説明

電磁気素子の製造方法

【課題】レジスト残渣に起因するリーク電流の増大を生じさせることがなく、微細パターンの形成が可能であり、電極のエッジ部分の絶縁膜が薄くなることに起因するリーク電流の増大を抑制することが可能な電磁気素子の製造方法を提供すること。
【解決手段】基板上に、12(CaxSr1-x)O・7Al23(0≦x≦1)を含む絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程と、絶縁膜の上にアンモニウム塩アルカリ溶液を含む現像液で現像可能な第1フォトレジストを塗布し、第1フォトマスクパターンに応じて第1フォトレジストを露光する第1フォトレジストパターン形成工程と、第1フォトレジストをアンモニウム塩アルカリ溶液を含む現像液に接触させ、第1フォトレジストの可溶部分の溶解と同時に、絶縁膜をエッチングする現像・エッチング工程とを備えた電磁気素子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁気素子の製造方法に関し、さらに詳しくは、電気的又は磁気的特性の変化を検出することが可能であり、かつ、いずれかの部分に絶縁膜を備えた電磁気素子(例えば、電界効果素子)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ある種の半導体に電界を印加すると、その電気的特性又は磁気的特性が変化することが知られている。この現象は、各種の電磁気素子に応用され、あるいは、応用が検討されている。
例えば、電界効果トランジスタ(Field effect transistor、FET)は、多数キャリアが流れる狭い伝導チャネル内に電界を印加するためのゲート電極を備えている。ゲート電極に印加する電圧を制御すると、伝導チャネル内に作用する電界が変化し、伝導チャネル内のキャリア数が変化する。そのため、ゲート電圧を制御することによって、ソース・ドレイン端子間の電流を制御することができる。
また、非特許文献8には、SrTiO3とTiO2の界面、又は、NbドープSrTiO3とSrTiO3の界面に電界を印加すると、界面に電子キャリアが2次元的に閉じこめられ、量子効果により巨大な熱起電力が生じることが報告されている。その起電力は、室温においても500〜1000μV/Kと大きい。
さらに、非特許文献9には、SrTiO3基板上にLaTiO3薄膜を成長させ、そこに電界を印加すると、界面で電子キャリア数及び電気伝導率が大きく変化することが報告されている。
【0003】
この種の電磁気素子において、電界を印加するための電極とキャリアが流れる領域との間には、通常、絶縁膜が設けられる。例えば、FETの場合、伝導チャネルとゲート電極との間にゲート絶縁膜が設けられる。
FETを用いた電磁気素子の場合、電磁気素子の微細化及び低消費電力化のために、ゲート絶縁膜を数ナノメートル程度に薄膜化し、静電容量を大きくすることで高性能化を計ってきた。しかしながら、絶縁膜の薄膜化は、量子力学的なトンネル効果等によるリーク電流の増大を招き、素子の信頼性を著しく低下させている。そのため、薄膜化に代わる静電容量を増大させる方法の必要性が高まっている。
このような方法の1つとして、絶縁膜を、従来の誘電率が低いSiO2系材料から高誘電率絶縁膜(high-k絶縁膜)にする方法が提案されている。有望な高誘電率絶縁膜として、ハフニウム酸化物(HfO2)、ジルコニウム酸化物(ZrO2)、アルミニウム酸化物(Al23)などが挙げられる。
【0004】
また、SrTiO3基板を用いたFET素子は、従来のシリコン基板を用いたFET素子では得られなかった透明性、多機能性を有する電磁気素子として期待されている。そのゲート絶縁膜として、MgO(非特許文献1)、Al23(非特許文献2)、アモルファスCaHfO3(非特許文献3)、エピタキシャルCaHfO3(非特許文献4)、パリレン(非特許文献5)を用いた報告例がある。
【0005】
さらに、非特許文献6には、各種電磁気素子に用いられる絶縁膜ではないが、フローティングゾーン法により作製した12CaO・7Al23(C12A7)単結晶を20%H2/80%N2混合ガス中において1300℃で2時間加熱し、室温まで急冷することにより得られるH-含有C12A7(C12A7:H)単結晶が開示されている。
同文献には、
(1)C12A7を水素雰囲気下で加熱すると、酸化物のサブナノメーターサイズのケージの中にH-イオンが導入される点、
(2)C12A7:H単結晶に紫外線を照射すると、無色透明な絶縁体から黄緑色の導電体に変化し、紫外線照射を止めた後も光誘起導電状態が維持される点、及び、
(3)導電性試料を320℃より高い温度に加熱すると導電性が急速に低下し、温度を550℃より高くすると試料から水素ガスが放出され、光応答性が消失する点、
が記載されている。
【0006】
また、非特許文献7には、各種電磁気素子に用いられる絶縁膜ではないが、
(1)蓋付きのカーボンるつぼ中においてC12A7を溶融させ、C12A7溶湯を急冷して透明なガラスとし、
(2)このガラスを脱気した石英管中において1000℃で加熱し、結晶化させる
ことにより得られるC12A7:e-エレクトライド(電子化物)が開示されている。
同文献には、
(a)還元雰囲気下でC12A7を溶融させると、溶湯内にC22-イオンが生成し、これがテンプレートアニオンとして機能し、C12A7相を安定化させる点、
(b)結晶化プロセスにおいて、C22-イオンが格子から除去され、ケージ内に電子が残る点、及び、
(c)得られたC12A7:e-エレクトライドは、暗緑色で電子伝導性を示すが、アルミナるつぼを用いて大気中で作製したC12A7は白色の絶縁体となる点、
が記載されている。
【0007】
また、特許文献1には、各種電磁気素子に用いられる絶縁膜ではないが、
(1)Sr(OH)2、CaCO3及びγ−Al23を6:6:7((Sr+Ca)/Al=12:14)となるように混合した混合物をプレス成形し、
(2)成形体を900℃で2時間焼成して固相反応させ、
(3)室温まで約100℃/秒の速度で急冷する
ことにより得られる12(Ca0.5Sr0.5)・7Al23((CS)12A7)化合物が開示されている。
同文献には、
(a)得られた(CS)12A7化合物中には、O2-イオンラジカル及びO-イオンラジカルが包摂されている点、及び、
(b)(CS)12A7化合物に電場を印加すると、活性酸素種をそのまま雰囲気中に放出させることができる点、
が記載されている。
【0008】
さらに、特許文献2には、各種電磁気素子に用いられる絶縁膜ではないが、
(1)フローティングゾーン法により作製されたC12A7単結晶を厚み300μmの鏡面研磨された板に加工し、
(2)これを20%容量水素−80%容量窒素の混合ガス中で1300℃で2時間保持した後、同一雰囲気中で速やかに冷却する
ことにより得られるC12A7化合物が開示されている。
同文献には、
(a)このような方法により、C12A7結晶のケージ内に水素陰イオンが導入される点、及び、
(b)水素陰イオンを含むC12A7結晶に紫外線を照射すると、着色が生じると同時に、電子伝導性が生じる点、
が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4105447号公報
【特許文献2】国際公開WO2003/089373号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Pallecchi et al., Appl.Phys.Lett. 78, 2244(2001)
【非特許文献2】Ueno et al., Appl.Phys.Lett. 83, 1755(2003)
【非特許文献3】Shibuya et al., Appl.Phys.Lett. 85, 425(2004)
【非特許文献4】Shibuya et al., Appl.Phys.Lett. 88, 212116(2006)
【非特許文献5】Takagi et al., Appl.Phys.Lett. 89, 133504(2006)
