説明

電磁波吸収体

【課題】 任意の入射角度に対して有効であって、薄手で大面積であり、かつ安価な電磁波吸収体を提供する。
【解決手段】 導電体の集合である反射体層10、誘電体層20及び金属等導電体層30によって構成され、前記誘電体層20の誘電率を3以上とするので、空間と誘電材料の間の反射が表面に反射体層10を挿入しており、直接波と誘電体内伝播波の位相差に関する項


によると入射角θに略依存しなくなって、任意の入射角度に対して同時に電波を吸収することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電磁波の反射を低減することに用いられる電磁波吸収体に関し、主に、任意の方向より飛来する1つのあるいは複数の周波数帯域の電波を選択的に吸収する電磁波吸収体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
背景技術となる電磁波吸収体では、LSI(Large Scale Integration)等電子回路が周辺回路と電磁的に結合することを避けるための極近傍の電磁波を減衰させるための電磁波吸収体、並びに、放送電波が建築物で反射しテレビ画像にゴースト雑音を生じさせないために建築物の外壁に張り、遠方の一方向から到達する電波の反射を避ける電磁波吸収体が主要な一般用途であった。以下、遠方電磁界の電磁波吸収体について説明する
遠方からの電波を吸収する際の設計法としては、電磁波吸収体を分布定数線路と考えて設計する手法が一般的である(文献1:橋本修「電波吸収体入門」森北出版、1997年)。この場合に、特性インピーダンスZc、伝播定数γcの電波吸収材を距離dの点で金属板によって終端した場合の電磁波吸収体の入力インピーダンスZinは、

と表せる。ここで、Zinを平面波の特性インピーダンスZ0=376.7[?]に等しくすれば反射は起こらない。したがって、吸収材のZc、γcを偏波を考慮して複素平面上で選定し、それに対応するdを決定する。ここで、磁性損失は磁性率の虚部μ″により、誘電損
失は誘電率の虚部ε″によって生じる。
また、例えば誘電材の場合には入射角θの斜め入射の場合の無反射条件は、
TE波の場合

TM波の場合

である。
【0003】
これらの条件を実現するために、磁性損失材料や誘電損失材料は限定され、フェライトやカーボン等の含有率を厳密に規定する必要があった。また、多層化や立体構造とするなど複雑な成形法がとられていた。それでも到来電波の周波数、入射角度は利用場所、形状等によって異なるので、適用条件が決められないと製品化できないという欠点があった。さらに、たとえば代表的な材料であるフェライトの場合は高価で重量が重いという欠点があった。
【0004】
また、他の電磁波吸収体の例として、λ/4型がある。これは式(1)で距離dを波長λの4分の1にとると、Zinが無限大になることを利用したものであり、誘電体の電気的な厚さを4分の1波長とし、かつ電波入力面に平面波の特性インピーダンス376.7[?]に等しい抵抗皮膜を張って整合を取り、反射を防ぐものである。さらに、電磁波吸収体の厚みを4分の1波長以下にするために、特開2003-69278号公報にあるように、抵抗体皮膜と電波反射面の間に誘電体を介して位相調整層を設けるものがある。しかし、これらの場合は、大面積の抵抗皮膜を精度良く実現するのは困難であり、適用範囲が限定されるという欠点があった。
【0005】
また、他の電磁波吸収体の例として特開2002-198682号公報に示されるものがある。これは、金属反射体に2層以上のフェライト含有樹脂層とスペーサ層を重ね、電波入力面に幾何学的模様状に形成されたパターン金属層を設けることによって実現されるものである。この場合にはフェライト含有層を複雑に組み合わせて用いることから、量産性、経済性、軽量性等に対応できるものではないと考えられる。
【特許文献1】特開2003-69278号公報
【特許文献2】特開2002-198682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年無線LANが普及してきたが、壁面による電波の反射が伝送遅延やスループットの点で問題となり、壁面等に電波吸収材をはることにより解決できることが示されている(文献2:前田裕二、高谷和宏「電波吸収パーティションを用いた2.4GHz帯無線LAN伝播特性改善効果の解析」1999年電子情報通信学会通信ソサイエティ大会B-4-39)。無線LANでは壁面と電波の送受信点の位置が固定されないので任意の入射角度に対して有効である電磁波吸収体が求められている。また、この電磁波吸収体はオフィスの壁面やパーティシペーション等に用いられるものであるから、薄手で大面積であり、かつ安価である必要がある。
本発明は前記課題を解決し、前記必要性を満たす電磁波吸収体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電磁波吸収体は、略平面状に配設された複数の導電体の集合である反射体層、当該反射体層の背面側に積層配設される誘電体層及び当該誘電体層の背面側に積層配設される金属等導電体層によって構成するものである。ここで、金属等導電体層は、アルミ等の金属以外としては、例えば、カーボン入り導電ゴムがある。
【0008】
また、本発明に係る電磁波吸収体は必要に応じて、前記誘電体層の誘電率を3以上とするものである。このように本発明においては、前記誘電体層の誘電率を3以上とするので、空間と誘電材料の間の反射が表面に反射体層を挿入しており、直接波と誘電体内伝播波の位相差に関する項

