説明

電磁波抑制用樹脂組成物及び成形品

【課題】電磁波抑制性に優れ、低比重の電磁波抑制用熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)熱可塑性樹脂と(B)導電性材料よりなる被膜が形成された硬化性樹脂片とを含むことを特徴とする電磁波抑制用樹脂組成物。この電磁波抑制用樹脂組成物を射出成形してなる電磁波抑制用樹脂成形品。導電性コート樹脂片は、熱可塑性樹脂への溶融混練時においても破砕することはなく、その薄板状形状を十分に維持することができるため、所期の電磁波抑制性を得ることができ、また、極薄の硬化性樹脂フィルム上に導電性材料の薄膜が形成されたものであるため、軽量で、成形品の重量増加を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波抑制用樹脂組成物及びその成形品に関するものである。詳しくは、電磁波抑制性能に優れ、かつ低比重の電磁波抑制用樹脂組成物と、この電磁波抑制用樹脂組成物を射出成形又は押出成形してなる電磁波抑制用樹脂成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、IT化社会の急速な発展に伴い、電子機器の高速処理化が進み、LSIやマイクロプロセッサーなどICの動作周波数は上昇し、通信分野では光ファイバーを用いた高速通信網が使用され、次世代マルチメディヤ移動通信おいては具体的に2GHz、ITS(Intelligent Tranport System)の分野ではETS(自動料金収受システム)における5.8GHz、車間距離を測定して運転者に伝える走行支援道路システム(AHS)の自動車搭載レーダーでは76GHzといった周波数の電磁波が使用され、今後は、更に高周波の電磁波の利用範囲が拡大することが予想される。電磁波は周波数の上昇に伴いノイズを放出しやすく、一方において、電子機器の小型化、高密度化による電子機器内部のノイズ環境の悪化による誤動作が生じ、このような高周波の電磁波の利用状況において、人体へ及ぼす悪影響も問題となってきている。
【0003】
かかる電磁波の防止材としては、電磁波遮断体と電磁波抑制体がある。電磁波遮断体には一般的に金属材料が使用され、例えば、電磁波を嫌う精密機器などが設置された部屋の壁材などには、金属板を用いて、室内への電磁波の侵入を防止している。
【0004】
一方、電磁波抑制体は、入射してきた電磁波を熱エネルギーに変換することにより、透過あるいは反射される電磁波の強度を大幅に減衰させるものである。従来、電子機器用途の電磁波抑制体としては、形状の自由度や、軽量化の点から、表面を導電処理し、あるいは樹脂に導電材を混合して成形したプラスチック製の筐体が用いられている。また、導電材粉末を樹脂、ゴム或いは塗料等のマトリックス中に分散させた複合材料のシートや塗膜を、電磁波を抑制したい部位に貼付または形成することで電磁波抑制性能を付与したものも多く用いられている。この導電材としては、主にフェライトや黒鉛(例えば、特許文献1)が使用されている。
【0005】
しかしながら、フェライトは比重が大きいため、これを配合した複合材料が重くなるという欠点があり、移動を伴う通信機器などに多量に使用する場合には、本体が重くなり、当該通信機器の機動性に問題が生じる。
【0006】
一方、黒鉛については、比重が比較的小さいため、フェライトに見られるような前記の問題は生じないが、粉末が嵩高いために、マトリックスへの充填量を増大させることが困難であり、充填量を多くすることができない結果、黒鉛の配合による電磁波抑制性能の向上効果にも制限があるという問題がある。
【0007】
樹脂組成物に電磁波抑制性能を付与する目的で配合される導電材として、薄板状(鱗片状ないしはフレーク状)のものを用い、その板面を樹脂成形品の表面に沿うように配向させることにより、優れた電磁波抑制性を得ることができる。この場合、薄板状導電材の厚さはできる限り薄いことが、成形品の重量増加を押さえた上で、成形性や流動性を損なうことなく、樹脂組成物に十分量の導電材を配合する上で望まれる。
しかしながら、鱗片状黒鉛は、樹脂組成物への溶融混練時において、破砕しやすく、溶融混練時に破砕されることで、鱗片状ではなく、微粉末となり、鱗片状黒鉛本来の電磁波抑制性を得ることができない。
一方、金属単独で極薄のフィルム状物を得ることは困難であり、ある程度の厚みのある金属片しか作製し得ず、この結果、成形品の重量増加の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−11878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術の問題を解決し、電磁波抑制性に優れ、かつ低比重の電磁波抑制用熱可塑性樹脂組成物及びその成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、熱可塑性樹脂に電磁波抑制性付与のために配合する導電材として、導電性材料よりなる被膜が形成された硬化性樹脂片を用いることにより、十分な電磁波抑制性を付与した上で、重量増加を抑えることができることを見出した。
