説明

電磁波照射されたポリビニルアルコールフィルムの製造方法

【課題】ヤング率の低いポリビニルアルコールフィルムの製造方法、および当該製造方法により製造することのできるヤング率の低いポリビニルアルコールフィルムを提供すること。
【解決手段】含水率が15〜55質量%のポリビニルアルコールフィルムに75℃以下の温度に保たれた状態でマイクロ波またはラジオ波を照射する工程を含む、電磁波処理されたポリビニルアルコールフィルムの製造方法、および当該製造方法により製造される電磁波照射されたポリビニルアルコールフィルム、並びに多価アルコール系可塑剤の含有量がポリビニルアルコール100質量部に対して15質量部以下であり、含水率を8〜10質量%に調湿した際のヤング率が20.0MPa以下であるポリビニルアルコールフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波照射されたポリビニルアルコールフィルムの製造方法、および当該製造方法により製造される電磁波照射されたポリビニルアルコールフィルム、並びにヤング率の低いポリビニルアルコールフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール(以下、「ポリビニルアルコール」を「PVA」と略称する場合がある)フィルムは、液晶ディスプレイ等に使用される偏光板の偏光フィルムや位相差フィルムといった光学用フィルムを製造するための原反フィルムとして用いられている。光学用フィルムの製造においては、多くの場合、PVAフィルムが一軸延伸されるが、PVAフィルムを均一に一軸延伸するためにヤング率が低く延伸しやすいPVAフィルムが求められていた。
【0003】
一方、産業的にマイクロ波をはじめとする電磁波は水分の加熱や乾燥に用いられており、例えば、特許文献1に記載されているようにPVA樹脂にマイクロ波を照射し水分を蒸発させて乾燥粉体とする方法が知られているが、PVAフィルムに電磁波を照射してその物性を変える方法はこれまで知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−351853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ヤング率の低いPVAフィルムの製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は当該製造方法により製造することのできるヤング率の低いPVAフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、PVAフィルムに特定量の水分を含ませた後に特定の温度条件下で特定の電磁波を照射することにより、そのヤング率を低下させることができることを見出した。本発明者らは当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、
[1]含水率が15〜55質量%のPVAフィルムに75℃以下の温度に保たれた状態でマイクロ波またはラジオ波を照射する工程を含む、電磁波照射されたPVAフィルムの製造方法、
[2]含水率が10質量%以下のPVAフィルムを吸水させて含水率が15〜55質量%のPVAフィルムとした後、マイクロ波またはラジオ波を照射する工程を行う、上記[1]の製造方法、
[3]電磁波照射されたPVAフィルムの含水率が10質量%以下である、上記[1]または[2]の製造方法、
[4]電磁波照射されたPVAフィルムにおける多価アルコール系可塑剤の含有量がPVA100質量部に対して15質量部以下である、上記[1]〜[3]のいずれか1つの製造方法、
[5]電磁波照射されたPVAフィルムが光学用フィルム製造用PVAフィルムである、上記[1]〜[4]のいずれか1つの製造方法、
[6]上記[1]〜[5]のいずれか1つの製造方法により製造される、電磁波照射されたPVAフィルム、
[7]多価アルコール系可塑剤の含有量がPVA100質量部に対して15質量部以下であり、含水率を8〜10質量%に調湿した際のヤング率が20.0MPa以下であるPVAフィルム、
