説明

電磁波シールド不織布

【課題】 柔軟性に優れ、且つ軽量で加工性に富みながら、構成繊維間が確実に固定されており、電気配線のショートなどの危険もなく、電磁波シールド性に優れた電磁波シールド不織布を提供する。
【解決手段】 繊維長が15mm以上の構成繊維からなる不織布であって、前記構成繊維は4g/m以上の金属メッキを施した合成繊維と15質量%以上の熱接着性繊維とを含有しており、前記構成繊維は交絡していると共に前記熱接着性繊維によって結合していることを特徴とする電磁波シールド不織布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性に優れ、且つ軽量で加工性に富みながら、電磁波シールド性に優れた電磁波シールド不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気製品や電子機器が様々な場所に普及しており、それに伴って、これら機器から発生する電磁波が、他の電気製品や電子機器の誤動作や雑音の原因となる、或いは人体に埋め込まれた心臓のペースメーカなどに深刻な影響を与える、などの問題が生じている。そのため、これら機器から電磁波を漏洩させないように、また、これら機器に電磁波が進入しないように、各種の電磁波シールド材が提案されている。
【0003】
このような電磁波シールド材としては、例えば特許文献1に、銀で被覆された短繊維を全量に対し3.0重量%を越えて含有せしめた紡績糸を用いて、経144本/インチ、緯70本/インチで製織した電磁波シールド性布帛が提案されている。しかしながら、この布帛によれば、織物にすることで重くなり、また繊維構造に融通性がなく成形性に劣るという問題や、カット面から糸ほつれが生じるなど加工性に劣るという問題や、糸ほつれのため繊維が離脱して電気配線のショートの原因になるという問題があった。
【0004】
このような織物に対して、軽量な湿式不織布が提案されており、例えば特許文献2に、繊維長が好ましくは約5mm以下の金属短繊維または金属メッキされた短繊維と、熱可塑性樹脂繊維からなるバインダーと、を含む抄造液を起泡し、気泡表面に短繊維を分散させ、これを抄造して無配向不織布とした電磁波シールド材が提案されている。また、この電磁波シールド材を熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、水硬性物質または気硬性物質を賦形材として成形した電磁波シールド成形体が提案されている。しかし、この電磁波シールド材は短繊維から構成されているため、繊維が離脱し易く、離脱した繊維が電気配線のショートの原因になるという問題があった。また、樹脂により離脱を防ごうとすると、多量の樹脂が必要となり、重量が重くなるという問題があった。また、加工性や成形性に劣るという問題があった。
【0005】
このような湿式不織布に対して、乾式不織布も提案されており、例えば特許文献3に、金属メッキ繊維からなる導電性繊維と難燃性繊維からなる非導電性繊維が混繊された不織布であり、その表面抵抗が1〜200Ω/cmである電磁波抑制布帛が提案されている。また、その実施例には、アクリル繊維にニッケルメッキを施した金属メッキ繊維5重量%と、耐炎化アクリル繊維65重量%と、難燃性レーヨン30重量%とを混綿した後、ニードルパンチにより不織布を形成したことが記載されている。しかし、この電磁波抑制布帛は、構成繊維同士が絡んでいるものの固定されておらず、そのため繊維の毛羽立ちが生じ、或いはカット面から繊維が離脱して電気配線のショートの原因になるという問題があった。また、不織布としての強度が小さく、変形し易いという問題や、強度を確保するため、或いは繊維の離脱を防ぐため更なる樹脂含浸加工を行なうと、重量が重くなるという問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開平10−310976号公報
【特許文献2】特開平05−48289号公報
【特許文献3】特開2002−299877号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題を解決し、柔軟性に優れ、且つ軽量で加工性に富みながら、構成繊維間が確実に固定されており、電気配線のショートなどの危険もなく、電磁波シールド性に優れた電磁波シールド不織布を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段は、請求項1の発明では、繊維長が15mm以上の構成繊維からなる不織布であって、前記構成繊維は4g/m以上の金属メッキを施した合成繊維と15質量%以上の熱接着性繊維とを含有しており、前記構成繊維は交絡していると共に前記熱接着性繊維によって結合していることを特徴とする電磁波シールド不織布であり、柔軟性に優れ、且つ軽量で加工性に富みながら、構成繊維間が確実に固定されており、電気配線のショートなどの危険もなく、電磁波シールド性に優れた電磁波シールド不織布を提供することが可能である。