【非特許文献6】Hayashi et al., Nature 419, 462(2002)
【非特許文献7】Kim et al., Chem.Mater. 18, 1938(2006)
【非特許文献8】H.Ohta et al., Nature Materials 6(2007)129
【非特許文献9】S.Thiel et al., Science 313(2006)1942
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
例えば、FETの場合、FET特性として、ゲートリーク電流密度:1×10-6A/cm2(@1MV/cm)以下、ON/OFF比:1×106以上、サブスレッショルドS値:0.5V以下という特性が要求されている。ここで、「ゲートリーク電流」とは、ゲート絶縁膜の薄膜化に起因するゲートへの電流の漏れをいう。「ON/OFF比」とは、ON時のドレイン電流とOFF時のドレイン電流の最大比をいう。「サブスレッショルドS値」とは、しきい値近傍でドレイン電流を一桁変化させるのに必要なゲート電圧変化量をいう。
【0012】
しかしながら、従来検討されてきたゲート絶縁膜では、これらの特性のすべてを満足させるのは困難であった。実際、非特許文献2では、ON/OFF比:〜1×103である。非特許文献3では、ON/OFF比:1×105であり、界面準位に伴うヒステリシスが存在する。非特許文献4では、しきい値が温度によって顕著に変化することが示されている。また、非特許文献4において、CaHfO3は、SrTiO3上にエピタキシャル成長させているため、格子定数の異なる他の基板への応用が困難である。
【0013】
また、例えば、熱電素子の場合、一般に、熱電性能はキャリア数によって変化し、熱電性能を最大にするキャリア数が存在する。キャリア数を最適化するためには、通常、材料にドーピングを施す。通常のバルク熱電材料では、混合、焼結、アニール等のプロセルにより材料を作製する。しかしながら、この方法では、材料を均一かつ最適なキャリア数に調整することが困難であった。
【0014】
一方、非特許文献9に開示されているように、SrTiO3基板上にLaAlO3薄膜を形成し、ゲート電極を用いてSrTiO3−LaAlO3薄膜界面に電界を印加すると、ゲート電極に印加される電圧によって、界面での電子キャリア数及び電気伝導率が大きく変化する。また、キャリアは、熱電材料表面に局在しているため、ゲート電圧の大きな領域では2次元的な閉じ込め効果による熱起電力の増大も生じる。そのため、これを熱電素子に応用すれば、ゲート電圧によって熱電特性を制御したり、あるいは、高い熱電特性を発現させることができる。
しかしながら、LaAlO3をゲート絶縁膜に用いたFET構造の熱電素子の場合、ゲート絶縁膜が誘引する界面準位のために、ゲート電圧・ドレイン電流特性に顕著なヒステリシス特性が存在する。
【0015】
これに対し、C12A7のバンドギャップは6eVであり、ワイドギャップの半導体基板(例えば、SrTiO3の場合、3.2eV)より大きい。そのため、C12A7は、ワイドギャップの半導体基板用のゲート絶縁膜として使用することができる。また、ゲート絶縁膜として通常用いられるSiO2膜の誘電率は約4であるのに対し、C12A7の誘電率は約12である。そのため、C12A7は、キャパシタ容量が大きく、微細化に適している。これらの点は、12SrO・7Al23(S12A7)及びC12A7とS12A7との混晶((CS)12A7)も同様である。
しかしながら、C12A7、S12A7、及び(CS)12A7は、いずれも専ら光誘起透明導電酸化物としての応用が検討されているのみであり、絶縁膜の薄膜化と素子の微細化が要求される各種電磁気素子の絶縁膜に応用された例は、従来にはない。
【0016】
また、ゲート絶縁膜には、通常、LaAl23などの酸化膜が用いられる。しかしながら、酸化膜は、一般にエッチングが困難である。そのため、ゲート絶縁膜は、
(1)予めレジストパターンを形成し、絶縁膜を形成し、レジストパターンを除去するリフトオフ法、又は、
(2)メタルマスクを通してパターニングするメタルマスク法
により形成されている。
しかしながら、リフトオフ法を用いてゲート絶縁膜を形成した場合、チャネル部分の基板表面にレジスト残渣が残ることがある。ゲート絶縁膜下のレジスト残渣は、素子のリーク電流を増大させる原因となる。一方、メタルマスク法は、その加工精度から、20μm以下の微細パターンを形成することはできない。
さらに、ゲート絶縁膜の上に電極をエッチング法により形成する場合において、ゲート絶縁膜のエッチングが同時に起こると、電極のエッジ部分の絶縁膜が薄くなり、ホットエレクトロンによるリーク電流が増加するという問題がある。
【0017】
本発明が解決しようとする課題は、リーク電流を増大させることなく薄膜化が可能であり、薄膜化によって素子を微細化することが可能であり、しかも界面準位に起因する動作の不安定化を生じるおそれがないC12A7、S12A7、又は、(CS)12A7を絶縁膜に用いた電磁気素子の製造方法を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、レジスト残渣に起因するリーク電流の増大を生じさせることがなく、微細パターンの形成が可能な電磁気素子の製造方法を提供することにある。
さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、電極のエッジ部分の絶縁膜が薄くなることに起因するリーク電流の増大を抑制することが可能な電磁気素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために本発明に係る電磁気素子の製造方法の1番目は、
基板上に、(1)式で表される組成を有する化合物を含む絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程と、
前記絶縁膜の上に、アンモニウム塩アルカリ溶液を含む水溶液に溶解しないマスク材料をパターン形成するマスクパターン形成工程と、
前記基板を前記アンモニウム塩アルカリ溶液を含む水溶液に接触させ、前記絶縁膜をエッチングするエッチング工程と
を備えている。
12(CaxSr1-x)O・7Al23 ・・・(1)
但し、0≦x≦1
【0019】
本発明に係る電磁気素子の製造方法の2番目は、
基板上に、(1)式で表される組成を有する化合物を含む絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程と、
前記絶縁膜の上に、アンモニウム塩アルカリ溶液を含む現像液で現像可能な第1フォトレジストを塗布し、第1フォトマスクパターンに応じて前記第1フォトレジストを露光する第1フォトレジストパターン形成工程と、
前記第1フォトレジストを前記アンモニウム塩アルカリ溶液を含む現像液に接触させ、前記第1フォトレジストの可溶部分の溶解と同時に、前記絶縁膜をエッチングする現像・エッチング工程と、
を備えていることを要旨とする。
12(CaxSr1-x)O・7Al23 ・・・(1)
但し、0≦x≦1
【0020】
電磁気素子の製造方法は、
前記絶縁膜形成工程の後、かつ、前記第1フォトレジストパターン形成工程の前に、
前記絶縁膜の上に電極膜を形成する電極膜形成工程と、
前記電極膜の上に第2フォトレジストを塗布し、第2フォトマスクパターンに応じて前記第2フォトレジストを露光し、現像する第2フォトレジストパターン形成・現像工程と、
フッ素系ガス又は塩素系ガスを主成分とする反応性イオンエッチング(RIE)により、前記電極膜をエッチング加工し、電極を形成するエッチング工程と、
前記第2フォトレジストを除去する第2フォトレジストパターン除去工程と、
をさらに備えていても良い。
【発明の効果】
【0021】
(1)式で表される組成物は、バンドギャップが大きく、かつ、誘電率も大きい。しかも、(1)式で表される組成物からなるアモルファス膜をキャリアが流れる領域の上に形成すると、アモルファス膜とキャリアが流れる領域との界面において欠陥準位が形成されにくくなる。
