説明

電磁波の漏洩抑制構造及び電磁波の漏洩を抑制する方法

【課題】電子部品が内蔵された筐体の内部から電磁波が漏洩することをより効果的に抑制する。
【解決手段】本発明にかかる電磁波の漏洩抑制構造1は、電子部品から発生した電磁波が電子部品を内蔵する筐体3の外部に漏洩することを抑制する電磁波の漏洩抑制構造1であって、漏洩を抑制しようとする電磁波の周波数に対して、その周波数の電磁波を共振させうる構造であって且つ電磁波を吸収可能な材料で形成された構造体が設けられていて、構造体により電磁波の漏洩が抑制されていることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品を内蔵する筐体の内部から電磁波が漏洩することを抑制する電磁波の漏洩抑制構造、及び電磁波の漏洩を抑制する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今は電子機器からの電磁波の放射規制が強化されており、筐体の内部から外部に漏洩する電磁波を減衰させることが電子機器の技術分野で重要な課題となっている。
このように筐体の内部から電磁波が漏洩することを抑制するためには、一般に電磁シールドが用いられる。このような電磁シールドとしては、例えば、特許文献1に示すように、電子部品(回路ボード上に実装された複数の回路素子)の周囲を覆うように装着されるシールドケースを備えたものが知られている。
【0003】
また、電子機器の筐体の内壁にフェライトなどの電磁波吸収材料が塗布されたノイズ吸収シートを貼り付け、電磁波を減衰する技術もある(例えば、非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−287261号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】インターネット、“FDK株式会社”、「製品情報/EMI対策製品/ノイズ対策シート」のページに記載された「ノイズ対策シート PEシリーズ」のpdfファイル<URL:http://www.fdk.co.jp/cyper-j/pdf/EC-ECJ002.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1のシールドケースは、内部の熱を放熱するという必要性から上面には排熱孔が複数設けられていている。当然、このような開口を設ければ、熱だけでなく電磁波も筐体の外部に漏れ出てしまい、十分な電磁波のシールド効果が得られなくなる。それゆえ、特許文献1のように電磁シールドを用いて電子部品から発生する電磁波の漏洩を防止することは実際問題として困難である。
【0007】
それに対して、非特許文献1などに開示された電磁波吸収シートを筐体の内部に貼り付ける手法では、ある程度のシールド効果は期待できる。
ただ、電磁波吸収シートで電磁波を吸収できるとはいっても、その吸収量はそれほど大きなものではない。加えて、筐体の内部から発射された電磁波は、電磁波吸収シートに1回だけ当たる場合が殆どであり、複数回の反射に関してはあまり期待できない。それ故、電磁波吸収の機会も1回だけに留まることとなり、万全のシールド効果を期すことは難しい。つまり、非特許文献1に示すように、電磁波吸収シートを貼り付けるなどして電磁波を吸収する技術は、昨今のように筐体の外部に漏洩する電磁波を徹底して規制しようとする状況下にあっては十分なものとはいえない。
【0008】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、電子部品が内蔵された筐体の内部から電磁波が漏洩することをより効果的に抑制することができる電磁波の漏洩抑制構造及び電磁波の漏洩を抑制する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の電磁波の漏洩抑制構造は以下の技術的手段を講じている。
即ち、本発明の電磁波の漏洩抑制構造は、電子部品から発生した電磁波が当該電子部品を内蔵する筐体の外部に漏洩することを抑制する電磁波の漏洩抑制構造であって、漏洩を抑制しようとする電磁波の周波数に対して、その周波数の電磁波を共振させうる構造であって且つ前記電磁波を吸収可能な材料で形成された構造体が設けられていて、前記構造体により当該電磁波の漏洩が抑制されていることを特徴とするものである。
【0010】
なお、前記構造体は、電磁波の波長により決定される代表寸法に形成されているのが好ましい。
また、前記構造体は、前記電磁波を発生する電子部品又は部位を取り囲むように配備されているのが好ましい。
