説明

電磁波シールド用ガスケット

【目的】本発明は、金属めっき層が腐食せず、しかも屈曲させても金属めっき層が破断し難い、即ち耐屈曲性に優れ、さらに例えば筐体と接触させた際に金属めっき層が剥がれ難い、即ち耐摩耗性に優れる電磁波シールド用ガスケットを提供ものである。
【構成】本発明の電磁波シールド用ガスケットは、基材の表面上に導電性高分子微粒子とバインダーを含む塗膜層が形成され、前記塗膜層上に金属めっき膜が無電解めっき法により形成され、前記金属めっき膜上にシート状弾性体が形成されたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波シールド用ガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器などの筐体の間隙に利用できる電磁波シールド用ガスケットとして、例えば連続発泡スポンジ表面に形成されたスキン層の片面に、スパッタリング法や真空蒸着法等の物理的方法によって形成された金属めっき層を有するめっきシートについて提案されている(特許文献1)。また、垂直な方向に連続発泡スポンジが弾性変形しても、めっき層が破断、すなわちめっき面にひび割れが生じないように抑止層を備えている。
【0003】
また、他の電磁波シールド用ガスケットとして、難燃性を有するウレタンスポンジ等の芯材に、金属蒸着層を片面若しくは両面に形成した難燃性プラスチックフィルム基材を被覆したものも提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−260449号公報
【特許文献2】特開2008−078368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記文献1の電磁波シールド用ガスケットは、垂直な方向に連続発泡スポンジが弾性変形してもめっき層が破断、すなわちめっき面にひび割れが生じないように抑止層を備えているが、物理的方法によって形成された金属めっき層が外側へ剥き出し状態にあるため、ひび割れが生じないように抑止することが不十分であり、その結果、該ガスケットを屈曲させると金属めっき層が破断して電磁波シールド性能が低下してしまう。また、筐体と接触させた際に金属めっき層が剥がれてしまう。さらに、金属めっき層が腐食されやすい問題があった。
【0006】
また、上記文献2の電磁波シールド用ガスケットも物理的方法によって形成された金属めっき層が外側へ剥き出し状態にあるため、上記文献1と同様の問題があった。
【0007】
そこで本発明は、金属めっき層が腐食せず、しかも屈曲させても金属めっき層が破断し難い、すなわち耐屈曲性に優れ、さらに例えば筐体と接触させた際に金属めっき層が剥がれ難い、すなわち耐摩耗性に優れる電磁波シールド用ガスケットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に記載の電磁波シールド用ガスケットは、基材の表面上に導電性高分子微粒子とバインダーを含む塗膜層が形成され、前記塗膜層上に金属めっき膜が無電解めっき法により形成され、前記金属めっき膜上にシート状弾性体が形成されたことを特徴とする。また、請求項2に記載の電磁波シールド用ガスケットは、前記バインダーは、前記導電性高分子微粒子1質量部に対して0.1ないし10質量部で存在し、前記塗膜層の厚さは20ないし500nmであることを特徴とする。また、請求項3に記載の電磁波シールド用ガスケットは、前記シート状弾性体が発泡シートであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電磁波シールド用ガスケットは、金属めっき層が腐食せず、しかも耐屈曲性や耐摩耗性に優れるものである。
また、本発明における無電解めっき法は、基材にエッチング処理を施すことなく、密着性に優れ、しかも薄膜で表面平滑な金属めっき膜の形成が可能である。その結果、その金属めっき膜上に形成するシート状弾性体の表面も平滑性に優れる電磁波シールド用ガスケットを得ることが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0010】
更に詳細に本発明を説明する。
本発明の電磁波シールド用ガスケットは、基材の表面上に導電性高分子微粒子とバインダーを含む塗膜層が形成され、前記塗膜層上に金属めっき膜が無電解めっき法により形成され、前記金属めっき膜上にシート状弾性体が形成された電磁波シールド用ガスケットである。
【0011】
本発明に使用する基材は、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂等の合成樹脂からなる軟質フィルムが挙げられる。
