説明

電磁波遮蔽用組成物とその製造方法及び該組成物を用いた電磁波遮蔽物の形成方法

【課題】本発明の電磁波遮蔽用組成物を用いて形成された電磁波遮蔽物、並びに該遮蔽物が形成された電磁波遮蔽性構造体は、長年使用しても高導電率を維持することができ、経年安定性に優れる。
【解決手段】本発明の電磁波遮蔽用組成物は、金属ナノ粒子が分散媒に分散した組成物であって、金属ナノ粒子が75質量%以上の銀ナノ粒子を含有し、金属ナノ粒子は炭素骨格が炭素数3の有機分子主鎖の保護剤で化学修飾され、金属ナノ粒子が一次粒径50〜200nmの範囲内の金属ナノ粒子を数平均で70%以上含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた導電性を有することで電磁波遮蔽効果を発現する電磁波遮蔽用組成物とその製造方法及び該組成物を用いた電磁波遮蔽物の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PDP(Plasma Display Panel)やCRT(Cathode Ray Tube)などのディスプレイ前面からは、電磁波が発生している。この電磁波を遮蔽するために、透明性と電磁波遮蔽性を兼ね備えた遮蔽材が使用され、現在までに以下のような遮蔽材やその製造方法が提案されている。
【0003】
先ず、高透磁率非晶合金層を少なくとも一層有する良導電性繊維からなることを特徴とする電磁波シールド材が提案されている。(例えば、特許文献1参照。)。上記特許文献1では、CRTやプラズマ、EL等のディスプレイより発生する電磁波のシールドとして、電磁波シールド材を用いて導電性メッシュを形成し、フィルターとして用いたり、導電性メッシュを透明樹脂板に埋め込むなどの方法が記載されている。また、ポリマー性繊維の織物類とシート材料類で熱成形の工程中で多孔質になり得る性質のある担体材料を含み、この担体材料は1枚又はそれ以上の金属マットをその中に少なくとも部分的に埋め込まれた状態で含み、このマットは多数の細くて不規則に配向した金属繊維からなる熱成形性電磁波干渉シールディングシートが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。上記特許文献2では、担体材料中に金属マットを少なくとも部分的に埋め込む方法としては、例えば、不織ウエブ状の担体材料と金属繊維のマットの結合に、担体材料を加熱して軟化させたものにマットを重ね合わせて、担体材料の中に埋め込んで作る方法や、機械的な圧力をかける方法、その両方を用いる方法などが記載されている。
【0004】
また、透光性基板上に透明アンカー層を形成し、その上に銅などの無電解めっき層がパターン状に形成され、その表面に透光性基板の屈折率より低い屈折率を有する化合物からなる透明薄膜層が形成された透光性電磁波シールド材料が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。この特許文献3では、無電解めっき層が電磁波シールドの役目をしている。
【0005】
また、塗料用合成樹脂又は接着用合成樹脂に導電性粉末を均一に混合して得た電磁波シールド塗料を透明なフィルム又は板状物に格子状もしくは縞状に印刷した透光性電磁波シールド材が提案されている(例えば、特許文献4参照。)。また、透明基板表面上に塗料用樹脂中に導電性粉末を混練してなる導電性塗料を網目状に印刷し、真空中で焼き付けてなることを特徴とする透明電磁波シールド板の製造方法が提案されている(例えば、特許文献5参照。)。
【0006】
また、加熱又は加圧により流動する接着剤層を有する導電性金属付きプラスチックフィルムの導電性金属がフォトリソグラフ法などのマイクロリソグラフ法により幾何学図形を有し、その開口率が50%以上である電磁波シールド性接着フィルム及び電磁波遮蔽構造体が提案されている(例えば、特許文献6参照。)。上記特許文献6では、幾何学図形を形成させる方法として、レジストフィルム貼り付け、露光、現像、ケミカルエッチング、レジストフィルム剥離といったケミカルエッチング法を使用したフォトリソグラフ工程により形成している。
【0007】
更に、金属箔の一方の面に保護層を設ける工程と、金属箔の他の面にフォトレジスト法により所定のメッシュパターンを現像する工程と、レジストの未現像部を除去し、その除去部分の金属箔をエッチングする工程と、現像部であるレジストを除去する工程とを備える金属性メッシュの製造方法が提案されている(例えば、特許文献7参照。)。上記特許文献7では、先ず、金属箔の一方の面に透明性ベースフィルムを粘着剤で貼り合わせ、金属箔の他方の面にレジストをラミネートし、このレジストに所定のメッシュパターンを有するマスクを積層した後、マスク上から紫外線を照射して、光透過部に対応する部分のレジストを露光し現像レジスト部を形成する。次に、マスク及びレジストの未現像部を除去し、その除去した未現像部に対応する部分の金属箔をエッチングした後、金属箔上の現像レジスト部を除去することにより樹脂フィルムと金属箔メッシュからなる電磁波シールド材を製造していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平05−327274号公報(特許請求の範囲の請求項1、発明の詳細な説明の段落[0003])
【特許文献2】特開平05−269912号公報(特許請求の範囲の請求項1、発明の詳細な説明の段落[0035])
【特許文献3】特開平05−283889号公報(特許請求の範囲の請求項1、発明の詳細な説明の段落[0015])
【特許文献4】特開昭62−057297号公報(特許請求の範囲(1))
【特許文献5】特開平02−052499号公報(特許請求の範囲)
【特許文献6】特開平11−145676号公報(特許請求の範囲の請求項1、2及び13、発明の詳細な説明の段落[0024])
【特許文献7】特開平11−350168号公報(特許請求の範囲の請求項1、発明の詳細な説明の段落[0016]〜[0019])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1や上記特許文献2に示されるような良導電性繊維を用いる方法では、電磁波漏れのないように導電性繊維を規則的に配置させる必要があるが、均一性や制御性に問題があった。また、規則配置の制御性を高めるために導電性繊維の繊維径を太くすると、繊維が見えてしまい視認性が低下してしまう。
【0010】
また、上記特許文献3に示されるような無電解めっき法によりパターン状に形成する方法では、廃液が生じる問題があり、またメッシュパターンの作成と無電解めっきの2工程が必要であるため製造コストがかかっていた。
【0011】
上記特許文献4や上記特許文献5に示されるような印刷法を用いた方法では、使用する塗料が微細配線を印刷するのに最適な組成となっておらず、形成される電磁波シールドの視認性及び導電性が十分に保たれておらず、経年安定性に劣るものであった。
【0012】
更に、上記特許文献6や上記特許文献7に示されるようなレジスト法を用いた方法では、製造する際の工程が多いため、製造コストの上昇や歩留まりの悪化といった問題を有していた。また、金属箔をエッチングする際に、金属箔に貼り付けたフィルムの表面がエッチング液によって侵食され、視認性の低下を招く問題もあった。
【0013】
本発明の目的は、透明なフィルムや板状物に格子状もしくは縞状に金属組成物を印刷し、さらに焼成するという方法で、透明なフィルムや板状物の表面に格子状もしくは縞状の配線を配置した構造を有する電磁波遮蔽物において、長年使用しても配線の高導電率を維持することができる、即ち、経年安定性に優れた電磁波遮蔽物を得ることができる、電磁波遮蔽用組成物とその製造方法及び該組成物を用いた電磁波遮蔽物の形成方法を提供することにある。
【0014】
本発明の別の目的は、130〜400℃という低温の焼成プロセスにより、比抵抗がバルク金属の15倍以下という低比抵抗が得られ、かつ、長年使用しても高導電率を維持することができ、経年安定性に優れた電磁波遮蔽物を得ることができる、電磁波遮蔽物の形成方法及び該形成方法により得られた電磁波遮蔽物を用いた電磁波遮蔽性構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に係る発明は、金属ナノ粒子が分散媒に分散した電磁波遮蔽用組成物であって、金属ナノ粒子が75質量%以上の銀ナノ粒子を含有し、金属ナノ粒子は炭素骨格が炭素数3の有機分子主鎖の保護剤で化学修飾され、金属ナノ粒子が一次粒径50〜200nmの範囲内の金属ナノ粒子を数平均で70%以上含有することを特徴とする。
