説明

電磁波吸収シート及びその製造方法

【課題】優れた難燃性を有するとともに、寸法変化が十分に抑制された電磁波吸収シートを提供すること。
【解決手段】ポリエステル樹脂、多官能性エポキシ樹脂を含む架橋剤、有機リン系化合物を含む難燃剤及び硬化促進剤を含有する樹脂組成物の硬化物であるバインダ樹脂と、該バインダ樹脂中に、磁性粉末及び無機化合物からなる難燃助剤を含有し、バインダ樹脂に対するリンの含有率が3.0質量%以上である電磁波吸収シート10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波吸収シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通信機器や電子機器においては、放射電磁ノイズ等が、機器内で共鳴やクロストークなどの電磁干渉を発生させ、誤動作や周辺機器の動作に悪影響を生じさせることが問題となっている。このような電磁波障害の発生を防止するためのシールド材として、電磁波吸収シートが用いられている。この電磁波吸収シートは、軟磁性体を含有しており、この軟磁性体が自然共鳴して電磁波を熱エネルギーに変換することによって、電磁波がシートを通過したり、反射したりすることを防止することができる。
【0003】
電磁波吸収シートとしては、電子機器の発火に伴う燃焼を防止する観点から、難燃性のものが求められている。難燃剤としては、従来からハロゲン系のものが知られているが、最近の環境規制の高まりを受けて、ハロゲンフリーの電磁波吸収シートが求められるようになりつつある。
【0004】
ハロゲンフリーの電磁波吸収シートとしては、ポリエステル樹脂、扁平な磁性粉末及び窒素含有難燃剤を含有するものが提案されている(例えば、特許文献1)。この特許文献1では、リン酸残基を有するいわゆるリン内添ポリエステルとメラミン誘導体とを用いて、難燃性を向上させることが試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−262231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、電磁波吸収シートは、携帯電話やパーソナルコンピュータなどの電子機器に搭載されることが多く、この場合、比較的高温且つ高湿度の環境下で使用されることとなる。このため、上述のような電子機器に搭載される場合には、特に温度や湿度の変化によって寸法が大きく変わらないことが求められる。しかしながら、上述の特許文献1のような従来の電磁波吸収シートは、温度や湿度の変化によって寸法が大きく変わってしまうことが懸念される。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、優れた難燃性を有するとともに、寸法変化が十分に抑制された電磁波吸収シートを提供することを目的とする。また、優れた難燃性を有するとともに、寸法変化が十分に抑制された電磁波吸収シートを得ることが可能な電磁波吸収シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明では、ポリエステル樹脂、多官能性エポキシ樹脂を含む架橋剤、有機リン系化合物を含む難燃剤及び硬化促進剤を含有する樹脂組成物の硬化物であるバインダ樹脂と、磁性粉末と、無機化合物からなる難燃助剤と、を含有し、バインダ樹脂に対するリンの含有率が3.0質量%以上である電磁波吸収シートを提供する。
【0009】
このような電磁波吸収シートは、架橋剤として多官能性エポキシ樹脂を用いて、ポリエステル樹脂を架橋させたバインダ樹脂を含有する。このようなバインダ樹脂は、架橋剤として二官能エポキシ樹脂のみを用いて得られるバインダ樹脂に比べて、架橋構造が密になり、温度及び湿度が高い雰囲気下で使用しても吸湿を十分に抑制することができる。また、難燃剤と難燃助剤とを組み合わせて用いるともに、リンの含有率を所定値以上にすることによって、ハロゲン系の難燃剤を用いなくても、難燃性に優れたものとすることができる。したがって、本発明の電磁波吸収シートは、優れた難燃性を有し、寸法変化を十分に抑制することができる。
【0010】
本発明の電磁波吸収シートにおいて、樹脂組成物に対する多官能性エポキシ樹脂の含有率は5質量%以上であることが好ましい。これによって、高温高湿度環境下で使用しても、寸法変化を一層抑制することができる。
【0011】
本発明ではまた、バインダ樹脂と、磁性粉末と、無機化合物からなる難燃助剤と、を含有する電磁波吸収シートの製造方法であって、