【0012】
本発明の導電性高分子微粒子及びバインダーを含む塗膜層は、還元性高分子微粒子及び合成樹脂を含む下地塗料を塗布して塗膜層を形成するか、導電性高分子微粒子及びバインダーを含む下地塗料を塗布し、該導電性高分子微粒子を脱ドープ処理して塗膜層を形成する。すなわち、無電解めっきを行う前の塗膜層は、還元性の高分子微粒子及びバインダーを含む状態にしておく必要があり、導電性高分子微粒子及びバインダーを含む下地塗料を塗布した場合には、その導電性高分子微粒子を脱ドープして還元性の高分子微粒子とバインダーを含む状態にしておく必要がある。そして、例えば、還元性高分子微粒子を含む塗膜層上に、パラジウム等の触媒金属を還元・吸着させ、該パラジウム等の触媒金属が吸着された塗膜層上に金属めっき膜を形成することにより製造されるが、この際の、パラジウム等の触媒金属の還元及び高分子微粒子への吸着は、例えば、ポリピロールの場合、下図で示される状態になると考えられる。
【化1】

すなわち、還元性の高分子微粒子(ポリピロール)がパラジウムイオンを還元することにより、高分子微粒子上にパラジウム(金属)が吸着されるが、これにより、高分子微粒子(ポリピロール)はイオン化される、すなわち、パラジウムによりドーピングされた状態となり、結果として導電性を発現する。したがって、該塗膜層上に無電解めっき法により金属膜を設けて得られた本発明のめっき物の塗膜層は、結果的に導電性高分子微粒子とバインダーとを含む塗膜層となる。
【0013】
前記還元性高分子微粒子及びバインダーを含む下地塗料に使用する還元性高分子微粒子は、0.01S/cm未満の導電率を有するπ−共役二重結合を有する高分子であれば特に限定されないが、例えば、ポリアセチレン、ポリアセン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン及びそれらの各種誘導体が挙げられ、好ましくは、ポリピロールが挙げられる。また、還元性高分子微粒子としては、0.01S/cm以下が好ましく、より好ましくは0.005S/cm以下の導電率を有する高分子微粒子が好ましい。還元性高分子微粒子は、π−共役二重結合を有するモノマーから合成して使用する事ができるが、市販で入手できる還元性高分子微粒子を使用することもできる。
【0014】
前記導電性高分子微粒子及びバインダー樹脂を含む下地塗料に使用する導電性高分子微粒子としては、導電性を有するπ−共役二重結合を有する高分子であれば特に限定されないが、例えば、ポリアセチレン、ポリアセン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン及びそれらの各種誘導体が挙げられ、好ましくは、ポリピロールが挙げられる。導電性高分子微粒子は、π−共役二重結合を有するモノマーから合成して使用する事ができるが、市販で入手できる導電性高分子微粒子を使用することもできる。
【0015】
前記還元性高分子微粒子及びバインダーを含む下地塗料及び導電性高分子微粒子及び合成樹脂を含む下地塗料に使用するバインダーとしては、ポリ塩化ビニルやポリ塩化プロピレン等の塩素化ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリブタジエン、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、カルボン酸基含有樹脂、炭化水素樹脂、ケトン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアミド、エチルセルロース、酢酸ビニル、ABS樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂等が挙げられる。
【0016】
本発明の塗膜層における前記導電性高分子微粒子と前記バインダーの質量比は、1:0.1ないし1:10の範囲とするのが好ましい。前記質量比において、1:0.1よりもバインダーの比率が低くなると、基材との密着性が低下するため、耐屈曲性および耐摩耗性が低下し、電磁波シールド性が低下する傾向にある。1:10よりもバインダーの比率が高くなると、金属めっき膜の析出性が低下するため、電磁波シールド性が低下する傾向にある。尚、電磁波シールド用ガスケットとしては、40dB以上の電磁波シールド性があればよいとされているが、60dB以上あることが望まれる。
【0017】
