説明

電着塗料組成物

【課題】 優れた耐食性を有する硬化電着塗膜を形成することができる電着塗料組成物を提供すること。
【解決手段】 アミン化樹脂(A)、硬化剤(B)およびリン酸亜鉛(C)を含む電着塗料組成物であって、リン酸亜鉛(C)は、平均粒子径D50(体積50%径)が3μm以下であり、および、リン酸亜鉛(C)は、電着塗料組成物中において、カチオン分散剤で分散された状態で含まれる、電着塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた耐食性を有する硬化電着塗膜を形成することができる電着塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電着塗装は、複雑な形状を有する被塗物であっても細部にまで塗装を施すことができ、自動的かつ連続的に塗装することができるので、特に自動車車体などの大型で複雑な形状を有する被塗物の下塗り塗装方法として広く実用化されている。このような電着塗装として、カチオン電着塗装が広く用いられている。カチオン電着塗装は、カチオン電着塗料組成物中に被塗物を陰極として浸漬させ、電圧を印加することにより行われる塗装方法である。
【0003】
カチオン電着塗装の前において、被塗物に、リン酸亜鉛化成処理などの化成処理を施すことが多い。この化成処理を施すことによって、耐食性および付着性を向上させることができる。しかしながら、リン酸亜鉛化成処理において用いられる化成処理組成物は、金属イオン濃度が高く、非常に反応性が強いため、排水処理にコストがかかるなど、経済性、作業性の観点から好ましくない。更に、リン酸亜鉛系の化成処理組成物による化成処理においては、金属の表面処理に伴って水に不溶な塩類が生成し、化成処理槽内部に沈殿として析出する。このような沈殿物は一般にスラッジと呼ばれ、スラッジの除去・廃棄に伴うコストの発生が問題視されている。加えて、リン酸亜鉛系の化成処理組成物による表面処理においては、事前に表面調整を行うことが必要であり、表面処理の工程が複雑かつ長くなるという生産効率上の問題点もあった。
【0004】
このようなリン酸亜鉛系の化成処理組成物の代わりに、ジルコニウム系の化成処理組成物を用いる方法が検討されつつある。ところが、このようなジルコニウム系の化成処理組成物を用いて形成される化成処理被膜は、被塗物である基材の部位(形状)の違いによって被膜析出量が異なるという不具合が生じることがあった。一般に、ジルコニウム系の化成処理組成物を用いて形成される化成処理被膜は、リン酸亜鉛系の化成処理組成物を用いて形成される化成処理被膜と比較して、被膜析出量が1/10程度まで少ない。そのため、電着塗装において一般的に被膜析出量が少なくなる部位においては、被膜析出量が極めて少なくなってしまい、耐食性不良が生じるという問題があった。そのため、ジルコニウム系の化成処理組成物を用いて化成処理を行う場合においては、化成処理被膜析出量が少なくなる部位においても、電着塗料組成物で耐食性を確保する手段が必要とされている。しかしながら、従来の電着塗料組成物においては、被塗物にリン酸亜鉛などの前処理がなされている素材に対しては、電着塗装により十分な耐食性を発現させることができるものの、被塗物の前処理(化成処理など)が不十分である場合は、耐食性確保が困難であるという問題があった。
【0005】
特開平8−12905号公報(特許文献1)には、P25 4〜22モル%、ZnO 25〜65モル%、およびSiO2 13〜71モル%の範囲で含有し、特定のX線回折ピークを示し、レーザー粒度分布測定法によるメジアン径1.0〜3.0μmであり、JISK5101法による吸油量が40〜65ml/100gであり、石山式比容積試験法による嵩比重が0.3〜0.5g/mlであり、25℃での水性懸濁液のpHが5.5〜9.0の範囲にあることを特徴とする、白色微粉末状のカチオン電着塗料用防錆剤について記載されている。一方で、特許文献1に含まれる上記成分と、本発明の電着塗料組成物中に含まれる成分とは、構成が異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−12905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、優れた耐食性と塗膜外観を有する硬化電着塗膜を形成することができる電着塗料組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
アミン化樹脂(A)、硬化剤(B)およびリン酸亜鉛(C)を含む電着塗料組成物であって、
このリン酸亜鉛(C)は、平均粒子径D50(体積50%径)が3μm以下であり、および
このリン酸亜鉛(C)は、電着塗料組成物中において、カチオン分散剤で分散された状態で含まれる、
電着塗料組成物、を提供するものであり、これにより上記課題が解決される。
【0009】
上記リン酸亜鉛(C)の平均粒子径D50(体積50%径)は1μm以下であり、および、電着塗料組成物はさらに、二酸化チタン、カーボンブラック、カオリンからなる群から選択される顔料(D)を含み、この顔料(D)は、電着塗料組成物中において、カチオン分散剤で分散された状態で含まれ、この顔料(D)の平均粒子径D50(体積50%径)が3μm以下であるのがより好ましい。
【0010】
また、リン酸亜鉛(C)の分散に用いる上記カチオン分散剤がアミノシラン化合物であるのがより好ましい。
【0011】
また、電着塗料組成物中に含まれる上記リン酸亜鉛(C)の含有量は0.01〜10質量%であるのがより好ましい。
【0012】
また、上記リン酸亜鉛(C)は、亜鉛化合物およびカチオン分散剤を分散させた状態において、リン酸を加えて反応させる固液反応によって得られたリン酸亜鉛であるのがより好ましい。
【0013】
上記電着塗料組成物は、さらにアミノテトラゾール(E)を含むのがより好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の電着塗料組成物において、平均粒子径D50(体積50%径)が3μm以下であるリン酸亜鉛(C)がカチオン分散剤で分散された状態で含まれることによって、得られる硬化電着塗膜の耐食性が向上し、そして電着塗料組成物の付きまわり性も向上するという優れた効果が得られる。本発明の電着塗料組成物に含まれるリン酸亜鉛(C)は、平均粒子径D50(体積50%径)が3μm以下という微粒子状態であり、かつ、カチオン分散剤で分散された状態であるため、電着塗料組成物内では、エマルション状態で存在する塗膜形成樹脂成分に対して中和酸と同様の役割を果たす。そのため、電着塗料組成物の貯蔵安定性を害しない。そしてこのリン酸亜鉛(C)は、電着塗装時においては、電圧の印加に伴う被塗物上での界面pHの上昇に伴い、カチオン分散剤で分散された状態から亜鉛イオンとリン酸イオンに解離する。そしてこの亜鉛イオンによって、塗膜形成樹脂成分の析出が促進され、また、リン酸イオンの効果により、優れた付きまわり性を得ることができ、さらに亜鉛による触媒効果により被塗物上に析出した樹脂の架橋密度を高くすることができる。こうして、耐食性に優れた硬化電着塗膜が形成されるという利点がある。
本発明の電着塗料組成物は、耐食性に優れた硬化電着塗膜を形成することができるため、ジルコニウム化成処理を施した被塗物の電着塗装において好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】付きまわり性を評価する際に用いるボックスの一例を示す斜視図である。
