説明

電磁波シールド用樹脂組成物及び成形品

【課題】優れた導電性、機械的強度、耐熱性、難燃性及び成形加工性を併せ持つ電磁波シールド用熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)熱可塑性樹脂、(B)リン系難燃剤、及び(C)銅コートアラミド繊維を含むことを特徴とする電磁波シールド用樹脂組成物。この電磁波シールド用樹脂組成物を射出成形してなる電磁波シールド用樹脂成形品。金属コート繊維として銅コートアラミド繊維を用いるため、金属繊維や金属コートカーボンファイバーを用いた場合に比べて成形品が軽く、しかもリン系難燃剤の配合により難燃性が付与されると共に、組成物の粘度が下がることで溶融混練時の銅コートアラミド繊維の銅コートの剥離が防止され、良好な電磁波シールド性が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波シールド用樹脂組成物及びその成形品に関するものである。詳しくは、優れた導電性、機械的強度、耐熱性、難燃性及び成形加工性を併せ持つ電磁波シールド用樹脂組成物と、この電磁波シールド用樹脂組成物を射出成形してなる電磁波シールド用樹脂成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、OA機器、電子機器の小型軽量化や高精度化といったハードの進歩や、インターネットの普及、IT革命の進行が急速であり、これに伴い、これらのOA機器、電子機器を持ち歩く、いわゆる携帯端末(モバイル)の普及がめざましい。該携帯端末の代表例としては、ノート型パソコン、電子手帳、携帯電話、PDA等が挙げられるが、今後ますます多様化、多機能化、高性能化が予想される。
【0003】
これら携帯端末の筐体は勿論、携帯端末以外の電気・電子・OA機器部品、機械部品、車輌用部品などの筐体には、熱可塑性樹脂が多用されている。機器や部品の多様化、多機能化、高性能化、小型軽量化に伴って筐体用樹脂材料には、高強度、高剛性、高耐衝撃性、高耐熱性、高流動性の材料が求められ、さらに電池の不具合に起因したノート型パソコンの発火事故を受けて、難燃化の要求も強くなっている。
【0004】
上記の要求項目に加えて、近年、特に注目されているのが電磁波シールド性である。電子機器は、内部に電子部品を有するために電磁波を発生する。ここで発生する電磁波を機器の外部に漏らさないために、通常では樹脂製筐体に金属メッキを施したり、金属の蒸着を行ったりして対応しているが、メッキや蒸着といった工程を省略するために筐体用材料として電磁波シールド性を有する樹脂材料が要求されている。
【0005】
しかし、熱可塑性樹脂材料はそれ自体電気絶縁性であり、電磁波シールド性は全くない。熱可塑性樹脂に電磁波シールド性を付与する為には、導電性物質を配合する必要がある。該導電性物質としては、金属箔や金属粒子、カーボンブラック、炭素繊維、金属繊維、金属コートの無機繊維や有機繊維等があるが、中でも繊維状導電性物質が、少ない配合量でより高い電磁波シールド性を示すことは古くから知られている。しかし、繊維長の長い炭素繊維や金属コートの炭素繊維は、樹脂との溶融混練時に折損して、電磁波シールド効果や機械的強度が低下するという問題があった。また、金属繊維配合熱可塑性樹脂組成物は、金属繊維と熱可塑性樹脂の比重差が大きいために、成形加工時に分離し易く、このため、電磁波シールド性、機械的強度、成形性等の品質が不安定であった。
【0006】
上記のような炭素繊維や金属繊維の問題を解消するために、例えば、特許文献1には熱可塑性樹脂を含浸した金属コート有機繊維を含む電磁波シールド用樹脂組成物が提案されている。
【0007】
また、特許文献2には、熱可塑性樹脂及び電磁波シールド部材を含み、電磁波シールド部材が、繊維長が2〜14mmである金属繊維、金属で被覆されたアラミド繊維等の非金属繊維及び炭素繊維から選ばれる繊維束に樹脂を含浸させた樹脂含浸繊維束よりなり、組成物中の平均繊維含有量が80質量%以下である電磁波シールド用樹脂組成物が提案されている。
【0008】
また、特許文献3には、射出成形工程におけるショット間の導電性のバラツキが少ない導電性熱可塑性樹脂成形品を得るために、金属コート有機繊維に熱可塑性樹脂を含浸して得られる導電性樹脂組成物であって、有機繊維がメタ系アラミド繊維であり、金属コート有機繊維における金属コート量が10〜30重量%である導電性樹脂組成物が提案されている。
【0009】
さらに、特許文献4には、高周波領域における電磁波シールド性に優れ、且つ、薄肉部のスナップフィット性などの機械的特性に優れた電磁波シールド成形体として、アラミド繊維等の繊維の表面がニッケルで被覆されてなるニッケル被覆繊維とフレーク状ニッケルとを含有し、且つ、ニッケル被覆繊維の繊維を被覆しているニッケルの割合がニッケル被覆繊維中20〜60質量%であるゴム強化スチレン系熱可塑性樹脂組成物を射出成形して得られる電磁波シールド成形体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−160673号公報
【特許文献2】特開2004−14990号公報
【特許文献3】特開2006−283243号公報
【特許文献4】特開2007−59835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1〜4には、難燃性に関する具体的な記載がなく、難燃性の要求される用途では使用できなかった。
また、上記特許文献1〜4では、金属コート繊維を他の成分と溶融混練する際の金属コートの剥離防止についての検討も十分になされていない。
特許文献3には、金属コート繊維に熱可塑性樹脂を含浸させた樹脂組成物とすることにより、他の成分との溶融混練時の金属コートの剥離を抑制し得る旨の記載がなされているが、金属コート繊維に熱可塑性樹脂を含浸させるのみでは金属コートの剥離を十分に防止することはできない。
【0012】
溶融混練時に金属コートが剥離した繊維は、電磁波シールド性に寄付し得ず、得られる成形品は電磁波シールド性の低いものとなる。
なお、特許文献1には、実施例として、重合脂肪酸ポリアミド樹脂を含浸したニッケルコートアラミド繊維とポリカーボネート樹脂からなる樹脂組成物が記載されているが、重合脂肪酸ポリアミド樹脂を含浸したニッケルコートアラミド繊維とポリカーボネート樹脂を溶融混練すると、重合脂肪酸ポリアミド樹脂がポリカーボネート樹脂を熱分解させるため、得られる成形品は機械的強度や外観の劣るものとなる。
【0013】
本発明は、上記従来技術の問題を解決し、優れた導電性、機械的強度、耐熱性、難燃性及び成形加工性を併せ持つ電磁波シールド用熱可塑性樹脂組成物及びその成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、熱可塑性樹脂に金属コート繊維として銅コートアラミド繊維を配合すると共にリン系難燃剤を配合することにより、特に電磁波シールド性と難燃性に優れた樹脂組成物を得ることができることを見出した。
即ち、本発明によれば、金属コート繊維として銅コートアラミド繊維を用いるため、金属繊維や金属コートカーボンファイバーを用いた場合に比べて成形品が軽く、しかもリン系難燃剤の配合により難燃性が付与されると共に、組成物の粘度が下がることで溶融混練時の銅コートアラミド繊維の銅コートの剥離が防止され、良好な電磁波シールド性が得られる。
【0015】
本発明は、このような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0016】
[1] (A)熱可塑性樹脂、(B)リン系難燃剤、及び(C)銅コートアラミド繊維を含むことを特徴とする電磁波シールド用樹脂組成物。