即ち、硬化性樹脂は、未硬化の前駆体液を適当な基材上に成膜した後硬化させることにより極薄のフィルムとすることができ、この硬化性樹脂フィルム上に、常法に従って、金属等の導電性材料の被膜を形成した上に、導電性材料の被膜が形成された硬化性樹脂フィルムを微細化することにより、極薄の硬化性樹脂フィルム上に導電性材料の薄膜が形成された導電性コート樹脂片を得ることができる。この導電性コート樹脂片は、熱可塑性樹脂への溶融混練時においても破砕することはなく、その薄板状形状を十分に維持することができるため、所期の電磁波抑制性を得ることができ、また、極薄の硬化性樹脂フィルム上に導電性材料の薄膜が形成されたものであるため、軽量で、成形品の重量増加を抑制することができる。
【0011】
本発明は、このような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0012】
[1] (A)熱可塑性樹脂と(B)導電性材料よりなる被膜が形成された硬化性樹脂片(以下「導電性コート樹脂片」と称す。)とを含むことを特徴とする電磁波抑制用樹脂組成物。
【0013】
[2] (A)熱可塑性樹脂が、(a1)ポリエステル系樹脂を含むことを特徴とする[1]に記載の電磁波抑制用樹脂組成物。
【0014】
[3] (A)熱可塑性樹脂が、(a2)芳香族ポリカーボネート樹脂を含むことを特徴とする[1]又は[2]に記載の電磁波抑制用樹脂組成物。
【0015】
[4] (B)導電性コート樹脂片が、導電性材料の被膜を形成した硬化性樹脂フィルムを平均粒子径0.01〜10mmに微細化したものであることを特徴とする[1]ないし[3]の何れかに記載の電磁波抑制用樹脂組成物。
【0016】
[5] 前記導電性材料が、銅、ニッケル、アルミニウム、亜鉛、チタン、銀、及び金よりなる群から選ばれることを特徴とする[1]ないし[4]の何れかに記載の電磁波抑制用樹脂組成物。
【0017】
[6] 前記硬化性樹脂のガラス転移温度が140℃以上であることを特徴とする[1]ないし[5]の何れかに記載の電磁波抑制用樹脂組成物。
【0018】
[7] (B)導電性コート樹脂片の含有量が1質量%以上80質量%以下であることを特徴とする[1]から[6]の何れかに記載の電磁波抑制用樹脂組成物。
【0019】
[8] [1]ないし[7]の何れかに記載の電磁波抑制用樹脂組成物を射出成形又は押出成形してなる電磁波抑制用樹脂成形品。
【発明の効果】
【0020】
本発明の電磁波抑制用樹脂組成物は、電磁波抑制性に優れ、また低比重であり、電気・電子・OA機器部品、機械部品、車輌用部品、携帯電話などの筐体や内部部品等の構成材料として好適に使用することができる。
【0021】
本発明において、(A)熱可塑性樹脂は、(a1)ポリエステル系樹脂及び/又は(a2)芳香族ポリカーボネート樹脂を含むことが好ましい(請求項2,3)。
【0022】
本発明において、(B)導電性コート樹脂片は、導電性材料の被膜を形成した硬化性樹脂フィルムを平均粒子径0.01〜10mmに微細化したものであることが好ましい(請求項4)。
【0023】
また、(B)導電性コート樹脂片の導電性材料としては、銅、ニッケル、アルミニウム、亜鉛、チタン、銀、及び金よりなる群から選ばれるものが好ましく(請求項5)、硬化性樹脂のガラス転移温度は140℃以上であることが好ましい(請求項6)。
【0024】
また、本発明の電磁波抑制用樹脂組成物の(B)導電性コート樹脂片の含有量は1質量%以上80質量%以下であることが好ましい(請求項7)。
【0025】
本発明の電磁波抑制用樹脂成形品は、このような本発明の電磁波抑制用樹脂組成物を射出成形又は押出成形してなるものであり、電気・電子・OA機器部品、機械部品、車輌用部品、携帯電話などの筐体や内部部品等として有用であり、各種電磁波抑制性構造材の薄肉軽量化を図ることができる(請求項8,9)。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に本発明の電磁波抑制用樹脂組成物及び電磁波抑制用樹脂成形品の実施の形態を詳細に説明する。
【0027】
[(A)熱可塑性樹脂]
本発明の電磁波抑制用樹脂組成物に用いられる(A)熱可塑性樹脂としては、成形品の要求性能に応じて適宜選択すれば良く、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン系樹脂;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミドMXD6等のポリアミド系樹脂;ポリオキシメチレン(ポリアセタール)樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂等のポリエステル系樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂、スチレン系樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても良く、2種以上のアロイとしても使用することもできる。中でも、本発明の電磁波抑制用樹脂組成物には、機械的強度、耐熱性、難燃化の容易さの点で(a1)ポリエステル系樹脂や、ポリカーボネート樹脂、特に(a2)芳香族ポリカーボネート樹脂を含むことが好ましい。
