説明

電着塗料の製造方法

【課題】防錆性を向上させた電着塗料を提供すること。
【解決手段】本発明は、0.01N〜1Nのギ酸水溶液と層状シリケートと混合した後48時間以上静置する工程と、得られた層状シリケート分散液を樹脂と混合する工程とを含む、層状シリケートを含む電着塗料の製造方法を提供する。本発明の方法によれば、優れた防錆性を有する電着塗料が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電着塗料の製造方法に関する。本発明は特に、層状シリケートを含むことにより防錆性を向上させた防錆性に優れた電着塗料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電着塗料は、塗装作業性が優れることなどから自動車ボディなどの導電性金属製品の下塗り塗料として広く使用されている。
【0003】
従来の電着塗料には、防錆性を向上させるために鉛化合物やクロム化合物からなる防錆顔料が配合されている。しかし、鉛化合物やクロム化合物は人体や環境にとって非常に有害な物質であるため、その使用には問題がある。そこで、有害物質を用いずに防錆性に優れた電着塗料を製造することが課題となっている。
【0004】
この課題に対し、特許文献1では、ビスマス化合物でコーティングされた顔料を用いることが提案されている。また特許文献2および3では、アルミニウム、カルシウムまたは亜鉛のリンモリブデン酸塩と水溶性セリウム(III)塩とを塗料に加えること、および銅化合物とセリウム化合物とを塗料に加えることがそれぞれ提案されている。さらに特許文献4には、亜リン酸の2価あるいは3価の金属塩を防錆顔料として用い、それを所定の基剤樹脂および硬化剤と組み合わせることにより防錆性を向上させた電着塗料が得られることが開示されている。しかし、これらの電着塗料の防錆性は未だ満足できるものではなく、さらに防錆性を向上させた電着塗料が求められている。
【0005】
一方、特許文献5には、塗料の安定性や塗装外観を維持しつつ、塗料に含まれる不純物により生じるクレーターの形成に対して耐性を示す電着塗料が記載されている。特許文献5に記載の電着塗料は、スメクタイト粘土鉱物などの層状シリケートをカチオン基含有重合体などを用いて剥離することにより得られる剥離シリケートを含むものである。特許文献5において、剥離シリケート材料は(i)乳酸などの酸による層状シリケートの処理、(ii)カチオン基含有重合体などを用いた剥離、(iii)さらなる酸を用いた処理といった多段階の工程により製造されている。なお、特許文献5には、得られた電着塗料の防錆性については言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−32919号公報
【特許文献2】特開平8−53637号公報
【特許文献3】特開平8−53638号公報
【特許文献4】特開平9−241546号公報
【特許文献5】特表2002−537437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
被塗装物における錆の発生を防ぐには、塗膜により被塗装物を水や酸素から遮断する必要がある。特許文献5に記載されている層状シリケートのようなフレーク状の材料を電着塗料に混合することで、該フレーク状の材料が塗膜中で層を形成して水や酸素の侵入を防ぎ、防錆性が向上することが期待される。しかしながら、層状シリケートを無処理のまま電着塗料に添加すると、例えば層状シリケートとしてNa型モンモリロナイトを使用した場合には、層間に含まれるNaがアルカリ金属として作用してpHが上昇し、塗料に含まれる樹脂を凝集させてしまうという問題が生じる。特許文献5に記載されているような多段階の工程により層状シリケートを処理することで凝集の問題を解決することはできるが、そのような多段階の工程はコスト高に繋がるため好ましくない。従って、簡便に層状シリケートを電着塗料中に添加可能な状態に加工できる方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上述したような問題を検討した結果、層状シリケートの酸処理を最適化することにより、酸処理のみで層状シリケートを電着塗料に添加可能な状態にできることを見出した。
【0009】
本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)層状シリケートを含む電着塗料の製造方法であって、0.01N〜1Nのギ酸水溶液と層状シリケートとを混合した後48時間以上静置する工程と、得られた層状シリケート分散液を樹脂と混合する工程とを含む、前記方法。
(2)層状シリケートがNa型モンモリロナイトである、(1)に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、層状シリケートを単にギ酸水溶液で処理するだけで、層状シリケートを含む電着塗料を製造することができる。得られた層状シリケートを含む電着塗料は優れた防錆性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】電着塗料の製造過程を表したフロー図である。
