説明

電着塗料組成物および化成処理を施していない被塗物に電着塗膜を形成する方法

【課題】化成処理を施していない被塗物であっても好適に電着塗膜を設けることができ、優れた耐食性および塗膜平滑性を有する塗膜を設けることができる、電着塗料組成物を提供すること。
【解決手段】ジルコニウム化合物(A)、アミン化樹脂(B)、硬化剤(C)および有機酸(D)を含む、電着塗料組成物であって、有機酸(D)が、アルカンスルホン酸、有機ホスホン酸、有機カルボン酸、アミノ酸、アミノカルボン酸、糖酸およびカルボキシル基含有ビニル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であり、電着塗料組成物の、樹脂固形分100gに対する酸のミリグラム当量(MEQ(A))が20〜200であり、電着塗料組成物のpHが2〜6である、電着塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化成処理を施していない被塗物であっても好適に電着塗膜を設けることができる電着塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電着塗装は、複雑な形状を有する被塗物であっても細部にまで塗装を施すことができ、自動的かつ連続的に塗装することができるので、特に自動車車体などの大型で複雑な形状を有する被塗物の下塗り塗装方法として広く実用化されている。このような電着塗装として、カチオン電着塗装が広く用いられている。カチオン電着塗装は、カチオン電着塗料組成物中に被塗物を陰極として浸漬させ、電圧を印加することにより行われる塗装方法である。
【0003】
カチオン電着塗装の前において、被塗物に、リン酸亜鉛化成処理などの化成処理を施すことが多い。この化成処理を施すことによって、耐食性および付着性を向上させることができる。しかしながら、リン酸亜鉛化成処理において用いられる化成処理組成物は、金属イオン濃度が高く、非常に反応性が強いため、排水処理にコストがかかるなど、経済性、作業性の観点から好ましくない。更に、リン酸亜鉛系の化成処理組成物による化成処理においては、金属の表面処理に伴って水に不溶な塩類が生成し、化成処理槽内部に沈殿として析出する。このような沈殿物は一般にスラッジと呼ばれ、スラッジの除去・廃棄に伴うコストの発生が問題視されている。また、リン酸イオンは河川や海洋の富栄養化をもたらすなど、環境に対する負荷を与えるおそれがある。加えて、リン酸亜鉛系の化成処理組成物による表面処理においては、事前に表面調整を行うことが必要であり、表面処理の工程が複雑かつ長くなるという生産効率上の問題点もあった。
【0004】
このようなリン酸亜鉛系の化成処理組成物の代わりに、ジルコニウム系の化成処理組成物を用いる方法が検討されつつある。そして、近年におけるさらなる塗装コスト削減の要請により、リン酸亜鉛系の化成処理組成物またはジルコニウム系の化成処理組成物を用いた化成処理を施していない被塗物に電着塗装する場合であっても、耐食性および付着性に優れた電着塗膜を形成することができる、電着塗装方法の開発までもが求められている。
【0005】
特開2008−196043号公報(特許文献1)には、金属基材に、皮膜形成剤(I)を少なくとも2段階の多段階方式で塗装することによって皮膜を形成する方法であって、皮膜形成剤(I)が、ジルコニウム化合物、チタン、コバルト、バナジウム、タングステン、モリブデン、銅、インジウム、亜鉛、アルミニウム、ビスマス、イットリウム、ランタノイド金属、アルカリ金属およびアルカリ土類金属から選ばれる金属(a)の化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(A)を合計金属量(質量換算)で30〜5,000ppmと、樹脂成分(B)1〜40質量%を含んでなり、工程(1):皮膜形成剤(I)の槽に金属素材を通電することなく1〜600秒間浸漬する工程、および、工程(2):皮膜形成剤(I)の槽中で、該浸漬された金属素材に50〜400Vで60〜240秒間通電する工程、を有することを特徴とする表面処理皮膜の形成方法が記載されている(請求項1など)。この方法は、上記の通り特定の条件下で通電塗装を行うことを特徴としている。一方で本発明の電着塗料組成物は、有機酸(D)を含む点において、特許文献1に記載された皮膜形成剤(I)とは構成が異なる。
【0006】
特開2008−274392号公報(特許文献2)には、金属基材に、皮膜形成剤を少なくとも2段階の多段通電方式で塗装することによって皮膜を形成する方法であって、(i)皮膜形成剤が、ジルコニウム化合物と、必要に応じて、チタン、コバルト、バナジウム、タングステン、モリブデン、銅、亜鉛、インジウム、アルミニウム、ビスマス、イットリウム、ランタノイド金属、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種の金属(a)を含有する化合物とを合計金属量(質量換算)で30〜20,000ppmと、樹脂成分1〜40質量%とを含んでなり、(ii)金属基材を陰極として1段目の塗装を1〜50Vの電圧(V1)で10〜360秒間通電することにより行い、次いで、金属基材を陰極として2段目以降の塗装を50〜400Vの電圧(V2)で60〜600秒間通電することにより行い、そして(iii)電圧(V2)と電圧(V1)の差が少なくとも10Vであることを特徴とする表面処理皮膜の形成方法、が記載されている(請求項1など)。この方法は、上記の通り特定電圧下で2段階通電塗装を行うことを特徴としている。しかしながら、例えば大型で複雑な形状を有する被塗物を塗装する場合においては、全部位において通電条件を一定に保つことが困難であり、均一な塗膜を形成することが難しいという問題がある。
【0007】
特開2008−115451号公報(特許文献3)には、皮膜形成剤の総質量に対して、ジルコニウム化合物と、必要に応じて、チタン、コバルト、バナジウム、タングステン、モリブデン、亜鉛、アルミニウム、ビスマス、イットリウム、ランタノイド金属、アルカリ金属およびアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種の金属(a)の金属化合物(A)を合計金属量(質量換算)で30〜5,000ppmと、樹脂成分(B)1〜40質量%および界面活性剤(C)0.1〜10質量%および水を含むことを特徴とする皮膜形成剤が記載されている。一方で、この皮膜形成剤は界面活性剤(C)が含まれる点において、本発明の電着塗料組成物とは、発明の構成が異なる。
【0008】
特開2008−88553号公報(特許文献4)には、ジルコニウムイオンおよび/またはチタンイオンと、(A)ケイ素含有化合物、(B)密着付与金属イオン、および(C)密着付与樹脂からなる群より選択される少なくとも一種の密着性付与剤と、を含有する表面処理用組成物を用いて、金属基材を表面処理して防錆皮膜を形成させる金属基材の表面処理工程と、後処理工程と、からなる金属表面処理方法が記載されている(請求項1など)。この方法は、カチオン電着塗装に先立って行われる金属基材の表面処理方法であり、その後にカチオン電着塗装が行われる点において、本発明とは、発明の構成が異なる。
【0009】
特開2009−114468号公報(特許文献5)には、化成処理を施していない被塗物に、カチオン電着塗料組成物を電着塗装して電着塗膜を形成し、得られた電着塗膜を加熱硬化させて硬化電着塗膜を得る工程、を包含する、電着塗膜形成方法であって、該電着塗膜形成工程で用いられるカチオン電着塗料組成物は、(a)モリブデン酸、および、(b)亜鉛、セリウム、ビスマス、ジルコニウムおよびイットリウムからなる群から選択される金属または金属酸化物、から構成され、成分(a)および(b)の金属元素重量比率
(a):(b)が1:99〜50:50である、錯塩、複塩または混合化合物、を含む、カチオン電着塗料組成物である、電着塗膜形成方法、が記載されている(請求項1など)。この方法で用いられる電着塗料組成物に含まれる成分は、上記成分(a)および(b)が特定の割合で含まれる錯塩、複塩または混合化合物である点において、本発明とは発明の構成が異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−196043号公報
【特許文献2】特開2008−274392号公報
【特許文献3】特開2008−115451号公報
【特許文献4】特開2008− 88553号公報
【特許文献5】特開2009−114468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、化成処理を施していない被塗物であっても好適に電着塗膜を設けることができ、優れた耐食性および塗膜平滑性を有する塗膜を設けることができる、電着塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、
ジルコニウム化合物(A)、アミン化樹脂(B)、硬化剤(C)および有機酸(D)を含む、電着塗料組成物であって、
この有機酸(D)が、アルカンスルホン酸、有機ホスホン酸、有機カルボン酸、アミノ酸、アミノカルボン酸、糖酸およびカルボキシル基含有ビニル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であり、該電着塗料組成物の、樹脂固形分100gに対する酸のミリグラム当量(MEQ(A))が20〜200であり、
該電着塗料組成物のpHが2〜6である
電着塗料組成物、を提供するものであり、これにより上記課題が解決される。
【0013】
上記電着塗料組成物は、さらに、亜鉛化合物、ビスマス化合物およびアルミニウム錯体からなる群から選択される1種またはそれ以上である硬化触媒(E)を含み、および上記電着塗料組成物が実質的に錫化合物および鉛化合物の何れも含まないものであるのが、より好ましい。
また、上記アミン化樹脂(B)は、数平均分子量が1,000〜5,000であり、アミン価が30〜100mgKOH/gであり、かつ、水酸基価が50〜350mgKOH/gであり、上記硬化剤(C)がブロックイソシアネート硬化剤であり、上記アミン化樹脂(B)と、上記ブロックイソシアネート硬化剤とが、電着塗膜中において加熱硬化時に反応した場合における理論残存水酸基価が30〜300mgKOH/gであり、下記数式に示される、この理論残存水酸基価の濃度と、電着塗料組成物中におけるアミン化樹脂(B)およびブロックイソシアネート硬化剤の固形分濃度(質量%)の合計に対する電着塗料組成物中におけるジルコニウム化合物(A)のジルコニウム金属換算濃度(質量%)との比率(R)が、4,000<R<400,000の関係を満たすのが、より好ましい。
【数1】

