説明

電磁波イメージングシステム、構造物透視装置および構造物透視方法

【課題】構造物表面に存在する凹凸構造の影響を極力回避し、構造物に生じた劣化箇所をより高い精度で透視する。
【解決手段】ミリ波帯の電磁波イメージングシステムであって、構造物表面の画像を撮像する画像撮像装置と、撮像した画像から構造物表面の凹凸の程度を分析する分析装置と、分析装置が分析した凹凸の程度に応じてミリ波帯の電磁波の周波数を特定する制御手段と、 ミリ波帯の電磁波を構造物に照射する電磁波発生装置と、ミリ波帯の電磁波の反射波を検知する1次元検波器アレイと、移動距離を計測する距離センサと、前記1次元検波器アレイが検出した反射波の強度を数値化する計測装置2と、距離センサが計測した移動距離と、前記計測装置が数値化した反射波強度とを対応付けた、構造物の透視イメージを表示する表示装置3と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波を用いた構造物診断技術に関し、特に、コンクリートなどの構造物に生じたクラックや剥離等の劣化を電磁波によって非破壊検査する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
世の中の建造物に広く用いられているコンクリートには、製造過程や歳月の経過において腐朽や欠陥が生じていることが少なくない。このような腐朽や欠陥は、コンクリートの強度を著しく劣化させる要因の1つと考えられる。例えば、コンクリート構造物内部でクラックや剥離が発生すると構造の強度が低下して、場合によっては倒壊の危険性を誘発するおそれがある。地震による建造物倒壊やトンネル覆工コンクリート塊の落下等がその例である。このような事故の防止には、コンクリートの内部クラックや剥離を早期に検知することが必要である。
【0003】
コンクリートの内部クラックや剥離を検知する方法としては、コンクリートの劣化を外部から目視によって検査する方法が考えられる。また、X線CT、超音波イメージング、マイクロ波イメージング、熱分布イメージングなどを用いることにより、建造物を破壊することなく、建造物内部を透視する非破壊検査方式が考えられる。なお、特許文献1および非特許文献2には、コンクリートを検査する方法が記載されている
【特許文献1】国際公開第WO00/52418号パンフレット
【非特許文献1】小原治之,「コンクリート床版検査用3次元映像化レーダの開発」,第7回地下電磁計測ワークショップ論文集,2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
さて、建造物に用いられるコンクリートは、実際には、コンクリート表面が壁紙クロスや塗装などによって覆われている場合が多い。このような場合、目視によってコンクリートの劣化を外部から検査することは困難である。
【0005】
また、非破壊検査方式にX線CTを用いた場合、X線の透過能が大きいためにコンクリートからの反射信号を検知することが難しく、X線発生器とX線検知器とを対向して配置する必要が生じる。そのため、X線CTを用いた装置は、システム規模が大きくなってしまう、という問題点がある。また、X線CTを用いた場合は透過型の撮像方式であるため、検査対象となるコンクリート面の後ろ側に、X線検知装置を配置する必要がある。しかしながら、検査対象となるコンクリートがトンネルや高層ビルの外壁などの場合、コンクリート面の後ろ側にX線検知装置を配置することは困難である。
【0006】
また、超音波イメージングは、パルス状に超音波をコンクリート表面から入射させ、コンクリート中を伝搬する弾性波を検知し、腐朽や欠陥を見通す技術である。そのため、非破壊検査方式に超音波イメージングを用いる場合も、基本的には信号発生器と検知器と対向させることが望ましい。これにより、システム規模が大きくなってしまう、という問題点がある。
【0007】
また、マイクロ波を用いたイメージング装置は、レーダーシステムを採用してコンクリート内部に埋設された金属管などを探査する用途に用いられているが、空間解像度に難がある。また、熱分布イメージングは、建造物の表面から見た温度分布を可視化するものであって、健全部位と腐朽・欠陥部位において熱伝導特性が異なることを利用するものである。しかしながら、その熱拡散は速やかに広がるため、像に十分な空間解像度が得られないという問題が発生する。
