説明

電磁型マイクロミラー装置

【課題】ミラー基板の高剛性化と軽量化を同時に実現できる電磁型マイクロミラー装置を提供する。
【解決手段】電磁型マイクロミラー装置1は、ミラー基板2と、ミラー基板2を往復振動させるための駆動手段とを備えている。ミラー基板2の表面2aには、光ビームを反射するためのミラーが形成されている。ミラー基板2の裏面2bには、構造補強材10が形成されている。この構造補強材10は三次元規則配列多孔体から構成され、構造補強材10中には磁性材料が含まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置や投影型ディスプレイ装置に使用する光を走査する光スキャナーや二次元走査ミラーなどの電磁型マイクロミラー装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、光応用分野において、光ビームを走査する手段としてこれまで多くの方式、技術が提案され、実現されてきた。代表的な例として電子写真方式による画像形成装置が挙げられる。これまでこの分野ではポリゴンミラーと呼ばれる多面体の反射面を有するミラーを高速で回転させて光ビームを走査する方式が一般的に用いられてきた。しかし、ポリゴンミラー方式は、多面体ミラーと、それを高速で回転させるモーターが必須の構成要件であり、光走査システムの小型化、および省エネルギーの面から改善が強く望まれている。
【0003】
近年、ポリゴンミラー方式に変わる光走査システムとして、マイクロマシニング技術を用いた電磁型(電磁駆動型)マイクロミラー装置の開発が盛んになってきている。この電磁型マイクロミラー装置は、光ビームを反射するためのミラーが表面に形成されたミラー基板と、このミラー基板を磁力を利用して往復振動させるための駆動手段とを備えている。また、ミラー基板は主にSiを母材とし、半導体製造技術を利用した微細加工技術により製造され、従来のポリゴンミラーに比較してはるかに小型化が容易で、省エネルギー駆動が可能であるという非常に大きな特徴を有している。
【0004】
しかしながら、この電磁マイクロミラー装置にも以下のような問題がある。光を走査するために往復振動するミラー基板の剛性が十分ではない場合には、振動によりミラー基板が慣性力で撓むなどの変形が生じる。このような変形が生じると、反射された光ビームの光学特性に大きく影響を与えてしまうので、このような撓みは極力低減させる必要があることは言うまでも無い。
【0005】
このような慣性力による動的な変形を低減させる方法として、ミラー基板となる部材の厚さを厚くしてミラー基板の剛性を向上させるという方法がある。しかしながらこのような手法では、ミラー基板の慣性モーメントが増加してミラー基板の振れ角が小さくなるか、同じ振れ角を達成しようとした場合には、駆動エネルギーの増加が必要不可欠となるという新たな問題が生じる。
【0006】
そこで、ミラー基板を薄くして軽量化を図り、エッチングによりミラー基板を形成する際に一部を残し、残した部分を補強用のリブとする技術が提案されている(特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1で提案されたリブ構造では、プロセス上の制約から一方向からの加工にならざるを得ず、したがって高い剛性が期待できる力の方向も限定的となり、あらゆる方向からの力に対抗できる構造には原理的になりえなかった。さらには、リブの根元部に応力が集中して破壊の誘引となってしまうという非常に大きな問題があった。このようにミラーの軽量化と剛性の向上は両立させることが非常に困難であった。
【0008】
本発明は、このような従来の課題に鑑みてなされたものであり、ミラー基板の高剛性化と軽量化を同時に実現できる電磁型マイクロミラー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、鋭意研究の結果、前記課題を解決するために以下のような電磁型マイクロミラー装置を採用した。
【0010】
本発明の電磁型マイクロミラー装置は、
光ビームを反射するミラーが表面に形成されたミラー基板と、このミラー基板を磁力を利用して往復振動させる駆動手段とを備える電磁型マイクロミラー装置であって、
