説明

電界紡糸ファイバーマット複合体及びグルコースセンサ

【課題】グルコースを高感度、高速で測定することができるセンサに使用できる材料、及びそのようなセンサを提供する。
【解決手段】ポリ(スチレン‐co‐アクリルアミド)(PSA)及びポリスチレンスルホン酸(PSSA)を含む電界紡糸ファイバーマットに3−アミノベンゼンボロン酸(ABBA)を物理吸着等により担持させた電界紡糸ファイバーマット複合体が提供される。このファイバーマット複合体を使用することで、掲記の特性を有するセンサが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルコース検知部分として3−アミノベンゼンボロン酸(ABBA)を含む両親媒性共重合体ポリ(スチレン‐co‐アクリルアミド)/ポリスチレンスルホン酸(amphiphilic poly(styrene-co-acrylamide)/polystyrene sulfonic acid)(PSA/PSSA)高分子電解質を使用した、グルコース応答性の電界紡糸ファイバーマット(glucose-responsive electrospun fibers-mat)及びそれを用いたグルコースセンサを提供する。
【背景技術】
【0002】
酵素技術を使ってグルコースバイオセンサを作成する多くの試みがなされてきた。しかしながら、これらのアプローチは酵素自己組織化に基づいており、酵素がかさばることから、これらのアプローチでは電極上に限られた使用可能な表面積しか提供できないかもしれず、これがバイオセンサの性能の足かせになりかねない。
【0003】
非特許文献1には、グルコース検出成分としてフェニルボロン酸を含む高分子電解質を合成し、これを使用して、交互積層法(layer-by-layer technique)によりグルコース検出空洞高分子電解質カプセルを製造することが開示されている。グルコース含有媒体と接触させたとき、グルコースへの応答は、かなり高速のカプセルの溶解として観測される。
【0004】
非特許文献2では、自己組織化フェニルボロン酸誘導体単分子層(monolayer)を金の表面に形成し、サッカリド検出への応用が表面プラズモン共鳴(SPR)分光分析を使用して研究している。フェニルボロン酸単分子層は、単糖類検出の感度が低濃度域(1.0×10−12M)であっても高いことがわかった。フェニルボロン酸と単糖類との間の相互作用から得られるSPR角度シフトは、合成されたフェニルボロン酸誘導体のアルキルスペーサ長が大きくなるにつれて大きくなった。
【0005】
非特許文献3は、共有結合的にボロン酸基が付加された2つのアントラセン誘導体が、発光持続期間に基づくグルコースの検出について評価している。これらのアントラセン誘導体はまたアルキルアミノ基を含んだものであり、これにより光励起電子転送によるアントラセンの発光が抑えられる。周波数領域測定から、両方のアントラセン誘導体はグルコースの存在下でより大きな輝度及び持続時間を示すことがわかった。励起源として簡単な紫外線LEDを使用した測定により、これら2つの成分はグルコースのための合成プローブを使用した持続時間に基づく装置の開発について興味深い潜在能力を持っていることがわかった。
【0006】
しかしながら、何れの従来技術においても、感度や応答速度などは必ずしも満足できるものではなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、ABBA含有PSA/PSSA電界紡糸ファイバーマット電極を使用することで、高感度、高速のグルコース測定が可能なセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面によれば、ポリ(スチレン‐co‐アクリルアミド)(PSA)及びポリスチレンスルホン酸(PSSA)を含む電界紡糸ファイバーマットと、前記電界紡糸ファイバーマット表面に設けられた3−アミノベンゼンボロン酸(ABBA)を有する電界紡糸ファイバーマット複合体が与えられる。
【0009】
前記ABBAは前記電界紡糸ファイバーマットに物理吸着させることにより前記ABBAを前記電界紡糸ファイバーマット上に担持させてよい。
【0010】
本発明の他の側面によれば、前記ファイバーマット複合体を使用したグルコースセンサが与えられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来技術で提案されたセンサに比較して、はるかに高感度、高速応答であるとともに、保存期間や使用回数などの影響を受けにくいグルコースセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施例による、Ptディスク電極上の高分子電解質リアクタの作製プロセスを示す概略図。a.PSA/PSSA電界紡糸ファイバーマットで覆われたPtディスク電極。b.PSA/PSSA電界紡糸ファイバーマット上へのABBAの自己組織化。c.グルコース検出中における電極表面上でのグルコースとABBAの相互作用。d.生理学的pHでの3−アミノベンゼンボロン酸(I)とグルコースとの反応によるボロン酸エステル(III)の形成。