【0014】
また、上記有機酸(D)が、乳酸およびメタンスルホン酸からなる群から選択される少なくとも1種であるのがより好ましい。
【0015】
また、上記硬化触媒(E)が亜鉛化合物であって、この亜鉛化合物が、カチオン分散剤で分散された、体積平均粒子径D50が3μm以下であるリン酸亜鉛であるのが、より好ましい。
【0016】
また、電着塗料組成物に対する上記ジルコニウム化合物(A)の固形分含有量は、ジルコニウム金属元素換算で0.001〜1質量%であり、ジルコニウム化合物(A)に対する有機酸(D)の量が0.1〜1当量であるのが、より好ましい。
【0017】
また、上記電着塗料組成物が、さらにアミノシラン化合物(F)を含むのが、より好ましい。
【0018】
本発明はさらに、化成処理を施していない被塗物に、上記電着塗料組成物を電着塗装して電着塗膜形成し、得られた電着塗膜を加熱硬化させて硬化電着塗膜を得る工程を包含する、化成処理を施していない被塗物に電着塗膜を形成する方法も提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の電着塗料組成物を用いることによって、化成処理を施していない被塗物に対して電着塗装を行う場合であっても、耐食性に優れた塗膜が得られるという利点がある。より詳しくは、本発明の電着塗料組成物を用いることによって、被塗物に予め化成処理を施すことなく直接電着塗装を行う場合であっても、通常の塗装方法において被塗物に化成処理被膜を施した後に電着塗装して得られる塗膜と同程度またはそれ以上の耐食性を得ることができる。本発明の電着塗料組成物を用いて形成される塗膜はさらに、塗膜平滑性が高いという利点もある。本発明の電着塗料組成物を用いることによって、化成処理に関する維持管理に必要とされるコストおよび労力を削減することができる。また、被塗物に予め化成処理を施すことなく直接電着塗装を行うことができるため、塗装時間を短縮することができ、また塗装スペースを削減することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
電着塗料組成物
本発明の電着塗料組成物は、ジルコニウム化合物(A)、アミン化樹脂(B)、硬化剤(C)および有機酸(D)を含む。本発明の電着塗料組成物は、ジルコニウム化合物(A)が含まれることによって、耐食性に優れた塗膜を形成することが可能となっている。しかしながら、従来のカチオン電着塗料組成物に対して、ジルコニウム化合物を単に加える場合においては、良好な耐食性を得ることができないことが、本発明者らの実験によって確認されている。これは、従来のカチオン電着塗料組成物に対してジルコニウム化合物を単に加えたのみでは、ジルコニウム化合物と併せてアミン化樹脂も被塗物に対して析出し、アミン化樹脂に対するジルコニウム化合物の優先的な析出を確保することができないためと考えられる。ジルコニウム化合物が析出する前にアミン化樹脂が被塗物上に析出してしまう場合は、化成処理被膜を施していない被塗物に対する耐食性向上効果を得ることができない。
【0021】
本発明の電着塗料組成物は、ジルコニウム化合物(A)、アミン化樹脂(B)、硬化剤(C)および有機酸(D)を含む。このように本発明の電着塗料組成物においては、ジルコニウム化合物(A)に加えて有機酸(D)が含み、そして上記電着塗料組成物の樹脂固形分100gに対する酸のミリグラム当量(MEQ(A))が20〜200であり、pHが2〜6であることを特徴とする。そしてこれにより、アミン化樹脂に対するジルコニウム化合物の優先的な析出を確保することができ、優れた耐食性を有する硬化電着塗膜を形成することが可能となった。以下、各成分について詳述する。
【0022】
ジルコニウム化合物(A)
本発明の電着塗料組成物は、ジルコニウム化合物(A)を含む。本発明の電着塗料組成物において、このジルコニウム化合物(A)は、電着塗装される被塗物(化成処理を施していない被塗物)の表面に、他の成分(例えばアミン化樹脂(B)など)に優先して析出する成分である。本発明の電着塗料組成物は、ジルコニウム化合物(A)および有機酸(D)が含まれる。そして有機酸(D)が含まれることによって、ジルコニウム化合物(A)は、アミン化樹脂(B)に対して優先的に被塗物上に析出することとなる。ジルコニウム化合物(A)が優先的に析出することによって、被塗物に優れた耐食性が付与されることとなる。
【0023】
ジルコニウム化合物(A)として、例えば、フッ化ジルコン酸;フッ化ジルコン酸カリウム、フッ化ジルコン酸アンモニウムなどのフッ化ジルコン酸の塩;フッ化ジルコニウム;酸化ジルコニウム;硝酸ジルコニウム;炭酸ジルコニウム;硝酸ジルコニル、硫酸ジルコニル、炭酸ジルコニル、酢酸ジルコニルなどが挙げられる。ジルコニウム化合物(A)としては、フッ化ジルコン酸、硝酸ジルコニルが好ましい。
【0024】
本発明の電着塗料組成物中にジルコニウム化合物(A)が含まれることによって、被塗物に優れた耐食性が付与されることとなる。より詳しくは、有機酸(D)が含まれているためpHが低くなっている本発明の電着塗料組成物中に被塗物を浸漬すると、当該組成物中の酸成分によって、被塗物表面の金属の溶解反応が起こる。そして、被塗物の溶解反応が起こると、溶解により溶出した金属イオンがジルコニウム化合物に含まれるフッ化ジルコニウム(ZrF2−)のフッ素を引き抜くことによって、また、界面のpHが上昇することによって、ジルコニウムの水酸化物または酸化物が生成する。そして、このジルコニウムの水酸化物または酸化物が、被塗物の表面に優先的に析出すると考えられる。こうして被塗物表面上に析出したジルコニウム成分は、化学反応に由来して析出しているため、被塗物上に強固に付着することとなる。これにより優れた耐食性が得られることとなる。界面のpHが上昇することによって塗膜形成樹脂成分も析出するが、本発明の電着塗料組成物は、有機酸(D)が添加されていることにより、ジルコニウム成分に対して塗膜形成樹脂成分の方が比較的に安定であるため、ジルコニウム成分が塗膜形成樹脂成分に対して優先的に析出すると考えられる。
【0025】
本発明の電着塗料組成物に含まれるジルコニウム化合物(A)の固形分含有量は、ジルコニウム金属元素換算で0.001〜1質量%であるのが好ましい。ここで、「金属元素換算」とは、ジルコニウム化合物(A)の含有量に金属元素換算係数(金属化合物量を金属元素量に換算するための係数であり、具体的には、金属化合物中の金属元素の原子量を、金属化合物の分子量で除算した値を意味する。)を積算することにより、目的の金属元素量を求めることである。例えば、錯イオンZrF2−(分子量205)0.01質量%のジルコニウムの金属元素換算含有量は、0.01質量%×(91÷205)の計算により0.0044質量%と算出される。ジルコニウム化合物(A)の固形分含有量が、ジルコニウム金属元素換算で0.001質量%以上であることにより、被塗物に良好な耐食性を付与することができる。またジルコニウム化合物(A)の固形分含有量が1質量%以下であることにより、アミン化樹脂との凝集が抑制され安定性、耐食性、塗装性が確保される。ジルコニウム化合物(A)の固形分含有量のより好ましい範囲としては、0.005〜0.5質量%であり、さらに好ましくは0.01〜0.2質量%である。
【0026】
アミン化樹脂(B)
本発明の電着塗料組成物はアミン化樹脂(B)を含む。このアミン化樹脂(B)は、電着塗膜を構成する塗膜形成樹脂である。アミン化樹脂(B)として、樹脂骨格中のオキシラン環を有機アミン化合物で変性して得られるカチオン変性エポキシ樹脂が好ましい。一般にカチオン変性エポキシ樹脂は、出発原料樹脂分子内のオキシラン環を1級アミン、2級アミンあるいは3級アミンおよび/またはその酸塩などのアミン類との反応によって開環して製造される。出発原料樹脂の典型例は、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フェノールノボラック、クレゾールノボラックなどの多環式フェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応生成物であるポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂である。また他の出発原料樹脂の例として、特開平5−306327号公報に記載のオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂を挙げることができる。これらのエポキシ樹脂は、ジイソシアネート化合物、またはジイソシアネート化合物のイソシアネート基をメタノール、エタノールなどの低級アルコールでブロックして得られたビスウレタン化合物と、ポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂との反応によって調製することができる。
【0027】
上記出発原料樹脂は、アミン類によるオキシラン環の開環反応の前に、2官能性のポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ビスフェノール類、2塩基性カルボン酸などにより鎖延長して用いることができる。
【0028】
また同じく、アミン類によるオキシラン環の開環反応の前に、分子量またはアミン当量の調節、熱フロー性の改良などを目的として、一部のオキシラン環に対して2−エチルヘキサノール、ノニルフェノール、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテルなどのモノヒドロキシ化合物を付加して用いることもできる。
【0029】
オキシラン環を開環し、アミノ基を導入する際に使用し得るアミン類の例としては、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミンなどの1級アミン、2級アミンまたは3級アミンおよび/もしくはその酸塩を挙げることができる。また、アミノエチルエタノールアミンメチルイソブチルケチミンなどのケチミンブロック1級アミノ基含有2級アミン、ジエチレントリアミンジケチミンも使用することができる。
【0030】
アミン化樹脂(B)の数平均分子量は、1,000〜5,000であるのが好ましい。数平均分子量が1,000以上であることにより、得られる硬化電着塗膜の耐溶剤性および耐食性などの物性が良好となる。一方で、数平均分子量が5,000以下であることにより、アミン化樹脂の粘度調整が容易となって円滑な合成が可能となり、また、得られたアミン化樹脂(B)の乳化分散のハンドリング性が良好となる。アミン化樹脂(B)の数平均分子量は1,600〜3,200の範囲であるのがより好ましい。
【0031】
なお、本明細書において、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の数平均分子量である。
【0032】
アミン化樹脂(B)のアミン価は、30〜100mgKOH/gの範囲内であるのが好ましい。アミン化樹脂(B)のアミン価が30mgKOH/g以上であることにより、電着塗料組成物中におけるアミン化樹脂(B)の乳化分散安定性が良好となる。一方で、アミン価が100mgKOH/g以下であることにより、硬化電着塗膜中のアミノ基の量が適正となり、塗膜の耐水性を低下させるおそれがない。アミン化樹脂(B)のアミン価は、40〜80mgKOH/gの範囲内であるのがより好ましい。
【0033】
アミン化樹脂(B)の水酸基価は、50〜350mgKOH/gの範囲内であるのが好ましい。水酸基価が50mgKOH/g以上であることにより、硬化電着塗膜において硬化が良好となる。一方で、水酸基価が350mgKOH/g以下であることにより、硬化電着塗膜中に残存する水酸基の量が適正となり、塗膜の耐水性を低下させるおそれがない。アミン化樹脂(B)の水酸基価は、100〜300mgKOH/gの範囲内であるのがより好ましい。
【0034】
本発明の電着塗料組成物において、数平均分子量が1,000〜5,000であり、アミン価が30〜100mgKOH/gであり、かつ、水酸基価が50〜350mgKOH/gであるアミン化樹脂(B)を用いることによって、被塗物に優れた耐食性を付与することができるという利点がある。上記特徴を有するアミン化樹脂(B)を用いることによって、ジルコニウム化合物(A)を、被塗物上に優先的かつ良好に析出させることができ、これにより優れた耐食性を付与することができるという利点がある。
【0035】
なおアミン化樹脂(B)は、必要に応じて、アミノ基含有アクリル樹脂、アミノ基含有ポリエステル樹脂などを含んでもよい。
【0036】
硬化剤(C)
本発明の電着塗料組成物は、硬化剤(C)を含む。硬化剤(C)としては、電着塗装後における加熱(焼き付け)工程において、アミン化樹脂(B)を硬化させることができる成分を任意に用いることができる。硬化剤(C)として、安定性と塗装性能からブロックイソシアネート硬化剤を用いるのが好ましい。メラミン樹脂やフェノール樹脂等の有機硬化剤、シランカップリング剤、金属硬化剤でもよい。ブロックイソシアネート硬化剤は、ポリイソシアネートを、封止剤でブロック化することによって調製することができる。
【0037】
ポリイソシアネートの例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(3量体を含む)、テトラメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイシシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)などの脂環式ポリイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートが挙げられる。
【0038】
封止剤の例としては、n−ブタノール、n−ヘキシルアルコール、2−エチルヘキサノール、ラウリルアルコール、フェノールカルビノール、メチルフェニルカルビノールなどの一価のアルキル(または芳香族)アルコール類;エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテルなどのセロソルブ類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールフェノールなどのポリエーテル型両末端ジオール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールなどのジオール類と、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸などのジカルボン酸類から得られるポリエステル型両末端ポリオール類;パラ−t−ブチルフェノール、クレゾールなどのフェノール類;ジメチルケトオキシム、メチルエチルケトオキシム、メチルイソブチルケトオキシム、メチルアミルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム類;およびε−カプロラクタム、γ−ブチロラクタムに代表されるラクタム類が好ましく用いられる。
【0039】
ブロックイソシアネート硬化剤のブロック化率は100%であるのが好ましい。これにより、電着塗料組成物の貯蔵安定性が良好になるという利点がある。
【0040】
本発明の電着塗料組成物において、硬化剤(C)がブロックイソシアネート硬化剤である場合は、上記アミン化樹脂(B)と、ブロックイソシアネート硬化剤とが、電着塗膜中において加熱硬化時に反応した場合における理論残存水酸基価が30〜300mgKOH/gであることが好ましい。
ここで「理論残存水酸基価」とは、電着塗装によって得られた電着塗膜を加熱硬化させた場合において、アミン化樹脂(B)と、ブロックイソシアネート硬化剤が反応した後に塗膜中に残存することとなる、アミン化樹脂(B)に由来する水酸基価を意味する。
【0041】
また、下記数式
【数2】

