説明

電磁波の分析装置

【課題】検出素子の感度が電磁波の波長または入射角によって異なることにより分析の感度が低下することを防止して、検体の分析を高感度で実施できる分析装置を提供する。
【解決手段】分析装置は、波長分散部104と、検出素子アレイ105と、スペクトル算出部106を有する。波長分散部104は、検体103からの電磁波101の異なる波長成分に分散する。検出素子アレイ105は、波長分散部が異なる波長成分に分散した電磁波を検出するための検出素子を複数備える。スペクトル算出部106は、検出素子が検出した電磁波の強度信号からスペクトルを算出する。検出素子アレイ105は、電磁波を検出する感度が、波長分散部が分散した波長成分ごとに異なる構成である。波長分散部が異なる波長成分に分散した電磁波が検出素子に入射する角度を、検出素子ごとに異なる角度にする様に、波長分散部と検出素子アレイは配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波のスペクトル情報を取得する分析装置に関する。特に、本発明は、ミリ波帯からテラヘルツ帯(30GHz乃至30THz)までの周波数領域の電磁波のスペクトル情報を取得する分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ミリ波帯からテラヘルツ帯までの周波数領域(30GHz以上30THz以下の周波数領域)のうち任意の帯域を有する電磁波(以後、単にテラヘルツ(THz)波などともいう)を用いた非破壊なセンシング技術が開発されてきている。この周波数帯の電磁波の応用分野として、X線に代わる安全な透視検査装置としてイメージングを行う技術が開発されている。また、物質内部の吸収スペクトルや複素誘電率を求めて、結合状態などの物性を調べる分光技術、生体分子の解析技術、キャリア濃度や移動度を評価する技術などが開発されつつある。
【0003】
一方、機械的角度変化機構をもたない分光プリズムとCCDラインイメージ検出素子を用いて分光スペクトルを測定することを目的とした分析装置が提案されている(特許文献1参照)。この提案例によると、まず被測定光を光学レンズ系にて平行光に変換し、固定された定偏角の分光プリズムに入射させる。次に分光プリズムで分光された被測定光は、CCDラインイメージ検出素子にて全ての波長が同時に電気信号に変換され、補正回路にてCCDイメージ検出素子の波長−感度特性を考慮して補正される。その補正した信号を出力として、被測定光の分光スペクトル分布特性を得ることができる。
【0004】
さらに、近赤外光が分光されてスペクトルを発生する近赤外分光装置として、近赤外光のスペクトルを高分解能・広ダイナミックレンジ・高感度で検出することを目的とする小型の近赤外分光装置が提案されている(特許文献2参照)。本提案例による近赤外分光装置は、入力端と、回折格子と、複数の出力端とを備えている。入力端は、ローランド円周上に設けられて近赤外光を入力する。回折格子は、ローランド円周上に設けられ入射する近赤外光を単波長成分毎に分光してスペクトルを生成する。複数の出力端は、ローランド円周上のスペクトルが結像する部分に設けられる。複数の出力端の位置は不等間隔で配置されており、スペクトルが結像する部分と出力端の位置ずれを低減することができる。
【特許文献1】特開平06−026930号公報
【特許文献2】特開2005−121574号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1、2に開示されている方法では、検出素子感度が最大となる最大入射角の波長依存性を考慮していないので、感度が低下してしまうことがあった。そのため、高感度で高速な分析が容易ではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑み、本発明の検体を分析するための分析装置は、波長分散部と、検出素子アレイと、スペクトル算出部と、を有する。波長分散部は、検体からの電磁波の異なる波長成分を空間的に分散する。検出素子アレイは、電磁波検出感度が電磁波の波長及び入射角によって異なる検出素子を複数備える。スペクトル算出部は、検出素子アレイで検出された信号を用いて検体からの電磁波に対するスペクトルを算出する。そして、波長分散部によって異なる波長成分に空間的に分散された電磁波は、夫々の波長に対して最大感度を示す様に構成された検出素子に最大感度を示す様に入射される。
【0007】
別の本発明に係る検体を分析するための装置は、
検体からの電磁波を空間的に異なる波長成分に分散するための波長分散部と、
前記波長分散部が空間的に異なる波長成分に分散した電磁波を検出するための検出素子を複数備えた検出素子アレイと、