さらに、前記構造体は、前記電磁波を発生する電子部品又は部位に隣接して配備されているのが好ましい。
また、前記構造体は、空間を挟んで相対する壁面を有し、前記壁面間において前記電磁波を複数回反射させるとよい。
【0011】
一方、本発明の電磁波の漏洩を抑制する方法は、電子部品から発生した電磁波が当該電子部品を内蔵する筐体の外部に漏洩することを抑制するに際しては、前記電磁波を吸収可能な材料を用いて、漏洩を抑制しようとする電磁波の周波数に対して、その周波数の電磁波を共振させうる構造の構造体を予め形成しておき、前記構造体を筐体の内部又は近傍に配備することにより当該電磁波の漏洩を抑制することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電磁波の漏洩抑制構造及び電磁波の漏洩を抑制する方法によれば、電子部品が内蔵された筐体の内部から外部へ電磁波が漏洩することをより効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1実施形態の電磁波の漏洩抑制構造を示す図である。
【図2】第1実施形態の漏洩抑制構造の効果を示す図である。
【図3】第2実施形態の電磁波の漏洩抑制構造を示す図である。
【図4】第2実施形態の漏洩抑制構造の効果を示す図である。
【図5】第3実施形態の電磁波の漏洩抑制構造を示す図である。
【図6】第4実施形態の電磁波の漏洩抑制構造を示す図である。
【図7】第5実施形態の電磁波の漏洩抑制構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
まず、本発明の電磁波の漏洩抑制構造1を説明する前に、従来から行われてきた電磁波の漏洩抑制方法について説明する。
最も一般的な電磁波の漏洩抑制方法は、電磁波を発生する電子部品又は部位(以下、単に電子部品Tという)の周囲を、金属などのように導電性を有するシールド体で隙間なく包囲する「シールド手法」を用いたものである。
【0015】
このシールド手法により電子部品Tなどを隙間なく覆う場合には、シールド体自体を1個の金属導体とみなせ、電磁波がシールド体を通過して外部に漏洩することは殆どない。特に、シールド体を構成する壁の厚みが1mmを超えるようになれば、導体の壁を直接透過して外部に漏洩する電磁波の量は非常に少なくなり、電磁波の遮蔽効果は非常に高くなる。
【0016】
しかし、実際の電子機器では、様々な理由から、シールド手法を採用できない場合が多い。
例えば、集積化が進んだ昨今の電子機器からは大量に熱が発生し、発生した熱を空気の流れに乗せて逃がすために筐体には放熱用の開口が形成されることが多い。当然、このような開口を設ければ、熱だけでなく電磁波も筐体の外部に漏れ出てしまう。
【0017】
また、筐体のデザイン性を高めるために、筐体の一部を不導体の材料、例えばプラスチックなどで形成した場合にも、このような不導体の材料には電磁波を遮蔽する作用は期待できないため、十分な電磁波のシールド効果が得られなくなる。
このような電子機器に対しては、筐体自身をシールド体で包囲することは、放熱の観点やデザインの観点から不可能である。また、電磁波放出の原因となっている電子部品Tのみをなどをシールド体で包囲することも、原因である電子部品の特定の難しさや放熱の観点から不可能である。
【0018】
一方、従来から行われてきた電磁波の漏洩抑制方法には、いわゆるノイズ対策部品を、回路内に組み込んで筐体内で発生する電磁波を減衰させる方法がある。
このノイズ対策部品は、特定の周波域の電磁波だけフィルタリングして除く(カットオフする)ことにより電磁波を抑制する電子部品であり、電磁波の発生源である電子部品Tに電気的に接続するなどして用いられる。ただ、これらのノイズ対策部品はピンポイント的なものであり、回路内での電磁波の発生箇所が特定できなければ適用が難しい。
【0019】
さらに、従来から行われてきた電磁波の漏洩抑制方法には、電磁波吸収材料や導電性塗料を筐体の内側に塗布したり、塗布済みシート(電磁波吸収シート)を筐体の内側に貼り付けたりすることで、筐体内で発生する電磁波を減衰させる方法がある。
これらの電磁波吸収シートは、入射してきた熱に変えるなどして電磁波を吸収するものであり、筐体の内壁面の中でも特に電子部品Tから発生した電磁波が当たりやすい部分、または筐体の内壁面を全面に亘って被覆することで、電磁波を吸収してその減衰を効果的に行うことができる。
【0020】
とはいえ、電磁波吸収シートで吸収できる電磁波の吸収量はそれほど大きなものではない。加えて、筐体の内部から発射された電磁波は、電磁波吸収シートに1回だけ当たる場合が殆どであり複数回の入射に関してはあまり期待できない。それ故、電磁波吸収の機会も1回だけに留まることとなり、万全のシールド効果を期すことは難しい。
