説明

電磁誘導加熱コイル、電磁誘導加熱装置及び金属体の加熱方法

【課題】金属体を移動させながら、該金属体を電磁誘導により加熱するための電磁誘導加熱コイルであって、金属体を均一に加熱することができる電磁誘導加熱コイルを提供する。
【解決手段】本発明に係る電磁誘導加熱コイル1は、金属体を移動させながら、該金属体を電磁誘導により加熱するための電磁誘導加熱コイルである。コイル1は、長さ方向と幅方向とを有する。コイル1は、2層以上に導線が巻かれて形成されており、2層以上に導線が巻かれていることによって、導線の積層方向に並んで配置された第1の巻き導線部11と第2の巻き導線部12とを有する。コイル1は、コイル1の長さ方向の一端1a側において、第1の巻き導線部11と第2の巻き導線部12とが互いに重なり合っていない領域を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属体を移動させながら、該金属体を電磁誘導により加熱する用途に用いられる電磁誘導加熱コイル、並びに該電磁誘導加熱コイルを用いた電磁誘導加熱装置に関する。また、本発明は、電磁誘導加熱コイルに電流を流すことにより渦電流を発生させ、上記金属体を加熱する金属体の加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属を加熱する方法として、電磁誘導加熱を用いる方法が知られている。金属体上に配置された電磁誘導加熱コイルに電流を流して、強力な磁場を発生させると、電磁誘導により渦電流が発生し、金属体が加熱される。
【0003】
例えば、下記の特許文献1には、予め定められた流れ方向に送られる金属体などのストリップを電磁誘導により加熱するための電気誘導加熱装置が開示されている。特許文献1に記載の電磁誘導加熱装置は、上記ストリップの板幅方向に、互いに並列に且つ上記ストリップと対向するように配列された複数個の磁極セグメントと、各磁極セグメントを上記ストリップの厚み方向に、他の磁極セグメントとは独立に移動させるための駆動機構と、上記複数個の磁極セグメントをそれぞれ取り囲むように設けられた電磁誘導加熱コイルとを有する。特許文献1に記載の電磁誘導加熱装置は、上記ストリップのエッジ部が局所的に高温に加熱されるのを抑制するために、上記ストリップのエッジ部を冷却するための冷却手段をさらに有する。該冷却手段は、ストリップのエッジ部に渦電流が集中して、エッジ部が他の部分よりも加熱されるのを抑制するために設けられている。冷却手段としては、具体的には、エアーブローノズルにより、局所的に加熱されやすい上記ストリップのエッジ部に、エアーを吹き付ける手段が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−6860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の電磁誘導加熱装置に記載のように、エアーブローノズルなどの冷却手段を用いて、局所的に加熱されやすい金属体部分を冷却する方法では、金属体の温度を高精度に制御することは困難である。具体的には、金属体が局所的に高温に加熱されるのを十分に抑制できなかったり、逆に局所的に温度が低下してしまったりすることがある。さらに、特許文献1に記載の電磁誘導加熱装置では、エアーブローノズルなどの冷却手段を別途設けなければならず、かつエアーの吹き付け速度及び吹き付け量などを制御しなければならない。
【0006】
本発明の目的は、金属体を移動させながら、該金属体を電磁誘導により加熱するための電磁誘導加熱コイルであって、金属体を均一に加熱することができる電磁誘導加熱コイル、並びに該電磁誘導加熱コイルを用いた電磁誘導加熱装置及び金属体の加熱方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電磁誘導加熱コイルは、金属体を移動させながら、該金属体を電磁誘導により加熱するための電磁誘導加熱コイルであって、長さ方向と幅方向とを有し、2層以上に導線が巻かれて形成されており、2層以上に上記導線が巻かれていることによって、導線の積層方向に並んで配置された第1の巻き導線部と第2の巻き導線部とを有し、コイルの長さ方向の一端側において、上記第1の巻き導線部と上記第2の巻き導線部とが互いに重なり合っていない領域を有する、電磁誘導加熱コイルが提供される。
【0008】
本発明に係る電磁誘導加熱コイルのある特定の局面では、コイルの長さ方向の一端側においてコイルの長さ方向にずれていることによって、上記第1の巻き導線部と上記第2の巻き導線部とは、上記重なり合っていない領域を有する。
