説明

電界発生装置および電界発生方法

【課題】液体中に一方向の電界を発生させる場合に、液体の電気分解や電気化学反応の発生を抑制し、電極の腐食を抑制することを課題とする。
【解決手段】液体が注入された容器と、前記容器に注入された液体に、それぞれ少なくとも一部が浸されるように所定の間隔を空けて配置された第1の電極および第2の電極と、前記第1の電極および第2の電極に接続され、両電極間に非対称な交流を印加させる交流発生器とを備え、前記交流発生器が、前記液体中に実質的に前記第1の電極から第2の電極へ向かう電界、または実質的に前記第2の電極から第1の電極へ向かう電界のいずれか一方の電界を発生させることを特徴とする電界発生装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、液体中に電界を発生させる電界発生装置および電界発生方法に関する。また、液体中に浮遊する固体を移動させる浮遊体移動装置および浮遊体移動方法、電気泳動装置および電気泳動方法、電気浸透流ポンプおよびその動作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、荷電粒子やタンパク質などの分子の分離・分析をするために、分子等を含む溶液中に一対の電極を浸してその電極間に直流電圧を印加する電気泳動法が用いられてきた。このように、一対の電極間に直流電圧を印加すると、溶液中に一方向の電界が生じるので、荷電粒子等を一方の電極の方向へ移動させることができる。
【0003】
たとえば、特許文献1には、DNAの塩基配列を決定するのに用いられる電気泳動装置が記載されている。
この特許文献1の電気泳動装置では、溶液に相当するスラブ状泳動ゲルの両端に、電解液に収容された電極層を配置し、この電極層には泳動電圧を印加する泳動電源が接続される。泳動電源は直流電源であり、電極層間に一方向の直流電圧(電界)が印加されると、一方向に直流電流が流れ、泳動ゲル中に注入された分析対象のDNA断片試料が、泳動ゲル中を泳動して分離される。
また、液体中に一対の電極を配置して、この電極間に直流電圧を印加して液体中に一方向の電界を発生させる装置は、電気浸透流ポンプや、帯電した微細な粒子を移動させる装置など、種々の分野で利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−151687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、電極間に直流電流を流すことにより液体内に電界を発生させた場合、長時間一方向への電流が流れることにより、液体が電気分解し、または電気化学反応により電極が腐食するといった問題があった。
さらに、これらの反応により、液体中に気泡が発生し、又は液体が汚染されるという問題も発生する。また、これらの問題は、電気泳動装置においては、試料の汚染につながり、電気浸透流ポンプにおいては、気泡による動作不良を招いていた。
【0006】
そこで、この発明は、以上のような事情を考慮してなされたものであり、液体の電気分解や電気化学反応等を起こすことなく、液体中の一方向に電界を発生させることが可能な電界発生装置および電界発生方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、液体が注入された容器と、前記容器に注入された液体に、それぞれ少なくとも一部が浸されるように所定の間隔を空けて配置された第1の電極および第2の電極と、前記第1の電極および第2の電極に接続され、両電極間に非対称な交流を印加させる交流発生器とを備え、前記交流発生器が、前記液体中に実質的に前記第1の電極から第2の電極へ向かう電界、または実質的に前記第2の電極から第1の電極へ向かう電界のいずれか一方の電界を発生させることを特徴とする電界発生装置を提供するものである。
これによれば、第1の電極と第2の電極との間に非対称な交流を印加しているので、液体内に実質的に一方向の電界を発生することができ、液体が電気分解を起こすことや電気化学反応を起こすことはほとんどなく、電極が腐食することを抑制することができる。
【0008】
ここで、前記の電界発生装置において、前記第1の電極と第2の電極は、前記容器に注入された前記液体と直接接触するように配置され、前記非対称交流は、前記第1の電極と第2の電極との間の電圧V(t)(tは時間)を交流の1周期に渡って積分した次式の値
Veff=∫V(t)dt
が実質的に0となり、実質的な直流成分を持たないことを特徴とする。
これによれば、第1の電極と第2の電極との間に正味の直流電流が流れないので、液体の電気分解や電気化学反応が起こりにくくなり、電極が腐食することを確実に防止できる。
【0009】
また、電界発生装置において、前記第1の電極と第2の電極の少なくとも一方が絶縁膜で覆われて液体と直接接触しないことを特徴とする。
これによれば、第1の電極および第2の電極の少なくとも一方が絶縁膜で覆われるので、2つの電極間に直流電流が流れない。したがって、液体が電気分解を起こすことや電気化学反応を起こすことはほとんどなく、電極が腐食することを更に確実に防止できる。
【0010】
また、この発明は、物体が浮遊する液体が注入された容器と、前記容器に注入された液体に、それぞれ少なくとも一部が浸されるように所定の間隔を空けて配置された第1の電極および第2の電極と、前記第1の電極および第2の電極に接続され、両電極間に非対称な交流を印加させる交流発生器とを備え、前記交流発生器が印加した非対称交流によって、前記液体中に浮遊する物体に対し、前記第1の電極から第2の電極への移動、または前記第2の電極から第1の電極への移動のうちいずれか一方の移動をさせることを特徴とする浮遊体移動装置を提供するものである。
これによれば、第1の電極と第2の電極との間に非対称な交流を印加しているので、液体内に浮遊する物体を一方向に移動することができ、液体が電気分解を起こすことや電気化学反応を起こすことはほとんどなく、電極が腐食することを抑制することができる。
【0011】
ここで、前記の浮遊体移動装置において、前記第1の電極と第2の電極は、いずれも液体と直接接触するように配置され、前記非対称交流は、前記第1の電極と第2の電極との間の電圧V(t)(tは時間)を交流の1周期に渡って積分した次式の値
Veff=∫V(t)dt
が実質的に0となり、実質的な直流成分を持たないことを特徴とする。
これによれば、第1の電極と第2の電極との間に正味の直流電流が流れないので、液体の電気分解や電気化学反応が起こりにくくなり、電極が腐食することを確実に防止できる。
【0012】
また、浮遊体移動装置において、前記第1の電極と第2の電極の少なくとも一方が絶縁膜で覆われて液体と直接接触しないことを特徴とする。
上記実施の形態では、第1の電極および第2の電極の少なくとも一方が絶縁膜で覆われるので、2つの電極間に直流電流が流れない。したがって、液体が電気分解を起こすことや電気化学反応を起こすことはほとんどなく、電極が腐食することを更に確実に防止できる。
【0013】
また、この発明は、試料を含む液体が注入された泳動槽と、前記泳動槽に注入された液体に、それぞれ少なくとも一部が浸されるように所定の間隔を空けて配置された第1の電極および第2の電極と、前記第1の電極および第2の電極に接続され、両電極間に非対称な交流を印加させる交流発生器とを備え、前記交流発生器が印加した非対称な交流によって、液体中に含まれた試料を、液体中の第1の電極と第2の電極との間を泳動させ、前記第1の電極と第2の電極の少なくとも一方が絶縁膜で覆われて前記液体と直接接触しないことを特徴とする電気泳動装置を提供するものである。
これによれば、第1の電極と第2の電極との間に非対称な交流を印加しているので、試料を電気泳動させることができ、電気泳動を行なう際に、液体が電気分解して気泡が発生することを防止でき、電気化学反応により電極が腐食して液体が汚染することを防止できる。したがって、電気泳動により、試料に対するより精確な解析が可能となる。
【0014】
また、この発明は、所定の間隔を空けて対向配置された第1の電極および第2の電極と、前記第1の電極と第2の電極とに挟まれた空間に配置され、電気泳動粒子と分散液とを内包した複数のカプセルからなる電気泳動素子と、前記第1の電極と第2の電極とに接続され、両電極間に非対称な交流を印加させる交流発生器とを備え、前記非対称な交流によって、各カプセル内の電気泳動粒子を一方の電極の方向へ移動させることを特徴とする電気泳動表示装置を提供するものである。
これによれば、第1の電極と第2の電極との間に非対称な交流を印加しているので、各カプセル内の電気泳動粒子を一方の電極の方向に移動させ続けることができ、各カプセルの位置を画素とした場合に、電気泳動に基づく表示をさせることができる。
【0015】
また、この発明は、液体を流す流路と、前記流路の上流部と下流部にそれぞれ離間して配置され、複数の孔を有する第1の電極と第2の電極と、前記第1の電極および第2の電極とに接続され、両電極間に非対称な交流を印加させる交流発生器とを備え、前記非対称交流を印加することにより、前記流路内に流入された液体を、流路内の上流部にある第1の電極から下流部にある第2の電極の方向へと輸送することを特徴とする電気浸透流ポンプを提供するものである。
これによれば、第1の電極と第2の電極との間に非対称な交流を印加しているので、流路内の液体を一方向に搬送することができ、液体が電気分解して気泡が生じることを防止でき、電気化学反応により電極が腐食することを防止できる。したがって、気泡を除去するための機構が不要となるので、電気浸透流ポンプの構造を単純化することができ、電気浸透流ポンプの信頼性を高くすることができる。
【0016】
ここで、前記の電気浸透流ポンプにおいて、前記第1の電極と第2の電極は、前記流路に流入された前記液体と直接接触するように配置され、前記非対称交流は、前記第1の電極と第2の電極との間の電圧V(t)(tは時間)を交流の1周期に渡って積分した次式の値
Veff=∫V(t)dt
が実質的に0となり、実質的な直流成分を持たないことを特徴とする。
これによれば、第1の電極と第2の電極との間に正味の直流電流が流れないので、液体の電気分解や電気化学反応が起こりにくくなり、電極が腐食することを確実に防止できる。
【0017】
また、電気浸透流ポンプにおいて、前記第1の電極と第2の電極の少なくとも一方が絶縁膜で覆われて液体と直接接触しないことを特徴とする。
これによれば、第1の電極および第2の電極の少なくとも一方が絶縁膜で覆われるので、2つの電極間に直流電流が流れない。したがって、液体が電気分解して気泡が生じることはなく、電気化学反応により電極が腐食することも更に確実に防止できる。
さらに、電気浸透流ポンプにおいて、前記第1の電極と第2の電極との間の前記流路内に、多孔質からなる電気浸透材を設けてもよい。
【0018】
また、この発明の電気浸透流ポンプは、燃料電池に設けることができる。
さらに、この発明の電気浸透流ポンプは、冷却ポンプや薬液供給装置を駆動させる装置として使用してもよい。
【0019】
また、この発明は、容器に液体を注入する準備ステップと、第1の電極と第2の電極とをそれぞれ少なくとも一部が前記液体に浸されるように所定の間隔を空けて配置する配置ステップと、前記第1の電極と第2の電極との間に非対称交流を印加し、前記液体中に実質的に前記第1の電極から第2の電極へ向かう電界、または実質的に前記第2の電極から第1の電極へ向かう電界のいずれか一方の電界を発生させる電界発生ステップとを含むことを特徴とする電界発生方法を提供するものである。
【0020】
この発明によれば、第1の電極と第2の電極との間に非対称な交流を印加するので、液体内に実質的に一方向の電界を発生することができ、液体が電気分解を起こすことや電気化学反応を起こすことはほとんどなく、電極が腐食することを抑制することができる。
【0021】
また、この発明は、前記の電界発生方法であって、前記第1の電極と第2の電極はいずれも液体と直接接触するように配置され、前記非対称交流は、前記第1の電極と第2の電極との間の電圧V(t)(tは時間)を交流の1周期に渡って積分した次式の値
Veff=∫V(t)dt
が実質的に0となり、実質的な直流成分を持たないことを特徴とする。
これによれば、第1の電極と第2の電極との間に正味の直流電流が流れないので、液体の電気分解や電気化学反応が起こりにくくなり、電極が腐食することを確実に防止できる。
【0022】
また、前記第1の電極と第2の電極の少なくとも一方が絶縁膜で覆われて液体と直接接触しないことを特徴とする。
これによれば、第1の電極および第2の電極の少なくとも一方が絶縁膜で覆われているので、2つの電極間に直流電流が流れない。したがって、液体が電気分解を起こすことや電気化学反応を起こすことはほとんどなく、電極が腐食することを更に確実に防止することができる。
【0023】
また、前記非対称交流としては、高電位持続時間と低電位持続時間が異なる矩形波を用いることが好ましい。
これによれば、非対称交流を発生させるための回路が比較的単純であり、効率よく液体中に実質的に一方向の電界を発生することができる。
【0024】
また、前記非対称交流としては、立ち上り時間と立ち下り時間が異なる三角波またはのこぎり波を用いることが好ましい。