によると入射角θに略依存しなくなって、任意の入射角度に対して同時に電波を吸収することができる。具体的には、誘電率を3以上にすると、50[度]以下の入射角に対しては、

の値は

に比較し、ほぼ10[%]以下の変動になるので、入射角に依存しなくなる。
【0009】
また、本発明に係る電磁波吸収体は必要に応じて、一定長の導電体の端部を開放端として形成される導電単位素子を方向・間隔を一定に複数配置し、さらに複数配置した導電単位素子を電気的に接続することなしに略直交して積層又は織成することによって形成した反射体層を用いるものである。このように本発明においては、一定長の導電体の端部を開放端として形成される導電単位素子とし、当該導電単位素子を方向・間隔を一定に複数配置し、さらに複数配置した導電単位素子を電気的に接続することなしに略直交して積層又は織成することによって形成した反射体層を用いるので、一方向に延出する導電単位素子がTM波を吸収し、かかる方向と直交する方向に延出する導電単位素子がTE波を吸収することができる。
【0010】
また、本発明に係る電磁波吸収体は必要に応じて、前記導電単位素子の長さを複数混在させて形成した反射体層を用いるものである。このように本発明においては、前記導電単位素子の長さを複数混在させて形成した反射体層を用いるので、長さに応じた複数種類の周波数の電磁波を吸収することができる。
【0011】
また、本発明に係る電磁波吸収体は必要に応じて、前記開放端とした導電単位素子間を抵抗又は周波数特性を有する電子回路を用いて接続し、前記反射体層の所定の周波数におけるインピーダンスを前記電子回路で最適化しているものである。このように本発明においては、前記開放端とした導電単位素子間を抵抗又は周波数特性を有する電子回路を用いて接続し、前記反射体層の所定の周波数におけるインピーダンスを前記電子回路で最適化しているので、導電単位素子がアンテナを構成し電磁波を受け抵抗分で消費することができ、さらに、前記周波数特性を有する電子回路として例えば直列共振回路を用いて接続した場合には、共振周波数帯でないとき導電単位素子は別個の素子としてそれぞれ機能し、共振周波数帯であるとき導電単位素子は2つの素子長の和として機能することができる。
【0012】
また、本発明に係る電磁波吸収体は必要に応じて、前記反射体層を誘電体層を介して複数積層しているものである。このように本発明においては、前記反射体層を誘電体層を介して複数積層しているので、各反射体層に応じた複数種類の周波数の電磁波を吸収することができる。
【0013】
また、本発明に係る電磁波吸収体は必要に応じて、絶縁体繊維に一定長の間隔を置いて金属等導体を塗布あるいはメッキし、必要に応じて一定長の間隔を置いて抵抗体を塗布あるいはメッキし、さらに表面に絶縁を施し、前記絶縁体繊維を織成して反射体層を形成するものである。このように本発明においては、絶縁体繊維に一定長の間隔を置いて金属等導体あるいは抵抗体を塗布あるいはメッキし、さらに表面に絶縁を施し、前記絶縁体繊維を織成して反射体層を形成するので、安価に且つ迅速に生産をすることができる。
【0014】