【0016】
この請求項1に記載された組成物では、一次粒径50〜200nmとサイズの比較的大きな金属ナノ粒子を多く含むため、金属ナノ粒子の比表面積が減少し、分散媒の占める割合が小さくなるため、この組成物を用いて電磁波遮蔽物を形成すると、上記分散媒中の有機分子が焼成時の熱により脱離し又は分解し、或いは離脱しかつ分解することにより、高導電率や耐候性を悪化させるような有機物を実質的に含有しない銀を主成分とする高導電率の電磁波遮蔽物が得られる。
【0017】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明であって、上記金属ナノ粒子を化学修飾する上記保護剤がカルボニル基又は水酸基のいずれか一方又は双方を含む電磁波遮蔽用組成物である。
【0018】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明であって、上記分散媒が水と相溶する有機溶媒であり、この有機溶媒がメタノール、エタノール、2−プロパノール、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類、アセトン等のケトン類からなる群より選ばれた1種又は2種以上である電磁波遮蔽用組成物である。
【0019】
請求項4に係る発明は、請求項1ないし3いずれか1項に係る発明であって、u、Pt、Pd、Ru、Ni、Cu、Sn、In、Zn、Fe、Cr及びMnからなる群より選ばれた1種又は2種以上の混合組成又は合金組成からなる金属ナノ粒子を0.02質量%以上かつ25質量%未満含有する電磁波遮蔽用組成物である。
【0020】
請求項5に係る発明は、請求項1ないし4いずれか1項に記載の電磁波遮蔽用組成物を製造する方法であって、硝酸銀を水に溶解して金属塩水溶液を調製する工程と、クエン酸ナトリウム水溶液に硫酸第一鉄を加えて溶解させることにより還元剤水溶液を調製する工程と、上記還元剤水溶液に前記金属塩水溶液を滴下して混合、攪拌することにより金属コロイドからなる分散液を調製する工程と、上記分散液を室温で放置し、沈降した金属ナノ粒子の凝集物を分離した後、得られた分離物に水を加えて分散体とする工程とを含む電磁波遮蔽用組成物の製造方法である。
【0021】
請求項6に係る発明は、請求項5に係る発明であって、上記還元剤水溶液に上記金属塩水溶液を滴下して混合、攪拌する際の反応温度を30〜60℃、攪拌時間を10〜300分間とし、上記分散体とする工程の後、この分散体を限外ろ過により脱塩処理し、更に水と相溶する有機溶媒で置換洗浄する工程とを含む電磁波遮蔽用組成物の製造方法である。
【0022】
請求項に係る発明は、請求項1ないし4いずれか1項に記載の電磁波遮蔽用組成物を基材上に印刷する工程と、上面に印刷された基材を130〜400℃で焼成する工程とを含む電磁波遮蔽物の形成方法である。
【0023】
この請求項に記載された電磁波遮蔽物の形成方法では、130〜400℃という低温での焼成により、金属ナノ粒子の表面を保護していた分散媒中の有機分子が脱離し又は分解し、或いは離脱しかつ分解することにより、高導電率や耐候性を悪化させるような有機物を実質的に含有しない銀を主成分とする電磁波遮蔽物が得られる。
【0024】
請求項8に係る発明は、請求項7に係る発明であって、基材が高分子材料からなる基板又は高分子材料を含む2層以上の積層体である電磁波遮蔽物の形成方法である。
【0025】
請求項9に係る発明は、請求項7又は8に係る発明であって、印刷方法がインクジェット印刷法、ディスペンサコーティング法、スプレーコーティング法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、凸版印刷法、フレキソ印刷法又はオフセット印刷法のいずれかである電磁波遮蔽物の形成方法である。
【0026】
請求項10に係る発明は、請求項7ないし9いずれか1項に記載の形成方法により得られた電磁波遮蔽物が形成されたことを特徴とする電磁波遮蔽性構造体である。
【発明の効果】
【0027】
以上述べたように、本発明によれば、分散媒に分散された金属ナノ粒子が75質量%以上の銀ナノ粒子を含有し、炭素骨格が炭素数3の有機分子主鎖の保護剤で金属ナノ粒子を化学修飾し、更に金属ナノ粒子が一次粒径50〜200nmの範囲内の金属ナノ粒子を数平均で70%以上含有するので、この組成物中の金属ナノ粒子の比表面積が比較的減少し、分散媒の占める割合が小さくなる。この結果、この組成物を用いて電磁波遮蔽物を形成すると、上記分散媒中の有機分子が焼成時の熱により脱離し又は分解し、或いは離脱しかつ分解することにより、高導電率や耐候性を悪化させるような有機物を実質的に含有しない銀を主成分とする電磁波遮蔽物が得られる。従って、上記遮蔽物の形成された電磁波遮蔽性構造体を長年使用しても、有機物が変質又は劣化するということがなく、導電率が高い状態に維持されるので、経年安定性に優れた電磁波遮蔽物を得ることができる。
【0028】
また上記電磁波遮蔽用組成物を基材上に印刷し、この上面に印刷された基材を130〜400℃で焼成すれば、金属ナノ粒子の表面を保護していた分散媒中の有機分子が脱離し又は分解し、或いは離脱しかつ分解することにより、高導電率や耐候性を悪化させるような有機物を実質的に含有しない銀を主成分とする電磁波遮蔽物が得られる。この結果、上記と同様に、電磁波遮蔽物の形成された電磁波遮蔽性構造体を長年使用しても、導電率が高い状態に維持されるので、経年安定性に優れた電磁波遮蔽物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に本発明を実施するための形態を説明する。
【0030】
本発明の組成物は、金属ナノ粒子が分散媒に分散した電磁波遮蔽用組成物である。上記金属ナノ粒子は75質量%以上、好ましくは80質量%以上の銀ナノ粒子を含有する。また金属ナノ粒子は炭素骨格が炭素数3の有機分子主鎖の保護剤で化学修飾される。更に金属ナノ粒子は一次粒径50〜200nmの範囲内の金属ナノ粒子を数平均で70%以上、好ましくは75%以上含有する。ここで、銀ナノ粒子の含有量を全ての金属ナノ粒子100質量%に対して75質量%以上の範囲に限定したのは、75質量%未満ではこの組成物を用いて形成された電磁波遮蔽物の導電率が低下し、従って電磁波遮蔽性が低下してしまうからである。また金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を3に限定したのは、炭素数が4以上であると焼成時の熱により保護剤が脱離或いは分解(分離・燃焼)し難く、上記電磁波遮蔽物内に有機残渣が多く残り、変質又は劣化して電磁波遮蔽物の導電性が低下してしまうからである。また一次粒径50〜200nmの範囲内の金属ナノ粒子の含有量を、数平均で全ての金属ナノ粒子100%に対して70%以上の範囲に限定したのは、70%未満では金属ナノ粒子の比表面積が増大して有機物の占める割合が大きくなり、焼成時の熱により脱離或いは分解(分離・燃焼)し易い有機分子であっても、この有機分子の占める割合が多いため、電磁波遮蔽物内に有機残渣が多く残り、この残渣が変質又は劣化して電磁波遮蔽物の導電性が低下したり、或いは金属ナノ粒子の粒度分布が広くなり電磁波遮蔽物の密度が低下し易くなって、電磁波遮蔽物の導電性が低下してしまうからである。更に上記金属ナノ粒子の一次粒径を50〜200nmの範囲内に限定したのは、統計的手法より一次粒径が50〜200nmの範囲内にある金属ナノ粒子が経時安定性(経年安定性)と相関しているからである。
【0031】