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ヤング率の低いPVAフィルムの製造方法、およびヤング率の低いPVAフィルムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】PVAフィルムにマイクロ波またはラジオ波を照射する工程の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明の製造方法は、PVAフィルムにマイクロ波またはラジオ波を照射する工程を含む。マイクロ波やラジオ波を効果的に吸収させてヤング率の低いPVAフィルムを得るためにはPVAフィルムに水を特定量含ませることが必要である。具体的には、上記工程に供されるPVAフィルムの含水率は15〜55質量%の範囲内にあることが必要であり、16〜50質量%の範囲内にあることが好ましく、17〜45質量%の範囲内にあることがより好ましく、18〜40質量%の範囲内にあることが特に好ましい。PVAフィルムの含水率が15質量%未満の場合はマイクロ波やラジオ波の照射効果が少なく、PVAフィルムの含水率が55質量%より多いとPVAフィルムのヤング率は十分に低くならない。
【0011】
マイクロ波またはラジオ波を照射する工程に供されるPVAフィルムは、後述するように製膜原液を用いてPVAフィルムを製造する際の乾燥過程において含水率が上記範囲内にある状態の膜であってもよいが、含水率が10質量%以下(好ましくは1〜8質量%、より好ましくは2〜6質量%)のPVAフィルムを吸水させて含水率を上記範囲内としたPVAフィルムであるのがよい。含水率が10質量%以下(好ましくは1〜8質量%、より好ましくは2〜6質量%)のPVAフィルムを吸水させて含水率が上記範囲内にあるPVAフィルムとした後、マイクロ波またはラジオ波を照射する工程を行うことにより、本発明の効果がより顕著に奏される。
【0012】
PVAフィルムにマイクロ波またはラジオ波を照射する工程における具体的な照射方法に特に制限はない。PVAフィルムに対するマイクロ波やラジオ波の照射方向についても特に制限はなく、PVAフィルムのフィルム面に対して垂直(PVAフィルムの厚み方向に対して平行)にマイクロ波またはラジオ波を照射しても、PVAフィルムのフィルム面に対して略平行(厚み方向に対して略垂直)にマイクロ波またはラジオ波を照射してもどちらでもよいが、照射幅の狭い電磁波発生装置を用いた場合であってもPVAフィルムに対し均一にマイクロ波やラジオ波を照射することが可能であることから、PVAフィルムのフィルム面に対し略平行にマイクロ波またはラジオ波を照射するのが好ましい。ここでフィルム面に対して略平行とはフィルム面とマイクロ波やラジオ波とがなす角の角度が0°の場合のみならず、わずかにずれる場合(好ましくは±30°以内、より好ましくは±10°以内)をも包含することを意味する。
【0013】
図1はPVAフィルムにマイクロ波またはラジオ波を照射する工程の一例を示す概略図である。図1において、電磁波発生装置1から発生したマイクロ波またはラジオ波は導波管2を通過する。導波管2には一対(図1では各H面に1つずつ)のスリット3および3’が設けられており、一方のスリット3からPVAフィルム4が矢印の方向に導波管2内に連続的に導入され他方のスリット3’から導出されるまでの過程でマイクロ波またはラジオ波がPVAフィルム4のフィルム面に対し平行に照射されるようになっている。電磁波発生装置1の出力としては、例えば、400〜900Wのものを好ましく使用することができる。導波管2としては、例えば、電子情報技術産業協会規格EIAJ TT−3006Aに記載された方形導波管WRI−22を採用することができる。一対のスリット3および3’のサイズはPVAフィルム4を通過させることができるサイズであればよく、例えば、6mm×25cmの長方形が例示される。
【0014】
マイクロ波またはラジオ波の照射は75℃以下の温度に保たれた状態で行う。ここで「保たれた状態」とはマイクロ波またはラジオ波が照射されている間の温度がこの温度範囲から外れないことを意味し、冷却や加温により当該温度範囲に保たれていても、あるいは電磁波発生装置の出力を適宜選択するなどして結果として当該温度に保たれていてもどちらでもよい。電磁波発生装置の出力が大きすぎてマイクロ波またはラジオ波の照射中に75℃を超えるなど、照射されている間の温度が75℃以下の温度に保たれないと得られる電磁波照射されたPVAフィルムのヤング率が低くなりにくい。ヤング率を効率的に低下させることができることから、5〜72℃の範囲内に保たれた状態でマイクロ波またはラジオ波を照射することが好ましく、10〜70℃の範囲内に保たれた状態でマイクロ波またはラジオ波を照射することがより好ましく、15〜65℃の範囲内に保たれた状態でマイクロ波またはラジオ波を照射することがさらに好ましい。なお、PVAフィルムにマイクロ波またはラジオ波を照射することにより、通常、PVAフィルムの温度が上昇することから、マイクロ波またはラジオ波を照射する直前のPVAフィルムの温度とマイクロ波またはラジオ波を照射した直後のPVAフィルムの温度を測定することにより、マイクロ波またはラジオ波照射時の温度が上記範囲に保たれていることを確認することができる。
【0015】