【0008】
さらに、コンクリートクラックの早期診断には、土木・建築の基準としてミリメートル単位での精度が必要とされている。このミリメートル単位の大きさは、一般に構造物の非破壊検査に用いられている電磁波の波長よりも極めて小さく、電磁波の反射として得られる特徴も極めて小さい信号レベルである。したがって、劣悪なS/N比によって微細なクラックの検知が困難となる場合が多く、特に、コンクリート表面の壁紙クロスや塗装などの被覆材の凹凸が、S/N比を劣化させる要因として挙げられる。すなわち、被覆材表面の凹凸構造が電磁波の波長と同程度かそれ以上の場合、反射波に甚大な影響を与え、当該被覆材の下にわずかな幅のクラックが潜んでいるか否かを判定することは困難である。そのため、被覆材の下のコンクリートに潜んでいる劣化箇所を見落とすおそれがある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、構造物表面に存在する凹凸構造の影響を極力回避し、構造物に生じた劣化箇所をより高い精度で透視することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、第1の発明は、ミリ波帯の電磁波イメージングシステムであって、構造物表面の画像を撮像する画像撮像装置と、前記撮像した画像から構造物表面の凹凸の程度を分析する分析装置と、前記分析装置が分析した凹凸の程度に応じてミリ波帯の電磁波の周波数を特定する制御手段と、ミリ波帯の電磁波を構造物に照射する電磁波発生装置と、前記ミリ波帯の電磁波の反射波を検知する1次元検波器アレイと、移動距離を計測する距離センサと、前記1次元検波器アレイが検出した反射波の強度を数値化する計測装置と、前記距離センサが計測した移動距離と、前記計測装置が数値化した反射波強度とを対応付けた、構造物の透視イメージを表示する表示装置と、を備え、前記電磁波発生装置は、前記制御手段が特定した周波数のミリ波帯の電磁波を、構造物に照射する。
【0011】
第2の発明は、ミリ波帯の電磁波イメージングシステムにおける構造物透視装置であって、構造物表面の画像を撮像する画像撮像装置と、前記撮像した画像から構造物表面の凹凸の程度を分析する分析装置と、前記分析装置が分析した凹凸の程度に応じてミリ波帯の電磁波の周波数を特定する制御手段と、ミリ波帯の電磁波を、構造物に照射する電磁波発生装置と、前記ミリ波帯の電磁波の反射波を検知する1次元検波器アレイと、当該構造物透視装置の移動距離を計測する距離センサと、を備え、前記電磁波発生装置は、前記制御手段が特定した周波数のミリ波帯の電磁波を、構造物に照射し、前記1次元検波器アレイは、前記検知した反射波を計測装置に送信し、前記距離センサは、前記計測した移動距離を表示装置に送信する。
【0012】
第3の発明は、ミリ波帯の電磁波イメージングシステムにおける構造物透視方法であって、構造物表面の画像を撮像する画像撮像ステップと、前記撮像した画像から構造物表面の凹凸の程度を分析する分析ステップと、前記分析ステップで分析した凹凸の程度に応じてミリ波帯の電磁波の周波数を特定する特定ステップと、前記特定ステップで特定した周波数のミリ波帯の電磁波を、構造物に照射する電磁波照射ステップと、1次元検波器アレイを用いて、前記ミリ波帯の電磁波の反射波を検知する反射波検知ステップと、前記1次元検波器アレイが検出した反射波の強度を数値化する計測ステップと、前記計測ステップで数値化した反射波強度を表示する表示ステップと、を行う。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、構造物表面に存在する凹凸構造の影響を極力回避し、構造物に生じた劣化箇所をより高い精度で透視することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施の形態に係る電磁波イメージングシステムの全体構成図である。
【0016】
電磁波イメージングシステムは、ミリ波帯の電磁波を用いて構造物を透視する構造物表層部透視装置1と、ロックインアンプ(計測器)2と、制御PC(Personal Computer)3と、を備える。
【0017】
