説明

電線のコーティング方法及びコーティング装置

【課題】コート剤の使用量を低減することが可能な電線のコーティング方法及びコーティング装置を提供する。
【解決手段】コーティング装置1は、コーティング層を形成するためのコート剤を内部に保持すると共に、接触物に対して弾性変形し、この弾性変形により保持している接触物にコート剤を付着させる2つの多孔質部材20a,20bを電線100に対して接触させる。この際、コーティング装置1は、2つの多孔質部材20a,20bを電線径よりも短い距離を隔てて電線に接触させて電線100の全周にコート剤を付着させる。また、コーティング装置1は、2つの多孔質部材20a,20bのうち少なくとも一方を電線100に接触させて、電線100の片面のみにコート剤を付着させる。さらに、コーティング装置1は、2つの多孔質部材20a,20bを電線径と同程度の距離を隔てて電線100に接触させて電線100の両面のみにコート剤を付着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線のコーティング方法及びコーティング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コーティング層を形成するためのコート剤を内部に保持すると共に、接触物に対して弾性変形し、この弾性変形により保持している接触物にコート剤を付着させる多孔質部材を用いた電線のコーティング装置が提案されている。このコーティング装置によれば、所定の隙間をおいて多孔質部材を対抗配置しており、この隙間に電線を挿入することによりコート剤を電線外表面に付着させる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−26475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の電線のコーティング装置では、電線の全周に亘ってコート剤が付着することとなり、例えば電線の片面や両面など、電線の一部のみをコーティングしたい場合には、不要なコート剤が電線に付着することとなり、コート剤の無駄が多くなってしまう。
【0005】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その発明の目的とするところは、コート剤の使用量を低減することが可能な電線のコーティング方法及びコーティング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電線のコーティング方法は、コーティング層を形成するためのコート剤を内部に保持すると共に、接触物に対して弾性変形し、この弾性変形により保持している接触物にコート剤を付着させる2つの多孔質部材の少なくとも一方を、電線に対して接触させる接触工程を有し、前記接触工程は、前記2つの多孔質部材を電線径よりも短い距離を隔てて電線に接触させて電線の全周にコート剤を付着させる第1接触工程と、前記2つの多孔質部材のうち少なくとも一方を電線に接触させて、電線の片面のみにコート剤を付着させる第2接触工程と、前記2つの多孔質部材を電線径と同程度の距離を隔てて電線に接触させて電線の両面のみにコート剤を付着させる第3接触工程と、を有することを特徴とする。
【0007】
この電線のコーティング方法によれば、2つの多孔質部材の少なくとも一方を、電線に対して接触させる接触工程を有し、電線の全周にコート剤を付着させる第1接触工程と、電線の片面のみにコート剤を付着させる第2接触工程と、電線の両面のみにコート剤を付着させる第3接触工程とを有する。このため、電線の全周のみならず片面や両面など、電線の一部のみをコーティングすることができ、不要なコート剤が電線に付着することを防止することができる。従って、コート剤の使用量を低減することができる。
【0008】
また、電線のコーティング方法において、前記第1接触工程では、電線径よりも短い距離を隔てた前記2つの多孔質部材の間隔を、前記電線に対して往復させることにより、電線の全周にコート剤を付着させることが好ましい。
【0009】
この電線のコーティング方法によれば、電線径よりも短い距離を隔てた2つの多孔質部材の間隔を、電線に対して往復させることにより、電線の全周にコート剤を付着させる。このため、まず2つの多孔質部材の間隔を行き方向に移動させた場合に電線の片面にコート剤が付着し、帰り方向に移動させた場合に残りの片面にコート剤が付着することとなる。これにより、電線の全周にコート剤を付着させる場合に、効果的にコート剤を付着させることができ、コート剤の使用量を低減することができる。
