説明

電磁波照射・検知システムおよび操作方法

【課題】物体で反射したミリ波から得られる画像のS/N比を高めうる電磁波照射・検知システムを提供する。
【解決手段】送信アンテナ12の偏波方向と受信アンテナ21の偏波方向とが相違するように、例えば直角をなすように配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体で反射したミリ波から得られる画像のS/N比を高めうる電磁波照射・検知システムおよび操作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
我々の生活環境にある物の中には、その内部を見ることはできないが、ミリ波つまりその周波数が30GHzから300GHzにある電磁波に対して透過性があり、これにより、内部撮像できるものがある。例えば、衣類や建築土木で使用される建材(木材やコンクリートなど)である。
【0003】
このミリ波がもつ性質は、隠してある物体(危険物など)を発見するために、あるいは、物体内部の非破壊検査に応用でき、その有用性は極めて大きい。
【0004】
物体内部を撮像する技術としては、この他に、X線CT、超音波イメージング、核磁気共鳴イメージングなどがある。
【0005】
X線CTでは、透過能が大きいX線が物体からほとんど反射しないので、X線照射装置とX線検知装置とが対向配置され、システムが大型化する。超音波イメージングや核磁気共鳴イメージングにおいても同様である。
【0006】
これに対し、ミリ波は物体で反射するので、装置の対向配置が必要なく、これにより、システムを小型化できる。
【0007】
例えば、コンクリートは、製造工程であるいは経年変化により、その内部にクラックや腐朽や剥離が生じることがある。
【0008】
このようなクラックなどは、コンクリートなどの強度を劣化させるので、それが使用される住宅などが地震などで壊れやすくなる。また、トンネルでは地震などでコンクリート塊が落下しやすくなる。
【0009】
このようなクラックなどは目視できればよいが、住宅建材は壁紙クロスや塗装などによって覆われることが多く、よって、ミリ波による内部撮像が必要となる。
【0010】
ここで、前述のX線CTなどを住宅建材などの内部撮像することを考えると、装置を対向配置させる必要があるので、山間部のトンネルや高層ビルの外壁などの内部撮像には利用できない。これは、超音波イメージングなどでも同様である。よって、物体で反射するミリ波による内部撮像が必要となる。
【0011】
また、ミリ波と同様に、電磁波を用いるイメージングとして、マイクロ波を用いたものがあり、これは、レーダーシステムでコンクリート内部に埋設された金属管などを探査する用途に用いられているが、空間解像度が低い。
【0012】
また、電磁波は用いないが、物体内部の撮像技術として、熱分布イメージングがあり、これは、健全部位と腐朽・欠陥部位において熱伝導特性が異なることを利用するものであるが、その熱拡散が速いため、空間解像度が低い。
【0013】
よって、マイクロ波を用いたイメージングや熱分布イメージングでは得られない高い空間解像度が得られるミリ波による内部撮像が必要となる。
【0014】
また、土木や建築で扱われる物は、サブミリメートル(およそ0.2mm)の精度で作られるので、この精度でクラックを発見するには、ミリ波を使用するにしても、S/N比(感度)を高める必要がある。
【特許文献1】特表2000−602587号公報
【非特許文献1】小原治之、「コンクリート床版検査用3次元映像化レーダの開発」、第7回地下電磁計測ワークショップ論文集、2003年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、物体で反射したミリ波から得られる画像のS/N比を高めうる電磁波照射・検知システムおよび操作方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するために、請求項1の本発明は、ミリ波である電磁波をターゲットに向けて照射する送信アンテナを備える電磁波照射装置がアレイ化されており、照射された電磁波が前記ターゲットで反射した後の電磁波を受信する受信アンテナを備える電磁波検知装置がアレイ化されており、前記送信アンテナの偏波方向と前記受信アンテナの偏波方向とが相違していることを特徴とする電磁波照射・検知システムをもって解決手段とする。
【0017】
請求項2の本発明は、請求項1記載の電磁波照射・検知システムが電磁波を照射し受信するにあたっての操作方法であって、前記送信アンテナの偏波方向と前記受信アンテナの偏波方向の一方または両方を変化させることを特徴とする操作方法をもって解決手段とする。
【0018】