前記ミラー基板の裏面には、当該ミラー基板の変形を抑える三次元規則配列多孔体からなる補強部材が設けられ、当該補強部材中に磁性材料を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電磁型マイクロミラー装置は、ミラー基板の裏面に、三次元規則配列多孔体からなる補強部材を設けた。この三次元規則配列多孔体は、体積分率が約26%であることから軽量化を実現できる。同時に、この三次元規則配列多孔体は三次元の網目状に連結した構造体であることから、あらゆる方向の力に対して高い剛性を発揮することが可能になるのでミラー基板の高剛性化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態の電磁型マイクロミラー装置を裏側から視た模式図である。
【図2】同実施の形態のオパール構造体の形成に際して、容器の中に磁性材料を含まない微粒子の分散液を入れた状態を示す模式図である。
【図3】同実施の形態のオパール構造体を示す模式図である。
【図4】図3のオパール構造体の空隙に磁性材料を含む材料が充填された状態を示す模式図である。
【図5】図4の状態から微粒子のみを除去した状態を示す模式図である。
【図6】同実施の形態のインバースオパール構造体を示す模式図である。
【図7】同実施の形態のインバースオパール構造体の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図にしたがって説明する。
【0014】
図1は本発明の一実施の形態の電磁型マイクロミラー装置1を裏側から視た模式図である。この電磁型マイクロミラー装置1は、ミラー基板2と、ミラー基板2を往復振動させるための駆動手段(図示せず)とを備えている。
【0015】
ミラー基板2は、同一直線上に対向して設けられた一対の梁3,3を介して四角枠状のフレーム4の内側に接続されている。駆動手段は、双方の梁3,3をねじり回転軸として磁力を利用してミラー基板2を往復振動させるように構成されている。
【0016】
ミラー基板2の表面2aには、光ビームを反射するためのミラー(図示せず)が形成されている。ミラー基板2の裏面2bには、全面にわたって構造補強材10が形成されている。この構造補強材10は三次元規則配列多孔体から構成され、構造補強材10中には磁性材料が含まれている。
【0017】
なお本実施の形態では、ミラー基板2の裏面2bの全面に構造補強材10を形成しているが、必ずしも構造補強材10を裏面2bの全面に形成する必要はなく、ミラーの振動周波数や振動角度などの条件により裏面2bの必要な部分にのみ形成しても良い。
【0018】
ここで、ミラー基板には変形を起こすことなく初期の平面状態を維持したまま振動することが求められる。ミラー基板の変形を防止するために、ミラー基板の厚さを厚くして剛性を上げることで変形を招く応力に対抗するという考え方がある。しかしながら、単純にミラー基板の厚さを厚くしただけではミラー基板の質量が増加することになり、それを駆動するために大きなエネルギーが必要となる問題が生じる。
【0019】
そのため、厚く形成したミラー基板を軽量化するために穴を掘り込んだり、リブと呼ばれる壁状の形状を形成したりして軽量化を図ることが一般に行われるわけであるが、このような軽量化の方法はどうしても一方向からの加工になるために対抗できる力の方向は限定的となる。
【0020】
そこで、本実施の形態の電磁型マイクロミラー装置1では、ミラー基板2の裏面2bに、三次元規則配列多孔体からなる構造補強材10を設けた。この三次元規則配列多孔体は、体積分率が約26%という非常に軽量化に適した構造であるため、軽量化を実現できる。同時に、この三次元規則配列多孔体は三次元の網目状に連結した構造体であることから、あらゆる方向の力に対して高い剛性を発揮することが可能になり、ミラー基板2の高剛性化を実現することができる。
【0021】
また、構造補強材10は磁性材料を含んでいるため、新たに磁性材料を設けるスペースが不要であり、ミラー基板2の動的変形の発生を確実に防止すると同時に、電磁型マイクロミラー装置1の小型化を実現することができる。
【0022】
また、本実施の形態では、三次元規則配列多孔体がインバースオパール構造体から構成されている。このインバースオパール構造体について以下に説明する。
【0023】
インバースオパール構造体は、オパール構造体を有するコロイド結晶を鋳型とし、コロイド結晶の空隙にコロイド結晶を形成する微粒子とは異なる材料を充填し、その後鋳型であるコロイド結晶のみを選択的に除去することにより得られる構造である。ここで、コロイド結晶を形成する微粒子には、磁性材料を含まない材料からなる微粒子が使用され、コロイド結晶の空隙に充填する材料は、微粒子と異なる磁性材料を含む材料が使用される。