そのため、これを各種電磁気素子の絶縁膜として用いると、
(a)リーク電流の増大を抑制することができる、
(b)絶縁膜を薄膜化することができるので、素子を微細化することができる、
(c)絶縁膜がアモルファス膜である場合には、界面に欠陥準位が形成されにくいので、素子の動作が安定化する、
(d)絶縁膜がアモルファス膜である場合には、基板上に絶縁膜をエピタキシャル成長させる必要がないので、格子定数の異なる他の基板への応用も容易である、
という効果が得られる。
【0022】
さらに、(1)式で表される組成物は、フォトレジストの現像に用いられるアンモニウム塩アルカリ溶液に溶解する。そのため、絶縁膜のパターン形成に際してリフトオフ法を用いる必要がないので、レジスト残渣に起因するリーク電流の増大を抑制することができる。また、エッチングによるパターン形成が可能であるので、加工精度も高い。
また、(1)式で表される組成物は、多くの電極材料(例えば、Ti、Al、Cu、多結晶シリコンなど)に比べてRIEエッチング速度が遅い。そのため、絶縁膜の上に電極を形成する場合には、電極のエッジ部分にある絶縁膜を薄くすることなく、電極のみを高精度にエッチングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】電磁気素子の一種である電界効果素子の第1の具体例の概略構成図である。
【図2】電磁気素子の一種である電界効果素子の第2の具体例の概略構成図である。
【図3】電磁気素子の一種である電界効果素子の製造方法を示す工程図である。
【図4】図3に示す工程図の続きである。
【図5】図5(a)は、エッチング試験に用いた試料の平面図(上図)及びそのA−A'線断面図(下図)である。図5(b)は、図5(a)に示す試料の表面にフォトレジストを形成し、所定のパターンで露光した試料の平面図(上図)及びそのB−B'線断面図(下図)である。
【図6】Aは、SrTiO3単結晶基板の上にTi電極及びC12A7膜パターンを形成した試料の顕微鏡写真である。Bは、この試料の表面にフォトレジストを塗布し、所定のパターンで露光し、フォトリソグラフィー用の現像液で洗浄した後の試料の顕微鏡写真である。
【図7】Aは、SrTiO3単結晶基板の上にTi電極及びC12A7膜パターンを形成した試料の顕微鏡写真である。Bは、この試料をCF4+O2ガスで反応性イオンエッチングした後の試料の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に本発明の一実施の形態につて詳細に説明する。
[1. 絶縁膜]
[1.1. 組成]
本発明において、絶縁膜は、(1)式で表される組成を有する化合物を含む。
12(CaxSr1-x)O・7Al23 ・・・(1)
但し、0≦x≦1
(1)式中、「x」は、Ca及びSrに対するCaのモル比を表す。絶縁膜は、Ca又はSrのいずれか一方のみを含むもの(C12A7、S12A7)でも良く、あるいは、双方を含んでいるもの((CS)12A7)ても良い。また、絶縁膜がCa及びSrの双方を含む場合、Caのモル比xは、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なモル比xを選択することができる。
以下、C12A7、S12A7、及び、(CS)12A7を総称して、「C12A7系化合物」という。
【0025】
絶縁膜は、
(1)単一のC12A7系化合物のみからなる単一膜
(2)2種以上のC12A7系化合物からなる2層以上の積層膜、
(3)少なくとも1層のC12A7系化合物膜と、少なくとも1層のC12A7系化合物以外の化合物からなる薄膜の積層膜、
のいずれであっても良い。
絶縁膜が積層膜である場合において、少なくとも最表面がC12A7系化合物であるときには、後述する方法を用いて少なくとも最表面のエッチングをすることができる。リーク電流の増大を抑制し、かつ、絶縁膜のパターニングを容易化するためには、絶縁膜は、1種又は2種以上のC12A7系化合物薄膜のみからなるのが好ましい。
【0026】
[1.2. 構造]
絶縁膜は、結晶質でも良いが、アモルファス構造を備えているものが好ましい。C12A7系化合物は、大きなバンドギャップと高い誘電率を持つ。しかしながら、結晶質のC12A7系化合物を絶縁膜として用いると、結晶粒界があるために、キャリアが流れる領域(例えば、FETの場合は伝導チャネル)との界面に欠陥準位が形成されやすい。界面に欠陥準位が形成されると、界面準位に伴うヒステリシスが生じ、素子の動作が不安定になる。また、結晶粒界は、絶縁破壊電界を低下させる原因となる。
アモルファス構造を備えているか否かは、X線回折パターンにより判断することができる。例えば、C12A7の場合、アモルファスであれば、2θ=25〜35°のところにアモルファスC12A7に特徴的なハローな回折パターンが検出される。一方、結晶性のC12A7は、非特許文献7の図3(b)に示されるように、2θ=15〜20°又は30〜35°の領域にシャープ(半値幅2°以下)な回折ピークが検出される。
【0027】
絶縁膜が2層以上のC12A7系化合物薄膜を含む場合、少なくとも1つのC12A7系化合物薄膜がアモルファス構造を備えていれば良い。リーク電流の増大を抑制するためには、すべてのC12A7系化合物薄膜がアモルファス構造を備えているのが好ましい。
【0028】
[1.3. 二乗平均粗さ(Rrms値)]
一般に、絶縁膜表面の凹凸が大きくなるほど、ピンホールの発生や電界集中によって、リーク電流が大きくなる。この点は、本発明において用いられる絶縁膜も同様であり、絶縁膜の表面粗さは、小さいほど良い。
具体的には、絶縁膜の二乗平均粗さ(Rrms値)は、0.5nm以下が好ましい。
また、リーク電流の増大を抑制するためには、基板のRrms値に対する絶縁膜のRrms値の比(=Rrms(C12A7)/Rrms(基板))は、10未満が好ましい。Rrms値の比は、さらに好ましくは、5以下、さらに好ましくは、1以下である。
【0029】
「二乗平均粗さ」とは、表面粗さ曲線の平均線から測定曲線までの偏差の二乗を平均した値の平方根をいう。
Rrms値は、例えば、原子間力顕微鏡により所定の範囲を走査(例えば、走査面積:2μm×2μm、走査数:512)し、得られる表面形状(トポ)像を解析する方法により測定することができる。また、より広範囲(例えば、5mm×5mm)におけるRrms値は、例えば、高分解能薄膜用X線回折装置を用い、すれすれ入射X線反射率法により得られたX線反射パターンを解析する方法により測定することができる。
【0030】
[1.4. 粒径]
結晶質の薄膜は、通常、結晶粒の集合体となる。また、アモルファス薄膜は、一般に、結晶粒に類似した粒状組織の集合体となっている場合が多い。この結晶粒又は粒状組織が大きくなるほど、リーク電流が大きくなる。この点は、本発明に係る絶縁膜も同様であり、結晶粒又は粒状組織の粒径は、小さいほど良い。
リーク電流の増大を抑制するためには、結晶粒又は粒状組織の粒径は、20nm以下が好ましい。
結晶粒又は粒状組織の粒径は、例えば、原子間力顕微鏡で所定の範囲を走査(例えば、走査面積:500nm×500nm〜2μm×2μm、走査数:512)し、得られる表面形状(トポ)像を解析する方法により測定することができる。
【0031】
絶縁膜が2層以上のC12A7系化合物薄膜を含む場合、少なくとも1つのC12A7系化合物薄膜が上述した粒径の条件を備えていれば良い。リーク電流の増大を抑制するためには、すべてのC12A7系化合物薄膜が上述した粒径の条件を備えているのが好ましい。
【0032】
[1.5. 密度]
アモルファス構造を備えたC12A7系化合物の密度は、結晶質のC12A7系化合物の密度より高くなる。
C12A7系化合物に含まれるCa及びSrに対するCaのモル比をxとすると、薄膜の密度が[3.7−0.9x](g/cm3)以上[4.0−0.9x](g/cm3)以下であれば、薄膜がアモルファスであること示す。
