説明

電磁波発生検出装置

【課題】テラヘルツ電磁波の発生または検出に必要なシステムの小型・簡素化すると共に低コスト化を実現することのできる電磁波発生検出装置を提供する。
【解決手段】本発明の電磁波発生検出装置1は表面が(111)面である基板と、基板上にエピタキシャル成長された化合物半導体層と、その化合物半導体層上に、間隙を有して配設された一対のアンテナ本体を有するアンテナを備え、エピタキシャル成長された化合物半導体層の略法線方向、すなわち略<111>方向から化合物半導体層に偏光を入射することで、その層において入射した偏光の波長が1/2の波長の偏光に変換され、この1/2の波長の偏光により光電効果が生じる機能を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ電磁波を検出または発生する電磁波発生検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、GaAs基板上に低温成長させたGaAs層(LT−GaAs層)を形成し、LT−GaAs層の上に一対のアンテナ本体を設けた電磁波発生検出装置(光伝導スイッチ)が知られている(非特許文献1参照)。
この電磁波発生検出装置では、一対のアンテナ本体の間に励起光(波長約800nmのフェムト秒レーザ)を照射するとキャリアが発生し、一対のアンテナ本体の間にパルス状の電流が流れ、この電流によってテラヘルツ電磁波が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】電子情報通信学会誌,Vol.87, No8, p.718 (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電磁波発生検出装置では、効率良くキャリアを発生させるために、LT−GaAs層の吸収帯域にある波長を有する励起光を選択して照射しなければならない。このような励起光は、一般的に、BBO結晶等を用いた波長変換装置を用いて、光通信波長帯域レーザ(波長約1.56μm)を波長変換することで得られる。
【0005】
したがって、従来の電磁波発生検出装置は、光通信波長帯域レーザを直接使用してテラヘルツ電磁波を発生させることができなかった。このため、適切な励起光を作り出す波長変換装置が必要であると共に、その光学調整等が複雑であり、テラヘルツ電磁波発生のためのシステムの大型化およびコスト増加という問題を招いていた。
【0006】
本発明は、テラヘルツ電磁波の発生または検出に必要なシステムの小型・簡素化すると共に低コスト化を実現することのできる電磁波発生検出装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電磁波発生検出装置は、表面が(111)面である基板と、基板上にエピタキシャル成長され、表面に垂直な方向となる略<111>方向から、偏光方向が<−110>方向である光を照射して1/2の波長の光に変換し、1/2の波長に変換された偏光により光電効果が生じる化合物半導体層と、化合物半導体層上に、間隙を有して配設された一対のアンテナ本体を有するアンテナと、を備えていることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、GaAs等の化合物半導体層は、2次の非線形定数を有しているため、化合物半導体層の略法線方向、すなわち略<111>方向から化合物半導体層に入射した偏光(照射光)は、照射光の1/2の波長の光(光第2高調波(SH光))に変換される。このため、例えば、光通信系のファイバーレーザ等を用いた波長1.56μmの照射光は、化合物半導体層での吸収帯域が考慮された波長変換が行われる。したがって、化合物半導体層において、励起キャリアを効率良く発生させるためのSH光を作り出すことができる。これにより、光通信系のファイバーレーザ等を直接利用することができ、波長変換装置やその光学調整等が不要になり、テラヘルツ電磁波の発生または検出に必要なシステムの小型化、簡素化および低コスト化を実現することができる。
【0009】
この場合、基板と化合物半導体層との間において、エピタキシャル成長され、入射した偏光を反射する反射層を、更に備えていることが好ましい。
