説明

電磁波伝搬媒質

【課題】位相応答を広帯域とするとともに、より積極的に制御することのできる電磁波伝搬媒質を提供する。
【解決手段】入力された電磁波を伝搬する電磁波伝搬媒質であって、基材と、基材において電磁波の伝搬方向に並べられた複数の伝搬ユニットと、を備え、複数の伝搬ユニットにおける電磁波の伝搬特性は、特定の周波数帯域の電磁波に対する位相応答が所定の範囲内に入るように、少なくとも隣り合う伝搬ユニットにおいて互いに異なる。伝搬ユニットは、基材に伝送線路を形成するように、電磁波の伝送方向に並べられた複数の伝送ユニットとすることができ、複数の伝送ユニットは、それぞれ、電磁波の伝搬特性としての遮断周波数を有する。また、伝搬ユニットは、基材において、電磁波の伝送方向に並べられた複数の共振器とすることもでき、複数の共振器は、それぞれ、電磁波の伝搬特性としての共振周波数を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波伝搬媒質に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、メタマテリアルと呼ばれる人工構造媒質に注目が集まり、盛んに研究開発が進められている。メタマテリアルは、人工構造媒質に加え、自然界の物質には見られない電磁気学的(光学的)特性を示すことが見出されつつある。例えば、負の屈折を示す媒質(左手系媒質)である。
【0003】
ここで、負の屈折を示す媒質(左手系媒質)とは、文字通り屈折率nが負の物質であるが、より本質的には誘電率εと透磁率μが負であることを意味する。元々、屈折率は次式で定義される2次的な物理量であり、根号をとる際の符号は数学的にではなく物理的要請(因果律)によって決まり、通常は実部が正値をとる。
【0004】
【数1】

【0005】
しかし、誘電率εと透磁率μがともに負の場合には、因果律は屈折率が負であることを要請する。一方、Maxwell方程式において誘電率εと透磁率μとがともに負となると、同じ電界ベクトルと同じ磁界ベクトルに対して波数ベクトルが反転するので、電界ベクトル、磁界ベクトルおよび波数ベクトルがこの順に左手系(通常は右手系)を構成するようになる。こうした関係により、「負の屈折」と「左手系」はほぼ同義と考えてよい。
【0006】
負の屈折に関しては1960年代に理論的な考察が行われているが、これを実現する手段(材料)がなかったため、注目されなかった。1990年代後半に、人工的な周期構造体によって負の誘電率や負の透磁率を得ることができるようになったが、これらがメタマテリアルの原型と考えられる。その後、負屈折率物質による理想的な結像には回折限界がないこと(いわゆる「完全レンズ」)が理論的および実験的に示され、負の屈折やメタマテリアルがにわかに注目されるようになった。
【0007】
また、メタマテリアルに固有の物理現象として、透明マントやゼロ次共振といったものが見出されており、これらも「自然界の物質には見られない特性」と考えることができる。
【0008】
上述の完全レンズの提案以来、数多くのメタマテリアル構造が提案されているが、2つのカテゴリーに概ね分類される。1つは「共振器型メタマテリアル」と呼ばれるもので、微細構造中での電磁波の共鳴現象を利用して、負の誘電率や負の透磁率を実現するものである。構造が単純であるため、可視光域での試作も行われているが、共鳴現象を利用するために狭帯域であり吸収による損失が避けられない。
【0009】
2つめのカテゴリーは「伝送線路型メタマテリアル」と呼ばれるもので、マイクロ波工学の領域で従来から知られている伝送線路を基礎としている(例えば非特許文献1)。伝送線路型メタマテリアルでは、広帯域かつ低損失のメタマテリアルを実現可能であるが、構造が複雑なのが難点である。
【0010】
メタマテリアルは前述のように左手系を示すことから、従来の材料やデバイスでは実現が難しかったアプリケーションがいろいろと検討されている。例えば、電気的長さ(光路長)の絶対値が等しい右手系媒質と左手系媒質を縦続接続すると、電磁波(光)から見たデバイスの長さをゼロとすることができる。つまり、物理的には媒質が存在しているのに、電磁波の伝搬という意味では空間自体が存在しないことになる。この状態で共振するようなデバイス(共振器、アンテナなど)を作れば、「0次共振」で動作するので、理論上は物理的長さに依存しない共振器(超小型アンテナなど)が可能となる。
【0011】
一般的には、デバイスの電気的長さが短いほど、その応答は広帯域(低分散)となるので、0次共振器は超広帯域と想像されるが、これは誤った認識である。電気的長さがゼロとは言っても、長さが正の線路と負の線路をつないでいるだけであるため、全体の分散を議論する際には双方の分散を考えなければならないからである。つまり、「一般的に電気的長さが短いほど広帯域」というのは、位相がほとんど回らない(遅延しない)から周波数が多少変化してもやはり回らないということを言っているにすぎない。しかしながら、ゼロ次共振器の場合には、正の屈折を示す右手系媒質内で生じる遅延と、負の屈折を示す左手系媒質内で生じる先進とが、周波数を変えても等しいかどうかまでは保障されていない。
【0012】
こうした議論をするには、図28に示す分散ダイアグラムが参考になる。図28は、横軸に位相遅延(または位相定数)を、縦軸に周波数をとって、分散ダイアグラムを示す図である。電磁波の伝搬を表す状態は周波数の低いほうから順に、左手系の通過バンド(周波数fLを含む)、バンドギャップ(周波数fGを含む)、および右手系の通過バンド(周波数fRを含む)に分類される。群速度の向きを基準に考えれば、左手系の通過バンドでは位相遅延が負となるので、右手系および左手系の通過バンドで伝搬を許される状態(モード)は太線で示した領域となる。図28から明らかなように、右手系・左手系を問わず、周波数とともに位相遅延が増大するので、0次共振器を非分散とすることはできない。
【0013】
ここで、左手系媒質中では、位相速度と群速度が反対向きとなる。例えば右手系媒質から左手系媒質へ入射する際、エネルギーの流れが概ね群速度に対応することから、位相速度が反転することになる。これは前へ進むほどに電磁波の位相が進む(普通は遅れる)ことに相当する。つまり、右手系媒質中で与えられた位相遅延が、左手系媒質中で補償されて、全体として長さがゼロに見えるということになる。
【0014】
例えば、電磁波の干渉を利用する技術では、電磁波の進行経路上にミラーなどの反射面を配置し、進行波と反射波を空間的に重畳させることで干渉パターンを形成させる。体積ホログラムへの記録などは、この例に含まれる。反射面から一定の距離dの位置に強度の強い領域(つまり定在波の腹)が形成され、これを利用して感光剤への記録を行うことになる。また、マイクロ波工学の分野では、マイクロストリップ線路によって各種アンテナへの給電がよく行われる。このときも、マイクロストリップ線路の開放端あるいは短絡端を上記ミラーに例えれば、同様の干渉パターンが形成されることになり、その強度の強い位置をアンテナ側への給電点とすることで高効率の給電を実現している。
【0015】
ここで、周波数応答について説明する。
電磁波又はその伝搬を特徴づける物理量として、周波数と波数があり、周波数は電磁界の時間的な振動を、波数は電磁界の空間的な変化をそれぞれ表す。空間的な変化を表す量として波長を用いることも多いが、波数と波長は互いに反比例する関係にある。レーザー媒質などの利得媒質や非線形光学材料は別にして、通常の線形かつ受動的な媒質中では、電磁波の周波数が変化しない。一方、電磁波の波数は媒質によって変化するため、波数や波長は電磁波に固有の物理量ではない。
【0016】
電磁波の周波数と、これが媒質中を伝搬する際の波数との関係は、いわばその媒質の電磁波応答を表しており、分散関係と呼ばれる。一方、特に光学の領域では屈折率の波長依存性を分散と呼んだり、誘電率の周波数依存性を誘電分散と呼んだりする。上記の分散関係を数式で表現すればω=ω(k)(ωは角振動数で、周波数に2πを乗じたもの)ということになるが、真空中では光速度をcとしてω=ckの関係があるので、これに合わせてω=(c/n)kと表現し、屈折率nを定義している。
【0017】
空気や光学材料において、ωとkは近似的に比例関係にあるものの、厳密には比例関係からずれるので、屈折率nが角振動数ωに依存することになる。
【0018】
以上は媒質中を伝搬する電磁波を特徴づけるための議論であるが、実際の媒質やデバイスには物理的な大きさや構造があるので、これらを考慮して電磁波に対する応答を表現する必要がある。例えば、同じ屈折率、同じ分散関係をもつ媒質であっても、それを通過する際の位相遅延(以後、位相応答と呼ぶ)は媒質の大きさに比例し、電磁波の周波数に比例する。
【0019】
つまり、媒質(デバイス)の大きさが決まっていて、仮に屈折率が周波数に依存しないとしても、位相応答は周波数が高いほど大きいことになる。このような位相応答は、電磁波が通過する領域の物理的な長さと屈折率との積に等しいことになるが、この積を光学分野では光路長、マイクロ波の分野では電気長と呼んでいる。デバイスの位相応答が広帯域である、すなわち周波数に依存しないということは、光路長(電気長)が周波数に依存しないことを意味し、屈折率が周波数に依存しないということよりはるかに難しい。
【0020】