【0009】
本発明に係る電磁誘導加熱コイルの他の特定の局面では、上記第1の巻き導線部と上記第2の巻き導線部とは、上記重なり合っていない領域に、巻かれた上記導線が曲線状に延びる曲線部を有する。
【0010】
本発明に係る電磁誘導加熱コイルの他の特定の局面では、上記第1の巻き導線部と上記第2の巻き導線部とは、上記重なり合っていない領域全体に、上記曲線部を有する。
【0011】
本発明に係る電磁誘導加熱コイルの別の特定の局面では、上記第1,第2の巻き導線部はそれぞれ、巻かれた上記導線が直線状に延びる第1の直線部と、巻かれた上記導線が直線状に延びる第2の直線部と、該第1の直線部に一端が連なっておりかつ該第2の直線部に他端が連なっている上記曲線部とを有する。
【0012】
本発明に係る電磁誘導加熱コイルのさらに別の特定の局面では、上記曲線部が、コイルの長さ方向の外側に向かって突出した円弧状である。
【0013】
コイルの長さ方向における上記第1の巻き導線部と上記第2の巻き導線部とのずれの最大距離は、7mm以上、16mm以下であることが好ましい。
【0014】
本発明に係る電磁誘導加熱コイルの他の特定の局面では、上記第1の巻き導線部と上記第2の巻き導線部とが、1本の同じ導線により形成されている。
【0015】
本発明に係る電磁誘導加熱装置は、本発明に従って構成された電磁誘導加熱コイルと、該電磁誘導加熱コイルに電流を流すための電流供給装置とを備える。
【0016】
また、本発明の広い局面によれば、金属体の少なくとも一方の表面上に、本発明に従って構成された電磁誘導加熱コイルを、上記第1の巻き導線部と上記第2の巻き導線部とが互いに重なり合っていない領域が上記金属体の表面に対向するように配置して、上記金属体を移動させ、かつ上記電磁誘導加熱コイルに電流を流すことにより渦電流を発生させ、上記金属体を加熱する、金属体の加熱方法が提供される。
【0017】
本発明に係る金属体の加熱方法のある特定の局面では、上記金属体の移動方向と直交する方向と、上記電磁誘導加熱コイルの長さ方向とが略平行となるように、上記電磁誘導加熱コイルを配置して、上記金属体を加熱する。
【0018】
本発明に係る金属体の加熱方法の他の特定の局面では、上記金属体と上記電磁誘導加熱コイルとの間の隙間の距離が、コイルの長さ方向における上記第1の巻き導線部と上記第2の巻き導線部とのずれの最大距離の0.74倍以上となるように、上記金属体と上記電磁誘導加熱コイルとを配置して、上記金属体を加熱する。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る電磁誘導加熱コイルは、長さ方向と幅方向とを有し、2層以上に導線が巻かれて形成されており、2層以上に上記導線が巻かれていることによって、導線の積層方向に並んで配置された第1の巻き導線部と第2の巻き導線部とを有し、コイルの長さ方向の一端側において、上記第1の巻き導線部と上記第2の巻き導線部とが互いに重なり合っていない領域を有するので、本発明に係る電磁誘導加熱コイルを用いて、金属体を移動させながら、該金属体を電磁誘導により加熱したときに、金属体を均一に加熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る電磁誘導加熱コイルを備えた電磁誘導加熱装置を示す斜視図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態に係る電磁誘導加熱コイルを備えた電磁誘導加熱装置を示す平面図である。
【図3】図3は、図1に示す電磁誘導加熱装置と金属体との位置関係を説明するための図である。
【図4】図4は、図1に示す電磁誘導加熱コイルの金属体の表面上における他の配置例を示す正面図である。
【図5】図5(a)〜(c)は、電磁誘導加熱コイルの重なり合っていない部分のずれ距離を説明するための図である。
【図6】図6は、図1に示す電磁誘導加熱コイルの金属体の表面上における他の配置例を示す正面図である。
【図7】図7は、図1に示す電磁誘導加熱コイルの金属体の表面上における別の配置例を示す正面図である。
【図8】図8は、電磁誘導加熱コイルの変形例を示す平面図である。
【図9】図9は、電磁誘導加熱コイルの他の変形例を示す正面図である。
【図10】図10は、図1に示す電磁誘導加熱コイルの用途の一例を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0022】