【0010】
また、電線のコーティング方法において、前記第2接触工程では、電線径よりも短い距離を隔てた前記2つの多孔質部材の間隔を通過させることなく、前記2つの多孔質部材を電線に接触させることにより、電線の片面のみにコート剤を付着させることが好ましい。
【0011】
この電線のコーティング方法によれば、電線径よりも短い距離を隔てた2つの多孔質部材の間隔を通過させることなく、2つの多孔質部材を電線に接触させることにより、電線の片面のみにコート剤を付着させる。このため、間隔を通過させることなく多孔質部材を接触させた段階で、電線の片面にはコート剤が付着されることとなる。これにより、コート剤の使用量を低減しつつも、片面コーティングを可能とすることができる。
【0012】
また、電線のコーティング方法において、前記第3接触工程では、電線径と同程度の距離を隔てた前記2つの多孔質部材の間隔を、前記電線に対して往復させ、又は、前記2つの多孔質部材を電線に接触させることにより、電線の両面のみにコート剤を付着させることが好ましい。
【0013】
この電線のコーティング方法によれば、電線径と同程度の距離を隔てた2つの多孔質部材の間隔を、電線に対して往復させ、又は、2つの多孔質部材を電線に接触させることにより、電線の両面のみにコート剤を付着させる。このように、間隔が電線径と同程度であると、間隔を電線に対して往復させたり、2つの多孔質部材を電線に接触させたりした場合、コート剤は電線の両端にしか付着せず、両面コーティングを実現することができる。従って、コート剤の使用量を低減しつつも、両面コーティングを可能とすることができる。
【0014】
また、電線のコーティング方法において、前記第1接触工程では、前記2つの多孔質部材が電線径よりも短い距離を隔てる程度に前記2つの多孔質部材で電線を挟み込むことにより電線の全周にコート剤を付着させることが好ましい。
【0015】
この電線のコーティング方法によれば、2つの多孔質部材が電線径よりも短い距離を隔てる程度に2つの多孔質部材で電線を挟み込むことにより電線の全周にコート剤を付着させる。このため、2つの多孔質部材で挟み込むことにより、電線の両端側から同時的にコート剤が付着し、全周に亘ってコーティングされることとなる。これにより、電線の全周にコーティングする場合に、効果的にコート剤を付着させることができ、コート剤の使用量を低減することができる。
【0016】
また、電線のコーティング方法において、前記第2接触工程では、前記2つの多孔質部材のうち一方のみを電線に接触させて、電線の片面のみにコート剤を付着させることが好ましい。
【0017】
この電線のコーティング方法によれば、2つの多孔質部材のうち一方のみを電線に接触させて、電線の片面のみにコート剤を付着させる。このため、コート剤は電線の片面にしか付着せず、片面コーティングを実現することができる。従って、コート剤の使用量を低減しつつも、片面コーティングを可能とすることができる。
【0018】
また、電線のコーティング方法において、前記第3接触工程では、前記2つの多孔質部材が電線径と同程度の間隔を隔てる程度に前記2つの多孔質部材で電線を挟み込むことにより、電線の両面のみにコート剤を付着させることが好ましい。
【0019】
この電線のコーティング方法によれば、2つの多孔質部材が電線径と同程度の間隔を隔てる程度に2つの多孔質部材で電線を挟み込むことにより、電線の両面のみにコート剤を付着させる。このため、コート剤は電線の両端にしか着色されず、両面コーティングを実現することができる。従って、コート剤の使用量を低減しつつも、両面コーティングを可能とすることができる。
【0020】
また、本発明の電線のコーティング装置は、コーティング層を形成するためのコート剤を内部に保持すると共に、接触物に対して弾性変形し、この弾性変形により保持している接触物にコート剤を付着させる2つの多孔質部材の少なくとも一方を、電線に対して接触させる接触手段を備え、前記接触手段は、前記2つの多孔質部材を電線径よりも短い距離を隔てて電線に接触させて電線の全周にコート剤を付着させる第1接触手段と、前記2つの多孔質部材のうち少なくとも一方を電線に接触させて、電線の片面のみにコート剤を付着させる第2接触手段と、前記2つの多孔質部材を電線径と同程度の距離を隔てて電線に接触させて電線の両面のみにコート剤を付着させる第3接触手段と、を備えることを特徴とする。
【0021】
