説明

電線の製造方法

【課題】製造スピードを高めることができるばかりか、表面に直接印字したり、装飾したり、さらには、ワイヤーハーネス等におけるシール性を高められる電線の効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】シリコン原子、チタン原子またはアルミニウム原子を含む改質剤化合物と、空気と、炭化水素ガスと、を含む燃料ガスに由来した火炎を吹き付ける工程を含む電線の製造方法であって、燃料ガスにおける空気/炭化水素ガスの混合モル比を23以上の値とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線(ケーブル等も含む)の製造方法に関し、特に、製造スピードが速い電線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、EPDM樹脂を代表とする熱可塑性エラストマーは、常温ではゴム的性質を有し、所定以上の温度になると、熱可塑性樹脂と同様に軟化するため、射出装置等を用いた成型に使用可能である。
また、ポリエチレン樹脂を代表とするオレフィン樹脂は、比較的安価であって、環境に優しく、かつ、誘電率が低いことからから、電線の被覆材として、多用されている。
しかしながら、このような熱可塑性エラストマーやオレフィン樹脂を被覆材とした電線は、表面が難接着性であって、その上に、熱硬化性樹脂塗料や紫外線硬化性塗料からなる塗膜を形成した場合や、文字や記号等も印刷した場合に、剥がれやすいという問題が見られた。
【0003】
そこで、ポリマー基材の表面を改質するための火炎処理方法が開示されている。より具体的には、沸点が101℃のヘキサメチルジシロキサンを含む燃料および酸化剤混合物によって助燃される火炎に対して、ポリマー基材を曝露する火炎処理方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一方、出願人は、従来のコロナ処理、プライマー処理、火炎処理等に代替する、固体物質に対する二段階の表面処理方法を提案している(例えば、特許文献2参照)。
すなわち、主として金属やガラス製品の固体基体の表面に対し、少なくとも1回の酸化炎処理で該表面を変性する工程と、少なくとも1回のケイ酸化炎処理で該表面を変性する工程と、を含む固体基体表面の変性方法を提案している。かかる固体基体表面の変性方法によれば、固体基体の表面を確実に変性処理することができ、印刷用インキや紫外線硬化型塗料等を強固に接着できるという効果を得ることができる。
【0005】
また、出願人は、二段階の表面処理方法を改良した、固体物質に対する一段階の表面処理方法も提案している(例えば、特許文献3参照)。
すなわち、沸点が10℃〜100℃である改質剤化合物を含む燃料ガスを貯蔵するための貯蔵タンク部と、当該燃料ガスを噴射部に移送するための移送部と、当該燃料ガスの火炎を吹き付けるための噴射部と、を含む表面改質装置を準備し、燃料ガスを燃やして得られるケイ酸化炎を、固体物質の表面に対して、全面的または部分的に吹き付け処理することによって、当該処理部の濡れ性を大幅に改善する表面処理方法である。
【0006】
さらに、出願人は、引火点が0〜100℃の範囲であって、沸点が105〜250℃の範囲であるケイ素含有化合物を含む燃料ガスからなるケイ酸化炎を、固体物質の表面に対して、全面的または部分的に吹き付け処理し、当該処理部を活性化させ、濡れ性を改善する表面処理方法についても提案している(例えば、特許文献4参照)。
【特許文献1】特表2001−500552(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2002−53982(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2003−238710(特許請求の範囲)
【特許文献4】WO2004−098792(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されたポリマー基材の表面改質方法は、シラン化合物として、沸点が高いヘキサメチルジシロキサン(沸点:101℃)を使用しておらず、また、空気/炭化水素ガスの混合モル比を何ら考慮していないため、このようなシラン化合物を多量に空気等と混合する場合に、不均一に燃焼しやすくなって、改質効果が安定して得られないという問題が見られた。また、空気/炭化水素ガスの混合モル比を何ら考慮していないため、かかるヘキサメチルジシロキサンによる改質効果は、比較的短時間で、低下するという問題も見られた。
【0008】
また、特許文献2に開示された表面改質方法は、シラン化合物として、沸点が高いテトラメトキシシラン(沸点:122℃)等のアルコキシシラン化合物を単独使用していたため、環境条件、例えば、冬場には、このようなアルコキシシラン化合物を多量に空気等と混合する場合に、不均一に燃焼する現象が見られた。また、ケイ酸化炎処理前に、別途酸化炎処理工程を含むため、固体基体表面に対して、より優れた変性効果が得られるものの、その分、表面処理時間が長くかかるという問題も見られた。
【0009】
さらに、特許文献3〜4に開示された表面改質方法は、基本的に、フィルムや成型品に対する表面改質方法であって、電線に対して、所定の表面処理を行うことにより、短時間で、かつ精度良く製造できることまでは見出されてなかった。
その上、特許文献3〜4に開示された表面処理方法であっても、空気/炭化水素ガスの混合モル比を何ら考慮していないことから、ケイ素含有化合物の沸点の相違や、周囲の環境条件(温度、湿度)等によっては、固体物質における濡れ性の改善が不十分であって、固体物質の表面に対して、強固な密着性を有する塗膜を形成することが困難な場合も見られた。
【0010】
そこで、本発明の発明者は、ケイ酸化炎等を用いた電線の表面改質につき、さらなる研究を行ったところ、所定の改質剤化合物と、空気と、炭化水素ガスと、を含む燃料ガスにおいて、空気/炭化水素ガスの混合モル比を所定範囲の値とすることによって、電線の製造スピードを高めることができるばかりか、樹脂被覆された電線の上に直接印字したり、装飾したり、さらには、ワイヤーハーネスにおけるシール性等を高められることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、製造が容易であって、かつ高機能(取り扱い性等も含む)な電線の効率的な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、シリコン原子、チタン原子またはアルミニウム原子を含む改質剤化合物と、空気と、炭化水素ガスと、を含む燃料ガスからなる火炎を、電線の表面に対して吹き付ける工程を含む電線の製造方法であって、燃料ガスにおける空気/炭化水素ガスの混合モル比を23以上の値とした電線の製造方法が提供され、上述した問題を解決することができる。
