説明

電磁誘導加熱装置および該装置を用いたシームレスベルトの製造方法

【課題】 円筒状金型を優れたエネルギー効率で均一に加熱し得る電磁誘導加熱装置および該装置を用いたシームレスベルトの製造方法を提供すること。
【解決手段】 外周面に接するように設けられた回転機構によって回転する円筒状金型を加熱するための電磁誘導加熱装置であって、該金型の外周面側に間隔を隔てて配置された誘導加熱コイル、および、該誘導加熱コイルの金型側を除く外周を囲うように配置されたフェライトコアを有し、該フェライトコアが該金型外周面の回転機構との接触領域上に配置されている、電磁誘導加熱装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁誘導加熱装置および該装置を用いたシームレスベルトの製造方法に関する。より詳細には、円筒状金型を均一に加熱し得る電磁誘導加熱装置および該装置を用いたシームレスベルトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに、円筒状金型の内周面に樹脂溶液を展開し、該金型を回転および加熱して成型(回転成型および加熱成型)を行うシームレスベルトの製造方法において、誘導加熱により急速かつ均等に加熱し、金型に塗布された樹脂膜の厚み方向に対しても均一な加熱を行うことで、均一性の高いシームレスベルトを製造できることが知られている。(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4014153号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記製造方法によれば、以下のような問題がある。すなわち、該製造方法で用いられる従来の電磁誘導加熱装置20においては、図3に示すように、誘導加熱の加熱手段である誘導加熱コイル21が円筒状金型2の外周面側に間隔を隔てて配置され、該金型2の外周面に接するように設けられた回転機構(図中では、回転ローラ)1によって金型2に所定の回転を与えながら加熱が行われる。このとき、該金型2の誘導加熱による加熱に対し回転ローラ1は加熱温度に追従できないので、金型2の外周面においては、回転ローラ1が接触する領域のみ温度が低下する。このため、金型全体の温度分布にバラツキが生じる結果となっていた。これに対し、金型全体の温度分布を均一にするためには、回転ローラ1が接触する領域以外の領域において、金型2と誘導加熱コイル21との距離を部分的に遠ざける調整が必要である。さらに、回転ローラ1の温度が一定になるまでは、回転ローラ1の温度に応じて金型2と誘導加熱コイル21との距離を再調整する必要がある。また、金型の管径や厚みによっても金型2から回転ローラ1への熱拡散が異なるため、金型の管径、厚み等に応じて金型2と誘導加熱コイル21との距離を再調整する必要がある。このような調整を行いながら所定の温度まで上昇させる際には、高周波電源23の出力を上げる必要があるのでエネルギー効率が悪くなる。
【0005】
本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、円筒状金型を優れたエネルギー効率で均一に加熱し得る電磁誘導加熱装置および該装置を用いたシームレスベルトの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、電磁誘導加熱装置が提供される。該電磁誘導加熱装置は、外周面に接するように設けられた回転機構によって回転する円筒状金型を加熱するための電磁誘導加熱装置であって、該金型の外周面側に間隔を隔てて配置された誘導加熱コイル、および、該誘導加熱コイルの金型側を除く外周を囲うように配置されたフェライトコアを有し、該フェライトコアが該金型外周面の回転機構との接触領域上に配置されている。
好ましい実施形態においては、上記フェライトコアの比透磁率が、1500以上である。
本発明の別の局面によれば、シームレスベルトの製造方法が提供される。該製造方法は、円筒状金型の内周面に樹脂溶液を供給する工程、該金型を回転させて、内周面に樹脂膜を形成する工程、および上記の電磁誘導加熱装置を用いて該金型を回転させながら加熱する工程を含む。
好ましい実施形態においては、上記樹脂溶液が、ポリアミド酸を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、円筒状金型を優れたエネルギー効率で均一に加熱し得る電磁誘導加熱装置および該装置を用いたシームレスベルトの製造方法が提供される。本発明の電磁誘導加熱装置によれば、エネルギー効率に優れ、様々な金型に対応することができる。また、本発明の製造方法によれば、抵抗均一性および平面度に優れたシームレスベルトを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】(a)は、本発明の1つの実施形態による電磁誘導加熱装置の主要な構成を示す概略図であり、(b)は図1(a)のA−A線での概略断面図である。