マイクロ波は一般に300MHz〜3THzの周波数を有する電磁波であり、ラジオ波は30〜300MHzの周波数を有する電磁波である。本発明において照射される電磁波はマイクロ波またはラジオ波である限りその周波数に特に制限はないが、本発明の効果がより顕著に奏されると共に装置も入手しやすいことから、マイクロ波が好ましい。照射されるマイクロ波の具体的な周波数に特に制限はなく、ISMバンドと呼ばれる非通信用の周波数帯の周波数を採用することができ、例えば、902〜928MHzの範囲内の周波数や2.4〜2.5GHzの範囲内の周波数などを好ましく採用することができる。これらの中でも、水が吸収しやすい2.4〜2.5GHzの範囲内の周波数がより好ましい。なおマイクロ波またはラジオ波の周波数はマイクロ波またはラジオ波の照射中に一定であっても変動してもどちらでもよい。また、異なる周波数の電磁波を同時に照射してもよく、例えば、マイクロ波とラジオ波の一方のみを照射しても、マイクロ波とラジオ波の両方を共に照射してもどちらでもよい。
【0016】
また、マイクロ波またはラジオ波を照射する際には、照射時間を短くするために、PVAフィルムを好ましくは30〜70℃の範囲内、より好ましくは40〜60℃の範囲内の温度に予め調温しておいてもよい。
【0017】
PVAフィルムにマイクロ波またはラジオ波を照射することにより、通常、PVAフィルムの含水率が低下する。本発明の製造方法においては、マイクロ波またはラジオ波の照射によってPVAフィルムの含水率を10質量%以下にすることが好ましく、1〜8質量%の範囲内にすることがより好ましく、2〜6質量%の範囲内にすることがさらに好ましい。含水率が上記範囲内にある電磁波照射されたPVAフィルムは、光学用フィルム製造用PVAフィルムとして好ましく使用することができる。
【0018】
PVAフィルムを構成するPVAとしては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、酢酸イソプロペニル等のビニルエステルの1種または2種以上を重合して得られるポリビニルエステルをけん化することにより得られるものを使用することができる。上記のビニルエステルの中でも、PVAの製造の容易性、入手容易性、コスト等の点から、酢酸ビニルが好ましい。
【0019】
上記のポリビニルエステルは、単量体として1種または2種以上のビニルエステルのみを用いて得られたものが好ましく、単量体として1種のビニルエステルのみを用いて得られたものがより好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、1種または2種以上のビニルエステルと、これと共重合可能な他の単量体との共重合体であってもよい。
【0020】
上記のビニルエステルと共重合可能な他の単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等の炭素数2〜30のα−オレフィン;(メタ)アクリル酸またはその塩;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルへキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、(メタ)アクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N−メチロール(メタ)アクリルアミドまたはその誘導体等の(メタ)アクリルアミド誘導体;N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン等のN−ビニルアミド;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル;(メタ)アクリロニトリル等のシアン化ビニル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;イタコン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;不飽和スルホン酸などを挙げることができる。上記のポリビニルエステルは、前記した他の単量体の1種または2種以上に由来する構造単位を有することができる。
【0021】
上記のポリビニルエステルに占める前記した他の単量体に由来する構造単位の割合は、ポリビニルエステルを構成する全構造単位のモル数に基づいて、15モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることがさらに好ましい。