すなわち、このような特定の燃料ガスを用いて、表面張力が低いポリエチレン樹脂等で被覆された電線に対して表面処理することによって、水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子等(シリカ粒子層、チタニア粒子層、アルミナ粒子層を含む。以下、同様である。)を、強固かつ均一に積層することができる。
したがって、電線の表面の摩擦係数が減少し、電線の電気特性等を低下させることなく、巻き取りスピード等の製造スピードを著しく高めることができる。また、電線の任意の位置において、表面の濡れ性が著しく向上するため、電線の上に直接印字したり、装飾したり、さらには、ワイヤーハーネスにおけるシール性についても高めることができる。さらに、電線の被覆樹脂等をリサイクルする際のリペレット化が容易になるばかりか、プレス装置等を用いて、精度良く、一体成形することができる。
【0012】
また、本発明の電線の製造方法を実施するにあたり、炭化水素ガスが、プロパンガスまたはLPG(プロパンガス単独以外の液化石油ガス)であることが好ましい。
このような種類の炭化水素ガスであれば、安価である一方、所定温度で燃焼することができる。したがって、ケイ素含有化合物等を安定的に熱分解させて、いずれの電線に対しても、所定の表面処理を実施することができる。
【0013】
また、本発明の電線の製造方法を実施するにあたり、改質剤化合物が、アルキルシラン化合物、アルコキシシラン化合物、シロキサン化合物、シラザン化合物、アルキルチタン化合物、アルコキシチタン化合物、アルキルアルミニウム化合物、およびアルコキシアルミニウム化合物からなる群から選択される少なくとも一つのケイ素含有化合物やチタン含有化合物、あるいはアルミニウム含有化合物であることが好ましい。
このような種類のケイ素含有化合物等であれば、自身のもつ蒸気圧を利用して、安定的に蒸発させることにより、燃料ガス中の濃度制御が容易になるばかりか、安定的に熱分解するため、いずれの電線に対しても、所定の表面処理として、水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子等を容易に形成することができる。
【0014】
また、本発明の電線の製造方法を実施するにあたり、改質剤化合物の沸点(760mmHg)を20〜250℃の範囲内の値とすることが好ましい。
このような沸点を有するケイ素含有化合物等であれば、気化熱のみならず、ベーパライザー等を利用して、安定的に蒸発させることにより、燃料ガス中の濃度制御が容易になり、配管中における温度変化や濃度変化に基づく、結露現象の発生を効果的に抑制することができる。
【0015】
また、本発明の電線の製造方法を実施するにあたり、改質剤化合物の含有量を、燃料ガスの全体量を100モル%としたときに、1×10-10〜10モル%の範囲内の値とすることが好ましい。
このような改質剤化合物の含有量であれば、気化熱のみならず、ベーパライザー等を利用して、安定的に蒸発させたり、流量制御したりすることにより、配管中における温度変化や濃度変化に基づく、結露現象の発生を効果的に抑制することができる。また、このような改質剤化合物の含有量であれば、安定的に熱分解するため、電線の表面に対して、所定の表面処理を効果的に実施することができる。
【0016】
また、本発明の電線の製造方法を実施するにあたり、電線の被覆材が、オレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、天然ゴム、合成ゴム、および熱可塑性エラストマーからなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
このような被覆材からなる被覆材を備えた電線であれば、汎用性が高く、安価であるばかりか、容易に表面改質されて、水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子等を形成することができる。
【0017】
また、本発明の電線の製造方法を実施するにあたり、電線の被覆材の表面に、熱硬化性塗料、紫外線硬化性塗料、レーザーマーキング用塗料または熱可塑性塗料からなる塗膜を形成する工程を含むことが好ましい。
このような種類からなる塗膜であれば、電線の被覆材との間の密着性を高めることができるとともに、優れた識別性や装飾性を発揮することができる。また、このような種類からなる塗膜であれば、被覆樹脂等をリサイクルする際のリペレット化を阻害することが少なくなる。
【0018】
また、本発明の電線の製造方法を実施するにあたり、電線が、ワイヤーハーネス用電線であって、複数本を束ねてあることが好ましい。
このように実施することによって、機能性や有用性を向上させたワイヤーハーネス用電線を効率的に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施形態は、シリコン原子、チタン原子またはアルミニウム原子を含む改質剤化合物と、空気と、炭化水素ガスと、を含む燃料ガスからなる火炎を、電線の表面に対して吹き付ける工程を含む電線の製造方法であって、燃料ガスにおける空気/炭化水素ガスの混合モル比を23以上の値とした電線の製造方法である。
すなわち、所定の表面改質装置を用いて、所定の改質剤化合物と、空気/炭化水素ガス等を含む燃料ガスからなる火炎を、所定の表面処理条件で吹き付けることにより、電線の表面に、水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子等を形成することができる。
したがって、巻き取りスピードを著しく高めたり、印字性、装飾性、あるいはワイヤーハーネスにおけるシール性を高めたり、さらに、電線の被覆樹脂等のリサイクル性を向上させたりすることができる。
【0020】
1.電線
製造対象としての電線の種類は、図1(a)に示すように、導体14と、その周囲の絶縁被覆材12とを含む電線10であれば特に制限されるものではないが、例えば、図1(b)に示すようなケーブル10´、図1(c)に示すような同軸ケーブル10´´、あるいは図示しないものの、フラットケーブル、ワイヤーハーネス(グロメットを含む)等が挙げられる。また、ワイヤーハーネスの場合は、複数の電線を束ねるハーネス材をさらに備えていれば良い。なお、図1(c)に示すような同軸ケーブル10´´の場合には、絶縁被覆材12の周囲に、表面改質層13が設けてあり、その上に、塗膜(装飾膜)15が設けてある例である。
【0021】
ここで、導体の材料としては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、銀、銀合金、金等が挙げられる。
また、絶縁被覆材として、オレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、天然ゴム、合成ゴム、および熱可塑性エラストマーからなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましい。
この理由は、このような絶縁被覆材からなる被覆材(シース)を備えた電線であれば、汎用性が高く、安価であるばかりか、容易に表面改質されて、水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子等を形成することができるためである。
