説明

電着塗装用浴槽

【課題】塗装対象ワークのサイズや形状の変更に拘わらず、確実に膜厚をコントロールすることが可能な電着塗装用浴槽の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の電着塗装用浴槽10は、浴槽本体11の内側に溝形通電規制カバー20を備えている。溝形通電規制カバー20は、電気絶縁性の材料で構成されており、塗装対象ワークWと電極12との間の通電を規制する。溝形通電規制カバー20に受容されていない塗装対象ワークWの上端側には厚膜部が形成され、溝形通電規制カバー20に受容された塗装対象ワークWの下端側には膜厚が制限された薄膜部が形成される。そして、溝形通電規制カバー20の開口幅は変更可能であるから、塗装対象ワークWのサイズに拘わらず、塗装対象ワークWと溝形通電規制カバー20の開口幅方向における開口縁(鍔壁25,25の先端)とを近接配置することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電着塗料液を貯留すると共に、電着塗料液中の電極と塗装対象ワークとの間で通電を行うことで、塗装対象ワークの表面に電着塗装を行うための電着塗装用浴槽に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の従来の電着塗装用浴槽として、塗装対象ワークの所定部位と電極との間に通電規制カバーを配置してそれらの間の通電を規制し、塗装対象ワークの部位に応じて塗膜の厚さをコントロールするようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−152599号公報(段落[0037]、第2図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上述した従来の電着塗装用浴槽では、塗装対象ワークの種類を切り替えた場合における塗装対象ワークのサイズ及び形状の変更に通電規制カバーが対応できず、通電規制カバーで覆った所定部位の塗膜が必要以上に厚くなったり薄くなったりするという問題があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、塗装対象ワークのサイズや形状の変更に拘わらず、確実に膜厚をコントロールすることが可能な電着塗装用浴槽の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明に係る電着塗装用浴槽は、電着塗料液を貯留すると共に、その電着塗料液中に配置された電極を有し、電着塗料液中を移動する塗装対象ワークと電極との間で通電を行うことで、塗装対象ワークの表面に電着塗装を行うための電着塗装用浴槽において、塗装対象ワークの移動方向に延びた溝形構造をなしかつ電着塗料液中に沈められ、塗装対象ワークの一部を受容して電極との間の通電を規制するための溝形通電規制カバーと、塗装対象ワークに応じて溝形通電規制カバーの開口幅を変更可能とする開口幅可変機構とを備えたところに特徴を有する。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の電着塗装用浴槽において、溝形通電規制カバーのうち溝幅方向で対向した1対のカバー側壁の少なくとも一方のカバー側壁をカバー底壁と別体とし、一方のカバー側壁をカバー底壁に対して溝幅方向に移動可能に支持する機構を開口幅可変機構として備えたところに特徴を有する。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の電着塗装用浴槽において、溝形通電規制カバーの全体をその溝の奥行き方向に移動可能とするか又は、溝形通電規制カバーのうち溝幅方向で対向した1対のカバー側壁を溝の奥行き方向に伸縮可能とするカバー移動機構を備えたところに特徴を有する。
【0009】
請求項4の発明に係る電着塗装用浴槽は、電着塗料液を貯留すると共に、その電着塗料液中に配置された電極を有し、電着塗料液中を移動する塗装対象ワークと電極との間で通電を行うことで、塗装対象ワークの表面に電着塗装を行うための電着塗装用浴槽において、塗装対象ワークの移動方向に延びた溝形構造をなしかつ電着塗料液中に沈められ、塗装対象ワークの一部を受容して電極との間の通電を規制するための溝形通電規制カバーと、溝形通電規制カバーの全体をその溝の奥行き方向に移動可能とするか又は、溝形通電規制カバーのうち溝幅方向で対向した1対のカバー側壁を溝の奥行き方向に伸縮可能としたカバー移動機構を備えたところに特徴を有する。