【図2】付きまわり性の評価方法を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の電着塗料組成物は、アミン化樹脂(A)、硬化剤(B)およびリン酸亜鉛(C)を含む。以下、各成分について記載する。
【0017】
アミン化樹脂(A)
本発明の電着塗料組成物はアミン化樹脂(A)を含む。このアミン化樹脂(A)は、電着塗膜を構成する塗膜形成樹脂である。アミン化樹脂(A)として、樹脂骨格中のオキシラン環を有機アミン化合物で変性して得られるカチオン変性エポキシ樹脂が好ましい。一般にカチオン変性エポキシ樹脂は、出発原料樹脂分子内のオキシラン環を1級アミン、2級アミンあるいは3級アミンおよび/またはその酸塩などのアミン類との反応によって開環して製造される。出発原料樹脂の典型例は、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フェノールノボラック、クレゾールノボラックなどの多環式フェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応生成物であるポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂である。また他の出発原料樹脂の例として、特開平5−306327号公報に記載され公知であるオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂を挙げることができる。これらのエポキシ樹脂は、ジイソシアネート化合物、またはジイソシアネート化合物のNCO基をメタノール、エタノールなどの低級アルコールでブロックして得られたビスウレタン化合物と、エピクロルヒドリンとの反応によって調製することができる。
【0018】
上記出発原料樹脂は、アミン類によるオキシラン環の開環反応の前に、2官能性のポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ビスフェノール類、2塩基性カルボン酸などにより鎖長延長して用いることができる。
【0019】
また同じく、アミン類によるオキシラン環の開環反応の前に、分子量またはアミン当量の調節、熱フロー性の改良などを目的として、一部のオキシラン環に対して2−エチルヘキサノール、ノニルフェノール、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテルなどのモノヒドロキシ化合物を付加して用いることもできる。
【0020】
オキシラン環を開環し、アミノ基を導入する際に使用し得るアミン類の例としては、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、トリエチルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N,N−ジメチルエタノールアミンなどの1級アミン、2級アミンまたは3級アミンおよび/もしくはその酸塩を挙げることができる。また、アミノエチルエタノールアミンメチルイソブチルケチミンなどのケチミンブロック1級アミノ基含有2級アミン、ジエチレントリアミンジケチミンも使用することができる。これらのアミン類は、全てのオキシラン環を開環させるために、オキシラン環に対して少なくとも当量で反応させる必要がある。
【0021】
アミン化樹脂(A)の数平均分子量は、1,000〜5,000であるのが好ましい。数平均分子量が1,000未満である場合は、得られる硬化電着塗膜の耐溶剤性および耐食性などの物性が劣ることがある。一方で、数平均分子量が5,000を超える場合は、アミン化樹脂の粘度調整が困難となり合成上の不具合が生じる可能性があり、また、得られたアミン化樹脂(A)の乳化分散のハンドリング性が劣るおそれがある。アミン化樹脂(A)の数平均分子量は1,600〜3,200の範囲であるのがより好ましい。
【0022】
なお、本明細書において、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の数平均分子量である。
【0023】
アミン化樹脂(A)のアミン価(KOH換算mg/g樹脂固形分)は、30〜100mgKOH/gの範囲内であるのが好ましい。アミン化樹脂(A)のアミン価が30mgKOH/g未満である場合は、電着塗料組成物中におけるアミン化樹脂(A)の乳化分散安定性が劣るおそれがある。一方で、アミン価が100mgKOH/gを超える場合は、硬化電着塗膜中に過剰のアミノ基が残存することとなり、塗膜の耐水性が低下するおそれがある。アミン化樹脂(A)のアミン価は、40〜80mgKOH/gの範囲内であるのがさらに好ましい。
【0024】
アミン化樹脂(A)の水酸基価(KOH換算mg/g樹脂固形分)は、50〜350mgKOH/gの範囲内であるのが好ましい。水酸基価が50mgKOH/g未満である場合は、硬化電着塗膜において硬化不良が生じるおそれがある。一方で、水酸基価が350mgKOH/gを超える場合は、硬化電着塗膜中に過剰の水酸基が残存することとなり、塗膜の耐水性が低下するおそれがある。アミン化樹脂(A)の水酸基価は、100〜300mgKOH/gの範囲内であるのがさらに好ましい。
【0025】
本発明の電着塗料組成物において、数平均分子量が1,000〜5,000であり、アミン価が30〜100mgKOH/gであり、かつ、水酸基価が50〜350mgKOH/gであるアミン化樹脂(A)を用いることによって、被塗物に優れた耐食性を付与することができるという利点がある。
【0026】
なおアミン化樹脂(A)は、必要に応じて、アミノ基含有アクリル樹脂、アミノ基含有ポリエステル樹脂などを含んでもよい。
【0027】
硬化剤(B)
本発明の電着塗料組成物は、硬化剤(B)を含む。硬化剤(B)としては、電着塗装後における加熱(焼き付け)工程において、アミン化樹脂(A)を硬化させることができる成分を任意に用いることができる。硬化剤(B)として、安定性と塗装性能からブロックイソシアネート硬化剤を用いるのが好ましい。硬化剤として、メラミン樹脂、フェノール樹脂などの有機硬化剤、シランカップリング剤、金属硬化剤なども用いることができる。
【0028】
ブロックイソシアネート硬化剤は、ポリイソシアネートを、封止剤でブロック化することによって調製することができる。ポリイソシアネートの例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(3量体を含む)、テトラメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイシシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)などの脂環式ポリイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートが挙げられる。
【0029】
封止剤の例としては、n−ブタノール、n−ヘキシルアルコール、2−エチルヘキサノール、ラウリルアルコール、フェノールカルビノール、メチルフェニルカルビノールなどの一価のアルキル(または芳香族)アルコール類;エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテルなどのセロソルブ類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールフェノールなどのポリエーテル型両末端ジオール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオールなどのジオール類と、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸などのジカルボン酸類から得られるポリエステル型両末端ポリオール類;パラ−t−ブチルフェノール、クレゾールなどのフェノール類;ジメチルケトオキシム、メチルエチルケトオキシム、メチルイソブチルケトオキシム、メチルアミルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム類;およびε−カプロラクタム、γ−ブチロラクタムに代表されるラクタム類が好ましく用いられる。