構造物表層部透視装置1は、筐体11内部に、電磁波発生器12と、電磁波検波器アレイ13と、車輪型距離センサ14と、周波数切替器15と、凹凸診断ユニット16と、を備える。構造物表層部透視装置1の筐体11は、片手で操作可能な数十センチ四方程度(例えば、全長300mm程度)の大きさのハンディ型の筐体であるものとする。
【0018】
電磁波発生器(GUNN発振器、シンセサイザ 等)12は、94-120 GHz帯の電磁波(以下、「ミリ波」)を発生させる。そして、電磁波発生器12は、筐体11に取り付けられたホーンアンテナ等(不図示)を用いて、コンクリート等の透視対象物(以下、「ターゲット」)にミリ波を拡散照射する。
【0019】
なお、本実施形態の電磁波発生器12は、周波数切替器15により周波数の調整が可能であるものとする。例えば、電磁波発生器12は、周波数切替器15の制御により、中心周波数100GHz、電磁波強度40mWの電磁波を出力するものとする。なお、周波数切替器15は、凹凸診断ユニット16から受け付けた制御信号に基づいて、電磁波発生器12が発生する電磁波の周波数を調整する。
【0020】
電磁波発生器12より照射されたミリ波は、筐体11の底面の開口部19からターゲット面へ照射される。そして、照射されたミリ波の反射波が、ターゲット面へ受信アンテナを向けて設置された電磁波検波器アレイ13によって検知される。電磁波検波器アレイ13には、例えば電磁波を受信するための平面スロットアンテナ等に、電磁波の反射強度を検知するためのショットキーダイオード等を接続したものを複数個用意し、一列に並べた1次元検波器アレイを用いるものとする。なお、本実施形態の電磁波検波器アレイ13の素子数は16個、平面スロットアンテナの間隔は5mm毎、ショットキーダイオードの感度は100mV/mWであるものとする。電磁波検波器アレイ13は、検知した反射波強度をダイオードの整流作用によって電圧値に変換し、変換した電圧値を検知信号としてロックインアンプ2に送信する。
【0021】
車輪型距離センサ14は、筐体11の移動距離を検知し、マイコンボード(不図示)を経由して、制御PC3に距離信号(移動距離情報)を伝送する。すなわち、筐体11を手で走査すると、車輪型距離センサ14は、走査により移動した距離の情報を制御PC3に送信する。凹凸診断ユニット16は、ターゲット表面の画像を撮像し、撮像画像に基づいて凹凸の程度を診断する。なお、凹凸診断ユニット16については、後述する。
【0022】
ロックインアンプ2は、電磁波検波器アレイ13から送信された反射波強度(検知信号)を受信し、反射波強度を数値化して制御PC3に出力する。
【0023】
制御PC3は、ロックインアンプ2から出力された反射波強度を入力するとともに、車輪型距離センサ14から送信された移動距離情報を受信する。そして、制御PC3は、移動距離に合わせて電磁波検波器アレイ13が検知した反射波強度値を、当該制御PC3の出力装置上に次々と描画する。これにより、ターゲット面表層内部の2次元透視画像をリアルタイムに表示(取得)することができる。なお、制御PC3の出力装置に表示される2次元透視画像については後述する。
【0024】
次に、構造物表層部透視装置1について、さらに詳しく説明する。
【0025】
図2は、構造物表層部透視装置1の概略構成図である。図示する構造物表層部透視装置1は、凹凸診断ユニット16と、電磁波診断ユニット17と、距離センサユニット18と、を備える。なお、凹凸診断ユニット16は、当該構造物表層部透視装置1の進行方向に対して、電磁波診断ユニット17の前方に設置されるものとする。これにより、電磁波診断ユニット17が透視するターゲット表面の凹凸構造を事前に分析し、分析した凹凸構造に適した周波数を決定することができる。
【0026】
すなわち、コンクリートなどのターゲットの表面は、壁紙クロスや塗装などの被覆材で覆われていることが多い。また、コンクリートクラックの早期診断には、ミリメートル単位での精度が必要とされ、このミリメートル単位の大きさを検出するには、極めて小さい波長の電磁波が用いられる。したがって、電磁波の反射として得られる特徴も極めて小さい信号レベルである。被覆材の反射波への影響が無視できる程に小さい場合は問題ないが、電磁波の波長と同程度かそれ以上の大きさの被覆材の凹凸構造は、S/N比を劣化させ、反射波に甚大な影響を与える。そのため、被覆材の下のコンクリートに潜んでいるわずかな幅のクラック(劣化箇所)が存在するか否かを判定することは困難であり、クラックを見落としてしまうおそれがある。