図1に、本発明の一実施形態に係る電磁誘導加熱コイルを備えた電磁誘導加熱装置を斜視図で示す。図2に、図1に示す電磁誘導加熱装置を平面図で示す。図1〜2では、電磁誘導加熱装置の電磁誘導加熱コイルが、金属体の表面上に配置された状態が示されている。
【0023】
図1〜2に示す電磁誘導加熱装置21は、コイル1を備える。コイル1は、電磁誘導加熱コイルである。具体的には、コイル1は、金属体22を移動させながら、金属体22を電磁誘導により加熱するための電磁誘導加熱コイルである。コイル1は、金属体22を移動させながら、金属体22を電磁誘導により加熱する用途に用いられる。金属体22は、被加熱体である。
【0024】
図1〜2では、金属体22の第1の表面22a上に、電磁誘導加熱コイル1が配置されている。金属体22を加熱する際には、例えば、金属体22を矢印Xで示す方向に移動させる。金属体22は、長尺状であり、長さ方向と幅方向とを有する。図1〜2では、金属体22は、該金属体22の長さ方向に移動される。金属体22は、例えば、板状体である。
【0025】
コイル1は、長さ方向と幅方向とを有する。コイル1は、2層以上に導線が巻かれて形成されている。該導線は、コイル1が長さ方向と幅方向とを有するように巻かれている。コイル1は、導線が環状に巻かれて形成されている。
【0026】
コイル1の長さ方向の一端1a側において、導線は2層以上に積層されており、コイルの長さ方向の他端1b側において、導線は2層以上に積層されていない。電磁誘導加熱コイルの一部の領域及び導線の一部の領域は、2層以上に積層されていなくてもよい。例えば、電磁誘導加熱コイルの長さ方向の一端側において、導線が2層以上に積層されており、電磁誘導加熱コイルの長さ方向の他端側において、導線が2層以上に積層されていなくてもよい。なお、他端1bは、導線が巻かれている部分を示し、導線が巻かれていない部分を除くこととする。
【0027】
2層以上に導線が巻かれていることによって、コイル1は、導線の積層方向に並んで配置された第1の巻き導線部11と第2の巻き導線部12とを有する。
【0028】
コイル1は、1本の導線により形成されている。第1の巻き導線部11と第2の巻き導線部12とは、1本の同じ導線により形成されている。コイル1を形成する導線の両端は、コイル1に電流を流すための電流供給装置23に接続されている。電流供給装置23は、コイル1の他端1b側に配置されている。
【0029】
コイル1は、コイル1の長さ方向の一端1a側において、導線の積層方向に並んで配置された第1の巻き導線部11と第2の巻き導線部12とが、互いに重なり合っていない領域Rを有する。具体的には、コイル1では、コイル1の長さ方向において、第1の巻き導線部11が内側に、第2の巻き導線部12が外側にずれるように、第1,第2の巻き導線部11,12が形成されている。言い換えれば、第1の巻き導線部11が、相対的に小さく巻かれており、第2の巻き導線部12が相対的に大きく巻かれている。
【0030】
本実施形態の主な特徴の一つは、コイル1の長さ方向の一端1a側において、導線の積層方向に並んで配置された第1の巻き導線部11と第2の巻き導線部12とが互いに重なり合っていない領域Rを、コイル1が有することである。
【0031】
コイル1は、導線の積層方向において、第1の巻き導線部11と第2の巻き導線部12とが互いに重なり合っていない領域Rを有する。仮に、電磁誘導加熱コイルの長さ方向の一端側において、第1,第2の巻き導線部が、互いに重なり合っている場合には、該重なり合っている領域に対向する金属体部分に、渦電流が集中し、金属体が局所的に高温に加熱されやすい。これに対して、上記重なり合っていない領域Rを設けることにより、該重なり合っていない領域Rに対向する金属体部分に、渦電流が集中し難くなり、金属体が局所的に加熱されるのを抑制でき、金属体を均一に加熱することができる。
【0032】
コイル1は、コイル1の長さ方向の一端1a側においてコイル1の長さ方向にずれていることによって、第1の巻き導線部11と第2の巻き導線部12とが重なり合っていない領域Rを有する。このように、重なり合っていない領域Rは、コイル1の長さ方向の一端1aにおいてコイル1の長さ方向にずれていることによって設けられていることが好ましい。このような特定の方向のずれにより重なり合っていない領域Rを設けることにより、金属体が局所的に加熱されるのをより一層効果的に抑制できる。
【0033】
