説明

電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレット、電磁波シールド用樹脂組成物及びその成形体

【課題】繊維含浸樹脂としてポリカーボネート樹脂を用い、ポリカーボネート樹脂を導電性繊維の長繊維束に容易かつ十分に含浸させて歩留まりよく製造することができる電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレットと、このペレットを用いた電磁波シールド用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】金属繊維、炭素繊維及び金属コート非金属繊維から選ばれる少なくとも1種の導電性繊維(B)の長繊維束と、粘度平均分子量7,000〜13,000のポリカーボネート樹脂(A)とを含み、前記長繊維束の繊維径が1〜50μmであり、前記長繊維束に、前記ポリカーボネート樹脂(A)を含浸させてなることを特徴とする電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレット。熱可塑性樹脂(C)と、この電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレットとを含む電磁波シールド用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂を導電性繊維の長繊維束に含浸させてなる電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレットと、この電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレットを含む電磁波シールド用樹脂組成物、並びにこの電磁波シールド用樹脂組成物を成形してなる電磁波シールド用樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁波シールド性能を付与したプラスチック成形品を製造する場合、熱可塑性樹脂と導電性繊維を含有したペレット状の繊維/樹脂複合組成物が用いられる。この繊維/樹脂複合組成物において、導電性繊維は、長繊維を一方向に揃えた状態で熱可塑性樹脂が含浸され、電磁波シールド性能を有する射出成形品の材料として評価されている。導電性繊維としては、ステンレス繊維、炭素繊維、金属コートガラス繊維、金属コート炭素繊維、金属コート有機繊維、はんだを銅繊維にコートしたもの等が用いられているが、これらの中で最も一般的なものはステンレス繊維と炭素繊維、金属コート炭素繊維、金属コート有機繊維である。
これらの導電性繊維を用いた電磁波シールド用樹脂組成物からなる成形品は優れた性能を有している。
【0003】
例えば、ステンレス繊維を用いた成形品においては、熱可塑性樹脂を含浸したステンレス繊維/樹脂複合ペレットを用い、8〜15重量%程度の繊維含有量となるよう更に熱可塑性樹脂と混合した後に、射出成形すれば、電磁波シールド性能を発現させることができる。また、ステンレスの比重は8程度と大きく、このような繊維含有量の成形品におけるステンレスの体積分率は1〜2%強程度であるため、機械特性を大きく損なうことが無い。
【0004】
また、炭素繊維の場合は、15〜40重量%程度の含有量で成形品に電磁波シールド性能を付与することができるため、機械的特性においては剛性は大きくなり、また、成形後の収縮率は低いので寸法精度は高くなる。
【0005】
金属コート炭素繊維においては、上記炭素繊維よりも少ない10〜30重量%程度の含有量で、成形品に電磁波シールド性能を付与することができ、炭素繊維の場合と同様に機械的特性においては剛性が大きくなり、また、成形後の収縮率は低いので寸法精度は高くなる。
【0006】
金属コート有機繊維においては、繊維自体の変形が容易であるため、成形工程での繊維の折れが発生しにくく、繊維長を長いまま保持することが可能である。このため、3〜20重量%程度の含有量で成形品に電磁波シールド性能を付与することができる。また、その比重も炭素繊維に比べて小さいため、成形品の重量を減少させることが可能である。
【0007】
これらの導電性繊維に含浸させる樹脂としては、特許文献1には、スチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂(PA樹脂)、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂,ポリフェニレンスルフィド系樹脂を例示しており、ポリカーボネート系樹脂については、数平均分子量約17,000〜32,000が望ましいとされているが、実施例ではABS樹脂、PA/ABS樹脂のみが用いられている。また、特許文献2の実施例では、熱可塑性ポリエステル樹脂が、特許文献3の実施例では、重合脂肪酸ポリアミド樹脂が用いられている。
このように、繊維に含浸させる樹脂については、従来、種々の樹脂の記載が見られるが、実際には、繊維に含浸させる樹脂としてはABS樹脂、PA系樹脂、ポリエステル系樹脂が用いられてきた。
【0008】
しかし、熱可塑性樹脂としてポリカーボネート樹脂を用いて、電磁波シールド性能を付与した成形品を製造しようとする場合、PA樹脂やこれとABS樹脂とのアロイ(PA/ABS樹脂)等のポリアミド系樹脂を導電性繊維の含浸樹脂として用いると、該ポリアミド系樹脂がポリカーボネート樹脂を分解してしまうという問題を有していた。更に、繊維含浸樹脂としてポリエステル系樹脂を用いれば、該ポリエステル系樹脂とポリカーボネート樹脂が押出工程及び成形工程の2工程で長時間加熱されるため、エステル交換反応を起こして、耐熱性を低下させるという問題を有していた。
また、ABS樹脂を繊維含浸樹脂として用いると、ABS樹脂の強度不足から引き抜き法で繊維/樹脂複合組成物のペレットを成形する際、樹脂の破断が生じ、繊維/樹脂複合組成物ペレットの製造が困難であったり、難燃性や耐熱性が求められる場合には、ABS樹脂がポリカーネート樹脂の難燃性を劣化させたり、耐熱性を低下させたりするといった問題もあった。
【0009】
繊維含浸樹脂として、これらポリカーボネート樹脂を劣化させる樹脂を用いず、例えば、ポリカーボネート樹脂を用いることも考えられるが、特許文献1の示唆する分子量17,000〜32,000程度のポリカーボネート樹脂では、繊維に含浸させようとしても粘度が高過ぎるため、繊維中にポリカーボネート樹脂を十分に含浸させることが非常に困難であり、繊維束が含浸樹脂から抜け落ちるという不良率が高くなってしまうため、電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物の製造が困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004―014990公報
【特許文献2】特許第2738164号明細書
【特許文献3】特開2003−160673公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来の問題点を解決し、繊維含浸樹脂としてポリカーボネート樹脂を用い、ポリカーボネート樹脂を導電性繊維の長繊維束に容易かつ十分に含浸させて、歩留まりよく製造することができる電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレットを提供することを目的とする。
本発明はまた、この電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレットを用いた電磁波シールド用樹脂組成物及びその成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレットについて鋭意研究を進めた結果、導電性繊維に含浸させるポリカーボネート樹脂として、粘度平均分子量が7,000〜13,000のポリカーボネート樹脂を用いることにより、このポリカーボネート樹脂を、導電性繊維の長繊維束に容易かつ十分に含浸させることができ、電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレットを歩留まりよく生産することができること、また、このペレットと熱可塑性樹脂とを加熱溶融混練して得た樹脂組成物を成形した成形体においても、加熱溶融せずに単に混合して成形した成形体であっても、機械的強度や耐熱性等の低下が少なく、表面外観のよい成形体を得ることができることを見出した。
【0013】
本発明は、このような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0014】
[1] 金属繊維、炭素繊維及び金属コート非金属繊維から選ばれる少なくとも1種の導電性繊維(B)の長繊維束と、粘度平均分子量7,000〜13,000のポリカーボネート樹脂(A)とを含み、前記長繊維束の繊維径が1〜50μmであり、前記長繊維束に、前記ポリカーボネート樹脂(A)を含浸させてなることを特徴とする電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレット。
【0015】
[2] 前記ポリカーボネート樹脂(A)が、粘度平均分子量14,000〜18,000のポリカーボネート樹脂100質量部に対して、粘度平均分子量1000〜10000のポリカーボネートオリゴマー50〜300質量部を配合してなることを特徴とする[1]に記載の電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレット。
【0016】
[3] 前記導電性繊維(B)の長繊維束が、長繊維を5,000〜35,000本収束してなることを特徴とする[1]又は[2]に記載の電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレット。
【0017】
[4] ペレットの長さが2〜15mmであることを特徴とする[1]ないし[3]のいずれかに記載の電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレット。
【0018】
[5] ペレットの長さが4〜10mmであることを特徴とする[4]に記載の電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレット。
【0019】
[6] 前記導電性繊維(B)が、ステンレス繊維、アルミニウム繊維、銅繊維及び黄銅繊維から選ばれる少なくとも1種の金属繊維であることを特徴とする[1]ないし[5]のいずれかに記載の電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレット。