そこで、本発明の漏洩抑制構造では、漏洩を抑制しようとする電磁波の周波数に対して、その周波数の電磁波を共振させうる構造であって且つ電磁波を吸収可能な材料で形成された構造体(共振構造体)を設けている。
【0021】
これは、従来のやり方で電磁波が電磁波吸収材料に吸収される回数が少ないのであれば、その回数を増やすことができれば電磁波の減衰効果を向上できるはずであるという考え方に基づくものである。
つまり、共振が起こっている状態では、電磁波は、電磁波を吸収可能な材料で形成された構造体の壁面に繰り返し反射(複数回反射)しており、吸収される回数も多くなっているはずである。ただ、共振が起こっている状態では波動は一般に増幅されるとするのが技術的な常識であり、電磁波を減衰しようとする場合に共振を用いることは通常はあり得ない。
【0022】
つまり、本発明の電磁波の漏洩抑制構造は、電磁波を減衰しようとする場合に用いられないこの共振現象をあえて用いることで、1回の反射で吸収できる電磁波の吸収量は大きくなくともトータルでの吸収量を大きくすることができ、電磁波の大幅な減衰を実現可能としたものである。
上述した電磁波の漏洩抑制構造で採用しうる共振構造体には、次の第1実施形態〜第5実施形態に示すようなものが考えられる。
【0023】
以降では、第1実施形態〜第5実施形態の共振構造体を詳しく説明する。
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態の漏洩抑制構造1、言い換えれば第1実施形態の共振構造体2を示したものである。
共振構造体2が内部に配備される筐体3は、互いに平行な上下・前後・左右の平板状の壁面で構成された立方体状の外観を備えており、これら6つの壁面で囲まれた内部は空洞となっている。この筐体3の内部には電子部品Tが実装された基板7が内蔵されている。この基板7は、図例では鉛直方向に沿って立てかけられた状態で配備されており、筐体3の壁面と平行となるように取り付けられている。
【0024】
これら電子部品Tや基板7上の配線の一部、または電子部品Tに付属する部位から電磁波が発生しているとする。
斯かる電磁波が筐体3外部に漏れ出ることを防ぐための共振構造体2は、筐体3の内部に配備されるような筐体3より小さなものである。
この共振構造体2は、電磁波が発生していると思われる電子部品Tを囲む3つの側壁から成り、筐体3と同様に互いに平行な上下の側壁4、5と、この上下側壁をつなぐ左側壁6とを有している。この共振構造体2は、電磁波を吸収する(入射した電磁波を減衰させる)鋼板から構成されている。
【0025】
共振構造体2の鉛直方向に沿って延びる側壁6には、構造体の内外を電磁的に連通する連通孔10が形成されている。この連通孔10は、共振構造体2の内部で共振により減衰された電磁波を外部に放出するために、また共振構造体2の外部で発生した電磁波を内部に取り込んで共振により電磁波の減衰を行う際に用いられるものである。連通孔10は、物理的に側壁6に孔を穿つことにより開口状に形成されたものだけでなく、合成樹脂などの不導体で形成されたものでも良い。
【0026】
共振構造体2は、漏洩を防ぎたいと考える電磁波を共振させうる構造を備えたものであり、代表寸法、すなわち一対の壁面間(上下側壁間)の間隔dが電磁波の波長λにより決定される寸法に形成されている。
なお、共振構造体2の内寸が互いに異なる複数の寸法を採用する際に、その中の少なくともひとつを代表寸法とすれば良く、その代表寸法が、漏洩を抑制しようとする電磁波の波長λの略半分(d=λ/2)、又はその整数倍となるようにされていると良い。
【0027】
上記のような代表寸法を有する共振構造体2であれば、共振構造体2に設けられた空間を隔てて相対する壁面間に入射された電磁波は共振を起こし、相対する壁面間を往復しつつ壁面で繰り返し反射する。そして、この繰り返し行われる反射の際に電磁波が表面に配備された電磁波吸収材料や導電性材料の粒子に吸収され、蓄えられた電磁エネルギが熱エネルギに変わるため、電磁波をより効果的に減衰することができるようになるのである。
【0028】
言い換えれば、上述した共振構造体2を利用した電磁波の減衰方法は、共振を利用した電磁波のエネルギ場を予め形成しておいて、このエネルギ場に蓄えられた電磁波のエネルギを電磁波吸収材料や導電性材料で吸収する方法ということもできる。
共振構造体2を構成する部材としては、金属板に電磁波吸収シートを貼り付ける又は鋼板などの表面に電磁波吸収材料や導電性材料を塗布したものが考えられる。