第1の巻き導線部11は、重なり合っていない領域R全体に、巻かれた導線が曲線状に延びる曲線部11aを有する。第2の巻き導線部12は、重なり合っていない領域R全体に、巻かれた導線が曲線状に延びる曲線部12aを有する。曲線部11a,12aは、コイルの長さ方向の外側に向かって突出した円弧状である。曲線部11a,12aは、コイル1の長さ方向の一端に位置している。このように、第1の巻き導線部11と第2の巻き導線部12とが、重なり合っていない領域R全体に曲線部11a,12aを有すると、コイル1の長さ方向の一端1aに対向する金属体22部分に渦電流がより一層集中し難くなり、金属体22が局所的に加熱されるのをより一層効果的に抑制できる。また、曲線部11a,12aが、コイルの長さ方向の外側に向かって突出した円弧状であれば、金属体22をより一層均一に加熱することができる。
【0034】
第1の巻き導線部11は、巻かれた導線が直線状に延びる第1の直線部11bと、巻かれた導線が直線状に延びる第2の直線部11cと、第1の直線部11bに一端が連なっておりかつ第2の直線部11cに他端が連なっている曲線部11aとを有する。第1,第2の直線部11b,11cは、コイル1の長さ方向に延びている。第1の直線部11bと第2の直線部11cとは、略平行に配置されている。第1の直線部11bと第2の直線部11cとは、対向している。
【0035】
第2の巻き導線部12は、巻かれた導線が直線状に延びる第1の直線部12bと、巻かれた導線が直線状に延びる第2の直線部12cと、第1の直線部12bに一端に連なっておりかつ第2の直線部12cに他端が連なっている曲線部12aとを有する。第1,第2の直線部12b,12cは、コイル1の長さ方向に延びている。第1の直線部12bと第2の直線部12cとは、略平行に配置されている。第1の直線部12bと第2の直線部12cとは、対向している。
【0036】
このように、2つの第1,第2の直線部が1つの曲線部に連なっている場合には、曲線部に対向する金属体部分が他の部分よりも高温に加熱されやすくなる傾向がある。しかし、導線の積層方向に曲線部11aと曲線部12aとが重なり合っていないことによって、曲線部11a,12aに対向する金属体部分が他の部分よりも高温に加熱され難くなる。この結果、金属体22をむらなく均一に加熱することができる。
【0037】
なお、第1の巻き導線部11の第2の直線部11cは、曲線部13の一端に連なっており、第2の巻き導線部12の第1の直線部12bは、曲線部13の他端に連なっている。従って、コイル1は、第1の直線部11bと、曲線部11aと、第2の直線部11cと、曲線部13と、第1の直線部12bと、曲線部12aと、第2の直線部12cとがこの順で連なっている。第1の直線部11bの曲線部11a側とは反対側の端部が、電流供給装置23に接続されている。第2の直線部11cの曲線部12a側とは反対側の端部が、電流供給装置23に接続されている。
【0038】
図1〜3に示すように、電磁誘導加熱コイル1を備えた電磁誘導加熱装置21を用いて、金属体22を加熱する際には、金属体22の第1の表面22a上に、電磁誘導加熱コイル1を配置する。このとき、第1の巻き導線部11と第2の巻き導線部12とが重なり合っていない領域Rが金属体22の第1の表面22aに対向するように、コイル1を配置する。すなわち、重なり合っていない領域Rが、金属体22の第1の表面22a上に位置するように、コイル1を配置する。
【0039】
ここでは、第1の巻き導線部11が金属体22側、第2の巻き導線部12が金属体22側とは反対側となるように、コイル1が配置されている。コイル1の長さ方向の一端1a側において、金属体22に相対的に近い第1の巻き導線部11が内側に、金属体22に相対的に遠い第2の巻き導線部12が外側にずれている。
【0040】
図1〜3に示す配置で、金属体22を矢印Xの方向に移動させ、かつ電流供給装置23からコイル1に電流を流すことにより渦電流を発生させる。この結果、金属体22が加熱される。金属体22を矢印Xの方向とは反対側の方向に移動させてもよい。
【0041】
図1〜2に示すように、金属体22の移動方向(矢印Xの方向)と直交する方向と、電磁誘導加熱コイル1の長さ方向とが略平行となるように、電磁誘導加熱コイル1を配置して、金属体22を加熱することが好ましい。この場合には、金属体22を広範囲にわたり効果的に加熱することができる。
【0042】