【図2】真直度および平面度の評価方法を説明するための概略図である。
【図3】従来の電磁誘導加熱装置の主要な構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.電磁誘導加熱装置
図1(a)は、本発明の1つの実施形態による電磁誘導加熱装置の主要な構成を示す概略図であり、図1(b)は、図1(a)のA−A線での概略断面図である。本発明の電磁誘導加熱装置10は、円筒状金型2を加熱するための電磁誘導加熱装置であり、該円筒状金型2は、その外周面に接するように設けられた回転機構(図中では、回転ローラ)1によって回転する。電磁誘導加熱装置10は、主要な構成要素として、誘導加熱コイル11、フェライトコア12、および、高周波電源13を含む。誘導加熱の加熱手段である誘導加熱コイル11は、円筒状金型2の外周面側に間隔を隔てて配置されている。フェライトコア12は、誘導加熱コイル11の金型2側を除く外周を囲うようにして、円筒状金型2の外周面の回転機構1との接触領域2a上(すなわち、円筒状金型2の回転機構1との接触領域に対応する外周面側)に配置されている。
【0010】
上記電磁誘導加熱装置10によれば、高周波電源13から誘導加熱コイル11に高周波電流が印加されると、円筒状金型2に誘導電流が生じて内部抵抗によって発熱し、これにより、円筒状金型2自体が加熱される。円筒状金型2は、該金型2の外周面に接するように設けられた回転機構1によって所定の回転数に回動することができ、所望の稼動状態(停止、高速回転、低速回転等)を実現することができる。また、フェライトコア12を、誘導加熱コイル11の円筒状金型2と対向する部分を除く外周を囲うようにして、円筒状金型2の外周面の回転機構1との接触領域2a上に配置することにより、円筒状金型2の回転軸方向に誘導される磁束を熱エネルギーとして金型外周面の回転機構1との接触領域2aに集中的に与えることができる。その結果、接触領域2aの温度の低下を防止して、円筒状金型2の回転軸方向の温度のバラツキを低減することができる。
【0011】
A−1.誘導加熱コイル
誘導加熱コイル11は、電磁誘導機能を発揮する範囲において、任意の適切なコイルが採用され得る。該コイルとしては、例えば、面焼形コイル、角形コイル、円筒状加熱用コイル等が例示される。円筒状金型を軸方向に沿って加熱する場合、角形コイルおよび面焼形コイルが好ましい。
【0012】
上記誘導加熱コイルは、例えば、内部空洞の導管で構成し、この内部に冷却媒体を通し、適宜冷却されるように構成されることが好ましい。導管の形成材料としては、磁性金属が好ましく例示され、具体例として、銅、ステンレス、および、鉄が挙げられる。冷却媒体としては、冷却水、高絶縁性液、不凍液等が例示される。
【0013】
上記誘導加熱コイルは、円筒状金型の外周面側に間隔を隔てて配置される。該間隔は、任意に設定することができ、該間隔を調整することにより、円筒状金型の加熱量を所望の値とすることができる。
【0014】
A−2.フェライトコア
フェライトコア12は、フェライトの損失原理により、上記誘導加熱コイルに高周波電流が印加されることによって生じた磁界の磁束を収束し、熱エネルギーに変換し得る。したがって、フェライトコアを上記誘導加熱コイルの金型側を除く外周、すなわち、金型と対向する部分を除く外周を囲うように、金型外周面の回転機構との接触領域上に配置することにより、該接触領域の温度の低下を好適に防止することができる。上記の通り、誘導加熱コイルを円筒状金型の外周面側に適切な間隔を隔てて配置し、さらに、フェライトコアを所定の領域上に配置することにより、外周面に接する回転機構によって回転されている円筒状金型を軸方向に均一に加熱することができる。
【0015】
上記フェライトコアは、高い透磁率および電気抵抗率を有することが好ましい。フェライトコアの比透磁率は、好ましくは1500以上、さらに好ましくは1800〜2300である。また、フェライトコアの体積抵抗率は、好ましくは2Ω・m以上、さらに好ましくは2Ω・m〜4Ω・mである。
【0016】
上記フェライトコアの形成材料としては、上記所望の透磁率および電気抵抗率が得られるものであれば、任意の適切な磁性材料が用いられ得る。フェライトコアとしては、種々の特性を有するものが市販されているので、本発明においては、市販のフェライトコアから適切なものを選択して用いることができる。
【0017】
上記フェライトコアは、誘導加熱コイルの円筒状金型と対向する部分を除く外周を囲うように配置できる範囲において、任意の形状であり得る。例えば、略コの字型、略C字型等の形状が挙げられる。
【0018】