【図2】本発明の一実施例における作製物の特性、特徴を示すグラフ及び写真。(a)PSA/PSSA電界紡糸ファイバーのFT−IR。(b)自己組織化ABBA含有PSA/PSSA電界紡糸ファイバーマットのFT−IR。(c)PSA/PSSA電界紡糸ファイバー(差込み図はファイバーマットの一部)のSEM写真。(d)ABBA含有PSA/PSSA電界紡糸ファイバーマットのSEM写真。(e)PSA/PSSA表面上の気泡の写真。(f)ABBA含有PSA/PSSA表面上の気泡の写真。接触角測定によって、表面の性質に差異がないことを示す。
【図3】本発明の一実施例によるPSA/PSSA電界紡糸ファイバーマット電極の特性を示すグラフ。(a)PSA/PSSA電界紡糸ファイバーマット電極のサイクリックボルタモグラム。(b)ABBA含有PSA/PSSA電界紡糸ファイバーマット電極のサイクリックボルタモグラム。(c)走査レートへのピーク電流の依存を示すグラフ。(d)PSA/PSSA電界紡糸ファイバーマット電極上へ自己組織化されたABBAのEpaとlnνとの関係を示すグラフ。
【図4】0.7rmMから14mMの範囲のグルコース濃度の関数として、本発明の一実施例によるABBA含有PSA/PSSA電界紡糸ファイバーマット電極から得られるDPV(微分パルスボルタンメトリー、Differential Pulse Voltammetry)測定結果を示すグラフ。差込み図はABBA含有PSA/PSSA電界紡糸ファイバーマット電極上のグルコース応答の線形回帰線(linear regression curve)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ボロン酸とグルコースとのエステル化はpH依存のプロセスであり、従ってグルコース検知特性は、使用されるボロン酸誘導体のpKaに近い、非常に迅速なものである。この点で、ABBAを含有するイオン性構造特性電界紡糸高分子電解質ファイバーマットは、グルコースセンサ用途一般に、とりわけその電気化学的検出に非常に魅力的なものである(高分子電解質であることにより、ファイバーマットの繊維表面がイオン化しており、これがABBAの吸着に大きく寄与していると考えられる)。電気化学センサの性能は電極材料の物理化学的性質とその電極表面上に存在する検出要素の密度に強く依存することが良く知られている。この構造に関して、多孔質のファイバーマットを使用してセンサを作成することは最も見込みのあるアプローチである。というのは、表面トポロジーは濡れ挙動に、またABBAの特定の吸着プロセスにも影響を与えることがあるからである。本願発明者は、多様な望ましい検出特性を獲得するために材料を分子スケールで仕立てることができることを見出した。
【0014】
ところで、高分子電解質は以下のことが可能である:
1)ABBAが、その化学的活性を落とさずに吸着する安定な表面を提供する。
2)レドックス分子から多孔質PSA/PSSAファイバーマット電極へ直接電子を転送して、これにより電気化学的検出能力を向上できるようにする。
更に、PSA/PSSA電界紡糸ファイバーマットの表面は高い表面−体積比を提供するが、これはABBAとPSA/PSSA電界紡糸ファイバーマットとの間の相互作用を増強することができる。従って、この手法により、ABBA搭載可能量をはるかに高くでき、はるかに良好なグルコース検出の再現性がもたらされる。
【0015】
本発明ではグルコース検出用途に使用される可能性のある、自己組織化ABBA含有PSA/PSSA高分子電解質電界紡糸ファイバーマットが与えられる。両親媒性PSA/PSSA高分子電解質電界紡糸ファイバーマットはとりわけセンサの作成に魅力的である。その理由は、このようなファイバーマットは外気圧条件下で作製でき、また調節可能な多孔性度、pH応答基(pH-responsive groups)、高度の化学的不活性度等を有する一方で、水媒体中では無視できる程しか膨潤しないからである。この新規なグルコースセンサは比較的長い保存期間、広い検知範囲、高い感度、及び高速応答をもたらす。
【0016】
本発明はABBA/PSA/PSSA電界紡糸ファイバーマット電極を使用して、生物学的サンプル、例えば涙、尿、血清、あるいは直接血液から、高速にグルコースを検知することができる、効率的な電気化学的グルコースセンサを作成することである。グルコースに対するすばやい反応は、ABBAのPSA/PSSA電界紡糸ファイバーマットへの電極表面上での高い親和性に直接に関連するが、これは以下のことに起因すると考えられる:
【0017】
1)ABBAの自己組織化について好都合な、PSA/PSSA電界紡糸ファイバーマットのポリイオン性(polyionic)表面。これは高速表面反応に有利に働くことができる。
