説明

電着浴の管理方法および電着塗装システム

【課題】顔料、特に無機顔料、を含む、沈降安定性に優れる電着塗料組成物を提供すること。
【解決手段】(a)脂肪酸、脂肪酸の誘導体、アミン化合物およびそれらの1種または2種以上の混合物からなる群から選択される顔料沈降防止剤、および(b)顔料を含有する電着塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沈降安定性に優れる、顔料を含む電着塗料組成物を用いた電着浴の管理方法および電着塗装システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電着塗装は、電着塗料組成物中に被塗物を電極として浸漬させ、電圧を印加することにより行なわれる塗装方法である、この方法は、複雑な形状を有する被塗物であっても細部にまで塗装を施すことができ、自動的かつ連続的に塗装することができるので、特に自動車車体等の大型で複雑な形状を有する被塗物の下塗り塗装方法として広く実用化されている。
【0003】
一般に電着塗料組成物には、多量の防錆顔料および体質顔料が、防錆効果および塗膜物性の向上を目的として加えられており、チタンホワイト(酸化チタン)などの着色顔料、隠蔽力の高いカーボンブラックなどが、必要に応じて加えられている。これらの顔料は、塗料組成物中において溶媒中に分散した状態にある。これらの顔料は一般に比重が高いものが多く、そのため電着塗料組成物中において沈降が生じやすい。例えば無機顔料を含む従来の電着塗料組成物は、ほんの数時間の静置によって無機顔料が沈降する。そして沈降した顔料は強固に凝集するため、再び撹拌を行なっても元の分散状態に戻すことは非常に困難である。このような凝集を防ぐため、電着塗料組成物を含む電着槽および補給タンクは常時撹拌が必要となり、これが塗装業者の設備およびエネルギー費用における負担となっている。
【0004】
顔料などの沈降を防止する方法として、この顔料などの成分を省くことが考えられる。しかし、顔料などの成分を省くことによって、防食性低下などといった塗膜物性の低下が生じるおそれがある。特開平9−328641号公報(特許文献1)には、沈降量が5.0mg/時間以下であるカチオン電着塗料組成物が開示されている。このカチオン電着塗料組成物は、前述のように沈降する成分を省くことにより達成している。
【0005】
一方、電着塗料組成物の沈降安定性を高める他の方法として、例えば特定の顔料を使用する方法が挙げられる。例えば、特開平6−340832号公報(特許文献2)には、電着塗料の樹脂固形分100重量部に対して、球状の高純度アモルファスシリカ粉を0.1〜40重量部含有することを特徴とする電着塗料組成物が記載されている。この球状の高純度アモルファスシリカ粉を用いることによって、電着塗料浴中におけるチタンホワイトや防錆性顔料などの沈降を防止できると記載されている。しかしながら、この方法では5時間静置後の沈降度合を沈降性の評価方法としており、沈降防止効果としては充分と言うことはできない。
【0006】
国際公開第00/44840号パンフレット(特許文献3)には、植物油脂を酵素分解して得られた脂肪酸で変性されてなる塗料用樹脂、顔料及び水を含有することを特徴とする電着塗料組成物が記載されている。ここでは、脂肪酸は、塗料用樹脂を変性するために用いられており、顔料の分散を安定させるという本発明とは異なるものである。
【0007】
【特許文献1】特開平9−328641号公報
【特許文献2】特開平6−340832号公報
【特許文献3】国際公開第00/44840号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記従来技術の問題点解決することを課題とする。より特定すれば、本発明は、顔料、特に無機顔料、を含む、沈降安定性に優れる電着塗料組成物を用いた電着浴の管理方法および電着塗装システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、(a)脂肪酸、脂肪酸の誘導体、アミン化合物およびそれらの1種または2種以上の混合物からなる群から選択される顔料沈降防止剤、および(b)顔料を含有する電着塗料組成物を用いた電着浴の管理方法および電着塗装システムを提供するものであり、これにより上記目的が達成される。
【0010】
上記電着塗料組成物は(a)脂肪酸、脂肪酸の誘導体、アミン化合物およびそれらの1種または2種以上の混合物からなる群から選択される顔料沈降防止剤、および(b)顔料を含むのが好ましい。
【0011】
上記電着塗料組成物はカチオン性あるいはアニオン性のいずれであっても良く、カチオン性の場合には、上記成分(a)および(b)に加えて、カチオン性樹脂、ブロックポリイソシアネート硬化剤および硬化触媒を含む。アニオン性の場合は上記成分(a)および(b)に加えて、アニオン性樹脂、硬化剤および硬化触媒を含む。
【0012】
上記脂肪酸の誘導体は、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド化合物、あるいは脂肪酸エステルまたは脂肪酸アミド化合物のエチレンオキサイド開環付加物であってもよい。
【0013】
上記脂肪酸は炭素数4〜22を有するのが好ましい。
【0014】
上記アミン化合物は窒素原子に炭素数4〜22のアルキル基が結合しているのが好ましい。
【0015】
前記顔料沈降防止剤(a)は、顔料100重量部に対して0.1〜20重量部の量で含むのが好適である。
【0016】
本発明はまた、(a)脂肪酸、脂肪酸の誘導体、アミン化合物およびそれらの1種または2種以上の混合物からなる群から選択される顔料沈降防止剤、および(b)顔料を含む顔料分散ペーストを調製する調製工程、および
カチオン性樹脂、ブロックポリイソシアネート硬化剤、および該顔料分散ペーストを、水性媒体に分散させる、分散工程、
を包含する、カチオン性の電着塗料組成物の製造方法を提供する。
【0017】
さらに、本発明は(a)脂肪酸、脂肪酸の誘導体、アミン化合物およびそれらの1種または2種以上の混合物からなる群から選択される顔料沈降防止剤、および(b)顔料を含む顔料分散ペーストを調製する調製工程、および
アニオン性樹脂、硬化剤、および該顔料分散ペーストを、水性媒体に分散させる、分散工程、
を包含する、アニオン性の電着塗料組成物の製造方法も提供する。
【0018】
本発明では、電着塗装時には、電着浴の一部を取りだしてポンプで電着浴中に戻すことにより電着浴を循環攪拌し、電着塗装を行っていないときは該循環用ポンプを停止する電着浴管理方法であって、電着浴中の電着塗料組成物が上記のものである、電着浴の管理方法も提供する。
【0019】
本発明は、さらにまた、被塗物を電着塗装するための上記電着塗料組成物を含む電着浴、電着塗装された被塗物を水洗する第一水洗浴、および該被塗物をさらに水洗する第二水洗浴、を有する電着塗装システムであって、該電着浴における電着浴の一部を取り出してポンプで元の浴中に戻す液体流による循環攪拌を、攪拌羽を用いる攪拌に切り替えることによりエネルギーが節約される、電着塗装システムも提供する。
【0020】
また、本発明は被塗物を電着塗装するための上記電着塗料組成物を含む電着浴、電着塗装された被塗物を水洗する第一水洗浴、および該被塗物をさらに水洗する第二水洗浴、を有する電着塗装システムであって、該第一水洗浴の液体の撹拌が攪拌羽によって行われる、電着塗装システムを提供する。
【0021】
本発明では、被塗物を電着塗装するための上記電着塗料組成物を含む電着浴、電着塗装された被塗物を水洗する第一水洗浴、および該被塗物をさらに水洗する第二水洗浴、を有する電着塗装システムであって、該第二水洗浴の液体の撹拌が攪拌羽によって行われる、電着塗装システムも提供できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の電着塗料組成物は、長時間静置させた場合であっても沈殿物が少ない。そのため、電着塗料組成物の貯蔵における常時撹拌、および電着塗装における電着槽の常時撹拌を必要とせず、撹拌を省略したり断続的に撹拌させたりすることができる。これにより、電着塗装における塗装コストを削減することができる。また、本発明によって、無機顔料を含み、かつ顔料沈降物が少ない塗料を提供することもできる。無機顔料として例えばチタンホワイトなどの屈折率および隠蔽力の高い顔料を含む場合は、白色性が高く隠蔽力の高い電着塗膜を得ることができる電着塗料組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の電着塗料組成物は、カチオン樹脂を主樹脂として用いるカチオン電着塗料と、アニオン樹脂を主樹脂として用いるアニオン電着塗料の2種類に分類することができる。本発明の電着塗料組成物はいずれも包含する概念で用いている。まずは、カチオン電着塗料組成物に関して説明する。アニオン電着塗料組成物については、後述する。
【0024】
カチオン電着塗料組成物
本発明のカチオン電着塗料組成物は、カチオン性樹脂とブロックポリイソシアネート硬化剤とを含むバインダー樹脂、触媒を含有し、さらに(a)脂肪酸、脂肪酸の誘導体、アミン化合物およびそれらの1種または2種以上の混合物からなる群から選択される顔料沈降防止剤、および(b)顔料を含むことを特徴とする。本明細書中、「脂肪酸」と「脂肪酸の誘導体」をまとめて「脂肪酸類」と記載することもある。
【0025】
カチオン性樹脂