上記フェライトコアの設置個数は、所望される加熱量等に応じて適切に設定され得る。誘導加熱コイルと円筒状金型外周面との間隔、フェライトコアの設置個数等を適切に設定することにより、被成型物の厚み、金型の管径、回転機構の数、大きさ等の種々の製造条件が変更された場合であっても、該円筒状金型の加熱状態を任意に設定することができ、所望の加熱量を均一に与えることができる。
【0019】
A−3.高周波電源
高周波電源13としては、特に制限はなく、任意の適切な電源が採用され得る。
【0020】
A−4.円筒状金型
円筒状金型2は、磁性体の金属であることが好ましい。磁性体の金属としては、ステンレス鋼、アルミニウム等が例示され得る。円筒状金型の形状(管径、長さ、厚み等)は、被成型物等に応じて適切に設定され得る。
【0021】
A−5.回転機構
回転機構1は、円筒状金型2の外周面に接するように設けられている。回転機構としては、回転ローラ等が挙げられる。回転機構は、代表的にはモーター等の駆動源(図示せず)によって駆動され、上記円筒状金型を所望の回転速度で回転し得る。
【0022】
B.シームレスベルトの製造方法
本発明のシームレスベルトの製造方法は、円筒状金型の内周面に樹脂溶液を供給する工程(供給工程)、該金型を回転させて、内周面に樹脂膜を形成する工程(回転成型工程)、および、上記A項に記載の電磁誘導加熱装置を用いて該金型を回転させながら加熱する工程(加熱成型工程)を含む。円筒状金型の内周面に樹脂膜を形成し、乾燥等を進行させることによって、接合部(フィルムを管状とした際に生じる接合部)を有さず、耐久性および周長精度に優れるシームレスベルトを得ることができる。なお、本発明の製造方法においては、少なくとも加熱成型工程での円筒状金型の回転は、該金型の外周面に接するように設けられた回転機構によって行われる。
【0023】
上記のとおり、本発明の製造方法は、円筒状金型の内周面に樹脂溶液を供給し、回転成型および加熱成型を行うシームレスベルトの製造方法であって、上記電磁誘導加熱装置を用いて金型を誘導加熱により急速に加熱することを特徴とする。誘導加熱によれば、金型に直接接することなく急速加熱が可能で、かつ直接金型に電気エネルギーを投入できるとともに、温度制御が容易かつ迅速である。さらに、上記電磁誘導加熱装置は、誘導される磁束を集中的に与えることのできるフェライトコアを有し、軸方向に誘導される磁束を熱エネルギーとして金型外周面の回転機構との接触領域に集中的に与えることができるので、回転する金型を非接触で均等に加熱し、金型に塗布された樹脂膜の厚み方向に対しても均一な加熱を行うことができる。その結果、抵抗均一性や平面度に優れたシームレスベルトが得られ得る。
【0024】
本発明の製造方法においては、上記供給工程、回転成型工程、および加熱成型工程の順序は特に限定されない。例えば、1つの好ましい実施形態において、本発明の製造方法は、供給工程、回転成型工程、および加熱成型工程の順で行われ得る。また、別の好ましい実施形態においては、供給工程と回転成型工程とが同時に行われ得るので、金型を回転させながら樹脂溶液を供給してもよい。
【0025】
B−1.供給工程
供給工程においては、円筒状金型の内周面に樹脂溶液を供給する。供給される樹脂溶液は、ポリアミド酸を含む溶液であることが好ましい。ポリアミド酸を主成分として含む樹脂溶液(以後、「ポリアミド酸溶液」と称する場合がある)を用いることにより、耐熱性、機械的強度、化学的安定性等に優れたポリイミド系樹脂の特性を生かしたシームレスベルトが得られ得る。ここで、「主成分」とは、樹脂溶液を構成する主たる成分のことであって、組成物の特性に大きな影響を与えるものであることを意味する。
【0026】
上記ポリアミド酸としては、任意の適切なポリアミド酸が採用され得る。ポリアミド酸は、所望するポリイミド系樹脂に応じて、適切なテトラカルボン酸二無水物またはその誘導体とジアミン化合物とを選択し、これらを有機溶媒中で重合反応させることにより、ポリアミド酸溶液として得られ得る。テトラカルボン酸二無水物またはその誘導体とジアミン化合物との使用割合は、略等モルであることが一般的であるが、これに限定はされない。
【0027】
上記テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ベリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