これによれば、非対称交流を発生させるための回路が比較的単純であり、効率よく液体中に実質的に一方向の電界を発生することができる。
【0025】
また、この発明は、物体が浮遊する液体を容器に注入する準備ステップと、第1の電極と第2の電極とを、それぞれ少なくとも一部が前記液体に浸されるように所定の間隔を空けて配置する配置ステップと、前記第1の電極と第2の電極との間に非対称交流を印加し、前記液体中に浮遊する物体に対し、前記第1の電極から第2の電極への移動、または前記第2の電極から第1の電極への移動のうちいずれか一方の移動をさせる移動ステップを含むことを特徴とする浮遊体移動方法を提供するものである。
これによれば、第1の電極と第2の電極との間に非対称な交流を印加するので、液体内に浮遊する物体を一方向に移動することができ、液体が電気分解を起こすことや電気化学反応を起こすことはほとんどなく、電極が腐食することを抑制することができる。
【0026】
ここで、前記の浮遊体移動方法において、前記第1の電極と第2の電極はいずれも液体と直接接触するように配置され、前記非対称交流は、前記第1の電極と第2の電極との間の電圧V(t)(tは時間)を交流の1周期に渡って積分した次式の値
Veff=∫V(t)dt
が実質的に0となり、実質的な直流成分を持たないことを特徴とする。
これによれば、第1の電極と第2の電極との間に正味の直流電流が流れないので、液体の電気分解や電気化学反応が起こりにくくなり、電極が腐食することを確実に防止できる。
【0027】
また、浮遊体移動方法において、前記第1の電極と第2の電極の少なくとも一方が絶縁膜で覆われて液体と直接接触しないことを特徴とする。
これによれば、第1の電極および第2の電極の少なくとも一方が絶縁膜で覆われるので、2つの電極間に直流電流が流れない。したがって、液体が電気分解を起こすことや電気化学反応を起こすことはほとんどなく、電極が腐食することを更に確実に防止できる。
【0028】
また、この発明は、電気泳動によって移動させる試料を含む液体を、泳動槽に注入する準備ステップと、第1の電極と第2の電極とを、それぞれ少なくとも一部が前記液体に浸されるように所定の間隔を空けて配置させる配置ステップと、前記第1の電極と第2の電極との間に非対称交流を印加して、前記試料を液体中の第1の電極と第2の電極との間を泳動させる泳動ステップとを含み、前記第1の電極と第2の電極の少なくとも一方が絶縁膜で覆われて前記液体と直接接触しないことを特徴とする電気泳動方法を提供するものである。
これによれば、第1の電極と第2の電極との間に非対称な交流を印加しているので、試料を電気泳動させることができ、電気泳動を行なう際に、液体が電気分解して気泡が発生することを防止でき、電気化学反応により電極が腐食して液体が汚染することを防止できる。したがって、電気泳動により、試料に対するより精確な解析が可能となる。
【0029】
また、この発明は、電気浸透流ポンプの流路内の上流部と下流部に、第1の電極と第2の電極とをそれぞれ離間して配置し、前記第1の電極と第2の電極との間に非対称交流を印加し、前記流路内に流入された液体を、前記流路内の上流部にある第1の電極から下流部にある第2の電極の方向へ輸送することを特徴とした電気浸透流ポンプの動作方法を提供するものである。
これによれば、第1の電極と第2の電極との間に非対称な交流を印加しているので、流路内の液体を一方向に搬送することができ、液体が電気分解して気泡が生じることを防止でき、電気化学反応により電極が腐食することを防止できる。したがって、気泡を除去するための機構が不要となるので、電気浸透流ポンプの構造を単純化することができ、電気浸透流ポンプの信頼性を高くすることができる。
【0030】
ここで、前記の電気浸透流ポンプの動作方法において、前記第1の電極と第2の電極はいずれも液体と直接接触するように配置され、前記非対称交流は、前記第1の電極と第2の電極との間の電圧V(t)(tは時間)を交流の1周期に渡って積分した次式の値
Veff=∫V(t)dt
が実質的に0となり、実質的な直流成分を持たないことを特徴とする。
これによれば、第1の電極と第2の電極との間に正味の直流電流が流れないので、液体が電気分解して気泡が生じることを防止でき、電気化学反応により電極が腐食することをより確実に防止できる。
【0031】
また、電気浸透流ポンプの動作方法において、前記第1の電極と第2の電極の少なくとも一方が絶縁膜で覆われて液体と直接接触しないことを特徴とする。
これによれば、第1の電極および第2の電極の少なくとも一方が絶縁膜で覆われるので、2つの電極間に直流電流が流れない。したがって、液体が電気分解して気泡が生じることなく、電気化学反応により電極が腐食することも更に確実に防止できる。
【発明の効果】
【0032】
この発明によれば、液体中の一対の電極である第1および第2の電極間に非対称な交流を印加するので、液体中に実質的に一方向の電界を発生させることができ、電極間に直流電流による一方向の電界を印加しつづけることはなく、液体に電気分解および電気化学反応が生じることを抑制でき、電極の腐食を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】対称な交流の波形の一実施例の説明図である。
【図2】この発明の非対称な交流の波形の一実施例の説明図である。
【図3】この発明の非対称な交流の波形の一実施例の説明図である。
【図4】非対称交流であることの判定方法の一実施例の説明図である。
【図5】この発明の電界発生装置の一実施例の概略構成図である。
【図6】この発明の実施の形態2の電界発生装置の概略構成図である。
【図7】この発明の非対称な交流の波形の一実施例の説明図である。
【図8】液体中の電極間に直流電圧を印加した場合の電界発生現象の説明図である。
【図9】この発明の非対称交流のシミュレーションモデルの説明図である。
【図10】この発明の非対称交流のシミュレーションモデルの説明図である。
【図11】この発明の第1のシミュレーションで用いる非対称な矩形波の一実施例の波形図である。
【図12】この発明の第1のシミュレーションで誘起される電荷量のグラフである。
【図13】この発明の第1のシミュレーションで誘起される電荷量のグラフである。
【図14】この発明の第1のシミュレーションにおける液体中の電界の強さのグラフである。
【図15】この発明の第1のシミュレーションにおいて、平均電界と定数nとの関係を示すグラフである。
【図16】この発明の第1のシミュレーションにおいて、液体中の物体の位置の時間変化のグラフである。
【図17】この発明の第2のシミュレーションで用いる非対称な矩形波の一実施例の波形図である。
【図18】この発明の第2のシミュレーションにおいて、液体中の物体の位置の時間変化のグラフである。
【図19】この発明の第3のシミュレーションで用いる対称な矩形波の一実施例の波形図である。
【図20】この発明の第3のシミュレーションにおいて、液体中の物体の位置の時間変化のグラフである。
【図21】この発明の第4のシミュレーションで用いる非対称な三角波の一実施例の波形図である。
【図22】この発明の第4のシミュレーションで誘起される電荷量のグラフである。
【図23】この発明の第4のシミュレーションで誘起される電荷量のグラフである。
【図24】この発明の第4のシミュレーションにおける液体中の電界の強さのグラフである。
【図25】この発明の第4のシミュレーションにおいて、平均電界と定数nとの関係を示すグラフである。
【図26】この発明の第4のシミュレーションにおいて、液体中の物体の位置の時間変化のグラフである。
【図27】この発明の実施の形態3の浮遊体移動装置の概略構成図である。
【図28】この発明の実施の形態4の浮遊体移動装置の概略構成図である。
【図29】この発明の実施の形態5の浮遊体移動装置の概略構成図である。
【図30】この発明の実施の形態6の電気泳動装置の概略構成図である。
【図31】この発明の実施の形態7の電気泳動表示装置の概略構成図である。
【図32】この発明の実施の形態8の電気浸透流ポンプの概略構成図である。
【図33】この発明の実施の形態9の電気浸透流ポンプの概略構成図である。
【図34】この発明の実施の形態10の電気浸透流ポンプの概略構成図である。
【図35】この発明の実施の形態11の燃料電池の概略構成図である。
【図36】この発明の実施の形態12の冷却ポンプの概略構成図である。
【図37】この発明の実施の形態13の薬液供給装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
<用語の定義>
まず、この発明で用いる「非対称交流」の定義を、図1〜図4を用いて説明する。
図1は、非対称でない、すなわち対称な交流の波形を例示したものである。図2および図3は、非対称な交流の波形を例示したものである。図4は、非対称であるか否かを判定する具体的な方法を説明する図である。
【0035】
図1は、非対称でない、すなわち対称な交流の波形(電圧Vと時間tの関係を示すグラフ)を4つ例示している。
図1(a)は、対称な正弦波である。グラフ上で111は電圧が最小値をとる点であり、112は電圧が最大値をとる点であり、113は再び電圧が最小値をとる点である。波形の一部分114(111から112の区間)は昇圧過程であり、波形の他の一部分115(112から113の区間)は降圧過程である。点111から点113までは交流の1周期となっている。
【0036】
ここで、図1(a)の正弦波を対称と判断する基準を図4(a)および(b)で説明する。
図4(a)は図1(a)を再掲したものである。図4(b)では、図4(a)の波形の昇圧過程114を抜き出して、電圧軸を反転している(114r)。当然、この114rは、波形の降圧過程115と正確に重なる。すなわち、昇圧過程と降圧過程とが完全に重なる交流を、非対称でない交流あるいは対称交流と呼ぶ。
【0037】
図1(b)は対称な矩形波である。この場合、電圧が最小となる点は1つではなく、121aとしても121cとしてもよく、あるいはそれら2点の間である121bとしてもよい。同様に、電圧が最大となる点も1つではなく、122aとしても122cとしてもよく、あるいはそれら2点の間である122bとしてもよい。
しかしながら、前述のように非対称か否かの判定を行なうためには、波形の昇圧過程124と降圧過程125の範囲を確定する必要がある。今後は、電圧が最小(最大)となる点が複数ある場合は、その最終の点を採用することとする。すなわち、昇圧過程124は121aと122aの間、降圧過程は122aと123aの間であるとする。昇圧過程124(121aから122aの区間)と降圧過程125(122aから123aの区間)は、電圧軸を反転することにより完全に重なるから、明らかに図1(b)の矩形波の交流も対称である。
【0038】
図1(c)は対称な三角波である。昇圧過程134(131から132の区間)と降圧過程135(132から133の区間)は、電圧軸を反転することにより完全に重なる。図1(d)の波形は複雑であるが、やはり対称な交流である。昇圧過程144(141から142の区間)と降圧過程145(142から143の区間)は、電圧軸を反転することにより完全に重なるからである。
【0039】
一方、図2は、非対称な交流の波形を4つ例示している。
図2(a)は、波形が正弦的に変化するが、非対称な交流である。なぜならば、図4(c)および(d)に示すように、昇圧過程214(211から212の区間)を電圧軸で反転しても(214r)、降圧過程215(212から213の区間)とは重ならないからである。
図2(b)は、高電位にある時間(高電位持続時間)と低電位にある時間(低電位持続時間)が異なる、非対称な矩形波である。昇圧過程224(221から222の区間)を電圧軸で反転しても、降圧過程225(222から223の区間)とは重ならないからである。
【0040】
図2(c)は、非対称な三角波である。昇圧過程234(231から232の区間)を電圧軸で反転しても、降圧過程235(232から233の区間)とは重ならないからである。非対称な三角波は、立ち上がり時間と立ち下がり時間が異なる三角波である。
図2(d)の波形は複雑であるが、やはり非対称な交流である。昇圧過程244(241から242の区間)を電圧軸で反転しても、降圧過程245(242から243の区間)とは重ならないからである。
この他にも、図示しないが、非対称な交流としては、立ち上がり時間と立ち下がり時間が異なるのこぎり波を用いてもよい。
【0041】
図3は、周期または振幅が時間と共に変化する、非対称な交流の例である。
図3(a)は、時間と共に周期が増加する。昇圧過程314(311から312の区間)を電圧軸で反転しても、降圧過程315(312から313の区間)とは重ならないから、非対称な交流である。
図3(b)は、時間と共に振幅が増加する。昇圧過程324(321から322の区間)を電圧軸で反転しても、降圧過程325(322から323の区間)とは重ならないから、非対称な交流である。
【0042】
以上をまとめると、図2と図3に例示したように、非対称な交流とは、交流の昇圧過程と降圧過程とが、その一方の電圧軸を反転しても重なることのない交流と定義し、非対称交流とも呼ぶ。