本発明で用いるカチオン性樹脂には、アミンで変性されたエポキシ樹脂が含まれる。このカチオン性樹脂は、特開昭54−4978号、同昭56−34186号などに記載されている公知の樹脂でよい。
【0026】
カチオン性樹脂は、典型的には、ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ環の全部をカチオン性基を導入し得る活性水素化合物で開環するか、または一部のエポキシ環を他の活性水素化合物で開環し、残りのエポキシ環をカチオン性基を導入し得る活性水素化合物で開環して製造される。
【0027】
ビスフェノール型エポキシ樹脂の典型例はビスフェノールA型またはビスフェノールF型エポキシ樹脂である。前者の市販品としてはエピコート828(油化シェルエポキシ社製、エポキシ当量180〜190)、エピコート1001(同、エポキシ当量450〜500)、エピコート1010(同、エポキシ当量3000〜4000)などがあり、後者の市販品としてはエピコート807、(同、エポキシ当量170)などがある。
【0028】
カチオン性基を導入し得る活性水素化合物としては1級アミン、2級アミン、3級アミンの酸塩、スルフィド及び酸混合物がある。本発明の1級、2級又は/及び3級アミノ基含有エポキシ樹脂を調製するためには1級アミン、2級アミン、3級アミンの酸塩をカチオン性基を導入し得る活性水素化合物として用いる。
【0029】
具体例としては、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、トリエチルアミン塩酸塩、N,N−ジメチルエタノールアミン酢酸塩、ジエチルジスルフィド・酢酸混合物などのほか、アミノエチルエタノールアミンのケチミン、ジエチレントリアミンのジケチミンなどの1級アミンをブロックした2級アミンがある。アミン類は複数のものを併用して用いてもよい。
【0030】
ブロックポリイソシアネート硬化剤
カチオン電着塗料組成物には、ポリイソシアネートをブロック剤でブロックして得られたブロックポリイソシアネート硬化剤が含まれる。ここでポリイソシアネートとは、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物をいう。ポリイソシアネートとしては、例えば、脂肪族系、脂環式系、芳香族系および芳香族−脂肪族系等のうちのいずれのものであってもよい。
【0031】
ポリイソシアネートの具体例には、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、p−フェニレンジイソシアネート、及びナフタレンジイソシアネート等のような芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、及びリジンジイソシアネート等のような炭素数3〜12の脂肪族ジイソシアネート;1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4´−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4´−ジイソシアネート、及び1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5−もしくは2,6−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(ノルボルナンジイソシアネートとも称される。)等のような炭素数5〜18の脂環式ジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート(XDI)、及びテトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等のような芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;これらのジイソシアネートの変性物(ウレタン化物、カーボジイミド、ウレトジオン、ウレトイミン、ビューレット及び/又はイソシアヌレート変性物);等があげられる。これらは、単独で、または2種以上併用することができる。
【0032】
ポリイソシアネートをエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどの多価アルコールとNCO/OH比2以上で反応させて得られる付加体ないしプレポリマーもブロックポリイソシアネート硬化剤として使用してよい。
【0033】
脂肪族ポリイソシアネート又は脂環式ポリイソシアネートの好ましい具体例には、ヘキサメチレンジイソシアネート、水添TDI、水添MDI、水添XDI、IPDI、ノルボルナンジイソシアネート、それらの二量体(ビウレット)、三量体(イソシアヌレート)等が挙げられる。
【0034】
ブロック剤は、ポリイソシアネート基に付加し、常温では安定であるが解離温度以上に加熱すると遊離のイソシアネート基を再生し得るものである。
【0035】
ブロック剤としては、低温硬化(160℃以下)を望む場合には、ε−カプロラクタム、δ−バレロラクタム、γ−ブチロラクタムおよびβ−プロピオラクタムなどのラクタム系ブロック剤、及びホルムアルドキシム、アセトアルドキシム、アセトキシム、メチルエチルケトオキシム、ジアセチルモノオキシム、シクロヘキサンオキシムなどのオキシム系ブロック剤を使用するのが良い。
【0036】
顔料(b)
本発明のカチオン電着塗料組成物は、一般的に用いられる顔料を含有する。顔料として、無機顔料、有機顔料、カーボンブラックまたはそれらの組合せを含有させる。無機顔料として、例えば、チタンホワイト、カーボンブラック及びベンガラのような着色顔料、カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカ、クレー及びシリカのような体質顔料、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛、シアン化亜鉛、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム及びリンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛のような防錆顔料等が挙げられる。本明細書中で「有機顔料」とは、無機顔料と対比する概念で用いる。有機顔料の例としては、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、モノアゾイエロー、ジスアゾイエロー、ベンズイミダゾロンエロー、キナクリドンレッド、モノアゾレッド、ボリアゾレッド、またはベリレンレッド等が挙げられる。
【0037】
本発明において、上記いずれの顔料も用いることができる。これらは単独で用いてもよく、また、2種以上を併用して用いてもよい。例えば着色顔料である酸化チタンを用いることによって、白色性が高く隠蔽力の高い電着塗膜を得ることができ、かつ沈降安定性に優れる電着塗料組成物を製造することができる。また、例えば、体質顔料であるシリカまたはカオリンを用いることによって、ハジキ防止、耐チッピング性、塗膜硬度、耐候性、付着性等を向上させることができる他、防錆性も向上させた塗膜物性・性能に優れる電着塗膜を得ることができ、かつ、沈降安定性に優れる電着塗料組成物を製造することができる。さらに、例えば、防錆顔料であるリン酸アルミニウムまたはモリブデン酸カルシウムを用いることによって、塗膜の防錆性を向上させた塗膜物性に優れる電着塗膜を得ることができ、かつ、沈降安定性に優れるカチオン電着塗料組成物を製造することができる。
【0038】
顔料は、一般に、カチオン電着塗料組成物の全固形分に対して下限1重量%、上限60重量%を占める量でカチオン電着塗料組成物に含有される。上記上限は30重量%であるのが好ましい。
【0039】
硬化触媒
本発明のカチオン電着塗料組成物では、硬化触媒を加えて、ブロックポリイソシアネート硬化剤のブロック剤の解離を促進させることができる。本発明で使用する硬化触媒としては、硬化剤のブロック剤の解離を促進させるものであれば特に限定されないが、代表的な触媒としては、錫触媒が挙げられる。錫触媒としては、ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイド、モノブチル錫オキサイドおよびそれらの混合物等の固体触媒、ジブチル錫ジラウレート等の液状錫触媒、およびそれらの混合物などが挙げられる。
【0040】
上記硬化触媒は、電着塗料中の樹脂固形分に対し0.5〜10質量%、好ましくは1〜5質量%の量で配合する。
【0041】
カチオン性アクリル樹脂
本発明のカチオン電着塗料組成物では、カチオン性アクリル樹脂を含むのが好ましい。これを含めることによって、無機顔料の含有量が少ない場合に生じうる油ハジキ性の低下を防止することができるからである。カチオン性アクリル樹脂は、分子内に複数のオキシラン環を含んでいるアクリル共重合体とアミンとの開環付加反応によってつくることができる。このようなアクリル重合体は、(i)グリシジル(メタ)アクリレートと、(ii)ヒドロキシル基含有アクリルモノマー、例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、プラクセルFAおよびFMシリーズとして知られる2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとカプロラクトンとの付加反応生成物と、(iii)その他のアクリル系および/または非アクリル系モノマーを共重合することによって得られる。その他のアクリル系および非アクリル系モノマーの例は、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、スチレン、ビニルケトン、α−メチルスチレン、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド、酢酸ビニルなどである。