【0029】
次に、上述した漏洩抑制構造1を用いて電磁波の漏洩を抑制する方法について説明する。
電磁波の漏洩を抑制する際には、電磁波を吸収可能な材料すなわち電磁波吸収シートを構造体に貼り付けたり、特開2008−246974号公報に開示された「電磁波吸収性に優れた積層型樹脂塗装金属板」を用いて共振構造の構造体(共振構造体2)を予め形成しておく。この共振構造体2は、漏洩を抑制しようとする電磁波の周波数に対して、その周波数の電磁波を共振させうる構造を有するものであり、代表寸法である上下方向の内寸dが電磁波の波長をλとした際にλ/2の整数倍と等しくなるような直方体とする。
【0030】
このような共振構造体2を用いれば、共振構造体2に入射された電磁波は、一対の側壁間で共振を起こし、相対する側壁間を往復しつつ壁面で繰り返し反射する。そして、この繰り返し行われる反射の際に電磁波が表面に配備された電磁波吸収材料や導電性材料に吸収され、蓄えられた電磁エネルギが熱エネルギに変わるため、電磁波をより効果的に減衰することができるのである。
【0031】
言い換えるならば、上述した共振構造体2を利用した電磁波の減衰方法は、共振を利用した電磁波のエネルギ場を予め形成しておいて、このエネルギ場に蓄えられた電磁波のエネルギを電磁波吸収材料や導電性材料で吸収する方法ということもできる。
次に、図1に示す漏洩抑制構造1を採用した際に、実際にどの程度電磁波の漏洩が抑制されるかを実測した結果を挙げて、本発明の効果をさらに詳しく説明する。
【0032】
図2は、図1に示す漏洩抑制構造1において、筐体3内に試験用のアンテナ9を配備し、このアンテナ9から発射された電磁波がどの程度外部に漏洩したかを示したものである。アンテナ9から発射された電磁波の周波数は略1453MHzである。
図2において、「なし」は筐体内部に共振構造体が配備されていないものであり、「導電性材料」と表記されているものは、共振構造体2の全て又は一部(底面)を「電磁波吸収性に優れた積層型樹脂塗装金属板」で構成したものである。また、図2において、「電磁波吸収材料」と表記されているものは、共振構造体2の全て又は一部(底面)を市販されている電磁波吸収シート(TDK株式会社製のIFL10M、0.1mm厚)で構成したものである。
【0033】
図2に示される如く、共振構造体2が配備されていない「なし」の結果では、共振構造体2の共振周波数である1453MHzにおいて−16dB程度の電磁波の透過量が計測される。それに対し、「導電性材料」及び「電磁波吸収材料」を共振構造体2に用いた例では、電磁波の透過量が−30dB以下と小さくなっており、第1実施形態の漏洩抑制構造1は共振周波数の近傍で大きな電磁波の減衰の効果があることがわかる。
【0034】
つまり、第1実施形態の漏洩抑制構造1は、特定の周波数の電磁波に対してのみ共振を起こし、共振が起こる周波帯の電磁波についてのみ大きな減衰効果を奏することになる。特定の周波数帯を外れると減衰効果は弱いことになるが、悪影響を及ぼす電磁波としては、回路基板7内で使用される信号周波数(例えばCPUのクロック周波数、映像信号の周波数)の整数倍の成分を有するものが考えられ、その周波数は一義的に特定されるものが殆どである。それゆえ、第1実施形態の漏洩抑制構造1は、いわゆるノイズ対策部品を設けても抑制できないような特定周波数の電磁波に対して、特に効果的な抑制が可能である。なお、材料による減衰量の差異は、電磁波吸収シートの厚みが鋼板の皮膜に比べて厚く、電磁波吸収材料の量に差があるためである。
[第2実施形態]
次に、第2実施形態の電磁波の漏洩抑制構造1について説明する。
【0035】
図3に示すように、第2実施形態の漏洩抑制構造1は、電磁波が発生していると思われる電子部品Tを挟み込むように囲む2つの側壁から成り、第1実施形態が箱形のタイプであったのに対して互いに平行な上下の側壁4、5のみで構成された平行板タイプとなっている。この平行板タイプでは、電子部品Tの上下方向は開放されていないが、水平方向は大きく3方向(左右及び前)に開放状態となっている。この第2実施形態の共振構造体2も、第1実施形態と同様な電磁波を吸収する(入射した電磁波を減衰させる)鋼板、つまり「電磁波吸収性に優れた積層型樹脂塗装金属板」から構成されている。
【0036】
そして、第2実施形態の共振構造体2も、第1実施形態と同じように漏洩を防ぎたいと考える電磁波を共振させうる構造を備えたものである。具体的には、この共振構造体2では、上下一対の側壁4、5間の間隔lが電磁波の波長λにより決定される寸法(代表寸法)、つまり漏洩を抑制しようとする電磁波の波長λの略半分(l=λ/2)、又はその整数倍となるように形成されている。