薄膜の密度は、例えば、高分解能薄膜用X線回折装置を用い、すれすれ入射X線反射率法により得られたX線反射パターンを解析する方法により測定することができる。
【0033】
絶縁膜が2層以上のC12A7系化合物薄膜を含む場合、少なくとも1つのC12A7系化合物薄膜が上述した密度の条件(アモルファスの条件)を備えているのが好ましい。リーク電流を抑制するためには、すべてのC12A7系化合物薄膜が上述した密度の条件を備えているのが好ましい。
【0034】
[1.6. 特性]
C12A7系化合物を含む絶縁膜は、大きなバンドギャップと高い誘電率を持つ。特に、絶縁膜がアモルファス構造を備えたC12A7系化合物を含む場合、高い絶縁破壊電界と、低いリーク電流密度を持つ。
具体的には、絶縁膜がアモルファス構造を備えたC12A7系化合物を含む場合において、表面粗さや粒状組織の粒径を最適化などすることによって、絶縁破壊電界は、100kV/cm以上、1MV/cm以上、あるいは、2MV/cm以上となる。
同様に、表面粗さや粒状組織の粒径などを最適化することによって、リーク電流密度は、1×10-6A/cm2(@1MV/cm)以下、あるいは、1×10-7A/cm2(@1MV/cm)以下となる。
【0035】
[2. 電磁気素子]
本発明において、「電磁気素子」とは、電気的又は磁気的特性の変化を検出することが可能であり、かつ、いずれかの部分に絶縁膜を備えた素子をいう。
「電界効果素子」とは、電磁気素子の一種であって、半導体に電界を印加するための電極(ゲート電極)を備え、印加される電界の変化を半導体の電気的・磁気的特性の変化として出力することが可能な素子をいう。
本発明が適用される電磁気素子としては、具体的には、
(1)FET(電界効果素子)
(2)半導体Aの表面に形成されたソース電極S及びドレイン電極Dを用いて、半導体A内に生じた温度勾配に応じて起電力を取り出し、又は、通電によって半導体A内に温度勾配を生じさせるFET型の熱電素子(電界効果素子)、
(3)強磁性層と絶縁層が交互に積層されたトンネル磁気抵抗効果(TMR)素子、
などがある。
【0036】
[3. 電界効果素子の具体例(1)]
図1に、電磁気素子の一種である電界効果素子の第1の具体例の概略構成図を示す。図1において、電界効果素子10は、半導体Aと、ゲート絶縁膜Bと、ソース電極Sと、ドレイン電極Dと、ゲート電極Gとを備えている。
【0037】
[3.1. 半導体A]
[3.1.1. 半導体Aの組成]
半導体Aは、キャリア濃度が1022個/cm3以下である材料からなる。キャリア濃度が高すぎると、半導体Aが金属的となり、各種の電界効果を発現させるのが困難となる。キャリアは、電子又はホールのいずれであっても良い。
また、本発明において、ゲート絶縁膜Bには、上述した絶縁膜が用いられる。従って、半導体Aにキャリアを局在させるためには、半導体Aは、バンドギャップが、0.2eV以上絶縁膜のバンドギャップ未満である必要がある。
半導体Aは、キャリア濃度及びバンドギャップが所定の条件を満たすものであれば良く、その組成や結晶構造等は特に限定されるものではない。例えば、半導体Aは、金属、金属間化合物、半金属、酸化物、炭化物、窒化物、酸窒化物などのいずれであっても良い。また、半導体Aは、単結晶、多結晶、あるいは、非晶質であっても良い。
【0038】
半導体Aの材料としては、具体的には、
(1)Si、Ge、SiC、GaN、GaAs、AlNなどの非酸化物系半導体、
(2)SrTiO3、LaAlO3、ZnO、NiO、TiO2、Ca3Co49、NayCoO2(0.7≦y≦1.0)、In23(ZnO)m(1≦m≦19)、SrTi1-xNbx3、La1-xSrxTiO3、Zn1-xAlx3などの酸化物系半導体、
などがある。
半導体Aは、これらのいずれか1種の材料からなるものでも良く、あるいは、2種以上の材料からなるものでも良い。また、半導体Aは、上述した材料のみからなるものでも良く、あるいは、上述した材料を主な組成として含む複合体であっても良い。いずれの材料を用いる場合であっても、適切なドーピングを行うことにより、キャリア濃度を調節することができる。
【0039】
これらの中でも、酸化物系半導体は、耐熱性に優れた電界効果素子が得られるので、半導体Aの材料として特に好適である。また、酸化物の中でも、遷移金属を含む酸化物は、大きな電界効果(例えば、2次元的な閉じ込め効果による巨大熱起電力)を示すので、半導体Aとして特に好適である。
電界効果素子が熱電素子である場合、ソースS−ドレインD間の伝導チャネルには、遷移金属を有し、dバンドを介して伝導する材料(例えば、SrTiO3)を用いるのが好ましい。これは、遷移金属を含む酸化物は、dバンドを介して伝導するものが多く、d電子キャリアの電子雲が比較的局在しており、二次元的な閉じこめ効果が顕著であるためである。
【0040】
[3.1.2. 半導体Aの構造]
半導体Aは、
(1)バルク材料、
(2)適当な基板(例えば、ガラス基板、表面に絶縁被膜を有するSi基板など)の表面に形成された単一の材料からなる薄膜、
(3)2種以上の異なる材料からなる積層薄膜材料、
のいずれであっても良い。
【0041】
特に、2種以上の異なる材料からなる積層薄膜材料は、材料の組み合わせ及び薄膜の厚さを最適化することによって、大きな電界効果(例えば、2次元的な閉じ込め効果による巨大な熱起電力)が得られるので、半導体Aとして好適である。
このような材料の組み合わせとしては、具体的には、SrTiO3/SrTi1-xNbx3、TiO2/SrTiO3、BaTiO3/SrTi1-xNbx3、SrTiO3/La1-xSrxTiO3、ZnO/Zn1-xAlx3(但し、0≦x≦0.5)などがある。
【0042】
[3.2. ゲート絶縁膜B]
ゲート絶縁膜Bは、半導体A−ゲート電極G間のキャリアの移動を抑制するためのものであり、半導体Aとゲート電極Gの間に形成される。
本発明において、ゲート電極Gには、上述した絶縁膜が用いられる。絶縁膜の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0043】
[3.3. ソース電極S及びドレイン電極D]
ソース電極S及びドレイン電極Dは、半導体Aの伝導チャネルにキャリアを流すための一対の電極である。
また、電界効果素子が熱電素子である場合、ソース電極S及びドレイン電極Dは、半導体A内に生じた温度勾配に応じて起電力を取り出し、又は、通電によって半導体A内に温度勾配を生じさせるために用いられる。
半導体A内に温度勾配が生じた場合において、ソース電極S−ドレイン電極Dの通電方向が温度勾配の方向(熱流束の方向)に対して垂直であるとき(すなわち、ソース電極Sとドレイン電極Dとの間に温度差が生じないとき)には、ソース電極S−ドレイン電極D間に起電力は発生しない。一方、ソース電極S−ドレイン電極Dの通電方向が温度勾配の方向に対して非垂直であるとき(すなわち、ソース電極Sとドレイン電極Dとの間に温度差が生じたとき)には、ソース電極S−ドレイン電極D間に起電力が発生する。
また、ソース電極S−ドレイン電極D間に電流を流すと、半導体Aに含まれる優勢キャリアの種類及び通電方向に応じて、いずれか一方が冷接点となり、他方が温接点となる。
【0044】
ソース電極S及びドレイン電極Dの材料は、半導体Aとの間で通電が可能なものであればよい。ソース電極S及びドレイン電極Dの材料としては、具体的には、Ti、ITO、Al、ZnO、Cu、Ni、Au、Ag、Si、又は、これらの少なくとも1種以上を含む多層膜などがある。
また、ソース電極S及びドレイン電極Dの形状、配置等は、特に限定されるものではなく、目的に応じて任意に選択することができる。
【0045】
[3.4. ゲート電極G]
ゲート電極Gは、ソース電極S−ドレイン電極D間の通電方向に対して垂直方向に電界を印加するための電極である。
ゲート電極Gの材料は、半導体Aに所定の電界を印加することが可能なものであればよい。ゲート電極Gの材料としては、具体的には、Ti、Si、ITO、ZnO、Al、Cu、Ni、Au、Ag、又は、これらの少なくとも1種以上を含む多層膜などがある。
【0046】
