説明

電線、電力ケーブルおよび保護継電システム

【課題】金属接触などの短時間で遮断器をトリップする地絡事故を早期に検出することができる電線などを提供する。
【解決手段】電線10は、複数本の導体11が絶縁被覆12で覆われた電線であって、炭素皮膜13が複数本の導体11と絶縁被覆12との間に挿入されていることを特徴とする。ここで、炭素皮膜13は、厚さ1mm程度の炭素系抵抗体からなる。また、炭素皮膜13と複数本の導体11との接触面積S=13mm2とすると、炭素皮膜13のシート抵抗R=12,000(Ω)/13(mm2)とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線、電力ケーブルおよび保護継電システムに関し、特に、地絡事故を未然に防止するのに好適な電線、電力ケーブルおよび保護継電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、配電線の事故点探索には時間がかかり、また、事故点探索のための試充電により何回も事故遮断されるという問題が生じていた。
このような問題の解決策として、たとえば以下に示す方策が提案されている。
【0003】
(1)下記の特許文献1で提案された事故区間探索方法
最小区間単位に事故区間を探索するために、設置可能な最大(たとえば、99台)の地絡検出装置を対象とし、できるだけ少ない探索回数で事故区間の判定ができるように、次の手順により予め事故区間探索手順を作成する。
(a)配電線より分岐地絡検出装置を抽出し、分岐地絡検出装置を持つルートを作成する。
(b)分岐地絡検出装置内の最大探索回数を算出し、最も探索回数を要するルートを抽出する。
(c)抽出したルートで量的に2分される分岐地絡検出装置を探索する。これを、探索対象方向に繰り返し行うことにより、目標となる分岐地絡検出装置を決定する。
(d)決定された分岐地絡検出装置内を、分岐地絡検出装置内目標決定基本ルールに従って最終目標となる地絡検出装置を探索する。
【0004】
(2)下記の特許文献2で提案された地絡点検出方法
目視により地絡点を検出する方法の場合、非効率的で時間を要し、配電系統の各部で零相電圧や3相の相電圧を測定して地絡点を判定する方法の場合、対地静電容量の増大など、実用面で不都合を生じる事情に鑑み、地絡フィーダの再遮断を伴うことなく、迅速かつ正確に地絡点の検出を行うことができるとともに零相電圧または相電圧の測定を不要とするように、各電柱に子局を設け、R相電流と零相電流を測定し、R相電流に対する零相電流の位相を求め、各子局の零相電流位相を親局に収集して地絡点検出を行い、地絡検出では、変電所の地絡方向継電器(DG)の動作や各フィーダの母線側の零相電流位相の比較結果から地絡フィーダを検出し、懸案区間の両端で零相電流位相がほぼ反転するか否かをもって地絡点を検出し、零相電流位相の大きさから地絡相を検出する。
【0005】
(3)下記の特許文献3で提案された樹木接触監視装置
配電線の樹木接触は、地絡に至る前の段階では高抵抗接触であり、それによる漏洩電流信号は微弱であるために、配電系統に存在する残留零相電流や残留零相電圧から識別して樹木接触信号を検出し、判定することが難しかったことから、零相電圧、零相電流、零相電圧と零相電流の位相差を設定周期で取得しておき、時系列的なデータの変化を監視し、これらのデータは数分〜数十分のオーダで変化するため、零相電圧、零相電流の大きさの時間変化分の監視および零相電圧と零相電流の位相差の変化分を監視することにより樹木接触の有無を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−313437号公報
【特許文献2】特開平05−268723号公報
【特許文献3】特開2005−304114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の特許文献1で提案された事故区間探索方法および上記の特許文献2で提案された地絡点検出方法は、事故遮断発生後の事故点の検出を重点に考えられているため、事故遮断に至るまでの事前検出や兆候検出の点では不十分である。