この電線のコーティング装置によれば、2つの多孔質部材の少なくとも一方を、電線に対して接触させる接触手段を有し、電線の全周にコート剤を付着させる第1接触手段と、電線の片面のみにコート剤を付着させる第2接触手段と、電線の両面のみにコート剤を付着させる第3接触手段とを有する。このため、電線の全周のみならず片面や両面など、電線の一部のみをコーティングすることができ、不要なコート剤が電線に付着することを防止することができる。従って、コート剤の使用量を低減することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、コート剤の使用量を低減することが可能な電線のコーティング方法及びコーティング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】コーティング対象となるインク着色後の電線の状態を示す断面図であって、(a)は全周着色状態を示し、(b)は片面着色状態を示し、(c)は両面着色状態を示している。
【図2】コーティング対象となるインク着色後の電線の例を示す概略図であって、(a)は第1の例を示し、(b)は第2の例を示し、(c)は第3の例を示し、(d)は第4の例を示し、(e)は第5の例を示している。
【図3】第1実施形態に係る電線のコーティング装置を示す概略構成図である。
【図4】第2実施形態に係る電線のコーティング装置を示す概略構成図である。
【0024】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明するに先立って、コーティング対象となる電線について説明する。図1は、コーティング対象となるインク着色後の電線100の状態を示す断面図であって、(a)は全周着色状態を示し、(b)は片面着色状態を示し、(c)は両面着色状態を示している。
【0025】
図1(a)に示す電線100は全周に着色がされている(符号101参照)。このため、この電線100に対しては全周にコート剤を付着させる必要がある。これに対して、図1(b)に示す電線100は、片面しか着色されておらず(符号103参照)、コート剤についても片面のみに付着させればよいこととなる。同様に、図1(c)に示す電線100は、両面(両端)しか着色されておらず(符号102参照)、コート剤についても両面のみに付着させればよいこととなる。
【0026】
図2は、コーティング対象となるインク着色後の電線100の例を示す概略図であって、(a)は第1の例を示し、(b)は第2の例を示し、(c)は第3の例を示し、(d)は第4の例を示し、(e)は第5の例を示している。
【0027】
図2(a)に示すように、電線100の端末部位には全周に亘る全周着色101が付されている。なお、電線100の中間部位には、電線100の接続先を示す回路情報104が印字により付与されている。また、回路情報104は、所定長の電線において等間隔に複数印字されている。この回路情報104については、本実施形態に係るコーティング装置1ではなく、別の印字装置により付されることなる。
【0028】
このため、図2(a)に示す電線100に対しては、全周着色101の箇所に全周コーティングを施し、回路情報104の印字箇所に片面コーティングを施せばよいこととなる。
【0029】
また、図2(b)〜図2(e)に示す例では、電線100の端末部位に、両面着色102(裏側にも同様の着色あり)及び片面着色103が付されている。これらの例に示すように、1本の電線100に対して、両面着色102及び片面着色103が混在するように着色されていてもよい。
【0030】
このため、図2(b)〜図2(e)に示す電線100に対しては、両面着色102の箇所に両面コーティングを施し、片面着色102及び回路情報104の印字箇所に片面コーティングを施せばよいこととなる。
【0031】
なお、図1及び図2に示す例では、着色層の上にコーティング層を形成するトップコートについて説明したが、以下に説明するコーティング装置及びコーティング方法は、トップコートに限らず、アンダーコートについても用いられてもよい。
【0032】
次に、本発明の第1実施形態について説明する。図3は、第1実施形態に係る電線のコーティング装置を示す概略構成図である。図3に示すように、本実施形態に係る電線100のコーティング装置1は、2つのコート剤カートリッジ10a,10bと、2つの多孔質部材20a,20bとによって構成されている。
【0033】
コート剤カートリッジ10a,10bは、コーティング層を形成するためのコート剤を保持するものである。多孔質部材20a,20bは、例えばコート剤を受容及び保持できるフェルト、又は浸透性ゴムにより構成され、コート剤カートリッジ10a,10bから供給されるコート剤を内部に保持するものである。この多孔質部材20a,20bは、接触物に対して弾性変形し、この弾性変形により保持しているコート剤を接触物に付着させるものである。