【0020】
[7] 前記金属コート非金属繊維が、ガラス繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維及び炭素繊維から選ばれる少なくとも1種の非金属繊維の表面を、金、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、コバルト、鉄、亜鉛、錫及びこれらの金属の1種以上を含む合金から選ばれる少なくとも1種の金属で被覆してなることを特徴とする[1]ないし[6]のいずれかに記載の電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレット。
【0021】
[8] 連続した導電性繊維(B)の繊維束を、前記ポリカーボネート樹脂(A)の含浸処理ゾーンに通過させ、さらに切断してなるペレットであることを特徴とする[1]ないし[7]のいずれかに記載の電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレット。
【0022】
[9] 前記導電性繊維(B)の含有量が20〜80質量%であることを特徴とする[1]ないし[8]のいずれかに記載の電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレット。
【0023】
[10] 熱可塑性樹脂(C)と、[1]ないし[9]のいずれかに記載の電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレットとを含むことを特徴とする電磁波シールド用樹脂組成物。
【0024】
[11] 熱可塑性樹脂(C)100質量部に対する[1]ないし[9]のいずれかに記載の電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレットの含有量が3〜300質量部であることを特徴とする[10]に記載の電磁波シールド用樹脂組成物。
【0025】
[12] 熱可塑性樹脂(C)のペレットと、[1]ないし[9]のいずれかに記載の電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレットとを混合してなるペレット混合物であることを特徴とする[10]又は[11]に記載の電磁波シールド用樹脂組成物。
【0026】
[13] 熱可塑性樹脂(C)と[1]ないし[9]のいずれかに記載の電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレットとを溶融混練してなる溶融混練物であることを特徴とする[10]又は[11]に記載の電磁波シールド用樹脂組成物。
【0027】
[14] 熱可塑性樹脂(C)と、[1]ないし[9]のいずれかに記載の電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレットとを混合してペレット化してなるペレットであることを特徴とする[10]又は[11]に記載の電磁波シールド用樹脂組成物。
【0028】
[15] 前記ペレットの長さが2.5〜15mmであることを特徴とする[14]に記載の電磁波シールド用樹脂組成物。
【0029】
[16] 前記ペレットの長さが5.1〜13mmであることを特徴とする[15]に記載の電磁波シールド用樹脂組成物。
【0030】
[17] 前記熱可塑性樹脂(C)が、芳香族ポリカーボネート樹脂を含むことを特徴とする[10]ないし[16]のいずれかに記載の電磁波シールド用樹脂組成物。
【0031】
[18] 前記熱可塑性樹脂(C)が、粘度平均分子量14,000〜30,000の芳香族ポリカーボネート樹脂又は該芳香族ポリカーボネート樹脂とABS樹脂とのアロイであることを特徴とする[17]に記載の電磁波シールド用樹脂組成物。
【0032】
[19] [10]ないし[18]のいずれかに記載の電磁波シールド用樹脂組成物を成形してなることを特徴とする電磁波シールド用樹脂成形体。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、導電性繊維(B)の長繊維束に含浸させるポリカーボネート樹脂として、粘度平均分子量が7,000〜13,000のポリカーボネート樹脂(A)を用いることにより、ポリカーボネート樹脂(A)を、導電性繊維(B)の長繊維束に容易にかつ十分に含浸させて、繊維/樹脂複合組成物ペレットを歩留まりよく生産することができる。また、この繊維/樹脂複合組成物ペレットを用いることにより、この繊維/樹脂複合組成物ペレットと熱可塑性樹脂(C)とを加熱溶融混練して得た電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物を成形した成形体においても、或いは、加熱溶融せずに単に混合して成形した成形体であっても、機械的強度や耐熱性等の低下が少なく、表面外観のよい電磁波シールド用樹脂成形体を得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0035】
[電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレット]
本発明の電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレット(以下「ペレット(A/B)」と称す場合がある。)は、粘度平均分子量7,000〜13,000のポリカーボネート樹脂(A)を、導電性繊維(B)の長繊維束に含浸させてなるものである。
【0036】
<ポリカーボネート樹脂(A)>
本発明のペレット(A/B)において、導電性繊維(B)に含浸させるポリカーボネート樹脂(A)は、粘度平均分子量7,000〜13,000のものである。ここで、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、ポリカーボネート樹脂を溶解した溶液について、温度25℃で測定された極限粘度[η](単位dl/g)の値より、下記式:
[η]=K(Mv)α
(式中、K=1.23×10−4、α=0.83)
で換算した値で示される。
【0037】
この含浸用ポリカーボネート樹脂(A)としては、粘度平均分子量(Mv)が7,000〜13,000範囲内であることが必要であるが、粘度平均分子量は好ましくは8,000〜12,000、より好ましくは9,000〜11,000の範囲内である。粘度平均分子量が7,000未満では含浸樹脂が脆いことによりペレット(A/B)が割れてしまい、長繊維束がばらけてしまい、13,000を超えると含浸樹脂の粘度が高いため、長繊維束への含浸が困難となり、長繊維束が含浸樹脂から抜けてしまうので好ましくない。
【0038】
本発明において、繊維含浸用樹脂としてのポリカーボネート樹脂(A)としては、芳香族ポリカーボネート、脂肪族ポリカーボネート、芳香族−脂肪族ポリカーボネートのいずれも使用可能であるが、中でも芳香族ポリカーボネートが好ましい。該芳香族ポリカーボネートは、1種以上の芳香族ジヒドロキシ化合物を、ホスゲン又は炭酸のジエステルと反応させることによって得られる芳香族ポリカーボネート重合体又は共重合体である。
【0039】
芳香族ジヒドロキシ化合物の代表的なものとして、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等が挙げられる。これらの芳香族ジヒドロキシ化合物は、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
これらの芳香族ジヒドロキシ化合物なかでも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)が好ましい。
【0040】
反応には、上記芳香族ジヒドロキシ化合物と共に、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシルフェニル)エタン、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン等の分子中に3個以上のヒドロキシ基を有する多価フェノール等を分岐化剤として少量併用することもできる。
また、難燃性をさらに高める目的で、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物及び/又はシロキサン構造を有する両末端フェノール性OH基含有のポリマー又はオリゴマーを使用することもできる。
【0041】
一方、炭酸ジエステルとしては、炭酸ジフェニル、炭酸ジトリル等の炭酸ジアリール類、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル等の炭酸ジアルキル類等が挙げられ、これらの炭酸ジエステルやホスゲンについても単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0042】
導電性繊維(B)の長繊維束への含浸に用いるポリカーボネート樹脂(A)としては、好ましくは、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導されるポリカーボネート重合体、又は2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導されるポリカーボネート共重合体が挙げられる。さらに、他の芳香族ジヒドロキシ化合物は、2種以上併用してもよい。
【0043】
含浸用樹脂である、粘度平均分子量7,000〜13,000のポリカーボネート樹脂(A)は、適当な分子量調節剤を用いて、芳香族ジヒドロキシ化合物と、ホスゲン又は炭酸ジエステルとを反応させることによって直接得られた芳香族ポリカーボネート樹脂等のポリカーボネート樹脂又はその市販品を、そのまま使用してもよいが、別途製造した又は市販の、分子量の大きな芳香族ポリカーボネート樹脂等のポリカーボネート樹脂と、分子量の小さな芳香族ポリカーボネートオリゴマー等のポリカーボネートオリゴマーとを配合して、所定の粘度平均分子量を有するポリカーボネート樹脂(A)として使用するのが、適度な含浸性と強度を保持させることが可能となる点で好ましい。
【0044】