【0024】
コロイド結晶は大きさの揃った微粒子が最密充填構造でパッキングされた構造であって、微粒子間の距離を「a」、微粒子の半径を「r」とすると、r=√2/4aを満足するときに隣接する微粒子がお互いに接する状態となる。このとき微粒子の占める体積分率は4・(4π/3)r/a=√2π/6=0.74048であることから、約74%と求められる。
【0025】
最終的には、この微粒子の占める領域が空間となり、最初微粒子の空隙であった領域がある材料で置換されて最終的な構造物として残る。この最終的な構造物がインバースオパール構造体であり、その体積分率は約26%となる。このインバースオパール構造体は、バルク材に比べて実に76%の軽量化が図れるという特異的な構造を有している。また、このインバースオパール構造体は、強度的には三次元網目構造となっていることから、あらゆる方向の力に対しても対抗できる強度を実現することができるものである。
【0026】
また、三次元規則配列多孔体がインバースオパール構造体であることから、ミラー基板2の重量増加がわずかでありながら剛性を向上させることができ、高速でミラー基板2を往復振動した際も動的変形の発生を確実に防止することができる。
【0027】
次に、インバースオパール構造の形成方法について説明する。インバースオパール構造の形成方法の一例を図2〜図7に模式的に示す。
【0028】
まず、図2に示すように、容器101の中に分散液201(コロイド溶液)を入れる。この分散液201は、磁性材料を含まない微粒子202を液体203中に分散させて調整したものである。そして、この分散液201が入った容器101を振動を避けて静置して液体203を蒸発させる。このときに微粒子202の沈降と溶液203の蒸発とのバランスが取れた状態で進行すると、液体203が完全に蒸発し切った時に微粒子202の最密充填構造が得られる。
【0029】
このときの様子を図3に示す。この微粒子202によって形成された三次元規則配列構造体210がオパール構造体である。天然宝石のオパールもこのようなメカニズムで形成されることからこう呼ばれる。このオパール構造体210には、各微粒子202間を連通する微小な空隙210aが形成されている。
【0030】
次に、図4に示すように、空隙210aに、微粒子202と異なる磁性材料を含む材料204を充填し、その材料204を固化する。
【0031】
次に、図5に示すように、微粒子202のみを除去する。これにより、磁性材料を含まない微粒子202が占めていた領域は球形の空間202aとなり、三次元規則配列多孔体220だけが残る。
【0032】
次に、図6に示すように、三次元規則配列多孔体220を容器101から取り出す。この三次元規則配列多孔体220がインバースオパール構造体である。このインバースオパール構造体は、図3に示したオパール構造体210の反転構造であることから呼ばれる。なお、図7に、インバースオパール構造体220の電子顕微鏡写真を示す。
【0033】
また、本実施の形態では、オパール構造体210を形成する際に、原料として微粒子202を液体に分散させた分散液(コロイド溶液)を用いることを特徴としているため、欠陥の無い高品質の微粒子の最密充填構が容易に得られる。したがって、構造補強材10として適したオパール構造体210を容易に確実に得ることができるので、ミラー基板2の動的変形の発生を確実に防止することができる。
【0034】
また、本実施の形態では、オパール構造体210の空隙210aに磁性材料を充填しているので、全体の容積を増加させることなく磁性材料の占める容積を増加させることが可能になり、より大きい駆動力を実現できる。
【0035】
次に、オパール構造体210を構成する微粒子202と、オパール構造体210の空隙210aに充填する材料204について以下に具体的に説明する。
【0036】
(1)オパール構造体210を構成する微粒子202が無機材料、オパール構造体210の空隙210aに充填する材料204が有機材料の場合
【0037】
オパール構造体210を構成する微粒子202が無機材料の場合、シリカを使用するのが好適である。シリカはすでにコロイド液に分散された状態のコロイダルシリカとして一般に流通しており、シリカ(微粒子202)のサイズの揃ったものが比較的容易に入手できる。なお、その他の微粒子202としては、アルミナ、酸化チタン、酸化ジルコニウムが好ましい。