また、本発明に係る電磁波吸収体は、一定長の導電体の端部を開放端として形成される導電単位素子を方向・間隔を一定に複数配置することによって形成した吸収体層からなり、前記導電単位素子が抵抗分と接続するものである。このように本発明においては、一定長の導電体の端部を開放端として形成される導電単位素子を方向・間隔を一定に複数配置することによって形成した吸収体層からなり、前記導電単位素子が抵抗分と接続するので、吸収体層が導電単位素子の長さ等から決定される所定周波数帯域の電磁波をアンテナとなって吸収することができ、薄く、低コストで電磁波吸収体を実現することができる。より正確には、アンテナ素子と抵抗分によって熱変換が生じて電磁波を吸収することができる。
【0015】
また、本発明に係る電磁波吸収体は必要に応じて、前記開放端とした導電単位素子間を抵抗を含む電子回路を用いて接続し、前記吸収体層の所定の周波数におけるインピーダンスを前記電子回路で最適化しているものである。このように本発明においては、導電単位素子がアンテナを構成し抵抗分で電磁波を吸収することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上理論式および実験結果を用いて説明したように、一般に絶縁材料として使われているような誘電材料を用いても、表面に反射素子の集合である反射体を張ることによって電磁波吸収体を実現することができ、反射素子もアルミ箔や銅線のような材料で実現できるので、安価な電磁波吸収体が提供できる。
【0017】
吸収体の厚みは従来のλ/4型に比較すると大幅に薄くなり、広範な入射角度に対しても十分な吸収量が確保できる。また、大型の電波吸収材を実現し、かつ量産に適した構成である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(本発明の第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る電磁波吸収体について、図1に基づき説明する。図1は本実施形態に係る電磁波吸収体の部分平面図及び断面図である。
【0019】
本実施形態に係る電磁波吸収体は、略平面状に配設された複数の導電体の集合である反射体層10、この反射体層の背面側に積層配設される誘電体層20及びこの誘電体層の背面側に積層配設される金属等導電体層30によって構成するものである。また、前記誘電体層20の誘電率を3以上とするものでもある。
【0020】
前記反射体層10は、一定長の開放端の導電体を導電単位素子11とし、この導電単位素子11を方向・間隔を一定に複数配置した構成である。ここで、導電単位素子11は誘電体層20に直接形成してもよいが、部分的に導電体素子を織り込んだ布を用いても良い。
【0021】
安価な電磁波吸収体を実現するには材料が従来他の用途に大量に使われていることが望ましい。また、誘電材料を用いるとしても複素比誘電率の実部・虚部を細かく設定することは価格の上昇を招く。
【0022】
本発明はこのような従来技術の問題点を解決するために、金属等導電体層30と誘電体層20を加え、インピーダンス周波数特性を有する反射体層10を組み合わせて用いることによって、目的とする周波数の電磁波吸収を実現するものである。以下、理論式によりこのような電磁波吸収体が実現できることを説明する。
【0023】
本発明の動作を説明するために、まず理論的な計算式によって説明する。一例として誘電材において誘電率の虚部ε″が零の場合に電波吸収が生じる条件を示す。前記式(1)〜
(5)にこの条件を入れると、