具体的には、粘度平均分子量14,000〜18,000のポリカーボネート樹脂100質量部に対して、粘度平均分子量1000〜10000のポリカーボネートオリゴマーを50〜300質量部、好ましくは100〜200質量部を配合して、所定の粘度平均分子量を有するポリカーボネート樹脂(A)として使用するのが好ましい。かかるポリカーボネートオリゴマーは、粘度平均分子量ないしは重合度が小さすぎると成形時に成形品からブリードアウトしやすく、他方、粘度平均分子量ないしは重合度が大きくなると満足する含浸性、流動性、表面平滑性が得られ難くなることから、好ましくは粘度平均分子量1000〜10000で、平均重合度は2〜15のポリカーボネートオリゴマー、特に好ましくは芳香族ポリカーボネートオリゴマーである。
【0045】
この場合、含浸用樹脂であるポリカーボネート樹脂(A)の配合成分である、ポリカーボネート樹脂及びポリカーボネートオリゴマーの製造方法については、特に限定されるものでは無く、ホスゲン法(界面重合法)又は、溶融法(エステル交換法)等で製造することができる。さらに、溶融法で製造された、末端基のOH基量を調整したポリカーボネート樹脂を使用することもできる。また、ポリカーボネートオリゴマーの製造方法においては、適当な分子量調節剤を用いて反応させることが、適切な平均重合度の達成に重要である。適当な分子量調節剤としては、具体的には、一価のフェノール性水酸基を有する化合物や芳香族カルボン酸基を有する化合物等が挙げられ、通常のフェノール、p−t−ブチルフェノール、2,3,6−トリブロモフェノール等の他に、長鎖アルキルフェノール、脂肪族カルボン酸クロライド、脂肪族カルボン酸、ヒドロキシ安息香酸等が挙げられる。
【0046】
ポリカーボネートオリゴマーの具体例としては、好ましくは、p−t−ブチルフェノールで末端停止されたビスフェノールAポリカーボネートオリゴマー、p−t−ブチルフェノールで末端停止されたテトラブロムビスフェノールAとビスフェノールAからのポリカーボネートオリゴマーなどが挙げられるが、必ずしも粘度平均分子量14,000〜18,000のポリカーボネート樹脂と同じ原料や反応方法で製造されたオリゴマーである必要はない。
【0047】
粘度平均分子量7,000〜13,000又は14,000〜18,000のポリカーボネート樹脂としては、バージン原料だけでなく、使用済みの製品から再生されたポリカーボネート樹脂、いわゆるマテリアルリサイクルされたポリカーボネート樹脂の使用も可能である。使用済みの製品としては、光学ディスクなどの光記録媒体、導光板、自動車窓ガラスや自動車ヘッドランプレンズ、風防などの車両透明部材、水ボトルなどの容器、メガネレンズ、防音壁やガラス窓、波板などの建築部材などが好ましく挙げられる。また、再生ポリカーボネート樹脂としては、製品の不適合品、スプルー、又はランナーなどから得られた粉砕品又はそれらを溶融して得たペレットなども使用可能である。
【0048】
また、本発明で用いるポリカーボネート樹脂(A)は、後述の本発明の電磁波シールド用樹脂組成物に用いられる各種添加剤として例示したものの1種又は2種以上を、本発明のペレット(A/B)の特性を損わない範囲で含んでいてもよい。
【0049】
<導電性繊維(B)>
ポリカーボネート樹脂(A)を含浸させる導電性繊維(B)は、金属繊維、炭素繊維及び金属コート非金属繊維から選ばれる少なくとも1種の導電性繊維(B)である。実用的には、該導電性繊維(B)を好ましくは5,000〜35,000本、より好ましくは5000〜20,000本、特に好ましくは5,000〜10,000本収束してなる長繊維束であるのが、電磁波シールド性の点でも含浸工程の生産性の点でも好ましい。この集束本数が少な過ぎると、これを用いたペレット(A/B)を配合した電磁波シールド用樹脂組成物の導電性が不足することがあり、また、このペレット(A/B)のペレット径が細すぎて熱可塑性樹脂(C)と溶融混練した時に分離し易くなって、電磁波シールド用樹脂組成物中で導電性繊維(B)の分散が不均一になることがある。逆に、集束本数が多過ぎると、繊維束の中心部までポリカーボネート樹脂(A)が浸透しないことがあり、電磁波シールド用樹脂組成物中で導電性繊維(B)の分散が不均一になることがある。
【0050】
導電性繊維(B)の1本当たりの繊維径としては、細過ぎると、繊維が切れ易く、この結果、この導電性繊維(B)を含むペレット(A/B)を用いて得られる電磁波シールド用樹脂組成物の電磁波シールド性が低下するおそれがあり、太過ぎると成形性が損なわれるため、平均繊維径で1〜50μm、特に3〜20μm程度であることが好ましい。
【0051】
導電性繊維(B)の金属繊維としては、ステンレス繊維、アルミニウム繊維、銅繊維及び黄銅繊維から選ばれる少なくとも1種を用いるのが、電磁波シールド性能及びコストの点で好ましい。
炭素繊維は、電磁波シールド性能の点では金属繊維より若干劣るが、比重が金属に比べて低いため、軽量化のために好ましい。炭素繊維としては、強度の点からPAN系の炭素繊維が好ましい。更にカーボンナノファイバーも好ましい。
【0052】
また、金属コート非金属繊維に用いられる被覆金属としては、導電性が良好で酸化し難い金属が好ましい。金属コート非金属繊維としては、具体的には、金、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、コバルト、鉄、亜鉛、錫及びこれらの金属の1種以上を含む合金から選ばれる少なくとも1種の金属で、ガラス繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維及び炭素繊維から選ばれる少なくとも1種の非金属繊維の表面を被覆した金属コート非金属繊維を用いるのが好ましい。被覆金属としては、特に、導電性の観点からは金、銀が、コストの面からはニッケル、銅が好ましく用いられる。非金属繊維の被覆方法は特に限定されないが、無電解メッキが一般的である。しかし、この他に真空蒸着、スパッタリング等の方法でも被覆可能である。ニッケルの場合にはニッケル精錬時に発生するニッケルカーボニルガスの中でのニッケル被覆方法も挙げられる。被覆金属量は使用する非金属繊維や金属の種類、必要な体積抵抗率によって適宜決められるが、繊維表面上に0.1mm〜1.0μm厚で被覆されることが望ましい。銀、ニッケル、ニッケル銅の場合は0.1mm〜0.7μm厚が好ましい。従って、金属コート非金属繊維の非金属繊維の平均繊維径は、このような厚さに金属が被覆されて、前述の導電性繊維(B)の好適な平均繊維径の範囲内となるような繊維径であることが好ましい。
【0053】
これらの導電性繊維(B)は、ペレット(A/B)の機械的強度や導電性向上の目的で、公知のカップリング剤やサイジング剤等の表面処理剤による処理が施されていてもよい。
【0054】
本発明において、導電性繊維(B)としては、経済性、比重、電磁波シールド性、機械的強度、外観などの総合的な観点から、銅コートアラミド繊維が特に好ましく用いられる。
【0055】
<繊維含有量>
本発明のペレット(A/B)中の導電性繊維(B)の含有量は、用いる導電性繊維(B)の種類にもよるが、繊維への含浸の容易さと電磁波シールド効果の観点から、20〜80質量%であることが好ましく、さらに好ましくは20〜75質量%である。
【0056】
<ペレット(A/B)の製造方法>
ポリカーボネート樹脂(A)を導電性繊維(B)に含浸させて、本発明のペレット(A/B)を製造する方法としては特に制限はなく、公知の方法を用いることができるが、実質的に平行に配列した導電性繊維(B)の長繊維束を含有してなる繊維/樹脂複合組成物ペレットを製造するには、引抜成形法が好ましい。
【0057】
引抜成形法は、基本的には連続した繊維束を引きながら、所定の含浸処理域を通過させる間に、樹脂を含浸させるものであり、
(1)樹脂のエマルジョン、サスペンジョン又は溶液を入れた含浸浴の中に繊維束を通し、含浸させた後、乾燥する方法
(2)樹脂の粉末を繊維束に吹きつけるか粉末を入れた槽の中を繊維束を通し、繊維に樹脂粉末を付着させた後、樹脂を溶融させて含浸させる方法
(3)クロスヘッドダイの中を繊維束を通しながら押出機等からクロスヘッドダイに溶融樹脂を供給して含浸させる方法
等が知られているが、本発明においてはかかる公知の方法がいずれも利用できる。特に好ましいのはクロスヘッドダイを用いる方法である。
【0058】
以下、クロスヘッドダイを用いた引抜成形法を例にとり、本発明のペレット(A/B)の製造法について更に詳細に説明する。勿論、本発明のペレット(A/B)の製造方法は、ここに例示した装置及び方法のみに限定されるものではない。
【0059】
引抜成形法により、本発明のペレット(A/B)を製造するにあたっては、まず、クロスヘッドダイに、連続した導電性繊維(B)の繊維束を供給する。用いる導電性繊維(B)の種類としては、前述の金属繊維、炭素繊維及び金属コート非金属繊維から選ばれる少なくとも1種であり、その形態としては、ロービング、ヤーン、フィラメント等の連続した繊維であれば、撚りの有無によらず、いずれも使用できる。特に、取り扱いが容易な点でロービング状のものが好ましい。
【0060】
本発明においては、ポリカーボネート樹脂(A)による含浸処理に先立ち、例えば、加熱装置等を設置し、導電性繊維(B)を予め高温に加熱し、高い温度を維持した導電性繊維(B)をポリカーボネート樹脂(A)と接触させるのが好ましい。また、かかる導電性繊維(B)の繊維束を、含浸処理までの間に、テンションロール等により開繊しておくのも、繊維束へのポリカーボネート樹脂(A)の含浸を容易にする点で好ましい。
【0061】
一方で、クロスヘッドダイに接続する押出機等から、含浸用樹脂としてのポリカーボネート樹脂(A)(このポリカーボネート樹脂(A)は、必要に応じて、各種の添加剤が配合されていてもよい。)を供給するに際しては、樹脂温度は、含浸用樹脂の融点又はガラス転移温度より高いことが必要である。
このようにして得られる樹脂含浸組成物は、実質的に平行に配列した導電性繊維(B)を含有してなり、かつ、導電性繊維(B)の繊維束にポリカーボネート樹脂(A)が十分含浸し、繊維同士を接着した繊維/樹脂複合組成物である。
【0062】
クロスヘッドダイから引き抜かれるストランドは、使用目的に合わせて任意の長さ、好ましくは2〜15mm、より好ましくは4〜10mmに切断されてペレット化され、本発明のペレット(A/B)が得られる。このペレット(A/B)中には、ペレットの長さと同じ長さを持つ導電性繊維(B)の繊維束が含まれる。
【0063】
このようにして得られるペレット(A/B)のペレットの長さが短か過ぎると、このペレット中の導電性繊維(B)の長さも短いものとなり、これを用いて得られる電磁波シールド用樹脂組成物の電磁波シールド性が低下する傾向となり、長過ぎるとこのペレットを後述の熱可塑性樹脂(C)と溶融混練押出する際、押出機内で繊維が絡まり、押出機が閉塞するなどして、生産性が低下し、著しい場合には、生産不良となる。
