説明

電磁波シールド用金属繊維シート

【課題】 電気・電子部品、特にフレキシブルプリント配線基板の表面に貼着されている従来の電磁波シールド用金属繊維シートの欠点、すなわち高温・高湿の環境下において接着剤中の樹脂が空気中の酸素により酸化され、品質が劣化して接着力が低下するという欠点を改良し、高温・高湿の環境下にいても接着剤中の樹脂が空気酸化されない電磁波シールド用金属繊維シートを提供すること。
【解決手段】 熱硬化型導電性接着剤〔熱硬化型樹脂(エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂等)、ゴム成分(アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ブタジエンゴム、天然ゴム等)、導電性フィラー(カーボンブラック等)、酸化防止剤(フェノール系、硫黄系、リン系等)を含有し、酸化防止剤の含有量がゴム成分の2〜25重量%〕を金属繊維シートに含浸、充填またはその少なくとも一面に積層した電磁波シールド用金属繊維シート。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電気・電子部品、特にフレキシブルプリント配線基板(FPC)に装着するための電磁波シールド用金属繊維シートに関する。
【0002】
【従来の技術】最近のノートサイズパソコンは多機能、高性能化とともに、小型、薄型化の傾向にある。それに伴い、本体と画面を結ぶインターフェイスケーブルはFPCの方式が使われ始めている。しかし、金属繊維シートに付いている熱硬化型導電性接着剤は、製造時および使用時に高温・高湿の環境下において、接着剤中の樹脂が空気中の酸素により酸化劣化を受け、品質低下を引起こす場合がある。具体的には、酸化劣化が進行するとFPCとの接着力が低下して屈曲に耐えられなくなったり、電気抵抗が不安定になったりして、フレキシブルプリント配線基板が安定した電磁波シールド機能を発揮するには不十分である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】電磁波シールド機能を有する金属繊維シートと接着剤との複合材を貼り合わせたFPCを、ハンダリフロー工程のように高温条件に晒した製造工程を経て、搭載したノートサイズパソコンが、長期高温・高湿での使用に耐えて過酷な熱履歴を経た後でも、屈曲性および電気抵抗値が安定して持続するための電磁波シールド材の適用が必要である。本発明は、製造工程あるいは電気製品使用時の高温・高湿下の環境条件において、酸化劣化に耐えるシールド材を提供することを目的としている。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は、湿式抄造で製造した金属繊維シートに、ゴム成分に対して2〜25重量%の酸化防止剤を配合した熱硬化型導電性接着剤を含浸、充填、又はその少なくとも一面に積層してなることを特徴とする電磁波シールド用金属繊維シートである。本発明の電磁波シールド用金属繊維シートは、接着剤が高温・高湿環境に耐え、FPCの保護層のポリイミド系フィルムに対する接着力が強く、屈曲性、電気抵抗が安定に持続するという特色を有する。
【0005】本発明の電磁波シールド用金属繊維シートの製造に用いられる金属繊維シートは、金属繊維を含有するスラリーを湿式抄紙法によりシート化した金属繊維高配合シートを、金属繊維の融点を超えない温度に加熱して繊維間を焼結することにより得られる。金属繊維を含有するスラリーとしては、金属繊維を70重量%以上含有し、さらに結着用繊維を含有するスラリーが好ましい。金属繊維としては、ステンレス繊維、チタン繊維、ニッケル繊維、真鍮繊維、銅繊維、アルミニウム繊維、あるいはこれらの複合金属繊維などが使用できる。細線加工性、耐熱性、耐錆性の点ではステンレス繊維が好ましい。金属繊維の繊維径は1〜20μm、好ましくは4〜10μmであり、繊維長は1〜10mm、好ましくは2〜6mmである。結着用繊維としては、例えば水中溶解温度40〜100℃の易溶解性ポリビニルアルコール繊維が好ましい。金属繊維シートの坪量は、20〜800g/m2 、好ましくは30〜500g/m2 である。また、空隙率は50〜93%である。空隙率が50%より低いと、シートの密度が高くなり、柔軟性が低下して取扱性を損なうおそれがあり、93%より高くなるとシートを構成する繊維の本数が少なくなり、シートの強度や電磁波シールド性能が低下しやすい。