【0028】
本発明における(a1)ポリエステル系樹脂は、多塩基酸と多価アルコールとの重縮合反応によって得られる熱可塑性ポリエステル樹脂であり、好ましくは、テレフタル酸又はそのジアルキルエステルと脂肪族グリコールとの重縮合反応によって得られるポリアルキレンテレフタレートが挙げられ、具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)等が挙げられる。
【0029】
反応に用いられる脂肪族グリコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール等が挙げられる。重縮合反応においては、脂肪族グリコールは、それ以外の例えばシクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、キシレングリコール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の他のジオール類や多価アルコール類と併用することができる。これらジオール類又は多価アルコール類の使用量は、脂肪族グリコール100質量部に対して40質量部以下の範囲であることが好ましい。
【0030】
また、重縮合反応においては、テレフタル酸又はそのジアルキルエステルと共に、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸やそれらのジアルキルエステル等の二塩基酸、三塩基酸等や、またそれらのジアルキルエステルを併用することができる。これらの使用量は、テレフタル酸又はそのジアルキルエステル100質量部に対して40質量部以下の範囲であることが好ましい。
【0031】
(a1)ポリエステル系樹脂の分子量としては、フェノールとテトラクロルエタンの混合溶媒(重量比=50/50)中、30℃で測定される極限粘度(以下、単に「極限粘度」と称す。)で、好ましくは0.5〜1.8であり、さらに好ましくは0.7〜1.5である。
【0032】
本発明における(a2)芳香族ポリカーボネート樹脂は、芳香族ジヒドロキシ化合物をホスゲン或いは炭酸ジエステル等のカーボネート前駆体と反応させることにより製造される熱可塑性芳香族ポリカーボネート重合体又は共重合体である。この反応は公知の方法で行うことができ、例えば、ホスゲンを用いる場合は界面法により、炭酸ジエステルを用いる場合は溶融状で反応させるエステル交換法等が採用される。
【0033】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4−ジヒドロキシジフェニルなどが挙げられ、好ましくはビスフェノールAが挙げられる。さらに、難燃性をさらに高める目的で上記の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物及び/又はシロキサン構造を有する両末端フェノール性OH基含有のポリマーあるいはオリゴマーを使用することもできる。
【0034】
芳香族ジヒドロキシ化合物と反応させるカーボネート前駆体としては、ホスゲン、又はジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等のジアリールカーボネート類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類が挙げられる。
【0035】
(a2)芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量として、好ましくは16,000〜30,000の範囲であり、より好ましくは17,000〜28,000、特に好ましくは18,000〜26,000である。(a2)芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が16,000未満では機械的強度が不足し、30,000を超えると成形性に難を生じやすく、また、後述の樹脂組成物の粘度条件を満たすことが困難となり、好ましくない。
【0036】
なお、所望の分子量の(a2)芳香族ポリカーボネート樹脂を得るには、末端停止剤或いは分子量調節剤を用いる方法や重合反応条件の選択等公知の方法が採用される。末端停止剤あるいは分子量調節剤としては、例えば、フェノール、p−t−アルキルフェノール、2,4,6−トリブロモフェノール、長鎖アルキルフェノール、脂肪族カルボン酸、ヒドロキシ安息香酸、脂肪族カルボン酸クロライドなどが挙げられる。
【0037】
本発明の電磁波抑制用樹脂組成物中の(A)熱可塑性樹脂の含有量は20〜99質量%、特に30〜80質量%、更に40〜70質量%であることが好ましい。(A)熱可塑性樹脂の含有量が少な過ぎると成形性や耐衝撃性が損なわれるおそれがあり、多過ぎると相対的に他の成分の含有量が少なくなり、目的とする電磁波抑制性(同一基板上の近接空間におけるデカッブリング効果(IEC62333−1,2による))が得られない場合がある。