【0010】
請求項5の発明は、請求項2乃至4の何れか1の請求項に記載の電着塗装用浴槽において、1対のカバー側壁の少なくとも一方には、溝形通電規制カバーの内外に連通しかつ開口面積を変更可能な膜厚調節用貫通口が形成されたところに特徴を有する。
【0011】
請求項6の発明は、請求項5に記載の電着塗装用浴槽において、カバー側壁は、ベース板と、そのベース板に重ねられてベース板に対してスライド可能に保持されたスライド板とから構成され、ベース板に貫通形成された複数の第1貫通口と、スライド板のうち複数の第1貫通口と対応した位置に貫通形成された複数の第2貫通口とから膜厚調節用貫通口が構成されたところに特徴を有する。
【0012】
請求項7の発明は、請求項5又は6に記載の電着塗装用浴槽において、膜厚調節用貫通口を備えたカバー側壁の先端部から開口幅方向の内側に向かって張り出した鍔壁を備えたところに特徴を有する。
【0013】
請求項8の発明は、請求項1乃至7の何れか1の請求項に記載の電着塗装用浴槽において、電着塗装用浴槽は水平方向に延び、塗装対象ワークは電着塗装用浴槽の上方から吊り下げられた状態で電着塗装用浴槽の長手方向の一端位置から他端位置へと直線搬送可能とされ、溝形通電規制カバーは、電着塗装用浴槽と平行に延びかつ塗装対象ワークの下端部を受容するように構成されたところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0014】
[請求項1及び2の発明]
請求項1の発明によれば、溝形構造をなした溝形通電規制カバーの内側に、塗装対象ワークの一部を受容させた状態で、電極と塗装対象ワークとの間で通電を行うと、溝形通電規制カバーの外側にはみ出した部分に比較的厚い塗膜が形成されると共に、溝形通電規制カバーに受容された部分に比較的薄い塗膜が形成される。そして、本発明によれば、塗装対象ワークのサイズや形状に応じて、溝形通電規制カバーの開口幅を変更することができるから、塗装対象ワークのサイズや形状の変更に拘わらず、塗装対象ワークの部位に応じた膜厚のコントロールを確実に行うことができる。ここで、溝形通電規制カバーの開口幅を変更するための開口幅可変機構として、例えば、溝形通電規制カバーの溝幅方向で対向した1対のカバー側壁のうち少なくとも一方のカバー側壁をカバー底壁に対して溝幅方向に移動可能に支持する機構(請求項2の発明)を採用してもよいし、例えば、少なくとも一方のカバー側壁の先端部に溝形通電規制カバーの開口幅方向で移動可能に支持された鍔壁を備えた機構を採用してもよい。
【0015】
[請求項3の発明]
請求項3の発明によれば、溝形通電規制カバーの溝の奥行き方向で塗装対象ワークの受容範囲を変化させることができる。そして、塗装対象ワークのうち比較的厚く塗装された部分と比較的薄く塗装された部分との境界位置を調節することができる。
【0016】
[請求項4の発明]
請求項4の発明によれば、溝形構造をなした溝形通電規制カバーの内側に、塗装対象ワークの一部を受容させた状態で、電極と塗装対象ワークとの間で通電を行うと、溝形通電規制カバーの外側にはみ出した部分に比較的厚い塗膜が形成されると共に、溝形通電規制カバーに受容された部分に比較的薄い塗膜が形成される。そして、本発明によれば、塗装対象ワークのサイズや形状に応じて、溝形通電規制カバーの全体をその溝の奥行き方向に移動させるか又は、溝形通電規制カバーにおける1対のカバー側壁を溝の奥行き方向に伸縮させることができるから、塗装対象ワークのサイズや形状の変更に拘わらず、塗装対象ワークの部位に応じた膜厚のコントロールを確実に行うことができる。
【0017】
[請求項5の発明]
請求項5の発明によれば、膜厚調節用貫通口の開口面積を調節することで、溝形通電規制カバーに受容された部分の膜厚を調節することができる。即ち、開口面積を大きくすることで塗膜を厚くすることができ、開口面積を小さくすることで塗膜を薄くすることができる。
【0018】
[請求項6及び7の発明]
請求項6の発明によれば、ベース板に対してスライド板をスライドさせることで、第1貫通口と第2貫通口との重なり部分の面積、即ち、膜厚調節用貫通口の開口面積を調節することができる。ここで、ベース板における複数の第1貫通口の配置及びスライド板における複数の第2貫通口の配置は、特に限定するものではなく、同一直線上に並べて配置してもよいし、マトリクス状又は千鳥状に配置してもよい。