上記ジアミン化合物の具体例としては、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(DDE)、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジクロロベンジン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド−3,3’−ジアミノジフエニルスルホン、1,5−ジアミノナフタレン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン(PDA)、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニルジアミン、ベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、4,4’−ジアミノフェニルスルホン、4,4’−ジアミノフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、2,4−ビス(β−アミノ−第三ブチル)トルエン、ビス(p−β−アミノ−第三ブチルフェニル)エーテル、ビス(p−β−メチル−6−アミノフェニル)ベンゼン、ビス−p−(1,1−ジメチル−5−アミノ−ペンチル)ベンゼン、1−イソプロピル−2,4−m −フェニレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、ジ(p−アミノシクロヘキシル)メタン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ジアミノプロピルテトラメチレン、3−メチルへプタメチレンジアミン、4,4−ジメチルヘプタメチレンジアミン、2,11−ジアミノドデカン、1,2−ビス−3−アミノプロポキシエタン、2,2−ジメチルプロピレンジアミン、3−メトキシヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘプタメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘプタメチレンジアミン、3−メチルへプタメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、2,11−ジアミノドデカン、2,17−ジアミノエイコサデカン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,10−ジアミノ−1,10ジアミノ−1,10−ジメチルデカン、1,12−ジアミノオクタデカン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、ピベラジン、HN(CHO(CHO(CH)NH、HN(CHS(CHNH、HN(CHN(CH(CHNH等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
上記テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを重合反応させる際の有機溶媒としては、任意の適切な有機溶媒が用いられ得る。溶解性等の観点から、有機極性溶媒が好ましく用いられ得る。有機極性溶媒の例としては、N,N−ジアルキルアミド類が有用であり、なかでも、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等が好ましく挙げられる。これらは低分子量であるので、蒸発、置換または拡散によりポリアミド酸およびポリアミド酸成形品から容易に除去することができる。
【0030】
上記以外の有機極性溶媒として、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホルトリアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ピリジン、ジメチルスルホキシド、テトラメチレンスルホン、ジメチルテトラメチレンスルホン等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
反応開始時のモノマー濃度は、反応条件等に応じて適切に設定され得る。モノマー濃度は、一般的には5〜30重量%が適当である。
【0032】
上記重合反応時の反応温度は、好ましくは80℃以下であり、さらに好ましくは5〜50℃である。また、反応時間は、好ましくは0.5〜10時間である。
【0033】
上記樹脂溶液は、必要に応じて導電性材料をさらに含んでもよい。導電性材料を含むことにより、中間転写ベルト、定着ベルト等として機能し得る電気特性を有し得る。導電性材料としては、シームレスベルトに所望の電気特性を付与し得るものであれば、任意の適切な材料が採用され得る。上記導電性材料の具体例としては、例えば、カーボンブラック等の各種カーボン;アルミニウム、ニッケル、銀、銅等の各種金属;酸化スズ、チタン酸カリウム等の各種無機化合物;ポリアニリン、ポリピロール等の導電性高分子;等が挙げられる。低コストを実現できるという点、取り扱い易いという点から、好ましくは、カーボンブラックである。
【0034】
上記樹脂溶液中における導電性材料の含有量は、所望の電気特性、機械的特性等に応じて適切に設定され得る。該含有量は、樹脂100重量部に対して、好ましくは1〜40重量部、さらに好ましくは3〜30重量部である。導電性材料の含有量がこのような範囲内であれば、機械的特性に優れ、所望の電気特性を有する半導電性シームレスベルトが得られ得る。