【0027】
一般に、周波数を下げると画像解像度は低下し、表面の凹凸構造による影響が少なくなる。しかしながら、解像度を下げすぎるとクラック等の劣化箇所を検知することができない。そこで、凹凸診断ユニット16では、ターゲット表面の凹凸構造を事前に分析し、表面の凹凸構造が、反射波に影響を与えない範囲内で、最大の周波数を特定する。
【0028】
図示する凹凸診断ユニット16は、画像撮像装置31と、分析装置32と、制御装置33と、関数テーブル34と、を備える。画像撮像装置31は、例えば、CCD(Charge Coupled Devices)カメラなどを用いて、ターゲットの表面の画像を撮像し、撮像した画像を分析装置32に送出する。
【0029】
そして、分析装置32は、画像撮像装置31からターゲットの表面の画像を受け付け、所定のエッジ検出アルゴリズムを用いて、画像中のエッジ含有率を算出し、ターゲット表面の凹凸の程度を定量化する。なお、画像エッジ検出アルゴリズムについては、例えば下記文献に記載されている。
【0030】
「画像解析ハンドブック」,高木幹雄,下田陽久,東京大学出版会,p553-556
画像エッジ検出アルゴリズムでは、ソベル(Sobel)フィルタなどの画像フィルタを用いて、エッジ(輪郭)を検出する。
【0031】
本実施形態の分析装置32では、例えば、ソベルフィルタを用いて検出したエッジのエッジ画素数nをカウントする。そして、分析装置32は、エッジ画素数nを画像全体の画素数mで除算することにより、エッジ含有率n/m(定量化されたターゲット表面の凹凸の程度)を算出する。そして、分析装置32は、算出したエッジ含有率を、制御装置33に通知する。
【0032】
制御装置33は、分析装置32が通知したエッジ含有率を受け付けると、関数テーブル34を参照して受け付けたエッジ含有率に対応する周波数を特定する。
【0033】
関数テーブル34は、エッジ含有率毎に、当該エッジ含有率に対応する電磁波の周波数が設定されたテーブルである。例えば、ソベルフィルタのエッジ係数パラメータkなるアルゴリズムにおいて、エッジ含有率n/mが所定の閾値aよりも小さくなるような最大のk’と、当該k’値を与える表面凹凸の影響を受けないような(所定の分解能を充足する)電磁波の最大周波数fとの関数と、をあらかじめ実験を行うことにより取得しておくものとする。そして、取得した関数に、各エッジ含有率を投入し、各エッジ含有率に対応する周波数をそれぞれ算出する。そして、関数テーブル34に、各エッジ含有率と、対応する周波数とを記憶しておく。
【0034】
なお、関数テーブル34に関数自体を記憶し、制御装置33は、エッジ含有率を受け付けると、当該関数に受け付けたエッジ含有率を投入し、周波数を算出することとしてもよい。関数テーブル34は、凹凸診断ユニット16のメモリまたは外部記憶装置(不図示)にあらかじめ記憶されているものとする。
【0035】
そして、制御装置33は、特定した周波数を含む制御信号を電磁波診断ユニット17に送出する。電磁波診断ユニット17は、周波数信号を受け付けると、電磁波診断ユニット17を起動してターゲットの診断を行う。なお、制御装置33は、周波数を含む制御信号を電磁波診断ユニット17に送出する際に、図示しないスピーカから電子音等を鳴らし、凹凸診断が完了したことを当該構造物表層部透視装置1の操作者に知らせることとしてもよい。
【0036】
電磁波診断ユニット17は、周波数切替器15と、電磁波発生器12と、電磁波検波器アレイ13とを有する。周波数切替器15は、凹凸診断ユニット16から制御信号を受け付ける。そして、周波数切替器15は、制御信号で指定された周波数に基づいて、電磁波発生器12が発生する電磁波の周波数を制御(調整)する。
【0037】
そして、電磁波発生器12は、周波数切替器15により制御された周波数の電磁波を、ターゲットに照射する。そして、電磁波検波器アレイ13は、反射波によりターゲットの表層内部を透視し、ターゲットに発生したクラック等の劣化箇所を検知する。距離センサユニット18の車輪型距離センサ14は、構造物表層部透視装置1の移動距離を計測し、制御PC3に送信する。なお、距離センサユニット18は、車輪型距離センサ14以外の距離センサを用いて、移動距離を計測することとしてもよい。