【0038】
本実施の形態のインバースオパール構造体220を形成する場合、元となる微粒子202のサイズが揃っていることが非常に重要な条件である。この意味で、コロイダルシリカは微粒子202のサイズが豊富に取り揃えられていることから、目的にあったサイズを選ぶことができ、また、微粒子202のサイズの揃ったコロイダルシリカが入手しやすいというメリットがある。このコロイダルシリカを例えばポリプロピレンなどの樹脂製の容器に入れ、振動を避けて静置する。このとき、温度、湿度を一定に制御すると欠陥の少ない高品質のオパール構造体210が得られる。
【0039】
オパール構造体210の空隙210aに充填する材料204が有機材料の場合、紫外線硬化樹脂中に磁性材料を分散させたものを選択するのが好適である。これをオパール構造体210に静かに注入し、空隙210a全体に行き渡るようにする。
【0040】
次に、紫外線硬化樹脂を固化させるためにUVランプを用いて紫外線を照射し、紫外線硬化樹脂を固化させる。さらにシリカ微粒子202を除去するためにフッ酸を用いてシリカ微粒子202をエッチングする。微粒子202が最密充填構造をとるということは、互いに接しているために、微粒子202が1個エッチングされたら隣接する微粒子202にフッ酸が作用し次々にエッチングが進行する。その結果、インバースオパール構造体220が得られる。このインバースオパール構造体220は、球形の空間202aが連通した構造を有し、磁性材料を含む紫外線硬化樹脂からなる。
【0041】
このように(1)の場合では、オパール構造体210を構成する微粒子202が、シリカ、アルミナ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、などの無機材料から選ばれたものであり、空隙210aに充填する物質が紫外線硬化型樹脂または熱硬化型樹脂であって、その中に磁性材料を分散させた状態で用いる。これにより、酸やアルカリなどの薬品処理により紫外線硬化型樹脂または熱硬化型樹脂などの空隙210aに充填した物質に損傷を与えることなく確実に微粒子202のみを除去できる。したがって、構造補強材10として適したオパール構造体210を容易に確実に得ることができるので、ミラー基板2の動的変形の発生を確実に防止することができる。
【0042】
(2)オパール構造体210を構成する微粒子202が有機材料、オパール構造体210の空隙210aに充填する材料204が無機材料の場合
【0043】
オパール構造体210を構成する微粒子202が有機材料の場合、ポリスチレン微粒子を用いるのが好適である。その理由は、ポリスチレン微粒子は、パーティクル測定などでも標準粒子として使用されるなど、サイズが非常に揃っており、ハンドリングしやすい形態で入手が容易であるためである。ポリスチレン微粒子を分散させた分散液を耐熱性のある容器、例えば石英容器に入れ、振動を避けて静置する。このとき、温度、湿度を一定に制御すると欠陥の少ない高品質のオパール構造体210が得られる。なお、その他の微粒子202としては、ポリメチルメタクリレートが好ましい。
【0044】
オパール構造体210の空隙210aに充填する材料204が無機材料の場合、磁性材料を分散させた金属アルコキシドを用いるのが好適である。これを、オパール構造体210の空隙210aに静かに注入し、空隙210a全体に行き渡るようにする。その後に、電気炉を用いて加熱処理を行い、金属アルコキシドを固化する。
【0045】
このとき、加熱温度を段階的に上昇させるほうがクラックの発生などを抑制できるので好ましい。この金属アルコキシドを固化させるための加熱処理により同時にポリスチレンが灰化、除去される。この結果、内部に磁性材料を含んだ金属酸化物からなるインバースオパール構造体220が得られる。金属アルコキシドとして好ましいのは、酸化チタンや酸化亜鉛などの焼結後に金属酸化物になるものである。
【0046】
このように、オパール構造体210を構成する微粒子202と、オパール構造体210の空隙210aに充填する材料204を適切に選ぶことによって、充填した材料204の固化と、選択的に微粒子202を除去することが可能となる。したがって本発明では、充填する材料204が、「微粒子202とは異なる材料」ということが必須の構成要件となる。
【0047】