前記検出素子が検出した電磁波の強度信号からスペクトルを算出するスペクトル算出部と、を有し、
前記検出素子アレイは、電磁波を検出する感度が、前記波長分散部が空間的に分散した前記波長成分ごとに異なる構成であり、
前記波長分散部が空間的に異なる波長成分に分散した電磁波が前記検出素子に入射する角度を、前記検出素子ごとに異なる角度にする様に、前記波長分散部と前記検出素子アレイとを配置することを特徴とする。
【0008】
別の本発明に係る検体を分析するための装置は、
電磁波を発生させるための発生部と、
前記発生部が発生させた電磁波を空間的に異なる波長成分に分散するための回折格子と、
前記回折格子が空間的に異なる波長成分に分散した電磁波を検出するためのプラズモン型の検出素子を複数備えた検出素子アレイと、
前記検出素子が検出した電磁波の強度信号からスペクトルを算出するスペクトル算出部と、を有し、
前記検出素子アレイは、電磁波を検出する感度が、前記回折格子が空間的に分散した前記波長成分ごとに最大となる構成であり、
前記回折格子が空間的に異なる波長成分に分散した電磁波が前記検出素子に入射する角度を、前記検出素子ごとに前記感度が最大となる角度にする様に、前記回折格子と前記検出素子アレイとを配置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、異なる波長成分に空間的に分散された電磁波を、例えば、夫々の波長に対して最大感度を示す様に構成された検出素子に最大感度を示す様に入射させることが可能であるので、検体の分析を高感度で実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、検体を分析するための装置の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0011】
分析装置の基本的な実施形態は次の構成を備える。即ち、波長分散部と、検出素子アレイと、スペクトル算出部と、を有する。前記波長分散部は、検体からの電磁波を空間的に異なる波長成分に分散する。前記検出素子アレイは、前記波長分散部が空間的に異なる波長成分に分散した電磁波を検出するための検出素子を複数備える。前記スペクトル算出部は、前記検出素子が検出した電磁波の強度信号からスペクトルを算出する。前記検出素子アレイは、電磁波を検出する感度が、前記波長分散部が空間的に分散した前記波長成分ごとに異なる構成である。また、前記波長分散部が空間的に異なる波長成分に分散した電磁波が前記検出素子に入射する角度を、前記検出素子ごとに異なる角度にする様に、前記波長分散部と前記検出素子アレイとは配置される。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態を示す。図1において、101は電磁波である。102は検体側光学系であって、電磁波101を検体103に照射し、また、検体103から反射した電磁波を受光して、回折格子104へと伝送する。回折格子104は検体からの電磁波を空間的に異なる波長成分に分散するための波長分散部の一例である。105は、回折格子104が空間的に異なる波長成分に分散した電磁波を検出するための検出素子201を複数備えた検出素子アレイである。検出素子アレイ105は、例えば、図2に示すような構造で、電磁波を検出する感度が、前記波長分散部(回折格子104)が空間的に分散した前記波長成分ごとに異なる構成となっている。ここで、複数の検出素子201は、前記波長成分ごとに前記感度が最大となる様に構成することが好ましい。
【0013】
また、前記波長分散部(回折格子104)が空間的に異なる波長成分に分散した電磁波が前記検出素子201に入射する角度を、前記検出素子ごとに前記感度が異なる角度にする様に、前記波長分散部と前記検出素子アレイ105とを配置する。ここで、複数の検出素子201ごとに、前記感度が最大となる角度になる様に、前記波長分散部と前記検出素子アレイとを配置することが好ましい。検出素子アレイ105は、電磁波検出感度が電磁波の波長及び入射角によって異なる検出素子201を複数備えて構成されている。なお、例えば、電磁波の単位入射パワーに対する検出素子201の出力電流を感度として使用することができる。
【0014】
ここで、検体側光学系102には一般的に使用される光学素子を用いることができる。図1の例では、電磁波101が検体103で反射する構成であるが、検体103を透過する構成にしてもよい。また、電磁波101の検体103における照射位置と検体103とを相対的に動かして、検体103の複数位置のスペクトルを得る構成も可能である。ファイバを用いて電磁波101を検体103近くに伝送し、照射、受光する様にしてもよい。また、近接場領域の電磁波を検出素子アレイ105で感知する様にしてもよい。