【0030】
ブロックイソシアネート硬化剤のブロック化率は100%であるのが好ましい。これにより、電着塗料組成物の貯蔵安定性が良好になるという利点がある。
【0031】
リン酸亜鉛(C)
本発明の電着塗料組成物はリン酸亜鉛(C)を含む。そして本発明において、このリン酸亜鉛(C)は、平均粒子径D50(体積50%径)が3μm以下であること、そしてこのリン酸亜鉛(C)は電着塗料組成物中においてカチオン分散剤で分散された状態で含まれること、を特徴とする。
【0032】
本発明の電着塗料組成物においては、平均粒子径D50(体積50%径)が3μm以下であるリン酸亜鉛(C)がカチオン分散剤で分散された状態で含まれることによって、得られる硬化電着塗膜の耐食性が向上し、そして電着塗料組成物の付きまわり性も向上するという優れた効果が得られる。本発明の電着塗料組成物に含まれるリン酸亜鉛(C)は、平均粒子径D50(体積50%径)が3μm以下という微粒子状態であり、かつ、カチオン分散剤で分散された状態であるため、電着塗料組成物内では、エマルション状態で存在する塗膜形成樹脂成分に対して中和酸と同様の役割を果たす。そのため、電着塗料組成物の貯蔵安定性を害しない。そしてこのリン酸亜鉛(C)は、電着塗装時においては、電圧の印加に伴う被塗物上での界面pHの上昇に伴い、カチオン分散剤で分散された状態から亜鉛イオンとリン酸イオンに解離する。この亜鉛イオンにより、塗膜形成樹脂成分の析出が促進され、また、リン酸イオンの効果により、優れた付きまわり性を得ることができ、さらに亜鉛による触媒効果により被塗物上に析出した樹脂の架橋密度を高くすることができる。こうして、耐食性に優れた硬化電着塗膜が形成されるという利点がある。
【0033】
リン酸亜鉛(C)の平均粒子径D50(体積50%径)は、1μm以下であるのがより好ましい。本発明において、リン酸亜鉛(C)の平均粒子径D50(体積50%径)が3μmを超える場合は、得られる硬化電着塗膜の塗膜外観が低下し、耐食性も低下することとなる。リン酸亜鉛(C)の平均粒子径D50(体積50%径)の下限値については、特に限定はないが、現時点における分散技術などの点から例えば0.01μm以上である態様が挙げられる。
【0034】
上記平均粒子径D50(体積50%径)は、分散液中での粒度分布に基づき、粒子の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが50%となる粒子径である。上記平均粒子径D50(体積50%径)は、例えば、動的光散乱式粒度分析計(日機装社製、「ナノトラックUPA150」)等の粒度測定装置を用いて測定することができる。
【0035】
リン酸亜鉛(C)の含有量は、電着塗料組成物100質量部に対して0.01〜10質量%であるのが好ましく、0.5〜5質量%であるのがより好ましい。リン酸亜鉛(C)の含有量が0.01質量%未満である場合は、十分な析出促進効果が得られず、付きまわり性などの塗装性が不十分となるおそれがある。リン酸亜鉛(C)の含有量が10質量%を超える場合は、凝集力が強すぎるため塗膜外観不良となる可能性がある。
【0036】
リン酸亜鉛(C)の分散に用いられるカチオン分散剤として、例えば、アミノシラン化合物、カチオン基を有する顔料分散樹脂などが挙げられる。
【0037】
アミノシラン化合物として、1分子中に少なくとも1つのアミノ基を有するアミノシラン、およびアミノシランの加水分解縮合物が挙げられる。
1分子中に少なくとも1つのアミノ基を有するアミノシランの具体例として、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、およびN−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩などを挙げることができる。市販されているアミノ基含有シランカップリング剤である「KBM−602」、「KBM−603」、「KBE−603」、「KBM−903」、「KBE−903」、「KBE−9103」、「KBM−573」、「KBP−90」(いずれも商品名、信越化学工業社製)、および「XS1003」(商品名、チッソ社製)などを使用することができる。アミノシラン化合物としては、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシランが好ましい。
【0038】
アミノシラン化合物として、アミノシランの加水分解縮合物を用いることもできる。アミノシランを加水分解縮合反応させる際には、アミノシランがより加水分解しやすく、縮合しやすい条件下で反応させることが好ましい。アミノシランがより加水分解しやすく、縮合しやすい条件下とは、例えば、溶媒をアルコールとした反応条件、上述したような単縮合よりも共縮合となるようなアミノシランの配合による反応条件などである。また、アミノシラン濃度が比較的高い条件下で反応させることによって、より高分子量化された縮合率の高い条件下で加水分解縮合物が得られる。具体的にはアミノシラン濃度が5質量%以上50質量%以下の範囲で縮合させることが好ましい。また、上記アミノシランは、必要に応じて、エポキシシラン「KBM−403」(商品名、信越化学工業社製)などのアミノ基を有さないアルコキシシランと共縮合させてもよい。
【0039】
カチオン基を有する顔料分散樹脂として、4級アンモニウム基、3級スルホニウム基および1級アミン基から選択される少なくとも1種またはそれ以上を有する変性エポキシ樹脂などが挙げられる。変性に用いることができるエポキシ樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂などが挙げられる。カチオン基を有する顔料分散樹脂は、上述のエポキシ樹脂に、ハーフブロック化ブロックイソシアネート硬化剤を反応させ、次いで、アミン化樹脂(A)調製時においてアミノ基を導入する際に使用できる各種アミン類を反応させることによって、調製することができる。上記反応において、必要に応じて、ビスフェノールA、ビスフェノールFなどを併せて用いることもできる。リン酸亜鉛(C)の分散に用いられる、カチオン基を有する顔料分散樹脂として、1級アミン基を有する変性エポキシ樹脂を用いるのがより好ましい。
【0040】
リン酸亜鉛(C)の調製において用いられる、微粒子状態のリン酸亜鉛は、リン酸亜鉛を、ボールミルまたはサンドグラインドミルなどの通常用いられる手段を用いて、分散・撹拌手段などによって微粒子化させてよい。微粒子状態のリン酸亜鉛を調製する他の手段として、酸化亜鉛などの亜鉛化合物(固体状態)にリン酸(液体状態)を加えて反応させる、固液反応によって微粒子状態のリン酸亜鉛を得ることもできる。この固液反応によって得られる微粒子状態のリン酸亜鉛は、球形であり、かつ、より小さい平均粒子径D50(体積50%径)を有するリン酸亜鉛を得ることができるという利点がある。そのため、電着塗料組成物中におけるリン酸亜鉛(C)の分散性が向上し、かつ、塗膜外観などに優れた硬化電着塗膜を得ることができるという利点がある。
