説明

電線の製造方法、及び電線

【課題】金属被膜繊維の断線の可能性を低減することが可能な電線の製造方法、及び、金属膜の剥離の可能性を低減することが可能な電線を提供する。
【解決手段】電線1の製造方法は、抗張力繊維11の外周に金属膜12を形成した金属被膜繊維10上に絶縁層20を被覆してなる電線1の製造方法であって、押出機による絶縁層20の被覆前に、金属被膜繊維10の外周に潤滑剤を塗布する工程を有する。また、電線1は、抗張力繊維11の外周に金属膜12を形成した金属被膜繊維10と、金属被膜繊維10の外周を覆う絶縁層20と、金属被膜繊維10と絶縁層20との間に介在され、液体潤滑剤からなる潤滑剤層30とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線の製造方法、及び電線に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高強度化、軽量化、及び耐屈曲化等の目的で、アラミド繊維、PBO(poly(p-phenylenebenzobisoxazole)繊維、及びポリアリレート繊維などの抗張力繊維にメッキ加工を施したり、抗張力繊維に金属箔を巻き付けたりした金属被膜繊維が提案されている。また、この金属被膜繊維を導体とし絶縁体を被覆した電線についても提案されている(例えば特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−153365号公報
【特許文献2】特開2008−130241号公報
【特許文献3】特開2009−242839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、金属被膜繊維に対して絶縁体を被覆した電線の製造においては、押出機による押し出し法が用いられる。しかし、押し出し法にて絶縁体を被覆する場合、押出機のダイス内に金属被膜繊維を通すため、金属被膜繊維がダイスに接触して引っ掛かり、断線してしまう可能性があった。特に、アラミド繊維の径は例えば12μmと細いため、ダイスのバリに引っ掛かった場合には非常に断線し易くなってしまう。
【0005】
さらに、上記の電線は、先述の通り抗張力繊維上に薄い金属膜が形成された金属被膜繊維を導体としている。このため、製造後の電線の使用時に金属被膜繊維の金属膜が剥離し易いという問題がある。例えば電線を屈曲させた場合などに、絶縁体との摩擦により金属膜が剥離する可能性がある。
【0006】
なお、上記の問題は、1本の金属被膜繊維を導体とし、これに絶縁体を被覆した電線に限られる問題ではなく、複数本の金属被膜繊維を撚ったうえで導体とし、これを絶縁体で被覆した電線、及び、複数本の抗張力繊維に対して一括してメッキ加工を施して金属被膜繊維とし、これを絶縁体で被覆した電線であっても、共通する問題である。
【0007】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、金属被膜繊維の断線の可能性を低減することが可能な電線の製造方法、及び、金属膜の剥離の可能性を低減することが可能な電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電線の製造方法は、抗張力繊維の外周に金属膜を形成した金属被膜繊維上に、絶縁層を被覆してなる電線の製造方法であって、押出機による絶縁層の被覆前に、金属被膜繊維の外周に潤滑剤を塗布する工程を有することを特徴とする。
【0009】
本発明の電線の製造方法によれば、押出機による絶縁層の被覆前に、金属被膜繊維の外周に潤滑剤を塗布する工程を有するため、金属被膜繊維は、外周に塗布された潤滑剤によってダイスに引っ掛かり難くなり、金属被膜繊維の断線の可能性を低減することができる。
【0010】
また、本発明において電線の製造方法において、潤滑剤は、動植物油系統の液体潤滑剤であることが好ましい。
【0011】
この電線の製造方法によれば、潤滑剤は、動植物油系統の液体潤滑剤である。ここで、動植物油系統の液体潤滑剤は金属との親和性を有することから、石油系統の潤滑剤に比べてダイスへの油付着が少なく、付着した油が固形化して絶縁層の被覆に影響を与えてしまう可能性を低減することができる。
【0012】