【0038】
次に、本実施形態の電磁波イメージングシステムを用いてコンクリートクラックを撮像した場合について、具体的に説明する。
【0039】
図3に示すコンクリートの表面81には、幅0.2mmのクラック82が発生している。そして、このコンクリートの表面81に、表層カバー(被覆材)84を被せた状態で、構造物表層部透視装置1がコンクリートを透視するものとする。なお、表層カバー83の下のクラック82は、可視光(目視、CCDカメラなど)では観察または検出することができないものとする。
【0040】
まず、凹凸診断ユニット16の画像撮像装置31が、表層カバー83(撮像領域84)の画像を撮像する。
【0041】
図4は、画像撮像装置31が撮像した、3種類の表層カバー83の画像サンプルである。図4(a)に示す第1の表層カバーは、防水加工等に用いられる塗装膜であって、表面の凹凸はほとんどない。図4(b)に示す第2の表層カバーは、表面に紙ヤスリ数百番程度のザラつきのある壁紙であって、サブミリメートル規模の凹凸構造を有する。図4(c)に示す第3の表層カバーは、「柚子皮仕上げ」と呼ばれる壁紙であって、表面に数ミリメートル規模の凹凸を有する。
【0042】
そして、分析装置32は、画像撮像装置31から表層カバーの画像を受け付け、エッジ検出アルゴリズムを用いて、画像中のエッジを検出する。
【0043】
図5は、分析装置32が、図4に示す各画像に対し、ソベルフィルタのエッジ検出アルゴリズムを用いて検出したエッジの検出結果を示したものである。図5(a)は第1の表層カバー(図4(a)参照)、図5(b)は第2の表層カバー(図4(b)参照)、図5(c)は第3の表層カバー(図4(c)参照)のエッジ検出結果である。
【0044】
なお、図示するエッジ検出結果は、Matlab7.0のImageToolkitに実装されているソベルフィルタのアルゴリズムを用いたものであって、エッジ係数パラメータkは「0.03」とした。図5(c)に示す第3の表層カバー(柚子皮仕上げの壁紙)では、図5(a)、(b)と比較して、エッジ量が多いことが一目で分かる。
【0045】
そして、分析装置32は、エッジ検出結果からエッジ画素数nをカウントする。図5(a)、(b)、(c)に示すエッジ画素数nは、それぞれ0個、145個、10,261個である。また、図示する画像全体の画素数mは、400×200=80,000画素である。分析装置32は、画像のエッジ含有率n/m(0%,0.2%,12.9%)を算出し、表層カバーの凹凸の程度を定量評価する。そして、分析装置32は、算出したエッジ含有率を、制御装置33に通知する。制御装置33は、関数テーブル34を参照して、各エッジ含有率に適した周波数を特定し、電磁波診断ユニット17に通知する。
【0046】
ここで、エッジ係数パラメータkとエッジ含有率との関係を説明する。
【0047】
図6は、この図4に示す3つの表層カバーのサンプル画像について、エッジ係数パラメータkと、エッジ含有率n/mとの関係をプロットしたものである。エッジ含有率n/mが「0」に近くなるときのkの値と、そのときに表面凹凸に影響を受けないような(所定の分解能を充足する)電磁波周波数fの関係とを実験によって取得すれば、例えば第3の表層カバー63の状況のときに最適周波数が算出することができる。本実施形態では、エッジ係数パラメータkを「0.03」とし、この場合に、表面の凹凸に影響を受けないような電磁波周波数fの関数をあらかじめ取得し、関数テーブル34に記憶しておくものとする。
【0048】
そして、電磁波診断ユニット17は、凹凸診断ユニット16から通知された周波数のミリ波をコンクリートに照射し、コンクリートの透視を行う。すなわち、表層カバー83上で、構造物表層部透視装置1を走査する。これにより、距離センサユニット18は、移動距離情報を制御PC3に送信する。また、電磁波診断ユニット17は、指示された周波数のミリ波を照射するとともに、当該ミリ波の反射波を検知する。そして電磁波診断ユニット17が検知した反射波強度は、ロックインアンプ2によって数値化され、移動距離と同期をとって制御PC3の出力装置に2次元透視画像として表示される。
【0049】