【0037】
それゆえ、上下の側壁間に入射された電磁波は、壁面間を往復しつつ壁面で繰り返し反射して共振を起こし、反射を繰り返すたびに電磁波が表面に配備された電磁波吸収材料や導電性材料の粒子に吸収されるため、第1実施形態の場合と同様に電磁波を効果的に減衰することができる。
加えて、第2実施形態の共振構造体2は、水平方向が開放状態であるため空気が構造体の周囲を自由に流動しやすく、第1実施形態の共振構造体2に比べて空気の流れを利用して電子部品Tで発生した熱を構造体の外部に排出しやすい構造となっている。それゆえ、第2実施形態の共振構造体2であれば、大量の熱が発生しやすい昨今の電子機器に対しても余裕を持った排熱が可能となる。
【0038】
なお、共振構造体2を構成する部材や、漏洩抑制構造1を用いて電磁波の漏洩を抑制する方法については、第2実施形態も第1実施形態も相違しないので、これらに対する説明は省略する。
図4は、図3に示す漏洩抑制構造1(第2実施形態の漏洩抑制構造1)を採用して、試験用のアンテナ9から略1471MHzの電磁波を発振した際に、実際にどの程度電磁波の漏洩が抑制されるかを図2と同様に実測した結果である。
【0039】
図4に示される如く、共振構造体2が配備されていない「なし」の結果では、共振構造体2の共振周波数である1471MHzにおいて−9dB程度の電磁波の透過量が計測される。それに対し、「導電性材料」を用いた例では−12dB、「電磁波吸収材料」を用いた例では−19dBと電磁波の透過量が小さくなっており、第2実施形態の漏洩抑制構造1でも共振周波数の近傍で大きな電磁波の減衰の効果があることがわかる。
【0040】
以上のことから、第2実施形態の漏洩抑制構造1でも、第1実施形態の場合と同様に特定の周波数の電磁波に対して効果的な抑制が可能であると判断される。なお、材料による差異は第1実施形態の場合と同じく電磁波吸収物質の量の差によるものである。
[第3実施形態]
次に、第3実施形態の電磁波の漏洩抑制構造1について説明する。
【0041】
図5(a)及び(b)に示すように、第3実施形態の漏洩抑制構造1は、第1実施形態及び第2実施形態のように共振構造体2を構成する相対する側壁(空間を隔てて相対する側壁面)に平板状のものを用いておらず、円筒状に湾曲した板材を用いたものである。
第3実施形態の共振構造体2としては、図5(a)や図5(b)に示すように、導電性材料や電磁波吸収材料で形成されていたり(例えば電磁波吸収シートを貼る等)、電磁波を吸収する鋼板(前述の「電磁波吸収性に優れた積層型樹脂塗装金属板」)を用いて内部が空洞な円筒状に形成されたものを用いることができる。なお、図5(a)に示す共振構造体2の外周面には第1実施形態と同様な連通孔10が形成されており、放熱を促すようになっている。また、図5(b)に示す共振構造体2の外周面は周方向の一部が切り欠かれたようになっている。
【0042】
これら図5(a)や図5(b)に示される円筒状の共振構造体2は、その内径dが電磁波の波長λの略半分(l=λ/2)、又はその整数倍と等しくなる寸法とされており、第1実施形態や第2実施形態と同様に共振構造体2の内部(壁面間)に案内された電磁波に共振を起こし、共振に合わせて電磁波が表面に配備された電磁波吸収材料や導電性材料の粒子に吸収されるため、第1実施形態の場合と同様に電磁波を効果的に減衰することができる。
[第4実施形態]
次に、第4実施形態の電磁波の漏洩抑制構造1について説明する。
【0043】
上述した第1実施形態〜第3実施形態の共振構造体2は、電子部品Tの周囲にこの電子部品Tを取り囲むように配備されたものであった。しかし、共振構造体2は、外部から電磁波を取り込んで構造体の内部で電磁波の減衰を行うものであるため、その設置位置は電子部品Tの周囲でなくても良く、例えば第4実施形態に示すように筐体3の内部であって電子部品Tの近傍に配備されるものを用いることもできる。
【0044】
例えば、回路基板7の中に複数の電子部品Tが設けられた場合を考える。このような場合は、図6(a)に示すように共振構造体2を筐体3内であって電磁波を発生する電子部品Tが設けられた回路基板7の側方に隣接して配備しても良いし、同図に点線で示すように筐体3の外側に隣接して配備しても良い。このように回路基板7の側方に共振構造体2を配置しておけば、電子部品Tから発生した電磁波を共振構造体2の内部に取り込んで減衰でき、それによって筐体3の外部に電磁波が漏洩することを抑制することができる。
【0045】