【0010】
また、この場合、化合物半導体層は、基板上にエピタキシャル成長され、入射した偏光の波長を1/2の波長に変換する波長変換層と、波長変換層上にエピタキシャル成長され、入射した偏光により光電効果が生じるキャリア発生層と、を有していることが好ましい。
【0011】
これらの構成によれば、化合物半導体層を透過した偏光は、反射層で反射して、再び化合物半導体層(波長変換層)に入射する。これにより、入射した偏光の波長変換効率が高まり、より多くの励起キャリアが発生し、テラヘルツ電磁波の発生効率を向上させることができる。
【0012】
また、この場合、基板は(111)GaAs基板であり、化合物半導体層は、GaAsからなることが好ましい。
【0013】
この構成によれば、GaAs基板の上にGaAsの化合物半導体層を積層することで、転位の無い化合物半導体層を成長させることができる。これにより、アンテナに印加した電圧によってリーク電流が流れる等、テラヘルツ電磁波の発生または検出に係る性能の低下を防止することができる。
【0014】
この場合、基板は(111)GaAs基板であり、波長変換層は、InAsからなる第1変換層と、GaAsからなる第2変換層と、を交互に少なくとも1組以上積層してなることが好ましい。
【0015】
また、この場合、基板は(111)GaAs基板であり、波長変換層は、複数のInAs量子ドットがGaAsに埋め込まれてなることが好ましい。
【0016】
これらの構成によれば、GaAsに比べ非線形定数の大きなInAsを用いることにより、テラヘルツ電磁波の出力を大きくすることができる。また、波長変換層を、第1変換層(InAs)と第2変換層(GaAs)との積層構造、または、GaAsにInAs量子ドットを埋め込む構造にすることで、GaAsとInAsとの結晶格子不整合による転位の発生を抑制することができる。これにより、アンテナに印加した電圧によってリーク電流が流れる等、テラヘルツ電磁波の発生または検出に係る性能の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1実施形態に係る電磁波発生検出装置を模式的に示した斜視図である。
【図2】第1実施形態に係る電磁波発生検出装置を模式的に示した側面図である。
【図3】第2実施形態に係る電磁波発生検出装置を模式的に示した側面図である。
【図4】第3実施形態に係る電磁波発生検出装置を模式的に示した側面図である。
【図5】第4実施形態に係る電磁波発生検出装置を模式的に示した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付の図面を参照して、本発明の第1実施形態に係る光伝導基板を用いた電磁波発生検出装置について説明する。
【0019】
図1は、第1実施形態に係る電磁波発生検出装置1を模式的に示した斜視図である。図2は、第1実施形態に係る電磁波発生検出装置1を模式的に示した側面図である。
【0020】
図1および図2に示すように、電磁波発生検出装置1は、基板2と、基板2上に形成された反射層3と、反射層3上に形成された化合物半導体層4と、化合物半導体層4上に形成されたアンテナ5と、を備えている。
【0021】
基板2は、(111)面を表面に向けた単結晶のGaAs(ガリウム砒素)により構成されている。基板2の表面には、化合物半導体層4が積層されている。なお、基板2の材料としては、GaAsに限定されるものではなく、任意の単結晶の半導体基板を用いることができる。
【0022】
反射層3は、基板2上に、AlGaAs(アルミニウムガリウム砒素)を材料としてエピタキシャル成長させた層であり、一般的には、AlGa1−xAs/AlGa1−yAs(x≠y)を用い、混晶組成の異なる一対を複数対積層する所謂半導体多層ミラーである。反射層3は、入射した偏光を反射するために設けられている。反射層3は、基板2の結晶面((111)面)にそろえて配列して成長しているため、(111)面を表面に向けて形成されている。なお、反射層3の材料は、AlGaAsに限定されるものではなく、基板2と化合物半導体層4との格子定数を考慮して任意の半導体(例えばInGaAs等)を用いることができる。
【0023】