ポリエステル樹脂、多官能性エポキシ樹脂を含む架橋剤、有機リン系化合物を含む難燃剤及び硬化促進剤を含有する樹脂組成物と、磁性粉末と、難燃助剤と、を含む混合物を調製する混合工程と、
混合物を加熱して、架橋剤でポリエステル樹脂を架橋して樹脂組成物を硬化させ、バインダ樹脂を得る加熱工程と、を有し、
バインダ樹脂に対するリンの含有率が3.0質量%以上である電磁波吸収シートの製造方法、を提供する。
【0012】
このような製造方法によって得られる電磁波吸収シートは、多官能性エポキシ樹脂等を用いて、ポリエステル樹脂を架橋させて得られるバインダ樹脂を含有する。このようなバインダ樹脂は、架橋剤として二官能エポキシ樹脂のみを用いて得られるバインダ樹脂に比べて、架橋構造が密になり、温度及び湿度が高い雰囲気下で使用しても吸湿を十分に抑制することができる。また、難燃剤と難燃助剤とを組み合わせて用いるとともに、リンの含有率を所定値以上にすることによって、ハロゲン系の難燃剤を用いなくても、難燃性に優れたものとすることができる。したがって、本発明の製造方法によって得られる電磁波吸収シートは、優れた難燃性を有し、寸法変化を十分に抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、優れた難燃性を有するとともに、寸法変化が十分に抑制された電磁波吸収シートを提供することができる。また、優れた難燃性を有するとともに、寸法変化が十分に抑制された電磁波吸収シートを得ることが可能な電磁波吸収シートの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の電磁波吸収シートの好適な実施形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の好適な一実施形態について以下に説明する。図1は、本実施形態の電磁波吸収シートの斜視図である。本実施形態の電磁波吸収シート10は、(A)磁性粉末、(B)難燃助剤、及び(C)バインダ樹脂を含有する。以下、各成分の詳細について説明する。
【0016】
(A)磁性粉末としては、通常の軟磁性粉末を用いることができる。軟磁性粉末としては、例えば、センダスト(Fe−Si−Al合金)、パーマロイ(Fe−Ni合金)、ケイ素銅(Fe−Cu−Si合金)、Fe−Si合金、Fe−Si−B(−Cu−Nb)合金、Fe−Ni−Cr−Si合金、Fe−Si−Cr合金、Fe−Si−Al−Ni−Cr合金等が挙げられる。これらの軟磁性粉末は、市販のものを入手してもよいし、公知の方法で合成してもよい。
【0017】
電磁波吸収シート10における(A)磁性粉末の含有率は、電磁波吸収シート10全体を基準として、好ましくは60〜85質量%であり、より好ましくは65〜80質量%である。(A)磁性粉末の含有率が低くなると、十分に優れた電磁波吸収特性が得られ難くなる傾向にある。一方、(A)磁性粉末の含有率が高くなると、(C)バインダ樹脂の含有率が低くなって、柔軟性が損なわれる傾向にある。
【0018】
(B)難燃助剤は、無機化合物からなる難燃助剤であり、例えば水酸化マグネシウム及び水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物、酸化亜鉛などの金属酸化物、並びに炭酸亜鉛などの炭酸塩などが挙げられる。これらの難燃助剤は、電磁波吸収シート10が燃焼した場合に、冷却効果によって燃焼を継続し難くする機能を有する。上述の各種難燃助剤は、市販のものを用いることができる。本実施形態の電磁波吸収シート10は、難燃性を一層向上させる観点から、(B)難燃助剤として好ましくは金属水酸化物を含有し、より好ましくは水酸化アルミニウムを含有する。
【0019】
電磁波吸収シート10における(B)難燃助剤の含有率は、(A)磁性粉末100質量部に対して、好ましくは5〜30質量部であり、より好ましくは10〜20質量部である。(B)難燃助剤の含有率が低くなると、燃焼時の冷却効果が損なわれる傾向にある。一方、(B)難燃助剤の含有率が高くなると、(C)バインダ樹脂の比率が低くなって、柔軟性が損なわれる傾向及び、(A)磁性粉末の配向性が損なわれる傾向にある。
【0020】
(C)バインダ樹脂は、(a)ポリエステル樹脂、(b)架橋剤、(c)難燃剤及び(d)硬化促進剤を含有する樹脂組成物を、例えば120〜180℃に加熱して得られる硬化物であり、樹脂成分から構成される。(C)バインダ樹脂は、電磁波吸収シート10に含まれる(A)磁性粉末及び(B)難燃助剤などの各成分を結着させて、シート状に保形する機能を有する。樹脂組成物は、加熱すると(C)バインダ樹脂となる成分である。