【0015】
また、回折格子104は、電磁波101を空間的に波長分散させて検出素子アレイ105に入射させることのできる素子であれば何でもよく、例えば、プリズムやフォトニック結晶などを用いることも可能である。
【0016】
複数の検出素子201は、最大感度を有する波長の順番で配置されており、夫々の最大感度入射角に略一致した波長の電磁波が検出素子に入射する様に、回折格子104と検出素子アレイ105が構成されている。ただし、前記電磁波を検出する感度は略最大であればよく、前記感度の最大値からのずれを除外するものではない。
【0017】
検出素子アレイ105で検出された電磁波101の信号は、前記検出素子が検出した電磁波の強度信号からスペクトルを算出するスペクトル算出部106へと伝送される。スペクトル算出部106では、その情報を元に電磁波101のスペクトルを算出する。ここで、スペクトル算出部106では、検出素子アレイ105の各素子で得られた電磁波強度を波長に対応付ける様になっている。スペクトル算出部106は、回折格子104の回折効率などを補正するような構成を備えてもよい。スペクトル算出部106で取得された分光スペクトル分布特性に基づき、検体103の物性などの情報を得ることができる。
【0018】
前述した様に、前記検出素子アレイ105は、前記波長分散部が異なる波長成分ごとに空間的に分散した前記電磁波のそれぞれの波長に対して前記感度が大きくなる様に構成される。さらに、前記空間的に分散した電磁波がそれぞれの前記検出素子201に入射する角度を、前記検出素子201ごとの前記感度が大きくなるような角度(入射角度)にする。
【0019】
ここで、前述した様に、前記感度が最大であることが好ましい。例えば、前記検出素子201が表面プラズモンの場合、前記角度が共鳴角である所で前記感度が最大となる。これについては、以下で図を用いて詳述する。また、回折格子(波長分散部)と表面プラズモン(検出素子)を互いにどの様に構成するかについても図を用いて詳述する。
【0020】
(発生部)
電磁波の発生部について説明する。電磁波101は種々の波長を含むことができる。電磁波は、単光源などの電磁波を発生させるための発生部から発生させてもよいし、複数の光源から発生した電磁波を合成したものを用いてもよい。電磁波101の光源としては、量子カスケードレーザ、共鳴トンネルダイオードやガンダイオードに高調波発生手段を取り付けたものなどを用いることができる。大型になれば、後進行波管や非線形結晶素子を用いたパラメトリック発生器などを用いてもよい。また、フェムト秒レーザを光伝導素子に照射して発生させる方法でもよい。電磁波101はパルスでも連続波でもよい。また、時間的に波長が変化する様にしてもよい。この場合、回折格子104には異なる波長の光が順に到達するので、電磁波101は検出素子アレイ105上で空間的に走査されることになる。
【0021】
ここで、検体側光学系102は放物面鏡やレンズなどが用いられる。また、電磁波101は検体103上に集光されても平行光の様に空間的に広がりを持っていても良く、回折格子104へ反射光を導く構成でも、透過光を導く構成でも良い。図1の例では、検体103に電磁波101を照射する手段を有しているが、検体103に電磁波を照射しないで、受光のみを行なうパッシブ検出方式でもよい。電磁波101を検体103に照射した場合には、検出素子アレイ105へ入射する光量が増えるため、検出素子アレイ105からの信号強度を向上することが可能である。
【0022】
(表面プラズモン)
検出素子201としては、図2に示す様に、例えば、検体103からの電磁波の検出波長領域を選択するためのフィルタ部と電磁波検出部とを備える検出素子を使用することができる。ここで、例えば、フィルタ部は、誘電率実部が負の負誘電率媒体251とそれとは異なる第2の媒体250から構成されている。また、負誘電率媒体251と第2の媒体250は検出する電磁波の波長以下の距離で配置してある。更に、フィルタ部250、251と電磁波検出部252との間の距離は検出する電磁波の波長以下となっている。本検出素子では、負誘電率媒体251と電磁波検出部252の界面において入射光が表面プラズモンに変化する。表面プラズモンは界面に局在しているので、電界強度が大きい。電磁波検出部252はこの電界強度が大きい領域に配置されているので、本検出素子は高感度な検出が可能となる。尚、図2において、253は、検出素子アレイ105の基板である。
【0023】