図1〜3では、第1の巻き導線部11が金属体22側、第2の巻き導線部12が金属体22側とは反対側となるように、コイル1が配置されている。図4に示すように、金属体22の第1の表面22a上で、コイル1の上下が反転されて、第2の巻き導線部12が金属体22側、第1の巻き導線部11が金属体22側とは反対側となるように、コイル1が配置されていてもよい。コイル1の長さ方向の一端1a側において、金属体22に相対的に近い第2の巻き導線部12が外側に、金属体22に相対的に遠い第1の巻き導線部11が内側にずれるように、第1,第2の巻き導線部11,12が配置されている。言い換えれば、コイル1の長さ方向一端において、金属体22に相対的に近い第1の巻き導線部12が大きく巻かれており、金属体22に相対的に遠い第1の巻き導線部11が小さく巻かれているように、第1,第2の巻き導線部11,12が配置されていてもよい。
【0043】
コイル1の長さ方向寸法L(mm)は、コイル1の幅方向寸法Wを超えていればよく、任意に選ぶことができる。長さ方向寸法Lは特に限定されない。長さ方向寸法Lは、好ましくは20mm以上、より好ましくは100mm以上である。コイル1の長さ方向寸法Lは、加熱される金属体22の長さ方向寸法L2(mm)に応じて適宜決められる。コイルの長さ方向寸法Lは、加熱される金属体22の長さ方向寸法L2よりも小さいことが好ましい。好ましくはL≦(L2−10)であり、より好ましくはL≦(L2−15)である。
【0044】
図5(a)〜(c)に示すように、コイル1の長さ方向における第1の巻き導線部11と第2の巻き導線部12とのずれの最大距離D1は、適宜変更することができる。図5(a)に示すコイル1Aのずれの最大距離D1aは、図5(b)に示すコイル1Bのずれの最大距離D1bよりも小さい。図5(b)に示すコイル1Bのずれの最大距離D1bは、図5(c)に示すコイル1Cのずれの最大距離D1cよりも小さい。コイル1の長さ方向における第1の巻き導線部11と第2の巻き導線部12とのずれの最大距離D1は、好ましくは7mm以上、好ましくは16mm以下である。
【0045】
図3に示すように、金属体22と電磁誘導加熱コイル1との間の隙間の距離D2が、コイル1の長さ方向における第1の巻き導線部11と第2の巻き導線部12とのずれの最大距離の0.74倍以上となるように、金属体22と電磁誘導加熱コイル1とを配置して、金属体22を加熱することが好ましい。この場合には、金属体22をより一層均一に加熱することができる。
【0046】
図6に示すように、金属体22の第1の表面22a上には、2つの電磁誘導加熱コイル1が積層されて配置されてもよい。ここでは、1つのコイル1に対して、他のコイル1が、長さ方向に反転された状態で、2つのコイル1,1が配置されている。この場合には、金属体をより一層効果的に加熱することができる。さらに、金属体の幅方向の一端と他端側とにおいて、金属体が局所的に加熱されるのをより一層効果的に抑制できる。
【0047】
図7に示すように、金属体22の第1の表面22a上だけでなく、第1の表面22aとは反対の第2の表面22b上にも、コイル1が配置されていてもよい。
【0048】
図1〜3に示すコイル1では、第1の巻き導線部11と第2の巻き導線部12とは、重なり合っていない領域R全体に、曲線部11a,12aを有する。図8に示すコイル31のように、第1の巻き導線部32の巻き導線部33とは、重なり合っていない領域Rの一部に、巻かれた導線が曲線状に延びる曲線部32a,33aを有していてもよい。コイル31では、第1の巻き導線部32は、重なり合っていない領域Rに、2つの曲線部32aを有する。2つの曲線部32aは、巻かれた導線が直線状に延びる直線部32bの一端と他端とに連なっている。第2の巻き導線部33は、重なり合っていない領域Rに、2つの曲線部33aを有する。2つの曲線部33aは、巻かれた導線が直線状に延びる直線部33bの一端と他端とに連なっている。
【0049】
図1に示すコイル1は、導線の積層方向に並んで配置された第1の巻き導線部11と第2の巻き導線部12とを有し、2層に導線が巻かれている。図9に示すように、コイル41は、導線の積層方向に並んで配置された第1の巻き導線部42と第2の巻き導線部43と第3の巻き導線部44と有し、3層に導線が巻かれていてもよい。さらに、4層以上に導線が巻かれていてもよい。
【0050】
コイル41では、コイル41の長さ方向の一端41a側において、第1の巻き導線部42と第2の巻き導線部43と第3の巻き導線部44とが互いに重なり合っていない領域Rを有する。このように、コイルの長さ方向の一端側において、第1の巻き導線部と第2の巻き導線部と第3の巻き導線部とが互いに重なり合っていない領域Rを有することが好ましい。この場合には、金属体22をより一層均一に加熱することができる。但し、コイルの長さ方向の一端側において、第3の巻き導線部は、第1の巻き導線部と互いに重なり合っていない領域を有していなくてもよく、第2の巻き導線部と互いに重なりあっていない領域を有していなくてもよい。