電磁波や光の位相応答が周波数によって変化しない媒質(デバイス)ができたとして、これが有益となる応用例としてマイクロストリップ給電型スロットアンテナ(図29)がある。ここで、図29は、マイクロストリップ給電型スロットアンテナの構成例を示す斜視図である。
【0021】
図29に示すマイクロストリップ給電型スロットアンテナ900は基板910(導体板)にスロット911(開口)を設け、スロット911を介して、電磁波を、外部へ送信(放射)又は外部から受信するものである。送信と受信のプロセスは電磁波の伝搬方向が逆向きとなるだけの違いしかないので、ここでは送信つまり放射のプロセスについて説明する。
【0022】
スロット911から電磁波を放射させるためには、エネルギーをなんらかの方法でスロット911へ供給する必要がある。この目的のために、導波管の間壁にスロットを設けて導波管内を伝搬する電磁波の一部を放射させる方法や、スロットに対向する面に同軸線路を設けて給電を行う方法などが考えられる。図29に示すマイクロストリップ線路920による給電も同じ目的のために利用されている方法である。
【0023】
図29に示すマイクロストリップ給電型スロットアンテナ900では、誘電体からなる基板910上に銅などの金属からなるマイクロストリップ線路920を設け、この線路の一方を電力入力用の入力ポート921aとし、他方を開放終端921bとする。基板910の裏面には銅などの金属からなるグラウンド板912が貼付されている。グラウンド板912の一部は、矩形状にくり抜かれてスロット911とされている。
【0024】
入力ポート921aへ入射した電磁波は、開放終端921bにおいて反射されて、定在波を形成する。基板910内部における電磁波の波長をλとすると、開放終端921bから約λ/4の位置において電流値が最大(つまり定在波の腹)となる。したがって、この位置にスロット911を設けると高い放射効率を得ることができる。
【0025】
【非特許文献1】A. Lai et al.「IEEE Microwave Magazine, September」(pp.34−50) 2003年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
しかしながら、上記の電磁波の干渉を利用する技術における、反射面からの距離dは当然のことながら周波数に依存するため、なんらかの要因で周波数が変化すれば、最もよく感光する位置やアンテナ効率が変化してしまう。デバイス全体の分散に由来する、こうした誤差要因は、デバイスの動作精度や広帯域性を確保する上で障害となる。
【0027】
したがって、位相応答を広帯域(非分散)とすることができれば、高周波デバイスや光学素子の性能を飛躍的に向上することが可能となる。さらに、位相応答をより積極的に制御することができれば、従来では考えられなかった機能を付加することが可能となる。そこで、本発明の目的は、位相応答を広帯域(非分散)とするだけでなく、より積極的に制御することのできる電磁波伝搬媒質を提供することにある。
【0028】
また、図29に示すマイクロストリップ給電型スロットアンテナ900では、開放終端921bとスロット911との位置関係が固定されているため、入力ポート921aから供給される電磁波の周波数が変化すると、開放終端921bとスロット911との間の距離がλ/4ではなくなり、放射効率が低下する。つまり、このマイクロストリップ給電型スロットアンテナ900は狭帯域の動作しかできないと言える。
【0029】
このような問題を解決するためには、周波数によって位相応答が変化しないデバイスを実現し、マイクロストリップ線路920のうち、スロット911から先の部分(長さλ/4の部分)をこのデバイスで置き換えればよい。こうすると、入射電磁波と反射電磁波で形成される定在波の腹は周波数によって移動しないようになり、この腹の位置にスロット911を設ければ、周波数が変化しても高い放射効率を維持できる広帯域スロットアンテナを実現することが可能となる。
【0030】
よって、本発明のさらなる目的は、周波数によって位相応答が変化しない電磁波伝搬媒質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0031】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る電磁波伝搬媒質は、入力された電磁波を伝搬する電磁波伝搬媒質であって、基材と、基材において電磁波の伝搬方向に並べられた複数の伝搬ユニットと、を備え、複数の伝搬ユニットにおける電磁波の伝搬特性は、特定の周波数帯域の電磁波に対する位相応答が所定の範囲内に入るように、少なくとも隣り合う伝搬ユニットにおいて互いに異なることを特徴としている。
【0032】
本発明に係る電磁波伝搬媒質において、電磁波伝搬媒質は、複数の伝搬ユニットの一端に電磁波を入力する入力ポートを備えるとともに、複数の伝搬ユニットの他端側に開放終端を備えることが好ましい。
【0033】
本発明に係る電磁波伝搬媒質において、伝搬ユニットは、基材に伝送線路を形成するように、電磁波の伝送方向に並べられた複数の伝送ユニットであり、複数の伝送ユニットは、それぞれにおける前記電磁波の伝搬特性としての遮断周波数を有することが好ましい。
【0034】
本発明に係る電磁波伝搬媒質において、複数の伝送ユニットは、隣り合う伝送ユニットとの間に容量性の結合を形成するように、それぞれ配置されることが好ましい。
【0035】
本発明に係る電磁波伝搬媒質において、複数の伝送ユニットは、電磁波を伝送可能なスタブを備えることが好ましい。
【0036】
本発明に係る電磁波伝搬媒質において、伝送線路は、基材の上下両面の一方の面に形成され、グラウンド部は、基材の上下両面の他方の面において、伝送線路と離間して形成され、基材の厚さ方向にビア導体を貫通することによって、伝送線路とグラウンド部間を電磁波が伝送可能に接続することが好ましい。
【0037】
本発明に係る電磁波伝搬媒質において、複数の伝送ユニットは、各伝送ユニットが有する遮断周波数が所定規則で並ぶように配置されることが好ましい。
【0038】
本発明に係る電磁波伝搬媒質において、伝送線路は、互いに異なる遮断周波数を備える2種類の伝送ユニットを交互に配置してなることが好ましい。
【0039】
本発明に係る電磁波伝搬媒質において、複数の伝送ユニットは、各伝送ユニットが有する遮断周波数がすべて異なることが好ましい。
【0040】
本発明に係る電磁波伝搬媒質において、遮断周波数は、コンデンサの容量、スタブの形状、ビア導体の形状のうちの少なくとも1つを変更することによって設定することが好ましい。
【発明の効果】
【0041】
本発明に係る電磁波伝搬媒質は、位相応答を広帯域(非分散)とするだけでなく、より積極的に制御することができる。また、周波数によって位相応答が変化しない電磁波伝搬媒質を実現することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下に、本発明に係る電磁波伝搬媒質の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0043】
本発明の電磁波伝搬媒質を伝送線路デバイスに適用した実施形態について説明する。
まず、本実施形態に係る伝送線路デバイスの基本概念について、図1、図2を参照しつつ説明する。図1は、伝送線路デバイスのモデルを概念的に示した図である。図2は、図1のモデルについて、入力される電磁波の周波数とデバイスの各領域における透過係数との関係を示すグラフである。
【0044】
すでに述べたように、右手系・左手系の伝送線路を単純に縦続接続しても、分散を抑制することは難しい。そこで、擬周期構造なるものを考え、これによって反射される電磁波の位相について説明しているのが図1及び図2である。メタマテリアルなどの周期構造は、図28のような分散を示し、周波数に応じて右手系・左手系・非伝搬という3つの動作に分類できる。
【0045】
つまり、図2のように周波数に対する透過係数をグラフにすると、帯域通過フィルタ的なふるまいをする。ここでは、図1のように少しずつ構造の異なる5つの領域M1〜M5を縦続的に接続したモデルを考える。ここで、各領域はいくつかの単位構造からなる周期構造でもよいし、単一の構造であってもよい。領域間では構造が異なるために、帯域通過の遮断周波数、すなわち伝搬特性が異なっているが、ここでは簡単のために入射側(M1)から奥側(M5)へ行くほど遮断周波数が高くなっているものとする。
【0046】
例えば、周波数f1の電磁波は領域M1および領域M2では通過帯域であるが、領域M3〜M5では遮断帯域となっているため、領域M2と領域M3との境界面で反射される。一方、周波数f2の電磁波は、同様にして考えれば、領域M4と領域M5の境界面で反射される。
【0047】
図2の通過帯域が右手系の伝搬を示す帯域であれば、周波数の低いf1より周波数の高いf2の方が物理的に長い距離を進行していることになるので、一般的には分散が強くなる方向に寄与する。しかし、左手系の伝搬を示す帯域であれば、周波数と位相遅延(の絶対値)との関係が反転しているので、分散が弱まる方向に寄与すると考えられる。実際の電磁波のふるまいは幾分複雑で、構造中の複数の不連続領域で反射・散乱された電磁波成分を重ね合わせた結果としての反射波が実際に観測可能な電磁波となる。
【0048】
つづいて、図3から図22を参照しつつ、伝送線路デバイスの具体例について説明する。
