電磁波吸収フレキシブル回路基板及びそれに用いる電磁波吸収フレキシブル基板シート
【課題】 優れた電磁波吸収能を有する薄い可撓性電磁波吸収フィルム手間をかけずにフレキシブル基板に貼付してなる電磁波吸収フレキシブル回路基板を提供する。
【解決手段】 一面に配線が形成されたフレキシブル基板と、フレキシブル基板の他面に貼付された電磁波吸収フィルムとを有し、電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムと、その少なくとも一面に設けた単層又は多層の金属薄膜とを有し、金属薄膜に多数の実質的に平行で断続的な線状痕が不規則な幅及び間隔で複数方向に形成されている電磁波吸収フレキシブル回路基板。
【解決手段】 一面に配線が形成されたフレキシブル基板と、フレキシブル基板の他面に貼付された電磁波吸収フィルムとを有し、電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムと、その少なくとも一面に設けた単層又は多層の金属薄膜とを有し、金属薄膜に多数の実質的に平行で断続的な線状痕が不規則な幅及び間隔で複数方向に形成されている電磁波吸収フレキシブル回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い電磁波吸収能を有する電磁波吸収フレキシブル回路基板及びそれに用いる電磁波吸収フレキシブル基板シートに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、スマートフォン、無線LAN等の通信機器や、コンピュータ等の電子機器には、各種のプリント基板が使用されている。プリント基板上の配線には各種の部品等が実装されており、配線や実装部品等から発生した電磁波ノイズは通信機器や電子機器のトラブルの原因になる。通信機器や電子機器における電磁波ノイズには、プリント基板の配線により伝搬される伝導性ノイズと、実装部品から放射される放射性ノイズがある。
【0003】
このような電磁波ノイズに対して一般に電磁シールド技術が用いられている。電磁シールド技術は、ノイズ発生源及びノイズ受信部品の周囲を金属板で覆い、電磁波ノイズを遮蔽する技術である。例えば、電通信機器や子機器の筐体内部に金属製シールド板を配置すれば、通信機器や電子機器から放射される電磁波ノイズは抑制されるが、機器内部の電磁波ノイズが低減する訳ではないので、実装部品に対する十分なノイズ対策にならない。
【0004】
また、部品単体を電磁波ノイズから遮蔽する場合、例えば部品の全周のプリント基板上にグランドパターンを形成し、グランドパターン上に半田により金属ケース枠を固定し、金属ケース枠に金属ケース蓋を嵌合することが行われている。しかし、この電磁シールド方法では、金属ケースの実装に手間がかかるだけでなく、金属ケースの分だけ厚くなり、通信機器や電子機器の薄肉化及び小型化の障害になる。
【0005】
そこで、電磁ノイズ遮断を要する電子部品及び配線パターンが設けられた回路基板と、電磁シールド用フィルムとを具備し、前記電磁シールド用フィルムは、銅及びニッケルからなる導電性膜及びカーボンを混入した磁性体膜を両面に形成したポリエチレンテレフタレートからなる柔軟性を有するフィルムであり、電子部品及び配線パターンを覆うように回路基板に熱圧着されている電磁シールド形成回路基板が提案された(特開2003-209390号、特許文献1)。しかし、この電磁シールド形成回路基板では、電子部品及び配線パターンが回路基板に熱圧着された電磁シールド用フィルムで密封されているので、放熱性が不十分である。その上、電子部品を実装した各回路基板に電磁シールド用フィルムを熱圧着しなければならないので、手間がかかるという問題がある。
【0006】
通信機器や電子機器には、ポリイミドフィルムからなる片面又は両面のフレキシブル基板や、フレキシブル基板とガラス繊維強化エポキシ樹脂からなるリジッド基板との組合せ等が使用されている。フレキシブル基板には大きなノイズ源である配線が形成されているので、フレキシブル基板から出る電磁波ノイズを吸収することは通信機器や電子機器の誤動作を防止する上で重要である。しかし、通信機器や電子機器の薄肉化及び小型化に対応してフレキシブル基板は複雑な形状に加工されているので、フレキシブル基板に電磁波吸収フィルムを貼付するには手間がかかるという問題がある。そこで、フレキシブル基板に簡単に電磁波吸収フィルムを貼付できる技術の開発が望まれている。
【特許文献1】特開2003-209390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の目的は、優れた電磁波吸収能を有する薄い可撓性電磁波吸収フィルムを手間をかけずにフレキシブル基板に貼付してなる電磁波吸収フレキシブル回路基板、及びそれを形成するのに用いる電磁波吸収フレキシブル基板シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者は、銅箔を貼付したフレキシブルシートに、電磁波吸収能を有する金属薄膜を有する電磁波吸収フィルムを前記金属薄膜が密封されるように貼付してなるシートは、配線を形成するために銅箔をエッチングする際に金属薄膜が腐食することがなく、かつ配線に所定の部品を搭載した後に切断すれば、電磁波吸収フィルムが貼付したフレキシブル回路基板が得られることを発見し、本発明に想到した。
【0009】
すなわち、本発明の第一の電磁波吸収フレキシブル回路基板は、一面に配線が形成されたフレキシブル基板と、前記フレキシブル基板の他面に貼付された電磁波吸収フィルムとを有し、前記電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムと、その少なくとも一面に設けた単層又は多層の金属薄膜とを有し、前記金属薄膜に多数の実質的に平行で断続的な線状痕が不規則な幅及び間隔で複数方向に形成されていることを特徴とする。
【0010】
上記第一の電磁波吸収フレキシブル回路基板を形成するのに用いる本発明の第一の電磁波吸収フレキシブル基板シートは、一面に銅層が形成されたフレキシブル基板と、前記フレキシブル基板の他面に貼付された電磁波吸収フィルムとを有し、前記電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムと、その少なくとも一面に設けた単層又は多層の金属薄膜とを有し、前記金属薄膜に多数の実質的に平行で断続的な線状痕が不規則な幅及び間隔で複数方向に形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の第二の電磁波吸収フレキシブル回路基板は、一枚の電磁波吸収フィルムと、その両側に貼付された一対のフレキシブル基板とからなる積層体からなり、前記積層体の外面を形成する各フレキシブル基板の表面に配線が形成されており、前記電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムと、その少なくとも一面に設けた単層又は多層の金属薄膜とを有し、前記金属薄膜に多数の実質的に平行で断続的な線状痕が不規則な幅及び間隔で複数方向に形成されていることを特徴とする。
【0012】
上記第二の電磁波吸収フレキシブル回路基板を形成するのに用いる本発明の第二の電磁波吸収フレキシブル基板シートは、一枚の電磁波吸収フィルムと、その両側に貼付された一対のフレキシブル基板とからなる積層体からなり、前記積層体の外面を形成する各フレキシブル基板の表面に銅層が形成されており、前記電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムと、その少なくとも一面に設けた単層又は多層の金属薄膜とを有し、前記金属薄膜に多数の実質的に平行で断続的な線状痕が不規則な幅及び間隔で複数方向に形成されていることを特徴とする。
【0013】
前記第一及び第二の電磁波吸収フレキシブル回路基板及びそれらに用いる第一及び第二の電磁波吸収フレキシブル基板シートにおいて、前記線状痕は二方向に配向しており、その交差角は30〜90°であるのが好ましい。前記線状痕の幅は90%以上が0.1〜100μmの範囲内にあって、平均1〜50μmであり、前記線状痕の横手方向間隔は1〜500μmの範囲内にあって、平均1〜200μmであるのが好ましい。
【0014】
前記第一及び第二の電磁波吸収フレキシブル回路基板及びそれらに用いる第一及び第二の電磁波吸収フレキシブル基板シートにおいて、前記金属薄膜はアルミニウム、銅、銀、錫、ニッケル、コバルト、クロム及びこれらの合金からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属からなるのが好ましい。
【0015】
前記第一及び第二の電磁波吸収フレキシブル回路基板及びそれらに用いる第一及び第二の電磁波吸収フレキシブル基板シートにおいて、前記金属薄膜上にカーボンナノチューブ薄層が形成されているのが好ましい。
【0016】
前記カーボンナノチューブ薄層の塗布量で表した厚さは0.01〜0.5 g/m2であるのが好ましい。前記カーボンナノチューブは多層カーボンナノチューブであるのが好ましい。
【0017】
本発明の第三の電磁波吸収フレキシブル回路基板は、一面に配線が形成されたフレキシブル基板と、前記フレキシブル基板の他面に貼付された電磁波吸収フィルムとを有し、前記電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムの一方の面に蒸着法により磁性金属薄膜を形成した後、110〜180℃の範囲内の温度で熱処理してなり、(a) 前記磁性金属薄膜の光透過率(波長660 nmのレーザ光)が3〜50%であり、(b) 前記磁性金属薄膜の10 cm×10 cmの正方形の試験片の対向辺部に、辺全体を覆う長さの一対の電極を配置し、平坦な加圧板を介して3.85 kgの荷重をかけて測定した表面抵抗が10〜200Ω/□であることを特徴とする。
【0018】
上記第三の電磁波吸収フレキシブル回路基板を形成するのに用いる本発明の第三の電磁波吸収フレキシブル基板シートは、一面に銅層が形成されたフレキシブル基板と、前記フレキシブル基板の他面に貼付された電磁波吸収フィルムとを有し、前記電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムの一方の面に蒸着法により磁性金属薄膜を形成した後、110〜180℃の範囲内の温度で熱処理してなり、(a) 前記磁性金属薄膜の光透過率(波長660 nmのレーザ光)が3〜50%であり、(b) 前記磁性金属薄膜の10 cm×10 cmの正方形の試験片の対向辺部に、辺全体を覆う長さの一対の電極を配置し、平坦な加圧板を介して3.85 kgの荷重をかけて測定した表面抵抗が10〜200Ω/□であることを特徴とする。
【0019】
本発明の第四の電磁波吸収フレキシブル回路基板は、一枚の電磁波吸収フィルムと、その両側に貼付された一対のフレキシブル基板とからなる積層体からなり、前記積層体の外面を形成する各フレキシブル基板の表面に配線が形成されており、前記電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムの一方の面に蒸着法により磁性金属薄膜を形成した後、110〜180℃の範囲内の温度で熱処理してなり、(a) 前記磁性金属薄膜の光透過率(波長660 nmのレーザ光)が3〜50%であり、(b) 前記磁性金属薄膜の10 cm×10 cmの正方形の試験片の対向辺部に、辺全体を覆う長さの一対の電極を配置し、平坦な加圧板を介して3.85 kgの荷重をかけて測定した表面抵抗が10〜200Ω/□であることを特徴とする。
【0020】
上記第四の電磁波吸収フレキシブル回路基板を形成するのに用いる本発明の第四の電磁波吸収フレキシブル基板シートは、一枚の電磁波吸収フィルムと、その両側に貼付された一対のフレキシブル基板とからなる積層体からなり、前記積層体の外面を形成する各フレキシブル基板の表面に銅層が形成されており、前記電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムの一方の面に蒸着法により磁性金属薄膜を形成した後、110〜180℃の範囲内の温度で熱処理してなり、(a) 前記磁性金属薄膜の光透過率(波長660 nmのレーザ光)が3〜50%であり、(b) 前記磁性金属薄膜の10 cm×10 cmの正方形の試験片の対向辺部に、辺全体を覆う長さの一対の電極を配置し、平坦な加圧板を介して3.85 kgの荷重をかけて測定した表面抵抗が10〜200Ω/□であることを特徴とする。
【0021】
前記第三及び第四の電磁波吸収フレキシブル回路基板及びそれらに用いる第三及び第四の電磁波吸収フレキシブル基板シートにおいて、前記磁性金属はNi又はその合金であるのが好ましい。前記熱処理は10分〜1時間であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、銅層を有するフレキシブル基板の片面又は両面に予め電磁波吸収フィルムを形成しておくので、銅層をエッチングすることにより配線を形成し、必要に応じて所望の部品を半田付けすれば、電磁波吸収能を有するフレキシブル回路基板が簡単に得られる。予め電磁波吸収フィルムを形成したフレキシブル基板は所望の形状に切断できるので、いかなる形状の回路基板に対しても採用することができる。
【0023】
またフレキシブル基板に貼付する電磁波吸収フィルムは、少なくとも一面に単層又は多層の金属薄膜を設けたプラスチックフィルムからなるので、非常に薄くかつ十分な可撓性を有する。そのため、電磁波吸収フィルムを貼付してもフレキシブル基板が厚くなり過ぎることがないだけでなく、フレキシブル基板の利点である可撓性も損なわれない。さらに、金属薄膜に多数の実質的に平行で断続的な線状痕を不規則な幅及び間隔で複数方向に形成すると、異方性のない優れた電磁波吸収能が得られる。その上、金属薄膜上にカーボンナノチューブ薄層を形成すると、さらに高い電磁波吸収能が得られる。
【0024】
また電磁波吸収フィルムを予め貼付した銅層付きフレキシブル基板からなる本発明の電磁波吸収フレキシブル基板シートは、任意の形状の電磁波吸収フレキシブル回路基板に形成することができる。従って、本発明の電磁波吸収フレキシブル基板シートを使用することにより、フレキシブル回路基板に後から電磁波吸収フィルムを配置するより低コストで電磁波ノイズ抑制を図ることができる。
【0025】
このような利点を有する本発明の電磁波吸収フレキシブル回路基板及び電磁波吸収フレキシブル基板シートは小型化、軽量化及び低コスト化が要求される種々の通信機器や電子機器に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1(a)】本発明の一実施形態による電磁波吸収フレキシブル基板シートを示す断面図である。
【図1(b)】図1(a) の部分Aを示す拡大断面図である。
【図1(c)】図1(a) の部分Bを示す拡大断面図である。
【図1(d)】本発明の他の実施形態による電磁波吸収フレキシブル基板シートを示す断面図である。
【図2(a)】本発明の一実施形態による電磁波吸収フレキシブル基板シートを形成する工程を示す図である。
【図2(b)】本発明の他の実施形態による電磁波吸収フレキシブル基板シートを形成する工程を示す図である。
【図3(a)】図2(a) に示す方法により得られた電磁波吸収フレキシブル回路基板を示す部分断面図である。
【図3(b)】図2(b) に示す方法により得られた電磁波吸収フレキシブル回路基板を示す部分断面図である。
【図4(a)】本発明の電磁波吸収フレキシブル基板シートに用いる電磁波吸収フィルムの一例を示す断面図である。
【図4(b)】図4(a) の電磁波吸収フィルムの線状痕の詳細を示す部分平面図である。
【図4(c)】図4(b) のA-A断面図である。
【図4(d)】図4(c) の部分Cを示す拡大断面図である。
【図4(e)】電磁波吸収フィルムの別の例を示す断面図である。
【図4(f)】図4(e) の部分Dを示す拡大断面図である。
【図5(a)】電磁波吸収フィルムの線状痕の別の例を示す部分平面図である。
【図5(b)】電磁波吸収フィルムの線状痕のさらに別の例を示す部分平面図である。
【図5(c)】電磁波吸収フィルムの線状痕のさらに別の例を示す部分平面図である。
【図6(a)】線状痕の他に微細穴を形成した電磁波吸収フィルムを示す部分平面図である。
【図6(b)】図6(a) のB-B断面図である。
【図7(a)】金属薄膜表面にカーボンナノチューブ薄層が形成された電磁波吸収フィルムの一例を示す。
【図7(b)】金属薄膜表面にカーボンナノチューブ薄層が形成された電磁波吸収フィルムの他の例を示す。
【図8(a)】線状痕の形成装置の一例を示す斜視図である。
【図8(b)】図8(a) の装置を示す平面図である。
【図8(c)】図8(b) のC-C断面図である。
【図8(d)】複合フィルムの進行方向に対して傾斜した線状痕が形成される原理を説明するための部分拡大平面図である。
【図8(e)】図8(a) の装置において、複合フィルムに対するパターンロール及び押えロールの傾斜角度を示す部分平面図である。
【図9】線状痕の形成装置の他の例を示す部分断面図である。
【図10】線状痕の形成装置のさらに他の例を示す斜視図である。
【図11】線状痕の形成装置のさらに他の例を示す斜視図である。
【図12】線状痕の形成装置のさらに他の例を示す斜視図である。
【図13】本発明の電磁波吸収フレキシブル基板シートに用いる電磁波吸収フィルムの他の例を示す断面図である。
【図14】図13に示す電磁波吸収フィルムの磁性金属薄膜の詳細を示す部分断面図である。
【図15(a)】電磁波吸収フィルムの表面抵抗を測定する装置を示す斜視図である。
【図15(b)】図15(a) の装置を用いて電磁波吸収フィルムの表面抵抗を測定する様子を示す平面図である。
【図15(c)】図15(b) のC-C断面図である。
【図16(a)】電磁波吸収フィルムの電磁波吸収能を評価するシステムを示す平面図である。
【図16(b)】電磁波吸収フィルムの電磁波吸収能を評価するシステムを示す部分断面正面図である。
【図17】参考例1の電磁波吸収フィルムの伝送減衰率Rtpと入射電波の周波数との関係を示すグラフである。
【図18】参考例1の電磁波吸収フィルムのノイズ吸収率Ploss/Pinと入射電波の周波数との関係を示すグラフである。
【図19】参考例2及び参考例3の電磁波吸収フィルムの伝送減衰率Rtpと入射電波の周波数との関係を示すグラフである。
【図20】参考例2及び参考例3の電磁波吸収フィルムのノイズ吸収率Ploss/Pinと入射電波の周波数との関係を示すグラフである。
