説明

電着塗膜形成方法およびそれを利用した複層塗膜の形成方法

【課題】二層分離型電着塗膜の形成において、架橋密度の向上と層分離性との両立を可能とし、さらに、自動車車体などの塗装において、電着塗膜に優れた耐食性、耐候性、耐光性、耐衝撃性、耐チッピング性および外観を付与することのできる電着塗膜形成方法を提供する。
【解決手段】塗料組成物を被塗物上に電着塗装し、次いで加熱しながら層分離、その後硬化させて、少なくとも2層からなる複層硬化膜を形成する工程を包む電着塗膜形成方法であって、塗料組成物が、塗膜形成性樹脂成分(a)および(b)、ブロックドポリイソシアネート(c1)および(c2)、および顔料を含み、塗膜形成性樹脂成分(a)および(b)が、互いに不相溶であり、塗膜形成性樹脂成分(a)、(b)が、ブロックドポリイソシアネート(c1)、(c2)を含むエマルション粒子A、Bを形成し、塗膜形成性樹脂成分(a)が、共重合モノマーとして、(メタ)アクリルアミドを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車車体などの塗装において、電着塗膜に、優れた耐食性、耐候性、耐光性、耐衝撃性、耐チッピング性などの機能を付与するだけでなく、優れた塗膜外観をも付与することのできる電着塗膜形成方法に関し、さらに、本発明は、自動車車体などの塗装において、中塗り塗装工程を省略した、いわゆる中塗り塗装レス系の複層塗膜形成方法においても、優れた塗膜外観をもたらすことのできる複層塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車車体などの塗装分野では、一般に、鋼板などの被塗物に、防錆性向上を目的として、下塗り塗膜として電着塗膜を形成した後、その上に中塗り塗膜を形成し、さらにその上に、上塗り塗膜として、着色ベース塗膜、クリヤー塗膜などを順次形成して塗装が完了する。
【0003】
しかし、近年では、自動車車体などの塗装分野においても、省資源、省エネルギー、省コストおよび環境負荷低減(例えば、低VOCおよび低CO)を目的として、塗装工程の短縮および簡略化が求められている。
【0004】
一般に、簡略化した塗装方法としては、3コート1ベーク(3C1B)法がよく知られている。3C1B法では、電着塗膜の上に、中塗り塗料、ベース塗料およびクリヤー塗料をウェット・オン・ウェット(wet-on-wet)で順次塗り重ね、これら塗り重ねた塗膜を同時に焼き付け、硬化させることによって、電着塗膜の上に、これら3層を中塗り塗膜、ベース塗膜およびクリヤー塗膜の順で含む複層塗膜を一度の焼き付け硬化で簡便に形成することができる。3C1B法では、硬化電着塗膜形成後、たった1回の加熱硬化で複層塗膜を形成することができるので、省エネルギーおよび省コストなどの観点から非常に有益である。また、3C1B法では、一般に、形成される複層塗膜が中塗り塗膜を含むため、優れた下地隠蔽性、耐候性、耐光性、耐衝撃性、耐チッピング性などの機能および平滑性を塗膜に付与することができる。
【0005】
また、近年では、さらに簡略化した塗装方法として、中塗り塗装工程を省略した、いわゆる中塗り塗装レス系の複層塗膜の形成方法が検討されている。自動車車体などに適用する複層塗膜において、中塗り塗膜を省略する場合、一般には、電着塗膜が中塗り塗膜の役割を担う必要がある。従って、電着塗膜は、被塗物に対して、優れた防錆性だけでなく、優れた耐候性、耐光性、耐衝撃性、耐チッピング性などの機能および優れた平滑性、すなわち優れた塗膜表面を有していなければならない。また、この場合、中塗り塗膜を省略しても、3C1B法で形成される塗膜と同等またはそれ以上の優れた上塗り塗膜外観を提供しなければならない。
【0006】
例えば、特公平2−33069号公報(特許文献1)には、二層塗膜形成型厚膜電着塗料組成物及び電着塗装方法が開示されている。特許文献1に開示の電着塗料組成物は、組成中にベンゼン核を有するモノマーを50重量%以下含有し、かつ軟化点が80℃以上である疎水性のカチオン性アクリル樹脂(A)と、軟化点が75℃以下である親水性のカチオン性フェノール型エポキシ樹脂(B)とを含有し、(A)対(B)の重量比が1〜30対1であることを特徴とする。特許文献1に開示の電着塗料組成物では、防錆性に優れた親水性のカチオン性フェノール型エポキシ樹脂成分からなる下層と、耐候性に優れた疎水性のアクリル樹脂成分からなる上層とを含む二層構造の電着硬化塗膜を形成することができる。
【0007】
また、特許第4201923号公報(特許文献2)には、互いに不相溶な少なくとも2種類の樹脂成分(すなわち、親水性の樹脂成分および疎水性の樹脂成分)、硬化剤および顔料を含む水性塗料組成物を導電性基材上に電着塗装し、次いで加熱しながら層分離せしめ、その後硬化させて少なくとも2層から成る複層硬化膜を形成する過程で、空気に直接接する疎水性の樹脂層中の顔料濃度(a)が前記導電性基材に直接接する親水性の樹脂層中の顔料濃度(b)に比較して相対的に低くなるように顔料の配分を制御することを特徴とする複層電着塗膜の形成方法が開示されている。
【0008】
特許文献1および2に開示の二層分離型電着塗膜の形成方法では、いずれも、電着塗料組成物が親水性の樹脂成分と、疎水性の樹脂成分とを含み、これらを電着塗装の後に同時に加熱硬化することによって、その溶解度の差を利用して、防錆性に優れた親水性樹脂成分の下層と、耐候性に優れた疎水性樹脂成分の上層とを同時に形成している。
【0009】
しかし、これら従来の電着塗装では、中塗り塗膜を省略した場合、現在の自動車塗装の分野で求められる上塗り塗膜外観の基準を満たすことができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公平2−33069号公報
【特許文献2】特許第4201923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
一般に、当該分野では、電着塗膜の上にさらに塗装を施す場合、電着塗膜の架橋密度を向上させておくと、その上に塗布される塗料やその中に含まれる溶剤を電着塗膜が吸収しにくくなるので、電着塗膜の膨潤およびその上に形成される塗膜の粘度上昇を抑制することができ、良好な上塗り塗膜外観が得られることが知られていた。また、一般に、電着塗膜の架橋密度を向上させる方法としては、電着塗料組成物中に含まれる樹脂のヒドロキシル価(OHV)を向上させることが知られていた。
【0012】
しかし、上述のような従来の二層分離型電着塗膜において、電着塗膜の架橋密度の向上を目的として、電着塗料組成物中に含まれる樹脂のヒドロキシル価(OHV)を上げると、電着塗料組成物中に含まれる樹脂、特に、外層を形成する疎水性の樹脂(より具体的には、アクリル樹脂)が親水化して、下層となる親水性の樹脂(より具体的には、カチオン性エポキシ樹脂)と混和し、層分離が進行しない、すなわち、層分離性が著しく低下して、単一層となることが、本発明者らの研究によって、はじめてわかった。このような場合には、層分離することなく単一層のみが形成されるか、あるいは、層分離が不規則となって電着塗膜表面上に大きな島状の凹凸が形成され、電着塗膜の外観が著しく低下する。さらに、自動車車体などの塗装において、このような電着塗膜の上に、中塗り塗膜を省略して、さらに上塗り塗膜を形成すると、上塗り塗膜外観が著しく低下することがわかった。これは、従来では、中塗り塗膜が、下地を隠蔽し、さらに、平滑化する効果を有していたためである。
【0013】
従って、本発明では、二層分離型電着塗膜の形成において、架橋密度の向上と層分離性との両立を目的とし、さらに、自動車車体などの塗装において、電着塗膜に優れた耐食性、耐候性、耐光性、耐衝撃性、耐チッピング性などの機能を付与するだけでなく、優れた塗膜外観をも付与することのできる電着塗膜形成方法の提供を目的とする。また、本発明は、自動車車体などの塗装において、中塗り塗装工程を省略した、いわゆる中塗り塗装レス系の複層塗膜形成方法においても、優れた塗膜外観をもたらすことのできる複層塗膜形成方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意研究の結果、二層分離型電着塗膜を形成することのできる電着塗料組成物において、二層電着塗膜の表層(最上層)を形成することのできる塗膜形成性樹脂成分中に(メタ)アクリルアミドをモノマー成分としてその共重合時に配合することによって、層分離性を低下させることなく、形成される電着塗膜の架橋密度を向上させることができ、その結果、電着塗膜の外観が飛躍的に向上することを見出し、本発明を完成するに至った。従って、本発明は、以下を提供する。
【0015】
電着塗料組成物を被塗物上に電着塗装し、次いで加熱しながら層分離せしめ、その後硬化させて、少なくとも2層からなる複層硬化膜を形成する工程を包含する電着塗膜形成方法であって、電着塗料組成物が、
塗膜形成性樹脂成分(a)および(b)、
ブロックドポリイソシアネート(c1)および(c2)、および
顔料
を含み、
塗膜形成性樹脂成分(a)および(b)が、互いに不相溶であり、
塗膜形成性樹脂成分(a)が、ブロックドポリイソシアネート(c1)を含むエマルション粒子Aを形成し、
塗膜形成性樹脂成分(b)が、ブロックドポリイソシアネート(c2)を含むエマルション粒子Bを形成し、
塗膜形成性樹脂成分(a)が、共重合モノマーとして、(メタ)アクリルアミドを含み、
前記(メタ)アクリルアミドが、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミドおよびN−イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミドからなる群から少なくとも1つ選択され、
前記(メタ)アクリルアミドが、塗膜形成性樹脂成分(a)の樹脂固形分100重量部に対して、1〜24重量部含まれる、
電着塗膜形成方法。
【0016】
本発明の電着塗膜形成方法において、好ましくは、
塗膜形成性樹脂成分(a)が、カチオン変性アクリル樹脂であり、
塗膜形成性樹脂成分(b)が、カチオン変性エポキシ樹脂であり、
塗膜形成性樹脂成分(a)の溶解性パラメータ(δa)および塗膜形成性樹脂成分(b)の溶解性パラメータ(δb)が、{δb−δa}≧0.5の関係を満足する。
【0017】
本発明の電着塗膜形成方法において、好ましくは、塗膜形成性樹脂成分(a)および(b)の配合比((a)/(b))が、固形分重量比で50/50〜40/60である。
【0018】
本発明の電着塗膜形成方法において、好ましくは、前記(メタ)アクリルアミドが自己架橋性である。
【0019】
本発明の電着塗膜形成方法において、好ましくは、前記(メタ)アクリルアミドが、塗膜形成性樹脂成分(a)の樹脂固形分100重量部に対して、4〜18重量部含まれる。
【0020】
本発明の電着塗膜形成方法において、好ましくは、
ブロックドポリイソシアネート(c1)が、脂肪族系のポリイソシアネートを封止剤でブロックしたものであり、
ブロックドポリイソシアネート(c2)が、脂環式系または芳香族系のポリイソシアネートを封止剤でブロックしたものである。
【0021】
また、本発明は、上記の電着塗膜形成方法によって形成される電着塗膜の上に、さらに、上塗りベース塗料組成物を塗布して、未硬化の上塗りベース塗膜を形成する工程、
未硬化の上塗りベース塗膜の上に、さらに、上塗りクリヤー塗料組成物を塗布して未硬化の上塗りクリヤー塗膜を形成する工程、および
