説明

電磁波吸収性熱放射シート

【課題】 特に、内部に十分なスペースがないPDA、携帯電話などの小型電子機器や、発熱素子が密閉空間にセットされている電子機器において有効に働く電磁波吸収性能と遠赤外線放射による放熱機能とを併せ持つ電磁波吸収性熱放射シートを提供する。
【解決手段】 熱伝導率が0.7W/mK以上である電磁波吸収層と、該電磁波吸収層の片面に直接、または他の少なくとも一層を介して設けられた遠赤外線放射層とを有してなる電磁波吸収性熱放射シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波吸収層と遠赤外線放射層とを有してなり、外部への電磁波ノイズの放射を抑制するとともに、発熱体からの熱を遠赤外線放射により効率的に外部に放熱する電磁波吸収性熱放射シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピューター、PDA、携帯電話等の内部に配置されたCPU、LSI等の電子部品の高密度化および高集積化、ならびに電子機器の小型化に伴うプリント配線基板への電子部品の高密度実装化が進み、当該電子部品から発生する電磁波ノイズの外界への放射の問題や、内部電磁干渉の問題が起きている。
【0003】
従来、これらの電磁波ノイズ対策を行う場合にはノイズ対策の専門知識と経験が必要であり、その対策には多くの時間が必要である。更に、その対策に必要な部品の実装スペースを電子機器内に事前に確保しなければならない。こうした問題点を解決するため、電磁波吸収シートが使用されている。
【0004】
同時に、CPU、LSI等の電子部品の高密度化、高集積化に伴い発熱量が大きくなり、冷却を効率よく行わなければ、これらの電子部品を実装する電子機器が熱暴走により誤動作してしまうという問題も起きている。従来、発熱を外部に効率よく放出する手段として、熱伝導性充填剤を充填したシリコーングリースやシリコーンゴムをCPU、LSI等とアルミニウム、銅またはそれらの合金製のヒートシンクとの間に設置することにより接触熱抵抗を小さくして、ヒートシンクに熱伝導により導き、ヒートシンクから空気中に放熱する方法があった。この方法では、ヒートシンクと空気との間での伝熱が放熱の主体となるため、放熱効率を高めるための大きなヒートシンクが必要となり、さらには、ファンを設けて空気の流れを作る必要もあった。したがって、PDA、携帯電話などの小型機器や発熱素子が密閉空間にセットされている電子機器では、ヒートシンクによる放熱構造をとることは難しかった。
【0005】
このような場合、輻射伝熱を利用した放熱構造が注目されており、実用化も始まっている。特許文献1においては、遠赤外線を放射するセラミックス材料からなる放熱層と導電層とから構成された放熱板により、電磁波シールドするとともに、電子機器の放熱を行なうことが開示されている。また、特許文献2では、熱伝導性を有する可撓性の吸熱層の一方の面に赤外線放射効果を有する可撓性の熱放射膜を、もう一方の面に熱伝導性接着剤からなる接着層を設けた放熱シートによる放熱方法が示されている。
【0006】
しかし、これらの放熱板、放熱シートでは、電磁波ノイズの問題は解決できないため、別に電磁波吸収シートによる対策やノイズ抑制回路の検討が必要である。よって、電磁波ノイズ抑制対策が煩雑になったり、小型機器の場合にはスペースの問題から十分な対策がとれなくなったりする場合もあった。
【特許文献1】特開平10-116944号公報
【特許文献2】特開2004-200199号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる従来の問題に鑑みてなされたものであって、特に、電子機器内部に十分なスペースがない場合や、発熱素子が密閉空間にセットされている場合に有効に働く電磁波吸収性能と遠赤外線放射による放熱機能とを併せ持つ電磁波吸収性熱放射シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、熱伝導率が0.7 W/mK以上である電磁波吸収層と遠赤外線放射層を積層することで、電磁波吸収性能と遠赤外線放射による放熱機能を併せ持つ電磁波吸収性熱放射シートが得られることを見出した。
【0009】
即ち、本発明は、
