説明

電線の固定方法および塗布工具

【課題】現場で施工する際に配線の省スペース化を図ることのできる電線の固定方法を提供する。
【解決手段】1本または複数本の電線2を壁面1に沿わせ、その上から樹脂3を塗布することにより電線2を壁面1に固定する。この電線の固定方法によれば、電線を収容する部材を用いずに樹脂3で電線2を壁面1に固定するようにしているので、電線2を任意のルートを通して任意の位置に固定することができる。よって、配線の省スペース化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線の固定方法およびその方法を実行するのに適した塗布工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば配電盤や制御盤内などで電線を配線する際には、例えば特許文献1に記載されているようなケーブルダクトを用いて電線を盤内壁面(例えば床面、側面、天井面など)に固定することが行われている。
【0003】
また、特許文献2には、金型を用いて副数本の電線を樹脂で結束することにより所定の形状のワイヤーハーネスを形成し、このワイヤーハーネスを筐体に固定する方法が開示されている。具体的には、ワイヤーハーネスを形成する際に、電線の結束と同時に孔を有する固定部を成型し、この固定部の孔を筐体に設けられたボスに嵌合させることにより、ワイヤーハーネスを筐体に固定する。
【特許文献1】特開2007−312532号公報
【特許文献2】特開2006−66193号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記のようにケーブルダクトを用いる方法では、電線を収容するケーブルダクトが比較的に大きな断面形状で直線状に延びるものであるために、ケーブルダクトを設置する場所が限られ、電線の配線のために大きなスペースが必要になる。さらには、電線を配線する前には、ケーブルダクトを固定する作業が必要である。
【0005】
これに対し、特許文献2に開示されているような方法では、電線を収容する部材がなく、また固定位置を任意に選択してそれに合わせた形状のワイヤーハーネスを形成することができるために、電線の配線に要するスペースを小さくすることができる。しかし、そのためには、複雑な三次元的形状の金型を配線場所に合わせて準備する必要がある。すなわち、特許文献2に開示された方法は、量産品の工場生産を想定したものであり、現場での施工に適したものではない。このことは、両端にコネクタを有するワイヤーハーネスを形成することからも明らかである。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑み、現場で施工する際に配線の省スペース化を図ることのできる電線の固定方法およびその方法を実行するのに適した塗布工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明は、1本または複数本の電線を壁面に沿わせ、その上から樹脂を塗布することにより電線を壁面に固定する、電線の固定方法を提供する。
【0008】
また、本発明は、壁面に沿わされた電線の上から樹脂を塗布する際に用いられる塗布工具であって、前記電線を跨いだ状態で前記壁面に当接可能な形状の先端部を有し、この先端部の内側面には、樹脂を吐出する吐出口が設けられている、塗布工具を提供する。
【発明の効果】
【0009】
前記構成の電線の固定方法によれば、電線を収容する部材を用いずに樹脂で電線を壁面に固定するようにしているので、電線を任意のルートを通して任意の位置に固定することができる。よって、配線の省スペース化を図ることができる。
【0010】
また、前記構成の塗布工具を用いれば、上記の方法を行う際に、形状を整えながら樹脂を塗布することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明は本発明の一例に関するものであり、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0012】