【0019】
ところで、膜厚調節用貫通口を塗装対象ワークに近接させ過ぎると、膜厚調節用貫通口との対向部分の塗膜が局所的に厚くなる虞がある。これに対し、請求項7の発明によれば、膜厚調節用貫通口を備えたカバー側壁の先端部から開口幅方向の内側に向かって張り出した鍔壁を備えたことで、塗装対象ワークと溝形通電規制カバーの開口縁とを近接配置させた場合でも、膜厚調節用貫通口と塗装対象ワークとを離して配置することができる。これにより、塗装対象ワークのうち膜厚調節用貫通口と対向した部分の塗膜が局所的に厚くなるという膜厚異常を防止することができる。
【0020】
[請求項8の発明]
請求項8の発明によれば、水平方向に延びた電着塗装用浴槽の上方から塗装対象ワークを吊り下げた状態で電着塗料液に浸漬し、電着塗装用浴槽の長手方向の一端から他端へと直線搬送しながら、塗装対象ワークと電極との間に通電することで、塗装対象ワークに塗膜が形成される。このとき、塗装対象ワークの下端部が溝形通電規制カバーに受容されるので、その下端部に比較的薄い塗膜が形成され、溝形通電規制カバーからはみ出した上端側に比較的厚い塗膜が形成される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電着塗装用浴槽の斜視断面図
【図2】電着塗装用浴槽の正断面図
【図3】溝形通電規制カバーの(A)奥行き方向への移動軌跡を示す概念図、(B)溝幅方向への移動軌跡を示す概念図
【図4】溝形通電規制カバーの部分拡大断面図
【図5】カバー側壁の斜視図
【図6】膜厚調節用貫通口が閉じた状態の溝形通電規制カバーの正断面図
【図7】膜厚調節用貫通口が開いた状態の溝形通電規制カバーの正断面図
【図8】第2実施形態に係る電着塗装用浴槽の正断面図
【図9】変形例に係るカバー側壁の斜視図
【図10】変形例に係る電着塗装用浴槽の正断面図
【図11】変形例に係る溝形通電規制カバーの斜視図
【図12】変形例に係る電着塗装用浴槽の正断面図
【発明を実施するための形態】
【0022】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態に係る電着塗装用浴槽10を図1〜図7を参照しつつ説明する。電着塗装用浴槽10は、水平方向に延びた浴槽本体11を備え、その浴槽本体11に電着塗料液が貯留されている。図2に示すように、塗装対象ワークWは図示しない搬送装置によって浴槽本体11の上方から吊り下げられており、例えば、塗装対象ワークWのうち搬送装置にて保持された上端部を除く全体を電着塗料液の液面下に沈めた状態で、浴槽本体11の長手方向の一端から他端に向けて直線搬送される。その間に、電着塗料液中に配置された電極12と塗装対象ワークWとの間で通電が行われて、塗装対象ワークWの表面に電着塗料による塗膜が形成される。
【0023】
図1に示すように、浴槽本体11の内側には、電気絶縁性の材料で構成された溝形通電規制カバー20が収容されている。溝形通電規制カバー20は、浴槽本体11の長手方向に沿って延びかつ長手方向の両端部と上面とが開放した角溝形構造をなしている。溝形通電規制カバー20は、浴槽本体11から離した状態で電着処理液に全没するように設けられており、浴槽本体11のうち溝形通電規制カバー20の外側に電極12が配置されている。本実施形態では、浴槽本体11の底壁11Bと溝形通電規制カバー20との間に電極12,12が配置されているが、浴槽本体11の両側壁11A,11Aと溝形通電規制カバー20との間に電極を配置してもよい。また、本実施形態の電極12は、浴槽本体11(溝形通電規制カバー20)の長手方向に沿って延びた棒状をなしているが、電極12の形状は特に限定するものではなく、例えば、板状でもよい。
【0024】
塗装対象ワークWは、その下端部を溝形通電規制カバー20の内側に受容させた状態で、溝形通電規制カバー20の一端から他端に向けて直線搬送され、その間、溝形通電規制カバー20が、塗装対象ワークWの下端部と電極12との間の通電を規制するようになっている。
【0025】
浴槽本体11の外側には、溝形通電規制カバー20を浴槽本体11内に吊り下げ保持するための複数のスタンド50,50が設けられている。スタンド50,50は、浴槽本体11の長手方向に複数配置されかつ、浴槽本体11の幅方向で向かい合って配置されている。各スタンド50は、垂直に起立した垂直ポスト51と、垂直ポスト51に対して上下動可能に取り付けられた可動バー52とを備えている。可動バー52は水平方向に延びかつ基端部にポスト嵌合筒53を一体に備え、ポスト嵌合筒53が垂直ポスト51にスライド可能に嵌合している。また、ポスト嵌合筒53は、垂直ポスト51の任意の位置で止め螺子53Aにより固定可能となっている(図2参照)。