【0006】この金属繊維を含有するスラリーを湿式抄紙法により脱水プレスおよび加熱乾燥して金属繊維高配合シートを作製する。次いで金属繊維高配合シートを、低抵抗でかつ金属繊維表面の酸化防止と還元効果を向上させるために、乾燥した水素ガス雰囲気下で、金属繊維の融点を越えない温度に加熱して繊維間を焼結することにより金属繊維シートが得られる。ここで低抵抗とは後記の接着剤との貼り合わせシートで、150mm×5mmの短冊状の接着剤側の抵抗値が20Ω以下の場合をいう。焼結温度は金属繊維の融点近くの温度、例えばステンレス繊維の場合は約1200℃である。ステンレス繊維を連続焼結炉で焼結する場合は、約1200℃の温度で100〜700mm/minの線速度で焼結することができる。焼結は水素ガスと不活性ガス例えば窒素ガス、アルゴンガスの混合ガス雰囲気下で行ってもよい。もし、比較的高抵抗でもよい場合には、上記の焼結工程を省いてもよい。ここで高抵抗とは後記の接着剤との貼り合わせシートで、150mm×5mmの短冊状の接着剤側の抵抗値が20Ω以上の場合をいう。さらに、金属繊維としてステンレス繊維を用いた場合、金属繊維シートの繊維表面に、Al,Au,Pt,Ag,Cu,Niなどの異金属を電解又は無電解メッキによって薄膜を付け、電気伝導度を高めてもよい。
【0007】金属繊維シートに含浸・充填または積層する熱硬化型導電性接着剤は、ゴム成分、バインダー樹脂、酸化防止剤および導電性フィラーを含有する。ゴム成分としては、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(NBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(BR)、エチレン−プロピレンゴム(EPM,EPDM)、アクリルゴム(ACM,ANM)、ウレタンゴム(AU,EU)等の合成ゴムや天然ゴムを使用できるが、なかでも加硫後の物性すなわち、耐寒性、耐油性、耐老化性、耐摩擦性及び衝撃緩和性があり、低コストの観点よりアクリロニトリル−ブタジエン共重合体(NBR)が好適である。アクリロニトリル−ブタジエン共重合体としては、分子量5〜100万、好ましくは10〜50万のものが使用される。バインダー樹脂としては、エポキシ、フェノール、ポリイミドなどの熱硬化型樹脂が好ましい。
【0008】ゴム成分、特にアクリロニトリル−ブタジエン共重合体100重量部に対して、バインダー樹脂を20〜500重量部配合することにより、適当な硬度と接着力を有するものが得られる。バインダー樹脂が20重量部未満では、配合物に接着剤が不十分であり、500重量部を超えると、ゴム成分が少なすぎて固くなりすぎる。
【0009】導電性フィラーは熱硬化型導電性接着剤に導電性を付与するために添加する。導電性フィラーとしては、Au,Pt,Pd,Ag,Cu,Niなどの金属粉の他、カーボンブラック、グラファイト、およびこれらの混合粉などが使用できる。また、フェライト粒子を混ぜて磁性界遮蔽対策を施してもよい。導電性フィラーの含有量は、ゴム成分とバインダー樹脂の総量100重量部に対して、1〜100重量部が好ましい。導電性フィラーが1重量部未満ではフィラーの添加効果が不十分であり、100重量部を超えると導電性フィラーが多過ぎて、金属繊維層に含浸し難くなり、また積層しても接着しにくくなる。また、臭素系、リン系、酸化アルミ系などの難燃化剤を配合して難燃性を付与してもよいまた、バインダー樹脂中には潜在性硬化剤を添加してもよい。潜在性硬化剤としては、2−エチル−4(5)メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−イソブチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4(5)−メチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−メチルイミダゾールアジン、2−ウンデシルイミダゾール等のイミダゾール類が使用される。
【0010】熱硬化型導電性接着剤中のゴム成分及びバインダー樹脂は、主として空気中の酸素により酸化劣化を受け、品質低下を起こすので、これを防ぐため酸化防止剤を添加する。酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等が使用される。フェノール系酸化防止剤としては、2,6−ジ−t−ブチル−p−ケレゾール、ブチル化ヒドロキシアニゾール、2,6−ジ−ブチル−4−エチルフェノール、ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)プロピオネート、2,2′−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2′−メチレン−ビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4′−チオビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4′−ブチリデンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス−(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス〔メチレン−3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、ビス〔3,3′−ビス−(4′−ヒドロキシ−3′−t−ブチルフェニル)ブチリックアシッド〕グリコールエステル、トリコフェノールなどがあげられる。