以下、非対称な交流を用いて液体中に実質的に一方向に電界を発生させる装置および方法について、具体例を用いて説明する。
【0043】
<実施の形態1>
本発明の第1の実施の形態である、液体中に一方向の電界を発生させる電界発生装置および電界発生方法を、図5を用いて説明する。
図5に、液体中に一方向の電界を発生させる装置(電界発生装置)1100の概略断面図を示す。
容器1111は、液体1112で満たされている。第1の電極1113と第2の電極1114は、その少なくとも一部が液体1112に浸されている。第1の電極1113と第2の電極1114には、非対称な交流を発生する交流電源1115(交流発生器とも呼ぶ)が接続されている。
【0044】
ここで、容器1111は、液体1112を保持できるものであればよい。
液体1112は、効果よく一方向電界を発生するために、イオン濃度が小さなものが好ましい。例えば、エタノール、メタノール、IPA(Isopropyl Alcohol)などのアルコール類、ベンジン、アセトンなどの有機溶媒などが好ましい。水を用いる場合は、純水、無イオン水などを用いるのが好ましい。
【0045】
第1の電極1113および第2の電極1114は、十分な導電性を有していればよい。
なお、第1の電極1113と第2の電極1114は、互いに対向するように配置することにより、2つの電極間の電界の向きと強さを均一にすることができる。したがって、後述する実施例で示されるように、液体中の帯電した物体を一方向に移動させ、または、電気泳動を行う際には、物体や電気泳動の対象物を正確にコントロールすることができる。
また、電極材料としては、たとえば、銅、金、タングステン、アルミニウムなどの金属や導電性を与える不純物を添加したシリコンなどの半導体を用いることができる。
【0046】
電極の形状は、たとえば平板状とし、電極のサイズ,面積は5cm×5cm程度とする。1対の電極は所定の距離だけ離して対向配置させ、その電極間の距離はたとえば10cm程度とする。ただし、電極の形状や配置はこれに限るものではなく、網状、リング状、塊状の形状の電極を、電界を発生させたい領域を挟むように配置してもよい。また、電極間の距離は、電界を発生させたい領域の大きさに応じて決めればよく、数μm〜数十cmとする場合もある。
【0047】
交流電源1115で発生させて、第1の電極1113と第2の電極1114に印加する非対称交流は、例えば、図2や図3に示したものを用いることができる。図2および図3における交流電圧値Vを、第2の電極1114を基準電圧として、第1の電極1113に加える電圧とする。このとき、例えば図2に示す非対称交流を印加したとき、液体1112内に実質的に発生する電界の向きは右向き(図5の矢印1117の向き)となる。
【0048】
非対称交流の好ましい周波数は、液体の種類によって異なる。一般的に、液体はイオンを含み、液体中のイオン濃度が高いほど、電極の電位変化に対応して液体中に発生した電界が速やかに消失する。非対称交流の電圧変化(周波数に比例)が、液体中に発生した電界が消失する時間より長い場合には、液体中にほとんど電界を発生させることができない。そのため、イオン濃度が低い液体では周波数を低く、イオン濃度が高い液体では周波数を高くする。
例として、液体としてIPAを用いた場合は、好ましくは5Hz〜50kHzであり、液体として純水を用いた場合は500Hz〜5MHzである。しかしながら、液体の汚染によりイオン濃度が高い場合には、周波数を高くする必要がある。
【0049】
液体1112のイオン濃度が高い場合、第1の電極1113および第2の電極1114に非対称交流を印加した際に、液体1112中に一方向に電界が発生するのを阻害する効果がより強くなる。
これは、第1の電極1113および第2の電極1114の表面付近にも多くのイオンが存在するため、第1の電極1113および第2の電極1114の電位の変化に対して、第1の電極1113および第2の電極1114の表面付近の電荷数の変化が速やかに追従するからである。
したがって、液体1112のイオン濃度が高い場合、非対称交流の周波数を高くする必要が生じる。液体1112のイオン濃度が高い場合の液体1112のイオンの挙動は、後ほどシミュレーション結果の最後でも説明する。
【0050】
非対称交流の好ましい電圧は、必要な電界の強さにより適宜決定する。例えば、電極間の距離が1cmのときは、1V以上500V以下の電圧を用いることができる。
このように、非対称な交流を第1の電極1113と第2の電極1114に印加することによって、液体1112内に実質的に一方向に電界が発生する。その理由は、後述するシミュレーション結果を元に、説明する。
【0051】
ところで、液体が電気分解し、または電気化学反応により電極が腐食するといった問題は、専ら電極間を流れる直流電流成分で決定され、交流では、ほとんど問題とならない。
電気化学反応(電食)においては、直流電流が流れる場合は、陽極では酸化反応が起こって腐食が進行するが、陰極では還元反応が起こって腐食は起こらない。
【0052】
一方、交流電流が流れる場合は、それぞれ同じ程度の酸化反応と還元反応が交互に起こるため、2つの電極ともほとんど腐食が起こらない。電気分解も同様である。
実際は、反応生成物質が拡散により移動するため、低周波数では酸化反応と還元反応が完全に相殺するとは限らないが、一般的には交流での電気化学反応や電気分解は直流の場合よりも遥かに小さい。
それゆえ、交流により液体中に一方向に電界が発生できるということは、電気化学反応や電気分解をほとんど起こさずに液体中に一方向に電界を発生できることを意味する。
【0053】
このように、直流電流を流す場合は、陽極の腐食が起こるのに対して、交流電流を流す場合は、電気化学反応や電気分解は起こりにくいので、電極の腐食はほとんど起こらない。
また、交流の場合、対称交流と非対称交流のいずれの場合も、酸化反応と還元反応が交互に起こるので、電極の腐食はほとんど起こらない。
【0054】
液体1112中に、実質的に一方向に電界を発生させるステップは、主として、以下のステップからなる。
(1)容器1111に、液体1112を注入する準備ステップ、
(2)第1の電極1113と第2の電極1114を、それぞれ少なくとも一部が液体1112に浸されるように、所定の間隔を空けて配置する配置ステップ、
(3)第1の電極1113と第2の電極1114との間に非対称交流を印加し、液体1112中に実質的に第1の電極1113から第2の電極1114へ向かう電界、または第2の電極1114から第1の電極1113へ向かう電界のいずれか一方の電界を発生させる電界発生ステップ。
【0055】
上述のような方法または装置を用い、2つの電極1113、1114間に非対称な交流を印加することにより、液体1112内に実質的に一方向の電界を発生することができる。
また、非対称交流では、瞬間的に電界の方向が交互に反転するが、上記したように、昇圧と降圧の過程が重ならないので、実質的に一方向の電界となる。実質的に一方向とは、液体中に発生した電界ベクトルを非対称交流の1周期分、整数周期分または十分に長い時間積分したときに、電界ベクトルが0にならずに有限の大きさで一方向を向くということを意味する。したがって、電界ベクトルの向きが常に一方向を向いているということを意味するものではない。実際、非対称交流が印加された場合は、電界ベクトルの向きは非対称交流の周期で反転している。
【0056】
このように実質的に一方向の電界を発生した場合、上記したように酸化と還元が交互に起こるので、液体が電気分解されることはほとんどなく、また、電気化学反応もほとんど生じない。ただし、対称交流を印加した場合は、同様に電極の腐食は起こりにくいが、一方向の電界を発生させることはできない。
したがって、非対称交流を印加した場合は、直流電流と同様に、液体内に一方向の電界を発生させることができ、対称交流と同様に、液体が電気分解し、または電気化学反応により電極が腐食するのを抑えることができる。
【0057】
本実施の形態では、第1の電極1113と第2の電極1114はいずれも液体1112と直接触れているため、もし2つの電極間に直流を印加すると直流電流が流れる。それゆえ、非対称交流が実質的な直流成分を持たないこと、すなわち上記第1の電極と第2の電極との間の電圧V(t)を交流の1周期に渡って積分したVeffが実質的に0であることが好ましい。なぜならば、このようにすることにより2つの電極間に正味の直流電流が流れないので、液体が電気分解し、または電気化学反応により電極が腐食するといった問題をより確実に回避できるからである。
【0058】
非対称交流として好ましい例は、図2(b)に示すような非対称な矩形波(高電位持続時間と低電位持続時間が異なる矩形波)である。このような矩形波は、発生させるための回路が比較的単純であり、効率よく液体中に実質的に一方向の電界を発生できるからである。なお、図2(b)の例では高電位持続時間が短く低電位持続時間が長いが、高電位持続時間を長く低電位持続時間を短くした場合は、液体中に発生する実質的に一方向の電界の向きを反対にすることができる。
【0059】
非対称交流としては、図2(c)に示すような非対称な三角波(立ち上り時間と立ち下り時間が異なる三角波またはのこぎり波)を用いてもよい。このような三角波も、同様に発生させるための回路が比較的単純であり、効率よく液体中に実質的に一方向の電界を発生しうる。なお、この例では立ち上り時間が短く立ち下り時間が長いが、立ち上り時間が長く立下り立ち下り時間を短くすると、液体中に発生する実質的に一方向の電界の向きを反対にすることができる。
図2(b)や図2(c)の波形が好ましい理由は、後述するシミュレーション結果の解釈と共に詳しく述べる。
【0060】
<実施の形態2>
本発明の第2の実施の形態である、液体中の一方向に電界を発生させる電界発生装置および電界発生方法を、図6を用いて説明する。
本実施の形態が、実施の形態1と異なるのは、第1の電極と第2の電極の少なくとも一方が絶縁膜で覆われることである。
【0061】
図6は、本実施の形態の液体中の一方向に電界を発生させる装置1200の概略断面図である。
容器1211は、液体1212で満たされている。第1の電極1213と第2の電極1214は、その少なくとも一部が液体1212に浸されている。第1の電極1213と第2の電極1214は絶縁膜1216で覆われており、非対称な交流を発生する交流電源1215が接続されている。
【0062】
ここで、容器1211は、液体1212を保持できるものであればよい。液体1212は、イオン濃度が小さなものが好ましい。例えば、エタノール、メタノール、IPAなどのアルコール類、ベンジン、アセトンなどの有機溶媒などが好ましい。水を用いる場合は、純水、無イオン水などを用いるのが好ましい。第1の電極1213および第2の電極1214は、十分な導電性を有していればよい。
また、この場合も、実施の形態1と同様に、2つの電極間の電界の向きと強さを均一にするために、第1の電極1213と第2の電極1214は、互いに対向するように配置することが好ましい。これにより、液体中の帯電した物体の一方向への移動や、電気泳動の対象物の移動を、正確にコントロールすることができるようになる。
【0063】
絶縁膜1216は、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、樹脂薄膜などを用いることができる。
また絶縁膜1216は、電極全体を覆うように形成し、たとえば電極が銅、金、タングステン、アルミニウムなどの金属や導電性を与える不純物を添加したシリコンなどの半導体材料で形成されている場合、10nm〜2μm程度の膜厚のシリコン酸化膜を形成すればよい。絶縁膜は、公知の従来技術、たとえば、CVD(Chemical Vapor Deposition)法によって形成すればよい。
【0064】
交流電源1215で発生させて、第1の電極1213と第2の電極1214に印加する非対称交流は、例えば、図2や図3に示したものを用いることができる。図2および図3におけるVを、第2の電極1214を基準電圧として、第1の電極1213に加える電圧とする。このとき、例えば図2に示す非対称交流を印加したとき、液体1212内に実質的に発生する電界の向きは右向き(図6の矢印1217の向き)となる。
【0065】
また、非対称交流は、例えば、図7に示した波形の交流を用いてもよい。図7(a)、(b)、(c)および(d)に示す波形は、図2(a)、(b)、(c)および(d)に示す波形に、それぞれ直流成分Vsa、Vsb、VscおよびVsdを加えたものである。
図2に示す波形は、交流の一周期にわたって電圧を平均したものが0となるが、図7に示す波形では0にならない。しかしながら、第1の電極1213および第2の電極1214は絶縁膜1216で覆われているため、2つの電極間に直流電流は流れない。したがって、図7に示すような波形であっても特に悪影響なく、液体1212中に、実質的に一方向の電界を発生することができる。
【0066】
図6に示す本実施の形態では、第1の電極1213および第2の電極1214は共に絶縁膜1216で覆われているが、どちらか一方の電極が絶縁膜1216で覆われていれば良い。この場合でも、2つの電極間に直流電流が流れることを防ぐことができるからである。
【0067】
非対称交流の好ましい周波数および電圧は、実施の形態1と同様に設定すればよい。