【0017】
[2] (A)熱可塑性樹脂が、(a1)ポリエステル系樹脂を含むことを特徴とする[1]に記載の電磁波シールド用樹脂組成物。
【0018】
[3] (A)熱可塑性樹脂が、(a2)芳香族ポリカーボネート樹脂を含むことを特徴とする[1]又は[2]に記載の電磁波シールド用樹脂組成物。
【0019】
[4] (B)リン系難燃剤の含有量が5質量%以上20質量%以下で、(C)銅コートアラミド繊維の含有量が1質量%以上15質量%以下であることを特徴とする[1]ないし[3]の何れかに記載の電磁波シールド用樹脂組成物。
【0020】
[5] (B)リン系難燃剤の含有量が10質量%以上20質量%以下で、(C)銅コートアラミド繊維の含有量が2質量%以上10質量%以下であることを特徴とする[4]に記載の電磁波シールド用樹脂組成物。
【0021】
[6] (B)リン系難燃剤が下記一般式(1)で表されるリン酸エステル系化合物である[1]ないし[5]の何れかに記載の電磁波シールド用樹脂組成物。
【0022】
【化1】

【0023】
(式中、R、R、R及びRは、各々独立に、炭素数1〜6のアルキル基又はアルキル基で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基を示し、p、q、r及びsは、各々独立に0又は1であり、tは、1〜5の整数であり、Xは、アリーレン基を示す。)
【0024】
[7] (D)ポリフルオロエチレンを含み、その含有量が0.01質量%以上1質量%以下であることを特徴とする[1]ないし[6]の何れかに記載の電磁波シールド用樹脂組成物。
【0025】
[8] (C)銅コートアラミド繊維は、該繊維を5,000〜35,000本集束してなる繊維束に、粘度平均分子量が7,000〜13,000のポリカーボネート樹脂を含浸させてなる、繊維長さ2〜15mmの銅コートアラミド繊維含有樹脂組成物として配合されたものであることを特徴とする[1]ないし[7]の何れかに記載の電磁波シールド用樹脂組成物。
【0026】
[9] [1]ないし[8]何れかに記載の電磁波シールド用樹脂組成物を射出成形してなる電磁波シールド用樹脂成形品。
【0027】
[10] 該成形品よりなる厚さ1.5mm厚の試験片の燃焼性がUL94規格でV−0以上の難燃性を有することを特徴とする請求項9に記載の電磁波シールド用樹脂成形品。
【0028】
[11] 電子機器の筐体である[9]又は[10]に記載の電磁波シールド用樹脂成形品。
【発明の効果】
【0029】
本発明の電磁波シールド用樹脂組成物は、優れた導電性、機械的強度、耐熱性、難燃性、成形加工性及び電磁波シールド性を併せ持ち、特に良好な難燃性と電磁波シールド性とを兼備するものであり、電気・電子・OA機器部品、機械部品、車輌用部品、携帯電話などの筐体の構成材料等として好適に使用することができる。
【0030】
本発明において、(A)熱可塑性樹脂は、(a1)ポリエステル系樹脂及び/又は(a2)芳香族ポリカーボネート樹脂を含むことが好ましい(請求項2,3)。
【0031】
また、組成物中の(B)リン系難燃剤の含有量は、5質量%以上20質量%以下で、(C)銅コートアラミド繊維の含有量は1質量%以上15質量%以下であることが好ましく、特に、(B)リン系難燃剤の含有量は10質量%以上20質量%以下で、(C)銅コートアラミド繊維の含有量は2質量%以上10質量%以下であることが好ましい(請求項4,5)。
【0032】
また、用いる(B)リン系難燃剤は、下記一般式(1)で表されるリン酸エステル系化合物であることが難燃性、組成物の粘度低減効果の面で好ましい(請求項6)。
【0033】
【化2】

【0034】
(式中、R、R、R及びRは、各々独立に、炭素数1〜6のアルキル基又はアルキル基で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基を示し、p、q、r及びsは、各々独立に0又は1であり、tは、1〜5の整数であり、Xは、アリーレン基を示す。)
【0035】
本発明の電磁波シールド用樹脂組成物は、更に、(D)ポリフルオロエチレンを0.01質量%以上1質量%以下含むことが好ましい(請求項7)。
【0036】
また、(C)銅コートアラミド繊維は、該繊維を5,000〜35,000本集束してなる繊維束に、粘度平均分子量が7,000〜13,000のポリカーボネート樹脂を含浸させてなる、繊維長さ2〜15mmの銅コートアラミド繊維含有樹脂組成物として、樹脂組成物を構成する他の成分に配合することが好ましい(請求項8)。
【0037】
本発明の電磁波シールド用樹脂成形品は、このような本発明の電磁波シールド用樹脂組成物を射出成形してなるものであり、その優れた導電性、機械的強度、耐熱性、難燃性、成形加工性及び電磁波シールド性により、電気・電子・OA機器部品、機械部品、車輌用部品、携帯電話などの筐体等として有用であり、各種構造材の薄肉軽量化を図ることができる(請求項11)。
【0038】
本発明の電磁波シールド用樹脂成形品は、厚さ1.5mm厚の試験片の燃焼性がUL94規格でV−0以上の難燃性を有することが好ましく、また、このような優れた難燃性と電磁波シールド性を有することから、様々な電子機器筐体に用いる事が出来る(請求項10)。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に本発明の電磁波シールド用樹脂組成物及び電磁波シールド用樹脂成形品の実施の形態を詳細に説明する。
【0040】
[(A)熱可塑性樹脂]
本発明の電磁波シールド用樹脂組成物に用いられる(A)熱可塑性樹脂としては、成形品の要求性能に応じて適宜選択すれば良く、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン系樹脂;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミドMXD6等のポリアミド系樹脂;ポリオキシメチレン(ポリアセタール)樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂等のポリエステル系樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂、スチレン系樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上のアロイとしても使用することもできる。中でも、本発明の電磁波シールド用樹脂組成物には、機械的強度、耐熱性、難燃化の容易さの点で(a1)ポリエステル系樹脂や、ポリカーボネート樹脂、特に(a2)芳香族ポリカーボネート樹脂を含むことが好ましい。
【0041】
本発明における(a1)ポリエステル系樹脂は、多塩基酸と多価アルコールとの重縮合反応によって得られる熱可塑性ポリエステル樹脂であり、好ましくは、テレフタル酸又はそのジアルキルエステルと脂肪族グリコールとの重縮合反応によって得られるポリアルキレンテレフタレートが挙げられ、具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)等が挙げられる。
【0042】
反応に用いられる脂肪族グリコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール等が挙げられる。重縮合反応においては、脂肪族グリコールは、それ以外の例えばシクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、キシレングリコール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の他のジオール類や多価アルコール類と併用することができる。これらジオール類又は多価アルコール類の使用量は、脂肪族グリコール100質量部に対して40質量部以下の範囲であることが好ましい。