熱伝導率が0.7W/mK以上である電磁波吸収層と、該電磁波吸収層の片面に直接、または他の少なくとも一層を介して設けられた遠赤外線放射層とを有してなる電磁波吸収性熱放射シート
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電磁波吸収性熱放射シートは、電磁波吸収性能と赤外線放射による放熱機能を兼ね備えたシートである。特に電磁波吸収層の熱伝導率が0.7 W/mK以上であるため、発熱体からの熱を電磁波吸収層を通して遠赤外線放射層に効率よく伝達できるため、優れた放熱性能を示す。したがって、電磁波ノイズの問題があり、なおかつ機器内部に十分なスペースがなく、大きなヒートシンクを設置することができない場合や、発熱素子が密閉空間にセットされていて、空気による冷却ができない場合などに、電磁波ノイズの問題と発熱の問題を同時に解決することができる。
【0011】
従来の電磁波吸収シート、電磁波吸収性熱伝導性シート、遠赤外線放射シートを使用して、電磁波ノイズ対策および発熱対策を行う場合、必要に応じて、それぞれのシートを別々に準備して装着作業を行うことが必要であった。したがって、装着工程に時間がかかり、また、工程費のアップにつながっていた。また、複数のシートを別々の場所に装着することが必要となる場合もあり、特に小型機器においては、スペース的に問題であった。これに対して、本発明の電磁波吸収性熱放射シートを使用することで、シート1枚で電磁波ノイズの問題と発熱の問題とを同時に解決することができるため、装着工程を簡略化することができ、コストダウンが可能である。また、スペースの問題も解決でき、小型機器でも上記対策が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
【0013】
[電磁波吸収性熱放射シート]
本発明の電磁波吸収性熱放射シートは、熱伝導率が0.7W/mK以上である電磁波吸収層と、該電磁波吸収層の片面に直接、または他の少なくとも一層を介して設けられた遠赤外線放射層とを有する。ここで、「他の少なくとも一層」としては、例えば、目的に応じて、導電層、シートの機械的強度の補強層などが挙げられる。これらの層は一種単独で用いても二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
本発明の電磁波吸収熱放射シートを発熱性・電磁波ノイズ放射性素子に装着した状態の一例を図1に示した。図1において、電磁波吸収熱放射シート1は、遠赤外線放射層2とその下に積層された電磁波吸収層3とからなり、電磁波吸収層3の下側の面が発熱性・電磁波ノイズ放射性素子10の上に装着されている。該素子10から放射された電磁波ノイズは電磁波吸収層3により吸収され、機器内部での電磁干渉の問題、外部への電磁波ノイズ放射の問題を解決できる。同時に、該素子10から発生した熱は電磁波吸収層3を通して遠赤外線放射層2に熱伝導により伝達され、遠赤外線放射層2から輻射熱として放出される。このとき、電磁波吸収層3は熱伝導層として機能する。
【0015】
[電磁波吸収層]
本発明の電磁波吸収性熱放射シートの電磁波吸収層は、その熱伝導率が、通常、0.7W/mK以上、好ましくは2W/mK以上である限り、特に限定されない。該熱伝導率が0.7W/mKよりも小さいと、発熱性・電磁波ノイズ放射性素子から発生した熱が遠赤外線放射層へ伝わりにくくなり、本発明の電磁波吸収性熱放射シートの放熱効果が十分でなくなる。
【0016】
該電磁波吸収層は、軟磁性金属粉と絶縁性のポリマーとを含んでなる層であることが好ましい。該軟磁性金属粉は該絶縁性のポリマー中に均一に分散していることが好ましい。
【0017】
電磁波吸収性能の有無は、例えば、以下のようにして評価することができる。まず、評価対象(シートまたは層)をマイクロプロセッサに装着した場合と装着しない場合とでそれぞれマイクロプロセッサから放射される電磁波の量を米国連邦通信委員会(FCC)の3m法に準拠して測定する。次に、両測定値の差を計算して放射電磁波変化量を求める。その結果、該評価対象を装着した場合に放射される電磁波量が、該評価対象を装着しない場合に放射される電磁波と比較して、2dB以上、好ましくは3dB以上減少していることが望ましい。
【0018】
<軟磁性金属粉>