【0022】
また、図1(c)に示すように、電線の被覆材の表面に、熱硬化性塗料、紫外線硬化性塗料、レーザーマーキング用塗料または熱可塑性塗料からなる塗膜(装飾膜)15を含むことが好ましい。
この理由は、このような種類からなる塗膜であれば、電線の被覆材との間の密着性を高めることができるとともに、優れた識別性や装飾性を発揮することができるためである。また、このような種類からなる塗膜であれば、被覆樹脂等をリサイクルする際のリペレット化を阻害することが少なくなるためである。さらには、本発明の電線の製造方法であれば、部分的に所定の表面処理を実施して、所定場所のみに塗膜を形成することができることから、このような種類からなる塗膜であれば、被覆樹脂等をリサイクルする際のリペレット化を阻害することが少なくなる。
一方、このような塗膜を含む電線の場合、従来は、リサイクルする際の処理費用が高くなったり、処理時間が長くかかったり、さらには、薬品や剥離剤を使用しなければならず、環境的にも問題が生じやすいという問題が見られた。それに対して、本発明の電線の製造方法であれば、このような各種塗膜を含む電線を、予め除去することなく、そのまま表面改質して、新たに成形加工することができるためである。よって、リサイクル工程を著しく短縮化できるとともに、機能性や有用性を向上させた複合的な電線を効率的に提供することができる。
【0023】
また、電線が、各種金属材料やセラミック材料(フィラーやガラス材料を含む)、あるいは難燃剤(ハロゲン系化合物、リン系化合物、シリコン化合物等)等の添加剤を含むものであることが好ましい。
この理由は、このような金属材料やセラミック材料を含む電線の場合、電磁波シールド効果が高く、機械的強度や耐久性に優れているためである。
また、難燃剤を含む電線の場合は、火災が発生した場合によっても、電線を伝わって火炎が燃え広がることを有効に防止することができるためである。
一方、本発明の製造方法によって得られる電線であれば、このような各種金属材料やセラミック材料、あるいは難燃剤を含む場合であっても、容易にリサイクルすることができるためである。すなわち、リサイクル工程や時間を著しく短縮化できるとともに、再び、所定の機能性(導電性)や機械的特性、あるいは難燃性を有する成型品に再生することができる。
なお、電線が、各種金属材料やセラミック材料、あるいは難燃剤等の添加剤を含む場合、当該添加剤の種類にもよるが、かかる添加量を、電線の被覆材の全体量(100重量%)に対して、0.1〜50重量%の範囲内の値とすることが好ましく、1〜40重量%の範囲内の値とすることがより好ましく、5〜30重量%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0024】
2.表面処理工程
(1)表面改質装置
電線の製造方法を実施するための表面改質装置につき、図2に示す流体フローを参照しながら説明する。
まず、かかる流体フロー中に示される表面改質装置100は、貯蔵タンク部102と、移送路105と、燃料ガスの貯蔵タンク106、圧縮空気源107と、から基本的に構成されており、それらが配管によって結合されている。
すなわち、貯蔵タンク部102には、シリコン原子、チタン原子、アルミニウム原子を含む改質剤化合物であって、アルキルシラン化合物、アルコキシシラン化合物、シロキサン化合物、シラザン化合物、アルキルチタン化合物、アルコキシチタン化合物、アルキルアルミニウム化合物、およびアルコキシアルミニウム化合物からなる群から選択された改質剤化合物101が貯蔵してある。したがって、気液平衡を利用したベーパライザー(図示せず)において、改質剤化合物の存在量が低下すると、貯蔵タンク102から、暫時、追加されることになる。
なお、貯蔵タンク部102の内部あるいは外部に、加熱手段103あるいは自然蒸発により気化させる、気液平衡を利用したベーパライザー(図示せず)が設けてある。そして、加熱手段103には、自然蒸発によるベーパライザーを含んで意味する場合がある。
【0025】
また、移送路105は、ベーパライザー(図示せず)において、加熱手段103あるいは自然蒸発により気化した改質剤化合物101を、噴射部(バーナー)104に向かって移送させるための配管である。
そして、表面改質装置100は、後述するプロパンガスやLPGガス等の炭化水素ガスの貯蔵タンク106や、当該炭化水素ガスの燃焼用空気、並びに改質剤化合物を搬送するための空気(キャリア)をそれぞれ供給するための圧縮空気源107をさらに備えている。
【0026】
また、移送路105の途中には、第1のミキサ(サブミキサと称する場合がある。)108や、第2のミキサ(メインミキサと称する場合がある。)109が設けてある。
ここで、第1のミキサ108は、ベーパライザー(図示せず)において気化した改質剤化合物(一部、気化した改質剤化合物の移送用空気を含む)と、圧縮空気源107からの空気と、を均一に混合して、一次燃料ガスとする混合装置である。
また、第2のミキサ109は、一次燃料ガスと、貯蔵タンク106より移送されてくる炭化水素ガスと、を均一に混合して、最終的な燃料ガス(二次燃料ガスと称する場合がある。)とするための混合装置である。
さらには、貯蔵タンク部102と、圧縮空気源107、および貯蔵タンク106のそれぞれの出口には、流体物の流量をコントロールするための流量計付き流量調節バルブ110、111、112がそれぞれ設けられている。
【0027】
また、図2に示すように、改質剤化合物を貯えておく貯蔵タンク部102の下方には、加熱用ヒーター等の加熱手段103が備えられており、常温、常圧状態では液状の改質剤化合物101が、蒸発または気化するよう構成されている。
そして、加熱手段103は、加熱機能のみならず、冷却機能を有していることが好ましく、スイッチングは、中央演算処理装置(CPU)(図示せず)によりコントロールされている。すなわち、同CPUは、改質剤化合物の液量センサー、液温センサー等に電気的に接続されていて、改質剤化合物の液量および液温が、規定の範囲内の値や位置に保持されるように、加熱手段103の温度や貯蔵タンク部102からの追加供給量をコントロールしている。
なお、改質剤化合物の液量センサー、液温センサー等としては、改質剤化合物の単位時間当たりの消費量が極めて少ないために、液量センサーとして、プリズムセンサーや赤外線を利用した液量センサー、あるいは、液温センサーとして、サーモスタットや熱電対等の精密センサーが挙げられる。
【0028】
また、第1の実施形態では、常温、常圧状態において、液状の改質剤化合物を使用した例を挙げているが、常温、常圧状態において、気体または固体状の改質剤化合物も使用することができる。
例えば、気体状の改質剤化合物を使用する場合には、貯蔵タンク部102にはあえてヒーターを備える必要はなく、代わりに圧力調整弁等の流量調節手段を設ければよい。したがって、貯蔵タンク部102からベーパライザー(図示せず)に添加される改質剤化合物の温度の影響をうけにくくなって、一定の気液平衡状態を保持しやすくなる。