【0064】
[電磁波シールド用樹脂組成物]
本発明の電磁波シールド用樹脂組成物(以下「樹脂組成物(A/B/C)」と称す場合がある。)は、上述のような本発明のペレット(A/B)と、熱可塑性樹脂(C)とを含むものである。
【0065】
<熱可塑性樹脂(C)>
本発明の樹脂組成物(A/B/C)に用いる熱可塑性樹脂(C)としては、本発明の電磁波シールド用樹脂組成物を成形して得られる成形品の使用目的、要求性能に応じて選択すればよく、ポリカーボネート樹脂、ABS樹脂等のスチレン系樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂とABS樹脂等のスチレン系樹脂とのアロイ、ポリカーボネート樹脂とポリブチレンテレフタレート樹脂のアロイ、ポリカーボネート樹脂とポリエチレンテレフタレート樹脂のアロイ、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂などが例示できる。中でも、耐衝撃性、寸法精度が要求される場合には、ポリカーボネート樹脂、ポリカーボネート樹脂とABS樹脂等のスチレン系樹脂のアロイが、耐熱性、耐薬品性が要求される場合には、ポリカーボネート樹脂とポリブチレンテレフタレート樹脂やポリエチレンテレフタレート樹脂のアロイ等、ポリカーボネートを含むものが選択される。熱可塑性樹脂(C)は、好ましくは、ポリカーボネート樹脂又はポリカーボネート樹脂とABS樹脂のアロイである。
【0066】
本発明に係る好ましい熱可塑性樹脂(C)としてのポリカーボネート樹脂としては、本発明のペレット(A/B)の繊維含浸用ポリカーボネート樹脂(A)と同様に、芳香族ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリカーボネート樹脂、芳香族−脂肪族ポリカーボネート樹脂のいずれも使用可能であるが、中でも芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。該芳香族ポリカーボネート樹脂は、1種以上の芳香族ジヒドロキシ化合物を、ホスゲン又は炭酸のジエステルと反応させることによって得られる芳香族ポリカーボネート重合体又は共重合体である。
【0067】
熱可塑性樹脂(C)としての芳香族ポリカーボネート樹脂は、粘度平均分子量(M)で、14,000〜30,000の範囲であり、特に15,000〜28,000、とりわけ16,000〜26,000であるものが好ましい。粘度平均分子量が小さ過ぎる芳香族ポリカーボネート樹脂では機械的強度が不足し、大き過ぎると成形性に難を生じやすく、好ましくない。
【0068】
芳香族ポリカーボネート樹脂は、また、以下のABS樹脂等のスチレン系樹脂とのアロイ、ポリブチレンテレフタレート樹脂とのアロイ、ポリエチレンテレフタレート樹脂とのアロイ等として用いることができる。
【0069】
ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)としては、ジメチルテレフタレートとエチレングリコールのエステル交換反応、又はテレフタル酸とエチレングリコールの直接エステル化反応のいずれで製造されたものでもよい。
【0070】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)としては、ジメチルテレフタレートと1,4−ブタンジオールのエステル交換反応によるDMT法、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールの直接重合法のいずれで製造されたものでもよい。
【0071】
また、該PET、PBTのいずれの場合においても、重縮合反応時に、テレフタル酸又はそのジアルキルエステルと共に、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸やそれらのジアルキルエステル等の二塩基酸、三塩基酸等、またそれらのジアルキルエステルを使用することができる。これらの使用量は、テレフタル酸又はそのジアルキルエステル100質量部に対して40質量部以下の範囲であることが好ましい。
【0072】
また、同じく重縮合反応時に、エチレングリコール、又は1,4−ブタンジオールと共に、他の脂肪族グリコールとして、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール等や、脂肪族グリコール以外に例えばシクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、キシレングリコール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の他のジオール類や多価アルコール類を併用することができる。これらジオール類又は多価アルコール類の使用量は、脂肪族グリコール100質量部に対して40質量部以下の範囲であることが好ましい。また、これらの使用量は、テレフタル酸又はそのジアルキルエステル100質量部に対して40質量部以下の範囲であることが好ましい。
【0073】
PET、PBT等のポリエステル樹脂の分子量としては、フェノールとテトラクロロエタンの混合溶媒(重量比=50/50)中、30℃で測定される極限粘度で、好ましくは0.5〜1.8であり、さらに好ましくは0.7〜1.5である。
【0074】
また、スチレン系樹脂としてはアクリロニトリルースチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン−ブタジエン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−エチレンプロピレンゴム−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン−アクリルゴム共重合体等が例示できる。これらスチレン系樹脂の重合方法としては塊状重合法や乳化重合法が例示できる。
【0075】
さらに、熱可塑性樹脂(C)としては、バージン原料だけでなく、使用済みの製品、製品の不適合品、スプルー、ランナー等から再生された熱可塑性樹脂使用も可能である。
熱可塑性樹脂(C)の芳香族ポリカーボネート樹脂としても、バージン原料だけでなく、使用済みの製品から再生された芳香族ポリカーボネート樹脂、いわゆるマテリアルリサイクルされた芳香族ポリカーボネート樹脂の使用も可能である。使用済みの製品としては、光学ディスク等の光記録媒体、導光板、自動車窓ガラスや自動車ヘッドランプレンズ、風防等の車両透明部材、水ボトル等の容器、メガネレンズ、防音壁やガラス窓、波板等の建築部材等が好ましく挙げられる。また、再生芳香族ポリカーボネート樹脂としては、製品の不適合品、スプルー、又はランナー等から得られた粉砕品又はそれらを溶融して得たペレット等も使用可能である。
【0076】
<ペレット(A/B)の含有量>
本発明の樹脂組成物(A/B/C)に含まれるペレット(A/B)の含有量は、樹脂組成物(A/B/C)の使用目的による要求特性や、ペレット(A/B)中の導電性繊維(B)の含有量等によっても異なるが、熱可塑性樹脂(C)(後述の各種添加剤は含まない熱可塑性樹脂(C)のみ)100質量部に対して、ペレット(A/B)を3〜300質量部、特に3〜100質量部であることが、電磁波シールド性、機材物性、流動性のバランスの面で好ましい。熱可塑性樹脂(C)に対するペレット(A/B)の含有量が少な過ぎると必要とする電磁波シールド性を得ることができず、多過ぎると成形性、得られる成形品の機械的強度や外観が劣る傾向にある。
【0077】
<樹脂組成物(A/B/C)の形態>
本発明の樹脂組成物(A/B/C)は、
(1) ペレット(A/B)と熱可塑性樹脂(C)とを必要に応じて用いられる後述の各種添加剤と共にドライブレンドした混合物
(2) ペレット(A/B)のペレットと熱可塑性樹脂(C)のペレット(この熱可塑性樹脂(C)ペレットは後述の各種添加剤を含んでいてもよい。)とを単に混合してなるペレット混合物
(3) ペレット(A/B)と熱可塑性樹脂(C)とを必要に応じて用いられる後述の各種添加剤と共に溶融混練してなる溶融混練物(この溶融混練物は、上記ペレット混合物を溶融混練したものであってもよい。)
(4) ペレット(A/B)と熱可塑性樹脂(C)とを必要に応じて用いられる後述の各種添加剤と共に混合してペレット化してなるペレット(このペレットは、上記ペレット混合物を溶融混練してペレット化したもの、或いは上記溶融混練物をペレット化したものであってもよい。)
といった各種の形態で提供され、各種成形材料として用いることができる。
【0078】
ペレット(A/B)と熱可塑性樹脂(C)とを混合して樹脂組成物(A/B/C)を得るための方法としては、各種混練機、例えば、一軸及び多軸混練機、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダープラストグラム等で、ペレット(A/B)、熱可塑性樹脂(C)及び必要に応じて配合される各種の添加剤を混練した後、冷却固化する方法や、適当な溶媒、例えば、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素及びその誘導体に、ペレット(A/B)、熱可塑性樹脂(C)及び必要に応じて配合される各種の添加剤を添加し、溶解する成分同志、あるいは溶解する成分と不溶解成分を懸濁状態で混ぜる溶液混合法等が用いられる。工業的コストからは、溶融混練法が好ましいが、これに限定されるものではない。溶融混練においては、単軸や二軸の押出機を用いることが好ましい。
【0079】
<樹脂組成物(A/B/C)ペレット>
本発明の樹脂組成物(A/B/C)がペレット状の場合、その長さは2.5〜15mm、特に4〜13mmであることが好ましい。この長さが短か過ぎると、ペレットに含まれる導電性繊維(B)の繊維長が切断により短いものとなり、電磁波シールド性が低下することがあり、長過ぎると、このペレットを用いて成形を行う際にペレットの供給が不安定となる。
【0080】
特に、本発明では、ペレット長2〜15mm、好ましくは4〜10mmのペレット(A/B)ペレットを熱可塑性樹脂(C)と溶融混練してペレット長2.5〜15mm、好ましくは5.1〜13mmのペレットとすることにより、樹脂組成物(A/B/C)中に、導電性繊維(B)を高いアスペクト比で均一に分散させることができ、ショット間のバラツキが小さく、優れた導電性、機械的強度及び外観を併せ持った電磁波シールド用樹脂成形体を得ることができ、好ましい。
【0081】
<各種添加剤>