特に前記した他の単量体が、(メタ)アクリル酸、不飽和スルホン酸などのように、得られるPVAの水溶性を促進する可能性のある単量体である場合には、得られるPVAフィルムを光学用フィルム製造用PVAフィルムとして使用する際などにおいてPVAフィルムが溶解するのを防止するために、ポリビニルエステルにおけるこれらの単量体に由来する構造単位の割合は、ポリビニルエステルを構成する全構造単位のモル数に基づいて、5モル%以下であることが好ましく、3モル%以下であることがより好ましい。
【0022】
上記のPVAは、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、1種または2種以上のグラフト共重合可能な単量体によって変性されたものであってもよい。当該グラフト共重合可能な単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸またはその誘導体;不飽和スルホン酸またはその誘導体;炭素数2〜30のα−オレフィンなどが挙げられる。PVAにおけるグラフト共重合可能な単量体に由来する構造単位の割合は、PVAを構成する全構造単位のモル数に基づいて、5モル%以下であることが好ましい。
【0023】
上記のPVAは、その水酸基の一部が架橋されていてもよいし架橋されていなくてもよい。また上記のPVAは、その水酸基の一部がアセトアルデヒド、ブチルアルデヒド等のアルデヒド化合物などと反応してアセタール構造を形成していてもよいし、これらの化合物と反応せずアセタール構造を形成していなくてもよい。
【0024】
上記のPVAの重合度は1500〜6000の範囲内であることが好ましく、1800〜5000の範囲内であることがより好ましく、2000〜4000の範囲内であることがさらに好ましい。重合度が1500未満であると製膜性が悪くなる傾向がある。一方、重合度が6000を超えると製造コストの上昇や、製膜時における工程通過性の不良などにつながる傾向がある。なお、本明細書でいうPVAの重合度はJIS K6726−1994の記載に準じて測定した平均重合度を意味する。
【0025】
上記のPVAのけん化度は、得られるPVAフィルムの耐水性の点から、98.0モル%以上であることが好ましく、98.5モル%以上であることがより好ましく、99.0モル%以上であることがさらに好ましい。けん化度が98.0モル%未満であると、得られるPVAフィルムの耐水性が悪くなる傾向がある。なお、本明細書におけるPVAのけん化度とは、PVAが有する、けん化によってビニルアルコール単位に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステル単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対して当該ビニルアルコール単位のモル数が占める割合(モル%)をいう。けん化度はJIS K6726−1994の記載に準じて測定することができる。
【0026】
本発明において使用されるPVAフィルム、例えば、マイクロ波またはラジオ波を照射する工程に供されるPVAフィルムや、吸水させる前の含水率が10質量%以下(好ましくは1〜8質量%、より好ましくは2〜6質量%)の上記したPVAフィルム、あるいは本発明によって製造される電磁波照射されたPVAフィルムは、多価アルコール系可塑剤を含有していてもよい。当該多価アルコール系可塑剤としては、例えば、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセリン、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパンなどを挙げることができ、上記PVAフィルムはこれらの多価アルコール系可塑剤の1種または2種以上を含むことができる。これらの中でも、入手性などの観点からグリセリンが好ましい。
【0027】
多価アルコール系可塑剤を含有させる場合、その含有量は、PVAフィルムに含まれるPVA100質量部に対して、1〜20質量部の範囲内であることが好ましく、3〜17質量部の範囲内であることがより好ましく、5〜15質量部の範囲内であることがさらに好ましい。可塑剤が20質量部より多いと、PVAフィルムが柔軟になり過ぎて、取り扱い性が低下する場合がある。
【0028】
なお本発明の製造方法によれば、多価アルコール系可塑剤を含有しないか少量のみ含有する場合であってもヤング率の低いPVAフィルムが得られる。特に光学用フィルム製造用PVAフィルムの用途などにおいては多価アルコール系可塑剤の含有量が多いと液滴が発生しやすくなることから多価アルコール系可塑剤を含有しないか少量のみ含有するのがよい場合があり、このような場合に本発明の製造方法は特に有用である。この場合において、本発明によって製造される電磁波照射されたPVAフィルムにおける多価アルコール系可塑剤の含有量は、PVA100質量部に対して15質量部以下であることが好ましく、6質量部以下であることがより好ましく、4質量部以下であることがさらに好ましく、2質量部以下であることが特に好ましく、0質量部である(すなわち、可塑剤を含有しない)ことが最も好ましい。