前記下地塗料には、導電性又は還元性の高分子微粒子及びバインダーに加えて、溶媒を含み得る。前記下地塗料に含み得る溶媒としては、前記バインダーを溶解することができるものであれば特に限定されないが、基材を大きく溶解するものは好ましくない。但し、基材を大きく溶解する溶媒であっても、他の低溶解性の溶媒と混合することにより、溶解性を低下させて使用することが可能である。前記下地塗料に含み得る溶媒としては、例えば、酢酸ブチル等の脂肪族エステル類、トルエン等の芳香族溶媒、メチルエチルケトン等のケトン類、シクロヘキサン等の環状飽和炭化水素類、n−オクタン等の鎖状飽和炭化水素類、メタノール、エタノール、n−オクタノール等の鎖状飽和アルコール類、安息香酸メチル等の芳香族エステル類、ジエチルエーテル等の脂肪族エーテル類及びこれらの混合物等が挙げられる。尚、導電性又は還元性の高分子微粒子として、予め有機溶媒に分散された分散液を使用する場合は、分散液に使用されている有機溶媒を下地塗料の溶媒の一部又は全部として使用することができる。
【0018】
更に、前記下地塗料は用途や塗布対象物等の必要に応じて、分散安定剤、増粘剤、顔料
、染料、無機物等の充填剤を加えることも可能である。
【0019】
本発明の基材上への前記下地塗料の塗布方法は、特に限定されず、例えば、スプレー、スクリーン印刷機、グラビア印刷機、フレキソ印刷機、インクジェット印刷機、オフセット印刷機、ディッピング、スピンコーター、ロールコーター、フローコーター等を用いて、印刷またはコーティングすることができる。乾燥条件も特に限定されず、室温、又は加熱条件下で行うことができる。
【0020】
形成される塗膜層の厚さは、20ないし500nmの範囲とするのが好ましい。塗膜層の厚さを20nmよりも薄くすると、金属めっき膜の析出性が低下するため、電磁波シールド性が低下する傾向にある。また、塗膜層の膜厚を500nmよりも厚くすると、基材との密着性が低下するため、耐屈曲性および耐摩耗性が低下し、電磁波シールド性が低下する傾向にある。
【0021】
導電性の高分子微粒子を用いて形成された塗膜層は、微粒子を還元性とするために脱ドープ処理が行われる。脱ドープ処理としては、還元剤、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム等の水素化ホウ素化合物、ジメチルアミンボラン、ジエチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、トリエチルアミンボラン等のアルキルアミンボラン、及び、ヒドラジン等を含む溶液で処理して還元する方法、又は、アルカリ性溶液で処理する方法が挙げられる。
【0022】
操作性及び経済性の観点からアルカリ性溶液で処理するのが好ましい。導電性高分子微粒子を用いて形成された層は、緩和な条件下で短時間のアルカリ処理により脱ドープを達成することが可能である。例えば、1M 水酸化ナトリウム水溶液中で、20ないし50℃、好ましくは30ないし40℃の温度で、1ないし30分間、好ましくは3ないし10分間処理される。上記の脱ドープ処理により、導電性の高分子微粒子を用いて形成された塗膜層中の高分子微粒子は還元されて、還元性高分子微粒子となる。
【0023】
上記のようにして製造された、還元性の高分子微粒子を含む塗膜層が形成された基材を無電解めっき法によりめっき物とするが、該無電解めっき法は、通常知られた方法に従って行うことができる。すなわち、前記基材を塩化パラジウム等の触媒金属を付着させるための触媒液に浸漬した後、水洗等を行い、無電解めっき浴に浸漬することによりめっき物を得ることができる。
【0024】
触媒液は、無電解めっきに対する触媒活性を有する貴金属(触媒金属)を含む溶液であり、触媒金属としては、パラジウム、金、白金、ロジウム等が挙げられ、これら金属は単体でも化合物でもよく、触媒金属を含む安定性の点からパラジウム化合物が好ましく、その中でも塩化パラジウムが特に好ましい。好ましい、具体的な触媒液としては、0.05%塩化パラジウム−0.005%塩酸水溶液(pH3)が挙げられる。処理温度は、20ないし50℃、好ましくは30ないし40℃であり、処理時間は、0.1ないし20分、好ましくは、1ないし10分である。上記の操作により、塗膜中の還元性高分子微粒子は、結果的に、導電性高分子微粒子となる。
【0025】
上記で処理された基材は、金属を析出させるためのめっき液に浸され、これにより無電解めっき膜が形成される。めっき液としては、通常、無電解めっきに使用されるめっき液であれば、特に限定されない。すなわち、無電解めっきに使用できる金属、銅、金、銀、ニッケル等、全て適用することができるが、銅が好ましい。無電解銅めっき浴の具体例としては、例えば、ATSアドカッパーIW浴(奥野製薬工業(株)社製)等が挙げられる。処理温度は、20ないし50℃、好ましくは30ないし40℃であり、処理時間は、1ないし30分、好ましくは、5ないし15分である。得られためっき物は、使用した塗膜層中のバインダーの融点より低い温度において、数時間以上、例えば、2時間以上養生するのが好ましい。上記の方法により、煩雑なエッチング処理等を行うことなく、薄くて平滑性に優れ、且つ密着性に優れる金属めっき膜が形成されためっき物を製造することができる。