【0043】
また、重縮合反応においては、テレフタル酸又はそのジアルキルエステルと共に、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸やそれらのジアルキルエステル等の二塩基酸、三塩基酸等や、またそれらのジアルキルエステルを併用することができる。これらの使用量は、テレフタル酸又はそのジアルキルエステル100質量部に対して40質量部以下の範囲であることが好ましい。
【0044】
(a1)ポリエステル系樹脂の分子量としては、フェノールとテトラクロルエタンの混合溶媒(重量比=50/50)中、30℃で測定される極限粘度で、好ましくは0.5〜1.8であり、さらに好ましくは0.7〜1.5である。
【0045】
本発明における(a2)芳香族ポリカーボネート樹脂は、芳香族ジヒドロキシ化合物をホスゲン或いは炭酸ジエステル等のカーボネート前駆体と反応させることにより製造される熱可塑性芳香族ポリカーボネート重合体又は共重合体である。この反応は公知の方法で行うことができ、例えば、ホスゲンを用いる場合は界面法により、炭酸ジエステルを用いる場合は溶融状で反応させるエステル交換法等が採用される。
【0046】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4−ジヒドロキシジフェニルなどが挙げられ、好ましくはビスフェノールAが挙げられる。さらに、難燃性をさらに高める目的で上記の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物及び/又はシロキサン構造を有する両末端フェノール性OH基含有のポリマーあるいはオリゴマーを使用することもできる。
【0047】
芳香族ジヒドロキシ化合物と反応させるカーボネート前駆体としては、ホスゲン、又はジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等のジアリールカーボネート類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類が挙げられる。
【0048】
(a2)芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量として、好ましくは16,000〜30,000の範囲であり、より好ましくは17,000〜28,000、特に好ましくは18,000〜26,000である。(a2)芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が16,000未満では機械的強度が不足し、30,000を超えると成形性に難を生じやすく、また、後述の樹脂組成物の粘度条件を満たすことが困難となり、好ましくない。
【0049】
なお、所望の分子量の(a2)芳香族ポリカーボネート樹脂を得るには、末端停止剤或いは分子量調節剤を用いる方法や重合反応条件の選択等公知の方法が採用される。末端停止剤あるいは分子量調節剤としては、例えば、フェノール、p−t−アルキルフェノール、2,4,6−トリブロモフェノール、長鎖アルキルフェノール、脂肪族カルボン酸、ヒドロキシ安息香酸、脂肪族カルボン酸クロライドなどが挙げられる。
【0050】
本発明の電磁波シールド用樹脂組成物中の(A)熱可塑性樹脂の含有量は50〜93質量%、特に60〜90質量%、更に65〜85質量%であることが好ましい。(A)熱可塑性樹脂の含有量が少な過ぎると成形性や耐衝撃性が損なわれるおそれがあり、多過ぎると相対的に他の成分の含有量が少なくなり、目的とする電磁波シールド性や難燃性が得られない場合がある。なお、この(A)熱可塑性樹脂含有量とは、後述の銅コートアラミド繊維マスターバッチにおける低分子量ポリカーボネート含有量も含む含有量である。
【0051】
[(B)リン系難燃剤]
本発明の電磁波シールド用樹脂組成物に用いられる(B)リン系難燃剤は、分子中にリンを含む化合物であれば特に制限されないが、耐熱性の点から下記の一般式(1)で表されるリン酸エステル系化合物が好ましい。
【0052】
【化3】

【0053】
(式中、R、R、R及びRは、各々独立に、炭素数1〜6のアルキル基又はアルキル基で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基を示し、p、q、r及びsは、各々独立に0又は1であり、tは、1〜5の整数であり、Xは、アリーレン基を示す。)
【0054】
上記一般式(1)で表されるリン酸エステル系化合物は、tが1〜5の縮合リン酸エステルであり、tが異なる縮合リン酸エステルの混合物については、tはそれらの混合物の平均値となる。
【0055】
一般式(1)において、Xは、アリーレン基を示し、例えばレゾルシノール、ハイドロキノン、ビスフェノールA等のジヒドロキシ化合物から誘導される2価の基である。R〜Rがアリール基である場合、該アリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0056】
一般式(1)で表されるリン酸エステル系化合物の具体例としては、一般式(1)におけるXのジヒドロキシ化合物にレゾルシノールを使用した場合は、フェニルレゾルシン・ポリホスフェート、クレジル・レゾルシン・ポリホスフェート、フェニル・クレジル・レゾルシン・ポリホスフェート、キシリル・レゾルシン・ポリホスフェート、フェニル−p−t−ブチルフェニル・レゾルシン・ポリホスフェート、フェニル・イソプロピルフェニル・レゾルシンポリホスフェート、クレジル・キシリル・レゾルシン・ポリホスフェート、フェニル・イソプロピルフェニル・ジイソプロピルフェニル・レゾルシンポリホスフェート等が挙げられる。
【0057】
これらの(B)リン系難燃剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0058】
(B)リン系難燃剤は、電磁波シールド用樹脂組成物中の含有量が5〜20質量%となるように配合することが好ましい。(B)リン系難燃剤の配合量が5質量%未満では、本発明で目的とする難燃性(1.5mm厚試験片の燃焼性がUL規格でV−0以上)が得られなかったり、また、溶融混練時の(C)銅コートアラミド繊維の銅コートの剥離抑制効果が十分に得られなかったり、成形加工性が低下したりすることがある。また、(B)リン系難燃剤の配合量が20質量%を超えると、耐熱性や機械的強度が低下することがある。電磁波シールド用樹脂組成物中のより好ましい(B)リン系難燃剤の含有量は10〜20質量%である。
【0059】
[(C)銅コートアラミド繊維]
本発明において、電磁波シールド性付与のための金属コート繊維として、(C)銅コートアラミド繊維を用いる。
金属コート繊維として(C)銅コートアラミド繊維を用いることにより、
・銅は導電性、耐酸化性、延性に優れるため、容易に薄く均一なコーティング膜を形成することができ、しかも繊維に対して剥離し難く、また導電性及びその耐久性に優れたものとすることができる。
・繊維がアラミド繊維であるため溶融混練工程や射出成形工程にて破砕して短くなることがなく、繊維長さを長いまま維持できる。
といった効果が奏される。
【0060】
(C)銅コートアラミド繊維のアラミド繊維としては、耐熱性、銅コート膜との密着性等に優れることから、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維が好ましい。また、その繊維径は、細過ぎると繊維が切れてしまうため電磁波シールド性が低下したり、太過ぎると成形性を損なうことから、平均繊維径で3〜20μm程度であることが好ましい。
