説明

電着塗装用膜付き中空電極

【課題】電着塗装処理の進行に伴う塗料樹脂の減少、その結果としての電解質の濃度増大に起因する塗膜の再溶解やピンホール発生等の諸問題を解決するために、イオン交換膜等の隔膜を組み合わされた膜付き中空電極の大型化及び部品点数の増大を回避する。
【解決手段】導電性材料により中空状に形成され、その内側と外側の間を液体が自在に通過できるように構成された電極本体10を支持体として、その電極本体10の外面にイオン交換膜等の隔膜20を取付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電荷を帯びた塗料を電気的に塗装する電着塗装に使用される中空電極に関し、更に詳しくは、電着塗装処理の進行に伴う塗料樹脂の減少、その結果としての電解質の濃度増大に起因する塗膜の再溶解やピンホール発生等の諸問題を解決するために、イオン交換膜等の隔膜を組み合わされた電着塗装用膜付き中空電極に関する。
【背景技術】
【0002】
電着塗装では、周知のとおり、塗料液を満たした電着槽内に電極を配置し、通常は電着槽内の両側に電極を並べて配置する。そして、この電着槽内の電極間を移動する被塗装物をもう一方の電極として、塗料液の帯電した塗料樹脂を被塗装物の表面に付着させる。
【0003】
このような電着塗装としては、樹脂成分が正に帯電するカチオン性塗料を用いるものと、負に帯電するアニオン性塗料を用いるものとがあり、前者はカチオン電着塗装、後者はアニオン電着塗装と呼ばれている。そして、自動車の車体の防食を目的とする下地塗装としては、カチオン電着塗装が盛んに研究され、既に工業化もされている。
【0004】
このような電着塗装に使用される塗料のうち、アニオン性塗料としては、例えば分子量2000の樹脂にカルボキシル基を置換させて水溶性としたものが一般的であり、またカチオン性塗料としては、当該塗料の樹脂成分にアミノ基を置換させて水溶性としたものが一般的である。これらの塗料樹脂は水中に溶解した後の電離度が非常に微弱であり、アニオン性塗料の場合は例えばトリエチルアミン等の塩基性電解質(極液)を混入し、また、カチオン性塗料の場合は酢酸等の酸性電解質(極液)を混入して水中での電導度の増大を図るのが通例である。
【0005】
しかしながら、電解質(極液)の混入により塗料液の電導度の増大を図った場合、被塗装物に対する電着塗装処理が進むと、塗料液中の塗料の樹脂成分が減少する。その結果として、電解質(極液)としてのアミンや酢酸等の濃度が塗料液中で増大して塗膜の再溶解やピンホール発生等の弊害が生じる危険がある。
【0006】
このような電解質(極液)濃度の上昇に伴う諸問題を解決するために、管状の電着塗装用電極の周囲に所定の間隔をあけて管状の隔膜支持部材を同心状に配置すると共に、その隔膜支持部材の外面にイオン交換膜等の隔膜を巻装し、電極と隔膜支持部材との間に形成される環状の間隙に、電極内を介して水を供給することにより、隔膜より外側に存在する電解質(極液)をその環状の間隙内に選択的に導入して外部へ排出する電極装置は、特許文献1及び2に記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開平5−195293号公報
【特許文献2】特開2002−60997号公報
【0008】
管状電極の外側に隔膜を管状に配置することにより、塗料液中の塗料樹脂の消費に伴う電解質(極液)濃度の上昇が回避され、その上昇に伴う塗膜の再溶解やピンホールの発生といった諸問題が取り除かれる。しかしながら、その一方、特許文献1及び2に記載された電極装置は、管状電極の外側を隔膜及びその支持部材が間隙をあけて包囲する2重構造であるため、電極本体である管状電極に比して装置規模が増大するのを避け得ない。
【0009】
加えて、電極本体である管状電極の他に隔膜及びその支持部材を必要とするため、部品点数が増大し、製造コストの増大も避け得ない。
【0010】
更に別の問題として、管状電極の外側に間隙をもって配置されたイオン交換膜等の隔膜が使用時に膨潤、伸長することがあり、このために隔膜にしわが発生したり、しわの発生を抑制するために十分な固定ができないなどの問題もある。隔膜のしわ発生は塗料液中の樹脂成分のたまりの原因になり、ひいてはピットやブツなどの塗装不良を引き起こす原因となり問題であった。
【0011】