【0026】
本発明のシート状弾性体としては、
α)金属めっき膜との密着性及び追随性に優れ、
β)例えば筐体に本発明の電磁波シールド用ガスケットが接したとしても金属めっき膜が剥がれないように保護出来、すなわち耐摩耗性に優れ、
γ)金属めっき膜の腐食を防止出来るシート状の弾性体であればよい。ここで、上記α)について説明すると、例えば電磁波シールド用ガスケットを屈曲させた際に、シート状弾性体と金属めっき膜との密着性及び追随性がよいと金属めっき膜が破断し難いものである。したがって、本発明のシート状弾性体としては密着性及び追随性に優れる、すなわち耐屈曲性に優れるシート状弾性体である必要がある。
【0027】
本発明のシート状弾性体としては、ポリウレタン樹脂、ポリアクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂等の合成樹脂からなる発泡シートが挙げられ、その中でも、特開平11-60768号公報や特開2003-277459号公報に記載されているようなポリウレタンウレア発泡シートが耐屈曲性、耐摩耗性、強度、耐寒性、耐加水分解性に優れ、且つ製造加工性にも優れるため好ましく用いられる。
【0028】
本発明のめっき物上への前記シート状弾性体の形成方法は、例えば、シート状弾性体の原料をめっき物上へコーティングし、所望の乾燥条件で行えばよい。
【0029】
また、シート状弾性体の厚さは、0.2ないし1.0mmの範囲とするのが好ましい。
【0030】
以下に、前記下地塗料に使用され得る導電性又は還元性の高分子微粒子を製造するための具体的な方法を記載する。
【0031】
(1)還元性高分子微粒子の製造方法
還元性高分子微粒子は、有機溶媒と水とアニオン系界面活性剤及びノニオン系界面活性剤とを混合撹拌してなるO/W型の乳化液中に、π−共役二重結合を有するモノマーを添加し、該モノマーを酸化重合することにより製造することができる。
【0032】
π−共役二重結合を有するモノマーとしては、還元性高分子を製造するために使用されるモノマーであれば特に限定されないが、例えば、ピロール、N−メチルピロール、N−エチルピロール、N−フェニルピロール、N−ナフチルピロール、N−メチル−3−メチルピロール、N−メチル−3−エチルピロール、N−フェニル−3−メチルピロール、N−フェニル−3−エチルピロール、3−メチルピロール、3−エチルピロール、3−n−ブチルピロール、3−メトキシピロール、3−エトキシピロール、3−n−プロポキシピロール、3−n−ブトキシピロール、3−フェニルピロール、3−トルイルピロール、3−ナフチルピロール、3−フェノキシピロール、3−メチルフェノキシピロール、3−アミノピロール、3−ジメチルアミノピロール、3−ジエチルアミノピロール、3−ジフェニルアミノピロール、3−メチルフェニルアミノピロール及び3−フェニルナフチルアミノピロール等のピロール誘導体、アニリン、o−クロロアニリン、m−クロロアニリン、p−クロロアニリン、o−メトキシアニリン、m−メトキシアニリン、p−メトキシアニリン、o−エトキシアニリン、m−エトキシアニリン、p−エトキシアニリン、o−メチルアニリン、m−メチルアニリン及びp−メチルアニリン等のアニリン誘導体、チオフェン、3−メチルチオフェン、3−n−ブチルチオフェン、3−n−ペンチルチオフェン、3−n−ヘキシルチオフェン、3−n−ヘプチルチオフェン、3−n−オクチルチオフェン、3−n−ノニルチオフェン、3−n−デシルチオフェン、3−n−ウンデシルチオフェン、3−n−ドデシルチオフェン、3−メトキシチオフェン、3−ナフトキシチオフェン及び3,4−エチレンジオキシチオフェン等のチオフェン誘導体が挙げられ、好ましくは、ピロール、アニリン、チオフェン及び3,4−エチレンジオキシチオフェン等が挙げられ、より好ましくはピロールが挙げられる。
【0033】
また前記製造に用いるアニオン系界面活性剤としては、種々のものが使用できるが、疎水性末端を複数有するもの(例えば、疎水基に分岐構造を有するものや、疎水基を複数有するもの)が好ましい。このような疎水性末端を複数有するアニオン系界面活性剤を使用することにより、安定したミセルを形成させることができ、重合後において水相と有機溶媒相との分離がスムーズであり、有機溶媒相に分散した還元性高分子微粒子が入手し易い。疎水性末端を複数有するアニオン系界面活性剤の中でも、スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウム(疎水性末端4つ)、スルホコハク酸ジ−2−エチルオクチルナトリウム(疎水性末端4つ)および分岐鎖型アルキルベンゼンスルホン酸塩(疎水性末端2つ)が好適に使用できる。