【0009】
請求項2の発明では、前記金属メッキが銀メッキであることを特徴とする請求項1に記載の電磁波シールド不織布であり、特に電磁波シールド性に優れるという利点がある。また、銀は貴な金属であり、錆に強く性能変化を起こし難いという利点がある。
【0010】
請求項3の発明では、前記構成繊維が水流の作用により交絡していることを特徴とする請求項1または2に記載の電磁波シールド不織布であり、ニードルパンチによる絡合と比較的して低い面密度であっても絡合の度合いを高くすることが可能であり、このため金属メッキを施した合成繊維同士の接触部分が多くなり、導電性に優れるという特性がある。その結果、特に電磁波シールド性に優れるという利点がある。また、ニードルパンチによる絡合と比較的して、繊維の毛羽立ちが少なくなり、電気配線のショートを確実に防ぐことができるという利点がある。
【0011】
請求項4の発明では、前記構成繊維が、非溶融性の耐炎性繊維または難燃性繊維を20%以上含有していることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の電磁波シールド不織布であり、特に難燃性に優れるという利点がある。
【0012】
請求項5の発明では、非ハロゲン系難燃剤を含む樹脂が付着していることを特徴とする請求項4に記載の電磁波シールド不織布であり、更に難燃性に優れると共に環境に優しいという利点がある。
【0013】
請求項6の発明では、前記構成繊維の見掛け密度が0.05〜0.4g/cmであることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の電磁波シールド不織布であり、特に柔軟性に優れ、且つ軽量であるという利点がある。
【0014】
請求項7の発明では、前記構成繊維の面密度が20〜150g/mであることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の電磁波シールド不織布であり、特に柔軟性に優れ、且つ軽量であるという利点がある。
【0015】
請求項8の発明では、アルミ箔が積層されていることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の電磁波シールド不織布であり、更に電磁波シールド性を高めるという利点がある。
【発明の効果】
【0016】
本発明によって、柔軟性に優れ、且つ軽量で加工性に富みながら、構成繊維間が確実に固定されており、電気配線のショートなどの危険もなく、電磁波シールド性に優れた電磁波シールド不織布を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の電磁波シールド不織布は、繊維長が15mm以上の構成繊維からなる不織布であり、前記構成繊維は4g/m以上の金属メッキを施した合成繊維と15質量%以上の熱接着性繊維とを含有している。
【0018】
繊維長が15mm以上の繊維としては、例えばカード機やエアレイ装置などを使用した乾式不織布で用いる繊維長15〜100mmの、捲縮数5〜30個/インチを有する通常ステープル繊維と呼ばれる繊維を適用することができる。構成繊維の繊維長が15mm以上であることによって、繊維が離脱し難く、離脱した繊維が電気配線のショートの原因になるという問題を防止することができる。また、樹脂により離脱を防ぐ必要もなく、樹脂によって重くなるという問題も生じない。なお、スパンボンド法による不織布のように連続した繊維も可能であるが、他の繊維と混合することを考慮するとステープル繊維であることが好ましい。ステープル繊維であれば、繊維の分散性にも優れ、柔軟性にも優れるという利点がある。
【0019】
前記構成繊維は金属メッキを施した合成繊維を含有することを必要とする。メッキする金属としては、例えばニッケル、鉄、コバルト、銀、パラジウムなどの金属を挙げることができる。この中で、金属メッキが銀メッキであることによって、特に電磁波シールド性に優れるという利点がある。また、銀は貴な金属であり、錆に強く性能変化を起こし難いという利点がある。また、パラジウムは高価であるため、コストアップの要因となり、コスト要因を問題としなければ、適用可能である。また、メッキされた合成繊維の材質はポリアミド、ポリエステル、アクリル、ポリプロピレン、ポリエチレン、塩化ビニル等の合成樹脂や、アセテート、ビスコースなど有機質の樹脂を挙げることができる。
