説明

電磁放射を用いた局在化された侵襲性皮膚治療のための装置

10GHz以上の周波数を有する電磁放射を皮膚組織の局在化された領域に皮膚表面を貫通するように構成されたモノポールアンテナ(44)を介して制御可能に直接送出するための皮膚組織測定/治療装置(40)。1つの実施例は、アプリケータ(152)を含み、アプリケータは、そこから突出する、皮膚の部位の選択的治療/測定のための複数の独立して制御可能なモノポールアンテナ(158)を有する。治療は、基準信号を基準として決定される反射された電力の大きさおよび位相によって計算される局在化された領域における組織の複素インピーダンスに基づいて、アクティブにされる。生成された電磁放射の電力レベルは、皮膚組織に送出された正味電力の検出に基づいて適応的に制御されてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本願は、皮膚組織および皮膚内の下部構造を測定および/または治療するための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
既知の皮膚治療システムにはさまざまな種類があり、たとえばレーザ治療システム、低エネルギプラズマ治療システム、機械的皮膚剥離、約500kHzの周波数で動作する低周波RF電気外科治療システム、赤外線によるシステム、または皮膚の表面に導入されて皮膚に浸透するクリームまたは経口導入薬を用いる治療システムが含まれる。
【0003】
レーザによる皮膚治療システムは現在数多く市場に出されているが、これらは、皮膚の若返りおよびしわの除去が基本的興味である美容整形術の分野に集中する傾向がある。システム例には、Er−YAGレーザ、CO2レーザ、Nd−YAGレーザ、半導体レーザ(たとえばGaAsレーザダイオード)、およびQスイッチルビーレーザが含まれる。
【0004】
一次代表質的モデルとして、皮膚は、底部から上へ向かって育つ植物であると考えてもよい。このモデルから、成長過程に対する干渉が引起された場合には問題が起きること、たとえば、太陽からの紫外線を照射された場合または有害な化学物質がその中または上に導入された場合、植物のように、皮膚が病気になり、損傷を受け、一連の治療が提供されなければ次第に死んでしまうことが理解されるであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、臨床症状の中には、上記の治療技術には適しておらず、現在非常に基礎的で短期的な解決しかもたらさない薬物療法で治療されているものもある。たとえば、円形脱毛症は、皮膚組織の一部であり毛が育つところである毛包を体の免疫系が誤って攻撃する自己免疫疾患である。この症状が発生した場合、通常毛は、小さな丸い斑点状に抜け落ちる。円形脱毛症を治療するために承認された利用可能な薬物は現在なく、この疾患のための治療法は現在ない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
最も一般的には、この発明は、ミリメートルまたはサブミリメートル波長放射の皮膚組織中への直接かつ局在化された照射のための低侵襲性治療システムを提供する。この発明で使用が企図される放射周波数では、放射によるエネルギの侵入深さは、非常に浅い。侵入深さは、周波数および対象の組織の比誘電率が高くなるにつれて減少する。この発明の直接送出メカニズムと組合せると、これにより、皮膚自体の中の標的とする構造の正確な治療が可能になってもよい。
【0007】
この発明に従って、皮膚治療装置が提供される。この装置は、10GHz以上の周波数を有する電磁信号を出力するように配置された信号発生器と、出力された電磁信号を受信するように接続されたモノポールアンテナとを有する。モノポールアンテナは、皮膚組織中に挿入可能な侵襲性または低侵襲性構造を含む。侵襲性構造は、受信した電磁信号に対応する局在化された放射場を皮膚組織中に放つように配置された放射部を有する。信号発生器は、放射場が皮膚組織中に10mW以上の電力レベルでエネルギを送出することを可能にする電力レベルで電磁信号を出力するように配置されている。
【0008】
上記装置で、放たれる放射場の物理的位置を、放射部の位置を通じて正確に閉じ込めてもよい。放射に用いられる周波数は高く、これにより、放たれる放射を放射部の近傍の構造を治療するよう狭窄することが可能になってもよい。これにより、表面ベースの(すなわち非侵襲性)配置よりも優れた標的化が可能になる。
【0009】
その上、10GHz以上の周波数の使用は、放射部が1mm以下の長さで効率的に働いてもよいことを意味する。結果として、侵襲性構造全体は、長さが2mm未満、たとえば1〜2mmであってもよく、これにより、患者に引起される不快感(たとえばわずかなチクチクまたはヒリヒリとした感覚)を最小限にすることができる。たとえば、濡れた皮膚で負荷をかけられたモノポールアンテナの動作周波数100GHzでの4分の1波長は、0.28mmである。この特定の配置において、モノポールアンテナのみが皮膚のなかに挿入される。放射区間の直径に関しては、モノポールアンテナは、外径が0.5mm未満であってもよく、鍼灸針の形態をとってもよい。
【0010】
放射部は、皮下層または真皮内の局在化された構造中へ放射を放ってもよい。たとえば、この装置を用いて、皮下層中の汗腺または真皮中の皮脂腺内にエネルギを送出し、そのエネルギをそこに閉じ込めてもよい。
【0011】
この装置は、たとえばアレイに配置されているような、複数のモノポールアンテナを含んでもよい。各モノポールアンテナは、侵襲性構造を有し、複数の侵襲性構造は、皮膚組織中に同時に挿入可能であってもよい。侵襲性構造は、皮膚組織の下部構造、たとえば汗腺内に同時に2つ以上を挿入することが可能であるほど非常に小さくてもよい。
【0012】
アンテナの放射部を、治療対象の皮膚組織とインピーダンス整合されているように構成してもよい。したがってマイクロ波エネルギは、皮膚構造中に効率的に伝達される。アンテナの入力または近位端および信号発生器の出力もインピーダンスに関してよく整合させて、信号発生器から送出される電力がアンテナに効率的に伝達されることを確実にしてもよく、これにより、このエネルギがアンテナの放射区間と接触している生物学的組織によって吸収されることが確実になる。
【0013】
これに代えて、この配置は、たとえばざ瘡などの症状に対するような、皮膚のある部位にわたっての皮膚組織内の下部構造の局在化された治療を可能にする。
【0014】
放射場によって送出されるエネルギは、制御可能であってもよい。この装置は、信号発生器とアンテナとの間に接続され、かつアンテナから送出される電力(よってエネルギ)の量を検出するように配置された送出電力検出器を含んでもよい。この装置は、送出電力検出器から情報を受取るように接続されたコントローラ(たとえばマイクロプロセッサまたはデジタル信号プロセッサ)を含んでもよい。コントローラは、信号発生器に接続されて、出力される電磁信号の電力レベルを送出電力検出器からの情報に基づいて制御してもよい。信号発生器は、出力される電力レベルを制御するための、コントローラによって操作可能な可変減衰器を含んでもよい。
【0015】
送出電力検出器は、信号発生器とアンテナまたは各アンテナとの間に接続された順方向方向性結合器と逆方向方向性結合器とを含んでもよい。
【0016】
方向性結合器からの出力を用いて、送出される電力の大きさを計算してもよい。これを可変減衰器を用いて正確に制御することができる。本明細書中に開示される放射は、皮膚温度を極めて限局的に瞬時に上昇させることができる。可変減衰器および方向性結合器は、この組織加熱を精密に制御することを可能にする。
【0017】
サーキュレータを結合器と信号発生器との間に接続して、信号発生器をアンテナから反射される信号から分離してもよい。
【0018】
信号発生器は、たとえば電圧制御された発振器(VCO)または誘電共振器発振器(DRO)および1つ以上の電力増幅器のような、安定的で低電力の供給源発振器を含んでもよい。マイクロ波およびミリメートル波モノリシック集積回路(MMIC)の分野における進歩は、今日では高周波数信号を高い電力レベルで生成するために、たとえばリン化インジウム(InP)高電子移動度トランジスタ(HEMT:High Electron Mobility Transistor)ベースのような小型の装置が利用可能になったことを意味する。そのような装置を用いると、アンテナによって送出される電力レベルは、10mW〜2Wであってもよい。
【0019】
電力増幅器は、そのような装置を含んでもよい。他の類似の技術も好適であり、以下に述べる。これらの小型装置は、この発明の現実的な実施例を可能にする。なぜならば、発電(電力増幅)を放射構造の近傍に位置させることができ、これにより電力損失を減少させるまたは管理可能にすることができるためである。
【0020】
複数のアンテナを備えた実施例において、単一の信号発生器、たとえば供給源発生器および増幅器が、たとえば好適な電力分割配置、すなわち導波路分割器、マイクロストリップ分割器、3dB結合器、ランゲ結合器を用いて、電力を複数のアンテナに提供してもよい。他の実施例において、各アンテナは、それ独自の信号発生器を有してもよい。したがって各アンテナに対して送出される電力は、独立して制御可能である。単一供給源発振器は、複数の信号発生器のためのベース信号を提供してもよい。