また、固体状の改質剤化合物を使用する場合には、例えば、その固体状化合物を溶媒に溶解するか、熱で溶融させ、本例の貯蔵タンクからバーナーの火炎近傍まで、配管した液輸送管中を通らせて、バーナー中に直接送り込むことで、所定の表面改質処理を行うことができる。
【0029】
また、一部上述したように、図2に示すように、移送部105の途中には、通常「管」構造であって、圧縮空気源107から供給され燃焼用空気と、貯蔵タンク102より送出される気化された改質剤化合物と、を混合するための第1のミキサ108が設けてある。
また、第1のサブミキサ108により混合された混合ガスと、燃料ガスの貯蔵タンク106より送出される燃料ガスと、をさらに均一に混合するための第2のミキサ109が設けられている。
【0030】
また、噴射部(バーナー)104は、図2に示すように、移送部105を経て送られてきた燃焼ガスを燃焼させ、得られた火炎113を、被改質処理面(図示せず)に吹き付け処理するためものである。
かかる火炎113の燃焼状態は、気化した改質剤化合物101の流量および圧縮空気源107より送出される燃焼用空気量、並びに貯蔵タンク106より送出される炭化水素ガスの各流量を、それぞれのガスの配管に設けられている流量計付き流量調節バルブ110、111、112の開度を調節することによって、適宜、最適状態に調整される。
なお、噴射部におけるバーナーの種類は、特に制限されるものではないが、例えば、予混合型バーナー、拡散型バーナー、部分予混合型バーナー、噴霧バーナー、蒸発バーナー、等の何れであっても良い。また、バーナーの形態についても特に制限されるものではない。
【0031】
(2)燃料ガス
(2)−1 改質剤化合物
改質剤化合物としては、シリコン原子、チタン原子またはアルミニウム原子を含む化合物であり、且つ、一般的なガスバーナーの火炎中で燃焼し得るものであれば特に制限はない。
そして、入手のし易さや取り扱いの容易さを考慮すると、例えば、アルキルシラン化合物、アルコキシシラン化合物、シロキサン化合物、シラザン化合物、アルキルチタン化合物、アルコキシチタン化合物、アルキルアルミニウム化合物、およびアルコキシアルミニウム化合物からなる群から選択される少なくとも一つの化合物であることが好ましい。
【0032】
ここで、アルキルシラン化合物の好適例としては、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、テトラメチルシラン、テトラエチルシラン、ジメチルジクロロシラン、ジメチルジフェニルシラン、ジエチルジクロロシラン、ジエチルジフェニルシラン、メチルトリクロロシラン、メチルトリフェニルシラン、ジメチルジエチルシランなどの置換基を有していてもよいモノシラン化合物、ヘキサメチルジシラン、ヘキサエチルジシラン、クロロヘプタメチルジシランなどの置換基を有していても良いジシラン化合物、オクタメチルトリシランなどの置換基を有していても良いトリシラン化合物などが挙げられる。
【0033】
また、アルコキシシラン化合物の好適例としては、メトキシシラン、ジメトキシシラン、トリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、エトキシシラン、ジエトキシシラン、トリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジクロロジメトキシシラン、ジクロロジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、トリクロロメトキシシラン、トリクロロエトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン、トリフェニルエトキシシラン等の一種単独または二種以上の組み合わせが挙げられる。
【0034】
また、シロキサン化合物の好適例としては、テトラメチルジシロキサン、ペンタメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサンなどが挙げられる。
【0035】
また、シラザン化合物の好適例としては、ヘキサメチルジシラザンなどが挙げられる。
また、アルキルチタン化合物の好適例としては、テトラメチルチタン、テトラエチルチタン、テトラプロピルチタンなどが挙げられる。
また、アルコキシチタン化合物の好適例としては、チタニウムメトキシド、チタニウムエトキシドなどが挙げられる。
また、アルキルアルミニウム化合物の好適例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウムなどが挙げられる。
また、アルコキシアルミニウム化合物の好適例としては、アルミニウムメトキシド、アルミニウムエトキシドなどが挙げられる。これらの化合物は単独で用いても混合して用いても良い。
【0036】
以上の改質剤化合物の好適例の中でも、シラン化合物、アルコキシシラン化合物、シロキサン化合物、およびシラザン化合物は、取り扱いが容易であり、気化させやすく、また、入手もしやすいことからより好ましい。
特に、ケイ素含有化合物において、分子内または分子末端に窒素原子、ハロゲン原子、ビニル基およびアミノ基の少なくとも一つを有する化合物であることがより好ましい。
より具体的には、ヘキサメチルジシラザン(沸点:126℃)、ビニルトリメトキシシラン(沸点:123℃)、ビニルトリエトキシシラン(沸点:161℃)、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン(沸点:144℃)、トリフルオロプロピルトリクロロシラン(沸点:113〜114℃)、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(沸点:215℃)、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(沸点:217℃)、ヘキサメチルジシロキサン(沸点:約101℃)、および3−クロロプロピルトリメトキシシラン(沸点:196℃)の少なくとも一つの化合物であることが好ましい。
この理由は、このようなケイ素含有化合物であれば、キャリアガスとの混合性が向上し、電線の表面に、粒状物(水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子)を形成して改質がより均一になるとともに、沸点等の関係で、かかるシラン化合物が電線の表面に一部残留しやすくなるため、電線と、各種粉体塗膜との間で、より優れた密着力を得ることができるためである。
【0037】
また、改質剤化合物としてのケイ素含有化合物等の添加量を、燃料ガスの全体量を100モル%としたときに、1×10-10〜10モル%の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかるケイ素含有化合物等の添加量が1×10-10モル%未満の値になると、電線に対する改質効果が発現しない場合があるためである。