【0020】
前記構成繊維は構成繊維全体の面密度(g/m)の大小にかかわらず、金属メッキを施した合成繊維を4g/m以上含有することを必要とする。また、金属メッキを施した合成繊維を10g/m以上含有することが好ましい。4g/m以上含有することによって、目標とする電磁波シールド性を得ることができる。4g/m未満であると、電磁波シールド性に劣るという問題がある。
【0021】
また、前記構成繊維は熱接着性繊維を含有することを必要とする。当該熱接着性繊維としては、加熱処理によって熱接着性が生じる限り、特に限定されず、例えば、繊維ウエブ中に含まれる他の繊維よりも融点が低い樹脂成分が1種類のみから形成された全融型の熱接着性繊維であることが可能である。また、低融点成分と高融点成分とからなり、低融点成分が繊維の表面の少なくとも一部に露出している複合繊維からなる熱接着性繊維であることが可能である。このような複合繊維としては、例えば、芯鞘型、サイドバイサイド型、断面が2成分以上の樹脂で分割されたオレンジ型、海島型の複合繊維などがある。複合繊維は接着後も高融点成分の骨格が残り、構成繊維間の結合が強固になるので全融型より好ましい。なお、加熱処理の方法としては、前記構成繊維からなる繊維ウエブを直接加熱する方法、加熱ロールの間を通過させる方法、或いは繊維ウエブに加熱空気または加熱蒸気を噴射する方法などを適用することができる。
【0022】
また、前記熱接着性繊維の材質としても、特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド系樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリアクリロニトリルなどのアクリル系樹脂およびポリビニルアルコール樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂などを挙げることができる。また、複合繊維の場合、これらの樹脂の中から同じ種類の樹脂成分を選んで構成することも可能であり、異なる樹脂成分を選んで構成することも可能である。
【0023】
本発明では、前記熱接着性繊維が1種類の樹脂成分からなる全融型の接着性繊維の場合は、繊維ウエブ中に含まれる他の繊維の中で最も低い融点を有する繊維の融点よりも融点が低いことが必要である。このような、全融型の熱接着性繊維または低融点成分と高融点成分とからなり、低融点成分が繊維の表面の少なくとも一部に露出している複合繊維からなる熱接着性繊維を繊維ウエブに含むことによって、当該熱接着性繊維の融点以上の温度で加熱処理することにより、後述する絡合処理の後で、構成繊維同士を結合して本発明の電磁波シールド不織布を形成することができる。なお、前記熱接着性繊維は他の繊維の融点よりも5℃以上低いことが好ましく、10℃以上低いことがより好ましく、15℃以上低いことが更に好ましい。5℃未満であると、当該接着性繊維を含む繊維ウエブを加熱処理した際に、加熱温度にばらつきがあると、複合繊維全体が溶融してしまい、繊維ウエブが樹脂フィルム化して柔軟性を失う場合がある。
【0024】
前記構成繊維は前記熱接着性繊維を15質量%以上含有することを必要とする。また、金属メッキを施した合成繊維を18質量%以上含有することが好ましく、20質量%以上含有することがより好ましい。15質量%以上含有することによって、構成繊維同士を確実に固定することができる。その結果、繊維が離脱し難く、離脱した繊維が電気配線のショートの原因になるという問題を防止することができる。前記熱接着性繊維の含有比率が15質量%未満の場合は、構成繊維同士を確実に固定することができず、その結果、繊維が離脱し易く、離脱した繊維によって電気配線がショートする恐れがある。また、不織布全体の強度が不足して、変形し易いという問題がある。
【0025】