まず、図3、図4を参照しつつ伝送線路デバイスの基本モデルについて説明する。図3は、本実施形態に係る伝送線路デバイスの基本モデルとなる伝送線路デバイス100の構成を示す斜視図である。図4は、図3に示す基本モデルの回路パターンとしての1次元の周期構造の例を示す平面図である。
【0049】
図3に示す伝送線路デバイス100において、基板110(基材)は樹脂等の誘電体からなり、加工前の段階ではその上下両面に金属箔(銅など)が貼り付けられている。基板110は、上面110aをドリル研磨等で加工して所望の回路パターン120(伝送線路)が形成されている。これに対して、下面110bは加工せずにグラウンド板112として金属箔を残している。
【0050】
回路パターン120は、基板の長手方向(図3の左右方向)に延びる主線路121を備え、この主線路121の一方の端部を電力入力用の入力ポート121aとし、他方の端部を電力出力用の出力ポート121bとしている。
【0051】
図4に示すように、回路パターン120は、所定の遮断周波数(伝搬性)を備えた複数の伝送ユニット123、124、125、126(伝搬ユニット)を、主線路121が延びる方向に順に配置してなる。伝送ユニット123、124、125、126は、インターディジタルキャパシタ128b、128c、128dを介して配置されている。
【0052】
ここで、図3以降の具体的な伝送線路デバイスの伝送ユニットにおける「遮断周波数」、すなわち本発明の伝送ユニットの「遮断周波数」とは、後述のとおり、伝送ユニット及びインターディジタルキャパシタからなる単位構造が単体で電磁波を遮断する特性ではなく、同じ単位構造を周期的に複数接続した構造において得られる特性である。この遮断周波数は、電磁波の通過帯域に対応するものであって、単位構造を周期的に複数接続した構造において現れ、単位構造の構造を変えることによって変化する、見かけ上単位構造が備える遮断周波数と言える。
【0053】
また、入力ポート121aと伝送ユニット123との間には、入力側伝送路122及びインターディジタルキャパシタ128aが配置されている。121bと伝送ユニット126との間には、終端側伝送路127及びインターディジタルキャパシタ128eが配置されている。
【0054】
伝送ユニット123、124、125、126は、入力側伝送路122及び出力側伝送路127とともに主線路121を構成する中間線路部123a、124a、125a、126aをそれぞれ備える。中間線路部123a、124a、125a、126aからは、主線路121と略直角方向に延びるように、ショートスタブ123b、124b、125b、126bがそれぞれ形成されている。
【0055】
さらに、ショートスタブ123b、124b、125b、126bの先端には、基板110を厚さ方向に貫通するビア導体123c、124c、125c、126cがそれぞれ設けられている。ビア導体123c、124c、125c、126cによって、ショートスタブ123b、124b、125b、126bは、それぞれ基板110の下面110bのグラウンド板112と電気的に導通する。
【0056】
つづいて、本実施形態に係る回路パターン(伝送線路)について、図5を参照しつつ説明する。図5は、本実施形態に係る回路パターン220の構成例を示す平面図である。
【0057】
本実施形態に係る回路パターンは、図4に示す回路パターン120に対して、インターディジタルキャパシタ、ショートスタブ、及びビア導体の形状を伝送ユニットごとに変化させている。伝送ユニットは、例えば等差数列のように一定の規則に基づいて変化させてもよいし、全くランダムに変化させてもよい。一定の規則に基づいて周期的に変化させた構造を周期構造とすると、ランダムに変化させた構造は、非周期構造と呼んでもよい。また、周期構造の基本的な形状を維持しつつ、その一部の形状を変化させた構造をとることもできる(擬周期構造)。なお、本実施形態に係る回路パターンは、インターディジタルキャパシタ、ショートスタブ、及びビア導体の形状以外のパラメータ(例えば、中間線路部の形状、並びに、中間線路部、ショートスタブ、及びビアの材質)を変化させることもできる。
【0058】
本実施形態に係る回路パターンの一例として図5に示す回路パターン220は、図4に示す回路パターン120と同様に、所定の遮断周波数を備えた複数の伝送ユニット223、224、225、226(伝搬ユニット)を、主線路221が延びる方向に順に配置してなる。伝送ユニット223、224、225、226は、インターディジタルキャパシタ228b、228c、228dを介して配置されている。すなわち、伝送ユニット223、224、225、226は、隣り合う伝送ユニットとの間に容量性の結合を形成するように配置されている。
【0059】
また、入力ポート221aと伝送ユニット223との間には、入力側伝送路222及びインターディジタルキャパシタ228aが配置されている。出力ポート221bと伝送ユニット226との間には、出力側伝送路227及びインターディジタルキャパシタ228eが配置されている。
【0060】
伝送ユニット223、224、225、226は、入力側伝送路222及び出力側伝送路227とともに主線路221を構成する中間線路部223a、224a、225a、226aをそれぞれ備える。中間線路部223a、224a、225a、226aからは、主線路221と略直角方向に延びるように、ショートスタブ223b、224b、225b、226bがそれぞれ形成されている。
【0061】
さらに、ショートスタブ223b、224b、225b、226bの先端には、基板を厚さ方向に貫通するビア導体223c、224c、225c、226cがそれぞれ設けられている。ビア導体223c、224c、225c、226cによって、ショートスタブ223b、224b、225b、226bは、それぞれ基板110の下面110bのグラウンド板112と電気的に導通する。
【0062】
回路パターン220においては、インターディジタルキャパシタ228a、228b、228c、228d、228eのうち、3番目のインターディジタルキャパシタ228cが太くなっている。また、ショートスタブ223b、224b、225b、226bでは、ショートスタブ223b、226bよりも、ショートスタブ224bは長く、ショートスタブ225bは細くかつ短くなっている。さらに、ビア導体223c、224c、225c、226cについては、ビア導体223c、224c、225cに対して、ビア導体226cは小径となっている。
【0063】
次に、図6に示す比較例に係る回路パターンと、図8に示す実施例1に係る回路パターンと、図10に示す実施例2に係る回路パターンと、を比較評価する。評価は、有限要素法による電磁界解析シミュレータ(Ansoft社製HFSS(商標))を用いた。
【0064】
(比較例)
まず、図6に示す比較例に係る回路パターン320の構成について説明する。図6は、比較例に係る回路パターン320の構成を示す平面図である。
【0065】
回路パターン320は、同一の遮断周波数を備えた複数の伝送ユニット332、333、334、335、336、337、338、339を、主線路321が延びる方向に順に配置してなる。伝送ユニット332、333、334、335、336、337、338、339は、同一形状のインターディジタルキャパシタ341b、341c、341d、341e、341f、341g、341hを介して配置されている。また、入力ポート321aと伝送ユニット332との間には、入力側伝送路331及びインターディジタルキャパシタ341aが配置されている。出力側には伝送路を設けず、主線路321が開放終端321bにより終端されている。
【0066】
伝送ユニット332、333、334、335、336、337、338、339は、入力側伝送路331とともに主線路321を構成する中間線路部332a、333a、334a、335a、336a、337a、338a、339aをそれぞれ備える。中間線路部332a、333a、334a、335a、336a、337a、338a、339aからは、主線路321と略直角方向に延びるように、ショートスタブ332b、333b、334b、335b、336b、337b、338b、339bがそれぞれ形成されている。
【0067】
さらに、ショートスタブ332b、333b、334b、335b、336b、337b、338b、339bの先端には、基板を厚さ方向に貫通するビア導体332c、333c、334c、335c、336c、337c、338c、339cがそれぞれ設けられている。ビア導体332c、333c、334c、335c、336c、337c、338c、339cによって、ショートスタブ332b、333b、334b、335b、336b、337b、338b、339bは、それぞれ基板110の下面110bのグラウンド板112と電気的に導通する。
【0068】
図6に示す回路パターン320では、伝送ユニットが8周期で配置されている。シミュレーションにおいては、主線路321の線路幅は入出力線路(入力側伝送路331)と周期構造部分(伝送ユニット332、333、334、335、336、337、338、339)ともに1.65mm、入出力線路の長さは10mmとしている。
【0069】