【図21】参考例4及び比較例1の蒸着フィルムサンプルの0.1〜6 GHzにおけるRtpの最高値及び最低値を示すグラフである。
【図22(a)】磁性金属薄膜を蒸着したプラスチックフィルムに対して熱処理を行う装置を示す断面図である。
【図22(b)】図22(a) の装置を用いて磁性金属蒸着フィルムに対して熱処理を行う様子を示す平面図である。
【図23(a)】参考例4の蒸着フィルムサンプルの6 GHzにおけるRtpの分布を示すグラフである。
【図23(b)】比較例1の蒸着フィルムサンプルの6 GHzにおけるRtpの分布を示すグラフである。
【図24】伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率Ploss/Pinを測定するための電磁波吸収フレキシブル回路基板モデルを示す平面図である。
【図25】実施例1の伝送減衰率Rtpと入射電波の周波数との関係を示すグラフである。
【図26】実施例1のノイズ吸収率Ploss/Pinと入射電波の周波数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施形態を添付図面を参照して詳細に説明するが、特に断りがなければ一つの実施形態に関する説明は他の実施形態にも適用される。また下記説明は限定的ではなく、本発明の技術的思想の範囲内で種々の変更をしても良い。
【0028】
[1] 電磁波吸収フレキシブル基板シート
電磁波吸収フレキシブル回路基板は電磁波吸収フレキシブル基板シートの銅層をエッチングすることにより配線を形成したものであるので、両者の層構成は異ならない。従って、電磁波吸収フレキシブル基板シートの層構成について詳細に説明する。
【0029】
図1(a) は本発明の一実施形態による電磁波吸収フレキシブル基板シートを示す。この電磁波吸収フレキシブル基板シート10は、フレキシブル基板11と、その上に接着された電磁波吸収フィルム12と、電磁波吸収フィルム12を完全に密封するようにフレキシブル基板11及び電磁波吸収フィルム12に接着されたカバーフィルム13とからなる。図1(b) に示すように、フレキシブル基板11はフレキシブルプラスチックフィルム110と銅層111からなり、電磁波吸収フィルム12はプラスチックフィルム120と金属薄膜121からなる。フレキシブル基板11とカバーフィルム13による密封を完全にするために、電磁波吸収フィルム12の端部とフレキシブル基板11の端部及びカバーフィルム13の端部との距離(マージン)Mは数mm程度が必要である。
【0030】
図2(a) は本発明の電磁波吸収フレキシブル基板シート10の一例の製造方法を示す。電磁波吸収フレキシブル基板シート10は片面に銅層111を有する。まず、一面に銅層111として銅箔を貼付した長尺のフレキシブルプラスチックフィルム110を所望のサイズに切断し、銅層111上にフォトレジスト層112を形成する(工程1)。このフレキシブル基板11の他面に電磁波吸収フィルム12を接着する(工程2)。電磁波吸収フィルム12の金属薄膜121は銅層111側にあってもその反対側にあっても良い。電磁波吸収フィルム12の完全な密封を確保するために、電磁波吸収フィルム12をマージンMをもってフレキシブル基板11に接着する。フレキシブル基板11と同じサイズのカバーフィルム13を電磁波吸収フィルム12及びフレキシブル基板11に接着する(工程3)。これにより、図1(a)〜図1(c) に示す構造の電磁波吸収フレキシブル基板シート10aが得られる。
【0031】
図1(d) は本発明の電磁波吸収フレキシブル基板シートの他の例を示し、図2(b) は図1(d) の電磁波吸収フレキシブル基板シートの製造方法を示す。この電磁波吸収フレキシブル基板シート10bは両面に銅層111,111を有する。銅層111として予め銅箔を貼付した同じサイズのフレキシブル基板11を二枚用意し、各フレキシブル基板11の銅層111の上にフォトレジスト層112を形成する(工程1)。工程2で一方のフレキシブル基板11に電磁波吸収フィルム12を接着した後で、電磁波吸収フィルム12が完全に密封されるように他方のフレキシブル基板11を電磁波吸収フィルム12及びフレキシブル基板11に接着する(工程3)。
【0032】
[2] 電磁波吸収フレキシブル回路基板
図2(a) に示す方法により得られた電磁波吸収フレキシブル基板シート10aのフォトレジスト層112をパターニングした後、エッチングにより不要な銅層111を除去し、配線111’を形成する。片面に配線111’を有する電磁波吸収フレキシブル回路基板20aを図3(a) に示す。
【0033】
図2(b) に示す方法により得られた電磁波吸収フレキシブル基板シート10bの一方のフォトレジスト層112をパターニングした後、エッチングにより不要な銅層111を除去し、一方の配線111’を形成する。次に、他方のフォトレジスト層112をパターニングした後、エッチングにより不要な銅層111を除去し、他方の配線111’を形成する。このようにして、図3(b) に示すように、両面に配線111’, 111’を有する電磁波吸収フレキシブル回路基板20bが得られる。
【0034】
[3] 電磁波吸収フレキシブル基板シートの構成要素
(1) フレキシブル基板
フレキシブル基板11を形成するプラスチックは、十分な可撓性、屈曲性、耐熱性及び機械的強度を有するものであれば特に限定されないが、一般に使用されているポリイミドフィルムが好ましい。
【0035】
(2) 電磁波吸収フィルム
電磁波吸収フィルム12は、図4(a) に示すように、プラスチックフィルム120の少なくとも一面に単層又は多層の金属薄膜121が形成された構造を有する。図4(a)〜図4(d)は、プラスチックフィルム120の一面全体に形成された金属薄膜121に実質的に平行で断続的な多数の線状痕122が二方向に形成された例を示す。
【0036】
(a) プラスチックフィルム
プラスチックフィルム120を形成する樹脂は、絶縁性とともに十分な強度、可撓性及び加工性を有する限り特に制限されず、例えばポリエステル(ポリエチレンテレフタレート等)、ポリアリーレンサルファイド(ポリフェニレンサルファイド等)、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)等が挙げられる。強度及びコストの観点から、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。プラスチックフィルム120の厚さは10〜100μm程度で良い。
【0037】
(b) 金属薄膜
金属薄膜121を形成する金属は導電性を有する限り特に限定されないが、耐食性及びコストの観点からアルミニウム、銅、銀、錫、ニッケル、コバルト、クロム及びこれらの合金が好ましく、特にアルミニウム、銅、ニッケル及びこれらの合金が好ましい。金属薄膜の厚さは0.01μm以上が好ましい。厚さの上限は特に限定的でないが、実用的には10μm程度で十分である。勿論、10μm超の金属薄膜を用いても良いが、高周波数の電磁波の吸収能はほとんど変わらない。金属薄膜の厚さは0.01〜5μmがより好ましく、0.01〜1μmが最も好ましい。金属薄膜121は蒸着法(真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理蒸着法、又はプラズマCVD法、熱CVD法、光CVD法等の化学気相蒸着法)、めっき法又は箔接合法により形成することができる。
【0038】
金属薄膜121が単層の場合、金属薄膜121は導電性、耐食性及びコストの観点からアルミニウム又はニッケルからなるのが好ましい。また金属薄膜121が複層の場合、一方を非磁性金属により形成し、他方を磁性金属により形成しても良い。非磁性金属としてアルミニウム、銅、銀、錫又はこれらの合金が挙げられ、磁性金属としてニッケル、コバルト、クロム又はこれらの合金が挙げられる。磁性金属薄膜の厚さは0.01μm以上が好ましく、非磁性金属薄膜の厚さは0.1μm以上が好ましい。厚さの上限は特に限定的でないが、両者とも実用的には10μm程度で良い。より好ましくは、磁性金属薄膜の厚さは0.01〜5μmであり、非磁性金属薄膜の厚さは0.1〜5μmである。図4(e) 及び図4(f) はプラスチックフィルム120に二層の金属薄膜121a,121bを形成した場合を示す。
【0039】
(c) 線状痕
図4(b)〜図4(d) に示すように、金属薄膜121に多数の実質的に平行で断続的な線状痕122a,122bが二方向に不規則な幅及び間隔で形成されている。なお、説明のために図4(c) 及び図4(d) では線状痕122の深さを誇張している。二方向に配向した線状痕122は種々の幅W及び間隔Iを有する。後述するように、線状痕122はランダムに付着した硬質微粒子(ダイヤモンド微粒子)を有するパターンロールの摺接により形成されるので、線状痕の間隔Iは横手方向及び長手方向で変わらない。以下横手方向間隔Iについて説明するが、その説明はそのまま長手方向間隔にも当てはまる。線状痕122の幅Wは線状痕形成前の金属薄膜121の表面Sに相当する高さで求め、線状痕122の間隔Iは、線状痕形成前の金属薄膜121の表面Sに相当する高さにおける線状痕122の間隔とする。線状痕122が種々の幅W及び間隔Iを有するので、本発明の電磁波吸収フレキシブル回路基板は広範囲にわたる周波数の電磁波を効率良く吸収することができる。
【0040】
線状痕122の幅Wの90%以上は0.1〜100μmの範囲内にあるのが好ましく、0.5〜50μmの範囲内にあるのがより好ましく、0.5〜20μmの範囲内にあるのが最も好ましい。線状痕122の平均幅Wavは1〜50μmであるのが好ましく、1〜10μmがより好ましく、1〜5μmが最も好ましい。
【0041】
線状痕122の横手方向間隔Iは1〜500μmの範囲内にあるのが好ましく、1〜100μmの範囲内にあるのがより好ましく、1〜50μmの範囲内にあるのが最も好ましく、1〜30μmの範囲内にあるのが特に好ましい。また線状痕122の横手方向平均間隔Iavは1〜200μmが好ましく、5〜50μmがより好ましく、5〜30μmが最も好ましい。
【0042】
線状痕122の長さLは、摺接条件(主としてロール及びフィルムの相対的な周速、及び複合フィルムのロールへの巻回角度)により決まるので、摺接条件を変えない限り大部分がほぼ同じである(ほぼ平均長さに等しい)。線状痕122の長さは特に限定的でなく、実用的には1〜100 mm程度で良く、好ましくは2〜10 mmである。
【0043】
線状痕122a,122bの鋭角側の交差角(以下特に断りがなければ単に「交差角」とも言う)θsは10〜90°が好ましく、30〜90°がより好ましい。複合フィルムとパターンロールとの摺接条件(摺接方向、周速比等)を調整することにより、図5(a)〜図5(c) に示すように種々の交差角θsの線状痕122が得られる。図5(a) は三方向の線状痕122a,122b,122cを有する例を示し、図5(b) は三方向の線状痕122a,122b,122c,122dを有する例を示し、図5(c) は直交する線状痕122a’,122b’を有する例を示す。
【0044】
(d) 微細穴
図6(a) 及び図6(b) に示すように、金属薄膜121に線状痕122の他に多数の微細貫通穴13をランダムに設けても良い。微細穴13は、表面に高硬度微粒子を有するロールを金属薄膜121に押圧することにより形成することができる。図6(b) に示すように、微細穴13の開口径Dは線状痕形成前の金属薄膜121の表面Sに相当する高さで求める。微細穴13の開口径Dは90%以上が0.1〜1000μmの範囲内にあるのが好ましく、0.1〜500μmの範囲内にあるのがより好ましい。また微細穴13の平均開口径Davは0.5〜100μmの範囲内にあるのが好ましく、1〜50μmの範囲内にあるのがより好ましい。
【0045】
(3) カーボンナノチューブ薄層
本発明の好ましい実施形態では、線状痕122を有する金属薄膜121の上にカーボンナノチューブ薄層14が形成されている。図7(a) はカーボンナノチューブ薄層14が形成された金属薄膜121が単層の例を示し、図7(b) はカーボンナノチューブ薄層14が形成された金属薄膜121が二層の金属薄膜121a,121bである例を示す。
【0046】
カーボンナノチューブ自体は単層構造でも多層構造でも良い。多層カーボンナノチューブは10〜数10 nmの外径を有し、凝集なしに均一な薄い層に形成し易いだけでなく、導電性に優れているので好ましい。カーボンナノチューブ薄層14は、0.01〜0.5 g/m2の厚さ(塗布量)を有するのが好ましい。カーボンナノチューブ薄層14が0.01 g/m2より薄いと、電磁波吸収能の向上及び均一化効果が不十分であり、また0.5 g/m2より厚いと、カーボンナノチューブの凝集を防止するのが難しく、カーボンナノチューブ薄層14は不均一化する。カーボンナノチューブ薄層14の厚さはより好ましくは0.02〜0.2 g/m2であり、最も好ましくは0.04〜0.1 g/m2である。
【0047】
カーボンナノチューブ薄層14による電磁波吸収能の向上の理由は必ずしも明確ではないが、線状痕122よりはるかに小さいカーボンナノチューブが線状痕122の中、及び線状痕122の間に存在すると、電磁波を吸収する構造が微細化され、その結果電磁波吸収能の向上及び均一化が起こると考えられる。線状痕122及びカーボンナノチューブはともにランダムなサイズ及び分布を有するので、ミクロ的には不均一な電磁波吸収構造を形成するが、異なる無数の電磁波吸収構造の存在によりマクロ的には均一な電磁波吸収能を発揮する。
【0048】
カーボンナノチューブの分散液を線状痕122を有する金属薄膜121に塗布し、自然乾燥することにより、カーボンナノチューブ薄層14を形成する。分散液中のカーボンナノチューブの濃度は0.1〜2質量%が好ましい。カーボンナノチューブの濃度が0.1質量%未満であると十分な塗布量が得られず、また2質量%超であるとカーボンナノチューブが分散液中で凝集するおそれがあり、均一なカーボンナノチューブ薄層が得られない。カーボンナノチューブの好ましい濃度は0.2〜1質量%である。カーボンナノチューブが十分に長い場合、カーボンナノチューブ分散液はバインダ樹脂を含有しても良い。またカーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブの導電性にほとんど影響を与えない分散剤を含有しても良い。
【0049】
カーボンナノチューブ薄層14が0.01〜0.5 g/m2の厚さを有するように、カーボンナノチューブ分散液の塗布量を濃度に応じて決める。カーボンナノチューブを分散する溶媒は比較的揮発性の良いものであれば限定されず、例えば水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ベンゼン、トルエン、メチルエチルケトン等が好ましい。カーボンナノチューブ分散液の塗布方法は限定的ではないが、均一な薄層14を得るためにインクジェット印刷法等が好ましい。カーボンナノチューブ分散液の塗布は一回でする必要がなく、できるだけ均一なカーボンナノチューブ薄層14を得るために複数回に分けて行っても良い。
【0050】
(4) 保護層
電磁波吸収フィルムのハンドリングを容易にするとともに、金属薄膜121を保護するために、図7(a) 及び図7(b) に示すように、金属薄膜121上にプラスチック保護層15を形成しても良い。特にカーボンナノチューブ薄層14を形成した場合、カーボンナノチューブ薄層14を覆うプラスチック保護層15を形成するのが好ましい。プラスチック保護層15用のプラスチックフィルムはベースとなるプラスチックフィルム120と同じでも良い。保護層15の厚さは5〜30μm程度が好ましく、10〜20μm程度がより好ましい。プラスチック保護層15は、プラスチックフィルムを熱ラミネートすることにより形成するのが好ましい。プラスチック保護層用プラスチックフィルムがPETフィルムの場合、熱ラミネート温度は110〜150℃で良い。
【0051】
[4] 線状痕の形成
図8(a)〜図8(e) は線状痕を二方向に形成する装置の一例を示す。この装置は、(a) 金属薄膜−プラスチック複合フィルム100を巻き出すリール21と、(b) 複合フィルム100の幅方向と異なる方向で金属薄膜121の側に配置された第一のパターンロール2aと、(c) 第一のパターンロール2aの上流側で金属薄膜121の反対側に配置された第一の押えロール3aと、(d) 複合フィルム100の幅方向に関して第一のパターンロール2aと逆方向にかつ金属薄膜121の側に配置された第二のパターンロール2bと、(e) 第二のパターンロール2bの下流側で金属薄膜121の反対側に配置された第二の押えロール3bと、(f) 第一及び第二のパターンロール2a,2bの間で金属薄膜121の側に配置された電気抵抗測定手段4aと、(g) 第二のパターンロール2bの下流側で金属薄膜121の側に配置された電気抵抗測定手段4bと、(h) 線状痕付き金属薄膜−プラスチック複合フィルム1を巻き取るリール24とを有する。その他に、所定の位置に複数のガイドロール22,23が配置されている。各パターンロール2a,2bは、撓みを防止するためにバックアップロール(例えばゴムロール)5a,5bで支持されている。
【0052】
図8(c) に示すように、各パターンロール2a,2bとの摺接位置より低い位置で各押えロール3a,3bが複合フィルム100に接するので、複合フィルム100の金属薄膜121は各パターンロール2a,2bに押圧される。この条件を満たしたまま各押えロール3a,3bの縦方向位置を調整することにより、各パターンロール2a,2bの金属薄膜121への押圧力を調整でき、また中心角θ1に比例する摺接距離も調整できる。
【0053】
図8(d) は線状痕122aが複合フィルム100の進行方向に対して斜めに形成される原理を示す。複合フィルム100の進行方向に対してパターンロール2aは傾斜しているので、パターンロール2a上の硬質微粒子の移動方向(回転方向)aと複合フィルム100の進行方向bとは異なる。そこでXで示すように、任意の時点においてパターンロール2a上の点Aにおける硬質微粒子が金属薄膜121と接触して痕Bが形成されたとすると、所定の時間後に硬質微粒子は点A’まで移動し、痕Bは点B’まで移動する。点Aから点A’まで硬質微粒子が移動する間、痕は連続的に形成されるので、点B’から点A’まで延在する線状痕122aが形成されたことになる。
【0054】