一方、かかるケイ素含有化合物等の添加量が10モル%を超えると、ケイ素含有化合物等と空気等との混合性が低下し、それにつれてケイ素含有化合物等が不完全燃焼する場合があるためである。
したがって、ケイ素含有化合物等の添加量を、気体状物の全体量を100モル%としたときに、1×10-9〜5モル%の範囲内の値とすることがより好ましく、1×10-8〜1モル%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0038】
また、燃料ガス中に、改質剤化合物とともに、アルコール化合物を添加することが好ましい。
この理由は、添加したアルコール化合物は、改質剤化合物と均一に溶解して、改質剤化合物を含む混合物としての沸点や引火点の調整が容易になるためである。また、このようなアルコール化合物を添加することにより、火炎の色の調整が容易になって、改質剤化合物とともに、確実に燃焼していることを確認できるためである。
ここで、このようなアルコール化合物としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、ベンジルアルコール等の一種単独または二種以上の組み合わせが挙げられる。
また、改質剤化合物とともに添加するアルコール化合物の添加量を、改質剤化合物の全体量を100モル%としたときに、0.01〜30モル%の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかるアルコール化合物の添加量が0.01モル%未満の値になると、混合物としての沸点や引火点の調整が困難となる場合がるためである。一方、かかるアルコール化合物の添加量が30モル%を超えると、電線に対する表面改質効果が発揮されない場合があるためである。
【0039】
(2)−2 空気/炭化水素ガス
また、燃料ガス中に、火炎の温度制御やキャリア効果の発揮等のみならず、水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子等を均一に形成することができるために、所定量の空気を用いることを特徴とする。
すなわち、燃料ガス中に、所定量の空気を導入し、火炎の燃料ガスの一部として用いることを特徴とする、
ここで、このような空気の含有量を、燃料ガスの全体量を100モル%としたときに、80〜99.9モル%の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる空気の含有量が80モル%未満となると、ケイ素含有化合物の燃焼が不完全になるばかりか、水酸基の生成が不十分となる場合があるためである。一方、かかる空気の含有量が99.9モル%を超えると、表面改質効果が十分に発揮されない場合があるためである。
したがって、空気の含有量を、燃料ガスの全体量を100モル%としたときに、90〜99.5モル%の範囲内の値とすることがより好ましく、93〜99モル%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
なお、空気は、キャリアガスとして用いるほか、燃料ガスの最終段階で加えても良く、空気/炭化水素ガスの値を最終的に所定範囲に調整することができれば良い。
【0040】
(2)−3 炭化水素ガス
また、燃料ガス中に含まれる炭化水素ガスが、プロパンガスまたはLPG(プロパンガス単独以外の液化石油ガス)であることが好ましい。
この理由は、このような種類の炭化水素ガスであれば、安価である一方、所定温度で燃焼することができるためである。したがって、ケイ素含有化合物等を安定的に熱分解させて、いずれの電線に対しても、水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子等を、強固かつ均一に積層することができる。
なお、LPGとしては、ブタン(ノルマルブタン、イソブタン)、ブタン/プロパンの混合ガス、エタン、ペンタン(ノルマルペンタン、イソペンタン、シクロペンタン)等が挙げられる。
一方、このような炭化水素ガスの含有量を、燃料ガスの全体量を100モル%としたときに、0.1〜10モル%の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる炭化水素ガスの含有量が0.1モル%未満となると、火炎温度が低下して、ケイ素含有化合物等の燃焼が不完全になるばかりか、水酸基の生成が不十分となる場合があるためである。一方、かかる炭化水素ガスの含有量が10モル%を超えると、不完全燃焼して、同様に、表面改質効果が十分に発揮されない場合があるためである。
したがって、炭化水素ガスの含有量を、燃料ガスの全体量を100モル%としたときに、0.5〜8モル%の範囲内の値とすることがより好ましく、0.8〜5モル%の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0041】
(2)−4 空気/炭化水素ガスの混合モル比
次いで、燃料ガスにおける空気/炭化水素ガスの混合モル比について、図3〜5を参照して、詳細に説明する。
まず、図3(a)は、水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子150による電線12の表面改質状況の概念図である。
また、図3(b)は、水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子150の概念図である。
すなわち、特定の燃料ガスを用いることによって、このような水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子が、強固かつ均一に積層されやすくなることから、ケイ素含有化合物等の沸点の相違や、周囲の環境条件にかかわらず、いずれの電線に対しても、所定の表面改質効果を得ることができる。
なお、かかる水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子の平均粒径は特に制限されるものではないが、例えば、0.001〜10μmの範囲内の値とすることが好ましく、0.01〜2μmの範囲内の値とすることがより好しく、0.05〜0.8μmの範囲内の値とすることがさらに好しい。
【0042】
また、図4(a)〜(d)は、水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子150による表面改質状況が、処理程度に準じて変化する様子の概念図である。
図4(a)は、未処理のポリエチレン被覆電線の表面状態を表しており、図4(b)は、それに対して、実施例1に基づく表面処理を0.6秒間実施した場合の表面改質状況を示している。
したがって、両者を比較することにより、ポリエチレン被覆電線の表面に、水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子がまばらに付着していることが理解される。
すなわち、特定の燃料ガスを用いることによって、このような水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子が、ポリエチレン被覆電線の表面に、強固かつ均一に積層されやすくなることから、ケイ素含有化合物等の沸点の相違や、周囲の環境条件にかかわらず、いずれの電線に対しても、所定の表面改質効果が得られると言うことができる。