【0021】
この発明の発展例において、この装置は、皮膚組織の特性を測定するように、たとえば治療(たとえば10mW以上の電力の送出)が開始する前に放射部に存在する組織(または皮膚の下部構造)の種別を決定するように配置されてもよい。マイクロ波エネルギの組織中への侵入深さが浅いことは、小さな組織構造を治療するという観点と微細な組織構造の特性を識別するという観点との両方における利点をもたらす。コントローラをアンテナから反射される信号の大きさおよび位相を検出するように配置してもよい。検出された大きさおよび位相情報を、放射部での組織の複素インピーダンス値を計算するために用いてもよく、この複素インピーダンス値は、組織種別を示す。大きさおよび位相は、逆方向方向性結合器に接続されたヘテロダイン検出器を用いて検出してもよい。この配置を用いて、小さな針アンテナ構造を挿入してもよい皮膚または他の組織種別に関連付けされるさまざまな解剖学的構造に関連付けられる多数の疾患または臨床症状の診断も行なってもよい。
【0022】
ヘテロダイン検出器のための基準信号は、信号発生器からの順方向(出力)放射と同じ供給源発振器に由来してもよい。反射された放射の周波数を、大きさおよび位相情報を測定することができるレベルまで減少させる多重下方変換配置があってもよい。
【0023】
好ましくは、この装置が組織特性を測定するために配置されるときに組織に送出されるエネルギは、この装置が組織を治療するために配置されるときよりも大幅に少ない(たとえば2桁以上少ない)。この装置は、送出される電力が10mWよりも大きい治療モードと1mW未満である測定モードとを有してもよい。測定モード中に送出される電力の量は、好ましくは永久的な組織損傷を引起すのに必要な量よりも少ない。この装置は、出力放射のための2つのチャネル、すなわち電力増幅器を含む治療チャネルと電力増幅器を迂回する測定チャネルとを有してもよい。
【0024】
この装置は、出力放射をチャネル間で切換える(たとえば外科医が操作可能な)スイッチを含んでもよい。この配置では、この装置を用いて、治療が始まる前に侵襲性構造(たとえばアンテナ)の放射部が所望の組織種別中にあることを決定してもよい。高マイクロ波周波数放射を用いることによって可能になった放たれる場の局在化は、反射信号が放射部に近い組織によって著しく影響を受けているため、測定モードにおいても有益でもある。隣接する組織からの反射および散乱は無視できるものであってもよい。
【0025】
挿入可能なモノポールアンテナのアレイがある場合、各アンテナは、上述のものに類似する独立して制御可能な二重チャネル配置を有してもよい。したがって、各アンテナは、その隣接するものとは独立に治療モードが測定モードかのいずれかで動作してもよい。これは、個々のアンテナを必ずしも正確に適所に方向付けるまたは位置させる必要なしに組織内の具体的な構造(たとえば腺)を標的とするために有用である。治療対象の組織種別中にあると決定されたアンテナを治療モードに切換えることができ、治療対象の組織種別中にないと決定されたアンテナは、スイッチを切るかまたは測定モードのままにしてもよい。次にアレイ中のアンテナを測定された情報に従って選択的にアクティブにしてもよい。
【0026】
代替的な実施例において、アンテナは機械的に皮膚組織に挿入可能および皮膚組織から後退可能であってもよい。アンテナのアレイがある場合、各アンテナは、独立して挿入可能および後退可能であってもよい。この場合、検出されるべき組織種別の中にはないと決定されたアンテナを、組織から完全に引抜くことができる。これにより、患者の不快感を低減することができる。
【0027】
各モノポールアンテナの侵襲性または低侵襲性構造は、針またはピンを含んでもよい。放射部は、針の先端であってもよい。針アンテナ構造は、たとえば25Ω、50Ω、または75Ωのような固定インピーダンスの同軸線であってもよい。外径が非常に小さい、たとえば0.1mmから0.5mmの物理的に同軸の構造を実現するためには、そのような小型針構造を製造するためにナノテクノロジーを利用する必要があることがある。たとえば、深い反応性イオンエッチングを用いて、針長が0.1mm〜1mmの針アンテナのアレイを作製してもよい。マイクロマシニング技術も作製工程のために検討されてもよい。
【0028】
この組織が皮膚組織特性を測定する能力は、この発明の独立した局面であってもよい。その局面に従って、皮膚組織測定装置が提供されてもよい。この装置は、10GHz以上の周波数を有する測定信号と基準信号とを出力するように配置された信号発生器と、出力される測定信号を受信するように接続されたモノポールアンテナとを有する。モノポールアンテナは、皮膚組織中に挿入可能な剛性構造(すなわち侵襲性または低侵襲性構造)を含む。剛性構造は、皮膚組織中に受信した測定信号に対応する局在化された放射場を放つように配置された放射部(たとえば放射部を有するアンテナを含む)を有する。この装置は、信号発生器とモノポールアンテナとの間に接続されて基準信号およびアンテナから返ってくる反射信号を受信する検出器をさらに有する。検出器は、反射信号の大きさおよび位相を測定するように配置されている。大きさおよび位相情報を用いて、放射部での組織の複素インピーダンス値を計算してもよく、この複素インピーダンス値は、組織(または皮膚下部構造)種別を示してもよい。位相および大きさ情報を他の方法で操作して、複素誘電率、誘電率、または組織伝導度データなどの情報が抽出されることを可能にしてもよい。3ポートサーキュレータを信号発生器とモノポールアンテナと検出器との間の接合点に接続してもよい。出力された測定信号は、サーキュレータの第1のポートに入力されて、モノポールアンテナに接続された第2のポートで出力されてもよい。したがって反射信号は、第2のポートに入力され、検出器に接続された第3のポートに向けられるもしくは送られるかまたは第3のポートで出力される。この構成では、順方向(測定)信号は、検出器から分離されており、反射信号は、低電力レベル(たとえば1mW以下)を測定信号に用いることができるように検出器へ直接(すなわち結合器を使用せずに)提供されてもよく、すなわち反射された測定信号の振幅は、ラインアップ中の方向性結合器の結合係数によって減少されない。電力レベルが低いことにより、測定中の皮膚組織への損傷の危険性が減少または最小化される。
【0029】
本明細書中に説明される制限された周波数の侵入深さは、測定が皮膚組織に閉じ込められている、すなわち反射信号が放射部での組織の特性によって著しく影響を受けていることを意味する。皮膚内の対象の構造の大きさを考慮に入れると、45GHz以上、好ましくは100GHz以上の周波数を用いることが有利であることがある。測定精度および感度の向上は、1THz以上の周波数を用いて得られてもよい。
【0030】
この発明の測定の局面は、固形または液状組織試料の内容を分析して、試料の成分のレベルまたは濃度を監視するためにも有用であってもよい。たとえば、この発明を用いて尿または血液試料を分析してもよい。
【0031】
複数のモノポールアンテナ(たとえば針アンテナ)を用いる場合、各針を生物適合性材料からなるパッドの上に実装してもよい。侵襲性または低侵襲性構造(たとえば針)自体を、この構造が体内に導入されたときに汚染を引起さないことを確実にするために、生物適合性材料から作ってもよく、または生物適合性材料で被覆してもよい。たとえば、針を、パレリン(登録商標)Cの薄い層で被覆してもよい。
【0032】
図面の簡単な説明
以下に添付の図面を参照してこの発明の例を述べる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】2つの針アンテナを挿入された皮膚組織の概略断面図である。
【図2】この発明の実施例である単一チャネル皮膚治療装置の構成部品を示すブロック図である。
【図3】この発明の実施例である二重チャネル皮膚治療装置の構成部品を示すブロック図である。
【図4】図2に示される皮膚治療装置のための信号発生器の詳細を示すブロック図である。
【図5】図3に示される皮膚治療装置のための信号発生器の詳細を示すブロック図である。
【図6】この発明の実施例で用いられ得るモノポールアンテナの側面図である。
【図7】この発明の実施例で用いられ得るモノポールアンテナのアレイの斜視側面図である。
【図8】この発明に従った多重アンテナ装置のブロック図であり、複数のアンテナは共通の放射源を共有している。
【図9】この発明に従った多重アンテナ装置のブロック図であり、各アンテナは、独立の放射源を有する。
【図10】この発明の実施例である手持ち式アプリケータの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
詳細な説明、さらなるオプションおよび選択
以下に述べる実施例は、固体装置技術を用いてテラヘルツ(THz)周波数までの高いマイクロ波(たとえばサブミリメートルおよびミリメートル)エネルギを生成する能力を利用する。そのようなマイクロ波、ミリメートル波またはサブミリメートル波エネルギを用いて、短いモノポールアンテナ構造(たとえば針アンテナ)を励起する場合、放射アンテナ構造全体の長さは、1mm未満である。