ゲート電極Gの形状、配置、大きさ等は、特に限定されるものではなく、ソース電極S−ドレイン電極D間の通電方向に対して垂直方向に電界を印加することができるものであればよい。
例えば、図1に示すように、ソース電極Sとドレイン電極Dが形成された面と同一面上にゲート絶縁膜Bを形成し、ゲート絶縁膜Bの表面にゲート電極Gを形成しても良い。
あるいは、図示はしないが、ソース電極Sとドレイン電極Dが形成された面(半導体Aの表面)とは反対側の面(半導体Aの裏面)にゲート絶縁膜Bを形成し、ゲート絶縁膜Bの表面にゲート電極Gを形成しても良い。
あるいは、図示はしないが、半導体Aが薄膜である場合、基板(例えば、ガラス基板)の表面にゲート電極Gを形成し、その上にゲート絶縁膜B、半導体Aからなる薄膜、並びに、ソース電極S及びドレイン電極Dをこの順で形成しても良い。
あるいは、図示はしないが、ゲート電極Gを兼ねた基板(例えば、シリコン基板)表面にゲート絶縁膜Bを形成し、その上に半導体Aからなる薄膜、並びに、ソース電極S及びドレイン電極Dをこの順で形成しても良い。
【0047】
さらに、図1に示す例において、ゲート電極Gは、ソース電極Sとドレイン電極Dの間に形成されているが、ゲート電極Gの配置は、これに限定されるものではなく、ソース電極S−ドレイン電極D間の通電方向に対して垂直方向に電界を印加することができる配置であればよい
また、ゲート電極Gは、ソース電極S−ドレイン電極D間の伝導チャネル内にキャリアを引き寄せるためのものであるので、半導体Aのいずれか一方の面に形成されていればよいが、ゲート電極Gと対になる電極(バックゲート)をゲート電極Gが形成された面とは反対の面に形成し、ゲート電極G−バックゲート間で電界を発生させても良い。
【0048】
さらに、ゲート電極Gは、図示はしないが、ソース電極S−ドレイン電極D間の通電方向に沿って(又は、温度勾配の方向に沿って)、複数に分割されていても良い。
この場合、ゲート電極Gの分割数、配置等は、特に限定されるものではなく、通電方向に沿って、独立にゲート電圧を加えることが可能なものであれば良い。
ゲート電極Gをソース電極S−ドレイン電極D間の通電方向に沿って複数に分割すると、位置に応じてチャネル内のキャリア濃度を変化させることができる。
そのため、電界効果素子が熱電素子である場合において、半導体A内の温度分布に応じて、半導体A内のキャリア分布が一定となるように、独立にゲート電圧を制御すると、熱電変換効率をカルノー効率に近づけることができる。
【0049】
[4. 電界効果素子の具体例(2)]
図2に、電磁気素子の一種である電界効果素子の第2の具体例の概略構成図を示す。図2において、電界効果素子20は、半導体Aと、ゲート絶縁膜Bと、ソース電極Sと、ドレイン電極Dと、ゲート電極Gとを備えている。
【0050】
[4.1. 半導体層A]
図2に示す電界効果素子20において、半導体Aは、第1層A'と、第1層A'の上に形成された第1層A'とは異なる組成を有するチャネル層Cとを備えた積層薄膜材料からなる。
第1層A'及びチャネル層Cは、それぞれ、キャリア濃度及びバンドギャップが上述した条件を満たし、かつ、互いに異なる組成を有していれば良い。
【0051】
第1層A'及びチャネル層Cの材料としては、具体的には、
(1)Si、Ge、SiC、GaN、GaAs、AlNなどの非酸化物系半導体、
(2)SrTiO3、LaAlO3、ZnO、NiO、TiO2、Ca3Co49、NayCoO2(0.7≦y≦1.0)、In23(ZnO)m(1≦m≦19)、SrTi1-xNbx3、La1-xSrxTiO3、Zn1-xAlx3などの酸化物系半導体、
などがある。
第1層A'及びチャネル層Cは、それぞれ、これらのいずれか1種の材料からなるものでも良く、あるいは、2種以上の材料からなるものでも良い。また、第1層A'及びチャネル層Cは、それぞれ、上述した材料のみからなるものでも良く、あるいは、上述した材料を主な組成として含む複合体であっても良い。いずれの材料を用いる場合であっても、適切なドーピングを行うことにより、キャリア濃度を調節することができる。
【0052】
第1層A'とチャネル層Cの組み合わせを最適化すると、高い電界効果(例えば、2次元的な閉じこめ効果による巨大熱起電力)が得られる。
特に、
(1)電子キャリアの場合において、チャネル層Cの伝導帯下端が第1層A'のものより低いとき、あるいは、
(2)ホールキャリアの場合において、チャネル層Cの価電子帯上端が第1層A'のものより高いとき
には、チャネル層Cにキャリアを局在させることができるので、高い電界効果が得られる。
このような高い電界効果が得られる第1層A'/チャネル層Cの組み合わせとしては、例えば、LaAlO3/SrTiO3、LaTiO3/SrTiO3、SrTiO3/Nd−doped SrTiO3、SrTiO3/TiO2、LaAlO3/TiO2、LaTiO3/TiO2、ZnMnO/ZnO、ZnMgO/ZnO、AlGaAs/GaAsなどがある。
【0053】
チャネル層Cの厚さは、電界効果特性に影響を与える。チャネル層Cの厚さが薄すぎると、表面粗さによってチャネルが不連続になるので好ましくない。従って、チャネル層Cの厚さは、0.5nm以上が好ましい。
一方、チャネル層Cの厚さが厚すぎると、キャリアを2次元的に閉じこめるのが困難となる。従って、チャネル層Cの厚さは、10nm以下が好ましい。
【0054】
半導体層A(すなわち、主層A'及びチャネル層C)に関するその他の点は、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0055】
[4.2. その他の構造]
ゲート絶縁膜B、ソース電極S、ドレイン電極D、及び、ゲート電極Gについては、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0056】
[5. 電磁気素子の製造方法(1)]
図3及び図4に、電磁気素子の一種である電界効果素子の製造方法の工程図の一例を示す。なお、以下の説明においては、ソース電極S、ドレイン電極D及びゲート電極Gを備えた電界効果素子の製造方法について主に説明するが、本発明は、電界効果素子以外の電磁気素子についても当然に適用することができる。
【0057】
図3及び図4において、本発明の第1の実施の形態に係る電磁気素子の製造方法は、絶縁膜形成工程と、電極膜形成工程と、第2フォトレジストパターン形成・現像工程と、エッチング工程と、第2フォトレジストパターン除去工程と、第1フォトレジストパターン形成工程と、現像・エッチング工程と、第1フォトレジストパターン除去工程とを備えている。
なお、電界効果素子の場合、通常、絶縁膜の上に電極(ゲート電極)が形成されるが、電磁気素子の種類によっては、絶縁膜の上にゲート電極を形成するための工程(電極膜形成工程、第2フォトレジストパターン形成・現像工程、エッチング工程、第2フォトレジストパターン除去工程)を省略することができる。
【0058】
[5.1. 絶縁膜形成工程]
絶縁膜形成工程は、基板上に、(1)式で表される組成を有する化合物を含む絶縁膜を形成する工程である。
まず、図3(a)に示すように、基板を用意する。基板は、電磁気素子の種類に応じて最適なものを選択する。例えば、電界効果素子の場合、基板には、上述した半導体Aを用いる。また、基板表面には、ソース電極S又はドレイン電極Dとなる薄膜を予めパターン形成しておく。電極の材質は、特に限定されるものではなく、上述した種々の材料を用いることができる。図3(a)に示す例においては、電極には、Ti薄膜(S/D−Ti)が用いられている。
【0059】
次に、図3(b)に示すように、基板表面にC12A7系化合物からなる絶縁膜を形成する。
所定の組成及び構造を備えた絶縁膜は、種々の方法により製造することができる。絶縁膜の製造方法としては、具体的には、パルスレーザー堆積法、スパッタリング法、ゾルゲル法、蒸着法などがある
また、製造条件を制御すると、絶縁膜の構造を制御することができる。例えば、パルスレーザー堆積法を用いる場合において、リーク電流の増大を抑制するためには、アモルファス膜が得られるように800℃以下の基板温度での成膜及びポストアニールを行うのが好ましい。