図7は、電磁波診断ユニット17の電磁波発生器12が、波長3mmの100GHz帯の電磁波を図3の撮像領域84に照射した場合の2次元透視画像の一例である。図7(a)は、第1の表層カバー(図4(a)参照)を用いた場合の2次元透視画像である。図7(b)は、第2の表層カバー(図4(b)参照)を用いた場合の2次元透視画像である。図7(c)は、第3の表層カバー(図4(c)参照)を用いた場合の2次元透視画像である。なお、図示する各2次元透視画像では、縦軸が電磁波検波器アレイ13の16個の各素子各々検知した反射強度を、横軸が移動距離を示している。
【0050】
図7(a)、(b)に示す第1の表層カバーおよび第2の表層カバーの2次元透視画像では、波長3mmの100GHz帯の電磁波を照射することで、表層カバーの下のコンクリート表面内部に発生しているクラックの箇所を検知することができる。すなわち、電磁波診断ユニット17は、波長3mmの100GHz帯の電磁波を用いることで、第1の表層カバーおよび第2の表層カバーを透過して、コンクリートに発生したサブミリメートル単位の微細なクラック82を検出することができる。
【0051】
一方、図7(c)に示す第3の表層カバー(柚子皮仕上げの壁紙)の2次元透視画像では、3mmの100GHz帯の電磁波を照射した場合、表層カバーの凹凸が電磁波の反射に甚大に影響し、表層カバーの下のコンクリート表面内部に発生しているクラックの箇所を判断(検知)することができない。図7(c)に示すような2次元透視画像の出力を回避するために、凹凸診断ユニットでは、周波数を下げることにより凹凸構造の影響を排除しつつ、かつ最大の周波数を決定し、決定した周波数を電磁波診断ユニット17に送出する。
【0052】
本実施形態によれば、構造物表面に存在する凹凸構造の影響を極力回避し、構造物に生じた劣化箇所をより高い精度で透視することができる。すなわち、本実施形態では、構造物表面の画像からエッジを検出して凹凸の程度を判定し、凹凸の程度に応じた周波数を選択し、当該周波数の電磁波を構造物に照射する。これにより、一定の画像解像度を維持しつつ、凹凸構造の影響を抑制した構造物透視画像を取得することができる。
【0053】
また、本実施形態では、ミリ波帯の電磁波を用いることにより、マイクロ波レーダや赤外線等では検知できないミリメートル幅の微細な構造物表層のクラックを検知することができる。また、本実施形態では、ミリ波帯の電磁波を用いて構造物を透視することにより、構造物を破壊することなく構造物に発生したクラックなどの劣化箇所を検出することができる。
【0054】
また、本実施形態の構造物表層部透視装置1の電磁波診断ユニット17は、ミリ波帯の電磁波を用いた反射型検知であるため、X線CTのようにターゲットの後ろ側に検波器を設置する必要がない。これにより、簡素なシステム構成(装置の小型化)が可能であって、また、透視する構造物の適用領域(分野)を拡大することができる。
【0055】
また、本実施形態の構造物表層部透視装置1は、片手で操作可能な大きさのハンディ型装置であるため、現場での可搬性に優れ、また、操作性も良い。
【0056】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形が可能である。例えば、本実施形態では、構造物表面の凹凸の程度を分析し、電磁波の周波数を決定する分析装置32、制御装置33および関数テーブル34は、構造物表層部透視装置1の凹凸診断ユニット16に搭載されている。しかしながら、本発明はこれに限定されず、これらの装置32、33、34は、制御PC3に搭載されていてもよい。この場合、構造物表層部透視装置1の画像撮像装置31は、撮像した画像を制御PC3に送信する。そして、制御PC3は、送信された画像を分析して当該画像に適した周波数を特定し、特定した周波数を構造物表層部透視装置1の周波数切替器15に送信する。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施の形態に係る電磁波イメージングシステムの全体構成図である。
【図2】構造物表装部透視装置の概略構成図である。
【図3】コンクリートクラックの一例を示す図である。
【図4】表層カバーの画像サンプルを示す図である。
【図5】エッジ検出結果を示す図である。
【図6】エッジ係数パラメータと、エッジ含有率との関係を示す図である。