第一及び第二のパターンロール2a,2bで形成される第一及び第二の線状痕群122A,122Bの方向及び交差角θsは、各パターンロール2a,2bの複合フィルム100に対する角度、及び/又は複合フィルム100の走行速度に対する各パターンロール2a,2bの周速度を変更することにより調整することができる。例えば、複合フィルム100の走行速度bに対するパターンロール2aの周速度aを増大させると、図8(d) のYで示すように線状痕122aを線分C’D’のように複合フィルム100の進行方向に対して45°にすることができる。同様に、複合フィルム100の幅方向に対するパターンロール2aの傾斜角θ2を変えると、パターンロール2aの周速度aを変えることができる。これはパターンロール2bについても同様である。従って、両パターンロール2a,2bの調整により、線状痕122a,122bの方向を図4(b) 及び図5(c) に例示するように変更することができる。
【0055】
各パターンロール2a,2bは複合フィルム100に対して傾斜しているので、各パターンロール2a,2bとの摺接により複合フィルム100は幅方向の力を受ける。従って、複合フィルム100の蛇行を防止するために、各パターンロール2a,2bに対する各押えロール3a,3bの縦方向位置及び/又は角度を調整するのが好ましい。例えば、パターンロール2aの軸線と押えロール3aの軸線との交差角θ3を適宜調節すると、幅方向の力をキャンセルするように押圧力の幅方向分布が得られ、もって蛇行を防止することができる。またパターンロール2aと押えロール3aとの間隔の調整も蛇行の防止に寄与する。複合フィルム100の蛇行及び破断を防止するために、複合フィルム100の幅方向に対して傾斜した第一及び第二のパターンロール2a,2bの回転方向は複合フィルム100の進行方向と同じであるのが好ましい。
【0056】
図8(b) に示すように、ロール形の各電気抵抗測定手段4a,4bは絶縁部40を介して一対の電極41,41を有し、それらの間で線状痕付き金属薄膜121の電気抵抗を測定する。電気抵抗測定手段4a,4bで測定した電気抵抗値をフィードバックして、複合フィルム100の走行速度、パターンロール2a,2bの回転速度及び傾斜角θ2、押えロール3a,3bの位置及び傾斜角θ3等の運転条件を調整する。
【0057】
複合フィルム100に対するパターンロール2a,2bの押圧力を増大するために、図9に示すようにパターンロール2a,2bの間に第三の押えロール3cを設けても良い。第三の押えロール3cにより中心角θ1に比例する金属薄膜121の摺接距離も増大し、線状痕122a,122bは長くなる。第三の押えロール3cの位置及び傾斜角を調整すると、複合フィルム100の蛇行の防止にも寄与できる。
【0058】
図10は、図5(a) に示すように三方向に配向した線状痕を形成する装置の一例を示す。この装置は、第二のパターンロール2bの下流に複合フィルム100の幅方向と平行な第三のパターンロール2cを配置した点で図8(a)〜図8(e) に示す装置と異なる。第三のパターンロール2cの回転方向は複合フィルム100の進行方向と同じでも逆でも良いが、線状痕を効率よく形成するために逆方向が好ましい。幅方向と平行に配置された第三のパターンロール2cは複合フィルム100の進行方向に延在する線状痕122cを形成する。第三の押えロール30bは第三のパターンロール2cの上流側に設けられているが、下流側でも良い。第三のパターンロール2cの下流側に電気抵抗測定ロール4cを設けても良い。なお図示の例に限定されず、第三のパターンロール2cを第一のパターンロール2aの上流側、又は第一及び第二のパターンロール2a、2bの間に設けても良い。
【0059】
図11は、図5(b) に示すように四方向に配向した線状痕を形成する装置の一例を示す。この装置は、第二のパターンロール2bと第三のパターンロール2cとの間に第四のパターンロール2dを設け、第四のパターンロール2dの上流側に第四の押えロール3dを設けた点で図10に示す装置と異なる。第四のパターンロール2dの回転速度を遅くすることにより、図8(d) においてZで示すように、線状痕122a'の方向(線分E’F’)を複合フィルム100の幅方向と平行にすることができる。
【0060】
図12は、図5(c)に示すように直交する二方向に配向する線状痕を形成する装置の別の例を示す。この装置は、第二のパターンロール32bが複合フィルム100の幅方向と平行に配置されている点で図8(a)〜図8(e) に示す装置と異なる。従って、図8(a)〜図8(e) に示す装置と異なる部分のみ以下説明する。第二のパターンロール32bの回転方向は複合フィルム100の進行方向と同じでも逆でも良い。また第二の押えロール33bは第二のパターンロール32bの上流側でも下流側でも良い。この装置は、図8(d) においてZで示すように、線状痕122a'の方向(線分E’F’)を複合フィルム100の幅方向にし、図5(c) に示す線状痕を形成するのに適している。
【0061】
線状痕の傾斜角及び交差角だけでなく、それらの深さ、幅、長さ及び間隔を決める運転条件は、複合フィルム100の走行速度、パターンロールの回転速度及び傾斜角及び押圧力等である。複合フィルムの走行速度は5〜200 m/分が好ましく、パターンロールの周速は10〜2,000 m/分が好ましい。パターンロールの傾斜角θ2は20°〜60°が好ましく、特に約45°が好ましい。複合フィルム100の張力(押圧力に比例する)は0.05〜5 kgf/cm幅が好ましい。
【0062】
線状痕形成装置に使用するパターンロールは、鋭い角部を有するモース硬度5以上の微粒子を表面に有するロール、例えば特開2002-59487号に記載されているダイヤモンドロールが好ましい。線状痕の幅は微粒子の粒径により決まるので、ダイヤモンド微粒子の90%以上は1〜1,000μmの範囲内の粒径を有するのが好ましく、10〜200μmの範囲内の粒径がより好ましい。ダイヤモンド微粒子はロール面に50%以上の面積率で付着しているのが好ましい。
【0063】
特許第2063411号に記載の方法により線状痕122を有する金属薄膜121に多数の微細穴13を形成することができる。微細穴13を形成するのに用いるロール自体は線状痕形成用ロールと同じで良い。微細穴13は、線状痕形成用ロールと同様に鋭い角部を有するモース硬度5以上の多数の微粒子が表面に付着したロールと平滑面のロールとの間隙に複合フィルム100を同じ周速で通過させることにより形成できる。
【0064】
[5] 線状痕のない金属薄膜を有する電磁波吸収フィルム
第三の電磁波吸収フレキシブル回路基板及び電磁波吸収フレキシブル基板シートは、一面に配線(銅層)が形成されたフレキシブル基板11と、フレキシブル基板11の他面に貼付された電磁波吸収フィルム12とを有し、第四の電磁波吸収フレキシブル回路基板及び電磁波吸収フレキシブル基板シートは、両面に配線(銅層)が形成された一対のフレキシブル基板11,11と、一対のフレキシブル基板11,11の間に貼付された電磁波吸収フィルム12とを有する。第三及び第四の電磁波吸収フレキシブル回路基板及び電磁波吸収フレキシブル基板シートは、電磁波吸収フィルム12の金属薄膜121に線状痕がない以外、第一及び第二の電磁波吸収フレキシブル回路基板及び電磁波吸収フレキシブル基板シートと異ならないので、電磁波吸収フィルム12の金属薄膜121についてのみ以下詳細に説明する。
【0065】
(1) 磁性金属薄膜
第三及び第四の電磁波吸収フレキシブル回路基板及び電磁波吸収フレキシブル基板シートに用いる電磁波吸収フィルム121は、プラスチックフィルムの一方の面に蒸着法により磁性金属薄膜を形成した後、110〜180℃の範囲内の温度で熱処理してなり、(a) 前記磁性金属薄膜の光透過率(波長660 nmのレーザ光)が3〜50%であり、(b) 前記磁性金属薄膜の10 cm×10 cmの正方形の試験片の対向辺部に、辺全体を覆う長さの一対の電極を配置し、平坦な加圧板を介して3.85 kgの荷重をかけて測定した表面抵抗が10〜200Ω/□である。
【0066】
磁性金属薄膜121’用の磁性金属としてはNi,Fe,Co又はそれらの合金が挙げられるが、蒸着の容易性、導電性及び透磁率の観点からNi又はその合金が好ましい。磁性金属薄膜121’はスパッタリング法、真空蒸着法等の公知の方法により形成することができる。
【0067】
(a) 磁性金属薄膜の光透過率
磁性金属薄膜121’は非常に薄いために、図14に示すように、厚さが不均一であり、厚く形成された領域121a’と、薄く形成された領域又は全く形成されていない領域121b’とがある。そのため、磁性金属薄膜121’の厚さを正確に測定するのは困難である。そこで、本発明では磁性金属薄膜121’の厚さを波長660 nmのレーザ光の透過率(単に「光透過率」という。)で表す。光透過率は磁性金属薄膜121’の任意の複数箇所の測定値を平均して求める。測定箇所数が5以上であると、光透過率の平均値は安定する。プラスチックフィルム120の厚さが30μm以下であるとプラスチックフィルム120自身の光透過率はほぼ100%であるので、電磁波吸収フィルム12’の光透過率が磁性金属薄膜121’の光透過率と一致する。しかし、プラスチックフィルム120がそれより厚い場合には、電磁波吸収フィルム12’の光透過率からプラスチックフィルム120の光透過率を引いた値が磁性金属薄膜121’の光透過率である。
【0068】
磁性金属薄膜121’の光透過率は3〜50%の範囲内である必要がある。光透過率が3%未満であると、磁性金属薄膜121’が厚くなり過ぎて金属箔のような挙動を示し、電磁波反射率が高く、電磁波ノイズの吸収能は低い。一方、光透過率が50%超であると、磁性金属薄膜121’が薄すぎて電磁波吸収能が不十分である。磁性金属薄膜121’の光透過率は好ましくは5〜45%であり、より好ましくは8〜30%である。
【0069】
(b) 表面抵抗
光透過率が3〜50%と薄い磁性金属薄膜121’の表面抵抗は測定方法により大きく異なることが分った。そのため、磁性金属薄膜121’と電極との接触面積をできるだけ大きくするとともに、磁性金属薄膜121’と電極とができるだけ均一に密着するように、図15に示す装置を用いて、加圧下での直流二端子法(単に「加圧二端子法」と言う)により表面抵抗を測定する。具体的には、硬質な絶縁性平坦面上に磁性金属薄膜121’を上にして載置した10 cm×10 cmの電磁波吸収フィルム12’の正方形試験片TP1の対向辺部に、長さ10 cm×幅1 cm×厚さ0.5 mmの電極本体部16aと、電極本体部16aの中央側部から延びる幅1 cm×厚さ0.5 mmの電極延長部16bとからなる一対の電極16,16を載置し、試験片TP1と両電極16,16を完全に覆うようにそれらの上に10 cm×10 cm×厚さ5 mmの透明アクリル板17を載せ、透明アクリル板17の上に直径10 cmの円柱状重り18(3.85 kg)を載せた後で、両電極延長部16b,16b間を流れる電流から表面抵抗を求める。
【0070】
熱処理後の磁性金属薄膜121’の表面抵抗は10〜200Ω/□の範囲内である必要がある。表面抵抗が10Ω/□未満であると、磁性金属薄膜121’が厚すぎて金属箔のような挙動を示し、電磁波ノイズの吸収能が低い。一方、表面抵抗が200Ω/□超であると、磁性金属薄膜121’が薄すぎてやはり電磁波吸収能が不十分である。熱処理後の磁性金属薄膜121’の表面抵抗は好ましくは15〜150Ω/□であり、より好ましくは20〜120Ω/□であり、最も好ましくは30〜100Ω/□である。
【0071】
(2) 熱処理
光透過率が3〜50%で、表面抵抗が10〜200Ω/□と非常に薄い磁性金属薄膜121’は、図14に示すように全体的に厚さムラがあり、比較的厚い領域121a’と比較的薄い(又は薄膜がない)領域121b’とを有する。比較的薄い領域121b’は磁気ギャップ及び高抵抗領域として作用し、近傍界ノイズにより磁性金属薄膜121’内を流れる磁束及び電流を減衰させると考えられる。しかし、このような薄い磁性金属薄膜121’の状態は製造条件により大きく異なり、一定の光透過率及び表面抵抗を有する磁性金属薄膜121’を安定的に形成するのは非常に困難であることが分った。そこで鋭意研究した結果、蒸着法により形成した磁性金属薄膜121’に対して、プラスチックフィルム120の熱収縮が起こり得る100℃超の温度で熱処理すると、磁性金属薄膜121’の表面抵抗は若干低下するとともに安定化し、経時変化が実質的になくなることが分った。延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムのように熱収縮が起こり得るプラスチックフィルムに対して100℃を超す温度で熱処理を行うということは、従来では全く考えられないことであった。しかし、110〜180℃の範囲内の温度で短時間(例えば10分〜1時間)熱処理すると、プラスチックフィルム120が僅かに熱収縮するだけで、磁性金属薄膜121’の表面抵抗が僅かに低下するとともに安定化し、もって電磁波ノイズ吸収能も安定化することが分った。ここで、電磁波ノイズ吸収能の安定化とは、電磁波ノイズ吸収能の経時変化が実質的になくなるだけでなく、製造条件によるばらつき及び製造ロット間のばらつきも低下することを意味する。
【0072】
熱処理条件を変えることにより表面抵抗を調整することができる。例えば、表面抵抗が高めの磁性金属薄膜121’に対しては、熱処理温度を高くするか熱処理時間を長くすることにより、表面抵抗を所望の値に低下させることができる。逆に、表面抵抗が低めの磁性金属薄膜121’に対しては、熱処理温度を低くするか熱処理時間を短くすることにより表面抵抗の低下を抑制することができる。
【0073】
同じ表面抵抗を有する蒸着フィルムであっても、熱処理なしのものと熱処理したものとでは電磁波吸収能に著しい差があり、熱処理により所望の表面抵抗に調整した蒸着フィルムの方が高い電磁波吸収能を有することが分った。この理由は明らかではない。というのは、非常に薄い磁性金属薄膜の状態(特に組織)の熱処理による変化を評価することは非常に困難であるからである。実験の結果磁性金属薄膜の電磁波吸収能が熱処理温度に応じて変化することが分ったので、本発明では磁性金属薄膜の組織状態を熱処理温度により規定することにする。
【0074】
熱処理温度は110〜180℃の範囲内である。熱処理温度が110℃未満であると、熱処理による電磁波吸収能の向上及びバラツキの低減の効果が実質的に得られない。一方、熱処理温度が180℃超であると、磁性金属薄膜121’の表面酸化が起こるだけでなく、十分な耐熱性を有さないプラスチックフィルムでは熱収縮が大きくなり過ぎる。熱処理温度は120〜170℃が好ましく、130〜160℃がより好ましい。熱処理時間は熱処理温度により異なるが、一般に10分〜1時間が好ましく、20〜40分がより好ましい。
【0075】
熱処理した磁性金属薄膜121’の表面に保護フィルムを積層することにより、磁性金属薄膜121’の保護とともに絶縁性を確保するのが好ましい。保護フィルムとしては、プラスチックフィルム120と同じものを使用しても良い。
【0076】
[6] 電磁波吸収フィルムの吸収能
(1) 伝送減衰率
伝送減衰率Rtpは、図16(a) 及び図16(b) に示すように、50ΩのマイクロストリップラインMSL(64.4 mm×4.4 mm)と、マイクロストリップラインMSLを支持する絶縁基板220と、絶縁基板220の下面に接合された接地グランド電極221と、マイクロストリップラインMSLの両端に接続された導電性ピン222,222と、ネットワークアナライザNAと、ネットワークアナライザNAを導電性ピン222,222に接続する同軸ケーブル223,223とで構成されたシステムを用い、マイクロストリップラインMSLに電磁波吸収フィルムの試験片TP2を粘着剤により貼付し、0.1〜6 GHzの入射波に対して、反射波S11の電力及び透過波S12の電力を測定し、下記式(1):
Rtp=−10×log[10S21/10/(1−10S11/10)]・・・(1)
により求める。
【0077】
(2) ノイズ吸収率
図16(a) 及び図16(b) に示すシステムにおいて、入射した電力Pin=反射波S11の電力+透過波S12の電力+吸収された電力(電力損失)Plossが成り立つ。従って、入射した電力Pinから反射波S11の電力及び透過波S21の電力を差し引くことにより、電力損失Plossを求め、Plossを入射電力Pinで割ることによりノイズ吸収率Ploss/Pinを求める。
【0078】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0079】
参考例1
粒径分布が50〜80μmのダイヤモンド微粒子を電着したパターンロール2a,2bを有する図8(a) に示す構造の装置を用い、厚さ16μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの一面に真空蒸着法により形成した厚さ0.05μmのアルミニウム薄膜11に、図5(c)に示すように直交する二方向に配向した線状痕を形成した。線状痕付きアルミニウム薄膜11の光学顕微鏡写真から、線状痕は下記特性を有することが分った。
幅Wの範囲:0.5〜5μm
平均幅Wav:2μm
間隔Iの範囲:2〜30μm
平均間隔Iav:20μm
平均長さLav:5 mm
鋭角側の交差角θs:90°
【0080】
線状痕付きアルミニウム薄膜11に120℃で厚さ16μmのPETフィルムを熱ラミネートし、電磁波吸収フィルムのサンプルを得た。この電磁波吸収フィルムサンプルから切り出した試験片TP2(55.2 mm×4.7 mm)の各々を図16(a) 及び図16(b) に示すシステムのマイクロストリップラインMSLに粘着剤により貼付し、0.1〜6 GHzの周波数範囲の入射電力Pinに対する反射波の電力S11及び透過波の電力S12を測定した。段落[6] の(1) 及び(2) に記載の方法により、0.1〜6 GHzの周波数範囲における伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率Ploss/Pinを求めた。結果をそれぞれ図17及び図18に示す。
【0081】
参考例2
パターンロール2a,2bの回転数を増大させた以外参考例1と同様にして、下記線状痕を形成した。
幅Wの範囲:1〜8μm
平均幅Wav:4μm
間隔Iの範囲:2〜30μm
平均間隔Iav:20μm
平均長さLav:7〜8 mm
鋭角側の交差角θs:90°
【0082】
外径が10〜15 nmで長さが0.1〜10μmの多層カーボンナノチューブをメチルエチルケトンに分散させた濃度1質量%のカーボンナノチューブ分散液(1質量%の分散剤を含有)を、エアブラシにより線状痕付きアルミニウム薄膜11に塗布し、自然乾燥させた。形成されたカーボンナノチューブ薄層14の厚さ(塗布量)は0.064 g/m2であった。その後、アルミニウム薄膜11に120℃で厚さ16μmのPETフィルムを熱ラミネートし、電磁波吸収フィルムのサンプルを得た。