また、上記の特許文献3で提案された樹木接触監視装置は、樹木接触による微地絡で地絡事故を予測する点では有効であるかもしれないが、金属接触などの短時間で遮断器をトリップする地絡事故には必ずしも有効であるとはいえない。特に、街中を通る配電線は金属類による接触が大半であるため、その適用範囲が限られてくる。
【0008】
本発明の目的は、金属接触などの短時間で遮断器をトリップする地絡事故を早期に検出することができる電線、電力ケーブルおよび保護継電システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電線は、導体(11)が絶縁被覆(12)で覆われた電線(10)であって、炭素系抵抗体からなる炭素皮膜(13)が前記導体と前記絶縁被覆との間に挿入されていることを特徴とする。
本発明の電力ケーブルは、導体(21)が絶縁体(22)および保護被覆(26)で覆われた電力ケーブル(20)であって、炭素系抵抗体からなる炭素皮膜(25)が前記導体と前記絶縁体との間に挿入されていることを特徴とする。
本発明の保護継電システムは、本発明の電線または本発明の電力ケーブルを用いた配電線を地絡事故から保護するための保護継電システム(30)であって、前記配電線に設置された零相変流器から入力される零相電流(I0)および前記配電線が接続された母線に設置された接地形計器用変圧器から入力される零相電圧(V0)に基づいて動作する地絡方向継電器(31)と、前記零相電圧に基づいて動作する地絡過電圧継電器(32)と、該地絡過電圧継電器の出力信号を時限協調時間だけ遅延するためのタイマ(33)と、前記地絡方向継電器の出力信号および前記タイマの出力信号の論理積をとるための論理積回路(34)とを具備し、前記地絡方向継電器の整定値が前記地絡過電圧継電器の整定値よりも高感度にされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の電線、電力ケーブルおよび保護継電システムは、以下の効果を奏する。
(1)本発明の電線または電力ケーブルを用いて配電線を構築することにより、地絡事故が発生するまで継続的な微地絡状態を作ることができるため、事故回線の特定や事故区間の検出が容易となるほか、事故の予知が可能となる。また、事故探索に時間的な余裕が生じるため、事故点の発見が可能となる。
(2)既設の絶縁電線および電力ケーブルの代わりに本発明の電線および電力ケーブルを使用することにより、信頼度の高い設備が可能となる。
(3)本発明の保護継電システムは、従来の保護継電システムにおける地絡方向継電器の整定値を変更するだけで構築できるため、安価なシステム構築が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施例による電線10の構成を示す横断面図である。
【図2】図1に示した電線10への看板1の接触から地絡事故発生までの過程を説明するための図である。
【図3】本発明の一実施例によるCVケーブル20の構成を示す横断面図である。
【図4】図3に示したCVケーブル20において停電事故の原因となる水トリー26について説明するための図である。
【図5】本発明の一実施例による保護継電システム30の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上記の目的を、炭素系抵抗体からなる炭素皮膜を電線の導体と絶縁被覆との間に挿入することにより実現した。
【実施例1】
【0013】
以下、本発明の電線、電力ケーブルおよび保護継電システムの実施例について図面を参照して説明する。
まず、本発明の一実施例による電線10について図1および図2を参照して説明する。
【0014】
本実施例による電線10は、図1に示すように、複数本の導体11が絶縁被覆12で覆われた電線(絶縁電線)である点では従来の絶縁電線と同様であるが、炭素皮膜13が複数本の導体11と絶縁被覆12との間に挿入されている点で従来の絶縁電線と異なる。
【0015】
ここで、炭素皮膜13は、厚さ1mm程度の炭素系抵抗体からなる。
また、炭素皮膜13のシート抵抗Rは、複数本の導体11との接触面積を“S”とすると、
R=12,000(Ω)/S