【0021】
(a)ポリエステル樹脂としては、通常の市販のポリエステル樹脂を用いることができる。組成の均一性向上のため、メチルエチルケトンやトルエンなどの有機溶剤に可溶な非晶性ポリエステル樹脂を用いることが好ましい。また、有機溶剤への溶解性を維持しつつ良好な保形性を有する電磁波吸収シート10とする観点から、(a)ポリエステル樹脂の数平均分子量Mは、好ましくは5000〜50000、より好ましくは10000〜40000である。また、良好な可撓性と良好な保形性とを兼ね備えた電磁波吸収シート10とする観点から、(a)ポリエステル樹脂のガラス転移点(T)は、好ましくは−30〜+20℃、より好ましくは−30〜+5℃である。なお、必要に応じて可塑剤や添加剤等を用いて調整することは可能である。
【0022】
(a)ポリエステル樹脂は、分子中にリン酸残基を有するポリエステル樹脂を含有してもよい。このようにリンを含むポリエステル樹脂は、例えば、エチレングリコールとテレフタル酸とを反応させて得られるポリエステル成分と、ホスフォネート型ポリオール、ホスフェート型ポリオール又はビニルホスフォネートなどのリン成分と、を共重合させることによって得ることができる。
【0023】
(a)ポリエステル樹脂は、上述のようなリンを含むポリエステル樹脂とリンを含有しないポリエステル樹脂とを組み合わせて含有することが好ましい。この場合、(a)ポリエステル樹脂全体に対するリンを含むポリエステル樹脂の質量比率は、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上である。これによって、寸法変化を十分に抑制しつつ十分に優れた難燃性を有する電磁波吸収シート10とすることができる。
【0024】
樹脂組成物全体に対する(a)ポリエステル樹脂の含有率は、好ましくは50〜90質量%であり、より好ましくは65〜85質量%である。樹脂組成物全体に対する(a)ポリエステル樹脂の含有率が小さくなり過ぎると、電磁波吸収シート10の良好な柔軟性が損なわれる傾向にある。一方、(a)ポリエステル樹脂の含有率が大きくなり過ぎると、電磁波吸収シート10の保形性が損なわれる傾向にある。
【0025】
(b)架橋剤は、樹脂組成物を硬化させる際に、(a)ポリエステル樹脂を架橋する成分であり、多官能性エポキシ樹脂を含有する。この多官能性エポキシ樹脂は、一分子中にエポキシ基を3つ以上有するエポキシ樹脂である。(b)架橋剤は、多官能性エポキシ樹脂を含有するため、バインダ樹脂の架橋構造を密に形成することができる。したがって、本実施形態の電磁波吸収シート10は、高温且つ高湿度下で使用しても、寸法変化を十分に抑制することができる。
【0026】
電磁波吸収シート10の寸法変化を一層抑制する観点から、多官能性エポキシ樹脂としては、一分子中に3個以上のエポキシ基を有し、エポキシ基の数に分布を有しているものを用いることが好ましい。多官能性エポキシ樹脂の具体例としては、トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルメタキシレンジアミン、クレゾールノボラックポリグリシジルエーテル、及びフェノールノボラックポリグリシジルエーテルなどが挙げられる。これらのうち、ノボラックタイプのエポキシ樹脂が繰り返し単位を有しているため特に好適である。
【0027】
樹脂組成物全体に対する(b)架橋剤の含有率は、好ましくは3〜20質量%であり、より好ましくは5〜15質量%である。樹脂組成物全体に対する(b)架橋剤の含有率が小さくなり過ぎると、電磁波吸収シート10の良好な保形性が損なわれる傾向にある。一方、(b)架橋剤の含有率が大きくなり過ぎると、電磁波吸収シート10の良好な柔軟性が損なわれる傾向にある。
【0028】
(b)架橋剤に対する(a)ポリエステル樹脂の質量比αは、好ましくは3〜20であり、より好ましくは4〜15である。質量比αを3〜20とすることによって、電磁波吸収シート10の柔軟性を維持しつつ、寸法変化を一層抑制することができる。また、質量比αを4〜15とすることによって、電磁波吸収シート10の柔軟性を維持しつつ、寸法変化をより一層抑制することができる。
【0029】
(b)架橋剤は、多官能性エポキシ樹脂の他に、多官能性エポキシ樹脂とは異なる二官能性エポキシ樹脂やイソシアヌレートを含んでいてもよい。ただし、(b)架橋剤全体に対する多官能性エポキシ樹脂の含有率は、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上である。