【0083】
上記電磁波吸収フィルムサンプルから切り出した試験片TP2(55.2 mm×4.7 mm)の各々を図16(a) 及び図16(b) に示すシステムのマイクロストリップラインMSLに粘着剤により貼付し、0.1〜6 GHzの周波数範囲の入射電力Pinに対する反射波の電力S11及び透過波の電力S12を測定した。段落[6] の(1) 及び(2) に記載の方法により、0.1〜6 GHzの周波数範囲における伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率Ploss/Pinを求めた。結果をそれぞれ図19及び図20に示す。
【0084】
参考例3
参考例2と同様に作製した線状痕付きアルミニウム薄膜11にカーボンナノチューブ分散液を塗布せずに作製した電磁波吸収フィルムから切り出した試験片TP2に対して、参考例2と同じ方法で伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率Ploss/Pinを求めた。結果をそれぞれ図19及び図20に示す。
【0085】
参考例2及び参考例3の線状痕は参考例1の線状痕より幅広で長い。これは、パターンロール2a,2bの回転数を増大させたので、線状痕が深く形成されたためであると考えられる。このように深すぎる線状痕が形成されたために、図19及び図20から明らかなように、カーボンナノチューブ薄層14を形成していない参考例3の電磁波吸収フィルムは十分な伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率Ploss/Pinを有さないが、カーボンナノチューブ薄層14を形成した参考例2の電磁波吸収フィルムは十分な伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率Ploss/Pinを有していた。これから、最適な線状痕が形成されていない場合でも、カーボンナノチューブ薄層14の形成により電磁波吸収能が十分に向上することが分かる。
【0086】
参考例4、比較例1
厚さ16μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム1に真空蒸着法により目標光透過率(波長660 nm)9%のNi薄膜121’を形成し、長尺の蒸着フィルムを作製した。蒸着フィルムの任意の部分から10 cm×10 cmの試験片TP1を5枚切り出した。各試験片TP1の任意の5箇所の光透過率を、株式会社キーエンス製の透過型レーザセンサ(IB-05)を使用し、波長660 nmのレーザ光で測定し、平均した。また各試験片TP1の表面抵抗を図15に示すように加圧二端子法により測定した。各電極16は長さ10 cm×幅1 cm×厚さ0.5 mmの電極本体部16aと幅1 cm×厚さ0.5 mmの電極延長部16bとからなり、透明アクリル板17は10 cm×10 cm×厚さ5 mmであり、円柱状重り18は10 cmの直径を有し、3.85 kgであった。両電極16,16を鶴賀電機株式会社製の抵抗計(型名:3565)に接続し、得られた電流値から表面抵抗を求めた。全試験片TP1の平均光透過率は9.1%であり、平均表面抵抗は43Ω/□であった。
【0087】
長尺の蒸着フィルムの任意の部分から切り出した20枚の試験片TP2(55.2 mm×4.7 mm)の各々を図16(a) 及び図16(b) に示すシステムのマイクロストリップラインMSLに粘着剤により貼付し、0.1〜6 GHzの周波数範囲における反射波S11の電力及び透過波S12の電力を測定し、上記式(1) により0.1〜6 GHzの周波数範囲における伝送減衰率Rtpを求めた。熱処理していない20枚の試験片TP2の伝送減衰率Rtpの最高値及び最低値を比較例1として図21に示す。
【0088】
次に、長尺の蒸着フィルムの任意の部分からA4サイズ(210 mm×297 mm)のサンプルSを20枚切り取り、図22(a) 及び図22(b) に示すように、各サンプルSをNi薄膜121’を下にして加熱装置240のホットプレート241上に載置し、A4サイズで厚さ3 mmのテフロン(登録商標)製断熱シート242、及びA4サイズで厚さ2 mmの鉄板243を載せた後、150℃で30分間熱処理を行った。熱処理による熱収縮は約1%であった。
【0089】
熱処理した各サンプルSから切り出した10 cm×10 cmの5枚の試験片TP1に対して、上記と同じ方法で光透過率及び表面抵抗を測定した。その結果、熱処理した試験片TP1の平均光透過率は8.9%であり、平均表面抵抗は39Ω/□であった。さらに熱処理した20枚の蒸着フィルムサンプルSの各々から切り取った各試験片TP2(55.2 mm×4.7 mm)に対して上記と同様に0.1〜6 GHzの周波数範囲における反射波S11の電力及び透過波S12の電力を測定し、上記式(1) により0.1〜6 GHzの周波数範囲における伝送減衰率Rtpを求めた。熱処理した20枚の試験片TP2の伝送減衰率Rtpの最高値及び最低値を参考例4として図21に示す。
【0090】
参考例4の20枚の試験片TP2(熱処理あり)及び比較例1の20枚の試験片TP2(熱処理なし)の6 GHzにおける伝送減衰率Rtpの分布をそれぞれ図23(a) 及び図23(b) に示す。各Rtpの頻度は、例えばRtpの値が30 dBの場合、30 dB≦Rtp<31 dBの範囲のRtpを有する試験片の数により表される(以下同様)。図21及び図23から明らかなように、熱処理した蒸着フィルムからなる参考例4の試験片のRtpは熱処理していない蒸着フィルムからなる比較例1の試験片のRtpより高いだけでなく、その分布も狭かった(バラツキも小さかった)。
【0091】
参考例4の試験片(150℃で30分間の熱処理あり)及び比較例1の試験片の光透過率及び表面抵抗、並びに6 GHzにおける平均伝送減衰率Rtp、及び平均ノイズ吸収率Ploss/Pinを表1に示す。
【0092】
【表1】
注:*平均値。
【0093】
実施例1
図16(a) 及び図16(b) に示すシステムのマイクロストリップラインMSLに貼付する試験片TP2として、図24に示す疑似回路111”を形成した厚さ30μmのポリイミドフィルム110の裏側(疑似回路のない側)に参考例3の電磁波吸収フィルムを貼付した図3(a) に示す構造のものを用いた。疑似回路111”は、ポリイミドフィルム110に長さ10 mm及び幅5 mmの10本の銅箔を1 mmの間隔で貼付することにより形成した。カバーフィルム13は厚さ12μmのポリエチレンテレフタレートフィルムであった。
【0094】
この試験片TP2の伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率Ploss/Pinをそれぞれ図25及び図26に示す。図25及び図26から明らかなように、実施例1の試験片TP2は良好な伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率Ploss/Pinを示した。
【符号の説明】
【0095】
2a,2b,2c,2d・・・パターンロール
3a,3b,30,b3c・・・押えロール
4a,4b・・・電気抵抗測定手段
10a,10b・・・電磁波吸収フレキシブル基板シート
11・・・フレキシブル基板
110・・・フレキシブルプラスチックフィルム
111・・・銅層
12,12’・・・電磁波吸収フィルム
120・・・プラスチックフィルム
121’・・・磁性金属薄膜
121a’・・・厚く形成された磁性金属薄膜領域
121b’・・・薄く形成されたか全く形成されていない磁性金属薄膜領域
122・・・線状痕
13・・・カバーフィルム
14・・・カーボンナノチューブ薄層
15・・・保護層
16・・・電極
17・・・透明アクリル板
18・・・円柱状重り
20a,20b・・・電磁波吸収フレキシブル回路基板
22,23・・・ガイドロール
100・・・複合フィルム
240・・・加熱装置
241・・・ホットプレート
242・・・断熱シート
243・・・鉄板
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い電磁波吸収能を有する電磁波吸収フレキシブル回路基板及びそれに用いる電磁波吸収フレキシブル基板シートに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、スマートフォン、無線LAN等の通信機器や、コンピュータ等の電子機器には、各種のプリント基板が使用されている。プリント基板上の配線には各種の部品等が実装されており、配線や実装部品等から発生した電磁波ノイズは通信機器や電子機器のトラブルの原因になる。通信機器や電子機器における電磁波ノイズには、プリント基板の配線により伝搬される伝導性ノイズと、実装部品から放射される放射性ノイズがある。
【0003】
このような電磁波ノイズに対して一般に電磁シールド技術が用いられている。電磁シールド技術は、ノイズ発生源及びノイズ受信部品の周囲を金属板で覆い、電磁波ノイズを遮蔽する技術である。例えば、電通信機器や子機器の筐体内部に金属製シールド板を配置すれば、通信機器や電子機器から放射される電磁波ノイズは抑制されるが、機器内部の電磁波ノイズが低減する訳ではないので、実装部品に対する十分なノイズ対策にならない。
【0004】
また、部品単体を電磁波ノイズから遮蔽する場合、例えば部品の全周のプリント基板上にグランドパターンを形成し、グランドパターン上に半田により金属ケース枠を固定し、金属ケース枠に金属ケース蓋を嵌合することが行われている。しかし、この電磁シールド方法では、金属ケースの実装に手間がかかるだけでなく、金属ケースの分だけ厚くなり、通信機器や電子機器の薄肉化及び小型化の障害になる。
【0005】
そこで、電磁ノイズ遮断を要する電子部品及び配線パターンが設けられた回路基板と、電磁シールド用フィルムとを具備し、前記電磁シールド用フィルムは、銅及びニッケルからなる導電性膜及びカーボンを混入した磁性体膜を両面に形成したポリエチレンテレフタレートからなる柔軟性を有するフィルムであり、電子部品及び配線パターンを覆うように回路基板に熱圧着されている電磁シールド形成回路基板が提案された(特開2003-209390号、特許文献1)。しかし、この電磁シールド形成回路基板では、電子部品及び配線パターンが回路基板に熱圧着された電磁シールド用フィルムで密封されているので、放熱性が不十分である。その上、電子部品を実装した各回路基板に電磁シールド用フィルムを熱圧着しなければならないので、手間がかかるという問題がある。
【0006】
通信機器や電子機器には、ポリイミドフィルムからなる片面又は両面のフレキシブル基板や、フレキシブル基板とガラス繊維強化エポキシ樹脂からなるリジッド基板との組合せ等が使用されている。フレキシブル基板には大きなノイズ源である配線が形成されているので、フレキシブル基板から出る電磁波ノイズを吸収することは通信機器や電子機器の誤動作を防止する上で重要である。しかし、通信機器や電子機器の薄肉化及び小型化に対応してフレキシブル基板は複雑な形状に加工されているので、フレキシブル基板に電磁波吸収フィルムを貼付するには手間がかかるという問題がある。そこで、フレキシブル基板に簡単に電磁波吸収フィルムを貼付できる技術の開発が望まれている。
【特許文献1】特開2003-209390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って本発明の目的は、優れた電磁波吸収能を有する薄い可撓性電磁波吸収フィルムを手間をかけずにフレキシブル基板に貼付してなる電磁波吸収フレキシブル回路基板、及びそれを形成するのに用いる電磁波吸収フレキシブル基板シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者は、銅箔を貼付したフレキシブルシートに、電磁波吸収能を有する金属薄膜を有する電磁波吸収フィルムを前記金属薄膜が密封されるように貼付してなるシートは、配線を形成するために銅箔をエッチングする際に金属薄膜が腐食することがなく、かつ配線に所定の部品を搭載した後に切断すれば、電磁波吸収フィルムが貼付したフレキシブル回路基板が得られることを発見し、本発明に想到した。
【0009】
すなわち、本発明の第一の電磁波吸収フレキシブル回路基板は、一面に配線が形成されたフレキシブル基板と、前記フレキシブル基板の他面に貼付された電磁波吸収フィルムとを有し、前記電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムと、その少なくとも一面に設けた単層又は多層の金属薄膜とを有し、前記金属薄膜に多数の実質的に平行で断続的な線状痕が不規則な幅及び間隔で複数方向に形成されていることを特徴とする。
【0010】
上記第一の電磁波吸収フレキシブル回路基板を形成するのに用いる本発明の第一の電磁波吸収フレキシブル基板シートは、一面に銅層が形成されたフレキシブル基板と、前記フレキシブル基板の他面に貼付された電磁波吸収フィルムとを有し、前記電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムと、その少なくとも一面に設けた単層又は多層の金属薄膜とを有し、前記金属薄膜に多数の実質的に平行で断続的な線状痕が不規則な幅及び間隔で複数方向に形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の第二の電磁波吸収フレキシブル回路基板は、一枚の電磁波吸収フィルムと、その両側に貼付された一対のフレキシブル基板とからなる積層体からなり、前記積層体の外面を形成する各フレキシブル基板の表面に配線が形成されており、前記電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムと、その少なくとも一面に設けた単層又は多層の金属薄膜とを有し、前記金属薄膜に多数の実質的に平行で断続的な線状痕が不規則な幅及び間隔で複数方向に形成されていることを特徴とする。
【0012】
上記第二の電磁波吸収フレキシブル回路基板を形成するのに用いる本発明の第二の電磁波吸収フレキシブル基板シートは、一枚の電磁波吸収フィルムと、その両側に貼付された一対のフレキシブル基板とからなる積層体からなり、前記積層体の外面を形成する各フレキシブル基板の表面に銅層が形成されており、前記電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムと、その少なくとも一面に設けた単層又は多層の金属薄膜とを有し、前記金属薄膜に多数の実質的に平行で断続的な線状痕が不規則な幅及び間隔で複数方向に形成されていることを特徴とする。
【0013】
前記第一及び第二の電磁波吸収フレキシブル回路基板及びそれらに用いる第一及び第二の電磁波吸収フレキシブル基板シートにおいて、前記線状痕は二方向に配向しており、その交差角は30〜90°であるのが好ましい。前記線状痕の幅は90%以上が0.1〜100μmの範囲内にあって、平均1〜50μmであり、前記線状痕の横手方向間隔は1〜500μmの範囲内にあって、平均1〜200μmであるのが好ましい。
【0014】
前記第一及び第二の電磁波吸収フレキシブル回路基板及びそれらに用いる第一及び第二の電磁波吸収フレキシブル基板シートにおいて、前記金属薄膜はアルミニウム、銅、銀、錫、ニッケル、コバルト、クロム及びこれらの合金からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属からなるのが好ましい。
【0015】
前記第一及び第二の電磁波吸収フレキシブル回路基板及びそれらに用いる第一及び第二の電磁波吸収フレキシブル基板シートにおいて、前記金属薄膜上にカーボンナノチューブ薄層が形成されているのが好ましい。
【0016】
前記カーボンナノチューブ薄層の塗布量で表した厚さは0.01〜0.5 g/m2であるのが好ましい。前記カーボンナノチューブは多層カーボンナノチューブであるのが好ましい。
【0017】
本発明の第三の電磁波吸収フレキシブル回路基板は、一面に配線が形成されたフレキシブル基板と、前記フレキシブル基板の他面に貼付された電磁波吸収フィルムとを有し、前記電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムの一方の面に蒸着法により磁性金属薄膜を形成した後、110〜180℃の範囲内の温度で熱処理してなり、(a) 前記磁性金属薄膜の光透過率(波長660 nmのレーザ光)が3〜50%であり、(b) 前記磁性金属薄膜の10 cm×10 cmの正方形の試験片の対向辺部に、辺全体を覆う長さの一対の電極を配置し、平坦な加圧板を介して3.85 kgの荷重をかけて測定した表面抵抗が10〜200Ω/□であることを特徴とする。
【0018】
上記第三の電磁波吸収フレキシブル回路基板を形成するのに用いる本発明の第三の電磁波吸収フレキシブル基板シートは、一面に銅層が形成されたフレキシブル基板と、前記フレキシブル基板の他面に貼付された電磁波吸収フィルムとを有し、前記電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムの一方の面に蒸着法により磁性金属薄膜を形成した後、110〜180℃の範囲内の温度で熱処理してなり、(a) 前記磁性金属薄膜の光透過率(波長660 nmのレーザ光)が3〜50%であり、(b) 前記磁性金属薄膜の10 cm×10 cmの正方形の試験片の対向辺部に、辺全体を覆う長さの一対の電極を配置し、平坦な加圧板を介して3.85 kgの荷重をかけて測定した表面抵抗が10〜200Ω/□であることを特徴とする。
【0019】
本発明の第四の電磁波吸収フレキシブル回路基板は、一枚の電磁波吸収フィルムと、その両側に貼付された一対のフレキシブル基板とからなる積層体からなり、前記積層体の外面を形成する各フレキシブル基板の表面に配線が形成されており、前記電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムの一方の面に蒸着法により磁性金属薄膜を形成した後、110〜180℃の範囲内の温度で熱処理してなり、(a) 前記磁性金属薄膜の光透過率(波長660 nmのレーザ光)が3〜50%であり、(b) 前記磁性金属薄膜の10 cm×10 cmの正方形の試験片の対向辺部に、辺全体を覆う長さの一対の電極を配置し、平坦な加圧板を介して3.85 kgの荷重をかけて測定した表面抵抗が10〜200Ω/□であることを特徴とする。
【0020】
