説明

電線・ケーブル

【課題】架橋ポリオレフィン廃材を絶縁電線及びケーブルの被覆材として再利用可能とし、さらに前記廃材の再生材を使用しても、電気特性および強度・伸びに優れた被覆材を有する電線・ケーブルを提供する。
【解決手段】導体上に被覆層を有する絶縁電線またはケーブルであって、前記被覆層の少なくとも一層が、ゲル分率40%以下の架橋ポリオレフィン再生材を50質量%以下含有するポリオレフィン系樹脂よりなる絶縁電線またはケーブル。前記ポリオレフィン再生材が、架橋ポリオレフィン廃材を、処理温度250℃〜400℃、剪断速度200sec−1以上で再生処理したものである前記絶縁電線またはケーブル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線またはケーブルに関するものであり、更に詳しくはゲル分率40%以下の再生材を利用して得られる絶縁電線またはケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
絶縁電線またはケーブルの被覆材はポリ塩化ビニルやポリエチレン、架橋ポリエチレンが使用されている。使用後、回収された電線またはケーブルは導体と被覆材に分離され、被覆廃材はリサイクルもしくは産業廃棄物として埋立処理される。被覆廃材の中でもポリ塩化ビニルやポリエチレンは熱可塑性樹脂であり、再成形加工が容易であることから、再び電線被覆材として利用することが可能であり、一部実用化されている。一方、架橋ポリエチレンは架橋による三次元構造を有していることから加熱溶融しないという特徴があり、しかし、そのために再加工・再利用が困難となりサーマルリサイクルもしくは埋立処理されている。サーマルリサイクルは、プラスチック製品としてはワンウェイであり、資源の有効活用等の観点からは好ましくない。また埋立て処理は、処理場の不足などの問題が生じる。したがって、環境負荷低減のため、例えば電線に使用された架橋ポリエチレン被覆廃材を、ポリ塩化ビニル被覆材やポリエチレン被覆材と同様に電線に戻すといったクローズドリサイクルが望まれている。
【0003】
架橋ポリエチレンのリサイクル技術としては、一つに架橋ポリエチレンを微粉砕後、樹脂の充填材もしくは樹脂として使用する方法があるが、電線またはケーブルの被覆材に戻した場合、被覆材特性や電線の電気特性に問題を生じる可能性がある。その他、特許文献1のように架橋ポリエチレンをポリエチレンに戻す技術が開発されつつあるが、再利用して再び絶縁電線に使用した例はなかった。
【特許文献1】特開2001−253967号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、架橋ポリオレフィン廃材を絶縁電線及びケーブルの被覆材として再利用可能とし、さらに前記廃材の再生材を使用しても、電気特性および強度・伸びに優れた被覆材を有する電線・ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この課題は下記手段によって達成された。
(1)導体上に被覆層を有する絶縁電線またはケーブルであって、前記被覆層の少なくとも一層が、ゲル分率40%以下の架橋ポリオレフィン再生材を50質量%以下含有するポリオレフィン系樹脂組成物よりなることを特徴とする絶縁電線またはケーブル。
(2)前記ポリオレフィン再生材が、架橋ポリオレフィン廃材を、処理温度250℃〜400℃、剪断速度200sec−1以上で再生処理したものであることを特徴とする(1)に記載の絶縁電線またはケーブル。
(3)前記被覆層に含まれる樹脂が架橋されていることを特徴とする(1)または(2)に記載の絶縁電線またはケーブル。
【発明の効果】
【0006】
本発明の絶縁電線またはケーブルは、ゲル分率が40%以下の架橋ポリエチレン再生材を、ポリオレフィン系樹脂に対し50質量%以下で混合することにより、架橋ポリオレフィン廃材を絶縁電線またはケーブルの被覆材として再利用しても、優れた電気特性および機械的特性を有する絶縁電線またはケーブルを得ることを可能とする。
さらに本発明の絶縁電線またはケーブルは、電線またはケーブルの被覆材から電線またはケーブルへのクローズドリサイクルを可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の絶縁電線・ケーブルは、被覆層として架橋ポリオレフィン廃材を適切な条件のもと熱可塑化処理により再生処理し、ゲル分率40%以下にした架橋ポリオレフィン再生材を、ポリオレフィン系樹脂に対し50質量%以下で混合したものを使用することにより、絶縁電線・ケーブルとして好適に使用可能である。
【0008】
架橋ポリオレフィン廃材とは、例えば、電線被覆廃材、光ケーブル被覆廃材などの配線材の被覆廃材や、一般廃棄物として廃棄される給水用、給湯用、屋内暖房用のパイプ、または各種発泡体などが挙げられる。
本発明の絶縁電線・ケーブルに用いられる架橋ポリオレフィン廃材はどのような架橋方法によるものでもよく、例えば、有機過酸化物やシラン化合物、電子線などによって架橋されたものを使用することができる。また回収された廃材の使用年数は関係なく、極端に劣化が進んだものでも支障はない。
使用されているポリオレフィンとしては、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体などが挙げられるが、ポリオレフィンであれば特に制限はない。これらは1種もしくは2種以上の混合物であっても良い。
【0009】
本発明の絶縁電線・ケーブルには、上記の架橋ポリオレフィン廃材を再生処理した再生材が好ましく使用できる。
