本実施形態では、図12に示すように、各色の光出力部51r,51g,51bの発光スペクトル(L1r,L1g,L1b)の強度が50%であるときの発光スペクトル(L1r,L1g,L1b)の幅(半値幅)Wr,Wg,Wbについて、Wr<Wg<Wbの関係が成立するように設定されている。すなわち、赤色の発光スペクトル(L1r)の半値幅Wrよりも緑色の発光スペクトル(L1g)の半値幅Wgが広く設定され、緑色の発光スペクトル(L1g)の半値幅Wgよりも青色の発光スペクトル(L1b)の半値幅Wbが広く設定されている。
【0040】
上記のように、各色の発光スペクトル(L1r,L1g,L1b)の半値幅Wr,Wg,Wbの大小関係を設定した場合、光の出射角θの値が増大し、各光出力部51r,51g,51bに関する共振器構造9の透過スペクトル(L2r,L2g,L2b)が短波長側にずれても、各光出力部51r,51g,51bから実際に出射する光の出射強度の低下度合いを、波長が低波長側にずれた場合に視認度の低下度合いが大きい光出力部51r,51g,51bほど抑制されるようになっている。その結果、出射角θの増大に伴う各色の感受強度の低下度合いのバラツキを抑制することができ、色ズレを低減できる。
【0041】
なお、共振器構造9の要素としては、基本的には、光が通過する領域に存在する全ての層、部材が対象となりうる。具体的には、EL装置がトップエミッションタイプの場合、発光層からの光は最終的には封止膜29を透過して外部へ出射されるため、共振器構造9の要素は、電極31,35間に形成される各層、調整層27、封止膜29等となる。そして、これらの要素の組み合わせによって共振器構造9が構成されるようになっている。但し、電極31,35間に形成される共振器構造要素が全体の共振器構造9の特性に最も大きく影響する。
【0042】
ここで、発光スペクトル(L1r,L1g,L1b)の各半値幅Wr,Wg,Wbは、収束イオンビーム(FIB)等によるエッチングやカッティングなどにより各光出力部51r、51g、51bの有機層(好ましくは発光層)を露出させた状態で、該露出部に紫外光を照射することで得られる正面方向D1を基準としたフォトルミネッセンススペクトルの半値幅により求められる。紫外光はキセノンランプ光源が好ましい。また紫外光の波長は発光層の吸収ピーク波長に相当する波長とする。吸収ピーク波長の把握が困難であれば、365nmの波長の紫外光を照射して測定する。
【0043】
またフォトルミネッセンススペクトルの測定が困難な場合には、次の手法により半値幅Wr,Wg,Wbを求める。まず、光出力部51r、51g、51bの各々について最大階調で発光させた場合の正面方向D1を基準とした出射スペクトルを測定する。次に、光出力部51r、51g、51bの共振器構造から透過スペクトルを算出する。続いて、出射スペクトルを透過スペクトルで除することにより各光出力部51r、51g、51bの発光スペクトル(L1r,L1g,L1b)を算出する。そして算出した発光スペクトル(L1r,L1g,L1b)の最大値の50%の位置における発光スペクトルの幅を半値幅Wr,Wg,Wbとする。
【0044】
各色の光出力部51r,51g,51bにおける発光スペクトル(L1r,L1g,L1b)の半値幅Wr,Wg,Wbの調節手法としては、次のような手法が考えられる。例えば、発光層45のドーパントに関する手法が考えられる。すなわち、ドーパントの種類を変更したり、発光層45中のドーパントの混入割合を変更したり、ドーパントの組み合わせや、組み合わせるドーパントの種類数を変更する手法などが考えられる。例えば、やや波長のずれた青色の波長の光を発光する2種類のドーパントを組み合わせて用いることにより、青色の発光スペクトル(L1b)の半値幅Wbを広げることができる。この場合、単一の発光層45中に2種類のドーパントを混入させてもよく、発光層45を2層構造にしてその各層に種類の異なるドーパントを混入させるようにしてよく、あるいは、2種類のドーパントのうちのいずれか一方を発光層45に用い、他方を電荷輸送層43又は47に混入させて電荷輸送層43又は47も発光させるようにしてもよい。
【0045】
図13は、本実施形態の電界発光装置21における出射角θが変化したときの各色の光の感受強度スペクトルの変化度合いを示す図である。図13の感受強度スペクトル(L4r,L4g,L4b)についても、上述の図7の場合と同様な手法で規格化を行っている。また、図13中の細い曲線L4r,L4g,L4bは、出射角θ=0°のときの各色の感受強度スペクトルに対応しており、太い曲線L4r’,L4g’,L4b’は出射角θ=0°から特定の値(θ=30°)に増大したときの感受強度スペクトル(L4r,L4g,L4b)の変化度合いを示している。また、図14は本実施形態の電界発光装置21における出射角θと各色の感受強度の関係を示す図であり、図14中の曲線L5r,L5g,L5bが各色の光出力部10から実際に出射される光の感受強度と出射角θとの関係を示している。
【0046】
図13及び図14から分かるように、出射角θの変化により各色の光の感受強度が変化しても、その各色の光の感受強度の比のバラツキが従来よりも低減され、色ずれが抑制されていることが分かる。