【0042】
このオキシ環含有アクリル樹脂は、エポキシ樹脂のオキシラン環をアミンで開環してカチオン性基を導入するのと全く同様に、そのオキシラン環の全部を1級アミン、2級アミンまたは3級アミン酸塩との反応によって開環し、カチオン性アクリル樹脂とすることができる。
【0043】
他の方法として、アミノ基を有するアクリルモノマーを他のモノマーと共重合することによって直接カチオン性アクリル樹脂をつくることができる。この場合は、先にオキシラン環含有アクリル樹脂の製造に用いたグリシジル(メタ)アクリレートの代りにN,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジ−t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどのアミノ基含有アクリルモノマーを使用し、これをヒドロキシル基含有アクリルモノマーおよび他のアクリル系および/または非アクリル系モノマーと共重合することによってカチオン性アクリル樹脂が直接得られる。
【0044】
カチオン性アクリル樹脂は、重合体の数平均分子量が1,000〜20,000、好ましくは2,000〜10,000、より好ましくは5,000〜10,000の範囲内になるように常法によって前記モノマーを共重合することによって得られる。
【0045】
カチオン性アクリル樹脂の配合量は、電着塗料中の樹脂固形分100重量部に対し10〜100重量部である。
【0046】
顔料沈降防止剤(a)
本発明のカチオン電着塗料組成物は、脂肪酸、脂肪酸の誘導体(両方あわせて脂肪酸類と呼ぶ。)、アミン化合物およびそれらの1種または2種以上の混合物からなる群から選択される顔料沈降防止剤を含有する。本発明においては、顔料沈降防止剤(a)を電着塗料組成物に加えることによって、塗料組成物中に含まれる顔料の分散安定性が向上する。そして、無機顔料を含む電着塗料組成物であっても、電着塗料を静置しておいても顔料沈降物が少ない塗料組成物を製造することができる。
【0047】
脂肪酸類とは、上記の通り、脂肪酸またはその誘導体である。脂肪酸として、例えば、直鎖飽和脂肪酸、分岐飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸が含まれる。また脂肪酸の誘導体として、例えば、上記脂肪酸を、アルコール、多価アルコール(グリセリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール等)で変性した脂肪酸エステル、エチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイドで変性した脂肪酸エチレンオキサイド付加物または脂肪酸プロピレンオキサイド付加物、アミン化合物で変性した脂肪酸アミド化合物、および多官能脂肪酸が含まれる。これらの脂肪酸エステルまたは脂肪酸アミド化合物には、エチレンオキサイドが開環付加したもの(エチレンオキサイド開環付加物)も含まれる。これらの脂肪酸類は、分子の骨格中に不飽和結合、エーテル結合、エステル結合等の化学結合、水酸基、アミノ基、カルボニル基等の官能基、酸素、窒素、イオウ、ハロゲンなどのヘテロ原子を含んでいてもよい。また多官能カルボン酸なども、脂肪酸誘導体に含まれる。脂肪酸の誘導体として、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド化合物およびこれらのエチレンオキサイド開環付加物を用いるのがより好ましい。
【0048】
本発明で使用される脂肪酸類において、好ましくは炭素数4〜22の脂肪酸およびその誘導体であり、より好ましくは炭素数7〜20の脂肪酸およびその誘導体である。
【0049】
具体的な脂肪酸類として、例えば以下の化合物が挙げられる:
(1)直鎖飽和脂肪酸
アラキジン酸、トリコサン酸、ベヘニン酸、ヘンエイコサン酸、エイコサン酸、ノナデカン酸、ステアリン酸、ヘプタデカン酸、パルミチン酸、ペンタデカン酸、ミリスチン酸、トリデカン酸、ラウリン酸、カプリン酸、カプリル酸、オクタン酸、ヘプタン酸、ヘキサン酸、吉草酸、酪酸等、花王社製精製ステアリン酸(450V、550V、700V)等;
(2)分岐飽和脂肪酸
イソステアリン酸、メチルテトラデカン酸、メチルヘプタデカン酸、メチルオクタデカン酸、イソ吉草酸等;
(3)不飽和脂肪酸
オレイン酸、リシノール酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、エライジン酸、パルミトレイン酸、アラキドン酸、ウンデセン酸、ソルビン酸、クロトン酸等;
(4)多官能カルボン酸
スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ブラシル酸、フタル酸、ドデカン二酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、テトラブロムフタル酸、テトラクロルフタル酸、3−tert−ブチルアジピン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等;
(5)ヘテロ原子含有脂肪酸
ヘキシロキシ酢酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、サリチル酸、安息香酸、p−ブトキシ安息香酸、N−アセチルグリシン、N−アセチル−β−アラニン、チオクト酸等;
(6)脂肪酸エステル(アルコールエステル系)
ライオン社製カデナックス(GS-90,SO-80C)、花王社製レオドール(SP-L10、SP-P10,SP-S10V,SP-S30V、AS-10、AO-10、AO-15V)、花王社製レオドールスーパーSP-L10、花王社製エマゾール(L-10(F)、P-10(F)、S-10V、O-10V)等;
(7)脂肪酸エステル(エチレングリコール、ポリエチレングリコールエステル系)
ライオン社製リオノン(DT-600S,DEH-40)、旭電化工業社製アデカエストール(OEG-102,OEG-106)等;
(8)脂肪酸メチルエステル(エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド付加系)
ライオン社製レオファット(LA-110M-95,OC-0503M)、花王社製エマノーン(1112,3199,3299,4110,CH-25, CH-40, CH-60(K), CH-80)等
(9)脂肪酸エチレンオキサイド付加物
ライオン社製エソファット(O/15,O/20,60/15)、旭電化工業社製アデカエストール(TL-144,TL-161,TL-162,S-60,S-80,T-81,T-82)、花王社製レオドール(TW-L120, TW-L106, TW-P120, TW-S120V, TW-S106, TW-S320V, TW-O120V, TW-O106V, TW-O320V, TW-IS399C, 430,440,460)、花王社製レオドールスーパー TW-L120等;
(10)脂肪酸エステル(グリセリンエステル系)
花王社製エキセルT-95,VS-95,O-95R,200,300,122V,P-40S)、花王社製レオドール(MS-50,MS-60,MO-60,MS165V)等
(11)脂肪酸アミド化合物である飽和脂肪酸モノアミド化合物
ラウリン酸アミド、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、カプロン酸アミド、カプリル酸アミド、カプリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド等;
(12)脂肪酸アミド化合物である不飽和脂肪酸モノアミド
オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド、パルミチン酸アミド、ベヘン酸アミド、ブラシジン酸アミド、エシル酸アミド、リノール酸アミド、リノレン酸アミド、米糖脂肪酸アミド、ヤシ脂肪酸アミド等、これらの工業製品として、例えば、花王社製カオーワックス(EB-G、EB-P、EB-FF、85-P、220、230-2)、花王社製脂肪酸アマイドS, T, O-N, E)、旭電化工業社製アデカソールYAなどが含まれる;
(13)脂肪酸アミド化合物である飽和脂肪酸ビスアミド類
メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスイソステアリン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド、N,N'−ジステアリルアジピン酸アミド、N,N'−ジステアリルセバシン酸アミド、メチレンビスパルミチン酸アミド、エチレンビスパルミチン酸アミド、メチレンビスベヘン酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサエチレンビスパルミチン酸アミド等;
(14)脂肪酸アミド化合物である不飽和脂肪酸ビスアミド類
エチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N'−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N'−ジオレイルセバシン酸アミド等;
