説明

電磁誘導型磁気流体力学(MHD)推進エンジン

【課題】磁場中の電解質において、正負の電極間に直流電流を流すと、電解質には磁場と電流方向に対して垂直な方向へローレンツ力が作用する。この力を海上船舶等の推進力に利用することが研究されているが、通電時、電極の海水との電気化学反応による腐食劣化と、電極からの有毒な塩素ガスの発生が実用化への大きな障壁となっている。
【解決手段】電磁誘導が電極無しで金属線に電流を流す現象はトランスの2次コイルで現れるが、この2次コイルに電解質を用いる。トランスの2次コイル電流は、1次コイル電流の時間微分と、1次と2次コイルの相互インダクタンスに比例する。この方法で磁場中電解質に電流を流し、それによって発生するローレンツ力を、海水を押し出す力に用いる。電極を使用しないために電気化学反応は起きず、海水から有毒な塩素ガスは発生しない。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】

【技術分野】
【0001】
本発明は磁気流体力学(MHD)推進エンジンの欠点である電流発生のための電極を取り除き、替わりに電磁誘導によるトランス型電流発生装置を組み込んだ、海上または海中を推進する船舶等の為のMHD推進機関に関するものである。
【従来例】
【0002】
現在、MHD推進船は、まだ一般には普及しておらず、直流電極を起電力源に用いた試験船が建造されているのみである。その理由として、強磁場を発生させるための超伝導技術が割高であること、海水に直流電流を流した場合の電極の電気化学反応による腐食、そのとき電極から発生する有害な塩素ガスの環境への悪影響等が挙げられる。
また、これらの問題を回避するために、海水中のイオンが電極に到達する寸前に交流で極を入れ替えて逆戻りさせ、電極表面での電気化学反応を防ぐ方法などが検討されてはいるが、その場合、超伝導強磁場も電場の極の入れ替えに同期させて磁極N−Sを入れ替えねばならず、このような高周波の電場、超伝導磁場の同期発生は大きなインピーダンス抵抗のために現実的には不可能といってよい。
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
既存のMHD推進エンジンは、電極表面の腐食や電極から発生する有毒塩素ガスのために実用化は困難である。電極無しでMHD推進エンジン内の海水に起電力を生み出せるならば、これらの問題は一度に解決できる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
トランスの2次コイルには一般に交流ではあるが電極が無くても、電磁誘導により電流が流れる。この電磁誘導の原理を応用することでMHD推進エンジンから電極を取り去ることが可能である。そのために図1のような装置を考案し、1次コイルには図2のように電流Iを一定の割合で増加(減少)するように流す。図1のトランスで2次コイルに電解質である海水を満たした管を使用する。2次コイルに発生する起電力Eは、
=−MdI/dt−LdI/dt (1)
で与えられる。ここでMは1次コイルと2次コイルの相互インダクタンスであり、Lは2次コイルの自己インダクタンスである。(1)式右辺第一項中のIを一定の割合に図2のように長周期で増加(減少)させると右辺第一項は定数となり、I増加(減少)中に回路の発振等は考えられないので左辺の起電力も一定値になるべきで、右辺第二項も定数になる。起電力Eは時間一定なのでそれにより発生する電流Iも時間一定となり、その時間微分の(1)式右辺第二項はゼロとなる。
海水の2次コイル側ループの電気抵抗をΩとすると2次コイルに流れる電流I
=ΩI (2)
より与えられる。これらの議論から海水の2次コイルに一定の電流Iを流すためには、図2のように1次コイルの電流Iを一定の割合で増加(減少)するように流せばよい。
2次コイルの海水に流れる電流Iは磁場Bの領域を通るとき、単位長さ当たり
F=IxB (3)
の力を噴射口方向に受けるため、海水は吸入口から吸われ噴射口方向に押し出されることになる。
【0005】
図1の1次コイルに流せる許容電流にも限界があるが、出来るだけ多くの電流を流すために超伝導コイルを用いる。超伝導コイルにも電流の上限があるので、上限に達したところで今度は図2のように一定の割合でIを減少させて行く。このとき電流Iは、式(1)より符号が変わる。図1中の磁石も超伝導磁石であるが、図1の構造のままでは磁極を反転させない限り(3)式より海水の流れも逆転してしまう。
【0006】
図3は1次コイル電流が増加から減少に変わっても海水入口から出口への流れ方向が一定となるように流水管に逆止弁とバイパス管を取り付けたものである。これにより磁極の反転なしに水の噴射を一定の方向に保つことが可能である。
【0007】
電気エネルギーを海水の運動エネルギーに効率よく変換するためには、磁場Bを強くするほかに相互インダクタンスLを大きくしなくてはならない。そのためには、模式図の図1のような2次コイルが1回巻きではLが小さいので、実際にはトランスの鉄心の周りを複数回巻くことで相互インダクタンスLを大きくする。
【発明の効果】
【0008】
電磁誘導型MHD推進エンジンの開発は、既存の電極を持つMHD推進エンジンの欠点である電極の腐食の問題を解決している。
【0009】
MHD推進エンジンから電極を取り除いた電磁誘導型MHD推進エンジンは、電極から発生する有害塩素ガスの発生の問題を解決している。
【0010】
更にこのエンジンの発明は、排ガスも出さず、電気のエネルギーだけで、水上または水中を音も無く進む低公害船の開発を可能としている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】電磁誘導型MHD推進エンジンの原理と模式図。〔符号の説明〕1・・主流水管 2・・ループ電流管 3・・超伝導磁石 4・・トランス 5・・一次コイル導線
【図2】1次コイル電流と2次コイル電磁誘導電流の時間変化。
【図3】電磁誘導型MHD推進エンジン断面とバイパス管と逆止弁の位置。
【符号の説明】
1・・主流水管
2・・ループ電流管
3・・超伝導磁石
4・・トランス
5・・一次コイル導線
6・・逆止弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気流体力学(MHD)推進エンジン内磁場中の海水に電流を流すための起電力源として、電磁誘導を用いることで、無電極化を可能としたMHD推進エンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−73460(P2009−73460A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−274441(P2007−274441)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(502030422)