また、電着塗装の電極材料としてはステンレス鋼やフェライト、チタンなどのバルブ金属に白金族金属の酸化物などを担持させた不溶性材料が使用されている。カチオン電着塗装の場合、塗料液中の電解質(極液)として酢酸、乳酸、蟻酸などの酸性極液が使用されるため、電極としてステンレス鋼製電極を用いた場合は、そのステンレス鋼が徐々に溶解する。その結果、極液やイオン交換膜の汚染を引き起こすとか、極液の再利用が困難になるといった問題があった。一方、フェライト電極は脆く、取り扱いに注意を必要とする問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、電着塗装処理の進行に伴う塗料樹脂の減少、その結果としての電解質の濃度増大に起因する塗膜の再溶解やピンホール発生等の諸問題を解決するためにイオン交換膜等の隔膜を使用するにもかかわらず、その使用に伴う大型化及び部品点数の増大を可及的に回避できる小型で経済的な電着塗装用膜付き電極を提供することにある。
【0013】
本発明の別の目的は、その隔膜の変形を効果的に防止できる電着塗装用膜付き電極を提供することにある。
【0014】
本発明の更に別の目的は、極液や隔膜の汚染を防止でき、極液の再利用により環境負荷の低減をも可能にする電着塗装用膜付き電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明の電着塗装用膜付き電極は、導電性材料により中空状に形成されており、その内側と外側の間を液体が自在に通過できるように構成された電極本体と、該電極本体を支持体としてその外面に取付けられたイオン交換膜等の隔膜とを備えている。
【0016】
本発明の電着塗装用膜付き中空電極においては、中空状の電極本体が、内側と外側の間を液体が自在に通過できるように構成されることにより隔膜の支持体を兼ね、この支持体を兼ねる電極本体の外面にイオン交換膜等の隔膜が直接取付けられる。これにより、塗装液中の余剰の電解質(極液)が隔膜を通して電極本体内に回収される。また、電極の外側に隔膜を保持するための専用の支持部材が不要となり、電極と支持部材の間の環状の間隙も排除される。
【0017】
塗装液中の余剰の電解質(極液)の回収効率を高めるために、中空電極は隔膜の部分のみを通して電極内外間での物質授受を行い、隔膜以外の部分では物質授受が行われない構造が好ましく、また電極本体内へ外部から液体を導入し、電極本体内の液体を外部へ排出する強制通液機構を備えるのが好ましい。より具体的には、電極本体の両端部をキャップ部材により液密に閉塞し、少なくとも一方のキャップ部材に設けられた液体の導入ノズル及び排出ノズルを通して電極本体内を液流通可能とした構成が好ましい。
【0018】
導入ノズル及び排出ノズルを通して電極本体内に低濃度の極液等を循環させることにより、電極本体内への電解質の回収効率が向上する。より円滑な液循環のために、排出ノズルは導入ノズルより大口径であることが望まれる。
【0019】
電極本体は材質的には不溶性電極が好ましく、構造的には剛性と通液性を兼ね備え、且つ電極本体の全体に通液用の開口部が均一に分布するメッシュ構造又は多孔構造が好ましく、より具体的にはパンチドメタル、エキスパンデッドメタル又は金網等が好ましい。
【0020】
電極本体に使用される不溶性電極に関しては、導電性基体の表面に白金族金属を主成分とする電極活性物質を被覆した構成が好ましい。ここで、導電性基体とはチタン、タンタル、ジルコニウム、ニオブ等のバルブ金属やチタン−タンタル、チタン−ニオブ、チタン−バナジウム、チタン−タンタル−ニオブ等のバルブ金属を主成分とする合金が好適である。導電性基体は又、上記バルブ金属、合金、導電性ダイヤモンド(例えばホウ素をドーピングしたダイヤモンド)を鉄、ニッケルなどのバルブ金属以外の金属又は導電性セラミックス表面に被覆したものでもよい。
【0021】
導電性基体の表面に被覆される電極活性物質については、被覆膜の密着性の点から白金族金属は酸化イリジウムに酸化タンタル、酸化チタン、酸化スズなどを混合した混合酸化物が好適である。特に酸化タンタルと混合した酸化イリジウムが、長時間の使用が可能である点で最も望ましい。
【0022】
電極本体が陽極の場合、陽極反応は酸素発生反応が主であるために水素イオンを生じ、酸性度が増大して導電性基体の腐食が生じやすい。このため、導電性基体と混合酸化物被覆膜との間に、酸性電解質に対して優れた耐食性を示すタンタル金属薄膜等の中間層をスパッタリングなどの方法で介在させ、電極本体の腐食を防止するようにしてもよい。
【0023】