【0011】硫黄系酸化防止剤としては、ジラウリルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、リン系酸化防止剤としては、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、4,4′−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシルホスファイト)、トリス(ノニル・フェニル)ホスファイト、ジイソデンシルペンタエリスリトールジフホスファイト、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキサイド、10−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキサイド、10−デシロキシ−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレンナドガ挙げられる。酸化防止剤の含有量は、ゴム成分とバインダー樹脂の総量100重量部に対して0.1〜100重量部、好ましくは1〜100重量部である。酸化防止剤の含有量が0.1重量部未満では酸化防止効果が不十分であり、10重量部を超えると接着剤としての働きが低下する。
【0012】金属繊維シートに熱硬化型導電性接着剤を含浸又は充填させるためには、通常の塗工機又は含浸機にて接着剤を塗布又は含浸したのち、乾燥すればよい。一方、熱硬化型導電性接着剤を金属繊維シートに積層するためには、剥離用フィルム例えばポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに接着剤を塗布、乾燥して接着剤層を形成し、次いで金属繊維シートを接着剤層の表面に重ね合わせ加熱圧着すればよい。加熱圧着温度は、バインダー樹脂の種類(熱硬化性,熱可塑性)、融点などを考慮して設定することが好ましい。バインダー樹脂が熱硬化性の場合は半硬化の状態に調整する。接着剤層の厚さは10〜60μm、特に15〜45μmが好ましい。このようにして作成されたシールド材をFPCに重ね、加圧圧着することにより貼り付けることができる。
【0013】
【実施例】実施例1ゴム成分含有接着剤として下記の熱硬化型導電性接着剤を用いた。なお、「部」は「重量部」を意味する。
・ビスフェノールA型レゾールフェノール樹脂 60部・アクリロニトリル−ブタジエン共重合体 40部・酸化防止剤 1部・カーボンブラック 50部上記の接着剤をメチルエチルケトン(MEK)400部とメチルイソブチルケトン(MIBK)100部からなる混合溶媒に分散し、この分散液を剥離用ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に塗布し、熱風循環型乾燥器で150℃、3分間乾燥し、ゴム成分含有接着剤フィルムを得た。なお、分散液の塗布量は、乾燥後の接着剤の厚さが30μmとなるように調製した。一方、繊維径8μm、繊維長5mmのステンレス繊維75部と結着用繊維(クラレ社製,商品名:クラレビニロンフィブリッドVPA)25部をスラリー化したものを湿式抄造して金属繊維高配合シートを作成し、さらにこれを焼結することによりステンレス繊維シートからなる金属繊維層を作成した。この金属繊維層は坪量50g/m2 、空隙率78%、厚み35μmであった。上記のPETフィルの表面のゴム成分含有接着剤層と金属繊維層とを熱ラミネーターを使用して、ラミスピード1m/min、温度100℃の条件で貼り合わせた。なお、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体としては、Mwが62000,Mw/Mnが12.29の共重合体(日本ゼオン社製、商品名:NIPOL1001)を使用した。また、ビスフェノールA型レゾールフェノール樹脂としては昭和高分子工業社の製品(商品名:CKM-908 )を使用し、酸化防止剤としては、テトラエステル型高分子量ヒンダードフェノール[テトラキス−〔メチレン−3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン](旭電化社製、商品名:アデカスタブAO-60 )を使用し、カーボンブラックとしてはアセチレンブラック(吸油量125ml/100g,電気化学工業社製、商品名:デンカブラックHS−100)を使用した。この剥離用PETフィルムが裏打ちされた接着剤層付き金属繊維シートが電磁波シールド材である。その後、FPC表面の絶縁層(ポリイミドフィルム)に剥離用PETフィルムを貼り付け、150℃、20kg/cm2 で1時間加熱圧着して硬化させてシールド層を作った。