【0061】
また、(C)銅コートアラミド繊維の銅コート量は、少な過ぎると導電性が不足し、十分な電磁波シールド性を得ることができず、多過ぎると銅コート膜が剥離し易くなり、また、重量が増加するため、銅コートアラミド繊維中の銅含有量として5〜50質量%、特に10〜30質量%程度であることが好ましい。
【0062】
本発明の電磁波シールド用樹脂組成物中の(C)銅コートアラミド繊維の含有量は、1〜15質量%、特に2〜10質量%であることが好ましい。組成物中の(C)銅コートアラミド繊維の含有量が少な過ぎると十分な導電性、電磁波シールド性を得ることができず、多過ぎると成形性や得られる成形品の強度、表面性状などが損なわれるおそれがあり、好ましくない。
【0063】
本発明において、(C)銅コートアラミド繊維は、樹脂組成物に対する均一分散性、溶融混練時の銅コート膜の剥離防止の観点から、該繊維を5,000〜35,000本集束した銅コートアラミド繊維束に、粘度平均分子量が7,000〜13,000のポリカーボネート樹脂(以下、このポリカーボネート樹脂を「低分子量ポリカーボネート」と称す。)を含浸させ、繊維長さ2〜15mmとした銅コートアラミド繊維含有樹脂組成物(以下、この銅コートアラミド繊維含有樹脂組成物を「銅コートアラミド繊維マスターバッチ」と称す場合がある。)として、本発明の電磁波シールド用樹脂組成物を構成する(A)熱可塑性樹脂、(B)リン系難燃剤、及びその他必要に応じて用いられる他の成分等に対して配合されることが好ましい。
【0064】
以下、この銅コートアラミド繊維マスターバッチの製造方法について説明する。
【0065】
この銅コートアラミド繊維マスターバッチの製造方法としては、最終的に銅コートアラミド繊維の繊維長さが2〜15mmの銅コートアラミド繊維マスターバッチが得られる方法であれば良く、特に制限はないが、例えば、次のような方法が挙げられる。
【0066】
(1) 低分子量ポリカーボネートを溶剤に溶解もしくは懸濁させて低分子量ポリカーボネート含有液を調製し、この低分子量ポリカーボネート含有液中に(C)銅コートアラミド繊維束を連続的に浸漬して低分子量ポリカーボネート含有液を付着させ、その後溶剤を乾燥除去した後、これを切断して銅コートアラミド繊維マスターバッチを得る。
(2) 低分子量ポリカーボネートを押出成形機により溶融し、押出成形機の溶融した低分子量ポリカーボネートの吐出側に(C)銅コートアラミド繊維束を連続的に導入して溶融した低分子量ポリカーボネートを(C)銅コートアラミド繊維束に浸透させて押し出し、これをペレットに切断する(以下、この方法を「引抜成形法」と称す。)。
【0067】
上記(1)の方法は、溶剤を回収する必要があり、工程が長くなると同時に環境汚染の恐れもある。
【0068】
(2)の引抜成形法は、装置及び工程がともに簡易であり、製造工程中で(C)銅コートアラミド繊維の破砕を起こし難く、ペレットの切断長さを制御することにより(C)銅コートアラミド繊維の長さを容易に調整できるので、本発明における銅コートアラミド繊維マスターバッチの好ましい製法である。すなわち、引抜成形法では、低分子量ポリカーボネートを押出成形機により溶融し、溶融した低分子量ポリカーボネートの吐出側に(C)銅コートアラミド繊維束を連続的に導入し、溶融低分子量ポリカーボネートを(C)銅コートアラミド繊維束に浸透させて押し出し、これを長さ2〜15mmのペレットに切断することにより、銅コートアラミド繊維マスターバッチ中の(C)銅コートアラミド繊維長も2〜15mmに調整することができ、目的の銅コートアラミド繊維マスターバッチを容易に製造することができる。
【0069】
本発明における銅コートアラミド繊維マスターバッチの製造に用いる(C)銅コートアラミド繊維束は、5,000〜35,000本の長繊維を集束したものであり、より好ましくは5000〜20,000本、特に好ましくは5,000〜10,000本の長繊維を集束したものである。(C)銅コートアラミド繊維の集束本数が5,000本未満では、銅コートアラミド繊維マスターバッチ中の(C)銅コートアラミド繊維含有量が少なくなり、これを用いた電磁波シールド用樹脂組成物の導電性が不足することがあり、また、銅コートアラミド繊維マスターバッチのペレット径が細すぎて(A)熱可塑性樹脂や(B)リン系難燃剤等と溶融混練した時に分離し易くなって、電磁波シールド用樹脂組成物中で(C)銅コートアラミド繊維の分散が不均一になることがある。逆に、(C)銅コートアラミド繊維の集束本数が35,000本を超えると、繊維束の中心部まで低分子量ポリカーボネートが浸透しないことがあり、電磁波シールド用樹脂組成物中で(C)銅コートアラミド繊維の分散が不均一になることがある。
【0070】
集束した(C)銅コートアラミド繊維束に含浸させる低分子量ポリカーボネートの分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量として、7,000〜13,000である。低分子量ポリカーボネートの分子量が7,000未満であると、電磁波シールド用樹脂組成物の機械的強度が不足することがあり、13,000を超えると溶融粘度が高くなり、低分子量ポリカーボネートが(C)銅コートアラミド繊維束に均一に含浸せず、(C)銅コートアラミド繊維の分散不良の原因となることがある。
【0071】
なお、この低分子量ポリカーボネートとしては、分子量が上記範囲のものであれば特に制限はなく、前述の(a2)芳香族ポリカーボネート樹脂と同様のものを用いることができる。低分子量ポリカーボネートが芳香族ポリカーボネート樹脂である場合、電磁波シールド用樹脂組成物中の(A)熱可塑性樹脂としての(a2)芳香族ポリカーボネート樹脂と同種のものであっても良く、異なるものであっても良い。
【0072】
この低分子量ポリカーボネートについても、その製造に際しては、所望の分子量とするために、(a2)芳香族ポリカーボネート樹脂と同様、末端停止剤或いは分子量調節剤を用いる方法や重合反応条件の選択等公知の方法が採用される。
【0073】
また、この低分子量ポリカーボネートには、その粘度を調整するために、芳香族ポリカーボネートオリゴマーを配合しても良い。芳香族ポリカーボネートオリゴマーとしては、ビスフェノールA(BPA)とをホスゲンまたは炭酸ジエステルとを適当な末端停止剤や分子量調節剤を用いて反応させることによって得られるものである。また、ビスフェノールAの一部を他の二価のフェノールで置き換えた共重合型のものであってもよく、他の二価フェノール、末端停止剤、分子量調節剤としては、前記(a2)芳香族ポリカーボネート樹脂で説明した芳香族ジヒドロキシ化合物が用いられる。
【0074】
かかる芳香族ポリカーボネートオリゴマーは、重合度1では成形時に成形品からブリードアウトしやすく、他方重合度が大きくなると満足する流動性、表面平滑性が得られ難くなるため、好ましくは重合度2〜15である。
【0075】
芳香族ポリカーボネートオリゴマーは、1種を単独で用いても良く、原料化合物や重合度の異なるものを2種以上混合して用いても良い。
【0076】
芳香族ポリカーボネートオリゴマーの使用量は、目的とする粘度の低分子量ポリカーボネートが得られる範囲において、特に制限はないが、過度に多いと機械的特性を低下させるため、芳香族ポリカーボネートオリゴマーも含む低分子量ポリカーボネート全体に対して70質量%以下である。
【0077】