実施の形態2では、第1の電極および第2の電極の少なくとも一方が絶縁膜で覆われるため、2つの電極間に直流電流が流れない。すなわち、電極と液体間で直接電子の移動が起こるので、酸化反応や還元反応が起こることがない。
したがって、液体が電気分解し、または電気化学反応により電極が腐食するといった問題を確実に防ぐことができる。
【0068】
また、第1の電極および第2の電極の少なくとも一方が絶縁膜で覆われるため、第1の電極から第2の電極へ直接電子が到達して電流が流れることがない。そのため、この系で消費される電力は、電極を覆う絶縁膜が構成するキャパシタンスの充放電によるもののみである。したがって、消費電力を著しく小さくし、ジュール熱の発生も著しく減らすことが可能となる。
この実施の形態2の場合も、図2(b)や図2(c)の波形が好ましい。
【0069】
<シミュレーション>
以下、このような非対称交流を液体中の2つの電極に印加した場合に、液体中に発生する電界、および帯電した物体の運動をシミュレーションした結果を述べる。
(1)シミュレーションモデル
非対称交流を液体中に浸した2つの電極に印加した場合に発生する電界および、帯電した物体の運動のシミュレーション結果を、図8〜図26を用いて説明する。
【0070】
図8は、液体中に浸した2つの電極に、時間T=0より一定の直流電圧を印加した場合に起こる現象を説明する図である。
第1の電極1213と第2の電極1214の間には、液体1212が満たされているものとする。第1の電極1213および第2の電極1214はそれぞれ絶縁膜1216で覆われているものとする。この場合、2つの電極間には電流は流れない。第1の電極1213と第2の電極1214には、電源1215が接続されている。
T=0で、電源1215から第1の電極1213および第2の電極1214に電圧を印加し始めると、図8(a)に示すように、液体1212中には、矢印1217で示した向きに電界が発生する。
【0071】
液体中には、液体の種類に依存する濃度の正イオンと負イオンが存在する。そのため、電圧印加開始から時間T1が経過した後、図8(b)に示すように、第1および第2の電極を覆う絶縁膜1216上には、それぞれの電極に誘起された電荷と反対符号の電荷が集まり始める。絶縁膜1216上に誘起された電荷は、それぞれの電極に誘起された電荷から発生する電気力線を終端するため、液体1212中の電界の強さは時間が経るにつれて次第に弱くなる。
【0072】
電圧印加開始から十分な時間T2が経過した後は、図8(c)に示すように、それぞれの電極に誘起された電荷から発生する電気力線は、絶縁膜1216上に誘起された電荷によって完全に終端されるため、液体1212中の電界の強さは0になる。
液体中の電界がほぼ0になるまでに要する時間(時定数)は、液体中に存在するイオンの濃度に依存し、イオン濃度が小さいほど長時間を要する。例えば、IPAでは10秒以内であり、純水では0.1秒以内である。塩類が溶解した水では、更に短くなる。
【0073】
このように、液体中には可動イオンが存在して電極の絶縁膜上に集まることができるために、従来は、液体中に浸された電極に電圧を印加しても、溶液中には一方向の電界を持続して発生させることは困難とされていた。
また、絶縁膜で覆われない裸の電極を用いて直流電圧を印加すれば、液体中に一方向の電界を持続して発生させることができるが、一方向電界が持続すると、液体が電気分解し、または電気化学反応により電極が腐食するといった問題があった。
なお、絶縁膜で覆われた2つの電極間に交流電圧を印加すれば、液体中に交流電界を発生させることは可能である。2つの電極間に交流を印加した場合は、その周波数の逆数が上記時定数より小さい時、電極の電位の変化に対して電極に誘起される電荷が追従できないため、液体中に電界が侵入する。しかしながら、液体中の電界の時間平均は0であり、液体中で一方向の電界を発生させることはできないとされていた。
【0074】
図9および図10に、シミュレーションのモデルの説明図を示す。
図9に示すように、第1の電極1313および第2の電極1314は、それぞれ絶縁膜1316で覆われている。絶縁膜1316で覆われた2つの電極1313、1314間は、液体1312で満たされている。第1の電極1313および第2の電極1314には、任意の波形が発生できる電源1315が接続されている。液体1312中には、帯電した物体1318が浮遊している。このようなモデルを用いて、以下のようなシミュレーションを考える。
【0075】
第2の電極1314には接地電位(GND)を印加し、第1の電極1313には時間tに電圧V(t)を印加する。もともと系が帯電していない場合、第1の電極1313表面に誘起される電荷量をqe(t)とし、第1の電極1313を覆う絶縁膜1316上に誘起される電荷量をqs(t)とすると、第2の電極1314上に誘起される電荷量は−qe(t)、第2の電極1314を覆う絶縁膜1316上に誘起される電荷量は−qs(t)となる。
絶縁膜1316の誘電率はεdεo、液体1312の誘電率はεsεoとする。ここで、εdおよびεsはそれぞれ絶縁膜1316および液体1312の比誘電率、εoは真空中の誘電率である。また、液体中の電界の強さをE(t)とする。
【0076】
第1の電極1313上の絶縁膜1316の両端の容量をCd1、第2の電極1314上の絶縁膜1316の両端の容量をCd2、液体1312の両端の容量をCsとすると、
【数1】

である。
ただし、dd1、dd2およびdsは、それぞれ第1の電極1313を覆う絶縁膜1316の厚さ、第2の電極1314を覆う絶縁膜1316の厚さ、および液体1312の厚さである。電極の面積は1とした。
【0077】
このとき、Cd1、CsおよびCd2の3つの容量を直列に接続したモデル全体の容量CAは、
【数2】

であらわされる。
一方、液体1312を導電体と考えて、Cd1とCd2の2つの容量を直列に接続した場合の全体容量CBは、
【数3】

であらわされる。
【0078】
ここで、電源1315が任意の波形を発生した場合のシミュレーションの指針を、図10を用いて述べる。
まず、波形を短い時間Δtごとに分割して考える。この時間Δtごとに、瞬時に電圧を変化させる電圧変化ステップと、電圧を変化させない電圧一定ステップの2段階を考えることにより、任意の波形を階段状のステップで近似する。
【0079】
(a)電圧変化ステップ
この電圧変化ステップでは、瞬時に電圧がΔV(t)変化するものとする。このとき、電圧の変化により液体中のイオンが追従して移動することはできない。すなわち、qs(t)および−qs(t)は変化しない。ただし、電極の電荷は液体中のイオンに比べて十分に早く動けるため、qe(t)および−qe(t)は電圧変化ΔV(t)にただちに追従して変化することとする。このとき、2つの電極間の容量は、CAであるかのように振舞う。
以上のことより、電圧変化ステップでは以下の式が成立する。
Δqe(t)=CAΔV(t) (6)
Δqs(t)=0 (7)
ここで、Δqe(t)およびΔqs(t)は、時刻tにおける電圧変化ΔV(t)によって、それぞれqe(t)およびqs(t)が変化する量をあらわしている。
【0080】
(b)電圧一定ステップ
この電圧変化ステップでは、電圧が変化することなく時間Δtが経過するものとする。電圧が変化しない場合は、図8で説明したように、液体中の電界を弱めるように、すなわち平衡状態に近づくように液体中のイオンが移動し、qs(t)が変化する。平衡状態とは、液体中の電界が0の状態であり、液体は導電体とみなしてよい。ゆえに、2つの電極間の容量はCBとみなすことができる。また、qs(t)が変化することにより、Δqe(t)も変化する。
【0081】
以上のことから、qs(t)の変化は次式であらわすことができる。
【数4】

【0082】
ここで、qeq(t)は時間tにおける、qs(t)の平衡状態の値であって、
eq(t)=CBV(t) (9)
の関係を満たす。
【0083】
nは、qs(t)の変化率と、qs(t)の平衡状態とのずれ{qs(t)−qeq(t)}との関係を規定する量である。n=1の場合は、qs(t)の変化率はqs(t)の平衡状態とのずれが大きいほど大きくなり、かつ、変化率が平衡状態とのずれに比例する(線形関係にある)。
一方、0<n<1の場合は、変化率が平衡状態とのずれに依存する(すなわち、平衡状態のずれが大きいほど変化率が大きくなる)ものの、変化率は平衡状態とのずれに比例しない(線形関係にない)。aは、qs(t)がqeq(t)に近付く速さを示す量である。
液体中のイオン濃度が高いほど速やかにqs(t)が変化できるから、aが大きくなる。
【0084】
一方、qe(t)の変化率は、qs(t)の変化率から、以下のように求めることができる。まず、時間において、2つの電極間に印加される電圧V(t)は、Cd1、CsおよびCd2の両端に印加される電圧の和として、
【数5】

としてあらわされる。
【0085】
両辺の変化率をとると、
【数6】

となる。
【0086】
一方、電圧一定ステップでは、
【数7】

であるから、(11)式と(12)式から、
【数8】

となり、qe(t)の変化率とqs(t)の変化率の関係を得ることができる。
【0087】
時刻tにおける、液体中の電界の強さE(t)は、
【数9】

とあらわされる。
【0088】
(c)液体中での帯電した物体の運動
液体中の帯電した物体が受ける力F(t)は、物体が持つ実質的な電荷量をqob、粘性抵抗係数をc、物体の速度をν(t)、物体の質量をm、物体の加速度をa(t)とすると、
F(t)=qobE(t)−cν(t)=ma(t) (15)
であり、この運動方程式を解くことにより、液体中での物体の運動を記述することができる。
なお、粘度ηの液体中にある、半径rの球状物体を考えると、レイノルズ数が小さなときは、ストークスの定理により粘性抵抗係数cは6πηrとあらわされる。
【0089】
(2)シミュレーション結果
以下、いくつかの交流波形を例にとって、シミュレーションの結果を説明する。
このシミュレーションで用いた定数は、以下の通りである。
物体の質量mは1.57×10-14[kg]、物体の半径rは1×10-7[m]、物体の実質的な電荷量qobは3.72×10-14[C]、液体の粘度は8×10-4[Ps]、電極上の絶縁膜の比誘電率εdは4、電極上の絶縁膜の厚さdd1およびdd2は4×10-8[m]、液体の比誘電率εsは20、液体の厚さdsは1×10-2[m]、定数aは10である。
また、特に断わりのない場合は、定数nは0.8であり、qs(t)の変化率と、qs(t)の平衡状態とのずれ{qs(t)−qeq(t)}との関係は非線形であるとした。
【0090】
[第1実施例の結果]
第1実施例では、図11に示すように、振幅200Vで周波数5Hzの非対称な矩形波(高電位持続時間と低電位持続時間が異なる矩形波)を、第1の電極1313と第2の電極1314との間に印加する。V(t)は第2の電極1314を基準とした第1の電極の電位である。時刻0以前は、電圧は印加されていないこととする。
【0091】
このとき、qs(t)およびqe(t)は、それぞれ図12および図13のように変化する。電圧の印加を開始した時刻0付近を除いて、それぞれ周期的に変化する。液体中の電界の強さE(t)は、図14のように、電圧の印加を開始した時刻0付近を除いて周期的に変化する。
【0092】
ここで、図15に、電圧印加開始から十分時間が経過して定常状態となったときの平均電界Eavと、非線形性をあらわす定数nとの関係を示す。
平均電界Eavは、電圧印加開始から十分時間が経過したとき、交流の1周期に渡って電界E(t)を平均して求めた。平均電界Eavが0でないということは、液体中に実質的に一方向の電界が存在することを示している。
【0093】
非線形性をあらわす定数nが1のとき(非線形性が存在しない)は、Eavは0であり、液体中には純粋に交流電界が存在するのみである。
一方、nが1より小さくなるにつれて、すなわち非線形性が強くなるにつれて、Eavは大きくなり、液体中の実質的に一方向の電界が強くなる。このことは、本発明の本質である、液体中での実質的に一方向の電界発生は、qs(t)の変化率と、qs(t)の平衡状態とのずれ{qs(t)−qeq(t)}と間の非線形性にあることを示唆している。なお、Eavが正とは、図10において実質的に一方向の電界は下向きであることを示している。
【0094】
図16に、液体中に置かれた帯電した物体の位置x(t)(図10における上下方向)の時間変化を示す。
物体は、時刻0で負方向(図10における上方向)に動いた後、振動しながら正方向(図10における下方向)に動いていく。これは、電界E(t)の時間平均Eavが正であることによる。このことから、2つの電極間に非対称交流を印加することにより、帯電した物体を一方向に移動させることがわかる。
【0095】
以上のことから明らかなように、電極が絶縁膜で覆われており、液体中を電流が流れない場合であっても、電極間に非対称交流を印加することにより、液体中の一方向に実質的な電界を発生させ、物体を移動させることが可能となる。
非対称な矩形波により、液体中の物体が一方向に動くことは実験でも確かめられ、その方向はシミュレーションが予測する方向と一致した。
【0096】
[第2実施例の結果]