に示される、該理論残存水酸基価の濃度と、電着塗料組成物中におけるアミン化樹脂(B)およびブロックイソシアネート硬化剤の固形分濃度(質量%)の合計に対する電着塗料組成物中におけるジルコニウム化合物(A)のジルコニウム金属換算濃度(質量%)との比率(R)が、4,000<R<400,000の関係を満たす関係にあるのが、より好ましい。
これは、アミン化樹脂(B)とブロックイソシアネート硬化剤とが加熱硬化により反応した後の硬化電着塗膜中において、アミン化樹脂(B)に由来する残存する水酸基と、ジルコニウム化合物(A)とが水素結合を形成し、これにより塗膜密着性が向上することに由来するためと推測される。
ブロックイソシアネート硬化剤に代表される硬化剤(C)は、アミン化樹脂(B)の1級アミンと優先的に反応し、さらに水酸基と反応して硬化する。そして、アミン化樹脂(B)とブロックイソシアネート硬化剤とが加熱硬化により反応した後の硬化電着塗膜中において、アミン化樹脂(B)に由来する残存する水酸基が、ジルコニウム化合物(A)と相互作用することで、塗膜密着性が向上すると考えられる。このため、アミン化樹脂(B)の残存水酸基価とジルコニウム化合物濃度との比率を上記の比率で制御することで、耐食性と塗膜密着性とを両立することができる。
上記比率(R)が4,000以上であることにより、残存水酸基量が十分となるためにジルコニウム化合物との水素結合が十分となって塗膜密着性が向上する。また上記比率(R)が400,000以下であることにより、硬化電着塗膜中に残存する水酸基量が適正な範囲となるために塗膜の水に対する遮断性が十分となり耐食性が良好となる。上記比率(R)の下限は20,000がより好ましく、上記比率(R)の上限は200,000がより好ましい。
アミン化樹脂(B)と、ブロックイソシアネート硬化剤とが、電着塗膜中において加熱硬化時に反応した場合における理論残存水酸基価は、アミン化樹脂(B)の水酸基価(mgKOH/g)と1級アミン価(mgKOH/g)の合計にアミン化樹脂(B)の質量の比率を乗じた数値から、硬化剤(C)のイソシアネート基価(mgKOH/g)に硬化剤(C)の質量の比率を乗じた数値を減ずることで求められる。たとえばアミン化樹脂の1級アミン価が17、水酸基価が240、硬化剤のイソシアネート基価が252mgKOH/g,硬化剤の質量に対するアミン化樹脂の質量が4倍であれば、残存水酸基価は(17+240)×0.8−(252×0.2)で155と計算される。
【0042】
有機酸(D)
本発明の電着塗料組成物は、有機酸(D)を含む。有機酸(D)として、アルカンスルホン酸、有機ホスホン酸、有機カルボン酸、アミノ酸、アミノカルボン酸、糖酸およびカルボキシル基含有ビニル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。本発明の電着塗料組成物に有機酸(D)が含まれることによって、アミン化樹脂に対する、ジルコニウム化合物(A)の優先的な析出を確保することができ、優れた耐食性を有する硬化電着塗膜を形成することができる。
【0043】
有機酸(D)としてのアルカンスルホン酸として、例えば、炭素数1〜20のアルキルスルホン酸などが挙げられる。これらのスルホン酸を形成する炭素数1〜20のアルキル基は、水酸基などの置換基を有していてもよい。好ましいアルカンスルホン酸として、例えば、メタンスルホン酸などが挙げられる。
【0044】
有機酸(D)としての有機ホスホン酸として、例えば、炭素数1〜20のアルキルホスホン酸、炭素数1〜20のアルキルビスホスホン酸、炭素数6〜20の芳香族ホスホン酸、炭素数6〜20の芳香族ビスホスホン酸などが挙げられる。これらのホスホン酸を形成する炭素数1〜20のアルキル基および炭素数6〜20の芳香族基は、水酸基などの置換基を有していてもよい。好ましい有機ホスホン酸として、例えば、1−ヒドロキシエチリデンビスホスホン酸などが挙げられる。
【0045】
有機酸(D)としての有機カルボン酸として、例えば、炭素3〜20の脂肪酸、炭素数6〜20の芳香族カルボン酸、炭素数2〜20のオキソカルボン酸、炭素数3〜20のジカルボン酸、およびその他の有機カルボン酸などが挙げられる。なおここでいう「有機カルボン酸」には、後述するアミノカルボン酸には含まれないものとする。
炭素数3〜20の脂肪酸として、例えば、プロピオン酸、酪酸(ブチル酸) 、2,2−ジメチルプロピオン酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸などが挙げられる。
炭素数6〜20の芳香族カルボン酸として、例えば、サリチル酸、没食子酸、安息香酸、フタル酸、ケイ皮酸などが挙げられる。
炭素数2〜20のオキソカルボン酸、炭素数3〜20のジカルボン酸およびその他の有機カルボン酸として、例えば、ピルビン酸、シュウ酸、乳酸、酒石酸、マレイン酸、フマル酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸、アコニット酸、グルタル酸、アジピン酸などが挙げられる。これらの中でも、2,2−ジメチルプロピオン酸、乳酸などが好ましい。
【0046】
有機酸(D)としてのアミノ酸として、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、プロリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファンなどが挙げられる。これらの中でも、アスパラギン酸およびグリシンが好ましい。
【0047】
有機酸(D)としてのアミノカルボン酸は、分子中にアミノ基とカルボキシル基を有する酸である。アミノカルボン酸として、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DPTA)、トリエチレンテトラアミン六酢酸などが挙げられる。
【0048】
有機酸(D)としての糖酸は、単糖を酸化して得られる、カルボキシル基を有する糖誘導体である。糖酸として、例えば、アルドン酸(グルコン酸、ガラクトン酸、マンノン酸など)、ウロン酸(グルクロン酸、ガラクツロン酸、マンヌロン酸など)、アルダル酸(グルカル酸、ガラクタル酸、マンナル酸など)、イズロン酸、グリセリン酸、シアル酸、トレオン酸、パンガミン酸、アスコルビン酸、ムラミン酸、ラクトビオン酸などが挙げられる。
【0049】
有機酸(D)としてのカルボキシル基含有ビニル樹脂として、例えば、カルボキシル基含有ポリビニルアルコール樹脂などが挙げられる。カルボキシル基含有ポリビニルアルコール樹脂は、例えば、ポリビニルアルコールの調製手順において、酢酸ビニルモノマーと併せてアクリル酸などのモノマーを共重合し、次いで、得られたポリ酢酸ビニルを加水分解する方法などによって製造することができる。
【0050】
これらの有機酸(D)のうち、アルカンスルホン酸、有機ホスホン酸、有機カルボン酸および/またはアミノ酸を用いるのがより好ましい。またこれらの有機酸の中でも、カルボキシル基などの酸基を1つのみ有するものがさらに好ましい。有機酸(D)として、メタンスルホン酸または乳酸を用いるのが特に好ましい。メタンスルホン酸または乳酸を有機酸(D)として用いる場合は、電着塗料組成物の電気伝導度を下げずに電着塗料組成物のpHを有意に下げることができるため、付きまわり性などの他の性能に悪影響を与えることなくジルコニウム化合物(A)の被塗物に対する析出性を良好に向上させることができ、さらに有機酸(D)自体の被塗物に対する吸着を伴わないという利点がある。
【0051】
本発明においては、上記有機酸(D)は、上記ジルコニウム化合物(A)に対して有機酸の配位性官能基が0.1〜10当量となる量で用いられるのが好ましい。本発明で用いられる有機酸(D)の配位性官能基とは、カルボキシル基、スルホン基、およびホスホン基である。本発明で用いられる有機酸(D)の配位性官能基として複数の官能基が存在する場合は、その総量が上記ジルコニウム化合物(A)に対して0.1〜10当量であることが好ましい。
有機酸(D)としてアルカンスルホン酸または有機ホスホン酸が含まれる場合は、アルカンスルホン酸または有機ホスホン酸が有するスルホン基またはホスホン基の当量数と、ジルコニウム化合物(A)のジルコニウムの当量数との比率が0.1:1〜10:1となる量で、電着塗料組成物中に含有されるのが好ましい。
有機酸(D)として有機カルボン酸、アミノ酸、アミノカルボン酸、糖酸および/またはカルボキシル基含有ビニル樹脂が含まれる場合は、これらの成分が有するカルボキシル基の当量数と、ジルコニウム化合物(A)のジルコニウムの当量数との比率が0.1:1〜10:1となる量で、電着塗料組成物中に含有されるのが好ましい。
【0052】
ジルコニウム化合物(A)に対する有機酸(D)の量が、電着塗料組成物において、0.1当量未満であると、有機酸が十分でなく、塗装外観悪化、安定性低下、耐食性低下が懸念される。一方10当量を超えると有機酸が過剰となり、ジルコニウムの基材析出が阻害され、耐食性が低下する懸念がある。
【0053】
本発明の電着塗料組成物においては、電着塗料組成物の調製時において、上記ジルコニウム化合物(A)および有機酸(D)を、塗料組成物中に加える前に予め混合しておくのが好ましい。
【0054】
硬化触媒(E)
本発明の電着塗料組成物は、必要に応じて、亜鉛化合物、ビスマス化合物およびアルミニウム錯体から選択される1種またはそれ以上である硬化触媒(E)を含んでもよい。従来の電着塗料組成物は、硬化触媒として一般的にジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫オキシドなどの有機錫硬化触媒が用いられている。一方でこれらの有機錫化合物は、近年、その毒性が問題視されつつあり、使用規制について検討されていることから、本発明の電着塗料組成物は有機錫硬化触媒を含有しないことが好ましい。
【0055】
本発明においては、亜鉛化合物およびビスマス化合物から選択される1種またはそれ以上である硬化触媒(E)を用いることによって、被塗物に対するジルコニウム化合物の析出性を妨げることなく、電着塗膜の硬化性能を向上させることができる。硬化触媒(E)としての亜鉛化合物として、例えば、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、酢酸亜鉛、乳酸亜鉛、硝酸亜鉛、リン酸亜鉛、などが挙げられる。硬化触媒(E)としての亜鉛化合物としてリン酸亜鉛が好ましい。
【0056】
硬化触媒(E)としてのビスマス化合物として、例えば、水酸化ビスマスまたは酸化ビスマスと、乳酸、メタンスルホン酸、DMPA(ジメチルプロピオン酸)またはグルコン酸などの有機酸とを予め混合して得られる、有機酸のビスマス塩などが挙げられる。硬化触媒(E)としてのビスマス化合物として、乳酸ビスマス、DMPAのビスマス塩が好ましい。なお、この硬化触媒(E)としてのビスマス化合物の一例である乳酸ビスマスまたはDMPAのビスマス塩を構成する乳酸およびDMPAは、上述の有機酸(D)には含まれないものとする。ビスマス化合物を構成する乳酸およびDMPAは、ビスマスのカウンターアニオンとして存在しているため、有機酸において必要とされる配位能力を有していないためである。
【0057】
硬化触媒(E)としてのアルミニウム錯体として、フッ化アルミニウム錯体が挙げられる。このフッ化アルミニウム錯体は、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウムまたは水酸化アルミニウムなどのアルミニウム化合物を電着塗料組成物中に加えることによって生成する錯体であってもよい。電着塗料組成物に、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウムまたは水酸化アルミニウムなどのアルミニウム化合物を加えることによって、これらのアルミニウム化合物と、フッ化ジルコニウムのフッ素とが反応して、電着塗料組成物中においてフッ化アルミニウム錯体が形成される。そしてこの反応によって、ジルコニウム化合物(A)に由来する、ジルコニウムの水酸化物または酸化物の被塗物に対する析出が促進され、塗膜の耐食性が向上するという利点がある。
【0058】
硬化触媒(E)としての亜鉛化合物としては、カチオン分散剤で分散された、体積平均粒子径D50が3μm以下であるリン酸亜鉛であることが好ましい。上記平均粒子径D50(体積50%径)は、例えば、レーザードップラー式粒度分析計(日機装社製、「マイクロトラックUPA150」)等の粒度測定装置を用いて測定することができる。カチオン分散剤で分散された亜鉛化合物の体積平均粒子径D50は、顔料分散ペーストの安定性が良好となることから、0.05μm以上であることが好ましい。
【0059】
亜鉛化合物の分散に用いることができるカチオン分散剤として、例えば、4級アンモニウム基、3級スルホニウム基および1級アミン基から選択される少なくとも1種またはそれ以上を有する変性エポキシ樹脂などの、カチオン基を有する分散樹脂、そしてアミノシラン化合物などが挙げられる。このカチオン分散剤として、例えば、1級アミン基を有する分散樹脂であることがより好ましく、1級アミン基を有するアミノシラン化合物であるのが特に好ましい。カチオン分散剤として用いることができるアミノシラン化合物として、例えば下記に例示されるアミノシラン化合物(F)が挙げられる。