前記構成繊維は、非溶融性の耐炎性繊維または難燃性繊維を20質量%以上含有していることが好ましく、30%質量以上含有していることがより好ましい。20質量%以上含有していることにより、電磁波シールド不織布が特に難燃性に優れるという利点がある。非溶融性の耐炎性繊維または難燃性繊維としては、日本工業規格JIS K7201(酸素指数法による高分子材料の燃焼試験方法)に準拠して求められるLOI値が28以上の繊維が好ましく、LOI値が35以上の繊維がより好ましく、具体的には、耐炎化繊維、難燃剤配合難燃性繊維、難燃化処理難燃性繊維等を適用することができる。耐炎化繊維としては、酸化アクリル繊維(LOI値:55)、ポリベンズイミダゾール(PBI)繊維(LOI値:41)、フェノール繊維(LOI値:34)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維(LOI値:68)、ポリパーフルオロエチレン(テフロン:登録商標)繊維(LOI値:95)などを挙げることができる。難燃剤としては、ハロゲン化物、燐系化合物およびアンチモン化合物を助剤として用いたものがあり、これらを配合した難燃性繊維、またこれらを含浸等で処理した難燃性繊維が挙げられる。難燃性繊維の素材としては、ポリエステル、ポリアミド、アクリル、レーヨン、その他の天然繊維などが使用できる。本発明において、特に好ましい難燃性繊維としては、非溶融性である難燃化レーヨン(LOI値:28)を挙げることができる。
【0026】
なお、本発明の電磁波シールド不織布の使用箇所や個々の要求に応じて、更に特性を付加する目的で、前記金属メッキを施した合成繊維、前記熱接着性繊維および前記難燃性繊維以外の繊維を構成繊維として含むことも可能である。このような、他の繊維としては、目的とする電磁波シールド性、熱接着性または難燃性などを確保でき、且つ繊維長が15mm以上である限り、特に限定されず、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系繊維、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド系繊維、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン系繊維、ポリアクリロニトリルなどのアクリル系繊維およびポリビニルアルコール繊維などの合成繊維に限らず、レーヨンなどの半合成繊維、あるいは綿、セルロース系繊維などの天然繊維を挙げることができる。
【0027】
本発明では、前記構成繊維は交絡していると共に前記熱接着性繊維によって結合している。この交絡は、具体的には、前記構成繊維からなる繊維ウエブに対して、ニードルパンチ、水流絡合、またはスチームジェット処理などを施すことによって達成される。構成繊維が絡合していることにより、金属メッキを施した合成繊維同士の接触部分が多くなり、導電性が向上し、その結果、電磁波シールド性が向上するという優れた効果を奏する。また、ニードルパンチの場合、繊維ウエブの面密度が約60g/m以上で効果的な交絡を得ることができる。一方、水流絡合は面密度が60g/m以下でも効果的な交絡を得ることができる。また、スチームジェット処理はニードルパンチまたは水流絡合と比較して、交絡の程度は低い傾向がある。したがって、本発明では水流絡合による絡合が好ましく、ニードルパンチによる絡合と比較的して低い面密度であっても絡合の度合いを高くすることが可能であり、このため金属メッキを施した合成繊維同士の接触部分が特に多くなり、電磁波シールド性に特に優れるという利点がある。また、ニードルパンチによる絡合と比較的して、繊維の毛羽立ちが少なくなり、電気配線のショートを確実に防ぐことができるという利点がある。
【0028】
前述の水流絡合による絡合の方法としては、例えば、前記繊維ウエブをベルトコンベアなどからなる開孔支持体の上に載置して、この開孔支持体を移動させながら、繊維ウエブの上部に設置した、高圧水を内蔵するノズルヘッドより、多数のノズル孔を直線状に配置したノズルプレートを通して、柱状流を噴出して、繊維ウエブに水流を作用させる方法がある。この方法で用いるノズル孔の直径は0.1〜0.3mmが好ましく、ノズル孔の間隔は0.5〜2mmが好ましく、また複数本のノズルヘッドを用いることが好ましい。またノズルヘッド内の水圧は1〜20MPaが好ましく、1〜10MPaがより好ましい。
【0029】
また、本発明では、前記構成繊維を交絡した後に、前記熱接着性繊維によって構成繊維を結合することが好ましい。なお、熱接着性繊維によって結合する方法としては、熱接着性繊維を含む繊維ウエブを加熱する方法があり、この加熱処理の方法としては、前述のように、前記構成繊維からなる繊維ウエブを直接加熱する方法、加熱ロールの間を通過させる方法、或いは繊維ウエブに加熱空気または加熱蒸気を噴射する方法などを適用することができる。
【0030】