【0026】
溝形通電規制カバー20と各可動バー52,52との間はそれぞれ連結部材26,26にて連結されている。各連結部材26の上端部にはバー嵌合筒27が一体に備えられ、バー嵌合筒27が可動バー52にスライド可能に嵌合している。また、バー嵌合筒27は、可動バー52の任意の位置で止め螺子27Aにより固定可能となっている。
【0027】
溝形通電規制カバー20は、溝幅方向で対向した1対のサイドカバー部材22,22と、それら1対のサイドカバー部材22,22を連結しかつ溝形通電規制カバー20の底壁を構成するアンダーカバー部材21(本発明の「カバー底壁」に相当する)とから構成されている(図2参照)。
【0028】
アンダーカバー部材21は浴槽本体11の長手方向に沿って延びかつ浴槽本体11の底面と平行な帯板形状をなしている。これに対し、1対のサイドカバー部材22,22は、断面鉤括弧状をなして浴槽本体11の長手方向に延びており、それぞれアンダーカバー部材21に連結されている。
【0029】
サイドカバー部材22,22のうち、溝形通電規制カバー20の溝幅方向で対向したカバー側壁23,23は、浴槽本体11の両側壁11A,11Aと平行に延びている。また、カバー側壁23,23の下端部からは、溝形通電規制カバー20の溝幅方向の内側に向かってカバー部材連結壁24,24が張り出している。
【0030】
カバー部材連結壁24は、カバー側壁23と直角に交差しかつアンダーカバー部材21と平行に延びた帯板形状をなしている。カバー部材連結壁24のうち、カバー側壁23から離れた先端寄り部分は、アンダーカバー部材21の上面に重ねられている。また、アンダーカバー部材21とカバー部材連結壁24とを貫通した複数のボルト28B,28Bによってアンダーカバー部材21とサイドカバー部材22とが連結されている。より詳細には、アンダーカバー部材21には、複数のボルト遊嵌孔21A,21Aが貫通形成されている。図4に示すように、ボルト遊嵌孔21Aは、溝形通電規制カバー20の幅方向に延びた長孔形状をなしており、アンダーカバー部材21の長手方向に複数設けられている。そのボルト遊嵌孔21Aにカバー部材連結壁24を貫通したボルト28Bが挿通されて、通常はアンダーカバー部材21の下面側からナット25Nで締め付けられている。また、ナット28N及び前述したバー嵌合筒27の止め螺子27Aを緩めた状態で、ボルト28Bがボルト遊嵌孔21A内で移動可能となり、バー嵌合筒27が可動バー52に対して移動可能となって、サイドカバー部材22をアンダーカバー部材21に対して溝形通電規制カバー20の溝幅方向に移動させることが可能となる(図3(B)参照)。このように、サイドカバー部材22をアンダーカバー部材21に対して溝幅方向に移動可能に支持する機構が本発明の「開口幅可変機構」に相当する。
【0031】
図2に示すように、サイドカバー部材22,22におけるカバー側壁23の上端部からは、溝形通電規制カバー20の開口幅方向の内側に向かって鍔壁25が張り出している。鍔壁25は、カバー側壁23と直角に交差しかつカバー部材連結壁24より幅狭な帯板形状をなしている。また、鍔壁25の上面からは前記した複数の連結部材26,26が起立している。
【0032】
サイドカバー部材22におけるカバー側壁23は、ベース板30とベース板30の外面に重ねて取り付けられたスライド板32とから構成されており、前記した鍔壁25とカバー部材連結壁24は、ベース板30の方に一体に設けられている。ベース板30の外面の上辺と下辺には、1対のガイドレール31,31が設けられており、それらガイドレール31,31に帯板状をなしたスライド板32の上辺と下辺とがスライド可能に係止されている。即ち、スライド板32は、ベース板30に対して溝形通電規制カバー20の長手方向にスライド可能となっている。
【0033】
ベース板30には、複数の第1貫通口30A,30Aが貫通形成されている。これら複数の第1貫通口30A,30Aは、例えば、溝形通電規制カバー20の長手方向に並べて設けられ、例えば、矩形状をなしている(図1参照)。
【0034】