第2実施例では、図17に示すように、振幅200Vで周波数5Hzの非対称な矩形波(高電位持続時間と低電位持続時間が異なる矩形波)を、第1の電極1313と第2の電極1314との間に印加する。第1の場合と異なるのは、図17のV(t)を一周期に渡って平均すると0になるように、図11に示す波形に直流バイアスを加えていることである。
【0097】
図18に、液体中に置かれた帯電した物体の位置x(t)の時間変化を示す。
電圧印加直後の挙動は第1の例の場合(図16)と異なるものの、やはり物体は振動しながら正方向に動いていく。また、正方向に動いていく速度は、第1の例の場合と全く同じである。
このことは、電極が絶縁膜で覆われている場合は、非対称交流に対して直流成分を加えても、液体内部に発生する電界や液体内部に浮遊する帯電した物体の運動には影響を与えないことを示している。このことは、実際の実験でも確認された。
【0098】
[第3実施例の結果]
この第3実施例は、対称な交流を印加するものであり、第1および第2実施例と比較するために示した実施例である。
第3実施例では、図19に示すように、振幅200Vで周波数5Hzの対称な矩形波を、第1の電極1313と第2の電極1314との間に印加する。
図20に、液体中に置かれた帯電した物体の位置x(t)の時間変化を示す。
物体は振動するが、一方向に動いていくことはない。すなわち、対称な交流では、液体中の一方向に実質的な電界を発生させることはできず、また、物体を実質的に移動させることもできない。
【0099】
[第4実施例の結果]
第4実施例は、図21に示すように、振幅200Vで周波数5Hzの非対称な三角波(立ち上り時間と立ち下り時間が異なる三角波またはのこぎり波)である。
この例では、昇圧過程では急激に電圧が変化し、降圧過程では緩やかに電圧が変化する。
このとき、qs(t)およびqe(t)は、それぞれ図22および図23のように変化する。電圧の印加を開始した時刻0付近を除いて、それぞれ周期的に変化する。液体中の電界の強さE(t)は、図24のように、電圧の印加を開始した時刻0付近を除いて周期的に変化する。
【0100】
ここで、電圧印加開始から十分時間が経過して定常状態となったときの平均電界Eavと、非線形性をあらわす定数nとの関係を、図25に示す。
非線形性をあらわす定数nが1のとき(非線形性が存在しない)は、Eavは0であり、液体中には純粋に交流電界が存在するのみである。
一方、nが1より小さくなるにつれて、すなわち、非線形性が強くなるにつれて、Eavは大きくなり、液体中の実質的に一方向の電界が強くなる。このことは、第1の例の場合(図15)と同様であるが、グラフの曲線の形は異なる。
【0101】
図26に、液体中に置かれた帯電した物体の位置x(t)の時間変化を示す。
物体は、振動しながら正方向に動いていく。これは、電界E(t)の時間平均Eavが正であることによる。
なお、図21の波形を変形し、昇圧過程では緩やかに電圧が変化し、降圧過程では急激に電圧が変化するような非対称交流を印加した場合は、物体の運動方向は反対方向となることが、シミュレーションから予想されるが、実際の実験でも確かめられている。
【0102】
以上まとめると、シミュレーション結果によって、次のことが予想できる。
(1)2つの電極に非対称交流を印加すると、液体中に実質的に一方向の電界を発生させることができるが、対称な交流ではできない。
(2)2つの電極に非対称交流を印加すると、液体中に浮遊する帯電した物体を一方向に移動させることができるが、対称な交流ではできない。
(3)これらの効果は、電極上の絶縁膜上の電荷誘起速度が、平衡状態からのずれの大きさに比例していないことに由来する。
【0103】
このシミュレーションモデルとシミュレーション結果によると、非対称な交流が液体中に実質的に一方向の電界を発生させる理由は、以下のように解釈できる。
非対称な交流とは、既に定義したように、交流の昇圧過程と降圧過程とが、その一方の電圧軸を反転しても、重なることのない交流である。
このような非対称な交流が電極に印加されると、昇圧過程と降圧過程とで、qs(t)の平衡状態とのずれ{qs(t)−qeq (t)}が異なる。このシミュレーションのモデルでは、qs(t)の変化率と、{qs(t)−qeq (t)}との間に非線形性を導入した。そのため、qs(t)の変化率と(13)式および(14)式で結びつくE(t)を、交流1周期に渡って平均しても0でなくなり、液体中に実質的に一方向の電界が発生するのである。
【0104】
また、以上のことから、好ましい非対称な交流は、昇圧過程または降圧過程において電圧が急激に変化する交流であることがわかる。電圧が急激に変化した瞬間に、{qs(t)−qeq (t)}が大きくなり、qs(t)の変化率と、{qs(t)−qeq (t)}との間の非線形性が大きくなるからである。このことから、図2(b)や図2(c)のような、非対称な矩形波や三角波が好ましく、実験でも効果が大きいことが確かめられている。
【0105】
なお、電極上に絶縁膜がない場合であっても、非対称交流を2つの電極間に印加することによって、液体中に実質的に一方向の電界を発生させ、また、帯電した物体を一方向に移動させることが可能となる。
しかしながら、この場合は、電極の腐食を抑制するために、非対称交流が実質的な直流成分を持たないことが好ましい。すなわち上記第1の電極と第2の電極との間の電圧V(t)を交流の1周期に渡って積分したVeff
eff=∫V(t)dt=0 (16)
であることが好ましい。
このように積分値を0にすることにより、2つの電極間に正味の直流電流が流れないので、液体が電気分解することも、電気化学反応が生じることもほとんどない。したがって、電極が腐食することを抑制できる。
【0106】
ところで、qs(t)が平衡状態に達する時間(aの逆数に比例する時定数)が、非対称交流の周波数の逆数よりも短い場合は、電界が液体中に侵入できないため、一方向の電界も発生しない。また、qs(t)が変化するためには液体中に散在するイオンが液体中を移動して電極上に集まる必要があるため、上記時定数は、液体のイオン濃度が高いほど短くなる。
そのため、液体中のイオン濃度が高い場合は、電界を液体中に侵入させて一方向の電界を発生させるために、より電極の電位を速く変化させる必要があるので非対称交流の周波数を高くする必要がある。
一方、液体中のイオン濃度が低い場合は、上記時定数が大きく容易にqs(t)を平衡状態から大きく遠ざける(すなわち{qs(t)−qeq (t)}を大きくする)ことができるため、一方向の電界が発生しやすい。
以上の理由により、液体中のイオン濃度が低いほど効率よく液体中に一方向の電界を発生することが可能であり、また、非対称交流の周波数を下げることができるので好ましい。
【0107】
<実施の形態3>
本発明の第3の実施の形態である、液体中に浮遊する物体を移動させる浮遊体移動装置および浮遊体移動方法を、図27を用いて説明する。
図27に、本実施の形態の液体中に浮遊する物体を移動させる装置2100の概略断面図を示す。
容器2111は、液体2112で満たされている。第1の電極2113と第2の電極2114は、その少なくとも一部が液体2112に浸されている。第1の電極2113と第2の電極2114には、非対称な交流を発生する交流電源2115が接続されている。
【0108】
ここで、容器2111は、実施の形態1と同様に、液体2112を保持できるものであればよい。液体2112は、実施の形態1と同様に、イオン濃度が小さなものが好ましい。
第1の電極2113と第2の電極2114に印加する非対称交流も、同様に、図2や図3に示したものを用いればよい。例えば、第2の電極2114を基準電圧として、図2に示す非対称交流を印加したとき、液体2112内に実質的に発生する電界の向きは、右向き(図27の矢印2117の向き)となる。
したがって、液体中に浮遊する物体2118が負に帯電している場合は、図27に示すように、左向き(図27の矢印2119の向き)に移動する。物体2118が正に帯電している場合は、反対向き(右向き)に移動する。
【0109】
非対称交流の好ましい周波数および電圧は、実施の形態1と同様に設定すればよい。
液体中に浮遊する物体2118は、実質的に帯電していれば良い。
実質的に帯電しているとは、物体に発生する電荷を、物体2118と液体2112の界面に誘起された電荷と、その電荷により物体付近の液体中に誘起され、固体と共に移動する電荷の総和とすることができることを意味する。言いかえれば、液体中のゼータポテンシャルが0でないと言うこともできる。
実質的に帯電していない物体を用いる場合は、非イオン系の界面活性剤を用いて物体のゼータポテンシャルを変えることができる。
物体の具体例は、例えば、ナノメートルサイズから1mm以下のサイズの、誘電体微粒子、半導体微粒子、金属微粒子、微細な半導体デバイス、細胞、DNA、RNA、蛋白質などである。
【0110】
このように、非対称な交流を第1の電極2113と第2の電極2114に印加することによって、液体2112内に実質的に一方向に電界が発生し、液体2112中に浮遊する物体2118を一方向に移動させることができる。その移動原理は、上記したシミュレーションと同様である。
【0111】
液体1112中に、実質的に一方向に電界を発生させるステップは、主として、以下のステップからなる。
(1)物体2118が浮遊する液体2112を、容器2111に注入する準備ステップ、
(2)第1の電極2113と第2の電極2114をそれぞれ少なくとも一部が液体2112に浸されるように所定の間隔を空けて配置する配置ステップ、
(3)第1の電極2113と第2の電極2114との間に非対称交流を印加し、液体2112中に浮遊する物体2118を第1の電極2113から第2の電極2114へ移動させるか、または上記物体を第2の電極2114から第1の電極2113へ移動させる移動ステップ。
【0112】
上述のような方法または装置を用い、2つの電極2113、2114間に非対称な交流を印加することにより、液体2112内に浮遊する物体2118を一方向に移動させることができる。
したがって、液体内に浮遊する物体を一方向に移動するために、非対称交流により実質的に一方向の電界を印加しているので、液体が電気分解することを抑制し、電気化学反応により電極が腐食することを抑制することができる。
【0113】
本実施の形態でも、第1の電極2113と第2の電極2114はいずれも液体2112と直接触れているため、2つの電極間に直流を印加したとすると直流電流が流れる。したがって、上記実施の形態1と同様に、腐食の発生を回避するために、非対称交流が実質的な直流成分を持たないこと、すなわち上記第1の電極と第2の電極との間の電圧V(t)を交流の1周期に渡って積分したVeffが実質的に0であることが好ましい。
また、実施の形態1と同様の理由により、液体中に浮遊する物体を効率よく一方向に移動させるためには、非対称交流としては、図2(b)や図2(c)の波形が好ましい。
【0114】
<実施の形態4>
本発明の第4の実施の形態である、液体中に浮遊する物体を移動させる浮遊体移動装置および浮遊体移動方法を、図28を用いて説明する。
本実施の形態が、実施の形態3と異なるのは、第1の電極と第2の電極の少なくとも一方が絶縁膜で覆われることである。
【0115】
図28に、本実施の形態の液体中に浮遊する物体を移動させる装置2200の概略断面図を示す。
容器2211は、液体2212で満たされている。第1の電極2213と第2の電極2214は、その少なくとも一部が液体2212に浸されている。第1の電極2213と第2の電極2214は絶縁膜2216で覆われており、非対称な交流を発生する交流電源2215が接続されている。
【0116】
ここで、容器2211は、実施の形態1と同様に、液体2212を保持できるものであればよい。液体2212は、イオン濃度が小さなものが好ましい。絶縁膜2216は、実施の形態2と同様に、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、樹脂薄膜などを用いることができる。
第1の電極2213と第2の電極2214に印加する非対称交流も、同様に、図2や図3に示したものを用いればよい。例えば、第2の電極2214を基準電圧として、図2に示す非対称交流を印加したとき、液体2212内に実質的に発生する電界の向きは右向き(図28の矢印2217の向き)となる。
したがって、液体中に浮遊する物体2218が負に帯電している場合は、図28に示すように、左向き(図28の矢印2219の向き)に移動する。物体2218が正に帯電している場合は、反対向き(右向き)に移動する。
【0117】
また、非対称交流は、実施の形態2と同様に、図7に示した波形の交流を用いてもよい。第1の電極2213および第2の電極2214は絶縁膜2216で覆われているため、2つの電極間に直流電流は流れないので、図7に示すような波形であっても特に悪影響なく、液体2212中に浮遊する物体2218を一方向に移動することができる。また、本実施の形態でも、どちらか一方の電極が絶縁膜2216で覆われていれば良い。
【0118】
非対称交流の好ましい周波数および電圧は、実施の形態1と同様に設定すればよい。
また、液体中に浮遊する物体2218は、実質的に帯電していれば良い。物体の具体例は、実施の形態3に示したものと同様のものを用いればよい。