なお、(A)熱可塑性樹脂として(a1)ポリエステル系樹脂と(a2)芳香族ポリカーボネート樹脂とを混合して用いてもよく、その場合、(a1)ポリエステル系樹脂と(a2)芳香族ポリカーボネート樹脂との混合割合には特に制限はなく、幅広い配合比を採用することができるが、通常、(a1)ポリエステル系樹脂50〜1質量部と(a2)芳香族ポリカーボネート樹脂50〜99質量部とを合計で100質量部となるように用いることが、耐薬品性の面で好ましい。
【0038】
[(B)導電性コート樹脂片]
本発明においては、電磁波抑制性付与のための導電材として(B)導電性材料よりなる被膜が形成された硬化性樹脂片を用いる。
【0039】
以下、この(B)導電性コート樹脂片について、その製造方法の一例に沿って説明する。
【0040】
この(B)導電性コート樹脂片を製造するには、まず、硬化性樹脂前駆体の液を適当な基材上に成膜して硬化させることにより、硬化性樹脂のフィルムを作製する。
【0041】
本発明で用いる硬化性樹脂としては特に制限はなく、熱硬化性樹脂であっても、紫外線等の活性エネルギー線硬化性樹脂であっても良いが、(B)導電性コート樹脂片を(A)熱可塑性樹脂に溶融混練する際に硬化性樹脂が軟化して導電性コート樹脂片としての形状を維持し得なくなることは好ましくなく、この点からガラス転移温度が140℃以上のものであることが好ましい。
【0042】
このような硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂、キシレン・ホルムアルデヒド樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フラン樹脂、ケトン・ホルムアルデヒド樹脂、尿素樹脂、アニリン樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
これらの硬化性樹脂は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0043】
硬化性樹脂フィルムを形成する基材としては、成膜した硬化性樹脂フィルムの剥離性に優れ、また、硬化性樹脂の硬化条件に対する耐久性を有するものであれば良く、特に制限はないが、ガラスプレートやフッ素樹脂シート、ステンレス板等を用いることが好ましい。
【0044】
硬化性樹脂フィルムは、前述の硬化性樹脂の前駆体に硬化剤や必要に応じて配合される各種の添加剤を配合した硬化性樹脂前駆体の液を、上述の基材上に流延することにより成膜し、その後、当該硬化性樹脂の硬化条件(例えば、熱硬化性樹脂であれば加熱、紫外線硬化性樹脂であれば紫外線照射)で硬化させることにより製造することができる。
【0045】
この硬化性樹脂フィルムの厚さは、過度に薄くても厚くても得られる導電性コート樹脂片の取り扱い性が悪く、また、過度に薄い硬化性樹脂フィルムを均一に成膜することは困難であり、また、厚い硬化性樹脂フィルムでは重量増加につながり易く、得られる樹脂組成物の成形性や表面性状を損なうおそれがあることから、10〜100μm、特に20〜60μm程度であることが好ましい。
【0046】
次いで、このようにして基材上に形成された硬化性樹脂フィルム上に、導電性材料の被膜を形成する。
【0047】
本発明において、この導電性材料としては十分な電磁波抑制性を得ることができる導電材料であれば良く、各種の金属、合金、導電性の金属酸化物等が挙げられるが、特に導電性、薄膜形成性に優れることから、銅、ニッケル、アルミニウム、亜鉛、チタン、銀、金が好ましく、これらのうち、安価であることから銅、アルミニウム、亜鉛が好ましい。これらの導電性材料は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。また、異なる導電性材料よりなる薄膜を2層以上形成しても良い。
【0048】
硬化性樹脂フィルム上に導電性材料の被膜を形成する方法としては特に制限はなく、常法に従って行うことができる。例えば、CVD法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、無電解メッキ等を採用することができる。
【0049】
導電性材料の被膜の厚さは、過度に薄いと十分な電磁波抑制性を得ることができず、また、このように薄い膜を均一に形成することは困難であり、逆に厚過ぎると重量増加の問題があり、また、硬化性樹脂フィルムから剥離し易くなる。
このため、導電性材料の被膜の厚さは0.01〜1μm、特に0.05〜0.5μm程度であることが好ましい。
【0050】
このようにして、基材上に形成された硬化性樹脂フィルム上に導電性材料の被膜を形成した後は、基材から、導電性材料の被膜付き硬化性樹脂フィルムを剥し取ると共に、適当な大きさに粉砕(切断)することにより微細化する。
【0051】
このようにして得られる(B)導電性コート樹脂片は、上述の如く、厚さが好ましくは10〜100μm、特に好ましくは20〜60μmの硬化性樹脂フィルム上に、厚さが好ましくは0.01〜1μm、特に好ましくは0.05〜0.5μmの導電性材料の被膜が形成され、かつその平均粒子径が好ましくは0.01〜10mm、特に好ましくは0.1〜3mmのものである。粒子径が上記下限よりも小さいと電磁波抑制効果が小さく、上記上限よりも大きいと成形性、成形品の表面平滑性が損なわれるおそれがある。
【0052】