インターディジタルキャパシタ341a、341b、341c、341d、341e、341f、341g、341hは、ギャップ部分とギャップ部分で挟まれた指部分からなり(図13参照)、指部分は幅0.15mmであり、ギャップ部分の幅も同じく0.15mmである。また、進行方向(図6の左右方向)に沿った全体長さは3mmである。これは、指部分自体の進行方向における長さと、ギャップ部分の進行方向における幅0.15mmとを加算したものに相当する。
【0070】
また、中間線路部332a、333a、334a、335a、336a、337a、338a、339aの進行方向における長さはそれぞれ2mmとなっており、インターディジタルキャパシタを合わせた各周期の長さは5mmである。
【0071】
ショートスタブ332b、333b、334b、335b、336b、337b、338b、339bは、それぞれ幅1mm、長さ6mmとし、先端に直径0.9mmのビア導体332c、333c、334c、335c、336c、337c、338c、339cを打ち込み、グラウンド板112と短絡させている。基板110の誘電率は3.4、誘電正接は0.003、厚みは0.7mmであり、1.65mmの線路幅は概ね50Ωの特性インピーダンスに相当する。
【0072】
図7は、図6に示す比較例に係る回路パターン320について、有限要素法による電磁界解析シミュレータ(Ansoft社製HFSS(商標))を用いて評価した結果を示すグラフである。横軸は印加した電磁波の周波数(単位GHz)、縦軸は回路パターン320により反射されて入力ポート321aにもどった反射波の位相応答(単位度)である。この解析では回路パターン320及びグラウンド板112を構成する金属部分を厚みのない完全導体面とし、回路パターン320の入力側(左端部)に入力ポート321aを設けてSパラメータを算出した。
【0073】
図7に示しているのは、周波数2GHz〜6GHzの範囲における反射係数(S11)の位相部分である。2.5GHz〜4GHzが周期構造の通過帯域に相当し、この帯域で位相が360度以上回っていることがわかる。実際のデバイスとしての動作を考慮した上で、反射係数の位相の偏差を数値化した指標として、3GHz〜5GHzの帯域における位相の標準偏差を導入する。
【0074】
しかしながら、図7の結果をそのまま用いて標準偏差を計算すると、実質的な位相のばらつきが過大に見積もられることがある。というのも、位相はあくまで相対的な物理量であり、例えば−180度と+180度とは本質的に同じ状態を表しているためである。そこで、図7の結果を用いて算出した標準偏差と、図7の結果を0〜360度の範囲に換算しなおしたものを用いて算出した標準偏差とを比較して、値の小さい方を位相の標準偏差とする。上記の換算を行うには、図7の結果のうち負の値をもつ位相には360度を加えればよい。こうして算出された位相の標準偏差は、50.70度であった。
【0075】
比較例の評価は、計算を簡略にするためにこうした方法を採用したが、より精度の高い評価が必要な場合には、位相データをより小幅に変換すればよい。つまり、−180度〜+180度の範囲に与えられている位相データを、−150度〜+210度、−120度〜+240度、−90度〜+270度、…、という具合に少しずつ換算してゆき、それぞれの範囲に換算された位相データに対して標準偏差を求めた上で、最小の標準偏差を採用する。
【0076】
(実施例1)
次に、図8に示す実施例1に係る回路パターン420について説明する。図8は、実施例1に係る回路パターン420の構成を示す平面図である。この回路パターン420は、ショートスタブの長さを変化させて構造を最適化したものである。具体的には、図6に示された回路パターン320が同一構造の伝送ユニットを8周期とした構造であったのに対して、実施例1に係る回路パターン420では、ショートスタブの長さが同一ではなく、4mm、6mm、8mmのいずれかをとる擬周期構造としている。
【0077】
さらに、回路パターン420では、8周期としたショートスタブ332b、333b、334b、335b、336b、337b、338b、339bのそれぞれに対して3通りの単位構造が用意されていることになるので、可能な構造の組合せ総数は、3=6,561通りとなる。これらの組合せ全てに対して、上述した位相の標準偏差を計算したところ、図8に示す構造が、最小の標準偏差33.40度を与えることがわかった。
【0078】
ここで、回路パターン420は、それぞれ所定の遮断周波数を備えた複数の伝送ユニット432、433、434、435、436、437、438、439(伝搬ユニット)を、主線路421が延びる方向に順に配置してなる。伝送ユニット432、433、434、435、436、437、438、439は、同一形状のインターディジタルキャパシタ441b、441c、441d、441e、441f、441g、441hを介して配置されている。すなわち、伝送ユニット432、433、434、435、436、437、438、439は、隣り合う伝送ユニットとの間に容量性の結合を形成するように配置されている。また、入力ポート421aと伝送ユニット432との間には、入力側伝送路431及びインターディジタルキャパシタ441aが配置されている。
【0079】
伝送ユニット432、433、434、435、436、437、438、439は、入力側伝送路431とともに主線路421を構成する中間線路部432a、433a、434a、435a、436a、437a、438a、439aをそれぞれ備える。中間線路部432a、433a、434a、435a、436a、437a、438a、439aからは、主線路421と略直角方向に延びるように、ショートスタブ432b、433b、434b、435b、436b、437b、438b、439bがそれぞれ形成されている。
【0080】
さらに、ショートスタブ432b、433b、434b、435b、436b、437b、438b、439bの先端には、基板を厚さ方向に貫通するビア導体432c、433c、434c、435c、436c、437c、438c、439cがそれぞれ設けられている。ビア導体432c、433c、434c、435c、436c、437c、438c、439cによって、ショートスタブ432b、433b、434b、435b、436b、437b、438b、439bは、それぞれ基板110の下面110bのグラウンド板112と電気的に導通する。
【0081】
各周期(各伝送ユニット)におけるショートスタブの長さは、入力側から順に、8mm、4mm、8mm、4mm、8mm、4mm、8mm、4mm、となっている。各伝送ユニットは、ショートスタブの長さ以外は同一の構成であって、ショートスタブの長さに対応した遮断周波数を備える。周波数に対する反射係数の位相を図9に示すが、最適化で意図した通り、3GHz〜5GHzの範囲で位相の変化幅は90度、大きくても120度となっていて、従来より小さくなっていることがわかる。また、3.5GHz〜4.5GHzの範囲で位相の変化幅は大きくても90度となっていて、さらに小さくなっていることがわかる。ここで、図9は、図8に示す実施例1に係る回路パターン420について、有限要素法による電磁界解析シミュレータ(Ansoft社製HFSS(商標))を用いて評価した結果を示すグラフである。
【0082】
(実施例2)
つづいて、図10に示す実施例2に係る回路パターン520について説明する。図10は、実施例2に係る回路パターン520の構成を示す平面図である。この回路パターン520では、反射係数の位相をより狭い範囲に閉じ込めるために、各伝送ユニットにおいて、ショートスタブの長さだけでなく、これ以外のパラメータも変化させている。
【0083】
具体的には、インターディジタルキャパシタの進行方向における長さを2mmまたは3mm、指の幅を0.1mmまたは0.15mm、ショートスタブの長さを4mmまたは6mm、スタブの幅を0.5mmまたは1mm、ビア導体の直径を0.45mmまたは0.9mmとしている。これにより、単位構造として2=32通りのデザインを用意した。したがって、8周期からなる構造として可能な組合せ総数は32≒1.1×1012となる。しかしながら、その全てについて解析を行うことは不可能である。そこで、後述する遺伝的アルゴリズムによる最適化を行った。その結果得られた構造を図10に示す。この構造では、位相の標準偏差は24.12度であった。
【0084】
ここで、回路パターン520は、それぞれ所定の遮断周波数を備えた複数の伝送ユニット532、533、534、535、536、537、538、539(伝搬ユニット)を、主線路521が延びる方向に順に配置してなる。伝送ユニット532、533、534、535、536、537、538、539は、インターディジタルキャパシタ541b、541c、541d、541e、541f、541g、541hを介して配置されている。すなわち、伝送ユニット532、533、534、535、536、537、538、539は、隣り合う伝送ユニットとの間に容量性の結合を形成するように配置されている。また、入力ポート521aと伝送ユニット532との間には、入力側伝送路531及びインターディジタルキャパシタ541aが配置されている。
【0085】
伝送ユニット532、533、534、535、536、537、538、539は、入力側伝送路531とともに主線路521を構成する中間線路部532a、533a、534a、535a、536a、537a、538a、539aをそれぞれ備える。中間線路部532a、533a、534a、535a、536a、537a、538a、539aからは、主線路521と略直角方向に延びるように、ショートスタブ532b、533b、534b、535b、536b、537b、538b、539bがそれぞれ形成されている。