未硬化の上塗りベース塗膜および未硬化の上塗りクリヤー塗膜を同時に加熱して硬化する工程
を包含する、複層塗膜の形成方法を提供する。
【発明の効果】
【0022】
従来では、自動車車体などの塗装において、中塗り塗装工程の省略を目的として、鋼材などの被塗物上に二層分離型電着塗膜を形成し、被塗物と接触する最下層にはカチオン性エポキシ樹脂などの親水性の樹脂によって防錆性を付与し、最上層にはアクリル樹脂などの疎水性の樹脂によって耐候性、耐光性、耐衝撃性、耐チッピング性などの機能を付与することを検討していた。しかし、従来の二層分離型電着塗膜では、中塗り塗装工程を省略すると、現在の自動車塗装の分野で求められる上塗り塗膜外観の基準を満たすことができず、中塗り塗装レス工程の実現は、非常に困難なものであった。特に、従来の二層分離型電着塗膜を形成することのできる電着塗料組成物において、電着塗膜の架橋密度を向上させることを目的として、その中に含まれるアクリル樹脂などの疎水性樹脂のヒドロキシル価(OHV)を向上させると、上層となる疎水性の樹脂が親水性となるので、下層となる親水性の樹脂との混和が生じ、層分離がうまく進行しない。従って、このようなことから、架橋密度の向上と層分離性との両立は従来では非常に困難なものであった。また、層分離性が著しく低下すると、電着塗膜の表面に島状の大きな凹凸が形成されることもあり、電着塗膜の外観が著しく低下する場合もあった。また、自動車車体の塗装分野において、このような従来の電着塗膜の上に、下地隠蔽性や平滑性を付与することのできる中塗り塗膜を省略して、直接上塗り塗装を施すと、下地隠蔽性や平滑性が得られないので、上塗り塗膜の外観(すなわち、上塗り仕上がり性)が著しく低下する。さらに、従来の電着塗膜では、中塗り塗装工程を省略すると、その上に塗装される上塗り塗料またはその中に含まれる溶剤が電着塗膜中に浸入して、電着塗膜が膨潤し、上塗り塗膜の粘度が上昇するので、電着塗膜および上塗り塗膜の表面が大きく波打ち、上塗り塗膜の外観が著しく低下する場合もあった。
【0023】
しかし、本発明では、二層分離型電着塗膜を形成することのできる電着塗料組成物に、規定量の(メタ)アクリルアミド、望ましくは自己架橋性かつ疎水性の(メタ)アクリルアミドを、モノマー成分として、二層電着塗膜の表層(最上層)を形成することのできる塗膜形成性樹脂成分中にその共重合時に配合することによって、二層分離型電着塗膜の層分離性を維持しながら、すなわち、電着塗料組成物に含まれる疎水性樹脂のヒドロキシル価(OHV)を著しく向上させることなく、形成される二層分離型電着塗膜の架橋密度を向上させることができる。
【0024】
その結果、本発明では、自動車車体などの塗装において、電着塗膜に優れた耐食性、耐候性、耐光性、耐衝撃性、耐チッピング性などの機能を付与するだけでなく、優れた塗膜外観をも付与することができる。また、本発明では、電着塗膜が優れた耐食性、耐候性、耐光性、耐衝撃性、耐チッピング性などの機能および優れた塗膜外観(すなわち、平滑性など)を有することから、自動車車体などの塗装において、中塗り塗装工程を省略することができ、省資源、省エネルギー、省コストおよび環境負荷低減(例えば、低VOCおよび低CO)を達成することができる。
【0025】
さらに、本発明では、電着塗膜が向上した架橋密度を有することから、その上にウェット・オン・ウェットで上塗り塗料を塗布した場合であっても、塗料またはその中に含まれる溶剤の電着塗膜への浸入および電着塗膜の膨潤、ならびに、その上に形成される塗膜の粘度上昇を抑制することができ、首尾よく塗料を塗り重ねることができ、形成される複層塗膜は、大きく波打つこともなく、外観が飛躍的に向上する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、電着塗料組成物を被塗物上に電着塗装し、次いで加熱しながら層分離せしめ、その後硬化させて、少なくとも2層からなる複層硬化膜を形成する工程を包含する電着塗膜形成方法に関し、本発明で使用することのできる電着塗料組成物は、互いに不相溶な少なくとも2種類の塗膜形成性樹脂成分(a)および(b)[すなわち、疎水性の塗膜形成性樹脂成分(a)および親水性の塗膜形成性樹脂成分(b)]、少なくとも2種類のブロックドポリイソシアネート(c1)および(c2)および顔料を含み、さらに、二層電着塗膜の表層(最上層)を形成することのできる塗膜形成性樹脂成分(a)中にその共重合時にモノマーとして(メタ)アクリルアミドを配合することを特徴とする。本発明では、塗膜形成性樹脂成分(a)が(メタ)アクリルアミド、特に好ましくは自己架橋性かつ疎水性の(メタ)アクリルアミドを規定量で含むこのような電着塗料組成物から、二層電着硬化塗膜を形成することによって、電着塗膜に優れた耐食性、耐候性、耐光性、耐衝撃性、耐チッピング性などの機能を付与するだけでなく、優れた塗膜外観をも付与し、従来必要であった中塗り塗装工程を省略することができる。
【0027】
本発明の方法を適用することができる被塗物としては、例えば、自動車車体などの大型で複雑な形状の被塗物、ならびにそれらを構成することのできる導電性基材であれば特に限定はなく、例えば、金属(例えば、鉄、鋼、銅、アルミニウム、マグネシウム、スズ、亜鉛等およびこれらの金属を含む合金など)、鉄板、鋼板、アルミニウム板およびこれらに表面処理(例えば、リン酸塩、クロム酸塩等を用いた化成処理)を施したもの、ならびに、これらの成型物などが挙げられる。
【0028】
(メタ)アクリルアミド
本発明では、二層分離型電着塗膜を形成することのできる電着塗料組成物中に、規定量の(メタ)アクリルアミド、特に好ましくは自己架橋性であり、なおかつ、疎水性である(メタ)アクリルアミドを塗膜形成性樹脂成分の一部として、すなわち共重合モノマーとして配合することによって、硬化後の電着塗膜の架橋度を飛躍的に向上させることができる。特に、以下に詳細に説明する電着塗料組成物に含まれる疎水性の塗膜形成性樹脂成分(a)を製造する際に(メタ)アクリルアミドを共重合モノマーとして以下に説明する規定量で配合すると、形成される塗膜形成性樹脂成分(a)において、ヒロドキシル価(OHV)が著しく増加することなく、すなわち樹脂成分が親水性化することなく、また、親水性の塗膜形成性樹脂成分(b)と混和して単一層を形成する恐れがなく、優れた層分離性を提供することができる。
【0029】
本発明で使用することのできる(メタ)アクリルアミドとしては、特に限定はないが、自己架橋性を有するものが好ましく、例えば、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
【0030】
また、本発明で使用することのできる(メタ)アクリルアミドは、熱および/または酸の存在下において、脱アルコール反応が進行して、自己縮合することが好ましい。
【0031】
また、本発明で使用することのできる(メタ)アクリルアミドは、アミノ基、水酸基などの反応性を有する官能基とも反応することができるので、以下にて詳細に説明する塗膜形成性樹脂成分(a)および(b)とも反応することができる。
【0032】
従って、本発明では、電着塗膜の加熱硬化時に(メタ)アクリルアミドの自己架橋が進行し、なおかつ、塗膜形成性樹脂成分(a)および(b)の両方と反応することができるので、電着塗膜の架橋密度はさらに飛躍的に向上する。
【0033】
上記の(メタ)アクリルアミドは、以下に詳細に説明する規定量で使用すると、疎水性の塗膜形成性樹脂成分(a)のヒドロキシル価(OHV)を著しく増加させることがないので、疎水性の塗膜形成性樹脂成分(a)は、親水性の塗膜形成性樹脂成分(b)と混和することがなく、層分離が阻害される恐れがない。なお、二層分離型電着塗膜の形成において、使用する疎水性の塗膜形成性樹脂成分(a)のヒドロキシル価(OHV)が増大すると、塗膜形成性樹脂成分(a)が親水性化し、親水性の塗膜形成性樹脂成分(b)と混和、すなわち、層分離せずに、単一層を形成する恐れがある。
【0034】
従って、本発明では、(メタ)アクリルアミドを使用することによって、形成される二層分離型電着塗膜は、1.20×10−3mol/cc以上、好ましくは1.40×10−3〜1.69×10−3mol/cc、より好ましくは1.50×10−3〜1.65×10−3mol/ccの架橋密度を有することができる。
【0035】
本発明において、電着塗膜の架橋密度は、まず、ブリキ板上に本発明の電着塗料組成物を塗布して形成した未硬化の電着塗膜を焼き付けた後、水銀を用いて電着塗膜を剥離し、裁断して測定用サンプルを作製し、動的粘弾性測定装置「レオゲルE4000(UBM社製)」等を用いて、サンプルに1分間に2℃の昇温速度かつ16Hzの合成波振動を与えて、動的粘弾性率を測定し、この動的粘弾性率の極小値(すなわち、平行弾性率)(E’)と、そのときの絶対温度(T)との関係式:E’=3nRT(式中、nは架橋密度を表し、Rは気体定数を表す)から、Floryの理論に従って、サンプルの架橋密度(mol/cc)を算出することができる。
【0036】
本発明の方法によって形成される二層分離型電着塗膜の架橋密度が1.20×10−3mol/cc未満であると、架橋密度が不足するので、その上にさらに塗料を塗装した場合、塗料またはその中に含まれる溶剤が電着塗膜に浸入して電着塗膜が膨潤し、その上に形成した塗膜の粘度が上昇する恐れがある。電着塗膜が膨潤すると、電着塗膜自体、あるいは、その上に形成した塗膜が大きく波打ち、塗膜外観が著しく低下する恐れがある。また、電着塗膜の上に形成した塗膜の粘度が上昇しても、塗膜が大きく波打ち、塗膜外観が著しく低下する恐れがある。
【0037】
また、使用する(メタ)アクリルアミドが親水性であると、塗膜形成性樹脂成分(a)が親水化し、親水性の塗膜形成性樹脂成分(b)と混和して、単一層を形成する(すなわち、層分離しない)恐れがある。このような観点から、本発明で使用することのできる(メタ)アクリルアミドとしては、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミドおよびN−イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミドからなる群から少なくとも1つ選択される疎水性の(メタ)アクリルアミドが特に好ましい。
【0038】
本発明では、(メタ)アクリルアミドは、共重合モノマーとして、以下にて詳細に説明する塗膜形成性樹脂成分(a)中に配合されている。(メタ)アクリルアミドは、塗膜形成性樹脂成分(a)の樹脂固形分100重量部に対して、1〜24重量部、好ましくは4〜18重量部、より好ましくは7〜13重量部の量で含まれる。(メタ)アクリルアミドの量が1重量部未満であると、自己架橋成分が少ないために、架橋密度が上がらない恐れがあり、24重量部を超えると、疎水性の(メタ)アクリルアミドを用いた場合であっても、塗膜形成性樹脂成分(a)が親水化する恐れがあり、親水性の塗膜形成性樹脂成分(b)と混和して単一層を形成し、層分離しない恐れがある。
【0039】
塗膜形成性樹脂成分
本発明の方法において使用することのできる電着塗料組成物は、少なくとも2種類の塗膜形成性樹脂成分(a)および(b)を含み、本発明では、塗膜形成性樹脂成分(a)および(b)から、少なくとも2種類のエマルション粒子を形成し、電着塗膜の塗布後、加熱硬化によって、少なくとも2層からなる二層電着硬化塗膜を形成する。本明細書において、便宜上、二層電着塗膜の最上層、すなわち空気と接触する塗膜に含まれる樹脂成分を塗膜形成性樹脂成分(a)と定義し、二層電着塗膜の最下層、すなわち被塗物と接触する塗膜に含まれる樹脂成分を塗膜形成性樹脂成分(b)と定義する。