本発明では、前記構成繊維からなる繊維ウエブの見掛け密度は0.05〜0.4g/cmであることが好ましい。見掛け密度がこの範囲にあることにより、本発明の電磁波シールド不織布が特に柔軟性に優れ、且つ軽量でありながら、構成繊維が確実に固定されるという利点を有することができる。見掛け密度が0.05g/cm未満であると、金属メッキを施した合成繊維同士の接触部分が少なくなり、導電性が低下する場合がある。また、構成繊維同士が十分に固定することができず、その結果、繊維が離脱し易く、離脱した繊維によって電気配線がショートする恐れが生じる場合がある。また、不織布全体の強度が不足して、変形し易いという問題が生じる場合がある。また、見掛け密度が0.4g/cmを超えると、不織布全体が硬く融通性がなくなり、成形などの加工がし難くなるという問題が生じる場合がある。なお、繊維ウエブの厚さは0.1〜1.2mmであることが好ましく、0.13〜0.8mmがより好ましく、0.15〜0.7mmがさらに好ましい。なお、厚さは20g/cmの荷重時の厚さとする。
【0031】
また、本発明では、前記構成繊維の面密度は20〜150g/mであることが好ましい。面密度がこの範囲にあることにより、本発明の電磁波シールド不織布が特に柔軟性に優れ、且つ軽量でありながら、構成繊維が確実に固定されるという利点を有することができる。面密度が20g/m未満であると、不織布全体の強度が不足して、変形し易いという問題が生じる場合がある。また、面密度が150g/mを超えると、不織布全体が硬く融通性がなくなり、成形などの加工がし難くなるという問題が生じる場合がある。
【0032】
また、本発明では、構成繊維が交絡していると共に面密度15質量%以上の熱接着性繊維によって結合しているので、構成繊維が十分に固定されており、面密度が多少低くなっても、柔軟性に寄与する引張伸度を有しながら、優れた引張強度および引裂強度を有することが可能である。本発明の電磁波シールド不織布の引張強度はタテ方向およびヨコ方向の平均値で表すと、20N/5cm巾以上であることが好ましい。また、引裂強度はタテ方向およびヨコ方向の平均値で表すと、3N以上であることが好ましい。
【0033】
本発明の電磁波シールド不織布は、金属メッキを施した合成繊維を含有するため、炎と接触すると、金属が触媒として働き、燃焼し易くなる場合がある。このため、電磁波シールド不織布に難燃剤を含む樹脂が付着していることが好ましく、難燃性に優れるという利点がある。また、非ハロゲン系難燃剤を含む樹脂が付着していることがより好ましく、難燃剤が非ハロゲン系難燃剤であるので、環境に与える影響が少なく、環境に優しいという利点がある。前記非ハロゲン系難燃剤としては、無機系の難燃剤及び有機系の難燃剤のいずれも適用可能である。
【0034】
無機系の非ハロゲン系難燃剤としては、例えば水和金属化合物、水和シリケート化合物、リン系化合物、窒素系化合物、硼素系化合物、アンチモン系化合物等を適用することができる。水和金属化合物には、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、アルミン酸カルシウム等があり、リン系化合物には赤リン、メタリン酸アルミニウム、リン酸メラミン、リン酸マグネシウム、縮合リン酸アミドがあり、窒素系化合物にはリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、モリブデン酸アンモニウムがあり、硼素系化合物にはホウ酸亜鉛があり、アンチモン系化合物には酸化アンチモンがあり、その他各種金属酸化物には水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムがあり、その他各種金属硝酸塩、各種金属錯体等を適用することができる。これらのうち特に、難溶性のメタリン酸アルミニウム、リン酸メラミン、リン酸マグネシウム、縮合リン酸アミドなどのリン系難燃剤、あるいは難溶性の水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどが好適である。
【0035】
また、有機系の非ハロゲン系難燃剤としては、例えばNメチロールジメチルホスホノプロピオンアミド、ポリリン酸カルバメート、グアニジン誘導体リン酸塩、環状ホスホン酸エステル、リン酸メラミンなどのリン系難燃剤を適用することができる。
【0036】