【0035】
この明細書において、高いマイクロ波、サブミリメートル波長、およびミリメートル波長とは、10GHz〜5THz(5000GHz)の周波数範囲を指す。好ましい範囲は、30GHz〜200GHzである。この発明は、たとえば45GHz、77GHz、94GHz、96GHz、110GHz、170GHz、および200GHzのようなスポット周波数でも実現化されてもよい。
【0036】
皮膚は、数多くの入り組んだ構造を含んだ人体内の複雑な器官であるが、この発明は、そのような高い周波数は、皮膚の構造に関連する何らかの臨床症状を治療するために好適であってもよい放射の侵入深さをもたらすことを活用する。
【0037】
この発明は、システムを本明細書中に開示される周波数スペクトルの高いほうの端で操作するとき、皮膚ウイルスおよびおそらくは他のウイルスを治療するために用いられてもよい。この発明を用いる治療は、ウイルスを不活性化するためにウイルスのDNA構造を変化させてもよい(すなわち、そのDNA構造がさらに変化することを防いでもよい)。
【0038】
この発明は、非侵襲性皮膚治療のための装置、たとえば単一のパッチまたはパッチのアレイを用いてエネルギを皮膚表面に印加する装置と併用されてもよい。
【0039】
この発明は、単一の針アンテナまたは複数の針アンテナ構造と、所望の皮膚効果をもたらすのに十分なエネルギを適切な周波数で生成することができる単一または複数の半導体装置とを用いる非常に高いマイクロ波周波数またはミリメートル波周波数またはサブミリメートル波周波数低侵襲性皮膚治療システムとして実施されてもよい。
【0040】
この発明は、良性の皮膚腫瘍、たとえば光線性角化症、軟性線維腫、皮角、脂漏性角化症、または一般的なイボの治療に用いられてもよい。この発明は、皮膚の悪性腫瘍の治療に用いられてもよい。この発明は、皮膚細胞、血管、神経系、および皮膚の免疫系を含めて皮膚のすべての構造を治療してもよい。したがって、このシステムは、皮膚に関連する以下の症状、すなわち壊疽性膿皮症、白斑、痒疹、円形脱毛症、限局性強皮症、肥厚性瘢痕、およびケロイドなどを治療するために有効であってもよい。この発明は、慢性的な痛み、すなわちヘルペス後神経痛(PHN:postherpetic neuralgia)の緩和のためにも用いられてもよい。周波数および電力レベルは、所望の治療に応じて選択されてもよい。したがって、器具の装置は、皮膚に関連付けられる数多くの症状を治療または破壊するために用いられてもよい。いくつかの具体的な用途を以下に説明する。
【0041】
この発明の特定の臨床用途は、皮脂腺または汗腺の過活動が過剰な発汗を引起すことにより、細菌または菌類が皮膚の表面上に生じることになるおそれがあるアトピー性皮膚炎および脂漏性皮膚炎またはざ瘡の治療であってもよい。生じた菌類は、ピチロスポルムとして知られており、ピチロスポルムは、皮膚上に生じる一般的な細菌であり、人が汗をかく部位、たとえば頭、胸部の下、前頭部、および腋窩に現れる細菌である。脂漏性皮膚炎を患っている人は通常よりも汗を多くかくため、より多くのピチロスポルム菌類が生じることになる。以下に述べるような単一の針アンテナまたは針アンテナのアレイは、皮膚の毛穴の中におよび皮脂腺または汗腺の中に挿入されてもよく、その場合所望の治療深さは、皮膚の表面から1mm〜2mmに位置していてもよく(これは体の部位および患者の年齢による)、マイクロ波またはミリメートル波電源は起動されて、制御されたエネルギ投与量を上記腺へ送出して、過剰な活動を抑えてもよい。ピンアンテナ構造をそのような配置において採用して、制御された高周波数マイクロ波エネルギを毛穴または汗腺の中に送り出してもよい。たとえば、外径が0.15mm未満、長さが1mm未満で、アンテナによって生成される浅い放射の侵入深さを伴うピンアンテナを用いてもよい。
【0042】
エネルギを毛包の中に送り出すことは、望ましくないことがある。なぜならば、これにより毛包を形成する以下の構造、すなわちキューティクル、ハックスリー層、ヘンレ層、外鞘、硝子膜、および結合層に損傷が引起されることがあるためである。状態を変化させるまたは構造の永久的変化を引き起こす、より高いエネルギが印加される前に、この発明の測定の局面を用いて、針が毛包内に位置していないことを確実にすることが望ましいことがある。この発明の測定の局面は、毛包と皮脂腺および汗腺との間の区別を可能にしてもよい。1つの実施例において、測定または識別機能と選択的高エネルギ送出機能との組み合わせを用いて、毛を体の部位から永久的に取除いてもよい。他の実施例において、反射信号の大きさおよび位相から得ることができる測定された複素インピーダンスまたは他の誘電情報が針が毛包内に位置していることを示す場合、警報状態にフラグを立てるまたは警報状態をアクティブにして、針が取り出されるべきであることを外科医に示してもよい。針の取り出しは手動または自動であり得る。後者の場合、機械的機構が始動されて、針を取り出し得、始動信号を送るという決定は、測定された組織情報に基づいている。ある範囲の組織インピーダンス値が測定されたときにシステムがエネルギを送出することを防止するための機構が設けられ得る。
【0043】
図1は、皮膚10の構造の概略断面図であり、この発明の2つの可能性のある用途を説明する図である。皮膚10は、3つの層、すなわち表皮12と、真皮14と、皮下層16とを含むと考えることができる。毛幹18は、真皮12にある毛穴(図示せず)を通って突出して、皮膚10の外側に露出している。毛幹18は、複合体構造の一部であり、この構造は、皮下層16にある毛母体20と、真皮14の中にまで延在する毛包22と、毛包22を立てるための立毛筋24と、皮脂腺26とを含む。皮下層16から表皮12にある毛穴まで延在する汗腺28も示されている。
【0044】
図1には、皮膚組織10の表面を通って導入された2つの針アンテナ構造30が示されている。一方のアンテナは、汗腺28に挿入されており、他方のアンテナは、皮脂腺26に挿入されている。そのような配置は、皮脂腺および汗腺の過活動および過剰な発汗により細菌が皮膚の表面上に生じることになるざ瘡または脂漏性皮膚炎を治療するために有用であってもよい。アンテナ構造30は、各々それらの近位端にマイクロ波コネクタ32を有し、このマイクロ波コネクタは、アンテナ構造30へのおよびからの高周波数マイクロ波放射(たとえばサブミリメートル波放射またはミリメートル波放射)を給電構造34を介して伝達するように配置されている。各アンテナ構造の遠位端は、侵襲性構造を含み、この実施例において侵襲性構造は、針先を含む。これによりアンテナを皮膚組織の中に挿入しやすくなる。侵襲性構造は、放射部も含み、この実施例においては針の先端であり、アンテナに伝達されたエネルギは、この放射部で組織中に放たれてもよい。
【0045】
たとえば10GHz以上のような本明細書中に開示される周波数で放たれた放射場は、侵入深さが非常に浅く、そのためアンテナによって導入されるエネルギを汗腺28および皮脂腺26に局在的に閉じ込めることができる。エネルギの局在化は、毛構造、たとえば毛包22が治療中に影響を受けなくてもよいことを意味する。これは有利である。なぜならば、毛包が破壊された場合、皮膚表面の腫れに繋がり、これは望ましくない影響であるためである。
【0046】
図1に示される針アンテナ構造30は、表皮、真皮および皮下組織層内に存在する他の皮膚組織構造の中に挿入されてもよい。アンテナの挿入によって引起される患者の不快感および身体的損傷を最小化するためには、針の物理的な貫入の最大の深さは、0.1mm〜10mmまたはより好ましくは0.5mm〜2mmの間である。
【0047】
図2は、この発明の実施例である皮膚治療装置40を示すブロック図である。装置40は、上述の針アンテナのようなモノポールアンテナ44に接続された信号発生器42を含む。信号発生器42は、信号発生器42を制御するように配置されたマイクロプロセッサまたはデジタル信号プロセッサ(DSP)46にも接続されている。ユーザインターフェイス48は、DSP46に接続されて、治療に関する情報を受け付け、表示し、たとえばユーザからの制御命令のような命令をDSP46まで伝えることを可能にする。信号発生器42は、周波数が10GHz以上および電力レベルがモノポールアンテナ44の放射部で皮膚組織中に送出されるエネルギが10mW以上であるような電磁信号を生成するように配置されている。信号発生器内の構成部品の詳細は、以下に図4を参照して述べられている。
【0048】
図3は、この発明の別の実施例である皮膚治療および測定装置50を示すブロック図である。装置50は、2つの動作モード、すなわち図2を参照して述べた装置40と同じように動作する治療モードと、アンテナからの反射信号を用いてアンテナの放射部での組織の誘電特性または複素インピーダンスを測定して、たとえば針が導入されている組織の種別を識別する測定モードとを有する。図1を再び参照して、測定モードを用いて、針アンテナ30が近接する構造にではなく汗腺28または皮脂腺26の中に適切に導入されていることを確実にしてもよい。測定された誘電特性または複素インピーダンスが針が正しい組織種別の中にあることを示す場合、治療が始まってもよく、すなわちより高いレベルの電力がアンテナへ送出されてもよい。