【0034】
このような多孔質部材20a,20bは、断面が楕円形状となる楕円部21a,21bと、楕円部21a,21bとコート剤カートリッジ10a,10bとを接続するコート剤導入部22a,22bとを備えている。コート剤は、コート剤導入部22a,22bを経て楕円部21a,21bまで至ることとなる。
【0035】
また、多孔質部材20a,20bは可動する構成となっている。具体的に多孔質部材20a,20bは、互いに離接する方向に可動する構成となっている(矢印A参照)。これにより、多孔質部材20a,20bは、互いの間隔dを調整可能となっている。さらに、多孔質部材20a,20bは、コート剤導入部22a,22bを回転中心として所定角度回転可能となっている(矢印B参照)。加えて、多孔質部材20a,20bは、コート剤カートリッジ10a,10bごと上下動可能となっている(矢印C1,C2参照)。
【0036】
次に、本実施形態に係るコーティング装置1による電線のコーティング方法について図3を参照して説明する。まず、このコーティング装置1では、2つの多孔質部材20a,20bの双方を電線100に対して接触させる接触工程により、電線100の全周、片面及び両面にコーティング可能となっている。
【0037】
電線100の全周に対してコーティングする場合を説明する。電線100の全周にコーティングする場合、2つの多孔質部材20a,20bの間隔dを調整する。このとき、2つの多孔質部材20a,20bは、電線径よりも短い距離の間隔dだけ離れるように調整される。そして、2つの多孔質部材20a,20bの間隔dを電線100に対して往復させる(第1接触工程、第1接触手段)。なお、このときの間隔dは距離がゼロとなっていてもよい。この場合、インクの乾燥を防止し易くできるからである。
【0038】
詳細に説明すると、まず2つの多孔質部材20a,20bを行き方向C1に移動させ、電線100に対して間隔dを通過させる。これにより、電線100の片面にコーティングされることとなる。すなわち、電線100に対して間隔dを通過させる場合、2つのインク着色部材20a,20bは、電線100への当接後にコート剤導入部22a,22bを中心に回転する。これにより、間隔dは広がり、電線100は間隔dを通過して、電線100の片面にコーティングが行われることとなる。
【0039】
その後、2つの多孔質部材20a,20bを帰り方向C2に移動させた場合、残りの片面にもコーティングされることとなる。このときについても行き方向C1の移動と同様に、残り片面にコーティングが行われることとなる。以上により、電線100の全周にコーティングすることができる。
【0040】
次に、電線100の片面に対してコーティングする場合を説明する。電線100の片面にコーティングする場合、2つの多孔質部材20a,20bの間隔dを調整する。このとき、2つの多孔質部材20a,20bは、電線径よりも短い距離の間隔dだけ離れるように調整される。なお、このときの間隔dはインク乾燥防止のため距離がゼロとなっていてもよい。
【0041】
そして、間隔dを電線100に対して往復させることなく、2つの多孔質部材20a,20bに接触させる(第2接触工程、第2接触手段)。このように、間隔dを通過させることなく多孔質部材20a,20bを電線100に接触させた場合、電線100の片面にはコーティングがなされ、残り片面にはコーティングがされず、片面コーティングが実現されることとなる。以上により、コート剤の使用量を低減しつつも、片面コーティングを可能とすることができる。
【0042】
次に、電線100の両面に対してコーティングする場合を説明する。電線100の両面にコーティングする場合、2つの多孔質部材20a,20bの間隔dを電線径と同程度に調整する。そして、電線径と同程度の間隔dを電線100に対して往復させる(第3接触工程、第3接触手段)。ここで、間隔dは電線径と同程度となっているため、コート剤は電線100の両端にしか付着しないこととなる。これにより、両面コーティングが実現されることとなる。以上により、コート剤の使用量を低減しつつも、両面着色を可能とすることができる。
【0043】
なお、上記では間隔dを電線100に対して往復させているが、これに限らず、2つの多孔質部材20a,20bを電線100に接触させるだけであってもよい(第3接触工程、第3接触手段)。これによっても、電線100の両端に着色を行うことができるからである。
【0044】