ここで、

とおくと式(12)は、

となる。ここで、

なる反射体(単体ではDが無限大でなければZ=Z0は成立せず、電波を反射する)を誘電体に張ると、吸収体を見たインピーダンスは

すなわち、

となって、反射が生じない。
【0024】
従来技術におけるいわゆるλ/4型は上式でDを無限大とした場合

であり、特殊な例である。したがって、式(15)が成り立つ反射体が実現するならば、Dが無限大であることは必要条件ではなく、このため非常に薄い電磁波吸収体が実現される。
【0025】
以上では誘電率の虚部が零の場合に電波吸収が生じる条件を示したが、どのような材料であろうとも入力インピーダンスZinに対して式(16)が成り立つZが存在する周波数を持つ反射体があれば、その周波数では電波の反射は生じず、吸収体となる。
【0026】
金属板は波長に対して十分大きな寸法の場合にはインピーダンスが0となり完全反射体となる。しかし、金属片が波長と同程度以下等の小面積の場合は、金属体であってもインピーダンスは無視できなくなる。これを利用したのがアンテナであり、金属体にインピーダンスを持たせることにより、電波を受信し、あるいは送信している。
【0027】
ここではダイポールアンテナを例にとって説明する。図1に示すように、一定長の導体を偏波方向に向きを揃え、一定間隔に配置して面を構成する。この場合に個々の素子はダイポールアンテナの1素子と考えられる。図4はこの2つの素子間に負荷を接続した場合である。ダイポールアンテナの給電点から空間で終端されたアンテナ素子を見たインピーダンス特性はたとえば文献(文献3:築地武彦「電波・アンテナ工学入門」総合電子出版、2002年)等に計算例が示されている。波長λに対する導体長Lの比L/λによって抵抗分は800[Ω]から略0[Ω]の値をとり、リアクタンス分は+400[Ω]から-400[Ω]の値をとっている。平面波の波動インピーダンスは周波数に対して一定であるにも拘らず給電点からアンテナ素子を見たインピーダンスが変るということは、給電点のインピーダンスが一定であっても空間から見たアンテナのインピーダンスが同様に変化することを意味する。従って、給電点に接続される負荷によるが、空間から見たインピーダンスはアンテナ素子のL/λを選定することによってこの特性に似た抵抗値とリアクタンス値の組み合わせが実現できることは明らかである。アンテナのインピーダンスは線径によっても変化し、給電点(負荷装着点)によっても変化する。通信システムにおいては、空間に対する効率を考慮して、アンテナはλ/2等一定の間隔を離して用いられるが、このアンテナのインピーダンス特性を電波反射特性に応用する場合には、面密度を変化させて多数の導体を反射体層に配置することにより面インピーダンスを変化させることができる。したがって、電磁波吸収を生じさせる周波数(波長:λ)において導体で裏打ちされた誘電率ε、厚さdの誘電材料に対して、式(15)の条件を満たす面インピーダンスを持った反射体層は容易に実現できる。
【0028】
放送波のゴースト除去に用いられる電磁波吸収体は電波の偏波も入射角度も固定しているが、無線LANのような通信システムの場合には電波の発信点と受信点の位置関係は時間的に変化するので、従来技術では式(6)、式(7)を同時に任意の入射角において成立させることは不可能であった。従来技術のTE波及びTM波に対する無反射条件は、本発明では空間と誘電材料の間の反射が表面に薄くて反射率の高い反射体層を挿入したことによって無視でき、また直接波と誘電体内伝播波の位相差に関する項

は誘電率εをsin2θに対して十分大とする材料を選択することによって入射角θにほぼ依存しなくなるので、任意の入射角度に対して同時に電波を吸収する電磁波吸収体が実現できる。
【0029】
このように本実施形態に係る電磁波吸収体によれば、前記誘電体層20の誘電率を3以上とするので、空間と誘電材料の間の反射が表面に反射体層10を挿入しており、直接波と誘電体内伝播波の位相差に関する