【0034】
反応系中でのアニオン系界面活性剤の量は、π−共役二重結合を有するモノマー1molに対し0.05mol未満であることが好ましく、さらに好ましくは0.005mol〜0.03molである。0.05mol以上では添加したアニオン性界面活性剤がドーパントとして作用し、得られる微粒子は導電性を発現するため、これを用いて無電解めっきを行うためには脱ドープの工程が必要となる。
【0035】
ノニオン系界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル類、アルキルグルコシド類、グリセリン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビダン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類が挙げられる。これらを一種類または複数混ぜて使用してもよい。特に安定的にO/W型エマルションを形成するものが好ましい。
【0036】
反応系中でのノニオン系界面活性剤の量は、π−共役二重結合を有するモノマー1molに対し、アニオン系界面活性剤と足して0.2mol以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.05〜0.15molである。0.05mol未満では収率や分散安定性が低下し、一方、0.2mol以上では重合後において、水相と有機溶媒相との分離が困難になり、有機溶媒相にある還元性高分子微粒子を得る事ができなくなる事から好ましくない。
【0037】
前記製造において乳化液の有機相を形成する有機溶媒は疎水性であることが好ましい。なかでも、芳香族系の有機溶媒であるトルエンやキシレンは、O/W型エマルションの安定性およびπ−共役二重結合を有するモノマーとの親和性の観点から好ましい。両性溶媒でもπ−共役二重結合を有するモノマーの重合を行うことはできるが、生成した還元性高分子微粒子を回収する際の有機相と水相との分離が困難になる。
【0038】
乳化液における有機相と水相との割合は、水相が75体積%以上であることが好ましい。水相が20体積%以下ではπ−共役二重結合を有するモノマーの溶解量が少なくなり、生産効率が悪くなる。
【0039】
前記製造で使用する酸化剤としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸およびクロロスルホン酸のような無機酸、アルキルベンゼンスルホン酸およびアルキルナフタレンスルホン酸のような有機酸、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムおよび過酸化水素のような過酸化物が使用できる。これらは単独で使用しても、二種類以上を併用してもよい。塩化第二鉄等のルイス酸でもπ−共役二重結合を有するモノマーを重合できるが、生成した粒子が凝集し、微分散できない場合がある。特に好ましい酸化剤は、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩である。
【0040】
反応系中での酸化剤の量は、π−共役二重結合を有するモノマー1molに対して0.1mol以上、0.8mol以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.2〜0.6molである。0.1mol未満ではモノマーの重合度が低下し、ポリマー微粒子を分液回収することが困難になり、一方、0.8mol以上では凝集してポリマー微粒子の粒径が大きくなり、分散安定性が悪化する。
【0041】
前記ポリマー微粒子の製造方法は、例えば以下のような工程で行われる:
(a)アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、有機溶媒および水を混合攪拌し乳化液を調製する工程、
(b)π−共役二重結合を有するモノマーを乳化液中に分散させる工程、
(c)モノマーを酸化重合させる工程、
(d)有機相を分液しポリマー微粒子を回収する工程。
【0042】
前記各工程は、当業者に既知である手段を利用して行うことができる。例えば、乳化液の調製時に行う混合攪拌は、特に限定されないが、例えばマグネットスターラー、攪拌機、ホモジナイザー等を適宜選択して行うことができる。また重合温度は0〜25℃で、好ましくは20℃以下である。重合温度が25℃を越えると副反応が起こるので好ましくない。