とされている。すなわち、炭素皮膜13と複数本の導体11との接触面積S=13mm2とすると、炭素皮膜13のシート抵抗R=12,000(Ω)/13(mm2)とされている。
【0016】
このように構成された電線10では、図2(a)に示すように金属製の看板1などが強風で倒れてきて電線10に接触した場合には、まず看板1が絶縁皮膜12に接触してこすることにより、絶縁皮膜12がゆっくりと擦れていく。
絶縁皮膜12が擦れていって、図2(b)に示すように看板1が炭素皮膜13と接触すると、電線10は高抵抗接地状態となり、微地絡が発生する。この高抵抗接地状態は、炭素皮膜13が擦れていって、図2(c)に示すように看板1が導体11に接触して地絡事故が発生するまで継続する。
これにより、地絡事故が発生するまで継続的な微地絡状態を作ることができるため、事故探索に時間的な余裕を生じさせることができるので、事故回線の特定や事故区間の検出が容易となる。
【0017】
次に、本発明の電力ケーブルの一実施例について図3および図4を参照して説明する。
本実施例による電力ケーブルは、6kV用のCVケーブル(架橋ポリエチレン絶縁ビニルシースケーブル)20であって、図3に示すように、分割導体21、分割導体21を覆う架橋ポリエチレン絶縁体22(厚さ5mm程度)、架橋ポリエチレン絶縁体22を覆う金属シールド層23および金属シールド層23を覆うシース24を具備する点では従来のCVケーブルと同様であるが、炭素皮膜25が分割導体21と架橋ポリエチレン絶縁体22との間に挿入されている点で従来のCVケーブルと異なる。
ここで、炭素皮膜25は、厚さ1mm程度の炭素系抵抗体からなる。
また、炭素皮膜25のシート抵抗Rは、分割導体21との接触面積を“S”とすると、
R=12,000(Ω)/S
とされている。
【0018】
CVケーブル20の架橋ポリエチレン絶縁体22は、水分の多い環境下(水の溜まった管路など)で長時間使用すると、架橋ポリエチレン絶縁体22中の異物・ボイド、金属シールド層23からの突起を起点とした水トリー26(水で満たされた樹脂状の亀裂)と呼ばれる劣化が発生する(図4参照)。水トリー26が伸展・成長すると、架橋ポリエチレン絶縁体22の性能が劣化して停電事故の原因となるため、事前の検出が重要となる。
【0019】
CVケーブル20では、水トリー26が伸展・成長してその先端部が炭素皮膜25まで達すると、CVケーブル20は高抵抗接地状態となり、微地絡が発生する。この高抵抗接地状態は、水トリー26が更に伸展・成長してその先端部が分割導体21に接触するまで継続するため、水トリー26の発生を停電発生前に容易に検出することができる。
【0020】
また、たとえばパワーショベルで土を掘り返す作業中に土中に敷設されたCVケーブル20にパワーショベルのバケットのツメが当たってCVケーブル20が損壊するような外的要因によるCVケーブル20の損壊事故についても、バケットのツメが炭素皮膜25と接触すると、CVケーブル20は高抵抗接地状態となり、微地絡が発生する。この高抵抗接地状態は、バケットのツメが分割導体21に接触するまで継続する。
これにより、継続的な微地絡状態を作ることができるため、外的要因によるCVケーブル20の損壊事故を事前に検出することができるとともに、高抵抗接地となるため電圧上昇が抑えられ人身災害を防止することができる。
【0021】
なお、導体と導体を覆う被覆とからなるOCケーブル(屋外用架橋ポリエチレン絶縁電線)においても、導体と被覆との間に炭素系抵抗体からなる炭素皮膜シート(シート抵抗R=12,000(Ω)/S。Sは導体との接触面積)を挿入することにより、上述したCVケーブル20と同様の効果を得ることができる。
なお、OCケーブルでは、被覆の厚さが3mm程度であるため、炭素皮膜シートの厚さは0.5mm程度とする。
【0022】
次に、本発明の一実施例による保護継電システム30について図5を参照して説明する。