【0047】
以上のように、本実施形態によれば、各色の発光スペクトル(L1r,L1g,L1b)の半値幅Wr,Wg,Wbの大小関係について、Wr<Wg<Wbに設定されているため、視認方向が正面方向D1から傾けられてゆくときの各光出力部51r,51g,51bから実際に出射する光の出射強度の低下度合いを、波長が低波長側にずれた場合に視認度の低下度合いが大きい光出力部51r,51g,51bほど抑制でき、その結果、視認方向の傾きが変化したときに各色の感受強度の低下度合いのバラツキを抑制することができ、色ズレを低減できる。
【0048】
また、各色の発光スペクトル(L1r,L1g,L1b)と透過スペクトル(L2r,L2g,L2b)との関係を上記のように設定することにより、出射角θ=0°からθの値が増大しても、各色の発光スペクトル(L1r,L1g,L1b)と各透過スペクトル(L2r,L2g,L2b)との積で与えられる各色の出射スペクトルの減衰バラツキが更に低減され、視認方向の変化による発光色の色ずれを良好に抑制できる。
【0049】
また、各発光スペクトル(L1r,L1g,L1b)の幅を半値幅Wr,Wg,Wbを用いて設定することにより、各発光スペクトル(L1r,L1g,L1b)の形状を良好に反映させた形で各発光スペクトル(L1r,L1g,L1b)の幅同士の関係を設定することができる。例えば、図15に発光色に影響を及ぼすようなセカンドピークを有するような発光スペクトル(L1r,L1g,L1b)についても、そのセカンドピークの影響を含めて発光スペクトル(L1r,L1g,L1b)の幅を規定することができる。
【0050】
<変形例>
なお、上述の本実施形態では、トップエミッションタイプの電界発光装置21について記載したが、本発明は、ガラス基板23を介して光を出射するボトムエミッションタイプの電界発光装置についても容易に適用可能である。但し、ボトムエミッションタイプの場合には、調整層27がガラス基板23と第1の電極31との間に設けてもよい。
【0051】
この場合、共振器構造9の要素として電極31,35間の共振器構造以外に考慮するとすれば、調整層27の基板23側の面と基板23側と反対側の面との間の共振器構造、及びガラス基板23の素子部25側の面と素子部25側と反対側の面との間の共振器構造など、発光層からの光が外部に出射されるまでに通過する各層、各部材が挙げられる。なお、ボトムエミッションタイプの電界発光装置の場合には封止膜29の影響は考慮する必要はない。
【実施例】
【0052】
(実施例1)
本実施例では、陽極、正孔輸送層、第1発光層、第2発光層、電子注入層、陰極の順に積層した青色に発光する有機EL素子を作製した。なお、各層の構成は下記の通りである。
【0053】
(a) 陽極
材料:アルミニウム 膜厚:300nm
(b) 正孔輸送層
材料:NPB 膜厚:50nm
(c) 第1発光層
ホスト材料:SDPVBi ホスト膜厚:10nm
ドーパント材料:Zn(BIZ)
ホスト材料に対するドーパント材料の体積濃度:2.0%
(d) 第2発光層
ホスト材料:SDPVBi ホスト膜厚:10nm
ドーパント材料:Zn(BIZ)
ホスト材料に対するドーパント材料の体積濃度:0.5%
(e) 電子注入層
材料:マグネシウム 膜厚:10nm
(f) 陰極
材料:ITO 膜厚:100nm
本実施例によれば、第2発光層の発光スペクトルは440nmに発光ピーク波長を有し、半値幅は51nmであった。第1発光層の発光スペクトルは445nmに発光ピーク波長を有する。その結果、2つの発光層が共に発光することで本実施例では発光スペクトルの半値幅は55nmであった。
【0054】
(実施例2)
本実施例では、陽極、正孔輸送層、発光層、電子注入層、陰極の順に積層した青色に発光する有機EL素子を作製した。なお、各層の構成は下記の通りである。
【0055】
(a) 陽極
材料:アルミニウム 膜厚:300nm
(b) 正孔輸送層
材料:NPB 膜厚:50nm
(c) 発光層
ホスト材料:SDPVBi ホスト膜厚:20nm
第1ドーパント材料:Zn(PhPy)
ホスト材料に対する第1ドーパント材料の体積濃度:0.5%
第2ドーパント材料:Zn(BIZ)
ホスト材料に対する第2ドーパント材料の体積濃度:0.5%
(d) 電子注入層
材料:マグネシウム 膜厚:10nm
(e) 陰極
材料:ITO 膜厚:100nm
ホスト材料に第1ドーパント材料を上記の濃度でドーピングした発光層では、発光スペクトルが460nmに発光ピーク波長を有し、半値幅は56nmであった。またホスト材料に第2ドーパント材料を上記の濃度でドーピングした発光層では、発光スペクトルが440nmに発光ピーク波長を有し、半値幅は51nmであった。そして、本実施例のように、ホスト材料に第1及び第2ドーパント材料を上記の濃度でドーピングした発光層では半値幅を70nmに広げることができた。
【0056】
(実施例3)
本実施例では、陽極、正孔輸送層、発光層、電子注入層、陰極の順に積層した赤色、緑色、青色に発光する有機EL素子を作成した。なお、各層の構成は下記の通りである。
【0057】
(a) 陽極
材料:アルミニウム(赤、緑、青)
膜厚:300nm(赤、緑、青)
(b) 正孔輸送層