化合物半導体層4は、反射層3上にエピタキシャル成長され、入射した偏光の波長を1/2の波長に変換する波長変換層41と、波長変換層41上にエピタキシャル成長され、変換された偏光により光電効果が生じるキャリア発生層42と、を有している。
【0024】
波長変換層41は、反射層3上に、GaAs(ガリウム砒素)を材料としてエピタキシャル成長させた層である。また、キャリア発生層42は、波長変換層41上に、GaAsを材料として低温でエピタキシャル成長(LT−GaAs)させた層である。波長変換層41およびキャリア発生層42は、基板2および反射層3の結晶面((111)面)にそろえて配列して成長しているため、(111)面を表面に向けて形成されている。
【0025】
詳細は後述するが、照射光は、化合物半導体層4(キャリア発生層42)の表面に対し垂直に入射する。この照射光の振動成分のうち、<−110>方向に振動する光(偏光)が、キャリア発生層42を透過して波長変換層41に入射すると、1/2倍の波長の光(光第2高調波(SH光))に変換される(詳細は後述する。)。この1/2の波長に変換された偏光(SH光)が、キャリア発生層42内において、励起キャリア(電子)を発生させる。
【0026】
また、化合物半導体層4に入射した偏光は、波長変換層41を透過して反射層3で反射する。反射した偏光は、再び波長変換層41に入射する。このため、入射した偏光の波長変換効率が高まり、キャリア発生層42において、より多くの励起キャリアが発生する。これにより、テラヘルツ電磁波の発生効率を向上させることができる。なお、本実施形態では、波長変換効率を向上させるために反射層3を設けたが、波長変換層41のみで十分に波長変換が可能であれば反射層3を省略してもよい。
【0027】
また、基板2(GaAs)の上に格子定数の差が少ない反射層3および化合物半導体層4(波長変換層41およびキャリア発生層42)を積層することにより、転位の無い化合物半導体層4を成長させることができる。これにより、アンテナ5に印加した電圧によってリーク電流が流れる等、テラヘルツ電磁波の発生または検出に係る性能の低下を防止することができる。
【0028】
アンテナ5は、キャリア発生層42上に配設されている。アンテナ5は、一対の電極部51と、一対のアンテナ本体52と、からなるダイポールアンテナである。一対の電極部51には、図外のケーブルを介して電源や電流増幅器等が接続される。一対のアンテナ本体52は、所定の間隔(ギャップ部53)を有して配置されている。
【0029】
一対のアンテナ本体52に電圧を印加した状態で、ギャップ部53に照射光を照射すると、波長変換層41で波長変換されたSH光により、キャリア発生層42において励起キャリアが発生する。そして、一対のアンテナ本体52の間(ギャップ部53)にパルス状の電流が流れ、この電流によってテラヘルツ電磁波が発生する。また、この電磁波発生検出装置1は、ギャップ部53に照射光が照射され、波長変換層41で波長変換されたSH光により、キャリア発生層42において励起キャリアが発生している間にテラヘルツ電磁波を受けた場合、一対のアンテナ本体52間に電流が発生するため、検出(受信)素子としても用いることができる。この場合、電流(テラヘルツ電磁波)を検出するための電流増幅器等を、一対の電極部51に接続しておく。
【0030】
電磁波発生検出装置1の製造工程について簡単に説明する。まず、MBE(分子線エピタキシー)装置に基板2をセットし、反射層3を任意の成長条件(温度、成長速度、As/Ga供給比等)でエピタキシャル成長させる。
【0031】
次に、任意の成長条件(温度、成長速度、As/Ga供給比等)で、反射層3上に波長変換層41をエピタキシャル成長させる。続いて、MBE装置にセットした基板2の温度を280〜330℃に設定し、その他任意の成長条件(成長速度、As/Ga供給比等)で、キャリア発生層42を1〜2μm程度エピタキシャル成長(低温成長)させる。
【0032】
そして、キャリア発生層42上に、フォトリソグラフィ法(エッチング処理含む。)等の公知の技術を用いてアンテナ5を形成する。このようにして電磁波発生検出装置1が完成する。
【0033】