【0029】
本発明において使用されるPVAフィルム(例えば、マイクロ波またはラジオ波を照射する工程に供されるPVAフィルムや、吸水させる前の含水率が10質量%以下(好ましくは1〜8質量%、より好ましくは2〜6質量%)の上記したPVAフィルム等)、あるいは本発明によって製造される電磁波照射されたPVAフィルムは、必要に応じて、酸化防止剤、凍結防止剤、pH調整剤、隠蔽剤、着色防止剤、油剤、後述する界面活性剤などの成分をさらに含有していてもよい。
【0030】
PVAフィルムの製膜方法は特に限定されず、例えば、PVAが液体媒体中に溶解した製膜原液や、PVAおよび液体媒体を含みPVAが溶融した製膜原液を用いて製造することができる。
【0031】
製膜原液の調製に使用される液体媒体としては、例えば、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどを挙げることができ、これらのうちの1種または2種以上を使用することができる。そのうちでも、水が環境に与える負荷や回収性の点から好適に使用される。
【0032】
製膜原液の揮発分率(製膜時に揮発や蒸発によって除去される液体媒体などの揮発性成分の含有割合)は、製膜方法、製膜条件などによって異なるが、一般的には、50〜95質量%、さらには55〜90質量%、特に60〜85質量%であることが好ましい。製膜原液の揮発分率が低すぎると、製膜原液の粘度が高くなり過ぎて、製膜原液調製時の濾過や脱泡が困難となり、異物や欠点の少ないPVAフィルムの製造が困難になる傾向がある。一方、製膜原液の揮発分率が高すぎると、製膜原液の濃度が低くなり過ぎて、実験室で試験的に製膜するならば問題ないが、工業的なPVAフィルムの製造が困難になる。
【0033】
また製膜原液中は、界面活性剤を含有することが好ましい。界面活性剤を含有することにより、製膜性が向上してPVAフィルムの厚さ斑の発生が抑制されると共に、製膜に使用するロールやベルトからのPVAフィルムの剥離が容易になる。界面活性剤を含有する製膜原液からPVAフィルムを製造した場合には、当該PVAフィルム中には界面活性剤が含有される。上記の界面活性剤の種類は特に限定されないが、ロールやベルトなどからの剥離性の観点からアニオン性界面活性剤またはノニオン性界面活性剤が好ましく、特にノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0034】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリン酸カリウム等のカルボン酸型;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩、オクチルサルフェート等の硫酸エステル型;ドデシルベンゼンスルホネート等のスルホン酸型などが好適である。
【0035】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のアルキルエーテル型;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のアルキルフェニルエーテル型;ポリオキシエチレンラウレート等のアルキルエステル型;ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル等のアルキルアミン型;ポリオキシエチレンラウリン酸アミド等のアルキルアミド型;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル等のポリプロピレングリコールエーテル型;オレイン酸ジエタノールアミド等のアルカノールアミド型;ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル等のアリルフェニルエーテル型などが好適である。
【0036】
これらの界面活性剤は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0037】
製膜原液が界面活性剤を含有する場合は、その含有量はPVA100質量部に対して0.01〜0.5質量部の範囲内であることが好ましく、0.02〜0.3質量部の範囲内であることがより好ましく、0.05〜0.1質量部の範囲内であることが特に好ましい。界面活性剤の含有量がPVA100質量部に対して0.01質量部よりも少ないと、界面活性剤を添加したことによる製膜性および剥離性の向上効果が現れにくくなり、一方、PVA100質量部に対して0.5質量部を超えると、界面活性剤がPVAフィルムの表面にブリードアウトしてブロッキングの原因になり、取り扱い性が低下する場合がある。