最近、パーソナルコンピューターをはじめとする電子機器の信号処理速度は非常に高速化してきており、各素子の動作周波数は数百MHz〜数GHzのものが多くなってきている。したがって、電子機器内部で発生する電磁波ノイズの周波数にはGHz帯域のものも多くなってきている。
【0019】
これらの電磁波ノイズを抑制するために、マンガン亜鉛系フェライト、ニッケル亜鉛系フェライトなどのスピネル型立方晶フェライトの粉末を焼成して得た板状体や、これらの粉末をポリマー中に均一分散させて得たシートを適用してもよい。しかし、このようなフェライト板やフェライトシートの有する電磁波吸収性能は、主にMHz帯の電磁波に対しては高いが、GHz帯の電磁波に対しては低い。
【0020】
一方、軟磁性金属粉はMHz帯からGHz帯までの電磁波に対して高い電磁波吸収性能を有するので、最近の電子機器においては、電磁波ノイズを抑制するためには、軟磁性金属粉を含む電磁波吸収層が特に有効となる。また、軟磁性金属粉は、フェライトに比べ熱伝導率が大きい点でも本発明に好適である。
【0021】
軟磁性金属粉としては、供給安定性、価格などの面から鉄元素を15質量%以上含むものを用いるのが好ましい。例えば、カルボニル鉄、電解鉄、Fe−Cr系合金、Fe−Si系合金、Fe−Ni系合金、Fe−Al系合金、Fe−Co系合金、Fe−Al−Si系合金、Fe−Cr−Si系合金、Fe−Cr−Al系合金、Fe−Si−Ni系合金、Fe−Si−Cr−Ni系合金などの金属粉が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの軟磁性金属粉は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
該軟磁性金属粉の形状としては、例えば、扁平状、球状が挙げられる。該軟磁性金属粉は、形状が同一の粒子のみを含んでいてもよいし、形状が異なる粒子を含んでいてもよい。
【0023】
軟磁性金属粉の平均粒子径は、0.1〜100μmであることが好ましく、1〜50μmであることが特に好ましい。該平均粒子径がこの範囲ならば、該軟磁性金属粉は比表面積が適切な大きさに保たれるので高充填化が容易であり、また、電磁波吸収層の電磁波吸収性能が十分に発揮される。
【0024】
電磁波吸収層における軟磁性金属粉の含有量は、電磁波吸収層全量に対し好ましくは10〜80容量%、特に好ましくは15〜70容量%である。該含有量がこの範囲ならば、十分な電磁波吸収性能が得られ、また、電磁波吸収層が脆くなるのを防ぐことができる。
【0025】
<ポリマー>
電磁波吸収層の絶縁性のポリマーは、当該層でマトリックスを構成し、その中に軟磁性金属粉、熱伝導性充填剤などが分散されるものであり、例えば、シリコーン、アクリルゴム、エチレンプロピレンゴム、フッ素ゴム、塩素化ポリエチレンなどが挙げられるが、目的とする用途に応じて適宜選択することができる。これらポリマーは一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
<熱伝導性充填剤>
電磁波吸収層の熱伝導率を大きくすることで、発熱性・電磁波ノイズ放射性素子から遠赤外線放射層に効率よく熱を伝えることができ、本発明の電磁波吸収性熱放射シートの放熱効果を高めることができることから、電磁波吸収層は、好ましくは熱伝導性充填剤を含んでいてもよい。
【0027】
該熱伝導性充填剤としては、例えば、アルミニウム、銅などの金属粉;酸化アルミニウム、酸化ケイ素などの金属酸化物の粉;窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウムなどの金属窒化物の粉が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これら熱伝導性充填剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
該熱伝導性充填剤の平均粒子径は、0.1〜100μmであることが好ましく、1〜50μmであることが特に好ましい。該平均粒子径がこの範囲ならば、該熱伝導性充填剤は比表面積が適切な大きさに保たれるので高充填化が容易であり、また、電磁波吸収層の熱伝導率が高く保たれ、更に、電磁波吸収層が脆くなるのを防ぐことができる。
【0029】