次に、波長変換層41における、入射した偏光の波長変換について詳細に説明する。波長変換層41の材料であるGaAsは、立方晶系43mの結晶群を有している。また、波長変換層41は、反射層3を介して基板2の(111)面上にエピタキシャル成長されているため、(111)面を表面に向けて形成されている。照射光のうち、<−110>方向の偏光(入射光)が、波長変換層41の表面に垂直な方向、すなわち略<111>方向から入射することを考えると、位置r(r=(x,y,z))における振幅Eの入射光E(r)は、次式(1)のように表すことができる。
【0034】
【数1】

【0035】
ここで、ωは角周波数であり、λは波長である。また、kは波数ベクトルであり、nは単位ベクトルである。また、偏光の入射方向は、波長変換層41(GaAs)の(111)面に垂直であることから、nは上記のように表される。
【0036】
この入射した偏光によって生ずる2次の非線形分極Pは、2次非線形光学定数が3階のテンソルであることから次式(2),(3)で表される。
【0037】
【数2】

【0038】
ここで、式(2),(3)中のεは、真空中の誘電率を表している。また、P,P,Pは、各軸方向の非線形分極Pの成分を表し、dijは2次の非線形光学定数のテンソル成分を表し、E,E,E等は、各軸方向の偏光の電界成分を表している。なお、GaAs(波長変換層41)の非線形光学定数は、d14=274pm/V,d36=249pm/Vである(CRC Handbook of Lasers with Selected Data on Optical Technology, pp.497-505参照)。
【0039】
キャリア発生層42を透過し、波長変換層41に到達した偏光(波長λ,振幅E)は、波長変換層41で生ずる非線形分極を生ずるが、その優勢な成分は式(3)から、次式(4)で表される。
【0040】
【数3】

【0041】
式(4)で表される分極が波源となって、1/2倍の波長(λ/2)の光第二高調波(SH光)が発生する。例えば、波長1560nmの光通信系のファイバーレーザを照射光として用いた場合、発生するSH光は、波長780nmの光となる。SH光は、キャリア発生層42の波長変換層41近傍において吸収され、励起キャリアを発生させる。発生した励起キャリアは、拡散しつつアンテナ5に印加された電場によって加速され移動し、テラヘルツ電磁波を発生させる。なお、励起キャリアは、波長変換層41およびキャリア発生層42を移動するが、キャリア発生層42側を移動(走行)する励起キャリアが、テラヘルツ電磁波の発生に大きく寄与する。
【0042】
ファイバーレーザ(波長1560nm)を照射光として用いて、上記の波長変換層41によって発生するSH光(波長780nm)のパワーは、次式(5)により見積もることができる。
【0043】
【数4】

【0044】
ここで、P2ωはSH光のパワー、Pωは照射光のパワー、μは真空中の透磁率、εは真空中の誘電率、ωは照射光の周波数、Aは照射光のビーム断面積、deffは実効的な非線形定数、n2ωはSH光に対する屈折率、nωは照射光に対する屈折率、Lは光が進む距離、ΔkはSH光の波数と照射光の波数との差を、それぞれ表している。
【0045】
波長変換層41の材料であるGaAsの場合、波長1560nmの照射光に対する屈折率nωは約2.4であり、SH光に対する屈折率n2ωは約3.1である。また、照射光のビーム断面積を2μm、波長変換層41の実効長Lを1μm、実効的なGaAsの非線形定数deff(d36)=249pm/V、照射光が一般的なフェムト秒レーザであるとしてその尖頭値(ピークパワー)をPω=3kW、位相不整合を表すsin(ΔkL/2)/(ΔkL/2)の値を0.49とする。
【0046】
上記条件で得られるSH光のパワーP2ωは、112Wとなる。なお、上記P2ωの値は、反射層3による入射した偏光の反射を考慮に入れていない。このため、反射層3での反射による波長変換効率の向上を考慮すれば、SH光のパワーは最大で2倍程度まで向上するものと考えられる。
【0047】
以上の構成によれば、(111)面に直交する方向から一対のアンテナ本体52の間に照射された照射光は、<−110>方向の偏光として、キャリア発生層42および波長変換層41に入射する。波長変換層41は、2次の非線形定数を有しているため、照射光の1/2の波長の光(SH光)を発生する。