前記難燃剤を含む樹脂を繊維ウエブに付着するには、例えば熱可塑性または熱硬化性の樹脂をディスパーションまたはエマルジョンの形態で準備して、これらのディスパーションまたはエマルジョンに前記難燃剤を混入してから、この混合液を繊維ウエブに含浸、または塗布した後、乾燥および熱硬化させて付着させる方法がある。また、難燃剤の固形分の量としては、構成繊維100質量%に対して20〜60質量%であることが好ましい。この範囲の難燃剤の量であれば、本発明の電磁波シールド不織布の難燃性の程度を、アンダーライター・ラボラトリーズ・インコーポレーテッドが定めるUL94の燃焼試験(以下、単に燃焼試験と略記する)に準ずる評価が「V−0」の基準条件を満たすことが可能である。また、構成繊維100質量%に対して30〜45質量%であることがより好ましい。20質量%未満であると、やや燃え易くなり、「V−0」の基準条件を満たさない場合がある。また、60質量%を超えると、不織布全体の重量が重くなり、柔軟性に劣り、加工性が悪くなる場合がある。
【0037】
本発明の電磁波シールド不織布の電磁波シールド性は、KEC法(関西電子振興工業センターの略)により測定した100〜1000MHzでの最小値で表すことができ、電界シールド効果が30dB以上であることが好ましく、35dB以上であることがより好ましく、40dB以上であることが更に好ましい。
【0038】
本発明の電磁波シールド不織布は、アルミ箔が積層された複合不織布であることが好ましい。複合不織布であることによって、特に低周波領域の電磁波に対してシールド性に優れた効果を奏する。複合不織布は、例えば接着剤を用いて電磁波シールド不織布とアルミ箔とを接着して一体化する方法により得ることができる。使用するアルミ箔の厚さは、9〜15μmであることが好ましい。複合不織布の場合、電界シールド効果が40dB以上であることが好ましく、50dB以上であることがより好ましい。また、磁界シールド効果が30dB以上であることが好ましく、40dB以上であることがより好ましい。
【0039】
以上説明したように、本発明によって、柔軟性に優れ、且つ軽量で加工性に富みながら、構成繊維間が確実に固定されており、電気配線のショートなどの危険もなく、電磁波シールド性に優れた電磁波シールド不織布を提供することが可能となった。
【0040】
以下、本発明の実施例につき説明するが、これは発明の理解を容易とするための好適例に過ぎず、本願発明はこれら実施例の内容に限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
(電磁波シールド性)
KEC法(社団法人関西電子振興工業センターの略)に規定される方法にて、電界シールド効果および磁界シールド効果に関し、それぞれ100〜1000MHzでの最小値(dB)を測定した。なお、シールド効果は次の式(1)により算出した。
SE=20×log10E/E・・・(1)
SE:シールド効果(dB)
:シールド材が無い場合の空間の電界強度(または磁界強度)
:シールド材が有る場合の空間の電界強度(または磁界強度)
(引張強度及び引張伸度)
JIS L1913−1998の6.3に規定される方法にて、タテ方向およびヨコ方向の値を測定して、その平均値で表した。
(引裂強度)
JIS L1913−1998の6.4.3(シングルタング法)に規定される方法にて、タテ方向およびヨコ方向の値を測定して、その平均値で表した。
(表面状態)
試験片の表面状態を観察し、繊維組織の変形及び毛羽立ちが無いか又は極めて少ない場合を良(◎)とし、繊維組織の変形及び毛羽立ちが少ない場合を良(○)とし、繊維組織が崩れ易いか毛羽立ちが極めて多い場合を不良(×)とした。
(難燃性)
アンダーライター・ラボラトリーズ・インコーポレーテッドが定めるUL94の燃焼試験に準じて試験を行い、難燃性の優れる順に、「V−5」、「V−0」、「V−1」、「V−2」、「HF−1」、「HF−2」、「HB」の基準で評価した。
【0042】
(実施例1)
ポリエチレンテレフタレート繊維の表面に銀メッキを施した銀メッキ繊維A(繊度:2.2デシテックス、繊維長:38mm)を準備した。また、熱接着性繊維Aとして芯鞘型の複合繊維(繊度:2.2デシテックス、繊維長:51mm、芯の樹脂成分はポリエチレンテレフタレート樹脂、鞘の樹脂成分は低融点ポリエステル繊維)を準備した。
次いで、銀メッキ繊維A20質量%と熱接着性繊維A80質量%とを混合して、さらにカード機により繊維フリースに形成し、この繊維フリースを交差させるようにして複数枚積層して面密度25g/mの繊維ウエブを形成した。