本発明の樹脂組成物(A/B/C)は、熱可塑性樹脂(C)及びペレット(A/B)の他に、必要に応じて本発明の目的を損なわない範囲で、難燃剤、滴下防止剤(難燃助剤)、補強材、耐衝撃性改良剤、離型剤、着色剤(染顔料)、相溶化剤、流動改質剤、紫外線吸収剤、安定剤(リン系安定剤、フェノール系安定剤)、帯電防止剤、防曇剤、滑剤・アンチブロッキング剤、可塑剤、分散剤、防菌剤、無機フィラーなどの各種の添加剤を含んでいてもよい。
これらの添加剤は、前述の如く、本発明の樹脂組成物(A/B/C)に含まれるペレット(A/B)中に含有されていてもよく、熱可塑性樹脂(C)のペレットに含まれていてもよく、また、樹脂組成物(A/B/C)の調製に、ペレット(A/B)及び熱可塑性樹脂(C)と共に用いられてもよい。
【0082】
以下に、これらの各種の添加剤のうち、代表的な添加剤である難燃剤等について説明する。
【0083】
{難燃剤}
難燃剤としては、本発明の樹脂組成物(A/B/C)の難燃性を向上させるものであれば特に限定されないが、リン酸エステル化合物、有機スルホン酸金属塩、シリコーン化合物が好適である。
【0084】
(リン酸エステル化合物)
リン酸エステル化合物(リン酸エステル系難燃剤)としては、例えば、次式(1)で示される化合物が好ましい。
【0085】
【化1】

【0086】
(式中、R、R、R、Rは互いに独立して、置換されていてもよいアリール基を示し、Xは他に置換基を有していてもよい2価の芳香族基を示す。nは0〜5の数を示す。)
【0087】
上記式(1)においてR〜Rで示されるアリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。またXで示される2価の芳香族基としては、フェニレン基、ナフチレン基や、例えばビスフェノールから誘導される基等が挙げられる。これらの置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基等が挙げられる。nが0の場合、式(1)で表される化合物はリン酸エステルであり、nが0より大きい場合は縮合リン酸エステル(混合物を含む)である。
【0088】
上記式(1)で表される化合物としては、具体的には、ビスフェノールAビスホスフェート類、ヒドロキノンビスホスフェート類、レゾルシノールビスホスフェート類、あるいはこれらの置換体、縮合体などを例示できる。かかる成分として好適に用いることができる市販の縮合リン酸エステル化合物としては、例えば、大八化学工業(株)より「CR733S」(レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート))、「CR741」(ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート))、「PX200」(レゾルシノールビス(ジキシレニルホスフェート))、旭電化工業(株)より「アデカスタブFP−700」(2,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)プロパン・トリクロロホスフィンオキシド重縮合物(重合度1〜3)のフェノール縮合物)といった商品名で販売されており、容易に入手可能である。
【0089】
本発明の樹脂組成物(A/B/C)中のこのようなリン酸エステル系難燃剤の含有量は、熱可塑性樹脂(C)100質量部に対し1〜50質量部であり、好ましくは3〜40質量部、特に好ましくは5〜30質量部である。リン酸エステル系難燃剤の含有量が1質量部未満では難燃性が不十分であり、50質量部を超えると耐熱性が低下し過ぎるので、好ましくない。
【0090】
(有機スルホン酸金属塩)
有機スルホン酸金属塩としては、好ましくは脂肪族スルホン酸金属塩及び芳香族スルホン酸金属塩等が挙げられる。有機スルホン酸金属塩を構成する金属としては、好ましくは、アルカリ金属、アルカリ土類金属などが挙げられ、アルカリ金属及びアルカリ土類金属としては、ナトリウム、リチウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウム等が挙げられる。有機スルホン酸金属塩は、2種以上の塩を混合して使用することもできる。
【0091】
脂肪族スルホン酸塩としては、好ましくは、フルオロアルカン−スルホン酸金属塩、より好ましくは、パーフルオロアルカン−スルホン酸金属塩が挙げられる。フルオロアルカン−スルホン酸金属塩としては、好ましくは、フルオロアルカン−スルホン酸のアルカリ金属塩、フルオロアルカン−スルホン酸のアルカリ土類金属塩などが挙げられ、より好ましくは、炭素数4〜8のフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などが挙げられる。該フルオロアルカン−スルホン酸金属塩の具体例としては、パーフルオロブタン−スルホン酸ナトリウム、パーフルオロブタン−スルホン酸カリウム、パーフルオロメチルブタン−スルホン酸ナトリウム、パーフルオロメチルブタン−スルホン酸カリウム、パーフルオロオクタン−スルホン酸ナトリウム、パーフルオロオクタン−スルホン酸カリウムなどが挙げられる。
【0092】
また、芳香族スルホン酸金属塩としては、好ましくは、芳香族スルホン酸アルカリ金属塩、芳香族スルホン酸アルカリ土類金属塩、芳香族スルホンスルホン酸アルカリ金属塩、芳香族スルホンスルホン酸アルカリ土類金属塩などが挙げられ、芳香族スルホンスルホン酸アルカリ金属塩、芳香族スルホンスルホン酸アルカリ土類金属塩は重合体であってもよい。該芳香族スルホン酸金属塩の具体例としては、3,4−ジクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、2,4,5−トリクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸のナトリウム塩、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸のカリウム塩、4,4’−ジブロモジフェニル−スルホン−3−スルホン酸のナトリウム塩、4,4’−ジブロモジフェニル−スルホン−3−スルホン酸のカリウム塩、4−クロロ−4’−ニトロジフェニルスルホン−3−スルホン酸のカルシウム塩、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸のジナトリウム塩、ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸のジカリウム塩などが挙げられる。
【0093】
有機スルホン酸金属塩の配合量は、熱可塑性樹脂(C)100質量部に対し、0.01〜5質量部が好ましく、より好ましくは0.02〜3質量部、とりわけ好ましくは0.03〜2質量部である。有機スルホン酸金属塩の配合量が0.01質量部未満であると充分な難燃性が得られ難く、5質量部を超えると熱安定性が低下しやすい。
【0094】
(シリコーン化合物)
シリコーン化合物(シリコーン系難燃剤)は、直鎖状あるいは分岐構造を有するポリオルガノシロキサンが好ましい。ポリオルガノシロキサンが有する有機基は、炭素数が1〜20のアルキル基及び置換アルキル基のような炭化水素又はビニル及びアルケニル基、シクロアルキル基、ならびにフェニル、ベンジルのような芳香族炭化水素基などの中から選ばれる。
【0095】
ポリジオルガノシロキサンは、官能基を含有していなくても、官能基を含有していてもよい。官能基を含有しているポリジオルガノシロキサンの場合、官能基はメタクリル基、アルコキシ基又はエポキシ基であることが好ましい。
また、これらポリオルガノシロキサンはシリカに担持されていてもよい。
【0096】
シリコーン化合物の配合量は、熱可塑性樹脂(C)100質量部に対し、0.5〜10質量部が好ましく、より好ましくは0.5〜7質量部、とりわけ好ましくは0.5〜7質量部である。シリコーン化合物の配合量が0.5質量部未満であると充分な難燃性が得られ難く、10質量部を超えると機械的強度や耐熱性が低下しやすい。
【0097】
{滴下防止剤}
本発明では燃焼時の滴下防止を目的として、滴下防止剤を含むことができる。滴下防止剤としては、好ましくはフッ素樹脂が挙げられる。
【0098】
ここでフッ素樹脂としては、フルオロエチレン構造を含む重合体、共重合体であり、例えば、ジフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレンとフッ素を含まないエチレン系モノマーとの共重合体である。好ましくは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であり、その平均分子量は、500,000以上であることが好ましく、特に好ましくは500,000〜10,000,000である。
【0099】
ポリテトラフルオロエチレンのうち、フィブリル形成能を有するものを用いると、さらに高い溶融滴下防止性を付与することができる。フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)には特に制限はないが、例えば、ASTM規格において、タイプ3に分類されるものが挙げられる。その具体例としては、例えばテフロン(登録商標)6−J(三井・デュポンフロロケミカル(株)製)、ポリフロンD−1、ポリフロンF−103、ポリフロンF201(ダイキン工業(株)製)、CD076(旭アイシーアイフロロポリマーズ(株)製)等が挙げられる。また、上記タイプ3に分類されるもの以外では、例えばアルゴフロンF5(モンテフルオス(株)製)、ポリフロンMPA、ポリフロンFA−100(ダイキン工業(株)製)等が挙げられる。これらのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0100】
上記のようなフィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、例えばテトラフルオロエチレンを水性溶媒中で、ナトリウム、カリウム、アンモニウムパーオキシジスルフィドの存在下で、1〜100psiの圧力下、温度0〜200℃、好ましくは20〜100℃で重合させることによって得られる。
また、滴下防止剤は、溶媒で分散されたテフロン(登録商標)30−J(三井・デュポンフロロケミカル(株)製)であっても構わない。
【0101】