(15)脂肪酸アミド化合物である置換アミド類
N−ステアリルステアリン酸アミド、N−オレイルオレイン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−オレイルステアリン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、N−オレイルパルミチン酸アミド等;
(16)脂肪酸アミド化合物である芳香族ビスアミド類
メチロールステアリン酸アミド類;メチロールベヘン酸アミド等のメチロールアミド類、N,N−ジステアリルイソフタール酸アミド、メタキシリレンビスステアリン酸アミド等;
(18)脂肪酸アミド化合物である分岐型アミド類
N.N´−2−ヒドロキシエチルステアリン酸アミド、N.N´−エチレンビスオレイン酸アミド、N.N´−キシレンビスステアリン酸アミド、N.N´−ジオレイルアジピン酸アミド、N.N´−ジオレイルセバシン酸アミド、N.N´−ジステアリルイソフタル酸アミド等;
(19)脂肪酸アミド化合物であるアルカノールアミド類
ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミド、ラウリン酸モノエタノールアミド、ミリスチン酸モノエタノ−ルアミド、オレイン酸モノエタノールアミド、ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド、ラウリン酸ジエタノールアミド、ミリスチン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド、ヤシ油脂肪酸モノプロパノールアミド、ラウリン酸モノプロパノールアミド、ミリスチン酸モノプロパノールアミド、オレイン酸モノプロパノールアミド、ポリオキシアルキレンアルカノールアミドなど、工業製品としてライオン社製アーマイド(O,HT)、ライオン社製アーモスリップ(CP,E,E-Y)など;
等が挙げられるが、これらに限るものではない。
【0050】
アミン化合物とは、窒素原子に炭素数4以上のアルキル鎖が結合したアミン化合物であるのが好ましい。窒素原子に結合するアルキル鎖は1つであってもよく、または2以上のアルキル鎖が結合していてもよい。これらのアミン化合物として、1級、2級および3級アミンの何れを用いてもよい。これらのアミン化合物はその骨格中に複数個のアミノ基を有していてもよく、また、骨格自体がエチレンオキサイド等で変性されていてもよい。本発明で使用されるアミン化合物は、好ましくはアルキル鎖の炭素数4〜22であり、より好ましくはアルキル鎖の炭素数7〜20である。
【0051】
具体的なアミン化合物として、例えば以下のものが挙げられる:
(1)1級アミン化合物
(1−1)脂肪族モノ及びポリアミン化合物
n-ブチルアミン、アミルアミン、n-ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、n-オクチルアミン、ノニルアミン、ラウリルアミン、テトラデシルアミン、セチルアミン、ステアリルアミン、2,4-ブタンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,8-オクタメチレンジアミン等の脂肪族1級アミン化合物類、
(1−2)脂環族モノ及びポリアミン化合物
シクロヘキシルアミン、1,3-及び1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-及び1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、3-アミノメチル-3,5,5- トリメチル-1- アミノシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、1-メチル-2,4- ジアミノシクロヘキサン、1-メチル-2,6-ジアミノシクロヘキサン等の脂環族1級アミン化合物類、
(1−3)芳香族モノ及びポリアミン化合物
アニリン、メタ及びパラトルイジン、ナフチルアミン、1,3-及び1,4-フェニレンジアミン、1-メチル-2,4- ジアミノベンゼン、1-メチル-2,6- ジアミノベンゼン、2,4,- 及び 4,4,-ジアミノジフェニルメタン、 4,4,-ジアミノビフェニル、1,5-及び2,6-ナフタレンジアミン等の芳香族1級アミン化合物類、
(1−4)アラルキルモノ及びポリアミン化合物
1,3-及び1,4-ビス(アミノメチル)ベンゼン、1,5-及び2,6-ビス(アミノメチル)ナフタレン等のアラルキル1級アミン化合物類、
これらの工業製品として、ライオン社製アーミンCD,OD,TD,HT,8D,12D,14D,16D,18D)、花王社製ファーミン(CS,08D,20D,80,86T,O,T)等が挙げられる;
(2)2級アミン化合物
ジ-n-ブチルアミン、ジイソアミルアミン、ジベンジルアミン、メチルジエチルエチレンジアミン、メチルアニリン、ピペリジン、1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン、6-メトキシ-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン、モルホリン、N-メチル-グルカミン、グルコサミン、t-ブチルアミン等の2級アミン、
これらの工業製品として、花王社製ファーミン(D86)等が挙げられる;
(3)3級アミン化合物
トリ(n-ブチル)アミン、テトラメチルエチレンジアミン、1-メチルピペリジン、1-メチルピロリジン、4-ジメチルアミノピリジン、トリエチレンジアミン、ビスジメチルアミノエチルエーテル、トリイソプロパノールアミン等の3級アミン、
これらの工業製品として、ライオン社製アーミン(DMMCD,DMTD,DMMHTD,DM12D,DM14D,DM16D,DM18D,DM22D, M2HT, M2O,M210D)、花王社製ファーミン(DM24C,DM0898,DM1098,DM2098,DM2465,DM2463,DM2458,DM4098,DM4662, DM6098, DM6875,DM8680,DM8098,DM2285,M2-2095,T-08)等が挙げられる;
(4)アルカノールアミン
花王社製アミノーン(PK-02S,L-02)等;
(5) 変性アミン
(5−1)アルキルアミンエチレンオキサイド付加物
ライオン社製エソミン(C/12,C/15,C/25,T/12,T/15,T/25,S/15,S/25,O/12,O/17,O/20,HT/12, HT/14, HT/17)、ライオン社製エソマイド(HT/15,HT/60,O/15)、旭電化工業社製アデカソール(CO,COA,CMA,YA-6)、花王社製アミート(105,320);
等が挙げられるが、これらに限るものではない。
【0052】
これらの脂肪酸類とアミン化合物はいずれか一種または二種以上を組み合わせて用いても良い。
【0053】
脂肪酸類またはアミン化合物を加えることによって顔料の分散性が向上する作用機構は明確ではないが、例えば、脂肪酸が顔料に対して単分子膜のような構造または2分子膜のような構造の配置をとり、これによって顔料の水に対する抵抗等が大きくなり、顔料の沈降が防止されると考えられる。本発明において使用される脂肪酸類またはアミン化合物は、分子膜のような構造に配置する能力が高く、顔料の沈降を防止する性能に優れる。
【0054】
顔料沈降防止剤(a)は、電着塗料組成物中に含まれる顔料100重量部に対して下限0.1重量部、上限20重量部を占める量で電着塗料組成物に含有される。上記下限は0.5重量部であるのが好ましく、1重量部であるのがより好ましい。また、上記上限は15重量部であるのが好ましく、10重量部であるのがより好ましい。
【0055】
カチオン顔料分散ペースト
顔料を電着塗料の成分として用いる場合、一般に顔料を顔料分散樹脂と呼ばれる樹脂と共に予め高濃度で水性媒体に分散させてペースト状にする。顔料は粉体状であるため、電着塗料組成物で用いる低濃度均一状態に一工程で分散させるのは困難だからである。一般にこのようなペーストを顔料分散ペーストという。触媒を用いる場合、この顔料分散ペーストを作成する際に加えてもよいし、他の塗料製造工程で触媒を加えてもよい。
【0056】
カチオン性顔料分散樹脂ワニスとしては、一般に、カチオン性又はノニオン性の低分子量界面活性剤や4級アンモニウム基及び/又は3級スルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂等を用いる。水性媒体としてはイオン交換水や少量のアルコール類を含む水等を用いる。一般に、顔料分散樹脂ワニスは固形分中で20〜40質量部、顔料および錫触媒は60〜80質量部の比率で用いる。
【0057】
カチオン電着塗料組成物
本発明のカチオン電着塗料組成物は、カチオン性樹脂およびブロックポリイソシアネート硬化剤を水性媒体中に分散させたもの(カチオン性メインエマルション)、カチオン性アクリル樹脂およびブロックポリイソシアネート硬化剤を水性媒体中に分散させたもの(サブエマルション)、顔料分散ペースト、脱イオン水を所定の割合で混合することによって調製される。
【0058】
本発明の電着塗料組成物の調製において、顔料沈降防止剤(a)は、何れの分散・混合段階においても加えることができる。顔料沈降防止剤(a)は、好ましくは、上記のカチオン性顔料分散ペーストに加えられ、その後、カチオン性メインエマルション等の他の成分と混合される。この場合は、顔料の沈降を防止する性能により優れるからである。