このようにして、本実施形態に係る電線100のコーティング方法によれば、2つの多孔質部材20a,20bの少なくとも一方を、電線に対して接触させる接触工程を有し、電線100の全周にコート剤を付着させる第1接触工程と、電線100の片面のみにコート剤を付着させる第2接触工程と、電線100の両面のみにコート剤を付着させる第3接触工程とを有する。このため、電線100の全周のみならず片面や両面など、電線100の一部のみをコーティングすることができ、不要なコート剤が電線100に付着することを防止することができる。従って、コート剤の使用量を低減することができる。
【0045】
また、電線径よりも短い距離を隔てた2つの多孔質部材20a,20bの間隔dを、電線100に対して往復させることにより、電線100の全周にコート剤を付着させる。このため、まず2つの多孔質部材20a,20bの間隔dを行き方向C1に移動させた場合に電線100の片面にコート剤が付着し、帰り方向C2に移動させた場合に残りの片面にコート剤が付着することとなる。これにより、電線100の全周にコート剤を付着させる場合に、効果的にコート剤を付着させることができ、コート剤の使用量を低減することができる。
【0046】
また、電線径よりも短い距離を隔てた2つの多孔質部材20a,20bの間隔dを通過させることなく、2つの多孔質部材20a,20bを電線100に接触させることにより、電線100の片面のみにコート剤を付着させる。このため、間隔dを通過させることなく多孔質部材20a,20bを接触させた段階で、電線100の片面にはコート剤が付着されることとなる。これにより、コート剤の使用量を低減しつつも、片面コーティングを可能とすることができる。
【0047】
また、電線径と同程度の距離を隔てた2つの多孔質部材20a,20bの間隔dを、電線100に対して往復させ、又は、2つの多孔質部材20a,20bを電線100に接触させることにより、電線100の両面のみにコート剤を付着させる。このように、間隔dが電線径と同程度であると、間隔dを電線100に対して往復させたり、2つの多孔質部材20a,20bを電線100に接触させたりした場合、コート剤は電線100の両端にしか付着せず、両面コーティングを実現することができる。従って、コート剤の使用量を低減しつつも、両面コーティングを可能とすることができる。
【0048】
また、本実施形態に係る電線100のコーティング装置1によれば、2つの多孔質部材20a,20bの少なくとも一方を、電線100に対して接触させる接触手段を有し、電線100の全周にコート剤を付着させる第1接触手段と、電線の片面のみにコート剤を付着させる第2接触手段と、電線の両面のみにコート剤を付着させる第3接触手段とを有する。このため、電線100の全周のみならず片面や両面など、電線100の一部のみをコーティングすることができ、不要なコート剤が電線100に付着することを防止することができる。従って、コート剤の使用量を低減することができる。
【0049】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図4は、第2実施形態に係る電線100のコーティング装置2を示す概略構成図である。図4に示すように、第2実施形態に係る電線100のコーティング装置2は、2つの多孔質部材30a,30bと、2つの収容ケース40a,40bとを備えている。
【0050】
2つの多孔質部材30a,30bは、第1実施形態のものと同様である。2つの収容ケース40a,40bは、それぞれ多孔質部材30a,30bを収容した凹形状のケースであり、凹部に多孔質部材30a,30bがはまり込むようになっている。
【0051】
また、収容ケース40a,40bは、それぞれ移動可能となっている。これらの収容ケース40a,40bは、待機位置Eにおいて互いの凹部を突き合わせるようになっている。これにより、待機時における多孔質部材30a,30bからのコート剤の乾燥を防止している。
【0052】
また、収容ケース40a,40bは互いに離間しつつ下方に移動する。これにより、収容ケース40a,40bは中間位置Fまで移動可能となっている。さらに、収容ケース40a,40bは、中間位置Fを経て、互いに近づきつつ下方に移動する。これにより、収容ケース40a,40bは最終位置Gまで移動可能となっている。
【0053】
次に、第2実施形態に係るコーティング装置2による電線100のコーティング方法について図4を参照して説明する。第2実施形態に係るコーティング装置2では、2つの多孔質部材20a,20bの少なくとも一方を電線に対して接触させる接触工程により、電線100の全周、片面及び両面にコーティング可能となっている。
【0054】
