説明

電磁波シールド用成膜方法と装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、デジタル機器等から発生する電磁波からCPU などの電子機器を防護するために該電子機器に電磁波シールド用の膜を形成する方法と装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、半導体デバイス等の基体主にコンピューター用基体、透明なプラスチック容器等に電磁波シールド用の薄膜を形成することは行なわれており、その装置の一例を図1に示す。同図示の装置は、Arガス等の不活性ガスや空気を導入するガス導入口bと真空ポンプに接続された真空排気口cを有する真空室aと、基体eを取付けるための電動機kにより該真空室a内で回転された基体取付治具dと、該真空室a内の下方に設けた電磁波シールド用材料fを収めた蒸発源gと、該蒸発源gと基体eとの間にボンバード用DC電源hによりグロー放電を発生するDCコイルのボンバード機構iとで構成される。jは該蒸発源gの蒸発用電源である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】図1に示した装置で電磁波シールド膜を基体eに成膜する場合、真空室a内を10- 4〜10- 5Torrの高真空に排気してから、ガス導入口bを開いてArガス等を室内に導入し、該真空室a内を10- 1〜10- 2Torrに圧力調整する。そして基体取付治具dを回転させながらボンバード機構iにその電源hから数kvのDC電圧を供給し、発生するグロー放電により基体eをクリーニングする。この後、ガス導入口を閉じ、ボンバード用の電源hを切り、真空室a内を再び10- 4〜10- 5Torrの高真空に排気し、蒸発用電源jを入れて蒸発源gからAl等の電磁波シールド用材料fを蒸発させ、基体eに電磁波シールド用の金属膜を堆積させている。
【0004】この図1の装置では、基体eのクリーニングにDC電源によるボンバード機構iを使用しているので、クリーニング時と成膜時では作動圧力(10- 4Torr前後ではグロー放電が発生せず、クリーニングを行なえない)が異なり、そのため圧力調整に時間が掛って作業効率が悪く、基体eに堆積する膜は単純蒸着状態の膜で密着性が低く剥がれやすい不都合があった。密着性を向上させるために基体eに直流電圧を印加して発生したイオンを基体eに引くことも行なわれているが、そのための電源や治具に複雑な絶縁機構を必要として装置構成が複雑化する欠点がある。
【0005】本発明は、高真空状態のままクリーニングを行なえ、膜の密着性のよい電磁波シールド膜を簡単に形成する方法と装置を提供することを目的とするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明では、ガス導入口を有する真空室内に基体と蒸発源及び該基体のクリーニング手段を設け、該クリーニング手段によりクリーニングした基体に該蒸発源から蒸発する電磁波シールド用材料を成膜する方法に於いて、該クリーニング手段をRF電源に接続されたRFイオン化電極で構成してアノードの該基体と蒸発源の間に配置し、該真空室内に不活性ガスや空気を導入して圧力調整したのちRFイオン化電極に通電してグロー放電により該基体をクリーニングし、続いてガス導入口を閉じてその圧力状態で該蒸発源を作動させこれより蒸発する電磁波シールド用材料の蒸気を該グロー放電内で励起・イオン化して基体に堆積させることにより、上記の目的を達成するようにした。この方法は、ガス導入口を有する真空室内に基体と蒸発源及び該基体のクリーニング手段を備え、クリーニングした基体に該蒸発源の金属材料を蒸発させて電磁波シールド用薄膜を成膜する装置に於いて、該クリーニング手段をRF電源に接続されたRFイオン化電極で構成してこれをアノードの該基体と蒸発源の間に配置した装置により、簡単な構成で実施できる。
【0007】
【作用】真空室内を10- 5〜10- 6Torrの高真空に排気してから、ガス導入口を開いてArガス等の不活性ガスを導入し、室内を10- 3〜10- 5Torrに保った後、基体を回転させながらRFイオン化電極にRF電源からの高周波電力を投入する。アノードの基体と蒸発源の間にはグロー放電が発生しこれで基体のクリーニングを数分間行ない、ガス導入口を閉じ、蒸発源に電力を投入する。該蒸発源からの電磁波シールド材料の蒸気は、基体と蒸発源の間で発生しているグロー放電内でイオン化又は励起され、基体に堆積するが、該RFイオン化電極にはRFグロー放電のためにセルフバイアス電圧が発生するのでグロー放電中で生成するイオン化された蒸気がRFイオン化電極方向へ移動し、密着性のよい電磁波シールド膜を基体に形成することができる。
【0008】
【実施例】本発明の実施例を図面に基づき説明すると、図2に於いて符号1はArガス等の不活性ガス或いは空気を導入するためのガス導入口2を有する真空室で、該真空室1内に、半導体デバイス等の電磁波シールド膜を形成する基体3とAl等の電磁波シールド材料4aを収めた複数個の蒸発源4及び該基体3のクリーニング手段5が設けられる。該基体3はその複数個を電動機6により回転される真空室1内の基体取付治具7に取付け、接地状態になるようにした。該クリーニング手段5はRF電源8に接続された1本もしくは複数本の長い蛇行させたRFイオン化電極9で構成され、図3に示すように、SUS製の3/8インチパイプ2本で蒸発源4の周囲に約100mmのピッチで巻くようにし、アノードの該基体3と蒸発源4の間に配置した。10は真空ポンプに接続された排気口、11は蒸発源4の蒸発用電源、12は整合回路である。