再生材のゲル分率は40%以下が好ましい。ゲル分率が40%以上であると電線被覆材としての特性を満足することが出来ない。
【0010】
本発明の絶縁電線・ケーブルに用いられる再生材の再生処理は、ゲル分率が40%以下になるものであれば特に制限はないが、例えば、同方向噛み合い型二軸押出機で剪断速度200sec−1以上、温度250℃〜400℃で処理する方法などが利用できる。なお、本発明における剪断速度とは、押出機のスクリューエレメント最外周部の周速度(mm/s)をスクリューとバレルとのクリアランス(mm)で除した数値をいう。
【0011】
前記押出機で処理する際の再生処理条件は、上記の再生材のゲル分率が40%以下となるように適宜調整できるが、好ましい処理温度は250℃〜400℃、好ましい剪断速度は200sec−1以上である。
【0012】
前記再生材はポリオレフィン系樹脂と混合して組成物とすることができる。好ましい再生材の混合量は全樹脂量に対し50質量%以下であり、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下が特に好ましい。50質量%より多い場合、電線またはケーブルに要求される特性を満足することが出来ない。
再生材とともに混合する樹脂としては、例えば、通常絶縁電線・ケーブルに使用している一般的なポリオレフィンでよく、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体などが挙げられる。中でも高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンもしくは低密度ポリエチレンの使用が好ましい。これらは1種もしくは2種以上を混合して用いてもよい。
【0013】
本発明の絶縁電線・ケーブルの製造には、一般的に使用されている押出機を使用することが出来る。また本発明における絶縁電線・ケーブルは、通常樹脂に添加される酸化防止剤、紫外線吸収剤などの添加剤を必要に応じて適量添加することも出来る。
【0014】
さらに本発明の絶縁電線・ケーブルは被覆層に含まれる樹脂が架橋されていてもよい。架橋方法としては通常の架橋方法を適宜選択すればよく、特に限定しないが、例えば、有機過酸化物を添加した組成物を電線に被覆したのち加熱処理する「過酸化物架橋方法」、シラン化合物と架橋助剤を添加した組成物を電線に被覆したのち水分により架橋させる「シラン架橋方法」、電子線照射による「電子線架橋方法」などが挙げられる。
【0015】
本発明においては導体上に被覆する被覆層は1層でも複数の層であってもよい。
本発明の絶縁電線・ケーブルは、再生材を含むポリオレフィン系樹脂組成物で構成された層が、被覆層のうち少なくとも1層であればよく、複数層、または全層であってもよい。上記再生材を含むポリオレフィン系樹脂組成物で構成された層以外の層は、通常電線・ケーブルの被覆材として使用される樹脂であれば特に制限なく使用可能であるが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル等が挙げられる。
上記の好ましい実施形態は光ケーブルなどのケーブルの被覆材料の場合でも同様である。
【実施例】
【0016】
以下に本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0017】
(ポリオレフィン系樹脂)
使用した架橋ポリオレフィン廃材、その再生材及びポリオレフィン系樹脂は以下のとおりである。
〔架橋ポリオレフィン廃材〕
(1)有機過酸化物により架橋された屋外用架橋ポリエチレン電線被覆廃材を10mm以下のサイズに粉砕したもの
(2)シラン化合物により架橋された屋外用架橋ポリエチレン電線被覆廃材を10mm以下のサイズに粉砕したもの
〔再生材〕
上記の架橋ポリエチレン廃材(1)、架橋ポリエチレン廃材(2)を同方向噛み合い型二軸押出機を用い、処理温度は300℃、剪断速度は2200〜2300sec−1として再生処理を行った。得られた再生材をそれぞれ再生材(1)、再生材(2)とした。
〔微粉化XLPE〕
ビーズミルを用いて、容器内に上記(1)の架橋ポリエチレン廃材と水を充填し、容器外部を冷却した状態にて粉砕処理を行ったのち、乾燥させ、微粉化XLPEを得た。得られた粉末の平均粒径は350μmである。
〔ポリオレフィン系樹脂〕
ポリエチレン樹脂、NUCG9301(日本ユニカー(株)製)
【0018】
(絶縁電線の製造)
投入する、再生材(1)、再生材(2)、微粉化XLPE、およびNUCG9301の混合比は、それぞれ実施例1〜3および比較例1〜5において、表1のとおりとした。
さらに、表1のとおり、実施例1、2、および比較例1〜3についてはシラン液(A−171(日本ユニカー製))および触媒マスターバッチ(モルデックスCM846(アプコ(株)製))を添加することとした。
上記の樹脂、シラン液および触媒マスターバッチをホッパーから投入し、直径120mm単軸押出機を用いて、ミキシングゾーンを180℃以下、グラフト反応ゾーンを220℃以下、スクリュー回転数を50rpmで設定し、断面積240mmのアルミ導体に厚さ3mmの肉厚で押出して、樹脂組成物で被覆された絶縁電線を製造した。製造された絶縁電線を、80℃、24時間温水バスに浸漬し架橋処理を行った。
また、実施例3、比較例4、5においては、直径120mm単軸押出機を用いて、成形温度170〜190℃、スクリュー回転数を90rpmで設定し、断面積240mmのアルミ導体に厚さ3mmの肉厚で押出して、樹脂組成物で被覆された絶縁電線を製造した。
【0019】
【表1】