一方、銀ナノ粒子を含む金属ナノ粒子の含有量は、金属ナノ粒子及び分散媒からなる組成物100質量%に対して2.5〜95.0質量%、好ましくは3.5〜90.0質量%含有する。また分散媒は、本発明による金属ナノ粒子を分散させるような溶剤であれば特に限定することなく使用することができるが、中でも水と相溶する有機溶剤が好ましい。更に分散剤、即ち金属ナノ粒子表面に化学修飾している保護分子は、水酸基(−OH)又はカルボニル基(−C=O)のいずれか一方又は双方を含有する。ここで、銀ナノ粒子を含む金属ナノ粒子の含有量を金属ナノ粒子及び分散媒からなる組成物100質量%に対して2.5〜95.0質量%の範囲に限定したのは、2.5質量%未満では特に焼成後の電磁波遮蔽物の特性には影響はないけれども、必要な厚さの電磁波遮蔽物を得ることが難しく、95.0質量%を越えると組成物を印刷する時にインク或いはペーストとしての必要な流動性を失ってしまうからである。なお、水酸基(−OH)が銀ナノ粒子等の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤に含有されると、組成物の分散安定性に優れ、膜の低温焼結にも効果的な作用があり、カルボニル基(−C=O)が銀ナノ粒子等の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤に含有されると、上記と同様に組成物の分散安定性に優れ、膜の低温焼結にも効果的な作用がある。
【0032】
一方、銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子は、Au、Pt、Pd、Ru、Ni、Cu、Sn、In、Zn、Fe、Cr及びMnからなる群より選ばれた1種又は2種以上の混合組成又は合金組成からなる金属ナノ粒子であり、この銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子は全ての金属ナノ粒子100質量%に対して0.02質量%以上かつ25質量%未満、好ましくは0.03質量%〜20質量%含有する。また上記水と相溶する有機溶剤は、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノール、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類、アセトン等のケトン類からなる群より選ばれた1種又は2種以上を使用することができる。ここで、銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子の含有量を全ての金属ナノ粒子100質量%に対して0.02質量%以上かつ25質量%未満の範囲に限定したのは、0.02質量%未満では特に大きな問題はないけれども、0.02〜25質量%の範囲内においては、耐候性試験(温度100℃かつ湿度50%の恒温恒湿槽に1000時間保持する試験)後の電磁波遮蔽物の導電性が耐候性試験前より悪化しないという特徴があり、25質量%以上では焼成直後の電磁波遮蔽物の導電性が低下し、しかも耐候性試験後の電磁波遮蔽物が耐候性試験前の電磁波遮蔽物より導電性が低下してしまうからである。
【0033】
このように構成された電磁波遮蔽用組成物の製造方法を説明する。
【0034】
(a) 銀ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を3とする場合
先ず硝酸銀を脱イオン水等の水に溶解して金属塩水溶液を調製する。一方、クエン酸ナトリウムを脱イオン水等の水に溶解させて得られた濃度10〜40%のクエン酸ナトリウム水溶液に、窒素ガス等の不活性ガスの気流中で粒状又は粉状の硫酸第一鉄を直接加えて溶解させ、クエン酸イオンと第一鉄イオンを3:2のモル比で含有する還元剤水溶液を調製する。次に上記不活性ガス気流中で上記還元剤水溶液を撹拌しながら、この還元剤水溶液に上記金属塩水溶液を滴下して混合する。ここで、金属塩水溶液の添加量は還元剤水溶液の量の1/10以下になるように、各溶液の濃度を調整することで、室温の金属塩水溶液を滴下しても反応温度が30〜60℃に保持されるようにすることが好ましい。また上記両水溶液の混合比は、還元剤として加えられる第1鉄イオンの当量が、金属イオンの当量の3倍となるように調整する。即ち、(金属塩水溶液中の金属イオンのモル数)×(金属イオンの価数)=3×(還元剤水溶液中の第1鉄イオンのモル数)となるように調整する。金属塩水溶液の滴下が終了した後、混合液の撹拌を更に10〜300分間続けて金属コロイドからなる分散液を調製する。この分散液を室温で放置し、沈降した金属ナノ粒子の凝集物をデカンテーションや遠心分離法等により分離した後、この分離物に脱イオン水等の水を加えて分散体とし、限外ろ過により脱塩処理し、更に引き続いて水と相溶する有機溶剤で置換洗浄して、金属(銀)の含有量を2.5〜50質量%にする。その後、遠心分離機を用いこの遠心分離機の遠心力を調整して粗粒子を分離することにより、金属ナノ粒子が一次粒径50〜200nmの範囲内の金属ナノ粒子を数平均で70%以上含有するように調製する、即ち数平均で全ての金属ナノ粒子100%に対する一次粒径50〜200nmの範囲内の金属ナノ粒子の占める割合が70%以上になるように調整する。なお、金属ナノ粒子と記載したが、この(a)の場合では、数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径50〜200nmの範囲内の銀ナノ粒子の占める割合が70%以上になるように調整している。
【0035】
数平均の測定方法は、先ず、得られた金属ナノ粒子をTEM(Transmission Electron Microscope、透過型電子顕微鏡)により約50万倍程度の倍率で撮影する。次いで、得られた画像から金属ナノ粒子200個について一次粒径を測定し、この測定結果をもとに粒径分布を作成する。次に、作成した粒径分布から、一次粒径50〜200nmの範囲内の金属ナノ粒子が全金属ナノ粒子で占める個数割合を求める。
【0036】
これにより銀ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数が3である分散体(電磁波遮蔽用組成物)が得られる。なお、この分散体100質量%に対する最終的な金属含有量(銀含有量)は2.5〜95質量%とする。
【0037】
(b) 銀ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を2とする場合
還元剤水溶液を調製するときに用いたクエン酸ナトリウムをりんご酸ナトリウムに替えること以外は上記(a)と同様にして分散体を調製する。これにより銀ナノ粒子を化学修飾する有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数が2である分散体(電磁波遮蔽用組成物)が得られる。
【0038】
(c) 銀ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を1とする場合
還元剤水溶液を調製するときに用いたクエン酸ナトリウムをグリコール酸ナトリウムに替えること以外は上記(a)と同様にして分散体を調製する。これにより銀ナノ粒子を化学修飾する有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数が1である分散体(電磁波遮蔽用組成物)が得られる。
【0039】
(d) 銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を3とする場合
銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を構成する金属としては、Au、Pt、Pd、Ru、Ni、Cu、Sn、In、Zn、Fe、Cr又はMnが挙げられる。金属塩水溶液を調製するときに用いた硝酸銀を、塩化金酸、塩化白金酸、硝酸パラジウム、三塩化ルテニウム、塩化ニッケル、硝酸第一銅、二塩化錫、硝酸インジウム、塩化亜鉛、硫酸鉄、硫酸クロム又は硫酸マンガンに替えること以外は上記(a)と同様にして分散体を調製する。これにより銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数が3である分散体(電磁波遮蔽用組成物)が得られる。
【0040】