【0041】
なお、本発明において用いることができるリン酸亜鉛(C)の調製方法の具体例として、例えば、以下の3通りの方法が挙げられる:
(1) リン酸亜鉛と、上記アミノシラン化合物とを混合し、分散・撹拌させることによって、平均粒子径D50(体積50%径)が3μm以下であり、カチオン分散剤で分散された状態である、リン酸亜鉛(C)を得る方法、
(2) リン酸亜鉛と、上記カチオン基を有する顔料分散樹脂とを混合し、分散・撹拌させることによって、平均粒子径D50(体積50%径)が3μm以下であり、カチオン分散剤で分散された状態である、リン酸亜鉛(C)を得る方法、
(3) 酸化亜鉛を上記カチオン基を有する顔料分散樹脂で分散し、次いで、リン酸を加えて酸化亜鉛と反応させる固液反応によって、平均粒子径D50(体積50%径)が3μm以下であり、カチオン分散剤で分散された状態である、リン酸亜鉛(C)を得る方法。
上記(1)または(2)の方法においては、分散・撹拌の条件を適宜調整することにより、所定の平均粒子径のリン酸亜鉛(C)を得ることができる。
【0042】
本発明の電着塗料組成物においては、上記リン酸亜鉛(C)が含まれることによって、有機錫硬化触媒を用いる必要がなくなるという利点もある。従来の電着塗料組成物は、硬化触媒として一般的にジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫オキシドなどの有機錫硬化触媒が用いられている。一方でこれらの有機錫化合物は、近年、その毒性が問題視されつつあり、使用規制について検討されていることから、本発明の電着塗料組成物は有機錫硬化触媒を含有しないことが好ましい。
ここで、本発明の電着塗料組成物に含まれるリン酸亜鉛(C)には、硬化触媒機能を有する亜鉛が含まれる。そのため、上記リン酸亜鉛(C)が含まれることによって、有機錫硬化触媒の使用量を低減させることができるという利点がある。
【0043】
顔料(D)
本発明の電着塗料組成物は、電着塗料組成物において通常用いられる顔料を含んでもよい。使用できる顔料の例としては、通常使用される無機顔料、例えば、二酸化チタン(チタンホワイト)、カーボンブラックおよびベンガラのような着色顔料;カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカおよびクレーのような体質顔料;リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛、シアン化亜鉛、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、およびリンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛のような防錆顔料など、が挙げられる。電着塗料組成物中にこれらの顔料が含まれる場合の顔料の量は、電着塗料組成物の樹脂固形分に対して1〜30質量%であるのが好ましい。
【0044】
本発明においては、二酸化チタン、カーボンブラック、カオリンからなる群から選択される1種またはそれ以上の顔料(D)が含まれるのが好ましい。そしてこの顔料(D)の平均粒子径D50(体積50%径)が3μm以下であること、そしてこの顔料(D)は、電着塗料組成物中において、カチオン分散剤で分散された状態で含まれることが、より好ましい。カチオン分散剤として、リン酸亜鉛(C)の分散において用いることができる、カチオン基を有する顔料分散樹脂を用いることができる。ただし、リン酸亜鉛(C)の分散に用いるアミノシラン化合物は顔料成分(D)の分散剤として使用すると凝集するおそれがあるため、顔料(D)の分散剤としてはカチオン基を有する顔料分散樹脂が望ましい。
【0045】
顔料を電着塗料の成分として用いる場合、一般に顔料を予め高濃度で水性溶媒に分散させてペースト状(顔料分散ペースト)にする。顔料は粉体状であるため、電着塗料組成物で用いる低濃度で均一状態に一工程で分散させるのは困難だからである。一般にこのようなペーストを顔料分散ペーストという。
【0046】
顔料分散ペーストは、顔料を顔料分散樹脂と共に水性溶媒中に分散させて調製する。顔料分散樹脂として、上述した、4級アンモニウム基、3級スルホニウム基および1級アミン基から選択される少なくとも1種またはそれ以上を有する変性エポキシ樹脂などの、カチオン基を有する顔料分散樹脂を用いることができる。水性溶媒としてはイオン交換水や少量のアルコール類を含む水などを用いる。一般に、顔料分散樹脂は、顔料100質量部に対して固形分比20〜100質量部の量で用いる。顔料分散樹脂と顔料とを混合した後、その混合物中の顔料の粒径が所定の均一な粒径となるまで、ボールミルやサンドグラインドミルなどの通常の分散装置を用いて分散させて、顔料分散ペーストを得ることができる。顔料(D)の平均粒子径D50(体積50%径)が3μm以下となるまで分散させるのがより好ましい。顔料(D)の平均粒子径D50(体積50%径)の下限値については、特に限定はないが、現時点における分散技術などの点から例えば0.01μm以上である態様が挙げられる。
【0047】
アミノテトラゾール(E)
本発明の電着塗料組成物は、さらにアミノテトラゾール(E)を含むのが好ましい。アミノテトラゾール(E)は、電着塗料組成物に含まれるアミン化樹脂(A)と硬化剤(B)との架橋硬化反応を効果的に促進し、得られる硬化電着塗膜の耐食性を向上させることができる。
【0048】
アミノテトラゾール(E)を用いる場合における、電着塗料組成物に対するアミノテトラゾール(E)の含有量は0.01〜5質量%であるのが好ましい。アミノテトラゾール(E)の含有量が5質量%を超える場合は、塗料安定性が低下する可能性がある。
【0049】
他の添加剤
本発明の電着塗料組成物は、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテルなどの有機溶媒、乾き防止剤、消泡剤などの界面活性剤、アクリル樹脂微粒子などの粘度調整剤、はじき防止剤、バナジウム塩、銅、鉄、マンガン、マグネシウム、カルシウム、イットリウム、ランタン、セリウム、ネオジウム、ジルコニウム、チタン塩などの無機防錆剤、などの慣用の塗料用添加剤を必要に応じて添加してもよい。またこれら以外に、目的に応じて公知の補助錯化剤、緩衝剤、平滑剤、応力緩和剤、光沢剤、半光沢剤、可塑剤、酸化防止剤、および紫外線吸収剤などを配合してもよい。
【0050】
他の塗膜形成樹脂成分
本発明の電着塗料組成物は、上記アミン化樹脂(A)以外にも、他の塗膜形成樹脂成分を含んでもよい。他の塗膜形成樹脂成分として、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ブタジエン系樹脂、キシレン樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。電着塗料組成物に含まれうる他の塗膜形成樹脂成分として、キシレン樹脂が好ましい。キシレン樹脂として、例えば、2以上10以下の芳香族環を有するキシレン樹脂が挙げられる。他の塗膜形成樹脂成分は、塗膜形成樹脂成分中、30質量%まで含有させることができる。
【0051】
本明細書中において「樹脂固形分量」とは、電着塗料組成物中に含まれる塗膜形成樹脂の固形分全ての固形分質量を意味する。具体的には、電着塗料組成物中に含まれる、アミン化樹脂(A)、硬化剤(B)および必要に応じた他の塗膜形成樹脂成分の固形分質量の総量を意味する。
【0052】