まず、電線100の全周に対してコーティングする場合を説明する。電線100の全周にコーティングする場合、2つの多孔質部材30a,30bで電線100を挟み込むことにより、電線100にコーティングする(第1接触工程、第1接触手段)。具体的に説明すると、電線100が所定位置に配置された状態で、2つの収容ケース40a,40bを移動させる。このとき、2つの収容ケース40a,40bは、中間位置Fを経て最終位置Gまで移動させられる。この最終位置Gでは、2つの多孔質部材30a,30bは互いに接触しているため、電線100の全周にコーティングすることができる。
【0055】
なお、最終位置Gにおいて2つの多孔質部材30a,30bは、電線径よりも短い距離を隔てる程度に電線100を挟み込んでもよい。すなわち、全周にコーティングする場合、2つの多孔質部材30a,30bの距離は、最終位置Gにおいて電線径よりも短くなっていればよい。
【0056】
次に、電線100の片面に対してコーティングする場合を説明する。電線100の片面にコーティングする場合、2つの多孔質部材30a,30bのうちいずれか一方のみを電線100に接触させることにより、電線100にコーティングする(第2接触工程、第2接触手段)。具体的に説明すると、2つの収容ケース40a,40bのうち、いずれか一方のみを移動させ、他方を待機位置Eのまま停止させる。そして、一方の収容ケース40a,40bについては、中間位置Fを経て最終位置Gまで移動させる。これにより、片面コーティングを可能とすることができる。
【0057】
次に、電線100の両面に対してコーティングする場合を説明する。電線100の両面にコーティングする場合、2つの多孔質部材30a,30bを、電線径と同程度の間隔を隔てて電線100を挟むことにより、電線100にコーティングする(第3接触工程、第3接触手段)。具体的に説明すると、2つの収容ケース40a,40bの双方について最終位置G近傍(すなわち2つの多孔質部材30a,30bが合致せず、わずかに隙間が空けられた位置)まで移動させる。このとき、2つの多孔質部材30a,30bの間の距離は電線径と同程度となる。これにより、両面コーティングを可能とすることができる。
【0058】
このようにして、第2実施形態に係る電線100のコーティング方法及びコーティング装置2によれば、第1実施形態と同様に、コート剤の使用量を低減することができる。
【0059】
さらに、第2実施形態によれば、2つの多孔質部材30a,30bが電線径よりも短い距離を隔てる程度に2つの多孔質部材30a,30bで電線100を挟み込むことにより電線100の全周にコート剤を付着させる。このため、2つの多孔質部材30a,30bで挟み込むことにより、電線100の両端側から同時的にコート剤が付着し、全周に亘ってコーティングされることとなる。これにより、電線100の全周にコーティングする場合に、効果的にコート剤を付着させることができ、コート剤の使用量を低減することができる。
【0060】
また、2つの多孔質部材30a,30bのうち一方のみを電線100に接触させて、電線100の片面のみにコート剤を付着させる。このため、コート剤は電線100の片面にしか付着せず、片面コーティングを実現することができる。従って、コート剤の使用量を低減しつつも、片面コーティングを可能とすることができる。
【0061】
また、2つの多孔質部材30a,30bが電線径と同程度の間隔を隔てる程度に2つの多孔質部材30a,30bで電線100を挟み込むことにより、電線100の両面のみにコート剤を付着させる。このため、コート剤は電線100の両端にしか着色されず、両面コーティングを実現することができる。従って、コート剤の使用量を低減しつつも、両面コーティングを可能とすることができる。
【0062】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、各実施形態を組み合わせてもよい。
【0063】
例えば、第1実施形態において多孔質部材20a,20bは楕円部21a,21bとコート剤導入部22a,22bとから構成されており、コーティングの過程においてコート剤導入部22a,22bを中心に回転する構造となっている。このため、回転の際にコート剤導入部22a,22bからコート剤が漏れる可能性がある。このため、コート剤導入部22a,22bにカバーを設けて、コート剤の漏れを防止するようにしてもよい。
【0064】