上記一例として挙げた検出素子を便宜的にプラズモン型の検出素子と呼ぶことにする。図3を参照してプラズモン型の検出素子201の感度について説明する。図3において、横軸がプラズモン型の検出素子201への電磁波の入射角度、縦軸が反射率である。ここでは波長333μm(0.9THz)の電磁波に対するグラフの一例を示している。図3に記載の共鳴角の条件では、プラズモン型の検出素子201への入射光が検出素子201内部において略全て表面プラズモンに変化するので、反射率が極小となる。プラズモン型の検出素子201では、表面プラズモンの電界強度を主に検出するので、反射率が低いほど高感度であることを意味する。つまり、図3中の共鳴角で最大感度を示すことになる。その半値幅は、例えば、10度程度である。
【0024】
また、共鳴角は波長依存性を持つ。このような図を元に波長200μmから333μmまでの電磁波に対する最大感度入射角を求めたところ、一例として、26度から32度の間に分布することが分かる。そこで、例えば、図2に示す様に、波長200μmに対応する一次回折光202と波長300μmに対応する一次回折光203をプラズモン型の検出素子アレイ105の両端に配する。そして、それらの間に、200μmから333μmの間の波長に夫々最大感度を持つ複数のプラズモン型の検出素子201を波長順に配置する。
【0025】
(回折格子と表面プラズモンの配置例)
ここで、回折格子104と検出素子アレイ105との配置などの構成に関する設計例について説明する。既に述べた様に検出素子アレイ105の各素子は夫々異なる波長に最大感度を有しているので、その最大感度に略一致した波長の電磁波が夫々の検出素子に入射するような設計を行なう。
【0026】
プラズモン型の検出素子201の場合、上記の波長と最大感度入射角の関係を略満たす様にプラズモン型の検出素子アレイ105に電磁波101を入射させる回折格子104を設計する。ここでは構成を簡単にするために、分光機能と集光機能を併せ持ついわゆる凹面回折格子を用いているが、本質的には異なる種類の回折格子でもよい。ここで、図10を参照して回折格子104と検出素子アレイ105の角度関係の一例を説明する。電磁波101が回折格子104に垂直に入射する場合を考え、回折格子104の溝のピッチを1200μmとし、回折格子104と検出素子アレイ105の角度関係を平行から16度回転させる。すると、波長200μmから333μmまでの電磁波に対して、一次回折光入射角とプラズモン型の検出素子201の共鳴角を略一致させることができる。図10には、波長200μmに対応する一次回折光202と波長300μmに対応する一次回折光203を示している。
【0027】
このとき、波長分解能はプラズモン型の検出素子アレイ105の素子ピッチや、回折格子104と検出素子アレイ105の距離に依存する。例えば、回折格子104とプラズモン型の検出素子アレイ105間の距離を500mm、プラズモン型の検出素子アレイ105の素子ピッチを6.85mmとすると、次の様になる。すなわち、波長200μmから333μmの間を10等分、すなわち波長分解能は約13.3μmとなる。また、プラズモン型の検出素子アレイ105の素子ピッチを0.685mmとすると、波長分解能は約1.33μmとなる。別の波長分解能向上手段としては、回折格子104の焦点距離を大きくすると共に、回折格子104とプラズモン型の検出素子アレイ105間の距離をより大きくしてもよい。また、回折格子104のピッチを変えて波長分散特性を変化させてもよい。
【0028】
ここでは1次回折光を利用したが、目的に合わせて他の次数の回折光を用いることも当然可能である。
【0029】
以上に示した様に、検出素子感度が向上する様に電磁波の入射角度を各検出素子に対してマッチングさせることができるので、分析を高感度に実施することが可能となる。高感度であるので、分析を高速とできる。上記電磁波は、典型的には、テラヘルツ波を用いた非破壊な検体のセンシングのために30GHz乃至30THzの周波数領域の少なくとも一部を含むテラヘルツ波である。
【実施例】
【0030】
以下、より具体的な実施例を説明する。
(実施例1:凹面回折格子)
実施例1は、波長分散部である波長分散素子の波長分散特性に合わせて、検出素子アレイ内の複数の検出素子を配置することを特徴とする分析装置に関する。図5に本実施例による検出素子アレイの例を示す。分析装置の他の部分は上記実施形態に準じる。
【0031】