スライド板32のうち、第1貫通口30A,30Aと対応した位置には、複数の第2貫通口32A,32Aが貫通形成されている。即ち、第2貫通口32A,32Aも溝形通電規制カバー20の長手方向に並べて設けられ、それぞれ第1貫通口30A,30Aと同一形状(例えば、矩形状)をなしている。なお、第1貫通口30Aと第2貫通口32Aの大きさは略同一となっている。
【0035】
これら第1貫通口30A,30Aと第2貫通口32A,32Aとから本発明に係る膜厚調節用貫通口23Aが構成され(図5参照)、スライド板32をベース板30に対してスライドさせることで、膜厚調節用貫通口23Aの開口面積(即ち、第1貫通口30A,30Aと第2貫通口32A,32Aとの重なり部分の面積)が調節可能となっている。詳細には、第1貫通口30A,30Aがスライド板32の壁部で完全に閉鎖された全閉状態(図6参照)から、第1貫通口30A,30A塗第2貫通口32A,32Aとが整合した全開状態(図7参照)まで調節することができる。
【0036】
本実施形態の構成は以上であって、次に動作について説明する。塗装対象ワークWに対して電着塗装を行う場合には、図示しない搬送装置から吊り下げた塗装対象ワークWを浴槽本体11の長手方向の一端位置で電着塗料液に沈め、その状態を維持したまま、浴槽本体11の長手方向の他端位置に向けて直線移動させると共に、電極12と塗装対象ワークWとの間で通電を行う。すると、電着塗料液中の塗料粒子が塗装対象ワークWの表面に付着して塗膜を形成する。そして、所定時間をかけて浴槽本体11の一端位置から他端位置まで直線移動させた塗装対象ワークWは、浴槽本体11の他端位置で電着塗料液から引き揚げる。
【0037】
ところで、浴槽本体11内を直線移動するとき、塗装対象ワークWはその下端側が溝形通電規制カバー20の内側に受容される。溝形通電規制カバー20は電気絶縁性の材料で構成されているので、溝形通電規制カバー20の内側に受容された部分は、溝形通電規制カバー20からはみ出した部分に比べて塗料粒子が付着し難くなり、その結果、塗装対象ワークWの上端側には、比較的厚い塗膜(以下、「厚膜部」という)が形成され、塗装対象ワークWの下端側には、膜厚が制限された比較的薄い塗膜(以下、「薄膜部」という)が形成される。
【0038】
さて、塗装対象ワークWの種類の切り替え等により塗装対象ワークWのサイズがそれまでよりも小さくなった場合、溝形通電規制カバー20の溝幅方向における開口縁(本実施形態では鍔壁25,25の先端)と塗装対象ワークWとの間の間隔が広がって溝形通電規制カバー20に受容された部分に通電し易くなり、薄膜部が必要以上に厚くなる虞がある。これを防ぐためには、ワークサイズの小型化に応じてサイドカバー部材22,22を溝幅方向に移動させて開口幅(鍔壁25,25の先端間の距離)を狭めればよい。
【0039】
具体的には、アンダーカバー部材21とサイドカバー部材22,22とを連結した複数のボルト28B及びナット28Nを緩めると共に、バー嵌合筒27の止め螺子27Aを緩め、両サイドカバー部材22,22を溝形通電規制カバー20の溝幅方向で互いに近づけるように移動させる(図3(B)参照)。開口幅を塗装対象ワークWのサイズに応じて狭めたら、ボルト28B及びナット28Nを締め付けてアンダーカバー部材21とサイドカバー部材22,22とを固定すると共に、止め螺子27Aを締めて溝形通電規制カバー20を固定する。
【0040】
これにより溝形通電規制カバー20の開口縁(本実施形態では鍔壁25,25の先端)と塗装対象ワークWとの間の間隔を狭めることができ、溝形通電規制カバー20に受容された部分への通電を確実に規制することができる。即ち、塗装対象ワークWのサイズ縮小に拘わらず、溝形通電規制カバー20に受容された部分の塗膜(薄膜部)の厚さを、必要以上にならないように確実に制限することができる。
【0041】
ここで、塗装対象ワークWの上下方向におけるサイズや形状の変更に対応する場合や、塗装対象ワークWにおける薄膜部と厚膜部との境界位置(見切り)を変更する場合には、ポスト嵌合筒53の止め螺子53Aを緩めて可動バー52の位置を調節すればよい(図3(A)参照)。これにより、溝形通電規制カバー20の位置をその溝の奥行き方向(本実施形態では、上下方向)で調節することができる。ここで、垂直ポスト51及びポスト嵌合筒53は本発明の「カバー移動機構」に相当する。
【0042】
