説明

電磁波計測型関節角度計

【課題】 利用者の運動部分に異物を固定せずに利用者に違和感を感じさせることなく関節角度を計測することができる電磁波計測型関節角度計を提供する。
【解決手段】 交流信号発生部5で発生した3〜100MHzにおける単一周波数の電磁波を発信する発信アンテナ6に対して受信アンテナ7を対向して配置し、受信アンテナ7で受信した受信信号の強度を受信信号強度検出部8で検出する。関節角度演算部11では予め記憶している受信信号強度と関節角度の特性データにより、受信信号強度検出部8で検出した受信信号強度に対応した関節角度を演算する。発信アンテナ6と受信アンテナ7のセットを上腿3の側部に配置し、受信アンテナ7による物体検出範囲10で屈曲する下腿4の関節2における回転角度を計測する。この関節角度計はリハビリ、バーチャルリアリティー、マンマシンインターフェース等における人体の関節角度計測に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リハビリ工学、バーチャルリアリティー、或いはマン・マシンインターフェース関連の機器制御装置に用いられる電磁波計測型関節角度計に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばリハビリにおいて、歩行のための各種関節の機能、手作業のための腕、手首、指の関節機能等の種々の関節の訓練に際し、常に訓練の状態をチェックする必要があり、そのためには関節の動く角度を測定する必要がある。このような関節の動く角度の測定のために種々の測定器が用いられており、最も簡単なものとしてプラスチックの固定側部材の一端に回転側部材を回動自在に固定し、固定側部材の回転基部に分度器を固定してなる関節角度計(ゴニオメーター)が安価のため広く用いられている。この関節角度計においては、固定側部材部分を関節で屈曲可能に結合している2つの骨の内、片側の骨の人体部分に固定し、回転側部材を他の骨側の人体部分に支持して、関節部における骨の回転角度を分度器で静的に測定する。
【0003】
上記のような関節角度計は単にプラスチック製の2個の部材と分度器を組み合わせただけのものであり、安価ではあるものの、角度の測定は目視によるため読み取り誤差を生じやく、正確に測定するためには熟練を要する。しかも、通常の訓練作業中に常に関節の動きを観察することは面倒であり、特に変化する目標値に対して被訓練者が関節の適切な動きを行おうとするとき、関節の回動角を逐次観察することは困難である。
【0004】
その対策として、上記のような機構中に固定側部材に対する回転側部材の回転角度に応じたパルスを発生する角度パルス発生器を設け、そのパルスをカウントすることにより回転角をデジタルで表示する装置も用いられている。このような装置により、デジタルデータを別途訓練用機器にフィードバックし、目標値を変化させる等の作動も可能となる。
【0005】
関節の機能測定としては上記のような静的な機能測定の他、関節周辺に対する力等の動的な機能の測定を行う必要もある。このような動的な測定にはひずみゲージと電子計測装置を組み合わせた装置が用いられている。このような装置は例えば特開2003−175085号公報等に記載されているようなリハビリ用機器において、利用者の目標とする関節運動と実際の運動とを比較するために用いられている。
【特許文献1】特開2003−175085号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようなリハビリ等において関節の目標運動と実際の運動結果を計測するために用いられる関節角度計において、固定側部材と回転側部材の角度をパルスカウントするものにおいては、例えば上腿部に固定側部材を固定し、下腿部に回転側部材を固定して、膝関節を中心とした屈曲角としての回転角を計測することになり、これらの定規部分を人体に固定する必要がある。そのため、リハビリを行っている人は身体に異物を取り付けることとなり、運動に違和感を感じるほか、その運動は平面内の運動に制限され、関節部での捻りながらの屈曲動作等の運動の妨げになると共に角度計測部に負荷が掛かるという問題を生じる。
【0007】
また、このような関節角度計測手段を前記のようなリハビリ以外に、例えば各種機器を操作する際、人間の腕や手の動きに応じて移動させるためのマンシーンインターフェースにおいて、例えば操作者の手首の動きを検出して機器を作動する場合、手首の関節の回転角を測定する場合に利用しようとしたときにおいても、前記と同様に身体に異物を固定しなければならず、動きが拘束されると共に違和感を感じることとなる。このことは、例えばバーチャルリアリティーや各種ゲームにおいて人間の動きを検出するために関節角度計測を行う場合においても同様である。
【0008】
したがって本発明は、関節部分での運動を検出する関節角度計測において、利用者の運動部分に異物を固定することなく、利用者に違和感を与えず、且つ運動を阻害することなしに関節角度を計測することができる電磁波計測型関節角度計を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る電磁波計測型関節角度計は上記課題を解決するため、交流信号発生部からの電磁波を発信する発信アンテナと、前記発信アンテナからの電磁波を受信する受信アンテナと、前記受信アンテナで受信した受信信号の強度を検出する受信信号強度検出部と、前記受信信号強度検出部の検出データにより、予め記録されている受信信号強度に対応した関節角度データによって、受信アンテナの周囲の物体検出範囲における関節を中心とした人体の部分の運動による回転角度を演算する関節角度演算部とを備えたことを特徴とする電磁波計測型関節角度計。