【0009】上記構成の装置により基体3に電磁波シールド膜を形成するには、まず該真空室1内を10- 5〜10- 6Torrの高真空に排気してから例えばArガスを導入し、10- 3〜10- 5Torrに圧力調整する。このあと基体取付治具7を作動させて基体3を10〜50rpm で自転または自公転させながらRFイオン化電極9にRF電源8から電力を供給すると、該基体3と蒸発源4の間にグロー放電が発生し、このグロー放電が基体3の表面に触れて該基体3が高真空中でクリーニングされる。クリーニングの時間は数分間である。クリーニングが終わるとガス導入口2を閉じ、その高真空状態で該蒸発源4を作動させ、電磁波シールド材料4aの蒸気が蒸発源4と基体3の間の該グロー放電内で励起・イオン化されて基体3に堆積し、基体と蒸発物との間に膜の密着性を低下させるような汚れが付着しない。また、該グロー放電はRF放電であり、RFイオン化電極9にはセルフバイアス電圧が発生するので、この電圧に引かれてイオン化した蒸発物が蒸発源4から基体3の方向へ加速されるので、約80℃程度の低温の基体3に密着性の良い蒸発物の膜を形成することができる。
【0010】本発明の方法の具体的実施例をABS 樹脂材の基体3にAlの電磁波シールド膜を形成する場合につき説明すると次の通りである。基体3を基体取付治具7に取付け、真空室1内を5×10- 5Torrまで排気したのち、ガス導入口2からArガスを8×10- 4Torrまで導入する。基体3を30rpm で自公転させながらRFイオン化電極9に500Wの高周波電力を供給し、発生したグロー放電により基体3を1分間クリーニングした。このあとガスの導入を止め、該グロー放電を発生させたまま蒸発源4からAlを約500オングストローム/sec で蒸発させ基体3にAl膜を約2ミクロンの厚さで堆積させた。この膜の密着力は約12kg/mm2 と通常の約6倍の密着力があった。
【0011】図2の実施例では基体3を縦置きして蒸発源4の周囲を回るように横回転させたが、横置きして縦回転させる構成としてもよい。基体3の形状に応じて蒸発源4とRFイオン化電極9の個数を変更することも可能で、その個数を増やして大面積の基体に電磁波シールド膜を形成することができる。
【0012】
【発明の効果】以上のように本発明によれば、クリーニング手段をRF電源に接続されたRFイオン化電極で構成してアノードの該基体と蒸発源の間に配置し、該真空室内に不活性ガス等を導入して圧力調整したのちRFイオン化電極に通電してグロー放電により該基体をクリーニングし、続いてガス導入口を閉じてその圧力状態で該蒸発源を作動させ、蒸発する電磁波シールド用材料を該グロー放電内で励起・イオン化して低温の基体に堆積させるので、真空室内の圧力を変更せずに低い圧力でクリーニングしながら密着性の良い電磁波シールド膜の成膜を簡単な操作で短時間に行なえ、基体に直流電圧を印加する必要がないので電源および複雑な基体の絶縁機構が不要で治具の構成も簡単になる等の効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 従来例の截断側面図
【図2】 本発明の実施例の截断側面図
【図3】 図2イオン化電極の斜視図
【符号の説明】
1 真空室 2 ガス導入口 3 基体
4 蒸発源 4a 電磁波シールド材料 5 クリーニング手段
8 RF電源 9 RFイオン化電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ガス導入口を有する真空室内に基体と蒸発源及び該基体のクリーニング手段を設け、該クリーニング手段によりクリーニングした基体に該蒸発源から蒸発する電磁波シールド用材料を成膜して電磁波シールド用の薄膜を形成する方法に於いて、該クリーニング手段をRF電源から供給される電圧によりグロー放電を発生させるRFイオン化電極で構成してアノードの該基体と蒸発源の間に配置すると共に、前記基体を該RFイオン化電極のグロー放電域内に配置し、該真空室内に不活性ガスや空気を導入して圧力調整したのちRFイオン化電極に通電してグロー放電により該基体をクリーニングし、続いてガス導入口を閉じてその圧力状態で該蒸発源を作動させこれより蒸発する電磁波シールド用材料の蒸気を該グロー放電内で励起・イオン化して基体に堆積させることを特徴とする電磁波シールド用成膜方法。
【請求項2】 前記蒸発源を中心として回転可能に構成された治具に基体を取り付けるようにし、この治具を回転させた状態でRFイオン化電極に通電させて、基体のクリーニング及び電磁波シールド用材料の蒸気の励起・イオン化を行うことを特徴とする請求項1に記載の電磁波シールド用成膜方法。
【請求項3】 ガス導入口を有する真空室内に基体と蒸発源及び該基体のクリーニング手段を備え、クリーニングした基体に該蒸発源の金属材料を蒸発させて電磁波シールド用薄膜を成膜する装置に於いて、前記クリーニング手段を、前記蒸発源と前記基体との間に配置され、RF電源から供給される電圧により蒸発源と基体の間にグロー放電を発生させるRFイオン化電極で構成し、前記基体は、前記RFイオン化電極によるグロー放電の放電域内に配置されることを特徴とする電磁波シールド用成膜装置。
【請求項4】 前記蒸発源を中心として回転可能に構成された治具に基体を取り付けることを特徴とする請求項3に記載の電磁波シールド用成膜装置。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【特許番号】特許第3364692号(P3364692)
【登録日】平成14年11月1日(2002.11.1)
【発行日】平成15年1月8日(2003.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−100833
【出願日】平成5年4月27日(1993.4.27)
【公開番号】特開平6−306578
【公開日】平成6年11月1日(1994.11.1)
【審査請求日】平成11年11月24日(1999.11.24)
【出願人】(000146009)株式会社昭和真空 (72)
【参考文献】
【文献】特開 昭62−202077(JP,A)