電着塗料組成物の樹脂固形分量は、1〜30質量%であるのが好ましい。電着塗料組成物の樹脂固形分量が1質量%未満である場合は、電着塗膜析出量が少なくなり、十分な耐食性を確保することが困難となるおそれがある。また電着塗料組成物の樹脂固形分量が30質量%を超える場合は、付きまわり性や塗膜外観が悪くなるおそれがある。
【0053】
電着塗料組成物の調製
本発明の電着塗料組成物は、アミン化樹脂(A)、硬化剤(B)および必要に応じた顔料分散ペーストなどを水性溶媒中に分散させた後、リン酸亜鉛(C)そして必要に応じた顔料(D)およびアミノテトラゾール(E)などを加えて混合することによって調製することができる。
【0054】
電着塗料組成物の調製において、アミン化樹脂(A)を、中和酸を用いて中和することによって分散性を向上させる。アミン化樹脂(A)の中和に用いる中和酸として、ギ酸、酢酸、乳酸などの有機酸が用いられる。使用される中和酸の量は、アミン化樹脂(A)、硬化剤(B)および必要に応じた塗膜形成樹脂を含む樹脂固形分100gに対して、10〜30mg当量(MEQ(A)10〜30)の範囲であるのが好ましい。上記下限は15mg当量(MEQ(A)15)であるのがより好ましく、上記上限は25mg当量(MEQ(A)25)であるのがより好ましい。中和酸の量が10mg当量(MEQ(A)10)未満であると水への親和性が十分でなく水への分散が困難となるおそれがある。一方、中和酸の量が30mg当量(MEQ(A)30)を超える場合は、析出に要する電気量が増加し、塗料固形分の析出性が低下し、付きまわり性が劣る状態となるおそれがある。
【0055】
ここでMEQ(A)とは、mg equivalent(acid)の略であり、塗料の固形分100g当たりの中和剤(酸)のmg当量である。このMEQ(A)は、電着塗料組成物を約10g精秤し約50mlの溶剤(THF)に溶解した後、1/10NのNaOH溶液を用いて電位差滴定を行なうことによって、電着塗料組成物中の含有酸量を定量して測定することができる。電着塗料組成物の樹脂固形分100gに対する酸のミリグラム当量(MEQ(A))は、アミン化樹脂のアミン化および中和酸量によって調整することができる。
【0056】
硬化剤(B)の量は、硬化時にアミン化樹脂(A)中の1級、2級アミノ基、水酸基、などの活性水素含有官能基と反応して良好な硬化塗膜を与えるのに十分な量が必要とされる。好ましい硬化剤(B)の量は、アミン化樹脂(A)と硬化剤(B)との固形分質量比(アミン化樹脂(A)/硬化剤(B))で表して90/10〜50/50、より好ましくは80/20〜65/35の範囲である。アミン化樹脂(A)と硬化剤(B)との固形分量比の調整により、造膜時の塗膜(析出膜)の流動性および硬化速度が改良され、塗膜の平滑性(塗膜外観)が向上する。
【0057】
電着塗料組成物は、アミン化樹脂(A)、硬化剤(B)および必要に応じた他の塗膜形成樹脂成分を、中和酸を用いて分散させた樹脂エマルションを調製し、そしてリン酸亜鉛(C)を、カチオン分散剤を用いて分散調製したものを別途調製し、これらを加えて混合することによって調製することができる。顔料(D)を用いる場合は、リン酸亜鉛(C)の分散調製時に、カチオン分散剤を用いて共に分散させてもよく、または防錆顔料(D)および/または顔料を別途分散させてもよい。
【0058】
本発明の電着塗料組成物は、実質的に錫化合物および鉛化合物の何れも含まないものであるのが好ましい。本明細書において「電着塗料組成物が実質的に錫化合物および鉛化合物の何れも含まない」とは、電着塗料組成物に含まれる鉛化合物の濃度が鉛金属元素として50ppmを超えず、かつ、有機錫化合物の濃度が錫金属元素として50ppmを超えないことを意味する。本発明の電着塗料組成物はリン酸亜鉛(C)を含む。そのため、防錆剤、硬化触媒としての鉛化合物、有機錫化合物を用いる必要がない。これにより、実質的に錫化合物および鉛化合物の何れも含まない電着塗料組成物を調製することができる。
【0059】
電着塗装
被塗物
本発明の電着塗料組成物を塗装する被塗物として、通電可能な種々の被塗物を用いることができる。使用できる被塗物として例えば、冷延鋼板、熱延鋼板、ステンレス、電気亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、亜鉛−アルミニウム合金系めっき鋼板、亜鉛−鉄合金系めっき鋼板、亜鉛−マグネシウム合金系めっき鋼板、亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金系めっき鋼板、アルミニウム系めっき鋼板、アルミニウム−シリコン合金系めっき鋼板、錫系めっき鋼板などから構成される被塗物が挙げられる。
【0060】
なお、電着塗膜形成の前に、必要に応じて、被塗物に付着した防錆油、加工油などの異物を、アルカリ脱脂液および/または水洗水などを用いて除去してもよい。
【0061】
電着塗装工程
電着塗装は、被塗物を陰極として陽極との間に、通常、50〜450Vの電圧を印加して行う。印加電圧が50V未満であると電着が不十分となるおそれがあり、450Vを超えると、塗膜が破壊され異常外観となるおそれがある。電着塗装時、塗料組成物の浴液温度は、通常10〜45℃に調節される。
【0062】
電着塗装工程は、電着塗料組成物に被塗物を浸漬する過程、および、上記被塗物を陰極として陽極との間に電圧を印加し、電着塗膜を析出させる過程、から構成される。また、電圧を印加する時間は、電着条件によって異なるが、一般には、2〜5分とすることができる。
【0063】
電着塗膜の焼き付け硬化後の膜厚は、好ましくは5〜40μm、より好ましくは10〜25μmとする。膜厚が5μm未満であると、耐食性が不十分となるおそれがある。一方40μmを超えると、塗料の浪費につながる。
【0064】
上述のようにして得られる電着塗膜を、電着過程の終了後、そのまま、または水洗した後、120〜260℃、好ましくは140〜220℃で、10〜30分間焼付けることによって、焼き付け硬化された硬化電着塗膜が形成される。
【0065】
本発明の電着塗料組成物は、ジルコニウム系の化成処理組成物を用いて化成処理した被塗物に対して、好適に用いることができる。より詳しくは、本発明の電着塗料組成物を用いることによって、ジルコニウム系の化成処理組成物を用いた化成処理における、被膜析出量のばらつきの不具合を補うことができ、十分な耐食性を付与することができる。本発明の電着塗料組成物を用いて形成される塗膜はさらに、塗膜平滑性(塗膜外観)が高い塗膜を得ることができるという利点もある。
【実施例】
【0066】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0067】
製造例1−1 アミン化樹脂(樹脂A)の製造
メチルイソブチルケトン92部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER−331J、ダウケミカル社製)940部、ビスフェノールA350部、オクチル酸95部、ジメチルベンジルアミン2部を加え、反応容器内の温度を120℃に保持し、エポキシ当量が1170g/eqになるまで反応させた後、反応容器内の温度が110℃になるまで冷却した。ついでジエチレントリアミンジケチミン(固形分73%のメチルイソブチルケトン溶液)82部とN−メチルエタノールアミン26部、ジエタノールアミン60部の混合物を添加し、110℃で1時間反応させることにより、アミン化樹脂(カチオン変性エポキシ樹脂:樹脂A)を得た。
この樹脂の数平均分子量は2,600、アミン価は58mgKOH/g(うち1級アミンに由来するアミン価は17mgKOH/g)、水酸基価は240mgKOH/gであった。
【0068】