項より入射角θに略依存しなくなって、任意の入射角度に対して同時に電磁波を吸収することができる。
【0030】
(本発明の第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る電磁波吸収体について、図2に基づき説明する。図2は本実施形態に係る反射体層の平面図及び断面図である。
本実施形態に係る電磁波吸収体は、前記第1の実施形態に係る電磁波吸収体と同様に構成され、一定長の導電体の端部を開放端として形成される導電単位素子11を方向・間隔を一定に複数配置し、さらに複数配置した導電単位素子11を電気的に接続することなしに略直交して積層することによって形成した反射体層10を用いることを異にする構成である。ここで、積層する代わりに、織成することもできる。織成する場合には、絶縁体繊維に一定の間隔ごとに導電体をメッキあるいは塗布し、さらにその上に絶縁材料を被覆したものを織成することにより実現することができる(図2(b)参照)。図2(b)は、織成して形成した場合の理論図であって実際のメッキ厚の相対比となっていない。
【0031】
到来電波の任意の偏波に対応するためには、反射体素子11の半径若しくは幅を長さ方向に対して十分小とし、これを電気的に絶縁した上で直交方向に積層若しくは編組することによって実現する。
【0032】
このように本実施形態に係る電磁波吸収体によれば、一定長の導電体の端部を開放端として形成される導電単位素子11を方向・間隔を一定に複数配置し、さらに複数配置した導電単位素子11を電気的に接続することなしに略直交して積層することによって形成した反射体層10を用いるので、一方向に延出する導電単位素子11がTM波を吸収し、かかる方向と直交する方向に延出する導電単位素子11がTE波を吸収することができる。
【0033】
(本発明の第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態に係る電磁波吸収体について、図3に基づき説明する。図3は本実施形態に係る電磁波吸収体の平面図及び断面図である。
本実施形態に係る電磁波吸収体は、前記第1の実施形態に係る電磁波吸収体と同様に構成され、前記導電単位素子11の長さを複数混在させて形成した反射体層10を用いることを異にする構成である。
【0034】
反射体層10に用いる素子11の長さLを複数種類選択することによって、反射体層10のインピーダンス周波数特性を制御することができる。この場合に誘電体層20の厚さdは一定であるので、式(13)のDは波長λによって決まるが、例えば2つのLの値を十分離せば2つの周波数帯域で吸収を生じ、また近い値に設定すれば吸収帯域幅を増大させることができる。
【0035】
このように本実施形態に係る電磁波吸収体によれば、前記導電単位素子11の長さを複数混在させて形成した反射体層10を用いるので、長さに応じた複数種類の周波数の電磁波を吸収することができる。
【0036】
(本発明の第4の実施形態)
本発明の第4の実施形態に係る電磁波吸収体について、図4に基づき説明する。図4は本実施形態に係る電磁波吸収体の平面図及び断面図である。
本実施形態に係る電磁波吸収体は、前記第1の実施形態に係る電磁波吸収体と同様に構成され、前記開放端とした導電単位素子11間を抵抗12を用いて接続し、前記反射体層10の所定の周波数におけるインピーダンスを前記電子回路で最適化していることを異にする構成である。ここで、抵抗12の替わりに周波数特性を有する電子回路を用いることもできる。
【0037】
このように本実施形態に係る電磁波吸収体によれば、前記開放端とした導電単位素子11間を抵抗12を用いて接続し、前記反射体層10の所定の周波数におけるインピーダンスを前記電子回路で最適化しているので、インピーダンスの整合により反射を防止することができる。
【0038】
なお、前記周波数特性を有する電子回路として例えば直列共振回路を用いて接続した場合には、共振周波数帯でないとき導電単位素子11は別個の素子としてそれぞれ機能し、共振周波数帯であるとき導電単位素子11は2つの素子長の和として機能することができる。
【0039】
(本発明の第5の実施形態)
本発明の第5の実施形態に係る電磁波吸収体について、図5に基づき説明する。図5は本実施形態に係る電磁波吸収体の部分断面図、図6は本実施形態に係る電磁波吸収体の実験結果のグラフである。
本実施形態に係る電磁波吸収体は、前記第1の実施形態に係る電磁波吸収体と同様に構成され、前記反射体層10を誘電体層20を介して複数積層していることを異にする構成である。
【0040】
このように実現した反射体層10を、誘電体層20を介して複数積層すれば多周波数帯域で吸収を生じさせることができる。図5を用いてこの動作を説明する。第1反射体13と第2反射体14は素子の長さを変えるなどしてインピーダンスの周波数特性を異なるものとする。第3反射体31は金属板とする。第1誘電体層21及び第2誘電体層22の誘電率を考慮した電気的な厚みをそれぞれ、

とする。このような構造の場合には厳密には各層間の反射を計算しなければならないが、第2反射体14のインピーダンスが非常に低い周波数帯域では第1反射体13のインピーダンスと第1誘電体13の実効的な厚み

によって決まる周波数において吸収が生じる。また同時に、第2反射体14のインピーダンスが非常に高い周波数帯域では電波が第2反射体14を透過するので、その周波数における第1反射体13のインピーダンスと第1誘電体層21と第2誘電体層22の実効的な厚みの和