電磁波吸収層における熱伝導性充填剤の含有量は、電磁波吸収層が所定の電磁波吸収性能を得られるように、軟磁性金属粉の含有量との兼ね合いを考えて、電磁波吸収層全量に対し好ましくは60容量%以下、特に好ましくは40容量%以下である。該含有量がこの範囲ならば、相対的に軟磁性金属粉の含有量を維持することができ、十分な電磁波吸収性能を保つことができる。
<軟磁性金属粉および/または熱伝導性充填剤とポリマーとの混合>
【0030】
軟磁性金属粉および/または熱伝導性充填剤とポリマーとの混合は、これらが均一に分散されるまでホモミキサー、ニーダー、2本ロールミル、プラネタリーミキサー等の混合機により行なうことができるが、特にこれに限定されるものではない。なお、このとき、必要に応じて、シランカップリング剤などの粉末表面処理剤、難燃剤、架橋剤、制御剤、架橋促進剤などを適宜、適量配合してもよい。
【0031】
<粘着性>
本発明の電磁波吸収性熱放射シートは、図1に示したとおり、電磁波吸収層が発熱性・電磁波ノイズ放射性素子に近い側に配置され、遠赤外線放射層が電磁波吸収層を挟んで該素子とは反対側に配置されるように、該素子に対して装着される。この場合、機械的な機構を設けて本発明の電磁波吸収性熱放射シートを該素子に圧接させてもよいが、小型機器内部などのようにスペースが少ない場所では、電磁波吸収層自体を粘着性として本発明の電磁波吸収性熱放射シートを該素子に接着・固定することがスペースの節約、コスト削減、作業性の観点から好ましい。
【0032】
電磁波吸収層を粘着性とするための方法としては、例えば、ポリマーとしてアクリル系粘着剤やシリコーン系粘着剤を用いる方法や、ポリマーにこれら粘着剤を混合する方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
[遠赤外線放射層]
本発明の電磁波吸収性熱放射シートの遠赤外線放射層は、遠赤外線放射による放熱機能を有する限り、特に限定されないが、遠赤外線放射性の酸化物系セラミックスを含んでなる層であることが好ましい。遠赤外線放射性の酸化物系セラミックスとしては、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、コージライト(2MgO・2Al2O3・5SiO2)などが挙げられる。
【0034】
該遠赤外線放射層の製造方法としては、例えば、以下の方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。該遠赤外線放射層は、遠赤外線放射性の酸化物系セラミックスを含む粉末とシリコーン樹脂などのバインダーが混合されている有機溶剤溶液を所定の基板に塗布、硬化して層状に形成させることにより製造することができる。また、該遠赤外線放射層は、遠赤外線放射性の酸化物系セラミックスを含む粉末を焼成して板状とすることによっても製造することができる。なお、該遠赤外線放射層には、必要に応じて、シランカップリング剤などの粉末表面処理剤、難燃剤、架橋剤、制御剤、架橋促進剤などを適宜、適量配合してもよい。
【0035】
遠赤外線放射による放熱機能の有無は、例えば、以下のようにして評価することができる。まず、評価対象(シートまたは層)を密閉筐体中のマイクロプロセッサに装着し、直径50μmの熱電対をマイクロプロセッサと評価対象との間に挟みこむ。次に、このマイクロプロセッサを動作させて、ほぼ定常状態となった30分後の温度を測定する。一方、評価対象をマイクロプロセッサに装着しない以外は同様にして、マイクロプロセッサの表面温度を測定する。その結果、該評価対象を装着した場合の温度が、該評価対象を装着しない場合の温度と比較して、10℃以上、好ましくは20℃以上低下していることが望ましい。
【0036】
[導電層]
本発明の電磁波吸収性熱放射シートにおいて電磁波吸収層と遠赤外線放射層との間には、必要に応じて導電層を積層することができる。電磁波ノイズ放射素子の性質、その機器内部での配置などによっては、導電層すなわち電磁波シールド層を電磁波吸収層と積層して設けることで、電磁波ノイズをより効果的に抑制することができる場合がある。該導電層は、その体積抵抗率が1×10−2Ω・m以下、好ましくは1×10−4Ω・m以下であることが好ましい。
【0037】
更に、該導電層は、電磁波吸収層から遠赤外線放射層への熱の伝達を妨げないように、大きな熱伝導率、例えば、0.5W/mK以上の熱伝導率を有することが好ましく、1W/mK以上の熱伝導率を有することがより好ましい。