電極本体を支持体としてその外面に取付けられる隔膜は、該隔膜の水力学的な粗密を問わず、該隔膜の内側と外側において必要な成分の差異を発生させうる性質を有する膜を指し、中性隔膜を用いてもよいが、イオン交換膜である方が好ましく、特にカチオン電着塗装用陽極として用いる場合には陰イオン交換膜が好ましい。陰イオン交換膜としては公知のものを使用することが可能であるが、電極本体の外面に強固に接合できる性質のものが好ましく、具体的には、メッシュ構造や多孔構造の電極本体の開口部に食い込んでアンカー効果による接合が可能なもの、若しくはそれに準じる接合が可能なものが好ましい。このような条件を満足するものとしては、例えば旭硝子エンジニアリング株式会社製の陰イオン交換膜AME(商品名)がある。
【0024】
隔膜は又、補強材により補強して、電極本体の外面に接合することが望まれる。これにより、乾燥時、液中浸漬時、液中使用時において、電極本体の長手方向における隔膜の伸縮が生じないようにすることができる。ここにおける補強材としては不織布、多孔体、織布、メッシュ、網、フィブリルのいずれか一種又は二種以上を組合せて用いることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の電着塗装用膜付き中空電極は、電極本体が隔膜の支持体を兼ね、その電極本体の外面に直接隔膜が取付けられるために、電極の外側に間隙を設けて隔膜を配置する2重構造のものと比べて小型で軽量であり、取り扱いが容易である。また、隔膜の専用支持体が不要となることにより部品点数が低減し、経済性にも優れる。そして、電解液の濃度増大による諸問題の解決という本来機能の面では、2重構造のもと比べて遜色ない性能を示す。
【0026】
また、隔膜を電極本体の外面にアンカー効果等により強固に接合することにより、隔膜の膨潤による長手方向の伸長を抑制でき、しわの発生を抑えることができる。これにより、電着塗装不良の原因である塗料溜まりの発生を抑制することができる。
【0027】
更に、電極本体として不溶性電極を使用することにより、電極材料の塗料液及び極液への溶出を回避することができ、これにより隔膜の汚染や極液の汚染を低減することができる。また、ステンレス鋼製電極と比べて電流密度を高めることが可能であり、塗装時間の短縮や電極設置数の減少を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の一実施形態を示す電着塗装用膜付き中空電極の縦断面図である。
【0029】
本実施形態の膜付き中空電極は、例えばカチオン電着塗装における管状陽極として使用される。この中空電極は、垂直に設置される円筒形状の電極本体10と、電極本体10の外面に密着してこれを抱持する円筒形状の隔膜20と、電極本体10の下端部を閉止するエンドキャップ30と、電極本体10の上端部を閉止するトップキャップ40と、トップキャップ40と共に電極本体10の上端部を覆うシール用のキャップケース50とを備えている。
【0030】
電極本体10は、チタンなどのバルブ金属からなる円筒体であって、多数の開口部が規則的に形成されたパンチドメタルなどから構成されており、より詳しくは、パンチング加工等の加工後のバルブ金属板を円筒形状に成形することにより構成されている。電極本体10の表面には、酸化タンタルと混合した酸化イリジウムなどの電極活性物質が被覆されている。電極本体10の上端部には、電源ケーブル100を接続するための端子90が取付けられている。
【0031】
電極本体10を抱持する円筒形状の隔膜20は、ここでは陰イオン交換膜であって、片面又は両面に例えばナイロンメッシュを熱融着することにより補強されている。そして、アンカー効果を発揮できるように、この隔膜20は支持体である電極本体10の外面に全周にわたって熱圧着等により接合されている。
【0032】
エンドキャップ30は、塩化ビニル樹脂等の耐酸性に優れた樹脂材料からなる厚肉の円盤であり、電極本体10の外側の隔膜20より大径に設計されている。エンドキャップ30の上面には、電極本体10の下端部が嵌合するように環状の溝部が形成されており、この溝部に電極本体10の下端部が嵌合しエポキシ樹脂等の耐酸樹脂により固着されることにより、電極本体10の下端開口部は液密に封止されている。
【0033】
トップキャップ40は、エンドキャップ30と同様に、塩化ビニル樹脂等の耐酸性に優れた樹脂材料からなる厚肉の円盤であり、電極本体10の外側の隔膜20とほぼ同じ外径に設計されている。トップキャップ40の下端部外面には、電極本体10の上端部が嵌合するように環状の切り込みが形成されており、この切り込みに電極本体10の上端部が嵌合しエポキシ樹脂等の耐酸樹脂により固着されることにより、電極本体10の上端開口部は液密に封止されている。