によって決まる周波数において吸収が生じる。すなわち、2つの周波数帯域で吸収特性を持たせることができる。
【0041】
図6は図5の構成により2周波数帯域で吸収が生じることを示した実験結果である。
このように本実施形態に係る電磁波吸収体によれば、前記反射体層10を誘電体層20を介して複数積層しているので、各反射体層10に応じた複数種類の周波数の波を吸収することができる。
【0042】
(本発明の第6の実施形態)
本発明の第6の実施形態に係る電磁波吸収体について説明する。
本実施形態に係る電磁波吸収体は、一定長の導電体の端部を開放端として形成される導電単位素子を方向・間隔を一定に複数配置することによって形成した吸収体層からなり、前記導電単位素子が抵抗分と接続する構成である。本実施形態に係る電磁波吸収体は、前記各実施形態に係る電磁波吸収体と異なり、吸収体層のみからなる構成である。すなわち、誘電体層20及び金属等導電体層30を有しない構造となっている。また、反射体層10と同様に一定長の導電体の端部を開放端として形成される導電単位素子を方向・間隔を一定に複数配置した構成となっているが、前記各実施形態に係る電磁波吸収体に係る反射体層10が誘電体層20の厚みを変化させることにより導電単位素子11の長さを変化することができるのに対し、本実施形態に係る吸収体層の導電単位素子の長さは導電単位素子がアンテナとして機能することから吸収対象となる電磁波の周波数帯域に応じて略一定に固定される。より具体的には、本実施形態に係る吸収体層の導電単位素子の長さは、例えば半波長ダイポールアンテナに基づき吸収対象となる周波数における波長の略半分となる。また、アンテナによって吸収された電磁波を消費すべく抵抗を、導電単位素子の長手方向の中央に配設することが好ましい。なお、ここで、抵抗に対して2個の導電単位素子が接続しているとも考えることができ、かかる場合には導電単位素子の長さは吸収対象となる周波数における波長の略四分の一となり、抵抗を2つの導電単位素子で共有する格好となる。
【0043】
このように本実施形態に係る電磁波吸収体によれば、一定長の導電体の端部を開放端として形成される導電単位素子を方向・間隔を一定に複数配置することによって形成した吸収体層からなるので、吸収体層が導電単位素子の長さ等から決定される所定周波数帯域の電磁波をアンテナとなって吸収することができ、より薄く、低コストで電磁波吸収体を実現することができる。
【0044】
なお、ダイポールアンテナを吸収体層を構成する素子とする場合の形状は円筒状であっても、平板状であっても良い。また、素子の金属等導体を開放端で用いても、素子間に抵抗体等インピーダンス素子を接続して複数の導体によって用いても良い。
【0045】
また、本実施形態に係る電磁波吸収体は、複数配置した導電単位素子を電気的に接続することなしに略直交して積層又は織成することもでき、一方向に延出する導電単位素子がTM波を吸収し、かかる方向と直交する方向に延出する導電単位素子がTE波を吸収することができる。
また、本実施形態に係る電磁波吸収体は、前記導電単位素子の長さを複数混在させて形成した反射体層を用いることもでき、長さに応じた複数種類の周波数の電磁波を吸収することができる。
【0046】
(その他の実施形態)
前記各実施形態に係る電磁波吸収体においては、ダイポールアンテナを例として説明したが、平面上に形成できる他の種々のパターンであっても、インピーダンス条件を満たせば反射体として用いることができる。
【0047】
前記各実施形態に係る電磁波吸収体においては、前記特定の面インピーダンスを持った反射体層10の製造方法としては、印刷・メッキによるものやリソグラフィ法によるものもある。また、絶縁体繊維に一定の間隔ごとに導電体をメッキあるいは塗布し、さらにその上に絶縁材料を被覆したものを織成することにより実現できる。
【0048】
また、前記第4の実施形態に係る導電体素子11間を接続する電子回路については、電子回路チップを接続して実現することもできるが、上記メッキを用いた製造方法で、一部の導電体に変えて抵抗体を用いること、メッキ導電層を絶縁材料を介して重ねることによって容量を実現する等により一部の電子回路も同様の工程で実現可能である。
【0049】