上記第四の電磁波吸収フレキシブル回路基板を形成するのに用いる本発明の第四の電磁波吸収フレキシブル基板シートは、一枚の電磁波吸収フィルムと、その両側に貼付された一対のフレキシブル基板とからなる積層体からなり、前記積層体の外面を形成する各フレキシブル基板の表面に銅層が形成されており、前記電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムの一方の面に蒸着法により磁性金属薄膜を形成した後、110〜180℃の範囲内の温度で熱処理してなり、(a) 前記磁性金属薄膜の光透過率(波長660 nmのレーザ光)が3〜50%であり、(b) 前記磁性金属薄膜の10 cm×10 cmの正方形の試験片の対向辺部に、辺全体を覆う長さの一対の電極を配置し、平坦な加圧板を介して3.85 kgの荷重をかけて測定した表面抵抗が10〜200Ω/□であることを特徴とする。
【0021】
前記第三及び第四の電磁波吸収フレキシブル回路基板及びそれらに用いる第三及び第四の電磁波吸収フレキシブル基板シートにおいて、前記磁性金属はNi又はその合金であるのが好ましい。前記熱処理は10分〜1時間であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、銅層を有するフレキシブル基板の片面又は両面に予め電磁波吸収フィルムを形成しておくので、銅層をエッチングすることにより配線を形成し、必要に応じて所望の部品を半田付けすれば、電磁波吸収能を有するフレキシブル回路基板が簡単に得られる。予め電磁波吸収フィルムを形成したフレキシブル基板は所望の形状に切断できるので、いかなる形状の回路基板に対しても採用することができる。
【0023】
またフレキシブル基板に貼付する電磁波吸収フィルムは、少なくとも一面に単層又は多層の金属薄膜を設けたプラスチックフィルムからなるので、非常に薄くかつ十分な可撓性を有する。そのため、電磁波吸収フィルムを貼付してもフレキシブル基板が厚くなり過ぎることがないだけでなく、フレキシブル基板の利点である可撓性も損なわれない。さらに、金属薄膜に多数の実質的に平行で断続的な線状痕を不規則な幅及び間隔で複数方向に形成すると、異方性のない優れた電磁波吸収能が得られる。その上、金属薄膜上にカーボンナノチューブ薄層を形成すると、さらに高い電磁波吸収能が得られる。
【0024】
また電磁波吸収フィルムを予め貼付した銅層付きフレキシブル基板からなる本発明の電磁波吸収フレキシブル基板シートは、任意の形状の電磁波吸収フレキシブル回路基板に形成することができる。従って、本発明の電磁波吸収フレキシブル基板シートを使用することにより、フレキシブル回路基板に後から電磁波吸収フィルムを配置するより低コストで電磁波ノイズ抑制を図ることができる。
【0025】
このような利点を有する本発明の電磁波吸収フレキシブル回路基板及び電磁波吸収フレキシブル基板シートは小型化、軽量化及び低コスト化が要求される種々の通信機器や電子機器に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1(a)】本発明の一実施形態による電磁波吸収フレキシブル基板シートを示す断面図である。
【図1(b)】図1(a) の部分Aを示す拡大断面図である。
【図1(c)】図1(a) の部分Bを示す拡大断面図である。
【図1(d)】本発明の他の実施形態による電磁波吸収フレキシブル基板シートを示す断面図である。
【図2(a)】本発明の一実施形態による電磁波吸収フレキシブル基板シートを形成する工程を示す図である。
【図2(b)】本発明の他の実施形態による電磁波吸収フレキシブル基板シートを形成する工程を示す図である。
【図3(a)】図2(a) に示す方法により得られた電磁波吸収フレキシブル回路基板を示す部分断面図である。
【図3(b)】図2(b) に示す方法により得られた電磁波吸収フレキシブル回路基板を示す部分断面図である。
【図4(a)】本発明の電磁波吸収フレキシブル基板シートに用いる電磁波吸収フィルムの一例を示す断面図である。
【図4(b)】図4(a) の電磁波吸収フィルムの線状痕の詳細を示す部分平面図である。
【図4(c)】図4(b) のA-A断面図である。
【図4(d)】図4(c) の部分Cを示す拡大断面図である。
【図4(e)】電磁波吸収フィルムの別の例を示す断面図である。
【図4(f)】図4(e) の部分Dを示す拡大断面図である。
【図5(a)】電磁波吸収フィルムの線状痕の別の例を示す部分平面図である。
【図5(b)】電磁波吸収フィルムの線状痕のさらに別の例を示す部分平面図である。
【図5(c)】電磁波吸収フィルムの線状痕のさらに別の例を示す部分平面図である。
【図6(a)】線状痕の他に微細穴を形成した電磁波吸収フィルムを示す部分平面図である。
【図6(b)】図6(a) のB-B断面図である。
【図7(a)】金属薄膜表面にカーボンナノチューブ薄層が形成された電磁波吸収フィルムの一例を示す。
【図7(b)】金属薄膜表面にカーボンナノチューブ薄層が形成された電磁波吸収フィルムの他の例を示す。
【図8(a)】線状痕の形成装置の一例を示す斜視図である。
【図8(b)】図8(a) の装置を示す平面図である。
【図8(c)】図8(b) のC-C断面図である。
【図8(d)】複合フィルムの進行方向に対して傾斜した線状痕が形成される原理を説明するための部分拡大平面図である。
【図8(e)】図8(a) の装置において、複合フィルムに対するパターンロール及び押えロールの傾斜角度を示す部分平面図である。
【図9】線状痕の形成装置の他の例を示す部分断面図である。
【図10】線状痕の形成装置のさらに他の例を示す斜視図である。
【図11】線状痕の形成装置のさらに他の例を示す斜視図である。
【図12】線状痕の形成装置のさらに他の例を示す斜視図である。
【図13】本発明の電磁波吸収フレキシブル基板シートに用いる電磁波吸収フィルムの他の例を示す断面図である。
【図14】図13に示す電磁波吸収フィルムの磁性金属薄膜の詳細を示す部分断面図である。
【図15(a)】電磁波吸収フィルムの表面抵抗を測定する装置を示す斜視図である。
【図15(b)】図15(a) の装置を用いて電磁波吸収フィルムの表面抵抗を測定する様子を示す平面図である。
【図15(c)】図15(b) のC-C断面図である。
【図16(a)】電磁波吸収フィルムの電磁波吸収能を評価するシステムを示す平面図である。
【図16(b)】電磁波吸収フィルムの電磁波吸収能を評価するシステムを示す部分断面正面図である。
【図17】参考例1の電磁波吸収フィルムの伝送減衰率Rtpと入射電波の周波数との関係を示すグラフである。
【図18】参考例1の電磁波吸収フィルムのノイズ吸収率Ploss/Pinと入射電波の周波数との関係を示すグラフである。
【図19】参考例2及び参考例3の電磁波吸収フィルムの伝送減衰率Rtpと入射電波の周波数との関係を示すグラフである。
【図20】参考例2及び参考例3の電磁波吸収フィルムのノイズ吸収率Ploss/Pinと入射電波の周波数との関係を示すグラフである。
【図21】参考例4及び比較例1の蒸着フィルムサンプルの0.1〜6 GHzにおけるRtpの最高値及び最低値を示すグラフである。
【図22(a)】磁性金属薄膜を蒸着したプラスチックフィルムに対して熱処理を行う装置を示す断面図である。
【図22(b)】図22(a) の装置を用いて磁性金属蒸着フィルムに対して熱処理を行う様子を示す平面図である。
【図23(a)】参考例4の蒸着フィルムサンプルの6 GHzにおけるRtpの分布を示すグラフである。
【図23(b)】比較例1の蒸着フィルムサンプルの6 GHzにおけるRtpの分布を示すグラフである。
【図24】伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率Ploss/Pinを測定するための電磁波吸収フレキシブル回路基板モデルを示す平面図である。
【図25】実施例1の伝送減衰率Rtpと入射電波の周波数との関係を示すグラフである。
【図26】実施例1のノイズ吸収率Ploss/Pinと入射電波の周波数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施形態を添付図面を参照して詳細に説明するが、特に断りがなければ一つの実施形態に関する説明は他の実施形態にも適用される。また下記説明は限定的ではなく、本発明の技術的思想の範囲内で種々の変更をしても良い。
【0028】
[1] 電磁波吸収フレキシブル基板シート
電磁波吸収フレキシブル回路基板は電磁波吸収フレキシブル基板シートの銅層をエッチングすることにより配線を形成したものであるので、両者の層構成は異ならない。従って、電磁波吸収フレキシブル基板シートの層構成について詳細に説明する。
【0029】
図1(a) は本発明の一実施形態による電磁波吸収フレキシブル基板シートを示す。この電磁波吸収フレキシブル基板シート10は、フレキシブル基板11と、その上に接着された電磁波吸収フィルム12と、電磁波吸収フィルム12を完全に密封するようにフレキシブル基板11及び電磁波吸収フィルム12に接着されたカバーフィルム13とからなる。図1(b) に示すように、フレキシブル基板11はフレキシブルプラスチックフィルム110と銅層111からなり、電磁波吸収フィルム12はプラスチックフィルム120と金属薄膜121からなる。フレキシブル基板11とカバーフィルム13による密封を完全にするために、電磁波吸収フィルム12の端部とフレキシブル基板11の端部及びカバーフィルム13の端部との距離(マージン)Mは数mm程度が必要である。
【0030】
図2(a) は本発明の電磁波吸収フレキシブル基板シート10の一例の製造方法を示す。電磁波吸収フレキシブル基板シート10は片面に銅層111を有する。まず、一面に銅層111として銅箔を貼付した長尺のフレキシブルプラスチックフィルム110を所望のサイズに切断し、銅層111上にフォトレジスト層112を形成する(工程1)。このフレキシブル基板11の他面に電磁波吸収フィルム12を接着する(工程2)。電磁波吸収フィルム12の金属薄膜121は銅層111側にあってもその反対側にあっても良い。電磁波吸収フィルム12の完全な密封を確保するために、電磁波吸収フィルム12をマージンMをもってフレキシブル基板11に接着する。フレキシブル基板11と同じサイズのカバーフィルム13を電磁波吸収フィルム12及びフレキシブル基板11に接着する(工程3)。これにより、図1(a)〜図1(c) に示す構造の電磁波吸収フレキシブル基板シート10aが得られる。
【0031】
図1(d) は本発明の電磁波吸収フレキシブル基板シートの他の例を示し、図2(b) は図1(d) の電磁波吸収フレキシブル基板シートの製造方法を示す。この電磁波吸収フレキシブル基板シート10bは両面に銅層111,111を有する。銅層111として予め銅箔を貼付した同じサイズのフレキシブル基板11を二枚用意し、各フレキシブル基板11の銅層111の上にフォトレジスト層112を形成する(工程1)。工程2で一方のフレキシブル基板11に電磁波吸収フィルム12を接着した後で、電磁波吸収フィルム12が完全に密封されるように他方のフレキシブル基板11を電磁波吸収フィルム12及びフレキシブル基板11に接着する(工程3)。
【0032】
[2] 電磁波吸収フレキシブル回路基板
図2(a) に示す方法により得られた電磁波吸収フレキシブル基板シート10aのフォトレジスト層112をパターニングした後、エッチングにより不要な銅層111を除去し、配線111’を形成する。片面に配線111’を有する電磁波吸収フレキシブル回路基板20aを図3(a) に示す。
【0033】
図2(b) に示す方法により得られた電磁波吸収フレキシブル基板シート10bの一方のフォトレジスト層112をパターニングした後、エッチングにより不要な銅層111を除去し、一方の配線111’を形成する。次に、他方のフォトレジスト層112をパターニングした後、エッチングにより不要な銅層111を除去し、他方の配線111’を形成する。このようにして、図3(b) に示すように、両面に配線111’, 111’を有する電磁波吸収フレキシブル回路基板20bが得られる。
【0034】
[3] 電磁波吸収フレキシブル基板シートの構成要素
(1) フレキシブル基板
フレキシブル基板11を形成するプラスチックは、十分な可撓性、屈曲性、耐熱性及び機械的強度を有するものであれば特に限定されないが、一般に使用されているポリイミドフィルムが好ましい。
【0035】
(2) 電磁波吸収フィルム
電磁波吸収フィルム12は、図4(a) に示すように、プラスチックフィルム120の少なくとも一面に単層又は多層の金属薄膜121が形成された構造を有する。図4(a)〜図4(d)は、プラスチックフィルム120の一面全体に形成された金属薄膜121に実質的に平行で断続的な多数の線状痕122が二方向に形成された例を示す。
【0036】
(a) プラスチックフィルム
プラスチックフィルム120を形成する樹脂は、絶縁性とともに十分な強度、可撓性及び加工性を有する限り特に制限されず、例えばポリエステル(ポリエチレンテレフタレート等)、ポリアリーレンサルファイド(ポリフェニレンサルファイド等)、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)等が挙げられる。強度及びコストの観点から、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。プラスチックフィルム120の厚さは10〜100μm程度で良い。
【0037】
(b) 金属薄膜
金属薄膜121を形成する金属は導電性を有する限り特に限定されないが、耐食性及びコストの観点からアルミニウム、銅、銀、錫、ニッケル、コバルト、クロム及びこれらの合金が好ましく、特にアルミニウム、銅、ニッケル及びこれらの合金が好ましい。金属薄膜の厚さは0.01μm以上が好ましい。厚さの上限は特に限定的でないが、実用的には10μm程度で十分である。勿論、10μm超の金属薄膜を用いても良いが、高周波数の電磁波の吸収能はほとんど変わらない。金属薄膜の厚さは0.01〜5μmがより好ましく、0.01〜1μmが最も好ましい。金属薄膜121は蒸着法(真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理蒸着法、又はプラズマCVD法、熱CVD法、光CVD法等の化学気相蒸着法)、めっき法又は箔接合法により形成することができる。
【0038】
金属薄膜121が単層の場合、金属薄膜121は導電性、耐食性及びコストの観点からアルミニウム又はニッケルからなるのが好ましい。また金属薄膜121が複層の場合、一方を非磁性金属により形成し、他方を磁性金属により形成しても良い。非磁性金属としてアルミニウム、銅、銀、錫又はこれらの合金が挙げられ、磁性金属としてニッケル、コバルト、クロム又はこれらの合金が挙げられる。磁性金属薄膜の厚さは0.01μm以上が好ましく、非磁性金属薄膜の厚さは0.1μm以上が好ましい。厚さの上限は特に限定的でないが、両者とも実用的には10μm程度で良い。より好ましくは、磁性金属薄膜の厚さは0.01〜5μmであり、非磁性金属薄膜の厚さは0.1〜5μmである。図4(e) 及び図4(f) はプラスチックフィルム120に二層の金属薄膜121a,121bを形成した場合を示す。
【0039】
(c) 線状痕
図4(b)〜図4(d) に示すように、金属薄膜121に多数の実質的に平行で断続的な線状痕122a,122bが二方向に不規則な幅及び間隔で形成されている。なお、説明のために図4(c) 及び図4(d) では線状痕122の深さを誇張している。二方向に配向した線状痕122は種々の幅W及び間隔Iを有する。後述するように、線状痕122はランダムに付着した硬質微粒子(ダイヤモンド微粒子)を有するパターンロールの摺接により形成されるので、線状痕の間隔Iは横手方向及び長手方向で変わらない。以下横手方向間隔Iについて説明するが、その説明はそのまま長手方向間隔にも当てはまる。線状痕122の幅Wは線状痕形成前の金属薄膜121の表面Sに相当する高さで求め、線状痕122の間隔Iは、線状痕形成前の金属薄膜121の表面Sに相当する高さにおける線状痕122の間隔とする。線状痕122が種々の幅W及び間隔Iを有するので、本発明の電磁波吸収フレキシブル回路基板は広範囲にわたる周波数の電磁波を効率良く吸収することができる。
【0040】
線状痕122の幅Wの90%以上は0.1〜100μmの範囲内にあるのが好ましく、0.5〜50μmの範囲内にあるのがより好ましく、0.5〜20μmの範囲内にあるのが最も好ましい。線状痕122の平均幅Wavは1〜50μmであるのが好ましく、1〜10μmがより好ましく、1〜5μmが最も好ましい。
【0041】
線状痕122の横手方向間隔Iは1〜500μmの範囲内にあるのが好ましく、1〜100μmの範囲内にあるのがより好ましく、1〜50μmの範囲内にあるのが最も好ましく、1〜30μmの範囲内にあるのが特に好ましい。また線状痕122の横手方向平均間隔Iavは1〜200μmが好ましく、5〜50μmがより好ましく、5〜30μmが最も好ましい。
【0042】
線状痕122の長さLは、摺接条件(主としてロール及びフィルムの相対的な周速、及び複合フィルムのロールへの巻回角度)により決まるので、摺接条件を変えない限り大部分がほぼ同じである(ほぼ平均長さに等しい)。線状痕122の長さは特に限定的でなく、実用的には1〜100 mm程度で良く、好ましくは2〜10 mmである。
【0043】
線状痕122a,122bの鋭角側の交差角(以下特に断りがなければ単に「交差角」とも言う)θsは10〜90°が好ましく、30〜90°がより好ましい。複合フィルムとパターンロールとの摺接条件(摺接方向、周速比等)を調整することにより、図5(a)〜図5(c) に示すように種々の交差角θsの線状痕122が得られる。図5(a) は三方向の線状痕122a,122b,122cを有する例を示し、図5(b) は三方向の線状痕122a,122b,122c,122dを有する例を示し、図5(c) は直交する線状痕122a’,122b’を有する例を示す。
【0044】
(d) 微細穴
図6(a) 及び図6(b) に示すように、金属薄膜121に線状痕122の他に多数の微細貫通穴13をランダムに設けても良い。微細穴13は、表面に高硬度微粒子を有するロールを金属薄膜121に押圧することにより形成することができる。図6(b) に示すように、微細穴13の開口径Dは線状痕形成前の金属薄膜121の表面Sに相当する高さで求める。微細穴13の開口径Dは90%以上が0.1〜1000μmの範囲内にあるのが好ましく、0.1〜500μmの範囲内にあるのがより好ましい。また微細穴13の平均開口径Davは0.5〜100μmの範囲内にあるのが好ましく、1〜50μmの範囲内にあるのがより好ましい。
【0045】
(3) カーボンナノチューブ薄層