【0020】
(評価方法)
実施例1,2および比較例1〜3で製造した電線及び絶縁体の評価は電力用規格C−250屋外用鋼心アルミ導体架橋ポリエチレン絶縁電線(ACSR−OC)に準拠し以下の方法により測定した。
規格値
絶縁体の引張り強さ 9.81MPa以上
絶縁体伸び 350%
加熱試験 引張伸び、強さとも加熱前の値の80%以上
耐加熱変形試験 厚さの減少率40%以下
耐トラッキング 噴霧回数101回においても、0.5A以上の電流が
試料表面を流れないか、または燃え上がらないこと
耐電圧 12,000Vの試験電圧に1分間耐えること
【0021】
実施例3および比較例4,5で製造した電線及び絶縁体の評価は電力用規格C−248屋外用鋼心アルミ導体ポリエチレン絶縁電線(ACSR−OE)に準拠し以下の方法により測定した。
規格値
絶縁体の引張り強さ 9.81MPa以上
絶縁体伸び 350%
耐電圧 12,000Vの試験電圧に1分間耐えること
絶縁体評価
〔引張試験〕
JIS C3005に準じ引張速さは200mm/minで行なう。
〔加熱試験〕
JIS C3005に準じ、加熱温度は120±3℃、96hrで行う。
電線評価
〔耐加熱変形試験〕
JIS C3005に準じ、加熱温度は120±3℃、加える荷重は2kgで行う。
〔耐トラッキング性試験〕
JIS C3005に準じ、噴霧回数は101回で行なう。
〔耐電圧試験〕
JIS C3005に準じ行なう。
(評価結果)
各項目の評価の結果は表2、表3のとおりである。
【0022】
【表2】

【0023】
【表3】

実施例1〜3で明らかなように、再生材のゲル分率が40%以下であり、且つポリオレフィン系樹脂の混合量50質量%以下の条件で製造した絶縁電線は、架橋ポリオレフィン絶縁電線の規格値をすべて満足し、電気特性や機械的特性に優れたものであった。
対して、再生材の配合量が多い比較例1、2、4では、引張試験や耐トラッキング性試験において、規格値を満足させることができず、比較例3においては、再生材のゲル分率が高すぎるために、伸びが劣る結果となった。また、単に微粉化した架橋ポリエチレンを本発明の再生材の代わりに配合した比較例5は、引張試験の伸びが大幅に劣る結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体上に被覆層を有する絶縁電線またはケーブルであって、前記被覆層の少なくとも一層が、ゲル分率40%以下の架橋ポリオレフィン再生材を50質量%以下含有するポリオレフィン系樹脂組成物よりなることを特徴とする絶縁電線またはケーブル。
【請求項2】
前記ポリオレフィン再生材が、架橋ポリオレフィン廃材を、処理温度250℃〜400℃、剪断速度200sec−1以上で再生処理したものであることを特徴とする請求項1に記載の絶縁電線またはケーブル。
【請求項3】
前記被覆層に含まれる樹脂が架橋されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の絶縁電線またはケーブル。

【公開番号】特開2006−66262(P2006−66262A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−248511(P2004−248511)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】