なお、銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数を1や2とする場合、金属塩水溶液を調製するときに用いた硝酸銀を、上記種類の金属塩に替えること以外は上記(b)や上記(c)と同様にして分散体を調製する。これにより、銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を化学修飾する保護剤の有機分子主鎖の炭素骨格の炭素数が1や2である分散体(電磁波遮蔽用組成物)が得られる。
【0041】
金属ナノ粒子として、銀ナノ粒子とともに、銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を含有させる場合には、上記(a)の方法で製造した銀ナノ粒子を含む分散体を第1分散体とし、上記(d)の方法で製造した銀ナノ粒子以外の金属ナノ粒子を含む分散体を第2分散体とすると、75質量%以上の第1分散体と25質量%未満の第2分散体とを第1及び第2分散体の合計含有量が100質量%となるように混合する。なお、第1分散体は、上記(a)の方法で製造した銀ナノ粒子を含む分散体に留まらず、上記(b)の方法で製造した銀ナノ粒子を含む分散体や上記(c)の方法で製造した銀ナノ粒子を含む分散体を使用しても良い。
【0042】
このように製造された分散体(電磁波遮蔽用組成物)を用いて電磁波遮蔽物を形成する方法を説明する。
【0043】
先ず上記分散体(電磁波遮蔽用組成物)を基材上に印刷する。焼成後の厚さは、要求される電磁波遮蔽能が得られるような表面抵抗値になるように印刷する。上記基材は、高分子材料からなる基板又は高分子材料を含む2層以上の積層体であることができる。更に上記印刷方法は、スプレーコーティング法、ディスペンサコーティング法、スピンコーティング法、ナイフコーティング法、スリットコーティング法、インクジェットコーティング法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法又はダイコーティング法のいずれかであることが特に好ましいが、これに限られるものではなく、あらゆる方法を利用できる。スプレーコーティング法は分散体を圧縮エアにより霧状にして基材に塗布したり、或いは分散体自体を加圧し霧状にして基材に塗布する方法であり、ディスペンサコーティング法は例えば分散体を注射器に入れこの注射器のピストンを押すことにより注射器先端の微細ノズルから分散体を吐出させて基材に塗布する方法である。スピンコーティング法は分散体を回転している基材上に滴下し、この滴下した分散体をその遠心力により基材周縁に拡げる方法であり、ナイフコーティング法はナイフの先端と所定の隙間をあけた基材を水平方向に移動可能に設け、このナイフより上流側の基材上に分散体を供給して基材を下流側に向って水平移動させる方法である。スリットコーティング法は分散体を狭いスリットから流出させて基材上に塗布する方法であり、インクジェットコーティング法は市販のインクジェットプリンタのインクカートリッジに分散体を充填し、基材上にインクジェット印刷する方法である。スクリーン印刷法は、パターン指示材として紗を用い、その上に作られた版画像を通して分散体を基材に転移させる方法である。オフセット印刷法は、版に付けた分散体を直接基材に付着させず、版から一度ゴムシートに転写させ、ゴムシートから改めて基材に転移させる、インクの撥水性を利用した印刷方法である。ダイコーティング法は、ダイ内に供給された分散体をマニホールドで分配させてスリットより薄膜上に押し出し、走行する基材の表面を塗工する方法である。ダイコーティング法には、スロットコート方式やスライドコート方式、カーテンコート方式がある。
【0044】
次に上面に印刷された基材を大気中で130〜400℃、好ましくは140〜200℃の温度に、3分間〜1時間、好ましくは15〜40分間保持して焼成する。ここで、基材上に印刷された分散体の膜の焼成温度を130〜400℃の範囲に限定したのは、130℃未満では金属ナノ粒子同士の焼結が不十分になるとともに保護剤の焼成時の熱により脱離或いは分解(分離・燃焼)し難いため、焼成後の電磁波遮蔽物内に有機残渣が多く残り、この残渣が変質又は劣化して導電性が低下してしまい、400℃を越えると低温プロセスという生産上のメリットを生かせない、即ち製造コストが増大し生産性が低下してしまうからである。更に基材上に印刷された分散体の膜の焼成時間を3分間〜1時間の範囲に限定したのは、3分間未満では金属ナノ粒子同士の焼結が不十分になるとともに保護剤の焼成時の熱により脱離或いは分解(分離・燃焼)し難いため、焼成後の電磁波遮蔽物内に有機残渣が多く残り、この残渣が変質又は劣化して電極の導電性が低下してしまい、1時間を越えると特性には影響しないけれども、必要以上に製造コストが増大して生産性が低下してしまうからである。
【0045】
上記電磁波遮蔽用組成物では、一次粒径50〜200nmとサイズの比較的大きい金属ナノ粒子を多く含むため、金属ナノ粒子の比表面積が減少し、保護剤の占める割合が小さくなる。この結果、上記組成物を用いて電磁波遮蔽物を形成すると、上記保護剤中の有機分子が焼成時の熱により脱離し又は分解し、或いは離脱しかつ分解することにより、実質的に有機物を含有しない銀を主成分とする遮蔽物が得られる。
【0046】
このように、本発明の電磁波遮蔽物の形成方法では、量産性に優れた印刷法と大気中での熱処理という簡易な方法で電磁波遮蔽物を形成できる。また130℃といった低い温度による焼成プロセスでも十分な導電性が得られるため、使用する基材の選択肢が広がり、例えば、高分子フィルムを基材に用いることができる。更に、本発明の形成方法は、エッチングのような高分子フィルムにダメージを与える工程がないため、経年安定性に優れた電磁波遮蔽物を得ることができる。
【0047】
また、上記遮蔽物の形成された電磁波遮蔽性構造体を長年使用しても、有機物が変質又は劣化するということがなく、遮蔽物の導電率が高い状態に維持されるので、経年安定性に優れた電磁波遮蔽物を得ることができる。具体的には、上記遮蔽物を、温度を100℃に保ちかつ湿度を50%に保った恒温恒湿槽に1000時間収容した後であっても、遮蔽物の導電性、即ち遮蔽物の体積抵抗率を2×10-5Ω・cm(20×10-6Ω・cm)未満と極めて低い値に維持できる。このようにして形成された遮蔽物を用いた電磁波遮蔽性構造体は、長年使用しても高導電率を維持することができ、経年安定性に優れる。
【実施例】
【0048】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0049】
<実施例1>
先ず硝酸銀を脱イオン水に溶解して金属塩水溶液を調製した。一方、クエン酸ナトリウムを脱イオン水に溶解させて得られた濃度26%のクエン酸ナトリウム水溶液に、温度35℃の窒素ガス気流中で粒状の硫酸第一鉄を直接加えて溶解させ、クエン酸イオンと第一鉄イオンを3:2のモル比で含有する還元剤水溶液を調製した。次に上記窒素ガス気流を温度35℃に保った状態で、マグネチックスターラーの撹拌子を100rpmの回転速度で回転させて上記還元剤水溶液を撹拌しながら、この還元剤水溶液に上記金属塩水溶液を滴下して混合した。ここで、金属塩水溶液の添加量は還元剤水溶液の量の1/10以下になるように、各溶液の濃度を調整することで、室温の金属塩水溶液を滴下しても反応温度が40℃に保持されるようにした。また上記還元剤水溶液と金属塩水溶液との混合比は、還元剤として加えられる第1鉄イオンの当量が、金属イオンの当量の3倍となるように調整した。金属塩水溶液の滴下が終了した後、混合液の撹拌を更に15分間続けて金属コロイドからなる分散液を得た。この分散液のpHは5.5であり、分散液中の金属粒子の化学量論的生成量は5g/リットルであった。この得られた分散液を室温で放置し、沈降した金属ナノ粒子の凝集物をデカンテーションにより分離した。この分離物に脱イオン水を加えて分散体とし、限外ろ過により脱塩処理した後、更に引き続いてメタノールで置換洗浄して、金属(銀)の含有量を50質量%にした。その後、遠心分離機を用いこの遠心分離機の遠心力を調整して粗粒子を分離することにより、銀ナノ粒子が一次粒径50〜200nmの銀ナノ粒子を数平均で70%含有するように調製した、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径50〜200nmの範囲内の銀ナノ粒子の占める割合が70%になるように調整した。調整した分散体にエチレングリコールを加え、エバポレーターによりメタノールを留去することにより、金属(銀)70質量%、エチレングリコール30質量%からなるペースト状の分散体を得た。この分散体を実施例1とした。なお、分散体中の銀ナノ粒子は炭素骨格が炭素数3の有機分子主鎖の保護剤で化学修飾された。更に銀ナノ粒子を化学修飾している保護剤は水酸基(−OH)を含有しなかったけれども、カルボニル基(−C=O)を含有した。なお、硫酸第一鉄中の鉄はメタノールによる置換洗浄時等に除去された。