【0040】
本発明において使用することのできる塗膜形成性樹脂成分(a)および(b)は、互いに不相溶であり、本発明では、塗膜形成性樹脂成分(a)の溶解性パラメータ(δa)と、塗膜形成性樹脂成分(b)の溶解性パラメータ(δb)とが、式:{δb−δa}≧0.5の関係を満足する。溶解性パラメータ(δ)とは、一般に、SP(ソルビリティ・パラメータ)とも呼ばれるものであり、これは、樹脂成分の親水性および疎水性の程度を示す尺度である。従って、相対的に、塗膜形成性樹脂成分(a)が疎水性の樹脂成分であり、塗膜形成性樹脂成分(b)が親水性の樹脂成分である。また、溶解性パラメータ(δ)は、樹脂成分間の相溶性を判断する上でも重要な尺度である。なお、溶解性パラメータ(δ)は、例えば、下記のような濁度測定法をもとに数値定量化されるものである(参考文献:K.W.Suh,D.H.Clarke J.Polymer.Sci.,A−1,5,1671(1967).)。
【0041】
一般に、電着塗料組成物に含まれる複数の樹脂成分の溶解性パラメータ(δ)の差が0.5以上であれば、相溶性を失い、形成される塗膜が二層分離構造を呈すると考えられている。なお、本発明では、2種類の樹脂成分(a)および(b)が、上記の溶解性パラメータに関する上記の式を満たすことによって、十分な不相溶性を確保することができ、その結果、二層構造の電着塗膜を形成することができる。本発明において、樹脂成分(a)および(b)の溶解性パラメータの差、すなわち{δb−δa}は、好ましくは0.5〜1.2、より好ましくは0.8〜1.0である。
【0042】
上述の通り、樹脂成分(a)の溶解性パラメータ(δa)および樹脂成分(b)の溶解性パラメータ(δb)は、{δb−δa}≧0.5の関係を満足し、これは、樹脂成分(b)が、樹脂成分(a)に対して、相対的に高い溶解性パラメータを有していることを示し、樹脂成分(b)の極性が相対的に高いこと、すなわち、親水性であることを示している。従って、樹脂成分(b)は、同じく極性の高い導電性基材などの被塗物に対して、優れた親和性を有していることを示し、樹脂成分(b)は、加熱硬化後、最下層に含まれ、樹脂成分(a)は、最上層に含まれることになる。このように、樹脂成分の溶解性パラメータの差は、二層電着塗膜形成の際に層分離を引き起こす推進力になると考えられる。
【0043】
本発明において、二層電着塗膜の構造は、電着塗膜の断面をビデオマイクロスコープによって観察するか、あるいは、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察することによって、確認することができる。また、各樹脂層を構成する樹脂成分の同定は、例えば、全反射型フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR−ATR)を使用することによって、行うことができる。
【0044】
樹脂成分(a)は、耐候性、耐光性、耐衝撃性、耐チッピング性などの観点から、上記の(メタ)アクリルアミドを含むカチオン変性アクリル樹脂が特に好ましい。
【0045】
カチオン変性アクリル樹脂は、特に限定されないが、分子内に複数のオキシラン環および複数の水酸基を含んでいるアクリル共重合体とアミンとの開環付加反応によって合成することができる。このようなアクリル共重合体は、グリシジル(メタ)アクリレートと、ヒドロキシル基含有アクリルモノマー(例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、あるいは2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのような水酸基含有(メタ)アクリルエステルと、ε−カプロラクトンとの付加生成物)と、その他のアクリル系モノマーおよび/または非アクリルモノマーとを共重合することによって得られる。
【0046】
その他のアクリル系モノマーの例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレートが挙げられる。また、非アクリルモノマーの例としては、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、(メタ)アクリルニトリル、上記以外の(メタ)アクリルアミドおよび酢酸ビニルを挙げることができる。
【0047】
上記のグリシジル(メタ)アクリレートに基づくオキシラン環を含有するアクリル樹脂は、エポキシ樹脂のオキシラン環の全部を1級アミン、2級アミンまたは3級アミン酸塩との反応によって開環し、カチオン変性アクリル樹脂とすることができる。
【0048】
また、アミノ基を有するアクリルモノマーを他のモノマーと共重合することによって直接カチオン変性アクリル樹脂を合成する方法もある。この方法では、上記のグリシジル(メタ)アクリレートの代りにN,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジ−t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有アクリルモノマーを使用し、これをヒドロキシル基含有アクリルモノマーおよび他のアクリル系モノマーおよび/または非アクリル系モノマーと共重合することによってカチオン変性アクリル樹脂を得ることができる。
【0049】
かくして得られたカチオン変性アクリル樹脂は、上記の特開平8−333528号公報に挙げられるように、必要に応じてハーフブロックジイソシアネート化合物との付加反応によってブロックイソシアネート基を導入し、自己架橋型カチオン変性アクリル樹脂とすることもできる。
【0050】
樹脂成分(a)は、ヒドロキシル価(OHV)が50〜150(mgKOH/g)の範囲となるように分子設計することが好ましい。ヒドロキシル価が50未満では塗膜の硬化不良を招き、反対に150を超えると硬化後塗膜中に過剰の水酸基が残存する結果、硬化形成塗膜の耐水性が低下することがある。また、数平均分子量は1000〜20000の範囲であれば好適である。数平均分子が1000未満では硬化形成塗膜の耐溶剤性等の物性が劣る。反対に20000を超えると、樹脂溶液の粘度が高いために得られた樹脂の乳化分散等の操作上ハンドリングが困難なばかりか、得られた電着塗膜の外観が著しく低下してしまうことがある。なお、樹脂成分(a)は1種のみ使用することもできるが、塗膜性能のバランス化を計るために、2種あるいはそれ以上の種類を使用することもできる。
【0051】
樹脂成分(a)としては、ガラス転移温度(Tg(a))が、0〜50℃、好ましくは5〜40℃であり、数平均分子量が、より好ましくは7000〜12000、更に好ましくは7000〜10000であるカチオン変性アクリル樹脂が特に好ましい。樹脂成分(a)のガラス転移温度(Tg(a))は、示差走査熱量計によって測定することができ、数平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)によって測定することができる。
【0052】
樹脂成分(b)は、被塗物である導電性基材に対して優れた防錆性を発現するような樹脂成分であることが必要である。このような樹脂成分の例として、カチオン電着塗料の分野ではカチオン変性エポキシ樹脂がよく知られており、本発明においても好適に用いることができる。一般にカチオン変性エポキシ樹脂は、特に限定されないが、出発原料樹脂分子内のエポキシ環を1級アミン、2級アミンあるいは3級アミン酸塩等のアミン類との反応によって開環して製造される。出発原料樹脂の典型例は、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等の多環式フェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応生成物であるポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂である。また他の出発原料樹脂の例として、特開平5−306327号公報に記載されたオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂を挙げることができる。このエポキシ樹脂は、ジイソシアネート化合物、またはジイソシアネート化合物のNCO基をメタノール、エタノール等の低級アルコールでブロックして得られたビスウレタン化合物と、エピクロルヒドリンとの反応によって得られるものである。
【0053】
上記出発原料樹脂は、アミン類によるエポキシ環の開環反応の前に、2官能のポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ビスフェノール類、2塩基性カルボン酸等により鎖延長して用いることができる。また同じくアミン類によるエポキシ環の開環反応の前に、分子量またはアミン当量の調節、熱フロー性、可撓性(軟らかさ)、ガラス転移温度等の調整を目的として、一部のエポキシ環に対して2−エチルヘキサノール、ノニルフェノール、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテルのようなモノヒドロキシ化合物、ステアリン酸、2−エチルヘキサン酸、ダイマー酸などの酸成分を付加して用いることもできる。
【0054】
エポキシ環を開環し、アミノ基を導入する際に使用できるアミン類の例としては、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、トリエチルアミン酸塩、N,N−ジメチルエタノールアミン酸塩などの1級、2級または3級アミン酸塩を挙げることができる。また、ジエチレントリアミンジケチミン、アミノエチルエタノールアミンケチミン、アミノエチルエタノールアミンメチルイソブチルケチミンの様なケチミンブロック1級アミノ基含有2級アミンも使用することができる。これらのアミン類は、全てのエポキシ環を開環させるために、エポキシ環に対して少なくとも当量で反応させる必要がある。
【0055】
上記カチオン変性エポキシ樹脂の数平均分子量は1500〜5000の範囲が好ましい。数平均分子量が1500未満の場合は、硬化形成塗膜の耐溶剤性および防錆性等の物性が劣ることがある。反対に5000を超える場合は、樹脂溶液の粘度制御が難しく合成が困難なばかりか、得られた樹脂の乳化分散等の操作上ハンドリングが困難となることがある。さらに高粘度であるがゆえに加熱・硬化時のフロー性が悪く塗膜外観を著しく損ねる場合がある。
【0056】
樹脂成分(b)は、ヒドロキシル価が50〜250(mgKOH/g)の範囲となるように分子設計することが好ましい。ヒドロキシル価が50未満では塗膜の硬化不良を招き、反対に250を超えると硬化後に塗膜中に過剰の水酸基が残存する結果、硬化形成塗膜の耐水性が低下することがある。
【0057】
樹脂成分(b)としては、防錆性の観点から、ガラス転移温度(Tg(b))が、20〜35℃、好ましくは28〜33℃であり、数平均分子量が、より好ましくは2000〜5000、更に好ましくは2500〜3500であるカチオン変性エポキシ樹脂が特に好ましい。樹脂成分(b)のガラス転移温度(Tg(b))は、示差走査熱量計によって測定することができ、数平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)によって測定することができる。