【0038】
該導電層としては、例えば、アルミニウムや銅などの金属またはその合金の箔、板およびメッシュならびにグラファイトシート、導電性ゴムシートなどが挙げられる。
【0039】
[粘着層]
本発明の電磁波吸収性熱放射シートを発熱性・電磁波ノイズ放射性素子に固定するには、上記のように電磁波吸収層を粘着性とすることのほかに、粘着層を別途設けてもよい。本発明の電磁波吸収性熱放射シートでは、電磁波吸収層の片面に直接、または他の少なくとも一層を介して遠赤外線放射層が設けられているが、粘着層は該片面とは反対側の片面に設けることが好ましい。小型機器内部などのようにスペースが少ない場所では、このようにして粘着層を別途設けて本発明の電磁波吸収性熱放射シートを該素子に接着・固定することもスペースの節約、コスト削減、作業性の観点から好ましい。
【0040】
粘着層としては、公知の粘着剤を含む層を使用することができる。このような粘着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤などが挙げられるが、これらに特に限定されるものではない。
【0041】
通常の粘着剤の熱伝導率は0.1〜0.2W/mK程度であるので、より効率的に熱を発熱素子から電磁波吸収層へ移動させるためには、粘着層中に熱伝導性充填剤を充填することにより、該粘着層の熱伝導率を0.5W/mK以上とすることが好ましく、1W/mK以上とすることがより好ましい。該熱伝導率がこの範囲内ならば、発熱素子から発生した熱が遠赤外線放射層へより効率的に伝わり、本発明の電磁波吸収性熱放射シートの放熱効果がさらに高まる。
【0042】
粘着層中の熱伝導性充填剤としては、例えば、アルミニウム、銅などの金属粉;酸化アルミニウム、酸化ケイ素などの金属酸化物の粉;窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウムなどの金属窒化物の粉が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これら熱伝導性充填剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
該熱伝導性充填剤の平均粒子径は、0.1〜100μmであることが好ましく、1〜50μmであることが特に好ましい。該平均粒子径がこの範囲ならば、該熱伝導性充填剤は比表面積が適切な大きさに保たれるので高充填化が容易であり、また、粘着層は、その表面が平滑に保たれるので、十分な粘着力を保持し、本発明の電磁波吸収性熱放射シートを発熱性・電磁波ノイズ放射性素子上に確実に固定することができる。
【0044】
粘着層における熱伝導性粉末の含有量は、粘着層全量に対し好ましくは70容量%以下、特に好ましくは50容量%以下である。該含有量がこの範囲ならば、粘着層は十分な粘着力を保持し、本発明の電磁波吸収性熱放射シートを発熱性・電磁波ノイズ放射性素子上に確実に固定することができる。
【0045】
[製造方法]
遠赤外線放射層と電磁波吸収層との積層方法としては、例えば、(1)予め電磁波吸収層をコーティング成型やプレス成型で成型しておき、その上に直接、遠赤外線放射性材料の粉末(例えば、遠赤外線放射性の酸化物系セラミックスを含む粉末)とシリコーン樹脂などのバインダーとを有機溶剤中で混合して得た溶液を塗布して積層する方法や、(2)遠赤外線放射性材料の粉末とシリコーン樹脂などのバインダーとを有機溶剤中で混合して得た溶液をガラスクロス、またはアルミニウムや銅などの金属もしくはその合金の箔、板、メッシュなどの上に塗布し硬化させて得た遠赤外線放射層や遠赤外線放射性材料の粉末の焼成板の上に電磁波吸収層をコーティング成型やプレス成型等で積層する方法などが挙げられるが、特にこれらの方法に限定されるものではない。また、両層の接着を強固にするため、積層前の各層の接合面をプライマー処理してもよい。
【0046】
遠赤外線放射層と導電層と電磁波吸収層が積層された3層構造体の作成方法としては、遠赤外線放射性材料の粉末とシリコーン樹脂などのバインダーとを有機溶剤中で混合して得た溶液を導電層(例えば、アルミニウムや銅などの金属またはその合金の箔、板、メッシュなど)の上に塗布し硬化させて遠赤外線放射層を得た後、該遠赤外線放射層が積層されたのとは反対側の導電層の片面に電磁波吸収層をコーティング成型やプレス成型等で積層する方法などが挙げられるが、特にこれらの方法に限定されるものではない。