本発明の好ましい実施形態では、線状痕122を有する金属薄膜121の上にカーボンナノチューブ薄層14が形成されている。図7(a) はカーボンナノチューブ薄層14が形成された金属薄膜121が単層の例を示し、図7(b) はカーボンナノチューブ薄層14が形成された金属薄膜121が二層の金属薄膜121a,121bである例を示す。
【0046】
カーボンナノチューブ自体は単層構造でも多層構造でも良い。多層カーボンナノチューブは10〜数10 nmの外径を有し、凝集なしに均一な薄い層に形成し易いだけでなく、導電性に優れているので好ましい。カーボンナノチューブ薄層14は、0.01〜0.5 g/m2の厚さ(塗布量)を有するのが好ましい。カーボンナノチューブ薄層14が0.01 g/m2より薄いと、電磁波吸収能の向上及び均一化効果が不十分であり、また0.5 g/m2より厚いと、カーボンナノチューブの凝集を防止するのが難しく、カーボンナノチューブ薄層14は不均一化する。カーボンナノチューブ薄層14の厚さはより好ましくは0.02〜0.2 g/m2であり、最も好ましくは0.04〜0.1 g/m2である。
【0047】
カーボンナノチューブ薄層14による電磁波吸収能の向上の理由は必ずしも明確ではないが、線状痕122よりはるかに小さいカーボンナノチューブが線状痕122の中、及び線状痕122の間に存在すると、電磁波を吸収する構造が微細化され、その結果電磁波吸収能の向上及び均一化が起こると考えられる。線状痕122及びカーボンナノチューブはともにランダムなサイズ及び分布を有するので、ミクロ的には不均一な電磁波吸収構造を形成するが、異なる無数の電磁波吸収構造の存在によりマクロ的には均一な電磁波吸収能を発揮する。
【0048】
カーボンナノチューブの分散液を線状痕122を有する金属薄膜121に塗布し、自然乾燥することにより、カーボンナノチューブ薄層14を形成する。分散液中のカーボンナノチューブの濃度は0.1〜2質量%が好ましい。カーボンナノチューブの濃度が0.1質量%未満であると十分な塗布量が得られず、また2質量%超であるとカーボンナノチューブが分散液中で凝集するおそれがあり、均一なカーボンナノチューブ薄層が得られない。カーボンナノチューブの好ましい濃度は0.2〜1質量%である。カーボンナノチューブが十分に長い場合、カーボンナノチューブ分散液はバインダ樹脂を含有しても良い。またカーボンナノチューブ分散液は、カーボンナノチューブの導電性にほとんど影響を与えない分散剤を含有しても良い。
【0049】
カーボンナノチューブ薄層14が0.01〜0.5 g/m2の厚さを有するように、カーボンナノチューブ分散液の塗布量を濃度に応じて決める。カーボンナノチューブを分散する溶媒は比較的揮発性の良いものであれば限定されず、例えば水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ベンゼン、トルエン、メチルエチルケトン等が好ましい。カーボンナノチューブ分散液の塗布方法は限定的ではないが、均一な薄層14を得るためにインクジェット印刷法等が好ましい。カーボンナノチューブ分散液の塗布は一回でする必要がなく、できるだけ均一なカーボンナノチューブ薄層14を得るために複数回に分けて行っても良い。
【0050】
(4) 保護層
電磁波吸収フィルムのハンドリングを容易にするとともに、金属薄膜121を保護するために、図7(a) 及び図7(b) に示すように、金属薄膜121上にプラスチック保護層15を形成しても良い。特にカーボンナノチューブ薄層14を形成した場合、カーボンナノチューブ薄層14を覆うプラスチック保護層15を形成するのが好ましい。プラスチック保護層15用のプラスチックフィルムはベースとなるプラスチックフィルム120と同じでも良い。保護層15の厚さは5〜30μm程度が好ましく、10〜20μm程度がより好ましい。プラスチック保護層15は、プラスチックフィルムを熱ラミネートすることにより形成するのが好ましい。プラスチック保護層用プラスチックフィルムがPETフィルムの場合、熱ラミネート温度は110〜150℃で良い。
【0051】
[4] 線状痕の形成
図8(a)〜図8(e) は線状痕を二方向に形成する装置の一例を示す。この装置は、(a) 金属薄膜−プラスチック複合フィルム100を巻き出すリール21と、(b) 複合フィルム100の幅方向と異なる方向で金属薄膜121の側に配置された第一のパターンロール2aと、(c) 第一のパターンロール2aの上流側で金属薄膜121の反対側に配置された第一の押えロール3aと、(d) 複合フィルム100の幅方向に関して第一のパターンロール2aと逆方向にかつ金属薄膜121の側に配置された第二のパターンロール2bと、(e) 第二のパターンロール2bの下流側で金属薄膜121の反対側に配置された第二の押えロール3bと、(f) 第一及び第二のパターンロール2a,2bの間で金属薄膜121の側に配置された電気抵抗測定手段4aと、(g) 第二のパターンロール2bの下流側で金属薄膜121の側に配置された電気抵抗測定手段4bと、(h) 線状痕付き金属薄膜−プラスチック複合フィルム1を巻き取るリール24とを有する。その他に、所定の位置に複数のガイドロール22,23が配置されている。各パターンロール2a,2bは、撓みを防止するためにバックアップロール(例えばゴムロール)5a,5bで支持されている。
【0052】
図8(c) に示すように、各パターンロール2a,2bとの摺接位置より低い位置で各押えロール3a,3bが複合フィルム100に接するので、複合フィルム100の金属薄膜121は各パターンロール2a,2bに押圧される。この条件を満たしたまま各押えロール3a,3bの縦方向位置を調整することにより、各パターンロール2a,2bの金属薄膜121への押圧力を調整でき、また中心角θ1に比例する摺接距離も調整できる。
【0053】
図8(d) は線状痕122aが複合フィルム100の進行方向に対して斜めに形成される原理を示す。複合フィルム100の進行方向に対してパターンロール2aは傾斜しているので、パターンロール2a上の硬質微粒子の移動方向(回転方向)aと複合フィルム100の進行方向bとは異なる。そこでXで示すように、任意の時点においてパターンロール2a上の点Aにおける硬質微粒子が金属薄膜121と接触して痕Bが形成されたとすると、所定の時間後に硬質微粒子は点A’まで移動し、痕Bは点B’まで移動する。点Aから点A’まで硬質微粒子が移動する間、痕は連続的に形成されるので、点B’から点A’まで延在する線状痕122aが形成されたことになる。
【0054】
第一及び第二のパターンロール2a,2bで形成される第一及び第二の線状痕群122A,122Bの方向及び交差角θsは、各パターンロール2a,2bの複合フィルム100に対する角度、及び/又は複合フィルム100の走行速度に対する各パターンロール2a,2bの周速度を変更することにより調整することができる。例えば、複合フィルム100の走行速度bに対するパターンロール2aの周速度aを増大させると、図8(d) のYで示すように線状痕122aを線分C’D’のように複合フィルム100の進行方向に対して45°にすることができる。同様に、複合フィルム100の幅方向に対するパターンロール2aの傾斜角θ2を変えると、パターンロール2aの周速度aを変えることができる。これはパターンロール2bについても同様である。従って、両パターンロール2a,2bの調整により、線状痕122a,122bの方向を図4(b) 及び図5(c) に例示するように変更することができる。
【0055】
各パターンロール2a,2bは複合フィルム100に対して傾斜しているので、各パターンロール2a,2bとの摺接により複合フィルム100は幅方向の力を受ける。従って、複合フィルム100の蛇行を防止するために、各パターンロール2a,2bに対する各押えロール3a,3bの縦方向位置及び/又は角度を調整するのが好ましい。例えば、パターンロール2aの軸線と押えロール3aの軸線との交差角θ3を適宜調節すると、幅方向の力をキャンセルするように押圧力の幅方向分布が得られ、もって蛇行を防止することができる。またパターンロール2aと押えロール3aとの間隔の調整も蛇行の防止に寄与する。複合フィルム100の蛇行及び破断を防止するために、複合フィルム100の幅方向に対して傾斜した第一及び第二のパターンロール2a,2bの回転方向は複合フィルム100の進行方向と同じであるのが好ましい。
【0056】
図8(b) に示すように、ロール形の各電気抵抗測定手段4a,4bは絶縁部40を介して一対の電極41,41を有し、それらの間で線状痕付き金属薄膜121の電気抵抗を測定する。電気抵抗測定手段4a,4bで測定した電気抵抗値をフィードバックして、複合フィルム100の走行速度、パターンロール2a,2bの回転速度及び傾斜角θ2、押えロール3a,3bの位置及び傾斜角θ3等の運転条件を調整する。
【0057】
複合フィルム100に対するパターンロール2a,2bの押圧力を増大するために、図9に示すようにパターンロール2a,2bの間に第三の押えロール3cを設けても良い。第三の押えロール3cにより中心角θ1に比例する金属薄膜121の摺接距離も増大し、線状痕122a,122bは長くなる。第三の押えロール3cの位置及び傾斜角を調整すると、複合フィルム100の蛇行の防止にも寄与できる。
【0058】
図10は、図5(a) に示すように三方向に配向した線状痕を形成する装置の一例を示す。この装置は、第二のパターンロール2bの下流に複合フィルム100の幅方向と平行な第三のパターンロール2cを配置した点で図8(a)〜図8(e) に示す装置と異なる。第三のパターンロール2cの回転方向は複合フィルム100の進行方向と同じでも逆でも良いが、線状痕を効率よく形成するために逆方向が好ましい。幅方向と平行に配置された第三のパターンロール2cは複合フィルム100の進行方向に延在する線状痕122cを形成する。第三の押えロール30bは第三のパターンロール2cの上流側に設けられているが、下流側でも良い。第三のパターンロール2cの下流側に電気抵抗測定ロール4cを設けても良い。なお図示の例に限定されず、第三のパターンロール2cを第一のパターンロール2aの上流側、又は第一及び第二のパターンロール2a、2bの間に設けても良い。
【0059】
図11は、図5(b) に示すように四方向に配向した線状痕を形成する装置の一例を示す。この装置は、第二のパターンロール2bと第三のパターンロール2cとの間に第四のパターンロール2dを設け、第四のパターンロール2dの上流側に第四の押えロール3dを設けた点で図10に示す装置と異なる。第四のパターンロール2dの回転速度を遅くすることにより、図8(d) においてZで示すように、線状痕122a'の方向(線分E’F’)を複合フィルム100の幅方向と平行にすることができる。
【0060】
図12は、図5(c)に示すように直交する二方向に配向する線状痕を形成する装置の別の例を示す。この装置は、第二のパターンロール32bが複合フィルム100の幅方向と平行に配置されている点で図8(a)〜図8(e) に示す装置と異なる。従って、図8(a)〜図8(e) に示す装置と異なる部分のみ以下説明する。第二のパターンロール32bの回転方向は複合フィルム100の進行方向と同じでも逆でも良い。また第二の押えロール33bは第二のパターンロール32bの上流側でも下流側でも良い。この装置は、図8(d) においてZで示すように、線状痕122a'の方向(線分E’F’)を複合フィルム100の幅方向にし、図5(c) に示す線状痕を形成するのに適している。
【0061】
線状痕の傾斜角及び交差角だけでなく、それらの深さ、幅、長さ及び間隔を決める運転条件は、複合フィルム100の走行速度、パターンロールの回転速度及び傾斜角及び押圧力等である。複合フィルムの走行速度は5〜200 m/分が好ましく、パターンロールの周速は10〜2,000 m/分が好ましい。パターンロールの傾斜角θ2は20°〜60°が好ましく、特に約45°が好ましい。複合フィルム100の張力(押圧力に比例する)は0.05〜5 kgf/cm幅が好ましい。
【0062】
線状痕形成装置に使用するパターンロールは、鋭い角部を有するモース硬度5以上の微粒子を表面に有するロール、例えば特開2002-59487号に記載されているダイヤモンドロールが好ましい。線状痕の幅は微粒子の粒径により決まるので、ダイヤモンド微粒子の90%以上は1〜1,000μmの範囲内の粒径を有するのが好ましく、10〜200μmの範囲内の粒径がより好ましい。ダイヤモンド微粒子はロール面に50%以上の面積率で付着しているのが好ましい。
【0063】
特許第2063411号に記載の方法により線状痕122を有する金属薄膜121に多数の微細穴13を形成することができる。微細穴13を形成するのに用いるロール自体は線状痕形成用ロールと同じで良い。微細穴13は、線状痕形成用ロールと同様に鋭い角部を有するモース硬度5以上の多数の微粒子が表面に付着したロールと平滑面のロールとの間隙に複合フィルム100を同じ周速で通過させることにより形成できる。
【0064】
[5] 線状痕のない金属薄膜を有する電磁波吸収フィルム
第三の電磁波吸収フレキシブル回路基板及び電磁波吸収フレキシブル基板シートは、一面に配線(銅層)が形成されたフレキシブル基板11と、フレキシブル基板11の他面に貼付された電磁波吸収フィルム12とを有し、第四の電磁波吸収フレキシブル回路基板及び電磁波吸収フレキシブル基板シートは、両面に配線(銅層)が形成された一対のフレキシブル基板11,11と、一対のフレキシブル基板11,11の間に貼付された電磁波吸収フィルム12とを有する。第三及び第四の電磁波吸収フレキシブル回路基板及び電磁波吸収フレキシブル基板シートは、電磁波吸収フィルム12の金属薄膜121に線状痕がない以外、第一及び第二の電磁波吸収フレキシブル回路基板及び電磁波吸収フレキシブル基板シートと異ならないので、電磁波吸収フィルム12の金属薄膜121についてのみ以下詳細に説明する。
【0065】
(1) 磁性金属薄膜
第三及び第四の電磁波吸収フレキシブル回路基板及び電磁波吸収フレキシブル基板シートに用いる電磁波吸収フィルム121は、プラスチックフィルムの一方の面に蒸着法により磁性金属薄膜を形成した後、110〜180℃の範囲内の温度で熱処理してなり、(a) 前記磁性金属薄膜の光透過率(波長660 nmのレーザ光)が3〜50%であり、(b) 前記磁性金属薄膜の10 cm×10 cmの正方形の試験片の対向辺部に、辺全体を覆う長さの一対の電極を配置し、平坦な加圧板を介して3.85 kgの荷重をかけて測定した表面抵抗が10〜200Ω/□である。
【0066】
磁性金属薄膜121’用の磁性金属としてはNi,Fe,Co又はそれらの合金が挙げられるが、蒸着の容易性、導電性及び透磁率の観点からNi又はその合金が好ましい。磁性金属薄膜121’はスパッタリング法、真空蒸着法等の公知の方法により形成することができる。
【0067】
(a) 磁性金属薄膜の光透過率
磁性金属薄膜121’は非常に薄いために、図14に示すように、厚さが不均一であり、厚く形成された領域121a’と、薄く形成された領域又は全く形成されていない領域121b’とがある。そのため、磁性金属薄膜121’の厚さを正確に測定するのは困難である。そこで、本発明では磁性金属薄膜121’の厚さを波長660 nmのレーザ光の透過率(単に「光透過率」という。)で表す。光透過率は磁性金属薄膜121’の任意の複数箇所の測定値を平均して求める。測定箇所数が5以上であると、光透過率の平均値は安定する。プラスチックフィルム120の厚さが30μm以下であるとプラスチックフィルム120自身の光透過率はほぼ100%であるので、電磁波吸収フィルム12’の光透過率が磁性金属薄膜121’の光透過率と一致する。しかし、プラスチックフィルム120がそれより厚い場合には、電磁波吸収フィルム12’の光透過率からプラスチックフィルム120の光透過率を引いた値が磁性金属薄膜121’の光透過率である。
【0068】
磁性金属薄膜121’の光透過率は3〜50%の範囲内である必要がある。光透過率が3%未満であると、磁性金属薄膜121’が厚くなり過ぎて金属箔のような挙動を示し、電磁波反射率が高く、電磁波ノイズの吸収能は低い。一方、光透過率が50%超であると、磁性金属薄膜121’が薄すぎて電磁波吸収能が不十分である。磁性金属薄膜121’の光透過率は好ましくは5〜45%であり、より好ましくは8〜30%である。
【0069】
(b) 表面抵抗
光透過率が3〜50%と薄い磁性金属薄膜121’の表面抵抗は測定方法により大きく異なることが分った。そのため、磁性金属薄膜121’と電極との接触面積をできるだけ大きくするとともに、磁性金属薄膜121’と電極とができるだけ均一に密着するように、図15に示す装置を用いて、加圧下での直流二端子法(単に「加圧二端子法」と言う)により表面抵抗を測定する。具体的には、硬質な絶縁性平坦面上に磁性金属薄膜121’を上にして載置した10 cm×10 cmの電磁波吸収フィルム12’の正方形試験片TP1の対向辺部に、長さ10 cm×幅1 cm×厚さ0.5 mmの電極本体部16aと、電極本体部16aの中央側部から延びる幅1 cm×厚さ0.5 mmの電極延長部16bとからなる一対の電極16,16を載置し、試験片TP1と両電極16,16を完全に覆うようにそれらの上に10 cm×10 cm×厚さ5 mmの透明アクリル板17を載せ、透明アクリル板17の上に直径10 cmの円柱状重り18(3.85 kg)を載せた後で、両電極延長部16b,16b間を流れる電流から表面抵抗を求める。
【0070】
熱処理後の磁性金属薄膜121’の表面抵抗は10〜200Ω/□の範囲内である必要がある。表面抵抗が10Ω/□未満であると、磁性金属薄膜121’が厚すぎて金属箔のような挙動を示し、電磁波ノイズの吸収能が低い。一方、表面抵抗が200Ω/□超であると、磁性金属薄膜121’が薄すぎてやはり電磁波吸収能が不十分である。熱処理後の磁性金属薄膜121’の表面抵抗は好ましくは15〜150Ω/□であり、より好ましくは20〜120Ω/□であり、最も好ましくは30〜100Ω/□である。
【0071】
(2) 熱処理