なお、ここで、導電性コート樹脂片の粒子径とは、熱可塑性樹脂と混合する前の導電性コート樹脂片を光学顕微鏡にて写真撮影し、映像の中から導電性コート樹脂片をランダムに100個選定し、その最大径を測定した値の平均値である。
【0053】
本発明の電磁波抑制用樹脂組成物中の(B)導電性コート樹脂片の含有量は、1〜80質量%、特に20〜70質量%、更に30〜60質量%であることが好ましい。組成物中の(B)導電性コート樹脂片の含有量が少な過ぎると十分な導電性、電磁波抑制性を得ることができず、多過ぎると成形性や得られる成形品の強度、表面性状などが損なわれるおそれがあり、好ましくない。
【0054】
[(C)リン系難燃剤]
本発明の電磁波抑制用樹脂組成物には、難燃性付与のために(C)リン系難燃剤を配合しても良い。(C)リン系難燃剤は、分子中にリンを含む化合物であれば特に制限されないが、耐熱性の点から下記の一般式(1)で表されるリン酸エステル系化合物が好ましい。
【0055】
【化1】

【0056】
(式中、R、R、R及びRは、各々独立に、炭素数1〜6のアルキル基又はアルキル基で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリール基を示し、p、q、r及びsは、各々独立に0又は1であり、tは、1〜5の整数であり、Xは、アリーレン基を示す。)
【0057】
上記一般式(1)で表されるリン酸エステル系化合物は、tが1〜5の縮合リン酸エステルであり、tが異なる縮合リン酸エステルの混合物については、tはそれらの混合物の平均値となる。
【0058】
一般式(1)において、Xは、アリーレン基を示し、例えばレゾルシノール、ハイドロキノン、ビスフェノールA等のジヒドロキシ化合物から誘導される2価の基である。R〜Rがアリール基である場合、該アリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0059】
一般式(1)で表されるリン酸エステル系化合物の具体例としては、一般式(1)のXのジヒドロキシ化合物にレゾルシノールを使用した場合は、フェニルレゾルシン・ポリホスフェート、クレジル・レゾルシン・ポリホスフェート、フェニル・クレジル・レゾルシン・ポリホスフェート、キシリル・レゾルシン・ポリホスフェート、フェニル−p−t−ブチルフェニル・レゾルシン・ポリホスフェート、フェニル・イソプロピルフェニル・レゾルシンポリホスフェート、クレジル・キシリル・レゾルシン・ポリホスフェート、フェニル・イソプロピルフェニル・ジイソプロピルフェニル・レゾルシンポリホスフェート等が挙げられる。
【0060】
これらの(C)リン系難燃剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0061】
(C)リン系難燃剤は、電磁波抑制用樹脂組成物中の含有量が10質量%以下、例えば、5〜20質量%となるように配合することが好ましい。(C)リン系難燃剤の配合量が5質量%未満では、目的とする難燃性が得られず、(C)リン系難燃剤の配合量が20質量%を超えると、耐熱性や機械的強度が低下することがある。電磁波抑制用樹脂組成物中のより好ましい(C)リン系難燃剤の含有量は10〜20質量%である。
【0062】
[(D)ポリフルオロエチレン]
本発明の電磁波抑制用樹脂組成物には、難燃性を更に向上させるために、滴下防止剤として(D)ポリフルオロエチレンを配合しても良い。(D)ポリフルオロエチレンとしては、フィブリル形成能を有するもので、熱可塑性樹脂中に容易に分散し、且つ熱可塑性樹脂同士を結合して繊維状材料を作る傾向を示すものが好ましい。
【0063】
また、(D)ポリフルオロエチレンを含有した樹脂組成物を溶融成形した成形品の外観を向上させるためには、有機系重合体で被覆された被覆ポリフルオロエチレンを用いることが好ましい。この被覆ポリフルオロエチレンとしては、被覆ポリフルオロエチレン中のポリフルオロエチレンの含有比率が40〜95質量%、中でも43〜80質量%、更には45〜70質量%、特には47〜60質量%であるものが好ましい。
このような被覆ポリフルオロエチレンを配合することにより、良好な難燃性を維持しつつ、成形品表面の白色異物の発生を抑制することができる。被覆ポリフルオロエチレン中のポリフルオロエチレンの含有比率が40質量%未満であると、難燃性が低下する場合があり、一方、95質量%を超えると、白点異物が多くなる場合がある。
【0064】
また、有機系重合体により被覆されるポリフルオロエチレンとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好ましく、中でも、重合体中に容易に分散し、重合体同士を結合して繊維状材料を作る傾向を示すため、フィブリル形成能を有するものが好ましい。
【0065】
このような被覆ポリフルオロエチレンは、公知の種々の方法により製造することができ、例えば(1)ポリフルオロエチレン粒子水性分散液と有機系重合体粒子水性分散液とを混合して、凝固又はスプレードライにより粉体化して製造する方法、(2)ポリフルオロエチレン粒子水性分散液存在下で、有機系重合体を構成する単量体を重合した後、凝固又はスプレードライにより粉体化して製造する方法、(3)ポリフルオロエチレン粒子水性分散液と有機系重合体粒子水性分散液とを混合した分散液中で、エチレン性不飽和結合を有する単量体を乳化重合した後、凝固又はスプレードライにより粉体化して製造する方法、等が挙げられる。