材料:NPB(赤、緑、青)
膜厚:70nm(赤)、50nm(緑、青)
(c) 発光層
ホスト材料:Alq3(赤、緑)、スチリルアミン(青)
ホスト膜厚:60nm(赤)、50nm(緑)、20nm(青)
ドーパント材料:Btp2Ir(acac)(赤)
Ir(ppy)3(緑)、フィルピック(青)
ホスト材料に対するドーパント材料の体積濃度:0.5%(赤、緑、青)
(d) 電子注入層
材料:マグネシウム(赤、緑、青)
膜厚:10nm(赤、緑、青)
(e) 陰極
材料:ITO(赤、緑、青)
膜厚:100nm(赤、緑、青)
本実施例によれば、発光ピーク波長は赤色615nm、緑色510nm、青色470nmであった。図6を参照すると、615nmの赤色、510nmの緑色、470nmの青色に関する視感度スペクトル曲線の傾きの大小関係は赤色<青色<緑色であるため、視認方向の変化による色ずれを抑制するためには半値幅の大小関係は赤色<青色<緑色の関係を満足する必要がある。本実施例では、半値幅を測定したところ、赤色36nm、青色55nm、緑色65nmであったため、色ずれが抑制されていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】図1(A)及び図1(B)は電界発光装置に含まれる共振器構造の特性と光の出射方向との関係を説明するための図である。
【図2】共振器構造の透過スペクトルを示す図である。
【図3】有機層の発光スペクトルを示す図である。
【図4】有機層の発光スペクトル、共振器構造の透過スペクトル及び光の出射スペクトルの関係を示す図である。
【図5】出射方向が傾きを有しているときの発光スペクトル、透過スペクトル及び出射スペクトルの関係を示す図である。
【図6】視感度のスペクトルを示す図である。
【図7】出射角が変化したときの各色の光の感受強度の変化度合いを示す図である。
【図8】出射角と各色の感受強度の関係を示す図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る電界発光装置の構成を概略的に示す断面図である。
【図10】図9の電界発光装置の第1ないし第3の光出力部の構成を概略的に示す断面図である。
【図11】図9の電界発光装置における各色の発光スペクトルと透過スペクトルとの関係を示す図である。
【図12】図9の電界発光装置の第1ないし第3の光出力部の発光スペクトルを示す図である。
【図13】図9の電界発光装置における出射角が変化したときの各色の光の感受強度の変化度合いを示す図である。
【図14】図9の電界発光装置における出射角と各色の感受強度の関係を示す図である。
【図15】本発明の他の実施形態に係る電界発光装置の第1ないし第3の光出力部の発光スペクトルを示す図である。
【符号の説明】
【0059】
1 EL発光装置
3 有機層
5,7 反射面
9 共振器構造
10 光出力部
21 EL発光装置
23 ガラス基板
25 素子部
27 調整層
29 封止膜
31 第1の電極
33 有機層
35 第2の電極
41 電荷注入層
43 電荷輸送層
45 発光層
47 電荷輸送層
49 電荷注入層
51r 第1の光出力部
51g 第2の光出力部
51b 第3の光出力部
61 EL発光装置
D1 出射方向
D2 正面方向
θ 出射角


【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに異なる波長の光を発光する発光層と、該発光層の光を共振する共振器構造とを有する複数の光出力部が設けられ、多色発光を行う電界発光装置において、
前記各光出力部の発光層が発する光の発光スペクトルの幅は、該発光スペクトルの強度が最大値となる発光ピーク波長における視感度スペクトル曲線の傾きの値が小さい光出力部よりも、発光ピーク波長における視感度スペクトル曲線の傾きの値が大きい光出力部の方で広く設定されていることを特徴とする電界発光装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電界発光装置において、
前記発光層の主面に直交する方向に前記共振器構造を透過する各色の光の透過スペクトルが最大値を示し、且つ可視光領域に存在する共振ピーク波長が、前記発光ピーク波長と略等しい値に設定されていることを特徴とする電界発光装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電界発光装置において、
前記発光層の主面に直交する方向に前記共振器構造を透過する各色の光の透過スペクトルの最大値の95%以上となる波長の範囲内に、前記各色の前記発光ピーク波長をそれぞれ位置させたことを特徴とする電界発光装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の電界発光装置において、
前記各発光スペクトルの前記幅は、その発光スペクトルの強度が最大値の半分となる位置におけるその発光スペクトルの幅であることを特徴とする電界発光装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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