【0060】
電着塗料組成物において硬化触媒(E)を用いる場合の含有量は、電着塗料組成物の全質量に対して硬化触媒(E)を構成する金属の元素換算で0.001〜0.5質量%であるのが好ましい。硬化触媒(E)の含有量が0.001質量%以上であることにより、十分な硬化触媒添加効果が得られる。一方、硬化触媒(E)の含有量が0.5質量%以下であることにより、含有量に応じた耐食性向上の効果が得られ、経済的に有利である。
【0061】
アミノシラン化合物(F)
本発明の電着塗料組成物は、アミノシラン化合物(F)を含むのが好ましい。アミノシラン化合物(F)として、1分子中に少なくとも1つのアミノ基を有するアミノシラン、およびアミノシランの加水分解縮合物が挙げられる。
【0062】
1分子中に少なくとも1つのアミノ基を有するアミノシランの具体例として、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、およびN−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩などを挙げることができる。これらの化合物は金属基材への吸着と電着塗膜への密着性に優れるため、塗装後の耐食性を向上させる。市販されているアミノ基含有シランカップリング剤である「KBM−602」、「KBM−603」、「KBE−603」、「KBM−903」、「KBE−903」、「KBE−9103」、「KBM−573」、「KBP−90」(いずれも商品名、信越化学工業社製)、および「XS1003」(商品名、チッソ社製)などを使用することができる。
【0063】
アミノシラン化合物(F)として、アミノシランの加水分解縮合物を用いることもできる。アミノシランの加水分解縮合物を用いることによって、被塗物に対する電着塗膜の密着性を向上させることができるという利点がある。アミノシランの加水分解縮合物の分子量は特に限定されないが、高分子量のものが、被塗物上に析出したジルコニウムの水酸化物または酸化物に取り込まれやすい傾向にあるため、好ましい。アミノシランを加水分解縮合反応させる際には、アミノシランがより加水分解しやすく、縮合しやすい条件下で反応させることが好ましい。アミノシランがより加水分解しやすく、縮合しやすい条件下とは、例えば、溶媒をアルコールとした反応条件、上述したような単縮合よりも共縮合となるようなアミノシランの配合による反応条件などである。また、アミノシラン濃度が比較的高い条件下で反応させることによって、より高分子量化された縮合率の高い条件下で加水分解縮合物が得られる。具体的にはアミノシラン濃度が5質量%以上50質量%以下の範囲で縮合させることが好ましい。また、上記アミノシランは、必要に応じて、エポキシシラン「KBM−403」(商品名、信越化学工業社製)などアミノ基を有さないアルコキシシランと共縮合させてもよい。
【0064】
電着塗料組成物にアミノシラン化合物(F)が含まれることによって、アミノシラン化合物(F)が有するアミノ基の作用により、ジルコニウム化合物(A)の析出を促進し、かつ、析出したジルコニウム化合物(A)の密着性を向上させると考えられる。
【0065】
本発明の電着塗料組成物において、アミノシラン化合物(F)を用いる場合は、電着塗料組成物の全質量に対するアミノシラン化合物(F)の質量が0.001〜0.5質量%の範囲内であるのが好ましい。アミノシラン化合物(F)の含有量が0.001質量%以上であることにより、アミノシラン化合物(F)を用いることによる効果が得られる。また、アミノシラン化合物(F)の含有量が0.5質量%以下であることにより、含有量に応じた耐食性向上の効果が得られ、経済的に有利となる。アミノシラン化合物(F)を硬化触媒(E)用のカチオン分散剤やpH調整剤としても使用する場合は、それらを含めた全量が上記範囲内となることが好ましい。
【0066】
その他の成分
顔料
本発明の電着塗料組成物は、電着塗料組成物において通常用いられる顔料を含んでもよい。使用できる顔料の例としては、通常使用される無機顔料、例えば、チタンホワイト、カーボンブラックおよびベンガラのような着色顔料;カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカおよびクレーのような体質顔料;リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛、シアン化亜鉛、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、およびリンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛のような防錆顔料など、が挙げられる。電着塗料組成物中にこれらの顔料が含まれる場合の顔料の量は、電着塗料組成物の樹脂固形分に対して1〜30質量%であるのが好ましい。
【0067】
顔料を電着塗料の成分として用いる場合、一般に顔料を予め高濃度で水性溶媒に分散させてペースト状(顔料分散ペースト)にする。顔料は粉体状であるため、電着塗料組成物で用いる低濃度均一状態に一工程で分散させるのは困難だからである。一般にこのようなペーストを顔料分散ペーストという。
【0068】
顔料分散ペーストは、顔料を顔料分散樹脂と共に水性溶媒中に分散させて調製する。顔料分散樹脂として、4級アンモニウム基、3級スルホニウム基および1級アミン基から選択される少なくとも1種またはそれ以上を有する変性エポキシ樹脂などの、カチオン基を有する顔料分散樹脂を用いることができる。水性溶媒としてはイオン交換水や少量のアルコール類を含む水などを用いる。一般に、顔料分散樹脂は、顔料100質量部に対して固形分比20〜100質量部の量で用いる。顔料分散樹脂と顔料とを混合した後、その混合物中の顔料の粒径が所定の均一な粒径となるまで、ボールミルやサンドグラインドミルなどの通常の分散装置を用いて分散させて、顔料分散ペーストを得ることができる。
【0069】
他の添加剤
本発明の電着塗料組成物は、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテルなどの有機溶媒、乾き防止剤、消泡剤等の界面活性剤、アクリル樹脂微粒子等の粘度調整剤、はじき防止剤、バナジウム塩、銅、鉄、マンガン、マグネシウム、カルシウム塩等の無機防錆剤、等の慣用の塗料用添加剤を必要に応じて添加しても良い。またこれら以外に、目的に応じて公知の補助錯化剤、緩衝剤、平滑剤、応力緩和剤、光沢剤、半光沢剤、可塑剤、酸化防止剤、および紫外線吸収剤等を配合してもよい。
【0070】
他の塗膜形成樹脂成分
本発明の電着塗料組成物は、上記アミン化樹脂(B)以外にも、他の塗膜形成樹脂成分を含んでもよい。他の塗膜形成樹脂成分として、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ブタジエン系樹脂、キシレン樹脂などが挙げられる。電着塗料組成物に含まれうる他の塗膜形成樹脂成分として、キシレン樹脂が好ましい。キシレン樹脂として、例えば、2以上10以下の芳香族環を有するキシレン樹脂が挙げられる。
【0071】
本明細書中において「樹脂固形分量」とは、電着塗料組成物中に含まれる塗膜形成樹脂の固形分全ての固形分質量を意味する。具体的には、電着塗料組成物中に含まれる、アミン化樹脂(B)、硬化剤(C)および必要に応じた他の塗膜形成樹脂成分の固形分質量の総量を意味する。
【0072】
電着塗料組成物の樹脂固形分量は、1〜30質量%であるのが好ましい。電着塗料組成物の樹脂固形分量が1質量%未満である場合は、電着塗膜析出量が少なくなり、十分な耐食性を確保することが困難となるおそれがある。また電着塗料組成物の樹脂固形分量が30質量%を超える場合は、つきまわり性や塗膜平滑性が悪くなるおそれがある。
【0073】
電着塗料組成物の調製
本発明の電着塗料組成物は、アミン化樹脂(B)および硬化剤(C)を含むエマルション、および必要に応じた顔料分散ペーストなどと、ジルコニウム化合物(A)、有機酸(D)、および必要に応じた硬化触媒(E)、アミノシラン化合物(F)などを加えて混合することによって調製することができる。
【0074】
電着塗料組成物の調製において、アミン化樹脂(B)を、中和酸を用いて中和することによって分散性を向上させエマルションを形成させる。アミン化樹脂(B)の中和に用いる中和酸として、ギ酸、酢酸、乳酸などの有機酸が用いられる。本発明においては、ギ酸を用いてアミン化樹脂(B)を中和し分散させるのがより好ましい。アミン化樹脂(B)を中和し分散させる中和酸としてギ酸を用いる場合は、被塗物に対するジルコニウム化合物(A)の析出を妨げることなく、良好な析出が確保されるという利点がある。
【0075】
使用される中和酸の量は、アミン化樹脂(B)、硬化剤(C)および必要に応じた塗膜形成樹脂を含む樹脂固形分100gに対して、10〜25mg当量の範囲であるのが好ましい。上記下限は15mg当量であるのがより好ましく、上記上限は20mg当量であるのがより好ましい。中和酸の量が10mg当量以上であることにより水への親和性が十分となり水への分散が良好となる。一方、中和酸の量が25mg当量以下であることにより、析出に要する電気量が適正となり、塗料固形分の析出性、つきまわり性が良好となる。
【0076】
硬化剤(C)の量は、硬化時にアミン化樹脂(B)中の1級、2級アミノ基、水酸基、などの活性水素含有官能基と反応して良好な硬化塗膜を与えるのに十分な量が必要とされる。好ましい硬化剤(C)の量は、アミン化樹脂(B)と硬化剤(C)との固形分質量比(アミン化樹脂(B)/硬化剤(C))で表して90/10〜50/50、より好ましくは80/20〜65/35の範囲である。アミン化樹脂(B)と硬化剤(C)との固形分量比の調整により、造膜時の塗膜(析出膜)の流動性および硬化速度が改良され、塗膜の平滑性が向上する。
【0077】
電着塗料組成物は、アミン化樹脂(B)、硬化剤(C)および必要に応じた他の塗膜形成樹脂成分を中和酸を用いて分散させた樹脂エマルション、顔料分散ペースト、そして、ジルコニウム化合物(A)、有機酸(D)、および必要に応じた硬化触媒(E)、アミノシラン化合物(F)などを加えて混合することによって調製することができる。有機酸(D)は樹脂エマルションと顔料分散ペーストとの混合物に対して添加する。なお、硬化触媒(E)は顔料とともに分散ペーストとしてから添加してもよい。
【0078】
本発明の電着塗料組成物は、pHが2〜6の範囲内であり、かつ、電着塗料組成物の樹脂固形分100gに対するすべての酸のミリグラム当量(MEQ(A))の合計が20〜200であるのが好ましい。なお、電着塗料組成物のpHは3〜5の範囲内であるのがより好ましい。また、電着塗料組成物の樹脂固形分100gに対する酸のミリグラム当量(MEQ(A))は40〜120であるのがより好ましく、60〜120であるのがさらに好ましい。このような電着塗料組成物を用いる電着塗装において、被塗物を電着塗料組成物中に浸漬すると、ジルコニウム化合物(A)の良好なかつ優先的な析出が可能となる。より詳しくは、電着塗料組成物中に被塗物を浸漬すると、被塗物の溶解反応が起こる。そして、被塗物の溶解反応が起こると、溶解により溶出した金属イオンがジルコニウム化合物に含まれるフッ化ジルコニウム(ZrF2−)のフッ素を引き抜くことによって、また、界面のpHが上昇することによって、ジルコニウムの水酸化物または酸化物が生成する。そして、このジルコニウムの水酸化物または酸化物が、被塗物の表面に優先的に析出すると考えられる。こうして被塗物表面上に析出したジルコニウム成分は、化学反応に由来して析出しているため、被塗物上に強固に付着することとなる。これにより優れた耐食性が得られることとなるという利点がある。
【0079】
なお、電着塗料組成物の樹脂固形分100gに対する酸のミリグラム当量(MEQ(A))は、中和酸量、有機酸(D)の量によって調整することができる。また、pHおよびMEQ(A)の調整において硝酸を用いてもよい。
【0080】
ここでMEQ(A)とは、mg equivalent(acid)の略であり、塗料の固形分100g当たりのすべての酸のmg当量の合計である。このMEQ(A)は、電着塗料組成物を約10g精秤し約50mlの溶剤(THF)に溶解した後、1/10NのNaOH溶液を用いて電位差滴定を行なうことによって、電着塗料組成物中の含有酸量を定量して測定することができる。電着塗料組成物のpHは、温度補償機能を有する市販のpHメーターを用いて測定できる。
【0081】
本発明の電着塗料組成物は、実質的に錫化合物および鉛化合物の何れも含まないものであるのが好ましい。本明細書において「電着塗料組成物が実質的に錫化合物および鉛化合物の何れも含まない」とは、電着塗料組成物に含まれる鉛化合物の濃度が鉛金属元素として50ppmを超えず、かつ、有機錫化合物の濃度が錫金属元素として50ppmを超えないことを意味する。本発明の電着塗料組成物においては、硬化触媒として、亜鉛化合物およびビスマス化合物から選択される1種またはそれ以上である硬化触媒(E)が好ましく用いられる。そのため、硬化触媒としての鉛化合物、有機錫化合物を用いる必要がない。これにより、実質的に錫化合物および鉛化合物の何れも含まない電着塗料組成物を調製することができる。