【0049】
図3に戻って、装置50は、信号発生器52と、モノポールアンテナ54と、DSPユニット56と、ユーザインターフェイス58とを含み、これらは上記図2の記述において名称が同じ構成部品に対応している。加えて、電力レベルがより低い(たとえば1mW未満)信号を生成するための測定信号発生器60がある。1つの実施例において、両信号発生器は、同じ供給源発振器を共有してもよい。他の実施例において、たとえば治療と測定とでは異なる周波数が用いられるように、異なる供給源が用いられてもよい。たとえば、装置は、200GHzの治療周波数と500GHzの測定周波数とを用いてもよい。測定信号発生器は、信号発生器52の高電力生成構成部品を迂回する、アンテナへの異なるチャネルを提供してもよい。DSPユニット56によって制御可能なスイッチ62、たとえば低損失導波路スイッチは、アンテナ54と信号発生器52、60との間に接続されて、どちらの信号がアンテナ54へ送られるのかを選択する。したがって装置50は、測定モードか治療モードかのいずれかで動作する。信号発生器内の構成部品の詳細は、以下に図5を参照して述べられている。
【0050】
図4は、図2の装置40を示すブロック図であり、信号発生器42の構成部品がより詳細に示されている。図2と図4との間で共通の構成部品は、同じ参照番号を与えられている。
【0051】
信号発生器42は、供給源発振器64を含み、この供給源発振器は、この発明を実現化するために興味深いとみなされる範囲内、すなわち10GHzよりも高い、好ましくは30GHz〜5THzの周波数の低レベルエネルギを生成する。供給源発振器64からの出力は電力分割器66に接続されており、この電力分割器は、供給源電力を2つの部分に分割し、これらの部分は、平衡を保たれていてもよく(または等しい振幅)または平衡が保たれていなくても、すなわち1/3と2/3とであってもよい。第1の部分は、検出器70、たとえばダイオード検出器に与えられ、この検出器の出力は、供給源発振器64の状態を監視してそれが正しく機能していることを確実にするために、DSPユニット46に与えられる。検出器70は、ショットキーダイオード、すなわちゼロバイアスショットキーダイオードまたはトンネルダイオードを用いてもよい。第2の部分は、可変減衰器68に与えられ、この可変減衰器は、PIN減衰器であってもよく、この可変減衰器の減衰は、DSPユニット46から出力される信号V2によって制御される。
【0052】
可変減衰器68からの出力は、電力増幅器72の入力ポートに与えられ、この電力増幅器は、供給源発振器64によって生成される信号を対象の生物学的(すなわち皮膚)組織構造を治療するために有用であるレベルまで増幅または昇圧する。電力増幅器72は、DSPユニット46から出力される信号V1によって制御可能である。ミリメートル波サーキュレータ74の第1のポートは、生物学的組織とアンテナの放射区間との間のインピーダンス不整合から生じることがある高レベルの反射電力から増幅器を保護するために、電力増幅器72の出力段に接続される。サーキュレータの第2のポートは、順方向(増幅された)信号がアンテナへ進むことを可能にするように接続されている。したがってアンテナからの反射信号は、第2のポートに届き、次に第3のポートへ向けられるまたは方向付けられる。サーキュレータ74の第3のポートは、電力放出負荷76に接続されている。電力放出負荷76のインピーダンスは、サーキュレータ74の第2のポートに反射して戻ってきた電力のすべてまたは高い割合が第3のポートに分流されるように選択され、この第3のポートでは、そのエネルギは負荷に放出される。1つの実施例において、放出負荷のインピーダンスは、50Ωであるが、この値には限定されない。好ましくは、このインピーダンスは、このシステムにおいて用いられるマイクロ波構成部品の特性インピーダンスに等しい。
【0053】
サーキュレータ74の第2のポートは、第1の方向性結合器78に接続されており、この結合器は、順方向電力結合器として構成されており、順方向に進む電力の一部をサンプリングして、電力レベルを監視することを可能にするために用いられる。−10dB〜−30dBの結合係数が用いられてもよく、これにより、それぞれ10%〜0.1%の主線電力をサンプリングすることが可能になる。主線電力のうちできるだけ多くを保存するためには、結合係数は、好ましくは−20dB〜−30dBである。第1の方向性結合器78の結合ポートからの出力は、検出器79(たとえばダイオード検出器)に接続されており、この検出器は、当該出力をDCまたはより低い周波数のAC信号S1に変換し、それをDSPユニット46へ与える。検出された順方向電力レベルは、DSPによって処理され、ユーザインターフェイス48上に表示されてもよい。第1の方向性結合器78の場所は、サーキュレータ74の第2のポートに限定されず、すなわちサーキュレータ74の第1のポートに接続されてもよい。
【0054】
第1の方向性結合器78からの主線出力は、第2の方向性結合器80の入力ポートに与えられてもよく、この結合器は、反射(または逆方向)電力結合器として構成されており、反射電力の一部をサンプリングして、返されたまたは反射された電力のレベルを監視することを可能にし、生物学的組織と針アンテナの放射部(遠位先端または空中線)との間のインピーダンス整合(または不整合)の指標を提供するために用いられる。第2の方向性結合器80の結合ポートからの出力は、検出器81(たとえばダイオード検出器、ホモダイン検出器またはヘテロダイン検出器)に接続されており、この検出器は、当該出力を大きさ情報または大きさおよび位相情報を含んでいてもよいDCまたはより低い周波数のAC信号S2に変換し、それをDSPユニット46に与え、検出された反射電力レベルは、DSPによって処理され、ユーザインターフェイス48上に表示されてもよい。
【0055】
DSPユニット46は、組織中に送出されている正味電力を計算し、ユーザインターフェイス48を用いて表示するように配置されていてもよく、たとえば第2の方向性結合器80の出力ポートと針アンテナへの入力との間に接続された送出ケーブルまたはPCBトラック45(たとえば可撓性同軸ケーブル、可撓/可捻性導波路、マイクロストリップ線、またはコプラナー線)の損失(挿入損失)と、針アンテナ自体の挿入損失とを考慮に入れて、順方向電力レベルから反射電力レベルを引くことによって、すなわち
net=Pforward−Pch_loss−Pant_loss−Preflected
によって計算し、式中Pnetは、正味電力、Pforwardは順方向電力、Pch_lossは送出チャネル損失、Preflectedは、アンテナの放射区間と生物学的組織負荷との間のインピーダンス不整合によって起こる反射電力による損失である。
【0056】
DSPユニット46は、これに代えてマイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサとDSPユニットの組合せ、シングルボードコンピュータまたはシングルボードコンピュータおよびDSPユニットであってもよく、この装置の機能性および動作を制御するために用いられてもよい。DSPユニット46は、可変減衰器48の制御と、供給源発振器64の状態の確認と、順方向および反射電力レベルの測定と、正味電力の計算と、ユーザ情報の作成と、エラー状態にフラグを立てることとに関与してもよい。ユーザインターフェイス48は、ユーザが情報をシステムに入力することを可能にするように配置された、ユーザにとって関心があるかもしれないパラメータを表示するための出入力装置を含んでもよい。出入力装置は、タッチスクリーン表示ユニット、キーボード/キーパッドおよびLED/LCDディスプレイ、LEDセグメントおよびスイッチ、または出入力装置のための任意の他の好適な配置であってもよい。
【0057】
この装置は、発電器と患者との間に接続されて発電器と患者との間のDC電圧路を防止するDC分離障壁(ここでは図示せず)を含んでもよい。そのような障壁は、マイクロストリップキャパシタ、またはたとえばマイクロ波セラミックの薄い層、カプトン(登録商標)シートもしくはPTFEのような低損失誘電材料からなるシート間に挟まれた2区間の導波路の形態を取ってもよい。
【0058】
図5は、図3の装置50を示すブロック図であり、信号発生器52および測定信号発生器60の構成部品がより詳細に示されている。図3と図5との間で共通の構成部品は、同じ参照番号を与えられている。よって、治療モードか測定モードかの選択は、DSPユニット56からスイッチ62への信号V6を用いて行なわれ、この信号は、共通スイッチコンタクトが治療信号発生器52(すなわちマイクロ波構成部品ラインアップまたは治療信号を生成するためのサブアセンブリ)に接続されたコンタクトと、測定信号発生器60(またはマイクロ波構成部品ラインアップまたはサブアセンブリ)に接続されたコンタクトとの間で切換わることを引起して、どちらの信号がケーブル55に沿ってアンテナへ送信されるかを選択する。スイッチ62は、単極双投配置であり、好ましくはそれを通過する信号の最小限の量の減衰を導入し、すなわちスイッチを通じての損失は、0.2dB未満であってもよい。スイッチ62は、導波路スイッチまたは同軸スイッチであってもよい。本明細書中に開示される高いほうの周波数範囲に対しては、導波路スイッチが挿入損失がより低いため好ましい。導波路スイッチは、基本的に、測定回路か治療回路かのいずれかからのエネルギがケーブルアセンブリ(またはマイクロストリップ/コプラナー線)とアンテナとからなる共通チャネルに接続されることを可能にするために、2つの導波路が動かされることを可能にする。