図1に、本発明の一実施形態に係る電線の固定方法により壁面1に電線2を固定した配線状態を示す。図1の左側では、複数本(図例では6本)の電線2が横並び(図例では上下)に並んだ状態で樹脂3によって壁面1に固定されており、その右側では1本の電線2が下向きに折り曲げられ、残りの5本の電線2はそのまま真っ直ぐに延びている。図1の下側では、下向きに折り曲げられた電線2が単独で樹脂3によって壁面1に固定されており、図1の右側では、左側から真っ直ぐに延びる5本の電線2が樹脂3によって横並びに並んだ状態で壁面1に固定されている。
【0013】
壁面1としては、例えば配電盤や制御盤内などの盤内壁面(例えば床面、側面、天井面など)であってもよいし、例えばエレベータなどの機器の外面や内面であってもよい。すなわち、壁面1とは、電線2を固定すべき物の表面、すなわち面の向きにかかわらない支持面のことである。
【0014】
本実施形態の電線の固定方法は、仮止め工程と、塗布工程とからなる。
【0015】
仮止め工程では、電線2を壁面1に沿わせた状態を形成する。まず、図2(a)に示すように、壁面1における電線2を固定する位置の所定領域に樹脂3を塗布して仮止め層31を形成する。ついで、図2(b)に示すように、仮止め層31を構成する樹脂3が硬化する前に当該樹脂3上に電線2を配置して仮止めを行う。樹脂3の塗布は、図3に示すカートリッジ5およびガン4、ならびに図4(a)に示す仮止め用塗布工具6を用いて行う。
【0016】
カートリッジ5には、樹脂3が封入されている。樹脂3は、壁面1に塗布したときに垂れない程度の粘度を有するものあれば特に限定されるものではないが、その例としては、ポリエステル樹脂、アミノアルキッド樹脂、スチレン化アルキド樹脂、ビニル樹脂、アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、エポキシポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、塩化ゴム樹脂、フェノール樹脂などであり、これらの樹脂には必要に応じ、触媒、架橋剤、硬化剤、充填剤、消泡剤、発泡剤、分散剤、乳化剤、希釈剤、顔料、可塑剤、防腐剤、殺菌剤、皮張り防止剤、色別れ防止剤、沈降防止剤、界面活性剤、増粘剤、チキソトロピィ性付与剤、ワックスなど、各種添加剤が配合される。好ましくは、樹脂3の粘度は、20℃において0.1〜200Pa・sである。より好ましい樹脂3の粘度は、20℃において1.0〜150Pa・sである。
【0017】
ガン4は、カートリッジ5の底面を押すことにより、カートリッジ5のノズル5aから樹脂3を押し出すものである。ガン4としては、例えばシーリング用のコーキングガンをそのまま利用することができる。
【0018】
仮止め用塗布工具6は、図5(a)に示すようにカートリッジ5の先端部分に装着されるものである。具体的には、仮止め用塗布工具6は、図4(a)に示すように、略円柱状の形状を有しており、後端部61がカートリッジ5の先端部分に固定されることによりカートリッジ5の先端部分に装着される。また、仮止め用塗布工具6の先端面62には、直線状の開口6aが設けられているとともに、仮止め用塗布工具6の内部には、カートリッジ5のノズル5aから押し出された樹脂3を開口6aへ導く流路(図示せず)が設けられている。
【0019】
そして、樹脂3を壁面1に塗布する際には、開口6aが壁面1と平行になるように仮止め用塗布工具6を壁面1に宛がった状態で開口6aと直交する方向にガン4を動かしながらガン4を操作する。このようにすれば、壁面1上に樹脂3を簡単に帯状に塗布することができる。その後、未硬化の樹脂3の上に電線2を配置すれば、電線2が樹脂3の粘着力によって仮止め層31に保持されるようになるため、電線2を壁面1上に仮止めすることができる。
【0020】
カートリッジ5の先端部分への仮止め用塗布工具6の後端部61の固定は、ねじ止めによって行ってもよいし、例えばクランプ部材などを用いて行ってもよい。あるいは、例えば図5(b)に示すように、カートリッジ5を、本体部52と、この本体部52に着脱可能なノズル部51とで構成し、ノズル部51に代えて仮止め用塗布工具6の後端部61を本体部52に取り付けるようにしてもよい。この場合の着脱可能な構造としては、嵌合構造や雄ねじと雌めじとの螺合構造が採用可能である。
【0021】