【0082】
電着塗装
被塗物
本発明の電着塗料組成物を塗装する被塗物として、通電可能な種々の被塗物を用いることができる。使用できる被塗物として例えば、冷延鋼板、熱延鋼板、ステンレス、電気亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、亜鉛−アルミニウム合金系めっき鋼板、亜鉛−鉄合金系めっき鋼板、亜鉛−マグネシウム合金系めっき鋼板、亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金系めっき鋼板、アルミニウム系めっき鋼板、アルミニウム−シリコン合金系めっき鋼板、錫系めっき鋼板などから構成される被塗物が挙げられる。
【0083】
本発明の電着塗料組成物は、化成処理剤を施していない被塗物を用いて塗膜形成を行うことができる。一般的な電着塗料組成物を用いる電着塗装においては、電着塗装される前の被塗物に化成処理が施される。被塗物にこの化成処理を施すことによって、形成される塗膜の耐食性を向上させ、さらに被塗物と塗膜との密着性を向上させている。電着塗装前の化成処理はこのような利点を有する一方、特にリン酸亜鉛化成処理剤を用いる場合はスラッジ発生などの問題もある。また被塗物に化成処理を施す場合は、化成処理の工程が加わり塗装工程が煩雑となり、さらに、化成処理設備を設けるコストおよび維持管理コストが発生してしまう。
【0084】
これに対して本発明の電着塗料組成物は、化成処理を施していない被塗物を用いて塗膜を形成する場合であっても、耐食性に優れた塗膜を形成できるという特徴を有している。本発明の電着塗料組成物は、被塗物に化成処理を施すことなく電着塗装する場合であっても、耐食性に優れた塗膜を形成することが可能となる。そして本発明の電着塗料組成物を用いることによって、化成処理に関する維持管理に必要とされるコストおよび労力を削減することが可能となる。
【0085】
なお、電着塗膜形成の前に、必要に応じて、被塗物に付着した防錆油、加工油などの異物を、アルカリ脱脂液および/または水洗水などを用いて除去してもよい。
【0086】
電着塗装工程
電着塗装は、被塗物を陰極として陽極との間に、通常、50〜450Vの電圧を印加して行う。印加電圧が50V未満であると電着が不充分となるおそれがあり、450Vを超えると、塗膜が破壊され異常外観となるおそれがある。電着塗装時、塗料組成物の浴液温度は、通常10〜45℃に調節される。
【0087】
電着塗装工程は、電着塗料組成物に被塗物を浸漬する過程、および、上記被塗物を陰極として陽極との間に電圧を印加し、被膜を析出させる過程、から構成される。また、電圧を印加する時間は、電着条件によって異なるが、一般には、2〜5分とすることができる。
【0088】
電着塗装工程において、電着塗料組成物に被塗物を浸漬した後、所定の浸漬時間を経た後に電圧を印加してもよい。浸漬時間として、例えば、被塗物を1〜600秒間浸漬する態様などが挙げられる。
【0089】
あるいは、電着塗装工程において、電着塗料組成物に被塗物を浸漬した後、1〜80Vの電圧で10〜360秒間通電する第1通電、および50〜450Vの電圧で60〜600秒間通電する第2通電の、2段階通電を行って塗装してもよい。
【0090】
上述のようにして得られる電着塗膜を、電着過程の終了後、そのまままたは水洗した後、120〜260℃、好ましくは140〜220℃で、10〜30分間焼付けることによって、焼き付け硬化された硬化電着塗膜が形成される。
【0091】
電着塗膜の焼き付け硬化後の膜厚は、好ましくは5〜40μm、より好ましくは10〜25μmとする。膜厚が5μm未満であると、耐食性が不充分となるおそれがある。一方40μmを超えると、塗料の浪費につながる。
【0092】
こうして形成される硬化電着塗膜は、化成処理を施していない被塗物に形成される場合であっても、耐食性に優れているという特徴を有する。本発明の電着塗料組成物を用いて形成される硬化電着塗膜は、被塗物に接する面においては、ジルコニウム化合物(A)に由来するジルコニウム成分(ジルコニウムの水酸化物または酸化物)が多く含まれており、そして被塗物に接する面とは反対側の面においては、アミン化樹脂(B)に由来する樹脂成分が多く含まれているという、塗膜の垂直方向において含有成分が局在した、傾斜塗膜が得られている。そしてこのような構成の塗膜が形成されることによって、優れた耐食性が得られると共に、塗膜平滑性の高い塗膜が得られることとなった。
【0093】
本発明の電着塗料組成物を用いることによって、化成処理を施していない被塗物に電着塗装する場合であっても、耐食性に優れた塗膜が得られるという利点がある。より詳しくは、本発明の電着塗料組成物を用いることによって、被塗物が脱脂処理され水洗された後に予め化成処理を施すことなく直接電着塗装を行う場合であっても、通常の塗装方法において被塗物に化成処理被膜を施した後に電着塗装して得られる塗膜と同程度の耐食性を得ることができる。本発明の電着塗料組成物を用いて形成される塗膜はさらに、塗膜平滑性が高い塗膜を得ることができるという利点もある。本発明の電着塗料組成物を用いることによって、化成処理に関する維持管理に必要とされるコストおよび労力を削減することができる。また、被塗物に予め化成処理を施すことなく直接電着塗装を行うことができるため、塗装時間を短縮することができ、また塗装スペースを削減することもできる。
【実施例】
【0094】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、重量基準による。
【0095】
製造例1−A アミン化樹脂(A)の製造
撹拌機、デカンター、窒素導入管、温度計および滴下ロートを備え付けた反応容器に、エポキシ当量188のビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER−331J、ダウケミカル社製)2400部とメタノール141部、メチルイソブチルケトン168部、ジブチルスズジラウレート0.5部を仕込み、40℃で撹拌し均一に溶解させた後、2,4−/2,6−トリレンジイソシアネート(80/20重量比混合物)320部を30分間かけて滴下したところ発熱し、70℃まで上昇した。これにN,N−ジメチルベンジルアミン5部を加え、系内の温度を120℃まで昇温し、メタノールを留去しながらエポキシ当量が500になるまで120℃で3時間反応を続けた。さらに、メチルイソブチルケトン644部、ビスフェノールA341部、2−エチルヘキサン酸413部を加え、系内の温度を120℃に保持し、エポキシ当量が1070g/eqになるまで反応させた後、系内の温度が110℃になるまで冷却した。ついでジエチレントリアミンジケチミン(固形分73%のメチルイソブチルケトン溶液)241部とN−メチルエタノールアミン192部の混合物を添加し、110℃で1時間反応させることにより、カチオン変性エポキシ樹脂を得た。この樹脂の数平均分子量は2,100、アミン価は74mgKOH/g(うち1級アミンに由来するアミン価は17mgKOH/g)、水酸基価は160mgKOH/gであった。また赤外吸収スペクトル等の測定から、樹脂中にオキサゾリドン環(吸収波数;1750cm−1)を有していることが確認された。
【0096】
製造例1−B アミン化樹脂(B)の製造
メチルイソブチルケトン92部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER−331J、ダウケミカル社製)940部、ビスフェノールA350部、オクチル酸95部、ジメチルベンジルアミン2部を加え、系内の温度を120℃に保持し、エポキシ当量が1170g/eqになるまで反応させた後、系内の温度が110℃になるまで冷却した。ついでジエチレントリアミンジケチミン(固形分73%のメチルイソブチルケトン溶液)82部とN−メチルエタノールアミン26部、ジエタノールアミン60部の混合物を添加し、110℃で1時間反応させることにより、アミン化樹脂(カチオン変性エポキシ樹脂:樹脂B)を得た。
この樹脂の数平均分子量は2,600、アミン価は58mgKOH/g(うち1級アミンに由来するアミン価は17mgKOH/g)、水酸基価は240mgKOH/gであった。
【0097】
製造例1−C アミン化樹脂(C)の製造
メチルイソブチルケトン50部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER−331J、ダウケミカル社製)940部、ビスフェノールA350部、オクチル酸42部、ジメチルベンジルアミン2部を加え、系内の温度を120℃に保持し、エポキシ当量が873g/eqになるまで反応させた後、系内の温度が110℃になるまで冷却した。ついでジエチレントリアミンジケチミン(固形分73%のメチルイソブチルケトン溶液)106部ジエタノールアミン110部の混合物を添加し、110℃で1時間反応させることにより、アミン化樹脂(カチオン変性エポキシ樹脂:樹脂B)を得た。
この樹脂の数平均分子量は2,600、アミン価は75mgKOH/g(うち1級アミンに由来するアミン価は22mgKOH/g)、水酸基価は255mgKOH/gであった。
【0098】
製造例2 ブロックイソシアネート硬化剤の製造
ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)1680部およびMIBK732部を反応容器に仕込み、これを60℃まで加熱した。ここに、トリメチロールプロパン346部をMEKオキシム1067部に溶解させたものを60℃で2時間かけて滴下した。さらに75℃で4時間加熱した後、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、放冷後、MIBK27部を加えて固形分が78%のブロックイソシアネート硬化剤(1)を得た。イソシアネート基価は252mgKOH/gであった。
【0099】
製造例3 顔料分散樹脂の製造
撹拌機、冷却管、窒素導入管、温度計を備えた反応容器にビスフェノールA型エポキシ樹脂385部、ビスフェノールA120部、オクチル酸95部、2−エチル−4−メチルイミダゾール1%溶液1部を仕込んで、窒素雰囲気下160〜170℃で1時間反応させ、ついで120℃まで冷却後、2−エチルヘキサノール化ハーフブロック化トリレンジイソシアネートのメチルイソブチルケトン溶液(固形分95%)198部を加えた。反応混合物を120〜130℃で1時間保持した後、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル157を加えた。そして85〜95℃に冷却して均一化させた。つぎにジエチレントリアミンジケチミン(固形分73%のメチルイソブチルケトン溶液)277部を加え120℃で1時間撹拌しエチレングリコールモノn−ブチルエーテル13部アミン化樹脂を製造した。ついで18部のイオン水とギ酸8部を仕込み上記アミン化樹脂を混合し15分撹拌し、イオン水200部を混合して、顔料分散樹脂(平均分子量2,200)の樹脂溶液(樹脂固形分25%)を得た。
【0100】
製造例4−A、4−Bおよび4−C 電着塗料樹脂エマルション(A)、(B)、(C)の製造
製造例1−Aで得た樹脂(A)400g(固形分)と、製造例2で得たブロックイソシアネート硬化剤100g(固形分)とを混合し、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテルを固形分に対して3%(15g)になるように添加した。次にギ酸を中和率40%になるように加えて中和し、イオン交換水を加えてゆっくり希釈し、次いで固形分が36%になるように減圧下でメチルイソブチルケトンを除去して、電着塗料樹脂エマルション(A)を得た。
また、製造例1−Aで得た樹脂(A)の代わりに、製造例1−Bで得た樹脂(B)もしくは製造例1−Cで得た樹脂(C)を用いたこと以外は同様にして、電着塗料樹脂エマルション(B)および電着塗料樹脂エマルション(C)を得た。
【0101】
製造例4−D 電着塗料樹脂エマルション(D)の製造
製造例1−Bで得た樹脂(B)350g(固形分)と、製造例2で得たブロックイソシアネート硬化剤100g(固形分)と、キシレン樹脂であるニカノールLLL(フード株式会社製、固形分50g)とを混合し、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテルを固形分に対して3%(15g)になるように添加した。次にギ酸を中和率40%になるように加えて中和し、イオン交換水を加えてゆっくり希釈し、次いで固形分が36%になるように減圧下でメチルイソブチルケトンを除去して、電着塗料樹脂エマルション(D)を得た。
【0102】
製造例5 電着塗料用顔料分散ペーストの製造
サンドミルを用いて、製造例3で得られた顔料分散樹脂を含む以下の表1に示す配合に基づき、得られた混合物を40℃において、体積平均粒子径D50が0.6μmとなるまで分散し、調製して、顔料分散ペースト(固形分49%)を得た。平均粒子径D50(体積50%径)の測定は、レーザードップラー式粒度分析計(日機装社製、「マイクロトラックUPA150」)を用いて、分散体を信号レベルが適性になるようイオン水で希釈して、平均粒子径D50(体積50%径)を測定した。
【0103】
【表1】