このように、電極の少なくとも一方を絶縁膜で覆った場合においても、非対称な交流を第1の電極2213と第2の電極2214に印加することによって、液体2212内に実質的に一方向に電界が発生し、液体2212中に浮遊する物体2218を一方向に移動させることができる。
【0119】
実施の形態4では、第1の電極および第2の電極の少なくとも一方が絶縁膜で覆われるため、2つの電極間に直流電流が流れない。したがって、液体が電気分解し、または電気化学反応により電極が腐食するといった問題を確実に防ぐことができる。また、第1の電極および第2の電極の少なくとも一方が絶縁膜で覆われるため、第1の電極から第2の電極へ直接電子が到達して電流が流れることがない。そのため、この系で消費される電力は、電極を覆う絶縁膜が構成するキャパシタンスの充放電によるもののみである。したがって、消費電力を著しく小さくし、ジュール熱の発生も著しく減らすことが可能となる。
この実施の形態4の場合も、図2(b)や図2(c)の波形が好ましい。
【0120】
<実施の形態5>
本発明の第5の実施の形態である、液体中に浮遊する物体を移動させる浮遊体移動装置および浮遊体移動方法を、図29を用いて説明する。
本実施の形態が、実施の形態4と異なるのは、第1の電極および第2の電極が、対向する2つの基板上に形成されており、液体中に浮遊する物体はこの2つの電極間を一方向に移動することである。
【0121】
図29に、本実施の形態の液体中に浮遊する物体を移動させる装置2300の概略断面図を示す。
第1の基板2321と第2の基板2322が対向しており、その間を液体2312が満たしている。第1の基板2321の液体2312に接する側の表面には、第1の電極2313が形成されている。第2の基板2322の液体2312に接する側には、第2の電極2314が形成されている。
第1の電極2313および第2の電極2314の表面には絶縁膜2316が形成されており、第1の電極2313と第2の電極2314の間に直流電流が流れるのを防いでいる。また、第1の電極2313と第2の電極2314には、絶縁膜2316で覆われていない側には、非対称な交流を発生する交流電源2315が接続されている。
【0122】
ここで、第1の基板2321および第2の基板2322としては、ガラス、樹脂、セラミック等の絶縁体を用いることができる。
液体2312は、実施の形態1と同様に、イオン濃度が小さなものが好ましい。
第1の電極2313と第2の電極2314に印加する非対称交流も、同様に、図2や図3に示したものを用いればよい。例えば、第2の電極2314を基準電圧として、図2に示す非対称交流を印加したとき、液体2312内に実質的に発生する電界の向きは下向き(図29の矢印2317の向き)となる。
したがって、液体中に浮遊する物体2318が負に帯電している場合は、図29に示すように、上向き(図29の矢印2319の向き)に移動する。物体2318が正に帯電している場合は、反対向き(下向き)に移動する。
【0123】
図29において、第1の電極2313は第2の電極2314よりも鉛直方向において上方に配置している。この場合でも、図29のように電界の向きが鉛直方向下向きであったとしても、物体は、重力とは逆方向である上方向に移動する。
なお、対向する一対の電極の配置は、図29に示すものに限ることではなく、たとえば、第1の電極および第2の電極がそれぞれ1枚の電極ではなく、それぞれ複数の電極に分割されて隙間を設けて配置されていてもよい。あるいは2つの電極が網状であってもよい。このような場合は、透明な基板と組合せることによって、液体中に浮遊する物体を外部から観察することができる。
【0124】
また、非対称交流は、上記した実施の形態2と同様に、図7に示した波形の交流を用いてもよい。図7に示すような波形であっても特に悪影響なく、液体2312中に浮遊する物体2318を一方向に移動することができる。どちらか一方の電極が絶縁膜2316で覆われていれば良く、この場合でも、2つの電極間に直流電流が流れることを防ぐことができる。
非対称交流の好ましい周波数および電圧は、実施の形態1と同様に設定すればよい。
また、液体中に浮遊する物体2318は、実質的に帯電していれば良い。物体の具体例は、実施の形態と同様のものを用いればよい。
【0125】
なお、本実施の形態のように、2つの電極が2つの対向する基板上に形成されており、2つの基板の間に物体が浮遊する液体が満たされている場合は、物体の移動を以下のように利用することもできる。
物体2318は、液体2312中に多数浮遊しており、図29の下向きに重力が働いているとする。すなわち、第2の基板2322を下向きに設置したとする。この場合、2つの電極2313、2314に一方向電界が上向きの非対称交流を印加すれば、重力が付加されるので、物体2318を速やかに第2の基板2322の側に移動させることができる。すなわち、物体2318を速やかに沈殿させることができる。
また、一方向電界が下向きの図29のような非対称交流を2つの電極2313、2314に印加して物体2318を上向きに移動させれば、物体2318が重力により沈降するのを防ぐこともできる。
【0126】
上述のような方法または装置を用い、2つの電極2313、2314間に非対称な交流を印加することにより、液体2312内に浮遊する物体2318を一方向に移動させることができる。
また、第1の電極および第2の電極の少なくとも一方が絶縁膜で覆われるため、2つの電極間に直流電流が流れない。したがって、液体が電気分解し、または電気化学反応により電極が腐食するといった問題を確実に防ぐことができる。また、第1の電極および第2の電極の少なくとも一方が絶縁膜で覆われるため、第1の電極から第2の電極へ直接電子が到達して電流が流れることがない。そのため、この系で消費される電力は、電極を覆う絶縁膜が構成するキャパシタンスの充放電によるもののみである。したがって、消費電力を著しく小さくし、ジュール熱の発生も著しく減らすことが可能となる。
この実施の形態5の場合も、図2(b)や図2(c)の波形が好ましい。
【0127】
<実施の形態6>
本発明の第6の実施の形態である、電気泳動装置および電気泳動方法を、図30を用いて説明する。
図30に、本実施の形態の電気泳動装置3100の概略図を示す。
容器3123の両側には、第1の電極3113および第2の電極3114が設置されている。第1の電極3113と第2の電極3114には、非対称な交流を発生する交流電源3215が接続されている。第1の電極3113および第2の電極3114上には絶縁膜3116が形成されている。
【0128】
電気泳動を行なう際には、容器3123を所定の液体で満たすとともに、容器3123内にウェル3125を形成したアガロースゲル3124を設置する。ウェル3125は、試料を注入するための穴である。
次に、DNAなどの試料を、ウェル3125に注入し、第1の電極3113と第2の電極3114に非対称な交流を印加する。これにより試料を一定の方向に移動させる電気泳動を行なうことができる。
【0129】
上記液体としては、従来の電気泳動においては、2つの電極間に直流電流を流すので、導電性のものを用いる。しかしながら、本実施の形態では、液体のイオン濃度が小さい方が液体中に一方向の電界を発生させて試料を泳動させやすいので、純水など、イオン濃度が小さく、かつ試料を変性させないものを用いるのが好ましい。
【0130】
第1の電極3113と第2の電極3114に印加する非対称交流は、例えば、図2や図3に示したものを用いればよい。例えば、第2の電極3114を基準電圧として、図2に示す非対称交流を印加したとき、液体内に実質的に発生する電界の向きは右向き(図30の矢印3117の向き)となる。それゆえ、液体中の試料が負に帯電している場合は、図30に示すように、左向き(図30の矢印3119の向き)に移動する。試料の分子量によりアガロースゲル3124を進む距離が異なるため、試料に含まれる分子などを分離でき、試料の分子量を可視化することができる。
また、非対称交流は、実施の形態2と同様に、図7に示した波形の交流を用いてもよい。図7に示すような波形であっても特に悪影響なく、電気泳動を行なうことができる。なお、どちらか一方の電極が絶縁膜3116で覆われていれば良く、2つの電極間に直流電流が流れることを防ぐことができる。
非対称交流の好ましい周波数および電圧は、実施の形態1と同様に設定すればよい。
【0131】
このように、非対称な交流を第1の電極3113と第2の電極3114に印加することによって、液体内に実質的に一方向に電界が発生し、液体中の試料を一方向に移動させることができる。
【0132】
電気泳動を行なうステップは、主として、以下のステップからなる。
(1)それぞれ少なくとも一部が液体で浸された第1の電極3113と第2の電極3114および測定されるべき試料を備えた泳動槽を準備するステップ、
(2)第1の電極3113と第2の電極3114との間に非対称交流を印加して試料を泳動させるステップ。
【0133】
上述のような方法または装置を用い、2つの電極3113、3114間に非対称な交流を印加することにより、電気泳動ができる。また、非対称交流による実質的な一方向電界を印加しているので、電気泳動を行なう際に、液体が電気分解して気泡が発生することなく、電気化学反応を起こすこともなく、電極が腐食して液体が汚染することもなく、ジュール熱が発生するといった問題も回避することができる。したがって、より精確に分子の大きさの違いを検出することが可能となる。
この実施の形態6の場合も、図2(b)や図2(c)の波形が好ましい。
【0134】
<実施の形態7>
本発明の第7の実施の形態である、電気泳動表示装置を、図31を用いて説明する。
図31は、本実施の形態の電気泳動表示装置4100の概略断面図である。
第1の基板4131と第2の基板4132が対向して配置されている。第1の基板4131上には、第1の電極(対向電極)4113が形成されている。第2の基板4132上には、画素毎に第2の電極(画素電極)4114が形成されている。
第1の電極4113と第2の電極4114の間には、電気泳動素子4134が配置されている。電気泳動素子4134は、円形のカプセル4135、分散媒4136、白色の電気泳動粒子4137および黒色の電気泳動粒子4138よりなる。
第1の電極4113と第2の電極4114には、選択トランジスタ4139を介して非対称交流を発生する電源4115が接続されている。
第2の電極4114と電気泳動素子4134の間には、接着層4133が設けられている。また、第2の電極4114は画素ごとに分離され、選択トランジスタ4139が接続されている。
【0135】
電気泳動表示装置4100の第1の基板4131側が表示面となる。第1の基板4131には、例えばガラスや透明フィルムなどの透明な基板を用いればよい。第2の基板4132は、必ずしも透明である必要はなく、ガラス、樹脂フィルム、表面に絶縁膜を形成した金属板を用いればよい。
第1の電極4113には、ITOなどの透明電極を用いることができ、全画素に対して共通するものでよい。第2の電極は、Al、Cu、Auなどの金属電極を用いることができる。
【0136】
電気泳動素子4134を構成する円形のカプセル4135は、例えば、直径が20〜100μmの透明樹脂からなる。分散媒4136は、イオン濃度が小さい方が分散媒中に一方向の電界を発生させて電気泳動粒子を泳動させやすいので、イオン濃度が小さなものが好ましい。例えば、エタノール、メタノール、IPAなどのアルコール類、ベンジン、アセトンなどの有機溶媒などが好ましい。水を用いる場合は、純水、無イオン水などを用いるのが好ましい。
【0137】
2種類の電気泳動粒子4137、4138は、カーボンブラック等の黒色顔料、二酸化チタン等の白色顔料を用いることができる。ただし、2種類の電気泳動粒子は分散媒中に発生した実質的に一方向の電界に対して互いに反対方向に移動する必要があるため、2種類の電気泳動粒子は実質的に互いに反対極性に帯電している必要がある。
【0138】
電気泳動表示装置4100の動作は、まず、選択トランジスタ4139によって白色(または黒色)表示させるべき画素を選択し、次に選択された画素における第2の電極4114と第1の電極4113との間に非対称な交流を印加する。
これにより、選択された画素において、白色(黒色)の電気泳動粒子4137(4138)がたとえば上側に移動し、黒色(白色)の電気泳動粒子4138(4137)が下側に移動して、白色(黒色)が表示される。
【0139】
逆に反転表示をする場合は、選択トランジスタ4319によって黒色(白色)表示させるべき画素を選択し、各電気泳動粒子4137、4138が反対向きに移動するような非対称な交流を、選択された画素における第2の電極4114と第1の電極4113との間に印加する。以上の動作により、電気泳動表示装置4100に画像を表示することができる。
【0140】
また、非対称交流は、実施の形態2と同様に、図2や図3に示した波形の交流や、図7に示した波形の交流を用いてもよい。
非対称交流の好ましい周波数は、分散媒4136の種類によって異なり、一般的にイオン濃度が低い分散媒では周波数を低く、イオン濃度が高い分散媒では周波数を高くする。たとえば、分散媒4136として純水を用いた場合は500Hz〜5MHzとすればよい。しかしながら、分散媒の汚染によりイオン濃度が高い場合には、適宜周波数を高くする必要がある。