【0043】
酸化重合反応が停止されると、反応系は有機相と水相の二相に分かれるが、この際に未反応のモノマー、酸化剤および塩は水相中に溶解して残存する。ここで有機相を分液回収し、イオン交換水で数回洗浄すると、有機溶媒に分散した還元性高分子微粒子を入手することができる。
【0044】
上記の製造法により得られるポリマー微粒子は、主としてπ−共役二重結合を有するモノマー誘導体のポリマーよりなり、そしてアニオン系界面活性剤及びノニオン系界面活性剤を含む微粒子である。そしてその特徴は、微細な粒径を有し、有機溶媒中で分散可能であることである。ポリマー微粒子は球形の微粒子となるが、その平均粒径は、10〜100nmとするのが好ましい。上記のように平均粒径の小さな微粒子にすることで、微粒子の表面積が極めて大きくなり、同一質量の微粒子でも、より多くの触媒金属を吸着できるようになり、それにより塗膜層の薄膜化が可能となる。得られたポリマー微粒子の導電率は0.01S/cm未満であり、好ましくは、0.005S/cm以下である。
【0045】
こうして得られた有機溶媒に分散した還元性高分子微粒子は、そのままで、濃縮して、又は乾燥させて塗料の還元性高分子微粒子成分として使用することができる。
【0046】
(2)導電性高分子微粒子の製造方法
使用する導電性高分子微粒子は、例えば、有機溶媒と水とアニオン系界面活性剤とを混合撹拌してなるO/W型の乳化液中に、π−共役二重結合を有するモノマーを添加し、該モノマーを酸化重合することにより製造することができる。
【0047】
π−共役二重結合を有するモノマー及びアニオン系界面活性剤としては還元性微粒子の製造の際に例示したものと同様のものが挙げられるが、好ましくは、ピロール、アニリン、チオフェン及び3,4−エチレンジオキシチオフェン等が挙げられ、より好ましくはピロールが挙げられる。
【0048】
反応系中でのアニオン系界面活性剤の量は、π−共役二重結合を有するモノマー1molに対し0.2mol未満であることが好ましく、さらに好ましくは0.05mol〜0.15molである。0.05mol未満では収率や分散安定性が低下し、一方、0.2mol以上では得られた導電性高分子微粒子に導電性の湿度依存性が生じてしまう場合がある。
【0049】
前記製造において乳化液の有機相を形成する有機溶媒は疎水性であることが好ましい。なかでも、芳香族系の有機溶媒であるトルエンやキシレンは、O/W型エマルションの安定性およびモノマーとの親和性の観点から好ましい。両性溶媒でもπ−共役二重結合を有するモノマーの重合を行うことはできるが、生成した導電性高分子微粒子を回収する際の有機相と水相との分離が困難になる。
【0050】
乳化液における有機相と水相との割合は、水相が75体積%以上であることが好ましい。水相が20体積%以下ではπ−共役二重結合を有するモノマーの溶解量が少なくなり、生産効率が悪くなる。
【0051】
前記製造で使用する酸化剤としては、還元性微粒子の製造の際に例示したものと同様のものが挙げられるが、特に好ましい酸化剤は、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩である。反応系中での酸化剤の量は、π−共役二重結合を有するモノマー1molに対して0.1mol以上、0.8mol以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.2〜0.6molである。0.1mol未満ではモノマーの重合度が低下し、導電性高分子微粒子を分液回収することが困難になり、一方、0.8mol以上では凝集して導電性高分子微粒子の粒径が大きくなり、分散安定性が悪化する。
【0052】
前記導電性高分子微粒子の製造方法は、例えば以下のような工程で行われる:
(a)アニオン系界面活性剤、有機溶媒および水を混合攪拌し乳化液を調製する工程、
(b)π−共役二重結合を有するモノマーを乳化液中に分散させる工程、
(c)モノマーを酸化重合しアニオン系界面活性剤にポリマー微粒子を接触吸着させる工
程、
(d)有機相を分液し導電性高分子微粒子を回収する工程。
【0053】
前記各工程は、当業者に既知である手段を利用して行うことができる。例えば、乳化液の調製時に行う混合攪拌は、特に限定されないが、例えばマグネットスターラー、攪拌機、ホモジナイザー等を適宜選択して行うことができる。また重合温度は0〜25℃で、好ましくは20℃以下である。重合温度が25℃を越えると副反応が起こるので好ましくない。
【0054】
酸化重合反応が停止されると、反応系は有機相と水相の二相に分かれるが、この際に未反応のモノマー、酸化剤および塩は水相中に溶解して残存する。ここで有機相を分液回収し、イオン交換水で数回洗浄すると、有機溶媒に分散した導電性高分子微粒子を入手することができる。