【0051】
電磁誘導加熱コイル1は、金属体が加熱される様々な用途に用いられる。電磁誘導加熱コイル1は、例えば、樹脂層により被覆された金属体を得る用途などに用いることができる。
【0052】
具体的に説明すると、図10に示すように、例えば、ローラー61,62を回転させて、金属体22を移動させながら、電磁誘導加熱コイル1により金属体22を加熱する。金属体22が加熱された状態で、金属体22の第1の表面22a上に、ローラー63により樹脂シート51を圧接しながら積層して、金属体22の熱により樹脂シート51を加熱する。それによって、金属体22と樹脂シート51とを接着させる。このようにして、樹脂層により被覆された金属体を得ることができる。本発明に係る電磁誘導加熱コイルは、この用途以外にも用いることができる。なお、図10では、電磁誘導加熱装置21は、略図的に示されている。
【0053】
以下、本発明の具体的な実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果を明らかにする。
【0054】
(実施例1)
金属体として、厚み0.3mm、幅方向寸法400mmのSUS304を用意した。図1に示す電磁誘導加熱コイル1を用意した。コイル1の長さ方向寸法Lは360mm、コイル1の幅方向寸法は60mm、重なり合っていない領域Rのずれの最大距離D1は10mmとした。
【0055】
金属体の表面上に、コイル1を配置した。金属体と電磁誘導加熱コイル1との間の隙間の距離D2は、10mmとした。また、コイル1の長さ方向において、金属体に相対的に近い第1の巻き導線部11が内側に、金属体22に相対的に遠い第2の巻き導線部12が外側にずれるように、第1,第2の巻き導線部11,12を配置した。
【0056】
金属体を1.2m/分の移動速度で移動させ、コイル1に400kHzの高周波で24Aの電流を流し、金属体を加熱した。
【0057】
(実施例2)
重なり合っていない領域Rのずれの最大距離D1を10mmから7mmに変更したこと以外は実施例1と同様に構成されたコイルを用いて、金属体を加熱した。
【0058】
(実施例3)
重なり合っていない領域Rのずれの最大距離D1を10mmから15mmに変更したこと以外は実施例1と同様に構成されたコイルを用いて、金属体を加熱した。
【0059】
(実施例4)
金属体の移動速度を1.2m/分から1.8m/分に変更したこと以外は実施例1と同様にして、金属体を加熱した。
【0060】
(比較例1)
重なり合っていない領域Rが存在せず、ずれ距離D1を0mmに変更したこと以外は実施例1と同様に構成されたコイルを用いて、金属体を加熱した。
【0061】
(評価)
金属体が、該金属体の幅方向に均一に加熱されているか否かを評価した。
【0062】
金属体の幅方向全体の温度をサーモビュアで観察し、温度を計測した。コイルの中心部に対向する金属体の温度をT(℃)としたときに、金属体の温度が0.95T以上、1.05T以下である温度を示す部分を、均一加熱範囲とした。該均一加熱範囲の金属体の幅方向における距離を、金属体が均一に加熱されているか否かの指標とした。均一温度範囲は大きいほどよい。
【0063】
金属体が、該金属体の幅方向に均一に加熱されているかを下記の判定基準で判定した。
【0064】
[判定基準]
○○:コイルの長さ方向寸法L対して、均一加熱範囲の金属体の幅方向における距離が、100%以上
○:コイルの長さ方向寸法Lに対して、均一加熱範囲の金属体の幅方向における距離が、97%以上、100%未満
△:コイル長さ方向寸法Lに対して、均一加熱範囲の金属体の幅方向における距離が、90%以上、97%未満
×:コイル長さ方向寸法Lに対して、均一加熱範囲の金属体の幅方向における距離が、90%未満
結果を下記の表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
表1に示すように、コイル1に重なり合っていない領域が存在することで、金属体を均一に加熱することができることがわかる。また、金属体の移動速度をかえると場合に、金属体の温度はかわるものの、金属体が均一に加熱される幅方向における距離に大きな変化はないことがわかる。