【0030】
(c)難燃剤は、樹脂組成物の中に含まれる有機リン系化合物であり、例えば、芳香族リン酸エステルなどの芳香族リン酸化合物を含有することが好ましい。また、(c)難燃剤は、バインダ樹脂の均一性を向上させる観点から、常温で液状であるもの又は溶解してバインダ樹脂に相溶するものであることが好ましい。好ましい難燃剤としては、例えば下記式(I)で表される化合物が挙げられる。なお、多量の有機リン系難燃剤を添加する場合は、電磁波吸収シート10物性が損なわれない範囲内で、反応型難燃剤や溶剤に不溶な粉末難燃剤を併用してもよい。
【0031】
【化1】

【0032】
樹脂組成物全体に対する(c)難燃剤の含有率は、好ましくは5〜30質量%であり、より好ましくは8〜25質量%である。樹脂組成物全体に対する(c)難燃剤の含有率が小さくなり過ぎると、電磁波吸収シート10の十分に優れた難燃性が損なわれる傾向にある。一方、(c)難燃剤の含有率が大きくなり過ぎると、電磁波吸収シート10の良好な柔軟性が損なわれる傾向にある。
【0033】
(d)硬化促進剤としては、イミダゾール類、DBU(ジアザビシクロウンデセン)などの三級アミン化合物等、一般的なものを用いることができる。これらの硬化促進剤は市販品として入手可能である。
【0034】
樹脂組成物全体に対する(d)硬化促進剤の含有率は、好ましくは0.1〜2質量%であり、より好ましくは0.2〜1質量%である。樹脂組成物全体に対する(d)硬化促進剤の含有率が小さくなり過ぎると、樹脂組成物の硬化に時間を所要する傾向にある。一方、(c)難燃剤の含有率が大きくなり過ぎると、電磁波吸収シート10の良好な可撓性が損なわれる傾向にある。
【0035】
上述の樹脂組成物を硬化させて得られる(C)バインダ樹脂の含有率は、(A)磁性粉末100質量部に対して、好ましくは10〜35質量部であり、より好ましくは15〜30質量部である。(C)バインダ樹脂の含有率が小さくなり過ぎると、電磁波吸収シート10が脆くなる傾向にある。一方、(C)バインダ樹脂の含有率が大きくなり過ぎると、電磁波吸収シート10の優れた電磁波吸収特性が損なわれる傾向にある。
【0036】
本実施形態の電磁波吸収シート10のバインダ樹脂におけるリンの含有率は、3質量%以上であり、好ましくは3.5質量%以上である。通常、バインダ樹脂におけるリンの含有率が高いほど、電磁波吸収シート10の難燃性は向上する。ただし、リンの含有率を高くするためには、例えばリンを含むポリエステル樹脂や有機リン系化合物など、リンを含有する成分の割合を増加する必要がある。このため、寸法変化を十分に抑制するとともに良好な柔軟性及び可撓性を有する電磁波吸収シート10とする観点から、バインダ樹脂におけるリンの含有率は、好ましくは7質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下である。
【0037】
本実施形態の電磁波吸収シート10は、上述の成分の他に、(D)粉末状難燃剤を含有していてもよい。好適な粉末状難燃剤としては、例えば、ホスホン酸メラミンやメラミンシアヌレートが挙げられる。このような粉末状難燃剤は、バインダ樹脂中に分散させと、電磁波吸収シート10の難燃性の向上に寄与する。電磁波吸収シート10における(D)粉末状難燃剤の含有率は、(A)磁性粉末100質量部に対して、好ましくは0.5〜5質量部であり、より好ましくは1〜3質量部である。
【0038】
次に、本発明の電磁波吸収シートの製造方法の好適な実施形態を説明する。本実施形態の製造方法は、
(i)(A)磁性粉末、(B)難燃助剤、及び(C)樹脂組成物を含む磁性塗料を調製する混合工程、
(ii)混合物を基材フィルム上に塗布する塗布工程、
(iii)基材フィルムに塗布した磁性塗料を加熱して電磁波吸収シート10を形成する加熱工程、を有する。以下、各工程の詳細について説明する。
【0039】
混合工程では、原材料として、(A)磁性粉末、(B)難燃助剤、並びに(a)ポリエステル樹脂、(b)架橋剤、(c)難燃剤及び(d)硬化促進剤を準備する。そして、有機溶媒に、これらの原材料を、所定の比率で配合して、液状の混合物(磁性塗料)を調製する。必要に応じて、(D)粉末状難燃剤を配合してもよい。
【0040】
ここで用いる有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン等、一般的なものを用いることができる。
【0041】