【0010】
本発明に係る他の電磁波計測型関節角度計は、前記電磁波計測型関節角度計において、前記発信アンテナからは、3〜100MHzの周波数の、単一周波数の電磁波を発信することを特徴とする。
【0011】
本発明に係る他の電磁波計測型関節角度計は、前記電磁波計測型関節角度計において、前記電磁波計測型関節角度計は、リハビリ、バーチャルリアリティー、マンマシンインターフェースのいずれかに用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、身体の運動部分に何ら異物を固定する必要がないため、関節部分の運動を拘束することがなく、利用者に違和感を与えることなしに、また利用者の運動を阻害することなしに関節角度の動的計測、及び静的な計測を行うことができる。また、本発明による関節角度計測装置は関節角度の動的計測の新しい基本原理として、リハビリ工学分野の計測装置、バーチャルリアリティーやマン・マシンインターフェース分野における人の体の動きの計測技術として広範囲の分野に、従来から用いられている他の手段に替えて応用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る電磁波計測型関節角度計は、関節部分での運動を検出する関節角度計測において、利用者の運動部分に異物を固定することなく、無侵襲で関節角度を計測することができる電磁波計測型関節角度計を得るという課題を、交流信号発生部からの電磁波を発信する発信アンテナと、前記発信アンテナからの電磁波を受信する受信アンテナと、前記受信アンテナで受信した受信信号の強度を検出する受信信号強度検出部と、前記受信信号強度検出部の検出データにより、予め記録されている受信信号強度に対応した関節角度データにより、受信アンテナの周囲の物体検出範囲における関節を中心とした人体の部分の運動による回転角度を演算する関節角度演算部とを備え留ことにより実現した。
【実施例1】
【0014】
最初に本発明の測定原理を示す図3について説明する。図3(a)に示すように、交流信号発生部31で発生させた短波帯(HF)から超短波帯(VHF)である3〜100MHzの周波数の電磁波を、ワイヤをループ状に形成した発信アンテナ32から単一周波100mW以下の電力を加え、CW波を送信する。この発信アンテナ32から発信した電磁波を、同様に形成した受信アンテナ33で受け、検出部34によって受信強度を検出する。なお、この時のアンテナ形状は矩形等、種々のものを用いることができ、またループ状のアンテナの他、円形や矩形のソレノイド型のアンテナ等、種々のアンテナを用いることができる。
【0015】
この発信アンテナ32と受信アンテナ33との間で、人体の代わりにデータを正確に取りやすい樹脂製容器に水を満たした水槽35を、図3(b)に示すように横切らせる。そのときの受信アンテナ33で受信した受信電界強度即ち受信信号強度を検出部34で検出した結果、図3(c)のような結果が得られた。即ち、図3(c)のデータによると、アンテナを結ぶ中心線36を中心として誘電率の変化、及び渦電流損等による電磁波吸収、電磁波遮蔽が生じ、受信信号強さが大きく低下することがわかった。この周波数における水の比誘電率は約70であり、電界に大きな変化を及ぼすことがわかる。それにより、生体組織のうち水分含有量の多い筋、内臓なども水と同様に大きな誘電率を有することが知られており、これらも同様に検出できることがわかる。
【0016】
なお、この時に用いる発信アンテナ及び受信アンテナとしては、従来から用いられている種々の短波、超短波帯用アンテナを用いることができるが、例えば図4に示すような銅線からなるループアンテナを用いることもできる。この例においては、アンテナ41は直径1mm程度のワイヤ42を、直径40mm程度のリング状に複数巻回したものを用いており、そのリード線と同軸ケーブル43との間にトロイダルコア44を用いた変圧器を介して接続している。
【0017】
本発明は前記原理に基づいて、例えば図2に示すようにして関節で動く人体の部位の移動を検出することができる。即ち、同図(a)に示すように、前記図3と同様に交流信号発生部21で発生させた短波帯から超短波帯の電磁波を、発信アンテナ22から発信し、これと例えば30cm間隔で対向させた受信アンテナ23で受信し、そのときの電界強度を検出部24で検出する。
【0018】
このような状態では図中に物体検出範囲25として示すように、受信アンテナ23の周囲に前記図3に示す原理に基づいた物体検出範囲25が、リング状の受信アンテナ23の中心を通り受信アンテナを囲むように磁力線が存在することとなる。この物体検出範囲25に水分を含む物体としての人体の一部が存在し、移動するとき、その移動によって検出部24では、誘電率変化や渦電流損により図3(c)と同様の特性で受信信号の強度に変化を生じる。それにより、物体の移動量を検出することが可能となる。
【0019】