【0043】
ここで、図4(c)は、図4(a)のポリエチレン被覆電線に対して、実施例1に基づく表面処理を1秒間実施した場合の表面改質状況を示している。したがって、両者を比較することにより、ポリエチレン被覆電線の表面に、水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子がかなり均一かつ相当量付着していることが理解される。
さらに、図4(d)は、図4(a)のポリエチレン被覆電線に対して、実施例1に基づく表面処理を2秒間実施した場合の表面改質状況を示している。したがって、両者を比較することにより、ポリエチレン被覆電線の表面に、水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子が、一部連続的に、かつ多量に付着していることが理解される。
すなわち、水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子が、例えば、図4(b)〜(d)の状態で付着していると、濡れ指数の値が高くなり、所定の表面改質効果が得られると言える。
但し、図4(d)に示すシリカ粒子の場合、その表面における水酸基の量が、図4(b)〜(d)のシリカ粒子と比較して、元素分析方法によって、少ない傾向が見られている。
したがって、本発明において重要なことは、あくまで水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子が、電線の表面に付着していることであって、水酸基を表面に多数有しないシリカ粒子が多量に付着していたとしても、優れた表面改質効果は得られないと言える。
【0044】
また、シリカ粒子の表面の水酸基量は、例えば、FT−IRを用いて推定することができる。すなわち、FT−IRで得られる赤外吸収チャートにおいて、吸着水に帰属する3400cm-1付近のピーク高さ(P2)と、遊離水酸基に帰属する3600cm-1付近のピーク高さ(P1)とを比較して、所定範囲内の値であれば、優れた表面改質効果を得る上で、好ましいと言える。
例えば、P1/P2で表される数値が0.2〜1.0程度であれば好ましく、0.3〜0.9程度であればより好ましく、0.4〜0.8程度であればさらに好ましいと言える。
逆に、このような範囲のP1/P2の数値が得られれば、少なくとも水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子ということができる。
【0045】
また、シリカ粒子の表面の水酸基量は、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy:X線光電子分光分析)によっても、推定することができる。すなわち、XPSで得られる粒子表面の元素分析データにおいて、Si:Oの比率が、1:2.2〜1:3.2の範囲内であれば、シリカ粒子の表面の水酸基量が多くて、優れた表面改質効果を得る上で、好ましいと言える。
したがって、Si:Oの比率が、1:2.5〜1:3.0の範囲内であれば、より好ましく、1:2.6〜1:2.9の範囲内であればさらに好ましいと言える。
逆に、このような範囲のSi:Oの比率が得られれば、少なくとも水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子ということができる。
なお、XPSで得られる粒子表面の元素分析データにおいて、同時に、C(炭素)のデータも取得し、Si:Cの比率が、1:0.0001〜0.1の範囲であれば、シリカ粒子の表面のカルボキシル基量ではなくて、水酸基量が多いとさらに推定していうことができる。
【0046】
次いで、燃料ガスにおける空気/炭化水素ガスの混合モル比を23以上の値とする理由を、図5を参照しつつ、さらに詳細に説明する。
ここで、かかる図5は、実施例1等に準拠したデータであって、横軸に空気/炭化水素ガスの混合モル比(−)を採って示してあり、縦軸に、ポリエチレン被覆電線の表面における濡れ指数(dyn/cm)を採って示してある。
【0047】
かかる図5から理解されるように、空気/炭化水素ガスの混合モル比が10〜20程度であると、ほとんど表面改質効果が得られていない。すなわち、表面処理を実施しているにもかかわらず、未処理のポリエチレン被覆電線に対する濡れ指数(表面張力相当)である30dyn/cm程度の値しか得られていない。
次いで、空気/炭化水素ガスの混合モル比が20超〜22程度の範囲になると、濡れ指数の値がわずかに増加する傾向があるものの、結局、30dyn/cm程度であって、その増加幅は少なく、表面改質効果が未だ得られていないことが理解される。
【0048】
それに対して、空気/炭化水素ガスの混合モル比が23〜25程度の範囲になると、著しく濡れ指数が増加し、45〜58dyn/cm程度になっていることから、所定の表面改質効果が得られることが理解される。
さらに、空気/炭化水素ガスの混合モル比が25〜38程度の範囲になると、さらに著しく濡れ指数が増加し、70〜72dyn/cm程度になっていることから、優れた表面改質効果が安定的に得られることが理解される。
したがって、図5から、燃料ガスにおける空気/炭化水素ガスの混合モル比が23未満となると、表面改質効果が安定的に発揮されなかったり、あるいは、火炎が消火しやすくなったり、不完全燃焼したりするため、好ましくないといえる。
【0049】
但し、空気/炭化水素ガスの混合モル比が40を超えると、今度は、逆に、得られる濡れ指数の値が若干ばらつく傾向が見られている。これは、空気/炭化水素ガスの混合モル比の関係で、空気があまりに過剰に存在すると、火炎が安定しないためであると推定される。
【0050】
よって、このように空気/炭化水素ガスの混合モル比が23以上である燃料ガスを用いることによって、ケイ素含有化合物等の沸点の相違や、周囲の環境条件にかかわらず、いずれの電線に対しても、水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子等を、強固かつ均一に積層することができる。したがって、表面処理した電線上に、熱硬化性樹脂塗料や紫外線硬化性塗料からなる塗膜を形成した場合であっても、電線と、塗膜との間で、優れた密着性を得ることができる。
但し、ばらつきが少なく、より安定的に表面改質効果が発揮されることから、燃料ガスにおける空気/炭化水素ガスの混合モル比を24〜45の範囲内の値とすることがより好ましく、25〜38の範囲内の値とすることがさらに好ましく、28〜35の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0051】
(3) 表面処理条件
また、表面処理条件に関して、火炎温度を500〜1、500℃の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる火炎温度が500℃未満の値になると、ケイ素含有化合物の不完全燃焼を有効に防止することが困難になる場合があるためである。