それぞれの原材料は、市販のものを用いてもよいし、公知の方法で合成してもよい。原材料の配合比率は、最終的に得られる電磁波吸収シート10が所望の特性を有するように、適宜調製することができる。この際、電磁波吸収シート10の(C)バインダ樹脂中におけるリンの含有率が3.0質量%以上になるように配合比率を調製する。
【0042】
塗布工程では、調製した磁性塗料を、基材フィルムの一面上に塗布する。磁性塗料の塗布方法としては、例えばコーター、ドクターブレード法等を用いることができる。このとき、磁性塗料の塗布厚みは、所望の厚さに調節することが好ましい。
【0043】
基材フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリイミドフィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリアミドフィルム等を用いることができる。基材フィルムの厚みは、例えば1〜1000μmとすることができる。
【0044】
磁性塗料を基材フィルムに塗布する際に、磁場を印加することによって、磁性塗料に含まれる磁性粉末を所定方向に配向させることが好ましい。これによって、電磁波吸収特性に一層優れる電磁波吸収シート10を得ることができる。
【0045】
加熱工程では、基材フィルム上に塗布した磁性塗料を、用いた有機溶媒の沸点付近(例えば80〜150℃)にまで加熱して有機溶媒を蒸発除去するとともに、(a)ポリエステル樹脂、(b)架橋剤、(c)難燃剤及び(d)硬化促進剤からなる樹脂組成物を硬化させて、基材フィルム上に電磁波吸収シート10を形成する。なお、加熱前後に電磁波吸収シート10の厚み方向にプレスしてシートを形成することが好ましい。これによって、磁性粉末や樹脂組成物が一層密に充填されることとなり、電磁波吸収特性に一層優れる電磁波吸収シート10を得ることができる。
【0046】
加熱工程では、(a)ポリエステル樹脂、(b)架橋剤及び(d)硬化促進剤の反応によって、(a)ポリエステル樹脂が(b)架橋剤によって架橋され、架橋構造が形成される。架橋構造中には、(c)難燃剤が組み込まれてもよい。これによって、(C)バインダ樹脂が形成され、(C)バインダ樹脂中に(A)磁性粉末、(B)難燃助剤及び場合により(D)粉末状難燃剤が分散された電磁波吸収シート10が形成される。
【0047】
基材フィルム上に電磁波吸収シート10が形成された後、該基材フィルムから電磁波吸収シート10を取り外し、必要に応じて、同様の方法によって形成された電磁波吸収シート10を積層する積層工程を行ってもよい。これによって、所望の厚みを有する電磁波吸収シートを得ることができる。
【0048】
上述の方法によって製造された電磁波吸収シート10は、3次元の架橋構造を有する(C)バインダ樹脂と、(C)バインダ樹脂中に分散された(A)磁性粉末、(B)難燃助剤、及び場合により(D)粉末状難燃剤を含有する。また、この電磁波吸収シート10は、リンを(C)バインダ樹脂に対して3質量%以上含有する。このような電磁波吸収シート10は、優れた難燃性を有し、高温且つ高湿度環境で使用しても、寸法変化を十分に抑制することができる。
【0049】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0050】
実施例及び比較例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
(実施例1〜8、比較例1〜3)
[評価用シートの作製]
【0052】
電磁波吸収シートを作製するため、以下の原材料を準備した。なお、軟磁性粉末としては、市販のFeSiAl粉末を用いた。
・ハイジライトH43(昭和電工株式会社製、商品名):水酸化アルミニウム
・バイロン337(東洋紡績株式会社製、商品名):リン酸残基を有するポリエステル樹脂
・バイロン516(東洋紡績株式会社製、商品名):ポリエステル樹脂
・エピコート180S65(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名):多官能性エポキシ樹脂
・エピコート828(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名):二官能性エポキシ樹脂
・コロネート2030(日本ポリウレタン株式会社製、商品名):イソシアネート化合物
・キュアゾール2E4MZ(四国化成工業株式会社製、商品名:2−エチル−4−メチルイミダゾール
・DAIGUARD580(大八化学工業株式会社製、商品名):リン酸エステル
・PX200(大八化学工業株式会社製、商品名):リン酸エステル