【0014】実施例2実施例1のゴム成分含有接着剤中の酸化防止剤の量を5部とした以外は実施例1と同様にしてサンプルを作成した。
実施例3実施例1のゴム成分含有接着剤中の酸化防止剤の量を10部とした以外は実施例1と同様にしてサンプルを作成した。
比較例1実施例1のゴム成分含有接着剤中の酸化防止剤の量を0部とした以外は実施例1と同様にしてサンプルを作成した。
比較例2実施例1のゴム成分含有接着剤中の酸化防止剤の量を20部とした以外は実施例1と同様にしてサンプルを作成した。
【0015】<特性の評価>〔ピール強度〕実施例1〜3及び比較例1〜2で得られた金属繊維シートとFPC表面のポリイミドフィルムとの積層体を、125℃の雰囲気中に、336時間放置した後、該積層体の試料を10mm幅にカットしてテンシロン万能型抗張力試験機を用いて50mm/分の速度で90°方向に引剥がし測定した。
〔表面電気抵抗〕実施例1〜3及び比較例1〜2で得られた金属繊維シートを5mm×150mmの寸法にカットし、一方、予め同じ寸法にカットしたポリイミドフィルムに60mm間隔で直径5mmの穴をあけておき、これを該金属繊維シートに積層した後、穴間の直流抵抗をサンワ社製の〔MULTITESTER SP-15D〕を用いて測定した。その結果を表1に示す。ピール強度が0.5kgf/cm以下であると、ノートパソコンの耐屈曲性に合格せず、また、電気抵抗が100Ω以上であると、電磁波シールド特性が極端に悪くなる。表1に示すように、実施例1〜3の試料はピール強度が0.8kgf/cm以上、電気抵抗が100Ω以下で合格であるが、比較例1、2の試料は不合格である。
【0016】
【表1】


【0017】
【発明の効果】本発明の電磁波シールド用金属繊維シートは、高温・高湿下の環境条件でも、接着樹脂の酸化による品質劣化が少ないので、FPCとの接着力を長期間維持することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 湿式抄造で製造した金属繊維シートに、ゴム成分に対して2〜25重量%の酸化防止剤を配合した熱硬化型導電性接着剤を含浸、充填、又はその少なくとも一面に積層してなることを特徴とする電磁波シールド用金属繊維シート。
【請求項2】 金属繊維シートが繊維長1〜10mm、繊維径1〜20μmからなる未焼結又は焼結した坪量30〜500g/m2 のシートであることを特徴とする請求項1に記載の電磁波シールド用金属繊維シート。
【請求項3】 金属繊維シートの空隙率が50〜93%であることを特徴とする請求項1に記載の電磁波シールド用金属繊維シート。
【請求項4】 熱硬化型導電性接着剤がゴム成分、酸化防止剤、フェノール樹脂及びカーボンブラックを含有することを特徴とする請求項1に記載の電磁波シールド用金属繊維シート。
【請求項5】 ゴム成分がアクリロニトリル−ブタジエン共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の電磁波シールド用金属繊維シート。
【請求項6】 酸化防止剤がフェノール系酸化防止剤であることを特徴とする請求項1に記載の電磁波シールド用金属繊維シート。
【請求項7】 熱硬化型導電性接着剤が、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体100重量部に対するフェノール樹脂の割合が20〜500重量部であり、且つアクリロニトリル−ブタジエン共重合体とフェノール樹脂の総量100重量部に対する酸化防止剤の割合が1〜10重量部であることを特徴とする請求項1に記載の電磁波シールド用金属繊維シート。

【公開番号】特開2000−277978(P2000−277978A)
【公開日】平成12年10月6日(2000.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−79877
【出願日】平成11年3月24日(1999.3.24)
【出願人】(000153591)株式会社巴川製紙所 (457)
【Fターム(参考)】