【0035】
上記樹脂溶液の溶液粘度は、好ましくは、B型粘度計で1〜1000Pa・s(25℃)である。溶液粘度がこのような範囲内であれば、円筒状金型内に均一に溶液を展開することができ、厚みの均一なシームレスベルトを得ることができる。例えば、ポリアミド酸溶液の溶液粘度は、上記重合反応後に得られたポリアミド酸溶液をさらに加熱、攪拌すること、または、有機溶媒で希釈することにより調整することができる。当該加熱温度は、好ましくは、50〜90℃である。
【0036】
上記樹脂溶液を円筒状金型の内周面に供給する方法としては、任意の適切な方法が用いられ得る。例えば、ディスペンサー塗布、刷毛塗り、浸漬塗布等が挙げられる。また、円筒状金型の内周面の片端部に樹脂溶液を供給した後、当該円筒状金型と一定のクリアランスを有する走行体(弾丸状、球状)を走行させることによって樹脂溶液を金型内周面に塗布することもできる。この場合、走行体の走行は、自重走行によって行うことができ、走行速度は、例えば、20mm/分程度であり得る。
【0037】
B−2.回転成型工程
回転成型工程においては、上記円筒状金型を回転させて、内周面に樹脂膜を形成する。金型を回転させて樹脂溶液を遠心力によって展開することにより、均一な厚みを有する樹脂膜が得られ得る。樹脂膜の厚みは、目的のシームレスベルトの厚みに応じて適切に設定され得る。
【0038】
回転成型時の回転速度および回転時間は、樹脂溶液の粘度等に応じて適切に設定され得る。樹脂膜の厚みの均一化の観点からは、比較的速い速度で回転させて樹脂膜を形成することが好ましい。該回転速度は、例えば、200〜2000rpmであり得、好ましくは500〜1800rpmである。該回転時間は、例えば、30〜1000秒であり得る。
【0039】
B−3.加熱成型工程
加熱成型工程においては、上記A項に記載の電磁誘導加熱装置を用いて該金型を回転させながら加熱する。本発明のフェライトコアを有する電磁誘導加熱装置によれば、熱効率に優れた誘導加熱によって、円筒状金型を急速かつ均等に加熱することができるので、短時間で樹脂膜を乾燥することができるとともに、溶媒の蒸発に起因する金型面と空気面との樹脂膜の収縮率の差、および、金型外周面の温度のバラツキに起因する樹脂膜の部分的な収縮率の差を低減することができる。その結果、得られる乾燥樹脂膜の反りやうねりを小さくすることができ、抵抗均一性および平面度に優れたシームレスベルトが得られ得る。
【0040】
加熱成型時の回転速度は、樹脂膜の厚み、加熱量等に応じて適切に設定され得る。該回転速度は、比較的遅い速度であることが好ましく、例えば、5〜500rpmであり得、好ましくは10〜300rpmである。
【0041】
加熱成型時の加熱温度および加熱時間は、樹脂膜の厚み、加熱量等に応じて適切に設定され得る。加熱は、多段加熱方式によって行われてもよい。加熱温度は、通常、200〜400℃である。加熱時間は加熱温度に応じて適宜に設定され得る。加熱時間は、通常、10〜60分程度である。このような加熱成型によれば、ポリアミド酸を含む樹脂溶液を用いた場合に、イミド転化に伴い発生する閉環水や溶媒の蒸発に起因する微小ボイドの発生を防止し得る。
【0042】
乾燥後の樹脂膜(すなわち、得られるシームレスベルト)の厚みは、好ましくは10〜500μm、さらに好ましくは20〜300μmである。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例になんら限定されるものではない。なお、実施例等における測定方法は以下のとおりである。
【0044】
[表面抵抗率のバラツキ評価]
測定機器としてハイレスタUPMCP−H1450(三菱化学社製、ブローブUR)を用い、測定条件25℃で、シームレスベルト表面の任意の24点に、電圧100Vを印加し、その印加開始から10秒後の表面抵抗値を測定した。測定した24点での表面抵抗値において、最大値と最小値との差を表面抵抗率のバラツキとした。
【0045】
[真直度および平面度評価]
図2に示すようにシームレスベルト3を2本の平行な軸4、4’(Φ28mm)で4kgの荷重をかけることにより張架した。該張架状態で、レーザー変位計5(キーエンス社製、LK−030)を用い、軸4および4’から等距離の中間線から両側に100mmずつ(計200mm幅)の領域を軸4、4’と平行な方向(図2の矢印方向)にベルト表面の変位量の最大値と最小値の差分を読み取った。
反り量(真直度):シームレスベルト3の両端15mmの部分の測定結果を反り量とした。
うねり量(平面度):シームレスベルト3の両端15mmを除いた部分の測定結果をうねり量とした。
【0046】
[製造例1:ポリアミド酸溶液の調製]