このようにして形成したインバースオパール構造体220を、ミラー基板2の裏面2bに接着することにより構造補強材10として機能させることができる。
【0048】
このように(2)の場合では、オパール構造体210を構成する微粒子202に、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレートなどの有機材料を用い、空隙210aに充填する際に用いる材料が、磁性材料を分散させた金属アルコキシドとすることにより、熱や有機溶媒などの処理により空隙210aに充填した物質に損傷を与えることなく確実に微粒子202のみを除去することができる。したがって、構造補強材10として適したオパール構造体210を容易に確実に得ることができるので、ミラー基板2の動的変形の発生を確実に防止することができる。
【0049】
一般的に、微粒子202の自己組織化現象を利用して得られたオパール構造体210は、その機械的強度は低く、本発明のようにその空隙210aにある種の材料を充填するというような工程を行なうと、オパール構造体210が崩れるという問題が起こる場合がある。
【0050】
このような場合には、適当な処理、たとえば、微粒子202にシリカ微粒子を用いた場合には300℃程度の熱処理を加えることによってその強度は増し、本発明のように空隙210aに材料を充填しても崩れるという問題を容易に解決することができる。当然、どのような処理を行なうかは使用する微粒子202の材質によって適宜選択することが可能であり、たとえば微粒子202としてポリスチレン微粒子を用いた場合には80℃程度の熱処理で十分である。
【0051】
また、本発明は、オパール構造体210を溶液系を用いることにより実現することを特徴のひとつとしている。すなわち、乾燥状態では、凝集しやすくなる超微粒子であっても、溶液系という状態の利点を最大限に利用し分散性を向上させることにより凝集を防ぎ、pHの制御、例えば添加するイオン種を適切に選択、制御することにより、等電点の関係を利用することができる。その結果、高規則性のオパール構造体210が得られる。
【0052】
この点についてさらに詳細に説明する。一般に、例えば金属酸化物からなる微粒子202を水中に浸漬すると、微粒子202は正または負の電荷を持ち、電界が存在すると対向する電場を有する方向へ移動する。この現象が電気泳動現象である。この電気泳動現象によって、微粒子202の水中における荷電すなわち界面電位(ゼータ電位)の存在を知ることができる。
【0053】
この界面電位は微粒子202−水系のpHによって大きく変化する。一般に横軸に水系のpHを、縦軸に界面電位をとると、界面電位は水系のpHによって変化し、界面電位「0」を切る点の水系のpHを「等電点」と定義される。この現象から、一般的に金属酸化物からなる微粒子202の表面の界面電位は、酸性側では正、アルカリ側では負の極性を取る。しかし、この等電点は材料によって大きく異なり、例えば、コロイダルシリカでは「2.0」、α−アルミナでは「9.0」、ヘマタイトでは「6.7」という値が紹介されている。
【0054】
つまり、等電点から離れるほど界面電位が大きくなり、酸性側にいくほど界面電位の値は正の大きい方に向かい、また逆に、アルカリ側にいくほど界面電位の値は負の大きい方に向かう。これはpHで制御することができるものである。pHの制御は、酸やアルカリの添加で、制御性よくコントロールできるものである。
【0055】
本発明では、この現象を積極的に利用するものであり、分散液の状態で微粒子202の凝集を効果的に防ぐことができるものである。この結果、分散液を容器に入れた際にも、微粒子202が凝集しない状態で存在するために、その後の配列の工程において、高品質の配列状態を容易に実現できるものである。この現象は、乾式プロセスでは得られない利点といえる。
【0056】
このように、微粒子202を分散させた分散液201(コロイド溶液)のpHを、微粒子202の材質に応じて制御してオパール構造体210を形成することにより欠陥の無い高品質のオパール構造体210が容易に得られる。したがって、このオパール構造体210を構造補強材10として用いることにより、高い信頼性を有しながらミラー基板2の動的変形の発生を確実に防止することができる。
【0057】
以上、本発明に係る実施例を例示したが、この実施例は本発明の内容を限定するものではない。また、本発明の請求項の範囲を逸脱しない範囲であれば、各種の変更等は可能である。