製造例1−2 アミン化樹脂(B)の製造
メチルイソブチルケトン92部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER−331J、ダウケミカル社製)940部、ビスフェノールA350部、オクチル酸30部、ジメチルベンジルアミン2部を加え、反応容器内の温度を120℃に保持し、エポキシ当量が820g/eqになるまで反応させた後、反応容器内の温度が110℃になるまで冷却した。ついでジエタノールアミン160部を添加し、110℃で1時間反応させることにより、アミン化樹脂(カチオン変性エポキシ樹脂:樹脂B)を得た。
この樹脂の数平均分子量は2,600、アミン価は58mgKOH/g、水酸基価は310mgKOH/gであった。
【0069】
製造例2−1 ブロックイソシアネート硬化剤(1)の製造
ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)1680部およびメチルイソブチルケトン732部を反応容器に仕込み、これを60℃まで加熱した。ここに、トリメチロールプロパン346部をMEKオキシム1067部に溶解させたものを60℃で2時間かけて滴下した。さらに75℃で4時間加熱した後、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、放冷後、メチルイソブチルケトン27部を加えて固形分が78%のブロックイソシアネート硬化剤(1)を得た。イソシアネート基価は252mgKOH/gであった。
【0070】
製造例2−2 ブロックイソシアネート硬化剤(2)の製造
ジフェニルメタンジイソシアナート1340部およびメチルイソブチルケトン277部を反応容器に仕込み、これを80℃まで加熱した後、ε−カプロラクタム226部をブチルセロソルブ944部に溶解させたものを80℃で2時間かけて滴下した。さらに100℃で4時間加熱した後、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認し、放冷後、メチルイソブチルケトン349部を加えてブロックイソシアネート硬化剤(2)を得た(固形分80%)。イソシアネート基価は251mgKOH/gであった。
【0071】
製造例3 顔料分散樹脂の製造
撹拌機、冷却管、窒素導入管、温度計を備えた反応容器にビスフェノールA型エポキシ樹脂385部、ビスフェノールA120部、オクチル酸95部、2−エチル−4−メチルイミダゾール1%溶液1部を仕込んで、窒素雰囲気下160〜170℃で1時間反応させ、ついで120℃まで冷却後、2−エチルヘキサノール化ハーフブロック化トリレンジイソシアネートのメチルイソブチルケトン溶液(固形分95%)198部を加えた。反応混合物を120〜130℃で1時間保持した後、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル157部を加えた。そして85〜95℃に冷却して均一化させた。つぎにジエチレントリアミンジケチミン(固形分73%のメチルイソブチルケトン溶液)277部を加え120℃で1時間撹拌しエチレングリコールモノn−ブチルエーテル13部を加え、アミン化樹脂を製造した。ついで18部のイオン交換水とギ酸8部を仕込み上記アミン化樹脂を混合し15分撹拌し、イオン交換水200部を混合して、1級アミン基を有する顔料分散樹脂(平均分子量2,200)の樹脂溶液(樹脂固形分25%)を得た。
【0072】
製造例4−1 電着塗料樹脂エマルション(Em1)の製造
製造例1で得たアミン化樹脂(樹脂A)350g(固形分換算)と、製造例2−1で得たブロックイソシアネート硬化剤(1)および製造例2−2で得たブロックイソシアネート硬化剤(2)それぞれ75g(固形分換算)とを混合し、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテルを15g(全固形分に対して3%)になるように添加した。次にギ酸を中和率40%になるように加えて中和し、イオン交換水を加えてゆっくり希釈し、次いで固形分が36%になるように減圧下でメチルイソブチルケトンを除去して、電着塗料樹脂エマルション(Em1)を得た。
【0073】
製造例4−2 電着塗料樹脂エマルション(Em2)の製造
製造例1で得たアミン化樹脂(樹脂A)400g(固形分換算)と、製造例2−1で得たブロックイソシアネート硬化剤(1)100g(固形分換算)とを混合し、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテルを15g(全固形分に対して3%)になるように添加した。次にギ酸を中和率40%になるように加えて中和し、イオン交換水を加えてゆっくり希釈し、次いで固形分が36%になるように減圧下でメチルイソブチルケトンを除去して、電着塗料樹脂エマルション(Em2)を得た。
【0074】
製造例4−3 電着塗料樹脂エマルション(Em3)の製造
製造例2で得たアミン化樹脂(樹脂B)350g(固形分)と、製造例2−1で得たブロックイソシアネート硬化剤(1)および製造例2−2で得たブロックイソシアネート硬化剤(2)それぞれ75g(固形分)とを混合し、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテルを固形分に対して3%(15g)になるように添加した。次にギ酸を中和率40%になるように加えて中和し、イオン交換水を加えてゆっくり希釈し、次いで固形分が36%になるように減圧下でメチルイソブチルケトンを除去して、電着塗料樹脂エマルション(Em3)を得た。
【0075】
製造例5−1 リン酸亜鉛分散ペースト(1)の製造(リン酸亜鉛微粒子1)
イオン交換水570gに、アミノシラン(KBM603)30gを攪拌しながら添加し、30分間常温で加水分解させた。次にリン酸亜鉛(試薬)を400g添加し10分間攪拌させた。その後サンドミルを用いて、40℃において、平均粒子径D50(体積50%径)0.6μmとなるまで分散して調製し、リン酸亜鉛分散ペースト(1)(固形分43%)を得た。
なお、平均粒子径D50(体積50%径)の測定は、レーザードップラー式粒度分析計(日機装社製、「マイクロトラックUPA150」)を用いて、分散体を信号レベルが適性になるようイオン交換水で希釈して、平均粒子径D50(体積50%径)を測定した。
【0076】
製造例5−2 リン酸亜鉛分散ペースト(2)の製造(リン酸亜鉛微粒子2)
平均粒子径D50(体積50%径)が1.5μmとなるまで分散して調製したこと以外は製造例5−1と同様にして分散して調製し、リン酸亜鉛分散ペースト(2)(固形分43%)を得た。
【0077】
製造例5−3 リン酸亜鉛分散ペースト(3)の製造(リン酸亜鉛微粒子3)
イオン交換水50gに製造例3で得られた顔料分散樹脂100g(固形分換算)添加し、さらに酸化亜鉛(試薬)290gを添加し15分間攪拌した。その後サンドミルを用いて、40℃で分散させた。次いで、75%リン酸(試薬)を280g徐々に添加し、反応させながら分散調製して、リン酸亜鉛分散ペースト(3)(固形分55%、平均粒子径D50(体積50%径)0.4μm)を得た。
【0078】
製造例5−4 リン酸亜鉛分散ペースト(4)の製造(リン酸亜鉛微粒子4)
製造例5−1で用いたアミノシランの代わりに、製造例3で得られた顔料分散樹脂を30g(固形分換算)を用いた以外は、製造例5−1と同様にして分散して調製し、リン酸亜鉛分散ペースト(4)(平均粒子径D50(体積50%径)3.5μm)を得た。
【0079】
製造例5−5 リン酸亜鉛分散ペースト(5)の製造(リン酸亜鉛微粒子5)