銅コートアラミド繊維マスターバッチにおける(C)銅コートアラミド繊維束への低分子量ポリカーボネートの含浸量としては、銅コートアラミド繊維マスターバッチ中の低分子量ポリカーボネート含有量として、20〜60質量%、特に30〜50質量%であることが好ましい。低分子量ポリカーボネートの含浸量が少な過ぎると、良好な銅コートアラミド繊維マスターバッチを形成し得ず、(C)銅コートアラミド繊維の分散不良を招きやすく、多過ぎると、銅コートアラミド繊維マスターバッチとして樹脂組成物中に持ち込まれる低分子量ポリカーボネート量が増え、得られる成形品の構成的強度が低下する。
【0078】
[(D)ポリフルオロエチレン]
本発明の電磁波シールド用樹脂組成物には、難燃性を向上させるために、滴下防止剤として(D)ポリフルオロエチレンを配合することが好ましい。(D)ポリフルオロエチレンとしては、フィブリル形成能を有するもので、熱可塑性樹脂中に容易に分散し、且つ熱可塑性樹脂同士を結合して繊維状材料を作る傾向を示すものが好ましい。
【0079】
また、(D)ポリフルオロエチレンを含有した樹脂組成物を溶融成形した成形品の外観を向上させるためには、有機系重合体で被覆された被覆ポリフルオロエチレンを用いることが好ましい。この被覆ポリフルオロエチレンとしては、被覆ポリフルオロエチレン中のポリフルオロエチレンの含有比率が40〜95質量%、中でも43〜80質量%、更には45〜70質量%、特には47〜60質量%であるものが好ましい。
このような被覆ポリフルオロエチレンを配合することにより、良好な難燃性を維持しつつ、成形品表面の白色異物の発生を抑制することができる。被覆ポリフルオロエチレン中のポリフルオロエチレンの含有比率が40質量%未満であると、難燃性が低下する場合があり、一方、95質量%を超えると、白点異物が多くなる場合がある。
【0080】
また、有機系重合体により被覆されるポリフルオロエチレンとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好ましく、中でも、重合体中に容易に分散し、重合体同士を結合して繊維状材料を作る傾向を示すため、フィブリル形成能を有するものが好ましい。
【0081】
このような被覆ポリフルオロエチレンは、公知の種々の方法により製造することができ、例えば(1)ポリフルオロエチレン粒子水性分散液と有機系重合体粒子水性分散液とを混合して、凝固又はスプレードライにより粉体化して製造する方法、(2)ポリフルオロエチレン粒子水性分散液存在下で、有機系重合体を構成する単量体を重合した後、凝固又はスプレードライにより粉体化して製造する方法、(3)ポリフルオロエチレン粒子水性分散液と有機系重合体粒子水性分散液とを混合した分散液中で、エチレン性不飽和結合を有する単量体を乳化重合した後、凝固又はスプレードライにより粉体化して製造する方法、等が挙げられる。
【0082】
ポリフルオロエチレンを被覆する有機系重合体としては、特に制限されるものではないが、樹脂に配合する際の分散性の観点から、熱可塑性樹脂との親和性が高いものが好ましい。
【0083】
この有機系重合体を生成するための単量体の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、o−エチルスチレン、p−クロロスチレン、o−クロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、p−メトキシスチレン、o−メトキシスチレン、2,4−ジメチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体;アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、メタクリル酸ドデシル、アクリル酸トリデシル、メタクリル酸トリデシル、アクリル酸オクタデシル、メタクリル酸オクタデシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体;無水マレイン酸等のα,β−不飽和カルボン酸;N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体;グリシジルメタクリレート等のグリシジル基含有単量体;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルエーテル系単量体;酢酸ビニル、酪酸ビニル等のカルボン酸ビニル系単量体;エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン系単量体;ブタジエン、イソプレン、ジメチルブタジエン等のジエン系単量体等を挙げることができる。これらの単量体は、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0084】
これらの単量体の中でも、(a1)ポリエステル系樹脂や(a2)芳香族ポリカーボネート樹脂との親和性の観点から、芳香族ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、シアン化ビニル系単量体から選ばれる1種以上の単量体が好ましく、特に(メタ)アクリル酸エステル系単量体が好ましく、これらの単量体を10質量%以上含有する単量体が好ましい。
【0085】
本発明で好ましく使用される被覆ポリフルオロエチレンとしては、例えば三菱レイヨン(株)製のメタブレンA−3800、KA−5503や、PIC社製のPoly TS AD001等がある。
【0086】
本発明の電磁波シールド用樹脂組成物中の(D)ポリフルオロエチレンの含有量は、0.01〜1質量%、更には0.05〜0.9質量%、特には0.1〜0.7質量%であることが好ましい。(D)ポリフルオロエチレンの含有量が0.01質量%未満の場合には、難燃性の改良効果が不十分な場合があり、1質量%を超えると成形品の外観が低下する場合がある。
【0087】
また、電磁波シールド用樹脂組成物中の(B)リン系難燃剤と(D)ポリフルオロエチレンの配合比率、(B)リン系難燃剤/(D)ポリフルオロエチレンの重量比は、バランスの良い性能を有する樹脂組成物を得るという点から、通常0.1〜1000であり、更には1〜100、特には2〜60である。
【0088】
[(E)離型剤]
本発明の樹脂組成物には、成形時の金型離型性を良好なものとするために離型剤を配合することができる。
【0089】
離型剤としては例えば、脂肪族カルボン酸やそのアルコールエステル、数平均分子量200〜15000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイル等が挙げられる。
【0090】
脂肪族カルボン酸としては、飽和または不飽和の、鎖式又は環式の、脂肪族1〜3価のカルボン酸が挙げられる。これらの中でも炭素数6〜36の、1価又は2価カルボン酸が好ましく、特に炭素数6〜36の脂肪族飽和1価カルボン酸が好ましい。この様な脂肪族カルボン酸としては、具体的には例えばパルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸等が挙げられる。
【0091】
脂肪族カルボン酸エステルにおける脂肪族カルボン酸成分は、上述の脂肪族カルボン酸と同義である。一方、脂肪族カルボン酸エステルのアルコール成分としては、飽和または不飽和の、鎖式又は環式の、1価または多価アルコールが挙げられる。これらはフッ素原子、アリール基等の換基を有していてもよく、中でも炭素数30以下の、1価または多価飽和アルコールが好ましく、特に炭素数30以下、飽和脂肪族の、1価または多価アルコールが好ましい。
【0092】