【0059】
水性媒体としてはイオン交換水や少量のアルコール類を含む水等を用いる。そして水性媒体にはカチオン性樹脂の分散性を向上させるために中和剤を含有させる。中和剤は塩酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、乳酸のような無機酸または有機酸である。その量は少なくとも20%、好ましくは30〜60%の中和率を達成する量である。
【0060】
ブロックポリイソシアネート硬化剤の量は、硬化時にカチオン性樹脂中の1級、2級又は/及び3級アミノ基、水酸基等の活性水素含有官能基と反応して良好な硬化塗膜を与えるのに十分でなければならず、一般にカチオン性樹脂のブロックポリイソシアネート硬化剤に対する重量比で表して一般に90/10〜50/50、好ましくは80/20〜65/35の範囲である。
【0061】
電着塗料は、水混和性有機溶剤、界面活性剤、酸化防止剤、および紫外線吸収剤などの常用の塗料用添加剤を含むことができる。
【0062】
本発明の電着塗料組成物は当業者に周知の方法で被塗物に電着塗装され、硬化塗膜を形成する。このカチオン電着塗料組成物を用いて電着塗装を行う場合の被塗物は、予め、浸漬、スプレー方法等によりリン酸亜鉛処理等の表面処理の施された導体であることが好ましいが、この表面処理が施されていないものであっても良い。また、導体とは、電着塗装を行うに当り、陰極になり得るものであれば特に制限はなく、金属基材が好ましい。
【0063】
電着が実施される条件は一般的に他の型の電着塗装に用いられるものと同様である。印加電圧は大きく変化してもよく、1ボルト〜数百ボルトの範囲であってよい。電流密度は通常約10アンペア/m〜160アンペア/mであり、電着中に減少する傾向にある。
【0064】
電着後、被膜を昇温下に通常の方法、例えば焼付炉中、オーブン中あるいは赤外ヒートランプで焼付ける。焼付け温度は変化してもよいが、通常約140℃〜180℃である。
【0065】
アニオン電着塗料組成物
本発明の電着塗料組成物はアニオン電着塗料組成物であっても良い。以下、アニオン性の場合について、説明する。
【0066】
本発明のアニオン電着塗料組成物は、カチオン電着塗料組成物のカチオン性の樹脂類をアニオン性に置き換えることにより、形成することができる。以下、カチオン性電着塗料組成物と違う部分のみ説明を加える。
【0067】
アニオン性樹脂
アニオン電着塗料組成物では、カチオン性樹脂の代わりにアニオン性樹脂を用いる。本発明で用いるアニオン性樹脂として、電着塗料の分野では周知のカルボキシル基および場合によりさらに水酸基を有する樹脂を用いることができる。アニオン性樹脂として、例えば、カルボキシル基を有するアクリル樹脂またはカルボキシル基を有するポリウレタン樹脂を用いるのが好ましく、カルボキシル基および水酸基を有するアクリル樹脂またはカルボキシル基および水酸基を有するポリウレタン樹脂を用いるのが特に好ましい。塗膜の耐候性、平滑性に優れるからである。
【0068】
上記のカルボキシル基及び水酸基を有するアクリル樹脂としては、例えば、カルボキシル基含有不飽和単量体、水酸基含有アクリル系単量体、さらに必要に応じてその他の重合性単量体を用い、これらの単量体をラジカル重合させてなる共重合体が使用できる。
【0069】
カルボキシル基含有不飽和単量体は、1分子中にカルボキシル基と重合性不飽和結合をそれぞれ少なくとも1個有する化合物であり、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、カプロラクトン変性カルボキシル基含有(メタ)アクリル系単量体などがあげられる。
【0070】
水酸基含有アクリル系単量体は、1分子中に水酸基と重合性不飽和結合をそれぞれ少なくとも1個有する化合物であり、例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;(ポリ)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどの(ポリ)アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;これらの水酸基含有アクリル系単量体と、β−プロピオラクトン、ジメチルプロピオラクトン、ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、γ−カプリロラクトン、γ−ラウリロラクトン、ε−カプロラクトン、δ−カプロラクトンなどのラクトン類化合物との反応物などがあげられ、市販品としては、プラクセルFM1(ダイセル化学社製、商品名、カプロラクトン変性(メタ)アクリル酸ヒドロキシエステル類)、プラクセルFM2(同左)、プラクセルFM3(同左)、プラクセルFA1(同左)、プラクセルFA2(同左)、プラクセルFA3(同左)などがあげられる。
【0071】
その他の重合性単量体は、上記のカルボキシル基含有不飽和単量体及び水酸基含有アクリル系単量体以外であって、1分子中に重合性不飽和結合を少なくとも1個有する化合物であり、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなどの(メタ)アクリル酸のC1〜C18のアルキル又はシクロアルキルエステル;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンなどの芳香族重合性単量体;(メタ)アクリル酸アミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリアミド、N−メチロール(メタ)アクリアミドなどの(メタ)アクリルアミド及びその誘導体;(メタ)アクリロニトリル化合物類;γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのアルコキシシリル基含有重合性単量体などがあげられる。
【0072】
これらの単量体の配合割合として、カルボキシル基含有不飽和単量体を、単量体の合計重量に対して3〜30重量%、特に4〜20重量%の範囲内で用いることが好ましい。水酸基含有アクリル系単量体を、単量体の合計重量に対して3〜40重量%、特に5〜30重量%の範囲内で用いることが好ましい。
【0073】
これらの単量体をラジカル共重合反応させる方法は従来から既知の溶液重合方法などを採用することができる。
【0074】
カルボキシル基及び水酸基を有するポリウレタン樹脂としては、例えば、ポリイソシアネート化合物、ポリオール類及びジヒドロキシカルボン酸を、水酸基過剰の当量比で、ワンショット法又は多段法によりウレタン化反応させることにより得られるものがあげられる。
【0075】
ポリイソシアネート化合物は、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物であり、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート;シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネートなどの脂環式ジイソシアネートなどが好適に使用される。
【0076】
ポリオール類は、1分子中に2個以上の水酸基を有する化合物であり、例えば、アルキレンオキシド(エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドなど)及び/又は複素環式エーテル(テトラヒドロフラン)を重合又は共重合(ブロック又はランダム)させて得られるポリエーテルジオール、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレン−プロピレン(ブロック又はランダム)グリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレンエーテルグリコール、ポリオクタメチレンエーテルグリコールなど;ジカルボン酸(アジピン酸、コハク酸、セバシン酸、グルタル酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸など)とグリコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ビスヒドロキシメチルシクロヘキサンなど)とを縮重合させて得られるポリエステルジオール、例えば、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリネオペンチルアジペート、ポリエチレン−ブチレンアジペート、ポリネオペンチル−ヘキシルアジペートなど;ポリラクトンジオール、例えば、ポリカプロラクトンジオール、ポリ3−メチルバレロラクトンジオールなど;ポリカーボネートジオール;これらから選ばれる2種以上からなる混合物などがあげられる。これらのポリオール類一般に500以上、好ましくは500〜5000、より好ましくは1000〜3000の範囲内の数平均分子量を有することができる。
【0077】
また、ポリオール類として、1分子中に2個以上の水酸基を有し、かつ数平均分子量が500未満の低分子量のポリオールも使用することができる。具体的には、上記のポリエステルジオールの原料としてあげたグリコール及びそのアルキレンオキシド低モル付加物(分子量500未満);3価アルコール、例えば、グリセリン、トリメチロルエタン、トリメチロールプロパンなど及びそのアルキレンオキシド低モル付加物(分子量500未満);これらから選ばれた2種以上からなる混合物などがあげられる。