製造例5−1で用いたアミノシランの代わりに、製造例3で得られた顔料分散樹脂を30g(固形分換算)を用い、分散固形分を40%にした以外は、製造例5−1と同様にして分散して調製し、リン酸亜鉛分散ペースト(5)(平均粒子径D50(体積50%径)0.6μm)を得た
【0080】
製造例6 電着塗料用顔料分散ペーストの製造
サンドミルを用いて、製造例3で得られた顔料分散樹脂を含む以下の表1に示す配合に基づき、得られた混合物を40℃において、平均粒子径D50(体積50%径)が0.6μmとなるまで分散し、調製して、電着塗料用顔料分散ペースト(固形分49%)を得た。
【0081】
【表1】

【0082】
製造例7 顔料および錫硬化触媒を含む分散ペーストの製造
サンドミルを用いて製造例6と同様にして、製造例3で得られた顔料分散樹脂を含む以下の表2に示す配合に基づき、得られた混合物を40℃において、平均粒子径D50(体積50%径)が0.6μmとなるまで分散し、調製して、顔料および硬化触媒を含む分散ペースト(固形分49%)を得た。得られた、顔料および錫硬化触媒を含む分散ペーストは、比較例3および参考例1に用いた。
【0083】
【表2】

【0084】
実施例1
ステンレス容器に、イオン交換水、アミン化樹脂およびブロックイソシアネート硬化剤を含む、製造例4−2の電着塗料樹脂エマルション(2)(表3中では「樹脂Em(2)」と記載)17部、製造例5−1のリン酸亜鉛分散ペースト(1)(表3中では「分散ペースト(1)」と記載)0.3部、製造例6の顔料分散ペーストを添加して混合し、その後40℃で16時間エージングした。なお下記表3において、リン酸亜鉛分散ペースト(1)の量0.3部は、リン酸亜鉛の質量であり、リン酸亜鉛分散ペーストの量ではない。また顔料の量は、二酸化チタン、カーボンブラックおよびカオリンの総質量が下記表3中の量(2.7部)となるように加えた。
【0085】
下記表3中に記載される「MEQA」は、電着塗料組成物の樹脂固形分100gに対する酸のミリグラム当量(MEQ(A))である。このMEQ(A)は、電着塗料組成物を10g精秤して50mlの溶剤(THF)に溶解した後、1/10NのNaOH溶液を用いて電位差滴定を行うことによって求めた。
【0086】
実施例2〜10および比較例1〜3 電着塗料組成物の製造
ステンレス容器に、表3に記載の成分を表3に記載の配合量で混合し、その後40℃で16時間エージングした。なお下記表3において、リン酸亜鉛分散ペースト(1)〜(5)の量は、リン酸亜鉛の質量が下記表3中の量となるように加えた。また顔料の量は、実施例2〜10および比較例1〜2では、二酸化チタン、カーボンブラックおよびカオリンの総質量が下記表3中の量となるように加えた。比較例3では、二酸化チタン、カーボンブラック、カオリンおよび錫の総質量が下記表3中の量となるように加えた。
【0087】
実施例9においては、アミノテトラゾール(増田化学工業社製)を、表3中の量となるように加えた。
【0088】
実施例10においては、亜硝酸カルシウム(日産化学工業社製)を、表3中の量となるように加えた。
【0089】
比較例2においては、あらかじめイオン交換水90質量部中に酢酸亜鉛二水和物10質量部を溶かした水溶液を、亜鉛として金属換算したときに表3中の量となるように加えた。
【0090】
比較例3においては、製造例6の顔料分散ペーストの代わりに、製造例7の、顔料および錫硬化触媒を含む分散ペーストを用いた。
【0091】
実施例および比較例の電着塗料組成物を用いた電着塗装
冷延鋼板(JIS G3141、SPCC−SD)を、サーフクリーナーEC90(日本ペイント社製)中に50℃で2分間浸漬して、脱脂処理した。次いで、ZrF 500ppmを含み、NaOHを用いてpH4に調整したジルコニウム化成処理液中に、40℃で90秒間浸漬して、ジルコニウム化成処理を行った。
次いで、上記実施例および比較例により得られた電着塗料組成物に、ジルコニウム化成処理を行った鋼板を浸漬して、表中に記載された条件で電圧(30秒昇圧180Vに達してから150秒間保持)を印加して、被塗物上に未硬化の電着塗膜を析出させた。次いで、表3中に記載された焼付け温度で15分間加熱して、硬化電着塗膜を形成した。得られた硬化電着塗膜を用いて、下記の評価を行った。
【0092】
参考例1
参考例1は、電着塗装前にリン酸亜鉛化成処理を行った参考例である。参考例1で用いる電着塗料組成物は、製造例4−1の樹脂エマルション(1)、製造例7の顔料および錫硬化触媒を含む分散ペーストを表3に記載する配合量で添加して混合し、その後40℃で16時間エージングして調製した。また顔料の量は、二酸化チタン、カーボンブラック、カオリンおよび錫の総質量が下記表3中の量となるように加えた。
【0093】
参考例1を用いた電着塗装
参考例1では、冷延鋼板(JIS G3141、SPCC−SD)を、サーフクリーナーEC90(日本ペイント社製)中に50℃で2分間浸漬して脱脂処理し、サーフファインGL−1(日本ペイント社製)で表面調整し、次いでリン酸亜鉛化成処理液であるサーフダインSD−5000(日本ペイント社製、リン酸亜鉛化成処理液)中に40℃で2分間浸漬して、リン酸亜鉛化成処理を行った。次いで、上記より得られた電着塗料組成物を用いて、実施例1と同様に電着塗装を行った。
【0094】
上記実施例、比較例および参考例により得られた電着塗料組成物および塗装板を用いて、下記評価試験を行った。
【0095】
サイクル腐食試験(Cycle Corrosion Test(CCT))
得られた塗装板の塗膜に、基材に達するようにナイフでクロスカット傷を入れ、JASO M609−91「自動車用材料腐食試験方法」を100サイクル行った。その後、クロスカット部からの錆やフクレ発生を観察し、実際の腐食環境に即した耐食性を評価した。評価基準は以下の通りである。

評価基準
◎:錆またはフクレの最大幅がカット部より5mm未満(両側)
○:錆またはフクレの最大幅がカット部より5mm以上7.5mm未満(両側)カット部以外にブリスターなし
○△:錆またはフクレの最大幅がカット部より5mm以上7.5mm未満(両側)カット部以外もブリスターあり
△:錆またはフクレの最大幅がカット部より7.5mm以上10mm未満(両側)
△×:錆またはフクレの最大幅がカット部より10mm以上12.5mm未満(両側)
×:錆またはフクレの最大幅がカット部より12.5mm以上(両側)
【0096】
塩水浸漬テスト(SDT)試験
冷延鋼板(JIS G3141、SPCC−SD)を、サーフクリーナーEC90(日本ペイント社製)中に50℃で2分間浸漬して、脱脂処理した。次いで、実施例または比較例で得られた電着塗料組成物に鋼板を浸漬して、表中に記載された条件で上記と同様に電圧を印加して、被塗物上に未硬化の電着塗膜を析出させた。次いで、表3中に記載された焼付け温度で15分間加熱して、硬化電着塗膜を形成した。
硬化後の電着塗装板の塗膜に、基材に達するようにナイフで直線状の傷を入れた。この塗装板を、5%食塩水中に50℃で480時間浸漬した後、直線状の傷部からの錆やフクレ発生を観察し、評価した。評価基準は以下の通りである。

評価基準
◎:錆またはフクレが生じていない
○:錆またはフクレの最大幅がカット部より2.5mm未満(両側)ブリスターなし
○△:錆またはフクレの最大幅がカット部より2.5mm未満(両側)ブリスターあり
△:錆またはフクレの最大幅がカット部より2.5mm以上5mm未満(両側)
△×:錆またはフクレの最大幅がカット部より5mm以上10mm未満(両側)
×:錆またはフクレの最大幅がカット部より10mm以上(両側)