【0047】
遠赤外線放射層と導電層と電磁波吸収層と粘着層が積層された4層構造体または遠赤外線放射層と電磁波吸収層と粘着層が積層された3層構造体の作成方法としては、上記の方法により作成された電磁波吸収層の上に直接、粘着層をコーティング成型やプレス成型等で積層する方法などが挙げられるが、特にこれらの方法に限定されるものではない。
【実施例】
【0048】
以下、実施例および比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
[実施例1]
遠赤外線放射層をコーティング成型するための材料として、シリコーンワニスKR271(商品名、信越化学工業(株))200質量部、結晶性シリカ粉(平均粒子径:1μm)60質量部、アルミナ粉(平均粒子径:4μm)100質量部、トルエン40質量部からなる混合物を調製した。このコーティング材料を、導電層として使用される厚さ50μmのアルミニウム箔の片面に、遠赤外線放射層の厚さが80μmになるようにスプレーコートして室温で風乾させた。その後、この試料を温風乾燥機中で80℃にて10分間、乾燥させることにより前記コーティング材料を硬化させて、遠赤外線放射層が積層されたアルミニウム箔を作製した。
【0050】
次に、電磁波吸収層をコーティング成型するための材料を調製するために、有機過酸化物硬化型シリコーン組成物(KE520u(商品名、信越化学工業(株))と有機過酸化物加硫剤C-24(商品名、信越化学工業(株))との混練物(質量比100/1.5))100質量部に対して、扁平形状のFe−Si−Cr−Ni系合金粉(組成:Fe80質量%、Si15質量%、Cr3質量%、Ni2質量%;平均粒子径:20μm)400質量部を混練して混合物を得た。この混合物100質量部をトルエン100質量部に溶解して、電磁波吸収層作製用のコーティング材料を調製した。このコーティング材料を上記の遠赤外線放射層が積層されたアルミニウム箔の片面とは反対側の片面に、電磁波吸収層の厚さが0.1mmとなるようにバーコートして室温で風乾させた。その後、この試料を温風乾燥機にて60℃で10分間乾燥させ、最後に、150℃で10分間加熱することにより架橋・硬化させて、遠赤外線放射層とアルミニウム箔と電磁波吸収層との3層積層物を作製した。なお、この電磁波吸収層におけるFe−Si−Cr−Ni系合金粉の含有量は、電磁波吸収層全量に対し37容量%だった。
【0051】
さらに、熱伝導性粘着層をコーティング成型するための材料として、シリコーン粘着剤(KR101-10(商品名、信越化学工業(株))とナイパーBMT-K40(商品名、日本油脂(株))との混合物(質量比97/3))170質量部、アルミナ粉300質量部(平均粒子径:4μm)、トルエン80質量部からなる混合物を調製した。このコーティング材料を上記3層積層物中の電磁波吸収層上に、熱伝導性粘着層の厚さが30μmとなるようにバーコートして室温で風乾させた。その後、150℃で5分間加熱することにより架橋・硬化させて、遠赤外線放射層とアルミニウム箔と電磁波吸収層と熱伝導性粘着層が積層された4層構造体として本発明による電磁波吸収性熱放射シートを得た。なお、この熱伝導性粘着層におけるアルミナ粉の含有量は、熱伝導性粘着層全量に対し43容量%だった。
【0052】
[実施例2]
電磁波吸収層をコーティング成型するための材料を調製するために、実施例1の混合物の代わりに、同一組成の有機過酸化物硬化型シリコーン組成物100質量部に対して、球状のFe−Cr−Si系合金粉(組成:Fe85質量%、Cr12質量%、Si3質量%;平均粒子径:9μm)1200質量部とアルミナ粉(平均粒子径:1μm)300質量部とを混練して混合物を得たこと、この混合物100質量部をトルエン40質量部に溶解して、電磁波吸収層作製用のコーティング材料を調製したこと、電磁波吸収層の厚さが0.2mmとなるようにしたこと以外は実施例1と同様にして、遠赤外線放射層とアルミニウム箔と電磁波吸収層と熱伝導性粘着層が積層された4層構造体として本発明による電磁波吸収性熱放射シートを得た。なお、この電磁波吸収層におけるFe−Cr−Si系合金粉の含有量は、電磁波吸収層全量に対し46容量%だった。