また、滴下防止剤は、ポリテトラフルオロエチレン粒子と有機系重合体粒子とからなるポリテトラフルオロエチレン含有混合粉体であってもよい。有機系重合体粒子を生成するための単量体の具体例としては、スチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−クロルスチレン、o−クロルスチレン、p−メトキシスチレン、o−メトキシスチレン、2,4−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン等のスチレン系単量体、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、メタクリル酸ドデシル、アクリル酸トリドデシル、メタクリル酸トリドデシル、アクリル酸オクタデシル、メタクリル酸オクタデシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルエーテル系単量体、酢酸ビニル、酪酸ビニル等のカルボン酸ビニル単量体、エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン系単量体、ブタジエン、イソプレン、ジメチルブタジエン等のジエン系単量体等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、これらの単量体の重合体又は共重合体を2種以上用い、有機系重合体粒子を得ることができる。このようなものとしては、例えば三菱レーヨン製A−3800(メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル共重合物、4フッ化エチレン重合物の混合粉体)を例示できる。
【0102】
滴下防止剤の配合量は、熱可塑性樹脂(C)100質量部に対して、0.01〜1質量部、特に0.1〜0.5質量部であることが好ましい。滴下防止剤の配合量が少な過ぎる場合には、難燃性の改良効果が不十分な場合があり、多過ぎると成形品の外観が低下する場合がある。
【0103】
{離型剤}
本発明の樹脂組成物(A/B/C)には、成形時の金型離型性を良好なものとするために離型剤を配合することができる。
【0104】
離型剤としては例えば、脂肪族カルボン酸やそのアルコールエステル、数平均分子量200〜15000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイル等が挙げられる。
【0105】
脂肪族カルボン酸としては、飽和又は不飽和の、鎖式又は環式の、脂肪族1〜3価のカルボン酸が挙げられる。これらの中でも炭素数6〜36の、1価又は2価カルボン酸が好ましく、特に炭素数6〜36の脂肪族飽和1価カルボン酸が好ましい。この様な脂肪族カルボン酸としては、具体的には例えばパルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸等が挙げられる。
【0106】
脂肪族カルボン酸エステルにおける脂肪族カルボン酸成分は、上述の脂肪族カルボン酸と同義である。一方、脂肪族カルボン酸エステルのアルコール成分としては、飽和又は不飽和の、鎖式又は環式の、1価又は多価アルコールが挙げられる。これらはフッ素原子、アリール基等の換基を有していてもよく、中でも炭素数30以下の、1価又は多価飽和アルコールが好ましく、特に炭素数30以下、飽和脂肪族の、1価又は多価アルコールが好ましい。
【0107】
この様なアルコール成分としては、具体的には例えばオクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。尚、この脂肪族カルボン酸エステルは、不純物として脂肪族カルボン酸及び/又はアルコールを含有していてもよく、更には複数の脂肪族カルボン酸エステルの混合物でもよい。
【0108】
脂肪族カルボン酸エステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0109】
数平均分子量200〜15000の脂肪族炭化水素としては、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャ−トロプシュワックス、炭素数3〜12のα−オレフィンオリゴマー等が挙げられる。ここで脂肪族炭化水素とは、脂環式炭化水素も含まれる。またこれらの炭化水素化合物は、部分酸化されていてもよい。
【0110】
これら脂肪族炭化水素の中でも、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス又はポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、特にパラフィンワックスやポリエチレンワックスが好ましい。数平均分子量は中でも200〜5000であることが好ましい。これらの脂肪族炭化水素は単独で、又は2種以上を任意の割合で併用しても、主成分が上記の範囲内であればよい。
【0111】
ポリシロキサン系シリコーンオイルとしては、例えばジメチルシリコーンオイル、フェニルメチルシリコーンオイル、ジフェニルシリコーンオイル、フッ素化アルキルシリコーン等が挙げられ、これらは一種又は任意の割合で二種以上を併用してもよい。
【0112】
離型剤の配合量は適宜選択して決定すればよいが、少なすぎると離型効果が十分に発揮されず、逆に多すぎても樹脂の耐加水分解性の低下や、成形時の金型汚染等が問題になる場合がある。よって離型剤の配合量は、熱可塑性樹脂(C)100質量部に対して0.001〜2質量部であり、中でも0.01〜1質量部であることが好ましい。
【0113】
{熱安定剤・酸化防止剤}
本発明の樹脂組成物(A/B/C)は、溶融加工時や、高温下での長期間使用時等に生ずる黄変抑制、更に機械的強度低下抑制等の目的で、熱安定剤や酸化防止剤を含有することが好ましい。
【0114】
熱安定剤や酸化防止剤は、従来公知の任意のものを使用でき、熱安定剤としてはリン系化合物が、酸化防止剤としてはフェノール化合物が好ましく、これらは併用してもよい。
【0115】
熱安定剤及び酸化防止剤の含有量は、適宜選択して決定すればよいが、通常、その合計量として樹脂組成物(A/B/C)100質量部に対して0.0001〜0.5質量部であり、0.0003〜0.3質量部が好ましく、0.001〜0.1質量部が特に好ましい。熱安定剤や酸化防止剤の含有量が少なすぎると効果が不十分である。
【0116】
{耐衝撃性改良剤}
本発明では衝撃強度向上のために耐衝撃性改良剤としてエラストマーを含むことができる。該エラストマーとしては、特に限定されるものではないが、多層構造重合体が好ましい。多層構造重合体としては、例えば、アルキル(メタ)アクリレート系重合体を含む物が挙げられる。これらの多層構造重合体としては、例えば、先の段階の重合体を後の段階の重合体が順次被覆するような連続した多段階シード重合によって製造される重合体であり、基本的な重合体構造としては、ガラス転移温度の低い架橋成分である内核層と組成物のマトリックスとの接着性を改善する高分子化合物から成る最外核層を有する重合体である。これら多層構造重合体の最内核層を形成する成分としては、ガラス転移温度が0℃以下のゴム成分が選択される。これらゴム成分としては、ブタジエン等のゴム成分、スチレン/ブタジエン等のゴム成分、アルキル(メタ)アクリレート系重合体のゴム成分、ポリオルガノシロキサン系重合体とアルキル(メタ)アクリレート系重合体が絡み合って成るゴム成分、あるいはこれらの併用されたゴム成分が挙げられる。さらに、最外核層を形成する成分としては、芳香族ビニル単量体あるいは非芳香族系単量体あるいはそれらの2種類以上の共重合体が挙げられる。芳香族ビニル単量体としては、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、モノクロルスチレン、ジクロルスチレン、ブロモスチレン等を挙げることができる。これらの中では、特にスチレンが好ましく用いられる。非芳香族系単量体としては、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニルやシアン化ビニリデン等を挙げることができる。
【0117】
耐衝撃改良剤の配合量は、熱可塑性樹脂(C)100質量部に対して、0.1〜10質量部であることが好ましい。0.1質量部より少ないと、耐衝撃改良剤による耐衝撃性向上効果が不十分となり、10質量部を超えると、本発明の樹脂組成物(A/B/C)を成形した成形品の外観不良や耐熱性の低下が生じる。配合量の下限は、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、また、配合量の上限は、好ましくは7.5質量部以下、より好ましくは5質量部以下、特に好ましくは4質量部以下である。
【0118】
{補強材}
補強材は、弾性率、強度、荷重たわみ温度の向上のために用いられる。ここで、補強材として、シリカ、珪藻土、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、軽石粉、軽石バルーン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ドロマイト、硫酸カルシウム、チタン酸カリウム、硫酸バリウム、亜硫酸カルシウム、タルク、クレー、マイカ、ガラス繊維、鱗片状黒鉛、ガラスフレーク、ガラスビーズ、珪酸カルシウム、モンモリロナイト、ベントナイト、アルミニウム粉、硫化モリブデン、ボロン繊維、炭化珪素繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ホウ酸アルミニウム等を例示できる。
【0119】
補強材の配合量が少な過ぎるとこれを用いたことによる補強効果を十分に得ることができないが、多過ぎると、成形性を損なう傾向があるため、補強材は、本発明の樹脂組成物(A/B/C)100質量部中に100質量部以下、特に70質量部以下の範囲で用いることが好ましい。
【0120】
<製造方法>
本発明の樹脂組成物(A/B/C)は、前述の如く、ドライブレンド物、ペレット混合物、溶融混練物、そのペレット化物として提供される。溶融混練してペレットを得るための方法としては、前述の如く、各種混練機、例えば、一軸及び多軸混練機、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダープラストグラム等で、上記成分を混練した後、冷却固化する方法や、適当な溶媒、例えば、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素及びその誘導体に上記成分を添加し、溶解する成分同志、あるいは溶解する成分と不溶解成分を懸濁状態で混ぜる溶液混合法等が用いられる。工業的コストからは溶融混練法が好ましいが、これに限定されるものではない。溶融混練においては、単軸や二軸の押出機を用いることが好ましい。
【0121】
[電磁波シールド用樹脂成形体]