【図2】製造したナノフレーク分散溶液の所定時間経過後の外観を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に電着塗料の製造過程を表したフロー図を示す。電着塗料は、樹脂エマルションに顔料分散ペーストを添加し、必要に応じて有機溶剤、界面活性剤、表面調整剤、はじき防止剤などの添加物を配合し、脱イオン水などで希釈することにより調製される。顔料分散ペーストは、顔料分散樹脂と顔料ならびに脱イオン水を混合して調製される。樹脂エマルションは、基体樹脂と硬化剤を混合し、これをギ酸、酢酸、乳酸などの水溶性有機酸で中和し、さらに脱イオン水中に水溶化または水分散化することによって調製される。このように、本発明の電着塗料の製造方法は、樹脂エマルションを調製する工程、顔料分散ペーストを調製する工程、樹脂エマルションと顔料分散ペーストを混合して電着塗料を調製する工程を含む。本発明の電着塗料はアニオン電着塗料およびカチオン電着塗料のいずれとしても用いることができるが、カチオン電着塗料として用いることが好ましい。
【0013】
本発明の電着塗料の製造方法は、樹脂エマルションを調製する工程、あるいは樹脂エマルションと顔料分散ペーストを混合して電着塗料を調製する工程において、層状シリケート分散液を添加することを特徴とする。すなわち、本発明の電着塗料の製造方法は、少なくとも層状シリケート分散液を樹脂と混合する工程とを含む。層状シリケート分散液は、樹脂エマルションを調製する工程、あるいは樹脂エマルションと顔料分散ペーストを混合して電着塗料を調製する工程において用いられる脱イオン水の代替物として用いることが好ましい。
【0014】
層状シリケートとは、厚さ約1nm、長さ約100〜500nmのシリケート層が積層された構造を有し、更に、シリケート層間に、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオンなどが存在している材料であって、水などの膨潤剤が上記カチオンと静電和(水和)することより、密に積層された状態から層間距離を広げて膨潤する性質を有するものである。層状シリケートの具体例としては、例えば、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロライト、ヘクトライト、サポナイトなどのスメクタイト、あるいはバーミキュライト、ハロサイト、マイカなどが挙げられる。本発明で用いる層状シリケートとしては、これらのうちモンモリロナイトが最も好ましい。さらにモンモリロナイトの中でも層間にNaを含むNa型モンモリロナイトがより好ましい。
【0015】
本発明における層状シリケート分散液は、以下のように調製する。まず、脱イオン水にギ酸を加え、0.01N〜1Nのギ酸水溶液を調製する。ギ酸水溶液の濃度は0.01Nが最も好ましい。次に、得られたギ酸水溶液に層状シリケートを添加し、攪拌する。層状シリケートの添加量はギ酸水溶液の1質量%程度が好ましい。層状シリケートが攪拌により十分に水溶液中に分散したのを確認し、攪拌を止めて水溶液を静置する。得られた水溶液を48時間以上静置したものを、本発明における層状シリケート分散水溶液として使用することができる。静置は720時間以上継続するとより好ましい。このようにして得られた層状シリケート分散水溶液は、電着塗料に添加しても、電着塗料に含まれる樹脂を凝集させることがない。
【0016】
本発明において、得られた層状シリケート分散液と混合する樹脂とは、樹脂エマルションを構成する基体樹脂あるいは顔料分散ペーストを構成する顔料分散樹脂を意味する。
【0017】
基体樹脂としては、電着塗料の基体樹脂として通常使用されているものを用いることができる。例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリブタジエン樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。特に、エポキシ樹脂にアミノ基含有化合物を付加反応させて得られるアミン付加エポキシ樹脂が、防食性と合金化溶融メッキ鋼板上の電着塗装適性との両立の観点から好適である。上記アミン付加エポキシ樹脂としては、例えば、(1)エポキシ樹脂に、第1級モノ−及びポリアミン、第2級モノ−及びポリアミン又は第1、2級混合ポリアミンを付加させたもの(例えば、米国特許第3,984,299号明細書参照)、(2)エポキシ樹脂に、ケチミン化された第1級アミノ基を有する第2級モノ−及びポリアミンを付加させたもの(例えば、米国特許第4,017,438号明細書参照)、(3)エポキシ樹脂とケチミン化された第1級アミノ基を有するヒドロキシ化合物とのエーテル化により得られる反応物(例えば、特開昭59−43013号公報参照)などを挙げることができる。
【0018】
顔料分散樹脂としては、電着塗料用の一般的なものを使用することができる。例えば水酸基及びカチオン性基を有する基体樹脂や界面活性剤などが使用でき、さらに、3級アミン型、4級アンモニウム塩型、3級スルホニウム塩型などの樹脂が分散用樹脂として使用できる。具体例としては、エポキシ系スルホニウム塩型樹脂、エポキシ系4級アンモニウム塩型樹脂、エポキシ系3級アミン型樹脂、アクリル系4級アンモニウム塩型樹脂などが挙げられる。これらは単独で用いても、あるいは組み合わせて用いてもよい。顔料分散樹脂と顔料との質量比は、仕上り性や塗料安定性の観点から顔料分散樹脂/顔料=1/0.05〜1/50の範囲、特に1/0.5〜1/30の範囲内であることが好ましい。
【実施例】
【0019】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0020】
[実施例1]
(1)層状シリケート分散液の製造
脱イオン水に酢酸、乳酸またはギ酸を加え、それぞれの酸の0.01N、0.1Nおよび1N水溶液をそれぞれ148.5g調製した。得られた酸水溶液に、それぞれNanocor社製のモンモリロナイト(商品名:PGW、Na量:1.15mmol/g)を1.5g加え、攪拌機で1時間攪拌し、それぞれの層状シリケート分散液を得た。