【0066】
ポリフルオロエチレンを被覆する有機系重合体としては、特に制限されるものではないが、樹脂に配合する際の分散性の観点から、熱可塑性樹脂との親和性が高いものが好ましい。
【0067】
この有機系重合体を生成するための単量体の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、o−エチルスチレン、p−クロロスチレン、o−クロロスチレン、2,4−ジクロロスチレン、p−メトキシスチレン、o−メトキシスチレン、2,4−ジメチルスチレン等の芳香族ビニル系単量体;アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、メタクリル酸ドデシル、アクリル酸トリデシル、メタクリル酸トリデシル、アクリル酸オクタデシル、メタクリル酸オクタデシル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体;無水マレイン酸等のα,β−不飽和カルボン酸;N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体;グリシジルメタクリレート等のグリシジル基含有単量体;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルエーテル系単量体;酢酸ビニル、酪酸ビニル等のカルボン酸ビニル系単量体;エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン系単量体;ブタジエン、イソプレン、ジメチルブタジエン等のジエン系単量体等を挙げることができる。これらの単量体は、単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
【0068】
これらの単量体の中でも、(a1)ポリエステル系樹脂や(a2)芳香族ポリカーボネート樹脂との親和性の観点から、芳香族ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、シアン化ビニル系単量体から選ばれる1種以上の単量体が好ましく、特に(メタ)アクリル酸エステル系単量体が好ましく、これらの単量体を10質量%以上含有する単量体が好ましい。
【0069】
本発明で好ましく使用される被覆ポリフルオロエチレンとしては、例えば三菱レイヨン(株)製のメタブレンA−3800、KA−5503や、PIC社製のPoly TS AD001等がある。
【0070】
本発明の電磁波抑制用樹脂組成物中の(D)ポリフルオロエチレンの含有量は、0.01〜1質量%、更には0.05〜0.9質量%、特には0.1〜0.7質量%であることが好ましい。(D)ポリフルオロエチレンの含有量が0.01質量%未満の場合には、難燃性の改良効果が不十分な場合があり、1質量%を超えると成形品の外観が低下する場合がある。
【0071】
また、電磁波抑制用樹脂組成物中の(C)リン系難燃剤と(D)ポリフルオロエチレンの配合比率、(C)リン系難燃剤/(D)ポリフルオロエチレンの重量比は、バランスの良い性能を有する樹脂組成物を得るという点から、通常0.1〜1000であり、更には1〜100、特には2〜60である。
【0072】
[(E)離型剤]
本発明の樹脂組成物には、成形時の金型離型性を良好なものとするために離型剤を配合することができる。
【0073】
離型剤としては例えば、脂肪族カルボン酸やそのアルコールエステル、数平均分子量200〜15000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイル等が挙げられる。
【0074】
脂肪族カルボン酸としては、飽和または不飽和の、鎖式又は環式の、脂肪族1〜3価のカルボン酸が挙げられる。これらの中でも炭素数6〜36の、1価又は2価カルボン酸が好ましく、特に炭素数6〜36の脂肪族飽和1価カルボン酸が好ましい。この様な脂肪族カルボン酸としては、具体的には例えばパルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸等が挙げられる。
【0075】
脂肪族カルボン酸エステルにおける脂肪族カルボン酸成分は、上述の脂肪族カルボン酸と同義である。一方、脂肪族カルボン酸エステルのアルコール成分としては、飽和または不飽和の、鎖式又は環式の、1価または多価アルコールが挙げられる。これらはフッ素原子、アリール基等の換基を有していてもよく、中でも炭素数30以下の、1価または多価飽和アルコールが好ましく、特に炭素数30以下、飽和脂肪族の、1価または多価アルコールが好ましい。
【0076】
この様なアルコール成分としては、具体的には例えばオクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。尚、この脂肪族カルボン酸エステルは、不純物として脂肪族カルボン酸及び/またはアルコールを含有していてもよく、更には複数の脂肪族カルボン酸エステルの混合物でもよい。
【0077】