【0104】
製造例6 顔料および硬化触媒としてのSnを含む分散ペーストの製造
サンドミルを用いて製造例5と同様にして、製造例3で得られた顔料分散樹脂を含む以下の表2に示す配合に基づき、得られた混合物を40℃において、体積平均粒子径が0.6μmとなるまで分散し、調製して、顔料および硬化触媒としてのSnを含む分散ペースト(固形分49%)を得た。得られた、顔料および硬化触媒をとしてのSn含む分散ペーストは、比較例2〜5および参考例1、2に用いた。
【0105】
【表2】

【0106】
実施例1〜16および比較例1〜5 電着塗料組成物の製造
ステンレス容器に、イオン交換水、ジルコニウム化合物(A)としての40%フッ化ジルコン酸(試薬)または10%硝酸ジルコニル溶液(試薬)、有機酸(D)としての乳酸(昭和化工製、純度50%)、メタンスルホン酸(試薬)、ジメチルプロピオン酸(試薬)、硬化触媒(E)としての乳酸ビスマス(乳酸Bi)、リン酸亜鉛(ZnPh)またはアルミニウム錯体の供給源である硝酸アルミニウム(試薬)、そしてアミノシラン化合物(F)であるオルガノシランの加水分解縮合物を、下記表に示される濃度となるように添加した。硝酸アルミに由来するアルミニウムは、電着塗料組成物中で、ジルコニウム化合物に由来するフッ素によりフッ化アルミニウム錯体を形成する。
次いで、下記表に示される製造例4−A〜4−Dの樹脂エマルション、製造例5の顔料分散ペースト、そして60%硝酸(試薬)などを添加して混合し、その後40℃で16時間エージングした。
比較例2〜5および参考例1、2においては、製造例5の顔料分散ペーストの代わりに、製造例6の顔料および硬化触媒を含む分散ペーストを用いた。
硬化触媒(E)としての乳酸ビスマスは、水酸化ビスマス 1質量部と、50%乳酸水溶液 2質量部とを予め混合して調製した。
また、硬化触媒(E)としてのリン酸亜鉛は、リン酸亜鉛(試薬)と製造例3で得られた顔料分散樹脂を質量比が1:0.2になるように添加し、サンドミルにて体積平均粒子径D50が3μm以下に分散したものを用いた。
実施例16は、以下のアミノシラン化合物を添加した。
オルガノシランの加水分解縮合物は、「KBE903」(3−アミノプロピルトリエトキシシラン、商品名、信越化学工業社製)を15質量部と、「KBE603」(N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、商品名、信越化学工業社製)を15質量部とを滴下漏斗から、溶媒として70質量部の脱イオン水(溶媒温度:25℃)に60分かけて均一に滴下した後、窒素雰囲気下25℃で24時間反応を行って得られた、有効成分30%のオルガノシランの加水分解縮合物(以下、KBE903−KBE603共縮合物)を用いた。
【0107】
なお、下記表3、4中において、ジルコニウム化合物(A)、硬化触媒(E)(乳酸ビスマス、リン酸亜鉛またはアルミニウム化合物である硝酸アルミニウム)の量は、電着塗料組成物に対する各金属元素換算の質量%である。
【0108】
冷延鋼板(JIS G3141、SPCC−SD)を、サーフクリーナーEC90(日本ペイント社製)中に50℃で2分間浸漬して、脱脂処理した。次いで、実施例または比較例で得られた電着塗料組成物を、硬化後の電着塗膜の膜厚が15μmとなるように2−エチルヘキシルグリコールを必要量添加し、その後に鋼板を浸漬して、表中に記載された条件で電圧(30秒昇圧180Vに達してから150秒間保持)を印加して、被塗物上に未硬化の電着塗膜を析出させた。
なお、比較例4は、一段目として5秒間昇圧して10Vに達してから全1分間10Vに保持して電着し、その後2段目昇圧として30秒間昇圧して180Vに達してから150秒間180Vに保持して電着した。
得られた未硬化の電着塗膜を、160℃で15分間焼き付け硬化させて、硬化電着塗膜を得た。
【0109】
参考例1、2および3は、電着塗装前に化成処理を行った参考例である。参考例1、2で用いる電着塗料組成物は、製造例4−Bの樹脂エマルション(B)、硬化触媒であるジブチル錫ジラウレートを含む製造例6の顔料および硬化触媒を含む分散ペーストを添加して混合し、その後40℃で16時間エージングして調製した。
参考例1では、冷延鋼板(JIS G3141、SPCC−SD)を、サーフクリーナーEC90(日本ペイント社製)中に50℃で2分間浸漬して、脱脂処理し、次いでジルコニウム化成処理液であるサーフダインEC3200(日本ペイント社製、ジルコニウム化成処理液)中に40℃で2分間浸漬して、ジルコニウム化成処理を行った。次いで、上記より得られた電着塗料組成物を用いて、実施例1と同様に電着塗装を行った。
【0110】
参考例2では、冷延鋼板(JIS G3141、SPCC−SD)を、サーフクリーナーEC90(日本ペイント社製)中に50℃で2分間浸漬して脱脂処理し、サーフファインGL−1(日本ペイント社製)で表面調整し、次いでリン酸亜鉛化成処理液であるサーフダインSD−5000(日本ペイント社製、リン酸亜鉛化成処理液)中に40℃で2分間浸漬して、リン酸亜鉛化成処理を行った。次いで、参考例1より得られた電着塗料組成物を用いて、実施例1と同様に電着塗装を行った。
参考例3では、冷延鋼板(JIS G3141、SPCC−SD)を、サーフクリーナーEC90(日本ペイント社製)中に50℃で2分間浸漬して脱脂処理し、サーフファインGL−1(日本ペイント社製)で表面調整し、次いでリン酸亜鉛化成処理液であるサーフダインSD−5000(日本ペイント社製、リン酸亜鉛化成処理液)中に40℃で2分間浸漬して、リン酸亜鉛化成処理を行った。次いで、パワーニックス1010D(日本ペイント社製、電着塗料液 固形分20%、塗料固形分中に含まれる顔料成分の濃度15%)を用いて、実施例1と同様に電着塗装を行った。
【0111】
表3、4に記載される「MEQA」は、電着塗料組成物の樹脂固形分100gに対する酸のミリグラム当量(MEQ(A))である。このMEQ(A)は、電着塗料組成物を10g精秤して50mlの溶剤(THF)に溶解した後、1/10NのNaOH溶液を用いて電位差滴定を行うことによって求めた。
表3、4に記載される「理論残存水酸基価」は、電着塗装によって得られた電着塗膜を加熱硬化させた場合において、アミン化樹脂(B)と、ブロックイソシアネート硬化剤が反応した後に塗膜中に残存することとなる、アミン化樹脂(B)に由来する残存水酸基価の理論値である。この理論残存水酸基価は、アミン化樹脂(B)の水酸基価(mgKOH/g)と1級アミン価(mgKOH/g)の合計にアミン化樹脂(B)の質量の比率を乗じた数値から、硬化剤(C)のイソシアネート基価(mgKOH/g)に硬化剤(C)の質量の比率を乗じた数値を減ずることで求めた。
表3、4に記載される残存水酸官能基比率(R)は、上述の計算式を用いて得られた比率である。
【0112】
上記実施例、比較例および参考例により得られた電着塗料組成物および塗装板を用いて、下記評価試験を行った。
【0113】
塩温水浸漬試験(Salt Dip Test(SDT))
硬化後の電着塗装板の塗膜に、基材に達するようにナイフで直線状の傷を入れた。この塗装板を、5%食塩水中に50℃で480時間浸漬した後、直線状の傷部からの錆やフクレ発生を観察し、評価した。評価基準は以下の通りである。