【0060】
[5.2. 電極膜形成工程]
電極膜形成工程は、絶縁膜の上に電極膜を形成する工程である。
電極膜の材質は、特に限定されるものではなく、目的に応じて種々の材料を用いることができる。電界効果素子の場合、電極膜には、上述した材料を用いることができる。図3(c)に示す例においては、電極膜としてTi膜(G−Ti)が用いられている。
電極膜の形成方法は、特に限定されるものではなく、種々の方法により形成することができる。電極膜の形成方法としては、具体的には、スパッタリング法、蒸着法、パルスレーザー蒸着法などがある。
【0061】
[5.3. 第2フォトレジストパターン形成・現像工程]
第2フォトレジストパターン形成・現像工程は、電極膜の上に第2フォトレジストを塗布し、第2フォトマスクパターンに応じて第2フォトレジストを露光し、現像する工程である。
第2フォトレジストの種類は、特に限定されるものではなく、ポジ型レジスト又はネガ型レジストのいずれであっても良い。
第2フォトマスクパターンは、電極膜を所定の電極形状にパターニングするためのものである。マスクパターンは、目的に応じて任意に選択することができる。
スピンコート法などの周知の方法を用いて第2フォトレジストを電極膜の上に塗布した後、第2フォトマスクパターンに応じて第2フォトレジストを露光し、現像すると、図3(d)に示すように、電極膜(G−Ti)の上に、所定のパターンを有する第2フォトレジストが残る。
【0062】
[5.4. エッチング工程]
エッチング工程は、フッ素系ガス又は塩素系ガスを主成分として用いた反応性イオンエッチング(RIE)により、電極膜をエッチング加工し、電極を形成する工程である。
絶縁膜の上に電極を形成する場合、リフトオフ法を用いることはできない。これは、電極形成工程前にリフトオフ用のレジストパターンを形成する際に、絶縁膜が現像液によってエッチングされてしまうためである。
これに対し、多くの電極材料(Ti、Al、Cu、多結晶シリコンなど)は、フッ素系ガス又は塩素系ガスを主成分として用いたRIEによりエッチングすることができる。一方、C12A7系化合物は、フッ素系ガス又は塩素系ガスを主成分として用いたRIEによりほとんどエッチングされない。そのため、RIE法を用いると、図3(e)に示すように、電極膜のみを高精度にエッチングすることができる。
【0063】
RIEに用いる反応ガスは、フッ素系ガス又は塩素系ガスを主成分とするものであればよい。「フッ素系ガス又は塩素系ガスを主成分とする」とは、反応ガスに含まれるフッ素系ガス又は塩素系ガスの割合が50vol%以上であることをいう。「フッ素系ガス」とは、分子内にフッ素を含むガスをいう。「塩素系ガス」とは、分子内に塩素を含むガスをいう。反応ガスとしては、具体的には、CF4+O2混合ガス、CF4+N2混合ガス、CF4+H2混合ガス、Cl2、BCl3、Cl2+BCl3混合ガス、SF6+Cl2混合ガスなどがある。
反応ガスの組成比、圧力、RF入力パワー等のエッチング条件は、目的に応じて最適な条件を選択するのが好ましい。
【0064】
[5.5. 第2フォトレジストパターン除去工程]
第2フォトレジストパターン除去工程は、第2フォトレジストを除去する工程である。
第2フォトレジストを除去する方法は、特に限定されるものではなく、第2フォトレジストの種類に応じて、種々の方法を用いることができる。第2フォトレジストの除去方法としては、アセトン、メチルエチルケトンなどの溶媒に溶解する方法、酸素プラズマによりアッシング除去する方法などがある。
電極のエッチングを行った後、第2フォトレジストを除去すると、図4(a)に示すように、C12A7系化合物からなる絶縁膜上に電極(ゲート電極)が所定のパターンで形成された基板が得られる。
【0065】
[5.6. 第1フォトレジストパターン形成工程]
第1フォトレジストパターン形成工程は、絶縁膜の上に、アンモニウム塩アルカリ溶液を含む現像液で現像可能な第1フォトレジストを塗布し、第1フォトマスクパターンに応じて第1フォトレジストを露光する工程である。
第1フォトレジストは、後述するアンモニウム塩アルカリ溶液を含む現像液で現像可能なものであれば良い。
このような第1フォトレジストとしては、具体的には、
(1)富士フイルム(株)製:HPR1182などのポジ型レジスト、
(2)AZ社製:AZ5214Eなどのネガ型レジスト、
などがある。
第1フォトマスクパターンは、絶縁膜を所定の形状にパターニングするためのものである。マスクパターンは、目的に応じて任意に選択することができる。
【0066】
スピンコート法などの周知の方法を用いて第1フォトレジストを絶縁膜の上に塗布した後、第1フォトマスクパターンに応じて第1フォトレジストを露光すると、図4(b)に示すように、第1フォトレジストの一部が難溶化(図4(b)中、実線で表示)し、残りが易溶化(図4(b)中、破線で表示)する。
【0067】
[5.7. 現像・エッチング工程]
現像・エッチング工程は、第1フォトレジストをアンモニウム塩アルカリ溶液を含む現像液に接触させ、第1フォトレジストの可溶部分の溶解と同時に、絶縁膜をエッチングする工程である。
C12A7系化合物は、フォトレジストの現像液として用いられるアンモニウム塩アルカリ溶液を含む現像液に溶解する。そのため、第1フォトレジストの塗布及び露光が行われた基板を現像液に接触させると、図4(c)に示すように、第1フォトレジストの可溶部分が除去されると同時に、絶縁膜の不要部分がエッチングされる。
【0068】
ここで、「アンモニウム塩アルカリ溶液」とは、テトラメチルアンモニウムヒドロキサイド(TMAH)、トリメチルヒドロキシアンモニウムヒドロキシド、テトライソプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドなどのアンモニウム塩が溶解しているアルカリ性の溶液をいう。
現像液中に含まれるアンモニウム塩の濃度は、目的に応じて最適な濃度を選択する。通常、アンモニウム塩の濃度は、6%以下である。現像液に含まれるその他の成分としては、界面活性剤、水などがある。
エッチング時の温度、時間等のエッチング条件は、絶縁膜の膜厚、組成、現像液の種類等に応じて最適な条件を選択する。通常、室温において数分間程度の処理により現像及び絶縁膜のエッチングを行うことができる。
【0069】
[5.8. 第1フォトレジストパターン除去工程]
第1フォトレジストパターン除去工程は、第1フォトレジストを除去する工程である。
第1フォトレジストの除方法は、第2フォトレジストと同様であるので、詳細な説明を省略する。なお、第1フォトレジストパターン除去工程は、必ずしも必要ではなく、用途によっては、第1フォトレジストパターンを残した状態で使用することもできる。
絶縁膜をパターニングした後、第1フォトレジストを除去すると、図4(d)に示すように、ソース/ドレイン電極(S/D−Ti)間にC12A7系化合物からなる絶縁膜(ゲート絶縁膜)が形成され、その上にゲート電極(G−Ti)が形成された基板が得られる。
【0070】
[6. 電磁気素子の製造方法(2)]
本発明の第2の実施の形態に係る電磁気素子の製造方法は、絶縁膜形成工程と、マスクパターン形成工程と、エッチング工程とを備えている。
【0071】
[6.1. 絶縁膜形成工程]
絶縁膜形成工程は、基板上に、(1)式で表される組成を有する化合物を含む絶縁膜を形成する工程である。
12(CaxSr1-x)O・7Al23 ・・・(1)
但し、0≦x≦1
絶縁膜形成工程の詳細は、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0072】
[6.2. マスクパターン形成工程]
マスクパターン形成工程は、絶縁膜の上に、アンモニウム塩アルカリ溶液を含む水溶液に溶解しないマスク材料をパターン形成する工程である。