【0048】
したがって、例えば、光通信系のファイバーレーザ等を用いた照射光は、波長変換層41での吸収帯域が考慮された波長変換が行われ、キャリア発生層42において励起キャリアを効率良く発生させるためのSH光を作り出すことができる。すなわち、電磁波発生検出装置1そのものが、波長変換機能を有している。これにより、光通信系のファイバーレーザ等を直接利用することができ、波長変換装置やその光学調整等が不要になり、テラヘルツ電磁波の発生または検出に必要なシステムの小型化、簡素化および低コスト化を実現することができる。
【0049】
(第2実施形態)
図3を参照して、第2実施形態に係る電磁波発生検出装置1について説明する。図3は、第2実施形態に係る電磁波発生検出装置1を模式的に示した側面図である。なお、第1実施形態に係るものと同様の説明は省略する。
【0050】
第2実施形態に係る電磁波発生検出装置1は、化合物半導体層4全体が、低温でエピタキシャル成長させたGaAs(LT−GaAs)により形成されている(成長温度を280〜300℃、層厚1〜2μm程度)。すなわち、第2実施形態に係る電磁波発生検出装置1の化合物半導体層4は、波長変換層41が省略され、キャリア発生層42が波長変換層41を兼ねるように構成されている。
【0051】
以上の構成によれば、化合物半導体層4において照射光の波長変換および励起キャリアの発生が行われ、第1実施形態の電磁波発生検出装置1と同様に、簡便な装置構成でテラヘルツ電磁波の発生または検出を行うことができる。
【0052】
(第3実施形態)
図4を参照して、第3実施形態に係る電磁波発生検出装置1について説明する。図4は、第3実施形態に係る電磁波発生検出装置1を模式的に示した側面図である。なお、第1実施形態に係るものと同様の説明は省略する。
【0053】
第3実施形態に係る電磁波発生検出装置1は、波長変換層41に、GaAsよりも非線形定数の大きなInAs(インジウム砒素)を用いることにより、テラヘルツ電磁波の出力を大きくしている。
【0054】
しかし、基板2上にInAsからなる波長変換層41を積層すると、GaAsとの結晶格子不整合により、波長変換層41に転位が発生する。波長変換層41に転位が発生すると、結晶性の高いキャリア発生層42を形成することができず、アンテナ5に印加した電圧によってリーク電流が流れる等、テラヘルツ電磁波の発生または検出に係る性能が低下する。
【0055】
そこで、第3実施形態に係る電磁波発生検出装置1の波長変換層41は、InAsからなる第1変換層61と、GaAsからなる第2変換層62と、を交互に複数積層して形成されている。
【0056】
各第1変換層61および各第2変換層62は、それぞれに転位が生じない程度の膜厚(臨界膜厚以内〜20Å(2nm))でエピタキシャル成長させて形成されている。本実施形態の波長変換層41は、それぞれ2nmの膜厚の第1変換層61と第2変換層62とを交互に100組積層して形成されている(図4では模式的に3組のみ図示)。なお、第1変換層61と第2変換層62の積層数は任意であり、少なくとも1組以上積層してあればよいが、100〜200組程度積層することが好ましい。
【0057】
以上の構成によれば、GaAsに比べ非線形定数の大きなInAsを用いることにより、テラヘルツ電磁波の出力を大きくすることができる。また、第1変換層61(InAs)と第2変換層62(GaAs)との積層構造にすることで転位の発生を抑制し、アンテナ5に印加した電圧によってリーク電流が流れる等、テラヘルツ電磁波の発生または検出に係る性能の低下を防止することができる。
【0058】
(第4実施形態)
図5を参照して、第4実施形態に係る電磁波発生検出装置1について説明する。図5は、第4実施形態に係る電磁波発生検出装置1を模式的に示した側面図である。なお、第1実施形態および第3実施形態に係るものと同様の説明は省略する。
【0059】
第4実施形態に係る電磁波発生検出装置1は、第3実施形態に係るものと同様に、転位の発生を抑制しつつ、波長変換層41にInAsを用いることにより、テラヘルツ電磁波の出力を大きくしている。