また、本発明の電線は、抗張力繊維の外周に金属膜を形成した金属被膜繊維と、金属被膜繊維の外周を覆う絶縁層と、金属被膜繊維と絶縁層との間に介在され、潤滑剤からなる潤滑剤層と、を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明の電線によれば、金属被膜繊維と絶縁層との間に液体潤滑剤からなる潤滑剤層が介在されているため、例えば電線を屈曲させた場合、潤滑剤層により金属被膜繊維と絶縁層との摩擦が軽減されることとなる。これにより、例えば金属被膜繊維の金属膜が薄い状態であっても、摩擦により金属膜が剥離し難くすることができる。従って、金属膜の剥離の可能性を低減することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の電線の製造方法によれば、金属被膜繊維の断線の可能性を低減することが可能な電線の製造方法を提供することができる。また、本発明の電線によれば、金属膜の剥離の可能性を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る電線の構成を示す断面図である。
【図2】本実施形態に係る電線の製造方法を示す概略図であって、潤滑剤層の形成工程を示している。
【図3】本実施形態に係る電線の製造方法を示す概略図であって、絶縁層の形成工程を示している。
【図4】比較例に係る電線の製造方法、及び、本実施形態に係る電線の製造方法による断線等の状況を示す図表である。
【図5】石油系統の潤滑剤と動植物油系統の潤滑剤とを用いた場合の電線の同心率を示す図表である。
【図6】本実施形態に係る電線の製造方法を示す概略図であって、絶縁層の形成工程及び潤滑剤の塗布工程を示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態に係る電線の構成を示す断面図である。同図に示す電線1は、金属被膜繊維10と、絶縁層20と、潤滑剤層30とから構成されている。
【0017】
金属被膜繊維10は、抗張力繊維11と、抗張力繊維11の外周に設けられる金属膜12とにより構成されている。ここで、抗張力繊維11は、高強度、軽量、且つ耐屈曲性に優れた繊維であり、例えばパラ系アラミド繊維、PBO繊維、ポリアリレート繊維、及び高分子量ポリエチレン繊維などが該当する。
【0018】
金属膜12は、軟銅、純銅などの銅又はこれらを含む銅合金から構成されるものである。この金属膜12は、例えば抗張力繊維11がメッキ槽に浸されることにより抗張力繊維11上に形成されたり、抗張力繊維11上に銅又は銅合金からなる金属箔が巻き付けられることにより形成されたりする。なお、金属膜12は、銅又は銅合金に限らず、アルミなどの他の導体であってもよい。
【0019】
絶縁層20は、金属被膜繊維10上に被覆される部材であって、非導通の部材により構成されている。潤滑剤層30は、金属被膜繊維10と絶縁層20との間に介在され、潤滑剤から構成されている。ここでいう潤滑剤とは、石油系統及び動植物油系統の潤滑剤の双方が含まれる概念である。なお、後述するが、本実施形態に係る電線1を製造するにあたり潤滑剤層30は、動植物油系統の液体潤滑剤が望ましい。
【0020】
このような電線1では、例えば電線を屈曲させた場合、潤滑剤層30により金属被膜繊維10と絶縁層20との摩擦が軽減されることとなる。これにより、例えば金属被膜繊維10の金属膜12が薄い状態であっても、摩擦により金属膜12が剥離し難くなる。
【0021】
次に、本実施形態に係る電線1の製造方法について説明する。まず、本実施形態においては、金属被膜繊維10を製造する。この際、抗張力繊維11にメッキ加工を施したり、抗張力繊維11に金属箔を貼り付けたり、抗張力繊維11に金属箔を巻きつけたりすることで、金属被膜繊維10が製造される。
【0022】
次いで、潤滑剤層30が形成される。図2は、本実施形態に係る電線1の製造方法を示す概略図であって、潤滑剤層30の形成工程を示している。図2に示すように、まず、金属被膜繊維10は、長手方向に搬送され、潤滑剤槽40上を通過させられる。
【0023】
潤滑剤槽40は、底壁41から第1及び第2の棒材42,43が伸びており、これらの先端には、第1ローラ51と第2ローラ52とが接続されている。第1及び第2ローラ51,52は、回転可能な円形の部材であって、その円形部分の外周が布材等により構成されている。また、第1及び第2ローラ51,52は、その下側が潤滑剤槽40内の潤滑剤に浸かっている状態である。
【0024】
潤滑剤槽40上を通過させられる金属被膜繊維10は、第1及び第2ローラ51,52の上部外周に接するように搬送される。このため、第1及び第2ローラ51,52は回転することとなり、潤滑剤槽40内の潤滑剤は第1及び第2ローラ51,52の上部まで移送され、金属被膜繊維10上に塗布されることとなる。その後、潤滑剤が塗布された金属被膜繊維10は、押出機により絶縁層が被覆される。