【符号の説明】
【0067】
1…コイル
1a…一端
1b…他端
1A〜1C…コイル
11…第1の巻き導線部
11a…曲線部
11b…第1の直線部
11c…第2の直線部
12…第2の巻き導線部
12a…曲線部
12b…第1の直線部
12c…第2の直線部
13…曲線部
21…電磁誘導加熱装置
22…金属体
22a…第1の表面
22b…第2の表面
23…電流供給装置
31…コイル
32,33…第1,第2の巻き導線部
32a,33a…曲線部
32b,33b…直線部
41…コイル
41a…一端
42〜44…第1〜第3の巻き導線部
51…樹脂シート
61〜63…ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属体を移動させながら、該金属体を電磁誘導により加熱するための電磁誘導加熱コイルであって、
長さ方向と幅方向とを有し、
2層以上に導線が巻かれて形成されており、2層以上に前記導線が巻かれていることによって、導線の積層方向に並んで配置された第1の巻き導線部と第2の巻き導線部とを有し、
コイルの長さ方向の一端側において、前記第1の巻き導線部と前記第2の巻き導線部とが互いに重なり合っていない領域を有する、電磁誘導加熱コイル。
【請求項2】
コイルの長さ方向の一端側においてコイルの長さ方向にずれていることによって、前記第1の巻き導線部と前記第2の巻き導線部とは、前記重なり合っていない領域を有する、請求項1に記載の電磁誘導加熱コイル。
【請求項3】
前記第1の巻き導線部と前記第2の巻き導線部とは、前記重なり合っていない領域に、巻かれた前記導線が曲線状に延びる曲線部を有する、請求項1又は2に記載の電磁誘導加熱コイル。
【請求項4】
前記第1の巻き導線部と前記第2の巻き導線部とは、前記重なり合っていない領域全体に、前記曲線部を有する、請求項3に記載の電磁誘導加熱コイル。
【請求項5】
前記第1,第2の巻き導線部はそれぞれ、巻かれた前記導線が直線状に延びる第1の直線部と、巻かれた前記導線が直線状に延びる第2の直線部と、該第1の直線部に一端が連なっておりかつ該第2の直線部に他端が連なっている前記曲線部とを有する、請求項2〜4のいずれか1項に記載の電磁誘導加熱コイル。
【請求項6】
前記曲線部が、コイルの長さ方向の外側に向かって突出した円弧状である、請求項2〜5のいずれか1項に記載の電磁誘導加熱コイル。
【請求項7】
コイルの長さ方向における前記第1の巻き導線部と前記第2の巻き導線部とのずれの最大距離が、7mm以上、16mm以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の電磁誘導加熱コイル。
【請求項8】
前記第1の巻き導線部と前記第2の巻き導線部とが、1本の同じ導線により形成されている、請求項1〜7のいずれか1項に記載の電磁誘導加熱コイル。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の電磁誘導加熱コイルと、
前記電磁誘導加熱コイルに電流を流すための電流供給装置とを備える電磁誘導加熱装置。
【請求項10】
金属体の少なくとも一方の表面上に、請求項1〜8のいずれか1項に記載の電磁誘導加熱コイルを、前記第1の巻き導線部と前記第2の巻き導線部とが互いに重なり合っていない領域が前記金属体の表面に対向するように配置して、
前記金属体を移動させ、かつ前記電磁誘導加熱コイルに電流を流すことにより渦電流を発生させ、前記金属体を加熱する、金属体の加熱方法。
【請求項11】
前記金属体の移動方向と直交する方向と、前記電磁誘導加熱コイルの長さ方向とが略平行となるように、前記電磁誘導加熱コイルを配置して、前記金属体を加熱する、請求項10に記載の金属体の加熱方法。
【請求項12】
前記金属体と前記電磁誘導加熱コイルとの間の隙間の距離が、コイルの長さ方向における前記第1の巻き導線部と前記第2の巻き導線部とのずれの最大距離の0.74倍以上となるように、前記金属体と前記電磁誘導加熱コイルとを配置して、前記金属体を加熱する、請求項10又は11に記載の金属体の加熱方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−113838(P2012−113838A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259374(P2010−259374)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】