2)高い表面−体積比。これはPSA/PSSA電界紡糸ファイバーマット上へのABBAの効果的な吸着を助けることができる。
【0018】
これに加えて、PSA/PSSA電界紡糸ファイバーマットがポリアニオン性(polyanionic)であるという性質により、ABBAの活性サイトと電極との間の効果的な電子転送を行うことができ、これによりグルコース検出活性が増大する。従って、このことは、自己組織化ABBA含有PSA/PSSA電界紡糸ファイバーマットは高速のグルコース検出のための非常に高い電気活性を有する表面領域を提供するということを示す。図1は以下の事項を含むグルコースセンサ作製プロセス全体を示す:
【0019】
a)Ptディスク上へのPSA/PSSA電界紡糸ファイバーマットのデポジション。
b)PSA/PSSA電界紡糸ファイバーマット上へのABBAの自己組織化。
c)グルコースの認識。
【実施例】
【0020】
1.高分子電解質の合成
両親媒性高分子電解質、すなわちポリカチオン性ポリスチレン及びポリアニオン性ポリスチレンを、無界面活性剤エマルジョン重合技術により別々に作製した。最初に、カチオン性ポリスチレンランダムコポリマーをポリアクリルアミドでしっかりと固定した。次に、アニオン性両親媒性ポリスチレンをp−スチレンスルホン酸ナトリウムモノマーのホモ重合(homopolymerization)により合成した。
【0021】
1.1 ポリ(スチレン−co−アクリルアミド)の合成
ポリ(スチレン−co−アクリルアミド)(PSA)を作製するため、スチレン(15mM)、アクリルアミド(10mM)及びK(14mM)を25mLの蓋付き反応管中で12mLの超純水(Mili−Q water、Milipore)と混合した。反応を開始する前に、Nガスバブリングにより反応管から完全に酸素を除去した。次に、超音波照射(例えば38kHz)しながら60℃水浴の下で2時間重合反応を行い、反応後に粘性のある溶液を得た。典型的には、この粘性のある溶液を大量のトルエンに注ぎ込むことにより、PSAを未反応のスチレンモノマー及びポリスチレンホモポリマーから分離した。このコポリマーは、得られた溶液をメタノールと水の混合液(体積比で7:3)で沈殿処理する(precipitate)ことで、ポリアクリルアミド及びアクリルアミドから分離した。最終的に、室温で真空乾燥後に、PSAの白色で綿毛状の固体を得た。PSAの収率:85.5%。FT−IR(KBr,cm−1):3433(ν N−H)、2920(ν C−H)、2840(ν C−H)、1638(ν C=O)、951,770,684(δC−H)。H NMR(DMSO−D6/CDCl,TMS):δ1.4(d,−C−H)、δ1.6(s,−C−H)、δ1.8(s,−C−H)、δ2.4(t,−C−H)、δ6.5(s,−C−H)、δ7.0(s,−C−H)。M(10mM LiCl入りDMF)=163kDa。
【0022】
1.2 ポリスチレンスルホン酸の合成
ストッパで蓋をした25mLの反応管中でこの反応を行った。反応管中に15mLの超純水(Mili−Q water、Milipore)及び18mMのp−スチレンスルホン酸ナトリウムを入れた。p−スチレンスルホン酸塩を水に完全に溶解した後、15mMのKを添加した。反応管にゴム製の隔膜で蓋をした後、Nガスで10分間のパージング(purging)を行った。反応混合物に対して超音波照射(例えば38kHz)しながら60℃の水浴を行い、重合処理を一定の超音波処理をしながら3時間行った。反応の終わりには、反応混合物は濃厚かつ白色となった。その後、このポリマー溶液を大量のメタノールと水の混合物(体積比6:4)中に入れた。緩慢な沈殿プロセスを2〜3日間行った。その間に、全ての塩及び未反応モノマーを生成物から確実に除去するために数回の水洗を行った。このポリスチレンスルホン酸を真空中で室温において乾燥した。PSSAの収率:93.7%。FT−IR(KBr,cm−1):3184(ν O−H)、2929(ν C−H)、2810(ν C−H)、1604(ν C−C)、1187(ν S−O)、1039(δS−O)、835,770,697(δC−H)。M(THF)=399kDa。
【0023】
2.電界紡糸ファイバーマットの作製
PSA(5.8g、M 163kDa)とPSSA(2.9g、M399kDa)を100mLの1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール/N,N−ジメチルホルムアミド混合物(重量比9.5:0.5)に夫々溶解した。両方の溶液を室温で穏やかに攪拌して、混合した。従来技術のニードル−プレート電界紡糸構成を使用して、電界紡糸ファイバーマットを作成した。ニードルとプレートの間の電圧、流量、湿度及び距離は夫々9.3kV、0.08mL/時間、10%未満、27cmであった。ランダムな向きをつけられた不織マットを接地されたアルミニウムフォイル上に集めた。次の作業に進む前に、このようにして得られたファイバーマットを室温で真空中に15時間保持した。FT−IR(ATR,cm−1):3398(ν N−H)、3186(ν O−H)、2920(ν C−H)、2844(ν C−H)、1658(ν C=O)、1605(ν C−C)、1184(ν S−O)、1042(δS−O)、836,773,670(δC−H)。