評価基準
◎:錆またはフクレが生じていない
○:錆またはフクレの最大幅がカット部より2.5mm未満(両側)ブリスターなし
○△:錆またはフクレの最大幅がカット部より2.5mm未満(両側)ブリスターあり
△:錆またはフクレの最大幅がカット部より2.5mm以上5mm未満(両側)
△×:錆またはフクレの最大幅がカット部より5mm以上10mm未満(両側)
×:錆またはフクレの最大幅がカット部より10mm以上(両側)
【0114】
サイクル腐食試験(Cycle Corrosion Test(CCT))
硬化後の電着塗装板の塗膜に、基材に達するようにナイフでクロスカット傷を入れ、JASO M609−91「自動車用材料腐食試験方法」を100サイクル行った。その後、クロスカット部からの錆やフクレ発生を観察し、実際の腐食環境に即した耐食性を評価した。評価基準は以下の通りである。

評価基準
◎:錆またはフクレの最大幅がカット部より5mm未満(両側)
○:錆またはフクレの最大幅がカット部より5mm以上7.5mm未満(両側)カット部以外にブリスターなし
○△:錆またはフクレの最大幅がカット部より5mm以上7.5mm未満(両側)カット部以外もブリスターあり
△:錆またはフクレの最大幅がカット部より7.5mm以上10mm未満(両側)
△×:錆またはフクレの最大幅がカット部より10mm以上12.5mm未満(両側)
×:錆またはフクレの最大幅がカット部より12.5mm以上(両側)
【0115】
硬化電着塗膜物性評価
上記実施例および比較例より得られた硬化電着塗膜を有する塗装物試験片に、小型のカッターナイフを垂直に当て、下地に達する等間隔の平行線を2mm間隔で11本引き、それらの平行線に垂直に交わる等間隔の平行線11本を2mm間隔で引いて、4本の直線に囲まれた2mm四方の100個の正方形を刻んだ。次いで、試験片を50℃のイオン交換水に480時間浸漬した。浸漬後、試験片の水を拭き取り、次いで接着テープ(幅24mm)を上記試験塗膜のカット部分に気泡を含ませずに圧着した後、急激に引っ張った。剥離した碁盤目の有無に基づき、下記基準により評価した。