【0086】
さらに、ショートスタブ532b、533b、534b、535b、536b、537b、538b、539bの先端には、基板を厚さ方向に貫通するビア導体532c、533c、534c、535c、536c、537c、538c、539cがそれぞれ設けられている。ビア導体532c、533c、534c、535c、536c、537c、538c、539cによって、ショートスタブ532b、533b、534b、535b、536b、537b、538b、539bは、それぞれ基板110の下面110bのグラウンド板112と電気的に導通する。
【0087】
各周期の構造パラメータは図11に示すとおりである。図11は、実施例2に係る回路パターン520における各パラメータ(構造パラメータ)の設定値を示す表である。図11における周期1〜周期8は、伝送ユニット532〜539にそれぞれ対応する。各伝送ユニットは、各構造パラメータの設定値に対応した遮断周波数を備える。
【0088】
また、周波数に対する反射係数の位相を図12に示す。最適化で意図した通り、3〜5GHzの範囲での位相の変化幅は、90度、大きくても120度となっていて、従来より小さくなっていることがわかる。また、3.5GHz〜4.5GHzの範囲で位相の変化幅は大きくても90度となっていて、さらに小さくなっていることがわかる。ここで、図12は、図10に示す実施例2に係る回路パターン520について、有限要素法による電磁界解析シミュレータ(Ansoft社製HFSS(商標))を用いて評価した結果を示すグラフである。
【0089】
ここで、擬周期構造の設計手法について、図13、図14を参照しつつ説明する。
メタマテリアルなどの微細構造を解析・設計する際、従来はフルウェーブの電磁界解析が一般的かつ強力な手法とされている。中でも有限要素法、モーメント法、FDTD法(Finite Difference Time Domain method)などは特によく利用され、数多くの電磁界シミュレータが市販されている。これらはいずれも3次元構造を微細なメッシュに分割し、電磁気学の基本方程式(Maxwell方程式)を時間領域あるいは周波数領域で直接解くため、高精度の解析が可能である。しかしながら、計算機に対する負荷(計算時間、メモリ使用量、CPU性能など)は重くなってしまい、解析できる領域や時間間隔に相当な制約が課されることになる。
【0090】
こうした制約を緩和するために、解析対象や電磁波の周波数に応じて様々な近似が行われている。例えば、光学分野におけるレンズ設計においては、電磁界のベクトル的な性質を無視することで波動光学が成立し、実際には磁気的応答自体も無視される。さらに光の直進性に主眼をおくことで光線追跡による解析が行われている。また、低周波の電磁波に対しては、デバイスの大きさが波長より十分小さいという立場に立って、集中定数的な回路の取り扱いが一般的である。
【0091】
動作周波数における電磁波の波長を基準にして考えると、上記のレンズ設計は波長よりずっと大きな領域を扱う技術であり、逆に低周波回路は波長よりずっと小さな領域を扱う技術であると言える。しかしながら、微細加工技術の進歩に伴い、これらのどちらの簡素化も許されない技術分野が近年生まれつつある。上述のメタマテリアルもその1つであるが、電磁界のベクトル的応答が本質であるために光学的手法を適用することができず、微細構造を多数配列させた構造を扱うために低周波的な近似も許されない。
【0092】
メタマテリアルは一般に周期構造であるため、周期境界条件のもとで1周期の構造をフルウェーブ解析するといった方法も多用されているが、これは無限周期構造を解析していることに相当する。したがって、メタマテリアルとその外部領域との境界や、励振波源(光源)を解析に含めることができない。まして、本願発明に係る擬周期メタマテリアルは周期構造ではないため、周期境界条件自体を適用することができない。
【0093】
したがって、解析したい構造全体を波源も含めて解析する必要があり、莫大な計算機コストが要求される。例えば8周期からなる構造を有限要素法で解析する場合、最新のPCを用いても数十時間程度の計算時間を要してしまい、解析には使えても設計、すなわち様々な構造の比較検討、を行うことは現実的ではない。こうした解析上の問題を解決するために有効な方法として、実構造を等価回路でモデリングする方法が提案されている。この方法は構造の設計を効率化する上でとても有用な方法であるが、定式化が煩雑で回路パラメータの抽出に手間がかかることと、必要な精度に応じて複雑な回路を適用する必要があることが難点である。
【0094】
そこで、本願発明では、図13に示す解析モデルを用いて1周期(1つの伝送ユニット)の解析を行う。図13は、単位構造の電磁界解析モデルの構成を示す平面図である。
【0095】
図13に示す回路パターン620において、入力ポート621a、入力側伝送路622、出力側伝送路627、出力ポート621b、並びに、単位構造630を構成するインターディジタルキャパシタ628a及び伝送ユニット629(伝搬ユニット)を備える。伝送ユニット629は、図4に示す回路パターン120と同様に、中間線路部629a、ショートスタブ629b、及びビア導体629cを備える。
【0096】
入力ポート621aと伝送ユニット629との間には、入力側伝送路622及びインターディジタルキャパシタ628aが配置されている。インターディジタルキャパシタ628aは、入力側伝送路622と伝送ユニット629との間隙となるギャップ部分628a1と、ギャップ部分628a1で挟まれた指部分628a2と、からなる。中間線路部629aは出力側伝送路627を介して出力ポート621bに至っている。また、図13における矢印は参照面の移動を示している。
【0097】
ここでは有限要素法に基づく市販のシミュレータを用いたが、FDTD法やモーメント法などを用いてもよい。実際に解析したい単位構造(伝送ユニット629)の両端に、これと同じ断面をもつマイクロストリップ線路として入力側伝送路622及び出力側伝送路627をそれぞれ接続し、その先端に波動ポートとして入力ポート621a、出力ポート621bにそれぞれ設定した。
【0098】
まず、解析する構造全体の散乱行列(反射係数と透過係数)を算出することになるが、マイクロストリップ線路部分で生じる位相遅延は理論的に見積もることができるので、これを差し引くことによって単位構造の純粋な散乱行列を求めることができる。このようにわざわざマイクロストリップ線路を接続するのは、接続部や微細構造によって生じる不要な高次モードの影響を抑制するためである。
【0099】
電磁界解析によって得られた(1周期構造部分の)散乱行列を次式で表す。
【0100】
【数2】

ここで、各成分Sijは一般に複素数となり、その位相部分をφijとした。このようにして解析された単位構造を複数接続する場合、個々の散乱行列を次式で伝送行列に変換する。
【0101】
【数3】

なお、この変換式は、別の形式で表現することも可能である。
【0102】
本願発明では、入力ポート621aでの入力波aと出力波bおよび開放終端621bでの入力波aと出力波bに対して、次式の関係を満たすように伝送行列Tを定義した。
【0103】
【数4】

【0104】
N個の単位構造を接続する場合、個々の単位構造に対する散乱行列S、S、・・・、Sを伝送行列T、T、・・・、Tにそれぞれ変換しておけば、接続後の構造全体に対する伝送行列は、
total=T・・・T
という行列積の形で表される。これを再び散乱行列Stotalへ変換するには、次式を用いればよい。
【0105】
【数5】

【0106】
ここでは、具体例として、図8に示す回路パターン420の擬周期構造を解析する場合を考える。単位構造のとり方は図13と同様とすれば、マイクロストリップ線路の伝送行列をT、8個の単位構造に対する伝送行列をT〜T、最も右側にあるインターディジタルキャパシタの伝送行列をTとして、全体の伝送行列は
total=T
と計算することができる。
【0107】
図14は、図8に示す擬周期構造について、伝送行列を散乱行列S11へ変換した結果を示すグラフである。散乱行列の成分S11は複素数であって、図14では、成分S11の絶対値を|成分S11|としてグラフの下半分に表示し、成分S11の位相部分をφ11としてグラフの上半分に表示している。ここで、S11=|S11|exp(−j・φ11)である。また、p11はφ11を示す。
【0108】
解析を行った構造は、インターディジタルキャパシタ部分の長さを3mm、指の幅を0.15mm、スタブの長さを4mmまたは6mm、スタブの幅を1mm、ビア導体の直径を0.9mmとし、構造の左側から順にスタブの長さが6mm、4mm、6mm、4mm、6mm、4mm、6mm、4mmの計8個の構造を並べたものである。行列計算による結果(matrix)(太線及び黒色の丸印)の正しさを確かめるために、全体の構造(8個の単位構造を含む)を電磁界解析したときの結果(fullwave)(実線及び白抜きの丸印)を重ねて示した。図14に示すように、両者は周波数に若干のズレはあるものの、散乱行列の振幅・位相ともに概ね一致していることがわかる。
【0109】