【図7】コンクリートクラックの2次元透視画像例を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
1 構造物表層部透視装置
2 ロックインアンプ
3 制御PC
11 筐体
12 電磁波発生器
13 電磁波検波器アレイ
14 車輪型距離センサ
15 周波数切替器
16 凹凸診断ユニット
17 電磁波診断ユニット
18 距離センサユニット
31 画像撮像装置
32 分析装置
33 制御装置
34 関数テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミリ波帯の電磁波イメージングシステムであって、
構造物表面の画像を撮像する画像撮像装置と、
前記撮像した画像から構造物表面の凹凸の程度を分析する分析装置と、
前記分析装置が分析した凹凸の程度に応じてミリ波帯の電磁波の周波数を特定する制御手段と、
ミリ波帯の電磁波を構造物に照射する電磁波発生装置と、
前記ミリ波帯の電磁波の反射波を検知する1次元検波器アレイと、
移動距離を計測する距離センサと、
前記1次元検波器アレイが検出した反射波の強度を数値化する計測装置と、
前記距離センサが計測した移動距離と、前記計測装置が数値化した反射波強度とを対応付けた、構造物の透視イメージを表示する表示装置と、を備え、
前記電磁波発生装置は、前記制御手段が特定した周波数のミリ波帯の電磁波を、構造物に照射すること
を特徴とする電磁波イメージングシステム。
【請求項2】
請求項1記載の電磁波イメージングシステムであって、
構造物表面の凹凸の程度と、当該凹凸の程度に対応する周波数とが設定された記憶装置を、さらに有し、
前記制御手段は、前記記憶装置を参照して、前記分析装置が分析した凹凸の程度に対応するミリ波帯の電磁波の周波数を特定すること
を特徴とする電磁波イメージングシステム。
【請求項3】
請求項1記載の電磁波イメージングシステムであって、
前記画像撮像装置、前記電磁波発生装置、前記1次元検波器アレイおよび前記距離センサは、ハンディ型の筐体に搭載され、
前記筐体の進行方向前方に前記画像撮像装置が設置されていること
を特徴とする電磁波イメージングシステム。
【請求項4】
ミリ波帯の電磁波イメージングシステムにおける構造物透視装置であって、
構造物表面の画像を撮像する画像撮像装置と、
前記撮像した画像から構造物表面の凹凸の程度を分析する分析装置と、
前記分析装置が分析した凹凸の程度に応じてミリ波帯の電磁波の周波数を特定する制御手段と、
ミリ波帯の電磁波を、構造物に照射する電磁波発生装置と、
前記ミリ波帯の電磁波の反射波を検知する1次元検波器アレイと、
当該構造物透視装置の移動距離を計測する距離センサと、を備え、
前記電磁波発生装置は、前記制御手段が特定した周波数のミリ波帯の電磁波を、構造物に照射し、
前記1次元検波器アレイは、前記検知した反射波を計測装置に送信し、
前記距離センサは、前記計測した移動距離を表示装置に送信すること
を特徴とする構造物透視装置。
【請求項5】
ミリ波帯の電磁波イメージングシステムにおける構造物透視方法であって、
構造物表面の画像を撮像する画像撮像ステップと、
前記撮像した画像から構造物表面の凹凸の程度を分析する分析ステップと、
前記分析ステップで分析した凹凸の程度に応じてミリ波帯の電磁波の周波数を特定する特定ステップと、
前記特定ステップで特定した周波数のミリ波帯の電磁波を、構造物に照射する電磁波照射ステップと、
1次元検波器アレイを用いて、前記ミリ波帯の電磁波の反射波を検知する反射波検知ステップと、
前記1次元検波器アレイが検出した反射波の強度を数値化する計測ステップと、
前記計測ステップで数値化した反射波強度を表示する表示ステップと、を行うこと
を特徴とする構造物透視方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−183227(P2007−183227A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−3049(P2006−3049)
【出願日】平成18年1月10日(2006.1.10)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】