【0058】
電着塗料組成物における樹脂成分(a)および(b)の配合比((a)/(b))は、固形分重量比で50/50〜40/60である。配合比率が50/50〜40/60の範囲を外れた場合は、電着塗装、焼き付け後の硬化塗膜が二層構造とならず、配合比率の高い方の樹脂が連続相を形成し、配合比率の低い方の樹脂が分散相を形成する海島構造(またはミクロドメイン構造)になってしまう場合がある。
【0059】
樹脂成分(a)および(b)は、そのままエマルションとして水中に乳化分散させるか、あるいは各樹脂中のアミノ基を中和できる量の酢酸、蟻酸、乳酸等の有機酸で中和処理し、カチオン化エマルションとして水中に乳化分散させてもよい。硬化剤としては、加熱時に各樹脂成分を硬化させることが可能であれば、どのような種類のものでもよいが、その中でも、一般的な電着塗料組成物の塗膜形成性樹脂成分の硬化剤として好適なブロックドポリイソシアネートが推奨される。
【0060】
好ましい実施態様として、樹脂成分(a)としてカチオン変性アクリル樹脂を使用してエマルション粒子Aを形成し、樹脂成分(b)としてカチオン変性エポキシ樹脂を使用してエマルション粒子Bを形成することによって、被塗物の上に優れた防錆性を有するエポキシ塗膜、さらにその上に、優れた耐候性、耐光性、耐衝撃性、耐チッピング性などの機能を有するアクリル塗膜を含む二層電着硬化塗膜を形成することができる。このようなエポキシ(最下層)−アクリル(最上層)系の複層電着硬化塗膜を形成することによって、自動車車体などに適用した場合、外板部ではアクリル塗膜による優れた耐候性、耐光性、耐衝撃性、耐チッピング性が得られ、内板部ではエポキシ塗膜による優れた防錆性が得られ、しかも、外板部および内板部の両方において、適切な膜厚の電着塗膜を達成することができ、非常に有益である。また、このようなエポキシ(最下層)−アクリル(最上層)系の二層電着硬化塗膜は、優れた耐衝撃性および耐チッピング性などを有し、従来では中塗り塗膜が担っていた役割を十分に発揮することができ、中塗り塗膜の代替として特に有益であり、中塗り塗膜を省略することができる。また、自動車車体の外板部においては、約15μm、好ましくは14〜15μmの膜厚を達成することができ、内板部においては、約10μm、好ましくは7〜10μmの膜厚を達成することができ、省資源、省エネルギー、省コストおよび環境負荷低減の観点から、非常に有益である。また、本発明では、電着塗膜の表面を平滑化することができ、優れた塗膜外観を得ることができる。
【0061】
例えば、電着塗膜の表面の平滑性は、表面粗度(すなわち、算術平均粗さ(Ra))をJIS−B0601に準拠して測定することによって、評価することができ、Raの値が小さいほど、表面に凹凸が少なく、平滑性および塗膜外観が優れていることを示す。本発明では、Raの値は、0.34μm以下、好ましくは0.25μm以下である。
【0062】
硬化剤
本発明において、電着塗料組成物は、硬化剤として、ブロックドポリイソシアネートを含む。
【0063】
ブロックドポリイソシアネートの原料であるポリイソシアネートの例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(3量体を含む)、テトラメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族系のポリイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)等の脂環式系のポリイソシアネート;4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族系のポリイソシアネート等が挙げられる。これらを適当な封止剤でブロック化することにより、上記ブロックドポリイソシアネートを得ることができる。
【0064】
封止剤の例としては、n−ブタノール、n−ヘキシルアルコール、2−エチルヘキサノール、ラウリルアルコール、フェノールカルビノール、メチルフェニルカルビノール等の一価のアルキル(または芳香族)アルコール類、エチレングリコール モノヘキシルエーテル、エチレングリコール モノ2−エチルヘキシルエーテル等のセロソルブ類、フェノール、パラ−t−ブチルフェノール、クレゾール等のフェノール類、ジメチルケトオキシム、メチルエチルケトオキシム、メチルイソブチルケトオキシム、メチルアミルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム類、およびε−カプロラクタム、γ−ブチロラクタムに代表されるラクタム類が好ましく用いられる。とくにオキシム類およびラクタム類の封止剤は、低温で解離するため、樹脂硬化性の観点から好適である。
【0065】
ブロックドポリイソシアネートの樹脂成分(a)および(b)に対する配合比は、硬化塗膜の利用目的などで必要とされる架橋度に応じて異なるが、塗膜物性や上塗り塗装適合性を考慮すると、15〜40重量%の範囲が好ましい。この配合比が15重量%未満では塗膜硬化不良を招く結果、機械的強度などの塗膜物性が低くなることがあり、また、上塗り塗装時に塗料シンナーによって塗膜が侵されるなど外観不良を招く場合がある。一方、40重量%を超えると、逆に硬化過剰となって、耐衝撃性等の塗膜物性不良などを招くことがある。なお、ブロックドポリイソシアネートは、塗膜物性や硬化度の調節等の都合により、複数種を組み合わせて使用してもよい。
【0066】
ブロックドポリイソシアネートの溶解性パラメータは、2層分離後の上層、下層それぞれの塗膜性能を発現させるために必要な硬化性を確保する上で重要となる。すなわち、上層用に設計されるブロックドポリイソシアネート(c1)の溶解性パラメータ(δc1)は、同じく上層を構成する樹脂成分(a)の溶解性パラメータ(δa)と同程度、あるいはそれ以下に設計することが好ましく、より好ましくは、[(δa)−(1.0)]≦δc1≦[(δa)+(0.2)]である。また、下層用に設計されるブロックドポリイソシアネート(c2)の溶解性パラメータ(δc2)は、同じく下層を構成する樹脂成分(b)の溶解性パラメータ(δb)と同程度、あるいはそれ以上に設計することが好ましく、より好ましくは、[(δb)−(0.2)]≦δc2≦[(δb)+(1.0)]である。
【0067】
本発明において、電着塗料組成物は、少なくとも2種類のブロックドポリイソシアネート(c1)および(c2)を含むことが好ましい。より好ましくは、ブロックドポリイソシアネート(c1)は、脂肪族系のポリイソシアネートを上記の封止剤でブロックしたものであり、ブロックドポリイソシアネート(c2)は、脂環式系または芳香族系のポリイソシアネートを封止剤でブロックしたものである。
【0068】
ブロックドポリイソシアネート(c1)は、望ましくは脂肪族系のポリイソシアネートを上記の封止剤でブロックしたものであり、特に、耐候性、平滑性、チッピング性が求められる二層分離型電着塗膜の上層部分に対して有効である。
【0069】
また、ブロックドポリイソシアネート(c2)は、望ましくは脂環式系または芳香族系のポリイソシアネートを上記の封止剤でブロックしたものであり、特に、防錆性が求められる二層分離型電着塗膜の下層部分に対して有効である。
【0070】
オニウム基を有する変性エポキシ樹脂(d)
本発明において、電着塗料組成物は、さらに、オニウム基を有する変性エポキシ樹脂(d)を含んでいてもよい。
【0071】
オニウム基を有する変性エポキシ樹脂(d)に含まれるオニウム基としては、アンモニウム基およびスルホニウム基からなる群から選択される。
【0072】
オニウム基を有する変性エポキシ樹脂(d)は、エマルション粒子AおよびBの樹脂成分(a)および(b)ならびにブロックドポリイソシアネート(c1)および(c2)[以下、エマルション粒子AおよびBの全樹脂固形分]の合計100重量部に対して、1〜10重量部、好ましくは3〜5重量部の量で含まれる。
【0073】
本発明で使用することのできる電着塗料組成物において、オニウム基を有する変性エポキシ樹脂(d)は、樹脂成分(a)とブロックドポリイソシアネート(c1)とともに、エマルション粒子Aを形成することができる。また、オニウム基を有する変性エポキシ樹脂(d)は、樹脂成分(b)とブロックドポリイソシアネート(c2)とともに、エマルション粒子Bを形成することができる。
【0074】
オニウム基を有する変性エポキシ樹脂(d)は、バインダー樹脂のエマルション化(乳化)を助力する樹脂である。ここでいうバインダー樹脂とは、エマルション粒子Aの場合、樹脂成分(a)およびブロックドポリイソシアネート(c1)であり、エマルション粒子Bの場合、樹脂成分(b)およびブロックドポリイソシアネート(c2)である。
【0075】
オニウム基を有する変性エポキシ樹脂(d)としては、例えば、4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂、3級スルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0076】
4級アンモニウム基を有する変性エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂と3級アミンとを反応させることによって得られる樹脂である。
【0077】
上記エポキシ樹脂としては、一般的にはポリエポキシドが用いられる。このエポキシドは、1分子中に平均2個以上の1,2−エポキシ基を有する。これらのポリエポキシドは180〜1000のエポキシ当量、特に375〜800のエポキシ当量を有することが好ましい。エポキシ当量が180を下回ると、電着時に造膜できず塗膜を得ることができない。1000を上回ると、1分子当りのオニウム基量が不足し、十分な水溶性が得られない。
【0078】
このようなポリエポキシドの有用な例としては、上記の樹脂成分(b)の製造で使用することのできるエポキシ樹脂が挙げられる。さらにエポキシ樹脂として、上記の特開平5−306327号公報に記載されたオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂を用いることもできる。
【0079】
特に水酸基を含有するエポキシ樹脂にあっては、ハーフブロックイソシアネートを、その水酸基に反応させて、ブロックイソシアネート基を導入したウレタン変性エポキシ樹脂であってもよい。
【0080】
上述のエポキシ樹脂と反応させるために用いられるハーフブロックイソシアネートは、有機ポリイソシアネートを部分的にブロックすることにより調製される。有機ポリイソシアネートとブロック剤との反応は、必要に応じてスズ系触媒の存在の下で、攪拌下、ブロック剤を滴下しながら40〜50℃に冷却することにより行うことが好ましい。
【0081】
上記のポリイソシアネートは、1分子中に平均で2個以上のイソシアネート基を有するものであれば特に限定されない。具体的な例としては、上記のブロックドポリイソシアネート硬化剤の調製で使用することができるポリイソシアネートを用いることができる。
【0082】
上記のハーフブロックイソシアネートを調製するための適当なブロック化剤としては、4〜20個の炭素原子を有する低級脂肪族アルキルモノアルコールが挙げられる。具体的には、ブチルアルコール、アミルアルコール、ヘキシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール等が挙げられる。