【0059】
図5において、共通の周波数供給源発振器82は、治療信号発生器52と測定信号発生器60との両方によって用いられる。周波数供給源82は、供給源発振器84を含み、この供給源発振器の出力は、電力分割器86(たとえば3dB電力分割器または電力結合器)に接続されており、この電力分割器は、信号の第1の部分を治療モードでの動作のための治療信号構成部品ラインアップへ送る。第2の部分は、測定モードでの動作のための測定信号構成部品ラインアップへ送られる。
【0060】
治療信号構成部品ラインアップは、図4を参照して上述した信号発生器42に類似する。同じ名称の構成部品は、対応する機能を行なう。よって、治療信号発生器52は、電力分割器86からの信号を受信するように接続された可変減衰器88と、電力増幅器90と、電力増幅器90を反射信号から隔離するように配置されたサーキュレータ92と、治療モードにおいて反射信号からのエネルギを受けるための電力放出負荷94と、順方向電力を検出器97に結合する順方向方向性結合器96と、反射電力を検出器99に結合する逆方向方向性結合器98とを含む。
【0061】
もう1つの実施例において、アンテナから見た組織インピーダンスを信号発生器52のインピーダンスと動的に整合させて、組織中への最大電力伝達を提供するために、同調または整合回路(図示せず)を電力増幅器90の出力とスイッチ62との間に接続してもよい。この配置は、送出されるマイクロ波電力と供給源から利用可能なマイクロ波電力との間の効率を高めるであろう。これは、非常に高いマイクロ波またはミリメートル波またはサブミリメートル波周波数エネルギが治療に用いられる場合に極めて有利であることがある。なぜならば、高レベルのエネルギをこれらの周波数で生成することは極めて高価であるので、このエネルギのわずか部分でさえ失うことは望ましくないためである。この特徴は、送出されるエネルギレベルが、比較的大きな体積の組織切除を引起すことを要求されているときにも望ましい。本明細書中で検討される、より小規模の治療についてはこの特徴は、任意選択的であってもよい。しかしながら、この特徴が実現化される場合、同調回路は、好ましくは機械的同調ロッドまたはねじではなくバラクタまたはPINダイオードを同調素子として用いる。これは、物理的な大きさの制約による。検出器97、99は、ヘテロダイン検出器として構成されて、位相および大きさ情報を測定して同調素子を制御しもよい。
【0062】
測定信号構成部品ラインアップは、治療信号構成部品ラインアップとは別個の信号線(たとえばチャネル)上に設けられている。これにより、測定感度に影響を及ぼすことがある電力増幅器90および他の雑音を起こす可能性のある構成部品は、迂回される。これは、測定信号は、方向性結合器の結合されたポートを介して検出器に入らず、よって検出器の入力に達する前に結合器の結合係数によって減衰されている帰還信号によって限定されないことも意味する。したがって、測定信号発生器60は、基準方向性結合器100を含み、この結合器は、その入力ポートへの電力分割器86からの信号を受信するように接続されている。基準方向性結合器100は、順方向電力の一部分を結合して、組織測定システムのための基準を提供するために用いられる。電力分割器86から利用可能な電力レベルによっては、測定信号の振幅を増強させる低雑音低電力増幅器を含むことが必要なことがある。これが要求される場合、ブースト増幅器を、電力分割器86と基準方向性結合器100との間に挿入してもよい。
【0063】
基準方向性結合器100からの結合信号は、電子的に制御される(DSPユニット56からの信号V5によって制御される)単極双投スイッチ112の第1の端子に接続される。このスイッチの機能は、当該結合信号(以下「基準信号」と称される)か反射信号かのいずれかをヘテロダイン受信機の入力に送ることであり、そこで基準信号および反射信号に関する大きさおよび位相情報が抽出される。
【0064】
基準方向性結合器100からの主出力は、搬送波方向性結合器102に入力され、この結合器は、順方向に伝達された電力信号のもう1つの部分を、搬送波除去または順方向に伝達された測定信号と反射された測定信号との間の分離強化を提供する回路において用いるためにサンプリングする。この実施例において、この搬送波除去回路は、反射信号を順方向信号から分離する低電力サーキュレータ104の第1のポートと第3のポートとの間の分離を強化する。
【0065】
搬送波方向性結合器102からの主出力は、サーキュレータ104の第1のポートに接続される。サーキュレータ104の第2のポートは、スイッチ62に接続されていて、供給源からの順方向に方向付けられた信号がケーブル55に沿っておよびアンテナに沿って組織中に伝達されることを引起す。サーキュレータの第2のポートは、アンテナから反射された信号も(ケーブル55およびスイッチ62を介して)受信する。サーキュレータ104は、その第3のポートへ反射信号を向けるように配置されていることによって、反射信号を第1のポートで受信した順方向信号から分離する。
【0066】
サーキュレータの第3のポートから出てきた反射信号は、分離方向性結合器106の入力ポートに入り、この結合器は、サーキュレータ104の第1のポートと第3のポートとの間の分離を破って第3のポートに入るいずれの順方向信号とも逆位相である信号を主線に注入する。注入された信号は、搬送波除去信号として知られており、搬送波方向性結合器102からの結合搬送波信号から生成される。結合搬送波信号は、可変減衰器108(この実施例においてはDSPユニット56からの信号V3によって制御されている。他の実施例においては、手動で調節可能な減衰器を用いてもよい)に入力され、この可変減衰器は、搬送波信号の振幅を、注入された信号の振幅がサーキュレータの第3のポートから検出器の入力に向かって出てくる不要な信号と等しくなるように調節する。可変減衰器108からの出力は、可変位相調節器110(この実施例においては、DSPユニット56からの信号V4によって制御される。他の実施例においては、手動で調節可能な位相移相器を用いてもよい)に入力され、この可変位相調節器は、搬送波信号の位相を調節して、サーキュレータ104の第3のポートからの信号の不要な成分と注入された信号との間に180°の位相シフトがあることを確実にする。位相調節器110は、たとえばPINダイオード調節器のような電子的に制御される装置、またはたとえば同軸トロンボーンのような機械的に制御される調節器である。
【0067】
除去回路は、代表的なケーブルアセンブリが適切にされた可変減衰器および位相調節器の位相および大きさを調節することによって構築されてもよい。これにより、ケーブルによって引起される位相および大きさの変化も除去されることが確実になる。第3の方向性結合器の結合ポートに注入される信号の位相および大きさを注意深く調節することによって、不要な信号成分を完全に除去してもよく、そのため分離方向性結合器106からの信号出力は、針アンテナと組織との間のインピーダンス不整合のみによるものであってもよい。この配置は、測定システム全体の測定感度を高める。
【0068】
分離方向性結合器106の出力は、スイッチ112の第2の端子へ与えられ、そこでこの出力は、選択されたスイッチ構成に従ってヘテロダイン受信機によって選択的に受信される。
【0069】
この実施例において、ヘテロダイン受信機は、位相および大きさ情報を基準信号および反射信号から抽出するように配置された二重IFヘテロダイン検出器を含む。上述のように、DSPユニット56は、信号V5を生成し、この信号は、スイッチ112の構成を基準信号か反射信号かのいずれかをヘテロダイン受信機に送るように制御する。このスイッチは、反射型か吸収型かのいずれかのPINスイッチまたは同軸スイッチであってもよい。
【0070】
スイッチ112の出力は、第1の周波数混合器114のRF入力に接続されている。第1の局部発振器116は、信号を第1の周波数混合器114のLO入力に送出するように接続されている。したがって第1の周波数混合器114からの出力信号(第1の中間周波数である)は、第1の局所発振器信号の周波数と入力(反射または基準)信号の周波数との間の差異に対応する周波数を有する信号を含む。
【0071】
第1の周波数混合器114からの出力信号は、第1のローパスフィルタ118に与えられ、このフィルタの機能は、第1の周波数混合器114によって生成された差異周波数のみがこの系統における次の構成部品に進むことが許される、すなわち2つの入力周波数の合計である信号およびいかなる他の不要な信号もフィルタにかけられて除去されることを確実にすることである。
【0072】
第1のローパスフィルタ118からの出力は、第2の周波数混合器120のRF入力に与えられる。第2の局部発振器122は、第2の周波数混合器120のLO入力に接続されている。したがって、第2の周波数混合器120からの出力信号(第2の中間周波数である)は、第2の局部発振器信号の周波数と第1の中間信号との間の周波数との間の差異に対応する周波数を有する信号を含む。