【0053】
[実施例3]
電磁波吸収層をコーティング成型するための材料を調製するために、有機過酸化物硬化型シリコーン組成物(KE520u(前出)と有機過酸化物加硫剤C-8(商品名、信越化学工業(株))との混練物(質量比100/1.5))100質量部に対して、扁平形状のFe−Si−Cr−Ni系合金粉(組成:Fe80質量%、Si15質量%、Cr3質量%、Ni2質量%;平均粒子径:20μm)400質量部を混練して混合物を得た。この混合物を2本ロールミルで0.5mmより少し厚めに分出しした後、170℃で10分間プレス成型して厚さ0.5mmの電磁波吸収層を作製した。なお、この電磁波吸収層におけるFe−Si−Cr−Ni系合金粉の含有量は、電磁波吸収層全量に対し37容量%だった。
【0054】
上記電磁波吸収層の片面に、実施例1で調製したのと同じ遠赤外線放射層作製用のコーティング材料を、遠赤外線放射層の厚さが80μmになるようにスプレーコートして室温で風乾させた。その後、この試料を温風乾燥機中で80℃にて10分間、乾燥させることにより前記コーティング材料を硬化させて、遠赤外線放射層と電磁波吸収層との2層積層物を作製した。
【0055】
さらに、実施例1で作製したのと同じ熱伝導性粘着層を、実施例1と同じ方法で、遠赤外線放射層が積層された電磁波吸収層の片面とは反対側の片面に、厚さ30μmで積層して、遠赤外線放射層と電磁波吸収層と熱伝導性粘着剤が積層された3層構造体として本発明による電磁波吸収性熱放射シートを得た。
【0056】
[比較例1]
電磁波吸収層を積層しないこと以外は実施例1と同様にして、遠赤外線放射層とアルミニウム箔と熱伝導性粘着剤が積層された3層構造のシートを得た。
【0057】
[比較例2]
遠赤外線放射層を積層しないこと以外は実施例3と同様にして、電磁波吸収層と熱伝導性粘着剤が積層された2層構造のシートを得た。
【0058】
[比較例3]
扁平形状のFe−Si−Cr−Ni系合金粉の量を400質量部とする代わりに200質量部としたこと以外は実施例3と同様にして、遠赤外線放射層と電磁波吸収層と熱伝導性粘着剤が積層された3層構造のシートを得た。
【0059】
[測定]
実施例1〜3、比較例1〜3にて得られたシート中の電磁波吸収層と粘着層について熱伝導率を、シート全体について放熱性能と、電磁波吸収特性として放射電磁波変化量とを下記に示す方法にて測定し、結果を表1に示した。
【0060】
《熱伝導率》
熱伝導率はASTM E 1530に基づき測定を行った。
【0061】
《放熱性能》
図2は、被評価シートの放熱性能を測定するための装置を表す縦断面図である。図2に示したとおり、アルミニウム合金製蓋11と絶縁性プラスチック容器12とからなる密閉筐体13中に、プリント配線基板21上に固定したマイクロプロセッサ22をセットした。マイクロプロセッサ22は周波数1GHzで動作する。更に、マイクロプロセッサ22の上面には被評価シート31を設置した。アルミニウム合金製蓋11の被評価シート31と対面する内面には、遠赤外線吸収層41がコーティングされている。直径50μmの熱電対をマイクロプロセッサ22と被評価シート31との間に挟みこみ、マイクロプロセッサ22を動作させて、ほぼ定常状態となった30分後の温度を測定した。比較のため、被評価シート31がない状態のマイクロプロセッサ22の表面温度も同様に測定した。
【0062】
《放射電磁波変化量》
図3は、被評価シートの放射電磁波変化量を測定するための装置およびその動作を表す説明図である。まず、図2に示したのと同様の装置を電波暗室51内に設置し、そこから3m離れた位置に受信アンテナ52を設置した。すなわち、これはFCC準拠の3m法に合致する方法である。アンテナ52をシールドルーム53内のEMIレシーバー54(スペクトル分析器)と接続した。次いで、マイクロプロセッサ22を動作させ、発生した周波数1GHzの電磁波ノイズを受信アンテナ52経由でEMIレシーバー54により測定した。被評価シートを設置した場合の電磁波ノイズの測定値と被評価シートを設置しなかった場合の電磁波ノイズの測定値との差を放射電磁波変化量とした。負の放射電磁波変化量は、マイクロプロセッサ22上に設置した被評価シート31が電磁波ノイズを減衰させたことを表し、正の放射電磁波変化量は、該被評価シート31が電磁波ノイズを増大させたことを表す。