このように、本実施形態によれば、塗装対象ワークWのサイズや形状に応じて、溝形通電規制カバー20の開口幅を変更することができるから、塗装対象ワークWのサイズや形状の変更に拘わらず、塗装対象ワークWの部位に応じた膜厚のコントロールを確実に行うことができる。
【0043】
また、本実施形態によれば、溝形通電規制カバー20のカバー側壁23,23において、スライド板32をベース板30に対してスライドさせることで膜厚調節用貫通口23Aの開口面積を調節することができ、塗装対象ワークWのうち溝形通電規制カバー20に受容された部分の塗膜(薄膜部)の厚さを調節することができる(図6及び図7参照)。具体的には、膜厚調節用貫通口23Aの開口面積を大きくすることで薄膜部をより厚くすることができる。また、膜厚調節用貫通口23Aの開口面積を小さくすることで薄膜部をより薄くすることができる。
【0044】
さらに、本実施形態によれば、カバー側壁23,23の上端縁から開口幅方向の内側に張り出した鍔壁25,25を設けたことで、溝形通電規制カバー20の開口幅を狭めた場合に、膜厚調節用貫通口23A,23Aと塗装対象ワークWとを比較的離して配置することができる。これにより、膜厚調節用貫通口23A,23Aが塗装対象ワークWに接近し過ぎて、膜厚調節用貫通口23Aと対向した部分の塗膜が局所的に厚くなるという膜厚異常を防止することができる。
【0045】
[第2実施形態]
第2実施形態は図8に示されている。同図に示すように、アンダーカバー部材21の下面には底部スライド板41が宛われている。底部スライド板41は、アンダーカバー部材21の下面両側部に設けられた1対のガイドレール42,42によって溝形通電規制カバー20の長手方向(図8における紙面と直交する方向)にスライド可能に保持されている。
【0046】
アンダーカバー部材21には、複数の固定貫通口21B,21Bが貫通形成されている。これら複数の固定貫通口21B,21Bは、例えば、溝形通電規制カバー20の長手方向に並べて設けられている。
【0047】
底部スライド板41のうち、アンダーカバー部材21の固定貫通口21B,21Bと対応する位置には、複数の移動貫通口41A,41Aが貫通形成されている。即ち、移動貫通口41A,41Aも溝形通電規制カバー20の長手方向に並べて設けられており、例えば、固定貫通口21B,21Bと同一形状をなしている。
【0048】
これら固定貫通口21B,21Bと移動貫通口41A,41Aとから底部膜厚調節用貫通口が構成され、底部スライド板41をアンダーカバー部材21に対してスライドさせることで、底部膜厚調節用貫通口の開口面積(即ち、固定貫通口21B,21Bと移動貫通口41A,41Aとの重なり部分の面積)が調節可能となっている。
【0049】
その他の構成は、上記第1実施形態と同じであるので、重複する説明は省略する。本実施形態の構成によっても上記第1実施形態と同等の効果を奏する。また、本実施形態によれば、塗装対象ワークWのうち、溝形通電規制カバー20の底壁(アンダーカバー部材21)との対向部位における塗膜の厚さを、底部膜厚調節用貫通口の開口面積によって調節することができる。
【0050】
[他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0051】
(1)上記第1及び第2実施形態では、溝形通電規制カバー20に1対の鍔壁25,25が備えられていたが、これら鍔壁25,25を備えていなくてもよい。或いは、一方のカバー側壁23だけに鍔壁25を設けてもよい。
【0052】
(2)上記第1及び第2実施形態では、1対のカバー側壁23,23に膜厚調節用貫通口23Aが備えられていたが、膜厚調節用貫通口23Aを備えていなくてもよい。或いは、一方のカバー側壁23だけに膜厚調節用貫通口23Aを備えていてもよい。なお、膜厚調節用貫通口23Aを備えたカバー側壁23には鍔壁25を設けておくことが好ましい。
【0053】
(3)上記第1及び第2実施形態では、溝形通電規制カバー20が溝の奥行き方向で往復動可能な構成(図3(A)参照)であったが、溝の奥行き方向における位置が固定されていてもよい。
【0054】
(4)上記第1及び第2実施形態では、カバー側壁23を構成するスライド板32がベース板30に対して溝形通電規制カバー20の長手方向にスライドする構成であったが、図9に示すように、スライド板32が溝形通電規制カバー20の奥行き方向(上下方向)にスライドする構成としてもよい。
【0055】