【0073】
第2の周波数混合器120からの出力信号は、第2のローパスフィルタ124に与えられ、このフィルタの機能は、第2の周波数混合器120によって生成された差異周波数のみがこの系統における次の構成部品に進むことを確実にすることである。
【0074】
第2のローパスフィルタ124の出力は、アナログ−デジタル変換器(ADC)126に与えられ、このADCの機能は、ヘテロダイン受信機によって生成されたアナログ信号をデジタル形式に変換して、変換された信号がDSPユニット56によって処理されることを可能にすることである。必要な位相および大きさ情報を信号から効果的に抽出可能であるためには、組織測定を行なうために用いられるミリメートル波またはサブミリメートル波周波数を標準アナログ−デジタル変換器で用いることができる周波数に減少させるために3つ以上の段を用いる必要があることがある。したがって、原信号の下方変換がたとえば上述の3つ以上の段のような複数の段において起こってもよい。たとえば、6つの周波数混合器、6つのローパスフィルタおよび6つの局部発振器を用いる下方変換システムは、以下のように構成されてもよい。
−反射された信号周波数=200GHz
−第1のRF入力(RF1)=反射された信号=200GHz
−第1の局部発振器信号(LO1)=40GHz
−第1のフィルタをかけられた中間信号(IF1)=RF1−LO1=160GHz
−第2のRF入力(RF2)=IF1=160GHz
−第2の局部発振器信号(LO2)=40GHz
−第2のフィルタをかけられた中間信号(IF2)=RF2−LO2=120GHz
−第3のRF入力(RF3)=IF2=120GHz
−第3の局部発振器信号(LO3)=40GHz
−第3のフィルタをかけられた中間信号(IF3)=RF3−LO3=80GHz
−第4のRF入力(RF4)=IF3=80GHz
−第4の局部発振器信号(LO4)=40GHz
−第4のフィルタをかけられた中間信号(IF4)=RF4−LO4=40GHz
−第5のRF入力(RF5)=IF5=40GHz
−第5の局部発振器信号(LO5)=39GHz
−第5のフィルタをかけられた中間信号(IF5)=RF5−LO5=1GHz
−第6のRF入力(RF6)=IF5=1GHz
−第6の局部発振器信号(LO6)=950MHz
−第6のフィルタをかけられた中間信号(IF6)=RF6−LO6=50MHz
ヘテロダイン検出器によって生成される第6のフィルタをかけられた中間信号の周波数は、この信号を標準のADCユニットで用いることを可能にするのに十分に低い。第1の4つの局部発振器信号は、適切な電力分割器と組合せられた同じ周波数供給源由来のものであってもよい。
【0075】
DSPユニット56は、位相および大きさ情報を基準信号と反射電力測定信号との両方からデジタルに抽出するためならびに針アンテナの遠位先端と接触している組織の複素インピーダンス(または他の所望の特性)を計算するために用いられる。
【0076】
発振器間の相対的な周波数ずれによって引起されるいかなる悪影響も最小化するために、第1および第2の局部発振器116、122の周波数を供給源発振器84と同期させてもよい。そのうえ、局部発振器を測定周波数に同期させることにより、システムにおける位相変化が単一の供給源を基準とすることが可能になる。
【0077】
単一ポート較正をアンテナの遠位端で行なってもよい。これは、複数の負荷をアンテナの端部に接続し、較正ルーティンを実行することによってなされてもよい。アンテナをそれぞれ異なるが再現可能な特性インピーダンスを有する複数の液状負荷に浸漬することが好ましいことがある。複数の固体負荷、または固形材料をすりつぶしてアンテナの放射区間が包囲されることを可能にする粉体または粉末にすることにより作られた複数の負荷を用いることも望ましいことがある。次に、1ポート較正をインピーダンスが異なるが値が再現可能である3つの負荷で行なうことを可能にする数学的ルーティンを実行することができる。このシステムに要求される較正は、明確に定義された開回路と短絡回路と50Ω負荷とを標準試験ケーブルの端部に取付けることが要求されるベクトルネットワーク分析器によって行なわれる較正ルーティンに幾分類似するものである。ここで用いられる較正ルーティンは、針アンテナが3つの標準負荷を取付けられるのには向いていないという点でより複雑である。よって、複数の液体または粉末がこの問題に対する有用な解決策を提供してもよい。一旦3つの再現可能な負荷が見つかったならば、単一ポート較正を行ない、測定値をスミス図表上にマッピングすることが可能である。スミス図表を用いて複素インピーダンスの任意の値を示すと便利である。次に、ある組織種別または組織状態がこの図表に示される具体的な複素インピーダンス値によって認識される。
【0078】
この装置は、DSPユニット56に接続された足踏みスイッチ式またはハンドピース式制御装置(図示せず)を用いて始動されてもよい。
【0079】
図6には、この発明の実施例で用いるのに好適なアンテナ構造が示されている。この構造は、針の形態の、すなわち尖った遠位端130を備えた単一のモノポールアンテナ128を含む。針は、剛性の生体適合性材料上に形成されてもよく、またはたとえばパレリンCなどの薄い生体適合性被膜を備えたステンレス鋼から作られていてもよい。アンテナ128は、パッチ132に取付けられ、このパッチから突出している。パッチは、アンテナ構造を皮膚の表面に取付けるための、粘着性のある(すなわちその遠位表面134上に接着剤の層を備えた)パッチであってもよい。電磁信号を搬送するケーブルアセンブリ136(たとえば上述のケーブル45および55に対応する)は、針の近位端にパッチを通って取付けられていてもよい。好ましくは針は、長さが2mm未満であり、好ましくはその直径は、0.5mm未満である。
【0080】
図7には、この発明の実施例で用いるのに好適な別のアンテナ構造が示されている。この構造は、針アンテナ136の規則的アレイを含み、各アンテナは、図6に示された配置と類似する方法で粘着性のあるパッチ138に取付けられ、このパッチから突出している。この実施例において、各アンテナ136は、その近位端に取付けられたそれ独自のケーブル140を有する。粘着性のあるパッチは、このパッチが皮膚表面になじむことを可能にするために可撓性材料から作られてもよい。
【0081】
パッドまたは可撓性パッチ上のピンまたは針アンテナの大きなアレイは、測定と治療との両方を実行することができる装置で用いるとき特に有利であることがある。そのような実施例において、各針アンテナは、それ独自の独立して制御可能な測定信号発生器と治療信号発生器とを有してもよい。測定値は、アレイ中のすべてのアンテナについて得られ、次に対象の組織構造(たとえば汗腺または皮脂腺)中にあると検出されたアンテナのみが治療モードに切り替えられるか、または組織構造に影響を与えるのに十分なマイクロ波またはミリメートル波またはサブミリメートル波エネルギで通電されてもよい。
【0082】
加えてまたはこれに代えて、この装置は、アンテナを皮膚構造のより深くに挿入するか、アンテナを完全に引き抜くかのいずれかのために個々のアンテナをパッチを基準として移動させる機構を含んでもよい。この移動は、測定された情報に従って制御されてもよい。圧電または磁歪材料またはリニアモータ配置を用いて、個々のピンまたはピンの一団を移動させてもよい。
【0083】
図8にはこの発明の実施例である装置の概略図が示されており、この装置において、可撓性パッチ144に取付けられたアンテナのアレイ中の各アンテナ142は、独立に制御可能な増幅器146を備えた専用の信号線を有するが、すべての増幅器は、共通の供給源発振器148を有する。図9には、各アンテナがそれ独自の供給源発振器150を有する代替的な構成が説明されている。
【0084】
上述のすべての実施例において、電力増幅器は、針またはピンアンテナの近傍に実装されてもよい。たとえば、電力増幅器は、針アンテナアレイを支持するために用いられる可撓性パッチ(基板)の最上部の層の中に実装されてもよい。供給源発振器によって生成される信号レベルを上昇させるためには、駆動増幅器を供給源発振器と電力増幅器との間で用いることが必要なことがある。単一の駆動増幅器を用いて複数の電力増幅器を駆動してもよく、たとえば、1つの駆動増幅器を用いて4つの電力増幅器を駆動し得、すると40個の駆動部のアレイを160個の電力増幅器を駆動するように構成し得る。
【0085】
図10は、上述のような侵襲性または低侵襲性皮膚治療システムを実現化するために用いられてもよい器具全体についての物理的配置の概略図である。この配置は、針アンテナのアレイが治療を必要とする頭皮の部位に導入される、円形脱毛症の治療に特に有用であってもよい。
【0086】
皮膚治療器具152は、サンドイッチ状の層からなる自己完結型積層構造を含み、このサンドイッチ状の層は、上述のものなどの複数の針アンテナ158を含む針アンテナアレイ156と、基板材料160と、さらなる層を含むハウジング162とを含む。さらなる層は、ミリメートル波またはサブミリメートル波電力トランジスタの配置と、駆動トランジスタおよび電力分割ネットワークの配置と、供給源発振器の配置と、制御回路の配置と、電力供給システム(これは電池パックならびに昇圧コンバータおよび/もしくは降圧コンバータまたは外部電力ケーブル166であってもよい)と、図4および図5に関して上述した装置の構成部品に対応するユーザ情報入力および表示手段とを含んでもよい。この器具は、一体ハンドル164によって把持されてもよい。