【0063】
【表1】

【0064】
[評価]
表1に示すとおり、本発明の電磁波吸収性熱放射シートである実施例1〜3のシートは、放射電磁波変化量の測定において、電磁波ノイズを2dB以上減衰させたことがわかる。よって、該シートは十分に高い電磁波吸収性能を有すると認められる。また、該シートにおいて、電磁波吸収層は、熱伝導率が0.7W/mK以上と高いため、マイクロプロセッサから発生する熱を遠赤外線放射層に効率よく伝えることができる。よって、電磁波吸収層を有するシート全体としての放熱性能も高いことがわかる。
【0065】
実施例1および2と比較例1とを比較すると、電磁波吸収層を積層していない従来の放熱シート(比較例1)では、電磁波吸収性能がないことがわかる。むしろ、シートの導電層の影響により、電磁波ノイズが増大している(比較例2)。
【0066】
実施例3と比較例2とを比較すると、遠赤外線放射層を有さない従来の電磁波吸収性シートだけでは放熱効果がないことがわかる。
【0067】
実施例3と比較例3とを比較すると、電磁波吸収層の熱伝導率が0.7W/mKより小さいと十分な放熱効果が得られないことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の電磁波吸収熱放射シートを発熱性・電磁波ノイズ放射性素子に装着した状態の一例を表す図である。
【図2】被評価シートの放熱性能を測定するための装置を表す縦断面図である。
【図3】被評価シートの放射電磁波変化量を測定するための装置およびその動作を表す説明図である。
【符号の説明】
【0069】
1 電磁波吸収性熱放射シート
2 遠赤外線放射層
3 電磁波吸収層
10 発熱性・電磁波ノイズ放射性素子
11 アルミニウム合金製蓋
12 絶縁性プラスチック容器
13 密閉筐体
21 プリント配線基板
22 マイクロプロセッサ
31 被評価シート
41 遠赤外線吸収層
51 電波暗室
52 受信アンテナ
53 シールドルーム
54 EMIレシーバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導率が0.7W/mK以上である電磁波吸収層と、該電磁波吸収層の片面に直接、または他の少なくとも一層を介して設けられた遠赤外線放射層とを有してなる電磁波吸収性熱放射シート。
【請求項2】
該電磁波吸収層が軟磁性金属粉と絶縁性のポリマーとを含んでなる層である請求項1に記載の電磁波吸収性熱放射シート。
【請求項3】
該軟磁性金属粉が鉄元素を15質量%以上含む請求項2に記載の電磁波吸収性熱放射シート。
【請求項4】
該ポリマーがシリコーン、アクリルゴム、エチレンプロピレンゴム、フッ素ゴム、塩素化ポリエチレン、または、これらの二種類以上の組み合わせである請求項2または3に記載の電磁波吸収性熱放射シート。
【請求項5】
該電磁波吸収層が熱伝導性充填剤を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の電磁波吸収性熱放射シート。
【請求項6】
該遠赤外線放射層が遠赤外線放射性の酸化物系セラミックスを含んでなる層である請求項1〜5に記載の電磁波吸収性熱放射シート。
【請求項7】
該遠赤外線放射層が、該電磁波吸収層の該片面に設けられた導電層の上に設けられている請求項1〜6のいずれか1項に記載の電磁波吸収性熱放射シート。
【請求項8】
該電磁波吸収層が粘着性である請求項1〜7のいずれか1項に記載の電磁波吸収性熱放射シート。
【請求項9】
該電磁波吸収層の該片面とは反対側の片面に粘着層が設けられている請求項1〜7のいずれか1項に記載の電磁波吸収性熱放射シート。
【請求項10】
該粘着層が熱伝導性充填剤を含み、該粘着層の熱伝導率が0.5W/mK以上である請求項9に記載の電磁波吸収性熱放射シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−135118(P2006−135118A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−323131(P2004−323131)
【出願日】平成16年11月8日(2004.11.8)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】