本実施の形態において、絶縁膜の上にマスクパターンを形成する際に、マスク材料として、上述したアンモニウム塩アルカリ溶液を含む水溶液に溶解しない材料を用いる。この点が、第1の実施の形態とは異なる。「アンモニウム塩アルカリ溶液を含む水溶液に溶解しない材料」とは、実質的にこのような水溶液に不溶性である材料、又は、このような水溶液に対する溶解速度が絶縁膜より遅い材料をいう。
このようなマスク材料としては、具体的には、チタン、アルミニウム、多結晶シリコン、酸化シリコン、窒化シリコン、窒化チタンなどがある。
また、このようなマスク材料からなるマスクパターンは、例えば、蒸着、CVD等によりマスク材料からなる薄膜を形成し、その上にフォトマスクパターンを形成し、RIEエッチングによりエッチング加工することにより形成することができる。
【0073】
[6.3. エッチング工程]
エッチング工程は、基板をアンモニウム塩アルカリ溶液を含む水溶液に接触させ、絶縁膜をエッチングする工程である。
絶縁膜の上に所定のマスク材料からなるマスクパターンを形成し、この基板をアンモニウム塩アルカリ溶液を含む水溶液に接触させると、マスクパターンで覆われていない絶縁膜の部分のみがエッチングされる。
得られた基板は、そのまま各種の用途に用いても良く、あるいは、RIEエッチング等によりマスク材料を除去した後、各種の用途に用いても良い。
【0074】
[7. 電磁気素子の製造方法の作用]
(1)式で表されるC12A7系化合物は、バンドギャップが大きく、かつ、誘電率も大きい。しかも、C12A7系化合物からなるアモルファス膜をキャリアが流れる領域の上に形成すると、アモルファス膜とキャリアが流れる領域との界面において欠陥準位が形成されにくくなる。
そのため、これを各種電磁気素子の絶縁膜として用いると、
(a)リーク電流の増大を抑制することができる、
(b)絶縁膜を薄膜化することができるので、素子を微細化することができる、
(c)絶縁膜がアモルファス構造を備えている場合には、界面に欠陥準位が形成されにくいので、素子の動作が安定化する、
(d)絶縁膜がアモルファス構造を備えている場合には、基板上に絶縁膜をエピタキシャル成長させる必要がないので、格子定数の異なる他の基板への応用も容易である、
という効果が得られる。
【0075】
電磁気素子用の絶縁膜としてC12A7系アモルファス膜を用いると、高い絶縁耐圧性、再現性、熱的安定性が得られる。例えば、これをFETに応用した場合、ゲートリーク電流密度:1×10-6A/cm2(@1MV/cm)以下、ノーマリーオフ、ON/OFF比:1×106以上、サブスレッショルドS値:0.5V以下が得られる。
また、電界強度を1×104〜1×106V/cmと変化させることにより、熱起電力を−1.6mV/K〜−0.5mV/Kと変化させることができる。
【0076】
電界効果素子のゲート電極Gに電圧を印加すると、ソース−ドレイン間に形成される伝導チャネル領域のキャリア数及びチャネル深さが変化する。そのため、ゲート電圧により、ソース−ドレイン間の電流を制御することができる。この点は、通常のFETと同様であるが、本発明において、電界効果素子のゲート絶縁膜は、アモルファスのC12A7系化合物からなる。
【0077】
C12A7系化合物は、バンドギャップが6eVとワイドギャップの半導体基板(例えば、SrTiO3の場合、3.2eV)より大きいため、基板表面で絶縁膜として機能する。また、通常用いられるSiO2膜(誘電率:約4)より高い誘電率(約12)を有するため、キャパシタ容量が大きく、微細化に適している。
また、アモルファス構造を備えたC12A7系化合物は、結晶粒界がないため、伝導チャネルとの界面に欠陥準位を形成しにくい。そのため、FET特性が不安定になることがない。また、C12A7系化合物は、ガラス転移温度:830℃、融点:1400℃であるため、通常のFET動作温度範囲(100℃以下)で安定なガラス状態を維持できる。
【0078】
ゲート電極G直下の半導体Aの表面において伝導キャリア数を変化させると、ソース−ドレイン間の温度勾配に応じた熱起電力αを制御することができる。通常、キャリア数が少ないと大きな熱起電力が、多いと小さな熱起電力が生じる。さらに、大きなゲート電圧を印加し、チャネル深さが電子のドブロイ波長(SrTiO3の場合、6nm)より小さくなると、既に知られているように、キャリアが2次元的に閉じこめられ、その量子効果により巨大な熱起電力が生じる(非特許文献8参照)。
特に、半導体Aの表面に薄い閉じ込め層(チャネル層C)を形成し、ゲート電圧印加時にキャリアがその閉じ込め層に効率よく局在するようなポテンシャル構造にすれば、低いゲート電圧でも2次元閉じ込め効果を顕著にすることができる。2次元閉じ込め状態では、熱起電力と電気伝導度のどちらも大きく、熱電パワーファクター及び熱電変換効率が高い。
【0079】
また、LaAlO3などの通常用いられるゲート絶縁膜は、エッチングが困難である。そのため、ゲート絶縁膜は、従来、予めレジストパターンを形成しておくリフトオフ法、又は、メタルマスクを通してパターニングするメタルマスク法が用いられている。
しかしながら、リフトオフ法は、チャンネル部分の基板表面にレジスト残渣が残ることがある。ゲート絶縁膜下に残ったレジスト残渣は、電界効果素子のリーク電流を増大させる原因となる。
一方、メタルマスク法は、レジスト残渣が残ることはないが、加工精度が悪く、20μm以下の微細パターンを形成することはできない。
【0080】
これに対し、C12A7系化合物は、
(1)ポジ型レジスト又はネガ型レジストの現像液(特に、TMAHを含むアルカリ水溶液)によってエッチングされる、
(2)CF4ガスを用いたRIEによりほとんどエッチングされない、
という特徴がある。
通常、積層された膜をパターニングするためには、レジストをフォトリソグラフィーで加工した後に、膜をドライエッチング又はウェットエッチングによりエッチングする必要がある。C12A7系化合物の場合、レジストの現像液でエッチングできるため、膜をエッチングする工程が不要となり、低コストである。また、レジストとほぼ同レベルの加工精度(サブミクロン以上)を有する。
【0081】
さらに、C12A7系化合物からなる絶縁膜の上に電極を形成する場合、電極のパターニングにリフトオフ法を用いることはできない。しかしながら、電極膜を成膜した後、フォトリソグラフィーにより電極膜表面にレジストパターンを形成し、電極膜の露出部分をRIEで加工することができる。
その際、C12A7系化合物のエッチング速度は、極めて遅いため、電極膜のみを高精度にエッチングすることができる。このような選択性があるために、電極のエッジ部分の絶縁膜が薄くなることがない。そのため、ホットエレクトロンによるリーク電流の増加という問題が生じない。
【実施例】
【0082】
(実施例1〜3)
[1. 試料の作製]
SrTiO3単結晶(結晶方位(100)、10mm×10mm×0.5mm、信光社製)を大気中1200℃、30min加熱することにより、SrTiO3 1単位格子(約0.4nm)のステップとテラスのみからなる表面に平坦化した。この平坦基板表面上に、厚さ20nmのTi薄膜を電子ビーム蒸着により形成した。パターニングには、通常のリフトオフ法を用いた。
次に、この平坦基板表面上に、厚さ100nmのアモルファスC12A7膜をパルスレーザー堆積法(KrFエキシマレーザー、基板加熱なし、雰囲気酸素圧力:0.1Pa)により形成した。パターニングには、通常のリフトオフ法を用いた。
図5(a)に、作製された試料の平面図(上図)及びそのA−A'線断面図(下図)を示す。
【0083】
[2. エッチング試験]
[2.1. ポジ型レジストの塗布(実施例1)]
この基板を用いて、まず、ポジ型レジスト(富士フイルム(株)製:HPR1182)を塗布し、プリベーク(110℃×1分間)を行った。次いで、深紫外線露光装置によって、適当量露光した。図5(b)に、露光パターンを示す。図5(b)下図中、溶解性が低下した部分を実線で示し、溶解性が増大した部分(露光部分)を破線で示した。
露光した基板を、通常のフォトリソグラフィー用の現像液(富士フイルム(株)製:MIFに水を1:3の割合で加えて薄めたもの)に1分間浸漬した。現像後、基板をエタノールでリンスした。