上記のような原理からなる電磁波計測型関節角度計は、例えば図2(b)に示すような装置として利用できる。即ち、発信アンテナ22と受信アンテナ23を所定の間隔で保持したアンテナ部27と、交流信号発生部21、受信信号強度検出部8、制御装置25や操作部及び表示部等を収納配置した本体部28と、それらの間を接続する同軸ケーブル29、30によって電磁波計測型関節角度計26を構成することができる。但し、アンテナ部27と本体部28を一体化しても良く、また、発信アンテナ22と受信アンテナ23との間に間隙を形成して、この部分に存在する人体の一部を検出するようにしても良く、更にそのような間隙を設けることなく、例えば矩形の樹脂製ケースに全てを格納しても良い。
【0020】
上記原理により、本発明は例えば図1に示すように構成することによって、足1の膝関節2における上腿3に対する下腿4が屈曲する回転角度θを測定することができる。この実施例においても前記図2、図3に示す例と同様に交流信号発生部5で発生させた短波帯(HF)から超短波帯(VHF)である3〜100MHzの周波数の微弱な電磁波を、前記図4に示すような、銅線をループ状に複数巻回して形成した数センチ大の小型の発信アンテナ6から発信し、この発信アンテナ6から発信した電磁波を、同様に形成した受信アンテナ7で受け、検出部8によって受信信号強度を検出する。
【0021】
このような発信アンテナ6と受信アンテナ7の配置状態で、足1の上腿3の軸線が受信アンテナ6と発信アンテナ7の中心軸線9とほぼ同方向となるようにしてこれらのアンテナのセットを上腿3に近接させた状態で例えばいす等の側部に固定することにより、膝関節2を図示の例では受信アンテナ7における発信アンテナ6とは反対側の物体検出範囲10に位置するように配置する。
【0022】
それにより、下腿7を図1中において実線位置から2点鎖線位置の方向に膝関節2を中心に回転させる。その移動によって物体検出範囲10内における下腿4の位置が変化し、水分分布変化による誘電率の変化や渦電流損による変化が生じるので、検出部8ではアンテナ7で受信する電磁波の電界強度の変化を検出することができる。その検出値である受信信号強度を関節角度演算部11において、例えば同図(b)に示すような、予め各個人毎に取得している受信信号強度、関節角度特性データに基づいて、関節角度θを求めることができる。
【0023】
この時のデータは下腿4の運動と共に高速で得られるので、運動速度も含め、下腿の運動状態を容易に検出することができる。その際、例えば下腿4を高速で屈曲させた後に、最も大きな屈曲を行った後直ちに元に戻ったときでも、瞬間的な最大回転角を容易に計測することができる。また、このように下腿4を高速で屈曲させ、最終的に大きな回転角のデータが得られた場合と、低速で屈曲させ、最終的に同じ回転角のデータが得られた場合とで、その回転角のデータに対する評価を適切に行うことができる等、従来の膝関節回転角度計測では困難であった各種の計測を容易に行うことができるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
上記のような本発明は、関節を中心とした身体の各部位の回転角を検出することができるので、前記のようなリハビリの分野以外に、例えばバーチャルリアリティーにおける信号入力部としての人体の各部の動きを検出する検出器として、或いは、マンマシンインターフェイスにおける人体の動きを検出する検出部としても有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施例の模式図である。
【図2】本発明において物体を検出する原理を示す図である。
【図3】本発明の基本原理として、発信アンテナと受信アンテナ間で水槽を移動させたときの、検出信号強度を示す図である。
【図4】本発明で用いるアンテナの例を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1 足
2 膝関節
3 上腿
4 下腿
5 交流信号発生部
6 発信アンテナ
7 受信アンテナ
8 受信信号強度検出部
9 中心軸線
10 物体検出範囲
11 関節角度演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流信号発生部からの電磁波を発信する発信アンテナと、
前記発信アンテナからの電磁波を受信する受信アンテナと、
前記受信アンテナで受信した受信信号の強度を検出する受信信号強度検出部と、
前記受信信号強度検出部の検出データにより、予め記録されている受信信号強度に対応した関節角度データによって、受信アンテナの周囲の物体検出範囲における関節を中心とした人体の部分の運動による回転角度を演算する関節角度演算部とを備えたことを特徴とする電磁波計測型関節角度計。
【請求項2】
前記発信アンテナからは、3〜100MHzの周波数の、単一周波数の電磁波を発信することを特徴とする請求項1記載の電磁波計測型関節角度計。
【請求項3】
前記電磁波計測型関節角度計は、リハビリ、バーチャルリアリティー、マンマシンインターフェースのいずれかに用いることを特徴とする請求項1記載の電磁波計測型関節角度計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−75234(P2007−75234A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−264737(P2005−264737)
【出願日】平成17年9月13日(2005.9.13)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】