光透過率が3〜50%で、表面抵抗が10〜200Ω/□と非常に薄い磁性金属薄膜121’は、図14に示すように全体的に厚さムラがあり、比較的厚い領域121a’と比較的薄い(又は薄膜がない)領域121b’とを有する。比較的薄い領域121b’は磁気ギャップ及び高抵抗領域として作用し、近傍界ノイズにより磁性金属薄膜121’内を流れる磁束及び電流を減衰させると考えられる。しかし、このような薄い磁性金属薄膜121’の状態は製造条件により大きく異なり、一定の光透過率及び表面抵抗を有する磁性金属薄膜121’を安定的に形成するのは非常に困難であることが分った。そこで鋭意研究した結果、蒸着法により形成した磁性金属薄膜121’に対して、プラスチックフィルム120の熱収縮が起こり得る100℃超の温度で熱処理すると、磁性金属薄膜121’の表面抵抗は若干低下するとともに安定化し、経時変化が実質的になくなることが分った。延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムのように熱収縮が起こり得るプラスチックフィルムに対して100℃を超す温度で熱処理を行うということは、従来では全く考えられないことであった。しかし、110〜180℃の範囲内の温度で短時間(例えば10分〜1時間)熱処理すると、プラスチックフィルム120が僅かに熱収縮するだけで、磁性金属薄膜121’の表面抵抗が僅かに低下するとともに安定化し、もって電磁波ノイズ吸収能も安定化することが分った。ここで、電磁波ノイズ吸収能の安定化とは、電磁波ノイズ吸収能の経時変化が実質的になくなるだけでなく、製造条件によるばらつき及び製造ロット間のばらつきも低下することを意味する。
【0072】
熱処理条件を変えることにより表面抵抗を調整することができる。例えば、表面抵抗が高めの磁性金属薄膜121’に対しては、熱処理温度を高くするか熱処理時間を長くすることにより、表面抵抗を所望の値に低下させることができる。逆に、表面抵抗が低めの磁性金属薄膜121’に対しては、熱処理温度を低くするか熱処理時間を短くすることにより表面抵抗の低下を抑制することができる。
【0073】
同じ表面抵抗を有する蒸着フィルムであっても、熱処理なしのものと熱処理したものとでは電磁波吸収能に著しい差があり、熱処理により所望の表面抵抗に調整した蒸着フィルムの方が高い電磁波吸収能を有することが分った。この理由は明らかではない。というのは、非常に薄い磁性金属薄膜の状態(特に組織)の熱処理による変化を評価することは非常に困難であるからである。実験の結果磁性金属薄膜の電磁波吸収能が熱処理温度に応じて変化することが分ったので、本発明では磁性金属薄膜の組織状態を熱処理温度により規定することにする。
【0074】
熱処理温度は110〜180℃の範囲内である。熱処理温度が110℃未満であると、熱処理による電磁波吸収能の向上及びバラツキの低減の効果が実質的に得られない。一方、熱処理温度が180℃超であると、磁性金属薄膜121’の表面酸化が起こるだけでなく、十分な耐熱性を有さないプラスチックフィルムでは熱収縮が大きくなり過ぎる。熱処理温度は120〜170℃が好ましく、130〜160℃がより好ましい。熱処理時間は熱処理温度により異なるが、一般に10分〜1時間が好ましく、20〜40分がより好ましい。
【0075】
熱処理した磁性金属薄膜121’の表面に保護フィルムを積層することにより、磁性金属薄膜121’の保護とともに絶縁性を確保するのが好ましい。保護フィルムとしては、プラスチックフィルム120と同じものを使用しても良い。
【0076】
[6] 電磁波吸収フィルムの吸収能
(1) 伝送減衰率
伝送減衰率Rtpは、図16(a) 及び図16(b) に示すように、50ΩのマイクロストリップラインMSL(64.4 mm×4.4 mm)と、マイクロストリップラインMSLを支持する絶縁基板220と、絶縁基板220の下面に接合された接地グランド電極221と、マイクロストリップラインMSLの両端に接続された導電性ピン222,222と、ネットワークアナライザNAと、ネットワークアナライザNAを導電性ピン222,222に接続する同軸ケーブル223,223とで構成されたシステムを用い、マイクロストリップラインMSLに電磁波吸収フィルムの試験片TP2を粘着剤により貼付し、0.1〜6 GHzの入射波に対して、反射波S11の電力及び透過波S12の電力を測定し、下記式(1):
Rtp=−10×log[10S21/10/(1−10S11/10)]・・・(1)
により求める。
【0077】
(2) ノイズ吸収率
図16(a) 及び図16(b) に示すシステムにおいて、入射した電力Pin=反射波S11の電力+透過波S12の電力+吸収された電力(電力損失)Plossが成り立つ。従って、入射した電力Pinから反射波S11の電力及び透過波S21の電力を差し引くことにより、電力損失Plossを求め、Plossを入射電力Pinで割ることによりノイズ吸収率Ploss/Pinを求める。
【0078】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0079】
参考例1
粒径分布が50〜80μmのダイヤモンド微粒子を電着したパターンロール2a,2bを有する図8(a) に示す構造の装置を用い、厚さ16μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの一面に真空蒸着法により形成した厚さ0.05μmのアルミニウム薄膜11に、図5(c)に示すように直交する二方向に配向した線状痕を形成した。線状痕付きアルミニウム薄膜11の光学顕微鏡写真から、線状痕は下記特性を有することが分った。
幅Wの範囲:0.5〜5μm
平均幅Wav:2μm
間隔Iの範囲:2〜30μm
平均間隔Iav:20μm
平均長さLav:5 mm
鋭角側の交差角θs:90°
【0080】
線状痕付きアルミニウム薄膜11に120℃で厚さ16μmのPETフィルムを熱ラミネートし、電磁波吸収フィルムのサンプルを得た。この電磁波吸収フィルムサンプルから切り出した試験片TP2(55.2 mm×4.7 mm)の各々を図16(a) 及び図16(b) に示すシステムのマイクロストリップラインMSLに粘着剤により貼付し、0.1〜6 GHzの周波数範囲の入射電力Pinに対する反射波の電力S11及び透過波の電力S12を測定した。段落[6] の(1) 及び(2) に記載の方法により、0.1〜6 GHzの周波数範囲における伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率Ploss/Pinを求めた。結果をそれぞれ図17及び図18に示す。
【0081】
参考例2
パターンロール2a,2bの回転数を増大させた以外参考例1と同様にして、下記線状痕を形成した。
幅Wの範囲:1〜8μm
平均幅Wav:4μm
間隔Iの範囲:2〜30μm
平均間隔Iav:20μm
平均長さLav:7〜8 mm
鋭角側の交差角θs:90°
【0082】
外径が10〜15 nmで長さが0.1〜10μmの多層カーボンナノチューブをメチルエチルケトンに分散させた濃度1質量%のカーボンナノチューブ分散液(1質量%の分散剤を含有)を、エアブラシにより線状痕付きアルミニウム薄膜11に塗布し、自然乾燥させた。形成されたカーボンナノチューブ薄層14の厚さ(塗布量)は0.064 g/m2であった。その後、アルミニウム薄膜11に120℃で厚さ16μmのPETフィルムを熱ラミネートし、電磁波吸収フィルムのサンプルを得た。
【0083】
上記電磁波吸収フィルムサンプルから切り出した試験片TP2(55.2 mm×4.7 mm)の各々を図16(a) 及び図16(b) に示すシステムのマイクロストリップラインMSLに粘着剤により貼付し、0.1〜6 GHzの周波数範囲の入射電力Pinに対する反射波の電力S11及び透過波の電力S12を測定した。段落[6] の(1) 及び(2) に記載の方法により、0.1〜6 GHzの周波数範囲における伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率Ploss/Pinを求めた。結果をそれぞれ図19及び図20に示す。
【0084】
参考例3
参考例2と同様に作製した線状痕付きアルミニウム薄膜11にカーボンナノチューブ分散液を塗布せずに作製した電磁波吸収フィルムから切り出した試験片TP2に対して、参考例2と同じ方法で伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率Ploss/Pinを求めた。結果をそれぞれ図19及び図20に示す。
【0085】
参考例2及び参考例3の線状痕は参考例1の線状痕より幅広で長い。これは、パターンロール2a,2bの回転数を増大させたので、線状痕が深く形成されたためであると考えられる。このように深すぎる線状痕が形成されたために、図19及び図20から明らかなように、カーボンナノチューブ薄層14を形成していない参考例3の電磁波吸収フィルムは十分な伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率Ploss/Pinを有さないが、カーボンナノチューブ薄層14を形成した参考例2の電磁波吸収フィルムは十分な伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率Ploss/Pinを有していた。これから、最適な線状痕が形成されていない場合でも、カーボンナノチューブ薄層14の形成により電磁波吸収能が十分に向上することが分かる。
【0086】
参考例4、比較例1
厚さ16μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム1に真空蒸着法により目標光透過率(波長660 nm)9%のNi薄膜121’を形成し、長尺の蒸着フィルムを作製した。蒸着フィルムの任意の部分から10 cm×10 cmの試験片TP1を5枚切り出した。各試験片TP1の任意の5箇所の光透過率を、株式会社キーエンス製の透過型レーザセンサ(IB-05)を使用し、波長660 nmのレーザ光で測定し、平均した。また各試験片TP1の表面抵抗を図15に示すように加圧二端子法により測定した。各電極16は長さ10 cm×幅1 cm×厚さ0.5 mmの電極本体部16aと幅1 cm×厚さ0.5 mmの電極延長部16bとからなり、透明アクリル板17は10 cm×10 cm×厚さ5 mmであり、円柱状重り18は10 cmの直径を有し、3.85 kgであった。両電極16,16を鶴賀電機株式会社製の抵抗計(型名:3565)に接続し、得られた電流値から表面抵抗を求めた。全試験片TP1の平均光透過率は9.1%であり、平均表面抵抗は43Ω/□であった。
【0087】
長尺の蒸着フィルムの任意の部分から切り出した20枚の試験片TP2(55.2 mm×4.7 mm)の各々を図16(a) 及び図16(b) に示すシステムのマイクロストリップラインMSLに粘着剤により貼付し、0.1〜6 GHzの周波数範囲における反射波S11の電力及び透過波S12の電力を測定し、上記式(1) により0.1〜6 GHzの周波数範囲における伝送減衰率Rtpを求めた。熱処理していない20枚の試験片TP2の伝送減衰率Rtpの最高値及び最低値を比較例1として図21に示す。
【0088】
次に、長尺の蒸着フィルムの任意の部分からA4サイズ(210 mm×297 mm)のサンプルSを20枚切り取り、図22(a) 及び図22(b) に示すように、各サンプルSをNi薄膜121’を下にして加熱装置240のホットプレート241上に載置し、A4サイズで厚さ3 mmのテフロン(登録商標)製断熱シート242、及びA4サイズで厚さ2 mmの鉄板243を載せた後、150℃で30分間熱処理を行った。熱処理による熱収縮は約1%であった。
【0089】
熱処理した各サンプルSから切り出した10 cm×10 cmの5枚の試験片TP1に対して、上記と同じ方法で光透過率及び表面抵抗を測定した。その結果、熱処理した試験片TP1の平均光透過率は8.9%であり、平均表面抵抗は39Ω/□であった。さらに熱処理した20枚の蒸着フィルムサンプルSの各々から切り取った各試験片TP2(55.2 mm×4.7 mm)に対して上記と同様に0.1〜6 GHzの周波数範囲における反射波S11の電力及び透過波S12の電力を測定し、上記式(1) により0.1〜6 GHzの周波数範囲における伝送減衰率Rtpを求めた。熱処理した20枚の試験片TP2の伝送減衰率Rtpの最高値及び最低値を参考例4として図21に示す。
【0090】
参考例4の20枚の試験片TP2(熱処理あり)及び比較例1の20枚の試験片TP2(熱処理なし)の6 GHzにおける伝送減衰率Rtpの分布をそれぞれ図23(a) 及び図23(b) に示す。各Rtpの頻度は、例えばRtpの値が30 dBの場合、30 dB≦Rtp<31 dBの範囲のRtpを有する試験片の数により表される(以下同様)。図21及び図23から明らかなように、熱処理した蒸着フィルムからなる参考例4の試験片のRtpは熱処理していない蒸着フィルムからなる比較例1の試験片のRtpより高いだけでなく、その分布も狭かった(バラツキも小さかった)。
【0091】
参考例4の試験片(150℃で30分間の熱処理あり)及び比較例1の試験片の光透過率及び表面抵抗、並びに6 GHzにおける平均伝送減衰率Rtp、及び平均ノイズ吸収率Ploss/Pinを表1に示す。
【0092】
【表1】
注:*平均値。
【0093】
実施例1
図16(a) 及び図16(b) に示すシステムのマイクロストリップラインMSLに貼付する試験片TP2として、図24に示す疑似回路111”を形成した厚さ30μmのポリイミドフィルム110の裏側(疑似回路のない側)に参考例3の電磁波吸収フィルムを貼付した図3(a) に示す構造のものを用いた。疑似回路111”は、ポリイミドフィルム110に長さ10 mm及び幅5 mmの10本の銅箔を1 mmの間隔で貼付することにより形成した。カバーフィルム13は厚さ12μmのポリエチレンテレフタレートフィルムであった。
【0094】
この試験片TP2の伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率Ploss/Pinをそれぞれ図25及び図26に示す。図25及び図26から明らかなように、実施例1の試験片TP2は良好な伝送減衰率Rtp及びノイズ吸収率Ploss/Pinを示した。
【符号の説明】
【0095】
2a,2b,2c,2d・・・パターンロール
3a,3b,30,b3c・・・押えロール
4a,4b・・・電気抵抗測定手段
10a,10b・・・電磁波吸収フレキシブル基板シート
11・・・フレキシブル基板
110・・・フレキシブルプラスチックフィルム
111・・・銅層
12,12’・・・電磁波吸収フィルム
120・・・プラスチックフィルム
121’・・・磁性金属薄膜
121a’・・・厚く形成された磁性金属薄膜領域
121b’・・・薄く形成されたか全く形成されていない磁性金属薄膜領域
122・・・線状痕
13・・・カバーフィルム
14・・・カーボンナノチューブ薄層
15・・・保護層
16・・・電極
17・・・透明アクリル板
18・・・円柱状重り
20a,20b・・・電磁波吸収フレキシブル回路基板
22,23・・・ガイドロール
100・・・複合フィルム
240・・・加熱装置
241・・・ホットプレート
242・・・断熱シート
243・・・鉄板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一面に配線が形成されたフレキシブル基板と、前記フレキシブル基板の他面に貼付された電磁波吸収フィルムとを有する電磁波吸収フレキシブル回路基板であって、前記電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムと、その少なくとも一面に設けた単層又は多層の金属薄膜とを有し、前記金属薄膜に多数の実質的に平行で断続的な線状痕が不規則な幅及び間隔で複数方向に形成されていることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル回路基板。
【請求項2】
一枚の電磁波吸収フィルムと、その両側に貼付された一対のフレキシブル基板とからなる積層体からなり、前記積層体の外面を形成する各フレキシブル基板の表面に配線が形成されている電磁波吸収フレキシブル回路基板であって、前記電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムと、その少なくとも一面に設けた単層又は多層の金属薄膜とを有し、前記金属薄膜に多数の実質的に平行で断続的な線状痕が不規則な幅及び間隔で複数方向に形成されていることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル回路基板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電磁波吸収フレキシブル回路基板において、前記線状痕が二方向に配向しており、その交差角が30〜90°であることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル回路基板。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の電磁波吸収フレキシブル回路基板において、前記線状痕の幅は90%以上が0.1〜100μmの範囲内にあって、平均1〜50μmであり、前記線状痕の横手方向間隔は1〜500μmの範囲内にあって、平均1〜200μmであることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル回路基板。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の電磁波吸収フレキシブル回路基板において、前記金属薄膜がアルミニウム、銅、銀、錫、ニッケル、コバルト、クロム及びこれらの合金からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属からなることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル回路基板。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の電磁波吸収フレキシブル回路基板において、前記電磁波吸収フィルムの前記金属薄膜上にカーボンナノチューブ薄層が形成されていることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル回路基板。
【請求項7】
請求項6に記載の電磁波吸収フレキシブル回路基板において、前記カーボンナノチューブ薄層の塗布量で表した厚さが0.01〜0.5 g/m2であることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル回路基板。
【請求項8】
請求項6又は7のいずれかに記載の電磁波吸収フレキシブル回路基板において、前記カーボンナノチューブが多層カーボンナノチューブであることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル回路基板。
【請求項9】
