説明

電磁波イメージング装置および電磁波イメージング方法

【課題】高速走査が可能で安価なマイクロ波帯またはミリ波帯の電磁波を用いたイメージング装置を提供する。
【解決手段】送信装置から電磁波をターゲット50に向けて放射し、ターゲット50を透過した電磁波を複数の検波器12を備えた測定装置で検波する。これにより、一度に多くの電磁波の強度を測定することができるので、高速走査が可能となる。また、複数の検波器12の出力信号をスイッチ13で順次切り換える。これにより、単一チャネル入力のロックインアンプ14を電磁波強度の測定に用いることができるので、安価な電磁波イメージング装置を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波帯またはミリ波帯の電磁波を用いたイメージング技術に関する。
【背景技術】
【0002】
イメージングは、ターゲットの電磁波に対する応答性を2次元の画像によって可視化することが目的である。一般に市販されているデジタルカメラなどがその典型例である。
【0003】
2次元の画像は細かい画素の集合であり、縦横それぞれm,nの解像度を有する画像の画素の総数はm×n個となる。単一の受光素子を用いて撮像する場合、受光素子をm×n回ほど移動走査する必要がある。したがって、100×100画素程度の画像でも移動走査の回数が10000回となり、撮像に時間を要する。
【0004】
縦横それぞれm,nの解像度を有する画像を撮像するために、光学系の撮像装置の場合は、m×n個の受光素子をあらかじめ2次元に配列したアレイを用いて撮像時間の短縮を行っている。また、スキャナ装置のように、m個の受光素子を一列に配置して、n回の移動走査を行う方式もある。
【0005】
マイクロ波帯またはミリ波帯の電磁波を用いてイメージングを行う場合、ターゲットへ向けて電磁波を照射し、その反射波または透過波を検波するアクティブ方式か、ターゲットから自発的に放射される電磁波を検波するパッシブ方式が取られる。いずれの方式にしても、光学系の撮像装置と同様に、電磁波を検波する検波器をアレイ化することによって撮像時間を短縮できる。
【0006】
一般に、マイクロ波帯またはミリ波帯の電磁波の検波器としては、ショットキーダイオードなどが用いられている。ショットキーダイオードの整流作用により検波された電磁波の強度は電圧値に変換される。ショットキーダイオードは、サブミリメートル以下のサイズであり、複数個並べることによってイメージング用の検波器アレイを実現することができる。
【0007】
ミリ波を用いたイメージング装置として、例えば、特許文献1に記載のものが知られている。
【特許文献1】特開2001−50908号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、マイクロ波帯またはミリ波帯の電磁波を用いたイメージングの場合は、検波器をアレイ化する際に信号を並列計測する方法が問題となる。
【0009】
単純な電圧測定ならば、市販のマルチチャネル入力の電圧計で測定することができるが、ターゲットにおいて反射または透過した電磁波を検波したショットキーダイオードの電圧出力は、数ミリボルト程度のレンジでS/N比が悪く、電圧計で直接計測することが困難である。
【0010】
このようなS/N比の悪い信号を測定する計測器として、位相感応検波方式のロックインアンプが知られている。ロックインアンプは所望の電磁波周波数が既知である場合に、ノイズに埋もれた信号を取り出すのに有効である。しかし、市販のロックインアンプは単一チャネル入力であり、検波器のアレイ化には対応できない。また、マルチチャネル入力のロックインアンプを実現したとしても、高価で規模の大きなものになる。
【0011】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、複数の検波器からの出力信号について高速走査が可能で、安価な、マイクロ波帯またはミリ波帯の電磁波を用いたイメージング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る電磁波イメージング装置は、送信装置からマイクロ波帯またはミリ波帯の電磁波をターゲットに向けて放射し、その電磁波のターゲットに対する応答性を測定装置が測定する電磁波イメージング装置であって、送信装置は、マイクロ波帯またはミリ波帯の電磁波を発生する発生手段と、発生した電磁波をターゲットに向けて放射する放射手段とを有し、測定装置は、ターゲットを透過または反射した電磁波を検波する複数の検波器と、各々の検波器からの出力信号を順次切り換えて出力するスイッチと、スイッチからの出力信号が単一チャネルで入力されるロックインアンプとを有することを特徴とする。