(5)上記第1及び第2実施形態では、ベース板30の第1貫通口30Aとスライド板32の第2貫通口32Aが、溝形通電規制カバー20の長手方向に一列に並んで配設されていたが、第1貫通口30A及び第2貫通口32Aをマトリクス状(図9参照)或いは千鳥状に配置してもよい。また、第1貫通口30A及び第2貫通口32Aの形状は矩形に限るものではなく、例えば、円形でもよい(図9参照)。
【0056】
(6)上記第1及び第2実施形態では、スタンド50の垂直ポスト51に対して可動バー52を手動で上下動させることで、浴槽本体11内における溝形通電規制カバー20の上下方向の位置を変更可能としていたが、図10に示すように、溝形通電規制カバー20を複数本のワイヤー60,60で吊って、そのワイヤー60,60をモータ61,61の出力回転軸に連結されたワイヤーリール62,62に巻き取り可能な構成として、溝形通電規制カバー20を上下方向に移動させるようにしてもよい。この構成は、本発明の「カバー移動機構」に相当する。
【0057】
(7)本発明に係る「開口幅可変機構」は、以下のような構成としてもよい。即ち、図11に示すように、溝形通電規制カバー20の底壁の長手方向の両端部には、溝幅方向に延びた断面「コ」の字形のガイド凹部20B,20Bが形成されている。これに対し、溝形通電規制カバー20における両カバー側壁23,23の下端部には、相反する方向に突出した1対のガイド凸部23B,23Bが一体形成され、それらガイド凸部23B,23Bがガイド凹部20B,20Bとスライド可能に凹凸係合している。これにより、1対のカバー側壁23,23が溝形通電規制カバー20の溝幅方向で移動可能となっている。なお、図11には図示されていないが、このカバー側壁23に上記第1実施形態で説明した膜厚調節用貫通口23Aや鍔壁25を設けてもよい。
【0058】
(8)上記実施形態の溝形通電規制カバー20は、浴槽本体11の長手方向の一端から他端まで連続していてもよいし、浴槽本体11の長手方向に複数の溝形通電規制カバー20,20を一列に並べて配置してもよい。
【0059】
(9)上記第1及び第2実施形態では、1対のサイドカバー部材22,22をアンダーカバー部材21に対して溝幅方向で移動可能に連結することで、溝形通電規制カバー20の開口幅を変更可能としていたが、図12に示すように、鍔壁25をカバー側壁23に対して開口幅方向で移動可能に備えることで、溝形通電規制カバー20の開口幅を変更可能としてもよい。
【0060】
(10)上記第1及び第2実施形態では、浴槽本体11及び溝形通電規制カバー20が水平方向に延びた溝形構造であったが、以下のような構造としてもよい。即ち、浴槽本体11を鉛直方向に延びかつ下端有底、上端開放の縦長筒状とすると共に、溝形通電規制カバー20をその浴槽本体11内で上下方向に延びた溝形構造(換言すれば、溝の奥行き方向が水平方向と平行な構造)とし、浴槽本体11の上端開口から塗装対象ワークWを挿入して、その一部を溝形通電規制カバー20に受容させた状態で(必要に応じて、さらに塗装対象ワークWを上下動させて)電着塗装を行ってもよい。
【0061】
(11)上記第1及び第2実施形態では、溝形通電規制カバー20の開口幅を変更可能とした開口幅可変機構と、溝形通電規制カバー20の全体をその溝の奥行き方向に移動可能としたカバー移動機構とを備えていたが、カバー移動機構のみを備えた構成としてもよい。また、カバー移動機構は、溝形通電規制カバー20の全体を溝の奥行き方向に移動可能とするものでなくてもよく、例えば、溝形通電規制カバー20の底壁は固定であって、1対のカバー側壁23,23のみを溝形通電規制カバー20の溝の奥行き方向で伸縮可能とした構成でもよい。このような構成でも、塗装対象ワークWのサイズや形状の変更に溝形通電規制カバー20を対応させることができるから、塗装対象ワークWのサイズや形状の変更に拘わらず、塗装対象ワークWの部位に応じた膜厚のコントロールを確実に行うことができる。
【0062】
(12)さらに、上記したカバー移動機構のみを備えた構成において、浴槽本体11を鉛直方向に延びかつ下端有底、上端開放の縦長筒状とすると共に、溝形通電規制カバー20をその浴槽本体11内で上下方向に延びた溝形構造(換言すれば、溝の奥行き方向が水平方向と平行な構造)とし、浴槽本体11の上端開口から塗装対象ワークWを挿入して、その一部を溝形通電規制カバー20に受容させた状態で(必要に応じて、さらに塗装対象ワークWを上下動させて)電着塗装を行ってもよい。
【符号の説明】
【0063】