【0083】
上記のエポキシ樹脂とハーフブロックイソシアネートとの反応は、好ましくは140℃で約1時間保つことにより行われる。
【0084】
上記3級アミンとしては、炭素数1〜6のものが好ましく、水酸基を有していてもよい。3級アミンの具体例としては、上記で用いることができる3級アミンと同様に、ジメチルエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルベンジルアミン、ジエチルベンジルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ジフェネチルメチルアミン、ジメチルアニリン、N−メチルモルホリン等を用いることができる。
【0085】
さらに上記3級アミンと混合して用いられる中和酸としては、特に制限はなく、具体的には、塩酸、硝酸、燐酸、蟻酸、酢酸、乳酸のような無機酸または有機酸などである。このようにして得られる3級アミンの中和酸塩とエポキシ樹脂との反応は常法により行うことができる。例えば、エチレングリコールモノブチルエーテルなどの溶剤に上記エポキシ樹脂を溶解させ、得られた溶液を60〜100℃まで加熱し、ここへ3級アミンの中和酸塩を滴下して、酸価が1となるまで反応混合物を60〜100℃に保持して行われる。
【0086】
3級スルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂は、3級アミンの代わりにスルフィドを用いることの他は上記と同様に反応させることによって得ることができる。用いることができるスルフィドとしては、例えば、脂肪族スルフィド、脂肪族−芳香族混合スルフィド、アラルキルスルフィド、又は環状スルフィドがある。具体的には、ジエチルスルフィド、ジプロピルスルフィド、ジブチルスルフィド、ジフェニルスルフィド、ジヘキシルスルフィド、エチルフェニルスルフィド、テトラメチレンスルフィド、ペンタメチレンスルフィド、チオジエタノール、チオジプロパノール、チオジブタノール、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2−プロパノールなどを挙げることができる。
【0087】
オニウム基を有する変性エポキシ樹脂(d)は、1種を単独で用いてもよく、また2種以上を併用してもよい。
【0088】
オニウム基を有する変性エポキシ樹脂(d)のオニウム基によって、エマルション粒子AおよびBの調製の際に乳化性能が向上する。
【0089】
顔料
本発明の方法で使用することのできる顔料は、通常塗料に使用されるものならばとくに制限なく使用することができる。その例としては、カーボンブラック、二酸化チタン、グラファイト等の着色顔料、カオリン、ケイ酸アルミ(クレー)、タルク等の体質顔料、リンモリブデン酸アルミ、ケイ酸鉛、硫酸鉛、ジンククロメート、ストロンチウムクロメート、二酸化ケイ素等の防錆顔料などが挙げられる。これらの中でも、電着塗装後の二層硬化膜中で分散濃度勾配を担う顔料としてとくに重要なものは、二酸化チタン、ケイ酸アルミ(クレー)およびリンモリブデン酸アルミである。特に、二酸化チタンは着色顔料として隠蔽性が高く、しかも安価であることから、電着塗膜用に最適である。なお、上記顔料は単独で使用することもできるが、目的に合わせて複数使用するのが一般的である。
【0090】
上記顔料は、二層硬化膜中において、全顔料重量(P)に対する、複層硬化膜を形成する顔料以外の全ビヒクル成分の重量(V)の比率P/Vで表わすと、1/10〜1/3の範囲であることが好ましい。ここで顔料以外の全ビヒクル成分とは、顔料以外の塗料を構成する全固形成分(互いに不相溶な主樹脂成分、それぞれの硬化剤、およびその他の樹脂成分等)を意味する。上記P/Vが1/10未満では、顔料不足により塗膜に対する光線および水分などの腐食要因の遮断性が過度に低下し、実用レベルでの耐候性や防錆性を発現できないことがある。また、P/Vが1/3を超えると、顔料過多により硬化時の粘性増大を招き、フロー性が低下して塗膜外観が著しく悪くなることがある。なお、この比率は、本発明で用いられる電着塗料組成物中における、全顔料重量に対する全ビヒクル成分の重量の比率と実質的に同じである。
【0091】
顔料分散樹脂(e)としては、一般に、カチオン性またはノニオン性の低分子量界面活性剤や4級アンモニウム基および/または3級スルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂などのカチオン性重合体を用いることが好ましく、その溶解性パラメータ(δe)は、下層を構成する樹脂成分(b)の溶解性パラメータ(δb)と同程度、あるいはそれ以上に設計することが好ましく、より好ましくは、[(δb)−(0.2)]≦δe≦[(δb)+(1.0)]である。また、顔料に対する分散樹脂の適性配合量は、5〜40固形分重量%(対顔料重量)である。分散樹脂の配合量が5未満の場合は、顔料分散安定性を確保することが困難となり、また40を超える場合は塗膜の硬化性の制御が困難になる場合がある。
【0092】
電着塗料組成物の調製
本発明の方法に使用することのできる電着塗料組成物は、少なくとも、互いに不相溶な少なくとも2種類の塗膜形成性樹脂成分(すなわち、疎水性の塗膜形成性樹脂成分(a)および親水性の塗膜形成性樹脂成分(b))、硬化剤および顔料を含み、塗膜形成性樹脂成分(a)が、その製造時に共重合モノマーとして上記の(メタ)アクリルアミドを含むものであればよく、電着塗料組成物は、各樹脂成分を別々にそれぞれに適合した硬化剤、さらに必要に応じてオニウム基を有する変性エポキシ樹脂(d)などのその他の成分とともに、中和剤を含む水性媒体中でエマルション化した後、上記配合比率を満足するようにエマルションをブレンドする方法でも形成することができる。なお、上記中和剤の例としては、塩酸、硝酸、リン酸等の無機酸および蟻酸、酢酸、乳酸、スルファミン酸、アセチルグリシン酸等の有機酸を挙げることができる。なお、顔料は、上記の顔料分散樹脂(e)を使用して顔料分散ペーストとして、別途に添加することが好ましい。
【0093】
本発明で使用することのできる電着塗料組成物において、塗膜形成性樹脂成分(a)が、ブロックドポリイソシアネート(c1)と、必要に応じてオニウム基を有する変性エポキシ樹脂(d)とを含むエマルション粒子Aを形成し、塗膜形成性樹脂成分(b)が、ブロックドポリイソシアネート(c2)と、必要に応じてオニウム基を有する変性エポキシ樹脂(d)とを含むエマルション粒子Bを形成していることがより好ましく、エマルション粒子AおよびBをそれぞれ別々に予め調製しておき、そして電着塗料組成物に他の成分とともに配合することが特に好ましい。なお、本発明では、架橋密度向上の観点から、(メタ)アクリルアミドを塗膜形成性樹脂成分(a)中にモノマーとして配合することが望ましい。
【0094】
本発明で使用することのできる電着塗料組成物は、固形分濃度が15〜25重量%の範囲となるように調整することが好ましい。固形分濃度の調節には水性媒体(水単独かまたは水と親水性有機溶剤との混合物)を使用して行う。また、塗料組成物中には少量の添加剤を導入してもよい。添加剤の例としては紫外線吸収剤、酸化防止剤、界面活性剤、塗膜表面平滑剤、硬化促進剤(有機スズ化合物など)などを挙げることができる。
【0095】
二層電着塗膜の形成
本発明において、二層電着塗膜は、被塗物である導電性基材を陰極として、被塗物に陰極(カソード極)端子を接続し、上述の電着塗料組成物の浴温15〜35℃、負荷電圧100〜400Vの条件で、一般に、乾燥膜厚14〜15μmとなる量の塗膜を電着塗装する。その後140〜200℃、好ましくは160〜180℃で10〜30分間焼き付ける。この焼き付けを目的とした加熱によって、電着塗装された電着塗料組成物に含有される樹脂成分(a)およびブロックドポリイソシアネート(c1)を含むエマルション粒子A、ならびに、樹脂成分(b)およびブロックドポリイソシアネート(c2)を含むエマルション粒子Bは、それぞれ固有の溶解性パラメータに応じて配向することが好ましい。そして焼き付けを終了する塗膜硬化時には、エマルション粒子Aが空気と直接接する最上層を形成し、エマルション粒子Bが被塗物と直接接する最下層を形成し、二層構造の電着硬化膜が形成される。なお、上記焼き付けの加熱方法は、当初から目的温度に調節した加熱設備に塗装物を入れる方法と、塗装物を入れた後に昇温する方法がある。
【0096】
複層塗膜の形成
上記方法によって形成された二層電着硬化塗膜上に、さらに上塗り塗料を塗装して焼き付けることによって、耐候性および外観に優れた複層塗膜を形成することができる。なお、上塗り塗料は、溶剤型、水性、粉体のいずれのタイプであっても構わない。
【0097】
また、本発明では、上塗り塗料として、2種類の上塗り塗料、すなわち、上塗りベース塗料組成物および上塗りクリヤー塗料組成物を使用して、さらに優れた塗膜外観を得ることもできる。この場合、本発明の複層塗膜の形成方法は、以下の工程(1)〜(3)を包含する、いわゆる、2コート1ベーク(2C1B)法である。
上述の電着塗膜形成方法によって形成される二層電着硬化塗膜の上に、さらに、上塗りベース塗料組成物を塗布して、未硬化の上塗りベース塗膜を形成する工程(1)、
未硬化の上塗りベース塗膜の上に、さらに、上塗りクリヤー塗料組成物を塗布して未硬化の上塗りクリヤー塗膜を形成する工程(2)、および
未硬化の上塗りベース塗膜および未硬化の上塗りクリヤー塗膜を同時に加熱して硬化する工程(3)
【0098】
上記工程(1)または(2)の塗装は、例えば、通称「リアクトガン」と言われるエアー静電スプレー、通称「マイクロ・マイクロベル(μμベル)」、「マイクロベル(μベル)」、「メタリックベル(メタベル)」等と言われる回転霧化式の静電塗装機等を用い、スプレーして塗布することができる。塗布量は、使用する塗料組成物の種類および用途に応じて適宜変更することができる。
【0099】
上記工程(1)または(2)の後にインターバル(またはセッティング)と呼ばれる時間的間隔を空ける操作を行ってもよく、このインターバルによって、塗膜に含まれる溶剤を十分に揮発させることができ、複層塗膜の外観が向上する。インターバルは、例えば10秒〜15分間である。
【0100】
また、インターバルの時間内にプレヒートと呼ばれる乾燥操作を行ってもよく、このプレヒートによって、塗膜に含まれる溶剤の揮発を短時間で効率的に行うことができる。この乾燥操作は、塗膜を積極的に硬化させるものではない。従って、上記乾燥条件としては、例えば、室温〜100℃で1〜10分間である。プレヒートは、例えば、温風ヒーターや赤外線ヒーターなどを用いて行うことができる。
【0101】
加熱硬化工程(3)は、従来の加熱硬化炉(例えば、ガス炉、電気炉、IR炉、誘導加熱炉など)を用いて行うことができる。加熱硬化温度は使用する塗料組成物に応じて適宜設定することができ、例えば、120〜160℃であり、加熱硬化時間は、例えば、10〜30分間である。
【0102】
本発明の方法に従って形成された複層塗膜は優れた外観、すなわち、優れた上塗り仕上がり性を有する。本発明において、複層塗膜の塗膜外観(上塗り仕上がり性)は、Wave scan−doi(BYK−Gardner社製)を用いて、上塗り塗膜のWa(塗膜表面の光澤さ)、Wb(塗膜表面の鮮影性)、Wc(塗膜表面の鮮影性)およびWd(塗膜表面の平滑性)の値を測定することによって評価することができる。なお、Wa(塗膜表面の光澤さ)、Wb(塗膜表面の鮮影性)、Wc(塗膜表面の鮮影性)およびWd(塗膜表面の平滑性)の値は、いずれも、小さいほど塗膜外観が優れていることを意味する。