【0038】
上記した製膜原液を用いてPVAフィルムを製膜する際の製膜方法としては、例えば、湿式製膜法、ゲル製膜法、流延製膜法、押出製膜法などを採用することができる。また、これらの組み合わせによる方法などを採用することもできる。以上の製膜方法の中でも流延製膜法または押出製膜法が、膜の厚さおよび幅が均一で、物性の良好なPVAフィルムが得られることから好ましく採用される。製膜されたPVAフィルムは必要に応じて乾燥や熱処理を行ってもよい。
【0039】
具体的な製膜方法としては、T型スリットダイ、ホッパープレート、I−ダイ、リップコーターダイなどを用いて、製膜原液を最上流側に位置する回転する加熱したロール(あるいはベルト)の周面上に均一に吐出または流延し、このロール(あるいはベルト)上に吐出または流延された膜の一方の面から揮発性成分を蒸発させて乾燥し、続いてその下流側に配置した1個または複数個の回転する加熱したロールの周面上でさらに乾燥するか、または熱風乾燥装置の中を通過させてさらに乾燥した後、巻き取り装置により巻き取る方法を工業的に好ましく採用することができる。加熱したロールによる乾燥と熱風乾燥装置による乾燥とは、適宜組み合わせて実施してもよい。
【0040】
本発明の製造方法により製造される電磁波照射されたPVAフィルムの厚さは特に制限されないが、一般的には、5〜100μm、さらには10〜90μm、特に20〜80μm程度であることが好ましい。
【0041】
本発明の製造方法により製造される電磁波照射されたPVAフィルムの形状に特に制限はないが、連続的に製造することができることから、長尺のPVAフィルムであることが好ましい。当該電磁波照射されたPVAフィルムの幅は特に制限されず、用途などに応じて決めることができる。例えば、当該電磁波照射されたPVAフィルムを偏光フィルム製造用PVAフィルムとして使用する場合、その幅は50〜600cm、さらには80〜500cm、特に100〜400cm程度であることが好ましい。
【0042】
本発明の製造方法により製造される電磁波照射されたPVAフィルムのヤング率は20.0MPa以下であることが好ましく、18.0MPa以下であることがより好ましく、15.0MPa以下であることが特に好ましい。ヤング率が20.0MPa以下であることで、例えば偏光フィルム等の光学用フィルムの製造における一軸延伸工程において延伸初期の張力を低くすることができ、均一に一軸延伸することができるようになる。当該ヤング率はPVAフィルムの含水率を8〜10質量%に調湿した後に測定すればよく、この含水率の範囲内の少なくとも1点においてヤング率が上記範囲を満たしていることが好ましい。
【0043】
本発明の製造方法によれば、上記のようにヤング率の低いPVAフィルムが得られる。特に、多価アルコール系可塑剤を含有しないか少量のみ含有する場合であっても、ヤング率の低いPVAフィルムが得られる。本発明は、多価アルコール系可塑剤の含有量がPVA100質量部に対して15質量部以下であり、含水率を8〜10質量%に調湿した際のヤング率が20.0MPa以下であるPVAフィルムであって、電磁波照射されたPVAフィルムに限定されないPVAフィルムを包含する。当該PVAフィルムは、マイクロ波またはラジオ波を照射する工程を含む本発明の製造方法により容易に製造することができ、電磁波照射されたPVAフィルムの説明として本明細書に記載した態様を、電磁波照射されたPVAフィルムに限定されない当該PVAフィルムの好ましい態様とすることができるため、重複する説明は省略する。
【0044】
本発明の製造方法により製造される電磁波照射されたPVAフィルムの用途は特に制限されないが、当該PVAフィルムはヤング率が低くて均一に一軸延伸することができることから、偏光フィルムや位相差フィルム等の光学用フィルムを製造するための原反フィルム(光学用フィルム製造用PVAフィルム)として好ましく使用することができる。
【実施例】
【0045】
本発明を以下の実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0046】
PVAフィルムの含水率の測定方法
測定対象となるPVAフィルムから約1.5gのサンプルをカットし精秤してその質量「W」gを求めた。続いてそのPVAフィルムのサンプルを105℃の乾燥機で16時間乾燥した後、精秤してその質量「Z」gを求めた。得られた「W」および「Z」から下記式(1)によりPVAフィルムの含水率を算出した。
含水率(質量%) = 100 × (W−Z)/W (1)
【0047】
PVAフィルムのヤング率の測定方法