この様なアルコール成分としては、具体的には例えばオクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。尚、この脂肪族カルボン酸エステルは、不純物として脂肪族カルボン酸及び/またはアルコールを含有していてもよく、更には複数の脂肪族カルボン酸エステルの混合物でもよい。
【0093】
脂肪族カルボン酸エステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0094】
数平均分子量200〜15000の脂肪族炭化水素としては、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャ−トロプシュワックス、炭素数3〜12のα−オレフィンオリゴマー等が挙げられる。ここで脂肪族炭化水素とは、脂環式炭化水素も含まれる。またこれらの炭化水素化合物は、部分酸化されていてもよい。
【0095】
これら脂肪族炭化水素の中でも、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス又はポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、特にパラフィンワックスやポリエチレンワックスが好ましい。数平均分子量は中でも200〜5000であることが好ましい。これらの脂肪族炭化水素は単独で、又は2種以上を任意の割合で併用しても、主成分が上記の範囲内であればよい。
【0096】
ポリシロキサン系シリコーンオイルとしては、例えばジメチルシリコーンオイル、フェニルメチルシリコーンオイル、ジフェニルシリコーンオイル、フッ素化アルキルシリコーン等が挙げられ、これらは一種または任意の割合で二種以上を併用してもよい。
【0097】
本発明の樹脂組成物の離型剤の含有量は適宜選択して決定すればよいが、少なすぎると離型効果が十分に発揮されず、逆に多すぎても樹脂の耐加水分解性の低下や、成形時の金型汚染等が問題になる場合がある。よって離型剤の配合量は、(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して0.001〜2質量部であり、中でも0.01〜1質量部であることが好ましい。
【0098】
[その他の成分]
本発明の電磁波シールド用樹脂組成物には、必要に応じて本発明の目的を損なわない範囲で、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、染顔料、帯電防止剤、防曇剤、滑剤・アンチブロッキング剤、流動性改良剤、相溶化剤、可塑剤、分散剤、防菌剤等の樹脂用添加剤、耐衝撃性改良剤、無機フィラーなどを配合することができる。
【0099】
<熱安定剤・酸化防止剤>
本発明の樹脂組成物は、溶融加工時や、高温下での長期間使用時等に生ずる黄変抑制、更に機械的強度低下抑制等の目的で、熱安定剤や酸化防止剤を含有することが好ましい。
【0100】
熱安定剤や酸化防止剤は、従来公知の任意のものを使用でき、熱安定剤としてはリン系化合物が、酸化防止剤としてはフェノール化合物が好ましく、これらは併用してもよい。
【0101】
熱安定剤および酸化防止剤の含有量は、適宜選択して決定すればよいが、通常、その合計量として本発明の樹脂組成物100質量部に対して0.0001〜0.5質量部であり、0.0003〜0.3質量部が好ましく、0.001〜0.1質量部が特に好ましい。熱安定剤や酸化防止剤の含有量が少なすぎると効果が不十分である。
【0102】
<耐衝撃改良剤>
本発明に用いる耐衝撃改良剤は、なかでもゴム成分にこれと共重合可能な単量体成分とをグラフト共重合したグラフト共重合体が好ましい。グラフト共重合体の製造方法としては、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などのいずれの製造方法であってもよく、共重合の方式は一段グラフトでも多段グラフトであってもよい。
【0103】
ゴム成分は、ガラス転移温度が通常0℃以下、中でも−20℃以下のものが好ましく、更には−30℃以下のものが好ましい。ゴム成分の具体例としては、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブチルアクリレートやポリ(2−エチルヘキシルアクリレート)、ブチルアクリレート・2−エチルヘキシルアクリレート共重合体などのポリアルキルアクリレートゴム、ポリオルガノシロキサンゴムなどのシリコーン系ゴム、ブタジエン−アクリル複合ゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN型複合ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、エチレン−プロピレンゴムやエチレン−ブテンゴム、エチレン−オクテンゴムなどのエチレン−αオレフィン系ゴム、エチレン−アクリルゴム、フッ素ゴムなど挙げることができる。これらは、単独でも2種以上を混合して使用してもよい。これらの中でも、機械的特性や表面外観の面から、ポリブタジエンゴム、ポリアルキルアクリレートゴム、ポリオルガノシロキサンゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN(Interpenetrating Polymer Network)型複合ゴム、スチレン−ブタジエンゴムが好ましい。
【0104】
ゴム成分とグラフト共重合可能な単量体成分の具体例としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸化合物、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物;マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のマレイミド化合物;マレイン酸、フタル酸、イタコン酸等のα,β−不飽和カルボン酸化合物やそれらの無水物(例えば無水マレイン酸等)などが挙げられる。これらの単量体成分は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、機械的特性や表面外観の面から、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸化合物が好ましく、より好ましくは(メタ)アクリル酸エステル化合物である。(メタ)アクリル酸エステル化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル等を挙げることができる。
【0105】
ゴム成分を共重合したグラフト共重合体は、耐衝撃性や表面外観の点からコア/シェル型グラフト共重合体タイプのものが好ましい。なかでもポリブタジエン含有ゴム、ポリブチルアクリレート含有ゴム、ポリオルガノシロキサンゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN型複合ゴムから選ばれる少なくとも1種のゴム成分をコア層とし、その周囲に(メタ)アクリル酸エステルを共重合して形成されたシェル層からなる、コア/シェル型グラフト共重合体が特に好ましい。上記コア/シェル型グラフト共重合体において、ゴム成分を40質量%以上含有するものが好ましく、60質量%以上含有するものがさらに好ましい。また、(メタ)アクリル酸は、10質量%以上含有するものが好ましい。
【0106】