なお、仮止め用塗布工具6としては、種々の形状のものを採用することができ、例えば図4(b)に示すような形状の仮止め用塗布工具6’を使用してもよい。この仮止め用塗布工具6’は、カートリッジ5の先端部分に固定される固定部63と、矩形板状の先端部64と、この先端部64の一端面から固定部63に向かって斜めに延びる連結部65を有している。そして、先端部64の前記一端面の隣の端面に開口6aが設けられている。このような仮止め用塗布工具6’を用いれば、先端部64の表面64aを壁面1に当てることによって、開口6aと壁面1とを簡単に平行に保つことができる。
【0022】
また、仮止め用塗布工具6(または6’)は、カートリッジ5に装着されるものである必要はなく、ガン4の先端に装着されるようになっていてもよい。
【0023】
塗布工程では、図2(c)に示すように、仮止め層31に保持されて壁面1に沿わされた電線2の上から樹脂3を塗布して表層32を形成することにより、電線2を壁面1に固定する。樹脂3の塗布は、図3に示すカートリッジ5およびガン4、ならびに図6に示す塗布工具7を用いて、電線2の延びる方向に沿って所定の長さで、かつ、所定の断面形状で電線2の延びる方向に延びる形状を形成するように行う。
【0024】
表層32の長さ(前記の所定の長さ)は、仮止め層31の長さと同じであってもそれよりも長くても短くてもよい。また、表層32の幅(前記の所定の断面形状の幅)も、仮止め層31の幅と同じであってもよく、それよりも長くても短くてもよい。
【0025】
塗布工具7は、カートリッジ5の先端部分に固定される固定部71と、先端部72と、この先端部72と固定部71とをつなぐ中継部73とを有している。図例では、中継部73が直角に折れ曲がっているが、例えば、中継部73が直線状になっていて、先端部72、中継部73、および固定部71が直線上に配置されてもよい。あるいは、先端部72、中継部73、および固定部71は、明確に区分けされている必要はなく、それらの外側面が連続していてもよい。
【0026】
カートリッジ5の先端部分への固定部71の固定は、仮止め用塗布工具6の後端部61と同様に、ねじ止めもしくはクランプ部材、または嵌合構造もしくは螺合構造などによって行えばよい。
【0027】
先端部72は、電線2を跨いだ状態で壁面1に当接可能な平面視で略コ字状の形状を有しており、その先端面が電線2を挟んで壁面1に面接触可能な一対の接触面72aを構成している。また、先端部72の内側面72bには、樹脂3を吐出する吐出口7aが設けられている。より詳しくは、吐出口7aは、所定の幅のまま内側面72bを構成する3つの面に跨って延びるように形成されている。
【0028】
先端部72の内部は、空洞となっている。中継部73の内部には、カートリッジ5のノズル5aから押し出された樹脂3を先端部72の内部空間へ導く流路(図示せず)が設けられている。このため、カートリッジ5のノズル5aから押し出された樹脂3は、先端部72の内部に一旦貯留された後に吐出口7aから吐出される。
【0029】
そして、樹脂3を電線2の上から塗布する際には、塗布工具7の接触面72aを壁面1に宛がった状態で電線2の延びる方向に沿ってガン4を動かしながらガン4を操作する。このようにすれば、壁面1上に、矩形の断面形状で電線2の延びる方向に延びる形状が形成される。
【0030】
なお、先端部72は、電線2を跨いだ状態で壁面1に当接可能な形状を有していればよく、例えば図7(a)に示すように正面視で略円弧状、または図7(b)に示すように正面視で略V字状をなしていてもよい。
【0031】
また、この塗布工具7も、仮止め用塗布工具と同様に、カートリッジ5に装着されるものである必要はなく、ガン4の先端に装着されるようになっていてもよい。
【0032】
以上説明したように、本実施形態の電線の固定方法では、電線を収容する部材を用いずに樹脂3で電線2を壁面1に固定するようにしているので、電線2を任意のルートを通して任意の位置に固定することができる。例えば、盤内の空いているスペースを縫うように電線2を湾曲させ、必要な箇所のみを固定することができる。よって、配線の自由度が向上し、配線の省スペース化を図ることができる。しかも、樹脂3を壁面1または電線2から剥がせば、電線2の配線を簡単にやり直すことができる。
【0033】