周波数も含めてより正確に一致した結果を得るためには、単位構造の散乱行列を抽出する際に、マイクロストリップ線路部分の位相遅延を調整することが有効である。この手の調整は、単に技術的なものではない。単位構造とマイクロストリップという異なる構造を接続するという考え方はいわば人為的なものであり、実際の導波路は基板を構成する誘電体や金属によって連続的につながっている。したがって単位構造の散乱行列を「抽出」する際の正しさは、これを利用して得られた結果によって評価されればよい。
【0110】
周期構造や擬周期構造を行列計算によって解析する方法について、その最たる利点を説明するために、図15から図17を参照しつつ、構造の最適化について説明する。図15は、図13に示す単位構造630をとりだして示す平面図であり、図16は、図15のインターディジタルキャパシタ628a及び中間線路部629a部分の拡大平面図である。
【0111】
インターディジタルキャパシタ部分の長さ、指の幅、スタブの長さ、スタブの幅、ビア導体の直径という5つの構造パラメータとして、図14に示す2つの値の一方をそれぞれ選べるようにする。すなわち、次のとおりである。
(1)インターディジタルキャパシタ628aの長さであるL:2mm又は3mm
(2)指部分628a2の幅であるW:0.1mm又は0.15mm
(3)ギャップ部分628a1の幅であるW’:0.21mm又は0.15mm
(4)中間線路部629aの長さであるL:4mm又は6mm
(5)中間線路部629aの幅であるW:0.5mm又は1mm
(6)ビア導体629cの直径であるD:0.45mm又は0.9mm
(7)中間線路部629aの幅であるW:1.65mm
ここで、インターディジタルキャパシタ628aの指部分628a2は6本で固定とし、その幅Wを変えたときに、間隔に相当するW’を調整して、Wが変わらないように設定した。したがって、1つの単位構造としてとりうるデザインの数は2=32通りとなる。こうして構築される単位構造をランダムに8周期配列する場合、全体の構造としては32≒1.1×1012通りの組合せが可能となる。
【0112】
最適化の第1ステップとしては、単位構造として許される上記32通りに対して、図13に示したモデルを用いて説明した方法を用いて散乱行列を計算する。8周期の場合、全体の散乱行列を算出する際の行列計算のみに要する計算時間は非常に短く、周波数を200点とった場合で0.1秒程度である。したがって、構造全体の組合せ総数が10万通り程度までは、最適構造の網羅的な探索が可能である。実際、図8に示す実施例1、及び図10の実施例2においては、6,500通りあまりの構造をすべて解析し、最適な構造を得るのに12分程度しかかかっていない。単位構造(3種類)の散乱行列を算出する電磁界解析(各10分程度)を合わせても、1時間以内に最適化が完了した計算になる。一方、行列計算を用いない場合、8周期に対してはかなり精度の低い電磁界解析しかできないにもかかわらず、1つの構造を解析するのに10時間程度を要するので、6,500通りの解析には7年以上の歳月を要することになる。
【0113】
しかし、1.1×1012通りの組合せの組合せとなると、行列計算の方法を用いても4,000年近い歳月を要し、現実的でない。そこで、「最良の構造」ではなく「よりよい構造」を見出す方法として、遺伝的アルゴリズムを用いた。遺伝的アルゴリズムは組合せ最適化手法の1つである。まず50通りの8周期構造をランダムに作成する。具体的には、50×8=400通りの単位構造1つ1つ作成するごとに、C++言語に常備されている乱数発生コマンドを利用した。ただし、図10に示すように、主線路521、入力ポート521a、及び開放終端521bを設けた。続いて、50通りの8周期構造全てに対して、上記の行列計算を用いて、散乱行列の周波数依存性を算出した。
【0114】
構造を最適化するための基準としては、実施例における最適化と同様、周波数3〜5GHzの範囲で反射係数S11の位相ばらつきが小さいこととし、具体的な数値として位相の標準偏差σを用いた。このとき、構造が優れているほど標準偏差が小さくなるという関係があるので、遺伝的アルゴリズムにおける適応度を次式により定義した。
【0115】
【数6】

【0116】
つまり、標準偏差σが一定の上限値σthより大きい構造には進化の機会を与えず、σがσthより小さい構造はσが小さいほど高い確率で子孫を残すことができるようにし、σやαの値は適宜変更しながら最適化を進めた。適応度に比例した確率でランダムに親となる構造を50個(25組)抽出し、2点交叉により子構造50個を発生させたが、この際、0.1〜1.5%の確率で突然変異が生じるようにした。
【0117】
以上の進化過程を50世代繰り返したところ、位相ばらつきの小さい構造として図10に示すものが得られ、位相の標準偏差σは24.11°であった。図17は、横軸に進化の世代をとり、縦軸に標準偏差σをとって表示したグラフである。各世代ごとに50個の構造があり、標準偏差の最大値(白抜きの三角形)、平均値(黒色の丸印)、最小値(白抜きの丸印)を表示している。
【0118】
次に、単位構造と遮断周波数との関連を示す周波数特性について、図18から図22を参照しつつ説明する。図18は、単位構造の周波数構造を計算するためのモデルaからモデルdにおける構造パラメータを示す表である。図19から図22は、図18のモデルaからモデルdの単位構造をそれぞれ8周期接続した周期構造としたときの周波数特性を示すグラフである。
【0119】
ここでは、上述の実施例1、2で用いた単位構造のSパラメータ(電磁界解析から抽出)を用い、行列計算だけを新たに行った。モデルa、bは、実施例2について、遺伝的アルゴリズムを用いて最終的に得られた構造(図11)のうちの周期5および周期8を用いている。モデルcは、実施例2における5つの構造パラメータの全てが小さい方の値をとる場合であり、モデルdは、実施例2における5つの構造パラメータの全てが大きい方の値をとる場合である。
【0120】
図19から図22は、モデルaからモデルdの計4種類の単位構造について計算を行った結果を示している。図19から図22では、反射係数S11の絶対値を細い線で、透過係数S21の絶対値を太い線で、それぞれ示している。図19では、約2.1〜4GHzの範囲で透過係数S21が高い値を示しており、図20では、約3.8〜5.5GHzの範囲で透過係数S21が高い値を示している。
【0121】
また、図21では、約3.2〜4.6GHzの範囲で透過係数S21が高い値を示しており、図22では、約2.4〜4.5GHzの範囲で透過係数S21が高い値を示している。図19から図22から、単位構造の構成によって通過帯域が大きく変化していることが分かり、単位構造(伝送ユニット)が見かけ上の遮断周波数を備えることを示している。このような特性を備えた単位構造又は伝送ユニットを、遮断周波数が互いに異なるように隣り合わせて配置することによって、位相応答を広帯域とするとともに、制御することが可能となる。
【0122】
(変形例)
つづいて、本発明の電磁波伝搬媒質を共振器型デバイスに適用した変形例について説明する。
図23は、共振器型デバイスの代表的な構造であるスプリットリング共振器を概念的に示す分解斜視図である。図23に示す共振器型デバイス700は、スプリットリング共振器と金属細線を組み合わせた構造を備える。共振器型デバイス700は、同一の正方形の平面形状の誘電体シート701、702、703、704、705(基材)を、外形が一致するように積層してなる。これら5枚の誘電体シート701、702、703、704、705は同一特性を備える。
【0123】
誘電体シート701、703、705には、スプリットリング共振器710が、縦方向(図23のx方向)に5個、横方向(図23のz方向)に5個、合計25個が等間隔に配置されている。スプリットリング共振器710(伝搬ユニット)は、図24に示すように、アルファベットの「C」の形をした金属製のリング711、712を、それぞれのリングの切れ目部分711g、712gが互いに逆向きになるように同心状に配置したものである。
【0124】
図23に示す共振器型デバイス700では、リング711を2次元周期で誘電体シート701、703、705上に、同じように配置して貼り付けている。スプリットリング共振器710をこのように配置したことにより、誘電体シート701、703、705を積層すると、それぞれのシートに配置されたスプリットリング共振器710は、積層方向(図23のy方向)において、位置及び形状が一致する。
【0125】
一方、誘電体シート701及び誘電体シート703の間に配置される誘電体シート702、並びに、誘電体シート703及び誘電体シート705の間に配置される誘電体シート704には、5本の金属細線720が等間隔に、縦方向に延びるように貼り付けられている。これらの金属細線720は、誘電体シート702、704を誘電体シート701、703、705とともに積層したときに、z方向に並ぶスプリットリング共振器710間にくるように配置されている。
【0126】
金属細線720は、スプリットリング共振器710に比して、構造に対する制約が緩く、基本的にはその幅と間隔が電磁波の波長より1桁程度以上小さければよい。ただし、あまり密につめすぎると、電磁波の伝搬を阻害するので好ましくない。
【0127】