・HCA−HQ−HS(三光株式会社製、商品名):環状有機リン化合物
【0053】
上述の原材料のうち、まず、磁性粉末以外の原材料を、表1、表2及び表3(以下、纏めて「表1〜3」という。)に示す配合比率(磁性粉末100質量部に対する質量部)で、溶媒(メチルエチルケトン)に混合して、樹脂組成物の分散液を調製した。
【0054】
調製した分散液に、表1〜3に示す比率で磁性粉末を配合して混合し、磁性塗料(スラリー)を得た。このスラリーをコーターによって塗布し、150℃で1時間加熱して乾燥させ、シートを作製した。このようにして作製したシートを、複数積層してプレスを行い、実施例1〜8及び比較例1〜3の評価用シート(縦×横=40mm×40mm)を作製した。なお、各実施例及び各比較例において、厚み0.5mmと厚み0.3mmの2種類の評価シートを作製した。原材料の配合比率に基づいて、評価用シートに含まれるバインダ樹脂全体に対するリンの含有率を計算した。その結果は、表1〜3に示す通りであった。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
【表3】

【0058】
[難燃性の評価]
作製した各実施例及び各比較例の評価用シート(厚さ0.5mm)を用いて難燃性の評価を行った。難燃性評価の試験方法は、UL94に規定する垂直試験法(UL94 V法)によって行った。そして、UL94に規定する評価基準(V−0,V−1,V−2)に基づいて評価を行った。UL−94 V法の評価基準のV−0、V−1、V−2基準を満たすものを、それぞれ「V−0」、「V−1」、「V−2」と評価した。また、いずれの基準も満たさないものを「燃焼」とした。結果は、表4に示す通りであった。
【0059】
[寸法変化の評価]
作製した各実施例及び各比較例の評価用シート(厚さ0.3mm)を60℃、90%RHの条件下で500時間保管した後、取り出して、評価用シートの厚み方向の長さをマイクロメータによって測定した。保管前の厚み方向の長さをA、保管後の厚み方向の長さをBとしたとき、下記式(1)によって、寸法変化率を求めた。結果は、表4に示す通りであった。
寸法変化率(%)=[(B−A)/A]×100 (1)
【0060】
【表4】

【0061】
表4に示す結果から、実施例1〜8の評価用シート、すなわち電磁波吸収シートは、優れた難燃性を有し、寸法変化が十分に抑制されていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、優れた難燃性を有するとともに、寸法変化が十分に抑制された電磁波吸収シートを提供することができる。また、優れた難燃性を有するとともに、寸法変化が十分に抑制された電磁波吸収シートを得ることが可能な電磁波吸収シートの製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0063】
10…電磁波吸収シート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂、多官能性エポキシ樹脂を含む架橋剤、有機リン系化合物を含む難燃剤、及び硬化促進剤を含有する樹脂組成物の硬化物であるバインダ樹脂と、磁性粉末と、無機化合物からなる難燃助剤と、を含有し、
前記バインダ樹脂に対するリンの含有率が3.0質量%以上である電磁波吸収シート。
【請求項2】
前記樹脂組成物に対する前記多官能性エポキシ樹脂の含有率が5質量%以上である請求項1に記載の電磁波吸収シート。
【請求項3】
バインダ樹脂と、磁性粉末と、無機化合物からなる難燃助剤と、を含有する電磁波吸収シートの製造方法であって、
ポリエステル樹脂、多官能性エポキシ樹脂を含む架橋剤、有機リン系化合物を含む難燃剤及び硬化促進剤を含有する樹脂組成物と、前記磁性粉末と、前記難燃助剤と、を含む混合物を調製する混合工程と、
前記混合物を加熱し、前記架橋剤で前記ポリエステル樹脂を架橋して前記樹脂組成物を硬化させ、前記バインダ樹脂を得る加熱工程と、を有し、
前記バインダ樹脂に対するリンの含有率が3.0質量%以上である電磁波吸収シートの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−181679(P2011−181679A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44386(P2010−44386)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】