請求項1に記載の電磁波吸収フレキシブル回路基板を形成するのに用いる電磁波吸収フレキシブル基板シートにおいて、前記フレキシブル基板の一面に銅層が形成されており、前記フレキシブル基板の他面に電磁波吸収フィルムが貼付されていることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル基板シート。
【請求項10】
請求項2に記載の電磁波吸収フレキシブル回路基板を形成するのに用いる電磁波吸収フレキシブル基板シートにおいて、一枚の電磁波吸収フィルムと、その両側に貼付された一対のフレキシブル基板とからなる積層体からなり、前記積層体の外面を形成する各フレキシブル基板の表面に銅層が形成されていることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル基板シート。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の電磁波吸収フレキシブル基板シートにおいて、前記線状痕が二方向に配向しており、その交差角が30〜90°であることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル基板シート。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれかに記載の電磁波吸収フレキシブル基板シートにおいて、前記線状痕の幅は90%以上が0.1〜100μmの範囲内にあって、平均1〜50μmであり、前記線状痕の横手方向間隔は1〜500μmの範囲内にあって、平均1〜200μmであることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル基板シート。
【請求項13】
請求項9〜12のいずれかに記載の電磁波吸収フレキシブル基板シートにおいて、前記金属薄膜がアルミニウム、銅、銀、錫、ニッケル、コバルト、クロム及びこれらの合金からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属からなることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル基板シート。
【請求項14】
請求項9〜13のいずれかに記載の電磁波吸収フレキシブル基板シートにおいて、前記電磁波吸収フィルムの前記金属薄膜上にカーボンナノチューブ薄層が形成されていることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル基板シート。
【請求項15】
請求項14に記載の電磁波吸収フレキシブル基板シートにおいて、前記カーボンナノチューブ薄層の塗布量で表した厚さが0.01〜0.5 g/m2であることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル基板シート。
【請求項16】
請求項14又は15に記載の電磁波吸収フレキシブル基板シートにおいて、前記カーボンナノチューブが多層カーボンナノチューブであることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル基板シート。
【請求項17】
一面に配線が形成されたフレキシブル基板と、前記フレキシブル基板の他面に貼付された電磁波吸収フィルムとを有する電磁波吸収フレキシブル回路基板であって、前記電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムの一方の面に蒸着法により磁性金属薄膜を形成した後、110〜180℃の範囲内の温度で熱処理してなり、(a) 前記磁性金属薄膜の光透過率(波長660 nmのレーザ光)が3〜50%であり、(b) 前記磁性金属薄膜の10 cm×10 cmの正方形の試験片の対向辺部に、辺全体を覆う長さの一対の電極を配置し、平坦な加圧板を介して3.85 kgの荷重をかけて測定した表面抵抗が10〜200Ω/□であることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル回路基板。
【請求項18】
一枚の電磁波吸収フィルムと、その両側に貼付された一対のフレキシブル基板とからなる積層体からなり、前記積層体の外面を形成する各フレキシブル基板の表面に配線が形成されている電磁波吸収フレキシブル回路基板であって、前記電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムの一方の面に蒸着法により磁性金属薄膜を形成した後、110〜180℃の範囲内の温度で熱処理してなり、(a) 前記磁性金属薄膜の光透過率(波長660 nmのレーザ光)が3〜50%であり、(b) 前記磁性金属薄膜の10 cm×10 cmの正方形の試験片の対向辺部に、辺全体を覆う長さの一対の電極を配置し、平坦な加圧板を介して3.85 kgの荷重をかけて測定した表面抵抗が10〜200Ω/□であることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル回路基板。
【請求項19】
請求項17又は18に記載の電磁波吸収フレキシブル回路基板において、前記熱処理を10分〜1時間行うことを特徴とする電磁波吸収フレキシブル回路基板。
【請求項20】
請求項17〜19のいずれかに記載の電磁波吸収フレキシブル回路基板において、前記磁性金属がNi又はその合金であることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル回路基板。
【請求項21】
請求項17に記載の電磁波吸収フレキシブル回路基板を形成するのに用いる電磁波吸収フレキシブル基板シートにおいて、前記フレキシブル基板の一面に銅層が形成されており、前記フレキシブル基板の他面に電磁波吸収フィルムが貼付されていることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル基板シート。
【請求項22】
請求項18に記載の電磁波吸収フレキシブル回路基板を形成するのに用いる電磁波吸収フレキシブル基板シートにおいて、一枚の電磁波吸収フィルムと、その両側に貼付された一対のフレキシブル基板とからなる積層体からなり、前記積層体の外面を形成する各フレキシブル基板の表面に銅層が形成されてことを特徴とする電磁波吸収フレキシブル基板シート。
【請求項1】
一面に配線が形成されたフレキシブル基板と、前記フレキシブル基板の他面に貼付された電磁波吸収フィルムとを有する電磁波吸収フレキシブル回路基板であって、前記電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムと、その少なくとも一面に設けた単層又は多層の金属薄膜とを有し、前記金属薄膜に多数の実質的に平行で断続的な線状痕が不規則な幅及び間隔で複数方向に形成されていることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル回路基板。
【請求項2】
一枚の電磁波吸収フィルムと、その両側に貼付された一対のフレキシブル基板とからなる積層体からなり、前記積層体の外面を形成する各フレキシブル基板の表面に配線が形成されている電磁波吸収フレキシブル回路基板であって、前記電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムと、その少なくとも一面に設けた単層又は多層の金属薄膜とを有し、前記金属薄膜に多数の実質的に平行で断続的な線状痕が不規則な幅及び間隔で複数方向に形成されていることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル回路基板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電磁波吸収フレキシブル回路基板において、前記線状痕が二方向に配向しており、その交差角が30〜90°であることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル回路基板。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の電磁波吸収フレキシブル回路基板において、前記線状痕の幅は90%以上が0.1〜100μmの範囲内にあって、平均1〜50μmであり、前記線状痕の横手方向間隔は1〜500μmの範囲内にあって、平均1〜200μmであることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル回路基板。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の電磁波吸収フレキシブル回路基板において、前記金属薄膜がアルミニウム、銅、銀、錫、ニッケル、コバルト、クロム及びこれらの合金からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属からなることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル回路基板。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の電磁波吸収フレキシブル回路基板において、前記電磁波吸収フィルムの前記金属薄膜上にカーボンナノチューブ薄層が形成されていることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル回路基板。
【請求項7】
請求項6に記載の電磁波吸収フレキシブル回路基板において、前記カーボンナノチューブ薄層の塗布量で表した厚さが0.01〜0.5 g/m2であることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル回路基板。
【請求項8】
請求項6又は7のいずれかに記載の電磁波吸収フレキシブル回路基板において、前記カーボンナノチューブが多層カーボンナノチューブであることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル回路基板。
【請求項9】
請求項1に記載の電磁波吸収フレキシブル回路基板を形成するのに用いる電磁波吸収フレキシブル基板シートにおいて、前記フレキシブル基板の一面に銅層が形成されており、前記フレキシブル基板の他面に電磁波吸収フィルムが貼付されていることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル基板シート。
【請求項10】
請求項2に記載の電磁波吸収フレキシブル回路基板を形成するのに用いる電磁波吸収フレキシブル基板シートにおいて、一枚の電磁波吸収フィルムと、その両側に貼付された一対のフレキシブル基板とからなる積層体からなり、前記積層体の外面を形成する各フレキシブル基板の表面に銅層が形成されていることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル基板シート。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の電磁波吸収フレキシブル基板シートにおいて、前記線状痕が二方向に配向しており、その交差角が30〜90°であることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル基板シート。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれかに記載の電磁波吸収フレキシブル基板シートにおいて、前記線状痕の幅は90%以上が0.1〜100μmの範囲内にあって、平均1〜50μmであり、前記線状痕の横手方向間隔は1〜500μmの範囲内にあって、平均1〜200μmであることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル基板シート。
【請求項13】
請求項9〜12のいずれかに記載の電磁波吸収フレキシブル基板シートにおいて、前記金属薄膜がアルミニウム、銅、銀、錫、ニッケル、コバルト、クロム及びこれらの合金からなる群から選ばれた少なくとも一種の金属からなることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル基板シート。
【請求項14】
請求項9〜13のいずれかに記載の電磁波吸収フレキシブル基板シートにおいて、前記電磁波吸収フィルムの前記金属薄膜上にカーボンナノチューブ薄層が形成されていることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル基板シート。
【請求項15】
請求項14に記載の電磁波吸収フレキシブル基板シートにおいて、前記カーボンナノチューブ薄層の塗布量で表した厚さが0.01〜0.5 g/m2であることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル基板シート。
【請求項16】
請求項14又は15に記載の電磁波吸収フレキシブル基板シートにおいて、前記カーボンナノチューブが多層カーボンナノチューブであることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル基板シート。
【請求項17】
一面に配線が形成されたフレキシブル基板と、前記フレキシブル基板の他面に貼付された電磁波吸収フィルムとを有する電磁波吸収フレキシブル回路基板であって、前記電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムの一方の面に蒸着法により磁性金属薄膜を形成した後、110〜180℃の範囲内の温度で熱処理してなり、(a) 前記磁性金属薄膜の光透過率(波長660 nmのレーザ光)が3〜50%であり、(b) 前記磁性金属薄膜の10 cm×10 cmの正方形の試験片の対向辺部に、辺全体を覆う長さの一対の電極を配置し、平坦な加圧板を介して3.85 kgの荷重をかけて測定した表面抵抗が10〜200Ω/□であることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル回路基板。
【請求項18】
一枚の電磁波吸収フィルムと、その両側に貼付された一対のフレキシブル基板とからなる積層体からなり、前記積層体の外面を形成する各フレキシブル基板の表面に配線が形成されている電磁波吸収フレキシブル回路基板であって、前記電磁波吸収フィルムはプラスチックフィルムの一方の面に蒸着法により磁性金属薄膜を形成した後、110〜180℃の範囲内の温度で熱処理してなり、(a) 前記磁性金属薄膜の光透過率(波長660 nmのレーザ光)が3〜50%であり、(b) 前記磁性金属薄膜の10 cm×10 cmの正方形の試験片の対向辺部に、辺全体を覆う長さの一対の電極を配置し、平坦な加圧板を介して3.85 kgの荷重をかけて測定した表面抵抗が10〜200Ω/□であることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル回路基板。
【請求項19】
請求項17又は18に記載の電磁波吸収フレキシブル回路基板において、前記熱処理を10分〜1時間行うことを特徴とする電磁波吸収フレキシブル回路基板。
【請求項20】
請求項17〜19のいずれかに記載の電磁波吸収フレキシブル回路基板において、前記磁性金属がNi又はその合金であることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル回路基板。
【請求項21】
請求項17に記載の電磁波吸収フレキシブル回路基板を形成するのに用いる電磁波吸収フレキシブル基板シートにおいて、前記フレキシブル基板の一面に銅層が形成されており、前記フレキシブル基板の他面に電磁波吸収フィルムが貼付されていることを特徴とする電磁波吸収フレキシブル基板シート。
【請求項22】
請求項18に記載の電磁波吸収フレキシブル回路基板を形成するのに用いる電磁波吸収フレキシブル基板シートにおいて、一枚の電磁波吸収フィルムと、その両側に貼付された一対のフレキシブル基板とからなる積層体からなり、前記積層体の外面を形成する各フレキシブル基板の表面に銅層が形成されてことを特徴とする電磁波吸収フレキシブル基板シート。
【図1(a)】
【図1(b)】
【図1(c)】
【図1(d)】
【図2(a)】
【図2(b)】
【図3(a)】
【図3(b)】
【図4(a)】
【図4(b)】
【図4(c)】
【図4(d)】
【図4(e)】
【図4(f)】
【図5(a)】
【図5(b)】
【図5(c)】
【図6(a)】
【図6(b)】
【図7(a)】
【図7(b)】
【図8(a)】
【図8(b)】
【図8(c)】
【図8(d)】
【図8(e)】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15(a)】
【図15(b)】
【図15(c)】
【図16(a)】
【図16(b)】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22(a)】
【図22(b)】
【図23(a)】
【図23(b)】
【図24】
【図25】
【図26】
【図1(b)】
【図1(c)】
【図1(d)】
【図2(a)】
【図2(b)】
【図3(a)】
【図3(b)】
【図4(a)】
【図4(b)】
【図4(c)】
【図4(d)】
【図4(e)】
【図4(f)】
【図5(a)】
【図5(b)】
【図5(c)】
【図6(a)】
【図6(b)】
【図7(a)】
【図7(b)】
【図8(a)】
【図8(b)】
【図8(c)】
【図8(d)】
【図8(e)】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15(a)】
【図15(b)】
【図15(c)】
【図16(a)】
【図16(b)】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22(a)】
【図22(b)】
【図23(a)】
【図23(b)】
【図24】
【図25】
【図26】
【公開番号】特開2013−84864(P2013−84864A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225358(P2011−225358)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(391009408)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(391009408)
【Fターム(参考)】
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