【0021】
(2)層状シリケート分散液の評価
上記(1)で得た層状シリケート分散液のそれぞれについて、粘度および分散状態を経時(製造直後〜720時間後)で評価した。粘度はB型粘度計(RE−80U型粘度計,東機産業社)を用い、20℃、回転数60rpmでの粘度(mPa・s)を測定した。分散状態は目視にて評価した。各水溶液の様子を図2に示す。また評価結果を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
評価の結果、酸種としてはギ酸が良好であり、酸濃度は0.01N、攪拌後の経過時間は720時間が良好であることがわかった。なお、720時間以上では変化はみられなかった。この結果より、0.01Nのギ酸を用いた場合では、攪拌後、最低48時間以上放置する必要があると考察された。
【0024】
次に、ギ酸濃度と攪拌後の放置時間を変えて評価した。その結果を表2に示す。
【0025】
【表2】

【0026】
評価の結果、ギ酸濃度が0.001N以下では分散状態は良化しないことがわかった。
【0027】
[実施例2]
(1)基体樹脂の製造
温度計、還流冷却器および攪拌機を備えた内容積2リットルのセパラブルフラスコに、jER828EL(エポキシ樹脂,ジャパンエポキシレジン社)1010部、ビスフェノールA390部およびジメチルベンジルアミン0.2部を加え、130℃でエポキシ当量が800になるまで反応させた。次に、ジエタノールアミン160部及びジエチレントリアミンのケチミン化物65部を加え、120℃で4時間反応させた後、エチレングリコールモノブチルエーテル355部を加え、樹脂固形分80質量%の基体樹脂溶液を得た。
【0028】
(2)硬化剤の製造
反応容器中に、コスモネートM−200(クルードMDI,三井化学社)270部およびメチルイソブチルケトン130部を加え70℃に昇温した。この中にエチレングリコールモノブチルエーテル240部を1時間かけて滴下して加えた。その後、100℃に昇温し、この温度を保ちながら経時でサンプリングし、赤外線吸収スペクトル測定にて未反応のイソシアナート基の吸収がなくなったことを確認し、固形分が80質量%の硬化剤を得た。
【0029】
(3)樹脂エマルションの製造
上記(1)で得た樹脂固形分80質量%の基体樹脂溶液87.5部(固形分70部)、上記(2)で得た硬化剤33.3部(固形分30部)および10%酢酸水溶液13部を配合し、均一に攪拌した後、強く攪拌しながら脱イオン水160.2部を約15分かけて滴下し、固形分34質量%のカチオン電着塗料用樹脂エマルションを得た。
【0030】
(4)層状シリケート分散液の製造
脱イオン水に酢酸、乳酸またはギ酸を加え、それぞれの酸の0.1N水溶液をそれぞれ297g調製した。得られた酸水溶液に、それぞれNanocor社製のモンモリロナイト(商品名:PGW、Na量:1.15mmol/g)を3.0g加え、攪拌機で1時間攪拌し、それぞれの0.01質量%の層状シリケート分散液を得た。
【0031】
(5)塗料の製造および評価
・製造例1
上記(3)で製造した34%のエマルションを285部(固形分97部)、ギ酸を用いて分散した0.01質量%の層状シリケート分散液を300部(固形分3部)加え、塗料No.1を得た。
【0032】
・比較例1
上記(3)で製造した34%のエマルションを285部(固形分97部)、酢酸を用いて分散した0.01質量%の層状シリケート分散液を300部(固形分3部)加え、塗料No.2を得た。
【0033】
・比較例2
上記(3)で製造した34%のエマルションを285部(固形分97部)、乳酸を用いて分散した0.01質量%の層状シリケート分散液を300部(固形分3部)加え、塗料No.3を得た。
【0034】
・比較例3
上記(3)の34%のエマルションを294部(固形分100部)、純水294部を加え、塗料No.4を得た。
【0035】
製造例1および比較例1〜3で得た塗料No.1〜4を用い、下記試験条件に従って試験に供した結果を表3に示す。
【0036】
【表3】

【0037】
(注1)防食性:化成処理(パルボンド#3020、日本パーカライジング社製、リン酸亜鉛処理剤)を施した冷延鋼板を被塗物として乾燥膜厚15μmとなるように電着塗装し、170℃で20分間加熱乾燥して塗板を得た。該塗板を50℃、5%食塩水に480時間浸漬し、塗膜前面に粘着テープを貼って剥がした時に、塗膜全体の面積を基準にして残存塗膜の割合(%)を測定した。
【0038】
○は、残存塗膜が10%未満である。
△は、残存塗膜が10%を超えて、20%未満である。
×は、残存塗膜が20%を超える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状シリケートを含む電着塗料の製造方法であって、0.01N〜1Nのギ酸水溶液と層状シリケートと混合した後48時間以上静置する工程と、得られた層状シリケート分散液を樹脂と混合する工程とを含む、前記方法。
【請求項2】
層状シリケートがNa型モンモリロナイトである、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−74341(P2011−74341A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−230329(P2009−230329)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】