これらコア/シェル型グラフト共重合体の好ましい具体例としては、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体(MBS)、メチルメタクリレート−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(MABS)、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体(MB)、メチルメタクリレート−アクリルゴム共重合体(MA)、メチルメタクリレート−アクリルゴム−スチレン共重合体(MAS)、メチルメタクリレート−アクリル・ブタジエンゴム共重合体、メチルメタクリレート−アクリル・ブタジエンゴム−スチレン共重合体、メチルメタクリレート−(アクリル・シリコーンIPNゴム)共重合体等が挙げられる。このようなゴム性重合体は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0107】
耐衝撃改良剤の配合量は、(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.1〜10質量部であることが好ましい。0.1質量部より少ないと、耐衝撃改良剤による耐衝撃性向上効果が不十分となり、10質量部を超えると、本発明の樹脂組成物を成形した成形品の外観不良や耐熱性の低下が生じる。含有量の下限は、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、また、含有量の上限は、好ましくは7.5質量部以下、より好ましくは5質量部以下、特に好ましくは4質量部以下である。
【0108】
[粘度]
本発明の樹脂組成物は、(B)リン系難燃剤を配合することにより、難燃性を付与すると共に、樹脂組成物の粘度を下げ、(C)銅コートアラミド繊維を溶融混練するときの銅コート膜の剥離を防止するものである。
【0109】
この剥離防止効果を得る上で、本発明の樹脂組成物は、これを構成する(A)熱可塑性樹脂と(B)リン系難燃剤のみを、樹脂組成物の配合と同配合で混練して得られる樹脂組成物について、以下の方法で測定した粘度が120〜400Pa・s、特に150〜300Pa・sであることが好ましい。また、((A)+(B))/(A)の粘度比が0.3〜0.7であることが好ましい。
【0110】
これらの粘度及び粘度比が上記範囲よりも大きいと、(C)銅コートアラミド繊維の銅コート膜の剥離防止効果を十分に得ることができず、上記範囲よりも小さいと耐衝撃性が低下する。
【0111】
<粘度測定方法>
東洋精機製作所レオメータ「キャピログラフ1C」に、キャピラリー径1mm、キャピラリー長さ10mmのキャピラリーを取り付け、炉体温度280℃、せん断速度1216(1/s)の粘度を測定した。
【0112】
[製造方法]
本発明の電磁波シールド用樹脂組成物の製造方法は、特に制限されるものではなく、例えば、
(1)(A)熱可塑性樹脂、(B)リン系難燃剤、(C)銅コートアラミド繊維(好ましくは銅コートアラミド繊維マスターバッチ)、及び必要により配合される(D)ポリフルオロエチレン、その他の成分を一括して溶融混練する方法
(2)(B)リン系難燃剤が液状である場合には、予め(B)リン系難燃剤以外の成分を溶融混練した後に、別途50〜120℃で加温しておいた液状の(B)リン系難燃剤を添加して、溶融混練する方法
などが挙げられる。
【0113】
[成形方法]
本発明の電磁波シールド用樹脂組成物は、各種製品(成形品)の製造(成形)用樹脂材料として使用される。その成形方法は、熱可塑性樹脂材料から成形品を成形する従来から知られている方法が適用できる。具体的には、一般的な射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシストなどの中空成形法、断熱金型を用いた成形法、急速加熱金型を用いた成形法、発泡成形(超臨界流体も含む法)、インサート成形法、インモールドコーティング(IMC)成形法、押出成形法、フィルム成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法などが挙げられるが、特に、成形中に(C)銅コートアラミド繊維を成形品の表層に沿って配向させることにより、高い電磁波シールド性を得ることができる点で、射出成形法が好ましい。
【0114】
[電磁波シールド用樹脂成形品]
本発明の電磁波シールド用樹脂成形品は、本発明の電磁波シールド用樹脂組成物を射出成形してなるものであり、(B)リン系難燃剤の配合により、好ましくは該成形品よりなる厚さ1.5mm厚の試験片の燃焼性がUL94規格でV−0以上の優れた難燃性を有する。
また、(C)銅コートアラミド繊維の配合により、後述の電磁波シールド性の評価方法で測定した電磁波シールド性のレベルとして、−30dB以下の優れた電磁波シールド性を有する。
【0115】
このような本発明の電磁波シールド用樹脂成形品は、薄型テレビ筐体、ノートパソコン筐体、携帯電話筐体といった情報電子機器の筐体として、これらの用途に必要な燃焼性を有しつつ、かつ十分な電磁波シールド性を有しているため、好適である。
【0116】
本発明の電磁波シールド用樹脂成形品は、その優れた導電性、機械的強度、耐熱性、難燃性、成形加工性及び電磁波シールド性により、電気・電子・OA機器部品、機械部品、車輌用部品、携帯電話などの筐体、とりわけ電子機器の筐体として好適である。
【実施例】
【0117】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0118】
実施例及び比較例における各樹脂組成物の製造に用いた原材料は以下の通りである。
【0119】
<(A)熱可塑性樹脂>
芳香族ポリカーボネート樹脂:ポリ−4,4−イソプロピリデンジフェニルカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名:ユーピロン(登録商標)S−3000N、粘度平均分子量:21,000)
【0120】
<(B)リン系難燃剤>
縮合リン酸エステル:レゾルシノール(ジキシレニルホスフェート)(大八化学社製、商品名:PX200)
【0121】
<(C)銅コートアラミド繊維>
連続した銅コートアラミド繊維束(平均繊維径15μmの銅コートメタ系アラミド繊維、銅被覆厚さ0.8μm、約6000本の繊維束)に対し、ポリカーボネート樹脂(ポリ−4,4−イソプロピリデンジフェニルカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製「ユーピロン(登録商標)H−4000N」、粘度平均分子量15500)が50質量部、芳香族ポリカーボネートオリゴマー:ビスフェノールAとホスゲンから常法により得られた平均重合度7の粉粒状芳香族ポリカーボネートオリゴマー(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、「ユーピロン(登録商標)AL071」)が50質量部からなる低分子量ポリカーボネート(粘度平均分子量6000)を、引抜成形法にて銅コートアラミド繊維60質量%、低分子量ポリカーボネート40質量%となるように含浸させた後、長さ6mmに切断して得た銅コートアラミド繊維マスターバッチ
【0122】
<(D)ポリフルオロエチレン>
ポリテトラフルオロエチレン(三井デュポンフロロケミカル社製、商品名:PTFE 6−J)
【0123】
<(E)離型剤>
ペンタエリスリトールテトラステアレート(コグニス・オレオケミカルズ・ジャパン社製、商品名:ロキシオールVPG861)
【0124】
比較例においては、リン系難燃剤以外の難燃剤として金属塩系難燃剤:ランクセス社製パーフルオロブタンスルホン酸カリウム「Bayowet C4」と、銅コートアラミド繊維以外の導電性繊維である黄銅繊維:虹技社製「KCメタルファイバー C2600」(平均繊維径30μm、長さ1mm)を用いた。
【0125】