請求項3の本発明は、ミリ波である電磁波をターゲットに向けて照射する送信アンテナを備える電磁波照射装置がアレイ化されており、照射された電磁波が前記ターゲットで反射した後の電磁波を受信する受信アンテナを備える電磁波検知装置がアレイ化されており、前記送信アンテナの偏波方向を変化させる手段、前記受信アンテナの偏波方向を変化させる手段、の一方または両方、を備えることを特徴とする電磁波照射・検知システムをもって解決手段とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、送信アンテナの偏波方向と受信アンテナの偏波方向とを相違させたことで、ターゲットの表面で反射した電磁波の多くが受信アンテナに入射せず、よって、得られる画像のS/N比を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0021】
[第1の実施の形態]
図1は、第1の実施の形態に係る電磁波照射・検知システムの構成とその利用形態を示す図である。
【0022】
電磁波照射・検知システム、電磁波の送受信に異なるアンテナを用いるバイスタティック系の撮像方式を採用しており、図1(a)に示す電磁波照射装置1と、図1(b)に示す電磁波検知装置2とを備える。
【0023】
電磁波照射装置1は、例えばGUNN発振器などの電磁波発生器11、電磁波を放射する送信アンテナ12を備える。実際は、複数の送信アンテナ12(例えば平面スロットアンテナ)が並べてアレイ化され、各送信アンテナ12が互いに同じ方向を向きかつ偏波方向が互いに同じになっている。
【0024】
電磁波検知装置2は、電磁波を受信する受信アンテナ21(例えば平面スロットアンテナ)と、電磁波の強度を電圧に変換する検波器22を備える。実際は、複数の電磁波検知装置2が、送信アンテナ12と同じ方向に並べてアレイ化され、その中の各受信アンテナ21が送信アンテナ12と同じ方向に向きかつ受信アンテナ21同士では偏波方向が互いに同じになっている。
【0025】
また、各送信アンテナ12と各電磁波検知装置2は、送信アンテナ12の偏波方向と受信アンテナ21の偏波方向とが相違するように、例えば直角をなすように配置される。例えば、偏波方向を相違させるべく、放射あるいは受信される電磁波の経路にねじり導波管(偏波ねじり導波管)が設けられる。
【0026】
また、アレイ化された電磁波検知装置2の中の各検波器22は、計測器3(ロックインアンプなど)に対し順次に接続されるようになっている。計測器3は表示器4に接続されている。
【0027】
電磁波照射・検知システムは、劣化により内部にクラックや腐朽や剥離などが生じた又はそのような疑いがもたれたコンクリート壁などのターゲットT(図示せず)の表面に対して、その送信アンテナ12などの並び方向が平行となるようにして、ターゲットTに向けられる。
【0028】
そして、電磁波照射・検知システムは、ターゲットTとの距離を保ちつつ、その並び方向に対して直交する方向あるいはそれより傾いた方向に移動していき、移動の間の各タイミングで以下のことを行う。
【0029】
電磁波発生器11は、電磁波(具体的には、ミリ波)を発生する。送信アンテナ12はその電磁波を放射する。つまり、電磁波をターゲットTに照射する。
【0030】
図2は、その電磁波の挙動を示す図である。
【0031】
図2(a)に示すように、送信アンテナ12から入射する電磁波の一部はターゲットTの表面で反射する。表面はクラックなどに比べて、凹凸が少なく滑らかなので、そのときの反射波の大部分では偏波方向が維持される。
【0032】
一方、図2(b)において、送信アンテナ12から入射する電磁波はターゲットTのクラックなどでも反射する。クラックなどでは大小様々な凹凸が多く、よって、このときは乱反射になるため、反射波は、大部分で偏波方向が維持されずに、ターゲットTから出射する。
【0033】
図1に戻り、各受信アンテナ21は、ターゲットTの表面からの反射波ならびにクラックなどからの反射波を受信する。
【0034】
そして、各検波器22は、その電磁波の強度を電圧に変換して、その電圧の信号を順次に計測器3に送信する。
【0035】
計測器3は、移動の間の各タイミングで順次に送信された信号により、ターゲットTの画像を生成し、表示器4に表示する。
【0036】
次に、送信アンテナ12の偏波方向と受信アンテナ21の偏波方向とを相違させた効果を確認するための実験について説明する。この実験では、電磁波発生器11として、100GHz帯の電磁波を発生するものを用いた。
【0037】
図3(a)は、この実験でターゲットTとして用いられたコンクリート壁を可視光で撮像した画像を示す図である。図3(a)に示すように、左上から右下へかけて、幅1mm程度の筋状のクラックが入っている。
【0038】