次いで、この繊維ウエブを開孔支持体に載置して、3〜5MPaの高圧水を内蔵する複数のノズルヘッドに備えられた、孔径0.13mmの多数のノズル孔を有するノズルオリフィスから柱状流を噴出して、繊維ウエブに水流を作用させ、次いで繊維ウエブを乾燥機にて乾燥させて水流絡合シートを得た。次いで、この水流絡合シートを一対の加熱ロールの間を加圧しながら通過させて、熱接着性繊維により構成繊維を接着固定して、面密度25g/m、厚さ0.15mm、見掛け密度0.17g/cm、銀メッキ繊維の面密度5g/mの電磁波シールド不織布を得た。この電磁波シールド不織布の評価結果を表1に示す。
【0043】
(実施例2)
銀メッキ繊維A40質量%と、熱接着性繊維A30質量%と、レーヨン繊維(繊度:1.7デシテックス、繊維長:38mm)30質量%と、を混合して、さらにカード機により繊維フリースに形成し、この繊維フリースを交差させるようにして複数枚積層して面密度30g/mの繊維ウエブを形成した。
次いで、実施例1と同様にして、水流絡合シートを得た。次いで、この水流絡合シートを一対の加熱ロールの間を加圧しながら通過させて、熱接着性繊維により構成繊維を接着固定して、面密度30g/m、厚さ0.18mm、見掛け密度0.17g/cm、銀メッキ繊維の面密度12g/mの電磁波シールド不織布を得た。この電磁波シールド不織布の評価結果を表1に示す。
【0044】
(実施例3)
銀メッキ繊維A55質量%と、熱接着性繊維A20質量%と、ポリエチレンテレフタレート繊維(繊度:1.7デシテックス、繊維長:38mm)25質量%と、を混合して、さらにカード機により繊維フリースに形成し、この繊維フリースを交差させるようにして複数枚積層して面密度110g/mの繊維ウエブを形成した。
次いで、実施例1と同様にして、水流絡合シートを得た。次いで、この水流絡合シートを一対の加熱ロールの間を加圧しながら通過させて、熱接着性繊維により構成繊維を接着固定して、面密度110g/m、厚さ0.61mm、見掛け密度0.18g/cm、銀メッキ繊維の面密度61g/mの電磁波シールド不織布を得た。この電磁波シールド不織布の評価結果を表1に示す。
【0045】
(比較例1)
銀メッキ繊維A10質量%と、熱接着性繊維A40質量%と、レーヨン繊維(繊度:1.7デシテックス、繊維長:38mm)50質量%と、を混合して、さらにカード機により繊維フリースに形成し、この繊維フリースを交差させるようにして複数枚積層して面密度25g/mの繊維ウエブを形成した。
次いで、実施例1と同様にして、水流絡合シートを得た。次いで、この水流絡合シートを一対の加熱ロールの間を加圧しながら通過させて、熱接着性繊維により構成繊維を接着固定して、面密度25g/m、厚さ0.14mm、見掛け密度0.18g/cm、銀メッキ繊維の面密度2.6g/mの電磁波シールド不織布を得た。この電磁波シールド不織布の評価結果を表1に示す。
【0046】
(比較例2)
銀メッキ繊維A60質量%と、熱接着性繊維A10質量%と、ポリエチレンテレフタレート繊維(繊度:1.7デシテックス、繊維長:38mm)30質量%と、を混合して、さらにカード機により繊維フリースに形成し、この繊維フリースを交差させるようにして複数枚積層して面密度110g/mの繊維ウエブを形成した。
次いで、実施例1と同様にして、水流絡合シートを得た。次いで、この水流絡合シートを一対の加熱ロールの間を加圧しながら通過させて、熱接着性繊維により構成繊維を接着固定して、面密度110g/m、厚さ0.61mm、見掛け密度0.18g/cm、銀メッキ繊維の面密度66g/mの電磁波シールド不織布を得た。この電磁波シールド不織布の評価結果を表1に示す。
【0047】
(実施例4)
熱接着性繊維Bとして芯鞘型の複合繊維(繊度:3.3デシテックス、繊維長:38mm、芯の樹脂成分はポリエチレンテレフタレート樹脂、鞘の樹脂成分は低融点ポリエステル繊維)を準備した。
次いで、銀メッキ繊維A40質量%と、熱接着性繊維B20質量%と、難燃レーヨン繊維(繊度:1.7デシテックス、繊維長:40mm、LOI値:28)40質量%と、を混合して、さらにカード機により繊維フリースに形成し、この繊維フリースを交差させるようにして複数枚積層して面密度31g/mの繊維ウエブを形成した。
次いで、実施例1と同様にして、水流絡合シートを得た。次いで、この水流絡合シートを一対の加熱ロールの間を加圧しながら通過させて、熱接着性繊維により構成繊維を接着固定して、面密度31g/m、厚さ0.22mm、見掛け密度0.14g/cm、銀メッキ繊維の面密度12g/mの電磁波シールド不織布を得た。この電磁波シールド不織布の評価結果を表2に示す。
【0048】
(実施例5)
銀メッキ繊維A40質量%と、熱接着性繊維B20質量%と、酸化アクリル繊維(繊度:2.2デシテックス、繊維長:51mm、LOI値:55)40質量%と、を混合して、さらにカード機により繊維フリースに形成し、この繊維フリースを交差させるようにして複数枚積層して面密度29g/mの繊維ウエブを形成した。