【0078】
数平均分子量が500以上のポリオール類と数平均分子量が500未満の低分子量のポリオール類とを併用する系において、これら両ポリオールの構成比率は、両ポリオールの合計量を基準にして、前者は80〜99.9重量%、特に90〜99.5重量%、後者は20〜0.1重量%、特に10〜0.5重量%の範囲内にあることが好ましい。
【0079】
ジヒドロキシカルボン酸は、1分子中に2個の水酸基と1個のカルボキシル基を有する化合物であり、例えば、ジメチロール酢酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロール酪酸、ジメチロールブタン酸などがあげられる。
【0080】
以上に述べたポリイソシアネート化合物、ポリオール類及びジヒドロキシカルボン酸によるウレタン化反応はそれ自体既知の方法で行なうことができる。
【0081】
硬化剤
アニオン電着塗料組成物において、アニオン性樹脂に対する硬化剤として、例えばメラミン樹脂、ブロックポリイソシアネートなどが挙げられる。
【0082】
メラミン樹脂としては、メラミンにホルムアルデヒドなどを反応させてなるメチロールメラミンのメチロール基の一部もしくは全部がC1〜C10のモノアルコールから選ばれた1種もしくは2種以上のアルコールで変性されたエーテル化メラミン樹脂を使用することができる。また、メラミン樹脂中にはイミノ基、メチロール基、その他の官能基が含まれていても差支えない。
【0083】
ブロックポリイソシアネートは、前記のカチオン電着塗料組成物で例示したブロックポリイソシアネート硬化剤を使用することができる。
【0084】
顔料沈降防止剤(a)
アニオン電着塗料組成物において用いられる顔料沈降防止剤(a)はカチオン電着塗料組成物の場合と同じである。
【0085】
アニオン性顔料分散ペースト
電着塗料に顔料を含有させる場合、顔料の分散容易性の観点から、顔料を予め顔料分散ペーストの形態に調製するのが好ましい。アニオン性顔料分散ペーストは、顔料をアニオン性顔料分散樹脂に分散させて調製することができる。顔料として、前記のカチオン電着塗料組成物で例示した顔料を使用することができる。
【0086】
アニオン性顔料分散樹脂として例えば、アクリル酸エステル、アクリル酸およびアゾニトリル化合物を有する変性アクリル樹脂を用いることができる。水性媒体として上記の水性媒体、例えばイオン交換水などを用いる。
【0087】
アニオン性顔料分散ペーストは、上記のアニオン性顔料分散樹脂と顔料と中和剤を加え、これを分散させるか溶解させることにより調製することができる。
【0088】
一般に、アニオン性顔料分散ペーストは、固形分35〜70重量%、好ましくは40〜65重量%に調製される。
【0089】
アニオン性顔料分散ペーストは、アニオン性顔料分散樹脂、および顔料、必要に応じてトリエチルアミンなどの中和剤および水性媒体を、混合した後、その混合物中の顔料の粒径が所定の均一な粒径となるまで、ボールミルやサンドグラインドミル等の通常の分散装置を用いて分散させて得ることができる。
【0090】
アニオン電着塗料組成物の調製
本発明のアニオン電着塗料組成物は、上に述べたアニオン性樹脂、アニオン性顔料分散ペーストを水性媒体中に分散させることによって調製される。また、通常、水性媒体にはアニオン性樹脂を中和して分散性を向上させるために中和塩基(アミンまたはアルカリ化合物)を含有させる。この中和塩基として用いるアミンは具体的には炭素数が3以下の低い分子量のものであり、前述の顔料沈降防止剤とは異なるものである。このような炭素数であると、顔料との相互作用よりも樹脂との相互作用が大きくなるので、顔料の沈降防止剤としての効果は無くなる。中和塩基の例としては、アンモニア;ジエチルアミン、エチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、イソプロパノールアミン、エチルアミノエチルアミン、ヒドロキシエチルアミン、ジエチレントリアミンなどの有機アミン;水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物などの塩基性化合物である。水性媒体は水か、水と上記の有機溶剤との混合物である。水としてイオン交換水を用いるのが好ましい。
【0091】
本発明のアニオン性電着塗料組成物の調製において、顔料沈降防止剤(a)は、何れの分散・混合段階においても加えることができる。顔料沈降防止剤(a)は、好ましくは、上記のアニオン性顔料分散ペーストに加えられ、その後、アニオン性メインエマルション等の他の成分と混合される。この場合は、顔料の沈降を防止する性能により優れるからである。なお、脂肪酸またはアミン化合物の配合量は、カチオン電着塗料組成物の場合と同じである。
【0092】
硬化剤の量は、アニオン性樹脂と硬化剤との固形分重量比(アニオン性樹脂/硬化剤)で表して一般に90/10〜50/50、好ましくは80/20〜50/50の範囲である。中和塩基の量は、アニオン性樹脂のアニオン性基の少なくとも30%、好ましくは50〜120%を中和するのに足りる量である。
【0093】
アニオン電着塗料組成物の電着塗装は、被塗物を陽極として陰極との間に、通常1〜400Vの電圧を印加して行なう。電着塗装時、塗料組成物の浴液温度は10〜45℃、好ましくは15〜30℃に、pHは6.0〜9.0、好ましくは7.0〜8.0に調節される。
【0094】
電着過程は、アニオン電着塗料組成物に被塗物を浸漬する過程、及び、上記被塗物を陽極として陰極との間に電圧を印加し、被膜を析出させる過程、から構成される。また、電圧を印加する時間は、電着条件によって異なるが、一般には、30秒〜5分とすることができる。電着過程の終了後、そのまま又は水洗した後、100〜200℃、好ましくは120〜180℃で、10〜60分間焼き付けることにより硬化塗膜が得られる。
【0095】
得られる膜厚は硬化塗膜で5〜30μm、特に7〜20μmの範囲内にあることが好ましい。
【0096】
本発明の電着塗料組成物は、電着浴の攪拌を停止しても顔料成分の沈降が非常に少ないので、非塗装時には電着浴の攪拌を停止しても問題がない。ただし、電着塗装時には塗膜析出中に発生する反応ガスを除去したり、塗膜析出時に発生する反応熱を拡散させる意味から槽内攪拌をすることが好ましい。従来の塗料では、非塗装時にも電着浴の攪拌を実施することが必要であるが、本発明の電着塗料は夜間、休日等の非塗装時に攪拌を停止することが可能なため、電着浴の攪拌に要する電気エネルギーコストを大幅に減少させることが可能となる。
【0097】
電着浴の攪拌は一般に、図1に示すように、ポンプを利用して、電着浴の一部をとって、電着浴に戻すことにより行っているのが一般的である。図中、電着浴1には、オーバーフロー槽2が付いていて、電着塗料が両槽に存在する。電着浴1の一部およびオーバーフロー槽の一部もポンプ3に送られ、フィルター4を通って電着浴内に戻されるが、その際電着浴1内のライザー5のノズル6より、噴出して攪拌を行なう。しかし、もちろんこの方法に限定されるものではない。
【0098】
例えば、図2に記載するように、攪拌のための羽(攪拌羽11)を電着浴に挿入する方法も考えられる。この場合には、従来、用いていた図1に記載する循環攪拌システムを利用しないことができる。従って、循環攪拌のための装置等が攪拌羽のみでよく、設備費やエネルギーコストが大幅に改善される。攪拌自体は、前述のように、反応ガスの除去や、反応熱の拡散のために必要であるが、電着塗装時に攪拌羽による簡単な攪拌で十分であり、しかも本発明の塗料組成物を用いると、非塗装時に攪拌を停止することができるので、大きくエネルギーコストの削減に寄与する。
【0099】
また、図1に記載されているような循環攪拌は、電着以後に行われる水洗浴の管理においても行われている。その例を図3に模式的に示す。図3中、30は電着浴を示し、31は第1水洗浴を示し、32は第2水洗浴を示す。電着浴30の一部は限外濾過器(UF)33により、塗料分を水分に分離し、塗料分は電着浴30に戻し、水分は水洗浴(31および32)で利用される。通常は、水分は第2水洗浴32で利用した後、その一部を第1水洗浴31に戻し、更に電着浴30に戻される。第1水洗浴31および第2水洗浴32のいずれでも、34および35で示す循環攪拌システムで攪拌されている。この攪拌は、電着塗料が水洗浴にも被塗物に付着して持ち込まれるので、分散状態を保つために必要である。本発明の塗料を用いると、今までの電着塗料と比べて沈降が極めて少ないので、従来の図3のような循環攪拌は特に必要が無くなり、図4に記載するような、攪拌羽36を用いた攪拌で十分になり、設備コストおよびエネルギーコストが大きく削減する。
【実施例】
【0100】
本発明を参考例により更に詳細に説明する。本発明は、これら参考例に限定するものと解してはならない。これら参考例中において「部」および「%」は特別に記載しない限り重量による。
【0101】
製造例1
カチオン性樹脂の調製
撹拌装置、冷却管、窒素導入管および温度計を備え付けた反応容器に、エピコート1001(油化シェルエポキシ社製、エポキシ当量475のビスフェノールA型エポキシ樹脂)99.8部、エピコート1004(油化シェルエポキシ社製、エポキシ当量950のビスフェノールA型エポキシ樹脂)850.2部、ノニルフェノール55部、メチルイソブチルケトン(MIBK)193.3部およびベンジルジメチルアミン4.5gを加え、140℃で4時間反応し、エポキシ当量1175を有する樹脂を得た。ここにエチレングリコールn−ヘキシルエーテル69.1部、2−アミノエチルエタノールアミンのMIBKケチミン化物のMIBK溶液(固形分78重量%)35.4部、N−メチルエタノールアミン26.5部およびジエタノールアミン37.1部を加えた。これを120℃で2時間反応させ、目的とする樹脂を得た。このカチオン性樹脂のSPは11.4であった。