【0103】
本発明では、Waの値は、25以下、好ましくは18以下、より好ましくは15以下であり、この場合、100〜300μmの短波長領域において、優れた塗膜外観が得られる。
【0104】
Wbの値は、40以下、好ましくは35以下、より好ましくは30以下であり、この場合、300〜1000μmの中波長領域において、優れた塗膜外観が得られる。
【0105】
Wcの値は、22以下、好ましくは18以下、より好ましくは15以下であり、この場合、1000〜3000μmの中波長領域において、優れた塗膜外観が得られる。
【0106】
Wdの値は、22以下、好ましくは18以下、より好ましくは15以下であり、この場合、3000〜10000μmの長波長領域において、優れた塗膜外観が得られたと判断する。
【0107】
本発明では、Wa(塗膜表面の光澤さ)、Wb(塗膜表面の鮮影性)、Wc(塗膜表面の鮮影性)およびWd(塗膜表面の平滑性)の値が、いずれも、上記範囲内であることが望ましく、その場合、複層塗膜は、非常に優れた上塗り仕上がり性を有する。
【実施例】
【0108】
以下に製造例、実施例および比較例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。各例中の「部」は「重量部」を表し、「%」は「重量%」を表す。
【0109】
製造例1−1:カチオン変性アクリル樹脂(a−1)(塗膜形成性樹脂成分(a))の製造
攪拌機、冷却器、窒素導入管、温度計および滴下ロートを備え付けた反応容器に、メチルイソブチルケトン(以下、「MIBK」)50部を仕込み、窒素雰囲気下115℃に加熱保持した。さらに、メタクリル酸メチル6.5部、メタクリル酸ステアリル0.7部、メタクリル酸エチルヘキシル54.8部、メタクリル酸ヒドロキシプロピル11.6部、メタクリル酸ヒドロキシエチル10.4部、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート16.0部、およびt−ブチルパーオキシ 2−エチルヘキサン酸3.0部の混合物を滴下ロートから3時間かけて滴下し、その後さらにt−ブチルパーオキシ 2−エチルヘキサン酸0.5部を滴下して115℃で1.5時間保持した。得られたカチオン変性アクリル樹脂(a−1)は、固形分65%、溶解性パラメータ(δa)10.4、ガラス転移温度(Tg)10℃、ヒドロキシル価90(mgKOH/g)、数平均分子量8000であった。
【0110】
製造例1−2:カチオン変性アクリル樹脂(a−2)(塗膜形成性樹脂成分(a))の製造
攪拌機、冷却器、窒素導入管、温度計および滴下ロートを備え付けた反応容器に、MIBK 50部を仕込み、窒素雰囲気下115℃に加熱保持した。さらに、メタクリル酸ステアリル2.1部、メタクリル酸エチルヘキシル37.4部、メタクリル酸ヒドロキシプロピル33.0部、メタクリル酸ヒドロキシエチル11.5部、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート16.0部、およびt−ブチルパーオキシ 2−エチルヘキサン酸3.0部の混合物を滴下ロートから3時間かけて滴下し、その後さらにt−ブチルパーオキシ 2−エチルヘキサン酸0.5部を滴下して115℃で1.5時間保持した。得られたカチオン変性アクリル樹脂(a−2)は、固形分65%、溶解性パラメータ(δa)11.2、ガラス転移温度(Tg)10℃、ヒドロキシル価180(mgKOH/g)、数平均分子量8000であった。
【0111】
製造例1−3:カチオン変性アクリル樹脂(a−3)(塗膜形成性樹脂成分(a))の製造
攪拌機、冷却器、窒素導入管、温度計および滴下ロートを備え付けた反応容器に、MIBK 50部を仕込み、窒素雰囲気下115℃に加熱保持した。さらに、メタクリル酸メチル6.2部、メタクリル酸ステアリル1.0部、メタクリル酸エチルヘキシル54.3部、メタクリル酸ヒドロキシプロピル11.6部、メタクリル酸ヒドロキシエチル10.4部、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート16.0部、N−ブトキシメチルアクリルアミド0.5部、およびt−ブチルパーオキシ 2−エチルヘキサン酸3.0部の混合物を滴下ロートから3時間かけて滴下し、その後さらにt−ブチルパーオキシ 2−エチルヘキサン酸0.5部を滴下して115℃で1.5時間保持した。得られたカチオン変性アクリル樹脂(a−3)は、固形分65%、溶解性パラメータ(δa)10.4、ガラス転移温度(Tg)10℃、ヒドロキシル価90(mgKOH/g)、数平均分子量8000であった。
【0112】
製造例1−4:カチオン変性アクリル樹脂(a−4)(塗膜形成性樹脂成分(a))の製造
攪拌機、冷却器、窒素導入管、温度計および滴下ロートを備え付けた反応容器に、MIBK 50部を仕込み、窒素雰囲気下115℃に加熱保持した。さらに、メタクリル酸メチル5.2部、メタクリル酸ステアリル1.9部、メタクリル酸エチルヘキシル52.9部、メタクリル酸ヒドロキシプロピル11.6部、メタクリル酸ヒドロキシエチル10.4部、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート16.0部、N−ブトキシメチルアクリルアミド2.0部、およびt−ブチルパーオキシ 2−エチルヘキサン酸3.0部の混合物を滴下ロートから3時間かけて滴下し、その後さらにt−ブチルパーオキシ 2−エチルヘキサン酸0.5部を滴下して115℃で1.5時間保持した。得られたカチオン変性アクリル樹脂(a−4)は、固形分65%、溶解性パラメータ(δa)10.4、ガラス転移温度(Tg)10℃、ヒドロキシル価90(mgKOH/g)、数平均分子量8000であった。
【0113】
製造例1−5:カチオン変性アクリル樹脂(a−5)(塗膜形成性樹脂成分(a))の製造
攪拌機、冷却器、窒素導入管、温度計および滴下ロートを備え付けた反応容器に、MIBK 50部を仕込み、窒素雰囲気下115℃に加熱保持した。さらに、メタクリル酸メチル3.4部、メタクリル酸ステアリル4.5部、メタクリル酸エチルヘキシル49.1部、メタクリル酸ヒドロキシプロピル11.6部、メタクリル酸ヒドロキシエチル10.4部、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート16.0部、N−ブトキシメチルアクリルアミド5.0部、およびt−ブチルパーオキシ 2−エチルヘキサン酸3.0部の混合物を滴下ロートから3時間かけて滴下し、その後さらにt−ブチルパーオキシ 2−エチルヘキサン酸0.5部を滴下して115℃で1.5時間保持した。得られたカチオン変性アクリル樹脂(a−5)は、固形分65%、溶解性パラメータ(δa)10.4、ガラス転移温度(Tg)10℃、ヒドロキシル価90(mgKOH/g)、数平均分子量8000であった。
【0114】
製造例1−6:カチオン変性アクリル樹脂(a−6)(塗膜形成性樹脂成分(a))の製造
攪拌機、冷却器、窒素導入管、温度計および滴下ロートを備え付けた反応容器に、MIBK 50部を仕込み、窒素雰囲気下115℃に加熱保持した。さらに、メタクリル酸メチル0.3部、メタクリル酸ステアリル8.2部、メタクリル酸エチルヘキシル43.5部、メタクリル酸ヒドロキシプロピル11.6部、メタクリル酸ヒドロキシエチル10.4部、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート16.0部、N−ブトキシメチルアクリルアミド10.0部、およびt−ブチルパーオキシ 2−エチルヘキサン酸3.0部の混合物を滴下ロートから3時間かけて滴下し、その後さらにt−ブチルパーオキシ 2−エチルヘキサン酸0.5部を滴下して115℃で1.5時間保持した。得られたカチオン変性アクリル樹脂(a−6)は、固形分65%、溶解性パラメータ(δa)10.4、ガラス転移温度(Tg)10℃、ヒドロキシル価90(mgKOH/g)、数平均分子量8000であった。
【0115】
製造例1−7:カチオン変性アクリル樹脂(a−7)(塗膜形成性樹脂成分(a))の製造
攪拌機、冷却器、窒素導入管、温度計および滴下ロートを備え付けた反応容器に、MIBK 50部を仕込み、窒素雰囲気下115℃に加熱保持した。さらに、メタクリル酸メチル0.2部、メタクリル酸ステアリル6.3部、メタクリル酸エチルヘキシル45.5部、メタクリル酸ヒドロキシプロピル11.6部、メタクリル酸ヒドロキシエチル10.4部、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート16.0部、N−イソブトキシメチルアクリルアミド10.0部、およびt−ブチルパーオキシ 2−エチルヘキサン酸3.0部の混合物を滴下ロートから3時間かけて滴下し、その後さらにt−ブチルパーオキシ 2−エチルヘキサン酸0.5部を滴下して115℃で1.5時間保持した。得られたカチオン変性アクリル樹脂(a−7)は、固形分65%、溶解性パラメータ(δa)10.4、ガラス転移温度(Tg)10℃、ヒドロキシル価90(mgKOH/g)、数平均分子量8000であった。
【0116】
製造例1−8:カチオン変性アクリル樹脂(a−8)(塗膜形成性樹脂成分(a))の製造
攪拌機、冷却器、窒素導入管、温度計および滴下ロートを備え付けた反応容器に、MIBK 50部を仕込み、窒素雰囲気下115℃に加熱保持した。さらに、メタクリル酸メチル11.4部、メタクリル酸エチルヘキシル40.6部、メタクリル酸ヒドロキシプロピル11.6部、メタクリル酸ヒドロキシエチル10.4部、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート16.0部、N−メトキシメチルアクリルアミド10.0部、およびt−ブチルパーオキシ 2−エチルヘキサン酸3.0部の混合物を滴下ロートから3時間かけて滴下し、その後さらにt−ブチルパーオキシ 2−エチルヘキサン酸0.5部を滴下して115℃で1.5時間保持した。得られたカチオン変性アクリル樹脂(a−8)は、固形分65%、溶解性パラメータ(δa)10.9、ガラス転移温度(Tg)10℃、ヒドロキシル価90(mgKOH/g)、数平均分子量8000であった。
【0117】
製造例1−9:カチオン変性アクリル樹脂(a−9)(塗膜形成性樹脂成分(a))の製造
攪拌機、冷却器、窒素導入管、温度計および滴下ロートを備え付けた反応容器に、MIBK 50部を仕込み、窒素雰囲気下115℃に加熱保持した。さらに、メタクリル酸メチル5.3部、メタクリル酸エチルヘキシル31.7部、メタクリル酸ヒドロキシプロピル11.6部、メタクリル酸ヒドロキシエチル10.4部、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート16.0部、N−ブトキシメチルアクリルアミド25.0部、およびt−ブチルパーオキシ 2−エチルヘキサン酸3.0部の混合物を滴下ロートから3時間かけて滴下し、その後さらにt−ブチルパーオキシ 2−エチルヘキサン酸0.5部を滴下して115℃で1.5時間保持した。得られたカチオン変性アクリル樹脂(a−9)は、固形分65%、溶解性パラメータ(δa)11.0、ガラス転移温度(Tg)10℃、ヒドロキシル価90(mgKOH/g)、数平均分子量8000であった。
【0118】
【表1】

【0119】
【表2】