ここで、電線2の上から樹脂3を塗布する際には、塗布工具7に代えて、仮止めで使用した仮止め用塗布工具6(または6’)を使用してもよい。あるいは、塗布工具を使用しなくても、カートリッジ5のノズル5aから押し出された樹脂3を直接壁面1上に塗布するようにしてもよい。ただし、本実施形態のように、塗布工具7を用いれば、形状を整えながら樹脂3を塗布することができ、施工後の見栄えがよくなる。また、塗布工具7は、壁面1に面接触可能な一対の接触面72aを有しているので、この接触面72aをガン4を移動する際のガイドとして利用することができるため、施工性もよい。
【0034】
さらに、電線2の上から樹脂3を塗布する際には、スポット状に樹脂3を塗布することも可能であるが、電線2の延びる方向に沿って所定の長さで樹脂3を塗布すれば、十分な強度で電線2を壁面1に固定することができる。
【0035】
前記実施形態では、仮止め工程と塗布工程とで同一の樹脂3を用いているが、これらの工程で異なる樹脂を用いてもよい。
【0036】
また、仮止め工程を省略して、電線2を直接壁面1に宛がって壁面1に沿わせ、その上から樹脂3を塗布するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施形態に係る電線の固定方法により壁面に電線を固定した配線状態を示す平面図である。
【図2】(a)〜(c)は、電線の固定方法を説明する説明図である。
【図3】カートリッジをセットしたガンを示す側面図である。
【図4】(a)は仮止め用塗布工具を示す斜視図、(b)は変形例の仮止め用塗布工具を示す斜視図である。
【図5】(a)はカートリッジの先端部分を示す斜視図、(b)は変形例のカートリッジの先端部分を示す側面図である。
【図6】塗布工具の斜視図である。
【図7】(a)および(b)は、塗布工具の変形例の先端部を示す正面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 壁面
2 電線
3 樹脂
4 ガン
5 カートリッジ
6,6’ 仮止め用塗布工具
7 塗布工具
71 固定部
72 先端部
72a 接触面
72b 内側面
73 中継部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1本または複数本の電線を壁面に沿わせ、その上から樹脂を塗布することにより電線を壁面に固定する、電線の固定方法。
【請求項2】
前記樹脂を塗布する際には、前記電線の延びる方向に沿って所定の長さで樹脂を塗布する、請求項1に記載の電線の固定方法。
【請求項3】
前記樹脂を塗布する際には、所定の断面形状で前記電線の延びる方向に延びる形状を形成するように前記樹脂の塗布を行う、請求項2に記載の電線の固定方法。
【請求項4】
前記電線を壁面に沿わせる際には、前記壁面に樹脂を塗布し、この樹脂の上に前記電線を配置することにより、前記樹脂の粘着力で前記電線を前記壁面上に仮止めする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電線の固定方法。
【請求項5】
前記樹脂の塗布を、樹脂が封入されたカートリッジとこのカートリッジから樹脂を押し出すガンを用いて行う、請求項1〜4のいずれか一項に記載の電線の固定方法。
【請求項6】
壁面に沿わされた電線の上から樹脂を塗布する際に用いられる塗布工具であって、
前記電線を跨いだ状態で前記壁面に当接可能な形状の先端部を有し、この先端部の内側面には、樹脂を吐出する吐出口が設けられている、塗布工具。
【請求項7】
前記先端部は、正面視で略コ字状、略円弧状、または略V字状をなしている、請求項6に記載の塗布工具。
【請求項8】
前記先端部は、前記電線を挟んで前記壁面に面接触可能な一対の接触面を有している、請求項6または7に記載の塗布工具。
【請求項9】
前記樹脂が封入されたカートリッジに固定される固定部と、この固定部と前記先端部とをつなぐ中継部とをさらに有する、請求項6〜8のいずれか一項に記載の塗布工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−195043(P2009−195043A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33993(P2008−33993)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(000108524)ヘラマンタイトン株式会社 (57)
【Fターム(参考)】