図5において、検出素子アレイ105内の検出素子201は、直線上ではなく円周上に配置されている。この円は凹面回折格子におけるローランド円と呼ばれるもので、凹面回折格子の曲率半径の半分の曲率半径を持つ円を、凹面回折格子の中心に接する様に配置したものである。ここで、凹面回折格子の曲率半径を1000mm、ローランド円の半径を500mmとすることができる。ローランド円周上の1点から出射した電磁波は、凹面回折格子により回折され、夫々の回折光は、ローランド円上の或る1点に夫々集光するという性質を持つ。そのため、本実施例の様にローランド円上に検出素子201を配置すれば、直線上に配置したときよりも集光した回折光を夫々の検出素子201で受光することができる。よって、波長分解能の向上を実現できる。
【0032】
検出素子アレイ105内の素子配置としては、素子の傾きを、素子毎に最大感度入射角で電磁波が入射する様に調整してもよい。また、素子を不等間隔に配置して、最大感度を持つ電磁波が夫々の素子に入射する様にしてもよい。すなわち、検出素子アレイは、波長分散部の波長分散特性に合わせて、複数の検出素子を非直線上にまたは不等間隔に配置して、最大感度を持つ電磁波が夫々の素子に入射する様にしている。
【0033】
以上の説明では検出素子アレイ105内の素子配置を設計要素としたが、波長分散素子やそれに付随する光学素子の波長空間分散特性を設計要素としてもよい。各素子の検出素子面を、最大感度入射角で電磁波が入射する様に、アレイ面から傾けてもよい。
【0034】
(実施例2:検出素子への入射角度を制御)
実施例2は、検体からの電磁波の入射角や入射位置が変化しても、それを補償することのできる機構を備えることを特徴とする分析装置に関する。図6に本実施例による分析装置の例を示す。
【0035】
以下に本実施例における分析装置の動作について説明する。601は反射光用検出器であり、検出素子アレイ105内の素子のうち、波長333μmに最大感度を持つ検出素子からの反射光を受光する。反射光強度の情報は傾き制御部603に送られ、傾き制御部603はその情報に基づいて、モーターなどを利用した傾き制御機構602によって検出素子アレイ105の傾きを制御する。制御の基準としては、例えば反射光強度が常に略極小になる様に制御する。これは、図3から明らかな様に、検出素子201への電磁波の入射角が略共鳴角になる様に制御していることに対応する。制御方法としては、一般的なピークロック手法を用いることができる。すなわち、検出素子アレイ105の傾きを狭い範囲で常時振っておき、そのときの反射光強度変化率から反射光強度の極小方向を判断して検出素子アレイ105の傾きを制御すればよい。
【0036】
また、上記の様な制御機構を用いず、ピエゾ素子などを用いた制御機構を採用してもよい。この場合、高速な制御が可能であるという利点を有する。
【0037】
以上のような構成により、検体103から検体側光学系102に入射する電磁波の位置や角度が変化しても、それを補償する様に検出素子アレイ105を傾けることができる。従って、検体103の位置や角度の変化の影響を補償して分析を行なうことが可能となる。
【0038】
本実施例では、波長333μmの電磁波に対応する検出素子201からの反射光強度を測定しているが、他の素子或いは複数の素子からの反射光強度を測定してもよい。また、検出素子アレイ105の傾きを制御する代わりに、回折格子104もしくはその他の光学素子の傾きを制御してもよい。傾き以外にも、例えば、検出素子アレイ105の中心位置を制御パラメタとしてもよい。
【0039】
(実施例3:検体の線状領域)
実施例3は、検体の線状領域から得られる電磁波から、線状領域内の複数の位置におけるスペクトルを算出することを特徴とする分析装置に関するものである。図7に本実施例による分析装置の例を示す。
【0040】
図7において、103は検体である。102は検体側光学系であり、本実施例は、図8(a)に示す様に検体103における線状の検出領域801から得られる電磁波101を検出素子アレイ105で受光する様に構成されている。電磁波101は、検体側光学系102と凹面回折格子104の中間で実像を結ぶ。その実像は凹面回折格子104のローランド円上に略一致する様に配置されるのが望ましい。このような構成により、検出素子アレイ105の検出素子アレイ部802には、検体103における線状の検出領域801内における位置をx方向、波長をy方向として分散された電磁波が到達する(図8(b))。これにより、検体103における線状の検出領域801内の各点におけるスペクトルを取得することができる。
【0041】
一般に凹面回折格子は非点収差が大きいので、図8のx方向とy方向で焦点位置のずれが大きい。そこで、凹面回折格子104を非球面形状にすることなどが、位置分解能と波長分解能の向上に有効である。
【0042】