図3(b)は、この実験で、送信アンテナ12の偏波方向と、受信アンテナ21の偏波方向とを同じにしたときに得られた画像を示す図である。偏波方向同士を同じにしたことで、ターゲットの表面で反射した電磁波の多くが受信アンテナ21に入射してしまい、図3(b)に示すように、左上部分ではS/N比(感度)が低く、そのため、クラックが所見できない。
【0039】
図3(c)は、この実験で、送信アンテナ12の偏波方向と、受信アンテナ21の偏波方向とが直角をなすようにしたとき、つまり、図1のシステムで得られた画像を示す図である。偏波方向同士を相違させたことで、ターゲットの表面で反射した電磁波の多くが受信アンテナ21に入射せず、よって、図3(c)に示すように、左上部分ではS/N比(感度)が高く、これにより、クラックを所見することができる。
【0040】
なお、右下部分のクラックについては、図3(b)では所見でき、図3(c)では所見できないが、これは右下部分の表面では偏波方向が維持されず、右下部分のクラックでは偏波方向が維持されてしまったという、希な現象によるものと考えられる。よって、多くの場合は、偏波方向を相違させるのが好ましい。
【0041】
また、偏波方向を相違させたときに得られた画像でクラックなどが所見しにくいときは、これら偏波方向の一方または両方を変化させてから上記処理を行うことで、多くの場合、クラックなどの所見しやすい画像を得ることができる。例えば、放射あるいは受信される電磁波の経路にねじり導波管を設けた場合に偏波方向を変化させるには、そのねじり導波管を異なるねじり角度のものに交換すればよい。
【0042】
また、クラックなどが所見しにくいときのために、送信アンテナ12の偏波方向を操作によって変化させる手段、受信アンテナ21の偏波方向を操作によって変化させる手段、の一方または両方を設けてもよい。この手段は、例えば、放射あるいは受信される電磁波の経路にねじり導波管を設けることが可能でかつそれが異なるねじり角度のものに交換可能なように構成されたものとすれはよい。
【0043】
また、ここでは、複数の送信アンテナ12を並べてアレイ化したのだが、送信アンテナ12として、単一のホーンアンテナを用いてもよい。
【0044】
また、クラックなどが所見しにくいときのために、このホーンアンテナの偏波方向を操作によって変化させる手段を設けてよい。この手段は、例えば、放射される電磁波の経路にねじり導波管を設けることが可能でかつそれが交換可能なように構成されたものとすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】第1の実施の形態に係る電磁波照射・検知システムの構成とその利用形態を示す図である。
【図2】電磁波の挙動を示す図である。
【図3】図3(a)は、効果確認の実験においてターゲットを可視光で撮像した画像を示す図であり、図3(b)は、この実験において偏波方向を同じにしたときに得られた画像を示す図であり、図3(c)は、この実験において偏波方向が直角をなすようにしたときに得られた画像を示す図である。
【符号の説明】
【0046】
1 電磁波照射装置
2 電磁波検知装置
11 電磁波発生器
12 送信アンテナ
21 受信アンテナ
22 検波器
3 計測器
4 表示器
T ターゲット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミリ波である電磁波をターゲットに向けて照射する送信アンテナを備える電磁波照射装置がアレイ化されており、
照射された電磁波が前記ターゲットで反射した後の電磁波を受信する受信アンテナを備える電磁波検知装置がアレイ化されており、
前記送信アンテナの偏波方向と前記受信アンテナの偏波方向とが相違している
ことを特徴とする電磁波照射・検知システム。
【請求項2】
請求項1記載の電磁波照射・検知システムが電磁波を照射し受信するにあたっての操作方法であって、
前記送信アンテナの偏波方向と前記受信アンテナの偏波方向の一方または両方を変化させる
ことを特徴とする操作方法。
【請求項3】
ミリ波である電磁波をターゲットに向けて照射する送信アンテナを備える電磁波照射装置がアレイ化されており、
照射された電磁波が前記ターゲットで反射した後の電磁波を受信する受信アンテナを備える電磁波検知装置がアレイ化されており、
前記送信アンテナの偏波方向を変化させる手段、前記受信アンテナの偏波方向を変化させる手段、の一方または両方、
を備えることを特徴とする電磁波照射・検知システム。








【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−121231(P2007−121231A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−317250(P2005−317250)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】