【0087】
治療器具152を、それを頭皮154の表面上に置くことによって患者に当ててもよい。この装置を、外科医が装置を簡単に適切な位置に保持することを可能にしながら患者の不快感が最小化されることを確実にするハンドル配置を用いて、適所に治療中保持してもよい。
【0088】
アレイ156の大きさは、脱毛症によって特定の患者に引起された毛の損失量に適応して開発されてもよく、たとえば大きさは1cm2から100cm2にわたってよい。円形脱毛症の治療は、0.2mm〜2mmのミリメートル波またはサブミリメートル波エネルギの侵入深さを必要とすることもある。したがって、この実施例は、たとえば300GHzまたは500GHzのような100GHzを超える周波数が用いられるとき、この臨床用途にとりわけ向いている。
【0089】
この発明、とりわけ図10に示される小型の器具は、マイクロ波、ミリメートルおよびサブミリメートル波発電技術における最近の進歩により可能となった。従来、半導体または固体素子を用いて、マイクロ波周波数帯の高いほうの端およびそれを超えてミリメートル波またはサブミリメートル波領域で発電することは不可能であった。以前はこれらの周波数での発電は、クライストロン、マグネトロン、または電磁波の誘導放射によるマイクロ波の増幅(MASER:Microwave Amplification by Stimulated Emission of Radiation)を用いた技術に基づく装置など、大きな管による装置を用いてのみ可能であった。これらの発電方法は、非常に非実用的であり、たとえば、クライストロンによるシステムを用いて10Wまでの電力を200GHzで発電するには、機器のための大きな部屋を必要とする恐れがあった。そのようなシステムの導入の際は、水冷および非常に大きな高電圧/電流電源が要求される。これらの管による供給源は、不安定になる傾向もあり、組織中に送出されている電力のレベルの制御が困難である恐れがあり、すなわち平均電力レベルは、電力信号のパルス幅またはデューティサイクルを変更することによって制御される。
【0090】
この発明は、マイクロ波、ミリメートルおよびサブミリメートル波モノリシック集積回路(MMIC)における最近の進歩を特に活用する。この発明に関連付けられる新しい医療治療装置の実現化を成功させるためには、リン化インジウム(InP:Indium Phosphide)高電子移動度トランジスタ(HEMT:High Electron Mobility Transistor)として知られる装置がとりわけ興味深い。InP HEMT装置における最近の進歩は、テラヘルツ(1THz=1000GHz)周波数まで動作させてもよいパワーデバイスをこの技術が実現しつつあることを示している。InP HEMTの構築において、リン化インジウムは、半導体InGaAsをその上で成長させる基板である。InGaAsは、同じ格子定数をInPと共有する。InP基板は、たとえば76mmと小さく、たとえば12.4の高い誘電定数を有する傾向があり、これはGaAsのものに近い。
【0091】
GaAs pHEMTは、マイクロ波およびミリメートル波電力増幅器を実現化するために選択される装置として浮上している。高い出力電力密度を得ることを可能にするためには、高い電力密度と高いシート電荷とを備えた装置構造が要求される。単一ヘテロ接合AlGaAs/InGaAs pHEMTにおけるシート電荷密度の限界は、2.3×1012cm-2であり、したがって、シート電荷を増加させるために二重ヘテロ接合装置構造を用いなくてはならない。
【0092】
単一ヘテロ接合AlInAs/GaInAs HEMTのミリメートル波電力性能も証明されている。好適なパワーHEMTデバイスの要件は、出力電力および電力付加効率(PAE)を高めるための、高い利得、高い電流密度、高い絶縁破壊電圧、低いアクセス抵抗、ならびに低いニー電圧である。AlInAs/GaInAs/InP(InP HEMT)は、高い絶縁破壊電圧を除いてこれらの要件をすべて満たす。この限界は、装置をより低いドレインバイアスで動作させることによって克服されてもよい。InP HEMTの低ドレインバイアス電圧での高利得および高PAE特性は、InP HEMTを電池式の機器において用いるための理想的な候補にしている。InP基板のもう1つの利点は、GaAsよりも40%高い熱伝導性を示すことであり、したがって装置の単位面積あたりのより高い消散電力または同じ電力分布に対するより低い動作温度を可能にしている。したがって、InP HEMT装置を用いて、手持ち式治療装置を実現するまたは装置をモノポールまたはピンアンテナの近傍に実装することを可能にすることが望ましいことがあり、そのようにしてサンドイッチ状の層を含む医療装置を作製してもよい。高い熱伝導性は、放射針アンテナのアレイを駆動するために複数の装置が用いられることも可能にしてもよい。別々のInP HEMT装置を用いて各ピンまたは針放射構造に供給することが可能であってもよい。
【0093】
この発明を実現化するために用いてもよいいくつかの具体的な装置例を以下に挙げる。
1. TRW社(TRW Inc.)は、200GHzまで動作することがある、直径75mmのInP基板および0.1μm不動態化InP HEMT装置に基づいた生産工程を開発している。
2. テラビームhxiミリメートルウェーブプロダクツ(Terabeam hxi Millimeter Wave Products)社(www.terabeam-hxi.com)は、1dB圧密点で92GHz〜96GHzの周波数範囲にわたって動作させると、17dBm(50mW)の出力電力を22dBの利得で生み出すパワーモジュールを製造している(モデル番号HHPAW−098)。
3. キャッスルマイクロウェーブ社(Castle Microwave Limited)は、W帯電力増幅器(部品番号AHP−94022624−01)を以下の仕様で生産する会社の代表である。
a.中央動作周波数:94GHz
b.帯域幅:94GHzから+/−1GHz
c.典型飽和出力電力:26dBm(400mW)
d.最小利得:24dB
4. n+−p−n−n-−n+ウルツ鉱GaN構造は、230GHz〜250GHzの周波数範囲内の周波数で動作されて、350mWまでの連続波電力および1.3Wまでのパルス電力を提供することがあることが示されている(http://iop.org/EJ/02681242/16/9/311)。
5. ノースロップグラマンスペーステクノロジー(Northrop Grumman Space Technology:NGST)社は、0.1μmのInGaAs/InAlAs/InP HEMT MMICを100mmのInP基板上に作製するための工程を開発している。
【0094】
InPベースのHEMT技術は、将来の高容量高性能ミリメートル波用途のための有力な候補である。以下の参考文献には、400GHzもの高さのカットオフ周波数を示すInPベースのHEMT装置の詳細が記載されている:K.シノハラ(Shinohara)、Y.ヤマシタ(Yamashita)、A.エンドウ(Endoh)、K.ヒコサカ(Hikosaka)、T.マツイ(Matsui)、T.ミムラ(Mimura)、およびS.ヒヤミズ(Hiyamizu)、「400GHzカットオフ周波数を備えた超高速擬似格子整合InGaAs/InAlAs HEMT(Ultrahigh-Speed Pseudomorphic InGaAs/InAlAs HEMTs With 400-GHz Cutoff Frequency)」、IEEEエレクトロンデバイスレターズ(IEEE Electron Device Letters)、2001年11月、第22巻、第11号、p.507−509。
【0095】
つまり、この発明を実際に実現化することを可能にするために用いてもよい半導体装置技術には、mHEMTと、pHEMTと、MESFETと、HBTと、GaNとが含まれる。これらのおよび他の類似の装置技術の完全な詳細は、以下の教科書から入手されてもよい:M.ゴリオ(Golio)著、「RFおよびマイクロ波半導体装置ハンドブック(RF and Microwave Semiconductor Device Handbook)」、CRCプレス(CRC Press)、ISBN:0−8493−1562−X。特に興味深い章:第8章−高電子移動度トランジスタ、第5章−ヘテロ接合バイポーラトランジスタ、および第7章−金属半導体電界効果トランジスタ。
【0096】