10 電着塗装用浴槽
11 浴槽本体
12 電極
20 溝形通電規制カバー
20B ガイド凹部
21 アンダーカバー部材(カバー底壁)
21A ボルト遊嵌孔
23 カバー側壁
23A 膜厚調節用貫通口
25 鍔壁
27 バー嵌合筒
28B ボルト
28N ナット
30 ベース板
30A 第1貫通口
32 スライド板
32A 第2貫通口
50 スタンド
51 垂直ポスト
52 可動バー
53 ポスト嵌合筒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電着塗料液を貯留すると共に、その電着塗料液中に配置された電極を有し、前記電着塗料液中を移動する塗装対象ワークと前記電極との間で通電を行うことで、前記塗装対象ワークの表面に電着塗装を行うための電着塗装用浴槽において、
前記塗装対象ワークの移動方向に延びた溝形構造をなしかつ前記電着塗料液中に沈められ、前記塗装対象ワークの一部を受容して前記電極との間の通電を規制するための溝形通電規制カバーと、
前記塗装対象ワークに応じて前記溝形通電規制カバーの開口幅を変更可能とする開口幅可変機構とを備えたことを特徴とする電着塗装用浴槽。
【請求項2】
前記溝形通電規制カバーのうち溝幅方向で対向した1対のカバー側壁の少なくとも一方のカバー側壁をカバー底壁と別体とし、前記一方のカバー側壁を前記カバー底壁に対して前記溝幅方向に移動可能に支持する機構を前記開口幅可変機構として備えたことを特徴とする請求項1に記載の電着塗装用浴槽。
【請求項3】
前記溝形通電規制カバーの全体をその溝の奥行き方向に移動可能とするか又は、前記溝形通電規制カバーのうち溝幅方向で対向した1対のカバー側壁を前記溝の奥行き方向に伸縮可能とするカバー移動機構を備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載の電着塗装用浴槽。
【請求項4】
電着塗料液を貯留すると共に、その電着塗料液中に配置された電極を有し、前記電着塗料液中を移動する塗装対象ワークと前記電極との間で通電を行うことで、前記塗装対象ワークの表面に電着塗装を行うための電着塗装用浴槽において、
前記塗装対象ワークの移動方向に延びた溝形構造をなしかつ前記電着塗料液中に沈められ、前記塗装対象ワークの一部を受容して前記電極との間の通電を規制するための溝形通電規制カバーと、
前記溝形通電規制カバーの全体をその溝の奥行き方向に移動可能とするか又は、前記溝形通電規制カバーのうち溝幅方向で対向した1対のカバー側壁を前記溝の奥行き方向に伸縮可能としたカバー移動機構を備えたことを特徴とする電着塗装用浴槽。
【請求項5】
前記1対のカバー側壁の少なくとも一方には、前記溝形通電規制カバーの内外に連通しかつ開口面積を変更可能な膜厚調節用貫通口が形成されたことを特徴とする請求項2乃至4の何れか1の請求項に記載の電着塗装用浴槽。
【請求項6】
前記カバー側壁は、ベース板と、そのベース板に重ねられて前記ベース板に対してスライド可能に保持されたスライド板とから構成され、
前記ベース板に貫通形成された複数の第1貫通口と、前記スライド板のうち前記複数の第1貫通口と対応した位置に貫通形成された複数の第2貫通口とから前記膜厚調節用貫通口が構成されたことを特徴とする請求項5に記載の電着塗装用浴槽。
【請求項7】
前記膜厚調節用貫通口を備えた前記カバー側壁の先端部から前記開口幅方向の内側に向かって張り出した鍔壁を備えたことを特徴とする請求項5又は6に記載の記載の電着塗装用浴槽。
【請求項8】
前記電着塗装用浴槽は水平方向に延び、
前記塗装対象ワークは前記電着塗装用浴槽の上方から吊り下げられた状態で前記電着塗装用浴槽の長手方向の一端位置から他端位置へと直線搬送可能とされ、
前記溝形通電規制カバーは、前記電着塗装用浴槽と平行に延びかつ前記塗装対象ワークの下端部を受容するように構成されたことを特徴とする請求項1乃至7の何れか1の請求項に記載の電着塗装用浴槽。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−167311(P2012−167311A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28123(P2011−28123)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000110343)トリニティ工業株式会社 (147)