脂肪族カルボン酸エステルの具体例としては、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0078】
数平均分子量200〜15000の脂肪族炭化水素としては、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャ−トロプシュワックス、炭素数3〜12のα−オレフィンオリゴマー等が挙げられる。ここで脂肪族炭化水素とは、脂環式炭化水素も含まれる。またこれらの炭化水素化合物は、部分酸化されていてもよい。
【0079】
これら脂肪族炭化水素の中でも、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス又はポリエチレンワックスの部分酸化物が好ましく、特にパラフィンワックスやポリエチレンワックスが好ましい。数平均分子量は中でも200〜5000であることが好ましい。これらの脂肪族炭化水素は単独で、又は2種以上を任意の割合で併用しても、主成分が上記の範囲内であればよい。
【0080】
ポリシロキサン系シリコーンオイルとしては、例えばジメチルシリコーンオイル、フェニルメチルシリコーンオイル、ジフェニルシリコーンオイル、フッ素化アルキルシリコーン等が挙げられ、これらは一種または任意の割合で二種以上を併用してもよい。
【0081】
本発明の樹脂組成物の離型剤の含有量は適宜選択して決定すればよいが、少なすぎると離型効果が十分に発揮されず、逆に多すぎても樹脂の耐加水分解性の低下や、成形時の金型汚染等が問題になる場合がある。よって離型剤の配合量は、(A)熱可塑性樹脂100質量部に対して0.001〜2質量部であり、中でも0.01〜1質量部であることが好ましい。
【0082】
[その他の成分]
本発明の電磁波抑制用樹脂組成物には、必要に応じて本発明の目的を損なわない範囲で、リン系安定剤、フェノール系安定剤、紫外線吸収剤、染顔料、帯電防止剤、防曇剤、滑剤・アンチブロッキング剤、流動性改良剤、相溶化剤、可塑剤、分散剤、防菌剤等の樹脂用添加剤、耐衝撃性改良剤、無機フィラーなどを配合することができる。
【0083】
[製造方法]
本発明の電磁波抑制用樹脂組成物の製造方法は、特に制限されるものではなく、例えば、
(1)(A)熱可塑性樹脂、(B)導電性コート樹脂片、及び必要により配合される(C)リン系難燃剤、その他の成分を一括して溶融混練する方法
(2)液状の(C)リン系難燃剤を用いる場合において、予め(C)リン系難燃剤以外の成分を溶融混練した後に、別途50〜120℃で加温しておいた液状の(C)リン系難燃剤を添加して、溶融混練する方法
などが挙げられる。
【0084】
[成形方法]
本発明の電磁波抑制用樹脂組成物は、各種製品(成形品)の製造(成形)用樹脂材料として使用される。その成形方法は、熱可塑性樹脂材料から成形品を成形する従来から知られている方法が適用できる。具体的には、一般的な射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシストなどの中空成形法、断熱金型を用いた成形法、急速加熱金型を用いた成形法、発泡成形(超臨界流体も含む法)、インサート成形法、インモールドコーティング(IMC)成形法、押出成形法、フィルム成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法などが挙げられるが、特に、射出成形法が好ましい。
【0085】
[電磁波抑制用樹脂成形品]
本発明の電磁波抑制用樹脂成形品は、本発明の電磁波抑制用樹脂組成物を射出成形してなるものであり、電気・電子・OA機器部品、機械部品、車輌用部品、携帯電話などの筐体や内部部品、とりわけ電子機器の筐体や内部部品として好適である。
【実施例】
【0086】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0087】
実施例及び比較例における各樹脂組成物の製造に用いた原材料は以下の通りである。
【0088】
<(A)熱可塑性樹脂>
芳香族ポリカーボネート樹脂:ポリ−4,4−イソプロピリデンジフェニルカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名:ユーピロン(登録商標)S−3000、粘度平均分子量:21,000)
ポリエチレンテレフタレート:三菱化学(株)製、商品名:ノバペックス(登録商標)GG500、極限粘度0.76dl/g
ポリブチレンテレフタレート:三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名:ノバデュラン(登録商標)5020、極限粘度1.20dl/g
【0089】
<(B)導電性コート樹脂片>
以下のようにして導電性コート樹脂片を製造した。
まず、紫外線硬化性樹脂の前駆体液として下記配合の液を調製し、これをガラスプレート上に流延することにより成膜し、その後、3000Jの紫外線を照射することにより、厚み50μm、幅50mm、長さ200mmの硬化性樹脂フィルムを形成した。
【0090】
(前駆体液配合(質量部))
日本ユピカ社製不飽和ポリエステル樹脂「(商品名)ユピカ8977」:100
長瀬産業社製光重合開始剤「商品名:イルガキュア184」 :4