【0025】
なお、図2に示すように、金属被膜繊維10は、第2ローラ52よりも搬送方向側において、やや下方にテンションが掛けられている。これは、金属被膜繊維10が、第1及び第2ローラ51,52から離れないようにするためである。
【0026】
図3は、本実施形態に係る電線1の製造方法を示す概略図であって、絶縁層20の形成工程を示している。図3に示すように、潤滑剤が塗布された金属被膜繊維10、すなわち潤滑剤層30が形成された金属被膜繊維10は、押出機60に形成された筒状の空洞部である導体通路61内を通過して、押出機60の先端側から出力される。
【0027】
また、押出機60は、絶縁体通路62が形成されており、この通路62にポリエチレンやポリ塩化ビニルなどの熱可塑性樹脂が流し込まれる。熱可塑性樹脂は、押出機60の先端側、特に導体通路61の外周側において押出機60の先端側から出力される。このため、金属被膜繊維10は、導体通路61を通じて押出機60の先端側から出力される段階において、周囲が熱可塑性樹脂によって覆われて絶縁層20が被覆されることとなる。
【0028】
ここで、従来、押し出し法にて絶縁体を被覆する場合、押出機60のダイス内に金属被膜繊維10を通すため、金属被膜繊維10がダイス(押出機60の先端側部材)に接触して引っ掛かり、断線してしまう可能性があった。しかし、本実施形態においては、金属被膜繊維10に潤滑剤層30を形成した状態で、押し出し法を行っているため、金属被膜繊維10がダイスに引っ掛かり難くなり、断線の可能性が軽減されることとなる。
【0029】
また、図2を参照して説明した液体潤滑剤は、動植物油系統の潤滑剤(すなわち、脂肪酸、アルコール、及びエステル類を含む潤滑剤)であることが望ましい。動植物油系統の液体潤滑剤は金属との親和性を有することから、石油系統の潤滑剤に比べてダイスへの油付着が少なく、付着した油がダイスにおいて固まり絶縁層の被覆に影響を与えてしまう可能性を低減することができるからである。具体的に説明すると、例えば付着した油が絶縁体通路62又はその付近で固形化した場合、固形化した箇所においては熱可塑性樹脂の流れが阻害されることとなり、その部分における絶縁層20のみ絶縁体の厚さが乱れてしまう可能性がある。しかし、動植物油系統の液体潤滑剤を使用することにより、このような可能性を低減させることができる。
【0030】
図4は、比較例に係る電線の製造方法、及び、本実施形態に係る電線1の製造方法による断線等の状況を示す図表である。図4に示すように、アラミド繊維(440dtex)に対して1.0μmの膜厚の金属膜12を形成した金属皮膜繊維10を芯金径0.4mmのダイスに通して押出成形を行った場合、潤滑剤を塗布していないと、1000mの電線を製造する際に断線が発生した。これに対して、石油系統の潤滑剤(具体的にはパラフィン系炭化水素)又は動植物油系統の潤滑剤(具体的にはリノール酸)を塗布していた場合、1000mの電線を製造する際に断線は生じなかった。
【0031】
また、ポリアリレート繊維(440dtex)についても同様の結果が得られた。すなわち、ポリアリレート繊維に1.0μmの膜厚の金属膜12を形成した金属皮膜繊維10を芯金径0.4mmのダイスに通して押出成形を行った場合、潤滑剤を塗布していないと、1000mの電線を製造する際に断線が発生した。これに対して、石油系統の潤滑剤(具体的にはパラフィン系炭化水素)又は動植物油系統の潤滑剤(具体的にはリノール酸)を塗布していた場合、1000mの電線を製造する際に断線は生じなかった。
【0032】
また、PBO繊維(440dtex)についても同様の結果が得られた。すなわち、PBO繊維に1.0μmの膜厚の金属膜12を形成した金属皮膜繊維10を芯金径0.4mmのダイスに通して押出成形を行った場合、潤滑剤を塗布していないと、1000mの電線を製造する際に断線が発生した。これに対して、石油系統の潤滑剤(具体的にはパラフィン系炭化水素)又は動植物油系統の潤滑剤(具体的にはリノール酸)を塗布していた場合、1000mの電線を製造する際に断線は生じなかった。
【0033】
図5は、石油系統の潤滑剤と動植物油系統の潤滑剤とを用いた場合の電線1の同心率を示す図表である。図5に示すように、潤滑剤として石油系統(パラフィン系炭化水素)のものを塗布した場合、同心率は81.4%〜86.8%となり平均は83.5%となった。一方、潤滑剤として動植物油系統(リノール酸)のものを塗布した場合、同心率は87.7%〜94.2%となり平均は91.4%となった。
【0034】