【0050】
<実施例2>
実施例1と同様にして得られた分散液を室温で放置し、沈降した金属ナノ粒子の凝集物をデカンテーションにより分離した。この分離物に脱イオン水を加えて分散体とし、限外ろ過により脱塩処理した後、更に引き続いてエタノールで置換洗浄して、金属の含有量を50質量%にした。その後、遠心分離機を用いこの遠心分離機の遠心力を調整して粗粒子を分離することにより、銀ナノ粒子が一次粒径50〜200nmの銀ナノ粒子を数平均で75%含有するように調製した、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径50〜200nmの銀ナノ粒子の占める割合が75%になるように調整した。調整した分散体にエチレングリコールを加え、エバポレーターによりエタノールを留去することにより、金属(銀)70質量%、エチレングリコール30質量%からなるペースト状の分散体を得た。この分散体を実施例2とした。なお、分散体中の銀ナノ粒子は炭素骨格が炭素数3の有機分子主鎖の保護剤で化学修飾された。更に銀ナノ粒子を化学修飾している保護剤は水酸基(−OH)を含有しなかったけれども、カルボニル基(−C=O)を含有した。
【0051】
参考
還元剤水溶液の調製時にクエン酸ナトリウムに替えてりんご酸ナトリウムを用いたこと以外は実施例1と同様にして得られた分散液を室温で放置し、沈降した金属ナノ粒子の凝集物をデカンテーションにより分離した。この分離物に脱イオン水を加えて分散体とし、限外ろ過により脱塩処理した後、更に引き続いてメタノールで置換洗浄して、金属の含有量を50質量%にした。その後、遠心分離機を用いこの遠心分離機の遠心力を調整して粗粒子を分離することにより、銀ナノ粒子が一次粒径50〜200nmの銀ナノ粒子を数平均で75%含有するように調製した、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径50〜200nmの銀ナノ粒子の占める割合が75%になるように調整した。調整した分散体にエチレングリコールを加え、エバポレーターによりメタノールを留去することにより、金属(銀)70質量%、エチレングリコール30質量%からなるペースト状の分散体を得た。この分散体を参考とした。なお、分散体中の銀ナノ粒子は炭素骨格が炭素数2の有機分子主鎖の保護剤で化学修飾された。更に銀ナノ粒子を化学修飾している保護剤は水酸基(−OH)及びカルボニル基(−C=O)を含有した。
【0052】
参考
還元剤水溶液の調製時にクエン酸ナトリウムに替えてグリコール酸ナトリウムを用いたこと以外は実施例1と同様にして得られた分散液を室温で放置し、沈降した金属ナノ粒子の凝集物をデカンテーションにより分離した。この分離物に脱イオン水を加えて分散体とし、限外ろ過により脱塩処理した後、更に引き続いてメタノールで置換洗浄して、金属の含有量を50質量%にした。その後、遠心分離機を用いこの遠心分離機の遠心力を調整して粗粒子を分離することにより、銀ナノ粒子が一次粒径50〜200nmの銀ナノ粒子を数平均で75%含有するように調製した、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径50〜200nmの銀ナノ粒子の占める割合が75%になるように調整した。調整した分散体にエチレングリコールを加え、エバポレーターによりメタノールを留去することにより、金属(銀)70質量%、エチレングリコール30質量%からなるペースト状の分散体を得た。この分散体を参考とした。なお、分散体中の銀ナノ粒子は炭素骨格が炭素数1の有機分子主鎖の保護剤で化学修飾された。更に銀ナノ粒子を化学修飾している保護剤は水酸基(−OH)を含有しなかったけれども、カルボニル基(−C=O)を含有した。
【0053】
<実施例
実施例2と同様にしてエタノールで置換洗浄された分散体を、銀ナノ粒子が一次粒径50〜200nmの銀ナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径50〜200nmの銀ナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整して第1分散体を得た。一方、実施例2の硝酸銀を塩化金酸に替え、実施例2と同様にしてエタノールで置換洗浄された分散体を、金ナノ粒子が一次粒径50〜200nmの金ナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全ての金ナノ粒子100%に対する一次粒径50〜200nmの金ナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整して第2分散体を得た。次に第1分散体と第2分散体とを銀ナノ粒子が95質量%、金ナノ粒子が5質量%となるように混合した。混合した分散体にエチレングリコールを加え、エバポレーターによりエタノールを留去することにより、金属(銀)70質量%、エチレングリコール30質量%からなるペースト状の分散体を得た。この分散体を実施例とした。なお、分散体中の銀ナノ粒子及び金ナノ粒子は炭素骨格が炭素数3の有機分子主鎖の保護剤でそれぞれ化学修飾された。更に銀ナノ粒子及び金ナノ粒子を化学修飾している保護剤は水酸基(−OH)を含有しなかったけれども、カルボニル基(−C=O)を含有した。
【0054】
<実施例
実施例2と同様にしてエタノールで置換洗浄された分散体を、銀ナノ粒子が一次粒径50〜200nmの銀ナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径50〜200nmの銀ナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整して第1分散体を得た。一方、実施例2の硝酸銀を塩化白金酸に替え、実施例2と同様にしてエタノールで置換洗浄された分散体を、白金ナノ粒子が一次粒径50〜200nmの白金ナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全ての白金ナノ粒子100%に対する一次粒径50〜200nmの白金ナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整して第2分散体を得た。次に第1分散体と第2分散体とを銀ナノ粒子が95質量%、白金ナノ粒子が5質量%となるように混合した。混合した分散体にエチレングリコールを加え、エバポレーターによりエタノールを留去することにより、金属(銀)70質量%、エチレングリコール30質量%からなるペースト状の分散体を得た。この分散体を実施例とした。なお、分散体中の銀ナノ粒子及び白金ナノ粒子は炭素骨格が炭素数3の有機分子主鎖の保護剤でそれぞれ化学修飾された。更に銀ナノ粒子及び白金ナノ粒子を化学修飾している保護剤は水酸基(−OH)及びカルボニル基(−C=O)を含有した。
【0055】
<実施例