【0058】
以下に実施例を用いて更に詳細に説明する。なお、以下の実施例では、実施の形態で説明した符号は省略している。
【0059】
<実施例1>
(1)微粒子分散液の作製
純水80mLにコロイダルシリカ(平均粒径=3μm 40%)溶液を20mL加え、十分に攪拌して8%のコロイダルシリカ分散液を作製した。
【0060】
(2)微粒子の最密充填構造(オパール構造体)の形成
樹脂製の最密充填構造成長用容器に(1)で準備したシリカ微粒子の分散液を充填して、容器内でゆっくりと乾燥させて、微粒子の密充填構造を形成した。また、微粒子の密充填構造形成後、窒素雰囲気中で300℃、5時間の熱処理を行って、微粒子の最密充填構造の固定化を行った。
【0061】
(3)微粒子とは異なる材料の充填
本実施例では、微粒子とは異なる材料として粘度が20mPaのアクリル系紫外線硬化樹脂を用いた。このアクリル系紫外線硬化樹脂中に平均粒径が0.5μmのフェライト粉末を分散させた。十分にフェライト粉末が分散されたアクリル系紫外線硬化樹脂をマイクロシリンジを用いて、空隙に行き渡るように静かに注入し、30分間放置して、すべての空隙に樹脂が行き渡るようにした。ここまでの工程は、紫外線を遮断したブースで行なった。
【0062】
(4)微粒子とは異なる材料の固化
上記工程に引き続き、一般的な紫外線照射装置を用いて総照射エネルギーが7Jとなるように設定し、紫外線を照射し、紫外線硬化樹脂を固化させた。
【0063】
(5)微粒子の除去:インバースオパール構造体の形成
上記工程に引き続き、サンプルを15%フッ酸に30分間浸漬して、最密充填構造を形成している微粒子を完全に除去した。その後純水によるリンス洗浄、自然乾燥を行ってフェライト粉末を含んだ紫外線硬化樹脂によるインバースオパール構造体を得た。
【0064】
(6)ミラー基板への接着
公知の手法によりミラーサイズが2.5mm×5mmの長方形である電磁駆動型のマイクロミラー装置を形成し、このマイクロミラー装置のミラー基板の裏面に(5)までの工程により形成したインバースオパール構造を接着剤を用いて接着した。
【0065】
(7)効果の確認
振動周波数を15kHz、振れ角を±12度の条件でミラーを振動させ、動的変形を評価した結果、長辺方向での変形量はpeak to peakで15nmと光の反射ビーム特性に与える影響を無視できるレベルであった。
【0066】
<実施例2>
(1)微粒子分散液の作製
本実施例では、実施例1とは異なり、微粒子として酸化チタンを用い、かつ分散液を酸性とした。以下に詳細に説明する。純水500mLに酸化チタン微粒子(平均粒径=5μm)を15mg液中に分散させ、更に液性を酸性に制御するために、塩酸を200μL添加した。分散液のpHは「2.55」であった。
【0067】
このようにする理由は、以下のことによる。つまり、酸化チタン微粒子の等電点は一般的に「6.7」といわれているので、純水のように、中性(pH=7.0)の溶液では界面電位はほとんど「0」に近い。従って、酸化チタン微粒子を制御性良くマイグレーションさせるには、液性を酸性側もしくはアルカリ性側にして、界面電位を大きくすることが有効である。本発明のごとく、溶液系を用いることにより、液性も制御が可能となり、幅広い材料への応用が可能となるものである。
【0068】
(2)微粒子の最密充填構造(オパール構造体)の形成
樹脂製の最密充填構造成長用容器に(1)で準備した酸化チタン微粒子の分散液を充填して、容器内でゆっくりと乾燥させて、酸化チタン微粒子の最密充填構造を形成した。
【0069】
(3)微粒子とは異なる材料の充填
実施例1と同様に、微粒子とは異なる材料として粘度が20mPaのアクリル系紫外線硬化樹脂を用いた。本実施例では、粉末状磁性材料として、Srフェライト磁石焼結体の粉砕粉末(主成分が酸化鉄で、平均粒径10μm)を用いた。このSrフェライト磁石焼結体の粉砕粉末を分散させた樹脂をマイクロシリンジを用いて、空隙に行き渡るように静かに注入し、30分間放置して、すべての空隙に樹脂が行き渡るようにした。ここまでの工程は、紫外線を遮断したブースで行なった。
【0070】
(4)微粒子とは異なる材料の固化
上記工程に引き続き、一般的な紫外線照射装置を用いて総照射エネルギーが7Jとなるように設定し、紫外線を照射し、紫外線硬化樹脂を固化させた。
【0071】
(5)微粒子の除去:インバースオパール構造体の形成