図7は本発明のその他の実施例の電波吸収特性グラフであり、実験対象とした構成は金属板の上にゴム板を張り、その上に一定長の銅線をTE波の偏波方向にあわせて等間隔に配置した反射体10を表面層として用いた電磁波吸収体である。図は同一の反射体10を用いて誘電体の厚みを変えた場合の吸収特性の変化および吸収帯域の移動を示している。d2の場合は2.5[GHz]が吸収帯域である。この周波数の波長は120[mm]であるが、反射体10と吸収材を合わせた厚みは2[mm]であり、従来の電磁波吸収体では到底実現できなかったものである。
図8は図7のd2の特性グラフであり、TE波の入射角が変化した場合を示す。図から明らかなように電波の入射角によらず、吸収帯域は一定となっている。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る電磁波吸収体の部分平面図及び断面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る反射体層の平面図及び断面図である。
【図3】本発明の第3の実施形態に係る電磁波吸収体の平面図及び断面図である。
【図4】本発明の第4の実施形態に係る電磁波吸収体の平面図及び断面図である。
【図5】本発明の第5の実施形態に係る電磁波吸収体の部分断面図である。
【図6】本発明の第5の実施形態に係る電磁波吸収体の実験結果のグラフである。
【図7】本発明のその他の実施例の電波吸収特性グラフである。
【図8】図7のd2の特性グラフである。
【符号の説明】
【0051】
10 反射体層
11 導電単位素子
12 抵抗
13 第1反射体
14 第2反射体
20 誘電体層
21 第1誘電体層
22 第2誘電体層
30 金属等導電体層
31 第3反射体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
略平面状に配設された複数の導電体の集合である反射体層、当該反射体層の背面側に積層配設される誘電体層及び当該誘電体層の背面側に積層配設される金属等導電体層によって構成することを
特徴とする電磁波吸収体。
【請求項2】
前記請求項1に記載の電磁波吸収体において、
前記誘電体層の誘電率を3以上とすることを
特徴とする電磁波吸収体。
【請求項3】
前記請求項1または2に記載の電磁波吸収体において、
一定長の導電体の端部を開放端として形成される導電単位素子を方向・間隔を一定に複数配置し、さらに複数配置した導電単位素子を電気的に接続することなしに略直交して積層又は織成することによって形成した反射体層を用いることを
特徴とする電磁波吸収体。
【請求項4】
前記請求項3に記載の電磁波吸収体において、
前記導電単位素子の長さを複数混在させて形成した反射体層を用いることを
特徴とする電磁波吸収体。
【請求項5】
前記請求項3または4に記載の電磁波吸収体において、
前記開放端とした導電単位素子間を抵抗又は周波数特性を有する電子回路を用いて接続し、前記反射体層の所定の周波数におけるインピーダンスを前記電子回路で最適化していることを
特徴とする電磁波吸収体。
【請求項6】
前記請求項1ないし5のいずれかに記載の電磁波吸収体において、
前記反射体層を誘電体層を介して複数積層していることを
特徴とする電磁波吸収体。
【請求項7】
前記請求項1ないし6のいずれかに記載の電磁波吸収体において、
絶縁体繊維に一定長の間隔を置いて金属等導体を塗布あるいはメッキし、必要に応じて一定長の間隔を置いて抵抗体を塗布あるいはメッキし、さらに表面に絶縁を施し、前記絶縁体繊維を織成して反射体層を形成することを
特徴とする電磁波吸収体。
【請求項8】
一定長の導電体の端部を開放端として形成される導電単位素子を方向・間隔を一定に複数配置することによって形成した吸収体層からなり、前記導電単位素子が抵抗分と接続することを
特徴とする電磁波吸収体。
【請求項9】
前記請求項8に記載の電磁波吸収体において、
前記開放端とした導電単位素子間を抵抗を含む電子回路を用いて接続し、前記吸収体層の所定の周波数におけるインピーダンスを前記電子回路で最適化していることを
特徴とする電磁波吸収体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−128312(P2006−128312A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−312832(P2004−312832)
【出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【出願人】(000100399)つちやゴム株式会社 (10)
【Fターム(参考)】