【0141】
このように、非対称な交流を第1の電極4113と第2の電極4114との間に印加することによって、分散媒内に実質的に一方向に電界が発生し、分散媒中の電気泳動粒子が一方向に移動させることができ、電気泳動表示装置として駆動させることができる。
【0142】
従来の電気泳動表示装置は、画素電極と共通電極間に直流電圧を印加する。直流電圧を印加した瞬間は、カプセルの内側に内部の電界を打ち消すに十分な電荷が誘起されないため、カプセルの内部に電界が侵入する。そのために、電気泳動粒子を短い距離(カプセルの直径程度)移動させることができた。また、一旦カプセル内側に到達した電気泳動粒子は静電力によりカプセルの内壁に吸着するため、電圧の印加を停止した後も画像は保存された。しかし、従来の装置では、電気泳動粒子に対する駆動力は時間とともに急速に減衰してしまい、減衰するまでに移動を完了する必要があったので、カプセルの直径、分散媒の種類および電気泳動粒子の種類などに制約があるという問題があった。また、より大きな電気泳動粒子に対する駆動力が必要な場合は、より高い電圧が必要になるという問題もあった。
【0143】
一方、本実施の形態の電気泳動表示装置は、画素電極(第2電極)と共通電極(第1電極)間に、非対称な交流を印加することにより、電気泳動粒子を一方向に移動させ続けることができる。したがって、たとえば、白黒の2色による表示をさせる場合、電極に印加する電圧を大きくすることなく、使用したカプセル、分散媒および電気泳動粒子に応じて、十分な時間、電極間に非対称交流を印加することにより、画素の白黒の変換を、より確実に行なうことができる。また、電気泳動粒子を駆動する時間を自由に変えられるので、画素の大きさ、分散媒の種類および電気泳動粒子の種類など、設計の自由度を広げることができる。
この実施の形態7の場合も、非対称交流としては、図2(b)や図2(c)の波形が好ましい。
【0144】
<実施の形態8>
本発明の第8の実施の形態である、電気浸透流ポンプとその動作方法を、図32を用いて説明する。
図32は、本実施の形態の電気浸透流ポンプ5100の概略断面図である。
チューブ5141の内部は流路となっており、搬送される液体5112で満たされている。チューブ5141の上流部と下流部には、複数の孔を設けた第1の電極5113および第2の電極5114が離間して配置されている。第1の電極5113と第2の電極5114には、非対称な交流を発生する交流電源5115が接続されている。
【0145】
チューブ5141は、樹脂、ガラスなどを用いることができる。
搬送される液体5112は、液体のイオン濃度が小さい方が液体中に一方向の電界を発生させて液体を搬送させやすいので、イオン濃度が小さなものが好ましい。例えば、エタノール、メタノール、IPAなどのアルコール類、ベンジン、アセトンなどの有機溶媒などが好ましい。水を用いる場合は、純水、無イオン水などを用いるのが好ましい。
イオン濃度が高い液体を搬送する場合は、この電気浸透流ポンプを動力として間接的に搬送することができる。
第1の電極5113および第2の電極5114には、液体が通過できるように、0.1mm〜1mm程度の大きさの孔を設ける。
【0146】
第1の電極5113と第2の電極5114に印加する非対称交流は、上記実施の形態と同様に、図2や図3に示したものを用いればよい。例えば、第2の電極5114を基準電圧として、図2に示す非対称交流を印加したとき、液体5112内に実質的に発生する電界の向きは右向き(図32の矢印5117の向き)となる。
このとき、チューブ5141の内壁が負に帯電する場合は、図32に示すように、チューブ5141の内壁付近の液体5112中には正電荷が誘起される。
内壁に固着する液体と流動する液体の境界面であるすべり面5142よりも内壁から離れた領域では、液体5112はチューブ5141の内壁に固着することなく自由に移動できる。
また、液体5112内には実質的に一方向(矢印5117の向き)の電界が存在するため、正電荷に帯電した液体分子は第2電極の方へ進行し、液体5112は右方向へ搬送される。
非対称交流の好ましい周波数と電圧は、実施の形態1と同様に設定すればよい。
【0147】
このように、非対称な交流を第1の電極5113と第2の電極5114に印加することによって、液体5112内に実質的に一方向に電界を発生させることができる。
また、流路内の上流部と下流部にそれぞれ離間して配置された第1の電極と第2の電極との間に、図32に示すように非対称交流を印加することにより、該流路内を満たした液体5112を前記流路内の上流部から下流部へと輸送することができる。
【0148】
また、実質的に一方向の電界を発生させる非対称交流を印加しているので、液体を一方向に搬送しても、液体が電気分解して気泡が生じることはなく、また電気化学反応を起こすこともなく、電極が腐食することを防止できる。したがって、気泡を除去するための機構が不要となるので、電気浸透流ポンプの構造を単純化することができ、さらに、電気浸透流ポンプの信頼性を高くすることができる。
【0149】
本実施の形態では、第1の電極5113と第2の電極5114はいずれも液体5112と直接触れているため、2つの電極間に直流を印加したとすると直流電流が流れる。それゆえ、非対称交流が実質的な直流成分を持たないこと、すなわち上記第1の電極と第2の電極との間の電圧V(t)を交流の1周期に渡って積分したVeffが実質的に0であることが好ましい。
これにより、2つの電極間に正味の直流電流が流れないので、液体が電気分解して気泡が生じることはなく、または電気化学反応を起こすこともなく電極が腐食することもより確実に防止できる。
この実施の形態8の場合も、液体を効率よく搬送するためには、非対称交流は、図2(b)や図2(c)の波形が好ましい。
【0150】
<実施の形態9>
本発明の第9の実施の形態である、電気浸透流ポンプとその動作方法を、図33を用いて説明する。
本実施の形態が、実施の形態8と異なるのは、第1の電極と第2の電極の少なくとも一方が絶縁膜で覆われることである。
【0151】
図33は、本実施の形態の電気浸透流ポンプ5200の概略断面図である。
チューブ5241の内部は流路となっており、搬送される液体5212で満たされている。チューブ5241の上流部と下流部には、複数の孔を設けた第1の電極5213および第2の電極5214が離間して配置されている。
第1の電極5213と第2の電極5214は絶縁膜5216で覆われており、非対称な交流を発生する交流電源5215に接続される。
チューブ5241は、実施形態8と同様に、樹脂、ガラスなどを用い、搬送される液体5212は、イオン濃度が小さなものが好ましい。
【0152】
第1の電極5213と第2の電極5214に印加する非対称交流は、上記実施の形態と同様に、図2や図3に示したものを用いればよい。例えば、第2の電極5214を基準電圧として、図2に示す非対称交流を印加したとき、液体5212内に実質的に発生する電界の向きは右向き(図33の矢印5217の向き)となる。
このとき、チューブ5241の内壁が負に帯電する場合は、チューブ5241の内壁付近の液体5212中には正電荷が誘起される。すべり面よりも内壁から離れた領域では液体5212はチューブ5241の内壁に固着することなく自由に移動できる。
また、液体5212内には実質的に一方向(矢印5217の向き)の電界が存在するため、液体5212は右方向へ搬送される。以上の動作は、実施の形態8と同様である。
【0153】
また、非対称交流は、上記実施の形態と同様に、図7に示したものを用いてもよい。第1の電極5213および第2の電極5214は絶縁膜5216で覆われているため、2つの電極間に直流電流は流れない。したがって、図7に示すような波形であっても特に悪影響なく、液体5212を一方向に搬送することができる。なお、どちらか一方の電極が絶縁膜5216で覆われていれば良く、2つの電極間に直流電流が流れることを防ぐことができる。
非対称交流の好ましい周波数および電圧は、実施の形態と同様に設定すればよい。
【0154】
このように、非対称な交流を第1の電極5213と第2の電極5214に印加することによって、液体5212内に実質的に一方向に電界を発生させることができる。
また、上述のような方法または装置を用い、2つの電極5213、5214間に非対称な交流を印加することにより、液体5212を一方向に搬送することができる。また、実質的に一方向の電界を発生させる非対称交流を印加しているので、液体を一方向に搬送しても、液体が電気分解して気泡が生じることはなく、また電気化学反応を起こすこともなく、電極が腐食するといった問題を回避することが可能となる。したがって、気泡を除去するための機構が不要となるので、電気浸透流ポンプの構造を単純化することができ、さらに、電気浸透流ポンプの信頼性を高くすることができる。
【0155】
更に、第1の電極および第2の電極の少なくとも一方を絶縁膜で覆うことにより、2つの電極間に直流電流が流れないので、電極が腐食することをより確実に防ぐことができる。また、第1の電極および第2の電極の少なくとも一方が絶縁膜で覆われるため、第1の電極から第2の電極へ直接電子が到達して電流が流れることがない。そのため、この系で消費される電力は、電極を覆う絶縁膜が構成するキャパシタンスの充放電によるもののみである。したがって、消費電力を著しく小さくし、ジュール熱の発生も著しく減らすことが可能となる。
この実施の形態9の場合も、液体を効率よく搬送するためには、非対称交流は、図2(b)や図2(c)の波形が好ましい。
【0156】
<実施の形態10>
本発明の第10の実施の形態である、電気浸透流ポンプの他の実施例を、図34を用いて説明する。
本実施の形態が、実施の形態9と異なるのは、第1の電極と第2の電極の間の流路に、多孔質からなる電気浸透材を設けたことである。
【0157】
図34は、本実施の形態の電気浸透流ポンプ5300の概略断面図である。
チューブ5341の内部は流路となっており、搬送される液体5312で満たされている。チューブ5341の上流部と下流部には、複数の孔を設けた第1の電極5313および第2の電極5314が離間して配置されている。第1の電極5313と第2の電極5314は絶縁膜5316で覆われており、非対称な交流を発生する交流電源5315が接続されている。
【0158】
流路内であって、第1の電極5313と第2の電極5314の間には、多孔質からなる電気浸透材5343が配置されている。
電気浸透材5343とは、たとえば、シリカ繊維材料、多孔質セラミックからなる部材であり、液体を通過させるとともに流路の内壁の面積を実質的に増大する役割を果たすものである。
この電気浸透材5343を、図34に示すように配置することにより、電気浸透材内部に設けられた微細な孔において電気浸透材と液体が触れ、非対称交流により発生する一方向電界の作用により液体が搬送される。電気浸透材内部の多孔質は電気浸透材と液体の接触面積を増大させるため、液体の搬送能力も増大する。
【0159】
本実施の形態の電気浸透ポンプによれば、実施の形態9と同様に、液体が電気分解して気泡が生じることはなく、また電気化学反応を起こすこともなく、電極が腐食することを防止できる。
したがって、気泡を除去するための機構が不要となるので、電気浸透流ポンプの構造を単純化することができ、電気浸透流ポンプの信頼性を高くすることができる。
また、第1の電極および第2の電極の少なくとも一方が絶縁膜で覆われるため、電極の腐食をより確実に防ぐことができる。また、消費電力を著しく小さくし、ジュール熱の発生も著しく減らすことが可能となる。
更に、第1の電極5313と第2の電極5314の間に、多孔質からなる電気浸透材を配置することにより、電気浸透効果を高めることができるので、ポンプの能力を飛躍的に高めることができる。
【0160】
<実施の形態11>
本発明の第11の実施の形態である、燃料電池を、図35を用いて説明する。
燃料電池6100は、本発明の実施の形態8,9または10のいずれかの電気浸透ポンプ6151を備える。また、燃料タンク6153から燃料電池セル6152へ、燃料輸送管6154を通じて燃料を輸送する。
燃料電池セル6152には、燃料電池状態センサ6156が接続されており、燃料電池の状態を検出する。
燃料電池状態センサ6156から燃料電池の状態が燃料供給制御回路6157に伝えられ、燃料供給制御回路6157が燃料電池6151による燃料供給量を制御する。
燃料電池状態センサ6156および燃料供給制御回路6157に必要な電力は、燃料電池セル6152に接続されたDC/DCコンバータ6155により供給される。DC/DCコンバータ6155には、外部に電力を供給するための端子6158が接続される。
【0161】
本実施の形態の燃料電池は、本発明の電気浸透流ポンプを備えているので、電気浸透流ポンプによって輸送する燃料が電気分解して気泡が生じることはなく、また電気化学反応が起こることもなく、電極が腐食することがない。したがって、気泡を除去するための機構が不要となって、燃料電池の構造を単純化することができ、燃料電池の信頼性を高くすることができる。
【0162】
<実施の形態12>
本発明の第12の実施の形態である、冷却ポンプを、図36を用いて説明する。