[樹脂組成物の調製]
表1に示す配合成分を表1に示す組成でブレンドし、タンブラーにて均一に分散させた後、単軸押出機(田辺プラスチックス機械製単軸押出機:VS48−28型押出機)にてシリンダ温度300℃にて溶融させ、スクリュウ回転数80rpmにて混練し、ペレタイザーにて3mmの長さに切断して樹脂組成物のペレットを得た。
【0126】
[評価方法]
(1) 密度
上記で得られたペレットを120℃で5時間乾燥した後、住友重機械社製のSG−75MIII型射出成形機を用いて、シリンダー温度290℃、金型温度80℃の条件で、ISOに準拠したISO試験片を成形し、このISO試験片について、ISO1183に準拠して密度を測定した。
【0127】
(2) 粘度
樹脂組成物の製造に用いた芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度、この芳香族ポリカーボネート樹脂に対して表1に示す割合で難燃剤のみを配合した場合の粘度をそれぞれ以下の方法で測定した。
<粘度測定方法>
東洋精機製作所レオメータ「キャピログラフ1C」に、キャピラリー径1mm、キャピラリー長さ10mmのキャピラリーを取り付け、炉体温度280℃、せん断速度1216(1/s)の粘度を測定した。
【0128】
(3)シャルピー衝撃強度
密度の測定におけると同様にして成形したISO試験片を用いて、ISO179に従ってノッチ付きシャルピー衝撃強度を測定した。
【0129】
(4) 難燃性
得られた樹脂組成物のペレットを、日本製鋼製射出成形機J50を用いて樹脂温度(パージ樹脂の実測温度):290℃、金型温度:90℃、射出圧力:147MPaの条件で厚さが1.5mmの試験片を射出成形した。
この試験片の各5本について、アンダーライターズラボラトリーズインコーポレーションのUL−94「材料分類のための燃焼試験」(以下、UL−94)に示される試験方法に従って試験し、その結果に基づいてUL−94規格のV−0、V−1およびV−2のいずれかの等級に評価した。
UL−94についての各Vの等級基準は、概略以下のとおりである。
V−0:10秒接炎後の燃焼時間が10秒以下であり、5本のトータル燃焼時間が5
0秒以下かつ、全試験片とも脱脂綿に着火するような微粒炎を落下しない。
V−1:10秒接炎後の燃焼時間が30秒以下であり、5本のトータル燃焼時間が2
50秒以下、かつ、全試験片とも脱脂綿に着火するような微粒炎を落下しな
い。
V−2:10秒接炎後の燃焼時間が30秒以下であり、5本のトータル燃焼時間が2
50秒以下、かつ、これらの試験片から落下した微粒炎から脱脂綿に着火す
る。
NG:上記いずれの燃焼時間にも該当せず、燃焼し続けた場合。
【0130】
(5) 電磁波シールド性
得られた樹脂組成物のペレットを用いて、住友重機械工業製射出成形機SH100を用いて、シリンダ温度:300℃、金型温度:60℃、最大射出圧力:140MPa、成形サイクル:45秒の条件にて射出成形により100×100×2mm(厚さ)の平板型試験片を得た。
得られた試験片についてアドバンテスト社製電磁波シールド性測定装置にて100MHzにおける電磁波シールド性を測定した。
電磁波シールド性(dB)=20×log(サンプルをいれずに測定した電界強度/ サンプルを入れて測定した電界強度)
【0131】
[結果]
上記評価結果を表1に示す。
【0132】
【表1】

【0133】
表1より、本発明の電磁波シールド用樹脂組成物は、難燃性、電磁波シールド性に優れ、また軽量かつ比較的高強度であることが分かる。
これに対して、リン系難燃剤を配合していない比較例1では、シャルピー衝撃強度は高いが、難燃性も電磁波シールド性も劣るものとなる。また、難燃剤を配合していても、リン系難燃剤を用いていない比較例2では、難燃性は得られるが、電磁波シールド性は劣る。これは、リン系難燃剤による粘度低減効果が得られないために、溶融混練時に銅コートアラミド繊維の銅コート膜の剥離が起きたことによると考えられる。
また、銅コートアラミド繊維ではなく、銅繊維を用いた比較例3,4のうち、その配合量の少ない比較例3では、十分な電磁波シールド性が得られず、シャルピー衝撃強度も低く、銅繊維を大量に配合した比較例4では電磁波シールド性の向上はみられるが、十分ではなく、密度が大きくなり、重量増加の問題がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性樹脂、(B)リン系難燃剤、及び(C)銅コートアラミド繊維を含むことを特徴とする電磁波シールド用樹脂組成物。
【請求項2】
(A)熱可塑性樹脂が、(a1)ポリエステル系樹脂を含むことを特徴とする請求項1に記載の電磁波シールド用樹脂組成物。
【請求項3】
(A)熱可塑性樹脂が、(a2)芳香族ポリカーボネート樹脂を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電磁波シールド用樹脂組成物。
【請求項4】
(B)リン系難燃剤の含有量が5質量%以上20質量%以下で(C)銅コートアラミド繊維の含有量が1質量%以上15質量%以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の電磁波シールド用樹脂組成物。
【請求項5】
(B)リン系難燃剤の含有量が10質量%以上20質量%以下で、(C)銅コートアラミド繊維の含有量が2質量%以上10質量%以下であることを特徴とする請求項4に記載の電磁波シールド用樹脂組成物。
【請求項6】
(B)リン系難燃剤が下記一般式(1)で表されるリン酸エステル系化合物である請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載の電磁波シールド用樹脂組成物。
【化1】

(式中、R、R、R及びRは、各々独立に、炭素数1〜6のアルキル基又はアルキル基で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基を示し、p、q、r及びsは、各々独立に0又は1であり、tは、1〜5の整数であり、Xは、アリーレン基を示す。)
【請求項7】
(D)ポリフルオロエチレンを含み、その含有量が0.01質量%以上1質量%以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項6の何れか1項に記載の電磁波シールド用樹脂組成物。
【請求項8】
(C)銅コートアラミド繊維は、該繊維を5,000〜35,000本集束してなる繊維束に、粘度平均分子量が7,000〜13,000のポリカーボネート樹脂を含浸させてなる、繊維長さ2〜15mmの銅コートアラミド繊維含有樹脂組成物として配合されたものであることを特徴とする請求項1ないし請求項7の何れか1項に記載の電磁波シールド用樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8の何れか1項に記載の電磁波シールド用樹脂組成物を射出成形してなる電磁波シールド用樹脂成形品。
【請求項10】
該成形品よりなる厚さ1.5mm厚の試験片の燃焼性がUL94規格でV−0以上の難燃性を有することを特徴とする請求項9に記載の電磁波シールド用樹脂成形品。
【請求項11】
電子機器の筐体である請求項9又は請求項10に記載の電磁波シールド用樹脂成形品。

【公開番号】特開2012−236945(P2012−236945A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107916(P2011−107916)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】