共振器型デバイス700では、スプリットリング共振器710及び金属細線720を保持するために誘電体シート701〜705を用いたが、この構成に代えて、例えば誘電体のブロック中に、スプリットリング共振器710及び金属細線720、又は、これらに相当する金属構造を積層させたものを用いることもできる。この構造は、多層の光ディスクを作製する要領で、紫外線硬化樹脂を用いて作製可能である。
【0128】
また、左手系の伝搬(負の屈折)を実現するには、一般に、電界がx方向、磁界がy方向に偏光した電磁波をz方向に入射する。ただし、本願では左手系の伝搬が必須ではないので、これ以外の偏光状態や入射角を用いてもよい。
【0129】
図24は、スプリットリング共振器単体710の構造示す平面図である。スプリットリング共振器710の構造は、小径のリング711及び大径のリング712の内径d、dと外径d、d、並びに、リングの切れ目部分711g、712gのギャップ幅g、gによって決定される。これらの寸法に応じて、電磁波(特に磁界)に対する金属中の自由電子の応答が変化し、実効的な透磁率に影響する。
【0130】
一方、金属細線720は電磁波に対して電気的に応答し、自由電子の有効質量や密度に応じて実効的な誘電率が決まる。電気的な応答も磁気的な応答もそれぞれ固有の周波数において共鳴的なふるまいを示し、両者の共振周波数が近いときに負の屈折を示す。
【0131】
なお、変形例に係る共振器型デバイスでは、スプリットリング共振器以外の共振器を用いることもできる。
【0132】
(変形例1)
図25は、変形例1に係る共振器型デバイス750の構成を示す分解斜視図である。共振器型デバイス750では、スプリットリング共振器を擬周期メタマテリアルとして構成している。また、共振器型デバイス750において、誘電体シート751、752、753、754、755は、共振器型デバイス700における誘電体シート701、702、703、704、705にそれぞれ対応するため、その詳細な説明は省略する。また、誘電体シート752、754には、誘電体シート702、704と同様に金属細線720が配置されているが図示は省略している。
【0133】
誘電体シート751、753、755には、5種類のスプリットリング共振器761、762、763、764、765(伝搬ユニット)が同一のパターンで配置されている。これらのスプリットリング共振器761、762、763、764、765は共振性が互いに異なる。誘電体シート751、753、755のそれぞれにおいて、スプリットリング共振器761、762、763、764、765は、z方向に順に配置されている。x方向及びy方向においては、同一のスプリットリング共振器が配置されている。
【0134】
共振器型デバイス750に対しては、電界ベクトルをx方向に、磁界ベクトルをy方向にそれぞれ偏光した電磁波を、z方向へ伝搬させる。また、共振器型デバイス750では、誘電体シート751〜755のz方向両端の側辺の一方を入力ポート(入射面)とし、他方を開放終端(終端面)とする。このような構成の共振器型デバイス750に対して電磁波を入力すると、上述のように伝搬性の異なるスプリットリング共振器761、762、763、764、765を配置していることにより、電磁波は入射面側から内部へ侵入するにつれて、実効的な誘電率や透磁率、あるいは共振周波数が変化することになる。よって、スプリットリング共振器の構造、すなわち構造(伝搬性)の変調の設定に応じて、上記実施形態に係る伝送線路デバイスの実施例と同じメカニズムによって、反射波の位相を制御することが可能となる。
【0135】
(変形例2)
図26は、変形例2に係る共振器型デバイス800の構成を示す分解斜視図である。共振器型デバイス800においても、スプリットリング共振器を擬周期メタマテリアルとして構成している。また、共振器型デバイス800において、誘電体シート801、802、803、804、805は、共振器型デバイス700における誘電体シート701、702、703、704、705にそれぞれ対応するため、その詳細な説明は省略する。また、誘電体シート802、804には、誘電体シート702、704と同様に金属細線720が配置されているが図示は省略している。さらに、共振器型デバイス800では、共振器型デバイス750と同様に、誘電体シート801〜805のz方向両端の側辺の一方を入射面とする。
【0136】
誘電体シート801、803、805には、スプリットリング共振器が同一のパターンで配置されている。変形例1に係る共振器型デバイス750では、z方向において異なる構成のスプリットリング共振器を順に配置していたが、変形例2に係る共振器型デバイス800では、z方向だけでなく、x方向においても、スプリットリング共振器の構成を互いに異ならせている。例えば、誘電体シート801のx方向最も下の列では、5種類のスプリットリング共振器815、822、816、814、821(伝搬ユニット)がz方向に順に配置されている。また、誘電体シート801のz方向最も左側の列では、5種類のスプリットリング共振器811、812、813、814、815がx方向に順に配置されている。なお、y方向においては、同一のスプリットリング共振器が配置されている。
【0137】
このような構成の共振器型デバイス800では、x方向の異なる位置に、同じ周波数の電磁波を平面波として入射させると、入射した電磁波は異なる位相応答を示す。したがって、反射波全体を見ればx方向に波面が変調されることになる。よって、共振器型デバイス800においても、反射波の位相応答だけでなく、波面の変調や整形を行うことが可能となる。
【0138】
(変形例3)
図27は、変形例3に係る共振器型デバイス850の構成を示す分解斜視図である。共振器型デバイス850においても、スプリットリング共振器を擬周期メタマテリアルとして構成している。共振器型デバイス850において、誘電体シート851、852、853、854、855は、共振器型デバイス700における誘電体シート701、702、703、704、705にそれぞれ対応するため、その詳細な説明は省略する。また、誘電体シート852、854には、誘電体シート702、704と同様に金属細線720が配置されているが図示は省略している。さらに、共振器型デバイス850では、共振器型デバイス750と同様に、誘電体シート851〜855のz方向両端の側辺の一方を入射面とする。
【0139】
変形例2に係る共振器型デバイス800では、x方向及びz方向において異なる構成のスプリットリング共振器を順に配置していたが、変形例3に係る共振器型デバイス850では、x、y、zの全ての方向においてスプリットリング共振器の構成を変化させている。
【0140】
例えば、誘電体シート801のx方向最も上の列では、5種類のスプリットリング共振器861、863、866、867、868(伝搬ユニット)がz方向に順に配置されている。また、誘電体シート801のz方向最も左側の列では、5種類のスプリットリング共振器861、862、863、864、865がx方向に順に配置されている。さらに、x方向最も上側でz方向最も左側の列では、3種類のスプリットリング共振器861、869、870がy方向に順に配置されている。
【0141】
このような構成の共振器型デバイス850では、xy面内で2次元的に波面形状を変調(整形)することができ、より高度な位相制御デバイスを実現することが可能となる。
【0142】
上述の実施形態に係る伝送線路デバイス及び変形例に係る共振器型デバイスとして例示した電磁波伝搬媒質によれば、位相応答を広帯域(非分散)とするだけでなく、より積極的に制御することが可能となる。また、周波数によって位相応答が変化しない電磁波伝搬媒質を実現することができる
【0143】
本発明の電磁波伝搬媒質は、入力する電磁波の波長に合わせてサイズを合わせることによって、適切に動作させることができる。さらに、電磁波の種類に応じて媒質を構成する材質を変更すると、より高いレベルで動作させることが可能となる。例えば、上記実施形態に係る伝送線路デバイスは、金属を良導体とみなして設計されていることから、マイクロ波帯域の電磁波に好適である。これに対して、変形例に係る共振器型デバイスは、構造が比較的単純なことから、電磁波として光を入射する場合に好適である。
【産業上の利用可能性】
【0144】
以上のように、本発明に係る電磁波伝搬媒質は、特有の電磁気学的又は光学的特性を示すアプリケーションに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0145】
【図1】伝送線路デバイスのモデルを概念的に示した図である。
【図2】図1のモデルについて、入力される電磁波の周波数とデバイスの各領域における透過係数との関係を示すグラフである。
【図3】本発明の実施形態に係る伝送線路デバイスの基本モデルとなる伝送線路デバイス100の構成を示す斜視図である。
【図4】図3に示す基本モデルの回路パターンとしての1次元の周期構造の例を示す平面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る回路パターンの構成例を示す平面図である。
【図6】比較例に係る回路パターンの構成を示す平面図である。
【図7】図6に示す比較例に係る回路パターンについて、有限要素法による電磁界解析シミュレータを用いて評価した結果を示すグラフである。
【図8】実施例1に係る回路パターンの構成を示す平面図である。
【図9】実施例1に係る回路パターンについて、有限要素法による電磁界解析シミュレータを用いて評価した結果を示すグラフである。
【図10】実施例2に係る回路パターンの構成を示す平面図である。