本発明の樹脂組成物(A/B/C)を形成して本発明の電磁波シールド用樹脂成形体を製造する方法は、特に限定されるものでなく、熱可塑性樹脂組成物について一般に用いられている成形法、例えば、射出成形、中空成形、押し出し成形、シート成形、熱成形、回転成形、積層成形等の成形方法が適用できる。中でも、射出成形が電磁波シールド用樹脂成形品の製造には一般的である。
【0122】
本発明の成形品の適用分野については特に制限はないが、電磁波シールド性が要求される用途、例えば、OA機器、AV機器、測定機器、輸送機器、通信機器、レーダー装置等のハウジング用途やコネクタ、包装材等が挙げられる。
【実施例】
【0123】
以下、実施例を挙げて本発明の構成及び作用効果をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することも可能であり、それらは全て本発明の技術的範囲に含まれる。
なお、以下の実施例において、各成分として次に示すものを用いた。
【0124】
(A)含浸用樹脂
(A−1)ポリカーボネート樹脂:ポリ−4,4−イソプロピリデンジフェニルカーボネート、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名:ユーピロン(登録商標)H−4000FN、粘度平均分子量16,000、溶融温度144℃(以下、「PC」と略記する)
(A−2)芳香族ポリカーボネートオリゴマー:ビスフェノールAとホスゲンから界面重縮合法により得られた平均重合度7の粉粒状芳香族ポリカーボネートオリゴマー、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名:ユーピロン(登録商標)AL071、粘度平均分子量6000(以下、「PCオリゴマー」と略記する)
(A−3)重合脂肪酸ポリアミド:軟化温度170℃、溶融粘度1600MPa・s(JIS K 6862、測定温度250℃)(以下、「ポリアミド」と略記する)
【0125】
(B)導電性繊維
(B−1)炭素繊維:平均繊維径7μmのPAN系炭素繊維、約24,000本の繊維束
(B−2)SUS繊維:平均繊維径12μmのSUS繊維、約7,000本の繊維束
(B−3)銅コートアラミド繊維:平均繊維径15μmの銅コートメタ系アラミド繊維(銅被覆厚さ0.8μm、約6000本の繊維束)。
【0126】
(C)熱可塑性樹脂
(C−1)ポリカーボネート樹脂ペレット: ポリ−4,4−イソプロピリデンジフェニルカーボネート、三菱エンジニアリングプラスチックス社製、商品名:ユーピロン(登録商標)S−3000、粘度平均分子量21,000(以下、「PCペレット」と略記する)
(C−2)リン系難燃剤添加ポリカーボネート樹脂ペレット:粘度平均分子量22,000のポリ−4,4−イソプロピリデンジフェニルカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製)にリン系難燃剤(大八化学社製、商品名PX−200)を10質量%混合して得られた組成物(以下「P/PCペレット」と略記する。)
(C−3)リン系難燃剤添加ポリカーボネートとABS樹脂のアロイ樹脂ペレット:粘度平均分子量24,000のポリ−4,4−イソプロピリデンジフェニルカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製)にリン系難燃剤(ADEKA社製、商品名FP−700)15質量%、ABS樹脂20質量%、タルク15質量%を混合して得られた組成物(以下、「P/PC/ABSペレット」と略記する)
【0127】
(D)難燃剤:レゾルシノールビス(ジキシレニルホスフェート)(大八化学工業社製、商品名:PX200)
(E)耐衝撃性改良剤:ブタジエン/アクリル酸アルキル/メタクリル酸アルキル共重合物(呉羽化学工業社製、商品名:パラロイド(登録商標)EXL2603)
(F)滴下防止剤:メタクリル酸メチル・アクリル酸ブチル共重合物と四フッ化エチレン重合物の混合粉体(三菱レイヨン社製、商品名:メタブレン(登録商標)A−3800)
(G)離型剤:高級脂肪酸ペンタエリストールエステル(ヘンケルジャパン社製、商品名:ロキシオール(登録商標)VPG861)
(H)安定剤
(H−1)トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト(ADEKA社製、商品名:アデカスタブ(登録商標)2112)(以下、「安定剤−1」と略記する)
(H−2)オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(チバ社製、商品名:IRGANOX(登録商標)1076)(以下、「安定剤−2」と略記する)
【0128】
[実施例I−1〜I−4]
表1に示す所定の連続繊維束を、クロスヘッドダイを通して引きながら、クロスヘッドダイに接続された押出機から供給される、表1に示す割合で配合されたPC及びPCオリゴマーからなる含浸用樹脂を、溶融混合物として含浸させた。ダイ出口から、引抜成形することによりストランドを得、これを長さ6mmに切断し、各々ペレット状のペレット(A/B)(ペレット1〜4)を得た。
このときの押出結果を、得られたペレットの外観等から評価し、表1に示した。また、含浸用樹脂については、粘度平均分子量の測定値を表1に示した。
【0129】
[比較例I−1〜I−2]
実施例I−1において、PC及びPCオリゴマーからなる含浸用樹脂合計45重量部に代えて、それぞれ、PC45重量部のみの含浸用樹脂(比較例I−1)及びPCオリゴマー45重量部のみの含浸用樹脂(比較例I−2)を用いた以外は、実施例I−1と全く同様にして、ペレット(A/B)(ペレット5,6)を得た。
このときの押出結果及び粘度平均分子量を、表1に示した。
【0130】
[比較例I−3〜I−5]
実施例I−2〜I−4において、PC及びPCオリゴマーからなる含浸用樹脂に代えて、それぞれ、含浸用樹脂合計量と同量のポリアミドを用いた以外は、実施例I−2〜I−4と全く同様にして、ペレット(A/B)(ペレット7〜9)を得た。
このときの押出結果及び粘度平均分子量を表1に示した。
【0131】
【表1】

【0132】
表1の実施例I−1〜I−4のとおり、含浸用樹脂が粘度平均分子量7,000〜13,000のポリカーボネート樹脂の場合、繊維に容易に含浸しつつ、ペレットに割れが発生することはなかった(表1中では、○印で示した。)。
これに対し、比較例I−1のとおり、粘度平均分子量が16,000のポリカーボネート樹脂の場合は、繊維に含浸させることが困難であった。一方、比較例I−2のとおり、粘度平均分子量が6,000のポリカーボネートオリゴマーの場合は、繊維には含浸するものの、樹脂自体に強度がないためペレットが割れてしまった。
また、比較例I−3〜I−5のとおり、含浸用樹脂が重合脂肪酸ポリアミドの場合も、繊維に容易に含浸しつつ、ペレットに割れが発生することはなかったが、これらは、後述の如く、ポリカーボネートやポリカーボネート/ABS樹脂アロイへの配合には不適当である。
【0133】
[実施例II−1〜II−7及び比較例II−1〜II−4]
実施例I−1〜I−4及び比較例I−3〜I−5にて得たペレット1〜4及び7〜9を、それぞれ、表2に示す熱可塑性樹脂成分(PCペレット又はP/PC/ABSペレットとその他の添加剤)と表2に示す割合で均一混合し、射出成形機(住友重機械工業社製、SH100、型締め力100T)を用いて、樹脂温度(パージ樹脂の実測温度):300℃、金型温度:110℃、射出圧力:147MPa、金型:縦100mm、横100mm、厚み2mmの条件で射出成形して電磁波シールド性用樹脂成形体を得た。
得られた射出成形体について、次のようにして表面外観、電磁波シールド性及び衝撃強度を測定し、その評価結果を表2に示した。
【0134】
<表面外観>
成形体の目視的観察により、表面にシルバーの発生が少しでも認められるものを×とし、全く認められないものを○と表示した。
【0135】
<電磁波シールド性>
電磁波シールド材評価器((株)アドバンテスト製、TR17301A)を用いて、周波数500MHzにおける成形体の電磁波シールド性(単位:dB)を測定した。
【0136】
<衝撃強度>
JIS K7111(ISO 179)に準拠し、成形体から縦80mm、横10mm、厚み4mmの射出成形試験片(ノッチなし)を切り出し、Charpy衝撃試験機((株)東洋精機製作所製、シャルピー衝撃試験機)を用いて、エッジワイズの衝撃を与え、破壊時の衝撃エネルギーを測定し、測定値から算出される衝撃強度(単位:kJ/m)を表示した。
【0137】
[実施例II−8及び比較例II−5]
実施例I−4及び比較例I−5にて得たペレット4及び9を、それぞれ、表2に示す熱可塑性樹脂、難燃剤等と表2に示す割合で混合し、単軸押出機(田辺機械社製、VS40)にて混練、押出してペレット化した。該ペレットを実施例II−1と同様の条件で射出成形し、同様に評価した。その結果を表2に示した。
【0138】
【表2】

【0139】
上記表2に示したとおり、実施例II−1〜II−8の成形体の表面にはシルバーの発生は見られず良好であった。一方、比較例II−1〜II−5の成形体の表面にはポリカーボネートの分解によるシルバーが発生し、表面外観が著しく劣化してしまい商品として用いることは出来ないことが判明した。
また、実施例II−1〜II−8の成形体の電磁波シールド性を評価は良好であり、更に衝撃強度も良好であった。一方、比較例II−1〜II−5の成形体の電磁波シールド性は良好であるが、衝撃強度の低下は避けられないことが判明した。
【0140】
表1、表2に示したとおり、繊維含浸用樹脂として、本発明の分子量となるよう調整されたポリカーボネート樹脂を用いれば、これを導電性繊維に充分含浸させて充分な強度を保持させることが出来るため、ペレット化することが出来た。
このものは、従来のように重合脂肪酸ポリアミドを用いないため、これをポリカーボネート樹脂に混合後、射出成形して得た成形体、あるいは溶融混練後に射出成形により得た成形体の強度の低下を防止しつつ、表面外観を良好に保つことができ、電磁波シールド性についても充分な性能を付与することができる。
【0141】
[実施例III−1〜III−3及び参考例III−1〜III−3]
表3に示す所定の連続繊維束と、表3に示す割合で配合されたPC及びPCオリゴマーからなる含浸用樹脂を用い、引抜成形されたストランドを表3に示す長さに切断したこと以外は、実施例I−1と同様にしてペレット(A/B)(ペレット10〜15)を得た。
【0142】
このときの押出結果を、得られたペレットの外観等から評価し、表3に示した。また、含浸用樹脂については、粘度平均分子量の測定値を表3に示した。