このように、実験結果からも石油系統の潤滑剤を塗布した場合、熱可塑性樹脂の流れが阻害されて絶縁層20の被覆に影響を与えてしまうのに対して、動植物油系統の潤滑剤を塗布した場合、与える影響が少ないことがわかった。
【0035】
このようにして、本実施形態に係る電線1の製造方法によれば、押出機60による絶縁層20の被覆前に、金属被膜繊維10の外周に潤滑剤を塗布する工程を有するため、金属被膜繊維10は、外周に塗布された潤滑剤によってダイスに引っ掛かり難くなり、金属被膜繊維10の断線の可能性を低減することができる。
【0036】
また、潤滑剤は、動植物油系統の液体潤滑剤である。ここで、動植物油系統の液体潤滑剤は金属との親和性を有することから、石油系統の潤滑剤に比べてダイスへの油付着が少なく、付着した油が固形化して絶縁層20の被覆に影響を与えてしまう可能性を低減することができる。
【0037】
また、本実施形態に係る電線1によれば、金属被膜繊維10と絶縁層20との間に潤滑剤からなる潤滑剤層30が介在されているため、例えば電線1を屈曲させた場合、潤滑剤層30により金属被膜繊維10と絶縁層20との摩擦が軽減されることとなる。これにより、例えば金属被膜繊維10の金属膜12が薄い状態であっても、摩擦により金属膜12が剥離し難くすることができる。従って、金属膜12の剥離の可能性を低減することができる。
【0038】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよい。
【0039】
例えば、本実施形態に係る電線1は、金属被膜繊維10の外周に直接潤滑剤層30が形成されているが、これに限らず、両者の間に他の層が形成されていてもよい。
【0040】
また、本実施形態に係る電線1は、1本の金属被膜繊維10上に絶縁層20が被覆されているが、これ限らず、複数本の金属被膜繊維10を撚り線とし、これの上に絶縁層20が被覆されていてもよい。また、複数本の抗張力繊維11に対して一括してメッキ加工を施して金属被膜繊維10とし、これの上に絶縁層20が被覆されていてもよい。
【0041】
また、潤滑剤は、液体潤滑剤でなくともよく、例えばゲル状などの潤滑剤であっても問題はない。
【0042】
さらに、潤滑剤の塗布工程は、図2に示すものに限られるものではなく、絶縁層20の被覆前であれば種々の方法を採用可能である。例えば、潤滑剤の塗布工程は図6に示すようなものであってもよい。
【0043】
図6は、本実施形態に係る電線1の製造方法を示す概略図であって、絶縁層20の形成工程及び潤滑剤の塗布工程を示している。図6に示す押出機60は、絶縁体通路62の内側に潤滑剤通路63を有している。この通路63には、潤滑剤(望ましくは動植物油系統の潤滑剤)が流し込まれ、金属被膜繊維10の搬送に合わせて金属被膜繊維10上に潤滑剤が塗布されることとなる。このように、潤滑剤の塗布工程は、絶縁層20の被覆前(すなわち金属被膜繊維10が押出機60の出口において絶縁層20が被覆される瞬間の前)に設けられていればよく、特に、図2に示すものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0044】
1…電線
10…金属被膜繊維
11…抗張力繊維
12…金属膜
20…絶縁層
30…潤滑剤層
40…潤滑剤槽
41…底壁
42…第1の棒材
43…第2の棒材
51…第1ローラ
52…第2ローラ
60…押出機
61…導体通路
62…絶縁体通路
63…潤滑剤通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗張力繊維の外周に金属膜を形成した金属被膜繊維上に、絶縁層を被覆してなる電線の製造方法であって、
押出機による絶縁層の被覆前に、前記金属被膜繊維の外周に潤滑剤を塗布する工程を有する
ことを特徴とする電線の製造方法。
【請求項2】
前記潤滑剤は、動植物油系統の液体潤滑剤である
ことを特徴とする請求項1に記載の電線の製造方法。
【請求項3】
抗張力繊維の外周に金属膜を形成した金属被膜繊維と、
前記金属被膜繊維の外周を覆う絶縁層と、
前記金属被膜繊維と前記絶縁層との間に介在され、潤滑剤からなる潤滑剤層と、
を備えることを特徴とする電線。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−108199(P2013−108199A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255818(P2011−255818)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】