【0024】
3.PSA/PSSA電界紡糸ファイバーマット上へのABBAの自己組織化
平均厚さが約5μmのPSA/PSSAm電界紡糸ファイバーマットを自己犠牲的な(self-sacrificial)、つまりマトリクスとして使用されるテンプレートとして使用した。PSA/PSSAファイバーマット上への100mMのABBAの自己組織化は、好ましくは物理的吸着技術を使用して、つまり具体的には溶液の液滴をファイバーマットに吸収させて吸着させることによって行う。吸着ステップの後、過剰な未結合ABBAを除去するため、このマットを生理的pHのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、その後、室温で真空中に10時間保持した。FT−IR(ATR,cm−1):3390(νN−H)、3189(νO−H)、2921(νC−H)、2845(νC−H)、1657(νC−O)、1604(νC−C)、1349(νB−O)、1172(νS−O)、1038(δS−O)、839,770,674(δC−H)。
【0025】
4.電気化学的測定
全ての電気化学的測定は、ALS/HCH852CB電気化学アナライザを使用して行った。3つの電極システムに、修飾された白金ディスク電極(白金電極、OD:6mm、ID:3mm、PTE:6×3mm)白金線、及びAg/AgCl(飽和KCl)を夫々作業電極、対向電極(counter electrode)及び参照電極として取り付けた。1MのNaCl及び0.05Mのヘマテインを含むpH7.4のPBS50mMをレドックス電解質メディエータ(redox electrolytic mediator)として使用した。全ての測定を20℃±2℃で行った。
【0026】
糖のジオールと結合するというフェニルボロン酸の新たな能力は、pH感受性のレドックスメディエータであるヘマテイン天然色素により、グルコースの高速応答のために拡張された。換言すれば、ABBAのグルコースとの反応はpH依存プロセスであり、ヘマテイン染料を使用して、グルコース濃度についてのその対応する変化の量的測定を行った。ABBAをPSA/PSSAファイバーマット/Ptディスク電極(上述のようにして作成されたPSA/PSSAファイバーマットをPtディスク電極に取り付けたもの)上に吸着させて、その結果ABBA/PSA/PSSAグルコース活性電極を作製した。PSA/PSSAファイバーマット/Ptディスク電極上へのABBAの相互作用の特性は、図2〜図4に示すフーリエ変換赤外分光法(Fourier Transform infrared spectroscopy)(FT−IR)、走査型電子顕微鏡検査(SEM)、接触角及びサイクリックボルタメントリー(cyclic voltammetry)(CV)測定によって求められた。作製したセンサはグルコースに対して0.987μAmM−1cm−2の感度で約4秒という高速の電流測定応答(グルコース添加に対する電流変化)及び0.75〜14mMの範囲の直線性を示した。他の種類のグルコースバイオセンサ、すなわち検出素子としてグルコース酸化酵素を使用するもの、と比較すると、本発明のグルコースセンサは3つの基本的な優越性、つまり作製の容易性、グルコースに対する高度の選択的親和性及び高速応答、を提供する。
【0027】
この新規なタイプのグルコースセンサは、表1に示すように、従来報告されていたものに比較して短い応答時間と広いグルコース検出範囲を示した。表1は本発明の新規なタイプのグルコースセンサである、ABBA含有PSA/PSSA電界紡糸ファイバーマット電極グルコースセンサを、従来報告されているセンサと比較対照している。ここに示す本発明の実施例のセンサの評価結果については以下で更に説明する。
【0028】
【表1】

【0029】
上述のようにして作製された本発明の実施例のセンサにおけるグルコース検出の下限は0.75mMであると測定された。
【0030】
ABBA装荷PSA/PSSA電界紡糸ファイバーマット電極の応答の再現性を4.1mMのグルコース濃度について調べた。試験で12回使用した後でも電流応答に顕著な減少は観測されなかった。従って、ABBA/PSA/PSSA電界紡糸ファイバーマット電極は良好な再現性を示した。同一のABBA/PSA/PSSA電界紡糸ファイバーマット電極を持つ単一のセンサを使用して4.1mMグルコース標準試料を5回連続して測定することにより定められた相対標準偏差は約±6.8%であることがわかった。12個の別個のABBA/PSA/PSSAm電界紡糸ファイバーマット電極を使用した一連の12個のバイオセンサについて、同一の試料(4.1mMのグルコース)の個々の電流応答に対して約±7.3%の相対標準偏差が得られた。このセンサについて観測された良好な再現性は、ABBAがグルコースの構成要素と効果的に結合することに起因すると考えられる。