【0120】
【表3】

【0121】
製造例2:ブロックドポリイソシアネート(c1)の製造
攪拌機、窒素導入管、冷却管および温度計を備え付けた反応容器にヘキサメチレンジイソシアネートの3量体199部を入れ、MIBK 39部で希釈した後、ブチル錫ラウレート0.2部を加え、50℃まで昇温の後、メチルエチルケトオキシム44部、エチレングリコール モノ2−エチルヘキシルエーテル87部を内容物温度が70℃を超えないように加えた。そして赤外吸収スペクトルによりイソシアネート残基の吸収が実質上消滅するまで70℃で1時間保温し、その後n−ブタノール43部で希釈することによって固形分80%のブロックドポリイソシアネート(c1)(溶解性パラメータ(δc1)10.6)を得た。
【0122】
製造例3:スルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂(d)の製造
2−エチルヘキサノールハーフブロック化IPDI(MIBK溶液)の調製
撹拌機、冷却管、窒素導入管、温度計を装備した反応容器に、イソホロンジイソシアネート(以下、IPDIと略す)222.0部を入れ、MIBK39.1部で希釈した後、ここへジブチルスズジラウレート0.2部を加えた。その後、これを50℃に昇温した後、2−エチルヘキサノール131.5部を撹拌下、乾燥窒素雰囲気中で2時間かけて滴下した。適宜、冷却することにより、反応温度を50℃に維持した。その結果、2−エチルヘキサノールハーフブロック化IPDI(MIBK溶液)(樹脂固形分90.0%)が得られた。
適当な反応容器に、エポキシ当量188のビスフェノールA型エポキシ樹脂(ダウ・ケミカル・カンパニー社製)382.2部とビスフェノールA 117.8部を仕込み、窒素雰囲気下、150〜160℃に加熱した。その反応混合物を150〜160℃で約1時間反応させ、次いで120℃に冷却した後、上記で調製した2−エチルヘキサノールハーフブロック化IPDI(MIBK溶液)209.8部を加えた。140〜150℃で1時間反応させた後、ポリアルキレンオキサイド化合物(三洋化成社製、商品名BPE−60)205部を加え、60〜65℃に冷却した。そこに、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2−プロパノール408.0部、脱イオン水144.0部、ジメチロールプロピオン酸134部を加え、酸価が1となるまで65〜75℃で反応させ、エポキシ樹脂に3級スルホニウム基を導入し、脱イオン水1595.2部を加えて3級化を終了させることにより、3級スルホニウム基を含有する変性エポキシ樹脂(d)のワニスを得た(固形分30%)。
【0123】
製造例4−1:カチオン変性アクリルエマルション(A−1)の製造
製造例1−1で得られたカチオン変性アクリル樹脂(a−1)を247.1部、製造例2で得られたブロックドポリイソシアネート(c1)120.0部、および製造例3で得られたスルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂(d)53.0部を加えて30分攪拌した。その後、酢酸5部を加え、イオン交換水で不揮発分30%まで希釈した後、減圧下で不揮発分38%まで濃縮し、カチオン変性アクリルエマルション(A−1)を得た。
製造例4−2〜製造例4−9:カチオン変性アクリルエマルション(A−2)〜(A−9)の製造
製造例4−1と同様にして、製造例1−1で得られたカチオン変性アクリル樹脂(a−1)の代わりに、製造例1−2〜製造例1−9で得られたカチオン変性アクリル樹脂(a−2)〜(a−9)をそれぞれ使用して、カチオン変性アクリルエマルション(A−2)〜(A−9)を調製した。
【0124】
製造例5:カチオン変性エポキシ樹脂(塗膜形成性樹脂成分(b))の製造
攪拌機、冷却器、窒素注入管および滴下ロートを取り付けたフラスコに、エポキシ当量188のビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:DER−331J、ダウケミカル社製)680.94部、ビスフェノールA 237.12部、ステアリン酸105.27部、ダイマー酸(商品名:ツノダイム216、築野食品工業社製)68.62部、MIBK 115.54部、およびジラウリル酸ジブチル錫0.10部を加え、均一に溶解した後、130℃から142℃まで昇温し、エポキシ当量1150になるまで反応を継続した。
その後、MIBK 71.37部を加えて100℃まで冷却し、N−メチルエタノールアミン49.93部、およびジエチレントリアミンジケチミン(73% MIBK溶液)87.84部を加え、110℃で2時間反応させた。得られたカチオン変性エポキシ樹脂は、固形分85%、溶解性パラメータ(δb)11.3、ガラス転移温度(Tg)26℃であった。
【0125】
製造例6:ブロックドポリイソシアネート(c2)の製造
攪拌機、窒素導入管、冷却管および温度計を備え付けた反応容器にイソホロンジイソシアネート222部を入れ、MIBK 56部で希釈した後、ブチル錫ラウレート0.2部を加え、50℃まで昇温の後、メチルエチルケトオキシム17部を内容物温度が70℃を超えないように加えた。そして赤外吸収スペクトルによりイソシアネート残基の吸収が実質上消滅するまで70℃で1時間保温し、その後n−ブタノール43部で希釈することによって、固形分70%のブロックドポリイソシアネート(c2)(溶解性パラメータ(δc2)11.8)を得た。
【0126】
製造例7:カチオン変性エポキシエマルション(B−1)の製造
製造例5で得られたカチオン変性エポキシ樹脂308.8部、製造例6で得られたブロックドポリイソシアネート(c2)112.5部、および製造例3で得られたスルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂(d)58.8部を加えて30分攪拌した。その後、酢酸6部を加え、イオン交換水で不揮発分30%まで希釈した後、減圧下で不揮発分38%まで濃縮し、カチオン変性エポキシエマルション(B−1)を得た。
【0127】
製造例8:顔料分散樹脂(e)の製造
攪拌機、冷却管、窒素導入管、温度計を備えた反応容器にエポキシ当量198のビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:エポン829、シェル化学社製)710部、ビスフェノールA 289.6部を仕込んで、窒素雰囲気下150〜160℃で1時間反応させ、ついで120℃まで冷却後、2−エチルヘキサノール化ハーフブロック化トリレンジイソシアネートのMIBK溶液(固形分95%)406.4部を加えた。反応混合物を110〜120℃で1時間保持した後、エチレングリコール モノn−ブチルエーテル1584.1部を加えた。そして85〜95℃に冷却して均一化させた。
上記反応物の製造と並行して、別の反応容器に2−エチルヘキサノール化ハーフブロック化トリレンジイソシアネートのMIBK溶液(固形分95%)384部にジメチルエタノールアミン104.6部を加えたものを80℃で1時間攪拌し、ついで75%乳酸水141.1部を仕込み、さらにエチレングリコール モノn−ブチルエーテル47.0部を混合、30分攪拌し、4級化剤(固形分85%)を製造しておいた。そしてこの4級化剤620.5部を先の反応物に加え、酸価1になるまで混合物を85〜95℃に保持し、顔料分散樹脂(e)(樹脂固形分56%、平均分子量2200、溶解性パラメータ(δe)11.3)を得た。
【0128】
製造例9:顔料分散ペーストの製造
サンドグラインドミルに製造例8の顔料分散樹脂を120部、カーボンブラック2.0部、カオリン100.0部、二酸化チタン80.0部、リンモリブデン酸アルミニウム18.0部、二酸化ケイ素15部およびイオン交換水188.1部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストを得た(固形分60%)。
【0129】
製造例10−1:カチオン電着塗料組成物(1)の製造
製造例4−1で得られたカチオン変性アクリルエマルション(A−1)211.6部、製造例7で得られたカチオン変性エポキシエマルション(B−1)190.0部、製造例9で得られた顔料分散ペースト75.5部、ジブチル錫オキサイド3.5部、およびイオン交換水519.4部を混合してカチオン電着塗料組成物(1)を得た。このカチオン電着塗料組成物(1)の固形分は20%であった。
【0130】
製造例10−2〜製造例10−9:カチオン電着塗料組成物(2)〜(9)の製造
製造例10−1と同様にして、製造例4−1で得られたカチオン変性アクリルエマルション(A−1)の代わりに、製造例4−2〜製造例4−9で得られたカチオン変性アクリルエマルション(A−2)〜(A−9)をそれぞれ使用して、カチオン電着塗料組成物(2)〜(9)を調製した(固形分:20%)。
【0131】
実施例1〜4および比較例1〜5
製造例10−1〜製造例10−9で調製したカチオン電着塗料組成物(1)〜(9)をそれぞれ使用して、被塗物として、リン酸亜鉛処理鋼板(JIS G3141 SPCC−SDのサーフダインSD−5000(日本ペイント社製)処理鋼板)を用いて、以下の電着塗装条件で電着塗装を行った。
電着塗料組成物の温度:28℃
析出条件:200V、180秒
塗装膜厚:15μm
加熱硬化条件:160℃、20分
【0132】
電着塗膜の上に、さらに、上塗り塗料として、水性ベース塗料組成物(「アクアレックス AR−3100ベース」、日本ペイント株式会社製、アクリル樹脂/メラミン樹脂系塗料)をエアスプレー塗装にて乾燥膜厚12μmになるように塗装し、80℃で3分間プレヒートを行った。さらに、その塗板にクリヤー塗料組成物(「ポリウレエクセル O−3100クリヤー」、日本ペイント株式会社製、ウレタン架橋系を有するアクリル樹脂/イソシアナート化合物系塗料)をエアスプレー塗装にて乾燥膜厚が35μmとなるように塗装し、この2層塗膜を140℃で30分間加熱して同時に硬化し、被塗物の上に、複層塗膜を形成した。
【0133】
実施例1では電着塗料組成物(4)を使用し、実施例2では電着塗料組成物(5)を使用し、実施例3では電着塗料組成物(6)を使用し、実施例4では電着塗料組成物(7)を使用した。また、比較例1では電着塗料組成物(1)を使用し、比較例2では電着塗料組成物(2)を使用し、比較例3では電着塗料組成物(3)を使用し、比較例4では電着塗料組成物(8)を使用し、比較例5では電着塗料組成物(9)を使用した。
【0134】
実施例および比較例で形成した電着塗膜の層分離性、表面粗度および架橋密度を以下の評価基準に従って評価した。さらに、実施例および比較例で形成した複層塗膜の塗膜外観(上塗り仕上がり性)を以下の評価基準に従って評価した。結果を以下の表に示す。
【0135】
電着塗膜の層分離性
ビデオマイクロスコープ(キーエンス社製)を用いて、電着塗膜の断面を観察し、層分離性を以下の評価基準に従って評価した。
【0136】
評価基準
○:電着塗膜の断面が少なくとも2層に分離している(すなわち、明らかな層分離を確認した)。
△:電着塗膜の断面が部分的に2層に分離している(すなわち、2層の界面が非常に粗く、下層の一部が電着塗膜表層に現れていたり、上層の一部が鋼板面と接触している)。
×:電着塗膜の断面が単一層である(すなわち、層分離を確認することができなかった)。
なお、電着塗膜の断面が少なくとも2層に分離している場合(すなわち、上記評価が「○」の場合)には、FTIR−ATR分析によって、アクリル樹脂を含む層と、エポキシ樹脂を含む層とをそれぞれ別々に確認した。