冷却ポンプ6200は、本発明の実施の形態8,9または10のいずれかの電気浸透ポンプ6251を備える。また、受熱部6259と熱交換器6260に、冷媒輸送管6263を通じて冷媒を循環させる。
受熱部6259には、温度センサ6261が設けられており、受熱部6259の温度をポンプ制御回路6262に伝達する。ポンプ制御回路6262は温度センサ6261からの情報に基づいて電気浸透ポンプ6251を制御し、冷媒を移動させ、受熱部6259の温度を適正に保つ。
【0163】
本実施の形態の冷却ポンプは、本発明の電気浸透流ポンプを備えているので、電気浸透流ポンプによって移動させる冷媒が電気分解して気泡が生じることはなく、また電気化学反応が起こることもなく、電極が腐食することもない。したがって、気泡を除去するための機構が不要となるので、冷却ポンプの構造を単純化することができ、冷却ポンプの信頼性を高くすることができる。
【0164】
<実施の形態13>
本発明の第13の実施の形態である、薬液供給装置6300を、図37を用いて説明する。
薬液供給装置6300は、本発明の実施の形態8,9または10のいずれかの電気浸透ポンプ6351を備える。また、薬液タンク6364から薬液供給先へ、薬液輸送管6368を通じて薬液を輸送する。
薬液輸送管6368の途中には、流量センサ6365が設けられており、流量情報が薬液供給制御回路6366に伝えられる。薬液供給制御回路6366は、薬液供給プログラム入力装置6367からあらかじめ伝達された指示と、流量センサ6365から伝えられた流量情報とに基づき、電気浸透ポンプ6351を制御し、輸送する薬液の流量を調節する。
【0165】
本実施の形態の薬液供給装置は、本発明の電気浸透流ポンプを備えているので、電気浸透流ポンプによって輸送する薬液が電気分解して気泡が生じることはなく、また電気化学反応が起こることもなく、電極が腐食することもない。したがって、気泡を除去するための機構が不要となるので、薬液供給装置の構造を単純化することができ、薬液供給装置の信頼性を高くすることができる。
【符号の説明】
【0166】
1110 電界発生装置
1111 容器
1112 液体
1113 第1の電極
1114 第2の電極
1115 交流電源
1216 絶縁膜
2100 浮遊体移動装置
2111 容器
2112 液体
2113 第1の電極
2114 第2の電極
2115 交流電源
2118 物体
2216 絶縁膜
3100 電気泳動装置
3124 アガロースゲル
3125 ウェル
4100 電気泳動表示装置
4131 第1の基板
4132 第2の基板
4134 電気泳動素子
4135 カプセル
4136 分散媒
4137 電気泳動粒子
4138 電気泳動粒子
4139 選択トランジスタ
5100 電気浸透流ポンプ
5141 チューブ
5142 すべり面
5216 絶縁膜
5343 電気浸透材
6100 燃料電池
6151 電気浸透流ポンプ
6152 燃料電池セル
6153 燃料タンク
6154 燃料輸送管
6155 DC/DCコンバータ
6156 燃料電池状態センサ
6157 燃料供給制御回路
6158 電力供給端子
6200 冷却ポンプ
6251 電気浸透流ポンプ
6263 冷媒輸送管
6300 薬液供給装置
6351 電気浸透流ポンプ
6368 薬液輸送管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が注入された容器と、
前記容器に注入された液体に、それぞれ少なくとも一部が浸されるように所定の間隔を空けて配置された第1の電極および第2の電極と、
前記第1の電極および第2の電極に接続され、両電極間に非対称な交流を印加させる交流発生器とを備え、
前記交流発生器が、前記液体中に実質的に前記第1の電極から第2の電極へ向かう電界、または実質的に前記第2の電極から第1の電極へ向かう電界のいずれか一方の電界を発生させることを特徴とする電界発生装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電界発生装置であって、
前記第1の電極と第2の電極は、前記容器に注入された前記液体と直接接触するように配置され、
前記非対称交流は、前記第1の電極と第2の電極との間の電圧V(t)(tは時間)を交流の1周期に渡って積分した次式の値
Veff=∫V(t)dt
が実質的に0となり、実質的な直流成分を持たないことを特徴とする電界発生装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電界発生装置であって、
前記第1の電極と第2の電極の少なくとも一方が絶縁膜で覆われて前記液体と直接接触しないことを特徴とする電界発生装置。
【請求項4】
物体が浮遊する液体が注入された容器と、
前記容器に注入された液体に、それぞれ少なくとも一部が浸されるように所定の間隔を空けて配置された第1の電極および第2の電極と、
前記第1の電極および第2の電極に接続され、両電極間に非対称な交流を印加させる交流発生器とを備え、
前記交流発生器が印加した非対称交流によって、前記液体中に浮遊する物体に対し、前記第1の電極から第2の電極への移動、または前記第2の電極から第1の電極への移動のうちいずれか一方の移動をさせることを特徴とする浮遊体移動装置。
【請求項5】
請求項4に記載の浮遊体移動装置であって、
前記第1の電極と第2の電極は、いずれも液体と直接接触するように配置され、
前記非対称交流は、前記第1の電極と第2の電極との間の電圧V(t)(tは時間)を交流の1周期に渡って積分した次式の値
Veff=∫V(t)dt
が実質的に0となり、実質的な直流成分を持たないこと
を特徴とする浮遊体移動装置。
【請求項6】
請求項4に記載の浮遊体移動装置であって、
前記第1の電極と第2の電極の少なくとも一方が絶縁膜で覆われて液体と直接接触しないことを特徴とする浮遊体移動装置。
【請求項7】
試料を含む液体が注入された泳動槽と、
前記泳動槽に注入された液体に、それぞれ少なくとも一部が浸されるように所定の間隔を空けて配置された第1の電極および第2の電極と、
前記第1の電極および第2の電極に接続され、両電極間に非対称な交流を印加させる交流発生器とを備え、
前記交流発生器が印加した非対称な交流によって、液体中に含まれた試料を、液体中の第1の電極と第2の電極との間を泳動させ、
前記第1の電極と第2の電極の少なくとも一方が絶縁膜で覆われて前記液体と直接接触しないことを特徴とする電気泳動装置。
【請求項8】
所定の間隔を空けて対向配置された第1の電極および第2の電極と、
前記第1の電極と第2の電極とに挟まれた空間に配置され、電気泳動粒子と分散液とを内包した複数のカプセルからなる電気泳動素子と、
前記第1の電極と第2の電極とに接続され、両電極間に非対称な交流を印加させる交流発生器とを備え、
前記非対称な交流によって、各カプセル内の電気泳動粒子を一方の電極の方向へ移動させることを特徴とする電気泳動表示装置。
【請求項9】
液体を流す流路と、
前記流路の上流部と下流部にそれぞれ離間して配置され、複数の孔を有する第1の電極と第2の電極と、
前記第1の電極および第2の電極とに接続され、両電極間に非対称な交流を印加させる交流発生器とを備え、
前記非対称交流を印加することにより、前記流路内に流入された液体を、流路内の上流部にある第1の電極から下流部にある第2の電極の方向へと輸送する
ことを特徴とする電気浸透流ポンプ。
【請求項10】
請求項9に記載の電気浸透流ポンプであって、
前記第1の電極と第2の電極は、前記流路に流入された前記液体と直接接触するように配置され、
前記非対称交流は、前記第1の電極と第2の電極との間の電圧V(t)(tは時間)を交流の1周期に渡って積分した次式の値
Veff=∫V(t)dt
が実質的に0となり、実質的な直流成分を持たないことを特徴とする電気浸透流ポンプ。
【請求項11】
請求項9または10に記載の電気浸透流ポンプであって、
前記第1の電極と第2の電極の少なくとも一方が絶縁膜で覆われて前記液体と直接接触しないことを特徴とする電気浸透流ポンプ。
【請求項12】
請求項9、10または11のいずれかに記載の電気浸透流ポンプであって、
前記第1の電極と第2の電極との間の前記流路内に、多孔質からなる電気浸透材が設けられていることを特徴とする電気浸透流ポンプ。
【請求項13】
請求項9ないし12のいずれかに記載の電気浸透流ポンプを備えたことを特徴とする燃料電池。
【請求項14】
請求項9ないし12のいずれかに記載の電気浸透流ポンプにより駆動されることを特徴とする冷却ポンプ。
【請求項15】
請求項9ないし12のいずれかに記載の電気浸透流ポンプにより駆動されることを特徴とする薬液供給装置。
【請求項16】
容器に液体を注入する準備ステップと、
第1の電極と第2の電極とをそれぞれ少なくとも一部が前記液体に浸されるように所定の間隔を空けて配置する配置ステップと、
前記第1の電極と第2の電極との間に非対称交流を印加し、前記液体中に実質的に前記第1の電極から第2の電極へ向かう電界、または実質的に前記第2の電極から第1の電極へ向かう電界のいずれか一方の電界を発生させる電界発生ステップとを含む
ことを特徴とする電界発生方法。
【請求項17】
請求項16に記載の電界発生方法であって、
前記第1の電極と第2の電極はいずれも液体と直接接触するように配置され、
前記非対称交流は、前記第1の電極と第2の電極との間の電圧V(t)(tは時間)を交流の1周期に渡って積分した次式の値
Veff=∫V(t)dt
が実質的に0となり、実質的な直流成分を持たないこと
を特徴とする電界発生方法。
【請求項18】
請求項16に記載の電界発生方法であって、
前記第1の電極と第2の電極の少なくとも一方が絶縁膜で覆われて前記液体と直接接触しないことを特徴とする電界発生方法。
【請求項19】
請求項16に記載の電界発生方法であって、
前記非対称交流は、高電位持続時間と低電位持続時間が異なる矩形波である
ことを特徴とする電界発生方法。
【請求項20】
請求項16に記載の電界発生方法であって、
前記非対称交流は、立ち上り時間と立ち下り時間が異なる三角波またはのこぎり波であることを特徴とする電界発生方法。
【請求項21】
物体が浮遊する液体を容器に注入する準備ステップと、
第1の電極と第2の電極とを、それぞれ少なくとも一部が前記液体に浸されるように所定の間隔を空けて配置する配置ステップと、
前記第1の電極と第2の電極との間に非対称交流を印加し、前記液体中に浮遊する物体に対し、前記第1の電極から第2の電極への移動、または前記第2の電極から第1の電極への移動のうちいずれか一方の移動をさせる移動ステップを含む
ことを特徴とする浮遊体移動方法。
【請求項22】
請求項21に記載の浮遊体移動方法であって、
前記第1の電極と第2の電極はいずれも液体と直接接触するように配置され、
前記非対称交流は、前記第1の電極と第2の電極との間の電圧V(t)(tは時間)を交流の1周期に渡って積分した次式の値
Veff=∫V(t)dt
が実質的に0となり、実質的な直流成分を持たないこと
を特徴とする浮遊体移動方法。
【請求項23】
請求項21に記載の浮遊体移動方法であって、
前記第1の電極と第2の電極の少なくとも一方が絶縁膜で覆われて液体と直接接触しないことを特徴とする浮遊体移動方法。
【請求項24】
電気泳動によって移動させる試料を含む液体を、泳動槽に注入する準備ステップと、
第1の電極と第2の電極とを、それぞれ少なくとも一部が前記液体に浸されるように所定の間隔を空けて配置させる配置ステップと、
前記第1の電極と第2の電極との間に非対称交流を印加して、前記試料を液体中の第1の電極と第2の電極との間を泳動させる泳動ステップとを含み、
前記第1の電極と第2の電極の少なくとも一方が絶縁膜で覆われて前記液体と直接接触しないことを特徴とする電気泳動方法。
【請求項25】
電気浸透流ポンプの流路内の上流部と下流部に、第1の電極と第2の電極とをそれぞれ離間して配置し、
前記第1の電極と第2の電極との間に非対称交流を印加し、
前記流路内に流入された液体を、前記流路内の上流部にある第1の電極から下流部にある第2の電極の方向へ輸送することを特徴とした電気浸透流ポンプの動作方法。
【請求項26】
請求項25に記載の電気浸透流ポンプの動作方法であって、
前記第1の電極と第2の電極はいずれも液体と直接接触するように配置され、
前記非対称交流は、前記第1の電極と第2の電極との間の電圧V(t)(tは時間)を交流の1周期に渡って積分した次式の値
Veff=∫V(t)dt
が実質的に0となり、実質的な直流成分を持たないこと
を特徴とする電気浸透流ポンプの動作方法。
【請求項27】
請求項25に記載の電気浸透流ポンプの動作方法であって、
前記第1の電極と第2の電極の少なくとも一方が絶縁膜で覆われて液体と直接接触しないことを特徴とする電気浸透流ポンプの動作方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【公開番号】特開2012−189498(P2012−189498A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−54362(P2011−54362)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】