なお、現像液(富士フイルム(株)製:MIF)の成分は、テトラメチルアンモニウムヒドロキサイド(TMAH)<6%、界面活性剤<1%、水>94%である。
【0084】
図6に、レジストを塗布する前の試料表面の顕微鏡写真(A)、及び、レジストパターンを形成し、現像した後の試料表面の顕微鏡写真(B)を示す。図6より、レジストパターンの形成と同時に、レジストで被覆されていないC12A7膜が除去されていることがわかる。この際、C12A7の残渣は、顕微鏡観察下では確認されなかった。
なお、C12A7は、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトンによってエッチングされないことを確認した。
【0085】
[2.2. ネガ型レジストの塗布(実施例2)]
[1.]で得られた基板の表面にネガ型レジスト(AZ社製:AZ300MIF)を塗布した。次いで、深紫外線露光装置によって、実施例1と同様のマスクパターンで適当量露光した。露光した基板を、専用の現像液(AZ社製:AZ5214E)に90秒間浸漬した。現像後、基板をエタノールでリンスした。
なお、現像液(AZ社製:AZ300MIF)の成分は、TMAH:2.38%、その他は水である。
その結果、ポジ型レジストの場合と同様に、レジストパターンの形成と同時に、レジストで被覆されていないC12A7膜が除去された。
【0086】
[2.3. レジストなし(実施例3)]
[1.]で得られた基板を用いて、レジストを塗布せずに、深紫外線露光装置によって実施例1と同様のマスクパターンで適当量露光した。次いで、実施例1と同様の現像液に1分間浸漬した。浸漬後、基板をエタノールでリンスした。
その結果、C12A7膜は、すべて除去された。従って、C12A7膜は、露光によって変化はなく、現像液によってエッチングされることがわかった。
【0087】
(実施例4)
[1. 試料の作製]
電極膜として、Ti薄膜に加えて、Al薄膜又はポリシリコン薄膜を用いた以外は、実施例1と同様にして、試料を作成した。
[2. 反応性イオンエッチング(RIE)試験]
試料表面にレジストを塗布することなく、そのままRIE装置を用いてドライエッチングを行った。反応ガスには、CF4+O2ガス(CF4=1sccm、O2=5sccm以下)を用い、エッチング条件は、圧力:0.04Torr(5.33Pa)、RF入力パワー:40Wとした。
その結果、Ti、Al、及び、ポリシリコンは、いずれも2.5nm/分以上のレートでエッチングされたのに対し、C12A7薄膜及びSrTiO3単結晶基板のエッチングレートは、0.1nm/分以下であった。
図7に、RIE前の基板表面(電極膜:Ti薄膜)の顕微鏡写真(A)及びRIE後の基板表面の顕微鏡写真を示す。図7より、RIEによりC12A7膜はエッチングされないが、Ti電極はエッチングされることがわかる。
【0088】
(実施例5)
[1. 試料の作製]
図3及び図4に示す手順に従い、電界効果素子(FET)を作製した。
【0089】
[2. 結果]
通常のFET製造プロセスでは、ゲート絶縁膜を成膜した後、そのパターニングを行う工程が加わる。本プロセスでは、上部のゲート電極をRIEで加工した後、ゲート絶縁膜の上にレジストの塗布及び露光を行い、レジストの現像と同時にC12A7膜をパターニングした。その結果、ゲート絶縁膜、ゲート電極を十分な加工精度かつ高い歩留まりでパターニングすることができた。
特に、
(1)ゲート絶縁膜をリフトオフで形成する際に、チャネル部基板表面にレジスト残渣が生じやすい問題、あるいは、
(2)ゲート電極をRIEでエッチングする際に、ゲート絶縁膜でエッチングが完全に停止できず、そのエッジ部で電界が集中し、素子特性が劣化する問題、
等が生じないプロセスになっている。
【0090】
電界効果素子の特性を評価したところ、ON/OFF比は1×106オーダーであり、しきい値0.3Vのノーマリーオフ特性を有し、ゲートリーク電流は1×10-7A(@1MV/cm)以下、サブスレッショルドS値は0.5V/decadeであった。さらに実効移動度は約4cm2/V/sとSrTiO3のバルク値(5cm2/V/s)に近い値を示した。特性の再現性及び歩留まりは良好であった(10mm角基板内で正常動作95%以上)。また、特性のヒステリシスは見られなかった。
【0091】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明に係る電磁気素子の製造方法は、FET、FET型熱電素子、TMR素子などの製造方法として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、(1)式で表される組成を有する化合物を含む絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程と、
前記絶縁膜の上に、アンモニウム塩アルカリ溶液を含む水溶液に溶解しないマスク材料をパターン形成するマスクパターン形成工程と、
前記基板を前記アンモニウム塩アルカリ溶液を含む水溶液に接触させ、前記絶縁膜をエッチングするエッチング工程と
を備えた電磁気素子の製造方法。
12(CaxSr1-x)O・7Al23 ・・・(1)
但し、0≦x≦1
【請求項2】
前記絶縁膜は、アモルファス構造を備えている請求項1に記載の電磁気素子の製造方法。
【請求項3】
前記アンモニウム塩は、テトラメチルアンモニウムヒドロキサイド(TMAH)である請求項1に記載の電磁気素子の製造方法。
【請求項4】
基板上に、(1)式で表される組成を有する化合物を含む絶縁膜を形成する絶縁膜形成工程と、
前記絶縁膜の上に、アンモニウム塩アルカリ溶液を含む現像液で現像可能な第1フォトレジストを塗布し、第1フォトマスクパターンに応じて前記第1フォトレジストを露光する第1フォトレジストパターン形成工程と、
前記第1フォトレジストを前記アンモニウム塩アルカリ溶液を含む現像液に接触させ、前記第1フォトレジストの可溶部分の溶解と同時に、前記絶縁膜をエッチングする現像・エッチング工程と、
を備えた電磁気素子の製造方法。
12(CaxSr1-x)O・7Al23 ・・・(1)
但し、0≦x≦1
【請求項5】
前記現像・エッチング工程の後に、前記第1フォトレジストを除去する第1フォトレジスト除去工程をさらに備えた請求項4に記載の電磁気素子の製造方法。
【請求項6】
前記絶縁膜は、アモルファス構造を備えている請求項4に記載の電磁気素子の製造方法。
【請求項7】
前記アンモニウム塩は、テトラメチルアンモニウムヒドロキサイド(TMAH)である請求項4に記載の電磁気素子の製造方法。
【請求項8】
前記絶縁膜形成工程の後、かつ、前記第1フォトレジストパターン形成工程の前に、
前記絶縁膜の上に電極膜を形成する電極膜形成工程と、
前記電極膜の上に第2フォトレジストを塗布し、第2フォトマスクパターンに応じて前記第2フォトレジストを露光し、現像する第2フォトレジストパターン形成・現像工程と、
フッ素系ガス又は塩素系ガスを主成分とする反応性イオンエッチング(RIE)により、前記電極膜をエッチング加工し、電極を形成するエッチング工程と、
前記第2フォトレジストを除去する第2フォトレジストパターン除去工程と、
をさらに備えた請求項4に記載の電磁気素子の製造方法。
【請求項9】
前記絶縁膜は、アモルファス構造を備えている請求項8に記載の電磁気素子の製造方法。
【請求項10】
前記電極は、ゲート電極であり、
前記絶縁膜は、ゲート絶縁膜であり、
前記電磁気素子は、電界効果素子である
請求項8に記載の電磁気素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−35274(P2011−35274A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181886(P2009−181886)
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】