一方、かかる火炎温度が1、500℃を超えると、表面改質する対象の電線が、熱変形したり、熱劣化したりする場合があり、使用可能な電線の種類が過度に制限される場合があるためである。
したがって、火炎温度を550〜1、200℃の範囲内の値とすることが好ましく、600〜900℃未満の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0052】
また、火炎の吹き付け時間(噴射時間)を、単位面積(100cm2)あたり、0.1秒〜100秒の範囲内の値とすることが好ましい。
この理由は、かかる噴射時間が0.1秒未満の値になると、ケイ素含有化合物等による改質効果が均一に発現しない場合があるためである。
一方、かかる噴射時間が100秒を超えると、表面改質する対象の電線が、熱変形したり、熱劣化したりする場合があり、使用可能な電線の種類が過度に制限される場合があるためである。
したがって、かかる噴射時間を、単位面積(100cm2)あたり、0.3〜30秒の範囲内の値とすることが好ましく、0.5〜20秒の範囲内の値とすることがさらに好ましい。
【0053】
3.電線の製造方法
電線の製造方法としては、上述した電線(ケーブル)を製造対象とし、かつ、上述した表面処理工程を含むものであれば良い。したがって、かかる電線の製造方法としては、典型的には、図6に示すような各工程を含むことが好ましい。
すなわち、S1で示される混錬工程は、電線に被覆するための塩化ビニル樹脂やポリエチレン樹脂等に所定の添加剤や着色剤を加えて、均一な樹脂組成物とする工程である。
また、S2で示される伸線工程は、電線の導体を製造する工程である。また、S3で示される絶縁工程は、導体に、混錬工程で得られた樹脂組成物を被覆する工程である。必要に応じて、樹脂組成物を加熱して、架橋させる工程も含んでいる。
【0054】
また、S4で示される撚り合わせ工程は、対撚りやカッド撚りした電線を、集合撚りして、さらに束ねるためにテープ等を巻く工程である。
また、S5で示される編組工程は、電磁波シールド用材料を被覆する工程である。
また、S6で示されるシース工程は、撚り合わせた電線をコアとして、その周囲に、混錬工程で得られた樹脂組成物をさらに被覆して、シースとする工程である。
また、S7で示される表面処理工程は、シースの全体または部分的に、例えば、ケイ酸化炎処理を行う工程である。
さらに、S8で示される検査工程は、得られた電線の電気特性や機械的強度が所定範囲であることを確認するための工程である。
そして、図示しないものの、得られた電線の識別や装飾のために、表面処理工程と、検査工程との間に、塗装工程を設けることが好ましい。
【0055】
したがって、図7(a)〜(c)に、それぞれ示すような電線の表面状態とすることができる。すなわち、図7(a)に示すように、絶縁被覆材200の上に、ケイ酸化炎処理で得られた水酸基を表面に多数有するシリカ粒子201が形成されており、その上に、塗膜202が形成してある電線(部分的断面)210を得ることができる。
また、図7(b)に示すように、絶縁被覆材200の上に、ケイ酸化炎処理で得られた水酸基を表面に多数有するシリカ粒子201が形成されており、その上に、金属層202aおよび塗膜202が形成してある電線(部分的断面)210´を得ることができる。
さらに、図7(c)に示すように、絶縁被覆材200の上に、ケイ酸化炎処理で得られた水酸基を表面に多数有するシリカ粒子201b(第1層)が形成されており、その上に、金属層202aが一旦形成された後、シリカ粒子201a(第2層)が形成されており、その上に、塗膜202が形成してある電線(部分的断面)210´´を得ることができる。
【実施例】
【0056】
[実施例1]
1.電線の製造方法
(1)準備工程
実施例1は、電線として、架橋ポリエチレン樹脂からなる被覆電線(φ5mm)を準備した。
すなわち、図1(a)に示すような電線10を準備し、その表面を、イソプロピルアルコール(IPA)を用いて十分洗浄した。
【0057】
(2)表面処理工程
次いで、準備した電線に対して、図5に示す表面改質装置100を用い、下記改質条件にて、表面改質処理を行い、厚さnmオーダの表面改質層を形成した。なお、かかる表面改質層は、水酸基を表面に多数有するシリカ粒子からなる不連続層であることが確認された。
【0058】
(表面改質条件)
改質剤化合物の種類 :テトラメチルシラン(沸点:27℃)
空気を含む改質剤化合物:1.3(リットル/min)
の吐出量
燃料ガス :プロパンガス
空気流量(Air) :84(リットル/min)
ガス流量(LPG) :3.0(リットル/min)
空気/炭化水素ガス :28
の混合モル比
処理時間 :5秒/100cm2
環境条件 :25℃、50%Rh
なお、空気を含む改質剤化合物の全体量を100モル%とした場合、改質剤化合物の含有量は、約0.0002モル%である。以下、改質剤化合物の含有量については、同様である。
【0059】
(3)塗膜形成工程
次いで、表面処理された電線の表面に、ポリウレタンアクリレートをプレポリマーとするポリウレタンアクリレート系UV硬化型塗料:IMS−007((株)イシマット・ジャパン製)を塗布した。
その後、紫外線照射装置(露光量:800mJ/cm2、UVランプ)を用いて、UV硬化型塗料を紫外線硬化させ、厚さ15μmの塗膜を形成した。
なお、上述したUV硬化型塗料を用いたことにより、塗膜が、クリヤー色の可撓性加飾層となった。
【0060】
2.評価
(1)密着性
碁盤目試験(JIS基準)を実施し、以下に示す基準に基づいて、電線と、塗膜との間の密着性を評価した。
◎:100個の碁盤目試験(JIS基準)で、全く剥がれが無い。
○:100個の碁盤目試験(JIS基準)で、剥がれ数が3個以内である。
△:100個の碁盤目試験(JIS基準)で、剥がれ数が10個以内である。
×:100個の碁盤目試験(JIS基準)で、剥がれ数が10個以上である。
【0061】
(2)環境特性
表面改質処理を行う際の、環境条件を、40℃、95%Rhとした以外は、上述したのと同様の表面改質処理を行い、以下の基準に沿って環境特性としての密着性を評価した。
◎:100個の碁盤目試験(JIS基準)で、全く剥がれが無い。
○:100個の碁盤目試験(JIS基準)で、剥がれ数が3個以内である。
△:100個の碁盤目試験(JIS基準)で、剥がれ数が10個以内である。
×:100個の碁盤目試験(JIS基準)で、剥がれ数が10個以上である。
【0062】
[実施例2〜5、比較例1]
実施例2〜5、比較例1では、燃料ガスにおける空気/炭化水素ガス(LPG)の混合モル比(20〜40)を変えて、実施例1と同様に、密着性や環境特性を評価した。得られた結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
[実施例6〜10、比較例2]
実施例6〜10、比較例2では、改質剤化合物として、テトラメチルシラン化合物のかわりに、ヘキサメチルジシロキサン/エチルアルコール混合物(重量比99:1)を用い、沸点(大気圧下測定)を90℃以下としたほかは、実施例1等と同様に、密着性や環境特性を評価した。得られた結果を表2に示す。