【0137】
電着塗膜の表面粗度
上塗り塗装前の電着塗膜の表面粗度((算術平均粗さ)(Ra)(μm))をJIS−B0601に準拠して測定し、電着塗膜の表面を評価した。Ra値は、評価型表面粗さ測定機(Mitsutoyo社製、SURFTEST SJ−201P)を用いて測定した(2.5mm幅カットオフ(区画数5)のサンプルを7回測定し、上下消去平均によりRa値(μm)を得た)。
本発明では、Raの値が、0.25μm以下であると、平滑性に優れた電着塗膜外観が得られたと判断する。
【0138】
電着塗膜の架橋密度
電着塗料組成物(1)〜(9)をそれぞれブリキ板上に上述の条件と同じ条件で電着塗装および加熱硬化して電着塗膜を形成した。水銀を用いて電着塗膜を剥離し、裁断して、測定用サンプルを調製した。動的粘弾性測定装置レオゲルE4000(UBM社製)を用いて、1分間に2℃の昇温速度かつ合成波(16Hz)の振動を与えて、動的粘弾性を測定した。平行弾性率(E’)と、そのときの絶対温度(T)との関係から、Floryの理論に従って、各サンプルの架橋密度(mol/cc)を算出した。
本発明では、架橋密度の値が1.20×10−3mol/cc以上であると、優れた架橋密度が得られたと判断する。
【0139】
複層塗膜の塗膜外観(上塗り仕上がり性)
複層塗膜の塗膜外観(上塗り仕上がり性)をWave scan−doi(BYK−Gardner社製)を用いて、上塗り塗膜のWa、Wb、WcおよびWdの値を測定することによって、評価した。
【0140】
評価基準
Waの値は、塗膜表面の光澤さを示し、Waの値が小さいほど塗膜外観が優れていることを意味し、Waの値が、25以下であると、100〜300μmの短波長領域において、優れた塗膜外観が得られたと判断する。
Wbの値は、塗膜表面の鮮影性を示し、Wbの値が小さいほど塗膜外観が優れていることを示し、Wbの値が、40以下であると、300〜1000μmの中波長領域において、優れた塗膜外観が得られたと判断する。
Wcの値は、塗膜表面の鮮影性を示し、Wcの値が小さいほど塗膜外観が優れていることを示し、Wcの値が、22以下であると、1000〜3000μmの中波長領域において、優れた塗膜外観が得られたと判断する。
Wdの値は、塗膜表面の平滑性を示し、Wdの値が小さいほど塗膜外観が優れていることを示し、Wdの値が、22以下であると、3000〜10000μmの長波長領域において、優れた塗膜外観が得られたと判断する。
【0141】
【表4】

【0142】
【表5】

【0143】
【表6】

【0144】
*(メタ)アクリルアミドの配合量(重量%)は、塗膜形成性樹脂成分(a)の樹脂固形分100重量部に対する(メタ)アクリルアミドの重量部を百分率で表したものである。また、使用した(メタ)アクリルアミドは、いずれも、笠岡興産社製であった。
【0145】
本発明の実施例1〜4では、層分離後に表層を形成するアクリル樹脂中に、(メタ)アクリルアミドとして、N−ブトキシメチルアクリルアミドまたはN−イソブトキシメチルアクリルアミドを配合するが、これらはいずれも疎水性である。また、これらのアクリルアミドは、アクリル樹脂100重量部(固形分)に対して、1〜24重量部の範囲で配合されている。それによって、本発明では、アクリル樹脂のヒドロキシル価(OHV)が50〜150(mgKOH/g)の範囲内となる。その結果、本発明の実施例1〜4では、層分離性が著しく低下することがない。また、本発明の実施例1〜4では、表面粗度(Ra)の値が0.25(μm)以下となり、非常に優れた電着塗膜表面を達成することができる。
さらに、本発明の実施例1〜4では、1.20×10−3mol/cc以上の架橋密度を達成することができる。その結果、さらにその上に、ベース塗膜およびクリヤー塗膜を形成した場合であっても、電着塗膜が膨潤したり、波打ったりせずに、優れた複層塗膜外観(上塗り仕上がり性)を達成することができる(Wa、Wb、WcおよびWdの値)。従って、本発明では、電着塗膜において、優れた架橋密度と、優れた層分離性とを両立させることができる。
【0146】
対して、比較例1では、(メタ)アクリルアミドを全く含まない、従来の2層分離型電着塗膜を形成した。比較例1では、優れた層分離性は得られるが、架橋密度が著しく低下し、また、複層塗膜外観(上塗り仕上がり性)が著しく低下する(Wa、WbおよびWcの値)。
【0147】
同様に、比較例2でも(メタ)アクリルアミドを全く使用せずに従来の2層分離型電着塗膜を形成した。また、比較例2では、アクリル樹脂(塗膜形成性樹脂成分(a))の溶解性パラメータ(δa)が11.2であり、エポキシ樹脂(塗膜形成性樹脂成分(b))の溶解性パラメータ(δb)の値(11.3)との間に差がなく、本明細書中で規定の関係式:{δb−δa}≧0.5を満たしていない。その結果、層分離性が著しく低下する。また、電着塗膜の表面粗度(Ra)の値が著しく上昇し、電着塗膜外観が著しく低下する。さらに、比較例2では、複層塗膜外観(上塗り仕上がり性)が著しく低下する(Wa、Wb、WcおよびWdの値)。
【0148】
比較例3では、本発明と同様に、(メタ)アクリルアミドとして、疎水性のN−ブトキシメチルアクリルアミドを使用したが、その使用量は、本発明の規定の下限を逸脱するので、優れた架橋密度が得られず、複層塗膜外観(上塗り仕上がり性)が低下する(WaおよびWbの値)。
【0149】
また、比較例4では、(メタ)アクリルアミドとして、親水性のN−メトキシメチルアクリルアミドを使用したので、アクリル樹脂(塗膜形成性樹脂成分(a))の溶解性パラメータ(δa)が10.9となり、エポキシ樹脂(塗膜形成性樹脂成分(b))の溶解性パラメータ(δb)の値(11.3)との間に差がなく、本明細書中で規定の関係式:{δb−δa}≧0.5を満たしていない。その結果、層分離性が低下する。また、比較例4では、電着塗膜の表面粗度(Ra)の値が著しく上昇し、電着塗膜外観が著しく低下する。さらに、比較例4では、複層塗膜外観(上塗り仕上がり性)が著しく低下する(WaおよびWbの値)。
【0150】
さらに、驚くべきことに、比較例5では、本発明と同様に、(メタ)アクリルアミドとして、疎水性のN−ブトキシメチルアクリルアミドを使用したが、その使用量が本発明の規定の上限を逸脱した場合であっても、アクリル樹脂(塗膜形成性樹脂成分(a))の溶解性パラメータ(δa)が上昇して11.0となり、エポキシ樹脂(塗膜形成性樹脂成分(b))の溶解性パラメータ(δb)の値(11.3)との差が小さくなり、本明細書中で規定の関係式:{δb−δa}≧0.5を満たさなくなる。その結果、層分離性が著しく低下する。また、比較例5では、電着塗膜の表面粗度(Ra)の値も著しく上昇し、電着塗膜外観が著しく低下する。さらに、比較例5では、複層塗膜外観(上塗り仕上がり性)が著しく低下する(Wa、Wb、WcおよびWdの値)。
【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明は、電着塗膜に優れた耐食性、耐候性、耐光性、耐衝撃性、耐チッピング性などの機能だけでなく、優れた塗膜外観をも付与することができるので、自動車車体などの大型で複雑な形状の被塗物を塗装する場合に非常に有益である。また、本発明の方法によると、従来必要であった中塗り塗装工を省略することができ、省資源、省エネルギー、省コストおよび環境負荷低減(例えば、低VOCおよび低CO)を達成することができる。
しかも、本発明の方法を自動車車体などの電着塗装に適用した場合、電着塗膜の上に直接さらに上塗り塗料を塗装した場合であっても、驚くべきことに、優れた塗膜外観を上塗り塗膜にも提供することができるので、非常に有益である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電着塗料組成物を被塗物上に電着塗装し、次いで加熱しながら層分離せしめ、その後硬化させて、少なくとも2層からなる複層硬化膜を形成する工程を包含する電着塗膜形成方法であって、電着塗料組成物が、
塗膜形成性樹脂成分(a)および(b)、
ブロックドポリイソシアネート(c1)および(c2)、および
顔料
を含み、
塗膜形成性樹脂成分(a)および(b)が、互いに不相溶であり、
塗膜形成性樹脂成分(a)が、ブロックドポリイソシアネート(c1)を含むエマルション粒子Aを形成し、
塗膜形成性樹脂成分(b)が、ブロックドポリイソシアネート(c2)を含むエマルション粒子Bを形成し、
塗膜形成性樹脂成分(a)が、共重合モノマーとして、(メタ)アクリルアミドを含み、
前記(メタ)アクリルアミドが、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミドおよびN−イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミドからなる群から少なくとも1つ選択され、
前記(メタ)アクリルアミドが、塗膜形成性樹脂成分(a)の樹脂固形分100重量部に対して、1〜24重量部含まれる、
電着塗膜形成方法。
【請求項2】
塗膜形成性樹脂成分(a)が、カチオン変性アクリル樹脂であり、
塗膜形成性樹脂成分(b)が、カチオン変性エポキシ樹脂であり、
塗膜形成性樹脂成分(a)の溶解性パラメータ(δa)および塗膜形成性樹脂成分(b)の溶解性パラメータ(δb)が、{δb−δa}≧0.5の関係を満足する、
請求項1に記載の電着塗膜形成方法。
【請求項3】
塗膜形成性樹脂成分(a)および(b)の配合比((a)/(b))が、固形分重量比で50/50〜40/60である、請求項1または2に記載の電着塗膜形成方法。
【請求項4】
前記(メタ)アクリルアミドが自己架橋性である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電着塗膜形成方法。
【請求項5】
前記(メタ)アクリルアミドが、塗膜形成性樹脂成分(a)の樹脂固形分100重量部に対して、4〜18重量部含まれる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電着塗膜形成方法。
【請求項6】
ブロックドポリイソシアネート(c1)が、脂肪族系のポリイソシアネートを封止剤でブロックしたものであり、
ブロックドポリイソシアネート(c2)が、脂環式系または芳香族系のポリイソシアネートを封止剤でブロックしたものである、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の電着塗膜形成方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の電着塗膜形成方法によって形成される電着塗膜の上に、さらに、上塗りベース塗料組成物を塗布して、未硬化の上塗りベース塗膜を形成する工程、
未硬化の上塗りベース塗膜の上に、さらに、上塗りクリヤー塗料組成物を塗布して未硬化の上塗りクリヤー塗膜を形成する工程、および
未硬化の上塗りベース塗膜および未硬化の上塗りクリヤー塗膜を同時に加熱して硬化する工程
を包含する、複層塗膜の形成方法。

【公開番号】特開2012−31440(P2012−31440A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169237(P2010−169237)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】