【0013】
本発明にあっては、送信装置からマイクロ波帯またはミリ波帯の電磁波をターゲットに向けて放射し、ターゲットにおいて反射または透過した電磁波をアレイ化した複数の検波手段で検波することにより、一度に多くの電磁波の強度を順次測定することができるので、高速走査が可能となる。また、複数の検波手段の出力をスイッチで切り換えることにより、市販の単一チャネル入力のロックインアンプを電磁波の強度の測定に用いることができるので、安価な電磁波イメージング装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、複数の検波器からの出力信号について高速走査が可能で、安価な、マイクロ波帯またはミリ波帯の電磁波を用いたイメージング装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、本実施の形態における電磁波イメージング装置の構成を示す模式図である。同図の電磁波イメージング装置は、電磁波発振器23、低周波信号器24、変調器22および送信アンテナ21を含む送信装置と、複数の受信アンテナ11、受信アンテナ11の各々に接続された検波器12、スイッチ13およびロックインアンプ14を含む測定装置と、表示器31を有する。
【0016】
送信装置は、ターゲット50に向けてマイクロ波帯またはミリ波帯の電磁波を放射する。具体的には、電磁波発振器23により出力されたマイクロ波帯またはミリ波帯の電磁波を、変調器22において低周波信号器24からの出力信号で変調し、送信アンテナ21より自由空間に放射する。なお、低周波信号器24からの出力信号は、ロックインアンプ14が位相感応検波可能な周波数の低周波信号である。
【0017】
電磁波発振器23には、例えば、マイクロ波帯またはミリ波帯の電磁波を発生するGUNN発振器を用いる。低周波信号器24には、ロックインアンプ14が位相感応検波可能な範囲の周波数信号を出力することができるシンセサイザを用いる。変調器22は、電磁波発振器23の出力を低周波信号器24からの出力信号で変調するものであり、PINスイッチ等を用いて実現する。送信アンテナ21には、例えば、ホーンアンテナや平面スロットアンテナを用いる。
【0018】
測定装置は、ターゲット50を透過したマイクロ波帯またはミリ波帯の電磁波を受信し、電磁波の強度を測定して、表示器31に出力するものである。具体的には、送信装置において放射された電磁波のうちターゲット50を透過した電磁波は、複数の受信アンテナ11により受信され、受信された電磁波の強度は、受信アンテナ11の各々に接続された検波器12の作用により電圧値に変換される。検波器12の各々の出力は、スイッチ13により順次切り換えられ、ロックインアンプ14により順次計測される。電磁波強度の計測に際して、送信装置の低周波信号器24からの出力信号がロックインアンプ14の参照信号として用いられるので、ロックインアンプ14に内蔵されたローパスフィルタにより高周波ノイズを除去した上で、低周波信号器24の出力信号で変調された電磁波の信号を取り出すことができる。また、低周波信号器24からの出力信号は、スイッチ13を切り換えるタイミングの決定に用いられる。そして、計測結果は、表示器31に出力される。
【0019】
受信アンテナ11には、例えば、ホーンアンテナや平面スロットアンテナを用い、受信アンテナ11のそれぞれに検波器12を接続する。受信アンテナ11を一次元アレイ型に配置し、ターゲット面に対して平行に一軸走査することにより、市販のオフィススキャナのようにイメージングをすることが可能である。
【0020】
検波器12には、ショットキーダイオードを用いる。ショットキーダイオードの整流作用により、受信アンテナ11で受信された電磁波の強度は電圧値に変換される。スイッチ13には、複数の検波器12からの出力信号を任意に選択できるような電子回路式の切り換えスイッチを用いる。電子回路式の信号切り換えスイッチを用いることにより、400マイクロ秒以下の切り換え速度を実現できるので、例えば、100個の検波器12を並べて検波器アレイを構成しても、40ミリ秒程度の時間ですべての検波器12の出力を順次切り換えることができる。
【0021】
ロックインアンプ14には、市販の単一チャネル入力の位相感応検波式ロックインアンプを用いる。
【0022】