ベルトコンベア701により検体103を図7中「移動方向」に移動させながら、検体103の線状の検出領域801を1ステップずつずらしてスペクトルを取得する。このことで、検体103全体に渡るスペクトルを得ることも可能である。
【0043】
(実施例4:ファイバ)
実施例4は、波長分散部から出射する電磁波をファイバで受光し、検出素子アレイまで伝送することを特徴とする分析装置に関するものである。図9に本実施例による分析装置の例を示す。
【0044】
図9において、902はファイバ受光部であり、回折格子104で空間的に分散された電磁波101を複数のファイバ901によって受光する。ファイバの端面には電磁波の結合効率を上げるために、例えば、マイクロレンズを取り付けるなどしてもよい。受光された電磁波は、ファイバ901によって検出素子アレイ105まで伝送される。例えば、テラヘルツ帯で特性のよい伝送線路としては、中空ファイバや表面波線路などが挙げられる。また、ファイバ901と検出素子アレイ105は、検出素子アレイ105の各素子の最大感度波長、入射角に略一致する様に結合される。こうして、ファイバアレイから出射する電磁波を、夫々の波長に対して最大感度を示す様に構成された検出素子に最大感度を示す様に入射させる。
【0045】
このような構成により、検出素子アレイ105への電磁波の入射角のマッチングが容易になる。また、容易にファイバ端面を回折光の集光点に配置することができるので、波長分解能を向上させることができる。
【0046】
(実施例5:複数のユニットが切り替え)
実施例5は、検出素子アレイと回折格子をユニット化し、分解能の変更などの目的に応じて複数のユニットが切り替え可能であることを特徴とする分析装置に関するものである。この構成において、検出素子アレイ105と回折格子104は一つの筐体に固定されてユニットとなっており、相対的な位置関係が変わらない様にされている。このようなユニットは複数備えられており、検体側光学系102からの光路上で切り替え可能になっている。複数のユニットは、例えば、分解能が夫々異なっている。分解能を異ならせるために、例えば、回折格子104の格子ピッチや回折格子104から検出素子アレイ105までの距離を調整する。このような複数のユニットを備える構成により、分解能重視もしくはスペクトル取得速度重視といった目的に夫々対応することが可能となる。この様に、本実施例では、少なくとも波長分散部と検出素子アレイがユニット化され、ユニットが交換可能になっている。
【0047】
ユニットには検体側光学系102の全部または一部を含んでもよい。この場合、例えば、検体側の焦点距離を変えることで、様々な形態の検体103に対応することができる。また、第4の実施例に記載したファイバ受光部902と回折格子104をユニット化してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明を適用できる分析装置の一実施形態を示す構成図である。
【図2】本発明における検出素子アレイの一例を示す図である。
【図3】プラズモン検出素子における反射率の入射角依存性の一例を示す図である。
【図4】本発明における検出素子アレイへの一次回折光入射角と検出素子共鳴角の波長依存性の一例を示す図である。
【図5】第1の実施例における検出素子アレイの一例を示す図である。
【図6】第2の実施例による分析装置の一例を示す図である。
【図7】第3の実施例による分析装置の一例を示す図である。
【図8】第3の実施例における、検体の線状の検出領域(a)と検出素子アレイ(b)の一例を示す図である。
【図9】第4の実施例による分析装置の一例を示す図である。
【図10】回折格子と検出素子アレイの角度関係の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
101 電磁波
102 検体側光学系
103 検体
104 波長分散部(回折格子)
105 検出素子アレイ
106 スペクトル算出部
201 検出素子
202 波長200μmに対応する一次回折光
203 波長300μmに対応する一次回折光
250 第2の媒体(フィルタ部)
251 負誘電率媒体(フィルタ部)
252 電磁波検出部
601 反射光用検出器
602 傾き制御機構
603 傾き制御部
801 線状の検出領域
802 検出素子アレイ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体を分析するための装置であって、
検体からの電磁波を空間的に異なる波長成分に分散するための波長分散部と、
前記波長分散部が空間的に異なる波長成分に分散した電磁波を検出するための検出素子を複数備えた検出素子アレイと、
前記検出素子が検出した電磁波の強度信号からスペクトルを算出するスペクトル算出部と、を有し、