【0034】
トップキャップ40には、電極本体10内に極液等の液体を流通させるために、導入ノズル60及び排出ノズル70が垂直方向に貫通して取付けられている。導入ノズル60の上端部はトップキャップ40の上方に突出し、下端部は電極本体10内の下端部近傍に達している。排出ノズル70は導入ノズル60より大径であり、その上端部はトップキャップ40の上方に突出し、下端部は電極本体10内に僅かに挿入されている。導入ノズル60と排出ノズル70にはそれぞれ供給ホース61と排出ホース71が取り付けられている。供給ホース61と排出ホース71は容易に屈曲しない程度の強度が必要であり、また、耐圧性を高めるために補強メッシュが入っているホースでも良い。導入ノズル60と供給ホース61及び排出ノズル70と排出ホース71の接続はキャップケースの内側にて行う事が好ましい。
【0035】
キャップケース50は、円筒状の樹脂カバーであり、トップキャップ40における電極本体10との接合部、導入ノズル60及び排出ノズル70の各貫通孔等をシールするために、トップキャップ40と電極本体10との接合部を覆うようにトップキャップ40に被せられており、その内部にはエポキシ樹脂などの充填材80が充填されている。導入ノズル60及び排出ノズル70に接続された供給ホース61及び排出ホース71の各上端部は、端子90に接続された電源ケーブル100と共に、キャップケース50の上方に突出している。
【0036】
次に、本実施形態の電着塗装用膜付き中空電極の使用方法および機能について説明する。
【0037】
例えばカチオン電着塗装に使用される場合は、この中空電極は塗料液を収容する電着槽内に両側の側壁に沿って配置される。操業では、中空電極の電極本体10が陽極とされ、陰極である被塗装物が電着槽内の塗料液中を、両側の電極列の間を通過するようにして移動する。この間に、正に帯電した塗料樹脂が被塗装物の表面に付着する。塗料樹脂の電離度が微弱であるために、塗料液には酢酸等の酸性電解質(極液)が混合される。
【0038】
操業の進行に伴い、塗料液中の塗料樹脂が消費され、酸性電解質(極液)の濃度が上昇する。これを放置すると、塗膜の再溶解やピンホールの発生が生じる。そこで、電着槽の両側の側壁内面に沿って配置された中空電極の電極本体10内に低濃度の酸性電解質(極液)を循環させる。
【0039】
具体的には、導入ノズル60を供給ホース61と接続し、排出ノズル70を排出ホース71と接続し、導入ノズル60より電極本体10内に低濃度の酸性電解質(極液)を供給する。これにより、電着槽内の塗料液中の余剰の酸性電解質イオンが陰イオン交換膜からなる隔膜20を通して電極本体10内の酸性電解質(極液)中に排出される。これにより、塗料液中の酸性電解質(極液)の濃度上昇が抑制される。一方、電極本体10内で濃度が上昇した酸性電解質(極液)は排出ノズル70から排出ホース71を通して外部へ排出され、再利用される。
【実施例】
【0040】
最後に、本発明の電着塗装用膜付き中空電極を実際に作製して性能試験を実施した結果を説明する。作製した中空電極は図1に示された構造のものである。
【0041】
幅100mm、長さ2540mm、厚み1mmのチタン板に、LW=6mm、SW=3mmの規則的に配列された多数の菱形開口部を打ち抜きにより形成した。そのパンチドメタルの片面に電極活性物質の被覆操作を5回繰り返した。
【0042】
すなわち、まず素材としてのチタン板を洗浄し脱脂した後、♯30のアランダムを用いて全面に圧力0.4MPaで約10分間のブラスト処理を施し、その処理板を流水中で一昼夜洗浄し、乾燥した。こうして得られた前処理チタン板の表面に、表1に示す液組成の電極活性物質被覆液を塗布し、これを100℃で10分間乾燥し、更に電気炉中で20分間焼成した。
【0043】
電極活性物質被覆液の塗布、乾燥及び焼成を5回繰り返して電極板を完成させた。片電極板の一方の表面に形成された電極活性物質被覆層の重量組成比はIr/Ta=7/3である。
【0044】
【表1】

【0045】
完成した電極板を電極活性物質被覆層が内面となるように円筒形状に形成加工して電極本体となし、その中心線方向一端部に電源ケーブル用端子を溶接した。作製された円筒形状の電極本体の外面全体にイオン交換膜を150℃で10分間加熱圧着し、膜付き円筒電極とした。イオン交換膜は、前述した旭硝子エンジニアリング株式会社製の陰イオン交換膜AME(商品名)であり、両面側からナイロンメッシュの熱圧着により補強した。