JIS K7127:1999の記載に準じて引張試験を実施しPVAフィルムのヤング率を測定した。すなわち、まず測定対象となるPVAフィルムを20℃、65%RHで1週間調湿して含水率を8〜10質量%の範囲内(具体的な数値は表1中に記載)とした後、幅10mm、長さ150mmにカットした。続いて株式会社島津製作所製万能試験機(オートグラフ AGS−H)を用いて、カットしたPVAフィルムをチャック間隔100mmになるように取り付け、引張速度100mm/分で試験を行った。ヤング率は引張初期の値(ひずみ0.2%時の応力とひずみ0.7%時の応力)から求めた。
【0048】
[実施例1]
酢酸ビニルの単独重合体をけん化して得られたPVA(重合度2400、けん化度99.9モル%)100質量部、界面活性剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム0.1質量部および水からなる揮発分率66質量%の製膜原液をTダイから95℃の第1乾燥ロールに膜状に吐出し、第1乾燥ロール上で含水率が22質量%になるまで乾燥し、第1乾燥ロールから剥離し、後続する複数の80℃の乾燥ロールによってさらに乾燥を行った後、含水率が3質量%になったときに巻き取り、厚さ60μmの長尺のPVAフィルムを得た。
得られたPVAフィルムを幅方向に20cm、長さ方向に30cmの長方形にカットし、30℃の水に10秒間浸漬して取り出したところ、このPVAフィルムの含水率は20質量%であった。次いで図1に示した概略図のように、出力800Wのマイクロ波発生装置から無反射終端器に向けて周波数2.45GHzのマイクロ波を電子情報技術産業協会規格EIAJ TT−3006Aに記載された方形導波管WRI−22に通過させながら、当該方形導波管の一対のH面のそれぞれに設けたスリット(サイズ:6mm×25cmの長方形)の一方から、上記水に浸漬したPVAフィルムを連続的に導入して他方のスリットから導出し、PVAフィルムの含水率が3質量%になるまでPVAフィルムにマイクロ波を連続して照射(実施例1では240秒間照射)した。なお放射温度計によりPVAフィルムの温度を測定したところ、マイクロ波を照射する直前のPVAフィルムの温度は18℃であり、マイクロ波を照射した直後のPVAフィルムの温度は68℃であった。このようにして得られたマイクロ波照射されたPVAフィルム(厚さ60μm)を用いて、上記した方法に従い、そのヤング率を測定した。結果を表1に示した。
【0049】
[実施例2]
実施例1において、30℃の水に浸漬する時間を10秒から30秒に変更したこと以外は実施例1と同様にして含水率3質量%のマイクロ波照射されたPVAフィルムを得た。なお30℃の水に30秒間浸漬して取り出した後のPVAフィルムの含水率は40質量%であった。また、マイクロ波を照射する直前のPVAフィルムの温度は18℃であり、マイクロ波を照射した直後のPVAフィルムの温度は68℃であった。得られたマイクロ波照射されたPVAフィルム(厚さ60μm)を用いて、上記した方法に従い、そのヤング率を測定した。結果を表1に示した。
【0050】
[実施例3]
実施例1において、マイクロ波発生装置の出力を600Wに変更したこと以外は実施例1と同様にして含水率3質量%のマイクロ波照射されたPVAフィルムを得た。なお、マイクロ波を照射する直前のPVAフィルムの温度は18℃であり、マイクロ波を照射した直後のPVAフィルムの温度は60℃であった。このマイクロ波照射されたPVAフィルム(厚さ60μm)を用いて、上記した方法に従い、そのヤング率を測定した。結果を表1に示した。
【0051】
[実施例4]
実施例2において、マイクロ波発生装置の出力を600Wに変更したこと以外は実施例2と同様にして含水率3質量%のマイクロ波照射されたPVAフィルムを得た。なお、マイクロ波を照射する直前のPVAフィルムの温度は18℃であり、マイクロ波を照射した直後のPVAフィルムの温度は60℃であった。このマイクロ波照射されたPVAフィルム(厚さ60μm)を用いて、上記した方法に従い、そのヤング率を測定した。結果を表1に示した。
【0052】
[比較例1]
実施例2において、マイクロ波発生装置の出力を1000Wに変更したこと以外は実施例2と同様にして含水率3質量%のマイクロ波照射されたPVAフィルムを得た。なお、マイクロ波を照射する直前のPVAフィルムの温度は18℃であり、マイクロ波を照射した直後のPVAフィルムの温度は80℃であった。このマイクロ波照射されたPVAフィルム(厚さ60μm)を用いて、上記した方法に従い、そのヤング率を測定した。結果を表1に示した。
【0053】
[比較例2]