本実施例では酸化チタン微粒子のみを除去する手段として、アルカリエッチングの手法を用いた。すなわち、1規定の水酸化カリウム水溶液に12時間浸漬し、酸化チタン微粒子の全部を除去した。その後純水によるリンス洗浄、自然乾燥を行って紫外線硬化樹脂によるインバースオパール構造体を得た。
【0072】
(6)ミラー基板への接着
公知の手法によりミラーサイズが2.5mm×5mmの長方形である電磁型マイクロミラー装置を形成し、このマイクロミラー装置のミラー基板の裏面に(5)までの工程により形成したインバースオパール構造を接着剤を用いて接着した。
【0073】
(7)効果の確認
振動周波数を15kHz、振れ角を±12度の条件でミラーを振動させ、動的変形を評価した結果、長辺方向での変形量はpeak to peakで15nmと光の反射ビーム特性に与える影響を無視できるレベルであった。
【0074】
<実施例3>
(1)微粒子分散液の作製
本実施例ではポリスチレン微粒子の分散液を用いた。具体的には、平均粒径が5μmのポリスチレン微粒子を6%の濃度で純水中に分散させたものを微粒子分散液とした。
【0075】
(2)微粒子の最密充填構造(オパール構造体)の形成
石英製の最密充填構造成長用容器に(1)で調整したポリスチレン微粒子の分散液を充填して、反応容器内の温度を24℃、湿度を80%という雰囲気に制御しその中で乾燥させた。この条件で、高品質のポリスチレンの微粒子の最密充填構造が得られることは、事前の実験で確認している。
【0076】
(3)微粒子とは異なる材料の充填
本実施例では、微粒子とは異なる材料として酸化チタンのアルコキシド溶液を用いた。濃度は5wt%である。また、粘度は40mPaのものである。この酸化チタンのアルコキシド溶液に平均粒径が1μmのSrフェライト磁石焼結体の粉砕粉末を分散させた後に、マイクロシリンジを用いて、空隙に静かに注入し、30分放置して、すべての空隙に酸化チタンのアルコキシド溶液が行き渡るようにした。その後100℃の環境に10時間保持し、十分に乾燥を行った。
【0077】
(4)微粒子とは異なる材料の固化と微粒子の除去:インバースオパール構造体の形成
本実施例では、微粒子とは異なる材料の固化と、微粒子の除去を同時に行えるよう以下のような熱処理工程を用いた。つまり、上記(3)の工程を経たものをマッフル炉中に保持し、1分間に10℃の昇温速度で800℃まで加熱し、そのまま3時間保持し、その後自然冷却した。この工程により、ポリスチレン微粒子は完全に焼失し、同時に酸化チタンの焼結も完了した。この結果、Srフェライト磁石焼結体の粉砕粉末を含む酸化チタンからなるインバースオパール構造体を得た。
【0078】
(5)ミラー基板への接着
公知の手法によりミラーサイズが2.5mm×5mmの長方形である電磁型マイクロミラー装置を形成し、このマイクロミラー装置のミラー基板の裏面に(4)までの工程により形成したインバースオパール構造体を接着剤を用いて接着した。
【0079】
(6)ミラー基板への接着
振動周波数を15kHz、振れ角を±12度の条件でミラーを振動させ、動的変形を評価した結果、長辺方向での変形量はpeak to peakで15nmと光の反射ビーム特性に与える影響を無視できるレベルであった。
【0080】
<実施例4>
(1)微粒子分散液の作製
本実施例ではポリスチレン微粒子の分散液を用いた。具体的には、平均粒径が5μmのポリスチレン微粒子を6%の濃度で純水中に分散させたものを微粒子分散液とした。
【0081】
(2)微粒子の最密充填構造(オパール構造体)の形成
石英製の最密充填構造成長用容器に(1)で調整したポリスチレン微粒子の分散液を充填して、反応容器内の温度を24℃、湿度を80%という雰囲気に制御しその中で乾燥させた。この条件で、高品質のポリスチレンの微粒子の最密充填構造が得られることは、事前の実験で確認している。
【0082】
(3)微粒子とは異なる材料の充填
本実施例では、微粒子とは異なる材料として酸化亜鉛のアルコキシド溶液を用いた。濃度は4wt%である。また、粘度は30mPaのものである。この酸化亜鉛のアルコキシド溶液に平均粒径が1μmのSrフェライト磁石焼結体の粉砕粉末を分散させた後に、マイクロシリンジを用いて、空隙に静かに注入し、30分放置して、すべての空隙に酸化亜鉛のアルコキシド溶液が行き渡るようにした。その後100℃の環境に10時間保持し、十分に乾燥を行った。
【0083】