【0097】
硬化性評価
上記より得られた硬化電着塗膜を有する塗装物の塗膜を、メチルイソブチルケトンをしみこませたガーゼで10回擦った後、剥離状態を、下記評価基準に基づき目視評価した。

評価基準
○:剥離なし
○△:わずかに剥離
×:剥離あり
【0098】
付きまわり性評価
付きまわり性は、いわゆる4枚ボックス法により評価した。すなわち、図1に示すように、4枚のジルコニウム化成処理を行った鋼板11〜14を、立てた状態で間隔20mmで平行に配置し、両側面下部および底面を布粘着テープ等の絶縁体で密閉したボックス10を調製した。なお、鋼鈑14以外の鋼鈑11〜13には下部に8mmφの貫通穴15が設けられている。上記実施例および比較例により得られた電着塗料組成物4リットルを塩ビ製容器に移して第1の電着浴とした。図2に示すように、上記ボックス10を、被塗装物として電着塗料21を入れた電着塗料容器20内に浸漬した。この場合、各貫通穴15からのみ塗料21がボックス10内に侵入する。
【0099】
マグネチックスターラー(非表示)で電着塗料組成物21を攪拌した。そして、各鋼鈑11〜14を電気的に接続し、最も近い鋼鈑11との距離が150mmとなるように対極22を配置した。各鋼鈑11〜14を陰極、対極22を陽極として電圧を印加して、ジルコニウム化成処理を行った鋼鈑にカチオン電着塗装を行なった。塗装は、印加開始から30秒間で鋼鈑11のA面に形成される塗膜の膜厚が15μmに達する電圧まで昇圧し、その後150秒間その電圧を維持することにより行った。
【0100】
塗装後の各鋼鈑は、水洗した後、170℃で25分間焼き付けし、空冷後、対極22から最も近い鋼鈑11のA面に形成された塗膜の膜厚と、対極22から最も遠い鋼鈑14のG面に形成された塗膜の膜厚とを測定し、膜厚(G面)/膜厚(A面)の比(G/A値)により付きまわり性を評価した。
【0101】
耐ガスピン性評価
ジルコニウム化成処理を行ったGA鋼板を浸漬して、表3中に記載された条件で電圧(30秒昇圧200Vに達してから150秒間保持)を印加して、被塗物上に未硬化の電着塗膜を析出させた。次いで、表中に記載された焼付け温度で15分間加熱して、硬化電着塗膜を形成した。得られた硬化電着塗膜を用いて、下記の評価基準に基づき評価を行った。

評価基準
○:ガスピン発生なし
△:僅かにガスピン発生
×:全面にガスピン発生
【0102】
硬化電着塗膜外観
硬化電着塗膜外観における異常の有無を目視で判断した。評価基準は以下の通りとした。

評価基準
◎:極めて均一な塗膜外観を有している
○:均一な塗膜外観を有している
○△:ややムラがあると視認される部分があるものの、全体としてほぼ均一な塗膜外観を有している
△:ムラが視認される
×:塗膜外観が明らかに不均一である
【0103】
電着塗料組成物の安定性
電着塗料組成物を静置した状態または撹拌した状態において、塗料組成物の状態を目視にて判定し、安定性を評価した。評価基準は以下の通りとした。

評価基準
○:電着塗料組成物を静置した状態で良好に分散して安定である
○△:電着塗料組成物を静置した状態では顔料分が沈降しやすく安定ではないものの、再度撹拌することによってすぐに再分散する
△:電着塗料組成物の分散状態を維持するために連続的に撹拌し続ける必要がある
×:電着塗料組成物を連続的に撹拌し続けた状態でも分散が安定化しない
【0104】
【表3】

【0105】
実施例の電着塗料組成物は何れも、塗料安定性に優れており、得られた硬化電着塗膜において優れた耐食性能が発揮されており、付きまわり性、耐ガスピン性も優れていた。
比較例1は、リン酸亜鉛分散ペーストに含まれるリン酸亜鉛の平均粒子径D50(体積50%径)が3μmを超える実験例である。この場合は、得られた硬化電着塗膜の耐食性が劣っており、さらに硬化性、付きまわり性なども劣っていた。
比較例2は、リン酸亜鉛の代わりに酢酸亜鉛を含む実験例である。この場合もまた、得られた硬化電着塗膜の耐食性が劣っており、さらに耐ガスピン性も劣り、得られた塗膜の塗膜外観も劣っていた。またこの電着塗料組成物は、付きまわり性が著しく低下した。
比較例3は、リン酸亜鉛を含まず、硬化触媒としてジブチル錫オキシドを用いた実験例である。この場合もまた、得られた硬化電着塗膜の耐食性が劣っており、さらに耐ガスピン性も劣り、付きまわり性も劣っていた。
参考例1は、リン酸亜鉛化成処理液を用いて化成処理を行った実験例である。この参考例1の結果と実施例1〜10の結果との対比により、実施例の電着塗料組成物は、ジルコニウム化成処理後に電着塗装する場合であっても、リン酸亜鉛化成処理液を用いて化成処理した後に従来の電着塗料組成物を用いて電着塗装する場合と同等またはそれ以上の耐食性および付きまわり性などが得られることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の電着塗料組成物において、平均粒子径D50(体積50%径)が3μm以下であるリン酸亜鉛(C)がカチオン分散剤で分散された状態で含まれることによって、得られる硬化電着塗膜の耐食性が向上し、そして電着塗料組成物の付きまわり性も向上するという優れた効果が得られる。本発明の電着塗料組成物は、耐食性に優れた硬化電着塗膜を形成することができるため、ジルコニウム化成処理を施した被塗物の電着塗装において好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0107】
10:ボックス
11〜14:化成処理鋼板
15:貫通孔
20:電着塗装容器
21:電着塗料
22:対極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミン化樹脂(A)、硬化剤(B)およびリン酸亜鉛(C)を含む電着塗料組成物であって、
該リン酸亜鉛(C)は、平均粒子径D50(体積50%径)が3μm以下であり、および
該リン酸亜鉛(C)は、電着塗料組成物中において、カチオン分散剤で分散された状態で含まれる、
電着塗料組成物。
【請求項2】
前記リン酸亜鉛(C)の平均粒子径D50(体積50%径)は1μm以下であり、および
前記電着塗料組成物はさらに、二酸化チタン、カーボンブラック、カオリンからなる群から選択される顔料(D)を含み、該顔料(D)は、電着塗料組成物中において、カチオン分散剤で分散された状態で含まれ、該顔料(D)の平均粒子径D50(体積50%径)が3μm以下である、
請求項1記載の電着塗料組成物。
【請求項3】
前記リン酸亜鉛(C)の分散に用いる前記カチオン分散剤がアミノシラン化合物である、請求項1または2記載の電着塗料組成物。
【請求項4】
電着塗料組成物中に含まれる前記リン酸亜鉛(C)の含有量は0.01〜10質量%である、請求項1〜3いずれかに記載の電着塗料組成物。
【請求項5】
前記リン酸亜鉛(C)は、亜鉛化合物およびカチオン分散剤を分散させた状態において、リン酸を加えて反応させる固液反応によって得られたリン酸亜鉛である、請求項1〜4いずれかに記載の電着塗料組成物。
【請求項6】
前記電着塗料組成物はさらにアミノテトラゾール(E)を含む、請求項1〜5いずれかに記載の電着塗料組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−67790(P2013−67790A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−195969(P2012−195969)
【出願日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】