【0143】
【表3】

【0144】
[実施例IV−1〜IV−7及び参考例IV−1〜IV−7]
実施例III−1〜III−3及び参考例III−1〜III−3で得たペレット10〜12及び13〜15を、それぞれ表4に示す熱可塑性樹脂成分(P/PCペレット又はP/PC/ABCペレット)及び離型剤と表4に示す割合でブレンドし、タンブラーにて均一に分散させた後、単軸押出機(田辺プラスチックス機械製単軸押出機VS48−28型押出機)にてシリンダ温度290℃にて溶融させ、スクリュウ回転数80rpmにて混練し、ペレタイザーにて表4に示す所定のペレット長に切断して電磁波シールド用樹脂組成物を得た。
【0145】
得られたペレットを用い、それぞれ射出成形機(住友重機械工業社製、SH100、型締め力100T)を用いて、樹脂温度(パージ樹脂の実測温度):300℃、金型温度:60℃、射出圧力:147MPa、金型:縦100mm、横100mm、厚み2mmの条件で射出成形して電磁波シールド性用樹脂成形体を得た。
【0146】
上記電磁波シールド用樹脂組成物のペレットを製造する際の安定生産性、射出成形時の計量性を以下のようにして評価し、結果を表4に示した。また、得られた射出成形体について、次のようにして電磁波シールド性を測定し、その評価結果を表4に示した。
【0147】
<安定生産性>
溶融、混練して電磁波シールド用樹脂組成物のペレットを製造するにあたり、押出開始後1時間以内に押出機内で繊維が絡まり閉塞する場合があるものを「×」とし、閉塞せず、安定して生産できた場合を「〇」と評価した。
【0148】
<射出成形時の計量性>
電磁波シールド用樹脂組成物のペレットを射出成形するにあたり、ペレットがスクリュウに食い込まずに計量できない場合や、計量時間が8秒を超えてしまい著しく長い成形サイクルが必要となる場合を「×」と評価し、計量時間が8秒以下で問題なく計量できる場合を「〇」と評価した。
【0149】
<電界シールド性>
アドバンテスト社製EMIシールド測定装置を用いて周波数200MHzの電界シールド性を測定した。
【0150】
【表4】

【0151】
表4に示した結果から、以下のことが分かる。
実施例IV−1〜IV−7の電磁波シールド用樹脂組成物は、押出生産性、成形生産性、電磁波シールド性のバランスに優れている。
参考例IV−1,2は繊維/樹脂複合組成物ペレットの長さが6mmと充分であるが、電磁波シールド用樹脂組成物ペレットの長さが約1.8mm程度と短い為、実施例IV−1,3に比べ各々電磁波シールド性が5dB程度低下してしまう。逆に、参考例IV−4は電磁波シールド用樹脂組成物ペレットの長さは6mmと充分であるが、繊維/樹脂複合組成物ペレットの長さが2mmと短いため電界シールド性が大きく低下した。参考例IV−5は繊維/樹脂複合組成物ペレット及び電磁波シールド用樹脂組成物ペレットが共に本発明より短いため、電磁波シールド性が著しく低いことが分かる。このように、繊維/樹脂複合組成物ペレットの長さと電磁波シールド用樹脂組成物ペレットの長さが共に本発明の好適範囲の長さにないと十分な電磁波シールド性が得られないことが分かる。繊維/樹脂複合組成物ペレットも電磁波シールド用樹脂組成物ペレットも短い参考例IV−7は電磁波シールド性が非常に悪い。
また、参考例IV−3の通り、電磁波シールド用樹脂組成物のペレット長を長くすると、射出成形時の計量時間が長くなり、成形サイクルが著しく伸びるため成形体の製造コストが高くなるという問題が生じたり、計量できず成形できないという問題が生じる場合もある。
また、参考例IV−6の通り、繊維/樹脂複合組成物ペレットの長さが10mmを超えると、吐出率が変動してストランドの切れが頻発するなど安定的生産が困難となり、更に溶融混練工程にて時間の経過につれ押出機内で繊維が徐々に絡まるため、長時間混練していると閉塞する場合もある。仮りに、電磁波シールド用樹脂組成物が得られたとしても、実施例IV−1の値と比較して実施例IV−5の電磁波シールド性は大きく変わらず、繊維/樹脂複合組成物の長さを10mmより長くする利点がない事が分かる。
【産業上の利用可能性】
【0152】
本発明によれば、優れた電磁波遮蔽効果を有し、かつ外観に優れ、衝撃強度も改良された電磁波シールド性樹脂成形体を提供することができる。この電磁波シールド性樹脂成形体は、電子機器の筐体を始め、電磁波遮蔽を必要とする幅広い産業分野で好適に用いることができ、その奏する工業的効果は格別なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属繊維、炭素繊維及び金属コート非金属繊維から選ばれる少なくとも1種の導電性繊維(B)の長繊維束と、粘度平均分子量7,000〜13,000のポリカーボネート樹脂(A)とを含み、
前記長繊維束の繊維径が1〜50μmであり、
前記長繊維束に、前記ポリカーボネート樹脂(A)を含浸させてなることを特徴とする電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレット。
【請求項2】
前記ポリカーボネート樹脂(A)が、粘度平均分子量14,000〜18,000のポリカーボネート樹脂100質量部に対して、粘度平均分子量1000〜10000のポリカーボネートオリゴマー50〜300質量部を配合してなることを特徴とする請求項1に記載の電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレット。
【請求項3】
前記導電性繊維(B)の長繊維束が、長繊維を5,000〜35,000本収束してなることを特徴とする請求項1又は2に記載の電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレット。
【請求項4】
ペレットの長さが2〜15mmであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレット。
【請求項5】
ペレットの長さが4〜10mmであることを特徴とする請求項4に記載の電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレット。
【請求項6】
前記導電性繊維(B)が、ステンレス繊維、アルミニウム繊維、銅繊維及び黄銅繊維から選ばれる少なくとも1種の金属繊維であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレット。
【請求項7】
前記金属コート非金属繊維が、ガラス繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維及び炭素繊維から選ばれる少なくとも1種の非金属繊維の表面を、金、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、コバルト、鉄、亜鉛、錫及びこれらの金属の1種以上を含む合金から選ばれる少なくとも1種の金属で被覆してなることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレット。
【請求項8】
連続した導電性繊維(B)の繊維束を、前記ポリカーボネート樹脂(A)の含浸処理ゾーンに通過させ、さらに切断してなるペレットであることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレット。
【請求項9】
前記導電性繊維(B)の含有量が20〜80質量%であることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレット。
【請求項10】
熱可塑性樹脂(C)と、請求項1ないし9のいずれかに記載の電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレットとを含むことを特徴とする電磁波シールド用樹脂組成物。
【請求項11】
熱可塑性樹脂(C)100質量部に対する請求項1ないし9のいずれかに記載の電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレットの含有量が3〜300質量部であることを特徴とする請求項10に記載の電磁波シールド用樹脂組成物。
【請求項12】
熱可塑性樹脂(C)のペレットと、請求項1ないし9のいずれかに記載の電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレットとを混合してなるペレット混合物であることを特徴とする請求項10又は11に記載の電磁波シールド用樹脂組成物。
【請求項13】
熱可塑性樹脂(C)と請求項1ないし9のいずれかに記載の電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレットとを溶融混練してなる溶融混練物であることを特徴とする請求項10又は11に記載の電磁波シールド用樹脂組成物。
【請求項14】
熱可塑性樹脂(C)と、請求項1ないし9のいずれかに記載の電磁波シールド用繊維/樹脂複合組成物ペレットとを混合してペレット化してなるペレットであることを特徴とする請求項10又は11に記載の電磁波シールド用樹脂組成物。
【請求項15】
前記ペレットの長さが2.5〜15mmであることを特徴とする請求項14に記載の電磁波シールド用樹脂組成物。
【請求項16】
前記ペレットの長さが5.1〜13mmであることを特徴とする請求項15に記載の電磁波シールド用樹脂組成物。
【請求項17】
前記熱可塑性樹脂(C)が、芳香族ポリカーボネート樹脂を含むことを特徴とする請求項10ないし16のいずれかに記載の電磁波シールド用樹脂組成物。
【請求項18】
前記熱可塑性樹脂(C)が、粘度平均分子量14,000〜30,000の芳香族ポリカーボネート樹脂又は該芳香族ポリカーボネート樹脂とABS樹脂とのアロイであることを特徴とする請求項17に記載の電磁波シールド用樹脂組成物。
【請求項19】
請求項10ないし18のいずれかに記載の電磁波シールド用樹脂組成物を成形してなることを特徴とする電磁波シールド用樹脂成形体。

【公開番号】特開2012−236944(P2012−236944A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107915(P2011−107915)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【出願人】(000222118)東洋インキSCホールディングス株式会社 (2,229)
【出願人】(711004506)トーヨーケム株式会社 (17)
【Fターム(参考)】