次いで、実施例1と同様にして、水流絡合シートを得た。次いで、この水流絡合シートを一対の加熱ロールの間を加圧しながら通過させて、熱接着性繊維により構成繊維を接着固定して、面密度29g/m、厚さ0.23mm、見掛け密度0.13g/cm、銀メッキ繊維の面密度12g/mの電磁波シールド不織布を得た。この電磁波シールド不織布の評価結果を表2に示す。
【0049】
(実施例6)
銀メッキ繊維A30質量%と、熱接着性繊維B20質量%と、難燃レーヨン繊維(繊度:1.7デシテックス、繊維長:40mm、LOI値:28)50質量%と、を混合して、さらにカード機により繊維フリースに形成し、この繊維フリースを交差させるようにして複数枚積層して面密度50g/mの繊維ウエブを形成した。
次いで、実施例1と同様にして、水流絡合シートを得た。次いで、この水流絡合シートを一対の加熱ロールの間を加圧しながら通過させて、熱接着性繊維により構成繊維を接着固定して、面密度50g/m、厚さ0.28mm、見掛け密度0.18g/cm、銀メッキ繊維の面密度15g/mの不織布を得た。
次いで、グアニジン・リン酸塩からなる難燃剤(難燃剤濃度:55%)を、アクリル樹脂エマルジョン(樹脂濃度:45%)に混入して、更に分散剤および水を添加して、難燃バインダー液を調整した。
次いで、この難燃バインダー液を前述の面密度50g/mの不織布に含浸した後、乾燥およびキュアリング処理を行い、面密度70g/mの電磁波シールド不織布を得た。この電磁波シールド不織布に含まれる難燃剤は18g/mであった。この電磁波シールド不織布の評価結果を表2に示す。
【0050】
(実施例7)
実施例2で得られた面密度30g/mの電磁波シールド不織布に、厚さ12μmのアルミ箔を、接着剤によって接着して、複合不織布を得た。この複合不織布の評価結果を表2に示す。
【0051】
(表1)

【0052】
(表2)

【0053】
表1及び表2から明らかなように、実施例1〜6の電磁波シールド不織布は、比較例1と比較して、電界シールド効果および磁界シールド効果に優れていた。また、比較例2と比較して、毛羽立ちが少なく、表面状態に優れていた。また、実施例4〜6の電磁波シールド不織布は、難燃性に優れていた。また、実施例7の複合不織布は、実施例2の電磁波シールド不織布と比較して、磁界シールド効果が更に優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維長が15mm以上の構成繊維からなる不織布であって、前記構成繊維は4g/m以上の金属メッキを施した合成繊維と15質量%以上の熱接着性繊維とを含有しており、前記構成繊維は交絡していると共に前記熱接着性繊維によって結合していることを特徴とする電磁波シールド不織布。
【請求項2】
前記金属メッキが銀メッキであることを特徴とする請求項1に記載の電磁波シールド不織布。
【請求項3】
前記構成繊維が水流の作用により交絡していることを特徴とする請求項1または2に記載の電磁波シールド不織布。
【請求項4】
前記構成繊維が、非溶融性の耐炎性繊維または難燃性繊維を20%以上含有していることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の電磁波シールド不織布。
【請求項5】
非ハロゲン系難燃剤を含む樹脂が付着していることを特徴とする請求項4に記載の電磁波シールド不織布。
【請求項6】
前記構成繊維の見掛け密度が0.05〜0.4g/cmであることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の電磁波シールド不織布。
【請求項7】
前記構成繊維の面密度が20〜150g/mであることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の電磁波シールド不織布。
【請求項8】
アルミ箔が積層されていることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載の電磁波シールド不織布。

【公開番号】特開2009−277952(P2009−277952A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−128988(P2008−128988)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】