【0046】
完成した膜付き円筒電極の下端部にエンドキャップをエポキシ樹脂を用いて固着し、上端部にトップキャップをエポキシ樹脂を用いて固着した。トップキャップに導入ノズル及び排出ノズルを取付け、それぞれに供給ホースと排出ホースを取り付けた。端子に電源ケーブルを接続した後に、エポキシ樹脂を用いてトップキャップが完全に隠れるように隙間なくキャップカバーを取付けた。
【0047】
こうして作製した膜付き中空電極を50℃に加熱した純水中に一晩浸漬し、イオン交換膜を膨潤させて伸縮状態を調べたところ、イオン交換膜の厚み方向の変化は1mmであったが、長手方向の変化は認められず、しわの発生も確認されなかった。
【0048】
そこで次に、膜付き中空電極を槽内の1mol/Lの酢酸溶液中に浸漬し、ステンレス板を対極として100Aの通電試験を実施した。膜付き中空電極内には1mol/Lの酢酸溶液を200L/hの流量で流通させた。100Aの通電及び200L/hの通液を24時間実施した結果、電流効率は90%であり、酢酸の濃度上昇が効果的に抑制された。また電極本体の外面に密着して取付けられた円筒状のイオン交換膜の長手方向における寸法変化は認められなかった。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施形態を示す電着塗装用膜付き中空電極の縦断面図である。
【符号の説明】
【0050】
10 電極本体
20 隔膜
30 エンドキャップ
40 トップキャップ
50 キャップケース
60 導入ノズル
61 供給ホース
70 排出ノズル
71 排出ホース
80 充填材
90 端子
100 電源ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性材料により中空状に形成されており、その内側と外側の間を液体が通過できるように構成された電極本体と、該電極本体を支持体としてその外面に取付けられたイオン交換膜等の隔膜とを備えた電着塗装用膜付き中空電極。
【請求項2】
隔膜が電極本体の全面に取り付けられている請求項1に記載の電着塗装用膜付き中空電極。
【請求項3】
隔膜が電極本体にアンカー効果を利用して強固に取り付けられている請求項2に記載の電着塗装用膜付き中空電極。
【請求項4】
隔膜の部分のみを通して電極内外間での物質授受を行い、隔膜以外の部分では物質授受が行われないように電極本体の両端部が閉塞された請求項3に記載の電着塗装用膜付き中空電極。
【請求項5】
電極本体内へ外部から液体を導入し、電極本体内の液体を外部へ排出する強制通液機構を備える請求項4に記載の電着塗装用膜付き中空電極。
【請求項6】
前記電極本体は、両端部がキャップ部材により液密に閉塞されており、少なくとも一方のキャップ部材に設けられた液体の導入ノズル及び排出ノズルを通して電極本体内が液流通可能とされた請求項5に記載の電着塗装用膜付き中空電極。
【請求項7】
前記電極本体はメッシュ又は多孔構造である請求項3に記載の電着塗装用膜付き中空電極。
【請求項8】
前記電極本体は不溶性電極である請求項3に記載の電着塗装用膜付き中空電極。
【請求項9】
前記隔膜はイオン交換膜又は中性膜である請求項3に記載の電着塗装用膜付き中空電極。
【請求項10】
前記隔膜は補強材により補強されており、且つ前記電極本体に接合している請求項3に記載の電着塗装用膜付き中空電極。
【請求項11】
前記補強材は不織布、多孔体、織布、メッシュ、網、フィブリルのいずれか1種又は2種以上の組合せからなる請求項10に記載の電着塗装用膜付き中空電極。


【図1】
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【公開番号】特開2007−284736(P2007−284736A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−112005(P2006−112005)
【出願日】平成18年4月14日(2006.4.14)
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【出願人】(390005407)旭硝子エンジニアリング株式会社 (14)
【出願人】(591005039)東邦機械工業株式会社 (4)