なお、複数の電子部品Tの中で特に電磁波が発生しやすい電子部品Tが明らかになっている場合には、図6(b)に示すように回路基板7の中でも特に電磁波が発生しやすい電子部品Tを取り囲むように配備するやり方でも効果的に電磁波の漏洩を抑制できる。
構造体は導電性材料や電磁波吸収材料で形成されていたり(例えば電磁波吸収シートを貼る等)、電磁波を吸収する鋼板で構成されている。
[第5実施形態]
次に、第5実施形態の電磁波の漏洩抑制構造1について説明する。
【0046】
上述した第1実施形態〜第4実施形態の電磁波の漏洩抑制構造1は共振構造体2が筐体3と別に筐体3の内部に設けられた例を挙げたが、第5実施形態に示すように筐体3そのものを共振構造体2として用いることもできる。
図7に示すように、第5実施形態の電磁波の漏洩抑制構造1では、筐体3の側壁の内周面側が導電性材料や電磁波吸収材料で形成されていたり(例えば電磁波吸収シートを貼る等)、電磁波を吸収する鋼板(前述の「電磁波吸収性に優れた積層型樹脂塗装金属板」)よりなっている。筐体3の側壁は相対するものの間隔dが電磁波の波長λの略半分(l=λ/2)、又はその整数倍と等しくなる寸法となるように設置されている。
【0047】
このようにすれば、筐体3の側壁でなる共振構造体2を用いて電磁波を共振させつつ電磁波吸収材料や導電性材料で吸収することができ、筐体3外部への電磁波の漏洩を効果的に抑制できる。
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、発明の本質を変更しない範囲で各部材の形状、構造、材質、組み合わせなどを適宜変更可能である。また、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、実験条件や電磁波の発生条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な事項を採用している。
【符号の説明】
【0048】
1 漏洩抑制構造
2 共振構造体
3 筐体
4 共振構造体の上側の側壁
5 共振構造体の下側の側壁
6 共振構造体の水平方向を向く側壁(左側壁)
7 基板(回路基板)
9 アンテナ
10 連通孔
λ 漏洩を防止しようとする電磁波の波長
T 電子部品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品から発生した電磁波が当該電子部品を内蔵する筐体の外部に漏洩することを抑制する電磁波の漏洩抑制構造であって、
漏洩を抑制しようとする電磁波の周波数に対して、その周波数の電磁波を共振させうる構造であって且つ前記電磁波を吸収可能な材料で形成された構造体が設けられていて、
前記構造体により当該電磁波の漏洩が抑制されていることを特徴とする電磁波の漏洩抑制構造。
【請求項2】
前記構造体は、電磁波の波長により決定される代表寸法に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の電磁波の漏洩抑制構造。
【請求項3】
前記構造体は、前記電磁波を発生する電子部品又は部位を取り囲むように配備されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電磁波の漏洩抑制構造。
【請求項4】
前記構造体は、前記電磁波を発生する電子部品又は部位に隣接して配備されていることを特徴とする請求項1または2に記載の電磁波の漏洩抑制構造。
【請求項5】
前記構造体は、空間を挟んで相対する壁面を有し、
前記壁面間において前記電磁波を複数回反射させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電磁波の漏洩抑制構造。
【請求項6】
電子部品から発生した電磁波が当該電子部品を内蔵する筐体の外部に漏洩することを抑制するに際しては、
前記電磁波を吸収可能な材料を用いて、漏洩を抑制しようとする電磁波の周波数に対して、その周波数の電磁波を共振させうる構造の構造体を予め形成しておき、
前記構造体を筐体の内部又は近傍に配備することにより当該電磁波の漏洩を抑制することを特徴とする電磁波の漏洩を抑制する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−30675(P2013−30675A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166921(P2011−166921)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】