【0055】
上記の製造法により得られる導電性高分子微粒子は、主としてπ−共役二重結合を有するモノマー誘導体よりなり、そしてアニオン系界面活性剤を含む微粒子である。そしてその特徴は、微細な粒径と、有機溶媒中で分散可能であることである。ポリマー微粒子は球形の微粒子となるが、その平均粒径は、10〜100nmとするのが好ましい。上記のように平均粒径の小さな微粒子にすることで、微粒子の表面積が極めて大きくなり、同一質量の微粒子でも、脱ドープ処理して還元性とした際に、より多くの触媒金属を吸着できるようになり、それにより塗膜層の薄膜化が可能となる。
【0056】
また、導電性高分子微粒子の製造方法は、特開2008−214401号公報に記載されている方法により製造してもよい。
【0057】
こうして得られた有機溶媒に分散した導電性高分子微粒子は、そのままで、濃縮して、又は乾燥させて塗料の導電性高分子微粒子成分として使用することができる。
【実施例】
【0058】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0059】
製造例1:導電性ポリピロール微粒子(分散液)の調製
スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウム1.5mmolをイオン交換水100mLに溶解し、次いでピロールモノマー21.2mmolを加え、30分攪拌した後、0.2M過硫酸アンモニウム水溶液50mL(6mmol相当)を加え、20分間反応を行った。次いでトルエン25mLを添加し、4時間撹拌した。反応終了後、有機層を回収し、イオン交換水で数回洗浄して、トルエン中に分散した導電性微粒子分散液を得て、トルエンにて導電性微粒子の固形分濃度0.6%に調整した。尚、導電性微粒子分散液中の導電性微粒子の粒子径は、平均20nmであった。
【0060】
製造例2:下地塗料の調製
製造例1で調製した導電性ポリピロール微粒子分散液に、バインダーA、Bを種々の質量部で加えて表1に示す導電性ポリピロール微粒子を含む下地塗料を調製した。
ここで、表1中のバインダーA、Bは以下のものを意味し、また、バインダーの使用量は、導電性ポリピロール微粒子1質量部に対する使用したバインダーの質量部数を示す。
A:スーパーベッカミンJ-820:メラミン系(大日本インキ化学工業(株)社製)
B:バイロン240:ポリエステル系(東洋紡績(株)社製)
【0061】
【表1】

【0062】
製造例3:塗膜層の形成
基材として軟質フィルムC,Dを用い、該基材上に上記で調製した塗料1ないし6をコーティングして表2に示す、種々の膜厚を有する塗膜層が形成された軟質フィルムを製造した。尚、表2中の塗膜1ないし11は、塗料のコーティング後、120℃で5分間乾燥して、微粒子が均一に分散した塗膜層とした。
表中の軟質フィルムC,Dは以下のものを意味する。
C:樹脂 PET、商品名 コスモシャインA4100、東洋紡績(株)社製
D:樹脂 PI、商品名 カプトン200H、東レ・デュポン(株)社製
【0063】
【表2】

【0064】
製造例4:無電解めっき法によるめっき物の製造
上記で製造した塗膜層が形成されたフィルム(塗膜1ないし11)を、1M水酸化ナトリウム水溶液中に、35℃で5分間浸漬後、洗浄水で洗浄することにより、導電性高分子微粒子を還元性とした。次に、0.02%塩化パラジウム−0.01%塩酸水溶液中に35℃で5分間浸漬後、水道水で水洗した。次に、該フィルムを無電解銅めっき浴 ATSアドカッパーIW浴(奥野製薬工業(株)社製)に浸漬して、35℃で10分間浸漬し銅めっきを施した。
【0065】
製造例5:シート状弾性体(発泡シート)の製造
数平均分子量1000のポリテトラメチレングリコール430.17g、1,3ブタン時オール41.24g、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート320.88g、酢酸エチル198.86gを80℃で3時間、窒素ガス雰囲気下で撹拌して反応させて、NCO%が4.2%の末端イソシアネート基のプレポリマー溶液を得た。
次いで、上記で得たプレポリマー溶液100gに対し、プレポリマーのNCO%を3.5にする量のアクトコール(三井武田ケミカル社製、水酸基価24のグリセリンベースプロピレンオキサイドエチレンオキサイド付加体)9.15g、クリスボンアシスターSD−7(大日本インキ社製、整泡剤;シリコン系)0.88g、ジブチル錫ラウレート及びペンタメチルジエチレントリアミンを0.18gを混合し、200mLポリエチレン製容器内で毎分3,000回転の4枚羽撹拌機により60秒撹拌した。