【0060】
第4実施形態に係る電磁波発生検出装置1の波長変換層41は、複数のInAs量子ドット63を有するInAs層64と、各InAs量子ドット63を内包するGaAs層65と、を交互に複数積層して形成されている。つまり、波長変換層41は、複数のInAs量子ドット63がGaAs層65に埋め込まれて形成されている。
【0061】
各InAs層64および各GaAs層65は、それぞれに転位が生じない程度の膜厚でエピタキシャル成長させて形成されている。本実施形態では、InAs層64は、層厚5nmの薄膜上に直径30nmのInAs量子ドット63を複数配置して構成されている。また、GaAs層65は、層厚20nmの薄膜であり、複数のInAs量子ドット63を埋め込むようにしてInAs層64上に積層されている。本実施形態の波長変換層41は、InAs層64とGaAs層65とを交互に10組積層して形成されている(図5では模式的に3組のみ図示)。なお、InAs層64とGaAs層65の積層数は任意であり、少なくとも1組以上積層してあればよいが、10〜20組程度積層することが好ましい。また、InAs量子ドット63の数も任意である。
【0062】
以上の構成によれば、InAs量子ドット63により、波長変換層41の非線形光学効果が増強され、波長変換効果が向上する(とりわけ1560nmから780nmへの波長変換)。これにより、テラヘルツ電磁波の出力を大きくすることができる。
【0063】
なお、本発明は、上述した各実施形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施し得るものである。
【符号の説明】
【0064】
1:電磁波発生検出装置、2:基板、3:反射層、4:化合物半導体層、5:アンテナ、41:波長変換層、42:キャリア発生層、52:アンテナ本体、61:第1変換層、62:第2変換層、63:InAs量子ドット、64:InAs層、65:GaAs層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が(111)面である基板と、
前記基板上にエピタキシャル成長され、表面に垂直な方向となる略<111>方向から、偏光方向が<−110>方向である光を照射して1/2の波長の光に変換し、前記1/2の波長に変換された偏光により光電効果が生じる化合物半導体層と、
前記化合物半導体層上に、間隙を有して配設された一対のアンテナ本体を有するアンテナと、を備えていることを特徴とする電磁波発生検出装置。
【請求項2】
前記基板と前記化合物半導体層との間において、エピタキシャル成長され、入射した前記偏光を反射する反射層を、更に備えていることを特徴とする請求項1に記載の電磁波発生検出装置。
【請求項3】
前記化合物半導体層は、
前記基板上にエピタキシャル成長され、入射した前記偏光の波長を1/2の波長に変換する波長変換層と、
前記波長変換層上にエピタキシャル成長され、入射した前記偏光により光電効果が生じるキャリア発生層と、を有していることを特徴とする請求項2に記載の電磁波発生検出装置。
【請求項4】
前記基板は(111)GaAs基板であり、
前記化合物半導体層は、GaAsからなることを特徴とする請求項1に記載の電磁波発生検出装置。
【請求項5】
前記基板は(111)GaAs基板であり、
前記波長変換層は、InAsからなる第1変換層と、GaAsからなる第2変換層と、を交互に少なくとも1組以上積層してなることを特徴とする請求項3に記載の電磁波発生検出装置。
【請求項6】
前記基板は(111)GaAs基板であり、
前記波長変換層は、複数のInAs量子ドットがGaAsに埋め込まれてなることを特徴とする請求項3に記載の電磁波発生検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−255862(P2012−255862A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128077(P2011−128077)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【Fターム(参考)】