前記検出素子アレイは、電磁波を検出する感度が、前記波長分散部が空間的に分散した前記波長成分ごとに異なる構成であり、
前記波長分散部が空間的に異なる波長成分に分散した電磁波が前記検出素子に入射する角度を、前記検出素子ごとに異なる角度にする様に、前記波長分散部と前記検出素子アレイとを配置することを特徴とする分析装置。
【請求項2】
前記検出素子アレイは、電磁波を検出する感度が、前記波長分散部が空間的に分散した前記波長成分ごとに最大となる構成であり、
前記波長分散部が空間的に異なる波長成分に分散した電磁波が前記検出素子に入射する角度を、前記検出素子ごとに前記感度が最大となる角度にする様に、前記波長分散部と前記検出素子アレイとを配置することを特徴とする請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記検体に前記電磁波を照射する手段を有することを特徴とする請求項1または2に記載の分析装置。
【請求項4】
前記電磁波は30GHz以上30THz以下の周波数領域の少なくとも一部を含むことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の分析装置。
【請求項5】
前記検出素子は、前記検体からの電磁波の検出する波長領域を選択するためのフィルタ部と電磁波検出部とを備え、
前記フィルタ部は、誘電率実部が負の負誘電率媒体とそれとは異なる第2の媒体から構成されており、
前記負誘電率媒体と前記第2の媒体は、検出する電磁波の波長以下の距離で配置してあって、前記フィルタ部と前記電磁波検出部との間の距離は、前記検出する電磁波の波長以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の分析装置。
【請求項6】
前記検出素子アレイは、前記波長分散部の波長分散特性に合わせて、複数の前記検出素子をローランド円上に配置していることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の分析装置。
【請求項7】
前記検出素子への前記電磁波の入射角または入射位置の変化を補償する手段を備えることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の分析装置。
【請求項8】
前記検出素子アレイは、前記検体の線状領域からの前記電磁波を受光し、
前記スペクトル算出部は、前記線状領域内の複数の位置におけるスペクトルを算出することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の分析装置。
【請求項9】
ファイバアレイを備え、
前記波長分散部によって異なる波長成分に空間的に分散された前記電磁波を前記ファイバアレイで受光して前記検出素子アレイまで伝送し、
前記ファイバアレイから出射する前記電磁波を、夫々の波長に対して最大感度を示す様に構成された前記検出素子に最大感度を示す様に入射させることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の分析装置。
【請求項10】
少なくとも前記波長分散部と前記検出素子アレイがユニット化され、前記ユニットが交換可能であることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の分析装置。
【請求項11】
検体を分析するための装置であって、
電磁波を発生させるための発生部と、
前記発生部が発生させた電磁波を空間的に異なる波長成分に分散するための回折格子と、
前記回折格子が空間的に異なる波長成分に分散した電磁波を検出するためのプラズモン型の検出素子を複数備えた検出素子アレイと、
前記検出素子が検出した電磁波の強度信号からスペクトルを算出するスペクトル算出部と、を有し、
前記検出素子アレイは、電磁波を検出する感度が、前記回折格子が空間的に分散した前記波長成分ごとに最大となる構成であり、
前記回折格子が空間的に異なる波長成分に分散した電磁波が前記検出素子に入射する角度を、前記検出素子ごとに前記感度が最大となる角度にする様に、前記回折格子と前記検出素子アレイとを配置することを特徴とする分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−75073(P2009−75073A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−168013(P2008−168013)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】