実施例1において、30℃の水に浸漬する時間を10秒から120秒に変更したこと以外は実施例3と同様にして含水率3質量%のマイクロ波照射されたPVAフィルムを得た。なお30℃の水に120秒間浸漬して取り出した後のPVAフィルムの含水率は60質量%であった。また、マイクロ波を照射する直前のPVAフィルムの温度は18℃であり、マイクロ波を照射した直後のPVAフィルムの温度は68℃であった。得られたマイクロ波照射されたPVAフィルム(厚さ60μm)を用いて、上記した方法に従い、そのヤング率を測定した。結果を表1に示した。
【0054】
[比較例3]
実施例1において、30℃の水に浸漬する時間を10秒から5秒に変更したこと以外は実施例3と同様にして含水率3質量%のマイクロ波照射されたPVAフィルムを得た。なお30℃の水に5秒間浸漬して取り出した後のPVAフィルムの含水率は10質量%であった。また、マイクロ波を照射する直前のPVAフィルムの温度は18℃であり、マイクロ波を照射した直後のPVAフィルムの温度は68℃であった。得られたマイクロ波照射されたPVAフィルム(厚さ60μm)を用いて、上記した方法に従い、そのヤング率を測定した。結果を表1に示した。
【0055】
[比較例4]
実施例1で得られた長尺のPVAフィルムを幅方向に20cm、長さ方向に30cmの長方形にカットし、30℃の水に10秒間浸漬して取り出したところ、このPVAフィルムの含水率は20質量%であった。この水に浸漬したPVAフィルム(18℃)を120℃の熱風でPVAフィルムの含水率が3質量%になるまで熱風乾燥処理を行った。このようにして得られた熱風乾燥されたPVAフィルム(厚さ60μm)を用いて、上記した方法に従い、そのヤング率を測定した。結果を表1に示した。
【0056】
[比較例5]
比較例4において、30℃の水に浸漬する時間を10秒から30秒に変更したこと以外は比較例4と同様にして含水率3質量%の熱風乾燥されたPVAフィルムを得た。なお30℃の水に30秒間浸漬して取り出した後のPVAフィルムの含水率は40質量%であった。得られた熱風乾燥されたPVAフィルム(厚さ60μm)を用いて、上記した方法に従い、そのヤング率を測定した。結果を表1に示した。
【0057】
[比較例6]
実施例1で得られた長尺のPVAフィルムを幅方向に20cm、長さ方向に30cmの長方形にカットしたものを測定対象となるPVAフィルムとして用いて、上記した方法に従い、そのヤング率を測定した。結果を表1に示した。
【0058】
【表1】

【符号の説明】
【0059】
1 電磁波発生装置
2 導波管
3、3’ スリット
4 PVAフィルム
5 無反射終端器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水率が15〜55質量%のポリビニルアルコールフィルムに75℃以下の温度に保たれた状態でマイクロ波またはラジオ波を照射する工程を含む、電磁波照射されたポリビニルアルコールフィルムの製造方法。
【請求項2】
含水率が10質量%以下のポリビニルアルコールフィルムを吸水させて含水率が15〜55質量%のポリビニルアルコールフィルムとした後、マイクロ波またはラジオ波を照射する工程を行う、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
電磁波照射されたポリビニルアルコールフィルムの含水率が10質量%以下である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
電磁波照射されたポリビニルアルコールフィルムにおける多価アルコール系可塑剤の含有量がポリビニルアルコール100質量部に対して15質量部以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
電磁波照射されたポリビニルアルコールフィルムが光学用フィルム製造用ポリビニルアルコールフィルムである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法により製造される、電磁波照射されたポリビニルアルコールフィルム。
【請求項7】
多価アルコール系可塑剤の含有量がポリビニルアルコール100質量部に対して15質量部以下であり、含水率を8〜10質量%に調湿した際のヤング率が20.0MPa以下であるポリビニルアルコールフィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2013−97232(P2013−97232A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240959(P2011−240959)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】