(4)微粒子とは異なる材料の固化
上記工程に引き続き、その後100℃の環境に10時間保持し、十分に乾燥を行って酸化亜鉛ゾル液の乾燥を行った。
【0084】
(5)微粒子の除去:インバースオパール構造体の形成
先に述べた実施例3においては、ポリスチレン微粒子の最密充填構造の除去と酸化亜鉛の焼結を同時に行なったが、本実施例では、それぞれ別の工程で行なった。つまり、酸化亜鉛のアルコキシド溶液の乾燥が完了した後に、サンプルをトルエンに浸漬して、ポリスチレン微粒子を溶解させた。浸漬時間を3時間としたところ、ポリスチレン微粒子が完全に除去されていることが確認された。その後純水によるリンス洗浄、自然乾燥を行って平均粒径が1μmのSrフェライト磁石焼結体の粉砕粉末を含む酸化亜鉛によるインバースオパール構造を得た。
【0085】
(6)ミラー基板への接着
公知の手法によりミラーサイズが2.5mm×5mmの長方形である電磁型マイクロミラー装置を形成し、このマイクロミラー装置のミラー基板の裏面に(5)までの工程により形成したインバースオパール構造を接着剤を用いて接着した。
【0086】
(7)効果の確認
振動周波数を15kHz、振れ角を±12度の条件でミラーを振動させ、動的変形を評価した結果、長辺方向での変形量はpeak to peakで15nmと光の反射ビーム特性に与える影響を無視できるレベルであった。
【符号の説明】
【0087】
1 電磁型マイクロミラー装置
2 ミラー基板
2a 表面
2b 裏面
10 構造補強材
201 分散液
202 微粒子
203 液体
204 微粒子と異なる磁性材料を含む材料
210 オパール構造体
210a オパール構造体の空隙
220 インバースオパール構造体
【先行技術文献】
【特許文献】
【0088】
【特許文献1】特開2001−249300号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ビームを反射するミラーが表面に形成されたミラー基板と、このミラー基板を磁力を利用して往復振動させる駆動手段とを備える電磁型マイクロミラー装置であって、
前記ミラー基板の裏面には、当該ミラー基板の変形を抑える三次元規則配列多孔体からなる補強部材が設けられ、当該補強部材中に磁性材料を含むことを特徴とする電磁型マイクロミラー装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電磁型マイクロミラー装置において、
前記三次元規則配列多孔体は、前記磁性材料を含まない材料からなる微粒子で形成されたオパール構造体の空隙に前記微粒子と異なる磁性材料を含む材料が充填されて、前記微粒子が除去されて成るインバースオパール構造体であることを特徴とする電磁型マイクロミラー装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電磁型マイクロミラー装置において、
前記オパール構造体を構成する前記微粒子が無機材料であり、
前記オパール構造体の空隙に充填する材料が、紫外線硬化型樹脂または熱硬化型樹脂に前記磁性材料を含むものであることを特徴とする電磁型マイクロミラー装置。
【請求項4】
請求項2に記載の電磁型マイクロミラー装置において、
前記オパール構造体を構成する前記微粒子が有機材料であり、
前記オパール構造体の空隙に充填する材料が、金属アルコキシドに前記磁性材料を含むものであることを特徴とする電磁型マイクロミラー装置。
【請求項5】
請求項2〜請求項4のいずれか1項に記載の電磁型マイクロミラー装置において、
前記オパール構造体を構成する前記微粒子は、前記微粒子を液体に分散させた分散液から前記液体を蒸発させて得られるものであることを特徴とする電磁型マイクロミラー装置。
【請求項6】
請求項5に記載の電磁型マイクロミラー装置において、
前記微粒子は、前記分散液のpHを前記微粒子の性質に応じて制御して前記液体を蒸発させて得られるものであることを特徴とする電磁型マイクロミラー装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−247602(P2012−247602A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118852(P2011−118852)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】