【0065】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、所定の改質剤化合物を含むとともに、空気/炭化水素ガスの混合モル比を制御した燃料ガスからなる火炎を、電線の表面に対して吹き付けることによって、改質剤化合物の沸点の相違や、周囲の環境条件にかかわらず、いずれの電線に対しても、水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子等を、強固かつ均一に積層することができるようになった。
すなわち、このような特定の燃料ガスを用いて、表面張力が低いポリエチレン樹脂等で被覆された電線に対して表面処理することによって、水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子等を、強固かつ均一に積層することができる。したがって、電線の表面の摩擦係数が減少し、電線の電気特性等を低下させることなく、製造スピード(巻き取りスピードや巻きだしスピード等)を著しく高めることができる。
【0067】
また、電線の任意の位置において、表面の濡れ性が著しく向上するため、電線の上に直接印字したり、装飾したり、さらには、ワイヤーハーネスにおけるシール性を高めることができる。
さらに、このような表面処理を経て得られた電線であれば、被覆樹脂等をリサイクルする際のリペレット化が容易になるばかりか、プレス装置等を用いて、精度良く、一体成形することができる。
その他、このようにして製造された電線の表面には、水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子等が突出して積層されているため、摩擦抵抗が減少し、ロール状に巻いた場合であっても、電線の過度の巻き締めを防止したり、巻き戻し等を容易に行ったりすることができる。
よって、本発明の電線の製造方法は、従来の電線の製造方法と比較して、製造工程や製造時間が簡略化されるだけなく、電線の取り扱い性を向上させたり、リサイクルする際の処理時間や処理工程等を著しく短縮できることから、経済面や環境面等の観点からも極めて有利な新規技術であると言える。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】(a)〜(c)は、それぞれ電線の一態様を説明するために供する図である。
【図2】表面改質装置に基づく流体フローを示す図である。
【図3】(a)〜(b)は、リサイクル材料の表面改質状況および水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子を説明するために供する図である。
【図4】(a)〜(d)は、表面改質状況を説明するために供する図である。
【図5】空気/炭化水素ガスの混合モル比と、濡れ指数との関係を説明するために供する図である。
【図6】電線の製造工程を説明するために供する図である。
【図7】(a)〜(c)は、それぞれ電線の部分的表面状態を説明するために供する図である。
【符号の説明】
【0069】
10、10´、10´´:電線
12:絶縁被覆材
13:表面改質層(水酸基を表面に多数有する所定のシリカ粒子)
14:導体
15:塗膜
20:バンド
22:ケーブル
100:表面改質装置
101:改質剤化合物
102:貯蔵タンク部
103:加熱手段
104:噴射部(バーナー)
105:移送部
106:貯蔵タンク
107:圧縮空気源
108:第1のミキサ
109:第2のミキサ
110〜112:流量調節バルブ
113:火炎
150:水酸基を表面に多数有するシリカ粒子(改質剤粒子)
152:基材
200:絶縁被覆材
201、201a、201b:表面改質層(水酸基を表面に多数有するシリカ粒子等)
202:塗膜
202a:金属層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン原子、チタン原子またはアルミニウム原子を含む改質剤化合物と、空気と、炭化水素ガスと、を含む燃料ガスに由来した火炎を吹き付ける工程を含む電線の製造方法であって、
前記燃料ガスにおける空気/炭化水素ガスの混合モル比を23以上の値とすることを特徴とする電線の製造方法。
【請求項2】
前記炭化水素ガスが、プロパンガスまたはLPGであることを特徴とする請求項1に記載の電線の製造方法。
【請求項3】
前記改質剤化合物が、アルキルシラン化合物、アルコキシシラン化合物、シロキサン化合物、シラザン化合物、アルキルチタン化合物、アルコキシチタン化合物、アルキルアルミニウム化合物、およびアルコキシアルミニウム化合物からなる群から選択される少なくとも一つの化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の電線の製造方法。
【請求項4】
前記改質剤化合物の沸点(760mmHg)を20〜250℃の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の電線の製造方法。
【請求項5】
前記改質剤化合物の含有量を、燃料ガスの全体量を100モル%としたときに、1×10-10〜10モル%の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の電線の製造方法。
【請求項6】
前記電線の被覆材が、オレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、天然ゴム、合成ゴム、および熱可塑性エラストマーからなる群から選択される少なくとも一つであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の電線の製造方法。
【請求項7】
前記電線の被覆材の表面に、熱硬化性塗料、紫外線硬化性塗料、レーザーマーキング用塗料または熱可塑性塗料からなる塗膜を形成する工程を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の電線の製造方法。
【請求項8】
前記電線が、ワイヤーハーネス用電線であって、複数本を束ねてあることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の電線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−192394(P2008−192394A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−23966(P2007−23966)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【特許番号】特許第4111986号(P4111986)
【特許公報発行日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【出願人】(501163657)
【Fターム(参考)】