表示器31には、例えば、パーソナルコンピュータを用いて、測定装置から送られてくる測定結果を、例えば、2次元の画像に可視化する。また、プロッタ等を用いて紙などに直接画像をプリントしてもよい。
【0023】
次に、図2に示す本実施の形態のタイミング図、図3に示す比較例のタイミング図を参照して、図1に示す電磁波イメージング装置のスイッチ13の状態とロックインアンプ14によって計測される信号強度について説明する。
【0024】
各図は、図1に示す電磁波イメージング装置において、スイッチ13が検波器12からの出力信号を順次切り換えて出力する際に、第i番目の検波器12からの出力信号Sb1を選択している状態から、第i+1番目の検波器12からの出力信号Sb2を選択する状態に切り換えるときのタイミング図であり、スイッチ13の状態Saと、第i番目の検波器12からの出力信号Sb1と第i+1番目の検波器12からの出力信号Sb2と、スイッチ13からの出力信号Scと、ロックインアンプ14によって計測された信号強度Sdを示している。
【0025】
ここで、スイッチ13の立下りに要する時間をΔt1、スイッチ13の立ち上がりに要する時間をΔt2、スイッチ13の立下り時間Δt1と立ち上がり時間Δt2を含む切り換えに要する総時間をΔT、ロックインアンプ14の参照信号として入力する低周波信号器24からの出力信号の周波数をfとする。
【0026】
図2は、本実施の形態における、スイッチ13を第i番目の検波器12の出力信号Sb1から第i+1番目の検波器12の出力信号Sb2に切り換えるときのタイミング図である。具体的には、図2(a)は、スイッチ13の状態Saを示している。図2(b)は、隣り合う第i番目の検波器12からの出力信号Sb1と第i+1番目の検波器12からの出力信号Sb2を示している。図2(c)は、スイッチ13からの出力信号Scを示している。図2(d)は、ロックインアンプ14によって計測された信号強度Sdを示している。
【0027】
本実施の形態においては、図2(a)で示すように、スイッチ13を第i番目の検波器12から第i+1番目の検波器12に切り換える際に、スイッチ13の切り換えに要する総時間(ΔT)を低周波信号器24からの出力信号の周期(1/f)より長くする。このとき、Δt1≠0、Δt2≠0となるように、スイッチ13の立下り、立ち上がりを緩やかに行うとよい。ΔTを1/fよりも長くすることによって、ロックインアンプ14によって計測される信号強度Sdは図2(d)で示すようになり、ショットノイズが低減される。
【0028】
なお、ΔTを長くしすぎると、アレイ化した検波器12のすべての出力を測定する時間が増大し、高速走査を行うことが困難になる。例えば、検波器12を100個並べて、ΔTを1秒とした場合は、すべての検波器12の出力を測定するためには100秒以上の時間を必要とする。
【0029】
続いて、比較例のスイッチ13の切り換えタイミングとロックインアンプ14によって計測される信号強度について図3を用いて説明する。図3は、スイッチ13を第i番目の検波器12から第i+1番目の検波器12に切り換える際に、単純にΔT<<1/fとスイッチ切換時間(ΔT)が低周波信号器24からの出力信号の周期(1/f)よりも短い条件で切り換えるときのタイミング図である。
【0030】
図3(a)は、スイッチ13の状態を示している。図3(b)は、隣り合う第i番目の検波器12からの出力信号Sb1と第i+1番目の検波器12からの出力信号Sb2を示している。図3(c)は、スイッチ13からの出力信号Scを示している。図3(d)は、ロックインアンプ14によって計測された信号強度Sdを示している。
【0031】
スイッチ13が、図3の符号301で示す状態のときには、第i番目の検波器12からの出力信号Sb1が選択されており、図3の符号302で示す状態のときには、第i+1番目の検波器12からの出力信号Sb2が選択されている。図3(c)で示すように、スイッチ13からの出力信号Scは、選択されている検波器12からの出力信号に対応したものとなる。
【0032】
ここで、スイッチ13を単純に高速切換すると、図3(c)の符号303で示す部分のように、スイッチ13からの出力信号Scは第i番目から第i+1番目の検波器12からの出力信号に対応したものに瞬時に切り換わるので、第i番目の検波器12からの出力信号Sb1と第i+1番目の検波器12からの出力信号Sb2が重畳し、ロックインアンプ14のにより計測される信号強度Sdは図3(d)で示すようになり、ショットノイズが入る。