さらに、上記実施形態において電線100の被覆部は白色又は被覆樹脂本来の色で統一されていることが望ましい。加えて、被覆部を被覆樹脂本来の色で統一する場合、導体の種類(例えば銅(銅においても軟銅、純銅及び硬銅など)及びアルミ)に応じて被覆する樹脂を決定し、被覆部の色を参照することにより導体の種類が判別できるようにすることが望ましい。これにより、外観により導体を判別できるからである。
【符号の説明】
【0065】
1,2…コーティング装置
10a,10b…コート剤カートリッジ
20a,20b…多孔質部材
21a,21b…楕円部
22a,22b…コート剤導入部
30a,30b…多孔質部材
40a,40b…収容ケース
100…電線
101…全周着色
102…両面着色
103…片面着色
104…回路情報
d…間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティング層を形成するためのコート剤を内部に保持すると共に、接触物に対して弾性変形し、この弾性変形により保持している接触物にコート剤を付着させる2つの多孔質部材の少なくとも一方を、電線に対して接触させる接触工程を有し、
前記接触工程は、
前記2つの多孔質部材を電線径よりも短い距離を隔てて電線に接触させて電線の全周にコート剤を付着させる第1接触工程と、
前記2つの多孔質部材のうち少なくとも一方を電線に接触させて、電線の片面のみにコート剤を付着させる第2接触工程と、
前記2つの多孔質部材を電線径と同程度の距離を隔てて電線に接触させて電線の両面のみにコート剤を付着させる第3接触工程と、
を有することを特徴とする電線のコーティング方法。
【請求項2】
前記第1接触工程では、電線径よりも短い距離を隔てた前記2つの多孔質部材の間隔を、前記電線に対して往復させることにより、電線の全周にコート剤を付着させる
ことを特徴とする請求項1に記載の電線のコーティング方法。
【請求項3】
前記第2接触工程では、電線径よりも短い距離を隔てた前記2つの多孔質部材の間隔を通過させることなく、前記2つの多孔質部材を電線に接触させることにより、電線の片面のみにコート剤を付着させる
ことを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の電線のコーティング方法。
【請求項4】
前記第3接触工程では、電線径と同程度の距離を隔てた前記2つの多孔質部材の間隔を、前記電線に対して往復させ、又は、前記2つの多孔質部材を電線に接触させることにより、電線の両面のみにコート剤を付着させる
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電線のコーティング方法。
【請求項5】
前記第1接触工程では、前記2つの多孔質部材が電線径よりも短い距離を隔てる程度に前記2つの多孔質部材で電線を挟み込むことにより電線の全周にコート剤を付着させる
ことを特徴とする請求項1に記載の電線のコーティング方法。
【請求項6】
前記第2接触工程では、前記2つの多孔質部材のうち一方のみを電線に接触させて、電線の片面のみにコート剤を付着させる
ことを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の電線のコーティング方法。
【請求項7】
前記第3接触工程では、前記2つの多孔質部材が電線径と同程度の間隔を隔てる程度に前記2つの多孔質部材で電線を挟み込むことにより、電線の両面のみにコート剤を付着させる
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電線のコーティング方法。
【請求項8】
コーティング層を形成するためのコート剤を内部に保持すると共に、接触物に対して弾性変形し、この弾性変形により保持している接触物にコート剤を付着させる2つの多孔質部材の少なくとも一方を、電線に対して接触させる接触手段を備え、
前記接触手段は、
前記2つの多孔質部材を電線径よりも短い距離を隔てて電線に接触させて電線の全周にコート剤を付着させる第1接触手段と、
前記2つの多孔質部材のうち少なくとも一方を電線に接触させて、電線の片面のみにコート剤を付着させる第2接触手段と、
前記2つの多孔質部材を電線径と同程度の距離を隔てて電線に接触させて電線の両面のみにコート剤を付着させる第3接触手段と、
を備えることを特徴とする電線のコーティング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−181401(P2011−181401A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45662(P2010−45662)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】