溶剤(メチルメタアクリレート) :4
【0091】
次いで、この硬化性樹脂フィルム上に、下記条件のイオンプレーティングにより、厚さ0.1μmのチタン被膜を形成した後、更に厚さ0.33μmの銅被膜を形成した。
【0092】
(イオンプレーティング条件)
真空度(到達真空度):2.0×10−3Pa
成膜速度:10Å/sec
成膜温度:120℃前後
基板加熱温度:100℃
【0093】
次いで、ガラスプレート上の、チタン/銅被膜を形成した硬化性樹脂フィルムに、カッターで2mm×2mmの格子状に切れ目を入れ、その後、スクレーパーでかきとることによりガラスプレートから剥し取り、厚さ50μmの硬化性樹脂フィルム上に厚さ0.1μmのチタン被膜と厚さ0.33μmの銅被膜が形成された平均粒子径約2mmの導電性コート樹脂片を得た。
【0094】
<(X)銅粉>
平均粒子径10μmの銅粉
【0095】
[樹脂組成物の調製]
熱可塑性樹脂(芳香族ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート)と、導電性コート樹脂片又は銅粉を、表1に示す組成となるようにブレンドし、タンブラーにて均一に分散させた後、単軸押出機(田辺プラスチックス機械製単軸押出機:VS48−28型押出機)にてシリンダ温度300℃にて溶融させ、スクリュウ回転数80rpmにて混練し、ペレタイザーにて3mmの長さに切断して樹脂組成物のペレットを得た。
【0096】
このペレットを用いて、以下の方法で密度と電磁波抑制性の評価を行った。
【0097】
[評価方法]
(1) 密度
上記で得られたペレットを120℃で5時間乾燥した後、住友重機械社製のSG−75MIII型射出成形機を用いて、シリンダー温度290℃、金型温度80℃の条件で、ISOに準拠したISO試験片を成形した。
このISO試験片を用いて、ISO1183に準拠して密度を測定した。
【0098】
(2) 電磁波抑制性
上記で得られた樹脂組成物のペレットを射出成形機(住友重機械工業製「SH100」、型締め力100T)を用いて、シリンダー温度310℃、金型温度120℃にて、金型(縦100mm、横100mm、厚み1mm)に射出成形し、得られた射出成形品3枚に対して、近磁界用ノイズ抑制シート評価システム・イントラ・デカップリングレシオ測定システム(IEC規格No:IEC62333−2)により、4GHzの周波数における磁界波のRda値を測定し、その平均値を算出した。この値は、製品から発生する周波数やその強さにも依存するため一概に決められる値ではないが、0.1dB以上であることが好ましい。
【0099】
[結果]
上記評価結果を表1に示す。
【0100】
【表1】

【0101】
表1より、本発明の電磁波抑制用樹脂組成物は、軽量で、電磁波抑制性に優れることが分かる。
これに対して、導電性コート樹脂片の代りに銅粉を用いた比較例1では、重量が重く、また電磁波抑制性も十分でない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性樹脂と(B)導電性材料よりなる被膜が形成された硬化性樹脂片(以下「導電性コート樹脂片」と称す。)とを含むことを特徴とする電磁波抑制用樹脂組成物。
【請求項2】
(A)熱可塑性樹脂が、(a1)ポリエステル系樹脂を含むことを特徴とする請求項1に記載の電磁波抑制用樹脂組成物。
【請求項3】
(A)熱可塑性樹脂が、(a2)芳香族ポリカーボネート樹脂を含むことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電磁波抑制用樹脂組成物。
【請求項4】
(B)導電性コート樹脂片が、導電性材料の被膜を形成した硬化性樹脂フィルムを平均粒子径0.01〜10mmに微細化したものであることを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れか1項に記載の電磁波抑制用樹脂組成物。
【請求項5】
前記導電性材料が、銅、ニッケル、アルミニウム、亜鉛、チタン、銀、及び金よりなる群から選ばれることを特徴とする請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載の電磁波抑制用樹脂組成物。
【請求項6】
前記硬化性樹脂のガラス転移温度が140℃以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載の電磁波抑制用樹脂組成物。
【請求項7】
(B)導電性コート樹脂片の含有量が1質量%以上80質量%以下であることを特徴とする請求項1から請求項6の何れか1項に記載の電磁波抑制用樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1ないし7の何れか1項に記載の電磁波抑制用樹脂組成物を射出成形又は押出成形してなる電磁波抑制用樹脂成形品。

【公開番号】特開2011−63791(P2011−63791A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111888(P2010−111888)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】