【0102】
製造例2
カチオン性アクリル樹脂の調製
撹拌装置、冷却管、窒素導入管および滴下ロートを備えたフラスコに、スチレン50.7部、メチルメタクリレート10.0部、n−ブチルアクリレート20.1部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート10.2部、グリシジルメタクリレート9.2部、およびt−ブチルパーオクトエート4.0部の混合物を滴下ロートから3時間かけて滴下した。滴下終了後115℃で約1時間保持し、t−ブチルパーオクトエート0.5部を滴下し、115℃で約30分間保持し、固形分65%の樹脂溶液を得た。数平均分子量(Mn)5000の樹脂溶液を得た。冷却後これへN−メチルエタノールアミン5.1部を加え、窒素雰囲気下120℃で2時間反応させ固形分約66%のカチオン性アクリル樹脂溶液を得た。このカチオン性アクリル樹脂のSPは9.7であった。
【0103】
製造例3
ブロックポリイソシアネート硬化剤の調製
還流冷却器、撹拌機、滴下ロートおよび窒素導入管を備えた5つ口フラスコに、ヘキサメチレンジイソシアネート三量体(コロネートEH)199.1部とメチルイソブチルケトン31.6部を仕込み、窒素雰囲気下40℃に加熱保持した。これへジブチル錫ジラウレート0.2部を加え、さらにメチルエチルケトオキシム87.0部を滴下ロートより2時間かけて滴下し、滴下終了後、IRスペクトルによりイソシアネート基のピークが消失するまで70℃で反応させた。反応終了後、メチルイソブチルケトン38.1部およびブタノール1.6部を加え冷却し、固形分80%のブロックポリイソシアネート架橋剤を得た。
【0104】
製造例4
エポキシ樹脂系顔料分散樹脂の調製
エピコート828 382部、ビスフェノールA118部を反応容器に入れ、窒素雰囲気下150〜160℃へ加熱した。反応混合物を150〜160℃でエポキシ当量が500に達するまで反応させた。次いで、反応混合物を140〜145℃に冷却後、2−エチルヘキサノールハーフブロック化トルエンジイソシアネート203部を加えた。反応混合物を140〜145℃に約1時間保ち、次いで、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル209部を加えた。次に、反応混合物を90℃以下に冷却し、1−(2−ヒドロキシエチルチオ)プロパン−2−オール272部、ジメチロールプロピオン酸134部、脱イオン水144部を加えた。この混合物を約8の酸価が得られるまで65〜75℃で反応させて顔料分散用樹脂を得た。これを冷却し、30%の固形分量になるまで脱イオン水で希釈し、顔料分散用ワニスを得た。
【0105】
製造例5
カチオン性メインエマルションの調製
製造例1のカチオン性樹脂と製造例3のポリイソシアネート架橋剤を固形分として70:30の割合で混合し、酢酸で中和率40%に中和し、脱イオン水を加え、ゆっくり希釈し、ついで不揮発分が37質量%になるようにメチルイソブチルケトン及び脱イオン水を除去し、カチオン性メインエマルションを得た。
【0106】
製造例6
カチオン性アクリル樹脂エマルションの調製
上記製造例5と同様に、製造例2のカチオン性アクリル樹脂と製造例3の架橋剤を固形分として70:30の割合で含む不揮発分33%のエマルションを作成した。
【0107】
製造例7
カチオン性顔料ペーストの調製
下記配合量のものを分散することによりカチオン性顔料ペーストを調製した。
【0108】
【表1】

【0109】
上記表中、カーボンブラック:三菱化学株式会社製、MA−100、酸化チタン:石原産業株式会社製、タイペークCR−97である。
【0110】
参考例1
製造例5のカチオン性メインエマルション35重量部、製造例6のカチオン性アクリル樹脂エマルション4重量部、製造例7のカチオン性顔料分散ペースト13.3重量部、および脱イオン水47.4重量部を混合して、カチオン電着塗料組成物を得た。
【0111】
得られたカチオン電着塗料組成物について以下の沈降性試験を行った。カチオン電着塗料組成物を、直径20mmの試験管に、100mmの高さまで流し入れた。この試験管を静置し沈殿を生成させた。静置7日間後に生じた沈殿の厚さ(mm)を測定し、沈降量とした。測定した沈降量(mm)を表2に示す。また、電着塗料組成物の不揮発分(重量%)、pHを表2に示す。
【0112】
得られたカチオン電着塗料組成物を用いて、リン酸亜鉛処理した冷延鋼板に電着塗装し、水洗後、140℃で20分間焼き付けた。得られた硬化塗膜の膜厚を表2に示す。また、硬化塗膜の外観を目視で評価し、異常がみられない場合を「異常なし」、目視で異常が確認できる場合を「異常あり」として評価した。
【0113】
参考例2
製造例7のカチオン性顔料分散ペーストの製造においてヘプタン酸1重量部の代わりにヘプタン酸5重量部を用いたこと以外は、参考例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物を調製した。得られた塗料組成物を用いて、参考例1と同様に評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0114】
参考例3
製造例7のカチオン性顔料分散ペーストの製造においてヘプタン酸1重量部の代わりにカプリル酸2重量部を用いたこと以外は、参考例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物を調製した。得られた塗料組成物を用いて、参考例1と同様に評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0115】
参考例4
製造例7のカチオン性顔料分散ペーストの製造においてヘプタン酸1重量部の代わりにカデナックスGS−90(ライオン社製、アルコールエステル系脂肪酸エステル)を2重量部を用いたこと以外は、参考例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物を調製した。得られた塗料組成物を用いて、参考例1と同様に評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0116】
参考例5
製造例7のカチオン性顔料分散ペーストの製造においてヘプタン酸1重量部の代わりにカデナックスGS−90(ライオン社製、アルコールエステル系脂肪酸エステル)を5重量部を用いたこと以外は、参考例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物を調製した。得られた塗料組成物を用いて、参考例1と同様に評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0117】
参考例6
製造例7のカチオン性顔料分散ペーストの製造においてヘプタン酸1重量部の代わりにカオーワックスEB−G(花王社製、不飽和脂肪酸モノアミド)を2重量部を用いたこと以外は、参考例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物を調製した。得られた塗料組成物を用いて、参考例1と同様に評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0118】
参考例7
製造例7のカチオン性顔料分散ペーストの製造においてヘプタン酸1重量部の代わりにレオドールMS−50(花王社製、グリセリンエステル系脂肪酸エステル)を5重量部を用いたこと以外は、参考例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物を調製した。得られた塗料組成物を用いて、参考例1と同様に評価を行った。得られた結果を表2に示す。
【0119】
参考例8
製造例7のカチオン性顔料分散ペーストの製造においてヘプタン酸1重量部の代わりにアーマイドO(ライオン社製、アルカノールアミド)を2重量部を用いたこと以外は、参考例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物を調製した。得られた塗料組成物を用いて、参考例1と同様に評価を行った。得られた結果を表3に示す。
【0120】
参考例9
製造例7のカチオン性顔料分散ペーストの製造においてヘプタン酸1重量部の代わりにエソミンC/12(ライオン社製、アルキルアミンエチレンオキサイド付加アミン)を5重量部を用いたこと以外は、参考例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物を調製した。得られた塗料組成物を用いて、参考例1と同様に評価を行った。得られた結果を表3に示す。
【0121】
比較例1
製造例7のカチオン性顔料分散ペーストの製造においてヘプタン酸1重量部を加えなかったこと以外は、参考例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物を調製した。得られた塗料組成物を用いて、参考例1と同様に評価を行った。得られた結果を表3に示す。
【0122】
【表2】

【0123】
【表3】

【0124】
製造例8
アニオン性顔料分散用樹脂の調製