【0031】
ABBA/PSA/PSSA電界紡糸ファイバーマット電極の貯蔵安定性を電流測定によって測定し、室温で8週間保存した後でも同様な電流応答を示すことがわかった。
【0032】
干渉物質がABBA/PSA/PSSA電界紡糸ファイバーマット電極を使用したセンサの電流応答に与える影響を、4.1mMのグルコースの存在下で調べた。L−アスコルビン酸、L−プロリン、フルクトース、L−アラニン、尿素、ガラクトース、DL−リンゴ酸、及びピルビン酸ナトリウムがABBA/PSA/PSSA電極ファイバーマット電極の電流測定応答に与える影響の評価を、生体中の通常の濃度、つまり0.1mM、のこれら物質を電気化学セルに添加することで行った。干渉物質が存在することで、電流測定方法により測定した電流中に±6.2%未満の相対誤差をもたらすことが観測された。従って、本発明のABBA/PSA/PSSA電界紡糸ファイバーマット電極は最小限の干渉しか受けずにグルコースを検出できる。
【0033】
ここで注意しておくべきであるのが、本発明は上述した非常に高感度かつ非常に高速な時間応答のグルコース検出を、高分子電解質(PSAとPSSAの混合物)からなるイオン化された基材を用いることにより、グルコースとABBAの結合によって引き起こされるpHの局所的変化を非常にすばやく検出電極へ伝達することによって実現したものである。この過程において、電極の存在/不存在や電極材料は本質的な貢献をなしていない。たとえば、電極は金属ではなく半導体材料で作ることもできる。更に、このpH変化には、たとえば、グルコースのABBAとの結合によるpH変化によって引き起こされた色の変化を検出することにより、非電気的検出もまた可能である。これに加えて、高分子電解質はPSAとPSSAの混合物以外の別の材料でできていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明はABBA/PSA/PSSA電界紡糸ファイバーマット電極を製造して、生物学的サンプル、例えば涙、尿、血清、あるいは直接血液から、高速でグルコースを検出することのできる効率的な電気化学的グルコースセンサを得る、簡単で効率的な方法及びそのようなセンサを提供する。複合検出システム(complex sensory system)を開発してナノモルよりも低い濃度の生分子を検出するため、本発明の高分子電解質システムは、繊維、ミセル、粒子、ブラシ等のような、これ以外のナノ構造材料を使って広範な探索を行うことができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0035】
【非特許文献1】Geest, B.G.D., Jonas, A.M., Demeester, J., Smedt, S.C.D., 2006. Langmuir. 22, 5070-5074.
【非特許文献2】Chen, H., Lee, M., Lee, J., Kim, J.-H., Gal, Y.-S., Hwang, Y.-H., An, W.G., Koh, K., 2007. Sensors. 7, 1480-1495.
【非特許文献3】Cesare, N.D., Lakowicz, J.R., 2001. Analytical Biochemistry. 294, 154-160.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(スチレン‐co‐アクリルアミド)(PSA)及びポリスチレンスルホン酸(PSSA)を含む電界紡糸ファイバーマットと、
前記電界紡糸ファイバーマット表面に設けられた3−アミノベンゼンボロン酸(ABBA)
を有する電界紡糸ファイバーマット複合体。
【請求項2】
前記ABBAを前記電界紡糸ファイバーマットに物理吸着させることにより前記ABBAを前記電界紡糸ファイバーマット上に担持させた、請求範囲第1項に記載のファイバーマット複合体。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のファイバーマット複合体を使用したグルコースセンサ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−246829(P2011−246829A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118973(P2010−118973)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】