得られた混合液を、上記で製造しためっき物上に約0.2mmの厚さでコーティングし、110℃の加湿オーブンに2分間入れて反応を行い、ポリウレタンウレア発泡シート(シート状弾性体)を得た。尚、得られたポリウレタンウレア発泡シートの厚みは約0.3mmである。
尚、塗膜1ないし11上に形成した銅めっき膜(表3において、「めっき膜厚」を表示)上に、発泡シートを設けたもの(表3において、発泡シート「有」と表示)を実施例1ないし14とした。また、比較例4は、塗膜1から製造しためっき物であり、発泡シートを設けていない(表3においては、発泡シート「無」と表示)。
【0066】
比較例1は、小型真空蒸着装置「VPC−260F」(アルバック機工株式会社製)を使用して、軟質フィルムシートC上に銅を真空蒸着させた後、その銅層上に上記発泡シートを積層させたものである。
【0067】
比較例2は、軟質フィルムシートC上に上記発泡シートを積層させた後、その発泡シート上に、小型真空蒸着装置「VPC−260F」(アルバック機工株式会社製)を使用して、銅を真空蒸着させたものである。
【0068】
比較例3は、軟質フィルムシートCに前処理液としてOPC−1050コンディショナー(奥野製薬工業(株)社製)に60℃で5分間浸漬した後水道水で水洗し、次にATSプリコンディションPIW−1(奥野製薬工業(株)社製)に45℃で2分間浸漬した後水道水で水洗し、次にATSコンディクリンCIW−2浴(奥野製薬工業(株)社製)に60℃で5分間浸漬した後水道水で水洗し、次にプリディップ液として、OPC−SALM浴(奥野製薬工業(株)社製)に20℃で2分間浸漬した後水道水で水洗し、次に、キャタリスト液として、OPC−80キャタリスト浴(奥野製薬工業(株)社製)に25℃で6分間浸漬した後水道水で水洗し、次に活性化剤として、OPC−500アクセレーターMX浴(奥野製薬工業(株)社製)に35℃で5分間浸漬した後水道水で水洗し、次に無電解銅めっき浴ATSアドカッパーIW浴(奥野製薬工業(株)社製)に35℃で20分間浸漬し、銅めっきを施すことにより、フィルム上に金属めっき膜を形成させた。その金属めっき膜上に、上記発泡シートを積層させたものである。
【0069】
試験例1
上記で製造した実施例1ないし14及び比較例1ないし4のめっき物において、各種の評価試験を行いその結果を表3に纏めた。
尚、評価試験項目及びその評価方法・評価基準は以下の通りである。
・金属外観
発泡シートを設ける前のめっき皮膜の状態を目視にて観察し、基材露出面積を測定した。尚、評価基準は以下の通りとした。
○:完全に被覆され基材露出無し
△:50%程度基材の露出あり
×:100%基材露出
・電磁波シールド性
KEC法にて1MHz〜1GHzの周波数帯域で測定した結果の平均値を電磁波シールド性の値として示した。
・屈曲試験後の電磁波シールド性
得られたサンプルを縦200mm、横100mmに切断して試験試料とした。次に、軸系が10mmφで長さ300mmのステンレス製の円筒軸を用意し、これに試験試料の縦方向を合わせて一方の端部を固定し、めっき部が外側になる様に巻付け、次にめっき部が内側になる様に巻きつける。この操作を1セットとして100セット繰り返した後の電磁波シールド性を測定した。
・耐摩耗試験後の電磁波シールド性
平面摩擦試験機(「FR−2S」スガ試験機(株)社製)を使用した。発泡体面(金属層面)を上向きにしてサンプルを試験片台に固定し、摩擦子に摩擦布(綿帆布6号)を取り付ける。荷重は500gとし、1000回摩擦した後の試験片の電磁波シールド性を測定した。
・耐腐食性試験後の変色
湿度95%×70℃の環境下に1週間放置して、銅めっき部の変色等を観察した。尚、評価基準は以下の通りとした。
○:腐食無し
△:若干腐食有り
×:激しい腐食有り
・耐腐食性試験後の電磁波シールド性
湿度95%×70℃の環境下に1週間放置して、電磁波シールド性を測定した。
【0070】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面上に導電性高分子微粒子とバインダーを含む塗膜層が形成され、前記塗膜層上に金属めっき膜が無電解めっき法により形成され、前記金属めっき膜上にシート状弾性体が形成されたことを特徴とする電磁波シールド用ガスケット。
【請求項2】
前記バインダーは、前記導電性高分子微粒子1質量部に対して0.1ないし10質量部で存在し、前記塗膜層の厚さは20ないし500nmであることを特徴とする請求項1に記載の電磁波シールド用ガスケット。
【請求項3】
前記シート状弾性体が、発泡シートであることを特徴とする請求項1または2記載の電磁波シールド用ガスケット。