上述のように、高周波数ミリメートル波エネルギまたはサブミリメートル波エネルギを組織の識別または状態測定を行なうために用いることの顕著な利点は、アンテナによって生成される低電力電磁場が放射針アンテナの先端の近くの非常に短い距離にわたって放射されるため、反射または測定信号が、近接する生物学的組織の層によって影響を受けないことである。たとえば、乾燥した皮膚について測定を行ない、特定の対象の層の組織全体の厚みは2mmであり、100GHzの周波数を用いて測定を行なう場合、乾燥した皮膚における100GHzのマイクロ波エネルギの侵入深さが0.36mmであることから、得られる反射信号は、皮膚組織のみによるものである。一方、20GHzを代わりに用いる場合、測定される信号は、乾燥した皮膚における20GHzの侵入深さが1.38mmであることから、近接する組織によって引起される干渉または信号成分に見舞われることがある。なお、侵入深さは、本明細書中において、波の振幅がその初期送出時の振幅の37%まで減少されたときにその波が進んだ距離として定義される。
【0097】
表1は、この発明を実現化するために興味深いことがある周波数での乾燥したおよび濡れた皮膚に関連付けられる関連性のある電気特性および誘電特性の一覧である。好適な針アンテナ構造の設計時には、これらの特性を考慮に入れるべきである。
【0098】
【表1】

【0099】
上の表における:εr、λ、λ/4およびdは、それぞれ比誘電率、負荷波長、4分の1負荷波長(またはモノポールアンテナ長)、および侵入深さを表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚治療装置であって、
10GHz以上の周波数を有する電磁信号を出力するように配置された信号発生器と、
出力された前記電磁信号を受信するように接続されたモノポールアンテナとを備え、前記モノポールアンテナは、皮膚組織中に挿入可能な貫入性構造を有し、前記貫入性構造は、受信した前記電磁信号に対応する局在化された放射場を前記皮膚組織中に放つように配置された放射部を含み、
前記信号発生器は、前記放射場が皮膚組織中にエネルギを10mW以上の電力レベルで送出することを可能にする電力レベルで前記電磁信号を出力するように配置されている、皮膚治療装置。
【請求項2】
前記貫入性構造は、針を含み、前記針の長さは、前記針が予め定められた負荷インピーダンスと接触するとき前記電磁信号の波長の4分の1の奇数倍に相当し、前記針は、尖った先端を有し、前記放射部は、前記先端に位置する、請求項1に記載の皮膚治療装置。
【請求項3】
前記放射部は、前記針の前記先端から1mm未満にわたって延在する、請求項2に記載の皮膚治療装置。
【請求項4】
前記信号発生器は、出力される前記電磁信号の前記電力レベルを調節可能に制御するための電力レベルコントローラを含む、請求項1から3のいずれかに記載の皮膚治療装置。
【請求項5】
前記信号発生器と前記アンテナとの間に接続された送出電力検出器を含み、前記送出電力検出器は、
(i) 前記信号検出器から前記アンテナへ伝達された電力を示す伝達電力レベルと、
(ii) 前記放射部から前記アンテナを通って反射された電力を示す反射電力レベルとを検出するように配置されており、
前記電力レベルコントローラは、出力される前記電磁信号の前記電力レベルを前記送出電力検出器によって検出された前記伝達電力レベルおよび前記反射電力レベルに基づいて調節可能に制御するように配置されている、請求項4に記載の皮膚治療装置。
【請求項6】
前記送出電力検出器および前記電力レベルコントローラと通信中の処理装置を含み、前記処理装置は、
前記伝達電力レベルを示す信号および前記反射電力レベルを示す信号を前記送出電力検出器から受信し、
皮膚組織中に前記放射部で送出されたエネルギを示す正味送出電力レベルを決定し、
決定された前記正味送出電力レベルに基づいて前記電力レベルコントローラに対する制御信号を生成するように配置されており、
前記電力レベルコントローラは、前記出力電磁信号の前記電力レベルを前記処理装置からの前記制御信号に基づいて調節可能に制御するように配置されている、請求項5に記載の皮膚治療装置。
【請求項7】
複数のモノポールアンテナを備え、各前記モノポールアンテナは、前記信号発生器から出力される電磁信号を受けるように配置されており、各前記モノポールアンテナは、皮膚組織中に挿入可能な貫入性構造を有し、前記貫入性構造は、受信した前記電磁信号に対応する局在化された放射場を前記皮膚組織中に放つように配置された放射部を含み、
前記装置は、複数の電力レベルコントローラと複数の送出電力検出器とを備え、各前記モノポールアンテナは、各前記モノポールアンテナと関連付けられたそれぞれの前記電力レベルコントローラと前記送出電力検出器とを有し、各それぞれの前記電力レベルコントローラは、独立して制御可能である、請求項6に記載の皮膚治療装置。
【請求項8】
前記複数のアンテナは、手持ち式アプリケータ構造に実装され、前記アプリケータ構造から突出しており、前記アプリケータ構造は、前記複数の電力レベルコントローラと、前記複数の送出電力検出器とを含み、前記信号発生器は、複数の独立して制御可能な電力増幅器を前記アプリケータ構造内に含み、各前記アンテナは、それぞれの前記電力増幅器から出力される前記電磁信号を受信するように接続されている、請求項7に記載の皮膚治療装置。
【請求項9】
前記モノポールアンテナによって受信された出力された前記電磁信号の電力レベルは、10mW以上である、請求項1から8のいずれかに記載の皮膚治療装置。
【請求項10】
前記信号発生器は、基準信号を出力するように配置されており、前記装置は、前記信号発生器と前記モノポールアンテナまたは各前記モノポールアンテナとの間に接続されて前記基準信号および前記アンテナまたは各前記アンテナから返ってくる反射信号を受信するように接続される測定検出器を備え、前記測定検出器は、前記反射信号の大きさおよび位相を前記基準信号を基準として示す信号を出力するように配置されている、請求項1から9のいずれかに記載の皮膚治療装置。
【請求項11】
前記測定検出器および前記信号発生器と通信中の処理装置を含み、前記処理装置は、
組織種別を示す、前記アンテナまたは各前記アンテナの前記放射部での前記組織の複素インピーダンス値を、前記測定検出器によって出力された前記反射信号の大きさおよび位相を前記基準信号を基準として示す前記信号に基づいて計算し、
計算された前記複素インピーダンス値に基づいて、前記信号発生器に対する制御信号を生成するように配置されている、請求項10に記載の皮膚治療装置。
【請求項12】
前記信号発生器は、電磁信号を前記モノポールアンテナまたは各前記モノポールアンテナに、出力される前記電磁信号の電力レベルを10mW以上高めるための電力増幅器を含む治療チャネルか、前記電力増幅器を迂回する測定チャネルかのいずれかを介して送出するように配置されており、前記信号発生器からの前記電磁信号は、前記処理装置からの生成された前記制御信号に基づいて前記測定チャネルと前記治療チャネルとの間で切換え可能である、請求項11に記載の皮膚治療装置。
【請求項13】
前記測定チャネルから送出される前記電磁信号の電力レベルは、前記治療チャネルから送出される前記電磁信号よりも2桁以上少ない、請求項12に記載の皮膚治療装置。
【請求項14】
前記モノポールアンテナまたは各前記モノポールアンテナを治療位置と後退位置との間で移動させるためのアンテナ移動機構と、
前記測定検出器および前記アンテナ移動機構と通信中の処理装置とを含み、前記処理装置は、
組織種別を示す、前記アンテナまたは各前記アンテナの前記放射部での前記組織の複素インピーダンス値を、前記反射信号の大きさおよび位相を前記測定検出器によって出力される前記基準信号を基準として示す前記信号に基づいて計算し、
計算された前記複素インピーダンス値に基づいて、前記アンテナ移動機構に対する制御信号を生成するように配置されており、
前記アンテナ移動機構は、前記アンテナまたは各前記アンテナを前記治療位置と前記後退位置との間で前記制御信号に基づいて移動させるように配置されている、請求項10に記載の皮膚治療装置。
【請求項15】
皮膚組織測定装置であって、
10GHz以上の周波数を有する測定信号と基準信号とを出力するように配置された信号発生器と、
出力される電磁信号を受信するように接続されたモノポールアンテナとを備え、前記モノポールアンテナは、皮膚組織中に挿入可能な貫入性構造を有し、前記貫入性構造は、受信した前記電磁信号に対応する局在化された放射場を前記皮膚組織中に放つように配置された放射部を含み、
前記信号発生器と前記モノポールアンテナとの間に接続されて、前記基準信号および前記アンテナから返ってくる反射信号を受信する検出器をさらに備え、前記検出器は、前記反射信号の大きさおよび位相を前記基準信号を基準として示す信号を出力するように配置されている、皮膚組織測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2012−517256(P2012−517256A)
【公表日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−548774(P2011−548774)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【国際出願番号】PCT/GB2010/000220
【国際公開番号】WO2010/092328
【国際公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(509160557)バンガー・ユニバーシティ (2)
【氏名又は名称原語表記】BANGOR UNIVERSITY
【Fターム(参考)】