攪拌装置、冷却管、窒素導入管、温度調整機に連結した温度計を整備した2Lの反応容器にイソプロピルアルコール700重量部を仕込み、窒素雰囲気下で80℃に加熱した。反応容器に、メタクリル酸メチル210重量部、アクリル酸ブチル196重量部、スチレン140重量部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル84重量部、アクリル酸70重量部、アゾビスジメチルバレロ二トリル7重量部の混合溶液を3時間かけて等速滴下し、その後、2時間80℃で保持することにより、固形分50%、酸価78mgKOH/g、水酸基価52mgKOH/g、重量平均分子量28000の顔料分散用アクリル共重合体樹脂(アニオン性顔料分散用樹脂)を得た。
【0125】
製造例9
アニオン性顔料分散ペーストの調製
製造例8のアニオン性顔料分散用樹脂(固形分50%、分子量28000、酸価78、水酸基価52)100部、酸化チタン(タイペークCR−95、石原産業(株)製)120部を加え、さらにトリエチルアミン5部、脱イオン水115部を加えて、固形分50%のアニオン性顔料分散ペーストを得た。
【0126】
製造例10
アクリル共重合体樹脂の調製
攪拌装置、冷却管、窒素導入管、温度調整機に連結した温度計を装備した2Lの反応容器にイソプロピルアルコール700部を仕込み、窒素雰囲気下で80℃に加熱し、メタクリル酸メチル(MMA)322部、アクリル酸ブチル(nBA)140部、スチレン(St)105部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(HEMA)84部、アクリル酸(AA)49部、アゾビスジメチルバレロニトリル7部の混合溶液を3時間で等速滴下し、その後、2時間80℃で保持することにより、酸価55mgKOH/g、水酸基価52mgKOH/g、重量平均分子量30000のアクリル共重合体樹脂を得た。
【0127】
参考例10
製造例10のアクリル共重合体樹脂313部、硬化剤としてメラミン樹脂であるサイメル285−100(サイテック社製)86部、トリエチルアミン11部を混合撹拌しながら、製造例9のアニオン性顔料分散ペーストに対して、含まれる顔料に対して2重量%となる量のヘプタン酸を加えたもの255部を加えて混合撹拌し、さらにイオン交換水3035部を加えて、アニオン性電着塗料組成物を調製した。得られた塗料組成物について、沈降性試験を上記と同様に行い、7日間静置後の沈降量(mm)を測定した。得られた結果を表4に示す。
【0128】
得られたアニオン電着塗料組成物を、6063Sアルミニウム合金版にアルマイト処理(アルマイト皮膜厚9μm)および封孔処理(85℃の熱水に3分浸漬)を施したシルバー色の基材に、塗装電圧150〜250Vの直流電圧を3分間印加して所定膜厚になるように電着塗装した。その後、180℃にて30分間焼付け、乾燥を行い、硬化電着塗膜を得た。得られた硬化塗膜の膜厚を測定した。また、硬化塗膜の外観を目視で評価し、異常がみられない場合を「異常なし」、目視で異常が確認できる場合を「異常あり」として評価した。また、硬化塗膜の光沢値として、光沢計(BYK−GardnerGmbH社製)を用いて60°鏡面反射率を測定した。得られた結果を表4に示す。
【0129】
参考例11
製造例9のアニオン性顔料分散ペーストに対して、含まれる顔料に対して2重量%となる量のカプリル酸を加えたこと以外は、参考例10と同様にしてアニオン電着塗料組成物を調製し、評価した。得られた結果を表4に示す。
【0130】
参考例12
製造例9のアニオン性顔料分散ペーストに対して、含まれる顔料に対して1.8重量%となる量のカデナックスGS−90(ライオン社製、アルコールエステル系脂肪酸エステル)を加えたこと以外は、参考例10と同様にしてアニオン電着塗料組成物を調製し、評価した。得られた結果を表4に示す。
【0131】
参考例13
製造例9のアニオン性顔料分散ペーストに対して、含まれる顔料に対して5重量%となる量のカデナックスGS−90(ライオン社製、アルコールエステル系脂肪酸エステル)を加えたこと以外は、参考例10と同様にしてアニオン電着塗料組成物を調製し、評価した。得られた結果を表4に示す。
【0132】
参考例14
製造例9のアニオン性顔料分散ペーストに対して、含まれる顔料に対して2重量%となる量のカオーワックスEB−G(花王社製、不飽和脂肪酸モノアミド)を加えたこと以外は、参考例10と同様にしてアニオン電着塗料組成物を調製し、評価した。得られた結果を表4に示す。
【0133】
参考例15
製造例9のアニオン性顔料分散ペーストに対して、含まれる顔料に対して5重量%となる量のレオドールMS−50(花王社製、グリセリンエステル系脂肪酸エステル)を加えたこと以外は、参考例10と同様にしてアニオン電着塗料組成物を調製し、評価した。得られた結果を表5に示す。
【0134】
参考例16
製造例9のアニオン性顔料分散ペーストに対して、含まれる顔料に対して2重量%となる量のアーマイドO(ライオン社製、アルカノールアミド)を加えたこと以外は、参考例10と同様にしてアニオン電着塗料組成物を調製し、評価した。得られた結果を表5に示す。
【0135】
参考例17
製造例9のアニオン性顔料分散ペーストに対して、含まれる顔料に対して2重量%となる量のエソミンC/12(ライオン社製、アルキルアミンエチレンオキサイド付加アミン)を加えたこと以外は、参考例10と同様にしてアニオン電着塗料組成物を調製し、評価した。得られた結果を表5に示す。
【0136】
比較例2
製造例9のアニオン性顔料分散ペーストに脂肪酸類などを加えなかったこと以外は、参考例10と同様にしてアニオン電着塗料組成物を調製し、評価した。得られた結果を表5に示す。
【0137】
【表4】

【0138】
【表5】

【0139】
参考例および比較例からわかるとおり、本発明の電着塗料組成物は、比較例の電着塗料組成物と比較して、沈降安定性に各段に優れる電着塗料組成物であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】本発明で用いる電着浴と循環攪拌システムとの関係を模式的に示す図である。
【図2】本発明の電着浴で、循環攪拌システムを用いずに、攪拌装置を用いる態様を模式的に示す図である。
【図3】電着浴と、循環撹拌システムを持つ第1水洗浴および第2水洗浴との関係を示す模式図である。
【図4】電着浴と、撹拌羽を供えた第1水洗浴および第2水洗浴との関係を示す模式図である。
【符号の説明】
【0141】
1・・・電着浴
2・・・オーバーフロー槽
3・・・ポンプ
4・・・フィルター
5・・・ライザー
6・・・ノズル
11・・・攪拌羽
30・・・電着浴
31・・・第1水洗浴
32・・・第2水洗浴
33・・・限外濾過器(UF)
34および35・・・循環攪拌システム
36・・・攪拌羽。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電着塗装時には、電着浴の一部を取りだしてポンプで電着浴中に戻すことにより電着浴を循環攪拌し、電着塗装を行っていないときは該循環用ポンプを停止する電着浴管理方法であって、電着浴中の電着塗料組成物が(a)脂肪酸、脂肪酸の誘導体、アミン化合物およびそれらの1種または2種以上の混合物からなる群から選択される顔料沈降防止剤、および(b)顔料を含有することを特徴とする、電着浴の管理方法。
【請求項2】
被塗物を電着塗装する電着浴、電着塗装された被塗物を水洗する第一水洗浴、および該被塗物をさらに水洗する第二水洗浴、を有する電着塗装システムであって、該電着浴が(a)脂肪酸、脂肪酸の誘導体、アミン化合物およびそれらの1種または2種以上の混合物からなる群から選択される顔料沈降防止剤、および(b)顔料を含有する電着塗料組成物を含み、該電着浴における電着浴の一部を取り出してポンプで元の浴中に戻す液体流による循環攪拌を、攪拌羽を用いる攪拌に切り替えることによりエネルギーが節約される、電着塗装システム。
【請求項3】
被塗物を電着塗装する電着浴、電着塗装された被塗物を水洗する第一水洗浴、および該被塗物をさらに水洗する第二水洗浴、を有する電着塗装システムであって、該電着浴が(a)脂肪酸、脂肪酸の誘導体、アミン化合物およびそれらの1種または2種以上の混合物からなる群から選択される顔料沈降防止剤、および(b)顔料を含有する電着塗料組成物を含み、該第一水洗浴の液体の撹拌が攪拌羽によって行われる、電着塗装システム。
【請求項4】
被塗物を電着塗装する電着浴、電着塗装された被塗物を水洗する第一水洗浴、および該被塗物をさらに水洗する第二水洗浴、を有する電着塗装システムであって、該電着浴が(a)脂肪酸、脂肪酸の誘導体、アミン化合物およびそれらの1種または2種以上の混合物からなる群から選択される顔料沈降防止剤、および(b)顔料を含有する電着塗料組成物を含み、該第二水洗浴の液体の撹拌が攪拌羽によって行われる、電着塗装システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−63664(P2008−63664A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−257450(P2007−257450)
【出願日】平成19年10月1日(2007.10.1)
【分割の表示】特願2004−56221(P2004−56221)の分割
【原出願日】平成16年3月1日(2004.3.1)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】