【0033】
これに対し、本実施の形態では、ΔTを1/fよりも長くすることによって、ロックインアンプ14により計測される信号強度Sdは図2(d)で示すようになり、ショットノイズが低減される。
【0034】
したがって、本実施の形態によれば、送信装置から電磁波をターゲット50に向けて放射し、ターゲット50を透過した電磁波を複数の検波器12を備えた測定装置で検波することにより、一度に多くの電磁波の強度を測定することができるので、高速走査が可能となる。また、複数の検波器12からの出力信号をスイッチ13で順次切り換えることにより、単一チャネル入力のロックインアンプ14を電磁波強度の測定に用いることができるので、安価な電磁波イメージング装置を提供することができる。
【0035】
本実施の形態によれば、電磁波を変調した低周波信号器24からの出力信号をロックインアンプ14の参照信号として用いて、スイッチ13の切り換えに要する総時間を低周波信号器24からの出力信号の周期よりも長くしたことにより、ロックインアンプ14で計測される信号強度Sdに現れるショットノイズを低減することが可能となる。
【0036】
なお、本実施の形態においては、ターゲット50に対して送信アンテナ21と受信アンテナ11を対向させ、ターゲット50に向けて放射した電磁波のうち透過した電磁波を測定する透過型イメージング装置であるが、ターゲットに対して送信アンテナ21と受信アンテナ11を同じ側に設置すれば、放射した電磁波の反射波を測定する反射型イメージング装置も実現可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】一実施の形態における電磁波イメージング装置の構成を示す模式図である。
【図2】一実施の形態におけるスイッチの切り換えと計測される信号強度を示すタイミング図である。
【図3】比較例のスイッチの切り換えと計測される信号強度を示すタイミング図である。
【符号の説明】
【0038】
11…受信アンテナ
12…検波器
13…スイッチ
14…ロックインアンプ
21…送信アンテナ
22…変調器
23…電磁波発振器
24…低周波信号器
31…表示器
50…ターゲット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信装置からマイクロ波帯またはミリ波帯の電磁波をターゲットに向けて放射し、該電磁波のターゲットに対する応答性を測定装置が測定する電磁波イメージング装置であって、
前記送信装置は、
マイクロ波帯またはミリ波帯の電磁波を発生する発生手段と、
発生した電磁波をターゲットに向けて放射する放射手段と、を有し、
前記測定装置は、
ターゲットを透過または反射した電磁波を検波する複数の検波器と、
各々の検波器からの出力信号を順次切り換えて出力するスイッチと、
前記スイッチからの出力信号が単一チャネルで入力されるロックインアンプと
を有することを特徴とする電磁波イメージング装置。
【請求項2】
前記放射手段は、前記ロックインアンプが位相感応検波可能な周波数の信号で電磁波を変調するものであって、前記スイッチの立ち上がり時間と立下り時間を含む切り換えに要する総時間を前記信号の周期よりも長くしたこと
を特徴とする請求項1記載の電磁波イメージング装置。
【請求項3】
マイクロ波帯またはミリ波帯の電磁波を発生するステップと、
発生した電磁波をターゲットに向けて放射するステップと、
ターゲットを透過または反射した電磁波を複数の検波器で検波するステップと、
検波した各々の電磁波の強度を順次切り換えて出力するステップと、
順次切り換えて出力される電磁波の強度を単一チャネル入力のロックインアンプで計測するステップと
を有することを特徴とする電磁波イメージング方法。
【請求項4】
前記電磁波を放射するステップは、前記ロックインアンプが位相感応検波可能な周波数の信号で電磁波を変調するものであって、前記電圧値を順次切り換えるステップにおいて、切り換え開始から切り換え完了までに要する総時間を前記信号の周期よりも長くしたことを特徴とする請求項3記載の電磁波イメージング方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−121211(P2007−121211A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−316752(P2005−316752)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】