N−メチル−2−ピロリドン(NMP) 1674g中に、乾燥したカーボンブラック(キャボット社製,バルカンXC,平均一次粒子径0.3μm、比重1.8g/cm) 16.1g(ポリイミドに対し4重量%)をボールミルで6時間、室温で混合した。得られたNMP分散液に3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BPDA) 294.2gとp−フェニレンジアミン(PDA) 108.2gとを溶解し、窒素雰囲気中において、室温で3時間撹拌しながら反応させて、3000ポイズのポリアミド酸溶液を得た。
【0047】
[実施例1]
内径300mm、長さ500mmの円筒状金型の内周面に製造例1で得たポリアミド酸溶液をディスペンサーで厚さ400μmに塗布した。その後、該金型を1500rpmで10分間回転させて、均一な塗布面を得た。次いで、図1に示すように、回転ローラ上に金型を設置し、20rpmで回転させながら、電磁誘導加熱装置を用いて100℃に誘導加熱し10分間乾燥させた。次いで、金型を加熱速度30℃/minで300℃に加温し、5分間該温度を維持して、溶媒の除去、脱水閉環水の除去、およびイミド転化を行った。その後、金型を室温まで戻し、樹脂膜を剥離することにより、半導電性シームレスベルトを得た。得られた半導電性シームレスベルトの厚みは約74.5μmであった。なお、上記誘導加熱は、金型外周面の回転ローラとの接触領域上に誘導加熱コイルの金型側を除く外周を囲うように計4個のフェライトコア(TDK社製、製品名「大電力用大型フェライトコア」)を配置した電磁誘導加熱装置を用いて行った。
【0048】
[比較例1]
図3に示すように、フェライトコアを有さない電磁誘導加熱装置を用いて誘導加熱したこと以外は実施例1と同様にして、半導電性シームレスベルトを得た。
【0049】
実施例1および比較例1で得られた半導電性シームレスベルトの表面抵抗率のバラツキ、反り量、およびうねり量を評価した。結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1に示すように、実施例1では抵抗均一性および平面度に優れたシームレスベルトが作製できたが、比較例1のシームレスベルトは抵抗率のバラツキが大きく、部分的にうねりが発生していた。なお、実施例1において、金型外周面の回転ローラとの接触領域とそれ以外の領域との温度差は7℃であり、比較例1において当該温度差は16℃であった。
【0052】
実施例1のシームレスベルトを複写機等の転写ベルトとして用いたところ、転写ムラや色ズレはみられなかったが、比較例1のシームレスベルトを用いた場合には、これらの現象がみられた。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の電磁誘導加熱装置は、シームレスベルトの製造分野において好適に用いられ得る。本発明の製造方法によって得られるシームレスベルトは、電子写真複写機、インクジェットプリンタ等の画像形成装置における搬送ベルトや転写ベルト等の機能性ベルトとして好適に用いられ得る。
【符号の説明】
【0054】
1 回転機構(例えば、回転ローラ)
2 円筒状金型
10 電磁誘導加熱装置
11 誘導加熱コイル
12 フェライトコア
13 高周波電源
20 電磁誘導加熱装置
21 誘導加熱コイル
23 高周波電源


【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に接するように設けられた回転機構によって回転する円筒状金型を加熱するための電磁誘導加熱装置であって、該金型の外周面側に間隔を隔てて配置された誘導加熱コイル、および、該誘導加熱コイルの金型側を除く外周を囲うように配置されたフェライトコアを有し、該フェライトコアが該金型外周面の回転機構との接触領域上に配置されている、電磁誘導加熱装置。
【請求項2】
前記フェライトコアの比透磁率が、1500以上である、請求項1に記載の電磁誘導加熱装置。
【請求項3】
円筒状金型の内周面に樹脂溶液を供給する工程、
該金型を回転させて、内周面に樹脂膜を形成する工程、および
請求項1または2に記載の電磁誘導加熱装置を用いて該金型を回転させながら加熱する工程を含む、シームレスベルトの製造方法。
【請求項4】
前記樹脂溶液が、ポリアミド酸を含む、請求項3に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−169098(P2012−169098A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28144(P2011−28144)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【復代理人】
【識別番号】100150212
【弁理士】
【氏名又は名称】上野山 温子
【Fターム(参考)】