実施例2と同様にしてエタノールで置換洗浄された分散体を、銀ナノ粒子が一次粒径50〜200nmの銀ナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径50〜200nmの銀ナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整して第1分散体を得た。一方、実施例2の硝酸銀を硝酸パラジウムに替え、実施例2と同様にしてエタノールで置換洗浄された分散体を、パラジウムナノ粒子が一次粒径50〜200nmのパラジウムナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全てのパラジウムナノ粒子100%に対する一次粒径50〜200nmのパラジウムナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整して第2分散体を得た。次に第1分散体と第2分散体とを銀ナノ粒子が77質量%、パラジウムナノ粒子が23質量%となるように混合した。混合した分散体にエチレングリコールを加え、エバポレーターによりエタノールを留去することにより、金属(銀)70質量%、エチレングリコール30質量%からなるペースト状の分散体を得た。この分散体を実施例とした。なお、分散体中の銀ナノ粒子及びパラジウムナノ粒子は炭素骨格が炭素数3の有機分子主鎖の保護剤でそれぞれ化学修飾された。更に銀ナノ粒子及びパラジウムナノ粒子を化学修飾している保護剤は水酸基(−OH)及びカルボニル基(−C=O)を含有した。
【0056】
<実施例
実施例2と同様にしてエタノールで置換洗浄された分散体を、銀ナノ粒子が一次粒径50〜200nmの銀ナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径50〜200nmの銀ナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整して第1分散体を得た。一方、実施例2の硝酸銀を三塩化ルテニウムに替え、実施例2と同様にしてエタノールで置換洗浄された分散体を、ルテニウムナノ粒子が一次粒径50〜200nmのルテニウムナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全てのルテニウムナノ粒子100%に対する一次粒径50〜200nmのルテニウムナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整して第2分散体を得た。次に第1分散体と第2分散体とを銀ナノ粒子が76質量%、ルテニウムナノ粒子が24質量%となるように混合した。混合した分散体にエチレングリコールを加え、エバポレーターによりエタノールを留去することにより、金属(銀)70質量%、エチレングリコール30質量%からなるペースト状の分散体を得た。この分散体を実施例とした。なお、分散体中の銀ナノ粒子及びルテニウムナノ粒子は炭素骨格が炭素数3の有機分子主鎖の保護剤でそれぞれ化学修飾された。更に銀ナノ粒子及びルテニウムナノ粒子を化学修飾している保護剤は水酸基(−OH)を含有しなかったけれども、カルボニル基(−C=O)を含有した。
【0057】
<実施例
実施例2と同様にしてエタノールで置換洗浄された分散体を、銀ナノ粒子が一次粒径50〜200nmの銀ナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径50〜200nmの銀ナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整して第1分散体を得た。一方、実施例2の硝酸銀を塩化ニッケルに替え、実施例2と同様にしてエタノールで置換洗浄された分散体を、ニッケルナノ粒子が一次粒径50〜200nmのニッケルナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全てのニッケルナノ粒子100%に対する一次粒径50〜200nmのニッケルナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整して第2分散体を得た。次に第1分散体と第2分散体とを銀ナノ粒子が76質量%、ニッケルナノ粒子が24質量%となるように混合した。混合した分散体にエチレングリコールを加え、エバポレーターによりエタノールを留去することにより、金属(銀)70質量%、エチレングリコール30質量%からなるペースト状の分散体を得た。この分散体を実施例とした。なお、分散体中の銀ナノ粒子及びニッケルナノ粒子は炭素骨格が炭素数3の有機分子主鎖の保護剤で化学修飾された。更に銀ナノ粒子及びニッケルナノ粒子を化学修飾している保護剤は水酸基(−OH)を含有しなかったけれども、カルボニル基(−C=O)を含有した。
【0058】
<実施例
実施例2と同様にしてエタノールで置換洗浄された分散体を、銀ナノ粒子が一次粒径50〜200nmの銀ナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径50〜200nmの銀ナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整して第1分散体を得た。一方、実施例2の硝酸銀を硝酸第一銅に替え、実施例2と同様にしてエタノールで置換洗浄された分散体を、銅ナノ粒子が一次粒径50〜200nmの銅ナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全ての銅ナノ粒子100%に対する一次粒径50〜200nmの銅ナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整して第2分散体を得た。次に第1分散体と第2分散体とを銀ナノ粒子が76質量%、銅ナノ粒子が24質量%となるように混合した。混合した分散体にエチレングリコールを加え、エバポレーターによりエタノールを留去することにより、金属(銀)70質量%、エチレングリコール30質量%からなるペースト状の分散体を得た。この分散体を実施例とした。なお、分散体中の銀ナノ粒子及び銅ナノ粒子は炭素骨格が炭素数3の有機分子主鎖の保護剤でそれぞれ化学修飾された。更に銀ナノ粒子及び銅ナノ粒子を化学修飾している保護剤は水酸基(−OH)を含有しなかったけれども、カルボニル基(−C=O)を含有した。
【0059】
<実施例
実施例2と同様にしてエタノールで置換洗浄された分散体を、銀ナノ粒子が一次粒径50〜200nmの銀ナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径50〜200nmの銀ナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整して第1分散体を得た。一方、実施例2の硝酸銀を二塩化錫に替え、実施例2と同様にしてエタノールで置換洗浄された分散体を、錫ナノ粒子が一次粒径50〜200nmの錫ナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全ての錫ナノ粒子100%に対する一次粒径50〜200nmの錫ナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整して第2分散体を得た。次に第1分散体と第2分散体とを銀ナノ粒子が76質量%、錫ナノ粒子が24質量%となるように混合した。混合した分散体にエチレングリコールを加え、エバポレーターによりエタノールを留去することにより、金属(銀)70質量%、エチレングリコール30質量%からなるペースト状の分散体を得た。この分散体を実施例とした。なお、分散体中の銀ナノ粒子及び錫ナノ粒子は炭素骨格が炭素数3の有機分子主鎖の保護剤でそれぞれ化学修飾された。更に銀ナノ粒子及び錫ナノ粒子を化学修飾している保護剤は水酸基(−OH)を含有しなかったけれども、カルボニル基(−C=O)を含有した。
【0060】
<実施例10
実施例2と同様にしてエタノールで置換洗浄された分散体を、銀ナノ粒子が一次粒径50〜200nmの銀ナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径50〜200nmの銀ナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整して第1分散体を得た。一方、実施例2の硝酸銀を硝酸インジウムに替え、実施例2と同様にしてエタノールで置換洗浄された分散体を、インジウムナノ粒子が一次粒径50〜200nmのインジウムナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全てのインジウムナノ粒子100%に対する一次粒径50〜200nmのインジウムナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整して第2分散体を得た。次に第1分散体と第2分散体とを銀ナノ粒子が80質量%、インジウムナノ粒子が20質量%となるように混合した。混合した分散体にエチレングリコールを加え、エバポレーターによりエタノールを留去することにより、金属(銀)70質量%、エチレングリコール30質量%からなるペースト状の分散体を得た。この分散体を実施例10とした。なお、分散体中の銀ナノ粒子及びインジウムナノ粒子は炭素骨格が炭素数3の有機分子主鎖の保護剤でそれぞれ化学修飾された。更に銀ナノ粒子及びインジウムナノ粒子を化学修飾している保護剤は水酸基(−OH)を含有しなかったけれども、カルボニル基(−C=O)を含有した。