【図11】実施例2に係る回路パターンにおける各パラメータの設定値を示す表である。
【図12】実施例2に係る回路パターンについて、有限要素法による電磁界解析シミュレータを用いて評価した結果を示すグラフである。
【図13】単位構造の電磁界解析モデルの構成を示す平面図である。
【図14】図8に示す擬周期構造の単位構造について、伝送行列を散乱行列へ変換した結果を示すグラフである。
【図15】図13に示す単位構造をとりだして示す平面図である。
【図16】図15のインターディジタルキャパシタ及び中間線路部部分の拡大平面図である。
【図17】横軸に進化の世代をとり、縦軸に標準偏差σをとって表示したグラフである。
【図18】単位構造の周波数構造を計算するためのモデルにおける構造パラメータを示す表である。
【図19】図18のモデルaの単位構造をそれぞれ8周期接続した周期構造としたときの周波数特性を示すグラフである。
【図20】図18のモデルbの単位構造をそれぞれ8周期接続した周期構造としたときの周波数特性を示すグラフである。
【図21】図18のモデルcの単位構造をそれぞれ8周期接続した周期構造としたときの周波数特性を示すグラフである。
【図22】図18のモデルdの単位構造をそれぞれ8周期接続した周期構造としたときの周波数特性を示すグラフである。
【図23】共振器型デバイスの代表的な構造であるスプリットリング共振器概念的に示す分解斜視図である。
【図24】スプリットリング共振器単体の構造示す平面図である。
【図25】変形例1に係る共振器型デバイスの構成を示す分解斜視図である。
【図26】変形例2に係る共振器型デバイスの構成を示す分解斜視図である。
【図27】変形例3に係る共振器型デバイスの構成を示す分解斜視図である。
【図28】横軸に位相遅延を、縦軸に周波数をとって、分散ダイアグラムを示す図である。
【図29】マイクロストリップ給電型スロットアンテナの構成例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0146】
100 伝送線路デバイス
110 基板
112 グラウンド板
120 回路パターン
121 主線路
121a 入力ポート
121b 出力ポート
122 入力側伝送路
123、124、125、126 伝送ユニット(伝搬ユニット)
123a、124a、125a、126a 中間線路部
123b、124b、125b、126b ショートスタブ
123c、124c、125c、126c ビア導体
127 出力側伝送路
128a、128b、128c、128d、128e インターディジタルキャパシタ
220 回路パターン
221 主線路
221a 入力ポート
221b 出力ポート
222 入力側伝送路
223、224、225、226 伝送ユニット(伝搬ユニット)
223a、224a、225a、226a 中間線路部
223b、224b、225b、226b ショートスタブ
223c、224c、225c、226c ビア導体
227 出力側伝送路
228a、228b、228c、228d、228e インターディジタルキャパシタ
320 回路パターン
321 主線路
321a 入力ポート
321b 開放終端
331 入力側伝送路
332、333、334、335、336、337、338、339 伝送ユニット
332a、333a、334a、335a、336a、337a、338a、339a 中間線路部
332b、333b、334b、335b、336b、337b、338b、339b ショートスタブ
332c、333c、334c、335c、336c、337c、338c、339c ビア導体
341a、341b、341c、341d、341e、341f、341g、341h インターディジタルキャパシタ
420 回路パターン
421 主線路
421a 入力ポート
421b 開放終端
431 入力側伝送路
432、433、434、435、436、437、438、439 伝送ユニット(伝搬ユニット)
432a、433a、434a、435a、436a、437a、438a、439a 中間線路部
432b、433b、434b、435b、436b、437b、438b、439b ショートスタブ
432c、433c、434c、435c、436c、437c、438c、439c ビア導体
441a、441b、441c、441d、441e、441f、441g、441h インターディジタルキャパシタ
520 回路パターン
521 主線路
521a 入力ポート
521b 開放終端
531 入力側伝送路
532、533、534、535、536、537、538、539 伝送ユニット(伝搬ユニット)
532a、533a、534a、535a、536a、537a、538a、539a 中間線路部
532b、533b、534b、535b、536b、537b、538b、539b ショートスタブ
532c、533c、534c、535c、536c、537c、538c、539c ビア導体
541a、541b、541c、541d、541e、541f、541g、541h インターディジタルキャパシタ
620 回路パターン
621 主線路
621a 入力ポート
621b 出力ポート
622 入力側伝送路
629 伝送ユニット(伝搬ユニット)
629a 中間線路部
629b ショートスタブ
629c ビア導体
630 単位構造
627 出力側伝送路
628a インターディジタルキャパシタ
628a1 ギャップ部分
628a2 指部分
700 共振器型デバイス
701、702、703、704、705 誘電体シート(基材)
710 スプリットリング共振器
711 リング
711g 切れ目部分
712 リング
712g 切れ目部分
720 金属細線
750 共振器型デバイス
751、752、753、754、755 誘電体シート
761、762、763、764、765 スプリットリング共振器(伝搬ユニット)
800 共振器型デバイス
801、802、803、804、805 誘電体シート
811、812、813、814、815、816、817、818、819、820、821、822 スプリットリング共振器(伝搬ユニット)
850 共振器型デバイス
851、852、853、854、855 誘電体シート
861、862、863、864、865、866、867、868、869、870、871、872 スプリットリング共振器(伝搬ユニット)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された電磁波を伝搬する電磁波伝搬媒質であって、
基材と、
前記基材において前記電磁波の伝搬方向に並べられた複数の伝搬ユニットと、を備え、
前記複数の伝搬ユニットにおける前記電磁波の伝搬特性は、特定の周波数帯域の前記電磁波に対する位相応答が所定の範囲内に入るように、少なくとも隣り合う伝搬ユニットにおいて互いに異なることを特徴とする電磁波伝搬媒質。
【請求項2】
前記電磁波伝搬媒質は、前記複数の伝搬ユニットの一端に前記電磁波を入力する入力ポートを備えるとともに、前記複数の伝搬ユニットの他端側に開放終端を備える請求項1に記載の電磁波伝搬媒質。
【請求項3】
前記伝搬ユニットは、前記基材に伝送線路を形成するように、前記電磁波の伝送方向に並べられた複数の伝送ユニットであり、前記複数の伝送ユニットは、それぞれにおける前記電磁波の伝搬特性としての遮断周波数を有する請求項1又は請求項2に記載の電磁波伝搬媒質。
【請求項4】
前記複数の伝送ユニットは、隣り合う伝送ユニットとの間に容量性の結合を形成するように、それぞれ配置される請求項3に記載の電磁波伝搬媒質。
【請求項5】
前記複数の伝送ユニットは、前記電磁波を伝送可能なスタブを備える請求項3又は請求項4に記載の電磁波伝搬媒質。
【請求項6】
前記伝送線路は、前記基材の上下両面の一方の面に形成され、前記グラウンド部は、前記基材の上下両面の他方の面において、前記伝送線路と離間して形成され、前記基材の厚さ方向にビア導体を貫通することによって、前記伝送線路と前記グラウンド部間を前記電磁波が伝送可能に接続する請求項3から請求項5のいずれか1項に記載の電磁波伝搬媒質。
【請求項7】
前記複数の伝送ユニットは、各伝送ユニットが有する前記遮断周波数が所定規則で並ぶように配置される請求項3から請求項6のいずれか1項に記載の電磁波伝搬媒質。
【請求項8】
前記伝送線路は、互いに異なる遮断周波数を備える2種類の伝送ユニットを交互に配置してなる請求項3から請求項7のいずれか1項に記載の電磁波伝搬媒質。
【請求項9】
前記複数の伝送ユニットは、各伝送ユニットが有する前記遮断周波数がすべて異なる請求項3から請求項6のいずれか1項に記載の電磁波伝搬媒質。
【請求項10】
前記遮断周波数は、前記コンデンサの容量、前記スタブの形状、前記ビア導体の形状のうちの少なくとも1つを変更することによって設定する請求項3から請求項9のいずれか1項に記載の電磁波伝搬媒質。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公開番号】特開2010−103609(P2010−103609A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−270712(P2008−270712)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】