評価基準
○:剥離なし
×:剥離あり
【0116】
硬化電着塗膜外観
硬化電着塗膜外観における異常の有無を目視で判断した。評価基準は以下の通りとした。

評価基準
◎:極めて均一な塗膜外観を有している
○:均一な塗膜外観を有している
○△:ややムラがあると視認される部分があるものの、全体としてほぼ均一な塗膜外観を有している
△:ムラが視認される
×:塗膜外観が明らかに不均一である
【0117】
電着塗料組成物の安定性
電着塗料組成物を静置した状態または撹拌した状態において、塗料組成物の状態を目視にて判定し、安定性を評価した。評価基準は以下の通りとした。

評価基準
○:電着塗料組成物を静置した状態でも顔料の沈降がなく分散状態が安定である
○△:電着塗料組成物を静置した状態では顔料が沈降しやすいものの、再度撹拌することによってすぐに再分散する
△:電着塗料組成物を連続的に撹拌し続けた状態では顔料の分散状態が安定である
×:電着塗料組成物を連続的に撹拌し続けた状態でも顔料が沈降する
【0118】
【表3】


(注)表中のEmはエマルションを示す。
【0119】
【表4】


(注)表中のEmはエマルションを示す。
【0120】
実施例の電着塗料組成物を塗装して得られた塗装物は、何れも、CCTおよびSDT試験結果が優れており、優れた耐食性を有することが確認された。実施例の塗装物はさらに塗膜平滑性にも優れており、電着塗料組成物の安定性にも優れていた。
有機酸(D)を含まない電着塗料組成物を用いた比較例1〜5は、何れも、CCTおよびSDT試験結果が悪く、耐食性が劣っていた。この中で、本発明の有機酸(D)の代わりに、酸化剤である過酸化水素を用いた比較例5は、酸化力が強いため基材を錆びさせるため、耐食性が劣る。
参考例1および2は、いずれも、電着塗装前に化成処理を行った実験例である。実施例の結果と、この参考実験の結果とを比較すると、実施例で得られた塗装板は、化成処理を行っていないにもかかわらず、化成処理を行った参考例1および2と同等またはそれ以上の耐食性を有していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の電着塗料組成物を用いることによって、化成処理を施していない被塗物に対して電着塗装を行う場合であっても、耐食性に優れた塗膜が得られるという利点がある。本発明の電着塗料組成物を用いることによって、化成処理に関する維持管理に必要とされるコストおよび労力を削減することができる。また、被塗物に予め化成処理を施すことなく直接電着塗装を行うことができるため、塗装時間を短縮することができ、また塗装スペースを削減することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニウム化合物(A)、アミン化樹脂(B)、硬化剤(C)および有機酸(D)を含む、電着塗料組成物であって、
該有機酸(D)が、アルカンスルホン酸、有機ホスホン酸、有機カルボン酸、アミノ酸、アミノカルボン酸、糖酸およびカルボキシル基含有ビニル樹脂からなる群から選択される少なくとも1種であり、該電着塗料組成物の、樹脂固形分100gに対する酸のミリグラム当量(MEQ(A))が20〜200であり、
該電着塗料組成物のpHが2〜6である、
電着塗料組成物。
【請求項2】
さらに、亜鉛化合物、ビスマス化合物およびアルミニウム錯体からなる群から選択される1種またはそれ以上である硬化触媒(E)を含み、および
前記電着塗料組成物が実質的に錫化合物および鉛化合物の何れも含まないものである、
請求項1記載の電着塗料組成物。
【請求項3】
前記アミン化樹脂(B)は、数平均分子量が1,000〜5,000であり、アミン価が30〜100mgKOH/gであり、かつ、水酸基価が50〜350mgKOH/gであり、
前記硬化剤(C)がブロックイソシアネート硬化剤であり、
前記アミン化樹脂(B)と、前記ブロックイソシアネート硬化剤とが、電着塗膜中において加熱硬化時に反応した場合における理論残存水酸基価が30〜300mgKOH/gであり、
下記数式に示される、該理論残存水酸基価の濃度と、電着塗料組成物中におけるアミン化樹脂(B)およびブロックイソシアネート硬化剤の固形分濃度(質量%)の合計に対する電着塗料組成物中におけるジルコニウム化合物(A)のジルコニウム金属換算濃度(質量%)との比率(R)が、4,000<R<400,000の関係を満たす、
請求項1または2記載の電着塗料組成物。
【数1】

【請求項4】
前記有機酸(D)が、乳酸およびメタンスルホン酸からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1〜3いずれかに記載の電着塗料組成物。
【請求項5】
前記硬化触媒(E)が亜鉛化合物であって、
該亜鉛化合物が、カチオン分散剤で分散された、体積平均粒子径D50が3μm以下であるリン酸亜鉛である、
請求項1〜4いずれかに記載の電着塗料組成物。
【請求項6】
電着塗料組成物に対する前記ジルコニウム化合物(A)の固形分含有量は、ジルコニウム金属元素換算で0.001〜1質量%であり、
ジルコニウム化合物(A)に対する有機酸(D)の量が0.1〜10当量である、
請求項1〜5いずれかに記載の電着塗料組成物。
【請求項7】
前記電着塗料組成物が、さらにアミノシラン化合物(F)を含む、請求項1〜6いずれかに記載の電着塗料組成物。
【請求項8】
化成処理を施していない被塗物に、請求項1〜7いずれかに記載の電着塗料組成物を電着塗装して電着塗膜形成し、得られた電着塗膜を加熱硬化させて硬化電着塗膜を得る工程を包含する、化成処理を施していない被塗物に電着塗膜を形成する方法。

【公開番号】特開2013−56961(P2013−56961A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194863(P2011−194863)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】