【0061】
<実施例11
実施例2と同様にしてエタノールで置換洗浄された分散体を、銀ナノ粒子が一次粒径50〜200nmの銀ナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径50〜200nmの銀ナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整して第1分散体を得た。一方、実施例2の硝酸銀を塩化亜鉛に替え、実施例2と同様にしてエタノールで置換洗浄された分散体を、亜鉛ナノ粒子が一次粒径50〜200nmの亜鉛ナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全ての亜鉛ナノ粒子100%に対する一次粒径50〜200nmの亜鉛ナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整して第2分散体を得た。次に第1分散体と第2分散体とを銀ナノ粒子が80質量%、亜鉛ナノ粒子が20質量%となるように混合した。混合した分散体にエチレングリコールを加え、エバポレーターによりエタノールを留去することにより、金属(銀)70質量%、エチレングリコール30質量%からなるペースト状の分散体を得た。この分散体を実施例11とした。なお、分散体中の銀ナノ粒子及び亜鉛ナノ粒子は炭素骨格が炭素数3の有機分子主鎖の保護剤でそれぞれ化学修飾された。更に銀ナノ粒子及び亜鉛ナノ粒子を化学修飾している保護剤は水酸基(−OH)を含有しなかったけれども、カルボニル基(−C=O)を含有した。
【0062】
<実施例12
実施例2と同様にしてエタノールで置換洗浄された分散体を、銀ナノ粒子が一次粒径50〜200nmの銀ナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径50〜200nmの銀ナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整して第1分散体を得た。一方、実施例2の硝酸銀を硫酸クロムに替え、実施例2と同様にしてエタノールで置換洗浄された分散体を、クロムナノ粒子が一次粒径50〜200nmのクロムナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全てのクロムナノ粒子100%に対する一次粒径50〜200nmのクロムナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整して第2分散体を得た。次に第1分散体と第2分散体とを銀ナノ粒子が95質量%、クロムナノ粒子が5質量%となるように混合した。混合した分散体にエチレングリコールを加え、エバポレーターによりエタノールを留去することにより、金属(銀)70質量%、エチレングリコール30質量%からなるペースト状の分散体を得た。この分散体を実施例12とした。なお、分散体中の銀ナノ粒子及びクロムナノ粒子は炭素骨格が炭素数3の有機分子主鎖の保護剤でそれぞれ化学修飾された。更に銀ナノ粒子及びクロムナノ粒子を化学修飾している保護剤は水酸基(−OH)を含有しなかったけれども、カルボニル基(−C=O)を含有した。
【0063】
<実施例13
実施例2と同様にしてエタノールで置換洗浄された分散体を、銀ナノ粒子が一次粒径50〜200nmの銀ナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径50〜200nmの銀ナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整して第1分散体を得た。一方、実施例2の硝酸銀を硫酸マンガンに替え、実施例2と同様にしてエタノールで置換洗浄された分散体を、マンガンナノ粒子が一次粒径50〜200nmのマンガンナノ粒子を数平均で75%含有するように、即ち数平均で全てのマンガンナノ粒子100%に対する一次粒径50〜200nmのマンガンナノ粒子の占める割合が75%になるように、遠心分離機により調整して第2分散体を得た。次に第1分散体と第2分散体とを銀ナノ粒子が95質量%、マンガンナノ粒子が5質量%となるように混合した。混合した分散体にエチレングリコールを加え、エバポレーターによりエタノールを留去することにより、金属(銀)70質量%、エチレングリコール30質量%からなるペースト状の分散体を得た。この分散体を実施例13とした。なお、分散体中の銀ナノ粒子及びマンガンナノ粒子は炭素骨格が炭素数3の有機分子主鎖の保護剤でそれぞれ化学修飾された。更に銀ナノ粒子及びマンガンナノ粒子を化学修飾している保護剤は水酸基(−OH)を含有しなかったけれども、カルボニル基(−C=O)を含有した。
【0064】
<比較例1>
実施例1と同様にして得られた分散液を室温で放置し、沈降した金属ナノ粒子の凝集物をデカンテーションにより分離した。この分離物に脱イオン水を加えて分散体とし、限外ろ過により脱塩処理した後、更に引き続いてメタノールで置換洗浄して、金属の含有量を50質量%にした。その後、遠心分離機を用いこの遠心分離機の遠心力を調整して粗粒子を分離することにより、銀ナノ粒子が一次粒径50〜200nmの銀ナノ粒子を数平均で50%含有するように調製した、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径50〜200nmの銀ナノ粒子の占める割合が50%になるように調整した。調整した分散体にエチレングリコールを加え、エバポレーターによりメタノールを留去することにより、金属(銀)70質量%、エチレングリコール30質量%からなるペースト状の分散体を得た。この分散体を比較例1とした。なお、分散体中の銀ナノ粒子は炭素骨格が炭素数3の有機分子主鎖の保護剤で化学修飾された。
【0065】
<比較例2>
還元剤水溶液の調製時にクエン酸ナトリウムに替えてメバロン酸ナトリウムを用いたこと以外は実施例1と同様にして得られた分散液を室温で放置し、沈降した金属ナノ粒子の凝集物をデカンテーションにより分離した。この分離物に脱イオン水を加えて分散体とし、限外ろ過により脱塩処理した後、更に引き続いてエタノールで置換洗浄して、金属の含有量を50質量%にした。その後、遠心分離機を用いこの遠心分離機の遠心力を調整して粗粒子を分離することにより、銀ナノ粒子が一次粒径50〜200nmの銀ナノ粒子を数平均で75%含有するように調製した、即ち数平均で全ての銀ナノ粒子100%に対する一次粒径50〜200nmの銀ナノ粒子の占める割合が75%になるように調整した。調整した分散体にエチレングリコールを加え、エバポレーターによりエタノールを留去することにより、金属(銀)70質量%、エチレングリコール30質量%からなるペースト状の分散体を得た。この分散体を比較例2とした。なお、分散体中の銀ナノ粒子は炭素骨格が炭素数4の有機分子主鎖の保護剤で化学修飾された。
【0066】
<比較試験1及び評価>
基材として表面がPETからなる基板を用意し、実施例1〜13、参考例1〜2及び比較例1〜2の分散体を基板上に、焼成後の膜厚が4μmとなるようにバーコーターにより塗布した。続いて、塗膜を有する基板を大気中、次の表1に示される温度で焼成することにより、基板上に金属膜を形成した。これらの金属膜を形成した基板について、耐候性試験を行う前に、各基板に形成された金属膜の導電性を測定するとともに、耐候性試験を行った後に、各基板に形成された金属膜の導電性を測定した。その結果を、表1に示す。
【0067】
なお、耐候性試験は、金属膜の形成された基板を、温度を100℃に保ち湿度を50%に保った恒温恒湿槽に1000時間収容することにより行った。