本実施例による保護継電システム30は、図1に示した電線10を用いた配電線を地絡事故から保護するためのものであり、図5に示すように、配電線に設置された零相変流器(ZCT)から入力される零相電流I0および配電線が接続された母線に設置された接地形計器用変圧器(EVT)から入力される零相電圧V0に基づいて動作する地絡方向継電器(DG)31と、接地形計器用変圧器から入力される零相電圧V0に基づいて動作する地絡過電圧継電器(OVG)32と、地絡過電圧継電器32の出力信号(地絡事故が検出されるとハイレベルとなる。)を時限協調時間だけ遅延するためのタイマ(T)33と、地絡方向継電器31の出力信号(以下、「微地絡検出信号D」と称する。微地絡が検出されるとハイレベルとなる。)およびタイマ33の出力信号の論理積をとるための論理積回路(AND回路)34とを具備する。
なお、論理積回路34から出力されるトリップ信号TRは、配電線に設置された遮断器に出力される。
【0023】
ここで、地絡方向継電器31の整定値は、従来の保護継電システムでは地絡過電圧継電器32の整定値と同じ値(たとえば、6,000Ω)とされているが、配電線において発生した微地絡を検出するために、地絡過電圧継電器32の整定値の約2倍の値(たとえば、10,000Ω)に設定されている。
【0024】
地絡方向継電器31から出力される微地絡検出信号Dは、制御所監視制御システム(不図示)に遠方監視制御装置(TC)を介して伝送される。これにより、制御所監視制御システムは、微地絡検出信号Dに基づいて事故回線を特定することができる。
また、制御所監視制御システムは、変電所地絡方向継電器瞬時情報と配電線SOG(Storage Over current Ground)などの地絡方向検出手法とを用いて事故区間の検出を行う。
【0025】
なお、保護継電システム30では、地絡方向継電器31から微地絡検出信号Dが出力されても、地絡過電圧継電器32の出力信号がハイレベルにならない限りトリップ信号TRはハイレベルにならないため、配電線に微地絡が発生しても遮断器をトリップすることなく、制御所監視制御システムにおいて事故回線の特定や事故区間の検出を行う時間を確保することができるが、既設の地絡方向継電器31に感度差の違うトリップ用の出力と微地絡検出用の出力とを設けてもよい。
【符号の説明】
【0026】
1 看板
10 電線
11 導体
12 絶縁被覆
13,25 炭素皮膜
20 CVケーブル
21 分割導体
22 架橋ポリエチレン絶縁体
23 金属シールド層
24 シース
26 水トリー
30 保護継電システム
31 地絡方向継電器
32 地絡過電圧継電器
33 タイマ
34 論理積回路
R シート抵抗
S 接触面積
0 零相電流
0 零相電圧
D 微地絡検出信号
TR トリップ信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体(11)が絶縁被覆(12)で覆われた電線(10)であって、炭素系抵抗体からなる炭素皮膜(13)が前記導体と前記絶縁被覆との間に挿入されていることを特徴とする、電線。
【請求項2】
導体(21)が絶縁体(22)および保護被覆(26)で覆われた電力ケーブル(20)であって、炭素系抵抗体からなる炭素皮膜(25)が前記導体と前記絶縁体との間に挿入されていることを特徴とする、電力ケーブル。
【請求項3】
請求項1記載の電線または請求項2記載の電力ケーブルを用いた配電線を地絡事故から保護するための保護継電システム(30)であって、
前記配電線に設置された零相変流器から入力される零相電流(I0)および前記配電線が接続された母線に設置された接地形計器用変圧器から入力される零相電圧(V0)に基づいて動作する地絡方向継電器(31)と、
前記零相電圧に基づいて動作する地絡過電圧継電器(32)と、
該地絡過電圧継電器の出力信号を時限協調時間だけ遅延するためのタイマ(33)と、
前記地絡方向継電器の出力信号および前記タイマの出力信号の論理積をとるための論理積回路(34)とを具備し、
前記地絡方向継電器の整定値が前記地絡過電圧継電器の整定値よりも高感度にされている、
ことを特徴とする、保護継電システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−64405(P2012−64405A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206968(P2010−206968)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】