【0068】
なお、表1中における、金属ナノ粒子の一次粒径は、FE−TEM(電界放出型透過電子顕微鏡:日本電子社製)を用いて計測し、一次粒径50〜200nmの銀ナノ粒子の占める割合は、上記FE−TEMを用いて撮影した金属ナノ粒子の一次粒径の写真から画像処理により粒子径の数を計測して評価した。
【0069】
また導電性は、四端子法により測定し算出した体積抵抗率(Ω・cm)として求めた。具体的には、金属膜の体積抵抗率は、先ず焼成後の金属膜の厚さをSEM(電子顕微鏡S800:日立製作所社製)を用いて金属膜断面から金属膜の厚さを直接計測し、次に四端子法による比抵抗測定器(ロレスタ:三菱化学社製)を用い、この測定器に上記実測した金属膜の厚さを入力して測定した。
【0070】
更に水酸基(−OH)、カルボニル基(−C=O)の有無は、XPS(Quantum 2000:PHI社製のX線光電子分光分析装置)、TOF−SIMS(TOF-SIMS IV:ION-TOF社製の飛行時間型二次イオン質量分析装置)、FTIR(NEXUS 670:Nicolet社製のフーリエ変換赤外分光光度計)及びTPD−MS(5973N:Agilent社製の昇温熱脱離・質量分析装置)を用いた機器分析を併用して存在を確認した。
【0071】
表1には、実施例1〜13、参考例1〜2及び比較例1,2の分散体における一次粒径50〜200nmの金属ナノ粒子の占める割合と、有機分子主鎖の炭素数と、異種金属(銀以外の金属)の種類及び含有率(銀と銀以外の金属の合計を100質量%としたときの異種金属の含有率)とを併せて示した。表1の耐候性の欄において、『良好』とは、体積抵抗率が20×10-6Ω・cm未満であった場合を示し、『不良』とは、体積抵抗率が20×10-6Ω・cm以上であった場合を示す。
【0072】
【表1】

表1から明らかなように、比較例1では、焼成直後、即ち耐候性試験前の金属膜の体積抵抗率は13×10-6Ω・cmであり、初期特性はほぼ満足するものであったけれども、耐候性試験を行った後は、金属膜の体積抵抗率が低下(経年劣化)して不良となった。また、比較例2では、耐候性試験前の金属膜の体積抵抗率において不十分であり、耐候性試験後の金属膜の体積抵抗率も不良となった。これらに対し、実施例では、耐候性試験前及び耐候性試験後のいずれであっても、金属膜の体積抵抗率が20×10-6Ω・cm未満であり、耐候性試験前の初期特性も耐候性も十分に満足するものとなった。
【0073】
なお、この比較試験における評価は、金属塗膜を簡便に塗工するためにバーコーターを用いたが、実用上は、金属ナノ粒子分散液のレオロジー特性をインクジェット印刷法やスクリーン印刷法、グラビア印刷法といった各種印刷法に適したものに調整した上で、各種印刷法を適用すればよく、上記種類の印刷法によっても同様の評価が得られることを確認している。
【0074】
<比較試験2>
基材として表面がPETからなる基板を3枚用意し、実施例2の分散体を基板上に、焼成後の膜厚が1μmとなるようにバーコーターにより塗布した。続いて、塗膜を有する基板を大気中、次の表2に示される温度(150℃、130℃、120℃)でそれぞれ焼成することにより、基板上に金属膜を形成した。これらの金属膜を形成した基板について、耐候性試験を行う前に、各基板に形成された金属膜の導電性を測定するとともに、耐候性試験を行った後に、各基板に形成された金属膜の導電性を測定した。なお、耐候性試験及び導電性測定は、上記比較試験1と同様の方法により行った。その結果を、表2に示す。
【0075】
【表2】

表2より明らかなように、焼成温度が下がるにつれて、焼成直後、即ち耐候性試験前の金属膜の体積抵抗率が高くなる傾向が見られた。そして、120℃での焼成では、極端に体積抵抗率が高くなることが確認された。これは120℃と低温での焼成では、金属ナノ粒子同士の焼結が不十分になったこと、焼成後の電磁波遮蔽物内に有機残渣が多く残り、この残渣が変質又は劣化して導電性が低下してしまったものと考えられる。
【0076】
また、120℃での焼成膜は、耐候性試験を行った後は、金属膜の体積抵抗率が低下(経年劣化)して不良となった。このことから、本発明の電磁波遮蔽用組成物を用いて電磁波遮蔽物を形成する場合、130℃以上の焼成温度が必要であることが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ナノ粒子が分散媒に分散した電磁波遮蔽用組成物であって、
前記金属ナノ粒子が75質量%以上の銀ナノ粒子を含有し、
前記金属ナノ粒子は炭素骨格が炭素数3の有機分子主鎖の保護剤で化学修飾され、
前記金属ナノ粒子が一次粒径50〜200nmの範囲内の金属ナノ粒子を数平均で70%以上含有することを特徴とする電磁波遮蔽用組成物。
【請求項2】
前記金属ナノ粒子を化学修飾する前記保護剤がカルボニル基又は水酸基のいずれか一方又は双方を含む請求項1記載の電磁波遮蔽用組成物。
【請求項3】
前記分散媒が水と相溶する有機溶媒であり、
前記有機溶媒がメタノール、エタノール、2−プロパノール、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールエーテル類、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド類、アセトン等のケトン類からなる群より選ばれた1種又は2種以上である請求項1又は2記載の電磁波遮蔽用組成物。
【請求項4】
Au、Pt、Pd、Ru、Ni、Cu、Sn、In、Zn、Fe、Cr及びMnからなる群より選ばれた1種又は2種以上の混合組成又は合金組成からなる金属ナノ粒子を0.02質量%以上かつ25質量%未満含有する請求項1ないし3いずれか1項に記載の電磁波遮蔽用組成物。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか1項に記載の電磁波遮蔽用組成物を製造する方法であって、
硝酸銀を水に溶解して金属塩水溶液を調製する工程と、
クエン酸ナトリウム水溶液に硫酸第一鉄を加えて溶解させることにより還元剤水溶液を調製する工程と、
前記還元剤水溶液に前記金属塩水溶液を滴下して混合、攪拌することにより金属コロイドからなる分散液を調製する工程と、
前記分散液を室温で放置し、沈降した金属ナノ粒子の凝集物を分離した後、得られた分離物に水を加えて分散体とする工程と
を含む電磁波遮蔽用組成物の製造方法。
【請求項6】
前記還元剤水溶液に前記金属塩水溶液を滴下して混合、攪拌する際の反応温度を30〜60℃、攪拌時間を10〜300分間とし、
前記分散体とする工程の後、前記分散体を限外ろ過により脱塩処理し、更に水と相溶する有機溶媒で置換洗浄する工程とを含む請求項5記載の電磁波遮蔽用組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし4いずれか1項に記載の電磁波遮蔽用組成物を基材上に印刷する工程と、
前記上面に印刷された基材を130〜400℃で焼成する工程と
を含む電磁波遮蔽物の形成方法。
【請求項8】
基材が高分子材料からなる基板又は高分子材料を含む2層以上の積層体である請求項記載の電磁波遮蔽物の形成方法。
【請求項9】
印刷方法がインクジェット印刷法、ディスペンサコーティング法、スプレーコーティング法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、凸版印刷法、フレキソ印刷法又はオフセット印刷法のいずれかである請求項又は記載の電磁波遮蔽物の形成方法。
【請求項10】
請求項ないしいずれか1項に記載の形成方法により得られた電磁波遮蔽物が形成されたことを特徴とする電磁波遮蔽性構造体。

【公開番号】特開2012−256922(P2012−256922A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−175590(P2012−175590)
【出願日】平成24年8月8日(2012.8.8)
【分割の表示】特願2008−151468(P2008−151468)の分割
【原出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】